2022年07月16日

島守の塔

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監督:五十嵐匠
脚本:五十嵐匠 柏田道夫
原案:「沖縄の島守ー内務官僚かく戦えりー」田村洋三著(中公文庫)
撮影:釘宮慎治
音楽:星勝
出演:萩原聖人(島田叡)、村上淳(荒井退造)、吉岡里帆(比嘉凛)、香川京子(比嘉凛/現代)、池間夏海、榎木孝明、成田浬、水橋研二

第2次世界大戦末期、アメリカ軍が着々と迫っている沖縄に本土より派遣された2人の内務官僚がいた。戦中最後の沖縄県知事として赴任した神戸出身の島田叡(あきら)と、島田と行動を共にした警察部長の荒井退造。荒井は1943年に赴任し、戦火の迫る沖縄から本土や台湾への疎開を進めていた。1944年大空襲で那覇は焦土と化し、多くの島民が犠牲となった。1945年1月、大阪内政部長だった島田は、米軍上陸が囁かれる沖縄県知事への内示を即断・拝命し、家族を残して一人着任する。食糧不足の中、自ら米の調達に歩き、住民保護を第一に責務を全うしようとした。しかし度重なる軍の要請を受け、鉄血勤皇隊やひめゆり学徒隊として多くの青少年を戦場へ送らねばならなかった。2人は苦悩しながらも、県民の命を守り「命(ぬち)どぅ宝、生きぬけ!」と励まし続ける。4月1日、沖縄本島中部に米軍が上陸、本島を南北に分断する。

日本国内唯一の地上戦「沖縄戦」。鉄の暴風と言われた激しい空襲、艦砲射撃、上陸戦を戦った軍と島民。6月23日、日本軍司令官・参謀長らが自決して組織的戦闘は終結しました。戦陣訓は下級兵士まで浸透していたうえ、当時の民間人は鬼畜米英と教え込まれていたので、降伏することなく壕で焼かれたり崖から飛び降りたりしてたくさんの命が消えました。そんな中で、官僚が「命(ぬち)どぅ宝、生きぬけ!」と叫び続けるというのは命がけのことです。沖縄では20万人が亡くなったと言われていますが、12万人が沖縄県民、そのうち9万4千人が一般の住民だったそうです。
職務を越えて沖縄県民のために奔走した2人の最後は明らかでなく、遺骨も見つかっていません。摩文仁の丘の平和祈念公園の霊域参道入口には「島守の塔」(県職員469柱を合祀)と2人の連名の慰霊碑が建立されています。すぐそばには、島田の出身地兵庫県、荒井の出身地栃木県の慰霊塔もあります。萩原聖人さんと村上淳さんが、実直で情のある官僚を演じて今の世にもこういう人がいてほしいと思ってしまいました。
知事の元で働いた比嘉凛(ひが りん)のまだ戦火の及ばなかった幸せな時代と、家族・友人を次々と失う激戦のときも描かれています。演じる吉岡里帆さんほか軍国少女たちの絶望が胸に刺さりました。戦後生き延びた凛を演じたのは『ひめゆりの塔』(1953年公開/今井正監督)で女子学生を演じた香川京子さん。ほぼ70年を経ての沖縄戦の映画の出演にどんな思いを抱かれたのでしょう。
本土復帰50年の節目ですが、節目でなくとも亡くなられた多くの人たちがいたことを忘れません。
☆6月に沖縄を訪ねた日記はこちら。(白)


日本軍が沖縄の民間人にも「敵に捕まるより玉砕しろ」と言った時代に、「生きぬけ!」と励ました島田叡と荒井退造。勇気ある官僚がいたことに心が震えます。
昨年公開された 『生きろ 島田叡―戦中最後の沖縄県知事』(監督:佐古忠彦)で、初めて島田叡氏のことを知り、こんな方がいたのだ!と驚きました。何より、私と同じ神戸生まれ。父が長く勤務した兵庫高校の前身、神戸二中の卒業生でした。兵庫高校の正門近くに島田叡氏の銅像があるものの、その功績は知らなかったと父。
『生きろ 島田叡―戦中最後の沖縄県知事』にリーダーのあるべき姿を思う。(咲)
こちらは、島田叡氏に焦点を当てたドキュメンタリー映画でしたが、ご本人の映像も音声も残っていない中で、当時を知る人々の証言で人物像を浮き彫りにしたものでした。
『島守の塔』では、萩原聖人さんと村上淳さんが、沖縄戦を闘った実在の人物を見事に体現しています。私にとっては、軍司令官・牛島満を榎木孝明さんが演じているのが嬉しかったです。『HAZAN』(2003)、『アダン』(2005)、『半次郎』(2010)の3作品で主役を務め、五十嵐匠監督とは縁の深い榎木さん。牛島軍司令官と同じ鹿児島出身で、温厚な人柄で沖縄の人たちにも信頼を得ていたという牛島軍司令官に、まさに適役です。
島田叡氏も牛島満氏も、沖縄行きを命じられて、死を覚悟して赴いたといわれています。「お国のためなら」と拒否できないような時代、そして、そこに暮らす民間人を巻き込むような戦争の時代が、再び訪れないことを祈るばかりです。(咲)



2022年/日本/カラー/シネスコ/130分
配給:毎日新聞社、ポニーキャニオンエンタープライズ
(C)2022 映画「島守の塔」製作委員会
https://shimamori.com/
★2022年7月22日(金)シネスイッチ銀座ほか全国順次公開


posted by shiraishi at 23:46| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

あなたがここにいてほしい(原題:我要我們在一起  英題:Love Will Tear Us Apart)

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監督:シャー・モー(沙漠)
原作:リ―・ハイボー(李海波)
  《與我十年長跑的女友明天要嫁人了》
プロデューサー:チェン・クォフー(陳国富)
主題歌:empty world(這世界那麼多人)
歌:カレン・モク(莫文蔚)
出演:チュー・チューシアオ(リュー・チンヤン)、チャン・ジンイー(リン・イーヤオ)
日本語版吹き替え:古川雄輝(リュー・チンヤン)、三森すずこ(リン・イーヤオ)

白蒲高校に通うリュー・チンヤンは美人で優等生のリン・イーヤオに一目ぼれ。なんとか彼女にラブレターを渡すが、それを生活指導担当のヤオ先生にみつかってしまう。頭を丸めて校内放送で謝罪すれば見逃すと言われ、チンヤンはなんとその校内放送で彼女に告白した。数年後イーヤオは一流大学に合格、チンヤンは専門学校へ。いつか2人でマンションに住みたいと、建設現場で真面目に働くチンヤンだったが彼女の家族にはいい顔をされない。そんなときに学生時代からの友人のダーチャオからの頼みで、大きなプロジェクトを仕切ることになった。

2013年1月中国の「ドウバン」というサイトに《與我十年長跑的女友明天要嫁人了》「十年間一緒にいた彼女は明日他人の嫁に行く」という長い文章が投稿され、話題となりました。若者の結婚までに出逢う様々な出来事が共感を呼び、社会現象になったそうです。すぐにこの映画化権を獲得したプロデューサーが、長い時間をかけて脚本を練り、シャー・モー監督を見出して8年がかりで作品が完成しました。チュー・チューシアオは『流転の地球』(Netflix配信中)の主演で大注目、チャン・ジンイーはこれが初主演作です。
10年前、チンヤンとイーヤオは高校生のころに知り合い、家柄や学歴の差も越えて愛を育んできました。チンヤンは一本気で手抜きも贈収賄もしません。誠実なのに、問題が次々と起こって苦労ばかりが続き、なんだか男性版「おしん」のようで気の毒になりました。
イーヤンは母親の反対を押し切ってチンヤンと暮らしますが、楽しい日々は短くお金の心配が絶えません。手を差し伸べる男性が現れて、2人の間に水を差し…。原作のタイトルどおり、他の男に嫁ぐか否かはぜひ劇場でご覧ください。(白)


2021年/中国/カラー/シネスコ/105分
配給:リスキット
https://anakoko.jp/
https://twitter.com/anakoko722
★2022年7月22日(金)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
posted by shiraishi at 23:39| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

あなたと過ごした日に(原題: El olvido que seremos)

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監督:脚本:フェルナンド・トルエバ
原作:マリオ・バルガス・リョサ『El olvido que seremos(原題)』(05)
撮影:セルヒオ・イバン・カスターニョ
出演:ハビエル・カマラ (エクトル・アバド・ゴメス)、フアン・パブロ・ウレゴ (青年期の息子 エクトル)、パトリシア・タマヨ (セシリア)、ニコラス・レジェス・カノ (キキン/幼少期のエクトル)

70年代のコロンビアの都市、メデジン。エクトルは5人姉妹の中の唯一の男の子として生まれ、父と同じ名前をもらった。父は医師であり、公衆衛生が専門の大学教授であり、貧しい地域で「子どもたちの未来」プロジェクトを立ち上げ、人権の擁護のため活動にも尽力していた。エクトルはそんな父が大好きで心から尊敬している。姉妹の一人が重い病気になり、父は悲しみと怒りから政治活動にのめりこんでいく。平等で自由な社会を目指す父は、度重なるいやがらせや圧力を受けるようになった。

原作のエクトル・アバド・ファシオリンセが、この映画の息子のエクトル。父の応援を得て作家になる夢を叶え、現代のスペイン語文学の代表作家となりました。息子の視線で父親のエクトル・アバド・ゴメス博士の生涯を綴ったこの回想録はベストセラーとなりました。20カ国以上で出版されていますが、日本語訳は残念ながらないようです。
映画は幸せに暮らしていた幼少期から、内戦が激化していた80年代、父がメデジン市長選に立候補、波乱の生涯を閉じるまでが描かれています。
愛情とユーモアあふれる父・ゴメス博士を演じたのは、ハビエル・カマラ。ペドロ・アルモドバル監督『トーク・トゥ・ハー』(2002)の看護師役が強烈に印象に残っています。ほかには『しあわせな人生の選択』(2016)。最近はテレビに出演しているようです。(白)


コロンビア第二の都市メデジンといえば、今年4月29日に公開された『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』をまず思い出しました。ふっくらした独特の画風の画家フェルナンド・ボテロが、メデジン生まれ。誘拐や殺人の蔓延する故郷メデジンの汚名を返上したいと多くの作品を寄贈したものの、1995年、メデジンのサン・アントニオ広場でボテロの鳩の銅像に仕掛けられた爆弾でテロが発生したことが描かれていました。
もう一つ思い出したのが、『エスコバル 楽園の掟』(2016年3月26日公開)。メデジン・カルテルという犯罪組織のことが描かれていました。
父エクトル・アバド・ゴメス博士は、そんなメデジンを政治でよくしようと市長選に挑むのです。崇高な精神の持ちながらも極めて人間的な父の姿を息子の目で描いた物語が心に響きました。
公衆衛生の専門家である父エクトルが幼い息子に感染症予防には手をよく洗うことと教えています。私も小さい時から、母によく言われましたが、コロナ禍の今、あらためて手を洗うことの大切さを思いました。(咲)



●2020年カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション、2020年アカデミー賞国際長編映画賞コロンビア代表

2020年/コロンビア/カラー/シネスコ/136分
配給:2ミーターテインメント
(C)Dago Garcia Producciones S.A.S. 2020
https://www.amped.jp/anatato/
★2022年7月20日(水)東京都写真美術館ホールほか全国順次公開

posted by shiraishi at 22:00| Comment(0) | コロンビア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする