2022年09月26日
こころの通訳者たち
監督:山田礼於
プロデューサー:平塚千穂子
撮影:金沢裕司、長田勇
テーマ音楽:佐藤奈々子(歌)、長田進(演奏)
出演:難波創太、石井健介、近藤 尚子、彩木香里、白井崇陽、瀬戸口裕子、加藤真紀子、水野里香、高田美香、河合依子、廣川麻子、越 美絵
東京・田端の「CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)」は20席の小さなユニバーサル・シアターです。誰もが一緒に映画を楽しめるようにと、クラウドファンディングで集まった資金で2016年9月にオープンしました。車椅子スペースはもちろん、防音の小さな個室もあって赤ちゃんや子供連れの人、周りに人のいるのが苦手な人もOKです。この映画館で上映される作品は全て「音声ガイド」と「字幕」がついています。チュプキ代表の平塚千穂子さんに、山田礼於監督が演劇の手話通訳者の映像を映画化する企画を相談しました。
演劇に「演劇手話通訳者」3人がつきました。聞こえない人がよりいっそうその世界を楽しめます。
1日の公演のために通訳者たちは討論と練習を重ねます。この映像を見えない人たちに伝えたい。そのためには?手話をどうやったら伝えられるのか?平塚さんは見えない人、聞こえない人、どちらでもない人たちと何度も話し合い、お互いの「わからない」をすり合わせ、一番いい方法を探ります。試行錯誤して作品が出来上がるまでが『こころの通訳者』というドキュメンタリーとして完成しました。
この試写がチュプキで行われ、初めて「音声ガイド」をお借りしました。見えない方がわかるように、副音声で説明があります。聞き取りやすく、見えていても見逃しそうなところをもちゃんと補われていて、私にもとても助けになりました。聞こえない方が震動を感じられる抱っこスピーカーもあります。このドキュメンタリーのプロデューサーとなった平塚さんは、映画化のために強力なメンバーを集めました。平塚さんと手話通訳者、中途失明された難波創太さん、石井健介さん。幼いときに失明し、バイオリニスト・作曲家となった白井崇陽さんたちが率直な意見を出し合うようすも、記録されています。
どんな人にも楽しんでみてもらえることを一番にこころがけたという、山田礼於監督インタビューはこちらです。(白)
2021年/日本/カラー/90分
配給:Chupki
© Chupki
cocorono-movie.com
シネマ・チュプキ・タバタHP https://chupki.jpn.org/
★2022年10月1日(土)シネマ・チュプキ・タバタ先行ロードショー
10月22日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次ロードショー
ボーダレスアイランド
監督:岸本司
脚本:岸本司 木田紀生
撮影:羅偉恩
音楽:辺土名直子/真栄里英樹
出演:リー・ジャーイン(ロロ)、朝井大智(アーロン)、中村映里子(ナツ)、加藤雅也
ロロは台北で葉はと二人暮らし。父は日本人だがロロが生まれた時に、母と自分を捨てて日本に帰ったと聞いている。母は詳しいことを語らず、ロロは父の顔も知らない。鬼月初日にロロはたまたま開いた古い本に挟まれた海の写真を見つけた。その裏面には、日本人の父の名前が書かれていた。父は本当に自分たちを捨てたのだろうか?ロロは母の反対を押し切り、友人のアーロンを誘って父の故郷の沖縄を訪ねることにした。手がかりは1枚の写真と父の名前だけ。写真の「みらく島」は、旧盆の間外の人間は入ることを禁じられていた。ロロとアーロンは父を探している!と頼み込んで、みらく島へと向かう船に乗り込んだ。
台湾では旧暦7月を「鬼月」と呼ぶそうです。旧暦7月1日にはあの世の扉(鬼門)が開いて、亡くなった先祖の霊が帰ってきます。台湾では1ヶ月間ですが、日本のお盆は旧暦7月13日から16日の4日間。お供え物をしてお盆の入りに迎え火・お盆が終わると送り火をたきます。宗派によっては盆提灯を飾って目印にします。沖縄ではウンケーと呼ばれている初日にあの世の扉が開き、亡くなった人たちが帰ってきます。ロロとアーロンは、奇しくもあの世とこの世の境がなくなる日にみらく島で不思議な人々に遭うことになりました。
ロロ役のリー・ジャーインは可愛らしく、台湾にルーツを持つ朝井大智さんが日本語勉強中という友人・アーロン役でシーンに明るさを加えています。
今年は縁あって2度沖縄に行ってきました。島では人との関わりや見えないものへの想いが強い気がします。台湾でも信仰厚い人が多いのか、あちこちの寺院には善男善女がたくさん祈りを捧げていました。その台湾と日本の合作映画が亡くなった人が戻ってくるという、この作品になったのは興味深いです。
幸せな人生を送った人ばかりでなく、恨みや心残りを抱えた人の霊も登場します。ことに沖縄は戦争で多くの人が亡くなったところなので、帰るすべのない霊たちもたくさんいます。避けることなく登場しますが、鎮魂のつもりで見守ってあげてください。(白)
2021年/日本・台湾/カラー/シネスコ/101分
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
(C)2021「ボーダレス アイランド」製作委員会
https://www.borderless-island.com/
★2022年10月1日(土)新宿K's cinemaほか全国順次ロードショー
銀河英雄伝説 Die Neue These 策謀 第一章
監督:多田俊介
原作:田中芳樹(東京創元社刊)
シリーズ構成:高木登
助監督:森山悠二郎
キャラクターデザイン:菊地洋子 寺岡巌 津島桂
総作画監督:後藤隆幸 菊地洋子
撮影監督:荒井栄児 小澤沙樹子
編集:黒澤雅之
制作:Production I.G
監修:らいとすたっふ
音楽:橋本しん(Sin)井上泰久
主題歌:SennaRin
出演:ラインハルト・フォン・ローエングラム:宮野真守
ヤン・ウェンリー:鈴村健一
ユリアン・ミンツ:梶裕貴
パウル・フォン・オーベルシュタイン:諏訪部順一
ウォルフガング・ミッターマイヤー:小野大輔
オスカー・フォン・ロイエンタール:中村悠一
アレックス・キャゼルヌ:川島得愛
フレデリカ・グリーンヒル:遠藤綾
ワルター・フォン・シェーンコップ:三木眞一郎
アンネローゼ・フォン・グリューネワルト:坂本真綾
ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ:花澤香菜
オリビエ・ポプラン:鈴木達央
ダスティ・アッテンボロー:石川界人
アドリアン・ルビンスキー:手塚秀彰
ドミニク・サン・ピエール:園崎未恵
ルパート・ケッセルリンク:野島健児
ナレーション:下山吉光
これまで
数千年後の未来、宇宙空間に進出した人類は、銀河帝国と、自由惑星同盟という“専制政治”と“民主主義”という2つの異なる政治体制を持つ二国に分かれた。この二国家の抗争は実に150年に及び、際限なく広がる銀河を舞台に、絶えることなく戦闘を繰り返されてきた。長らく戦争を続ける両国家。銀河帝国は門閥貴族社会による腐敗が、自由惑星同盟では民主主義の弊害とも言える衆愚政治が両国家を蝕んでいた。そして、宇宙暦8世紀末、ふたりの天才の登場によって歴史は動く。「常勝の天才」ラインハルト・フォン・ローエングラムと、「不敗の魔術師」と呼ばれるヤン・ウェンリーである。ふたりは帝国軍と同盟軍を率い、何度となく激突する。
ダイジェスト(8分44秒)はこちらほか
フォースシーズン「策謀」第1章~第3章
最高権力者ラインハルトの善政による改革が国民からも支持されている銀河帝国と、不敗の魔術師ヤンらの活躍も空しく、政府の腐敗による国力低下が著しい自由惑星同盟。両国間の勢力バランスに大きな変化が生じる中、第三の勢力フェザーンの自治領主ルビンスキーは、自由惑星同盟を見限り、大きな陰謀をめぐらせていた。ラインハルトは、幼い銀河帝国皇帝の誘拐と自由惑星同盟への亡命というその企みを知りながらも、自身の野望のため利用しようと考える。ヤンも同盟に最大の危機が迫りつつあることは予感していたが……。そんな中、正式な軍人になったユリアンをフェザーンの駐在武官に任命する命令が届く。
田中芳樹さんの原作は今も本棚に並んでいます。1982年に刊行されてから本編・外伝合わせて大ベストセラーのSF小説です。数千年後の未来も今と変わらず、人は争うのか。いやもう地球に人類は残っていないんじゃないの?と思ったりもしました。人間ひとりの身体を宇宙と見立てれば、害のあるものは駆逐され排除され、人は健康を保とうとするのですから。人間ほど地球に害成すものはいません。
アニメも早くからテレビ版・劇場版と発表され親しまれてきました。『銀河英雄伝説 Die Neue These』は2018年から第1~第4シリーズと続いています。銀河帝国と自由惑星同盟の攻防は目にも鮮やかなビジュアルとオールキャストの声優さんで展開します。大きな歴史の流れの中での国の興亡、人々の邂逅や別れ、それぞれの喜怒哀楽を浮かび上がらせます。今の世界の政情とついひき比べて観てしまいました。そして並行世界というものがあるならば、対照的な2人の天才、ラインハルトとヤンが友人である世界もあってほしいと妄想。(白)
第2章 10月28日(金)~
第3章 11月25日(金)~
2021年/日本/カラー/シネスコ/102分
配給:松竹メディア事業部
(C)田中芳樹/銀河英雄伝説 Die Neue These 製作委員会
https://gineiden-anime.com/
★2022年10月1日(金)ロードショー
ミューズは溺れない
監督・脚本・編集:淺雄望
撮影:大沢佳子(J.S.C)
出演:上原実矩(木崎朔子)、若杉凩(西原光)、森田想(大谷栄美)、川瀬陽太(木崎拓朗)、広澤草(木崎聡美)
高校の美術部員の朔子、港のスケッチをしているときにあやまって海に落ちてしまった。それを見た西原は溺れる朔子の絵を描いて、コンクールで受賞し、絵は学校に飾られる。忘れたい黒歴史が残った朔子は憤懣やる方ない。新聞記者に取材された西原が、次の作品も朔子をモデルに描くと答えていて、自分の許可もとらずにと腹を立てる。西原の絵は確かにうまく、自分はとても及ばないと絵を諦めて造形に挑戦する。
私も高校生のとき、美術部でした。いろいろ題材にしたけれど動くものは描いたことがありません。なんで溺れてるところを描くのか「ハテナマーク」が飛びかってしまいました。誰も描かない絵だからこそ目にとまり、その力量を気づかれ、受賞したのでしょう。あの時の朔子が、西原の眼に強烈に焼き付いたんだとしか思えません。描かれた朔子は嬉しくないでしょうけれど、西原の本意がだんだんわかってきます。まさに青春映画でした。みんないい笑顔になっています。
美術部の先生、上から描き足すのはやめて。アドバイスは口だけでお願い。絵はその人のものです。(白)
●第15回田辺・弁慶映画祭4冠(グランプリ、観客賞、フィルミネーション賞、俳優賞・若杉凩)
●第22回TAMA NEW WAVE コンペティション2冠(グランプリ&ベスト女優賞・上原実矩)
2021年/日本/カラー/82分
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
(C)カブフィルム
https://mikata-ent.com/movie/1205/
★2022年9月30日(金)より1週間限定公開。テアトル新宿、10月14日(金)、15日(土)シネリーブル梅田にて公開
2022年09月25日
1950 鋼の第7中隊 原題:长津湖 英題:The Battle at Lake Changjin
劇場公開2022年9月30日TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
劇場情報
朝鮮戦争における長津湖での中国軍とアメリカ軍の戦いを中国側から描く
製作費270億円をかけ、映画スタッフ1.2万人、エキストラ7万人、450社に及ぶVFXスタジオが参加するなど、壮大なスケールで描かれる戦争スペクタクル『1950 鋼の第7中隊』。朝鮮半島の主権をめぐって韓国と北朝鮮が争った「朝鮮戦争」だが、戦ったのは朝鮮人だけではなかった。
朝鮮民主主義人民共和国の側には中国が援軍し、韓国側はアメリカ軍中心の「国連軍」がついた。この映画は、その中で、アメリカ軍中心の「国連軍」と中国軍が直接戦った「長津湖の戦い」を描いた。1950年11月27日に勃発した、現在の朝鮮民主主義人民共和国の咸鏡南道長津郡長津湖周辺で行われた戦闘の一つ。仁川から朝鮮半島に上陸し、38度線を越えて中朝国境に迫っていた「アメリカ」に危機感を持った中国は人民志願軍を派遣した。中国軍と「アメリカ軍」が初めて激突した戦闘で、朝鮮戦争の中でも最も熾烈な戦いとして知られている。極寒の過酷な環境のもと、激しい戦いを続け、「アメリカ軍」を38度線まで退け、戦況を逆転へと導いたターニングポイントとなった戦いを描いた。
『黄色い大地』『さらば、わが愛/覇王別姫』のチェン・カイコー監督、『北京オペラブルース』『セブンソード』のツイ・ハーク監督、『ツインズ・エフェクト』『ブラッド・ウェポン』のダンテ・ラム監督、中国、香港を代表する3人の監督を起用し、『黒砲事件』のホアン・チェンシン監督がプロデュースした戦争大作。朝鮮戦争の歴史に詳しいチェン・カイコー監督が史実に基づく全体的なストーリー部分を手掛け、歴史観や豊富な知識をもとに、登場人物の表現描写において手腕を発揮。ツイ・ハーク監督は得意とする特撮技術や独自の美学を表現した。戦闘シーンはアクション分野が得意なダンテ・ラム監督が見事に再現。3人の得意分野を合わせることで、兵士の感情表現と、迫真のリアリズム溢れる作品になった。
スタッフ・キャスト
監督:陳凱歌(チェン・カイコー)、徐克(ツイ・ハーク)、林超賢(ダンテ・ラム)
製作:黄建新(ホアン・チェンシン)
出演
呉 京(ウー・ジン) 伍千里役
易 烊千璽(イー・ヤンチェンシー) 伍万里
段 奕宏(ドアン・イーホン) 談子為
朱 亜文(チュー・ヤーウェン) 梅生
張 涵予(チャン・ハンユー) 宋時輪
胡軍(フー・ジュン)雷睢生
韓東君(エルビス・ハン)平河
黄軒(ホアン・シュアン)毛岸英
零下41度の極寒の山中 “鋼の第7中隊”として知られる兵士たちが繰り広げた長津湖の戦いを映画化
国民党との「国共内戦」が終結し、1949年に中華人民共和国ができたばかり。やっと戦いが終わり、地元に戻った人民志願軍・第9兵団 第7中隊長の伍千里(ウー・ジン)は、戦死した兄の百里の遺灰を持って帰る。軍の手当で彼は両親に家を建てることを約束した。しかし、落ち着くまもなく中国が朝鮮戦争に参戦し、軍に呼び戻される。弟の万里(イー・ヤンチェンシー)は一緒に行きたいと言うが、両親の面倒を見るようにと千里は伝えた。
千里が戻った第7中隊は、前線に無線機を届けるように指示を受け、朝鮮に向かう列車に乗ろうとしたところで万里の姿を見つけた。帰るように説得したが、弟の揺るがぬ意志を目の当たりにし入隊を許可した。列車は移動中に爆撃され、第7中隊は徒歩での移動を余儀なくされる。途中、米軍機と遭遇し兵士たちは遺体をよそおうが容赦なく銃撃されたり、いろいろな困難を乗り越え、無線機を前線の総司令部に届けた。しかし充分な休息を取る間もなく前線に出発。
しかし無線機の発信から、米軍の探知機が総司令部の場所を特定し、戦闘機で基地を爆撃に到来。防空壕に避難した中国軍だったが、司令室にある地図を取りに戻った兵士が爆撃を受ける。その人物は彭徳懐将軍の秘書として劉という偽名で従軍していた毛沢東の息子、毛岸英だった。
一方「長津湖」に向かった第7中隊は、十分な食料や防寒具もなく、過酷な氷点下での行軍を続け、やっと「長津湖」にたどり着き、11月27日の夕刻、長津湖を陣地とする米第31歩兵連隊掃討作戦が開始され、中国人民志願軍と米軍による「長津湖の戦い」の火蓋が切って落とされた。
厳しい戦いの中で生死を共にする兵士たちには、中国で活躍する俳優陣が参加している。第7連隊の精神的支柱である連隊長の伍千里を演じるのは『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』(2017)のウー・ジン。弟、伍万里に扮するのは『少年の君』(2019)のイー・ヤンチェンシー。退役間近の砲兵小隊長の雷睢生にフー・ジュン。そのほか『迫り来る嵐』のドアン・イーホン、『マンハント』のチャン・ハンユー、『空海 -KU-KAI- 美しき王妃の謎』のホアン・シュアンなども出演している。
朝鮮戦争を描いた映画は、日本では主に韓国が作ったものを観る場合が多かったが、そこにはほとんど中国軍のことは出てこなかった気がする。北朝鮮作も観たことはあるが、そこにも中国軍のことはほとんど出てこなかったと思う。そういう意味では、朝鮮戦争に中国軍も参戦していたということを知る機会になるかもしれない。私自身は、中国側から朝鮮戦争を描いた映画は、これまで現中映(現代中国映画上映会)で上映された作品などで観たことがあるけど、日本で一般公開される作品が出てきたことは興味深い。
これまで観てきた、中国が描いた朝鮮戦争の映画に比べればプロパガンダ色は少し控えめな感じだが、やはり香港の監督二人が参加しているというのもあるかもしれない。でもこのご時勢で観れば中国の宣伝映画ではあるかな。
それにしても朝鮮人や韓国人は一人も出てこなくて、中国兵とアメリカ兵だけというのは、なんだか不自然な気がする。中国軍と北朝鮮の兵とが一緒に行動するとか、アメリカ軍の中に韓国兵はいなかったのだろうかと思った。それでも、朝鮮戦争そのものの記憶が薄れている現在、中国側からの朝鮮戦争を描いた作品を観れば、また違う見方もできると思う。
毛沢東の息子、毛岸英が朝鮮戦争で亡くなったということも出てきました。私はそのことは知ってはいたけど、毛沢東には3人の息子がいたというのをこの作品で知りました。長男は亡くなっていて、三男は病弱、次男の岸英が朝鮮戦争に行ったのですね。
この紹介文を書くのにネットでいろいろ検索していたら、やはり中国映画で朝鮮戦争を描いた『バトル・オブ・ザ・リバー 金剛川決戦』(原題:金剛川)という作品が今年(2022)1月に日本で上映されていたことを知った。「のむコレ'21」(2021年10月22日~/東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋)上映作品となっていたけど、全然知らなかった。残念。朝鮮戦争末期の1953年、燕山部と呼ばれる師団が金城の前線に赴き、主力部隊を援護するよう命じられる。金城に向かう道はただひとつ、金剛川に掛かる橋を渡らなければならないが、米軍の爆撃機が橋を壊してしまう。というような内容で、これも中国でヒットしたらしいが、この作品も、この『長津湖』も韓国では、上映の妨害にあったという(暁)。
公式HP https://1950-movie.com/
2021年製作/175分/R15+/中国
原題:長津湖 The Battle at Lake Changjin
配給:ツイン
劇場情報
朝鮮戦争における長津湖での中国軍とアメリカ軍の戦いを中国側から描く
製作費270億円をかけ、映画スタッフ1.2万人、エキストラ7万人、450社に及ぶVFXスタジオが参加するなど、壮大なスケールで描かれる戦争スペクタクル『1950 鋼の第7中隊』。朝鮮半島の主権をめぐって韓国と北朝鮮が争った「朝鮮戦争」だが、戦ったのは朝鮮人だけではなかった。
朝鮮民主主義人民共和国の側には中国が援軍し、韓国側はアメリカ軍中心の「国連軍」がついた。この映画は、その中で、アメリカ軍中心の「国連軍」と中国軍が直接戦った「長津湖の戦い」を描いた。1950年11月27日に勃発した、現在の朝鮮民主主義人民共和国の咸鏡南道長津郡長津湖周辺で行われた戦闘の一つ。仁川から朝鮮半島に上陸し、38度線を越えて中朝国境に迫っていた「アメリカ」に危機感を持った中国は人民志願軍を派遣した。中国軍と「アメリカ軍」が初めて激突した戦闘で、朝鮮戦争の中でも最も熾烈な戦いとして知られている。極寒の過酷な環境のもと、激しい戦いを続け、「アメリカ軍」を38度線まで退け、戦況を逆転へと導いたターニングポイントとなった戦いを描いた。
『黄色い大地』『さらば、わが愛/覇王別姫』のチェン・カイコー監督、『北京オペラブルース』『セブンソード』のツイ・ハーク監督、『ツインズ・エフェクト』『ブラッド・ウェポン』のダンテ・ラム監督、中国、香港を代表する3人の監督を起用し、『黒砲事件』のホアン・チェンシン監督がプロデュースした戦争大作。朝鮮戦争の歴史に詳しいチェン・カイコー監督が史実に基づく全体的なストーリー部分を手掛け、歴史観や豊富な知識をもとに、登場人物の表現描写において手腕を発揮。ツイ・ハーク監督は得意とする特撮技術や独自の美学を表現した。戦闘シーンはアクション分野が得意なダンテ・ラム監督が見事に再現。3人の得意分野を合わせることで、兵士の感情表現と、迫真のリアリズム溢れる作品になった。
スタッフ・キャスト
監督:陳凱歌(チェン・カイコー)、徐克(ツイ・ハーク)、林超賢(ダンテ・ラム)
製作:黄建新(ホアン・チェンシン)
出演
呉 京(ウー・ジン) 伍千里役
易 烊千璽(イー・ヤンチェンシー) 伍万里
段 奕宏(ドアン・イーホン) 談子為
朱 亜文(チュー・ヤーウェン) 梅生
張 涵予(チャン・ハンユー) 宋時輪
胡軍(フー・ジュン)雷睢生
韓東君(エルビス・ハン)平河
黄軒(ホアン・シュアン)毛岸英
零下41度の極寒の山中 “鋼の第7中隊”として知られる兵士たちが繰り広げた長津湖の戦いを映画化
国民党との「国共内戦」が終結し、1949年に中華人民共和国ができたばかり。やっと戦いが終わり、地元に戻った人民志願軍・第9兵団 第7中隊長の伍千里(ウー・ジン)は、戦死した兄の百里の遺灰を持って帰る。軍の手当で彼は両親に家を建てることを約束した。しかし、落ち着くまもなく中国が朝鮮戦争に参戦し、軍に呼び戻される。弟の万里(イー・ヤンチェンシー)は一緒に行きたいと言うが、両親の面倒を見るようにと千里は伝えた。
千里が戻った第7中隊は、前線に無線機を届けるように指示を受け、朝鮮に向かう列車に乗ろうとしたところで万里の姿を見つけた。帰るように説得したが、弟の揺るがぬ意志を目の当たりにし入隊を許可した。列車は移動中に爆撃され、第7中隊は徒歩での移動を余儀なくされる。途中、米軍機と遭遇し兵士たちは遺体をよそおうが容赦なく銃撃されたり、いろいろな困難を乗り越え、無線機を前線の総司令部に届けた。しかし充分な休息を取る間もなく前線に出発。
しかし無線機の発信から、米軍の探知機が総司令部の場所を特定し、戦闘機で基地を爆撃に到来。防空壕に避難した中国軍だったが、司令室にある地図を取りに戻った兵士が爆撃を受ける。その人物は彭徳懐将軍の秘書として劉という偽名で従軍していた毛沢東の息子、毛岸英だった。
一方「長津湖」に向かった第7中隊は、十分な食料や防寒具もなく、過酷な氷点下での行軍を続け、やっと「長津湖」にたどり着き、11月27日の夕刻、長津湖を陣地とする米第31歩兵連隊掃討作戦が開始され、中国人民志願軍と米軍による「長津湖の戦い」の火蓋が切って落とされた。
厳しい戦いの中で生死を共にする兵士たちには、中国で活躍する俳優陣が参加している。第7連隊の精神的支柱である連隊長の伍千里を演じるのは『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』(2017)のウー・ジン。弟、伍万里に扮するのは『少年の君』(2019)のイー・ヤンチェンシー。退役間近の砲兵小隊長の雷睢生にフー・ジュン。そのほか『迫り来る嵐』のドアン・イーホン、『マンハント』のチャン・ハンユー、『空海 -KU-KAI- 美しき王妃の謎』のホアン・シュアンなども出演している。
朝鮮戦争を描いた映画は、日本では主に韓国が作ったものを観る場合が多かったが、そこにはほとんど中国軍のことは出てこなかった気がする。北朝鮮作も観たことはあるが、そこにも中国軍のことはほとんど出てこなかったと思う。そういう意味では、朝鮮戦争に中国軍も参戦していたということを知る機会になるかもしれない。私自身は、中国側から朝鮮戦争を描いた映画は、これまで現中映(現代中国映画上映会)で上映された作品などで観たことがあるけど、日本で一般公開される作品が出てきたことは興味深い。
これまで観てきた、中国が描いた朝鮮戦争の映画に比べればプロパガンダ色は少し控えめな感じだが、やはり香港の監督二人が参加しているというのもあるかもしれない。でもこのご時勢で観れば中国の宣伝映画ではあるかな。
それにしても朝鮮人や韓国人は一人も出てこなくて、中国兵とアメリカ兵だけというのは、なんだか不自然な気がする。中国軍と北朝鮮の兵とが一緒に行動するとか、アメリカ軍の中に韓国兵はいなかったのだろうかと思った。それでも、朝鮮戦争そのものの記憶が薄れている現在、中国側からの朝鮮戦争を描いた作品を観れば、また違う見方もできると思う。
毛沢東の息子、毛岸英が朝鮮戦争で亡くなったということも出てきました。私はそのことは知ってはいたけど、毛沢東には3人の息子がいたというのをこの作品で知りました。長男は亡くなっていて、三男は病弱、次男の岸英が朝鮮戦争に行ったのですね。
この紹介文を書くのにネットでいろいろ検索していたら、やはり中国映画で朝鮮戦争を描いた『バトル・オブ・ザ・リバー 金剛川決戦』(原題:金剛川)という作品が今年(2022)1月に日本で上映されていたことを知った。「のむコレ'21」(2021年10月22日~/東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋)上映作品となっていたけど、全然知らなかった。残念。朝鮮戦争末期の1953年、燕山部と呼ばれる師団が金城の前線に赴き、主力部隊を援護するよう命じられる。金城に向かう道はただひとつ、金剛川に掛かる橋を渡らなければならないが、米軍の爆撃機が橋を壊してしまう。というような内容で、これも中国でヒットしたらしいが、この作品も、この『長津湖』も韓国では、上映の妨害にあったという(暁)。
公式HP https://1950-movie.com/
2021年製作/175分/R15+/中国
原題:長津湖 The Battle at Lake Changjin
配給:ツイン
響け! 情熱のムリダンガム 原題:Sarvam Thaala Mayam 英題:Madras Beats
原作・監督:ラージーヴ・メーナン
音楽監督:A.R.ラフマーン
出演: G.V.プラカーシュ・クマール(主人公:ピーター・ジョンソン役)
アパルナー・バーラムラリ(ヒロイン・サラ役)
ネドゥムディ・ヴェーヌ(師匠 ヴェンブ・アイヤル役)
ヴィニート(主人公につらくあたる兄弟子・マニ役)
インド・タミルナードゥ州都チェンナイ。大学生のピーターは、映画スター・ヴィジャイの大ファン。映画初日には、試験も適当に答えを書いて映画館に駆け付け、ドラムを敲いてファンクラブを盛り立てる。そんなある日、南インド伝統音楽(カルナータカ音楽)で演奏される打楽器・ムリダンガム職人の父から、演奏会の会場にムリダンガムを届けるよう頼まれる。そこで、巨匠ヴェンブ・アイヤルの演奏を目の当たりにしたピーターは、自分もムリダンガム奏者になりたいという思いにかられる。だが、動物の皮を扱うムリダンガム職人の家の身分はダリット(不可触民)。アイヤル師の弟子にしてもらおうと直訴しにいくが、一番弟子のマニは身分を理由に追い払おうとする。アイヤル師は、ピーターの素質を見抜き弟子にする。修行に励むピーターに、マニがさらにつらく当たるのを見て、アイヤル師はマニを追い出してしまう。マニはテレビの音楽番組のMCを務める妹の伝手で審査員になる。その番組に出演したピーターはマニとひと悶着起こし、警察沙汰になり、とうとうアイヤル師に破門されてしまう・・・
カーストの壁は厚く、いまだに動物の皮を扱うムリダンガム職人で演奏者になった人はいないのだそうです。ピーターは、その壁を破れるのか・・・
ピーターを演じたG・V・プラカーシュ・クマールは、作曲家でありピアニスト。左右の手の動きが異なるのはムリダンガムも同じ。一年間かけて特訓したそうです。そして、彼は、なんと音楽の神様ともいえるA・R・ラフマーンの甥! A・R・ラフマーンは、本作で音楽監督を務めていますが、ラージーヴ・メーナン監督とは30年来の友人。本作に出て来るカルナータカ音楽は、伝統的な本物で、A・R・ラフマーンは、ピーターの感情を伝える部分などの音楽を担当しています。
映画スターの推し活をしていた大学生が、伝統音楽に目覚め、様々な障害に立ち向かう物語に心躍らされました。
この映画に惚れて、日本で公開したいと配給会社テンドラルを立ち上げてしまったのが、南インド料理「なんどり」さんの奥さま稲垣紀子さん。(写真左。お隣は、いつも美味しい南インド料理をつくっている旦那さま。8月17日の試写の折に)
公式サイトに、この映画の推しポイントがたくさん掲げられています。
とにかく酔狂なインド料理店が日本上映権を買っちゃったインド映画が何なのかご興味のある方に!
なんといっても、これが一番の推しポイントでしょう!
ぜひ劇場に駆け付けてください♪ (咲)
◆2018年東京国際映画祭で『世界はリズムで満ちている』のタイトルで上映された折の公式レポート
「A・R・ラフマーンさんとは30年来のお付き合いで親友です」10/30(火):Q&A『世界はリズムで満ちている』
https://2018.tiff-jp.net/news/ja/?p=51044
大きな変革を遂げる主人公を描きたかった」10/28(日):Q&A『世界はリズムで満ちている』
https://2018.tiff-jp.net/news/ja/?p=50979
◆映画祭報告に掲載したこちらの記事もどうぞ!
『響け!情熱のムリダンガム』(2018年TIFF上映時タイトル『世界はリズムで満ちている』) 茨城・あまや座でトーク付き上映(4/16・4/17)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/486377461.html
2018年/132分/インド/
配給:テンドラル(南インド料理店なんどり)
公式サイト:https://thendral.co.jp/mridangam-movie/
★2022年10月1日(土)、東京 シアター・イメージフォーラム他、全国順次公開
プリンセス・ダイアナ 原題:The Princess
監督:エド・パーキンズ(Netflix『本当の僕を教えて』)
製作:サイモン・チン、ジョナサン・チン(アカデミー賞®2度受賞『シュガーマン 奇跡に愛された男』『マン・オン・ワイヤー』)
ダイアナ元皇太子妃 非業の死から25年
駆け抜けた激動の人生をアーカイブ映像で振り返る
1961年7月1日、オールドソープ子爵(後に伯爵)の令嬢としてノーフォーク州サンドリンガムで生まれ、ダイアナ・フランセス・スペンサーと名付けられる。
1981年2月24日、チャールズ皇太子との婚約発表。7月29日、ロンドンのセントポール大聖堂にて挙式。
1982年6月21日、第一子ウィリアム王子出産。
1984年9月15日、第二子ヘンリー王子出産。のちにこの頃から夫婦間の気持ちの上での関係は終わっていたと語る。
1986年5月、チャールズ皇太子と共に初来日。
1992年12月、チャールズ、ダイアナ両者が別居に合意。
1994年6月 チャールズ、カミラ夫人との関係を認める。
1996年8月28日、離婚成立。親権は両者平等に持つ。
離婚後も王室の一員として、「Diana, Princess of Wales」と呼ばれる。
ケンジントン宮殿に住み続け、事務所もそこに置き、王室の公務はほとんど無くなるが、様々な慈善活動を行う。
1997年8月31日午前0時35~40分頃、パリで交通事故にあい重傷を負い、病院に運ばれるも死亡。同乗していた恋人ドディ・アルファイドと運転手は即死。
9月6日、ウェストミンスター寺院で葬儀。
映画は、1997年8月31日深夜、オテル・リッツ・パリの前に群がるパパラッチを映し出して始まります。
チャールズ皇太子との婚約が噂される頃から、常にマスコミに追い掛け回されたダイアナ。お伽話のお姫様のような結婚式に世界の誰もが魅了されました。そして、チャールズの不倫の恋を知ったのを機に破綻していく結婚生活。その後、献身的に慈善活動を行う中で新たな出会いのあったダイアナを、マスコミは執拗に追いかけ続けました。その結果が、パパラッチを交わす為にスピードを出し過ぎ激突事故。
恋人ドディがエジプト人の大富豪の息子で、彼と結婚させまいとした陰謀説も出ましたが、真相は不明。ダイアナは、1996年、パキスタン系イギリス人の心臓外科医ハスナット・カーンと出会い恋人関係にありましたが、本作では触れられず。本命はハスナットだったのではという説も。
イスラーム文化圏贔屓の私は、エジプト系やパキスタン系の男性に惹かれたダイアナに親近感を持っていたのですが、映画の中で、関係の冷え切ったチャールズ皇太子と共に公式訪問したインドで、ダイアナがタージ・マハルに癒されたという場面があって、なるほどと! あと、今回、初めて知って驚いたのは、恋人ドディに婚約者がいたという事実でした。
リアルタイムでダイアナの人生を知っていた私にとっては、ほとんどの出来事が「懐かしい」ものでしたが、若い世代の方たちにとっては、この映画は、ダイアナの激動の人生を知る良い機会になると思います。 当時はなかったSNSの功罪を考える機会にもなるのではないでしょうか。
それにしても、あの衝撃的なダイアナの事故死から25年!
ついこの間のように思い出します。
葬儀の日は、ずっとBBCをつけて見守りました。棺の後ろを歩くウィリアム王子とヘンリー王子の姿が痛々しかったのですが、先日のエリザベス女王の葬儀の時にも、二人が棺の後ろを歩く姿に、25年前の二人が重なりました。二人にとっても、つらい記憶を思い出したときだったのではと思います。
歴史に「もし」はありませんが、ダイアナが別の男性と結婚していたなら、パパラッチに追いかけられることもなく、平穏で幸せな人生をおくったかもしれないと思ってしまいました。
パーキンズ監督は、あえてナレーションやテロップによる解説を加えることなく、膨大な素材の中から厳選して、ダイアナの人生を綴っているのですが、そこからは、メディアの功罪を強く感じさせられます。SNSで誰しもが情報を拡散できる時代となった今、それはメディアだけの問題でないことも考えさせられました。(咲)
2022年/イギリス/109分/英語/カラー/ビスタ/5.1ch
日本語字幕:佐藤恵子/字幕監修:多賀幹子
後援:ブリティッシュ・カウンシル 読売新聞社
配給:STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト:https://diana-movie.com/
★2022年9月30日(金)TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
ダウントン・アビー 新たなる時代へ(原題:Downton Abbey: A New Era)
監督:サイモン・カーティス
脚本・原作・製作:ジュリアン・フェロウズ
撮影:アンドリュー・ダン
音楽:ジョン・ラン
プロダクションデザイン:ドナル・ウッズ
衣裳:アナ・メアリー・スコット・ロビンズ
出演:ヒュー・ボネヴィル(ロバート・クローリー)、ジム・カーター(チャールズ・カーソン)、ミシェル・ドッカリー(メアリー・タルボット)、エリザベス・マクガヴァン(コーラ・クローリー)、マギー・スミス(バイオレット・クローリー)、イメルダ・スタウントン(モード・バッグショー)、ペネロープ・ウィルトン(イザベル・グレイ)
1928年、英国北東部ダウントン。広大な領地を治めるグランサム伯爵ロバートらは喜びの日を迎えていた。亡き三女シビルの夫トムが、モード・バグショーの娘と結婚したのだ。華やかな宴とは裏腹に、屋敷は傷みが目立ち、長女メアリーが莫大な修繕費の工面に悩んでいたところへ、映画会社から新作を屋敷で撮影したいというオファーが。謝礼は高額だ。父の反対を押し切ってメアリーは撮影を許可し、使用人たちは胸をときめかせる。
一方、ロバートは母バイオレットが、モンミライユ侯爵から南仏にある別荘を贈られたという知らせに驚く。その寛大すぎる申し出に疑問を持ち、妻コーラ、次女イーディス夫妻、トム夫妻、引退したはずの老執事カーソンとリヴィエラへと向かう。果たして海辺の別荘に隠された秘密は、一族の存続を揺るがすことになるのか―!?
大ヒットしたイギリスのTVシリーズ「ダウントン・アビー」劇場版の第2弾。劇場版の前作は1927年に国王夫妻がダウントン・アビーを訪問するという一大イベントが中心です。監督は代わって『黄金のアデーレ 名画の帰還』のサイモン・カーティス。連続ドラマをぎゅっと濃縮した映画版は、屋敷内部の調度品や住人たちの華麗な衣裳などを大きな画面で観ることができます。時代を映したドレスやヘアスタイルにも多くのスタッフが関わっています。エンドロールに登場する人数の多さに驚きます。素晴らしい画面を一時停止してよくよく見たい気持ちになるのも、これだけの人たちの努力の結晶だからでしょう。
書ききれないほどたくさんのキャストはほぼ続投。新しく増えたのは映画撮影に関わる人々、監督役のヒュー・ダンシー、女優役のローラ・ハドックら、ナタリー・バイ、ジョナサン・ザッカイほか南仏の別荘の持ち主たち。
映画撮影がちょうどサイレントからトーキーに移る時代で、その撮影方法の違いが細かに見て取れます。台詞が入っていなくても良かったサイレント時代、台詞回しにも演技力が必要になったトーキー。悩む女優を励ますのが、ダウントンの使用人たちでした。南仏の別荘での顛末は、謹厳なバイオレットの青春時代を知らせてくれましたし、ダウントン・アビーの人たちそれぞれの秘めた気持ちも上手に出して、幸せな方向に持っていってくれる脚本に感謝。劇場を出るとき、ああ良かったと思いたいですもん。(白)
2022年/イギリス、フランス合作/カラー/シネスコ/125分
配給:東宝東和
(C)2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.(C) 2022 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://downton-abbey-movie.jp/
https://www.facebook.com/DowntonAbbeyMovie.JP/
https://twitter.com/DowntonAbbey_JP
●こちらでドラマを10分でおさらい!
★2022年9月30日(金)ロードショー
ドライビング・バニー(原題:The Justice of Bunny King)
監督:ゲイソン・サヴァット
出演:エシー・デイヴィス(バニー・キング)、トーマシン・マッケンジー(トーニャ)
バニー・キングは40歳。車の行きかう道路わきに立ち、渋滞した車の洗車をして日銭を稼いでいる。わけあって最愛の娘は里親預かりとなり、面会も自由にできない。再婚した妹の家に居候しているが、娘の誕生日までには仕事を見つけて自分の家を借り、1日も早く娘と暮らしたい。良い仕事も部屋もなかなか手に入らず、焦る毎日だ。妹の再婚相手の男が、年頃になった姪のトーニャに手を出そうとしているのを目にしたバニーは止めに入る。男は言い訳したうえ、逆切れしてバニーは家を追い出されてしまった。家から出たいというトーニャを救い出し、次の策を考える。しかし、頼みの支援局もお決まりの台詞を並べるばかり。ついにバニーは背水の陣をしく…??!!
バニーは長い間辛酸をなめてきたにもかかわらず、逞しく生きてきました。バニーは過酷な状況にある女性たちを一人にまとめたものかもしれません。彼女は結構ちゃっかりしていて、思わず苦笑してしまうシーンも多いです。
最後のやり方は無茶な気もしますが、それまでにあまりに理不尽な扱いが続いて不満がたまりにたまったのでしょう。自分だったら何ができるかと考えると、行動を起こすより、我慢して胃が痛くなるのが落ちかな。無謀でも、バニーの母親としての愛情と、奮闘ぶりにエールを送りたくなります。支援局の職員がバニーと話すうちに、少しずつ変わっていくのが一筋の希望です。たとえ上意下達のお役所でも、現場にいる人の理解が進むと頼りにしてくる人には嬉しいはずです。
ゲイソン・サヴァット監督は初めてきくお名前です。プロフィールを見たらニュージーランド在住の中国人とありました。これが初長編ですが、次にどんな作品を送り出すのかとても楽しみです。(白)
バニーは、がさつで、身なりも気にせず、好き放題言ってる感じがして、どうにも好きになれないタイプと思ってしまったのですが、我が子と自由に面会もできない理由がだんだんわかってきて、こうなってしまったのも仕方ないなと!
収監されていたので、仕事や部屋探しにも苦労するのですが、支援局が面接用の服を無償で提供してくれるところを紹介してくれます。水色のスーツに身を包んだバニーは、デートに誘われるほど素敵です。
妹の再婚相手に追い出され、住む場所に困っている時に助けてくれたのは、路上で洗車をしている仲間の青年。大家族で、ベッドを明け渡さなければならない男の子はべそをかいてます。この一家、マオリのようで、食事の前の独特の儀式が興味深かったです。言葉も違いました。字幕がなかったです・・・(咲)
●トライベッカ映画祭審査員特別賞
2021年/ニュージーランド/カラー/100分
原題:The Justice of Bunny King
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2020 Bunny Productions Ltd
https://bunny-king.com/
★2022年9月30日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開
マイ・ブロークン・マリコ
監督:タナダユキ
原作:平庫ワカ
脚本:向井康介、タナダユキ
撮影:高木風太
音楽:加藤久貴
主題歌:The ピーズ
出演:永野芽郁(シイノトモヨ)、奈緒(イカガワマリコ)、窪田正孝(マキオ)、尾美としのり(マリコの父)、吉田羊(タムラキョウコ)
ブラック企業に勤め、鬱屈した日々を送る OL・シイノトモヨは、テレビのニュースでダチのイカガワマリコが亡くなったことを知る。マンションから飛び降りたと報じられている。なんであたしに何も言わずに、とマリコの死が信じられないシイノだが、小学生時代から父親に虐待を受け、彼氏から暴力をふるわれていたことは知っている。知っていながらマリコを助け出すことはできなかった。今、逝ってしまったマリコのために何かできることはないか、シイノは考える。「今度こそあたしが助ける」と、鞄に出刃包丁を隠し持ってマリコの実家を訪ねた。だって実家にはいたくないはずだから。
つい先日終了したTBSドラマ「ユニコーンに乗って」で起業した若きCEO役だった永野芽郁さん、ここではちょっとガラの悪いOL役です。ブラック企業でクサクサしていたら、タバコも吸いたくなるし、つっけんどんな態度にもなるでしょう。ところがたった一人の「ダチ」のマリコがマンションから飛び降りた!と知ってスイッチが入ります。少々アクションもありますが、『地獄の花園』の直子に比べたら、なんてことありません。マリコ役の奈緒さんは、これに限らずどこか遠くを見ているような役柄がよく似合います。不倫女子も薄幸の花魁もやれるし次は何?という楽しみがある女優さん。実際に永野芽郁さんと奈緒さんは仲が良いそうで、この結びつきにも反映されているのかも。
窪田正孝さん演じるマキオは痛みを知っているからこその優しさがあって、これも適役。虐待する父親が、子役時代から見ている尾美としのりさんとは。タムラキョウコ役の吉田羊さん、いい女過ぎてこんな男にはもったいない、けれども変えてくれそうな予感もします。原作はどこまで描かれているんだろう?なんだか気になります。(白)
2021年/日本/カラー/85分
配給:ハピネットファントム・スタジオ、KADOKAWA
(C)2022映画「マイ・ブロークン・マリコ」製作委員会
https://happinet-phantom.com/mariko/
★2022年9月30日(金)ロードショー
四畳半タイムマシンブルース
監督:夏目真悟
原作:森見登美彦(角川文庫/KADOKAWA刊)
脚本/原案:上田誠
音楽:大島ミチル
主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION
アニメーション制作:サイエンスSARU
出演:浅沼晋太郎(私)、坂本真綾(明石さん)、吉野裕行(小津)、中井和哉(樋口師匠)、諏訪部順一(城ヶ崎先輩)、甲斐田裕子(羽貫さん)、佐藤せつじ(相島先輩)。本田力(田村くん)
8月12日、いつものように暑い日。「私」は下鴨幽水荘で唯一のクーラーのリモコンを水没させてしまった。突如出現したタイムマシンで、壊れる前のリモコンを取りに昨日に戻ることを思いつく。しかし悪友たちは勝手に過去を改変し、私は宇宙消滅の危機を予感してあわてふためく。密かに思いを寄せている明石さんとの恋の行方も変わってしまうのか?
テレビアニメで人気を博した森見登美彦さん原作「四畳半神話大系」とヨーロッパ企画の「サマータイムマシンブルース」がコラボしました。『夜は短し歩けよ乙女』(2017/湯浅政明監督)のサイエンスSARU制作のアニメーション。
あれやこれやが繋がって、なんだか懐かしい登場人物たちが暑すぎる京都の夏を右往左往します。同じ大学生とは思えない曲者ぞろいの住人たち、1台しかないクーラーの恩恵を所有者が独り占め・・・はできません。それがここの当たり前。ものすごく不安な形態のタイムマシン、乗るかやめるかあなた次第。無駄に入り組んでいる1日のすったもんだをお楽しみいただけたら、幽水荘はいつでもあなたのお越しを歓迎するはずです。(白)
2022年/日本/カラー/92分
配給:KADOKAWA、アスミック・エース
(C)2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会
https://yojohan-timemachine.asmik-ace.co.jp/
★2022年9月30日(金)3週間限定全国ロードショー
ディズニープラス9月14日(水)より独占先行配信
2022年09月18日
暴力をめぐる対話 原題:Un pays qui se tient sage 英題:The Monopoly of Violence
監督::ダヴィッド・デュフレーヌ
プロダクション・マネージャー ::ガブリエル・ジュエル
制作総指揮::ベルトラン・フェーヴル(LE BUREAU)
共同製作::JOUR2FETE
2018年、地方都市で始まったマクロン政権に異を唱える市民たちによる“黄色ベスト運動”は、瞬く間にフランス全土に広まった。燃料価格、生活費高騰による社会的不平等に対する怒りと不満が高まるにつれ抗議はときに破壊行為へと激化。2019年3月16日にはパリで200人以上が警察に拘束された。市民の過激な行為を警察が武力鎮圧する事態はだんだん増大していく。それは正当な行為なのか?
冒頭近くで、マクロン大統領が、「人々を守る警察が襲うはずはない」と熱弁をふるう様子が印象的でした。その後、映し出されるのは、警察の暴力的ともいえる行為の数々。
本作は、各地でデモに参加した人々が撮影した生の映像などを大きな画面で見せながら、知らない者どうしを二人一組でそれぞれの思いを語るという対話形式で進んでいきます。登場する24人は、デモに参加し傷を負った当事者や家族、社会学者、歴史学者、弁護士、運転手、配管工、心理セラピストなどのほか、警察関係組織の書記長や、国家憲兵隊少将もいます。ただ、発言している映像には、それがどういう立場の人なのかは表示されません。先入観を持たないようにとの配慮です。
私が一番ショックを受けたのは、高校生たちが大勢、膝をつかされていた場面です。黒いヒジャーブ姿の母親が「息子は3時間、この姿勢をさせられた」と嘆いていました。移民の多い郊外の高校のようでした。(郊外の団地にあるマント=ラ=ジョリー高校だそうです)警察が、彼らに向かって「お利口なクラス」と言い放ちます。
この映画のフランス語タイトルは、『Un pays qui se tient sage』(意訳:お利口な国)。
お利口な市民には、警察がお仕置きをという次第でしょうか・・・ (咲)
2020/フランス/ドキュメンタリー/DCP/93 分
配給・宣伝::太秦
公式サイト:http://bouryoku-taiwa2022.com/
★2022 年 9 月 24 日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド 原題:Meeting The Beatles in India
9/23(金・祝)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー 劇場情報
監督・脚本・製作:ポール・サルツマン
ナレーション:モーガン・フリーマン
製作総指揮:デヴィッド・リンチ
出演:デヴィッド・リンチ、パティ・ボイド、ジェニー・ボイド、マーク・ルイソン、ルイス・ラファム、ローレンス・ローゼンタール、リッキ・クック、ハリプラサード・チョウラシア、デヴィアニ・サルツマン、ポール・サルツマン
1968年、23歳のカナダの青年ポール・サルツマンは、失恋の傷を癒すため、北インドのガンジス川のほとりのリシケシュにある超越瞑想の創始者マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーのアシュラム(僧院)の門を叩く。そこで思いがけず出逢ったのは「ザ・ビートルズ」。ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの4人とパートナーたち。ビーチ・ボーイズのマイク・ラヴやドノヴァン、俳優のミア・ファローと妹もいた。彼らもヨーギーから超越瞑想を学ぶため長期滞在していた。サルツマン青年がアシュラムの門前に着いた時は、ビートルズたちが滞在しているため入れず、門前で8日間待った。その甲斐あって中に入ることができ、「ザ・ビートルズ」の人々とも会話することができ、彼らの信頼を得た。サルツマンもそこで瞑想を学びながら、「ビートルズ」と過ごした奇跡のような8日間を多くの写真に残した。これは、その写真を通して、彼がここで「ビートルズ」とともに過ごした8日間を描いたドキュメンタリーだけど、後に映像作家になったポール・サルツマンは、50年後、その地を再度訪ね、思い出を検証する作品を作った。そして、ここで作られたビートルズの最高傑作と言われる「ホワイト・アルバム」誕生の秘話にまつわる話が語られる。とても貴重な記録であるとともに、ビートルズのスーパースターでない普通の青年ぽい姿も映し出す。
ポール・サルツマン監督はインドのアシュラムに行く前に、ビートルズの出身地リバプールにある博物館「ビートルズ・ストーリー」を訪ね、このアシュラムで、自分が撮ったビートルズの写真を眺めたり、ビートルズの関係者にインタビューも行い、当時のことに思いをはせる。
イギリスの歴史家であり、ビートルズ研究の世界的権威マーク・ルイソン氏と同行し、アシュラムに向かったポール・サルツマン監督だが、「ホワイト・アルバム」の曲数について議論したり、この映画の製作総指揮者であり、超越瞑想の推奨財団の創設者でもあるデヴィッド・リンチ監督にも取材。さらにジョージ・ハリスンが作った「サムシング」「フォー・ユー・ブルー」にインスピレーションを与えたといわれる、ハリスンの元妻・パティ・ボイドや、インドの瞑想の旅に参加した妹のジェニー・ボイドにも話を聞き、驚くことに「コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル」のモデルになった、虎を撃ち殺した男(リッキ・クック)にも話を聞いている。彼はその後動物カメラマンになったあと、今は自然保護活動をしていると語っていた。
ナレーションはモーガン・フリーマンが担当している。
ビートルズが1968年頃、インドに瞑想体験をしに行ったということは知ってはいたが、長い人は2カ月近く滞在したとは思ってもみなかった。
若き日の監督は、偶然「ビートルズ」に遭遇したとは言え、よく彼らに近づき会話や交流ができるようになったなと思った。彼らとお近づきになって写真をたくさん撮ったけど、その写真を倉庫?にしまって「忘れていた」と語っていたけど、そんなことありなのかな。しかもビートルズのファンでレコードもたくさん持っているのに。長く眠っていた写真の価値を見出したのは16歳になった彼の娘さんと語っていたけど、撮ったあと、何も使わず、そんなに長くしまっていたのだろうか。もともとカメラマンのようだから、彼が撮った写真は、素晴らしいシャッターチャンスを捉えていると思った。貴重なビートルズの記録。ビートルズがインドに行ってからインドブームになり、インド詣でをする人は日本でも増えたし、シタールという楽器も知られるようになった。そしてヨガもブームになった。
後にサルツマンは、「ビートルスが僧院で過ごした数週間は穏やかに過ごし、彼らにとっては創造のオアシスとなった。瞑想、ベジタリアン食、ヒマラヤ山麓の美しさ。ガンジス河のゆったりした流れ。追いかけてくるファンも、マスコミも、急がされるスケジュールもない。この自由の中で彼らが作った音楽は、それまでの輝かしいキャリアのどの時期よりも素晴らしいものだった」と記述している。
あのアシュラムは、今は“ビートルズ・アシュラム”として一般公開されている。ビートルズファンにとっても、それほどでない人にとっても50年も前のビートルズの貴重な写真と、曲作りのエピソードと、開放感いっぱいのビートルズの姿を観ることができる作品。
上記集合写真をサルツマンが撮った時のエピソードが面白い。ここにたくさんの人が集まってきたので自分のカメラ(ペンタックス)を向けたら、ビートルズのメンバーが自分のカメラでも撮ってほしいとカメラを3台渡されたけど、全部ニコンだったという。サルツマンは4台のカメラをぶらさげそれぞれのカメラで撮ったと語っていた。安いカメラと高いカメラと表現していたけど(笑)、全部日本製のカメラ。あの当時(1968年頃)日本製のカメラの性能は世界で高く評価されていた。私も68年当時使っていたのはペンタックス。働くようになってから買ったのはニコンだった。ニコンでも安いカメラだったけど、それ以来40年近くニコンを買いかえ使っていた。この写真はリバプールにある博物館「ビートルズ・ストーリー」にも展示され、その前でそのエピソードを語っていたが、等身大に拡大された大きな写真だった(暁)。
ビートルズが活躍していた1960年代から1970年代にかけては、私の小学生から高校生の時代。ラジオから流れて来る様々な曲の中でも、ビートルズの曲は私にとって心地よく、新しい曲が出るのをいつも楽しみにしていました。今のようにネットで即座に情報が入る時代ではなかったのに、ビートルズがインドに行ったことも、ちゃんとリアルタイムで知りました。私の生まれ育った神戸には、インド人も多く暮らしていて、小さい時から馴染みがあったので、好きなビートルズがインドに行ったことにとても興味を持った覚えがあります。でも、具体的なことを聞いたことも、調べたことも実はなかったことに本作を観て気が付きました。
リシケシュのアシュラムのヨーギーは、著名なビートルズの一行を、それなりに意識して受け入れたと思うのですが、ここで過ごすビートルズは、実に自然体で、リラックスしていたことが見てとれました。
偶然ビートルズに出会った若き日のポール・サルツマン監督が、ごく自然にビートルズ一行の会話の輪に入れたのも、彼に下心がなかったことや、追いかけて来るファンから解放されていたことも大きいのでしょう。
ポール・サルツマン監督は、23歳の時に、インドのことを何も知らないのに、インドにいけという声が聞こえて、違う自分を探す旅に出たのだそうです。(旅費を工面した経緯は、ぜひ映画でご覧ください)
インドに来て、恋人から最初に受け取った手紙に「ヘンリーと暮らし始めた」とあって、傷心を癒すためにリシケシュのアシュラムに向かったのです。打ち解けて話せるようになったジョン・レノンに話したら、「失恋は次の恋の始まり」と慰めてくれたとのこと。実は、ジョンもその頃、オノ・ヨーコと出会っていたのだとか。
50年の時を経て知る、インドでのビートルズの素の姿。『ホワイト・アルバム』に収められている「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」の歌詞をしたためた紙を足で押さえながらポール・マッカートニーが弾き語りするのも楽しいです。(咲)
公式サイト http://mimosafilms.com/beatles/
2020年/カナダ/英語/79分/カラー/1.78:1/5.1ch
配給:ミモザフィルムズ
監督・脚本・製作:ポール・サルツマン
ナレーション:モーガン・フリーマン
製作総指揮:デヴィッド・リンチ
出演:デヴィッド・リンチ、パティ・ボイド、ジェニー・ボイド、マーク・ルイソン、ルイス・ラファム、ローレンス・ローゼンタール、リッキ・クック、ハリプラサード・チョウラシア、デヴィアニ・サルツマン、ポール・サルツマン
1968年、23歳のカナダの青年ポール・サルツマンは、失恋の傷を癒すため、北インドのガンジス川のほとりのリシケシュにある超越瞑想の創始者マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーのアシュラム(僧院)の門を叩く。そこで思いがけず出逢ったのは「ザ・ビートルズ」。ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの4人とパートナーたち。ビーチ・ボーイズのマイク・ラヴやドノヴァン、俳優のミア・ファローと妹もいた。彼らもヨーギーから超越瞑想を学ぶため長期滞在していた。サルツマン青年がアシュラムの門前に着いた時は、ビートルズたちが滞在しているため入れず、門前で8日間待った。その甲斐あって中に入ることができ、「ザ・ビートルズ」の人々とも会話することができ、彼らの信頼を得た。サルツマンもそこで瞑想を学びながら、「ビートルズ」と過ごした奇跡のような8日間を多くの写真に残した。これは、その写真を通して、彼がここで「ビートルズ」とともに過ごした8日間を描いたドキュメンタリーだけど、後に映像作家になったポール・サルツマンは、50年後、その地を再度訪ね、思い出を検証する作品を作った。そして、ここで作られたビートルズの最高傑作と言われる「ホワイト・アルバム」誕生の秘話にまつわる話が語られる。とても貴重な記録であるとともに、ビートルズのスーパースターでない普通の青年ぽい姿も映し出す。
ポール・サルツマン監督はインドのアシュラムに行く前に、ビートルズの出身地リバプールにある博物館「ビートルズ・ストーリー」を訪ね、このアシュラムで、自分が撮ったビートルズの写真を眺めたり、ビートルズの関係者にインタビューも行い、当時のことに思いをはせる。
イギリスの歴史家であり、ビートルズ研究の世界的権威マーク・ルイソン氏と同行し、アシュラムに向かったポール・サルツマン監督だが、「ホワイト・アルバム」の曲数について議論したり、この映画の製作総指揮者であり、超越瞑想の推奨財団の創設者でもあるデヴィッド・リンチ監督にも取材。さらにジョージ・ハリスンが作った「サムシング」「フォー・ユー・ブルー」にインスピレーションを与えたといわれる、ハリスンの元妻・パティ・ボイドや、インドの瞑想の旅に参加した妹のジェニー・ボイドにも話を聞き、驚くことに「コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル」のモデルになった、虎を撃ち殺した男(リッキ・クック)にも話を聞いている。彼はその後動物カメラマンになったあと、今は自然保護活動をしていると語っていた。
ナレーションはモーガン・フリーマンが担当している。
ビートルズが1968年頃、インドに瞑想体験をしに行ったということは知ってはいたが、長い人は2カ月近く滞在したとは思ってもみなかった。
若き日の監督は、偶然「ビートルズ」に遭遇したとは言え、よく彼らに近づき会話や交流ができるようになったなと思った。彼らとお近づきになって写真をたくさん撮ったけど、その写真を倉庫?にしまって「忘れていた」と語っていたけど、そんなことありなのかな。しかもビートルズのファンでレコードもたくさん持っているのに。長く眠っていた写真の価値を見出したのは16歳になった彼の娘さんと語っていたけど、撮ったあと、何も使わず、そんなに長くしまっていたのだろうか。もともとカメラマンのようだから、彼が撮った写真は、素晴らしいシャッターチャンスを捉えていると思った。貴重なビートルズの記録。ビートルズがインドに行ってからインドブームになり、インド詣でをする人は日本でも増えたし、シタールという楽器も知られるようになった。そしてヨガもブームになった。
後にサルツマンは、「ビートルスが僧院で過ごした数週間は穏やかに過ごし、彼らにとっては創造のオアシスとなった。瞑想、ベジタリアン食、ヒマラヤ山麓の美しさ。ガンジス河のゆったりした流れ。追いかけてくるファンも、マスコミも、急がされるスケジュールもない。この自由の中で彼らが作った音楽は、それまでの輝かしいキャリアのどの時期よりも素晴らしいものだった」と記述している。
あのアシュラムは、今は“ビートルズ・アシュラム”として一般公開されている。ビートルズファンにとっても、それほどでない人にとっても50年も前のビートルズの貴重な写真と、曲作りのエピソードと、開放感いっぱいのビートルズの姿を観ることができる作品。
上記集合写真をサルツマンが撮った時のエピソードが面白い。ここにたくさんの人が集まってきたので自分のカメラ(ペンタックス)を向けたら、ビートルズのメンバーが自分のカメラでも撮ってほしいとカメラを3台渡されたけど、全部ニコンだったという。サルツマンは4台のカメラをぶらさげそれぞれのカメラで撮ったと語っていた。安いカメラと高いカメラと表現していたけど(笑)、全部日本製のカメラ。あの当時(1968年頃)日本製のカメラの性能は世界で高く評価されていた。私も68年当時使っていたのはペンタックス。働くようになってから買ったのはニコンだった。ニコンでも安いカメラだったけど、それ以来40年近くニコンを買いかえ使っていた。この写真はリバプールにある博物館「ビートルズ・ストーリー」にも展示され、その前でそのエピソードを語っていたが、等身大に拡大された大きな写真だった(暁)。
ビートルズが活躍していた1960年代から1970年代にかけては、私の小学生から高校生の時代。ラジオから流れて来る様々な曲の中でも、ビートルズの曲は私にとって心地よく、新しい曲が出るのをいつも楽しみにしていました。今のようにネットで即座に情報が入る時代ではなかったのに、ビートルズがインドに行ったことも、ちゃんとリアルタイムで知りました。私の生まれ育った神戸には、インド人も多く暮らしていて、小さい時から馴染みがあったので、好きなビートルズがインドに行ったことにとても興味を持った覚えがあります。でも、具体的なことを聞いたことも、調べたことも実はなかったことに本作を観て気が付きました。
リシケシュのアシュラムのヨーギーは、著名なビートルズの一行を、それなりに意識して受け入れたと思うのですが、ここで過ごすビートルズは、実に自然体で、リラックスしていたことが見てとれました。
偶然ビートルズに出会った若き日のポール・サルツマン監督が、ごく自然にビートルズ一行の会話の輪に入れたのも、彼に下心がなかったことや、追いかけて来るファンから解放されていたことも大きいのでしょう。
ポール・サルツマン監督は、23歳の時に、インドのことを何も知らないのに、インドにいけという声が聞こえて、違う自分を探す旅に出たのだそうです。(旅費を工面した経緯は、ぜひ映画でご覧ください)
インドに来て、恋人から最初に受け取った手紙に「ヘンリーと暮らし始めた」とあって、傷心を癒すためにリシケシュのアシュラムに向かったのです。打ち解けて話せるようになったジョン・レノンに話したら、「失恋は次の恋の始まり」と慰めてくれたとのこと。実は、ジョンもその頃、オノ・ヨーコと出会っていたのだとか。
50年の時を経て知る、インドでのビートルズの素の姿。『ホワイト・アルバム』に収められている「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」の歌詞をしたためた紙を足で押さえながらポール・マッカートニーが弾き語りするのも楽しいです。(咲)
公式サイト http://mimosafilms.com/beatles/
2020年/カナダ/英語/79分/カラー/1.78:1/5.1ch
配給:ミモザフィルムズ
2022年09月17日
スーパー30 ~アーナンド先生の教室~ 原題:SUPER30
監督:ヴィカース・バハル
出演:リティク・ローシャン 『WAR ウォー!!』 ムルナール・タークル アー
ディティヤ・シュリーワースタウ パンカジ・トリパーティ
1996年、ビハール州パトナ。数学の優秀者表彰式で金メダルを受賞したアーナンド・クマール。彼にとっては金メダルよりも2位の賞品である数学の学術書の方がうらやましい。メダルを授与した州の教育大臣ラーム・シンは、「パトナの天才! 君にはいつでも援助するよ」と褒め称える。
ベナレス大学の図書館にイギリスから学術書が届くのを見計らって、列車の屋根に乗って駆け付ける。学術書を読んでいたところ、「学外者は失せろ!」と追い出される。図書館員が、「学術書に論文が載れば一生届くよ」と教えてくれる。誰も解いたことのない問題を解いて送ろうとするが、イギリスまで220ルピーかかる。足りない金額を、郵便局で皆が寄付してくれる。夢見るアーナンドに、「王になれるのは王の子だけ」という郵便局員に、「今は違う。賢い者が王になれる」と豪語する。
そして、ついに、ケンブリッジ大学の入学許可が届く。アーナンドの論文に目を留めてくれたのだ。旅費の半分は父が年金を前借りしてくれたが、足りない分を工面しようと、かつて援助すると言っていた教育大臣に会いに行く。「母国を忘れるな」とけんもほろろに断られる。父は心労で逝ってしまう。アーナンドは留学を諦め、母と弟プラナヴと3人でパーパル(豆煎餅)を作って、自転車で売り歩く。
そんなある日、ラッラン・シンという男が、自分の経営するインド工科大学に入るための予備校で教師をしないかと声をかけてくる。看板教師となったアーナンドは、バイクで予備校に通い、母のために家政婦を雇う。羽振りがよくなり調子に乗っていたアーナンドだが、突然予備校を辞め、貧しい子に無料で教える「スーパー30」を立ち上げる・・・
2003年、貧しい家庭の子に無償で食事と寮と教育を与えるプログラム「スーパー30」を立ち上げたアーナンド・クマールの実話に基づく物語。
ドラマチックに見せる為、フィクションの部分も多々あるそうです。実在のアーナンド・クマールは、最初から無償の私塾「スーパー30」を開設しています。予備校の看板教師になり、その後、辞めて無償の塾を開いたために命を狙われるという紆余曲折はフィクション。可憐で良家の娘のスープリヤという恋人の存在も、花を添えたものと思われます。
それでも、アーナンド・クマールの「教育は天国への道」と、貧しい為に進学を諦める優秀な子どもたちに機会を与え続けてきた精神はずっしりと伝わってきました。
インドといえば、ゼロを発見した国。二桁の掛け算を暗記していることでも有名ですが、そのインドが生んだ天才数学者ラマヌジャンのことを知ったのは、映画『奇蹟がくれた数式』を通じてのことでした。論文に目を留めた教授よりケンブリッジ大学に招聘され、イギリスにわたり、天才数学魔術師と呼ばれた人物です。
そして、アーナンド・クマールの開設した学校の名前は、「ラマヌジャン数学学院」!
♪人に能力があれば、世界は変えられる。生まれが何?♪
という最後に流れる歌の歌詞には、まだまだインドでカーストが根強く社会を支配していることを感じさせられました。インド社会で、カーストを乗り越え、実力が評価される時代が来ることを願わずにはいられませんでした。(咲)
2019年/インド/ヒンディー語/シネスコ/154分
配給:SPACEBOX 宣伝:シネブリッジ
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/super30/
★2022年9月23日(金)全国順次ロードショー
バビ・ヤール 原題 Babi Yar. Context
監督・脚本 セルゲイ・ロズニツァ(『ドンバス』『国葬』『粛清裁判』『アウステルリッツ』)
編集 セルゲイ・ロズニツァ、ダニエリュス・コカナウスキス, トマシュ・ヴォルスキ
音響 ウラジミール・ゴロヴニツキー
イメージ・レストレーション ジョナス・ザゴルスカス プロデューサー セルゲイ・ロズニツァ、マリア・シュストヴァ
アソシエイト・プロデューサー イリヤ・フルジャノフスキー(『DAU.ナターシャ』、『DAU.後退』)、マックス・ヤコヴァ
プロダクション Atoms & Void, BABYN YAR HOLOCAUST MEMORIAL CENTER
戦後約50年間、隠蔽されていたウクライナでのユダヤ人虐殺
1941年6月、ナチス・ドイツ軍は独ソ不可侵条約を破棄してソ連に侵攻。占領下のウクライナ各地に傀儡政権を作りながら支配地域を拡大し、9月19日にはキエフを占領。9月24日、混乱するキエフで大爆発が起きた。これはソ連秘密警察が撤退前に仕掛けた爆弾を爆破させたことによるものであったが、疑いの目はユダヤ人に向けられた。翌日、当局はキエフに住む全ユダヤ人の出頭を命じた。出頭したキエフのユダヤ人はナチス・ドイツとそれを支援したウクライナ補助警察により「バビ・ヤール渓谷」で射殺された。被害者は33,771名。女性も子どもも老人もユダヤ人なら身ぐるみ剥がされ殺された。
本作は、ドイツ軍のウクライナ侵略から、この事件の発生、そしてその後の歴史的処理までを、ロシア、ドイツ、ウクライナに所蔵されていた様々なアーカイブ映像を紡いで描いたもの。
1964年にベラルーシで生まれ、ウクライナのキーウ(旧キエフ)で育ったセルゲイ・ロズニツァ監督。キエフ郊外の家から週に数回通っていたプールとの間にある森に旧ユダヤ人墓地の跡地があり、モニュメント建設計画があるのを知り、両親にそこで何があったか尋ねたものの明確な答えがかえってこなかったとのこと。
ソ連は戦後、バビ・ヤール渓谷を「ナチスによってソ連人が殺された場所」とし、ユダヤ人が標的であったことを伏せていたのです。ソ連では諸民族の団結が優先され、特定の民族の犠牲について触れづらい風潮がありました。ソ連が崩壊した1991年ごろになり、バビ・ヤールの歴史を継承する動きが盛んになり、2020年にはバビ・ヤールに博物館を建設することが発表されています。
ただ、ホロコーストやユダヤ人虐殺というと、ナチスドイツが行ったものというイメージですが、本作からは、ウクライナの普通の人たちも加担していたことが見てとれます。
ヨーロッパ各地で、ユダヤ人を匿った美談が映画で描かれている一方で、地元の人たちがナチス・ドイツに協力したことが描かれた映画もあります。
『ホロコーストの罪人』(エイリーク・スヴェンソン監督/2020年/ノルウェー)は、1942年10月26日に、ノルウェーに住むユダヤ人全員がオスロ港へと強制連行されたことを描いた映画です。事件から70年経った2012年1月、当時のノルウェー・ストルテンベルグ首相が、ホロコーストにノルウェー警察や市民らが関与していたことを認め、政府として初めて公式に謝罪の表明を行っています。
フランスでは、1995年にシラク大統領が、ナチス占領下のヴィシー政権がユダヤ人の強制連行に加担していたことを国家として認めて謝罪しています。
人間の本性で、そのときに置かれた立場で、どうすれば自分は生き延びれるかを判断してしまうのだと思います。そんな悲しい性も、ずっしり感じさせられました。(咲)
第74回カンヌ国際映画祭ルイユ・ドール審査員特別賞受賞
2021年/オランダ=ウクライナ/ウクライナ語、ロシア語、ドイツ語、ポーランド語/ドキュメンタリー/121分/4:3/カラー・モノクロ
日本語字幕:守屋愛
配給 サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/babiyar
★2022年9月24日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
渇きと偽り 原題:The Dry
監督:ロバート・コノリー
原作:「渇きと偽り」(ジェイン・ハーパー/青木創 訳)ハヤカワ文庫刊
出演:エリック・バナ(『ミュンヘン』『NY心霊捜査官』)、ジュネヴィーヴ・オーライリー、キーア・オドネル、ジョン・ポルソン
メルボルンの連邦警察官として働くアーロン・フォーク。旧友ルークが家族を惨殺した後、自殺したらしいとの報を受け、葬儀に参列するため、20年ぶりに故郷キエワラに帰る。住民のほとんどが葬儀に集まりルークの死を悼んでいたが、アーロンとの再会を喜んでくれたのは高校時代の恋人で今はシングルマザーのグレッチェンだけだった。
悲しみに暮れるルークの両親から事件の真相を明かしてほしいと懇願され、アーロンは最初に現場に駆け付けた地元の若い警官グレッグ・レイコ―と共に事件の捜査をする。協力的なのは、最近町に引っ越してきたばかりの小学校の校長スコット・ホイットラムくらいだった。実は、アーロンは17歳の夏、同級生の少女エリーが変死し、その犯人ではないかと疑われ、父と共に町を去ったのだった。当時、アーロンとグレッチェン、ルークとエリーの4人で青春を謳歌していて、今回のルークの事件は20年前のエリー変死事件と繋がっているのではないかと疑い始める・・・
冒頭、映し出される乾いた広大な大地に圧倒されます。舞台となったキエワラは、1年近く雨が降っていないというビクトリア州の架空の町。気候温暖化で、オーストラリアではこのような干ばつで苦しむ町は多数あるとのこと。
現在と過去が交錯し、徐々に明かされていく真相にぞくぞくしました。過酷な地で極限状態におかれ、人の心も乾いてしまったように感じました。
世界的大ヒットとなった原作「渇きと偽り」は、ジェイン・ハーパーのデビュー作。1980年生まれでジャーナリストとして活動する合間に作家になりたいという夢を叶えるため、こつこつと書き上げたもの。ジェイン・ハーパーは、ルークの葬儀の場面にカメオ出演しているとのことです。(咲)
2020年/オーストラリア/英語/117分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/G
配給:イオンエンターテイメント
公式サイト:http://kawakitoitsuwari.jp/
★2022年9月23日(金)より、新宿シネマカリテほか全国公開
2022年09月14日
LAMB ラム(原題:Lamb)
監督:バルディミール・ヨハンソン
脚本:ショーン、バルディミール・ヨハンソン
撮影:イーライ・アレンソン
音楽:ソーラリン・グドナソン
出演:ノオミ・ラパス(マリア)、ヒルミル・スナイル・グズナソン(イングヴァル)、ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン(ペートゥル)
山間に住む羊飼いの夫婦イングヴァルとマリア。ある日、二人が羊の出産に立ち会うと、羊ではない何かが産まれてくる。
子供を亡くしていた二人は、"アダ"と名付けその存在を育てることにする。
奇跡がもたらした"アダ"との家族生活は大きな幸せをもたらすのだが、やがて彼らを破滅へと導いていく—。
凍てつくアイスランドの牧場。静かに暮らしている夫婦と羊たち。彼らを見守るような犬と猫。ある晩羊小屋へ何かが侵入してきて、やがて生まれたのは羊か何か?ファンタジーのようなスリラーのような、はたまたポスターの「子羊を抱くマリア」の聖母子の物語なのか?誰の視点で、何をポイントに観るかでまた印象が変わるでしょう。
羊は従順で、群れて生き、”子羊”は、か弱いものの代表です。マリアとイングヴァルは生まれた子を母羊からとり上げ、慈しみます。母羊は、たびたび窓の下に現れて、返してと鳴き続けます。これがなんとも切なくて、返しても育てられないでしょと言ってきかせたい思いにかられます。マリアは実力行使、羊相手だから?製作にも名をつらねているノオミ・ラパスの強い女のイメージが、年々濃くなります。
初の長編作品を送り出したバルディミール・ヨハンソン監督は子どものころの牧場の思い出を入れ込んだそうです。ワイド画面の風景は厳しくも美しいです。
第74回 カンヌ国際映画祭「ある視点部門」でPrize of Originalityを受賞。(白)
2021年/アイスランド・スウェーデン・ポーランド合作/カラー/シネスコ/106分
配給:クロックワークス
(C)2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY, RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JOHANNSSON
https://klockworx-v.com/lamb/
★2022年9月23日(金・祝)ロードショー
犬も食わねどチャーリーは笑う
監督・脚本:市井昌秀
撮影:伊集守忠
音楽:安部勇磨
主題歌:never young beach 「こころのままに」(BAYON PRODUCTION)
出演:香取慎吾(田村裕次郎)、 岸井ゆきの(田村日和)
井之脇 海(若槻広人) 中田青渚 小篠恵奈 松岡依都美 田村健太郎 森下能幸/的場浩司(店長) 眞島秀和(葛城周作)
徳永えり 峯村リエ 菊地亜美 有田あん 瑛蓮
/きたろう 浅田美代子(田村千鶴)/余貴美子(蓑山さん)
裕次郎と日和(ひより)夫婦は結婚4年。裕次郎の働くホームセンターに日和が買い物に来て出逢った。この頃は鈍感な夫に日和はイライラしっぱなし。積もった鬱憤はSNSの「旦那デスノート」に吐き出している。そこには怒れる妻たちの本音がこれでもかとばかりに書き込まれている。ホームセンターのお昼休み、同僚の蓑山さんが裕次郎と結婚間近の若槻に「見て見て」と声をかける。一番人気だというチャーリーの投稿は、なぜか裕次郎の身に覚えのあることばかり。「これって俺のこと?」…
香取慎吾さん『凪待ち』(2019)以来、久々の主演映画です。大きな香取さんと小柄なゆきのさん、いかにも頼りがいのありそうな旦那さまです。やたらうんちくを傾けるのは、結婚前なら感心できていいかも。しかし慣れ親しむと「またか」とうざいはず。おまけに最後に「いい意味で」とつくのが困ります。幸い私の周りにはいません。もしいたら「何それ、具体的にどういう意味?」と突っ込みそうです。日和はいちいち突っ込むのも疲れてしまってSNSに吐き出したのでしょう。夫が目にするなんて想像もせず。
劇中「旦那デスノート」に登場する強烈なディスリ投稿に女性なら「あるある」「そうそう」と溜飲が下がるでしょう。男性諸氏は「毎日働いている俺を!」とさぞご立腹でしょう。相手が気の毒になるご夫婦は、お幸せということで。
裕次郎と日和の本音のバトルに、脇の濃い面々がさらに拍車をかけます。日和のPNの「チャーリー」は、2人のペットのフクロウの名前です。「森の賢者」とか番人とか呼ばれていますが、このチャーリーもじっと夫婦の有様を観て、笑っているのかもしれません。(白)
2022年/日本/カラー/シネスコ/117分
配給:キノフィルムズ/木下グループ
(C)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
https://inu-charlie.jp/
★2022年9月23日(金・祝)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショーロードショー
”犬チャリ愚痴供養キャンペーン”実施中
9月18日(日)23:59まで 詳細はこちら
https://inu-charlie.jp/campaign/
秘密の森の、その向こう(原題:Petite maman)
監督・脚本・衣装:セリーヌ・シアマ
撮影:クレア・マトン
音楽:ジャン=バプティスト・ドゥ・ロビエ
出演:ジョセフィーヌ・サンス(ネリー)、ガブリエル・サンス(マリオン)、ニナ・ミュリス(ネリーの母)、マルゴ・アバスカル(ネリーの祖母)、ステファン・ヴァルペンヌ(ネリーの父)
大好きなお婆ちゃんが亡くなった。ネリーは両親と一緒にお婆ちゃんとママが住んでいた家にやってくる。ママが子どものころのノートもみんな残っている。ママはとても悲しそうだ。朝起きるとパパが朝食を作っていて「ママが出て行ったよ」と言う。ネリーが裏の森に出かけてみると、女の子が木の枝を運んでいた。小屋づくりを手伝ったネリーは、その子がマリアンヌという名前だと知る。ママと同じ名前。突然の雷雨に見舞われた二人はマリアンヌの家へと走る。そこはネリーのおばあちゃんの家だった。
原題が「Petite maman」とすでにネタバレしています。森で出逢ったマリアンヌは子どもの頃の母親でした。ネリーとそっくりでも不思議はありません。ネリーとマリアンヌを、双子のサンス姉妹が、時空を超えて出逢った母と娘を演じています。いつも青系の衣服がネリー、赤系がマリアンヌ。豊かで静かな森の中で遊びまわる2人の幸せそうなこと。
8歳というと小学3年生ですが、ネリーはとても大人びていて落ち着いています。泣いたり、矢継ぎ早に質問したりすることはありません。こんなに不思議なことがあったら、私なら絶対に飛んで帰って父親に話すはず。ママくらいの年のおばあちゃん、自分と同じ8歳のママ、そこに何十年後の自分が入ってもいいのかな。いやいや、この映画では理屈は不要。3世代の女性のただただやさしいまなざしが交差し、ネリーの知らなかった世界を垣間見せてくれます。若い祖母や幼い母親に会えるなんていいなぁ。細くとも確かに続いてきて、これからも続く人生を感じました。(白)
2021年/フランス/カラー/73分
配給:ギャガ GAGA★
(C) 2021 Lilies Films / France 3 Cinema
https://gaga.ne.jp/petitemaman/
★2022年9月23日(金・祝)ロードショー
2022年09月13日
ザ・ディープハウス(原題:THE DEEP HOUSE)
監督・脚本:ジュリアン・モーリー、アレクサンドル・バスティロ
製作総指揮:ルイ・レテリエ
撮影:ジャック・バラード
音楽:ラファエル・ゲスカ
出演:ジェームズ・ジャガー(ベン)、カミーユ・ロウ(ティナ)、エリック・サヴァン(ピエール)
ティナとベンは若いYouTuber。動画の登録者アップのため刺激的な映像を狙い、湖に沈んだ屋敷の撮影を計画している。
湖畔で知り合ったピエールから場所を案内してもらい水面下に潜ると、不気味な屋敷が彼らを待っていた。
酸素ボンベの残量を見ながら、屋敷内を探索、撮影していると不思議な現象や幻影が次々と襲って来る。危険を察知し屋敷から出ようとするが、いつの間にか出口が塞がれていた。パニックになる彼らの目の前に、想像を絶する恐怖が!!!
屋敷に秘められた秘密とは?
水中で彼らを待ち受けるものとは?
ジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ監督の最初に観た作品は『屋敷女』(2008)でした。フランス映画祭の試写だったので、普段ホラーは観ないのにこわごわ拝見。ベアトリス・ダルが執拗な殺人鬼でいやはや怖かったです。『レザーフェイス-悪魔のいけにえ』(2018)は未見。
本作は水中お化け屋敷探検くらいの軽い気持ちで出かけた若い男女が、想像を越えた恐怖を体験するストーリー。何が怖いって追いかけられるのと、息ができなくなることです。酸素の残量が少なくなったとき、一緒に息を止めてみるとティナとベンの気持ちを追体験できるでしょう。苦しくなったら我慢は禁物、ちゃんと息してくださいね。
ティナは世界で活躍するトップモデルのカミーユ・ロウ。ベン役はミック・ジャガー(先日ひ孫が生まれたとか)の息子・ジェームズ・ジャガー。面影ありますね。(白)
2021年/フランス 、ベルギー/カラー/シネスコ/85分
配給:インターフィルム
© 2020 -RADAR FILMS –LOGICAL PICTURES –APOLLO FILMS –5656 FILMS. All Rights Reserved.
https://the-deep-house.com/
★2022年9月16日(金)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開
雨を告げる漂流団地
監督:石田祐康
脚本:森ハヤシ/石田祐康
音楽:阿部海太郎
主題歌・挿入歌:ずっと真夜中でいいのに。
企画:ツインエンジン
制作:スタジオコロリド
声の出演:田村睦心 瀬戸麻沙美 村瀬歩 山下大輝 小林由美子 水瀬いのり 花澤香菜 島田敏 水樹奈々
小学6年生の航祐(こうすけ)と夏芽(なつめ)は、団地で育った幼馴染。姉弟のようにいつも一緒で、サッカーのツートップとして活躍していた。しかし2人のよりどころだった航祐の祖父が亡くなり、2人は以前のように屈託なく話せない。
夏休みのある日、航祐はクラスメイトの譲と太志と3人で取り壊しの進む「おばけ団地」に忍び込む。そこは航祐と夏芽が育った思い出の家だった。航祐は思いがけず夏芽と遭遇し、誘っていない令依菜(れいな)と珠理(じゅり)までやってくる。誰もいなくなったはずの団地には謎の少年・のっぽがひっそり住んでいた。突然不思議な現象が起こり、みんなが我に返ると大海原に団地ごと漂流していた──果たして元の世界へ戻れるのか?
アニメーションスタジオ「スタジオコロリド」の新作。『ペンギン・ハイウェイ』『泣きたい私は猫をかぶる』に次ぐ長編アニメーション映画第3弾です。この団地の外観が数十年前に住んでいた社宅とそっくり、たぶん間取りも似ているのではないかしら。板敷の台所(キッチンとは言わなかった)、お茶の間(リビングとも言わなかった)、子ども部屋と寝室。子どもが2人以上だと部屋を半分にしたり、上の子が中高生になると、寝室は大きい子たちへ。片づけた後のお茶の間が寝室になったっけ…と懐かしいです。
性差に気づく成長期、距離ができてしまった航祐と夏芽。男女2人ずつのクラスメイトと不思議なのっぽくんが、とんでもない天変地異に巻き込まれて日々サバイバルのために協力します。団地が漂流するという、わけわかんない事態に遭いながら6年生たちは存外に逞しいです。愛だ恋だでいっぱいの中高生ストーリーが多かったので、ダイナミックな映像と、絶望しない子どもたちが新鮮この上なく、おおいに楽しみました。
形こそ違え、みんなに訪れるもの。古いものと別れを告げ、新しく生まれ、大きくなるための通過儀礼だったのかもしれません。自分が子どもの領域から出たのは、いつだったかなとつい考えます。どの年代の人にも広く深く届くだろう作品でした。(白)
2022年/日本/カラー/シネスコ/120分
配給:ツインエンジン、ギグリーボックス
(C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ
https://www.hyoryu-danchi.com/
●Twitter:@Hyoryu_Danchi (https://twitter.com/Hyoryu_Danchi)
#漂流団地 #スタジオコロリド
★2022年9月16日(金)Netflix全世界独占配信&日本全国ロードショー
☆劇場来場者特典・週替わり:チェキ風フォト、フィルムしおり
2022年09月11日
手
監督:松居大悟
原作:山崎ナオコーラ「手」(『お父さん大好き』文春文庫)
脚本:舘そらみ
撮影:高木風太
音楽:森優太
出演:福永朱梨(さわ子)、金子大地(森)、津田寛治(大河内)、大渕夏子 / 金田明夫
さわ子25歳。さわ子が制服姿でなくなったころから、若い女性と見ておじさんが寄ってくる。家と外を使い分けるおじさんを観察し、写真を撮ってはコレクションするのが趣味。高3の妹と話しながらスクラップブックを作っている。付き合う相手は年上ばかり、自分の父とは上手く話せない。妹は屈託なく甘えているのに。同年代の同僚・森が転職することになり、急に距離が縮まってきた。年上の男性とは違う気遣いに、さわ子の心にも徐々に変化が訪れる。
ロマンポルノ50周年記念プロジェクト<ROMAN PORNO NOW>作品。
長女のさわ子は妹が生まれるまで一人娘、両親の愛情を一身に受けて育ったところに妹が登場。その日から「お姉ちゃん」です。さわ子の年上嗜好は、父の関心が妹に移ったことから来ていたんでしょう。
家族の中で自分だけが外にいると感じている、職場では感情を殺している彼女が楽しそうなのは、森と二人の時だけに見えます。金子大地さん、声までイケメン。ロマンポルノらしい「18+シーン」よりも、さわ子の心のありようを追っていました。福永朱梨さん次の作品が楽しみ。ラストにホロッとしました。
タイトルは「手」。冒頭で、「一番古い記憶は父の手に抱かれたこと」とさわ子の声が入ります。さわ子が男性と関わったとき、手がアップになります。ほんとや嘘の気持ちを伝える手、さわ子はたくさんの手に出逢いますが、原点は父の手です。男性が母性の象徴の乳房に癒しを求めるのとはちょっと違うような。(白)
2022年/日本/カラー/99分/18+
配給:日活
(C)2022日活
https://www.nikkatsu-romanporno.com/rpnow/
★2022年9月16日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
9月30日(金)『愛してる!』白石晃士監督
10月14日(金)『百合の雨音』金子修介監督
日本原 牛と人の大地
2022年9月17日(土)より、東京・ポレポレ東中野ほか全国順次公開 劇場情報
父が牛飼いになって、もうすぐ50年になります。
牛飼いになる前、父は医学部の学生でした。
父が医者ではなく牛飼いになったのは、自衛隊とたたかうためでした。
監督・撮影:黒部俊介
編集:秦岳志
ナレーション:内藤陽
整音:川上拓也
制作:黒部麻子
出演:内藤秀之、内藤早苗、内藤大一、内藤陽
政治の季節と青春のその後で、
いま私たちが生きている時代をユニークな視点と映画言語で映し出す。
日本原で50年間、平和を求めながら、地元民が生活する重要な土地であることを訴える内藤秀之(ヒデ)さん一家。その生き方を追ったドキュメンタリー。
岡山県北部の山間の町、奈義町(なぎちょう)。人口6000人のこの町に中国・四国地方で一番大きな軍事演習場である陸上自衛隊日本原(にほんばら)演習場がある。日露戦争後に旧陸軍が村々を強制買収して演習場に。占領軍に接収されたのち自衛隊に引き継がれ今日に至る。奈義町は自衛隊との「共存共栄」を謳ってきた。
この場所が陸上自衛隊の日本原演習場になる前から牛を飼い耕作をしてきた内藤家。1969年頃、自衛隊の危険な実弾演習に反対する農民たちの闘争が始まり、その闘争に共鳴する学生たちが応援に加わり、日本原反基地闘争の現地闘争本部ができた。岡山大学で医学を学んでいたヒデさんもこの闘いに加わり、農民運動の中心であった内藤太・勝野夫妻と出会った。その後、ヒデさんは日本原で反基地闘争を続ける決断をし、大学を辞めて内藤夫妻の婿養子となり農民となり、この地で牧場と農業を続けている。
日本原では昔から地元住民が山に入って土地を共同利用する「入会(いりあい)」が行なわれ、演習場内の耕作権などが防衛省から認められている。演習場内にはかつて二つの村があり、廃村しても農民たちは耕作地に通い、牛を放牧し、米を作り続けていた。それから100 年以上が経ち、代替地を与えられた農民は代々の耕作地を離れ、いまや演習場内で耕作しているのは内藤さん一家だけとなった。かつての村の耕作地は草木が伸び、ほとんど山に還ってしまっている。でも、内藤さん一家は50年間、日本原で平和を求め続け、日本原が地元民の営みが根付く重要な土地であることを訴えている。
ヒデさんが妻の早苗さんと自衛隊と闘いながら作り続けた『山の牛乳』も紹介される。この牛乳が地域の人たちの繋がりの拠り所でもあった。演習場内の神社で行われた春祭り。武器ではなくさつま芋で平和のメッセージを示すため、毎年演習場内の畑で仲間と育てていた。日本原から自衛隊を撤退させ、牛の放牧場にしなければという祖父太さんの言葉をずっと胸に秘めてきた長男の大一さんも、地元に帰ってきて、父親の仕事を手伝い始める。そして日本原で行われた自衛隊と米軍との共同訓練の時には、閉鎖された内藤家の畑に入るため、警護をする自衛隊員と対峙する。そんな、内藤さん一家にカメラを向け、その生き方を記録した。
監督は、日本映画学校映像ジャーナルコースを卒業後、福島第一原発事故を機に2012年に岡山へ移住した黒部俊介。東京から移住した岡山で偶然ヒデさんと出会った黒部は日本原に通い撮影を続けた。内藤秀之さんの次男・陽さんがナレーションを担当。安保法制下の米軍と自衛隊。土地利用規制法が孕む危険。改憲に向かい動きだしそうな現在、「国防」の名のもとで私たちが手放しはじめているものは何か。
「日本原の自衛隊演習場」という名は聞いたことがあるけど、どこにあるかは知らなかった。今回、この映画で岡山県の山間部にあるということを知った。「1969年頃、自衛隊の危険な実弾演習に反対する農民たちの闘争が始まり」となっているので、その頃、この名前を知ったのかも。その当時は、砂川闘争(在日米軍立川基地拡張反対闘争)、安保闘争やベトナム反戦運動、三里塚闘争(成田空港反対運動)など、日本のあちこちで市民運動が起こっていた。この日本原自衛隊演習場への闘争もその流れの中にあったのでしょう。
その農民たちの運動に共鳴し参加していたのが、主人公の内藤秀之(ヒデ)さん。当時、医学生だったが、この農民運動の中心だった内藤太・勝野夫妻の娘である早苗さんと結婚し、ここで生活を続けながら50年間、運動を続けている。そして、長男の大一さんは祖父の太さんが言ったという「日本原から自衛隊を撤退させて牛の放牧場にしないといけない」という最後の言葉を忘れず、外から戻ってきたというシーンには、ヒデさん以外にも継いでいく人がいると、ホッとした。
50年もたつうちに、いつのまにか演習場内で耕作を続けているのは内藤家だけになり、かつての村の耕作地は林だらけになり、山に還ってしまっている。ヒデさんと妻の早苗さんが自衛隊と闘いながら作り続けた「山の牛乳」の生産も終わってしまい、今は内藤さんの家の牛乳はどのような形で市場に出ているのでしょう。そして、ますます自衛隊の存在は大きくなっているように感じる。
今、自衛隊を憲法で認めさせようと、憲法を変えようとしている自民党の思惑がある中、この映画は、内藤さん一家の牛飼いと農業を通した生き様を通して、住民の生活と自衛隊ということを考えさせる映画となっている(暁)。
公式HP https://nihonbara-hidesan.com/
製作:黒べこ企画室 配給:東風
2022年/110分/日本/ドキュメンタリー
父が牛飼いになって、もうすぐ50年になります。
牛飼いになる前、父は医学部の学生でした。
父が医者ではなく牛飼いになったのは、自衛隊とたたかうためでした。
監督・撮影:黒部俊介
編集:秦岳志
ナレーション:内藤陽
整音:川上拓也
制作:黒部麻子
出演:内藤秀之、内藤早苗、内藤大一、内藤陽
政治の季節と青春のその後で、
いま私たちが生きている時代をユニークな視点と映画言語で映し出す。
日本原で50年間、平和を求めながら、地元民が生活する重要な土地であることを訴える内藤秀之(ヒデ)さん一家。その生き方を追ったドキュメンタリー。
岡山県北部の山間の町、奈義町(なぎちょう)。人口6000人のこの町に中国・四国地方で一番大きな軍事演習場である陸上自衛隊日本原(にほんばら)演習場がある。日露戦争後に旧陸軍が村々を強制買収して演習場に。占領軍に接収されたのち自衛隊に引き継がれ今日に至る。奈義町は自衛隊との「共存共栄」を謳ってきた。
この場所が陸上自衛隊の日本原演習場になる前から牛を飼い耕作をしてきた内藤家。1969年頃、自衛隊の危険な実弾演習に反対する農民たちの闘争が始まり、その闘争に共鳴する学生たちが応援に加わり、日本原反基地闘争の現地闘争本部ができた。岡山大学で医学を学んでいたヒデさんもこの闘いに加わり、農民運動の中心であった内藤太・勝野夫妻と出会った。その後、ヒデさんは日本原で反基地闘争を続ける決断をし、大学を辞めて内藤夫妻の婿養子となり農民となり、この地で牧場と農業を続けている。
日本原では昔から地元住民が山に入って土地を共同利用する「入会(いりあい)」が行なわれ、演習場内の耕作権などが防衛省から認められている。演習場内にはかつて二つの村があり、廃村しても農民たちは耕作地に通い、牛を放牧し、米を作り続けていた。それから100 年以上が経ち、代替地を与えられた農民は代々の耕作地を離れ、いまや演習場内で耕作しているのは内藤さん一家だけとなった。かつての村の耕作地は草木が伸び、ほとんど山に還ってしまっている。でも、内藤さん一家は50年間、日本原で平和を求め続け、日本原が地元民の営みが根付く重要な土地であることを訴えている。
ヒデさんが妻の早苗さんと自衛隊と闘いながら作り続けた『山の牛乳』も紹介される。この牛乳が地域の人たちの繋がりの拠り所でもあった。演習場内の神社で行われた春祭り。武器ではなくさつま芋で平和のメッセージを示すため、毎年演習場内の畑で仲間と育てていた。日本原から自衛隊を撤退させ、牛の放牧場にしなければという祖父太さんの言葉をずっと胸に秘めてきた長男の大一さんも、地元に帰ってきて、父親の仕事を手伝い始める。そして日本原で行われた自衛隊と米軍との共同訓練の時には、閉鎖された内藤家の畑に入るため、警護をする自衛隊員と対峙する。そんな、内藤さん一家にカメラを向け、その生き方を記録した。
監督は、日本映画学校映像ジャーナルコースを卒業後、福島第一原発事故を機に2012年に岡山へ移住した黒部俊介。東京から移住した岡山で偶然ヒデさんと出会った黒部は日本原に通い撮影を続けた。内藤秀之さんの次男・陽さんがナレーションを担当。安保法制下の米軍と自衛隊。土地利用規制法が孕む危険。改憲に向かい動きだしそうな現在、「国防」の名のもとで私たちが手放しはじめているものは何か。
「日本原の自衛隊演習場」という名は聞いたことがあるけど、どこにあるかは知らなかった。今回、この映画で岡山県の山間部にあるということを知った。「1969年頃、自衛隊の危険な実弾演習に反対する農民たちの闘争が始まり」となっているので、その頃、この名前を知ったのかも。その当時は、砂川闘争(在日米軍立川基地拡張反対闘争)、安保闘争やベトナム反戦運動、三里塚闘争(成田空港反対運動)など、日本のあちこちで市民運動が起こっていた。この日本原自衛隊演習場への闘争もその流れの中にあったのでしょう。
その農民たちの運動に共鳴し参加していたのが、主人公の内藤秀之(ヒデ)さん。当時、医学生だったが、この農民運動の中心だった内藤太・勝野夫妻の娘である早苗さんと結婚し、ここで生活を続けながら50年間、運動を続けている。そして、長男の大一さんは祖父の太さんが言ったという「日本原から自衛隊を撤退させて牛の放牧場にしないといけない」という最後の言葉を忘れず、外から戻ってきたというシーンには、ヒデさん以外にも継いでいく人がいると、ホッとした。
50年もたつうちに、いつのまにか演習場内で耕作を続けているのは内藤家だけになり、かつての村の耕作地は林だらけになり、山に還ってしまっている。ヒデさんと妻の早苗さんが自衛隊と闘いながら作り続けた「山の牛乳」の生産も終わってしまい、今は内藤さんの家の牛乳はどのような形で市場に出ているのでしょう。そして、ますます自衛隊の存在は大きくなっているように感じる。
今、自衛隊を憲法で認めさせようと、憲法を変えようとしている自民党の思惑がある中、この映画は、内藤さん一家の牛飼いと農業を通した生き様を通して、住民の生活と自衛隊ということを考えさせる映画となっている(暁)。
公式HP https://nihonbara-hidesan.com/
製作:黒べこ企画室 配給:東風
2022年/110分/日本/ドキュメンタリー
川っぺりムコリッタ
9月16日(金)より全国にて公開 劇場情報
友達でも家族でもない、でも孤独ではない、
新しい「つながり」の物語。
原作・監督・脚本:荻上直子
撮影監督:安藤広樹
美術:富田麻友美
衣装:村上利香
編集:普嶋信一
テーマ曲:知久寿焼
音楽:パスカルズ
フードスタイリスト:飯島奈美
原作:荻上直子「川っぺりムコリッタ」(講談社)
出演:松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、吉岡秀隆
江口のりこ、黒田大輔、知久寿焼、柄本 佑、田中美佐子、薬師丸ひろ子、笹野高史、緒形直人
『かもめ食堂』の荻上直子が贈る、「おいしい食」と「ささやかなシアワセ」
生と死の間にある時間を、仏教の時間の単位でムコリッタという
大ヒットした映画『かもめ食堂』。日本映画初のベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞を受賞した『彼らが本気で編むときは、』の荻上直子監督がオリジナル脚本で製作した『川っぺりムコリッタ』は、新しい「つながり」の物語。松山ケンイチ×ムロツヨシ×満島ひかり×吉岡秀隆など、実力派豪華キャストが集結!
人と人のつながりが希薄な社会で、人はどうやって幸せを感じることができるのか。モノや境遇、場所にとらわれない形で生きることの楽しさ。食を通した荻上ワールドが展開される。「おいしい食」と「ささやかなシアワセ」をユーモアいっぱいに描く。
誰も知る人のいないところで、できるだけ人と関わらず静かに暮らしたいと山田(松山ケンイチ)は北陸の小さな街の塩辛工場で働くことに。社長から紹介された築50年の「ハイツムコリッタ」という古い安アパートで暮らし始める。無一文に近い状態でやってきた山田のささやかな楽しみは、風呂上がりの良く冷えた牛乳と、炊き立ての白いごはん。それに会社でもらってきた塩辛を乗せて食べる。
そんな暮らしを始めたばかりのある日、隣の部屋の島田(ムロツヨシ)が風呂を貸してほしいと入り込んできた日から山田の静かな日々は一変してしまう。ひっそりと生きたいと思っていた山田だったが、それ以来、島田は「一緒に食べる人がいると、ご飯はおいしいよ」と、図々しく毎日のようにご飯時に現れるようになり、静かな生活は望むべくもなくなった。さらに、夫を亡くした大家の南(満島ひかり)、息子と二人暮らしで墓石を販売する溝口(吉岡秀隆)といった、ハイツムコリッタの住人たちとも繋がりができてしまい、時にはみんなでスキヤキなんてことも。ここの住民はみんな貧しいし、それぞれ何かを抱えているようだけど優しい。そんなアパートの住人たちに囲まれて山田の頑なな心は少しづつほぐされていく―。
川っぺりのアパートには、大切な人の死に直面した人や、墓石売りなど、死と向かい合う仕事をしている人も住んでいる。いつ死んでもかまわないと思っていた主人公は、貧しかったり、落ちこぼれだったりするけど、人間らしいアパートの住民たちに囲まれ、少しづつ「ささやかなシアワセ」に気づいてゆく。友達でも家族でもない彼らの中で「孤独ではない」と実感する。
川っぺりにあるアパートムコリッタに引っ越してきた山田は、誰にも知られずひっそりと暮らそうと思っていたのに、おせっかいな隣人たちに囲まれ、いつのまにか、一緒にご飯を食べるようになってしまった。隣に住む島田は何をしている人なのかわからないけど、畑で野菜を作り、漬物を持って、毎日のようにご飯を一緒に食べようとやってきて、おまけに風呂まで入っていく迷惑な存在だったし、最初は煙たがっていた隣人たちだったが、この人たちとの交流も悪くはないと思うようになる。
自分はろくでもない人間だと思っていたけど、職場の塩辛工場も、なんとか働いて行けそうだし、そうでもないかもと、ちょっと自信が持てるようにもなった。家族ではないけど、暮らしを共有できる仲間を得、生きていけるかもと思う。それにしてもおいしそうな白米の炊けた瞬間。スキヤキ。そういえば、もう何年もスキヤキなんて食べてないな。これは一人ではなかなか食べにくい料理。鍋は一人でも大丈夫なのにスキヤキはやっぱり何人かで食べた方がおいしそう。
私は一人暮らし。昔は家族で食事するのが煩わしかったので、一人で食べるのが好き。一人で食べるのに別に孤独を感じたことはない。「ご飯は何人かで食べたほうがおいしい」という言い方を押し付けられるのは嫌だけど、友人と食事したり、たまには家族で食べるのもいいかな。川ぺりの景色と、夏の夕方の景色が、なんか懐かしかった(暁)。
公式HPはこちら
宣伝協力:シンカ 配給:KADOKAWA
2021年/120分/G/日本
友達でも家族でもない、でも孤独ではない、
新しい「つながり」の物語。
原作・監督・脚本:荻上直子
撮影監督:安藤広樹
美術:富田麻友美
衣装:村上利香
編集:普嶋信一
テーマ曲:知久寿焼
音楽:パスカルズ
フードスタイリスト:飯島奈美
原作:荻上直子「川っぺりムコリッタ」(講談社)
出演:松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、吉岡秀隆
江口のりこ、黒田大輔、知久寿焼、柄本 佑、田中美佐子、薬師丸ひろ子、笹野高史、緒形直人
『かもめ食堂』の荻上直子が贈る、「おいしい食」と「ささやかなシアワセ」
生と死の間にある時間を、仏教の時間の単位でムコリッタという
大ヒットした映画『かもめ食堂』。日本映画初のベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞を受賞した『彼らが本気で編むときは、』の荻上直子監督がオリジナル脚本で製作した『川っぺりムコリッタ』は、新しい「つながり」の物語。松山ケンイチ×ムロツヨシ×満島ひかり×吉岡秀隆など、実力派豪華キャストが集結!
人と人のつながりが希薄な社会で、人はどうやって幸せを感じることができるのか。モノや境遇、場所にとらわれない形で生きることの楽しさ。食を通した荻上ワールドが展開される。「おいしい食」と「ささやかなシアワセ」をユーモアいっぱいに描く。
誰も知る人のいないところで、できるだけ人と関わらず静かに暮らしたいと山田(松山ケンイチ)は北陸の小さな街の塩辛工場で働くことに。社長から紹介された築50年の「ハイツムコリッタ」という古い安アパートで暮らし始める。無一文に近い状態でやってきた山田のささやかな楽しみは、風呂上がりの良く冷えた牛乳と、炊き立ての白いごはん。それに会社でもらってきた塩辛を乗せて食べる。
そんな暮らしを始めたばかりのある日、隣の部屋の島田(ムロツヨシ)が風呂を貸してほしいと入り込んできた日から山田の静かな日々は一変してしまう。ひっそりと生きたいと思っていた山田だったが、それ以来、島田は「一緒に食べる人がいると、ご飯はおいしいよ」と、図々しく毎日のようにご飯時に現れるようになり、静かな生活は望むべくもなくなった。さらに、夫を亡くした大家の南(満島ひかり)、息子と二人暮らしで墓石を販売する溝口(吉岡秀隆)といった、ハイツムコリッタの住人たちとも繋がりができてしまい、時にはみんなでスキヤキなんてことも。ここの住民はみんな貧しいし、それぞれ何かを抱えているようだけど優しい。そんなアパートの住人たちに囲まれて山田の頑なな心は少しづつほぐされていく―。
川っぺりのアパートには、大切な人の死に直面した人や、墓石売りなど、死と向かい合う仕事をしている人も住んでいる。いつ死んでもかまわないと思っていた主人公は、貧しかったり、落ちこぼれだったりするけど、人間らしいアパートの住民たちに囲まれ、少しづつ「ささやかなシアワセ」に気づいてゆく。友達でも家族でもない彼らの中で「孤独ではない」と実感する。
川っぺりにあるアパートムコリッタに引っ越してきた山田は、誰にも知られずひっそりと暮らそうと思っていたのに、おせっかいな隣人たちに囲まれ、いつのまにか、一緒にご飯を食べるようになってしまった。隣に住む島田は何をしている人なのかわからないけど、畑で野菜を作り、漬物を持って、毎日のようにご飯を一緒に食べようとやってきて、おまけに風呂まで入っていく迷惑な存在だったし、最初は煙たがっていた隣人たちだったが、この人たちとの交流も悪くはないと思うようになる。
自分はろくでもない人間だと思っていたけど、職場の塩辛工場も、なんとか働いて行けそうだし、そうでもないかもと、ちょっと自信が持てるようにもなった。家族ではないけど、暮らしを共有できる仲間を得、生きていけるかもと思う。それにしてもおいしそうな白米の炊けた瞬間。スキヤキ。そういえば、もう何年もスキヤキなんて食べてないな。これは一人ではなかなか食べにくい料理。鍋は一人でも大丈夫なのにスキヤキはやっぱり何人かで食べた方がおいしそう。
私は一人暮らし。昔は家族で食事するのが煩わしかったので、一人で食べるのが好き。一人で食べるのに別に孤独を感じたことはない。「ご飯は何人かで食べたほうがおいしい」という言い方を押し付けられるのは嫌だけど、友人と食事したり、たまには家族で食べるのもいいかな。川ぺりの景色と、夏の夕方の景色が、なんか懐かしかった(暁)。
公式HPはこちら
宣伝協力:シンカ 配給:KADOKAWA
2021年/120分/G/日本
2022年09月09日
3つの鍵 原題:Tre piani
監督・脚本:ナンニ・モレッティ
原作:エシュコル・ネヴォ(「三階 あの日テルアビブのアパートで起きたこと」五月書房新社刊)
出演:マルゲリータ・ブイ、リッカルド・スカマルチョ、アルバ・ロルバケル、アドリアーノ・ジャンニーニ、エレナ・リエッティ、アレッサンドロ・スペルドゥーティ、アンナ・ボナイウート、パオロ・グラツィオージ、ステファノ・ディオニジ、トマーゾ・ラーニョ、ナンニ・モレッティ、デニーズ・タントゥッキ
ローマの閑静な高級住宅街。同じアパートで暮らす3家族の物語。
ある夜、アパート1階に車が衝突し女性が亡くなる。運転していたのは3階に住む裁判官のヴィットリオとドーラ夫婦の息子アンドレアだった。
同じ夜2階のモニカは陣痛が始まり、夫が長期出張中で、一人で病院に向かう。
1階のルーチョとサラの夫婦は、仕事場が事故で壊され、幼い娘を朝まで向かいの老夫婦に預ける。後日、ルーチョはジムに行くために、また、娘を向かいの老紳士レナードに預ける。レナードと娘が一時期行方不明になったと知り、ルーチョはレナードが娘に悪戯をしたのではと疑い始める。隣人夫婦の孫娘で大学生のシャルロットに探りを入れるが、そのことが思わぬ事態を引き起こす。
5年後、出所した3階の息子は家には戻らず、ドーラは夫に自分か息子かの選択を迫られる。2階の夫は変わらず出張続きで、義兄が起こした詐欺事件が世間を騒がせる。夫は頑なに兄を遠ざけるがモニカはその理由を知らない。ルーチョは疑念のせいで妻との間に溝ができ家を離れたが、いまだに疑惑を抱えたままだ。
10年後、住人たちは自らの選択の結果に苦しめながら現実と向き合っている・・・
同じ建物に暮らす3つの家族は、お互い顔は知っていても、干渉しないことをわきまえて暮らしていました。それが、3階の息子アンドレアが自動車事故を起こしたことをきっかけに、それぞれの暮らしが露わになっていきます。アンドレアの両親は裁判官で、もちろん、事故の後始末に奔走するのですが、アンドレアとしては裁判官なのだから、もっと自分に有利になるようにしてほしいと思っているのです。甘い!
事務所を壊されたことをきっかけに、娘を向かいの老いたレナードに預けたルーチョは、レナードが娘に悪戯をしたと疑います。そのことで接することになった孫娘の大学生シャルロットに逆に誘惑されてしまいます。ルーチョは妻と別居するまでになってしまうのですが、決してシャルロットを悪者にしません。彼女の一言が、ルーチョの人生を狂わせたともいえるのに・・・。群像劇である本作の登場人物の中で、リッカルド・スカマルチョが演じたルーチョのことが一番気になりました。
ナンニ・モレッティ監督は、事故を起こした息子と対峙する裁判官の父親役で出演しています。苦悩する様子が絶品です。
この映画の原作は、イスラエルの作家エシュコル・ネヴォの小説。テルアビブの同じ建物に暮らす3つの家族の物語がそれぞれ独立して書かれているのですが、映画では、それぞれの家族が絡み合う形で描かれています。舞台もテルアビブからローマに移されていますが、夫婦や親と子、隣人との関係、人生における選択など普遍的なことが描かれた物語。彼らのその後の人生はどうなるのだろう・・・と、さらに想像が膨らみました。(咲)
第74回カンヌ国際映画祭正式上映作品
2021年/イタリア・フランス/119分/ビスタサイズ
字幕:関口英子
配給:チャイルド・フィルム
後援:イタリア大使館 特別協力:イタリア文化会館
公式サイト:https://child-film.com/3keys/
★2022年9月16日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺他全国順次公開
LOVE LIFE
監督・脚本・編集:深田晃司
撮影:山本英夫
美術:渡辺大智
主題歌:矢野顕子「LOVE LIFE」(ソニーミュージックレーベルズ)
出演:木村文乃(大沢妙子)、永山絢斗(大沢二郎)、田口トモロヲ(大沢誠)、神野三鈴(大沢明恵)、山崎紘菜(山崎理佐)、砂田アトム(パク・シンジ)、嶋田鉄太(敬太)
妙子と再婚した夫・二郎、前夫との子どもの敬太は、二郎の両親に反対されながらもなんとか新しい家族となった。今3人が暮らす集合住宅の広場をはさんだ向かいの棟には⼆郎の両親が住んでいる。ベランダ越しに義母と手を振り合ったりもする。結婚して1年が経とうとするある日、二郎の両親を招いて食事会を開いた。家族がいることの幸せを感じていた最中、悲しい事故が起きてしまう。
悲嘆にくれる妙⼦の前に現れたのは、前夫で敬太の父親でもあるパクだった。失踪した後転々とし、今はホームレスとなっていた。二郎は役所の仕事の関わりもあり、妙子にろう者であるパクの手続きの世話をするよう勧める。
矢野顕子の名曲「LOVE LIFE」から生まれた作品。映画のテーマの多くが「LOVE」であり「LIFE」であるといえそうです。深田晃司監督は20年も前に読んだ漫画原作をいつか映像にしたいと切望し、メ~テレドラマ「本気のしるし」を送り出しました。好評を受けて『本気のしるし 劇場版』もできました。これも「LOVE」によって「LIFE」を変えることを余儀なくされる男女のストーリー。矢野顕子さんの「LOVE LIFE」も20数年前に聞いて心に刻んでいたそうです。一つの曲から新しい物語が生まれ、それを観た人が曲を聞いてみる。幾重にも波紋が広がるように、映画も人も繋がっていくんですね。
木村文乃さんはこれまでいろいろな役柄を演じましたが、手話を駆使するのは初めてじゃないでしょうか。どれほど練習されたのか、木村さん演じる妙⼦の手話は表情も豊かです。パク・シンジ役の砂田アトムさんはこの映画で初めて知ったろう者の俳優さんです。このお2人も現在の夫役の永山絢斗さんも、あてがきではないのに、役柄ととてもしっくりしていました。妙子ばかりでなく、劇中の人々も観客の私たちも、どんな「愛」と、どんな「人生」を選択するのか問われる作品です。(白)
第79回 ベネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品
第47回トロント国際映画祭正式出品
2022年/日本/カラー/シネスコ/123分
配給:エレファントハウス
(C)2022映画「LOVE LIFE」製作委員会&COMME DES CINEMAS
https://lovelife-movie.com/
★2022年9月9日(金)ロードショー
2022年09月04日
人質 韓国トップスター誘拐事件 原題: 인질(人質)
2022年9月9日(金) シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国ロードショー
劇場情報
前代未聞の緊急重大ニュース!
韓国のトップスター、ファン・ジョンミンさんが誘拐されました!
監督・脚本:ピル・カムソン
製作:リュ・スンワン
製作総指揮:キム・ウテク
撮影:チェ・ヨンファン
編集:キム・チャンジュ
音楽:キム・テソン
字幕翻訳:根本理恵
出演
ファン・ジョンミン:ファン・ジョンミン
チェ・ギワン:キム・ジェボム
イ・ユミ:パク・ソヨン
リュ・ギョンス:ヨム・ドンフン
ヨンテ:チョン・ジェウォン
コ・ヨンノク:イ・ギュウォン
イ・ホジョン
『国際市場で逢いましょう』(2014)、『ヒマラヤ〜地上8,000メートルの絆〜』(2015)などに出演してきた、韓国のトップスター ファン・ジョンミン。韓国では主演作の累計観客動員が1億人を超え“1億俳優”とも呼ばれている。そんな彼の最新作『人質 韓国トップスター誘拐事件』は、ファン・ジョンミン自身が誘拐事件の人質となるトップスターを実名で演じた前代未聞の“リアル”サスペンス。映画そのものが、ネット時代の世間を騒がす“緊急重大ニュース”。誘拐・監禁されたファン・ジョンミンの決死の脱出劇を描いた。
武器は“演技力”。犯人を騙まさなければ、死が待っている!
命がけの脱出劇の現場に、観客は立ち会う。
ソウルで新作映画の記者会見に出席したファン・ジョンミンが、その夜、自宅前で突然拉致された。正体不明の若者たちにからまれ、誘拐されたファン・ジョンミン。パイプ椅子に縛りつけられた状態で意識を取り戻した。そして、自分が高額の身代金目当ての一味に誘拐されたことを知った。激しい暴力の末、脅迫され、身代金5億ウォンの支払いを約束させられてしまった。そして、彼を誘拐した若者5人は、ゲームを楽しむようにソウルを震撼させている猟奇殺人事件を起こした凶悪な集団だった。その事件で、同じ部屋に監禁されている女性ソヨンがいた。彼女をを励ましながら脱出策を模索する。しかし冷酷な誘拐グループは、大規模な捜査を繰り広げる警察を翻弄して暴走する。
やがて、一か八かの賭けに打って出たジョンミンは、誰も想像できない熱演で、誘拐犯たちをだまして、クライマックスにもっていく。韓国中が、なんの証拠も目撃者もなく消息を絶ってしまったファン・ジョンミンの話題で持ち切りになり、警察、関係者が懸命に行方を捜す中、唯一の武器である卓越した演技力で犯人たちと対峙する。共演はドラマ「イカゲーム」のイ・ユミ、ドラマ「梨泰院クラス」のリュ・ギョンス。
ファン・ジョンミンは、この作品の中で、半分近く縛られたままの状態で出てくる。その中での、葛藤、脱出方法を考え、行動を起こすまでの緊張感。若者たちも容赦なくスターを殴ってボコボコにする。目も当てられない。希望なんかないようにも思える。それでも、拘束されたファン・ジョンミンは希望を捨てず、逃げ出すすきを狙う。犯人たちとの駆け引き。 “演技力”を武器に、誘拐犯だけでなく、観客まで騙し、命がけの脱出を試みる。彼の作品を観続けて来た人にとっては、過去の映画でのファン・ジョンミンのセリフが出てきたりして、ニヤリとさせてくれる。
ファン・ジョンミンの出演3作目の『ワイキキ・ブラザース』が、ツインがやっているJAIHO(アジア系作品のネット配信サービス)で21年ぶりに今年(2022)上映され、イム・スルレ監督にインタビューすることができた。その作品はファン・ジョンミンはじめ、パク・ヘイルなど、今をときめく俳優が何人か出ていて、俳優の登竜門のような映画だった。そして、イム・スルレ監督は、新作の『交渉』でもファン・ジョンミンを起用。コロナの影響で、まだ未公開のようだが、これにはヒョンビンも出演しているとのことなので、絶対、日本でも公開されると思う。興味ある方は下記参照記事を覗いてみてください(暁)。
『ワイキキ・ブラザース』イム・スルレ監督インタビュー
公式HP https://hitoziti-movie.com/
2021年 韓国 韓国語 /94 分 シネスコ
2021年製作/94分/G/韓国
提供:ツイン、 Hulu/ 配給:ツイン G
英題:Hostage: Missing Celebrity
劇場情報
前代未聞の緊急重大ニュース!
韓国のトップスター、ファン・ジョンミンさんが誘拐されました!
監督・脚本:ピル・カムソン
製作:リュ・スンワン
製作総指揮:キム・ウテク
撮影:チェ・ヨンファン
編集:キム・チャンジュ
音楽:キム・テソン
字幕翻訳:根本理恵
出演
ファン・ジョンミン:ファン・ジョンミン
チェ・ギワン:キム・ジェボム
イ・ユミ:パク・ソヨン
リュ・ギョンス:ヨム・ドンフン
ヨンテ:チョン・ジェウォン
コ・ヨンノク:イ・ギュウォン
イ・ホジョン
『国際市場で逢いましょう』(2014)、『ヒマラヤ〜地上8,000メートルの絆〜』(2015)などに出演してきた、韓国のトップスター ファン・ジョンミン。韓国では主演作の累計観客動員が1億人を超え“1億俳優”とも呼ばれている。そんな彼の最新作『人質 韓国トップスター誘拐事件』は、ファン・ジョンミン自身が誘拐事件の人質となるトップスターを実名で演じた前代未聞の“リアル”サスペンス。映画そのものが、ネット時代の世間を騒がす“緊急重大ニュース”。誘拐・監禁されたファン・ジョンミンの決死の脱出劇を描いた。
武器は“演技力”。犯人を騙まさなければ、死が待っている!
命がけの脱出劇の現場に、観客は立ち会う。
ソウルで新作映画の記者会見に出席したファン・ジョンミンが、その夜、自宅前で突然拉致された。正体不明の若者たちにからまれ、誘拐されたファン・ジョンミン。パイプ椅子に縛りつけられた状態で意識を取り戻した。そして、自分が高額の身代金目当ての一味に誘拐されたことを知った。激しい暴力の末、脅迫され、身代金5億ウォンの支払いを約束させられてしまった。そして、彼を誘拐した若者5人は、ゲームを楽しむようにソウルを震撼させている猟奇殺人事件を起こした凶悪な集団だった。その事件で、同じ部屋に監禁されている女性ソヨンがいた。彼女をを励ましながら脱出策を模索する。しかし冷酷な誘拐グループは、大規模な捜査を繰り広げる警察を翻弄して暴走する。
やがて、一か八かの賭けに打って出たジョンミンは、誰も想像できない熱演で、誘拐犯たちをだまして、クライマックスにもっていく。韓国中が、なんの証拠も目撃者もなく消息を絶ってしまったファン・ジョンミンの話題で持ち切りになり、警察、関係者が懸命に行方を捜す中、唯一の武器である卓越した演技力で犯人たちと対峙する。共演はドラマ「イカゲーム」のイ・ユミ、ドラマ「梨泰院クラス」のリュ・ギョンス。
ファン・ジョンミンは、この作品の中で、半分近く縛られたままの状態で出てくる。その中での、葛藤、脱出方法を考え、行動を起こすまでの緊張感。若者たちも容赦なくスターを殴ってボコボコにする。目も当てられない。希望なんかないようにも思える。それでも、拘束されたファン・ジョンミンは希望を捨てず、逃げ出すすきを狙う。犯人たちとの駆け引き。 “演技力”を武器に、誘拐犯だけでなく、観客まで騙し、命がけの脱出を試みる。彼の作品を観続けて来た人にとっては、過去の映画でのファン・ジョンミンのセリフが出てきたりして、ニヤリとさせてくれる。
ファン・ジョンミンの出演3作目の『ワイキキ・ブラザース』が、ツインがやっているJAIHO(アジア系作品のネット配信サービス)で21年ぶりに今年(2022)上映され、イム・スルレ監督にインタビューすることができた。その作品はファン・ジョンミンはじめ、パク・ヘイルなど、今をときめく俳優が何人か出ていて、俳優の登竜門のような映画だった。そして、イム・スルレ監督は、新作の『交渉』でもファン・ジョンミンを起用。コロナの影響で、まだ未公開のようだが、これにはヒョンビンも出演しているとのことなので、絶対、日本でも公開されると思う。興味ある方は下記参照記事を覗いてみてください(暁)。
『ワイキキ・ブラザース』イム・スルレ監督インタビュー
公式HP https://hitoziti-movie.com/
2021年 韓国 韓国語 /94 分 シネスコ
2021年製作/94分/G/韓国
提供:ツイン、 Hulu/ 配給:ツイン G
英題:Hostage: Missing Celebrity
ダイナマイト・ソウル・バンビ
監督・脚本・編集:松本卓也
プロデューサー:木全純治
撮影:岩崎登、とりやま先生、増本竜馬
音楽:マチーデフ、羽鳥惠介
出演:松本卓也 岡田貴寛 イグロヒデアキ 後藤龍馬 マチーデフ 島隆一 石上亮
工藤史子 志城璃磨 芝本智美 新井花菜 真千せとか(松本美樹) 木村仁 三浦ぴえろ 俊平 伊藤元昭 山下ケイジ
岩本聡 岩崎登 藤田尚弘 藤原未砂希 花 長尾光浩 美月ひなた 川井田育美 大木宏祐
山本久恵 稲波磨奈美 榊原真哉 渡辺信頼 荒木美紀 岡潤吾 佐藤淳
森恵美
インディペンデント映画業界で勢いのある若手監督の山本は、天野プロデューサーに見出され、低予算だが新作長編映画『ダイナマイト・ソウル・バンビ』制作の機会を得る。山本は仲間のスタッフ、キャストらと共に意気込み、プロチームと合同で撮影に挑む。その様子をメイキングカメラ担当の谷崎が記録していたーーー最低な監督と最高の仲間が選ぶ結末は?!
2017年10月に撮影、2019年から様々な国の映画祭にて選出&受賞!その後も、追加撮影、編集を続け2022年劇場公開版が完成。5年がかりでの劇場公開となりました。
冒頭は山本たちのこれまでの短編映像、新作『ダイナマイト・ソウル・バンビ』に挑む山本は気合は十分、いや気負いすぎかも。その後本編撮影とメイキングが同時進行するパラレルな世界での群像劇が展開します。映画にかけるスタッフ、応えようとするキャスト、熱くなるあまりに目が曇ってくる監督・・・集まってくる者もいれば、離れていく者もあり。映画業界あるあるかもしれないあれこれがギューっと詰め込まれています。
実際のスタッフも巻き込んで、自ら主演の山本監督を演じた松本監督が骨身を削って作り上げ、コロナ禍の中で翻弄されながら、満を持して劇場公開となった一本。みんなほんとに「映画作りが好き!」というのがひしひしと伝わってきます。
松本監督、涼しくなるのでもう少し身体にお肉をつけてください。(白)
ダイナマイト💥告知活動はこちら
2022年/日本/カラー/99分
製作:シネマ健康会
https://cineken.com/movie/dynamite-soul-bambi/
★2022年9月10日(土)~16日(金)新宿K’s cinemaにて1週間限定レイトショー!
連日、松本監督をはじめ、豪華キャスト&ゲストたちがおりなすトークイベントも予定!
🏆Rising Sun International Film Festivalコンペティション部門 最優秀日本映画賞 受賞
🏆プチョン国際ファンタスティック映画祭(韓国)ワールドファンタスティック・ブルー部門選出
🏆Asia Film Art International Film Festival(香港)【BEST FEATURE FILM】
🏆Buffalo International Film Festival(ニューヨーク) 選出
🏆Madrid Indie Film Festival (スペイン) 選出
🏆Symbiotic Film Festival(ウクライナ) 選出
🏆Kiez Berlin Film Festival(ドイツ)【Honorable Mention】
🏆ARFF ベルリン インターナショナルアワード (ドイツ) 【Semi-Finalist】
🏆ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 コアファンタ部門 選出
🏆函館港イルミナシオン映画祭 選出
🏆SeishoCinemaFes ベストロケーション賞 受賞
2022年09月03日
靴ひものロンド 原題:Lacci 英題:The Ties
監督・脚本・編集:ダニエーレ・ルケッティ(『ワン・モア・ライフ!』『ローマ法王になる日まで』
原作:ドメニコ・スタルノーネ「靴ひも」(関口英子訳、新潮クレスト・ブックス)
脚本:ドメニコ・スタルノーネ、フランチェスコ・ピッコロ
出演:アルバ・ロルヴァケル、ルイジ・ロ・カーショ、ラウラ・モランテ、シルヴィオ・オルランド
1980年初頭のナポリ。
アルドと妻ヴァンダは、娘アンナと息子サンドロと共に、集まりで皆が連なって踊るジェンカを楽しんで帰宅する。娘の髪を洗いながら、「嘘はよくない」と言い聞かせたアルド。妻に「別の女性と関係を持った。隠し事をしたくなかった」と打ち明ける。アルドはローマでラジオの朗読番組のホストを務めていて、相手は同僚の女性リディア。ナポリから通っていたが、妻に出ていってと言われ、ローマでリディアと暮らし始める。めくるめく楽しい日々だったが、あることがきっかけになって、アルドはまたヴァンダや子どもたちとナポリでやり直すことになる。
それから30年。40代になった子どもたちは独立し、アルドとヴァンダは二人で暮らしている。海辺で1週間過ごすため、飼い猫ラベスの世話を子どもたちに託して出かける。帰宅すると、家中が荒らされてモノが散乱し、猫のラベスが見当たらない・・・
冒頭に出てくるジェンカというフィンランド発祥の踊り。フィンランドで1960年代に作られた「レトカイェンッカ(Letkajenkka)」(列になって踊ろう)という歌が、日本では、「レット・キス」「レッツ・キス」として流行りました。前の人の肩に手を乗せて、皆が連なって踊るジェンカは、人と人との触れ合いや協力の大切さを感じさせてくれます。
そして、本作のタイトルになっている「靴ひも」。週末に久しぶりに会った子どもたちと行ったカフェで、娘アンナが弟の靴ひもの結び方がほかの人と違って、父親と同じだと指摘します。アルドが子どもたちに靴ひもを結んで見せるのですが、確かに普通じゃないです。サンドロは教えられた訳じゃないけれど、見よう見真似で父親と同じ結び方をしていたのですね。それは、靴ひもの結び方だけじゃなくて、生き方そのものにも言えて、子どもたちは親を見て育つのだと感じさせられました。浮気や別居と、いさかいの絶えない両親を見て育った二人がどんな大人になったのか・・・ 反面教師という場合もあるので、一概には言えませんが、何かしらの影響があるのは確かです。
老いたアルドが語る言葉にうん蓄がありました。
「人生で学んだのは、決して腹を立てないこと」
「夫婦を続けるには、あまり話さないこと。言葉を飲み込むのが肝心」
すぐに激情する妻と暮らす処世術ですが、これは私たちにも応用できそうです。
ダニエーレ・ルケッティ監督には、『ローマ法王になる日まで』が2017年に公開された折に、インタビューしましたが、「人生、何度でもやりなおすことができる!」という言葉が心に残っています。
『ワン・モア・ライフ!』も、まさに人生やり直しのチャンスを描いたものでした。
『靴ひものロンド』では、家中を荒らされたアルドとヴァンダは、その後、どんな人生を歩むのでしょう。アルドは、13歳の時に書いたものも大事に保存していて、家には本や紙が山積みです。それは私も同じで、何か(地震や火事??)を機に、思い切って捨て去って、新たな人生を歩めればいいなぁ~と思う次第です。(咲)
第77回ヴェネチア国際映画祭 オープニング作品
2020年/イタリア/イタリア語/100分/カラー/シネマスコープ
字幕:関口英子
配給:樂舎
後援:イタリア大使館、特別協力:イタリア文化会館
公式サイト:https://kutsuhimonorondo.jp/
★2022年9月9日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
私を判ってくれない
監督・脚本・編集:近藤有希 水落拓平
プロデューサー:小楠雄士
撮影:小倉和彦
出演:平岡亜紀(高畑城子)、花島希美(市村由記乃)、鈴木卓爾(由記乃の父)、今井隆文、西元麻子
東京から故郷の島、鹿児島県長島町へ突然帰郷した城子。彼女は3年前に長島町を舞台にした映画で主演デビューをするはずが、制作が頓挫し姿をくらましていた過去があった。島には映画制作にお金を出して「制作費詐欺事件」として城子を恨んでいる人もいて、みんなの注目を集めることになった。
一方、生まれてこの方30年以上島を出たことがない由記乃は、両親と妹と今も実家で暮らしている。周囲からは結婚をせかされるが、今の生活が心地よい。父の仕事の関係で、自称女優、実は無色の城子が突然同居することになり静かだった日々がかき乱される。言いたい放題、遠慮もない城子は仕事もなかなか見つからず、由記乃と同じ掃除の仕事をすることになった。城子は懲りずに再び「映画を撮る!」と宣言。静かな島にいくつもの小さな事件が巻き起こる。
鹿児島県長島町を舞台に、初めて制作された映画『夕陽のあと』(2019)。「長島町にふたたび映画を」という町民の想いから、2作目が生まれました。監督・脚本の近藤有希、水落拓平は『夕陽のあと』で助監督を務めています。何の前情報もなく試写を観て、同じ場面が繰り返されたときにあれれ?と思いました。ものごとは一方からだけでなく、ほかの視点からも見ると違ってくる、というのを2人の監督がやってみたんですね。
島の人たちには、城子は奔放でわがままにしか見えません。けれども城子なりの理由や意思があって、譲れないことは譲れないのです。由記乃は城子と真逆に、主張するより人に合わせるタイプですが、それもただ流されているわけではありません。お節介な人や自分の意見を聞こうとしない相手に、向き合う強さも秘めていました。誰もが知り合いの地域では、すぐに噂は拡がりますが深刻にせずさらりと描いています。長島は鹿児島県ですが、北の天草寄りにある大きな島です。『夕陽のあと』の越川道夫監督のお話を思い出しながら観ました。(白)
2022年/日本/カラー/ビスタ/100分
配給:フルモテルモ
(C)私を判ってくれない
https://nobody-getsme.com/
★2022年9月3日(土)より 鹿児島 ガーデンズシネマにて先行公開
9月9日(金)より 池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開
夏へのトンネル、さよならの出口
監督・脚本・絵コンテ・演出:田口智久
原作:八目迷
キャラクターデザイン・総作画監督:矢吹智美
撮影監督:星名工
音楽:富貴晴美
主題歌・挿入歌:「フィナーレ。」「プレロマンス」/eill
声の出演:鈴鹿央士(塔野カオル)、飯豊まりえ(花城あんず)、畠中 祐(加賀翔平)、小宮有紗(川崎小春)、照井春佳(浜本先生)、小山力也(カオルの父)、小林星蘭(塔野カレン)
とある田舎町で父親と二人暮らしの塔野カオル、高2男子。町には、そこに入ったら願いが叶うという都市伝説の「ウラシマトンネル」があった。心に傷を抱えているカオルはまるで呼ばれるようにその場所を見つけた。カオルにはどうしても取り戻したいものがあった。
カオルが傘を貸した花城あんずは、カオルのクラスに転入してきたが、初日からクラスメートと諍いを起こして浮いてしまう。あんずにも手に入れたいものがあり、カオルと協力してウラシマトンネルを調べることになった。2人は共同戦線を張る中で心を近づけていく。
SFを主軸にした「ボーイ・ミーツ・ガール」物語。デビュー以来ドラマに映画にと、活躍ぶりが頼もしい鈴鹿央士さん、飯豊まりえさんが声をあてて雰囲気をよく伝えていました。カオルがあんずと出逢うのは、海に面した無人駅。海をはるかに見渡せるホームのベンチで、2人が話すシーンは後からも出てきます。ほかの映画でもよくこの設定がありますね。
作品中重要なアイテムの携帯電話はガラケーで、画面の日付は2005年、少し前が舞台です。2人はこの携帯を駆使してウラシマトンネルと外とのずれを知ります。「ウラシマ」とついているのだから、トンネルがどういうものか推測してね。このあたりはクールで頭脳明晰なあんずが主導、カオルはとにかく走ります。カオルが取り戻したいもの、あんずの欲しかったものは何?それは手に入ったのでしょうか?あなたなら何を取り戻したいですか?
◎原作は八目迷(はちもくめい)さん、イラストはくっかさん。第13回小学館ライトノベル大賞「ガガガ賞+審査員特別賞」受賞。(白)
2022年/日本/カラー/83分
配給:ポニーキャニオン
(C)2022 八目迷・小学館/映画「夏へのトンネル、さよならの出口」製作委員会
公式サイト:https://natsuton.com/
公式 Twitter(twitter マーク):@natsuton_anime
★2022年9月9日(金)ロードショー
消えない虹
監督・脚本:島田伊智郎
撮影:西村博光
主題歌:「あの場所で」ハルカトミユキ
出演:内田周作(月野木薫)、猪爪尚紀(香川晃)、矢崎希菜(岡田茜)、吉本実憂、野村麻純、星川祐樹 (岡田隆二)
新聞記者の月野木薫は近々結婚する予定だ。友人の岡田はシングルファーザーで、薫は彼が留守のとき子どもたちの世話をしていた。結婚準備をしながら死んだ妹を思い出し、自分だけが幸せになっていいのかと後ろめたい気持ちがわいてくる。
ある日中学校で女生徒が転落死し、加害者は岡田の娘の茜とわかった。
香川晃は被害者の少女に兄のように慕われていた。彼は中学生のとき薫の妹を殺害してしまい、13歳だったので刑事罰を受けることのなかった加害少年だった。薫と晃は再会し、あれから停まってしまった時間が動き出す。
薫が動転する岡田に言う。「14 歳かどうかが重要なんです。刑法では 14 歳未満の少年少女には刑事責任能力がないとされているので刑罰の対象にならないんです……」14歳で思い出すのは、1997年の神戸連続児童殺傷事件です。世間を震え上がらせた犯人は、14歳の中学生。この事件をきっかけとして、2000年にそれまでの少年法が改正され、刑事処分可能な年齢を16歳以上から14歳以上に引き下げられたのでした。
これが監督第1作の島田監督は、その後も起きた少年少女の事件について、少年法により罪を償い、償われる機会を失った人々はどう生きれば良いのか?いつになったら人は許されるのか?どうすれば許すことが出来るのか?と考えたそうです。薫と晃がずいぶんと近場にいて、事件を機に再会し、互いに当時と逆の立場になります。愛する人を亡くせば、それが理不尽であればあるほど、悲しみと怒りは心の奥底に沈んで消えることがありません。本作は加害者、被害者どちらについても描いて、タネを一つ蒔かれた感じがしています。(白)
2022年/日本/106分/PG12
配給:アークエンタテインメント
配給協力:クロスメディア フューレック
https://kienainiji.com/
https://twitter.com/kienainijimovie
★2022年9月3日(土)K's cinema他全国順次ロードショー
2022年09月01日
デリシュ! 原題:DÉLICIEUX
©︎2020 NORD-OUEST FILMS―SND GROUE M6ーFRANCE 3 CINÉMA―AUVERGNE-RHôNE-ALPES CINÉMA―ALTÉMIS PRODUCTIONS
監督:エリック・ベナール
脚本:エリック・ベナール、ニコラ・ブークリエフ
撮影:ジャン=マリー・ドルージュ
音楽:クリストフ・ジュリアン
出演:グレゴリー・ガドゥボワ、イザベル・カレ、バンジャマン・ラベルネ、ギヨーム・ドゥ・トンケデック
フランス革命の息吹の中で誕生した庶民も集えるレストランの物語
1789年、革命直前のフランス。
シャンフォール公爵(バンジャマン・ラベルネ)に仕える宮廷料理人マンスロン(グレゴリー・ガドゥボア)。貴族の集う宴に、この日、マンスロンは創作料理を出す。従来、料理人は既存のレシピのものしか出してはいけないのだ。公爵が新作料理についてマンスロンに説明を求める。「名はデリシュ。中はジャガイモとトリュフ」と聞いて、ある貴族が、「地下のものを使うとは! そんなものは豚に食わせとけ」というと皆が大笑い。豚の真似をする者もいる。マンスロンは公爵に解任され、息子を連れて旅籠を営む実家に帰る。もう料理はしないと決めたが、ある日、ルイーズ(イザベル・カレ)という女性がやって来て、弟子にしてほしいという。料理は男のものと断るが、レシピも読めると居座る。初めは煙たがっていたマンスロンだったが、彼女の料理への一途な思いに触れるうちに、自身も料理への情熱を取り戻す。息子のアイディアで、広間に椅子とテーブルを並べ、どんな身分の人も食事ができる場にする。こうして誕生した「レストラン」は評判を呼び、公爵もその存在を知ることになる・・・
18世紀のフランスでは、外食の機会は稀で、旅籠などで料理は出していたものの、いわゆる「レストラン」はなかったと知り、ちょっとびっくりしました。
宮廷料理人がレシピにない料理を創作することもできなかったことにも驚きましたが、さらに、地中で出来た作物は、ハンセン病などの病気をもたらすと教会が断定し、ジャガイモやトリュフは悪魔の産物とされていたことには驚愕すら覚えました。空中にいる要素が多ければ多いほど神聖な存在で、鳩などは完璧。地面に近い牛はちょっと劣るのだそうです。
本作では、男の世界だった料理人に挑むルイーズという女性の物語がもう一つの柱になっています。彼女がなぜ料理人に弟子入りしたのか、ぜひ劇場でご確認ください。(咲)
2020年/フランス・ベルギー/フランス語/カラー/シネマスコープ/5.1ch/112分
配給:彩プロ
公式サイト:https://delicieux.ayapro.ne.jp/
★2022年9月2日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国にて公開