2022年08月14日

みんなのヴァカンス 原題:À l’abordage

2022年8月20日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開
劇場情報 
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©2020 – Geko Films – ARTE France

夏の物語、かなわぬ恋、さまざまなバックグラウンドを持つ若者たちの混沌とした友情

監督:ギヨーム・ブラック
プロデューサー:グレゴワール・ドゥバイイ
脚本:ギヨーム・ブラック、カトリーヌ・パイエ
撮影:アラン・ギシャウア 録音:エマニュエル・ボナ 
助監督:ギレーム・アメラン
製作総指揮:トマ・アキム 映像編集:エロイーズ・ペロケ 
音響編集:ヴァンサン・ヴァトゥ
ミキシング:ヴァンサン・ヴェルドゥ 
美術・衣装:マリーヌ・ガリアノ
出演:エリック・ナンチュアング、サリフ・シセ、エドゥアール・シュルピス、アスマ・メサウデンヌ、アナ・ブラゴジェヴィッチ、リュシー・ガロ、マルタン・メニエ、ニコラ・ピエトリ、セシル・フイエ、ジョルダン・レズギ、イリナ・ブラック・ラペルーザ、マリ=アンヌ・ゲラン

これまでも、もてそうもない男を登場させて、もてた男にしてしまう作品を作ってきたギヨーム・ブラック監督の最新作。
今回も、女の子、もてない男、水遊び、サイクリング、嫉妬、諍いなどをモチーフに、夏を謳歌する若者たちの物語を展開。南フランスのきらびやかな風景の中、不器用で愛おしいヴァカンスが、にぎやかに映し出されていく。

夏の夜、セーヌ川のほとりはカーニバルのようにたくさんの人々が集い、そこでフェリックスはアルマに出会い、一晩の恋、夢のような時間を過ごした。翌朝、アルマは家族とともにヴァカンスへ旅立つ。彼女を忘れられない思い込みの強いフェリックスは、彼女も自分のことを好きなはずと勘違いし、親友のシェリフをさそい、事情を知らない、「相乗りアプリ」で知り合ったエドゥアールを道連れに、彼女を追って南フランスの田舎町ディーに乗りこむ。自分勝手なフェリックスと、生真面目なエドゥアールと心優しいシェリフ。二人はフェリックスに振り回されながらも、アルマのいる高原の避暑地?に向かう。ひょんなことから、付き合わされてしまったエドゥアールは、自分の目的地にたどりつけないことになってしまったマザーコンプレックスのお坊ちゃん。しかたなく、二人と行動を共にすることで、母親の呪縛から逃れていく。そして損な役回りのシェリフかと思ったら、彼もこの地で知り合った女性と、ヴァカンスの時を過ごしている。
サイクリング、水遊び、恋人たちのささやき。出会いとすれちがい、友情の芽生え…。3人のヴァカンスは思わぬ方向へ。
ロケ地はパリからおよそ600km南に離れたドローム県のディーという小さな町。撮影スタッフは12人という少人数。脚本は物語の大筋のみにとどめ、その時の光の変化や撮影現場の雰囲気を作品に取り込めるように、撮影での即興の余地を残し、町中を俳優たちと歩いて移動して撮影されたという。

『みんなのヴァカンス』は、『7月の物語』(17)に続いて、ギヨーム・ブラック監督がフランス国立高等演劇学校の学生たちと製作。俳優は長篇映画に出演するのがはじめての学生たち。スタッフもできるだけ若い人、長編映画に参加したことが少ない人を集めたそう。製作にフランス・ドイツ共同出資のテレビ局であるアルテが加わって、テレビ放映用に企画された作品だったが、高いクオリティーが評価され、第70回ベルリン国際映画祭パノラマ部門に選出、国際映画批評家連盟賞特別賞を受賞し、2021年にフランスで劇場公開された。

この監督のモチーフは、もてない男、あるいはもてそうもない男を登場させ、そこから最後、ハッピーエンドにもっていく、はっきり言って、男にとって都合のいい物語。女性からはそんなことありえないと思えるような物語の展開になるんだけど、それが憎めない話になっているところがうまいところ。今回も、勝手に両想いだと思っている思い込みの強いフェリックスを登場させ、お調子者の迷惑な男で、最初は観ていてイライラしてしまった。そこに心優しいシェリフという親友を登場させてバランスをとっている。この二人は黒人の青年。そして、母親のところに行こうとして(実家に帰ろうとしていたのかも)、「相乗りアプリ」で女性でも乗せようと思っていたのに、思わぬ二人の黒人の男たちが乗り込んで来て、自分が行こうと思っていたのと違う場所にたどり着いてしまい、迷惑千万なことになってしまうエドゥアールという白人の青年が登場するのだけど、彼にとってはマザーコンプレックスからの解放にもつながり、良かったのかも。そして、子守ばかりして、一番損な役回りと思ったシェリフが、最後、思わぬ幸運をつかむ。でも、これって、やっぱり男にとって都合のいい話だよね。それともフランスの若い人の間では自然の流れ?(暁)。

公式HP
プロダクション: Geko Films  
共同プロダクション: ARTE France
2020年 / フランス / フランス語
カラー / 100分 / 1.66 : 1 / 5.1ch / DCP
字幕翻訳:高部義之 / 配給:エタンチェ  
posted by akemi at 20:30| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

失われた時の中で Long Time Passing 英題「Long Time Passing」

2022年8月20日より ポレポレ東中野ほか全国順次公開
上映情報 
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(C)2022 Masako Sakata

写真家だった夫の死をきっかけにカメラを持ち、ベトナムに向かった妻
それから20年。枯葉剤被害者の現実の中に見出したものは

監督・撮影:坂田雅子
編集・構成:大重裕二
サウンドデザイン:小川武
音楽:難波正司
写真提供:グレッグ・デイビス フィリップ・ジョンズ・グリフィス ジョエル・サケット
コーディネーター・仏語翻訳:飛幡祐規

夫の死により、思いがけず映画監督として人生を歩むことになった坂田雅子さん。『花はどこへいった』(2007)『沈黙の春を生きて』(2011)など、ベトナムの枯葉剤被害をテーマにした作品を20年にわたって撮り続けてきた坂田雅子監督の最新作。
ベトナム帰還兵で、写真家だった夫のグレッグ・デイビスが2003年4月19日、胃の不調、足の腫れを訴え入院。5月4日、肝臓がんにより逝去。突然の死を遂げた原因が、ベトナム戦争時の枯葉剤にあるのではないかと聞かされ、夫の身に起きたことを知りたいと思い、ベトナムで取材を始めた。そこで見たのは、戦後30年を過ぎてもなお枯葉剤の影響で重い障害を持って生まれてくる子どもたち。そして、その子たちを愛しみ育てる家族の姿だった。
それからおよそ20年。ベトナムはめざましい経済発展を遂げたが、枯葉剤被害者とその家族は取り残されている。今なお、枯葉剤の影響で重い障害を持って生まれてくる子どもたち。そのケアを担い、家計を支えるために進学を断念せざる得ない兄弟、姉妹たち。無医村を周り、支援活動を続ける医師。アメリカ政府と枯葉剤を製造した企業に対する裁判を起こした元解放戦線の兵士だったジャーナリスト。時間の経過とともに明らかになる、戦争が奪ったものと奪えなかったもの。カメラは癒えることのない戦争の傷痕に向き合い続ける⼈々の姿を記録する。

坂田雅子さんは夫の死後、映像制作を⼀から学び、これまでに枯葉剤や核をテーマにしたドキュメンタリーを作ってきた。世界をめぐり坂田監督が描いてきたのは、戦争や原発事故などに翻弄されながらも、現実を受け止め、時に抗って、その中で生きる人々の姿。それらの人々との出会いの中で、坂田監督は 2010 年にベトナムの枯葉剤被害者支援のために「希望の種」という奨学金制度を設立、子どもたちの教育を支えてきた。「希望の種」の詳細についてはこちらで。

坂田雅子監督がこの作品を作ったいきさつを公式HPに載せています。大きな力がない私たちにもできることはあると語っています。ぜひ、皆さんもこの作品を観て、自分にできることから始めましょう。
<夫の死が枯葉剤のせいかもしれないと聞き、まさに藁にもすがるような気持ちで、枯葉剤について調べ、ドキュメンタリー映画を作ろうと思い立った時、私は55歳でした。何の経験もないところから始まった映画作りでした。
今回の『失われた時の中で』は枯葉剤をテーマにした3作目になります。続編を作ろうと意図していたわけではないのですが、ベトナムを訪れるたびに出会う被害者たちの声がこの映画を作らせたのです。
グレッグは彼の死によって、私に新しい生を与えてくれたのかもしれません。いくつかの小さなドキュメンタリーを作ってわかったことは、小さな私にもできることがある。いや、組織に頼らない小さな私だからこそできることがある、ということです。
ベトナム帰還米兵の「戦争はいつまでも終わらない。だから始めてはいけないのだ」という言葉が響き続けます。戦争や、国際政治など世界の大きな出来事の前につい立ちすくんでしまいますが、諦めずに一人一人がもち堪えるところに希望はあるのだと思います>

高校時代の1968~70年頃、日本でもベトナム反戦運動が盛んになり、私もデモに何度も参加した。そのことが、今の私の生き方に大きく影響している。そして、今もベトナムとベトナムの人々のことが気になる。
枯葉剤の影響については、中村悟郎さんがずっと写真で伝えてきたが、この作品の中でも、グレッグさんが中村さんの枯葉剤の影響を伝える写真展に行き、展覧会の後、中村さんに自身のベトナムでの枯葉剤体験について相談するシーンが出てきた。グレッグさんは、中村さんの写真展を見て、何らかの影響が自分にも出てくると予想していたのかもしれない。

*中村 梧郎 オフィシャルサイト
去年(2021)、日本公開されたイギル・ボラ監督の『記憶の戦争』という作品では、韓国軍がベトナムに参戦し、民間人を虐殺した話を扱っていたが、この作品を作るきっかけになったのが、監督の祖父がベトナム戦争に参戦し、枯葉剤の後遺症で亡くなったということもひとつのきっかけと語っている。監督にインタビューした時に、韓国軍は30万人近く参戦し、枯葉剤の被害者同盟の会員が14万人もいることを知った。これにも驚き。約半分の兵士が枯葉剤の影響を受けている。アメリカ軍は約55万人が参戦しているけど、いったいどのくらいの被害者がいるのだろう。アメリカ軍は友軍にも情報を流していなかったのだろうか。アメリカ、ベトナムだけでなく、ベトナムに参戦した他の国にも被害者はきっといるに違いない。ベトナム戦争が終了して47年、枯葉剤の被害はまだまだ続いている(暁)。
『記憶の戦争』イギル・ボラ監督インタビュー記事

2022年製作/60分/日本
配給:リガード
公式HP

シネマジャーナルHP 特別記事
『失われた時の中で Long Time Passing』坂田雅子監督インタビュー

『失われた時の中で Long Time Passing』上映、イベント情報

●あいち国際女性映画祭
9月9日(金)10:00 ウィルあいち大会議室

劇場イベント情報
●ポレポレ東中野
8月20日(土)10:00と11:50の回上映後、坂田雅子監督による初日舞台挨拶
8月21日(日)10:00の回上映後、坂田雅子監督・中村梧郎さん(フォトジャーナリスト)によるトーク
8月26日(金)10:00の回上映後、坂田雅子監督・小室等さん(フォークシンガー)によるトーク
8月27日(土)10:00の回上映後、坂田雅子監督・加藤登紀子さん(歌手)によるトーク
8月28日(日)10:00の回上映後、坂田雅子監督・渡辺一枝さん(作家)によるトーク
9月1日(木)10:00の回上映後、坂田雅子監督・大石芳野さん(写真家)によるトーク

●第七藝術劇場
9月3日(土)時間調整中|坂田雅子監督による初日舞台挨拶
9月4日(日)時間調整中|坂田雅子監督・桂良太郎さん(日越大学(ハノイ国家大学)客員研究員)によるトーク

●シネマテークたかさき
9月17日(土)、18日(日)時間調整中|坂田雅子監督による舞台挨拶

●京都シネマ
9月19日(月・祝)時間調整中|坂田雅子監督・アイリーン・美緒子・スミスさん(環境ジャーナリスト)によるトーク
9月28日(水)時間調整中|坂田雅子監督・山極壽一さん(総合地球環境学研究所 所長/人類学者)によるトーク

●シネマスコーレ
9月24日(土)時間調整中|坂田雅子監督による初日舞台挨拶

●前橋シネマハウス
10月1日(土)、2(日)時間調整中|坂田雅子監督による舞台挨拶
posted by akemi at 19:42| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

時代革命  原題:時代革命 Revolution of Our Times

2022年8月13日 渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
劇場情報
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(C) Haven Productions Ltd.

牙をむき出した権力に、自由は傷だらけになって立ち向かう

監督:周冠威(キウイ・チョウ)

2019年の「逃亡犯条例」改正案は、香港を中国の権威主義的支配下に置き、香港人の自由を制約するものだった。香港の人々はこの逃亡犯条例改正案に反対して立ち上がり、大規模デモが起きた。法案が提出されて以降の香港市民の抵抗運動を、その歴史的背景を入れながら、最前線で戦う若者たちの姿を描いた。
10代~30代の男女を中心に多くの人がデモに参加。それに70代と思われる陳爺さんも、若者に負けないくらい元気に参加。飛び交う催涙弾、ゴム弾、火炎瓶。壮絶な運動の約180日間を多面的に描いた本作。
デモの参加者たちは「逃亡犯条例改正案の完全撤回」「普通選挙の導入」など五大要求を掲げ、6月16日には約200万人(主催側発表)に膨れ上がった。これは香港の人口の約3割という人数。警察との衝突は徐々に激しさを増す。それどころか元朗駅では黒社会の人たちがデモ参加者を襲うという場面も出てきた。まるで香港映画さながら。青年が警官に銃撃されるショッキングな場面も映し出される。
あの時、香港で何があったのか、市民は何と戦っていたのか、香港の事情に詳しくない人へも整理してわかりやすく組み立てている。そして2020年、政府はより厳しい「国家安全法」を立ち上げ、これまでのようにデモをすることすらできなくなった。
監督は『十年』の中で、『焼身自殺者』を監督した周冠威(キウィ・チョウ)で、他のスタッフ名は安全上の理由で明かされていない。
2022年5月8日に行われた香港行政長官選挙に警察出身の李家超氏一人だけが中国政府の後押しで立候補。当選した。ますます香港市民への締め付けが厳しくなるだろう。香港返還時の一国二制度の約束はないに等しい。

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キウィ・チョウ監督 上映後のリモートトークで

香港の民主化運動を追うドキュメンタリー。去年(2021)のフィルメックスでは妨害を避けるため、直前まで題名を伏せて特別上映され、満席だった。
リーダー不在だが、SNSを駆使してデモ隊は、集合、離散を繰り返す。立法会、地下鉄駅、香港中文大学、香港理工大学など、運動は大きなうねりを巻き起こし、「光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、時代の革命だ)」「香港人、加油(がんばれ)」と声を上げて抗議した。しかし、増える逮捕者。「ささやかな我が命を200万人に捧ぐ」という遺書を残し自殺する者も。
これまで、こういうデモの映像は、細々とでも自主上映できたが、今は上映することができなくなってしまった。日本で公開されることで、香港の実情が忘れられないように、映像が残り、応援になっていくことを願う。
この映画と共に、香港の人たちの抵抗の歴史を描いた『Blue Island 憂鬱之島』(チャン・ジーウン監督)という作品も公開されている。まだ観ていない方はぜひ両作品を観て、目に焼き付けてください(暁)。


公式HP
2021年製作/158分/G/香港
配給:太秦

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シネマジャーナルHP 特別記事
『時代革命』 キウィ・チョウ監督インタビュー



posted by akemi at 16:57| Comment(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする