2022年08月31日
この子は邪悪
監督・脚本:片岡翔
撮影:花村也寸志
音楽:ゲスの極み乙女
出演:南沙良 (窪花)、大西流星(なにわ男子)(四井純)、桜井ユキ (窪繭子)、渡辺さくら、桜木梨奈、稲川実代子、二ノ宮隆太郎、玉木宏(窪司朗)
心理療法室を営む窪司朗の娘である花はかつて一家で交通事故に遭い、司朗は脚に障害が残り、母は植物状態に、妹は顔にひどい火傷を負った。その事故で心に傷を負った花のもとに、自身の母の心神喪失の原因を探る少年・四井純が訪れる。花は純の母が診察に訪れていたころ一緒に遊んだことがあった。2人は次第に心を通わせていくが、ある日突然、司朗が 5 年間の植物状態から目を覚ました母を連れて家に帰ってくる。司朗は「奇跡が起きた」と久しぶりの家族団らんを喜ぶが、花は違和感を覚える。「この人、お母さんじゃないー」。
花は、自分が言い出したお出かけの結果、家族の中で一人だけ無事だったことに強い罪悪感を持っています。南沙良さんの澄んだ儚げなところがぴったり。笑顔で家族を支える父を玉木宏さん、ドラマ「桜の塔」では冷徹な警視、かと思えば極道も似合います。本作では「怪し×妖し」。
何度も意識がない母を見舞っていただろうとか、妹の月がいくら顔の火傷がひどいとはいえ、家族の前でも仮面をつけるのは??とか、疑問はあるものの、奇妙な展開に飛んでいってしまいました。あの奇病の原因がわかる後半、演じていた二ノ宮隆太郎監督(本作では俳優)はじめみんなの奇妙な動きがやっと結びつきます。タイトルの『この子は邪悪』のこの子って誰のこと?という疑問も最後に氷解します。画面をよく観ていてください。
◎TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2017 準グランプリ作品企画(白)
2022年/日本/カラー/シネスコ/100分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
© 2022「この子は邪悪」製作委員会
https://happinet-phantom.com/konokohajyaaku
Twitter:@konokohajyaaku(https://twitter.com/konokohajyaaku)
Instagram @konokohajyaaku(https://www.instagram.com/konokohajyaaku)
★2022年9月1日(木)より新宿バルト9他にて全国ロードショー
2022年08月28日
紅花の守人 いのちを染める
9月3日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー 劇場情報
監督:佐藤広一(『世界一と言われた映画館』『丸八やたら漬 Komian』)
プロデューサー:髙橋卓也(『よみがえりのレシピ』『無音の叫び声』)
撮影:佐藤広一 須貝孝
録音・整音:半田和巳 比留川純夫
音楽:小関佳宏
ナレーション:今井美樹
唄:朝倉さや
出演者
片桐 いさ(山形市出羽地区七浦で紅花栽培60年。素手による手摘みを続けている)
長瀬 正美・長瀬 ひろこ(米・野菜・紅花等を息子夫婦と家族4人で営む。23年前から地元小学校で食育学習の手伝いをしている)
新田 克比古・新田 翠(80年より天然染料研究の第一人者吉岡常雄氏に師事。83年「新田」にて紅花染と草木染に着手)
青木 正明(天然色工房 tezomeya 店主。古代染色研究家である前田雨城氏の作品に感銘を受け、古代染色研究のため独立)
大山 るり子(紅花染め・紅花料理インストラクター)
中西 喜久(梅古庵 烏梅職人9代目 国選定保存技術『烏梅製造』保持者)
中西 謙介(梅古庵 烏梅職人10代目)
室町時代に中近東からシルクロードを経て日本に伝わってきた紅花。悠久の旅の末、山形の地にたどりつき、今もその花を育てる人たちがいます。皇室や公家などに珍重され、庶民には手の届かなかった時代もあった。第二次世界大戦中は国によって栽培を禁止され、戦後は安価な化学染料の台頭で、継承の危機に瀕していた。しかし、山形の農村の片隅で密かに守り継がれていたことによって、今では世界的な農業遺産として注目され始めている。手間暇惜しまず栽培され、育てられた紅花からは、極くわずかな紅色しかとれない。それなのに、紅花はなぜ愛され続けているのか。
はるか昔、長い旅をして辿り着いた紅花の物語。人々がなぜ紅色に魅了され、あの美しい紅色の虜になるのか。紅花を守り、その歴史を紡ぎ続ける方々の紅色にかける姿がそれを教えてくれる。伝統に引き継がれた美しい紅に秘められた物語。
利便性から遠く離れた紅花文化を、栽培から染めに至るまで、慈しみながら守り継ぐ人々の姿を4年の歳月をかけて記録した紅花を巡る長編ドキュメンタリー。
ナレーションは『おもひでぽろぽろ』でタエ子役の声を担当した歌手・女優の今井美樹。監督は『世界一と言われた映画館』『丸八やたら漬 Komian』など、山形を舞台にした作品を発表している佐藤広一。プロデューサーは髙橋卓也。1989年の立ち上げから関わった山形国際ドキュメンタリー映画祭では2007年から事務局長。18年から理事兼プロジェクト・マネージャーを務める。これまでに『よみがえりのレシピ』『無音の叫び声』『世界一と言われた映画館』『丸八 やたら漬 』などをプロデュース。
『おもひでぽろぽろ』
https://www.ghibli.jp/works/omoide/
紅花から作られる紅色の鮮やかさ。製作過程の様々な調整で、紅色と言っても、いろいろな色ができる。でもやはり、一番濃い紅色がなんといっても好き。そんな紅色を作るための紅花栽培。紅花にはトゲがあるというのを知った。映画冒頭で、素手で紅花を採取する片桐 いささんが出てくる。紅花栽培60年のベテラン。トゲがあるのに素手で花びらを採取する技術は長年の経験からでしょう。それにしても紅花というのに、ほとんどが黄色の成分で、紅色の成分は1%というのに驚いた。昔の人は、よく、そのたった1%の紅色をみつけたと思う。そして、紅花の栽培から、紅花団子(せんべい?)をつくり、それを元に鳥梅(うばい)を使って紅色を発色させるという技術も映し出される。鳥梅は、もう1軒の梅農家しか作っていないという。そこを、紅花農家、染に携わる人たちが訪ねる。さらに紅花は料理にも使われている。この料理食べてみたい。どこに行ったら食べられるのだろう。山形で食べたいけど、ドキュメンタリー映画祭の時期には食べられるのだろうか。それに冒頭に出てきた紅花の書かれた緞帳。すごい迫力だった。映画祭の時に使われる会場かと思ったら、山形駅の反対側にある県民ホールのようだった。見てみたいけど、機会はないかな。あるいは来年はそこで映画祭のオープニングとかやらないかな。霞町公園にある美術館にも屏風絵があると出ていたけど、ここは映画祭会場でいつも行っていた所。来年の映画祭の時にぜひ、その屏風絵を見てみたい。あるいは、知らずに今までも見ていたのかもしれない。この作品では、紅花から染まで、いろいろな過程に関わる人たちがたくさん登場し、この伝統の紅色が守られてきた様子が描かれる。
佐藤広一監督の『丸八 やたら漬 Komian』もとても興味深い作品で、両作品は去年(2021)の山形国際ドキュメンタリー映画祭でオンライン上映があった。『丸八 やたら漬 Komian』も公開してほしい作品。シネマジャーナル105号にて、スタッフ二人が『丸八 やたら漬 Komian』を紹介しています(暁)。
企画・製作 映画「紅花の守人」製作委員会
配給:株式会社UTNエンタテインメント
2022年/日本/85分/カラー/DCP/16:9
公式HP: https://beni-moribito.com/ Twitter:@beni_moribito
『紅花の守人 いのちを染める』佐藤広一監督インタビューはこちら
監督:佐藤広一(『世界一と言われた映画館』『丸八やたら漬 Komian』)
プロデューサー:髙橋卓也(『よみがえりのレシピ』『無音の叫び声』)
撮影:佐藤広一 須貝孝
録音・整音:半田和巳 比留川純夫
音楽:小関佳宏
ナレーション:今井美樹
唄:朝倉さや
出演者
片桐 いさ(山形市出羽地区七浦で紅花栽培60年。素手による手摘みを続けている)
長瀬 正美・長瀬 ひろこ(米・野菜・紅花等を息子夫婦と家族4人で営む。23年前から地元小学校で食育学習の手伝いをしている)
新田 克比古・新田 翠(80年より天然染料研究の第一人者吉岡常雄氏に師事。83年「新田」にて紅花染と草木染に着手)
青木 正明(天然色工房 tezomeya 店主。古代染色研究家である前田雨城氏の作品に感銘を受け、古代染色研究のため独立)
大山 るり子(紅花染め・紅花料理インストラクター)
中西 喜久(梅古庵 烏梅職人9代目 国選定保存技術『烏梅製造』保持者)
中西 謙介(梅古庵 烏梅職人10代目)
室町時代に中近東からシルクロードを経て日本に伝わってきた紅花。悠久の旅の末、山形の地にたどりつき、今もその花を育てる人たちがいます。皇室や公家などに珍重され、庶民には手の届かなかった時代もあった。第二次世界大戦中は国によって栽培を禁止され、戦後は安価な化学染料の台頭で、継承の危機に瀕していた。しかし、山形の農村の片隅で密かに守り継がれていたことによって、今では世界的な農業遺産として注目され始めている。手間暇惜しまず栽培され、育てられた紅花からは、極くわずかな紅色しかとれない。それなのに、紅花はなぜ愛され続けているのか。
はるか昔、長い旅をして辿り着いた紅花の物語。人々がなぜ紅色に魅了され、あの美しい紅色の虜になるのか。紅花を守り、その歴史を紡ぎ続ける方々の紅色にかける姿がそれを教えてくれる。伝統に引き継がれた美しい紅に秘められた物語。
利便性から遠く離れた紅花文化を、栽培から染めに至るまで、慈しみながら守り継ぐ人々の姿を4年の歳月をかけて記録した紅花を巡る長編ドキュメンタリー。
ナレーションは『おもひでぽろぽろ』でタエ子役の声を担当した歌手・女優の今井美樹。監督は『世界一と言われた映画館』『丸八やたら漬 Komian』など、山形を舞台にした作品を発表している佐藤広一。プロデューサーは髙橋卓也。1989年の立ち上げから関わった山形国際ドキュメンタリー映画祭では2007年から事務局長。18年から理事兼プロジェクト・マネージャーを務める。これまでに『よみがえりのレシピ』『無音の叫び声』『世界一と言われた映画館』『丸八 やたら漬 』などをプロデュース。
『おもひでぽろぽろ』
https://www.ghibli.jp/works/omoide/
紅花から作られる紅色の鮮やかさ。製作過程の様々な調整で、紅色と言っても、いろいろな色ができる。でもやはり、一番濃い紅色がなんといっても好き。そんな紅色を作るための紅花栽培。紅花にはトゲがあるというのを知った。映画冒頭で、素手で紅花を採取する片桐 いささんが出てくる。紅花栽培60年のベテラン。トゲがあるのに素手で花びらを採取する技術は長年の経験からでしょう。それにしても紅花というのに、ほとんどが黄色の成分で、紅色の成分は1%というのに驚いた。昔の人は、よく、そのたった1%の紅色をみつけたと思う。そして、紅花の栽培から、紅花団子(せんべい?)をつくり、それを元に鳥梅(うばい)を使って紅色を発色させるという技術も映し出される。鳥梅は、もう1軒の梅農家しか作っていないという。そこを、紅花農家、染に携わる人たちが訪ねる。さらに紅花は料理にも使われている。この料理食べてみたい。どこに行ったら食べられるのだろう。山形で食べたいけど、ドキュメンタリー映画祭の時期には食べられるのだろうか。それに冒頭に出てきた紅花の書かれた緞帳。すごい迫力だった。映画祭の時に使われる会場かと思ったら、山形駅の反対側にある県民ホールのようだった。見てみたいけど、機会はないかな。あるいは来年はそこで映画祭のオープニングとかやらないかな。霞町公園にある美術館にも屏風絵があると出ていたけど、ここは映画祭会場でいつも行っていた所。来年の映画祭の時にぜひ、その屏風絵を見てみたい。あるいは、知らずに今までも見ていたのかもしれない。この作品では、紅花から染まで、いろいろな過程に関わる人たちがたくさん登場し、この伝統の紅色が守られてきた様子が描かれる。
佐藤広一監督の『丸八 やたら漬 Komian』もとても興味深い作品で、両作品は去年(2021)の山形国際ドキュメンタリー映画祭でオンライン上映があった。『丸八 やたら漬 Komian』も公開してほしい作品。シネマジャーナル105号にて、スタッフ二人が『丸八 やたら漬 Komian』を紹介しています(暁)。
企画・製作 映画「紅花の守人」製作委員会
配給:株式会社UTNエンタテインメント
2022年/日本/85分/カラー/DCP/16:9
公式HP: https://beni-moribito.com/ Twitter:@beni_moribito
『紅花の守人 いのちを染める』佐藤広一監督インタビューはこちら
オルガの翼 原題:OLGA
監督:エリ・グラップ
出演:アナスタシア・ブジャシキナ/サブリナ・ルフツォワ
2013年、ユーロマイダン革命直前のキーウ。15歳のオルガは体操欧州選手権での入賞を目指して、友人のサーシャと共にトレーニングに励む体操選手。ある日、トレーニング後、母の運転する車で家に向かう途中、突然激しく追突される。ジャーナリストの母イローナはヤヌコーヴィチ政権の汚職を追及していて、何者かに狙われたらしい。身の危険を案じた母の勧めで、オルガは亡き父の故郷スイスで、現地のナショナル・チームで欧州選手権を目指すことにする。フランス語とドイツ語が基本のチーム内で、オルガはうまくコミュニケーションが取れない。
ウクライナではユーロマイダン革命が激しさを増していき、オルガはタブレットやスマホで、抗議する群衆に警察の特殊部隊が武力行使に出ている映像を目にする。オンラインで話す友人サーシャの背後から「マイダンに栄光あれ」「ウクライナに自由を!」と叫ぶ群衆の声が聞こえてくる。革命に一緒に加わりたかったとオルガ。
欧州選手権が近づき、オルガはウクライナかスイス、いずれかの市民権を選ぶ決断を迫られる。結局、スイスのナショナルチームとして選手権に参加する。オルガはウクライナチームのサーシャと再会する。一方、ロシア選手団に移籍したかつてのコーチであるワシーリーとは、気まずい再会だった。
オルガは、好成績でメダルを獲得し、さらにオリンピックを目指すが、故郷の状況はさらに悪化。オンラインで話した母の顔は傷だらけ。母の元に帰るというが駄目だといわれる。はたしてオルガの下した決断は・・・
本作で描かれている背景は、2013年11月に首都キーウにある独立広場(ユーロマイダン)に市民が集まり出したことをきっかけに、2014年2月に親ロシア派のヤヌコーヴィチ大統領を追放した【ユーロマイダン革命】。
ウクライナのバイオリン奏者からユーロマイダン革命の話を聞いたグラップ監督が、深く心を動かされ、製作に着手。2016年の脚本執筆から5年をかけて完成させました。本作では、実際にデモ参加者がスマホで撮影した映像が使われています。
ウクライナの親EU運動は政権交代を実現させますが、そのことが2014年のロシアによるクリミア併合、そして、2022年3月のウクライナ本格侵攻へと繋がったことに、今さらながら気づかされます。
私にとって、広場を埋め尽くした【ユーロマイダン革命】が印象に残ったのは、ウクライナで広場をマイダンと呼ぶのだと知ったからでした。
ペルシア語で広場は「メイダーン」なのですが、もともとはアラビア語のマイダーンから来ていて、ウクライナや南ロシアでも、アラビア語起源でマイダーンというそうなのです。
アラブの春で、エジプトのタハリール広場(Maydan at Tahrir)を埋め尽くした民衆のことも思い出しました。
オルガが故国のために自分も広場に駆けつけたかったという思いが胸にしみました。ウクライナに早く平和が訪れますように・・・ (咲)
◆ユーロスペースにて 公開記念 豪華トークイベント開催
9月3日(土) エリ・グラップ監督(スイスよりオンラインで参加)
9月4日(日) 矢田部吉彦さん(前東京国際映画祭ディレクター)
9月10日(土)沼野恭子さん(東京外国語大学教授・ロシア文学)
9月11日(日)梶山祐治さん(本作字幕監修、ロシア・中央アジア映画研究者)
9月18日(日)廣瀬陽子さん(慶應義塾大学 総合政策学部 教授)
2021年/フランス=スイス=ウクライナ/ウクライナ語・ロシア語・仏語・独語・伊語・英語/カラー/90分
配給:パンドラ
公式サイトhttp://www.pan-dora.co.jp/olganotsubasa/
★2022年9月3日(土)渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
ギャング・カルテット 世紀の怪盗アンサンブル(原題:Se upp for Jonssonligan)
監督:トーマス・アルフレッドソン
脚本:トーマス・アルフレッドソン、ヘンリック・ドーシン
出演:ヘンリック・ドーシン(シッカン)、ヘダ・スターンステット(ドリス)、ダーヴィド・スンディン(ハリィ)、アンダース・ヨハンソン(ラグナル・ヴァンヘデン)
シッカンはスウェーデンでは超有名な金庫破り。ハリィとドリス、ラグナル、3人の仲間たちと計画を練り、奇想天外なやり方でお宝を手に入れる。今日も今日とて倉庫に保管されている大量のコインを盗み出していた。華麗に去る予定がシッカン一人が現場に残されてしまった。刑期を終えて出所する彼を仲間が迎えに来た。刑務所の図書館に入り浸り、次のターゲットを定めていたシッカンはさっそく仲間たちに計画を打ち明ける。しかし、3人はそれぞれ足を洗うと宣言、みんなで住んでいた住処を出て行った。シッカンはまたもや一人残ってしまった。
一方、ストックホルムの北方民族博物館でフィンランド王の王冠が見つかった。スウェーデンのグローヴバル企業のこの王冠を手に入れ、フィンランド貴族の末裔を引き込み、王政を復活させようと誘う。そのためには、王冠に埋め込む伝説の石「カレリアのハート」を見つけ出す必要があった。その石こそがシッカンのターゲットだったのだが、彼はまだ知らなかった・・・。
イェンソン一味の映画がスウェーデンに登場したのは40年前。シリーズ作品となり、多くの人がこれを見て育ったのだそうです。日本でいえば「ルパン3世」のごとく愛され、いつまでも人気のある作品のようです。トーマス・アルフレッドソン監督は『ぼくのエリ 200歳の少女』(2010)『裏切りのサーカス』(2012)を手がけました。本作は全く違ったコメディ作品で、リメイクになりますが、オリジナルの良いところを受け継ぎ、新しいティストも加えました。
犯罪集団ながら誰も傷つけず、欲深な人間を揶揄、素直に共感できます。俳優さんはどの人も馴染みはありませんが、リーダーのシッカン、ハリィとラグナルは凸凹コンビ、3人の男性の誰よりしっかりして見えるのがハリィの奥さんのドリス。ドラえもんの仲間のしずかちゃんと思ってください。峰不二子のように最後に横取りしたりはしません。大人も子どもも一緒に楽しめる作品です。(白)
2019年/スウェーデン/カラー/ビスタ/122分
配給:キノフィルムズ
(C)FLX FEATURE AB. ALL RIGHTS RESERVED
https://movie.kinocinema.jp/works/thejonssongang
★2022年9月2日(金)kino cinéma立川髙島屋S.C.館ほか全国順次公開
さかなのこ
監督:沖田修一
原作:「さかなクンの一魚一会 まいにち夢中な人生!」さかなクン著/講談社
脚本:前田司郎、沖田修一
撮影:佐々木靖之
音楽:パスカルズ
主題歌:「夢のはなし」CHAI
出演:のん(ミー坊)、柳楽優弥(ヒヨ)、夏帆(モモコ)、磯村勇斗(総長)、岡山天音(籾山)、三宅弘城(ジロウ)、井川遥(ミチコ)、さかなクン(ギョギョおじさん)、西村 瑞季(ミー坊・幼少期)
お魚が大好きな小学生・ミー坊は、寝ても覚めてもお魚のことばかり。他の子供と少し違うことを心配する父親とは対照的に、信じて応援し続ける母親に背中を押されながらミー坊はのびのびと大きくなった。高校生になり相変わらずお魚に夢中のミー坊は、まるで何かの主人公のようにいつの間にかみんなの中心にいたが、卒業後は、お魚の仕事をしたくてもなかなかうまくいかず悩んでいた…。そんな時もお魚への「好き」を貫き続けるミー坊は、たくさんの出会いと優しさに導かれ、ミー坊だけの道へ飛び込んでゆくーー。
好きなことをずっと追い続けたミー坊は紆余曲折ありながら、大人になっても好きなことを仕事にして元気で楽しく生きています。めでたしめでたし。
その裏には家族の応援があり、中でもお母さんが一番の理解者で居続けてくれたことが大きいです。花開いてお母さんも安心したでしょう。のんさんがさかなクンになると知って、?でしたが、好きなことに純粋な気持ちで向かっているところが似ていて、性別など無関係に観ていられました。沖田監督と脚本・前田司郎さんは『横道世之介』(2013)以来のタッグ。
さかなクンを知ったのは1993年のこと。テレビ東京系のバラエティ番組「TVチャンピオン」の「第3回全国魚通選手権」に詰襟の学生服姿で大人の魚通にまじって出演していました。知識は抜群でしたが問題によっては経験不足からか大人に勝てず準優勝でした。その後再挑戦して5連勝。そのころから今と変わらないキャラクターでした。さかなクンはずっとさかなクン。いつも元気でいてください。サックスを演奏する姿も素敵。(白)
2022年/日本/カラー/シネスコ/139分
配給:東京テアトル
(C)2022「さかなのこ」製作委員会
https://sakananoko.jp/
★2022年9月1日(木)ロードショー
2022年08月22日
サハラカフェのマリカ 原題:143 Rue du Désert 英題:143 Sahara Street
監督・撮影:ハッセン・フェルハーニ
プロデューサー:オリビエ・ボイショット&ナリマネ・マリ
製作:Allers Retours Films、Centrale Electrique
出演:マリカ、チャウキ・アマリ、サミール・エルハキム
アルジェリア。その大半を占めるサハラ沙漠を貫く幹線道路沿いに佇む小さな一軒家。そこは、老いた女性マリカが営むカフェ。客はまばらだ。一日の大半を猫と過ごす。トラック運転手、バイクで旅するヨーロッパの女性、気がふれた兄を探している男・・・ 時折やってくる客との何気ない会話。椅子に座って寝ているマリカのそばで、お祈りする男性もいる。そんなマリカのカフェの日々を追ったドキュメンタリー。
ハッセン・フェルハーニ監督は、友人で俳優でありコラムニストのチャウキ・アマリと一緒に旅をしたときに、かつてチャウキ・アマリが書いた作品「ナショナル1」(アルジェからタマンラセットを繋ぐ道路)に登場したマリカと出会う。ロードムービーを撮りたいと思っていた監督は、マリカのカフェを定点観測する形でロードームービーを紡いだ。静かな日常が、物語のよう!
冒頭に沙漠に響き渡る歌が郷愁をそそります。
マリカは自分のことを多くは語りません。
「エル・メニアの出身で、子どもも親もいない」とつぶやくマリカに、「神がそばにいる」と語りかける男。
マリカの年齢からして、フランス統治時代に生まれ、独立戦争を経験し、その後、暗黒の10年と言われる1990年代に吹き荒れたテロの時代を生き抜くという、歴史に翻弄された激動の人生だったと思うのですが、マリカは過去を語ることはありません。
楽器を奏でる男たちがカフェを訪れ、歌にあわせて踊るマリカが可愛い。いい人生を送ってほしいと願わずにいられませんでした。
マリカが語らないアルジェリアのことを深く知るために、下記の映画紹介記事をご参照ください。
『アルジェの戦い』(1966年、ジッロ・ポンテコルヴォ監督)
http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/442440621.html
『ビバ!アルジェリア』(2004年、ナディール・モクネッシュ監督)
http://www.cinemajournal.net/special/2004/france/index.html
『パピチャ 未来へのランウェイ』(2019年、ムニア・メドゥール監督)
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/478135355.html
イスラーム映画祭7『時の終わりまで』(2018年、ヤスミーン・シューイフ)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/485877029.html
原題『143 Rue du Désert』は、沙漠(サハラ)道路143番地。
「エル・メニアから、60キロ」という言葉があったので、首都アルジェと南のタマンラセットを繋ぐ幹線道路の中ごろより少し北あたり。沙漠のど真ん中で、アルジェリア社会に吹き荒れた様々な風をマリカはどのように浴びてきたのだろうと思いを巡らしました。(咲)
◆アップリンク吉祥寺 トークショー
8月27日(土)13:25からの回 上映後 登壇者:野町和嘉(写真家)
8月28日(日)13:25からの回 上映後 登壇者:私市正年(イスラーム研究者)
8月26∼28日の3日間限定でアラブ菓子セットの販売
2019 年/アルジェリア・フランス・カタール/104 分/カラー/ドキュメンタリー
配給:ムーリンプロダクション
後援:駐日アルジェリア大使館
公式サイト:https://sahara-malika.com/
★2022年8月26日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
2022年08月21日
異動辞令は音楽隊!
監督・原案・脚本:内田英治
撮影:伊藤麻樹
音楽:小林洋平
主題歌:「Choral A」Official髭男dism
出演:阿部寛(成瀬司)、清野菜名(来島春子)、磯村勇斗(坂本翔太)、高杉真宙(北村裕司)、板橋駿谷、モトーラ世里奈、見上愛、岡部たかし、渋川清彦、酒向芳、六平直政、光石研、倍賞美津子
犯罪捜査一筋の刑事、成瀬司55歳。昔ながらの捜査方法を変えず上層部に苦い顔をされ、同僚や部下には陰で鬼軍曹と呼ばれている。世間ではアポ電強盗事件が多発している。警察官を名乗って現金のありかを聞いた後、宅配業者になりすまして鍵を開けさせて襲う手口だ。主犯に心当たりのある成瀬は、捜査会議を蹴って部下の坂本を連れ、令状もなしに家に入ってチンピラを締め上げる。
成瀬は突然音楽隊への異動を命じられた。ハラスメント対策室に成瀬の所業についての投書があり、上層部は扱いにくい成瀬を体よく追い出した形だ。刑事畑しか歩まず、音楽のおの字も関わりのなかった成瀬は不満たらたらで異動する。音楽隊は個性的なはぐれ者の集まりで、成瀬はドラムを担当することになった。刑事気質が抜けない成瀬は、浮くばかり。ある日捜査本部に駆け込むが、きっぱりと拒否される。我に返って音楽隊の練習に打ち込み、少しずつ仲間として認められるようになった。しかし、音楽隊の存続は危ぶまれ、新たな事件も起こった。
内田監督は警察音楽隊のフラッシュモブ映像を見て、いたく感激。このストーリーの種になったようです。刑事と音楽という二つを盛り込んだ脚本が完成するまで2年。
音楽隊メンバーが決まると、監督は「演奏の吹替はなし」とまず宣言したそうな。そこから苦難の、いや努力の日々が始まります。主演の阿部さんはドラムを初めて触りました。ゴム製の練習パッドをスティックで叩くところから始めて、ドラムセットへ。いくつになっても新しいことができるのだという見本のようです。
トランペットの清野さん、サックスの高杉さん、チューバの板橋さんの仕上がり具合は、映像でソロパートがアップになっていることからもよくわかるでしょう。カメラは伊藤麻樹さん、ダイナミックな動きに目を見張ります。さまざまにアレンジされたメインの「IN THE MOOD」をはじめ、数々の楽曲や劇伴が映画を盛り上げます。スーツを着こなすカッコいい阿部寛さんでなく、ダサさ満開で怒りっぽい成瀬がどう変わっていくのか?社会の事件と、これぞというキャストたちが生きるストーリー、音楽とのアンサンブルをお楽しみください。私は優しい笑顔の指揮者役・酒向芳さんが新鮮でした。(白)
さすが、阿部寛さん! 室内で大勢集まっての捜査会議など無駄と捜査に飛び出す熱血ぶりから、警察音楽隊に異動させられて、最初は不服だったのが、ドラムが叩けるようになると、コンサートのチケットにリズミカルにスタンプを押すという軽妙な姿まで、大きな振り幅を見せてくれました。
倍賞美津子さん演じる、成瀬のお母さんは、夫が亡くなったことも、息子が2年前に離婚したことも忘れています。小花模様の可愛い服を着ていたりして、天真爛漫ぶりが素敵です。認知症の親にどう向き合うかも考えさせてくれます。
また、警察音楽隊の隊員で交通課勤務の清野菜々さん演じる来島春子は、仕事も音楽も育児も両立させたいけれど、なかなかうまくいかないという、今の日本社会で多くの女性たちが抱える問題をあぶりだしています。
そして本作で大きな軸となっている、アポ電強盗にまんまと引っかかってしまうお年寄りが絶えない問題。アポ電強盗防止の一助になるといいなと思いました。(咲)
2022年/日本/カラー/シネスコ/119分
配給:ギャガ
(C)2022「異動辞令は音楽隊!」製作委員会
https://gaga.ne.jp/ongakutai/
★2022年8月26日(金)ロードショー
スワンソング(原題:Swan Song)
監督:脚本:トッド・スティーブンス
撮影:ジャクソン・ワーナー・ルイス
音楽:クリス・スティーブンス
ヘアメイク:リディア・カネ
出演:ウド・キアー(パトリック・ピッツェンバーガー)、ジェニファー・クーリッジ(ディー・ディー)、リンダ・エヴァンス(リタ)
パトリック・ピッツェンバーガーは、かつてヘアメイクドレッサーとして活躍していた。自分の美容院を持ち、「ミスター・パット」と呼ばれ、街の有名人だった。ゲイとして生きてきた彼は、最愛のパートナーであるデビッドを早くにエイズで亡くし、今は老人ホームでひっそりと暮らしている。日課といえば紙ナプキンを折ることだけ。
そんなパットのもとに、思いがけない訪問客があった。顧客で親友でもあったリタが亡くなり、弁護士から「パットに最後のメイクを施してほしい」という遺言を伝えられる。仲たがいをしたままだったパットは断ってしまうが、一人になると過去の思い出があふれてくる。パットはホームを抜け出し、長らく遠ざかっていた街をめざして歩き出す。
ミスター・パットはトッド・スティーブンス監督が17歳のころサンダスキーのゲイクラブで出逢った実在の人物。2012年に亡くなっています。演じたウド・キアーとはほぼ同年代。エンドロールにご本人の写真が出てきます。ウィスキーのグラスで顔が少し隠れていますが美形です。
老人ホームを出たパットはヒッチハイクをし、デビッドの墓を訪ね、化粧品店を探し回ります。灰色のスウェットの上下で出てきたパットは、どこかに立ち寄るたびに、アイテムが増えていきます。10本の指に思い出の指輪。ピンクの帽子、アイスグリーン色のスーツ、スカーフにソフト帽。お金がなくて店のものを失敬するかと思えば、「釣りはとっといて」と鷹揚なところもあり。たった一度来店したお客をちゃんと思い出せるのに、しょっちゅう弱気になっては、お酒の力で元気を出すミスター・パット、チャーミングで憎めません。
パットを励ますように流れる楽曲がよくて、この「OST」(Original Sound Trackの略)があったらまとめて聞きたい。
”スワンソング”とは、アーティストの生前最後の作品・曲・演奏のことを指すそうです。なぜなら白鳥は死の間際、最も美しい声で歌うという伝説があるから。パットの最後の歌は届きましたか?(白)
2021年/アメリカ/カラー/ビスタ/105分
配給:カルチュア ・ パブリッシャーズ
(C)2021 Swan Song Film LLC
https://www.reallylikefilms.com/applause
★2022年8月26日(金)シネスイッチ銀座、シネマート新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
でくの空
脚本・監督・編集:島春迦
出演:林家たい平、結城美栄子、熊谷真実、林家ペー、池田愛、遠山陽一、桐原三枝、原きよ、林家さく平、泉水美和子、村田綾、加藤亮佑
埼玉・寄居町で電気工事店を営む周介(林家たい平)。長年コンビを組んでいた従業員が工事中に事故死したのは自分のせいだと悔やみ、なかなか立ち上がれない。店をたたみ、父・啓吉(林家ぺー)の元に身を寄せる。罪滅ぼしのつもりで、亡くなった従業員の母・冴月(結城美栄子)のところに足繁く通うが、冴月は心を開いてくれない。周介は、姉の活美(熊谷真実)が営むよろず代行屋「木偶の棒」で働き始めるが、得意の電気工事だけは引き受けない・・・
自責の念にかられ落ち込む周介。一方、息子を亡くした冴月は、49日の法要に周介を入れようとしません。よろず代行で、夫を亡くして1年になる女性と会う周介。「目の前にいなくても、夫を感じる」と聞かされます。身近な人を亡くしてしまった者の、それぞれの思いが、ずっしり突き刺さりました。
「笑点」の大喜利メンバーとして、いつも笑わせてくれるたい平さんが、笑顔を封印。後半で得意の歌を披露していますが、神妙な顔のままラストを迎えます。
撮影は昨春、秩父市観光大使を務めるたい平さんゆかりの寄居町と秩父市で行われ、満開間近の桜も綺麗です。
本作は、7月29日に開業した「ユナイテッド・シネマ ウニクス秩父」のオープニング作品として先行上映。秩父では「秩父革新舘」が1993年に閉館して以来、29年ぶりの映画館復活とのことです。(咲)
笑顔も見せず作業着姿の生真面目な周介、寄席の着物姿のたい平さんと同一人物とは思えませんでした。美大卒で絵がお上手なのは知っていましたが、もう一つ才能が花開いたかも?
結城美栄子さんはお若いころはよくテレビドラマで、明るく元気な役柄を拝見していました。結城さんは陶芸家としてご活躍なので、劇中の陶芸作品はご自身のでしょう。俳優さんとしては久しぶりです。
一人息子を急に失ったら、怒りの矛先が近くに向かうのも無理ありません。理不尽と知りながら頑なな冴月が痛ましいです。(白)
2022 年/日本/カラー/16:9/5.1ch/90 分
英字幕 : 川島めぐみ / スティーブ・キャシディ
配給:アルミード
協賛:寄居町観光協会 林家たい平後援会 社会福祉法人フラワーヴィラ 料亭・園
福島ハウジング株式会社 サンコー食品株式会社 清水園 フグレン東京
車両協力:本田技研工業株式会社・埼玉製作所
後援: 寄居町 寄居町商工会 寄居町観光協会 ヨリイフィルムコミッション
製作:チョコレートボックス合同会社
公式サイト:https://dekunosora.jimdofree.com/
★2022年8月26日よりアップリンク吉祥寺ほか全国にて公開
☆7 月 29 日(金)よりユナイテッド・シネマ ウニクス秩父にて先行公開
グリーンバレット
監督・脚本・編集:阪元裕吾
撮影:今宮健太 関将史
アクション監督:坂口茉琴
主題歌:「エンドロール」東京初期衝動(チェリーヴァージン・レコード)
出演:和泉芳怜(山田ふみか)、山岡雅弥(今井美香)、天野きき(神里はるか)、辻󠄀優衣(東雲唯)、大島璃乃(鹿目梨紗)、内藤花恋(沖田響)、伊能昌幸(国岡昌幸)、板尾創路(浜辺悠仁)
山田ふみか、今井美香、神里はるか、東雲唯、鹿目梨紗、沖田響の6人は、プロの殺し屋を目指している。京都最強の殺し屋・国岡がインストラクターを務める訓練合宿に参加することになった。合宿所には怪しげなオーナーや頼りない助手、映像を残したい国岡ファンが待ち構えていた。それぞれに個性的すぎる6人は初っ端からもめてしまい、たいてのことには動じない国岡のコントロールもきかない。
悪いことにアクシデントが配信され、凶暴な殺し屋集団”フォックスハンター”が合宿所を襲ってくる。訓練途中の研修生と国岡は無事生き残れるのか。
『最強殺し屋伝説国岡 完全版』の続編?スピンオフ?最強の殺し屋国岡が殺し屋希望の6人の女子を育てるインストラクター。先に流れる面接風景を見ていると、そのうちの一人でさえ持て余しそうな気がします。それなのに6人とは! 全員がミスマガジンの受賞者で、可愛い笑顔の女子ばかり。ロケもさぞ賑やかだったことでしょう。
「ゆるいけど強い」が持ち味の阪元監督監督作品、それぞれ訳ありの女子たちが、訓練の効果があったのかどうか?後半突如展開する怒涛のアクションをお楽しみに。デート映画にしたら彼氏が逃げだしそうです。(白)
2022年/日本/カラー/105分/R15+
配給:ラビットハウス
(C)2022「グリーンバレット」製作委員会
https://greenbullet.jp/
★2022年8月26日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
人
監督:山口龍大朗
脚本:敦賀零
撮影:神戸千木
出演:吉村界人(健一)、田中美里(彩子)、津田寛治(拓郎)、冨手麻妙(石川)
千葉の九十九里浜。健一は実家のサーフショップで働いていたが不慮の事故で死んでしまった。自分の身体をつくづく見下ろし、自分が幽霊になったことに気がついた。実家に帰ると、数年前に死んだはずの父・拓郎がいた。明るく挨拶する父だったが、健一と同じ幽霊で、見えなかったけれどいつもいたらしい。母・彩子には、幽霊になった健一も父親も見えていることもわかった!?
吉村界人さん、この頃出ずっぱりのような感あり。サーファーカットの金髪にピンクのシャツとパンツ(少し薄いピンク)がよく似合っています。こんなに早く事故死したのでは、思い残すことが多すぎるはず。誰にも伝えられないのが普通ですが、この作品の母には幽霊が見えます。健一はめんどくさいなと思いつつ、母や父と話ができました。並んでタバコも吸えました。高校の同級生が泣いてくれました。そんなことができるなら、自分は誰に会いたいだろうと、観終わって考えてしまいました。寂しがり屋の母ちゃんとぶっきらぼうな息子との会話は、おかしくてあったかくてせつないです。(白)
2022年/日本/カラー/39分
配給:SAIGATE
(C)映画「人」制作チーム
https://eigahito.com/
★2022年8月26日(金)ロードショー
Zola ゾラ(原題:Zola)
監督:ジャニクザ・ブラヴォー
脚本:ジャニクザ・ブラヴォー ジェレミー・O・ハリス
撮影:アリ・ウェグナー
編集:ジョイ・マクミロン
音楽:ミカ・レヴィ
出演:テイラー・ペイジ(ゾラ)、ライリー・キーオ(ステファニ)、ニコラス・ブラウン(デレク)、コールマン・ドミンゴ(X)、アリエル・アリスタ(ショーン)
ウェイトレス兼ストリッパーのゾラはレストランで働いていたところ、客としてやってきたステファニと「ダンサー」という共通点があることで意気投合し、連絡先を交換する。
すると翌日、ステファニが彼氏のデレクと「ダンスで大金を稼ぐ旅に出よう」と迎えにくる。急なことで迷うが、大金という言葉に誘われて出稼ぎの旅に加わることにした。運転はレストランでステファニと一緒だったX。ソラはこれが48時間の悪夢の始まりだとは思ってもみなかった……。
2015年、アザイア“ゾラ”キングが自らの実体験をTwitterに投稿し、大きな話題となったスリリングな<148のツイート>をスタジオA24が映画化しました。それに基づいて作られたほぼ実話です。初めはノリノリだった旅が次第に不穏な空気に包まれ、ゾラはヤバイと感じ始めます。ゾラが冒頭で言うように「スリリング」な長い話。
全米では1500スクリーンで公開されスマッシュヒットを記録。サンダンス映画祭でも大喝采を浴び、“ストリッパー・サーガ”と呼ばれ、若者を中心に熱狂的なファンを生み出しました。
ライリー・キーオはエルヴィス・プレスリーの孫、女優業と並行して制作会社を設立、監督デビュー作『WAR PONY』がカンヌ映画祭ある視点部門で新人監督賞を受賞しています。青い綺麗な眼がエルヴィス似かな。この映画ではかなりぶっ飛んだ若いストリッパー役。R18+なのでご注意。(白)
2021年/アメリカ/カラー/ビスタ/86分/R18+
配給:トランスフォーマー
(C)2021 Bird of Paradise. All Rights Reserved
https://transformer.co.jp/m/zola/
★2022年8月26日(金)新宿ピカデリー、渋谷ホワイトシネクイントほか全国ロードショー
2022年08月18日
新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり 原題:Une saison (tres) particulière
監督:プリシラ・ピザート
出演:パリ・オペラ座バレエ、アマンディーヌ・アルビッソン、レオノール・ボラック、ヴァランティーヌ・コラサント、ドロテ・ジルベール、リュドミラ・パリエロ、パク・セウン、マチュー・ガニオ、マチアス・エイマン、ジェルマン・ルーヴェ、ユーゴ・マルシャン、ポール・マルク、アレクサンダー・ネーフ(パリ・オペラ座総裁)、オレリー・デュポン(バレエ団芸術監督)
350余年前、ルイ14世によって設立されたパリ・オペラ座。フランス文化の象徴でもあるパリ・オペラ座では、世界中の観客に向けて180回以上の公演が毎年開催されてきた。
世界中に蔓延したコロナにより、2020年3月12日、パリ・オペラ座はいち早く閉鎖される。ダンサーたちは3か月の自宅待機を余儀なくされる。6月15日、ようやくクラスレッスンが再開。復帰公演として、年末に“オペラ座の宝”といわれる演目、ヌレエフ振付の超大作「ラ・バヤデール」が決まる。マスクを着け、ソーシャルディスタンスを保ちながら練習に励む154人のダンサーたち。11月末、ようやく舞台リハーサル。広いところで踊るのは久しぶりだ。開幕目前に再び感染が拡大し、無観客配信が決まる。初日が千秋楽となり、観客の拍手のないまま舞台の幕が下りる・・・
これまで多くのドキュメンタリーを手掛けてきたプリシラ・ピザート監督は、バレエ団芸術監督のオレリー・デュポンより、クラスとリハーサル、初日とその舞台裏に至るまでの撮影の許可を得て、ダンサーたちの葛藤の日々を追いました。
「1日休めば自分が気づき、2日休めば教師が気づく。3日休めば観客が気づく―」と言われるダンサーたち。しかも、42歳でバレエ団との契約が終了する彼らにとって、3か月の自宅待機はいかに過酷な試練だったことでしょう。思い起こせば、私自身、2020年春の2か月、自宅に籠っていたら、足がむくんでしまいました。ダンサーの方たちが家で何もしなかったはずはありませんが・・・
そして、復帰公演が開催目前に無観客配信になったことは、観客からの反応が大きな原動力のダンサーたちにとって、どれほどつらいことだったでしょう。
私はバレエの世界には疎いのですが、本作は、コロナ禍を過ごした世界中の人にとって共感できるものだと思いました。
ヌレエフ振付の「ラ・バヤデール」についても、まったくなにも知らなかったのですが、ペルシア風のモスクのような華麗な舞台装置に惹きつけられました。第一幕 インド人役と乙女役が出てきて、どんな物語なのか興味津々。
舞台は古代インド。戦士ソロルと寺院の舞姫(バヤデール)であるニキヤはひそかに愛し合っていて、結婚の誓いも立てていたのですが、ラジャが若き英雄ソロルを気に入り娘ガムザッティと結婚させようとし、やがてソロルもニキヤを裏切りガムザッティと婚約する・・・ (物語の顛末は公式サイトでどうぞ)
古代インドが舞台なのに、インドのイスラーム王朝ムガル風というよりペルシア風のイスラーム建築が舞台の背景いっぱいに描かれていて、違和感。(ムガル建築はペルシア建築の影響を受けているのですが微妙に違う)
「古代インドを舞台にした西欧人好みのエキゾティシズムが人気を博した」と、本作の公式サイトに書かれていて、こうした時代考証の間違いも、さもありなんと思った次第です。(咲)
2021年/フランス/カラー/ビスタ/ステレオ/73分
提供:dbi.inc. EX NIHILO
配給:ギャガ
公式サイト:https://www.gaga.ne.jp/parisopera_unusual
★2022年8月19日(金)より、Bunkamuraル・シネマ他にて全国順次公開
復讐は私にまかせて 原題:Seperti Dendam Rindu Harus Dibayar Tuntas 英題:Vengeance is Mine, All Others Pay Cash
Ⓒ 2021 PALARI FILMS. PHOENIX FILMS. NATASHA SIDHARTA. KANINGA PICTURES. MATCH FACTORY PRODUCTIONS GMBH. BOMBERO INTERNATIONAL GMBH. ALL RIGHTS RESERVED
監督&脚本:エドウィン(『動物園からのポストカード』)
撮影:芦澤明子(わが母の記』『トウキョウソナタ』『海を駆ける』)
出演: マルティーノ・リオ ラディア・シェリル ラトゥ・フェリーシャほか
1989年、インドネシアのボジョンソアン地区。無鉄砲な若者アジョ・カウィル(マル ティーノ・リオ)はケンカとバイクレースに明け暮れている。そんな彼は勃起不全という悩みを抱えていて、苛立ちのはけ口として、悪名高き実業家のレベを叩きのめして やろうと思い立つ。採石場に乗り込むと、レベに雇われた女ボディガードのイトゥン(ラディア・シェ リル)が立ちはだかる。華奢ながら、伝統武術シラットの使い手であるイトゥンは、アジョと互角に闘う。最後には両者共にノックダウン。それがふたりの運命的な恋の始まりだった。
不能だから結婚できないというアジョに、だからこそ結婚するのよと積極的なイトゥン。盛大な結婚披露パーティーを開き、慎ましくも幸福な新婚生活が始まる。アジョは、ずっと心のうちに隠していた1983年6月の日食の日の出来事をイトゥンに打ち明ける。まだ少年だったアジョは友人と二人で、ロナ・メラーという未亡人がふたり組の男に襲われているのを家の外から覗き込む。それが暴行犯に見つかり、自分たちも性的虐待を受けてしまったのだ。この話を聞いたイトゥンは、この時のことがトラウマになってアジョは不能なのだと、暴行魔たちへの復讐を決意する。幼なじみのブディ(レザ・ラハディアン)に協力を求めるが、イ トゥンに横恋慕していたブディは、彼女の弱みにつけ込んで誘惑し、イトゥンは、ブディとの子を身ごもってしまう。「尻軽女!」と叫んで家を飛び出すアジョ。裏社会の実力者ゲンブル(ピエト・パガオ)から殺しの仕事を請け負い、刑務所送りとなる。イトゥンもブディを殺害した罪で投獄される。
3年後、刑期を終えたアジョとイトゥン。再会を果たした二人の前に、ジェリタ(ラトゥ・フェリーシャ)という謎めいた女が現れる…
主人公のアジョが勃起不全に悩んでいるという設定には、インドネシア社会に今も根強く残っているというマチズモ(男性優位主義、女性蔑視)への批判がこめられているとのこと。いじいじしたアジョに対し、武術にたけたイトゥンは言うこともカラッとして、実にカッコいいです。
冒頭、「天国は母の足元にある」という標語が書かれた看板が映し出されます。その後も、看板や、トラックの後ろなどに、大胆な絵に言葉が添えられたものが、効果的に出てきて、物語の流れの中で、この言葉の意味するところは?と、つい考えてしまいました。
ねっとりとしたインドネシアの地で繰り広げられる愛と復讐の物語にくらくら。(咲)
デジタルカメラが主流の時代に、あえてアナログなフィルムでの撮影を切望したエドウィン監督。撮影を黒沢清監督、深田晃司監督など数々の映画監督とタッグを組んできたカメラマンの第一人者芦澤明子さんに依頼し、コダックの16ミリフィルムで撮影。ざらついた独特の質感が、愛と復讐のドラマをきわだたせています。
☆ご参考
『ここに、幸あり』撮影監督 芦澤明子さんインタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2003/sachiari/index.html
第74回ロカルノ国際映画祭金豹賞受賞
2021年/インドネシア、シンガポール、ドイツ/インドネシア語/ビスタ/5.1ch/カラー/PG-12
配給:JAIHO
公式サイト:https://fukushunomegami.com/
★2022年8月20日(土) シアター・イメージフォーラム他にて全国順次ロードショー
2015年9月、『動物園からのポストカード』がアジアフォーカス福岡国際映画祭で上映された折に来日したエドウィン監督とニコラス・サプトラ
ニコラス・サプトラに会えた! 今年も充実のアジアフォーカスの旅でした (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/427092716.html
2022年08月16日
WKW 4K ウォン・カーウァイ 4K
第53回カンヌ国際映画祭にてトニー・レオンが主演男優賞を獲得し、ウォン・カーウァイ監督の代表作となった『花様年華』(2000)。その制作20周年を記念し、監督自らの手により過去作を4Kレストアするプロジェクトが実施されました。その中より、珠玉の5作品『恋する惑星』『天使の涙』『ブエノスアイレス』『花様年華』『2046』がスクリーン上映されます。
この度のレストアについて、ウォン・カーウァイ監督自身、「単なる焼き直しではなく、新たに生まれ変わった作品」とコメントされています。画面サイズ、色味など、かなり多くの箇所が修正されている点にもご注目ください。
公式サイト:http://unpfilm.com/wkw4k/
★2022年8月19日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
『恋する惑星 4K』原題:重慶森林/英題:Chungking Express
監督・脚本:ウォン・カーウァイ
撮影:クリストファー・ドイル、アンドリュー・ラウ
出演:トニー・レオン、フェイ・ウォン、ブリジット・リン、金城武、ヴァレリー・チョウ
1994年/香港/102分/1.66:1/広東語/5.1ch
刑事223号は、別れた恋人が好きだったパイナップルの缶詰を買い続けていた。だが、彼女を忘れるため、バーの片隅で出会った金髪の女性に声をかけて一夜を過ごすことになる。その頃、刑事223号もよく立ち寄る小食店に新しい店員が入ってくる。新入りのフェイは、夜食を買いに来た警官663号に恋心を抱き、偶然手に入れた彼の家の鍵で部屋に忍び込み……。
★シネマジャーナル 33号(1995年6月発行)『恋する惑星』金城武来日会見(1995年5月)
Webでお読みいただけます。
http://www.cinemajournal.net/bn/33/chungking.html
『天使の涙 4K』原題:墮落天使/英題:Fallen Angels
監督・脚本:ウォン・カーウァイ
撮影:クリストファー・ドイル
出演:レオン・ライ、ミシェール・リー、金城武、チャーリー・ヤン、カレン・モク
1995年/香港/99分/2.39:1/広東語/5.1ch
エージェントの女は、仕事以外で顔を合わせることがほぼない殺し屋の男に密かな恋心を抱いていた。足を洗いたいと考えている殺し屋はある大雨の日、金髪の女に出会い、互いのぬくもりを求める。一方、期限切れのパイナップル缶を食べて口がきけなくなったモウは、夜な夜な他人の店で勝手な商売を楽しむ日々。そんな中、失恋娘と出会い初めての恋をする。
★シネマジャーナル37号(1996年6月発行)
特集『天使の涙』王家衛監督、金城武 来日会見
Webでお読みいただけます。
http://www.cinemajournal.net/bn/37/angels.html
『ブエノスアイレス 4K』原題:春光乍洩/英題:Happy Together
監督・脚本・製作:ウォン・カーウァイ
撮影:クリストファー・ドイル
出演:トニー・レオン、レスリー・チャン、チャン・チェン
1997年/香港/96分/1.85:1/広東語・中国語・スペイン語/5.1ch
香港から南米アルゼンチンへやって来たウィンとファイ。自由奔放なウィンと、そんなウィンに振り回されっぱなしのファイは何度も別れてはヨリを戻している。これも"やり直す"ための旅だったが、些細なことからまた痴話喧嘩をして別れ別れに。しばらくしてふたりは再会を果たし、怪我をしたウィンをファイが看病しながら一緒に暮らすようになるが……。
★シネマジャーナル42号 (1997年12月発行)女たちの映画評
『花様年華 4K』原題:花樣年華/英題:In the Mood for Love
監督・脚本・製作:ウォン・カーウァイ
撮影:クリストファー・ドイル、リー・ピンビン
出演:トニー・レオン、マギー・チャン
2000年/香港/98分/1.66:1/広東語/5.1ch
1962年の香港。地元新聞社の編集者であるチャウと、商社で秘書として働くチャンは同じアパートへ同じ日に引っ越してきて、隣人となる。やがてふたりは、互いの伴侶が不倫関係であることに気付き、一緒に時間を過ごすことが多くなる。誰にも気づかれないよう慎重に、裏切られ傷ついた者同士が次第にささやかな共犯にも似た関係を育んでいくが――。
★Web版シネマジャーナル 特別記事『花様年華』記者会見 2000/11/2 新宿パークハイアット
http://www.cinemajournal.net/special/2001/kayonenka/index.html
シネマジャーナル51号(2001年1月発行)香港映画祭公式セレモニーレポート
シネマジャーナル52号(2001年4月発行)女たちの映画評
シネマジャーナル67号(2006年春発行)私のこの1本
『2046 4K』原題・英題:2046
監督・脚本・製作:ウォン・カーウァイ 撮影:クリストファー・ドイル、ライ・イウファイ、クワン・プンリョン
出演:トニー・レオン、コン・リー、フェイ・ウォン、木村拓哉、チャン・ツィイー、カリーナ・ラウ、チャン・チェン、ドン・ジェ、マギー・チャン
2004年/香港/129分/2.35:1/広東語・中国語・日本語/5.1ch/R15+
1960年代後半の香港。記者で作家のチャウはかつてひとりの女を心の底から愛したが結ばれることはなかった。過去の思い出から逃れるように自堕落な生活を送っていた彼は、ある日ジンウェンと出会う。彼女には日本人の恋人タクがいたが、父親の反対でタクは日本に帰ってしまった。チャウはふたりに触発され近未来小説を書き始める。
今回、4Kで蘇ったウォン・カーウァイの5作品は、どれもこれも公開時はもちろん、その後も機会があると何度か観た懐かしい作品です。
中でも、『ブエノスアイレス』は、香港での公開を知って、香港に飛んでいって観たのでした。DVDも持っているし、何度観たのかわかりません。
今回4Kで蘇った『ブエノスアイレス』、どれほど綺麗なことでしょう・・・
そして、今回のラインナップに『欲望の翼』が入っていないのが残念!と思ったのですが、実は2018年2月、Bunkamuraル・シネマほかにてデジタルリマスター版が公開されているので、入っていないのですね。2005年以降日本での上映権が消失していたものが、実に13年ぶりにスクリーンで上映されたのでした。
上映権が切れるという時にも、デジタルリマスター版の上映も、もちろんレスリー追っかけ仲間と一緒に観に行きました。DVDを持っていても、大きな画面で観るのは格別です。
今回の「WKW 4K」5作品も、ぜひ劇場で味わいたいと思います。(咲)
2022年08月14日
みんなのヴァカンス 原題:À l’abordage
2022年8月20日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開
劇場情報
夏の物語、かなわぬ恋、さまざまなバックグラウンドを持つ若者たちの混沌とした友情
監督:ギヨーム・ブラック
プロデューサー:グレゴワール・ドゥバイイ
脚本:ギヨーム・ブラック、カトリーヌ・パイエ
撮影:アラン・ギシャウア 録音:エマニュエル・ボナ
助監督:ギレーム・アメラン
製作総指揮:トマ・アキム 映像編集:エロイーズ・ペロケ
音響編集:ヴァンサン・ヴァトゥ
ミキシング:ヴァンサン・ヴェルドゥ
美術・衣装:マリーヌ・ガリアノ
出演:エリック・ナンチュアング、サリフ・シセ、エドゥアール・シュルピス、アスマ・メサウデンヌ、アナ・ブラゴジェヴィッチ、リュシー・ガロ、マルタン・メニエ、ニコラ・ピエトリ、セシル・フイエ、ジョルダン・レズギ、イリナ・ブラック・ラペルーザ、マリ=アンヌ・ゲラン
これまでも、もてそうもない男を登場させて、もてた男にしてしまう作品を作ってきたギヨーム・ブラック監督の最新作。
今回も、女の子、もてない男、水遊び、サイクリング、嫉妬、諍いなどをモチーフに、夏を謳歌する若者たちの物語を展開。南フランスのきらびやかな風景の中、不器用で愛おしいヴァカンスが、にぎやかに映し出されていく。
夏の夜、セーヌ川のほとりはカーニバルのようにたくさんの人々が集い、そこでフェリックスはアルマに出会い、一晩の恋、夢のような時間を過ごした。翌朝、アルマは家族とともにヴァカンスへ旅立つ。彼女を忘れられない思い込みの強いフェリックスは、彼女も自分のことを好きなはずと勘違いし、親友のシェリフをさそい、事情を知らない、「相乗りアプリ」で知り合ったエドゥアールを道連れに、彼女を追って南フランスの田舎町ディーに乗りこむ。自分勝手なフェリックスと、生真面目なエドゥアールと心優しいシェリフ。二人はフェリックスに振り回されながらも、アルマのいる高原の避暑地?に向かう。ひょんなことから、付き合わされてしまったエドゥアールは、自分の目的地にたどりつけないことになってしまったマザーコンプレックスのお坊ちゃん。しかたなく、二人と行動を共にすることで、母親の呪縛から逃れていく。そして損な役回りのシェリフかと思ったら、彼もこの地で知り合った女性と、ヴァカンスの時を過ごしている。
サイクリング、水遊び、恋人たちのささやき。出会いとすれちがい、友情の芽生え…。3人のヴァカンスは思わぬ方向へ。
ロケ地はパリからおよそ600km南に離れたドローム県のディーという小さな町。撮影スタッフは12人という少人数。脚本は物語の大筋のみにとどめ、その時の光の変化や撮影現場の雰囲気を作品に取り込めるように、撮影での即興の余地を残し、町中を俳優たちと歩いて移動して撮影されたという。
『みんなのヴァカンス』は、『7月の物語』(17)に続いて、ギヨーム・ブラック監督がフランス国立高等演劇学校の学生たちと製作。俳優は長篇映画に出演するのがはじめての学生たち。スタッフもできるだけ若い人、長編映画に参加したことが少ない人を集めたそう。製作にフランス・ドイツ共同出資のテレビ局であるアルテが加わって、テレビ放映用に企画された作品だったが、高いクオリティーが評価され、第70回ベルリン国際映画祭パノラマ部門に選出、国際映画批評家連盟賞特別賞を受賞し、2021年にフランスで劇場公開された。
この監督のモチーフは、もてない男、あるいはもてそうもない男を登場させ、そこから最後、ハッピーエンドにもっていく、はっきり言って、男にとって都合のいい物語。女性からはそんなことありえないと思えるような物語の展開になるんだけど、それが憎めない話になっているところがうまいところ。今回も、勝手に両想いだと思っている思い込みの強いフェリックスを登場させ、お調子者の迷惑な男で、最初は観ていてイライラしてしまった。そこに心優しいシェリフという親友を登場させてバランスをとっている。この二人は黒人の青年。そして、母親のところに行こうとして(実家に帰ろうとしていたのかも)、「相乗りアプリ」で女性でも乗せようと思っていたのに、思わぬ二人の黒人の男たちが乗り込んで来て、自分が行こうと思っていたのと違う場所にたどり着いてしまい、迷惑千万なことになってしまうエドゥアールという白人の青年が登場するのだけど、彼にとってはマザーコンプレックスからの解放にもつながり、良かったのかも。そして、子守ばかりして、一番損な役回りと思ったシェリフが、最後、思わぬ幸運をつかむ。でも、これって、やっぱり男にとって都合のいい話だよね。それともフランスの若い人の間では自然の流れ?(暁)。
公式HP
プロダクション: Geko Films
共同プロダクション: ARTE France
2020年 / フランス / フランス語
カラー / 100分 / 1.66 : 1 / 5.1ch / DCP
字幕翻訳:高部義之 / 配給:エタンチェ
劇場情報
夏の物語、かなわぬ恋、さまざまなバックグラウンドを持つ若者たちの混沌とした友情
監督:ギヨーム・ブラック
プロデューサー:グレゴワール・ドゥバイイ
脚本:ギヨーム・ブラック、カトリーヌ・パイエ
撮影:アラン・ギシャウア 録音:エマニュエル・ボナ
助監督:ギレーム・アメラン
製作総指揮:トマ・アキム 映像編集:エロイーズ・ペロケ
音響編集:ヴァンサン・ヴァトゥ
ミキシング:ヴァンサン・ヴェルドゥ
美術・衣装:マリーヌ・ガリアノ
出演:エリック・ナンチュアング、サリフ・シセ、エドゥアール・シュルピス、アスマ・メサウデンヌ、アナ・ブラゴジェヴィッチ、リュシー・ガロ、マルタン・メニエ、ニコラ・ピエトリ、セシル・フイエ、ジョルダン・レズギ、イリナ・ブラック・ラペルーザ、マリ=アンヌ・ゲラン
これまでも、もてそうもない男を登場させて、もてた男にしてしまう作品を作ってきたギヨーム・ブラック監督の最新作。
今回も、女の子、もてない男、水遊び、サイクリング、嫉妬、諍いなどをモチーフに、夏を謳歌する若者たちの物語を展開。南フランスのきらびやかな風景の中、不器用で愛おしいヴァカンスが、にぎやかに映し出されていく。
夏の夜、セーヌ川のほとりはカーニバルのようにたくさんの人々が集い、そこでフェリックスはアルマに出会い、一晩の恋、夢のような時間を過ごした。翌朝、アルマは家族とともにヴァカンスへ旅立つ。彼女を忘れられない思い込みの強いフェリックスは、彼女も自分のことを好きなはずと勘違いし、親友のシェリフをさそい、事情を知らない、「相乗りアプリ」で知り合ったエドゥアールを道連れに、彼女を追って南フランスの田舎町ディーに乗りこむ。自分勝手なフェリックスと、生真面目なエドゥアールと心優しいシェリフ。二人はフェリックスに振り回されながらも、アルマのいる高原の避暑地?に向かう。ひょんなことから、付き合わされてしまったエドゥアールは、自分の目的地にたどりつけないことになってしまったマザーコンプレックスのお坊ちゃん。しかたなく、二人と行動を共にすることで、母親の呪縛から逃れていく。そして損な役回りのシェリフかと思ったら、彼もこの地で知り合った女性と、ヴァカンスの時を過ごしている。
サイクリング、水遊び、恋人たちのささやき。出会いとすれちがい、友情の芽生え…。3人のヴァカンスは思わぬ方向へ。
ロケ地はパリからおよそ600km南に離れたドローム県のディーという小さな町。撮影スタッフは12人という少人数。脚本は物語の大筋のみにとどめ、その時の光の変化や撮影現場の雰囲気を作品に取り込めるように、撮影での即興の余地を残し、町中を俳優たちと歩いて移動して撮影されたという。
『みんなのヴァカンス』は、『7月の物語』(17)に続いて、ギヨーム・ブラック監督がフランス国立高等演劇学校の学生たちと製作。俳優は長篇映画に出演するのがはじめての学生たち。スタッフもできるだけ若い人、長編映画に参加したことが少ない人を集めたそう。製作にフランス・ドイツ共同出資のテレビ局であるアルテが加わって、テレビ放映用に企画された作品だったが、高いクオリティーが評価され、第70回ベルリン国際映画祭パノラマ部門に選出、国際映画批評家連盟賞特別賞を受賞し、2021年にフランスで劇場公開された。
この監督のモチーフは、もてない男、あるいはもてそうもない男を登場させ、そこから最後、ハッピーエンドにもっていく、はっきり言って、男にとって都合のいい物語。女性からはそんなことありえないと思えるような物語の展開になるんだけど、それが憎めない話になっているところがうまいところ。今回も、勝手に両想いだと思っている思い込みの強いフェリックスを登場させ、お調子者の迷惑な男で、最初は観ていてイライラしてしまった。そこに心優しいシェリフという親友を登場させてバランスをとっている。この二人は黒人の青年。そして、母親のところに行こうとして(実家に帰ろうとしていたのかも)、「相乗りアプリ」で女性でも乗せようと思っていたのに、思わぬ二人の黒人の男たちが乗り込んで来て、自分が行こうと思っていたのと違う場所にたどり着いてしまい、迷惑千万なことになってしまうエドゥアールという白人の青年が登場するのだけど、彼にとってはマザーコンプレックスからの解放にもつながり、良かったのかも。そして、子守ばかりして、一番損な役回りと思ったシェリフが、最後、思わぬ幸運をつかむ。でも、これって、やっぱり男にとって都合のいい話だよね。それともフランスの若い人の間では自然の流れ?(暁)。
公式HP
プロダクション: Geko Films
共同プロダクション: ARTE France
2020年 / フランス / フランス語
カラー / 100分 / 1.66 : 1 / 5.1ch / DCP
字幕翻訳:高部義之 / 配給:エタンチェ
失われた時の中で Long Time Passing 英題「Long Time Passing」
2022年8月20日より ポレポレ東中野ほか全国順次公開
上映情報
写真家だった夫の死をきっかけにカメラを持ち、ベトナムに向かった妻
それから20年。枯葉剤被害者の現実の中に見出したものは
監督・撮影:坂田雅子
編集・構成:大重裕二
サウンドデザイン:小川武
音楽:難波正司
写真提供:グレッグ・デイビス フィリップ・ジョンズ・グリフィス ジョエル・サケット
コーディネーター・仏語翻訳:飛幡祐規
夫の死により、思いがけず映画監督として人生を歩むことになった坂田雅子さん。『花はどこへいった』(2007)『沈黙の春を生きて』(2011)など、ベトナムの枯葉剤被害をテーマにした作品を20年にわたって撮り続けてきた坂田雅子監督の最新作。
ベトナム帰還兵で、写真家だった夫のグレッグ・デイビスが2003年4月19日、胃の不調、足の腫れを訴え入院。5月4日、肝臓がんにより逝去。突然の死を遂げた原因が、ベトナム戦争時の枯葉剤にあるのではないかと聞かされ、夫の身に起きたことを知りたいと思い、ベトナムで取材を始めた。そこで見たのは、戦後30年を過ぎてもなお枯葉剤の影響で重い障害を持って生まれてくる子どもたち。そして、その子たちを愛しみ育てる家族の姿だった。
それからおよそ20年。ベトナムはめざましい経済発展を遂げたが、枯葉剤被害者とその家族は取り残されている。今なお、枯葉剤の影響で重い障害を持って生まれてくる子どもたち。そのケアを担い、家計を支えるために進学を断念せざる得ない兄弟、姉妹たち。無医村を周り、支援活動を続ける医師。アメリカ政府と枯葉剤を製造した企業に対する裁判を起こした元解放戦線の兵士だったジャーナリスト。時間の経過とともに明らかになる、戦争が奪ったものと奪えなかったもの。カメラは癒えることのない戦争の傷痕に向き合い続ける⼈々の姿を記録する。
坂田雅子さんは夫の死後、映像制作を⼀から学び、これまでに枯葉剤や核をテーマにしたドキュメンタリーを作ってきた。世界をめぐり坂田監督が描いてきたのは、戦争や原発事故などに翻弄されながらも、現実を受け止め、時に抗って、その中で生きる人々の姿。それらの人々との出会いの中で、坂田監督は 2010 年にベトナムの枯葉剤被害者支援のために「希望の種」という奨学金制度を設立、子どもたちの教育を支えてきた。「希望の種」の詳細についてはこちらで。
坂田雅子監督がこの作品を作ったいきさつを公式HPに載せています。大きな力がない私たちにもできることはあると語っています。ぜひ、皆さんもこの作品を観て、自分にできることから始めましょう。
<夫の死が枯葉剤のせいかもしれないと聞き、まさに藁にもすがるような気持ちで、枯葉剤について調べ、ドキュメンタリー映画を作ろうと思い立った時、私は55歳でした。何の経験もないところから始まった映画作りでした。
今回の『失われた時の中で』は枯葉剤をテーマにした3作目になります。続編を作ろうと意図していたわけではないのですが、ベトナムを訪れるたびに出会う被害者たちの声がこの映画を作らせたのです。
グレッグは彼の死によって、私に新しい生を与えてくれたのかもしれません。いくつかの小さなドキュメンタリーを作ってわかったことは、小さな私にもできることがある。いや、組織に頼らない小さな私だからこそできることがある、ということです。
ベトナム帰還米兵の「戦争はいつまでも終わらない。だから始めてはいけないのだ」という言葉が響き続けます。戦争や、国際政治など世界の大きな出来事の前につい立ちすくんでしまいますが、諦めずに一人一人がもち堪えるところに希望はあるのだと思います>
高校時代の1968~70年頃、日本でもベトナム反戦運動が盛んになり、私もデモに何度も参加した。そのことが、今の私の生き方に大きく影響している。そして、今もベトナムとベトナムの人々のことが気になる。
枯葉剤の影響については、中村悟郎さんがずっと写真で伝えてきたが、この作品の中でも、グレッグさんが中村さんの枯葉剤の影響を伝える写真展に行き、展覧会の後、中村さんに自身のベトナムでの枯葉剤体験について相談するシーンが出てきた。グレッグさんは、中村さんの写真展を見て、何らかの影響が自分にも出てくると予想していたのかもしれない。
*中村 梧郎 オフィシャルサイト
去年(2021)、日本公開されたイギル・ボラ監督の『記憶の戦争』という作品では、韓国軍がベトナムに参戦し、民間人を虐殺した話を扱っていたが、この作品を作るきっかけになったのが、監督の祖父がベトナム戦争に参戦し、枯葉剤の後遺症で亡くなったということもひとつのきっかけと語っている。監督にインタビューした時に、韓国軍は30万人近く参戦し、枯葉剤の被害者同盟の会員が14万人もいることを知った。これにも驚き。約半分の兵士が枯葉剤の影響を受けている。アメリカ軍は約55万人が参戦しているけど、いったいどのくらいの被害者がいるのだろう。アメリカ軍は友軍にも情報を流していなかったのだろうか。アメリカ、ベトナムだけでなく、ベトナムに参戦した他の国にも被害者はきっといるに違いない。ベトナム戦争が終了して47年、枯葉剤の被害はまだまだ続いている(暁)。
『記憶の戦争』イギル・ボラ監督インタビュー記事
2022年製作/60分/日本
配給:リガード
公式HP
シネマジャーナルHP 特別記事
『失われた時の中で Long Time Passing』坂田雅子監督インタビュー
『失われた時の中で Long Time Passing』上映、イベント情報
●あいち国際女性映画祭
9月9日(金)10:00 ウィルあいち大会議室
劇場イベント情報
●ポレポレ東中野
8月20日(土)10:00と11:50の回上映後、坂田雅子監督による初日舞台挨拶
8月21日(日)10:00の回上映後、坂田雅子監督・中村梧郎さん(フォトジャーナリスト)によるトーク
8月26日(金)10:00の回上映後、坂田雅子監督・小室等さん(フォークシンガー)によるトーク
8月27日(土)10:00の回上映後、坂田雅子監督・加藤登紀子さん(歌手)によるトーク
8月28日(日)10:00の回上映後、坂田雅子監督・渡辺一枝さん(作家)によるトーク
9月1日(木)10:00の回上映後、坂田雅子監督・大石芳野さん(写真家)によるトーク
●第七藝術劇場
9月3日(土)時間調整中|坂田雅子監督による初日舞台挨拶
9月4日(日)時間調整中|坂田雅子監督・桂良太郎さん(日越大学(ハノイ国家大学)客員研究員)によるトーク
●シネマテークたかさき
9月17日(土)、18日(日)時間調整中|坂田雅子監督による舞台挨拶
●京都シネマ
9月19日(月・祝)時間調整中|坂田雅子監督・アイリーン・美緒子・スミスさん(環境ジャーナリスト)によるトーク
9月28日(水)時間調整中|坂田雅子監督・山極壽一さん(総合地球環境学研究所 所長/人類学者)によるトーク
●シネマスコーレ
9月24日(土)時間調整中|坂田雅子監督による初日舞台挨拶
●前橋シネマハウス
10月1日(土)、2(日)時間調整中|坂田雅子監督による舞台挨拶
上映情報
写真家だった夫の死をきっかけにカメラを持ち、ベトナムに向かった妻
それから20年。枯葉剤被害者の現実の中に見出したものは
監督・撮影:坂田雅子
編集・構成:大重裕二
サウンドデザイン:小川武
音楽:難波正司
写真提供:グレッグ・デイビス フィリップ・ジョンズ・グリフィス ジョエル・サケット
コーディネーター・仏語翻訳:飛幡祐規
夫の死により、思いがけず映画監督として人生を歩むことになった坂田雅子さん。『花はどこへいった』(2007)『沈黙の春を生きて』(2011)など、ベトナムの枯葉剤被害をテーマにした作品を20年にわたって撮り続けてきた坂田雅子監督の最新作。
ベトナム帰還兵で、写真家だった夫のグレッグ・デイビスが2003年4月19日、胃の不調、足の腫れを訴え入院。5月4日、肝臓がんにより逝去。突然の死を遂げた原因が、ベトナム戦争時の枯葉剤にあるのではないかと聞かされ、夫の身に起きたことを知りたいと思い、ベトナムで取材を始めた。そこで見たのは、戦後30年を過ぎてもなお枯葉剤の影響で重い障害を持って生まれてくる子どもたち。そして、その子たちを愛しみ育てる家族の姿だった。
それからおよそ20年。ベトナムはめざましい経済発展を遂げたが、枯葉剤被害者とその家族は取り残されている。今なお、枯葉剤の影響で重い障害を持って生まれてくる子どもたち。そのケアを担い、家計を支えるために進学を断念せざる得ない兄弟、姉妹たち。無医村を周り、支援活動を続ける医師。アメリカ政府と枯葉剤を製造した企業に対する裁判を起こした元解放戦線の兵士だったジャーナリスト。時間の経過とともに明らかになる、戦争が奪ったものと奪えなかったもの。カメラは癒えることのない戦争の傷痕に向き合い続ける⼈々の姿を記録する。
坂田雅子さんは夫の死後、映像制作を⼀から学び、これまでに枯葉剤や核をテーマにしたドキュメンタリーを作ってきた。世界をめぐり坂田監督が描いてきたのは、戦争や原発事故などに翻弄されながらも、現実を受け止め、時に抗って、その中で生きる人々の姿。それらの人々との出会いの中で、坂田監督は 2010 年にベトナムの枯葉剤被害者支援のために「希望の種」という奨学金制度を設立、子どもたちの教育を支えてきた。「希望の種」の詳細についてはこちらで。
坂田雅子監督がこの作品を作ったいきさつを公式HPに載せています。大きな力がない私たちにもできることはあると語っています。ぜひ、皆さんもこの作品を観て、自分にできることから始めましょう。
<夫の死が枯葉剤のせいかもしれないと聞き、まさに藁にもすがるような気持ちで、枯葉剤について調べ、ドキュメンタリー映画を作ろうと思い立った時、私は55歳でした。何の経験もないところから始まった映画作りでした。
今回の『失われた時の中で』は枯葉剤をテーマにした3作目になります。続編を作ろうと意図していたわけではないのですが、ベトナムを訪れるたびに出会う被害者たちの声がこの映画を作らせたのです。
グレッグは彼の死によって、私に新しい生を与えてくれたのかもしれません。いくつかの小さなドキュメンタリーを作ってわかったことは、小さな私にもできることがある。いや、組織に頼らない小さな私だからこそできることがある、ということです。
ベトナム帰還米兵の「戦争はいつまでも終わらない。だから始めてはいけないのだ」という言葉が響き続けます。戦争や、国際政治など世界の大きな出来事の前につい立ちすくんでしまいますが、諦めずに一人一人がもち堪えるところに希望はあるのだと思います>
高校時代の1968~70年頃、日本でもベトナム反戦運動が盛んになり、私もデモに何度も参加した。そのことが、今の私の生き方に大きく影響している。そして、今もベトナムとベトナムの人々のことが気になる。
枯葉剤の影響については、中村悟郎さんがずっと写真で伝えてきたが、この作品の中でも、グレッグさんが中村さんの枯葉剤の影響を伝える写真展に行き、展覧会の後、中村さんに自身のベトナムでの枯葉剤体験について相談するシーンが出てきた。グレッグさんは、中村さんの写真展を見て、何らかの影響が自分にも出てくると予想していたのかもしれない。
*中村 梧郎 オフィシャルサイト
去年(2021)、日本公開されたイギル・ボラ監督の『記憶の戦争』という作品では、韓国軍がベトナムに参戦し、民間人を虐殺した話を扱っていたが、この作品を作るきっかけになったのが、監督の祖父がベトナム戦争に参戦し、枯葉剤の後遺症で亡くなったということもひとつのきっかけと語っている。監督にインタビューした時に、韓国軍は30万人近く参戦し、枯葉剤の被害者同盟の会員が14万人もいることを知った。これにも驚き。約半分の兵士が枯葉剤の影響を受けている。アメリカ軍は約55万人が参戦しているけど、いったいどのくらいの被害者がいるのだろう。アメリカ軍は友軍にも情報を流していなかったのだろうか。アメリカ、ベトナムだけでなく、ベトナムに参戦した他の国にも被害者はきっといるに違いない。ベトナム戦争が終了して47年、枯葉剤の被害はまだまだ続いている(暁)。
『記憶の戦争』イギル・ボラ監督インタビュー記事
2022年製作/60分/日本
配給:リガード
公式HP
シネマジャーナルHP 特別記事
『失われた時の中で Long Time Passing』坂田雅子監督インタビュー
『失われた時の中で Long Time Passing』上映、イベント情報
●あいち国際女性映画祭
9月9日(金)10:00 ウィルあいち大会議室
劇場イベント情報
●ポレポレ東中野
8月20日(土)10:00と11:50の回上映後、坂田雅子監督による初日舞台挨拶
8月21日(日)10:00の回上映後、坂田雅子監督・中村梧郎さん(フォトジャーナリスト)によるトーク
8月26日(金)10:00の回上映後、坂田雅子監督・小室等さん(フォークシンガー)によるトーク
8月27日(土)10:00の回上映後、坂田雅子監督・加藤登紀子さん(歌手)によるトーク
8月28日(日)10:00の回上映後、坂田雅子監督・渡辺一枝さん(作家)によるトーク
9月1日(木)10:00の回上映後、坂田雅子監督・大石芳野さん(写真家)によるトーク
●第七藝術劇場
9月3日(土)時間調整中|坂田雅子監督による初日舞台挨拶
9月4日(日)時間調整中|坂田雅子監督・桂良太郎さん(日越大学(ハノイ国家大学)客員研究員)によるトーク
●シネマテークたかさき
9月17日(土)、18日(日)時間調整中|坂田雅子監督による舞台挨拶
●京都シネマ
9月19日(月・祝)時間調整中|坂田雅子監督・アイリーン・美緒子・スミスさん(環境ジャーナリスト)によるトーク
9月28日(水)時間調整中|坂田雅子監督・山極壽一さん(総合地球環境学研究所 所長/人類学者)によるトーク
●シネマスコーレ
9月24日(土)時間調整中|坂田雅子監督による初日舞台挨拶
●前橋シネマハウス
10月1日(土)、2(日)時間調整中|坂田雅子監督による舞台挨拶
時代革命 原題:時代革命 Revolution of Our Times
2022年8月13日 渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
劇場情報
牙をむき出した権力に、自由は傷だらけになって立ち向かう
監督:周冠威(キウイ・チョウ)
2019年の「逃亡犯条例」改正案は、香港を中国の権威主義的支配下に置き、香港人の自由を制約するものだった。香港の人々はこの逃亡犯条例改正案に反対して立ち上がり、大規模デモが起きた。法案が提出されて以降の香港市民の抵抗運動を、その歴史的背景を入れながら、最前線で戦う若者たちの姿を描いた。
10代~30代の男女を中心に多くの人がデモに参加。それに70代と思われる陳爺さんも、若者に負けないくらい元気に参加。飛び交う催涙弾、ゴム弾、火炎瓶。壮絶な運動の約180日間を多面的に描いた本作。
デモの参加者たちは「逃亡犯条例改正案の完全撤回」「普通選挙の導入」など五大要求を掲げ、6月16日には約200万人(主催側発表)に膨れ上がった。これは香港の人口の約3割という人数。警察との衝突は徐々に激しさを増す。それどころか元朗駅では黒社会の人たちがデモ参加者を襲うという場面も出てきた。まるで香港映画さながら。青年が警官に銃撃されるショッキングな場面も映し出される。
あの時、香港で何があったのか、市民は何と戦っていたのか、香港の事情に詳しくない人へも整理してわかりやすく組み立てている。そして2020年、政府はより厳しい「国家安全法」を立ち上げ、これまでのようにデモをすることすらできなくなった。
監督は『十年』の中で、『焼身自殺者』を監督した周冠威(キウィ・チョウ)で、他のスタッフ名は安全上の理由で明かされていない。
2022年5月8日に行われた香港行政長官選挙に警察出身の李家超氏一人だけが中国政府の後押しで立候補。当選した。ますます香港市民への締め付けが厳しくなるだろう。香港返還時の一国二制度の約束はないに等しい。
香港の民主化運動を追うドキュメンタリー。去年(2021)のフィルメックスでは妨害を避けるため、直前まで題名を伏せて特別上映され、満席だった。
リーダー不在だが、SNSを駆使してデモ隊は、集合、離散を繰り返す。立法会、地下鉄駅、香港中文大学、香港理工大学など、運動は大きなうねりを巻き起こし、「光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、時代の革命だ)」「香港人、加油(がんばれ)」と声を上げて抗議した。しかし、増える逮捕者。「ささやかな我が命を200万人に捧ぐ」という遺書を残し自殺する者も。
これまで、こういうデモの映像は、細々とでも自主上映できたが、今は上映することができなくなってしまった。日本で公開されることで、香港の実情が忘れられないように、映像が残り、応援になっていくことを願う。
この映画と共に、香港の人たちの抵抗の歴史を描いた『Blue Island 憂鬱之島』(チャン・ジーウン監督)という作品も公開されている。まだ観ていない方はぜひ両作品を観て、目に焼き付けてください(暁)。
公式HP
2021年製作/158分/G/香港
配給:太秦
シネマジャーナルHP 特別記事
『時代革命』 キウィ・チョウ監督インタビュー
劇場情報
牙をむき出した権力に、自由は傷だらけになって立ち向かう
監督:周冠威(キウイ・チョウ)
2019年の「逃亡犯条例」改正案は、香港を中国の権威主義的支配下に置き、香港人の自由を制約するものだった。香港の人々はこの逃亡犯条例改正案に反対して立ち上がり、大規模デモが起きた。法案が提出されて以降の香港市民の抵抗運動を、その歴史的背景を入れながら、最前線で戦う若者たちの姿を描いた。
10代~30代の男女を中心に多くの人がデモに参加。それに70代と思われる陳爺さんも、若者に負けないくらい元気に参加。飛び交う催涙弾、ゴム弾、火炎瓶。壮絶な運動の約180日間を多面的に描いた本作。
デモの参加者たちは「逃亡犯条例改正案の完全撤回」「普通選挙の導入」など五大要求を掲げ、6月16日には約200万人(主催側発表)に膨れ上がった。これは香港の人口の約3割という人数。警察との衝突は徐々に激しさを増す。それどころか元朗駅では黒社会の人たちがデモ参加者を襲うという場面も出てきた。まるで香港映画さながら。青年が警官に銃撃されるショッキングな場面も映し出される。
あの時、香港で何があったのか、市民は何と戦っていたのか、香港の事情に詳しくない人へも整理してわかりやすく組み立てている。そして2020年、政府はより厳しい「国家安全法」を立ち上げ、これまでのようにデモをすることすらできなくなった。
監督は『十年』の中で、『焼身自殺者』を監督した周冠威(キウィ・チョウ)で、他のスタッフ名は安全上の理由で明かされていない。
2022年5月8日に行われた香港行政長官選挙に警察出身の李家超氏一人だけが中国政府の後押しで立候補。当選した。ますます香港市民への締め付けが厳しくなるだろう。香港返還時の一国二制度の約束はないに等しい。
香港の民主化運動を追うドキュメンタリー。去年(2021)のフィルメックスでは妨害を避けるため、直前まで題名を伏せて特別上映され、満席だった。
リーダー不在だが、SNSを駆使してデモ隊は、集合、離散を繰り返す。立法会、地下鉄駅、香港中文大学、香港理工大学など、運動は大きなうねりを巻き起こし、「光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、時代の革命だ)」「香港人、加油(がんばれ)」と声を上げて抗議した。しかし、増える逮捕者。「ささやかな我が命を200万人に捧ぐ」という遺書を残し自殺する者も。
これまで、こういうデモの映像は、細々とでも自主上映できたが、今は上映することができなくなってしまった。日本で公開されることで、香港の実情が忘れられないように、映像が残り、応援になっていくことを願う。
この映画と共に、香港の人たちの抵抗の歴史を描いた『Blue Island 憂鬱之島』(チャン・ジーウン監督)という作品も公開されている。まだ観ていない方はぜひ両作品を観て、目に焼き付けてください(暁)。
公式HP
2021年製作/158分/G/香港
配給:太秦
シネマジャーナルHP 特別記事
『時代革命』 キウィ・チョウ監督インタビュー
2022年08月13日
ソニック・ザ・ムービー ソニック vs ナックルズ(原題:Sonic the Hedgehog 2)
監督:ジェフ・ファウラー
出演:ジェームズ・マースデン、ベン・シュワルツ、ティカ・サンプター、ナターシャ・ロスウェル、 アダム・パリー、シェマー・ムーア、コリーン・オショーネシー 、イドリス・エルバ 、ジム・キャリー
日本語吹替版:中川大志、山寺宏一、木村昴、広橋涼、中村悠一、井上麻里奈
日本版主題歌:DREAMS COME TRUE
ヒーローになるべく日々奮闘中のソニック。一緒に暮らしているトムとマディはまだ子供なのに、と心配だ。2人はマディの姉レイチェルの結婚式のためにハワイに行くことになり、留守番役のソニックにいい子でいるように言い聞かせる。2人がいなくなったとたん、やりたい放題のソニックだが超音速で元に戻すのもお手の物。
そんな時に世界征服を企むドクター・ロボトニックが最強の敵、ナックルズと襲ってくる。ナックルズが探しているのは史上最強の破壊力を持つ「マスターエメラルド」。ドクターが手に入れたら、宇宙も意のままになってしまう。彼らより先にマスターエメラルドを見つけなければ!メカニックのテイルスと共に、ソニックは危険な旅に飛び込んでいく。
第1作の『ソニック・ザ・ムービー』から2年。独りぼっちで地球にやってきたソニックでしたが、今回は、黄色のテイルスが仲間になります。真っ赤なナックルズが新たな敵として登場、人間界には3色の旋風が巻き起こります。普通の人には速過ぎてよく見えませんが。ソニックのいつもの超音速は同じ能力のあるナックルズには通用せず、しかも生まれながらの戦士で抜群のパンチ力で攻撃してきます。どうするソニック?
ジム・キャリー扮するドクター・ロボトニックの切れっぷりも健在ですが、60代になった彼は4月に俳優引退宣言をしています。エキセントリックな役柄が多いジム・キャリー、ご本人は静かな生活が好きなのだとか。私が認識したのは『ペギー・スーの結婚』(1986)、表情豊かな人という印象でした。ソニックの敵役で出し切ったのか、これが最後になってしまうのか気になるところです。
日本版主題歌として提供された楽曲は、30年前に「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のゲーム楽曲として書き下ろされた「UP ON THE GREEN HILL」のメロディに吉田美和さんが英語の詩をのせています。(白)
2022年/アメリカ/カラー/シネスコ/123分
配給:東和ピクチャーズ
(C)PARAMOUNT PICTURES AND SEGA OF AMERICA, INC.
https://sonic-movie.jp/
★2022年8月19日(金)ロードショー
●映画『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』
ムビチケ前売券を購入いただいた方
全員に『ソニック・ザ・ムービー』1作目の視聴プレゼント!
バイオレンスアクション
監督:瑠東東一郎
脚本:江良 至、瑠東東一郎
原作:浅井蓮次(漫画家)沢田新(原作者)
「バイオレンスアクション」小学館「やわらかスピリッツ」連載中
撮影:髙野学
アクション監督:田渕景也
出演:橋本環奈(菊野ケイ)、杉野遥亮(テラノ)、鈴鹿央士(渡辺)、馬場ふみか(店長)、森崎ウィン(金子)、大東駿介(アヤベ)、太田夢莉(だりあ)、佐藤二朗(三代目組長)、城田優(みちたかくん)、高橋克典(木下)、岡村隆史(ヅラさん)
ピンクボブがトレードマークの菊野ケイの目標は”日商簿記検定2級合格”。専門学校に通学中、スーツの長身イケメンに遭遇して胸をときめかせ、友達と楽しく毎日を過ごしている。一見ごく普通の女の子だが、アルバイト先のラーメン屋は仮の姿。裏稼業は殺しの請負。依頼が入れば躊躇なくターゲットを抹殺する。凄腕の殺し屋ケイが、ヤクザの跡目争いに巻き込まれ、史上最もハードなアルバイトに挑む!変幻自在のアクションに注目せよ!
原作のコミックはこちら。ケイに橋本環奈さんをキャスティングした時点で花丸でした。ゆるふわヒットガールなかなかの再現度です。こんなに動ける人でしたか!
男性陣も豪華な顔ぶれです。どのキャラもイケメン度上がって、「テラノ」の杉野遥亮さん、城田優さんの「みちたかくん」は過ぎるほどです。自分ルールがウザいですが、最狂レベルの強さ。「渡辺」役の鈴鹿央士さんは可愛さ満点。昔のグループサウンズのようなマッシュルームカットは地毛です。ライフルを持って登場するスナイパーの金子は映画のみのキャラ。森崎ウィンさん、ワイルドな髭で出演。ヅラさんの岡村隆史さん、謎の大男くっきーさんのインパクト大。
原作は今も大ヒット&連載中なので、続編も期待できるのでは。
注目のアクションは「リアルを360度カメラで撮影し、高画質のデータとして再生する最新の全天球映像技術“ボリュメトリック”を日本映画で初めて採用」したそうです。書いてみても理屈がよくわからないので、これはもう観て驚いていただくしかありません。これはいったいどうやって撮影したの?と目が丸くなるシーンがそうです。(白)
sony公式の“ボリュメトリック”解説がこちらに出ています。
2022年/日本/カラー/111分
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©️浅井蓮次・沢田 新・小学館/『バイオレンスアクション』製作委員会
https://www.va-movie.jp/
★2022年8月19日(金)ロードショー
サバカン SABAKAN
監督:金沢知樹
脚本:金沢知樹、萩森淳
撮影:菅祐輔
音楽:大島ミチル
主題歌 : ANCHOR「キズナ feat. りりあ。」(VIA / TOY'S FACTORY)
出演:番家一路(久田孝明・子ども時代)、原田琥之佑(竹本健次)、尾野真千子(久田良子)、竹原ピストル(久田広重)、貫地谷しほり(竹本雅代)、岩松了(内田)、草彅 剛(久田孝明・大人)
1986年の長崎。久田孝明は小学5年生。斉藤由貴とキン肉マン消しゴムが大好き。両親は仲がいいがよくケンカする。弟と4人の家はいつも賑やかだ。同じクラスの竹本健次は父親がなく、家が貧しいのをからかわれている。そんな竹本は、久田をイルカを見にブーメラン島に行こうと誘う。ママチャリに二人乗りして山を越え、初めて子供だけで海へと向かう。ヤンキーに絡まれたり、自転車が壊れたり散々な目に遭うが、綺麗なお姉さんに助けられたりもする。小さな冒険を通じて二人はすっかり仲良くなった。
大人になった久田を草彅 剛さん。柔らかな声で、子どものころの忘れられないひと夏を語ります。
金沢知樹監督はかつて芸人としてデビューしたあと、構成作家になり、劇団を旗揚げ、脚本を書き、演出もし、と歩んできてこれが初監督の長編作品です。『ガチ星』(2018)や2020年の「半沢直樹」の脚本も手掛けているんですね。
長崎出身の監督の子ども時代が反映されているのか、家族は明るく仲が良くて、山も海も輝いています。ベテランの俳優たちが子役を支え、誰もが胸にしまっている戻らない日々を見せてくれます。久田兄弟はほんとの兄弟、いたずらすると引っぱたく尾野真千子母ちゃんの手の速さときたら!「またね」「またね」と言い合って別れた友だちは今どうしているのでしょう。
サバ缶は美味しいので我が家も常備しています。竹本くんのアイディアいただき!(白)
2022年/日本/カラー/96分
配給:キノフィルムズ
(C)2022「SABAKAN」Film Partners
https://sabakan-movie.com/
★2022年8月19日(金)ロードショー
ハウ
監督:犬童一心
原作:斉藤ひろし
脚本:斉藤ひろし 犬童一心
主題歌:GReeeeN「味方」(ユニバーサルミュージック)
出演:田中圭(赤西民夫)、池田エライザ(足立桃子)、野間口徹(鍋島史郎)、渡辺真起子(鍋島麗子)、長澤 樹(朝倉麻衣)、モトーラ世理奈(森下めぐみ)、石橋蓮司(関根次郎)、宮本信子(関根志津)
市役所に勤める民夫は婚約者にあっさり捨てられた。そんな民夫に上司の鍋島は大きな保護犬と引き合わせる。以前の飼い主に手術をされて声が出ない白い犬は、すぐに民夫に懐いた。民夫はその鳴き声のまま「ハウ」と名付けて一緒に暮らし始める。毎日が楽しく互いの信頼も深まりかけがえのない存在になったころ、ハウは突然いなくなってしまった。必死に探しまわるが、ある日ハウと似た大型犬が事故死したと連絡が入る。すでに火葬されていて、確かめようがなかった。
実は、ハウは横浜から遠く離れた青森まで行っていた。大好きな民夫に会いたい一心で、南に向かって走り続ける。
偶然が重なって遠くまで行ってしまったハウは、民夫を求めて歩くうちに悲しみを抱えた人々と出逢います。これがもう一つ、いや、それぞれに映画ができそうなストーリーです。ハウはそばにいるだけなのに、その人たちは癒されてちょっとだけいい方向へ進んでいきます。見極めたように彼から離れて、また民夫を探して走るハウ。ハウが死んでしまったと思った民夫は、職場の同僚の桃子や、上司の鍋島夫妻に支えられて少しずつ元の生活を取り戻します。犬と人の愛情と深いつながりに、心がぽっと温かくなります。自分勝手な人間も出てきますが、そこもハウの活躍どころ。ハウ役は俳優犬のベック、初演技だそうですが、田中圭さんとの息はぴったり。石田ゆり子さんのナレーションも優しく、観終わったころには、犬と暮らしたくなっていました。
馳星周さんの『少年と犬』という小説を思い出しました。ハードボイルドな小説を数多く書かれてている馳さんですが、飼い犬のために引っ越しするほどの愛犬家。こと犬に関する小説はものすごく優しいんです。ハウの旅が気に入った方はそちらもおすすめ。犬童監督はこれまでにも、動物とのかかわりを描いた作品を何本も送り出しています。大島弓子さん原作の映画化作品もありますので、猫派の方も要チェックです。(白)
2022年/日本/カラー/118分
配給:東映
(C)2022 「ハウ」製作委員会
https://haw-movie.com/
★2022年8月19日(金)ロードショー
2022年08月07日
ブライアン・ウィルソン/約束の旅路 原題:Brian Wilson: Long Promised Road
2022年8月12日 TOHOシネマズシャンテ、渋谷シネクイントほかにて全国公開
カリフォルニア・サウンズを生み出したソングライター
元ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンに密着
監督:ブレント・ウィルソン
製作:ティム・ヘディントン、テリサ・スティール・ペイジ、ブレント・ウィルソン
製作総指揮:ブライアン・ウィルソン、メリンダ・ウィルソン、ジェイソン・ファイン
共同プロデューサー:ジャン・ジーフェルス
出演:ブライアン・ウィルソン、ジェイソン・ファイン、ブルース・スプリングスティーン、エルトン・ジョン、ニック・ジョナス、リンダ・ペリー、ドン・ウォズ、ジェイコブ・ディラン、テイラー・ホーキンス、グスターヴォ・ドゥダメル、アル・ジャーディン、ジム・ジェームズ、ボブ・ゴーディオ
Ⓒ2021TEXAS PET SOUNDS PRODUCTIONS, LLC
今でもラジオから曲が流れる、「サーフィン・U.S.A.」「グッド・バイブレーション」「神のみぞ知る」など。そして名盤『ペット・サウンズ』、『スマイル』。『ペット・サウンズ』はビートルズに影響を与えたともいわれる。これらは1960年代の「ザ・ビーチ・ボーイズ」のヒット曲とアルバム。そしてこの曲を作ったのが、「ザ・ビーチ・ボーイズ」の創立メンバーであり、リーダーのブライアン・ウィルソン。聴く者の心を捉えて離さない旋律とコーラスの美しさ。ブライアンの高音にハリのある歌声。今の音楽にも影響を与えた斬新な発想の曲作り。
他の追随を許さないソングライターは、20歳でビーチ・ボーイズを頂点へと押し上げながら、ある日、グループから忽然と姿を消した。いったい何があったのか。輝かしい栄光の日々のなか、ブライアン・ウィルソンが抱えていた苦しみ。壮絶な人生の喜びと悲しみ、秘めた想いが、ブライアン自身によって語られる。
ブライアンが信頼をおく、友人の元ローリング・ストーン誌のベテラン編集者ジェイソン・ファインとともにドライブをしながら、幼少期を過ごした家や、『サーフィン・サファリ』のジャケット写真を撮影したパラダイス・コーブなど、ゆかりの西海岸の街をめぐる。ドライブを楽しみながらブライアンが話すグループや私生活をめぐる記憶を軸に、ホームビデオやレコーディング風景などの貴重なアーカイブ映像とともに、3年間で70時間以上にわたるインタビュー撮影で語られるのは、プレッシャーに苛まれ陥った薬物中毒、自由と金銭を奪われ続けた精神科医との葛藤。そして亡くなってしまったかけがえのない弟たちへの確執と愛情。それでもブライアンには音楽が、そして創作意欲があった。音楽が彼を世に導き、最悪の環境から救い出し、人間的な復活を遂げた。
貴重なアーカイヴ映像やブライアンをよく知る関係者、彼を信奉するブルース・スプリングスティーンやエルトン・ジョンなど有名ミュージシャンがブライアンへの思いを語り、ブライアン・ウィルソンの軌跡をひも解いていく。
1960年代後半というと、私は中学生から高校生の頃。グループサウンズにハマっていた。そして高校3年の時にはフォークソング同好会を立ち上げ、活動していた。高校3年の時に初めてバイトして買ったのもギターだった。
イギリスではビートルズやローリングストーンズ、アメリカではモンキーズやビーチボーイズが全盛時代。外国の音楽も入ってきていたけど、主にラジオや街に流れる音楽で、TVで映像が流れることはあまりなかった。というよりは、我が家では、日本の音楽番組は見ていたけど、外国の音楽番組を見ることがなかったということだったのかもしれない。でも、この4つのグループぐらいは特集があったかもしれない。
この数年、『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』『スージーQ』『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』『エコー・イン・ザ・キャニオン』など、その頃の音楽シーンをよみがえらせる音楽ドキュメンタリーが、次から次へと公開され、その60年代後半の映像がいっぱいあったんだということを知った。当時、名前しか知らなかったり、名前は聞いたことはあっても顔と名前が一致しなかった人も多く、ブライアン・ウィルソンもその一人だった。『エコー・イン・ザ・キャニオン』で、ビーチボーイズの曲を作っていた人ということを知り、この映画で彼の歩んできた道と苦悩を知った(暁)。
公式HP
2021年/アメリカ/英語/93分
字幕監修:萩原健太
配給:パルコ ユニバーサル映画
宣伝:ポイント・セット
カリフォルニア・サウンズを生み出したソングライター
元ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンに密着
監督:ブレント・ウィルソン
製作:ティム・ヘディントン、テリサ・スティール・ペイジ、ブレント・ウィルソン
製作総指揮:ブライアン・ウィルソン、メリンダ・ウィルソン、ジェイソン・ファイン
共同プロデューサー:ジャン・ジーフェルス
出演:ブライアン・ウィルソン、ジェイソン・ファイン、ブルース・スプリングスティーン、エルトン・ジョン、ニック・ジョナス、リンダ・ペリー、ドン・ウォズ、ジェイコブ・ディラン、テイラー・ホーキンス、グスターヴォ・ドゥダメル、アル・ジャーディン、ジム・ジェームズ、ボブ・ゴーディオ
Ⓒ2021TEXAS PET SOUNDS PRODUCTIONS, LLC
今でもラジオから曲が流れる、「サーフィン・U.S.A.」「グッド・バイブレーション」「神のみぞ知る」など。そして名盤『ペット・サウンズ』、『スマイル』。『ペット・サウンズ』はビートルズに影響を与えたともいわれる。これらは1960年代の「ザ・ビーチ・ボーイズ」のヒット曲とアルバム。そしてこの曲を作ったのが、「ザ・ビーチ・ボーイズ」の創立メンバーであり、リーダーのブライアン・ウィルソン。聴く者の心を捉えて離さない旋律とコーラスの美しさ。ブライアンの高音にハリのある歌声。今の音楽にも影響を与えた斬新な発想の曲作り。
他の追随を許さないソングライターは、20歳でビーチ・ボーイズを頂点へと押し上げながら、ある日、グループから忽然と姿を消した。いったい何があったのか。輝かしい栄光の日々のなか、ブライアン・ウィルソンが抱えていた苦しみ。壮絶な人生の喜びと悲しみ、秘めた想いが、ブライアン自身によって語られる。
ブライアンが信頼をおく、友人の元ローリング・ストーン誌のベテラン編集者ジェイソン・ファインとともにドライブをしながら、幼少期を過ごした家や、『サーフィン・サファリ』のジャケット写真を撮影したパラダイス・コーブなど、ゆかりの西海岸の街をめぐる。ドライブを楽しみながらブライアンが話すグループや私生活をめぐる記憶を軸に、ホームビデオやレコーディング風景などの貴重なアーカイブ映像とともに、3年間で70時間以上にわたるインタビュー撮影で語られるのは、プレッシャーに苛まれ陥った薬物中毒、自由と金銭を奪われ続けた精神科医との葛藤。そして亡くなってしまったかけがえのない弟たちへの確執と愛情。それでもブライアンには音楽が、そして創作意欲があった。音楽が彼を世に導き、最悪の環境から救い出し、人間的な復活を遂げた。
貴重なアーカイヴ映像やブライアンをよく知る関係者、彼を信奉するブルース・スプリングスティーンやエルトン・ジョンなど有名ミュージシャンがブライアンへの思いを語り、ブライアン・ウィルソンの軌跡をひも解いていく。
1960年代後半というと、私は中学生から高校生の頃。グループサウンズにハマっていた。そして高校3年の時にはフォークソング同好会を立ち上げ、活動していた。高校3年の時に初めてバイトして買ったのもギターだった。
イギリスではビートルズやローリングストーンズ、アメリカではモンキーズやビーチボーイズが全盛時代。外国の音楽も入ってきていたけど、主にラジオや街に流れる音楽で、TVで映像が流れることはあまりなかった。というよりは、我が家では、日本の音楽番組は見ていたけど、外国の音楽番組を見ることがなかったということだったのかもしれない。でも、この4つのグループぐらいは特集があったかもしれない。
この数年、『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』『スージーQ』『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』『エコー・イン・ザ・キャニオン』など、その頃の音楽シーンをよみがえらせる音楽ドキュメンタリーが、次から次へと公開され、その60年代後半の映像がいっぱいあったんだということを知った。当時、名前しか知らなかったり、名前は聞いたことはあっても顔と名前が一致しなかった人も多く、ブライアン・ウィルソンもその一人だった。『エコー・イン・ザ・キャニオン』で、ビーチボーイズの曲を作っていた人ということを知り、この映画で彼の歩んできた道と苦悩を知った(暁)。
公式HP
2021年/アメリカ/英語/93分
字幕監修:萩原健太
配給:パルコ ユニバーサル映画
宣伝:ポイント・セット
キングメーカー 大統領を作った男 原題:킹메이커(キングメーカー) 英題:Kingmaker
監督:ビョン・ソンヒョン(『マイPSパートナー』『名もなき野良犬の輪舞ロンド』)
出演:ソル・ギョング(『ペパーミント・キャンディー』『名もなき野良犬の輪舞ロンド』『茲山魚譜 チャサンオボ』)、イ・ソンギュン(『パラサイト 半地下の家族』)、ユ・ジェミョン(「梨泰院クラス」)、チョ・ウジン(『SEOBOK/ソボク』)
1961年。世の中を変えたいと野党・新民党に所属し、理想と情熱に溢れる政治家キム・ウンボム(ソル・ギョング)。韓国東北部江原道で小さな薬局を営むソ・チャンデ(イ・ソンギュン)は、何度も落選するキム・ウンボムにほれ込み、選挙事務所を訪れる。「1票を得るより相手の10票を減らす」戦略を提案するなど、チャンデの豊富なアイディアで、ウンボムは補欠選挙で初当選する。さらに、1963年の国会議員選挙では、地元の木浦で対立候補を破り、新進気鋭の国会議員として注目を集める。しかしチャンデは、対立候補の隠し子を利用したネガティブキャンペーンを問題視されて謹慎状態になる。1967年の議員選挙で、ウンボムの台頭を警戒した大統領陣営のウンボム潰しに対抗するため、チャンデは再びウンボム陣営に呼び戻される・・・
理想に燃える政治家キム・ウンボムのモデルになっているのは、第15代大統領(在任:1998年~2003年)となった金大中(キム・デジュン)。その選挙参謀だった厳昌録(オム・チャンノク)が、ソ・チャンデのモデルとなっていて、本作で描かれている数々の選挙運動の秘策はほぼ実話とのこと。今、日本では、票を得るためにカルト集団の力を借りていたことが明るみになりましたが、どこの国でも選挙に勝つために、どの陣営もし烈な闘いを繰り広げます。そんな選挙の裏が見え隠れする物語なのですが、下手すると泥臭くなりそうな話を、ビョン・ソンヒョン監督は、『名もなき野良犬の輪舞ロンド』と同じく、とてもスタイリッシュに描いています。ホン・サンス監督作品にも数多く出演しているイ・ソンギュンが、選挙参謀をスマートに演じています。また、ソル・ギョングが理想に燃えた金大中を彷彿させる人物を体現していて、木浦での熱のこもった演説には、惚れ惚れしました。
金大中といえば、1973年(昭和48年)8月8日に、九段下のホテルグランドパレスから何者かに拉致され、船の上で抹殺されそうになったところをかろうじて助けられたという、いわゆる金大中事件が忘れられません。私が学生時代のことです。その時には、なぜ金大中が拉致されるような目にあったのかわからなかったのですが、その後、大統領になられ、独裁にまみれた韓国で民主的な大統領が誕生したことを知ったのでした。民衆に寄り添った人物が政敵として消されようとした事件だったのだと、あらためて驚いたものです。どこの国であれ、権力を持つ者は、民のことを真に思う政治をしてほしいものです。 (咲)
2021年/韓国/123分/5.1ch/ビスタ
字幕翻訳:小寺由香
提供:ツイン、Hulu
配給:ツイン
公式サイト:https://www.kingmaker-movie.com/
★2022年8月12日(金) シネマート新宿ほか全国順次ロードショー