2022年08月18日
新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり 原題:Une saison (tres) particulière
監督:プリシラ・ピザート
出演:パリ・オペラ座バレエ、アマンディーヌ・アルビッソン、レオノール・ボラック、ヴァランティーヌ・コラサント、ドロテ・ジルベール、リュドミラ・パリエロ、パク・セウン、マチュー・ガニオ、マチアス・エイマン、ジェルマン・ルーヴェ、ユーゴ・マルシャン、ポール・マルク、アレクサンダー・ネーフ(パリ・オペラ座総裁)、オレリー・デュポン(バレエ団芸術監督)
350余年前、ルイ14世によって設立されたパリ・オペラ座。フランス文化の象徴でもあるパリ・オペラ座では、世界中の観客に向けて180回以上の公演が毎年開催されてきた。
世界中に蔓延したコロナにより、2020年3月12日、パリ・オペラ座はいち早く閉鎖される。ダンサーたちは3か月の自宅待機を余儀なくされる。6月15日、ようやくクラスレッスンが再開。復帰公演として、年末に“オペラ座の宝”といわれる演目、ヌレエフ振付の超大作「ラ・バヤデール」が決まる。マスクを着け、ソーシャルディスタンスを保ちながら練習に励む154人のダンサーたち。11月末、ようやく舞台リハーサル。広いところで踊るのは久しぶりだ。開幕目前に再び感染が拡大し、無観客配信が決まる。初日が千秋楽となり、観客の拍手のないまま舞台の幕が下りる・・・
これまで多くのドキュメンタリーを手掛けてきたプリシラ・ピザート監督は、バレエ団芸術監督のオレリー・デュポンより、クラスとリハーサル、初日とその舞台裏に至るまでの撮影の許可を得て、ダンサーたちの葛藤の日々を追いました。
「1日休めば自分が気づき、2日休めば教師が気づく。3日休めば観客が気づく―」と言われるダンサーたち。しかも、42歳でバレエ団との契約が終了する彼らにとって、3か月の自宅待機はいかに過酷な試練だったことでしょう。思い起こせば、私自身、2020年春の2か月、自宅に籠っていたら、足がむくんでしまいました。ダンサーの方たちが家で何もしなかったはずはありませんが・・・
そして、復帰公演が開催目前に無観客配信になったことは、観客からの反応が大きな原動力のダンサーたちにとって、どれほどつらいことだったでしょう。
私はバレエの世界には疎いのですが、本作は、コロナ禍を過ごした世界中の人にとって共感できるものだと思いました。
ヌレエフ振付の「ラ・バヤデール」についても、まったくなにも知らなかったのですが、ペルシア風のモスクのような華麗な舞台装置に惹きつけられました。第一幕 インド人役と乙女役が出てきて、どんな物語なのか興味津々。
舞台は古代インド。戦士ソロルと寺院の舞姫(バヤデール)であるニキヤはひそかに愛し合っていて、結婚の誓いも立てていたのですが、ラジャが若き英雄ソロルを気に入り娘ガムザッティと結婚させようとし、やがてソロルもニキヤを裏切りガムザッティと婚約する・・・ (物語の顛末は公式サイトでどうぞ)
古代インドが舞台なのに、インドのイスラーム王朝ムガル風というよりペルシア風のイスラーム建築が舞台の背景いっぱいに描かれていて、違和感。(ムガル建築はペルシア建築の影響を受けているのですが微妙に違う)
「古代インドを舞台にした西欧人好みのエキゾティシズムが人気を博した」と、本作の公式サイトに書かれていて、こうした時代考証の間違いも、さもありなんと思った次第です。(咲)
2021年/フランス/カラー/ビスタ/ステレオ/73分
提供:dbi.inc. EX NIHILO
配給:ギャガ
公式サイト:https://www.gaga.ne.jp/parisopera_unusual
★2022年8月19日(金)より、Bunkamuraル・シネマ他にて全国順次公開
復讐は私にまかせて 原題:Seperti Dendam Rindu Harus Dibayar Tuntas 英題:Vengeance is Mine, All Others Pay Cash
Ⓒ 2021 PALARI FILMS. PHOENIX FILMS. NATASHA SIDHARTA. KANINGA PICTURES. MATCH FACTORY PRODUCTIONS GMBH. BOMBERO INTERNATIONAL GMBH. ALL RIGHTS RESERVED
監督&脚本:エドウィン(『動物園からのポストカード』)
撮影:芦澤明子(わが母の記』『トウキョウソナタ』『海を駆ける』)
出演: マルティーノ・リオ ラディア・シェリル ラトゥ・フェリーシャほか
1989年、インドネシアのボジョンソアン地区。無鉄砲な若者アジョ・カウィル(マル ティーノ・リオ)はケンカとバイクレースに明け暮れている。そんな彼は勃起不全という悩みを抱えていて、苛立ちのはけ口として、悪名高き実業家のレベを叩きのめして やろうと思い立つ。採石場に乗り込むと、レベに雇われた女ボディガードのイトゥン(ラディア・シェ リル)が立ちはだかる。華奢ながら、伝統武術シラットの使い手であるイトゥンは、アジョと互角に闘う。最後には両者共にノックダウン。それがふたりの運命的な恋の始まりだった。
不能だから結婚できないというアジョに、だからこそ結婚するのよと積極的なイトゥン。盛大な結婚披露パーティーを開き、慎ましくも幸福な新婚生活が始まる。アジョは、ずっと心のうちに隠していた1983年6月の日食の日の出来事をイトゥンに打ち明ける。まだ少年だったアジョは友人と二人で、ロナ・メラーという未亡人がふたり組の男に襲われているのを家の外から覗き込む。それが暴行犯に見つかり、自分たちも性的虐待を受けてしまったのだ。この話を聞いたイトゥンは、この時のことがトラウマになってアジョは不能なのだと、暴行魔たちへの復讐を決意する。幼なじみのブディ(レザ・ラハディアン)に協力を求めるが、イ トゥンに横恋慕していたブディは、彼女の弱みにつけ込んで誘惑し、イトゥンは、ブディとの子を身ごもってしまう。「尻軽女!」と叫んで家を飛び出すアジョ。裏社会の実力者ゲンブル(ピエト・パガオ)から殺しの仕事を請け負い、刑務所送りとなる。イトゥンもブディを殺害した罪で投獄される。
3年後、刑期を終えたアジョとイトゥン。再会を果たした二人の前に、ジェリタ(ラトゥ・フェリーシャ)という謎めいた女が現れる…
主人公のアジョが勃起不全に悩んでいるという設定には、インドネシア社会に今も根強く残っているというマチズモ(男性優位主義、女性蔑視)への批判がこめられているとのこと。いじいじしたアジョに対し、武術にたけたイトゥンは言うこともカラッとして、実にカッコいいです。
冒頭、「天国は母の足元にある」という標語が書かれた看板が映し出されます。その後も、看板や、トラックの後ろなどに、大胆な絵に言葉が添えられたものが、効果的に出てきて、物語の流れの中で、この言葉の意味するところは?と、つい考えてしまいました。
ねっとりとしたインドネシアの地で繰り広げられる愛と復讐の物語にくらくら。(咲)
デジタルカメラが主流の時代に、あえてアナログなフィルムでの撮影を切望したエドウィン監督。撮影を黒沢清監督、深田晃司監督など数々の映画監督とタッグを組んできたカメラマンの第一人者芦澤明子さんに依頼し、コダックの16ミリフィルムで撮影。ざらついた独特の質感が、愛と復讐のドラマをきわだたせています。
☆ご参考
『ここに、幸あり』撮影監督 芦澤明子さんインタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2003/sachiari/index.html
第74回ロカルノ国際映画祭金豹賞受賞
2021年/インドネシア、シンガポール、ドイツ/インドネシア語/ビスタ/5.1ch/カラー/PG-12
配給:JAIHO
公式サイト:https://fukushunomegami.com/
★2022年8月20日(土) シアター・イメージフォーラム他にて全国順次ロードショー
2015年9月、『動物園からのポストカード』がアジアフォーカス福岡国際映画祭で上映された折に来日したエドウィン監督とニコラス・サプトラ
ニコラス・サプトラに会えた! 今年も充実のアジアフォーカスの旅でした (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/427092716.html