2022年07月31日

掘る女 縄文人の落とし物

8月6日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開 劇場情報

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©︎2022 ぴけプロダクション

発掘に魅せられた女たち 

監督:松本貴子(『氷の花火 山口小夜子』『≒草間彌生 わたし大好き』) 
ナレーション:池田昌子 撮影:門脇妙子、金沢裕司 音楽:川口義之(栗コーダーカルテット) 音楽プロデュース:井田栄司 編集:前嶌健治 タイトル文字・イラストレーション:スソアキコ アニメーション:在家真希子、岸本萌 考古学監修:堤隆 オンライン編集:石原史香 音響効果・整音:髙木創
出演:大竹幸恵、八木勝枝、伊沢加奈子ほか

夢中になれることが人生をこんなに豊かにする
土臭くてラヴリーな発掘ドキュメンタリー


 2021年7月に「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録され、注目される縄文文化。約1万6000年〜3000年前に作られた奇抜な模様やデザインの土器や、可愛い造形の土偶たちは多くの現代人を惹きつける。この作品はその縄文時代に思いを馳せ、「発掘」に魅せられた女性たちを日本各地に訪ね歩く。『氷の花火 山口小夜子』『≒草間彌生 わたし大好き』が話題になった松本貴子監督は、縄文遺跡の発掘調査に携わる女性たちを3年間にわたって記録した。男仕事と思われがちな遺跡発掘だが、女性も結構参加している。汗だく、泥だらけになりながらブラシやスコップを駆使して、貴重な文化遺産を見つけ出す彼女たち。発見の喜びが原動力。そんな女性たちが、あなたを縄文時代へと誘う。ナレーションは「銀河鉄道999」のメーテル役で知られる池田昌子。

 ラジオ体操で始まる発掘現場。大勢の作業者たちが広大な遺跡発掘現場に散らばり、それぞれ発掘作業を始める。そこで発掘されたものは「落し物」として警察に届けられるという。そんな古代人の落し物を探し続ける人たちの中に「縄文時代からの贈りもの」にハマった女性たちがいた。
 八ヶ岳の西、長野県立科町にある星糞(ホシクソ)峠の遺跡発掘現場。大昔、そこは矢じりや石器に使われた黒曜石の発掘現場だった。この地方では黒曜石のことを方言で星糞と呼ぶ。調査員として働く大竹幸恵さんは、その発掘現場で30年働き、今では10名の作業員を率いて、毎日、泥まみれになって遺跡を発掘し、定年を迎える。小学6年生の時に土器をみつけて以来、明治大学で考古学を学び、考古学一筋の人生を続けてきた。
 発掘が始まったばかりの岩手県洋野町にある北玉川遺跡。調査員の八木勝枝さんは作業員を指揮している。この作業現場は女性が多く笑いが絶えない。八木さんは土偶が大好き。これまで発掘してきた数々の土偶を愛おしそうに紹介する。遺跡はその土地の思い出の品と語る。八木さんも明治大学で考古学を学んだ。
 神奈川県秦野市にある稲荷木遺跡は、調査員8名、作業員200名という巨大な現場。縄文時代中期から後期にかけての大規模な集落跡で、次々と土器や土偶が出てくる。そこで作業員として働く池田由美子さんは、珍しい釣手土器を発掘中。20年以上のベテラン。ポストに入っていた求人チラシで応募し、働いてすぐに珍しい土器を発見し発掘作業にはまる。青森県八戸市の風張1遺跡の作業員、山内良子さんと林崎恵子さんは、働き始めた1989年に、のちに国宝になった合掌土偶を発掘。山内さんは身体を、林崎さんは左足を発見。その時の思い出を熱く語る。こうして、思わぬ発見が考古学に縁がなかった女性たちの人生を変えることもある。
 栃木県中根八幡遺跡では大学生たちが発掘を行なっている。その中で働いていたのが
國學院大学大学院生の伊沢加奈子さん。そこで出会った考古学に夢中になって短期大学から國學院大学文学部史学科考古専攻に編入し、卒業後、地元の栃木県壬生町立歴史民俗資料館学芸員になった。
 星糞峠の発掘は終了し現場は埋められ、そこに去年(2021)建立された「黒耀石体験ミュージアム」に発掘現場から削り取った地層が展示されている。北玉川遺跡も稲荷木遺跡も埋められて道路が作られる。考古学は掘っては埋めての繰り返し。そして新しい現場で、今日も汗水流している「掘る女」の姿が。

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大竹幸恵さん ©︎2022 ぴけプロダクション

小学生の時ツタンカーメンに興味を持ち、1965年、中学2年の時、上野の国立博物館で開催された「ツタンカーメン展」に行き、いっそう考古学に傾倒。エジプトのピラミッドや発掘現場を見に行きたいと思った。高校生になるとシュリーマンのトロイア発掘の本を夢中になって読んだ。どこか忘れたけど、東京三多摩の遺跡発掘現場へ見学に行ったこともあった。でも、考古学の分野に進むという考えは思いつかなかった。
この映画を観て、私も自分の興味がある考古学の分野に進めばよかった、その手があったかと思ったけど、50年以上前は、女性が考古学の分野で活動するということは考えられなかった。ここに出てきた女性たちは、子供のころに興味を持った考古学の分野に突き進んだ人もいれば、パートで始めた発掘の仕事で、土器や土偶を発見し、発掘にハマってしまった人もいる。でも、みんな、泥や汗にまみれて発掘をすることを苦には思っていない。夢中になれるものがあるというのは人生を豊かにする(暁)。

『掘る女 縄文人の落とし物』公式HP  
2022年/日本/111分/カラー/DCP
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
製作・配給:ぴけプロダクション 配給協力・宣伝:プレイタイム
posted by akemi at 20:49| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

プアン/友だちと呼ばせて(原題:One For The Road) 

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監督:バズ・プーンピリヤ
脚本:バズ・プーンピリヤ、ノタポン・ブンプラコープ、ブァンソイ・アックソーンサワーン
出演:トー・タナポップ アイス・ナッタラット プローイ・ホーワン ヌン・シラパン ヴィオーレット・ウォーティア AND オークベープ・チュティモン

ニューヨークでバーを経営するボスのもとに、タイで暮らすウードから数年ぶりに電話が入る。 白血病で余命宣告を受けたので、最期の頼みを聞いてほしいというのだ。バンコクに駆けつけたボスが頼まれたのは、 元カノたちを訪ねる旅の運転手。カーステレオのカセットテープから流れる思い出の曲が、二人がまだ親友だった頃の記憶を呼びさます。 かつて輝いていた恋への心残りに決着をつけ、ボスのオリジナルカクテルで、この旅を仕上げるはずだった。 だが、ウードがボスの過去も未来も書き換える〈ある秘密〉を打ち明ける──。

死期が迫った男性が別れた元カノに返したいものを渡すために会いに行く。男性とのことはすでに過去で、自分の人生を生きている女性側からすればいい迷惑だろうなと思っていたら、案の定。男性は夢見がちで、女性は現実的といわれるが、その違いが明確に表現されていて、さすがにちょっと男性がかわいそうに思えてきたとき、この旅の本当の意味が見えてくる。過去の恋愛のお詫び行脚は彼の本当の思いを隠す言い訳に過ぎなかったとは!
人は死を目の前にすると人生で後悔していることをいろいろ思い出すものなのかもしれない。さて、私はどうなんだろう。何を後悔し、それをどうやり直したくなるのか。そして、それをすることは相手を傷つける自己満足に過ぎなかったりしないだろうか。
登場人物たちの倍くらい生きているから、人生でやり残したままのことをどう決着つけるのか、そろそろ考えておいたほうがいいかもとこの作品を見ていたら思えてきた。
ところで、この作品、いろいろなカクテルが登場する。どれも色合いが素敵で、アルコールが飲めない私でさえ、ちょっと飲んでみたくなる。ノスタルジックな風景とこのカクテルを見ているとタイに行きたくなってしまうかもしれません。(堀)


2021年/タイ/2021年/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/129分
配給:ギャガ
(c)2021 Jet Tone Contents Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/puan/
★2022年8月5日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、渋谷シネクイントほか全国順次公開

posted by ほりきみき at 19:25| Comment(0) | タイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

きっと地上には満天の星(原題:Topside)

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監督・脚本:セリーヌ・ヘルド&ローガン・ジョージ
出演:ザイラ・ファーマー、セリーヌ・ヘルド、ファットリップ、ジャレッド・アブラハムソンほか

NYの地下鉄のさらに下に広がる暗い迷宮のような空間で、ギリギリの生活を送っているコミュニティがあった。5歳のリトルは、“地上”から帰ってきた母に今日も尋ねる「ねえ、翼は生えた?」リトルの背中を見てニッキーは「もう少しね。翼が生えるまではここが安全。」と答える。リトルは、翼が生えたら地上を飛び回り、絵本で見た“星”を探すのが夢だ。
ある日、不法住居者を排除しようと市の職員たちがやってくる。隠れてやり過ごすことができないと判断したニッキーは、隣人のジョンにも促されリトルを連れて地上へと逃げ出すことを決意する。初めて外の世界を体験するリトル。明るすぎる地下鉄のホーム、階段でひしめき合うたくさんの人、けたたましく鳴るクラクション…。夢に見た地上は、リトルにとって刺激が強すぎる世界だ。しかし役所の人間が立ち去るまで“家”に戻ることはできない。せめて明日の朝までこの地上を逃げ続けなければいけない。
ニッキーは彼女に“商売”をさせてくれるギャングのレスの部屋を訪ねる。ジャンキーたちがうつろな目で場違いな母娘を見つめるその部屋は、やはり二人が安全に過ごせる場所ではなかった。冬の夜のNYへ飛び出すニッキーとリトル。この街に彼らが休める場所などどこにもない。疲れ果てたニッキーが仕方なく“家”へ向かおうと地下鉄に乗ったその時、リトルはホームを飛び回る小鳥の姿に気を取られ、ひとり乗り遅れてしまう。発車してしまった列車の車内でパニックになるニッキー。すぐに引き返すがどこにもリトルの姿はない…。
NYの街で追い詰められていく母娘に、希望の光は降り注ぐのだろうか―。

本作は監督のひとりで脚本を書き、リトルの母親ニッキーを演じたセリーヌ・ヘルドが、子守の仕事をした非営利団体で恒久的な住居を持たない母子と出会ったこと、同時期にジェニファー・トスの著書「モグラびと ニューヨーク地下生活者たち」を読んだことが製作のきっかけとなったという。
シングルマザーのニッキーは住むところがなく、地下鉄の廃トンネルで暮らしている。厳しい生活ながらも育児放棄せず、慈しんで育てていることがリトルの満ち足りた表情から伝わってきた。セリーヌがリトルを演じたザイラ・ファーマーと撮影前に信頼関係を築いていたからできたことだが、ザイラが元々親からしっかり愛されて育ったに違いない。純粋無垢なリトルを見ていると世の中の嫌なことを忘れられる気がしてくる。ニッキーも同じ気持ちだったのだろう。
しかし、親は愛を与えればいいというものではない。リトルが簡単な計算もできないことが明らかになる。本来、子どもが育つべき環境にいれば、足し算、引き算、割り算などは友だちとの遊びを通じて、感覚として身についていくものなのだ。自分にとって不本意でも、子どもの健やかな成長のために家族や公的機関を頼ることは必要。
ニッキーは自力で何とかしようと奮闘するものの、リトルを見失うというトラブルを経験して、自分が本当は何をすべきかに気付いていく。その決断はニッキーにとって今は辛いかもしれない。しかし、リトルの将来を考えたら、「間違っていなかった」と思える日がくるだろう。(堀)


2020年製作/90分/G/アメリカ
配給:フルモテルモ、オープンセサミ
© 2020 Topside Productions, LLC.All Rights Reserved.
公式サイト:https://littles-wings.com/
★2022年8月5日(金)からシネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 19:15| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

長崎の郵便配達

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監督・撮影:川瀬美香 
構成・編集:大重裕二 
音楽:明星/Akeboshi
出演:イザベル・タウンゼンド、谷口稜曄、ピーター・タウンゼンド

英国マーガレット王女との世紀の悲恋で知られ、『ローマの休日』のモチーフになったと言われる元英空軍大佐で作家のピーター・タウンゼンド氏。後に、世界を回ってジャーナリストとなり、16歳のときに長崎で郵便配達中に被爆し、生涯をかけて核廃絶を世界に訴えた谷口稜曄(スミテル)さんに出会い、1984年に1冊のノンフィクション小説を出版する。本作は、娘のイザベルさんが、父の著書とボイスメモを頼りに2018年の長崎をめぐり、2人の想いを紐解く珠玉のドキュメンタリー。

日本人ならば原爆のことはある程度知っている。それが思い込みであることにこの作品を見れば気づくだろう。日本にいれば、原爆ドームや原爆で真っ黒な焦土と化した広島の写真を見る機会は何度もある。途轍もなく悲しい、酷いことが起こったのだと思う。しかし、それはあくまでも知らない人が受けた悲劇で、自分の身に置き換えては考えにくい。
本作では谷口さんがその瞬間に見た風景や熱風が体をどう変化させていったのかを語る。そこには真実の重みがあり、知らない人のことと見過ごすことができない。
時間が流れ、第二次世界大戦が遠い昔のことになりつつある。本作のもとになったピーター・タウンゼンド氏の著作「ナガサキの郵便配達」は日本では絶版になっているが、谷口さんは復刊を望んでいたという。監督から谷口さんの思いを聞いた方が再出版のために活動されている。谷口さんの思いが引き継がれていることがうれしい。また本だけでなく、娘のイザベルさんが父の思いを引き継ぎ、フランスで次世代に繋げていく活動を始めた。私たちも戦争がもたらす悲劇を伝えていかなくてはと思う。(堀)


忘れ去られていく原爆の記憶が、こうした形で映像に残ったことに、まず深い感動を覚えました。背中全面に真っ赤な火傷を負った少年の写真ははっきりと記憶にありました。その少年が郵便配達員で、その後、ずっと核廃絶を訴えてきた谷口稜曄さんだということ、そして、英国マーガレット王女との恋に破れたピーター・タウンゼンドさんが、傷心の旅の途中で谷口さんに出会い、ノンフィクション小説「THE POSTMAN OF NAGASAKI」を書かれたことは、この映画を通じて初めて知りました。谷口さんも、ピーター・タウンゼンドさんも亡くなり、ピーターさんの娘であるイザベルさんが小説と、父のボイスメモを頼りに、谷口さんの足跡を辿る旅・・・  語り継ぐことの大切さを思いました。
ピーターさんのボイスメモには、「戦争に行って人を殺した」という告白が残っていたそうです。戦争とは、まさに人と人が殺しあうこと。勝っても負けても、どちらの側にも心の傷はあとあとまでのこるものだと実感します。
ところで、長崎は、大好きな町で、何度か訪れたことがあります。風光明媚な町をグラバー邸のある丘の上から眺めるたびに、この美しい町に原爆が落とされたことに思いを馳せたものです。爆心地のあたりは、一度だけ歩いたことがあります。そこかしこに痕跡が残されていて、一瞬の原爆の威力におののいたものです。
被爆国として、日本はもっともっと強く核廃絶を訴え続ける必要があると思います。
残念ながら、今も各地で戦火は絶えません。お互いを思いやり、共存する世界はいつ実現するのでしょう・・・ (咲)



2021年/日本/日本語・英語・仏語/97分/4K/カラー/2.0ch/日本語字幕:小川政弘 フランス語翻訳:松本卓也
配給:ロングライド
©️The Postman from Nagasaki Film Partners
公式サイト:https://longride.jp/nagasaki-postman/
★2022年8月5日(金)シネスイッチ銀座ほか全国公開

posted by ほりきみき at 19:04| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ファイナル アカウント 第三帝国 最後の証言  原題:Final Account

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(C)2021 Focus Features LLC.

監督・撮影:ルーク・ホランド
製作:ジョン・バトセック、ルーク・ホランド、リーテ・オード
製作総指揮:ジェフ・スコール、ダイアン・ワイアーマン、アンドリュー・ラーマン、クレア・アギラール
アソシエイト・プロデューサー:サム・ポープ
編集:ステファン・ロノヴィッチ/追加編集:サム・ポープ、バーバラ・ゾーセル
音楽監修:リズ・ギャラチャー

イギリスのドキュメンタリー監督ルーク・ホランドは、10代になって初めて、母がウィーンから逃れてきたユダヤ難民で、祖父母はホロコーストで殺害されたというルーツを知った。2000年代になり、祖父母を殺した人間を探す目的で、ドイツやオーストリアで暮らす戦争体験者たちをインタビューし、カメラに収めた。その数は約250件にも及んだ。
ホロコーストを直接目撃した、生存する最後の世代である彼らは、ナチス政権下に幼少期を過ごし、そのイデオロギーを神話とするナチスの精神を植え付けられて育った。戦後長い間沈黙を守ってきた彼らが語ったのは、ナチスへの加担や、受容してしまったことを悔いる言葉だけでなく、「手は下していない」という自己弁護や、「虐殺を知らなかった」という言い逃れ、果てはヒトラーを支持するという赤裸々な本音まで、驚くべき証言の数々だった・・・

ナチスが犯したユダヤ人などの大量殺人は、今でこそ歴史的事実として皆が知っていることですが、当時は、渦中にいて目撃していた人にとっても、全体像は見えてなかったこと。ましてや、自分が大量殺戮に加担したとは思いたくないのが世の常でしょう。取材を受けた人たちの答える姿からは、様々な思いを感じ取ることができて、興味深いものでした。時代の動きの中で、そのような行動を取らざるをえないというのも、人間の悲しい性。
今、まさに戦闘の続くロシアとウクライナ。どちらの兵士も、本来なら戦うより平和に暮らしたいはず。それなのに、人を殺すことに加担させられているのです。権力者の欲のために・・・ 人類はいつまで無駄な戦いを繰り返すのでしょう。(咲)

2020年/アメリカ=イギリス/ドイツ語/94分/カラー(一部モノクロ)/ビスタ
字幕翻訳:吉川美奈子 字幕監修:渋谷哲也 ナチス用語監修:小野寺拓也  
配給:パルコ ユニバーサル映画
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/finalaccount
★2022年8月5日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショー





posted by sakiko at 19:01| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ウクライナから平和を叫ぶ~Peace to you All~(原題:Mir Vam)

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監督・脚本・撮影:ユライ・ムラヴェツJr
出演:ユライ・ムラヴェツJr

15年4月、スロバキアの写真家ユライ・ムラヴェツJrは、ユーロマイダンの中心地だったウクライナ・キーフを出発、分離主義勢力が支配する東部のドネツクに向かう。分離主義勢力が支配する村を取材する彼に、戦争の悲しみと平和への望みを語る住民たち。クリフリク村最後の住民となった老婆は「プーチンに助けてほしい」と訴える。16年2月、ドネツクの情報省により入国禁止ジャーナリストとして登録された監督は、ドネツクには入国できなくなった。以後ウクライナ支配下の村やウクライナ-ドネツク紛争の最前線マリウポリでウクライナ側の人々を取材を開始する。

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(C)All4films, s.r.o, Punkchart films, s.r.o., RTVS Rozhlas a televizia Slovenska

ユライ・ムラヴェツJr監督は、ドネツク側とウクライナ側の両方の住民に平等に話を聞いて記録してきました。ロシアと西欧にはさまれたウクライナは、親ロシア派と親欧米派に分断されて行きます。どちらにも組するわけではなく、ただただ平和であってほしいと願う住民もいます。国が荒れ、支えるべき住民が死んでしまうのに、なぜ戦争が繰り返されるのでしょうか? 
両陣営に住む多くの人々の姿が紹介されています。前線に一人残された老女、離れて暮らす子どもを案じる母、スパイと疑われて逮捕された息子と理不尽な仕打ちに怒る母…手足を失った軍人や壊れかけた家を補修する人、ホームレスで飲酒がやめられない男性など。本作は6年前に完成したものですが、今年始まってしまったロシアのウクライナ軍事侵攻で都市部はさらに破壊され、映像にあった村のいくつかは消えてしまいました。
コロナ禍が終息せず、感染者数は増えるばかりの不安定な日常です。戦争の報道に胸が痛むと同時に、何が真実か、日本にいて何ができるのか頭がぐるぐるしてしまいますね。遠い国の話と思わずに、この貴重な映像をご覧ください。
ユライ・ムラヴェツJr監督にリモート取材ができました。(白)


インタビューはこちらです。

2016年/スロバキア /カラー/67分
配給:NEGA/配給協力:ポニーキャニオン
(C)All4films, s.r.o, Punkchart films, s.r.o., RTVS Rozhlas a televizia Slovenska
https://peacetoyouall.com/
★2022年8月6日(土)より渋谷ユーロスペースにてほか全国順次公開
posted by shiraishi at 11:00| Comment(0) | スロバキア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

コンビニエンス・ストーリー

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監督・脚本:三木聡
企画:マーク・シリング
撮影:高田陽幸
出演:成田凌(加藤)、前田敦子(惠子)、六角精児(南雲)、片山友希(ジグザグ)、岩松了(榊)、渋川清彦(沼津)、ふせえり(国木田)

スランプ中の売れない脚本家、加藤は、脚本執筆中にちょっとパソコンから離れた。その隙に恋人ジグザグの飼い犬“ケルベロス”に消されてしまった。保存もしていない。加藤は怒り心頭、ケルベロスをレンタルしたトラックに乗せて山奥に捨ててしまう。ジグザグに弁解のしようもない。思わず探しに戻るが、車が突然故障して立ち往生してしまった。あたりは霧に包まれコンビニ「リソーマート」があるきり。夜も更けたのに、泊まるところもない。オーナーの妻の惠子に助けられ家に泊めてもらうことになった。オーナーの南雲は歓待し、妻の惠子は加藤を誘惑してくる。

どこかに異世界があるとして、その入り口はどこだったらしっくり来ますか?この作品ではコンビニでした。ドリンクの棚に手を伸ばしたとき、向こう側で補充している店員さんと目があったことのある人は、うなずけるんじゃないでしょうか?あ、向こう側は異世界かもしんない・・・。
三木監督のこれまでの作品はほとんど観ています。いつも予想からはみ出したところで展開していって、気づけばそこは三木ワールドという異世界でした。本作はそこに囚われてしまった加藤が、妖艶な人妻(もうあっちゃんとは呼べないほど大人)の誘惑にのってしまいます。こ、これは、竜宮城の浦島太郎じゃありませんかっ!三木ワールドにハマりたい俳優さんたちが、そこでふわふわと嬉し気に漂っています。さあ、あなたも存分にお楽しみください。(白)


2022年/日本/カラー/シネスコ/97分
配給:東映ビデオ
(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会
https://conveniencestory-movie.jp/
三木聡監督インタビュー映像はこちら
★2022年8月5日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 09:59| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

劇場版 ねこ物件

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監督・脚本:綾部真弥
撮影:小島悠介
出演:古川雄輝(二星優斗)、細田佳央太(立花修)、上村海成(島袋毅)、本田剛文(矢澤丈)、松大航也(ファン)、金子隼也(加納直人)、山谷花純(畑山)、長井短(広瀬有美)、竜雷太(二星幸三)

2匹の猫、クロとチャーと暮らす二星優斗30歳。唯一の肉親である祖父・幸三が亡くなったことから始めた“猫付きシェアハウス・二星ハイツ”には、それぞれの夢を持つ4人の同居人が住んでいたが、みな次のステージへと巣立っていった。不動産会社の有美から、かつての入居者たちの活躍を聞かされ、二星ハイツの再開を促されるが気乗りがしない。しかし、祖父が遺した手紙に書かれていた、幼い頃に離ればなれになった「弟」の存在を想い出して、探し出すことを決意する。その方法とは、“猫付きシェアハウス”と自分の存在を全国に知らしめて、再び住人を募ることだった。そんな優斗をサポートしようと入居者だった、修、毅、丈、ファンの4人が二星ハイツへと帰ってきた。そんなある日、加納直人と名乗る人物が入居希望者として現れたのだが―。

今年の春のドラマが劇場版で公開です。祖父が亡くなってから外の世界に出ず、猫と暮らしていた浮世離れした優斗。古川雄輝さんがほんわかとして似合います。しぶしぶ入居者たちと関わることで、少しずつ世界を拡げていくまったりストーリーでした。四つ葉不動産の広瀬は、祖父に世話になったからと親身に心配してくれます。優斗が決めたここの住民が守るべき条文はとにかく猫第一、入居者を決める面接も猫の意向次第。本作では、猫付きシェアハウスを始めた本当の理由が明らかになります。それは?
毎回優斗が作って入居者と「いただきます!」と囲む食卓にはいつも美味しそうな食事が並びます。身体に良さそうなものばかり。こんなご飯つきのシェアハウスあったら入りたい。だれか猫つき・犬つきでシニア用格安物件作ってくれませんかね?応募殺到しそうだ・・・(白)


2022年/日本/カラー/93分
配給:AMGエンタテインメント
(C)2022「ねこ物件」製作委員会
https://neko-bukken-movie.com/
★2022年8月5日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 09:46| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月30日

アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台(原題:Un triomphe)

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監督・脚本: エマニュエル・クールコル (アルゴンヌ戦の落としもの)
共同脚本: ティエリー・カルポニエ (パリ特捜刑事)
撮影: イアン・マリトー (アルゴンヌ戦の落としもの)
⾳楽: フレッド・アブリル (サウンド・オブ・ノイズ)
主題歌: “I Wish Knew How It Would Feel to Be Free” ニーナ・シモン
出演:カド・メラッド ([コーラス][オーケストラ・クラス])
タヴィッド・アラヤ / ラミネ・シソコ / ソフィアン・カーム / ピエール・ロッタン / ワビレ・ナビエ
アレクサンドル・メドヴェージェフ / サイド・ベンシナファ /マリナ・ハンズ(世界にひとつの⾦メダル)
ロラン・ストッカー(セザンヌと過ごした時間)

売れない役者のエチエンヌは、刑務所の囚人たちのためのワークショップに講師として招かれる。初めて足を踏み入れた刑務所で、訳あり曲者だらけの囚人たちに囲まれることになった。エチエンヌは素人の彼らに、不条理劇の「ゴドーを待ちながら」の役を振り、少しずつかみ砕くようにして演出する。興味を持つもの、全く無関心なもの、共通しているのは早くここから出たいという気持ちだけだ。順調とは言えない過程をへて、理解者も少しずつ増え、ついに舞台公演の機会がやってくる。

エチエンヌ役のカド・メラッドはフランスの国民的スターで、あちこちで顔を見る人です。助演の俳優たちが演じるのは一癖も二癖もある囚人で「素人の俳優」。これは演じ甲斐がありそう。撮影場所は本物の刑務所で、900人の受刑者が収容されています。そこにロケ隊が8日間入って撮影。これは初めてのことだったそうですが、本物の持つ力が映画に与えたものは計り知れません。最も驚くのはこれが実話を元にしていて、あのラストのその後も実際に続いていたということです。全く「事実は小説よりも奇なり」ですね。
サミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」は、1954年に発表された戯曲で、私も高校生のとき一度友人と観に行って(日本の演劇)、途中で寝落ちした恥ずかしい記憶あり、私はつくづくエンタメ体質で不条理劇苦手だと知りました。それを演劇初挑戦の囚人たちにやらせたエチエンヌとやってみた彼らは凄い!と別の角度から感心したのでした。フランス語の原題”Un triomphe”は「勝利」、”applause”は「拍手・喝采」。(白)


いかにもフィクションという設定ですが、歯の浮くようなハッピーエンドで終わらない。スウェーデンで実際にあったことをベースにしていますが、展開にひねりを感じます。
それにしても刑務所内の発表会に留まらず、受刑者が外部の劇場で上演するというのは日本ではありえない発想でしょう。上演後、受刑者が刑務所に戻って来たときに刑務官から屈辱的な対応を受けます。見ていて気の毒になってきますが、仕方のないことなのかもしれません。
受刑者たちの変化や心情の揺れがこの作品のメインテーマですが、エチエンヌの人生への向き合い方の変化も浮かび上がってきます。思いやプライドに凝り固まって孤立していたエチエンヌが受刑者たちと接するうちに周りの人の気持ちを受け入れるようになっていくもちろん裏切られることもありますが、それさえ前向きに捉えて受け入れるラストに「人っていくつになってもやり直せる」と勇気がもらえます。
ところで、900人の受刑者が収容されている本物の刑務所で撮影されたことを(白)さんが書いたのを読んで知りました。日本との違いにびっくり。映画『すばらしき世界』(2021年)も刑務所が出てきますが、撮影が許されたのはほんの一部だけだったと聞いています。お国柄の違いでしょうか。(堀)


2020 年カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション
2020 年ヨーロッパ映画賞ヨーロピアンコメディ作品賞受賞
2021 年アートフィルムフェスティバル最優秀観客賞受賞
2021 年ラボール映画と映画⾳楽祭⾦のイビス(映画⾳楽)賞受賞
2021 年カナダ・ヴィクトリア映画祭観客賞受賞
フランス映画祭横浜 2021 オフィシャルセレクション

2022年/フランス/カラー/シネスコ/105分
配給:リアリーライクフィルムズ
(C)2020 - AGAT Films & Cie - Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms
http://applause.reallylikefilms.com/
★2022 年 7 月 29 日(金)より 感動のロードショー
ヒューマントラストシネマ有楽町/新宿ピカデリー他にて全国縦断公開


posted by shiraishi at 10:45| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月24日

アンデス、ふたりぼっち   原題:WIÑAYPACHA  英題:ETERNITY

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©2017 CINE AYMARA STUDIOS.

監督・脚本・撮影:オスカル・カタコラ
編集:イレーネ・カヒアス
出演:ローサ・ニーナ、ビセンテ・カタコラ

ペルー、アンデスの標高5000mを超える高地で暮らす老夫婦パクシ(ローサ・ニーナ)とウィルカ(ビセンテ・カタコラ)。 二人は、都会に出た息子がいつか帰ってくることを待ち望みながら、リャマと羊と共に暮らしている。寒い夜を温めてくれるポンチョを織り、コカの葉を噛み、日々の糧を母なる大地のパチャママに祈る。ある日、飼っていた羊がキツネに襲われてしまう。さらに、火をつけるためのマッチが底をついてしまい、夫ウィルカは町にマッチを買いに行くが、その途中で倒れてしまう・・・

本作は、ペルー映画史上初の全編アイマラ語長編映画で、ペルーのシネ・レヒオナル(地域映画)の傑作。
アンデスの大自然を舞台に、伝統文化を守りながら暮らす夫婦の姿を映像に収めたオスカル・カタコラ監督。2021年、プーノ県エル・コジャオ、山頂コントゥリリ地区で待望の2作目の長編映画『Yana-wara』を撮影中に34歳で亡くなられました。
ウィルカ役は監督の実の祖父ビセンテ・カタコラが、パクシ役は友人から推薦されたローサ・ニーナが演じています。
原題の『WIÑAYPACHA』は、アイマラ語で「永遠」を意味し、時間の経過と終わることのなく何度も戻ってくる循環を表現しているとのことです。
太陽の動きに従った暦で、新年を迎え、作物の植え付けをする太古から続く暮らし。南半球なので、私たちとは逆なのが見てとれて、なるほど!と思いました。
人里離れたアンデスの高地で、お互いを敬いながら寄り添って暮らす老夫婦の物語に、ほっこりさせられるに違いないと見始めたら、思いもかけない展開! 自然の厳しさを突き付けられた思いです。長年培ってきた伝統的なアイマラ文化が消えゆく運命であることも感じさせられました。それは、この地だけでなく、地球全体が抱えている問題でもあると、考えさせられました。 (咲)


★ペルーのシネ・レヒオナル(地域映画)
ペルーの首都リマ以外の地域で、その地域を拠点とする映画作家やプロダクションによって制作される映画を指す。娯楽的なジャンル映画から作家性の強いアート映画までタイプは様々だが、いずれの作品もその地域独自の文化や習慣を織り込んでおり、都市圏一極集中ではない多元的なペルー映画を構成している。

『マタインディオス、聖なる村』(監督:オスカル・サンチェス・サルダニャ、ロベルト・フルカ・モッタ)が、ペルーのシネ・レヒオナルとして初めて、2022年6月18日に日本公開されています。

アンデスの山の上で暮らす高齢者夫婦。2人とも饒舌ではないが、やってほしいことはしっかり伝える。夫は新しいポンチョがほしいといい、機織りのために毛玉を糸に精製するところから始める妻を手伝う。互いに慣れた手つきに夫婦が過ごしてきた時間を感じる。
言葉通り、自給自足の日々に都会に暮らす私たちは心を洗われるようだが、作品は自然のいい面だけでなく、過酷さも見せつける。それも若いときには難なく乗り越えられただろう。しかし老いて体力が衰えた身には辛い。息子が戻ってこないことを妻が何度も嘆く。妻の気持ちはよくわかるが、都会の便利な生活に慣れてしまった者には戻れない。孤立無援の状況でも山を下りることを考えない2人を更なる危機が襲う。辛いラストの中に夫婦の純愛が見えた気がした。(堀)


ペルー、アンデスの高地で暮らす老夫婦の物語。後ろに見える高山には残雪が残り、老夫婦が暮らす場所では草木が生え、緑の絨毯が広がる。そんな自然ではあるけど、草木萌える春でも天気が崩れれば雪が降るような厳しい高地。そして、湿気があるような天気は、もしかしたら5000mを越えるような高地では、下からの蒸気が雲になり湿ったような空気なのだろうか。そんな中、二人は毎朝祈りをささげ、食べていくための生活を続ける。ジャガイモを干すというシーンがあり、春先でジャガイモ?と思ったけど、もしかして、前の年に収穫したものを保存しておいたものだろうか。こんな高地では作れる農作物も限られているだろうし、貴重な食べ物。狐が、飼っていた7,8頭くらいの羊たちや犬まで全頭殺してしまったというシーンにもまたびっくり。狼ならわかるけど、集団で住む狐たちなのだろうか。この羊たちは食料でもあったと思うのに土に埋めていた。殺された羊たちはそのように扱うのかとも思った。それなのに食べるものがないと言ってリャマを殺してしまう。思ってもいないような行動だった。マッチがなくなり、村まで買いに行くとお爺さんは出かけたけど、村までたどりつかずに倒れてしまった。帰らぬ息子のことを思いながら、厳しい自然の中で生きるインディオの姿が描かれる。お爺さんがふいていたケーナの響きが物悲しい(暁)。

2017年/ペルー/アイマラ語/86分
日本語字幕:新谷和輝
アイマラ語監修:藤田護 マリオ・ホセ・アタパウカル 矢島千恵子
後援:在日ペルー大使館    協力:日本ペルー協会
公式サイト:https://www.buenawayka.info/andes-futari
★2022年7月30日(土)より、新宿 K's cinema ほか全国順次公開



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北のともしび ノイエンガンメ強制収容所とブレンフーザー・ダムの子どもたち

7月30日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開 上映情報 

★「北のともしび」チラシ表_R.jpg
©️S.Aプロダクション

過酷な運命に翻弄された20人の子どもたちを忘れないで

監督・撮影:東 志津
音楽:阿部 海太郎
音響デザイン:井上 久美子
日本語字幕:吉川 美奈子
語り:吉岡 秀隆

港湾都市として知られる第二の都市ドイツハンブルクに、かつてノイエンガンメ強制収容所があった。第二次世界大戦勃発前の1938年に設置された強制収容所の一つで、ナチスの迫害を受けたユダヤ人や捕虜、政治犯など、1945年の終戦までにおよそ10万人の人々が収容された。
ここに1944年11月28日、アウシュヴィッツ強制収容所から5歳から12歳の子供20人が送られてきた。男の子と女の子10人づつ。フランス、オランダ、イタリア、ポーランド、スロヴァキアなど、生まれた国は様々だったが、皆ユダヤ人で「結核の人体実験」のため集められた。過酷な実験で衰弱した子供たちはドイツの敗戦が迫る1945年4月20日、証拠隠滅のため、ブレンフーザー・ダムでナチ親衛隊に殺害された。
彼らの存在は戦後長い間、世間に知られることはなかったが、1970年代末、ドイツ人ジャーナリスト、ギュンター・シュヴァルベルクが調査し発表した。
ノイエンガンメ強制収容所とブレンフーザー・ダムは現在、記念館になり、多くの見学者や研究者を受け入れている。耐え難い運命の犠牲となった20人の子どもたちと、彼らの死を忘れまいと行動するドイツやヨーロッパの人々がいる。ノイエンガンメ記念館が中心になって、欧州各国の中高校生らが今も20人の調査・学習を続けている。また周辺の学校でも先生たちが自主的にプログラムを組み、学習活動をしている。
監督は、『花の夢 ある中国残留婦人』『美しいひと』の東志津。

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©️S.Aプロダクション

ナチスが人体実験をしていたというのは、かなり知られた話だが、子供たちが結核の実験のためにアウシュヴィッツ強制収容所から連れてこられていたということを初めて知った。大人で実験したが、結果が出せなかったためとも言われている。そして5か月後には、証拠隠滅のため殺されてしまったという事実。東監督は文化庁新進芸術家海外研修のためフランスに行った時に持っていったヴィクトール・E・フランクルの「夜と霧」でこのことを知り、2010年にここを訪ね、その後、この話を映画にしようと思ったと語っていた。この子たちは無残に殺されてしまったけど、今はバラ園に祀られている。この町の路には亡くなった子供たち名前が名づけられ、この子たちのことを忘れまいとする人たちの思いを感じた。日本軍も731部隊などが人体実験をしたけれど、そのことを後の世代の人たちに伝えていかなくてはならない(暁)。

公式HP 
上映時間108分 / 製作:2022年(日本)
配給:S.Aプロダクション

*東志津監督にインタビューしています。
『北のともしび ノイエンガンメ強制収容所とブレンフーザー・ダムの子どもたち』
東志津監督インタビュー
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霧幻鉄道 -只見線を300日撮る男-

2022年7月29日 ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国にて順次公開 上映情報 
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(C)ミルフィルム

2011年豪雨被災の只見線。全線開通を目指し行動する一人の写真家と仲間たち

監督:安孫子亘
プロデューサー:ナオミ
ナレーション:山本東
音楽:山形由美
音楽プロデューサー:DAIJI
出演:星 賢孝

2022年10月、全線運転再開される「只見線」。復活に懸け写真を撮り続けた星賢孝(ほしけんこう)さんと仲間たちを追ったドキュメンタリー。
只見線は福島県会津若松駅から新潟県小出駅までの135㎞あまりの奥会津の山間を走る路線。2011年7月、東日本大震災3.11から4か月後。原発事故に追い撃ちをかけるように福島県と新潟県を襲った集中豪雨はJR只見線の鉄橋を押し流し、会津川口駅~只見駅間が不通となり沿線に甚大な被害を与えた。復旧工事にかかる膨大な費用、その後の赤字解消を考えるとローカル線にとって致命傷となる決定的な損害である。
廃線か存続か? 廃線の危機にもさらされたが、只見線を愛する地元の応援団が、地域活性化の生命線を絶やさぬよう声を上げた。鉄道会社、市町村、地域住民などの長い協議の末、応援団の熱い想いが実り全線復旧することになった。しかし、復旧後の赤字を解消できるのかなど問題は残る。

応援団の中心は、年間300日、只見線と奥会津の絶景を数十年撮り続けてきた郷土写真家の星賢孝さん。故郷の存続危機を感じ、地域活性化のため、地元の景色の魅力を伝えようと、撮った写真をSNSで世界に発信してきた。その努力が実り、日本を越え、次第に海外のファンも増え、台湾などからの只見線を撮る観光客が増えて行った。また、自身が生まれ育った金山町三更(みふけ)集落の廃村で、50年前に消滅した「渡し船」も復活させ、霧の立ち込める幻想的な秘境スポットを観光地化した。

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(C)星賢孝

この映画は郷土写真家 星賢孝と、只見線を復活させるため協力する応援団の人たちにスポットをあてた作品で、3.11の影で、あまり報道されてこなかった福島の大きな被災を知らせ、復興を願い活動を続ける人々の姿を伝えている。気候変動のあらわれである異常気象と被災鉄道の再建を通して「美しい自然」と「恐ろしい自然」が隣り合わせにある日本各地に警鐘を鳴らす作品である。
監督は2011東日本大震災以降、会津に拠点を置き『檜枝岐歌舞伎 やるべぇや』(2011)。会津のマタギ(猟師)を描いた『春よこい』(2015)、『「知事抹殺」の真実 』などの安孫子亘。

1971年(昭和46年)に只見線が開通したというニュースを知り、いつか行ってみたいと思っていたのに、結局1回も只見線には乗ったことがない。この映画を見て、これまで只見線に乗ったことがなかったことを後悔した。素晴らしい四季の移ろいと景色。星さんが撮ってきた写真のすばらしさは、やはり長年ここに暮らし、いつどこで撮ると素晴らしい写真が撮れるという蓄積があって写真を撮っているからだろうと思った。景色というのはただ美しいというのではなく、朝や夕方、撮る時間の光線状態によって全然違う。朝の光線がいいのか、夕方の光線がいいのか、あるいは新緑や深緑、紅葉など四季による色の違い。冬の雪景色や、雲や霧、雨降りの具合など、いろいろな自然条件によって変わってくる。星さんの写真は景色の中に只見線を入れて撮るということで只見線の魅力を伝える写真を撮ってきた。素晴らしい写真の数々を撮ることで、只見線の魅力を外に伝え、それによって人々を寄せ、それが、他の人へも伝わり応援団を形成したのでしょう。
私自身は北アルプスが好きで、50年も前から登山に通って山岳写真を撮っていた。なので、この北アルプスをずっと見ながら走る大糸線(松本⇔糸魚川)が大好きだった。でも、山の写真や山里の景色などは撮っていたけど、大糸線は好きでも列車の写真は撮ってこなかった。今年春、大糸線が利用者が少なくて廃線になるかもしれないというニュースに接して、なにかできることがないかと思っていた時に観たのがこの作品だった。大糸線でも同じようにできるかもと思ったけど、私自身は山が見える景色の中に列車を入れた写真というのは全然撮ってはこなかった。山にしか目が向いていなかったことをこの映画を観て後悔。星さんたちがやってきたことは、日本全国のローカル線が抱えている高齢化、過疎化、廃線危機に大いに参考になることだと思った(暁)。


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(C)星賢孝


自分の故郷を走る電車に特化して撮影し続けている星賢孝さん。若いときは東京に憧れ、就職試験も受けたのに、合格の電話を受け取ったのが家族だったために、将来が変わってしまいました。それも親が亡くなる前にやっと打ち明けられたとは。しかしながら、だからこそ今があり、それは運命では?と納得したくもなります。人生って不思議なめぐり合わせです。
撮り鉄でもマニアでもないけれど、星さんの写真の風景は「ここに行ってみたい」と旅心を誘います。車で効率よく回るより、バスや電車で知らないところを走るのが好きなので、一度は訪ねてみたいところです。みんなに愛される只見線が、無事復活しますように。紅葉の中を走る雄姿が見られるのが楽しみです。(白)


只見線には、1972年の夏に一度だけ乗ったことがあります。ちょうど50年前、大学2年の夏休みのことです。学生時代から20代後半にかけて、大きな時刻表と周遊券、そしてユースホステルハンドブックを抱えて、日本各地を乗り歩きました。その中でも只見線からの眺めの美しさは忘れられない景色の一つですが、もう一度乗る機会を作らなかったのは、あまりに辺鄙な路線だからかもしれません。その只見線に鉄道ファンだけじゃなく、海外からも人を呼ぼうと奔走する星さん。撮影の邪魔になる木を切ってまで、インスタ映えする素晴らしい景色を演出する涙ぐましい努力に脱帽です。せっかく台湾や東南アジアの観光客誘致に成功したのに、このコロナ禍。10月の只見線全線運転再開のころには、また海外からのお客様にいらしていただけることを願うばかりです。
また、安孫子監督の「気候変動の走りでもある異常気象と被災鉄道の再建を通して「美しい自然」と「恐ろしい自然」が隣り合わせにある尊い自然環境。それを生み出す我々人類の暮らしを見つめ直す原点回帰を想う作品」という言葉が、とても響きました。只見線を題材に、もっと大きな地球規模の問題を提起されているのだと思いました。(咲)


公式サイト
配給 きろくびと
日本(2021)80分

*安孫子亘監督と星賢孝さんにインタビューしています
『霧幻鉄道 -只見線を300日撮る男-』 安孫子亘監督、星賢孝さんインタビュー
posted by akemi at 12:02| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

1640日の家族(原題:La vraie famille 英題: The Family)

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監督・脚本:ファビアン・ゴルジュアール
出演:メラニー・ティエリー、リエ・サレム、フェリックス・モアティ、ガブリエル・パヴィ

生後18ヶ月のシモンを受け入れた里親のアンナと夫のドリス。2人の息子とは兄弟のように育ち、幸せな4年半が過ぎようとしていた。ところが、実父のエディからシモンを手元で育てたいと申し出が…。突然訪れた“家族”でいられるタイムリミットに、彼らが選んだ未来とはー。

複数の家族が一緒に休暇を楽しむ冒頭シーンから、3人の子どもに恵まれた幸せな家族の話と思いきや、里子を受け入れた女性の葛藤を描いた作品だった。本作はファビアン・ゴルジュアール監督の少年時代の体験がベースにある。映画と同じように、生後18ヶ月の里子を両親が迎え入れ、6歳まで一緒に暮らしたという。
フランスでは里親は職業の1つ。300時間の研修受講を受けると国家資格が与えられ、子どもの養育に必要な費用とは別に18万5000円の給与が支給され、有給休暇もある。子どもへの支援がとてもシステマティックに行われており、実子同様に育てていても、実親の養育が可能になれば返さなくてはならない。
本作でもアンナとシモンは実の親子同様の絆を結んでいたが、実父の申し出から別れのときが見えてくる。“プロの里親として、どう振る舞うべきか”はわかっているが、感情はそれに伴わない。「アンナをママと呼ばないように」という実父の気持ちは理解できる。彼にとってシモンのママは亡くなった妻なのだから。しかし、これまで実母同様の愛情を注ぎ、ママと呼ばれてきたアンナにとっては受け入れがたいことだろう。アンナは自分らしさを失っていく。子どもを育てたことがある身にはアンナの辛さが手に取るようにわかるに違いない。監督の母が初めて里親となったとき、ソーシャルワーカーから受けた「この子を愛しなさい、でも愛し過ぎないように」というアドバイスが胸に悲しく響く。
アンナとシモンの関係はどうなるのか。アンナの夫や実子たちはそれをどう見つめ、支えるのか。感涙必至のラストだが、家族の絆に希望が感じられる。(堀)


シモンがとても可愛くて、こんな子と別れなきゃならないなんて、アンナならずとも泣きの涙だわと、もらい泣きしつつ観ました。初めての映画出演だというガブリエル・パヴィ君、少しも演技臭いところがありません。演技体験などなく、遊んでいた公園で声をかけられて出演することになったそうです。監督は脇を固めて自然な表情待ちの演出?
里親が職業だというのに、ほ~。実父のエディが里親に対してなんだかよそよそしい感じがしたのは、報酬をもらっているプロだろうという意識があるせいなんでしょうか? アンナは我が子同様に愛してきたので、別れは身を切られるように辛いというのに。
日本にも里親制度はありますが、フランスとは大きく違います。子ども中心に多くの大人が関わるフランス、ソーシャルワーカーたちの声が上へと届くボトムアップ方式です。日本では親の権利が強くて、ソーシャルワーカーが圧倒的に少なく、現場からでなく上からのトップダウン。社会福祉制度があっても知らない人も多く、その周知も遅れています。何でも申請が先、実行まで時間もかかります。少子化を嘆くだけでなく、公的支援を厚くして、子どもを育てやすい環境をつくることが先です。里親についても経済的サポートも研修もあることを知れば、もっと里親になる人が増えて乳幼児が家庭で成長できるんじゃないかなあ。フランス映画を観ながら、日本の足りないところを考えさせられました。(白)


2021年/フランス/仏語/102分/1.85ビスタ/5.1ch
配給:ロングライド
©︎ 2021 Deuxième Ligne Films - Petit Film All rights reserved.
公式サイト:https://longride.jp/family/
★2022年7月29日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
posted by ほりきみき at 02:08| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月23日

猫と塩、または砂糖

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監督:脚本:小松孝
撮影:竹山ニコラス
音楽:田中絋治
出演:田村健太郎(佐藤一郎)、吉田凜音(金城絵美)、宮崎美子(佐藤恵子)、諏訪太朗(佐藤茂)、池田成志(金城譲二)

佐藤一郎は社会に出ることを拒絶して母の「猫」になることを職業に決めた。母は丸まっている一郎のそばで掃除機をかける。父の茂はアル中でおまけに糖尿病。プライドだけは高く、母にいばりちらす。母はつつましく文句も言わずに従っていたが、溜りにたまると一人黙々とクルミを割る。
ある日、かつての恋人金城と再会した母は、乙女心全開となり、父と離婚すると言い出す。金城は紳士然としているが、一郎には本心がつかめない。金城は娘の絵美を連れて佐藤家で同居することになった。

小松孝監督は「PFFアワード2016」でグランプリを受賞しました。本作はPFFスカラシップ作品として製作した商業映画です。
「猫」になると決めた一人息子を母は受け入れ、普通にお喋りをしています。できるものならこうなりたい若者はいるだろうな、と観ていたら、真っ白の衣裳で登場した金城父娘も負けていません。戦いではないですが。
一人娘の絵美はパパだけの汚れ無き「白いアイドル」。実際にアイドルの吉田凜音さんが演じて、お人形のように可愛いです。アル中の別れた夫を追い出せない母は、一部屋に住まわせています。いったいどうやって生活費を捻出するのだ?いやそんな下世話なことは問題じゃないのか?この二家族はいいのか、これで? 不思議な家族の行く道はどっち?(白)


2020年/日本/カラー/119分
配給:PFF、マジックアワー
(C)2020 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF
https://www.nekoshio.com/
★2022年7月23日(金)ユーロスペースほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 17:49| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月17日

アウシュビッツのチャンピオン   原題:Mistrz  英題:The Champion of Auschwitz

aushvitts.jpg
(C)Iron Films sp. z o.o,TVP S.A,Cavatina GW sp.z o.o, Hardkop sp.z o.o,Moovi sp.z o.o


監督・脚本:マチェイ・バルチェフスキ
撮影:ヴィトルド・プウォチェンニク
音楽:バルトシュ・ハイデツキ
出演:ピョートル・グウォヴァツキ、グジェゴシュ・マウェツキ、マルチン・ボサック、ピョートル・ヴィトコフスキ、ヤン・シドウォフスキ

1940年6月、第2次世界大戦最中のドイツ占領下のポーランド。アウシュヴィッツ強制収容所に最初の囚人たちが移送されてきた。その中に、戦前のワルシャワで“テディ”の愛称で親しまれたボクシングチャンピオン、タデウシュ・ピトロシュコスキがいた。左腕に囚人番号「77番」の入れ墨を刻まれ、十分な寝床や食事を与えられることなく過酷な労働に従事させられた。ある日、一人のカポ(囚人の中の統率者)が、ボクシングチャンピオンだったテディを、司令官たちの娯楽としてリングに立たせることを思いつく。ここでのボクシングはスポーツではない。テディは、退屈しのぎの気晴らしとして対戦相手をさせられたのだ。必死に闘い、戦利品として手に入れた食糧や薬を囚人仲間たちに惜しげもなく分け与え、無敵のテディは、次第に囚人たちの希望の星となっていった・・・

タデウシュ・ピトロシュコスキは、1917年ワルシャワ生まれ。愛国主義とカトリックの教えが重要な役割を果たすポーランド家庭で育っています。なぜ、彼がいち早く強制収容所に送られたのかと思ったら、ポーランドに侵攻したナチス・ドイツは、愛国主義の温床になるとしてスポーツ組織を禁じ、「愛国心」の強い危険分子とみなしたアスリートを強制収容所に送ったと知りました。ユダヤ人だけでなく、ロマや障がい者が強制収容所に送られたことは知っていましたが、こうした愛国心が強いとみなされた人たちが政治犯として収容されたことを、本作を通じてあらためて知りました。
1940年6月に、最初に強制収容所に入れられたのは、こうしたアスリートを含め、ポーランドの愛国心の強い「政治犯」700人。当時、ポーランド軍の宿営地だったアウシュヴィッツを強制収容所にする改築工事に従事させたのです。ナチスはポーランド人を“下等人間”として、労働を強いたのですが、さらに“人間以下”と見なしたユダヤ人の抹殺計画が決定されたのは1942年です。

テディは、強制収容所のナチ親衛隊たちの退屈しのぎの慰めだったとはいえ、ボクシングをし続けることで生き延びました。連行されてきたプロレスやフットボールなどのアスリートたちも、対戦相手をさせられたとのことです。
ところで、アメリカ映画『ナチス、偽りの楽園 -ハリウッドに行かなかった天才-』(2003年、マルコム・クラーク監督)では、テレージエンシュタット収容所で、音楽、映画、演劇など芸術の才能のあるユダヤ人たちが集められ、戦況が悪化する中でも文化活動が続けられていたことが描かれていました。
本作でも、収容所に到着した列車を音楽隊が迎える姿が映し出されていました。ナチスが悪だくみをカモフラージュするかのよう! 
本作は、過酷な強制収容所を生き抜いた実在の人物を描いたものですが、生き抜けなかった多くの人たちに思いを馳せ、世の中から戦争がなくなることを祈るばかりです。(咲)


2020年/ポーランド/91分/カラー/5.1ch
日本語字幕:渡邉一治
配給:アンプラグド
公式サイト:https://unpfilm.com/COA/
★2022年7月22日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開



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映画はアリスから始まった 原題:Be Natural: The Untold Story of Alice Guy-Blaché

2022年7月22日(金)~アップリンク吉祥寺にて公開
アップリンク吉祥寺 7/23(土)、7/24(日) アリス・ギイ監督作品上映あり トークイベントあり  他 上映情報

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© 2018 Be Natural LLC All Rights Reserved

映画を最初に生み出し1000本もの映画を撮った女性アリス・ギイ
 
監督・脚本・編集・製作:パメラ・B・グリーン
製作総指揮:ジェラリン・ホワイト・ドレイファウス 、ジョディ・フォスター 、ヒュー・M・ヘフナー 、ジョン・プタク 、ロバート・レッドフォード 、レジーナ・K・スカリー、ジェイミー・ウルフ
原作:アリソン・マクマハン
音楽:ピーター・G・アダムス
ナレーション:ジョディ・フォスター
出演:アリス・ギイ=ブラシェ、シモーヌ・ブラシェ、ベン・キングズレー、マーティン・スコセッシ、アニエス・バルダ

1895年3月22日。パリでリュミエール兄弟による最初の映画『工場の出口』が上映された。これは映画史における記念すべき出来事だった。この作品の上映会に参加していたのがアリス・ギィ。彼女は光学機器販売会社であり、現存する最古の映画会社ゴーモン社で社長の秘書をしていた。シネマトグラフと呼ばれていたこの作品を観て「この技術を使って物語を描いたら面白いのでは」と思った彼女は、さっそくレオン・ゴーモン社長の許可を得、映画製作に取り組んだ。
当時の映画は人物や風景、自動車、汽車などの動きをそのまま撮ったものだったが、アリスが撮ったのは、台本を書き、物語を演じた映画。奇想天外でアイデアにあふれる物語もあった。世界初の映画監督として、作品を作るたびに新しい表現や技法を生み出し開拓。クローズアップや彩色フィルム、より長編の作品、特殊効果の作品を発明。音声との同期など、今日の映画に必要な技法も生みだした。
1907年にカメラマンのハーバート・ブラシェと結婚した後、渡米。1910年に自身の映画会社ソラックス社を設立。フランスで400本以上の映画を監督し、アメリカに拠点を移してからの製作数を足すと1896年から1920年の間に1000本以上の映画を作ったとされている。
ナレーションはジョディ・フォスター!

女性監督の作品を上映しようと「女たちの映画祭」が始まったのは1978年。強姦がいかに女性の心身を傷つけるかを訴えた『声なき叫び』(1978年カナダ)や、家事や仕事など、男女逆転の妙をコメディタッチで描いた『女ならやってみな』(1975年デンマーク)などが上映された。ここで知り合った友人から、「世界最初の映画監督はアリス・ギイという女性だって知っている?」といわれ、彼女が作ったアリス・ギイに関する小冊子を買った。その時に初めてアリス・ギイの名前を知った。その後、アリスの初期作品『キャベツ畑の妖精』を観た記憶がある。
この作品はアリス・ギイの伝記を作るための探偵映画のようだった。彼女の足跡を追って、フィルムや資料を探し、みつかったフィルムを修復。最初はなかなか彼女の足跡がみつからなかったけど、だんだん糸が繋がるようにみつかり、なんだか観ていて楽しくなった。そして終わる頃には「よくやった!」と涙が出た。生前の本人のインタビュー映像もあり、いろいろ取材したことがピタッとはまって、アリスの自伝ができあがった。「アリス・ギイなんて知らない」と言う人もいたけど、知っていて彼女の功績を語る人もいた。でも彼女が最初の映画監督とは知らない人がほとんどだった。映画史の闇に消されてしまった彼女の功績を丹念に掘り起こしていく過程が描かれた作品(暁)。


2018年製作/103分/アメリカ
配給:パンドラ
オフィシャルサイト

パンドラ 書籍
私は銀幕のアリス 映画草創期の女性監督アリス・ギイの自伝
編:ニコル=リーズ・ベルンハイム 訳:松岡葉子  解説:向後友恵 定価:3500円

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2022年07月16日

島守の塔

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監督:五十嵐匠
脚本:五十嵐匠 柏田道夫
原案:「沖縄の島守ー内務官僚かく戦えりー」田村洋三著(中公文庫)
撮影:釘宮慎治
音楽:星勝
出演:萩原聖人(島田叡)、村上淳(荒井退造)、吉岡里帆(比嘉凛)、香川京子(比嘉凛/現代)、池間夏海、榎木孝明、成田浬、水橋研二

第2次世界大戦末期、アメリカ軍が着々と迫っている沖縄に本土より派遣された2人の内務官僚がいた。戦中最後の沖縄県知事として赴任した神戸出身の島田叡(あきら)と、島田と行動を共にした警察部長の荒井退造。荒井は1943年に赴任し、戦火の迫る沖縄から本土や台湾への疎開を進めていた。1944年大空襲で那覇は焦土と化し、多くの島民が犠牲となった。1945年1月、大阪内政部長だった島田は、米軍上陸が囁かれる沖縄県知事への内示を即断・拝命し、家族を残して一人着任する。食糧不足の中、自ら米の調達に歩き、住民保護を第一に責務を全うしようとした。しかし度重なる軍の要請を受け、鉄血勤皇隊やひめゆり学徒隊として多くの青少年を戦場へ送らねばならなかった。2人は苦悩しながらも、県民の命を守り「命(ぬち)どぅ宝、生きぬけ!」と励まし続ける。4月1日、沖縄本島中部に米軍が上陸、本島を南北に分断する。

日本国内唯一の地上戦「沖縄戦」。鉄の暴風と言われた激しい空襲、艦砲射撃、上陸戦を戦った軍と島民。6月23日、日本軍司令官・参謀長らが自決して組織的戦闘は終結しました。戦陣訓は下級兵士まで浸透していたうえ、当時の民間人は鬼畜米英と教え込まれていたので、降伏することなく壕で焼かれたり崖から飛び降りたりしてたくさんの命が消えました。そんな中で、官僚が「命(ぬち)どぅ宝、生きぬけ!」と叫び続けるというのは命がけのことです。沖縄では20万人が亡くなったと言われていますが、12万人が沖縄県民、そのうち9万4千人が一般の住民だったそうです。
職務を越えて沖縄県民のために奔走した2人の最後は明らかでなく、遺骨も見つかっていません。摩文仁の丘の平和祈念公園の霊域参道入口には「島守の塔」(県職員469柱を合祀)と2人の連名の慰霊碑が建立されています。すぐそばには、島田の出身地兵庫県、荒井の出身地栃木県の慰霊塔もあります。萩原聖人さんと村上淳さんが、実直で情のある官僚を演じて今の世にもこういう人がいてほしいと思ってしまいました。
知事の元で働いた比嘉凛(ひが りん)のまだ戦火の及ばなかった幸せな時代と、家族・友人を次々と失う激戦のときも描かれています。演じる吉岡里帆さんほか軍国少女たちの絶望が胸に刺さりました。戦後生き延びた凛を演じたのは『ひめゆりの塔』(1953年公開/今井正監督)で女子学生を演じた香川京子さん。ほぼ70年を経ての沖縄戦の映画の出演にどんな思いを抱かれたのでしょう。
本土復帰50年の節目ですが、節目でなくとも亡くなられた多くの人たちがいたことを忘れません。
☆6月に沖縄を訪ねた日記はこちら。(白)


日本軍が沖縄の民間人にも「敵に捕まるより玉砕しろ」と言った時代に、「生きぬけ!」と励ました島田叡と荒井退造。勇気ある官僚がいたことに心が震えます。
昨年公開された 『生きろ 島田叡―戦中最後の沖縄県知事』(監督:佐古忠彦)で、初めて島田叡氏のことを知り、こんな方がいたのだ!と驚きました。何より、私と同じ神戸生まれ。父が長く勤務した兵庫高校の前身、神戸二中の卒業生でした。兵庫高校の正門近くに島田叡氏の銅像があるものの、その功績は知らなかったと父。
『生きろ 島田叡―戦中最後の沖縄県知事』にリーダーのあるべき姿を思う。(咲)
こちらは、島田叡氏に焦点を当てたドキュメンタリー映画でしたが、ご本人の映像も音声も残っていない中で、当時を知る人々の証言で人物像を浮き彫りにしたものでした。
『島守の塔』では、萩原聖人さんと村上淳さんが、沖縄戦を闘った実在の人物を見事に体現しています。私にとっては、軍司令官・牛島満を榎木孝明さんが演じているのが嬉しかったです。『HAZAN』(2003)、『アダン』(2005)、『半次郎』(2010)の3作品で主役を務め、五十嵐匠監督とは縁の深い榎木さん。牛島軍司令官と同じ鹿児島出身で、温厚な人柄で沖縄の人たちにも信頼を得ていたという牛島軍司令官に、まさに適役です。
島田叡氏も牛島満氏も、沖縄行きを命じられて、死を覚悟して赴いたといわれています。「お国のためなら」と拒否できないような時代、そして、そこに暮らす民間人を巻き込むような戦争の時代が、再び訪れないことを祈るばかりです。(咲)



2022年/日本/カラー/シネスコ/130分
配給:毎日新聞社、ポニーキャニオンエンタープライズ
(C)2022 映画「島守の塔」製作委員会
https://shimamori.com/
★2022年7月22日(金)シネスイッチ銀座ほか全国順次公開


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あなたがここにいてほしい(原題:我要我們在一起  英題:Love Will Tear Us Apart)

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監督:シャー・モー(沙漠)
原作:リ―・ハイボー(李海波)
  《與我十年長跑的女友明天要嫁人了》
プロデューサー:チェン・クォフー(陳国富)
主題歌:empty world(這世界那麼多人)
歌:カレン・モク(莫文蔚)
出演:チュー・チューシアオ(リュー・チンヤン)、チャン・ジンイー(リン・イーヤオ)
日本語版吹き替え:古川雄輝(リュー・チンヤン)、三森すずこ(リン・イーヤオ)

白蒲高校に通うリュー・チンヤンは美人で優等生のリン・イーヤオに一目ぼれ。なんとか彼女にラブレターを渡すが、それを生活指導担当のヤオ先生にみつかってしまう。頭を丸めて校内放送で謝罪すれば見逃すと言われ、チンヤンはなんとその校内放送で彼女に告白した。数年後イーヤオは一流大学に合格、チンヤンは専門学校へ。いつか2人でマンションに住みたいと、建設現場で真面目に働くチンヤンだったが彼女の家族にはいい顔をされない。そんなときに学生時代からの友人のダーチャオからの頼みで、大きなプロジェクトを仕切ることになった。

2013年1月中国の「ドウバン」というサイトに《與我十年長跑的女友明天要嫁人了》「十年間一緒にいた彼女は明日他人の嫁に行く」という長い文章が投稿され、話題となりました。若者の結婚までに出逢う様々な出来事が共感を呼び、社会現象になったそうです。すぐにこの映画化権を獲得したプロデューサーが、長い時間をかけて脚本を練り、シャー・モー監督を見出して8年がかりで作品が完成しました。チュー・チューシアオは『流転の地球』(Netflix配信中)の主演で大注目、チャン・ジンイーはこれが初主演作です。
10年前、チンヤンとイーヤオは高校生のころに知り合い、家柄や学歴の差も越えて愛を育んできました。チンヤンは一本気で手抜きも贈収賄もしません。誠実なのに、問題が次々と起こって苦労ばかりが続き、なんだか男性版「おしん」のようで気の毒になりました。
イーヤンは母親の反対を押し切ってチンヤンと暮らしますが、楽しい日々は短くお金の心配が絶えません。手を差し伸べる男性が現れて、2人の間に水を差し…。原作のタイトルどおり、他の男に嫁ぐか否かはぜひ劇場でご覧ください。(白)


2021年/中国/カラー/シネスコ/105分
配給:リスキット
https://anakoko.jp/
https://twitter.com/anakoko722
★2022年7月22日(金)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
posted by shiraishi at 23:39| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

あなたと過ごした日に(原題: El olvido que seremos)

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監督:脚本:フェルナンド・トルエバ
原作:マリオ・バルガス・リョサ『El olvido que seremos(原題)』(05)
撮影:セルヒオ・イバン・カスターニョ
出演:ハビエル・カマラ (エクトル・アバド・ゴメス)、フアン・パブロ・ウレゴ (青年期の息子 エクトル)、パトリシア・タマヨ (セシリア)、ニコラス・レジェス・カノ (キキン/幼少期のエクトル)

70年代のコロンビアの都市、メデジン。エクトルは5人姉妹の中の唯一の男の子として生まれ、父と同じ名前をもらった。父は医師であり、公衆衛生が専門の大学教授であり、貧しい地域で「子どもたちの未来」プロジェクトを立ち上げ、人権の擁護のため活動にも尽力していた。エクトルはそんな父が大好きで心から尊敬している。姉妹の一人が重い病気になり、父は悲しみと怒りから政治活動にのめりこんでいく。平等で自由な社会を目指す父は、度重なるいやがらせや圧力を受けるようになった。

原作のエクトル・アバド・ファシオリンセが、この映画の息子のエクトル。父の応援を得て作家になる夢を叶え、現代のスペイン語文学の代表作家となりました。息子の視線で父親のエクトル・アバド・ゴメス博士の生涯を綴ったこの回想録はベストセラーとなりました。20カ国以上で出版されていますが、日本語訳は残念ながらないようです。
映画は幸せに暮らしていた幼少期から、内戦が激化していた80年代、父がメデジン市長選に立候補、波乱の生涯を閉じるまでが描かれています。
愛情とユーモアあふれる父・ゴメス博士を演じたのは、ハビエル・カマラ。ペドロ・アルモドバル監督『トーク・トゥ・ハー』(2002)の看護師役が強烈に印象に残っています。ほかには『しあわせな人生の選択』(2016)。最近はテレビに出演しているようです。(白)


コロンビア第二の都市メデジンといえば、今年4月29日に公開された『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』をまず思い出しました。ふっくらした独特の画風の画家フェルナンド・ボテロが、メデジン生まれ。誘拐や殺人の蔓延する故郷メデジンの汚名を返上したいと多くの作品を寄贈したものの、1995年、メデジンのサン・アントニオ広場でボテロの鳩の銅像に仕掛けられた爆弾でテロが発生したことが描かれていました。
もう一つ思い出したのが、『エスコバル 楽園の掟』(2016年3月26日公開)。メデジン・カルテルという犯罪組織のことが描かれていました。
父エクトル・アバド・ゴメス博士は、そんなメデジンを政治でよくしようと市長選に挑むのです。崇高な精神の持ちながらも極めて人間的な父の姿を息子の目で描いた物語が心に響きました。
公衆衛生の専門家である父エクトルが幼い息子に感染症予防には手をよく洗うことと教えています。私も小さい時から、母によく言われましたが、コロナ禍の今、あらためて手を洗うことの大切さを思いました。(咲)



●2020年カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション、2020年アカデミー賞国際長編映画賞コロンビア代表

2020年/コロンビア/カラー/シネスコ/136分
配給:2ミーターテインメント
(C)Dago Garcia Producciones S.A.S. 2020
https://www.amped.jp/anatato/
★2022年7月20日(水)東京都写真美術館ホールほか全国順次公開

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2022年07月14日

スウィートビターキャンディ

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監督:中村祐太郎
脚本:小寺和久 中村祐太郎
撮影・照明:池田直矢
録音:小川武
主題歌:「そういう風の吹きまわし」町あかり
出演:小川あん(サナエ)、石田法嗣(裕介)、田中俊介(山下)、清水くるみ(ユキエ)、松浦祐也(父)、町田マリー(母)、蒼波純、若杉凩、片岡礼子

サナエは大学受験を控えている高校生。夏休みには大学生の姉ユキエが帰省してくる。両親が忙しいので、家政婦さんを頼むといつものおばさんでなく、若い男性がやってきた。裕介は無骨で愛想なし、黙々と家事を片付けていく。学校ではなんとなく一人でいるサナエは裕介に興味津々。いろいろとちょっかいを出してみるが、迷惑がられるばかり。

男性の介護師さんはいるけれど、家政婦さんもいるんですね。裕介は訳ありらしく、この仕事で落ち着きたいと考えています。そこに邪魔をしてくるのが父親の会社の山下。姉娘のユキエに手を出すなとか、絡んできます。田中俊介さん、上に諂い、下と思うと横柄であざとさ全開の男を熱演。
裕介に対してまっすぐで一生懸命なサナエ。そんな恋心を受け止めきれず、傷つけてしまう不器用な裕介。「世界なんか一つしかない」と言われて黙ってしまうシーンが好きです。恋愛って痛いし、生きていくのもしんどい。会えてよかったと思える人がいただけ、幸せ。私もみそ汁に卵入れたくなりました。あのキャンディはどこで買えるのかな。*amazonで見つけました。外国製で1本1000円近く!買ったら食べないで飾っておきそう。(白)


☆片岡礼子さん、中村雄太郎監督近影
『シネマスコーレを解剖する。』公開決起集会(撮影:宮崎暁美)

片岡礼子さん.jpg

中村裕太郎監督.jpg



2022 / 日本 / 107分 / ヨーロピアンビスタ / 5.1ch / カラー / デジタル 
制作・配給:MotionGalleryStudio
©MotionGalleryStudio
https://sweetbittercandy.studio.site/
★2022年7月15日(金)下北沢 K2、池袋 シネマ・ロサ他、全国ロードショー

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2022年07月13日

バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー  原題:Superwho

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©CINÉFRANCE STUDIOS - BAF PROD - STUDIOCANAL - TF1 STUDIO - TF1 FILMS PRODUCTION

監督:フィリップ・ラショー
脚本:フィリップ・ラショー、ピエール・ラショー、ジュリアン・アルッティ、ピエール・デュダン
撮影:ヴァンサン・リシャール
音楽:マキシム・デプレ、ミカエル・トルディマン
製作:フィリップ・ラショー、ジュリアン・デリス、デヴィッド・ゴーキェ
出演:フィリップ・ラショー、ジュリアン・アルッティ、タレク・ブダリ、エロディ・フォンタン、アリス・デュフォア
ジャン=ユーグ・アングラード(『ベティブルー 愛と激情の日々』)、アムール・ワケド(『ワンダーウーマン1984』)

セドリックは、売れない3流役者。そんな彼に、ひょんなことから、新作映画「バッドマン」の主役が舞い込む。「バットマン」ではなく「バッドマン」。“バッドモービル”に乗り、宿敵“ピエロ”と戦うヒーローだ。張り切って体を鍛え、武術を学び撮影に臨む。撮影初日が無事終わろうとする中、妹から父親が負傷したと電話がかかってくる。セドリックは、バッドスーツのままバッドモービルで病院に急ぐが、途中で事故に遭い気絶してしまう。目を覚ますと、自分の名前や過去の記憶を失っていた。車には大金と銃・・・ いったい自分は何者??

セドリックの夢は、映画スターになること、そして警察署長のパパのいい息子であること。でも、やることなすこと、父に呆れられることばかり。さらに記憶を失ってしまって、ほかの家族を自分の家族と思ってしまう始末。
下ネタ続出で、お馬鹿度120%! それでも愛に生きるところは、やっぱりおフランス! 
監督・脚本・主役のフィリップ・ラショーは、『真夜中のパリでヒャッハー!』や『世界の果てまでヒャッハー!』でも、限りなくはじけてました。 私は未見ですが、日本の大人気漫画「シティーハンター」をフランスで実写化し、日本・フランスで見事大ヒットを記録した『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』のチームが再結集して製作したものとのことです。(咲)


『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』でリョウとして颯爽と登場、原作やアニメのキャラを忠実に再現していました。今回も監督・脚本・主演のフィリップ・ラショーですが、前作よりコメディに振り切っています。プロデューサーの褒め殺しに乗ったはいいが、すぐに悲惨な目に遭ってしまいます。自分が誰かもわからない主人公セドリック、コスチュームはスーパーヒーローでも中身が伴いません。しかしセドリックの分まで活躍してくれるのが妹です。半端なく強い!実に頼もしい!ロマンスやら本物の悪党とのアクションやら忙しいですが、最後はきっちり終わらせてくれます。(白)

2021年/フランス・ベルギー映画/フランス語/83分/シネスコ/5.1ch
字幕:井村千瑞
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:http://badman-hero.com/
★2022年7 月 15 日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国ロードショー


posted by sakiko at 15:01| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月12日

キャメラを止めるな! (原題:Coupez!  英題:FINAL CUT)

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監督・脚本・製作・編集:ミシェル・アザナヴィシウス
原案:和田亮一、上田慎一郎
出演:ロマン・デュリス(レミー/ヒグラシ)、ベレニス・ベジョ(ナディア/ナツミ)、グレゴリー・ガドゥボワ(フィリップ/ホソダ)、フィネガン・オールドフィールド(ラファエル/ケン)、マチルダ・ルッツ(アヴァ/チナツ)、ジャン=パスカル・ザディ(ファティ)、竹原芳子(マダム・マツダ)

「早い、安い、質はそこそこ」が売りの映画監督、レミーに日本で大ヒットしたゾンビ映画のリメイクの仕事が入る。問題はカメラ1台で30分ワンカットの撮影、しかもそれをB級映画専門チャンネルで生中継するって!?そんなの無理!と断ろうとしたが、妻のナディアにチャンスよ!と勧められる。父親を小ばかにしている映画監督志望の娘ロミーにもいいところを見せたい。キャストが揃ってリハーサル開始、主演のラファエルは文句が多い。スタッフもてんやわんや、チームワークは最悪だ。
日本のプロデューサーはマダム・マツダ、原作の変更は一切拒否、おまけに前日になって「役名も日本と同じに」と注文が入った。ラファエルがそれを知って降りる!と騒ぎ出す。悪いことは重なって、監督役とメイク役の俳優2人が来る途中に交通事故に遭う。2人は入院し代役は間に合わない。レミーとナディアは穴埋めに急きょ出演することになってしまった。

本家『カメラを止めるな!』は2018年日本映画界のビッグニュースでした。ワークショップから生まれたまだ無名の監督・俳優の作品が、口コミを中心に大ヒット。都内2館の上映だったのが日本国中に広まりました。製作費300万円の作品が観客動員数220万人!興行収入31億円突破!2018年度邦画第7位の成績を上げました。この試写を観たときに、すぐ「もう一回見直したい!」と思ったのですが同じ思いの人が多かったのでしょう。リピーター続出、見越していたのか「生き返り割引」がついていました。毎日出演者の誰かが舞台挨拶に日参したという記録的なできごとも。
リメイクはフランスの著名監督『アーティスト』のミシェル・アザナヴィシウス。主人公のヒグラシ監督役をロマン・デュリス、妻役をベレニス・ベジョ。オリジナル版で誰よりも強烈なインパクトを残した、竹原芳子(旧芸名:どんぐり)さんが堂々のフランス映画初出演。
ワンカットに加えて、ライブという制約。その中にコメディ要素を増やして笑わせ、しんみりさせと監督と俳優の腕、予算の大きさがわかります。オリジナルにはいなかった音響スタッフがいい味出していました。最初はどうしてもオリジナルの記憶と比較して観てしまうので、やはりもう一回観直したくなります(オリジナルも)。皆様そのつもりで。(白)


2022年/フランス/カラー/シネスコ/112分
配給:ギャガ
(C)2021 - GETAWAY FILMS - LA CLASSE AMERICAINE - SK GLOBAL ENTERTAINMENT - FRANCE 2 CINEMA - GAGA CORPORATION
https://gaga.ne.jp/cametome/
★2022年7月15日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開

posted by shiraishi at 22:57| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月10日

Blue Island 憂鬱之島

2022年7月16日 ユーロスペースほか全国順次公開 その他の劇場情報

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©2022Blue Island project

香港 ここで生きていく

監督・編集:陳梓桓(チャン・ジーウン)
プロデューサー:(香港)任硯聰(ピーター・ヤム)、蔡廉明(アンドリュー・チョイ)/(日本)小林三四郎 馬奈木厳太郎 
撮影:ヤッルイ・シートォウ 
音楽:ジャックラム・ホー ガーション・ウォン 美術:ロッイー・チョイ

現在、過去、未来
自由を求め続け、香港が辿った激動の記録
“香港人”としてのアイデンティティ


香港の自由を求める闘いの歴史を描いた香港・日本合作作品。
一国二制度が踏みにじられた香港。
“文化大革命”(1966~1976年)“六七暴動”(1967年)“天安門事件”(1989年)と世界を震撼させた事件に遭遇し、激動の歴史を乗り越えてきた香港の記憶。そして雨傘革命後の現代、香港市民の自由が急速に縮小してゆくなかで、時代を超えて自由を守るために闘う人たちの姿。文化大革命を逃れ恋人と命懸けで海を渡った陳克治、天安門事件を経て香港へとたどり着いた林耀強、六七暴動の抵抗者から経済人へと変遷していった石中英。異なる時代を生きた実在の3人の話から「自由を守るために闘った人々の記憶」を、ドキュメンタリーとドラマを融合させながら描き出す。
若き日の熱狂や情熱は時代の移り変わりとともに深い闇に埋もれていってしまった。しかし、彼らがいかに抵抗したかという記憶は、香港の歴史に残るかけがえのない瞬間の記録と証言として、市民運動に参加する若者たちへ、多くの励みや示唆を与えている。それぞれの世代の葛藤から、今、未曽有の危機に直面している香港の人々は何を受け止め、これからの自分たちの歴史にどう導いていくのか。この映画は、香港だけでなく、自由を求めるすべての人々とあなた自身の物語でもある。
監督は、香港の雨傘運動を記録したドキュメンタリー『乱世備忘 僕らの雨傘運動』のチャン・ジーウン。プロデューサーは『乱世備忘 僕らの雨傘運動』でも組んだピーター・ヤムと、香港の不安と希望を描いた衝撃作『十年』をプロデュースしたアンドリュー・チョイ。日本側プロデューサーは配給元でもある太秦の小林三四郎と弁護士の馬奈木厳太郎。井上淳一監督の『大地を受け継ぐ』『誰がために憲法はある』や、堀潤監督の『わたしは分断を許さない』もプロディースしている。また日本でのクラウドファンディングを行い、たくさんの日本人の賛同者が協力してできあがった。

2014年、香港の若者たちが未来のために立ち上がった“雨傘運動”の79日間を描いた『乱世備忘 僕らの雨傘運動』のチャン・ジーウン監督の2作目の長編。2017年の山形国際ドキュメンタリー映画祭の時にインタビューする機会があり、名刺交換をした時、すでにこの『憂鬱之島』の構想があって、交換した名刺にはこのチラシの写真が使われていた。その作品が、構想から完成まで5年以上の年月を経て完成し、日本公開されることになってとても嬉しい。一時は出来上がるかどうかと不安を持っているようだったけど、クラウドファンディングで日本の映画愛好者、香港に興味を持つ人たちの協力も得て完成した。でも、香港の状況は2017年の時とはガラリと変わってしまって、日本で公開はできても、今は香港では公開できない。いつか香港でも公開できる日が来ることを祈っている(暁)。

公式サイト  blueisland-movie.com
字幕:藤原由希 字幕監修:Miss D 
製作:Blue Island production  配給:太秦 
2022|香港・日本|カラー|DCP|5.1ch|97分

*参照 シネマジャーナルHP記事
スタッフ日記
●香港返還25年  大雨だった1997年7月1日を思う 
http://cinemajournal.seesaa.net/article/489403875.html
 
特別記事
●『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー
山形国際ドキュメンタリー映画祭2017にて   2017年10月11日
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yellowing/index.html

●『乱世備忘 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー(日本公開時)2018年07月22日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/460641864.html
posted by akemi at 20:58| Comment(0) | 合作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ボイリング・ポイント/沸騰  原題:BOILING POINT

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(C)MMXX Ascendant Films Limited

製作・監督・脚本:フィリップ・バランティーニ 
出演:スティーヴン・グレアム(『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』『アイリッシュマン』)、ヴィネット・ロビンソン(「SHERLOCK/シャーロック」)、レイ・パンサキ(『コレット』)、ジェイソン・フレミング(『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』『ベンジャミン・バトン数奇な人生』)

クリスマス直前の金曜日の夜。ロンドンの人気高級レストランのオーナーシェフ、アンディ・ジョーンズは、店に急ぎながら妻に電話している。別居して2か月、今晩は息子ネイサンと会う約束をしていたのにとても無理。直接謝りたいのに息子はつかまらない。店に着くと、スタッフが開店準備に追われている中、衛生検視官が抜き打ち検査に来ていて、厳しくチェック。安全評価が「5」から「3」に落とされてしまう。アンディが衛生管理ファイルの記入を怠っていたのも一因だった。スタッフからは食材の注文忘れを指摘され、さらに、宿敵のシェフ、アリステアの予約が入っていると聞かされ、頭が痛い。ほどなく開店。フロアもキッチンも大忙し。そんな中、アリステアがやってくる。予告なしにグルメ評論家のサラを同伴して・・・

アンディの元同僚で今はテレビでも活躍する宿敵のシェフであるアリステア。来店するなり、アンディに「ナマステ」とインド式に挨拶し、料理を注文したあと、「小皿でザアタル(アラビア語でハーブ類の総称)を持ってきて」と頼みます。まず、この男、何者?と興味を惹かれましたが、アンディに借金を返せと無理を言ったり、共同経営の危なげな話を持ちかけたりと、なんだか信用できないいい加減な男。アンディにとってはアリステアとのやり取りだけでも頭が痛いのに、次から次へと問題が起こって、アンディの精神状態は沸騰点に達します。それも、アンディが会えない息子に電話するたびに、これでもかとトラブル発生! しか~し、そも、オーナーシェフとはいえ仕事中の私用電話、いいの?とちょっといらつきました。そんなアンディですが、副シェフの給料アップを共同オーナーに了承を得なければという問題は常に頭から離れません。
監督が、レストラン業界内で起きている、うつ病、薬物乱用、人種差別、ハラスメント、同性愛 嫌悪など、改革を切実に必要としている問題を描きたかったのだとわかり、アンディの周りで次々にトラブルが起こった意味を納得しました。
厨房、フロア係、客・・・と、多くの人物が登場して、様々な「問題」が起こります。「13卓はプロポーズ予定で、女性はピーナッツアレルギー」という注意があって、予測通り、女性が発作を起こしてしまうのですが、それすら、問題の一つという位! 
満席のレストランを舞台に、キッチンとフロアでの出来事を90分ワンショットで描き切ったことに、ただただお疲れさまのひと言です。(咲)


2021/イギリス/英語/95 分
字幕:石田泰子
配給:セテラ・インターナショナル
© MMXX Ascendant Films Limited
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/boilingpoint/
★202年7月15日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開

posted by sakiko at 18:22| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月09日

さよなら、バンドアパート

sayonara.jpg

監督:脚本:宮野ケイジ
原作:平井拓郎
撮影:吉沢和晃
音楽:アントニオ古賀
出演:清家ゆきち(川嶋)、森田望智(ユリ)、梅田彩佳(ユキナ)、松尾潤(徹也)小野武正(シンイチロウ)上村侑(中学生の川嶋)髙石あかり(美咲)千原せいじ(爬虫類男)竹中直人(平原)

ライブハウスが歓声で揺れている。光の中心にいるのは、バンドでギターとボーカルを担当する主人公・川嶋。人気ミュージシャンとして輝く光を放つ彼にも、”あの頃”がある。まだ誰でもなかった”あの頃”。無名の彼を支えたのは、運命的に出会った人々だった。
ミュージシャンになる夢に気づかせてくれた美咲、明るい笑顔の下に孤独を抱えていたユキナ、夢を追いかける背中を押してくれたユリ、父親のような存在のバイト先のオーナー、そしてバンドのメンバーたち。多くの人々との出逢いと別れ、そして絶望や衝突を不器用ながらも乗り越えた”あの頃”。

原作は「note」で発表され書籍化されたミュージシャン平井拓郎による同名小説。かつて同じようにミュージシャンを夢見ていたという宮野ケイジ監督がメガホンを取りました。日本中、世界中にそう思っていた人が何万人もいることでしょう。
”あの頃”に共感した人が平井さんのブログを愛読し、9か月というこれまでにないスピードで書籍化される原動力になりました。川嶋を演じた清家ゆきちさんは映画初主演、ミュージシャンとして活動していた方なので、ライブシーンお楽しみに。
川嶋と出逢い、寄り添ってくれた女性たち、衝突を繰り返しながら磨き合った仲間。誰にも似た人がいるはず、同じような思いを抱いたはずです。躓いて、心折れて、痛くてほろ苦い青春も過ぎればいつか思い出になります。この先の道が茫漠としたままでも、生きているうちは、生きていく。生きていたらこんな風にいいことにも出逢えるよ。(白)


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左から宮野ケイジ監督、松尾潤、清家ゆきち、森田望智、小野武正(KEYTALK)、平井拓郎(原作者)
先行上映舞台挨拶 6/16

2021年/日本/カラー/97分
配給:MAP
(C)2021「さよなら、バンドアパート」製作委員会
https://banapa.net/
★2022年7月15日(金)シネマート新宿ほかロードショー

posted by shiraishi at 23:50| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月08日

魂のまなざし(原題:HELENE)

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監督:アンティ・ヨキネン 
出演:ラウラ・ビルン ヨハンネス・ホロパイネン クリスタ・コソネン エーロ・アホ ピルッコ・サイシオ ヤルッコ・ラフティ

1915年、ヘレン・シャルフベック(ラウラ・ビルン)は、いわば忘れられた画家であり、フィンランドの田舎で高齢の母と一緒に暮らしていた。最後の個展から何年もたっていたが、ヘレンは、栄光のためではなく内から湧き出す情熱のためだけに描き続けていた。そこへ画商のヨースタ・ステンマン(ヤルッコ・ラフティ)が訪ねてきて、小さなあばら家にあふれていた159枚の絵を発見した。その圧倒的な才能に驚嘆した彼は、首都ヘルシンキでの大規模な個展開催を決意する。しかし、ヘレンにとって真の転機は、ヨースタが、エイナル・ロイター(ヨハンネス・ホロパイネン)を彼女に紹介した時に訪れた。森林保護官でアマチュア画家でもあった青年エイナルは、ヘレンと作品の熱狂的な崇拝者というだけにとどまらず、彼女にとってかけがえのない友人そして愛の対象となる。

主人公の女性画家ヘレン・シャルフベックはモダニズムを代表する芸術家の一人として近年世界的に評価されているフィンランドの国民的画家とのこと。本作で初めて名前を知り、作品を見たが、時期によって作風が違う。そのときそのときの心の移ろいが作品に現れているのだろう。
本作はヘレンが53歳から61歳までの中年期8年間を描く。ヘレンは19歳年下の男性エイナル・ロイターと知り合い、胸をときめかせる。エイナルを演じたヨハンネス・ホロパイネンが男女の愛ではなく、あくまでも人間としての敬意であることをうまい塩梅で表現しているので、勘違いしているヘレンが痛々しい。とはいえ、ヘレンを演じたラウラ・ビルンが表情に初々しさをにじませるので、放っておけない気持ちにもなる。
現代なら男女の年齢差が19歳あっても乗り越えられるかもしれない。しかし、当時のように男性優位の時代では、妻はあくまでも自分の下にいる存在。自分よりも優れた女性と結婚する発想は男性にはなかったのだろう。結婚生活は年下の女性と送りつつ、精神的満足はヘレンとの関係で充足させる。彼にとって何の疑問もない選択だったに違いない。(堀)


冒頭、男性に取材を受けるヘレン・シャルフベック。「なぜ戦争や貧困を描くのか? 女流画家にふさわしくない」と言われ、「着想は自らの内と外の両方から生まれるもの。女流のレッテルを貼られたくない。一人の画家」ときっぱり答えるヘレン。けれども、女であるだけで差別された時代。母親でさえ、食卓でお肉は男性が先にとヘレンに諭します。159枚の絵が売れて大金が入ると、兄は「女の物は男の物」と当然のごとく要求するのですが、ヘレンは拒否します。決して、慣例に屈しない女性だったようです。そんな彼女も、19歳年下のエイナルには心を開き、仲睦まじく湖に向かって座り、絵を描く姿が微笑ましいです。エイナルが可愛らしい婚約者を連れてきて打ちのめされるのですが、友情は失いたくないというエイナルの言葉に、ほんのり芽生えた恋心を封印。83歳で亡くなるまで、エイナルと交わした手紙は、1100通! 生涯独身だったヘレンですが、わかりあえる人と出会えて、それはそれで幸せだったのではないかと想像します。(咲)


2020年/フィンランド・エストニア/122分/字幕:林かんな
配給:オンリー・ハーツ 後援:フィンランド大使館 応援:求龍堂
©Finland Cinematic
公式サイト:http://helene.onlyhearts.co.jp/
★2022年7月15日(金)Bunkamuraル・シネマ他にて順次公開
posted by ほりきみき at 23:45| Comment(0) | フィンランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

戦争と女の顔(原題:Dylda)

 
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監督・脚本:カンテミール・バラーゴフ
共同脚本:アレクサンドル・チェレホフ
原案:『戦争は女の顔をしていない』スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ, 三浦みどり 訳(岩波現代文庫)
音楽:エフゲニー・ガルペリン
撮影:クセニア・セレダ
出演:ヴィクトリア・ミロシニチェンコ、ヴァシリサ・ペレリギナ、アンドレイ・ヴァイコフ、イーゴリ・シローコフ

1945年、終戦直後のレニングラード。第二次世界大戦の独ソ戦により、街は荒廃し、建物は取り壊され、市民は心身ともにボロボロになっていた。史上最悪の包囲戦が終わったものの、残された残骸の中で生と死の戦いは続いていた。多くの傷病軍人が収容された病院で働く看護師のイーヤ(ヴィクトリア・ミロシニチェンコ)は、PTSDを抱えながら働き、パーシュカという子供を育てていた。しかし、後遺症の発作のせいでその子供を失ってしまった。そこに子供の本当の母であり、戦友のマーシャ(ヴァシリサ・ペレリギナ)が戦地から帰還する。彼女もまた後遺症や戦傷を抱えながらも、二人の若き女性イーヤとマーシャは、廃墟の中で自分たちの生活を再建するための闘いに意味と希望を見いだすが...。

30歳を過ぎたばかりのカンテミール・バラーゴフ監督がノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのデビュー作『戦争は女の顔をしていない』を原案に、戦後の女性の運命をテーマに脚本を書いた。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でプレミア上映され、国際映画批評家連盟賞と監督賞をダブル受賞したほか、50を超える世界各国の多くの映画祭で上映、30を超える映画賞を受賞している。バラク・オバマ元米大統領が年間ベストに選出したことでも話題になった。日本では『戦争は女の顔をしていない』が書籍だけでなく、コミックとしても販売されている。
主人公であるイーヤとマーシャはスナイパーとして従軍していたとのこと。「現代ならともかく、第二次世界大戦で女性がスナイパー?」と思うかもしれない。調べたところ、ソ連では第二次世界大戦時に多くの女性兵士が男性同様に前線で戦っており、リュドミラ・パヴリチェンコは309人を狙撃したと記録に残っている。女性のスナイパーは決してフィクションではない。
イーヤとマーシャは2人とも戦争による後遺症を抱えており、イーヤが看護師として働く病院には多くの傷病軍人が収容されている。戦争は勝っても負けても心や体に大きな傷を残すのだ。しかもマーシャは戦後になっても戦場に行っていない同胞の女性から侮蔑的な扱いを受けた。マーシャの心の痛みはいかばかりか。反戦を訴える監督の強い意志が全編から伝わってきた。(堀)


冒頭、何を思い出すのか、茫然と立ち尽くす背の高い女性イーヤ。傷病軍人が多く入院する病院で看護師として働くイーヤは、彼女自身、戦場を経験していて、その記憶に苛まされているのです。幼い男の子パーシュカを一人で育てているイーヤに、院長は「死者が出たので、その分の食糧を坊やのために」と配慮してくれます。
やがて戦地からマーシャという女性が帰還して、彼女がパーシュカの生みの母で、なぜイーヤが代わりに育てていたのかを観ている者は知ることになります。
我が子が亡くなったことを知ったマーシャが、心を癒すためにどうしても子どもが欲しいと画策するのですが、これがもう凄い展開。(ぜひ劇場でご確認ください。)

英題『Beanpole』は、「のっぽさん」という意味。背の高いイーヤは、親友マーシャからも傷病兵たちからも、のっぽさんと親しまれています。病院の台所で働く年配の男性から、「イーヤはギリシャ語でスミレという意味だよ」と聞かされます。まさにスミレのように純粋なイーヤ。ナンパされ、相手の男の腕をへし折るほど純なのです。親友マーシャのことが大好きで、マーシャにつきまとうウブな男サーシャが疎ましくて追い払おうとします。
戦地で壮絶な経験をしたイーヤとマーシャが深い絆で結ばれ、なんとか生き抜こうとする姿が描かれているのですが、一方で、戦地から生還したものの、首から下が不随になってしまい、家族の重荷になるから死にたいという男性の姿も本作では描かれています。1945年を舞台にした物語ですが、今も世界各地で戦争の犠牲になる人が後を絶ちません。民間人だけでなく、お国のためにと否応なく戦地に行かされる兵士も犠牲者であることを、本作はずっしりと伝えてくれます。皆が平穏に暮らせる世界はいつ実現するのでしょう・・・ (咲)


ロシア/ロシア語/2019年/137分/DCP/カラー/字幕翻訳:田沼令子/ロシア語監修:福田和代/PG12
配給:アットエンタテインメント
(C) Non-Stop Production, LLC, 2019
公式サイト:https://dyldajp.com/
★2022年7月15日(金)、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ピカデリーほか、全国順次ロードショー

posted by ほりきみき at 23:42| Comment(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

炎のデス・ポリス(原題:COP SHOP)

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監督:ジョー・カーナハン 
脚本:クルト・マクラウド、ジョー・カーナハン
出演:ジェラルド・バトラー、フランク・グリロ、アレクシス・ラウダー、トビー・ハス 

ある夜、砂漠地帯にたたずむ警察署に、暴力沙汰を起こした詐欺師テディ(フランク・グリロ)が連行されてくる。マフィアのボスに命を狙われ、身を守るためにわざと逮捕されたのだ。しかしマフィアに雇われたスゴ腕の殺し屋ボブ(ジェラルド・バトラー)も泥酔男に成りすまし、留置所に入ってくる。新人警官ヴァレリー(アレクシス・ラウダー)の活躍によってボブのテディ抹殺計画は阻止されるが、マフィアが放った新たな刺客、サイコパスのアンソニー(トビー・ハス)が現れて署員を皆殺しにし、小さな警察署はまるで戦場のような大惨事に…。孤立無援の危機に陥ったヴァレリーと裏社会に生きる3人の男たちによる壮絶な殺し合いを生き抜き、朝を迎えられるのは誰なのか。



(堀)

2021年/アメリカ/英語/107分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/日本語字幕:橋本裕充/PG12
配給:キノフィルムズ
©2021 CS Movie II LLC. All Rights Reserve
公式サイト:https://copshop-movie.jp/
★2022年7月15日(金)、闘わなければ、死んじゃうんデ
posted by ほりきみき at 23:40| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

掟の門 (正・続編)

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監督・脚本・撮影・編集:伊藤徳裕
出演:岡部莉子(橘さやか)、松谷鷹也(堤和也)、石本径代(関佳子)、佐伯日菜子(天野裕子)、鈴木博之(大上刑事)

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2020~2021年の東京。橘さやかは上京して看護師長の叔母・関佳子の家から看護学校に通っていた。世界中で新型コロナウイルスが猛威をふるい、日本も例外ではなかった。叔母の勤務先の病院でクラスターが発生し、最前線にいた叔母が感染して急逝した。さやかは残された高校生の従妹と暮らし、検査は陰性だったがコロナウイルスの「限局性恐怖症」になってしまった。看護学校を続けられるか不安に陥っていたとき、公園でテニスをしていた堤和也に出逢う。少し言葉を交わしただけだったが、気になる存在になった。和也は劇団で活動しながらコンビニでバイトをしている。家に押し入ってきた見知らぬ男が、和也の父親が自分の妻に手を出したと騒ぎだす。(92分)

掟の門(続編)
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2021年4月。さやかは看護師一年生になった。コロナの先行は見えず2020年のオリンピックは1年延期され、2021年夏に開催されることになった。斎藤美紀(大塚奈々穂)はアーチェリー選手として最有力視されていたが、選考会前にコロナ陽性とわかってホテルで隔離療養していた。出場は辞退せざるを得なかった。ホテルで悶々と日々を送るうち、壁のカレンダーに前の患者が残したメモを見つける。「私は孤独 この監獄から出られたら連絡を」美紀は連絡をとって会いに行く。メモを書いたのは古関まゆみ(伊神沙恵)、和也の父親を誘惑した女性だった。2人は初対面にもかかわらず、同じ部屋で療養体験をした者同士、心のうちを話していく。(93分)

コロナ以前をカラー、コロナ禍中の現在をモノクロで撮影。スタッフは伊藤徳裕監督一人、今撮らなければという意識につき動かされていたそうです。正・続編ともにヒロインのさやかと、その叔母の佳子が看護師なのが肝になっています。神経質になったり迷ったりもしながら、さやかは一人前の看護師になりたいと頑張っています。だんだん笑顔が出るのにホッとしました。
続編のほうが娯楽性は高く、ドラマチック。登場する誰もがコロナに翻弄され、いくつかの事件がおきます。微妙に絡まり関わっていて「コロナが悪い」「この世は理不尽だ」と嘆きますが、みんなが犯罪に走るわけではありませんからね。
さやかが和也に会ったときに手にしていて、和也が目を止めたのが、カフカの著作「審判」。後に和也も同じ本を読んでいます。その中に「掟の門」の逸話があり、タイトルはそこから。法と罪と罰についての話のようで、読んでみると監督の思いがもっと判りそう。
伊藤監督は新聞記者を経て映画制作を学び、短編を発表したのちこの2本の長編を作りました。コロナが蔓延してからあれあれと言う間に2年余り、ニュース映像もはさんでこれまでの経過がわかる作りです。
大上刑事が続編で活躍、伊藤監督の映画愛を一番背負っているのがこの人、という気がしました。(白)


2021年/日本/モノクロ一部カラー/
配給:N・I FILM
(C)N・I FILM
https://okitenomon-1.jimdosite.com/
正編★2022年7月9日(金)より
続編★2022年7月10日(土)より15日(金)まで池袋シネマ・ロサにて緊急ロードショー

舞台挨拶のお知らせ
7月15日(金)会場は池袋シネマロサ地下
18時の回終了後 19時40分より
登壇者:大塚奈々穂さん、井神沙恵さん、松谷鷹也さん、伊藤徳裕監督、坂本梨紗さん(司会)


posted by shiraishi at 12:44| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

WANDA/ワンダ(原題:Wanda)

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監督:脚本:バーバラ・ローデン
撮影・編集:ニコラス T・プロフェレス
制作協力:エリア・カザン
出演:バーバラ・ローデン(ワンダ)、マイケル・ヒギンズ(Mr.デニス)

ペンシルべニアの炭鉱町に住むワンダは、夫に離別をつきつけられ離婚審問に出なければならない。近所の老人にお金を無心しバス代を手に入れた。出廷したワンダの髪にはカーラーがついたまま。夫の痛罵にも表情を変えず離婚も子どもを手放すことも認めて町に出ていった。ビールをおごってくれるならどんな男とでもベッドを共にする。捕まえたり逃げられたりした後、寂れたバーでMr.デニスという小悪党に出逢った。ワンダはビールとベッドのため、彼の言うままに犯罪の片棒をかつぐ羽目になる。

バーバラ・ローデンをこの映画で初めて知りました。撮影監督兼編集者のニコラス T・プロフェレスと共同で、11万5千ドルというわずかな予算で監督・脚本・主演で制作したロードムービー。自信も行く当てもなくふわふわしたワンダはバーバラ自身であったのかもしれません。
そのころは23歳年上のエリア・カザンと結婚 (1967年 - 1980年)していたそうで、この映画の男優の衣裳はエリア・カザンのものだったとか。この1本を作っただけで、やめてしまったというのが惜しいです。1970年ヴェネツィア国際映画祭最優秀外国映画賞を受賞していますが、アメリカ本国ではウーマンリブの全盛期で、ヒロインの受動的な生き方が受け入れられなかったのか、ほぼ黙殺されたそうです。こうとしか生きられなかったワンダ、彼女を利用する男を描くことがバーバラなりの告発であり、闘いではなかったかと思うのですが。その後次作をつくることなく、癌を患い48歳で永眠。この映画は遺作となりました。(白)


冒頭、泣いている赤ちゃんをあやしている女性。男が出ていくと、ソファで寝そべっていた女性が、「私がいると不機嫌ね」と起き上がる。この寝ていた方の女性がヒロインのワンダ。髪にカーラーをつけたまま離婚調停の場に遅れていき、「育児も家事もしないひどい妻」と夫に指摘されるまま、離婚を承諾し、二人の子の親権も放棄。二日勤務した縫製工場に給金を貰いがてら、雇ってもらおうと思うも、作業が遅いと断られる。浮遊するように入った酒場で知り合った男についていき・・・と、同情の余地なしのダメダメ女ぶりを演じているのが、なんと、監督したバーバラ・ローデンご本人。しかも、『エデンの東』のエリア・カザン監督の妻! そんなバーバラ・ローデンが、従順な女性像に疑問を持って作ったのが、『WANDA/ワンダ』という次第。そう思って観ると、ワンダは実に自由人に見えてきます。それにしても、この物語、どこに向かうのか、どう着地するのか・・・と、目が離せなくなりました。もちろんハリウッド的な着地などしません。50年も前に、まだアメリカで女性監督があまりいなかった時代に、こんなとんでもない映画をよくぞ作ったと思います。
1970年ヴェネツィア国際映画祭最優秀外国映画賞を受賞し、71年カンヌ国際映画祭で上映された唯一のアメリカ映画でありながら、アメリカではほぼ黙殺。
フランスの小説家・ 監督のマルグリット・デュラスに「奇跡」と称賛された本作。閉鎖前のハリウッド・フィルム&ビデオ・ラボに放置されていたオリジナルのフィルムが運よく廃棄処分から救い出され、修復を施されて蘇った経緯は、ぜひ公式サイトでお読みください。粒子の粗い16mmフィルムの質感を残した修復もまた、作った当時のバーバラ・ローデンの思いを伝えてくれます。(咲)



1970年/アメリカ/カラー/シネスコ/102分
配給:クレプスキュールフィルム
(C)1970 FOUNDATION FOR FILMMAKERS
https://wanda.crepuscule-films.com/
★2022年7月9日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
posted by shiraishi at 11:47| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月03日

ビリーバーズ 

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監督・脚本:城定秀夫
原作:山本直樹「ビリーバーズ」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
出演:磯村勇斗、北村優衣、宇野祥平、毎熊克哉、山本直樹

ニコニコ人生センターという宗教団体に所属する3人は、互いをオペレーター、副議長、議長と呼び合いながら、無人島で共同生活を送っていた。瞑想や見た夢の報告、テレパシーの実験といったメールで送られてくる指令を実行しながら、わずかな食料でギリギリの生活を保つ日々。それは俗世の汚れを浄化し、安住の地を目指すための修行とされていた。そんな彼らの日常はほんの些細な問題から綻びを見せ始め、互いの本能と欲望が暴き出されていく。

原作はあるものの、城定秀夫監督×宇野祥平で男子(男ではなく、あくまでも男子)のとどまるしらない妄想を映像化したといった感じ。2人の暴走に北村優衣が寄り添います。とんでもない映画を見てしまった感が炸裂する前半は女性には辛いかもしれませんが、ラストに磯村優斗が下す判断が秀逸。単なるピンク映画の域を超えた作品に仕上がっています。(堀)

2022年/118分/R15+/日本
配給:クロックワークス、SPOTTED PRODUCTIONS
© 山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会
公式サイト:https://believers-movie2022.com/
★2022年7月8日より全国順次公開

posted by ほりきみき at 23:34| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

恋愛の抜けたロマンス   原題:연애 빠진 로맨스  英題:NOTHING SERIOUS

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(C)2021 CJ ENM Co., Ltd., TWELVE JOURNEY ALL RIGHTS RESERVED

監督:チョン・ガヨン
脚本:チョン・ガヨン、ワン・ヘジ
撮影:イ・ソンジェ『82年生まれ、キム・ジヨン』
音楽:サンウジョンア
編集:ナム・ナヨン『エクストリーム・ジョブ』『無垢なる証人』
出演:チョン・ジョンソ(『バーニング 劇場版』)、ソン・ソック、コン・ミンジョン(『82年生まれ、キム・ジヨン』「海街チャチャチャ」)、キム・スルギ(『操作された都市』)、ペ・ユラム(『パイプライン』)、キム・ジェファ『モガディシュ 脱出までの14日間』

29歳のジャヨンは、3年以上付き合った彼から、結婚は別の女性とすると捨てられ、もう恋はしないと決意するが、欲求は満たしたい。“いい人を見つけて幸せな旧正月を”のキャッチコピーに惹かれてデートアプリ「愛のかけ橋」に登録する。関心を示してくれた男たちの中から、「ヒヨドリ」の名で登録している男性と会う約束をする。ヒヨドリの名で登録したのは、雑誌社に勤める33歳のパク・ウリ。編集長からセックス・コラムを担当するよう命じられ強制的に「愛のかけ橋」に加入させられたのだ。お互い、恋愛抜きでホテルでひと時を過ごす。その後も本音や目的を隠して会う二人・・・

ジャヨンの元彼への恨みを晴らそうと、ウリは元彼の結婚式にジャヨンを連れて乗り込みます。そこでの行動があっぱれ! 
小説家志望のウリのセックス抜きのセックス・コラムは、思わせぶりでそそられると大ヒット。執筆のために登録したアプリで知り合ったジャヨンを騙したことになってしまったことに気が咎めるウリの誠実さがジャヨンに通じるといいなとハラハラしながら観ました。
ジャヨン役のチョン・ジョンソも、ウリ役のソン・ソックも年齢の割にまだ経験の浅い役者さんですが、それだけに二人の関係が新鮮に見えます。
その二人を支えるように、ジャヨンのおばあさん役で韓国の最高齢女優キム・ヨンオクさん、そしてジャヨンのお父さん役で名脇役としてドラマや映画で大活躍のキム・グァンギュさんが登場して、和ませてくれます。(咲)


ウリは取材目的なのをジャヨンに隠していますが、ジャヨンは率直であけすけに話します。アプリに登録したのも失恋した後に酔っ払った勢いでした。『パリ13区』(2021/ジャック・オディアール監督)でもセックス・パートナーをアプリで探す正直な女子が登場しました。ジャヨンはそこまで奔放ではなくて、会うのはウリとだけのようです。2人の会話がテンポよく、相性が良さそうなのが回を重ねるごとにわかります。ウリはどんどん惹かれていき、その分彼女に申し訳ない気持ちになります。つい漏れてしまったウリの言葉に、顔色を変えるジャヨンは「恋に落ちてる」じゃないですか。もう傷つきたくないので抑えているだけ。でなければあんなに怒らないはず。
煽る編集長の姿に「面白ければいい、ウケ最優先」の業界の本音が見えます。SNSのユーザーも言いたい放題でげんなり。けれども2人の主人公は、笑顔が可愛くて好感度高し。(白)


2021年/韓国/95分/カラー/ビスタ/5.1ch
日本語字幕:朴澤蓉子
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-asia.com/romance/
★2022年7月8日(金) シネマート新宿ほかロードショー



posted by sakiko at 19:48| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月01日

ゆめパのじかん

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監督・撮影:重江良樹
編集:辻井潔
音楽・ナレーション:児玉奈央
出演:川崎市子ども夢パークに集う皆さま/フリースペースえんの子どもたち/認定NPO法人フリースペースたまりばの皆さま/風基建設株式会社の皆さま

神奈川県川崎市高津区にある子どものための遊び場。2000年に制定された「川崎市子どもの権利に関する条例」をもとに官民協同で作られた。工場跡地を利用した約1万㎡の広大な敷地には手作りの遊具があり、泥んこになったり木登りしたり、やってみたいことが好きなだけできる。一角にある「フリースペースえん(以下、えん)」には学校に行っていない子どもたちが通っている。溌剌として笑顔でいるのは、安心してありのままの自分でいられるから。ここでは虫や鳥の観察をする子、木工細工に夢中な子、それぞれ自分の「好き」をゆっくりあたためることもできる。学校や進路のことが気になる子どももいる。悩みながらも自分で考え、歩いていこうとする「子どもの力」がきっとある。ゆめパはそんな力を育てる場所。大人はそっと助言するだけ。
川崎市子どもの権利に関する条例
2000年12月21日に川崎市議会で成立し、2001年4月1日から施行されている条例。子どもの権利や理念をまとめた前半と、子どもの生活の場に応じた権利保障のあり方や具体的な保障の仕組みを定めた後半からできている。前半の子どもの権利については次のように記している。
・安心して生きる権利
・ありのままの自分でいる権利
・自分を守り、守られる権利
・自分を豊かにし、力づけられる権利
・自分で決める権利
・参加する権利
・個別の必要に応じて支援を受ける権利

2020年度、日本の児童生徒の自殺者数は初めて400人を越え、小中学生の不登校児はおよそ20万人となりました。大人でさえ生きづらいと思うとき、子どもに必要なのは安心できる「居場所」。コロナの感染拡大で一斉休校となったときも、ゆめパは子どもを受け入れ続けました。
見守る大人たちは、子どもたちの声を尊重し、「子どもたちがつくり続け、つくりかえていく遊び場」であることを大切にしています。前もって禁止ばかりしていると、子どもは自分で危険を察知したり、判断したりする力を養えません。失敗したら何度でもやり直せばいいと思えなくなります。
 『さとにきたらええやん』(2016)で大阪西成区の児童館‟こどもの里”に密着した重江監督最新作。子どもたちが型にはめられず、自由に生きるのに「居場所」は大切で不可欠です。大人からの信頼も目には見えない「居場所」です。大人はそれを肝に銘じないと、とつくづく思いました。(白)


川崎市子ども夢パークと同じようなところが世田谷にもあります。家からはちょっと遠かったので、たまにしかいけませんでしたが、小学校に入る前の娘が楽しそうに遊んでいました。木登りや秘密基地作り、飛び降り、焚火といったことを自由にさせてくれる遊び場は子どもに大きな成長の機会を与えてくれます。ただ、危険も伴う。作品を見ていたら、娘のそばではらはらしながら見ていた自分を思い出しました。
ゆめパにはフリースペースも併設され、学校には行けない子どもが通っているとのこと。居場所のなくて辛いのは子どもだけではありません。子どもが居場所を見つけたことで、その親がどれだけ安心したことか。木工作業好きの女の子が将来を考え、進路を決めていく姿に彼女がゆめパで学んだことの大きさを改めて感じました。彼女はきっと辛いことがあっても夢を諦めずに努力していくに違いないと思えます。(堀)


川崎にこういう場所があるとは全然知らなかった。そして「川崎市子どもの権利に関する条例」というのがあることも。大人はあまり口出ししないで、子供の自主性に任せるという形で、居場所を探している子供たちの解放区のような存在。こういう場所が、もっとあれば、現在20万人にもなるという不登校児の希望になるのでしょうが、なかなかそうはいきません。ここの子供たちはのびのびと、自分のやりたいこと、やり遂げたいことに挑戦しているけど、この輪が全国に広がっていきますように(暁)。

子どもたちのやってみたいを大事にするゆめパ。特に、「フリースペースえん」には、感性の強すぎる子どもたちが集まっていて、皆、個性的。
虫や鳥が大好きで、とても詳しいリクトくん。「将来は虫や鳥に関われる仕事に就けるといいね」と言われ、「好きなことを仕事にするのは、ちょっと・・・」と答えていました。でも、きっと好きを仕事にするはず。ここに出てきた子どもたちが、将来、どんな大人になるのか見てみたいと思いました。自分のやりたいことを見つけることができたのは幸せなこと。ゆめパのような場所がなくても、学校でも家庭でも、大人のちょっとした手助けで、子どもたちは夢を見つけることができるはず。そんなヒントもこの映画からもらえることと思います。(咲)


重江良樹監督インタビューこちら

2022年/日本/カラー/90分
配給:ノンデライコ
(C)ガーラフィルム/ノンデライコ
http://yumepa-no-jikan.com/
★2022年7月9日(土)ロードショー

posted by shiraishi at 16:31| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ザ・ウィローズ(原題:The Wind in the Willows)

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ⒸMarc Brenner

シネマ版監督:ティム・ヴァン・ソメレン
演出:レイチェル・カヴァノー
原作:ケネス・グレーアム「The Wind in the Willows」(日本語訳書籍は「たのしい川辺」岩波少年文庫99)
脚本:ジュリアン・フェローズ
作曲:ジョージ・スタイルズ
作詞:アンソニー・ドリュー
出演:ルーファス・ハウンド(ミスター・トード/ヒキガエル)
サイモン・リプキン(ラッティー/ネズミ)
クレイグ・メイザー(モール/モグラ)
ニール・マクダーモット(チーフ・ウィーズル/イタチ)
デニース・ウェルチ(ミセス・オッター/カワウソ)
ゲイリー・ウィルモット(バジャー/アナグマ)

春になって土の中の家から出てきたモグラのモールは、川辺に住むネズミのラッティーやアナグマのバジャーと友達になった。初めて船に乗りヒキガエルのトードとも知り合った。トードは親譲りの御屋敷に住むお金持ちで、スピードの出る乗り物が大好き。次々と欲しくてたまらなくなる。トードが新しい乗り物に夢中になってお屋敷を留守にしているとき、イタチのギャングたちがお屋敷を乗っ取ってしたい放題の大騒ぎ。
日頃からトードに忠告していたラッティーは、モールやバジャーと対策を考える。カワウソの奥さんの一人娘も行方不明になっている。みんなと力を合わせてこの危機を乗り越えなくては!

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ⒸMarc Brenner

松竹ブロードウェイシネマが送る1作。今回は2017年6月、ロンドンのウェストエンド(ブロードウェイのようなエンターテイメントが集合)地区のパレイディアム劇場で上演され大ヒットしたミュージカル作品です。スタッフ・キャストにそうそうたるメンバーを集め、2500人の観客が連日喝采した楽しい舞台を映画館で鑑賞することができます。
子どもの頃から親しんでいるケネス・グレーアムの世界、一人息子のために語って聞かせたという「たのしい川べ」がどんなミュージカルになるのか、ワクワクしながら鑑賞しました。動物たちは「キャッツ」のようなメイクではなく、鼻の頭をちょっと黒くして、髪の毛がその動物らしい色になっているだけ。その分、衣裳が凝っていて、その性格や暮らしぶりをちゃんと現わしています。大がかりな舞台装置も細かいところまで、とくとご覧ください。
明るくて楽しく、冒険ごころもくすぐられるファンタジーなので、お子様のミュージカル体験にぴったり。大人にはイギリスの階級社会や人間界のあれこれも思い出させる深さもあります。仲間たちや自分の居場所、故郷の大切さもじんわりしみ込んできました。帰り道で、ちょっと違う自分を見つけた気分にもなります。(白)


私はミュージカルが好きではないので、ほとんど観たことがない。もちろん音楽全般や歌は大好きなんだけど、生活の中で話している部分を歌にして表現というのが苦手。特に日本語で、普通に話をすればいい部分を歌にするというのに違和感を持っていた。
この作品は、川辺りに住む沢山の動物たちが繰り広げる、冒険と旅の物語。そして美しい四季の移ろいを表現した詩が素敵だった。動物たちの物語ではあるけど、人間社会への風刺ともとれるような物語でもある。舞台装置が次から次へと変わっていく移り変わりも素晴らしく、久しぶりに舞台の面白さも感じた。
ケネス・グレーアムも知らなかったけど、イギリスだとアーサー・ランサムの児童文学には子供の頃からなじんでいて、何年か前、アーサー・ランサム全集の神宮輝夫さんによる再訳版が出て12冊買った(全部で24冊)。このアーサー・ランサムの壮大な物語も、いつか映画になったらいいな。こちらは動物ではなく子供たちの冒険ではあるけど。ピーターラビットと同じ湖水地方が舞台なので、この『ザ・ウィローズ』の冒険に近い話ができるかも。
それにしても、日本語の生活の言葉を歌にしながらの芝居だと違和感なのに、外国語だとそう感じなかったのか。日本語のミュージカルにも機会があったら挑戦してみよう。今だったら、違う印象になっているかもしれない。そんな風に思うきっかけにもなった(暁)。


2017年/イギリス/カラー/ビスタ/131分
配給:松竹
(C)BroadwayHD/松竹
https://broadwaycinema.jp/
【松竹ブロードウェイシネマ 公式アカウント】
https://broadwaycinema.jp/
■www.instagram.com/shochikucinema/
■www.facebook.com/ShochikuBroadwayCinema
■twitter.com/SBroadwayCinema
★2022年7月8日(金)から東劇(東京)、なんばパークスシネマ(大阪)、ミッドランドスクエア シネマ(名古屋)ほか全国順次限定公開

posted by shiraishi at 16:27| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

映画ざんねんないきもの事典

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原作:「ざんねんないきもの事典」高橋書店刊
主題歌:秦基博「サイダー」
アニメーション制作:ファンワークス
ナレーション:玄田哲章
声の出演:ムロツヨシ、伊藤沙莉、花江夏樹、内田真礼、下野紘

●「リロイのホームツリー」オーストラリア編
コアラはユーカリにふくまれる猛毒のせいで一日中寝ている
監督:イワタナオミ、脚本:加藤陽一

●「ペンたび」南極編
アデリーペンギンは警戒心がゆるゆる
監督・脚本・声:ウチヤマユウジ

●「はちあわせの森」安曇野編
ノウサギは本当は飛びはねたくない
監督:由水桂、脚本:細川徹

ナビゲーターのモグラの親子にムロツヨシさん、伊藤沙莉(いとうさいり)さん、主要キャラクターを声優の花江夏樹さん、内田真礼さん、下野紘さん。1作目コアラが親から離れて自立する。2作目はペンギンのロードムービー。3作目は子ウサギが広い森で道に迷い、先輩ウサギに出逢って家に帰る道をさがします。
原作は子どもたちがへえ!と驚き、うん〇ネタに笑い、大人は目からうろこがポロポロ落ちたに違いないベストセラー。映画では、いろいろな小ネタをはさみながら、主人公が自分の居場所を見つけるお話が3本。絵の雰囲気はそれぞれ違いますが、どれもほかの動物と出逢ってそれまで知らなかったことをたくさん学んでいきます。2作目であれ?聞いたことのある声、と考えたら「紙兎ロペ」のウチヤマユウジさんが作っていたのでした。ペンギンたちの会話もどこか乾いてシニカルなユーモアあり、ラストに笑ってしまいました。(白)


2022年/日本/カラー/91分
配給:イオンエンターテイメント
(C)2022「映画ざんねんないきもの事典」製作委員会 (C)TAKAHASHI SHOTEN
https://zannen-movie.com/
★2022年7月8日(金)ロードショー
劇場入場者プレゼント「ざんねんなまちがいさがしミニブック」の配布が決定!先着順。

posted by shiraishi at 16:13| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

こちらあみ子

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監督・脚本:森井勇佑
原作:今村夏子「あたらしい娘」(「こちらあみ子」に改題)
撮影・照明:岩永洋
音楽:青葉市子
出演:大沢一菜(あみ子)、井浦新(お父さん・哲郎)、尾野真千子(お母さん・さゆり)、奥村天晴(お兄ちゃん)、大関悠士(のり君)、 橘高亨牧(坊主頭)

あみ子はちょっと風変わりな女の子。優しいお父さん、いっしょに遊んでくれるお兄ちゃん、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいるお母さん、憧れの同級生のり君、たくさんの人に見守られながら元気いっぱいに過ごしていた。だが、彼女のあまりに純粋無垢な行動は、周囲の人たちを否応なく変えていくことになる。誕生日にもらった電池切れのトランシーバーに話しかけるあみ子。「応答せよ、応答せよ。こちらあみ子」

今村夏子さんの原作を読んで、森井監督がどうしても映画化したいと切望した作品。オーディションで一目ぼれしたという大沢一菜(かな)さんが、あみ子を越えたあみ子としてスクリーンの中にいました。なんと目の力の強い子でしょう。ことばをそのとおり受け取るところ、自分にも相手にも忖度しないところ、こだわりのあるところなどなど、明言はされていないけれど発達障害(この名称は好きになれません。痴呆症が認知症に変わったように変わらないでしょうか)なのかな。障害とついていますが、それは相手との間にあるもので本人はあるがまま生きています。小説発表当時は、「ちょっと変わった子」で済んでいたのでしょう。発達障害の特性を知っていれば、もっと別な対処の方法もあったのにと思います。
あみ子は、好きな子が気になってしょうがないし、好きな気持ちを隠しません。気持ち悪いと言われたら「どこが?教えて」と尋ねます。見えないものがわからないので、お母さんの心を想像できず悲しませてしまいます。あみ子だって痛いし傷もつくのに、自分でぺろりとなめると治りそうな強さがあります。
まっすぐだから、ぶつかってしまうあみ子を誰よりも家族が受け止めてほしいのですが、お母さんは努力していたのがぷつんと切れて寝込んでしまいました。演じる尾野真千子さんはこのところ、強くて明るいお母さん像を続けて観てきたせいもあって「え~」と思ってしまった・・・のはこちらの勝手。お父さんにも「え~」、お兄ちゃんがあみ子の代わりに爆発してくれた気がします。自分にもあみ子要素があるのを自覚しているので、これまできっと誰かを傷つけてきたんだろうなと振り返りました。
原作は今村夏子さんのデビュー作。2010年太宰治賞、2011年三島由紀夫賞受賞。2019年には「むらさきのスカートの女」で芥川賞受賞。「星の子」は映画化されています。どれも読後は胸に何かが溜まった感じがしました。あみ子はその後どんな風に大きくなったんだろうと気になります。幸せでいて。(白)


子育ての難しさを改めて感じた作品でした。恐らくあみ子は発達障害なのでしょう。母親は一生懸命にあみ子と向き合いますが、悲しみに対するあみ子の行動がどうしても許せなかった。それはあくまでも悲しんでいる母親を慰めようとしてのことなのだけれど。
あみ子を主体に物語を見ると、本人にとっては本位ではないものの周りの人を傷つけてしまい、どんどん孤立してしまうあみ子のことをみんなが理解してあげてほしいという気持ちになります。しかし、母親を主体に物語を見ると、大分違ってきます。作品の後半で母親とあみ子の関係の特殊性が明らかになり、あみ子が発達障害であっても、それを自分からは言いにくかっただろうことがうかがえました。
最後に父親が下した決断はあみ子主体に考えると酷かもしれません。しかし母親主体に考えればやっと動いてくれたという思いではないでしょうか。父親、もしくは学校の先生がもっと早く適切な対応をしていれば、あみ子も母親も、そしてグレてしまった兄も悲しい思いをしなくても済んだ気がします。(堀)


2022年/日本/カラー/104分
配給:アークエンタテインメント
(C)2022「こちらあみ子」フィルムパートナーズ
https://kochira-amiko.com/
★2022年7月8日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 15:43| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする