2022年07月01日

ゆめパのじかん

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監督・撮影:重江良樹
編集:辻井潔
音楽・ナレーション:児玉奈央
出演:川崎市子ども夢パークに集う皆さま/フリースペースえんの子どもたち/認定NPO法人フリースペースたまりばの皆さま/風基建設株式会社の皆さま

神奈川県川崎市高津区にある子どものための遊び場。2000年に制定された「川崎市子どもの権利に関する条例」をもとに官民協同で作られた。工場跡地を利用した約1万㎡の広大な敷地には手作りの遊具があり、泥んこになったり木登りしたり、やってみたいことが好きなだけできる。一角にある「フリースペースえん(以下、えん)」には学校に行っていない子どもたちが通っている。溌剌として笑顔でいるのは、安心してありのままの自分でいられるから。ここでは虫や鳥の観察をする子、木工細工に夢中な子、それぞれ自分の「好き」をゆっくりあたためることもできる。学校や進路のことが気になる子どももいる。悩みながらも自分で考え、歩いていこうとする「子どもの力」がきっとある。ゆめパはそんな力を育てる場所。大人はそっと助言するだけ。
川崎市子どもの権利に関する条例
2000年12月21日に川崎市議会で成立し、2001年4月1日から施行されている条例。子どもの権利や理念をまとめた前半と、子どもの生活の場に応じた権利保障のあり方や具体的な保障の仕組みを定めた後半からできている。前半の子どもの権利については次のように記している。
・安心して生きる権利
・ありのままの自分でいる権利
・自分を守り、守られる権利
・自分を豊かにし、力づけられる権利
・自分で決める権利
・参加する権利
・個別の必要に応じて支援を受ける権利

2020年度、日本の児童生徒の自殺者数は初めて400人を越え、小中学生の不登校児はおよそ20万人となりました。大人でさえ生きづらいと思うとき、子どもに必要なのは安心できる「居場所」。コロナの感染拡大で一斉休校となったときも、ゆめパは子どもを受け入れ続けました。
見守る大人たちは、子どもたちの声を尊重し、「子どもたちがつくり続け、つくりかえていく遊び場」であることを大切にしています。前もって禁止ばかりしていると、子どもは自分で危険を察知したり、判断したりする力を養えません。失敗したら何度でもやり直せばいいと思えなくなります。
 『さとにきたらええやん』(2016)で大阪西成区の児童館‟こどもの里”に密着した重江監督最新作。子どもたちが型にはめられず、自由に生きるのに「居場所」は大切で不可欠です。大人からの信頼も目には見えない「居場所」です。大人はそれを肝に銘じないと、とつくづく思いました。(白)


川崎市子ども夢パークと同じようなところが世田谷にもあります。家からはちょっと遠かったので、たまにしかいけませんでしたが、小学校に入る前の娘が楽しそうに遊んでいました。木登りや秘密基地作り、飛び降り、焚火といったことを自由にさせてくれる遊び場は子どもに大きな成長の機会を与えてくれます。ただ、危険も伴う。作品を見ていたら、娘のそばではらはらしながら見ていた自分を思い出しました。
ゆめパにはフリースペースも併設され、学校には行けない子どもが通っているとのこと。居場所のなくて辛いのは子どもだけではありません。子どもが居場所を見つけたことで、その親がどれだけ安心したことか。木工作業好きの女の子が将来を考え、進路を決めていく姿に彼女がゆめパで学んだことの大きさを改めて感じました。彼女はきっと辛いことがあっても夢を諦めずに努力していくに違いないと思えます。(堀)


川崎にこういう場所があるとは全然知らなかった。そして「川崎市子どもの権利に関する条例」というのがあることも。大人はあまり口出ししないで、子供の自主性に任せるという形で、居場所を探している子供たちの解放区のような存在。こういう場所が、もっとあれば、現在20万人にもなるという不登校児の希望になるのでしょうが、なかなかそうはいきません。ここの子供たちはのびのびと、自分のやりたいこと、やり遂げたいことに挑戦しているけど、この輪が全国に広がっていきますように(暁)。

子どもたちのやってみたいを大事にするゆめパ。特に、「フリースペースえん」には、感性の強すぎる子どもたちが集まっていて、皆、個性的。
虫や鳥が大好きで、とても詳しいリクトくん。「将来は虫や鳥に関われる仕事に就けるといいね」と言われ、「好きなことを仕事にするのは、ちょっと・・・」と答えていました。でも、きっと好きを仕事にするはず。ここに出てきた子どもたちが、将来、どんな大人になるのか見てみたいと思いました。自分のやりたいことを見つけることができたのは幸せなこと。ゆめパのような場所がなくても、学校でも家庭でも、大人のちょっとした手助けで、子どもたちは夢を見つけることができるはず。そんなヒントもこの映画からもらえることと思います。(咲)


重江良樹監督インタビューこちら

2022年/日本/カラー/90分
配給:ノンデライコ
(C)ガーラフィルム/ノンデライコ
http://yumepa-no-jikan.com/
★2022年7月9日(土)ロードショー

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ザ・ウィローズ(原題:The Wind in the Willows)

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ⒸMarc Brenner

シネマ版監督:ティム・ヴァン・ソメレン
演出:レイチェル・カヴァノー
原作:ケネス・グレーアム「The Wind in the Willows」(日本語訳書籍は「たのしい川辺」岩波少年文庫99)
脚本:ジュリアン・フェローズ
作曲:ジョージ・スタイルズ
作詞:アンソニー・ドリュー
出演:ルーファス・ハウンド(ミスター・トード/ヒキガエル)
サイモン・リプキン(ラッティー/ネズミ)
クレイグ・メイザー(モール/モグラ)
ニール・マクダーモット(チーフ・ウィーズル/イタチ)
デニース・ウェルチ(ミセス・オッター/カワウソ)
ゲイリー・ウィルモット(バジャー/アナグマ)

春になって土の中の家から出てきたモグラのモールは、川辺に住むネズミのラッティーやアナグマのバジャーと友達になった。初めて船に乗りヒキガエルのトードとも知り合った。トードは親譲りの御屋敷に住むお金持ちで、スピードの出る乗り物が大好き。次々と欲しくてたまらなくなる。トードが新しい乗り物に夢中になってお屋敷を留守にしているとき、イタチのギャングたちがお屋敷を乗っ取ってしたい放題の大騒ぎ。
日頃からトードに忠告していたラッティーは、モールやバジャーと対策を考える。カワウソの奥さんの一人娘も行方不明になっている。みんなと力を合わせてこの危機を乗り越えなくては!

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ⒸMarc Brenner

松竹ブロードウェイシネマが送る1作。今回は2017年6月、ロンドンのウェストエンド(ブロードウェイのようなエンターテイメントが集合)地区のパレイディアム劇場で上演され大ヒットしたミュージカル作品です。スタッフ・キャストにそうそうたるメンバーを集め、2500人の観客が連日喝采した楽しい舞台を映画館で鑑賞することができます。
子どもの頃から親しんでいるケネス・グレーアムの世界、一人息子のために語って聞かせたという「たのしい川べ」がどんなミュージカルになるのか、ワクワクしながら鑑賞しました。動物たちは「キャッツ」のようなメイクではなく、鼻の頭をちょっと黒くして、髪の毛がその動物らしい色になっているだけ。その分、衣裳が凝っていて、その性格や暮らしぶりをちゃんと現わしています。大がかりな舞台装置も細かいところまで、とくとご覧ください。
明るくて楽しく、冒険ごころもくすぐられるファンタジーなので、お子様のミュージカル体験にぴったり。大人にはイギリスの階級社会や人間界のあれこれも思い出させる深さもあります。仲間たちや自分の居場所、故郷の大切さもじんわりしみ込んできました。帰り道で、ちょっと違う自分を見つけた気分にもなります。(白)


私はミュージカルが好きではないので、ほとんど観たことがない。もちろん音楽全般や歌は大好きなんだけど、生活の中で話している部分を歌にして表現というのが苦手。特に日本語で、普通に話をすればいい部分を歌にするというのに違和感を持っていた。
この作品は、川辺りに住む沢山の動物たちが繰り広げる、冒険と旅の物語。そして美しい四季の移ろいを表現した詩が素敵だった。動物たちの物語ではあるけど、人間社会への風刺ともとれるような物語でもある。舞台装置が次から次へと変わっていく移り変わりも素晴らしく、久しぶりに舞台の面白さも感じた。
ケネス・グレーアムも知らなかったけど、イギリスだとアーサー・ランサムの児童文学には子供の頃からなじんでいて、何年か前、アーサー・ランサム全集の神宮輝夫さんによる再訳版が出て12冊買った(全部で24冊)。このアーサー・ランサムの壮大な物語も、いつか映画になったらいいな。こちらは動物ではなく子供たちの冒険ではあるけど。ピーターラビットと同じ湖水地方が舞台なので、この『ザ・ウィローズ』の冒険に近い話ができるかも。
それにしても、日本語の生活の言葉を歌にしながらの芝居だと違和感なのに、外国語だとそう感じなかったのか。日本語のミュージカルにも機会があったら挑戦してみよう。今だったら、違う印象になっているかもしれない。そんな風に思うきっかけにもなった(暁)。


2017年/イギリス/カラー/ビスタ/131分
配給:松竹
(C)BroadwayHD/松竹
https://broadwaycinema.jp/
【松竹ブロードウェイシネマ 公式アカウント】
https://broadwaycinema.jp/
■www.instagram.com/shochikucinema/
■www.facebook.com/ShochikuBroadwayCinema
■twitter.com/SBroadwayCinema
★2022年7月8日(金)から東劇(東京)、なんばパークスシネマ(大阪)、ミッドランドスクエア シネマ(名古屋)ほか全国順次限定公開

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映画ざんねんないきもの事典

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原作:「ざんねんないきもの事典」高橋書店刊
主題歌:秦基博「サイダー」
アニメーション制作:ファンワークス
ナレーション:玄田哲章
声の出演:ムロツヨシ、伊藤沙莉、花江夏樹、内田真礼、下野紘

●「リロイのホームツリー」オーストラリア編
コアラはユーカリにふくまれる猛毒のせいで一日中寝ている
監督:イワタナオミ、脚本:加藤陽一

●「ペンたび」南極編
アデリーペンギンは警戒心がゆるゆる
監督・脚本・声:ウチヤマユウジ

●「はちあわせの森」安曇野編
ノウサギは本当は飛びはねたくない
監督:由水桂、脚本:細川徹

ナビゲーターのモグラの親子にムロツヨシさん、伊藤沙莉(いとうさいり)さん、主要キャラクターを声優の花江夏樹さん、内田真礼さん、下野紘さん。1作目コアラが親から離れて自立する。2作目はペンギンのロードムービー。3作目は子ウサギが広い森で道に迷い、先輩ウサギに出逢って家に帰る道をさがします。
原作は子どもたちがへえ!と驚き、うん〇ネタに笑い、大人は目からうろこがポロポロ落ちたに違いないベストセラー。映画では、いろいろな小ネタをはさみながら、主人公が自分の居場所を見つけるお話が3本。絵の雰囲気はそれぞれ違いますが、どれもほかの動物と出逢ってそれまで知らなかったことをたくさん学んでいきます。2作目であれ?聞いたことのある声、と考えたら「紙兎ロペ」のウチヤマユウジさんが作っていたのでした。ペンギンたちの会話もどこか乾いてシニカルなユーモアあり、ラストに笑ってしまいました。(白)


2022年/日本/カラー/91分
配給:イオンエンターテイメント
(C)2022「映画ざんねんないきもの事典」製作委員会 (C)TAKAHASHI SHOTEN
https://zannen-movie.com/
★2022年7月8日(金)ロードショー
劇場入場者プレゼント「ざんねんなまちがいさがしミニブック」の配布が決定!先着順。

posted by shiraishi at 16:13| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

こちらあみ子

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監督・脚本:森井勇佑
原作:今村夏子「あたらしい娘」(「こちらあみ子」に改題)
撮影・照明:岩永洋
音楽:青葉市子
出演:大沢一菜(あみ子)、井浦新(お父さん・哲郎)、尾野真千子(お母さん・さゆり)、奥村天晴(お兄ちゃん)、大関悠士(のり君)、 橘高亨牧(坊主頭)

あみ子はちょっと風変わりな女の子。優しいお父さん、いっしょに遊んでくれるお兄ちゃん、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいるお母さん、憧れの同級生のり君、たくさんの人に見守られながら元気いっぱいに過ごしていた。だが、彼女のあまりに純粋無垢な行動は、周囲の人たちを否応なく変えていくことになる。誕生日にもらった電池切れのトランシーバーに話しかけるあみ子。「応答せよ、応答せよ。こちらあみ子」

今村夏子さんの原作を読んで、森井監督がどうしても映画化したいと切望した作品。オーディションで一目ぼれしたという大沢一菜(かな)さんが、あみ子を越えたあみ子としてスクリーンの中にいました。なんと目の力の強い子でしょう。ことばをそのとおり受け取るところ、自分にも相手にも忖度しないところ、こだわりのあるところなどなど、明言はされていないけれど発達障害(この名称は好きになれません。痴呆症が認知症に変わったように変わらないでしょうか)なのかな。障害とついていますが、それは相手との間にあるもので本人はあるがまま生きています。小説発表当時は、「ちょっと変わった子」で済んでいたのでしょう。発達障害の特性を知っていれば、もっと別な対処の方法もあったのにと思います。
あみ子は、好きな子が気になってしょうがないし、好きな気持ちを隠しません。気持ち悪いと言われたら「どこが?教えて」と尋ねます。見えないものがわからないので、お母さんの心を想像できず悲しませてしまいます。あみ子だって痛いし傷もつくのに、自分でぺろりとなめると治りそうな強さがあります。
まっすぐだから、ぶつかってしまうあみ子を誰よりも家族が受け止めてほしいのですが、お母さんは努力していたのがぷつんと切れて寝込んでしまいました。演じる尾野真千子さんはこのところ、強くて明るいお母さん像を続けて観てきたせいもあって「え~」と思ってしまった・・・のはこちらの勝手。お父さんにも「え~」、お兄ちゃんがあみ子の代わりに爆発してくれた気がします。自分にもあみ子要素があるのを自覚しているので、これまできっと誰かを傷つけてきたんだろうなと振り返りました。
原作は今村夏子さんのデビュー作。2010年太宰治賞、2011年三島由紀夫賞受賞。2019年には「むらさきのスカートの女」で芥川賞受賞。「星の子」は映画化されています。どれも読後は胸に何かが溜まった感じがしました。あみ子はその後どんな風に大きくなったんだろうと気になります。幸せでいて。(白)


子育ての難しさを改めて感じた作品でした。恐らくあみ子は発達障害なのでしょう。母親は一生懸命にあみ子と向き合いますが、悲しみに対するあみ子の行動がどうしても許せなかった。それはあくまでも悲しんでいる母親を慰めようとしてのことなのだけれど。
あみ子を主体に物語を見ると、本人にとっては本位ではないものの周りの人を傷つけてしまい、どんどん孤立してしまうあみ子のことをみんなが理解してあげてほしいという気持ちになります。しかし、母親を主体に物語を見ると、大分違ってきます。作品の後半で母親とあみ子の関係の特殊性が明らかになり、あみ子が発達障害であっても、それを自分からは言いにくかっただろうことがうかがえました。
最後に父親が下した決断はあみ子主体に考えると酷かもしれません。しかし母親主体に考えればやっと動いてくれたという思いではないでしょうか。父親、もしくは学校の先生がもっと早く適切な対応をしていれば、あみ子も母親も、そしてグレてしまった兄も悲しい思いをしなくても済んだ気がします。(堀)


2022年/日本/カラー/104分
配給:アークエンタテインメント
(C)2022「こちらあみ子」フィルムパートナーズ
https://kochira-amiko.com/
★2022年7月8日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 15:43| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

TELL ME hideと見た景色

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監督:塚本連平
原作:松本裕士「兄弟 追憶のhide」(講談社文庫刊)
原案協力: I.N.A.「君のいない世界~hideと過ごした2486日間の軌跡」(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス刊)
脚本:塚本連平、福田卓郎
音楽監修:川野直輝 片岡麻沙斗
出演:今井翼(松本裕士)、塚本高史(I.N.A.)、JUON(hide)

1998年5月2日、X JAPANのギタリストとして、ソロアーティスト(hide with Spread Beaver/zilch)として活躍していた、日本を代表するロックミュージシャンhideが急逝した。葬儀には約5万人が訪れ、日本中が早すぎる別れに涙し社会現象に。制作途中だったアルバム、そして既に決定していた全国ツアー、hideの音楽を世に届けたい。hideのマネージャーを務める弟・松本裕士(ひろし)は、兄の意志を形にすべく、hideと二人で楽曲を制作していたhideの共同プロデューサーI.N.A.ら仲間たちとともに動き出す。hide本人不在という異例の状況下で奮闘する裕士とI.N.A.だったが、彼らの前に様々な困難が立ちはだかる…。

24年前のニュースを覚えています。toshiの脱退があったとはいえ、これからの企画をたくさん持っていた人が自殺とは考えられませんでした。家族ならばなおさらでしょう。実弟の松本裕士さんの「兄弟 追憶のhide」も読んでいます。掲載されている子どもの頃の写真がほほえましいです。弟だけが見た兄、パーソナルマネージャーとして見たhide、一番近くにいたのにという悔恨が原作からも映画からも伝わります。
裕士を演じた今井翼さんは先日『彼女が好きなものは』で見かけていましたが、本作が映画初主演。hideさんの盟友だったI.N.A.役の塚本高史さん、hide役のJUONさんたちみんながhideさんへの愛情を持って演じたようです。JUONさんは2003年にバンドFUZZY CONTROL結成。2018年よりソロ活動を開始。ギタリストでシンガーソングライター。当時を再現したライブシーン必見です。(白)


原作はhideの弟で、パーソナルマネージャーをしていた松本裕士が書いた「兄弟 追憶のhide」とのこと。作品から弟の目を通した家族関係が浮かび上がってきます。
松本家ではいっぱいご飯を食べることが正しいとされ、小学校では肥満児として校庭を走らされている兄が親からは優秀な兄として、ちやほやされています。近所で美容院を営む祖母もテストで1番を取ったからと兄にだけお小遣いを渡すシーンがありました。高校生になり、兄と弟が同じような派手な髪形と服装をしていても、兄だけは優秀な高校に通っているからと母親からのお小言はなし。あくまでも弟の目を通した家族関係で、親はそんなつもりはなかったのかもしれません。しかし、そんな風に感じてきた弟が不憫です。
何より、hideが亡くなったことを弟のせいだと責め、会おうとしない母親に対して、弟はどんな気持ちだったのでしょうか。演じていた今井翼の悲しみの表情が記憶に残ります。本を書き、映画化したことで弟と母親の関係が良好なものになっていることを願わずにいられません。(堀)


2021年/日本/カラー/111分
配給:KADOKAWA
(C)2022「TELLME」製作委員会
https://movies.kadokawa.co.jp/tellme/
★2022年7月8日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 15:38| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

神々の山嶺(いただき)(原題:LE SOMMET DES DIEUX )

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監督: パトリック・インバート(『大きな悪い狐とその外の物語』) 
原作:夢枕獏(原作)谷口ジロー(漫画)「神々の山嶺」集英社刊
アニメーション制作
声の出演:堀内賢雄(深町誠)、大塚明夫(羽生丈二)、逢坂良太(文太郎)、今井麻美(涼子)

カメラマン・深町誠は「登山家マロリーはエベレスト登頂に成功したのか」登山史上最大の謎を追っている。取材先のネパールで、ずいぶん前に姿を消した孤高のクライマー・羽生丈二と思しき男に出くわした。彼の手にはマロリーの謎の鍵となる遺品のカメラがあった。羽生を見つけ出せば、マロリーの謎が解けるかもしれない。深町は帰国して、羽生の山岳人生の軌跡を追いかける。予期せず彼と深くかかわり、不可能とされる挑戦を目論んでいることがわかる。それは冬季エベレスト南西壁に無酸素単独登頂するというものだった。

夢枕獏さんの作品は「陰陽師」から。映画化には難しそうな作品が多いですね。谷口ジローさんは1991年の「犬を飼う」でぼろ泣きして以来ファン。身体の造形、何気ない動作も骨格が内側にちゃんとあり、丁寧な筆致で程よく書き込まれた背景とドラマが好きでした。フランスのバンド・デシネに影響を受けたと公言していましたが、そのフランスでも人気で、2011年に芸術文化勲章のひとつであるシュバリエ章を受章しています。このアニメの制作にも参加していましたが、2017年に亡くなられて、完成作を見られなかったのが残念です。フランスでは13万人を超える大ヒットを記録しました。
羽生が挑んだ世界各地の山の風景、山にとりつかれてしまったクライマーの狂気ともいえる情熱。アニメだから描けた命がけの登攀シーンが展開していきます。猛暑のこのごろ、涼しい映画館へ出かけて大きなスクリーンで観ていただきたい作品。

この原作は日本で2016年に実写版で映画化されています。『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』(平山秀幸監督)として阿部寛、岡田准一出演。それを観たときもこんなに頑固な人がいたんだと驚きましたが、実際にそういうモデルがいたというのにさらに驚きました。森田勝さん(1937-1980)という登山家で、山への情熱が並外れて強く、周囲との摩擦が多かったこと。金策に苦労したこと、数々の挑戦や挫折などが小説に取り入れられています。(白)


原作者が夢枕獏、マンガ化したのが谷口ジロー。登場人物は現地の人が多少出てくるくらいで、あとは全員日本人。そういう作品をなぜフランスが映画化したのだろうと不思議に思っていたところ、谷口ジローはフランスでものすごく人気のあるマンガ家だということを知りました。制作陣の谷口ジローに対するリスペクトが半端なく、日本の風景描写が完璧です。公衆電話ボックスが並んで設置されているシーンは「そうそう昔はあんな感じだった」とかつての日本が懐かしく思い出されます。
アニメでエベレストの過酷な状況をどこまで描き出せるのか。見る前はそこがとても不安でしたが、まったくの杞憂でした。実写と遜色ないほど雪山の過酷さが伝わってきます。カンヌ国際映画祭でプレミアム上映された後、フランスでは300以上の劇場で公開され、大ヒットを記録。Netflixで全世界に配信されますが、海外では日本だけで劇場上映されるとのこと。ぜひ大きなスクリーンでご覧いただき、エベレストの頂上に立った気分を味わってください。(堀)


プロデューサー ジャン=シャルル・オストレロ氏は、幼い頃から登山と山岳文学に情熱を注いでいたとのこと。谷口ジローさんの漫画を読み終えた時、映画化したいという思いに駆られたそうです。それも、世界初の山を舞台にしたアニメーションをと。願いが叶って出来上がった本作、山の気高さや険しさが、リアルに描かれていて魅了されました。命を賭けてでも登りたい気持ちも、しっかり伝わってきました。
いかに山が美しくても、根性なしの私は、山登りはお金を貰ってもやりたくないことの一つ。映画の中で、「貧乏人には登れない」という言葉が出てきました。エベレストとなると入山料だけでも、100万円以上かかるとか。高い入山料を払ってでもエベレストに登りたいのは、見た目も美しいけれど、なにより世界最高峰だから。かつてエベレストが登山者で混みあっているニュースを見たことがありましたが、コロナ禍で中国もネパールも入山禁止に。エベレストのお陰で生活の糧を得ていた人たちにとっては死活問題です。いつかまた山を愛する世界中の人たちで賑わう日が訪れますように・・・(咲)


ジョージ・マロリーと言えば、「あなたはなぜ山に登るのか?」という問いに対して、「そこに山があるから」と答えた人ということで、「そこに山があるから」という言葉が独り歩きして半世紀余り。私もずっとその言葉で覚えていたら、今回いろいろ調べていたら、それは間違いだったという話が出ていた。本当は「あなたはなぜエベレストに登りたかったのか?」と問われて「そこにエベレストがあるから」とマロリーは答えたというのが正解らしい。登山史によると、1953年5月29日、ニュージーランドのエドモンド・ヒラリーとシェルパのテンジン・ノルゲイが、世界で初めてエベレスト登頂に成功したということになっているが、1924年マロリーたちイギリスの登山隊が挑み、「もしかしたらエベレスト登頂に成功していたのかもしれない」という話があるらしい。そのことは、この小説の日本での実写版『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』の公開時に知った。このアニメーションも、そのなぞに迫る物語に沿って話は進んでいた。アニメと言っても正確な山領の描写に驚いた。登山道具や靴、アイゼンに至るまで、まるで写真のように精密に描かれ、まるでボタニカルアートのよう。この夏、登山をめぐる映画がいくつも公開されるようだけど、これまでシネマジャーナルではたくさんの山岳映画を紹介してきました。下記に山岳映画の記事を参考までに記します。興味のあるかた覗いてみてください(暁)。

2021年/フランス、ルクセンブルク/94分/仏語/1.85ビスタ/5.1ch/吹替翻訳:光瀬憲子
配給:ロングライド、東京テアトル
©️Le Sommet des Dieux - 2021 / Julianne Films / Folivari / Melusine Productions / France 3 Cinema / Aura Cinema
https://longride.jp/kamigami/
★2022年7月8日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開

*シネマジャーナル 山岳映画関連記事
シネマジャーナルHP
2019年 
●東京国際映画祭 『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』 ワールドプレミアイベント
●『フリーソロ』  劇場公開日 2019年9月6日
2018年 
●特別記事『クレイジー・フォー・マウンテン
ジェニファー・ピードン監督インタビュー 
2016年 
●『ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~
対談≪韓国の伝説的登山家オム・ホンギル × 野口健≫
●『エヴェレスト 神々の山嶺』完成報告会見
MERU/メルー 原題 Meru
2014年
●『クライマー パタゴニアの彼方へ』デビッド・ラマ インタビュー
●『ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂』公開記念
女性世界初エベレスト登頂者 田部井淳子&エドモンド・ヒラリーの子息 ピーター・ヒラリートークショー

本誌
●2014年 シネマジャーナル91号
★今年、続々公開される山岳映画 古典~最新作まで
『ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂』『K2 初登頂の真実』『春を背負って』『アンナプルナ南壁 7400mの男たち』『クライマー パタゴニアの彼方へ』を紹介。また、1920年代に製作されたレニ・リーフェンシュタールの出演作『死の銀嶺』『モンブランの嵐』
●2011年 シネマジャーナル83号
★山好きから観た山岳映画 『劔岳 点の記』『岳 ―ガク―』『アイガー北壁』『127時間』『ヒマラヤ 運命の山』
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アルピニスト(原題:THE ALPINIST)

『アルピニスト』ポスター.jpg

監督:ピーター・モーティマー、ニック・ローゼン
制作:レッドブルメディアハウス
撮影:ジョン・グリフィス
出演:マーク・アンドレ・ルクレール、ブレット・ハリントン、アレックス・オノルド、ミッシェル・カイパーズ

アウトドアのドキュメンタリー映画を20年作ってきたピーター・モーティマーとニック・ローゼンはカナダに無名のクライマーがいることを知った。23歳の青年マーク・アンドレ・ルクレールは、多くのクライマーがSNSで発信している中、ただ自分の楽しみのためだけに次々と新しいクライミングを続けている。偉業を誇ることもない、彼の居所をつきとめ、マークと恋人のブレットと長く一緒に過ごし、カメラが同行することを許された。
命綱をつけず、身体一つで山に登るマーク、無駄のない見事な動きは瞬時に的確な判断のできるセンスがあってこそ。撮影が進んだある日、マークの行方が分からなくなる。そして再会したときに彼が告白したのは大きな事件ともいえる挑戦だった。

ニコニコと人あたりの良い好青年のマーク、このドキュメンタリーを見るまで全く知らずにいました。「マークのことなら一日中でも話せる」というクライマーのアレックス・オノルドは『フリーソロ』で観た人でした。同じようにフリーソロでどこまでも登り、その結果をだれに見せるわけでもないマークがほんとに好きだったのでしょう。
マークは子どものころADHD(注意欠陥障害)と診断され、母親は将来息子が仕事につくのは難しいかもしれないと不安だったそうです。ところが、好きなものには抜群の集中力を見せるんです。クライミングを知り、山に出逢ったことでマークは自分だけの道を見つけました。特化すれば才能です。
高いところも登山も苦手、決して近づかない私は心臓に悪い…と思いながら観ていました。緊張で力が入って身体がこわばっていました。断崖の岩肌に自分の手と足だけでつかまり、下は谷底って何の罰ゲーム!?なんでこんなに危ないことを嬉々としてできるの?!答えは彼の笑顔です。ただただ山が好きで、彼の天性の素質がぴたりと合っていたとしか言いようがありません。中断した撮影を続け、彼の人となりをインタビューで追って、作品を完成させてくれた2人の監督に感謝。(白)


クライミングのドキュメンタリー作品はこれまでにもいくつか見てきましたが、本作のマーク・アンドレ・ルクレールはそれらの作品に登場するどのアルピニストよりも過酷なクライミングをしていました。たとえば『フリーソロ』ではアレックス・オノルドがマークと同じようにロープや安全装置を一切使わずに山や絶壁を登っていましたが、アレックスがクライミングするのは雪山ではありません。『MERU/メルー』では難攻不落の壁として知られている北インド高度6500メートルにそびえるヒマラヤ・メルー峰のシャークスフィンに挑戦する3人のクライマーたちの姿を映し出しますが、こちらはロープや安全装置を使っていますし、1人ではありません。マークは目も眩むような断崖絶壁や崩れ落ちそうな氷壁に、命綱もつけずにたった1人で挑んでいくのです。しかも、今どきの若者はそんな偉業を達成したらSNSなどで誇示しがちですが、マークは一切しないそう。自分の楽しみのためだけに登山する姿を見ていると、打ち込めるものがあるっていいなと思えてきます。
そして何より、クライミングをするマークを至近距離で映し出す映像に驚きます。マークの集中力が途切れさせないよう、制作陣は事前にかなりの信頼関係を築いたはず。本作を観て、マークのクライミングに寄り添うことで、自然の中で何にも邪魔されず、自分の時間を楽しむ気持ちを劇場にいながら感じることができそうです。(堀)


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私自身、山にハマり、1980年~84年の約5年、北アルプスの山麓、長野県白馬村にある会社の山荘に住み込みで働きながら鹿島槍ヶ岳という山の写真を撮っていたことがあります。私の山への興味は山の自然、高山植物や山の景色、自然現象などで、山へは登りますが山登りが好きというわけではありませんでした。でも、このマークという青年は切り立った岩壁を命綱なしのフリークライミングで登頂することが自分の興味の対象です。そして、こういう岩壁登りが好きな人たちがけっこういるのです。『フリーソロ』のアレックス・オノルドも、やはり飄々と登っていましたし、世界の山登りはより困難な登り方を目指す人たちが競い合っているようです。でもマークはそういう競い合いには興味がないし、登ったと誇示するのも好きではない青年です。そしてマークは、アレックス・オノルドが絶賛する孤高のアルピニストです。この映画の冒頭のパーティシーンでアレックス・オノルドが登場しますし、『フリーソロ』を監督したジミー・チンも一瞬ですが登場します。ジミー・チンは『MERU/メルー』に出てきた3人の登山家のうちの一人で高度な登山技術をもち、『フリーソロ』の撮影を担っていましたが、この『アルピニスト』の、目も眩むような断崖絶壁を登るマークを頭上から捉えたポスターの写真を観ると、この映画の撮影者ジョン・グリフィスも相当な技術を持ったアルピニストなのでしょう。そうでなければこんな写真は撮れません。それにしても、私はこんな危険極まりないフリーソロにハマっていく人たちの気持ちがわかりません。ただ怖いだけです。その恐怖を克服することに生きがいというか達成感を感じるのでしょうか。
この映画を観て、『さかなのこ』(9月公開)のことを思いました。こちらはさかなクンの驚きの人生を映画にしたものですが、「何かを猛烈に好きになった人の映画」というところが共通です。何かに夢中になり、他の人の追随が届かないところに到達する人の生き方にはやはり共通点があるのかもと思いました。
この夏、登山をめぐる映画がいくつも公開されます。これまでシネマジャーナルではたくさんの山岳映画を紹介してきました。下記にそれら山岳映画の記事を参考までに記します。興味のあるかた覗いてみてください(暁)。


2021年/アメリカ/カラー/ビスタ/93分
配給:パルコ ユニバーサル映画
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https://alpinist-movie.com/
★2022年7月8日(金)TOHOシネマズ シャンテ 他全国公開

*シネマジャーナル 山岳映画関連記事
シネマジャーナルHP
2019年 
●東京国際映画祭 『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』 ワールドプレミアイベント
●『フリーソロ』  劇場公開日 2019年9月6日
2018年 
●特別記事『クレイジー・フォー・マウンテン
ジェニファー・ピードン監督インタビュー 
2016年 
●『ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~
対談≪韓国の伝説的登山家オム・ホンギル × 野口健≫
●『エヴェレスト 神々の山嶺』完成報告会見
MERU/メルー 原題 Meru
2014年
●『クライマー パタゴニアの彼方へ』デビッド・ラマ インタビュー
●『ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂』公開記念
女性世界初エベレスト登頂者 田部井淳子&エドモンド・ヒラリーの子息 ピーター・ヒラリートークショー

本誌
●2014年 シネマジャーナル91号
★今年、続々公開される山岳映画 古典~最新作まで
『ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂』『K2 初登頂の真実』『春を背負って』『アンナプルナ南壁 7400mの男たち』『クライマー パタゴニアの彼方へ』を紹介。また、1920年代に製作されたレニ・リーフェンシュタールの出演作『死の銀嶺』『モンブランの嵐』
●2011年 シネマジャーナル83号
★山好きから観た山岳映画 『劔岳 点の記』『岳 ―ガク―』『アイガー北壁』『127時間』『ヒマラヤ 運命の山』
posted by shiraishi at 13:23| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

初仕事

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監督:脚本:小山駿助
撮影:高階匠
音楽:中村太紀
出演:澤田栄一(山下)、小山駿助(安斎)、橋口勇輝(和夫)、竹田知久(北館)、白石花子(真知子)

写真館でアシスタントとして働く山下は、赤ん坊の遺体の撮影を人づてに依頼され、良い経験になるかもしれないと依頼を受ける。赤ん坊の父親であり依頼主でもある安斎は、初め、若い山下に戸惑うも、正直で実直な山下に心を許し、撮影が始まる。 山下はほんの少しでも利己的になっていた自身を恥じ、誠心誠意彼ら家族のために撮影に取り組もうとする。遺体の状態を考えると時間がないという状況も、山下の使命感に拍車をかける。

珍しい題材の作品です。小山監督が「カメラが発明された時代に遺体を写して残すことが行われた」と聞いて思いついたそうです。肖像画として残せたのは、一部の裕福な人たち、ほかの人にはカメラは時間もかからず良いツールであったのでしょう。『ポスト・モーテム 遺体写真家トーマス』にもスペイン風邪で愛する家族を亡くした人たちが、生前と同じように服を着せ家族で囲んで撮影する場面がありました。元気なときに撮れていたなら不要でしょうが、これが最初で最後の1枚だったかもしれません。
この作品での、依頼主・安斎は先に妻を亡くしていて、残された一人娘も失ってしまいました。娘の身体がここにあるうちに撮影しておきたいという気持ちもわかる気がします。そんな安斎の気持ちを受け取った山下は撮影に本気になり、逆に落ち着いた安斎がもう止めようと言い出します。未練があって何が悪いんでしょう。お葬式や四十九日が終わっても未練は残ります。送った人とどう生きてきたかで違いますが。
監督・脚本・出演の小山駿助さんの心ここにあらず、の雰囲気とぼそぼそとした台詞、逆に真っすぐ見つめてはっきりものを言う山下役の澤田栄一さんの対比が面白いなと思いました。山下には、とても大きな意味のあった「初仕事」だったはず。(白)


亡くなった子どもの写真を遺したい。悲しみに突き動かされて友人のカメラマンに撮影を依頼した安斎。初めは戸惑っていたものの、安斎と接しているうちに安斎の娘が生きていたころが思い浮かんでくるほど撮影に意義を感じ始めた山下。2人の気持ちが近づいていけばいくほど、撮影に対する熱意が反比例のように変化していく。
子どもへの未練だったと気づいた安斎と、「もっと技術があれば」「もっと経験値があれば」と悔しがる山下。気持ちの終着点は違うものだったが、この邂逅はそれぞれにとって必要なものだったに違いない。
それにしても山下がアシスタントをしているカメラマンのクズっぷりには驚いた。友人の依頼を事もなげにアシスタントに振ってしまっただけでなく、依頼主の怒りを買って撮影が中止になったことを自分からアシスタントに連絡をしない。陣中見舞いにくれば余計なことをしゃべる。こんなカメラマンは絶対に大成しないだろう。ぜひ早く、別のカメラマンに従事してほしい。(堀)


第33回東京国際映画祭プレミア上映
第21回 TAMA NEW WAVE コンペティションにてグランプリ
澤田栄一:男優賞受賞

2021年/日本/カラー/94分
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
(C)2020 水ポン
https://www.hatsu-shigoto.com/
★2022年7月2日(土)ロードショー
posted by shiraishi at 13:19| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする