2022年06月29日

エルヴィス(原題:Elvis)

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監督:バズ・ラーマン
出演:オースティン・バトラー、トム・ハンクス、オリヴィア・デヨング、コディ・スミット=マクフィー

腰を小刻みに揺らし、つま先立ちする独特でセクシーすぎるダンスを踊りながら、禁断の音楽“ロック”を熱唱するエルヴィスに、女性客は大興奮。小さなライブハウスから始まったその熱狂は瞬く間に全米に広がり、エルヴィスはスーパースターになっていった。しかし、若者に熱狂的に受け入れられた一方、まだ保守的な価値観しか受け入れられなかった時代にエルヴィスのパフォーマンスは世間の非難を一身に浴びてしまう…。

世界で最も売れたソロアーティストとギネス認定されているエルヴィス・プレスリー。1日に売り上げたレコード枚数2000万枚、レコード総売り上げ30億枚、出演TV番組最高視聴率82%と他にも様々な記録を打ち立てているスーパースターです。そのエルヴィスのロック歌手としての軌跡をマネージャー、トム・パーカーの視点で描きました。
エルヴィスをリアルタイムで知らない私はエルヴィスと聞いたら、小太りのおじさんが派手でぴたぴたの衣装を身にまとって熱唱している姿を思い浮かべてしまうので、あの人がなぜスーパースターといわれるのか、長年ずっと謎でした。ところがこの作品を見て、疑問が氷解。デビューしたばかりのことは瘦せていて、すごくセクシーだったのですね。本作はブレイクする瞬間を描いたがクローズアップされていますが、空気が変わる一瞬をとらえたバズ・ラーマン監督の演出は見事。ブームってこうやって生まれるものなのねと目撃した気持ちになります。もう1つ、少年時代のエルヴィスが音楽に目覚めた瞬間もまるで神の祝福を受けたかのような演出で映し出し、秘密を見せてもらった気持ちになりました。
ゴスペルとR&Bにカントリーミュージックを融合させ、ブラックカルチャーをいち早く取り入れたエルヴィスの音楽はアメリカの若者たちに支持されていきます。しかし当時はまだ保守的な価値観が主流で、エルヴィスのパフォーマンスは世間の非難を浴びました。それでも自分の音楽を貫こうとするエルヴィスのカッコよさったら!世間に迎合することを勧め、サンタが編み込まれたカーディガンを着るマネージャーのトム・パーカーはまるでピエロのよう。一緒にそのカーディガンを着るエルヴィスでなくて本当に良かった。
世界的なスーパースターのエルヴィスでしたが、海外公演は一度も実現していません。映画の中で、ドイツと日本は1回100万ドルなんて話が出てきて、エルヴィスも乗り気になるのですが、悪役トム・パーカーがここでも暗躍。なぜエルヴィスの海外公演が実現できなかったのかはぜひ映画で目撃してください。セリフではなく、メモでその答えの1つが描かれています。(堀)


配給:ワーナー・ブラザース映画
2022年/アメリカ/159分
© 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/elvis-movie/
★2022年7月1日(金)ROADSHOW
posted by ほりきみき at 11:36| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月26日

モガディシュ 脱出までの14日間  原題:모가디슈(モガディシュ) 英題:Escape from Mogadishu

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(C)2021 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS & FILMMAKERS R&K All Rights Reserved.

監督:リュ・スンワン
出演:キム・ユンソク、ホ・ジュノ、チョ・インソン、ク・ギョファン、キム・ソジン、チョン・マンシク

1990年、ソウル五輪で大成功を収め勢いづく韓国政府は国連への加盟を目指し、多数の投票権を持つアフリカ諸国へのロビー活動に励んでいた。ソマリアの首都モガディシュで韓国大使を務めるハン(キム・ユンソク)は、現地政府の上層部に何とか取り入ろうとしている。一方、韓国より20年も早くアフリカ諸国との外交を始めていた北朝鮮のリム大使(ホ・ジュノ)も国連加盟のために奔走し、両国間の妨害工作や情報操作はエスカレートしていく。
そんな中、ソマリアの現政権に不満を持つ反乱軍による内戦が激化。1991年12月末、反乱軍が首都のモガディシュを制圧、空港は封鎖され通信網が断たれる。「独裁政府に協力した外国政府は出ていけ!」と、大使館に石や火炎瓶が投げ込まれる。韓国と北朝鮮の両大使館も完全に孤立する。中国大使館にも助けを求められないことを悟った北朝鮮のリム大使は、絶対に相容れない韓国大使館に助けを求める決意をする。
年が明けて、韓国大使とイタリア大使の交渉がまとまり、赤十字の救援機に乗れることになる。そのためには午後4時までにイタリア大使館に着かなければならない。果たして、一行は全員で生きて脱出することができるのか・・・

北朝鮮のテ・ジュンギ参事官(ク・ギョファン)は、「韓国に助けてもらったことが知られると帰国して粛清される」と必死で大使を止めます。一方の韓国大使館のカン・デジン参事官(チョ・インソン)は、全員を韓国に亡命させ手柄にしようと画策します。そんな中、韓国大使夫人キム・ミョンヒ(キム・ソジン)が、北朝鮮の家族たちにも分け隔てなく気を遣う姿が素敵です。イタリア大使館が、国交のない北朝鮮の人たちを乗せることに難色を示した時には、ハン大使が「全員、南に転向した」と嘘をついています。
当時、南北が協力して脱出したことを中央日報が詳しく報じたものの、韓国の人々の関心を集めることはなかったとのこと。まだ北朝鮮への関心が薄かった時代だったそうです。
2006年、外交官を引退した元大使が自身の体験をもとに小説を執筆。本作は、その小説をもとに取材を始め、80年代のアフリカに駐箚した外交官にも取材。
撮影は、ソマリアが渡航禁止国家に指定されている為、モロッコで行われました。ハリウッド映画の撮影もよく行われるモロッコですが、舞台がモロッコでないのに、モロッコとわかってしまう映画も多い中、本作は撮影場所がモロッコであることを一切感じさせませんでした。エッサウィラの町を、見事にモガディシュに仕立てています。(もっとも、モガディシュの町を私は知りませんが・・・)
さて、クライマックスの一行が車に分乗してイタリア大使館を目指すシーン。韓国大使館を出発したのは、午後3時31分。ソマリアの国教はイスラーム。午後のお祈り(アスル)の時間は、3時半開始! 車が全力疾走する通りに、クルアーン朗誦の声が響き渡り、モスクに入りきれない人たちが道端でお祈りしている姿を映し出しています。お祈りの時間でなかったなら、暴徒に襲われることもあったはず。お祈りの時間に重なったのは、実に運がよかったと思います。絵的にも素晴らしい場面になっているのですが、事実はどうだったのでしょう?(咲)



2021年/韓国/カラー/121分/シネスコ/5.1ch
字幕翻訳:根本理恵
提供:カルチュア・エンタテインメント
配給:ツイン、 カルチュア・パブリッシャーズ
宣伝プロデュース:ブレイントラスト
公式サイト:https://mogadishu-movie.com/
★2022年7月1日(金)新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国ロードショー




posted by sakiko at 19:26| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

パレスチナのピアニスト   原題:The Pianist from Ramallah

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監督:アヴィダ・リヴニー
プロデューサー:エイタン・エヴァン、ウディ・ザンバーグ
撮影:ネイエフ・ハムド 
編集:ニリ・フェラー

2003 年ロシア、サラトフ生まれのモハメド・“ミシャ”・アーシェイクは才能ある10代のピアニスト。父はパレスチナ人、母はロシア人。パレスチナ西岸地区ラマッラで暮らしている。10 歳の頃、エルサレムのマニフィカト音楽院でエマ・スピトコフスキーに師事し、ピアノを始め、3 年後の 13 歳の頃、2016 年ビリャエルモサ国際ピアノコンクール(メキシコ)で優勝。将来はプロのピアニストとなることを夢見ている。
ピアノの先生は、ロシア出身のユダヤ系イスラエル人で、ピアノのレッスンを受けるため、通常車で 1 時間のところ、イスラエルが設けた検問所を通過しなければならないため 3 時間かけてエルサレムに通っている。映画はミシャの 13 歳から 17 歳の 4 年間を追う。

冒頭、母と検問所に並び、分離壁を眺めながらエルサレムに住むピアノ先生のところに向かいます。何か事が起きると検問所は閉鎖されてしまいます。「先生のいるエルサレムに引っ越せば」と簡単にいう人に、「国籍がないからダメ」とミシャ。
コロナ禍でリモートでレッスンを受けるのですが、検問所が閉鎖されたときにもリモートだったので手慣れたもの。先生は、ロシアでのオーケストラと共に演奏するときにもついてきてくれて、皆にアラブのお菓子を配った時には、いろんな種類があるのに、なぜだか皆、同じものしか取らないのを嘆く姿が可愛いです。背も高くなって声変わりもして、すっかり大人になったミシャに、先生はそろそろほかの先生にも習ったほうがいいと進言します。「彼ならどんな困難も乗り越えられる」と先生。
父親は「神経外科医もいいぞ」と息子が医者になってくれる夢も捨てきれないのですが、「お前の気持ちを尊重する」と諦めています。そんな父が、まだ少年だったミシャに、「結婚するならパレスチナ人とロシア人、どっちがいい?」と聞く場面がありました。「好きな人がいい」と答えるミシャ。確かに!
父親は「13年ロシアで暮らして、ママとも出会って美しい日々だったけど、やっぱり祖国がいい」とパレスチナに戻ってきたのです。パレスチナとロシア、二つの文化を背負って生きてきたミシャ。どんなピアニストになるでしょう・・・ (咲)


2020年/イスラエル/アラビア語、ロシア語、英語/61分/ドキュメンタリー
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:https://unitedpeople.jp/palestine
★2022年7月2日(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー

上映予定:
イメージフォーラム上映中
第七藝術劇場 7/16~
京都みなみ会館 7/22~
横浜シネマリン 8/6~
名古屋シネマテーク 8/20~
posted by sakiko at 19:21| Comment(0) | イスラエル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ガザ 素顔の日常  原題:Gaza

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(C)Canada Productions Inc., Real Films Ltd.

監督:ガリー・キーン、アンドリュー・マコーネル
プロデューサー:ブレンダン・J・バーン、ガリー・キーン、アンドリュー・マコーネル、ポール・カデュー
エグゼクティブ・プロデューサー:トレバー・バーニー、クリスティアン・ベーツ、マリーズ・ルイヤー
撮影監督:アンドリュー・マコーネル
編集:ミック・マホン
音楽:レイ・ファビ

市場には色とりどりの野菜や果物が並び、モスクからはアザーン(お祈りの時間を告げる詠唱)が聞こえてきて、いかにも中東の町の風情。海辺にもモスクがある一方、老若男女がビーチに集い、サーフィンに興じる者や、ラップを口ずさむ若者たちもいる。
映し出されているのは、パレスチナ自治区のガザ地区。
2007年にイスラエルがガザを壁で囲み完全封鎖してからは、物資も不足し、移動の自由もなく、「天井のない監獄」の異名で呼ばれている。
紛争のことばかり報道されるガザだが、ガリー・キーンとアンドリュー・マコーネルの二人は、ドキュメンタリー監督としてガザで長年活動してきて、ここにも普通の人たちの暮らしがあることを伝えたいと本作に取り組んだ。
200万人が暮らすガザの中から、3人の人物をメインに取り上げて、ガザで暮らす人々の思いを垣間見せている。

マナル・カラファウィ:過去 25 年間国連開発計画(UNDP)でプロジェクト・マネージャーとして働いてきた。結婚し、4 人の娘と 1 人の息子がいる。彼女の家族のルーツはエルサレムにあるが、生まれ育ったのはガザ。ガザが生命と希望に満ちたコスモポリタンな場所だった頃を懐かしく思い出す。

カルマ・カイアル:マナルの一番下の娘で19 歳。ガザのアル・アズハル大学で法学を学んでいる。奨学金をもらって海外で国際法や政治学の修士課程を学びたいが、その夢は現状では叶いそうになく、ガザの人道支援団体で働きたいと考えている。厳しい現実から逃避しようと、幼い頃に熱中していたチェロを弾いてみる。

アフマド・アル=アクラー:ガザで最も小さな難民キャンプである海辺のディル・アル・バラハに住んでいる。アフマドの父親には3 人の妻がいて、アフマドと 13 人の兄弟、23 人の姉妹が住んでいる。ガザで一番大きな家族。
18 歳のアフマドは無学で、カルマと違って人生の目標をガザの向こう側には持っていない。漁師として暮らすアフマドは 3 マイルの封鎖された海を見つめ、家族の収入源の心配をしている。彼の夢は、大きな船を所有し、家族で大規模な漁業を営むことだが、ガザの厳しい現実を誰よりもよく知っている。

ガザには東京 23 区の 6 割ぐらいの場所に約 200 万人のパレスチナ人が暮らしていますが、人口密度が高いのは、人口の約7割が暮らす難民キャンプ。イスラエルに占領された地から追い出されて難民としてガザにいる人たちと、先祖代々がガザの人々では暮らしぶりも違います。それでも、「5分後には何が起こるかわからない」という共通の危険にさらされているのがガザの人たちでしょう。「家族と一緒にいられるだけで幸せ」という思いも砕かれてしまうかもしれないのがガザ。
そんなガザでも、確かにサーフィンをする人たちはいるのです。なんといっても、ガザは約40キロが地中海に面しているのですから!

2020年3月のイスラーム映画祭5で『ガザ・サーフ・クラブ』の上映後のトークで、アラブ文学研究者の岡真理さんの冒頭の言葉が印象的でした。
「ガザにサーフクラブ? 悪い冗談かと最初思いました。海に面しているのでサーフィンは出来るはずですが、「白い黒板」といったような相容れない組み合わせだと、ガザを知っていると思います」
下記に、ガザの辿った歴史も含めてトークの様子を掲載しています。
イスラーム映画祭5『ガザ・サーフ・クラブ』
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/474101448.html

2019年2月28日にガザから来日した画家3人の方にお会いしたことがあります。
ビザを取得するのも大変で、さらにビザを持っていても、2か所しかない検問所から出国するのも手続きがすんなりできないガザの事情を悲しげな面持ちで話してくださったのが、今も心に残っています。

天井のない監獄ガザから来日した3人の画家 (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/464639114.html

イスラエルは、2007年にガザを封鎖する前に、入植していたユダヤ人を全員、ガザから撤退させています。気にせず砲撃できるという次第。やりたい放題のイスラエル。なんとか止めることはできないのでしょうか・・・ (咲)



2019年/アイルランド・カナダ・ドイツ/92分/ドキュメンタリー
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:https://unitedpeople.jp/gaza/
★2022年7月2日(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー


上映予定:
イメージフォーラム上映中
第七藝術劇場 7/9~
京都みなみ会館 7/22~
横浜シネマリン 7/30~
名古屋シネマテーク 8/20~

posted by sakiko at 19:12| Comment(0) | パレスチナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シネマスコーレを解剖する。~コロナなんかぶっ飛ばせ~

2022年7月2日(土)~ K's cinema(東京)
2022年7月16日(土)~ シネ・ヌーヴォ(大阪)ほか 順次公開

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©︎メ〜テレ

緊急事態宣言、休館、復館…
コロナ禍で翻弄される名古屋のミニシアターの闘いの記録


製作総指揮:村瀬史憲
監督:菅原竜太
音楽監督:村上祐美
撮影:水野孝
語り:韓英恵
出演:木全純治、坪井篤史、足立正生、入江悠、瀬戸慎吾、井浦新、奥田瑛二、若松孝二 ほか

名古屋駅の新幹線側でない方の出口を出て、駅前広場?の向かい側にミニシアター「シネマスコーレ」はある。本作は「シネマスコーレ」の木全純治支配人を追ったドキュメンタリーで、名古屋のメ~テレ(名古屋テレビ放送)が2021年3月に中部地区で放送した「メ~テレドキュメント 復館 ~シネマとコロナ~」(ギャラクシー賞 奨励賞受賞)に、未公開シーンや継続取材した映像を加え、劇場用に再編集したもの。2月に名古屋で先行公開した映画『コロナなんかぶっ飛ばせ』をバージョンアップして、東京をはじめ全国のミニシアターで公開予定。
「シネマスコーレ」は座席数51席。1983年に若松孝二監督が創立して以来、木全支配人が見出したインディーズ映画やアジア映画の“知られざる名作”を“一日も休まずに”上映してきた。近年は坪井篤史副支配人が仕掛ける独創的なイベントでも全国的に名前を知られるように。この2年あまりの新型コロナの影響で、開館以来初めて休館に追い込まれた。また、映写機が壊れたりと、様々な苦境に見舞われながら、「なんてことない」と笑顔を絶やさず、映画文化の多様性を守るために奮闘する木全支配人の姿を追っている。
映画作品と観客、映画人(監督や俳優など)との「近さ」が魅力のシネマスコーレは、「密」の回避が叫ばれる社会で存続できるのか。2年に及ぶ取材をもとにシネマスコーレや、他のミニシアターが映画文化の発展に果たしてきた役割の大きさ、日本のインディーズシーンをバックアップをしてきた姿、新人監督の作品を多くかけたり、新な映画人を育てる姿などを描き、また“多様性”が持つ意味を問い掛ける。
やはりメ~テレで放送された後、映画になった、シネマスコーレの坪井副支配人の映画愛を描いた『シネマ狂想曲 名古屋映画館革命』(2017)が名古屋や東京で公開されていて、メ~テレドキュメントの映画化第2弾。それにしても「シネマスコーレ」だけで2本もドキュメンタリーができちゃうなんてすごい!

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シネマスコーレ入口と看板の掃除をする木全支配人 ©︎メ〜テレ

私と木全純治支配人との出会いは1994年。その年の6月、名古屋で「アジア文化交流祭」というのがあり、『青春祭』の張暖忻(チャン・ヌアンシン)監督が、最新作『雲南物語』を持って来日というので名古屋に行き、この映画祭の主催者である木全さんと初めて会いました。その張暖忻監督の姿もこの映画の中に一瞬ですが出てきます。『雲南物語』の日本でのシーンを愛知県で撮影し、それにシネマスコーレが協力したということで、映画祭での上映が可能になったようです(下記、シネマジャーナル30号、31号記事参照)。
その後、1996年に「あいち国際女性映画祭」が始まり、第一回目から名古屋に通うようになり、この映画祭のディレクターである木全さんとは毎回顔を合わせるようになりました。数回、そしてこの2年はコロナ禍で、このあいち国際女性映画祭に行けませんでしたが、この映画祭も去年で26回目。たぶん22回くらいは名古屋に通っています。そして、東京国際映画祭や大阪アジアン映画祭、山形国際ドキュメンタリー映画祭など、各地の映画祭に行くと、大体観たい作品が同じなので、いつも顔を合わせます(笑)。それに1994年以来、シネマジャーナル本誌をシネマスコーレで置いてくれているのでいつもお世話になっています。
1か月くらい前、渋谷の映画美学校にある(ユーロスペースがあるビル)映画チラシが置いてあるコーナーで、木全さんが笑って写っている上記のチラシをみつけました。思わず「何?」と思ってしまいましたが、その木全さんを追いかけたドキュメンタリー作品が公開されるということで楽しみに観ました。ちなみに名古屋公開時のチラシにはクローズアップされた木全さんの写真は使われていなかったようです。
シネマスコーレにはもう10数年行っていないですが、このコロナ禍でこんなにも大変な思いをし、映写機まで壊れてしまったという窮地に追い込まれても「なんとかなるさ」とばかりに、自ら床板の修理をしたり、看板を掃除したりして、映画館を継続するために立ち働く姿を見て、映画祭でみかけるのとは違う木全さんの姿を見ることができ、シネマスコーレが39年も続いてきたのがわかるような気がしました。
6月10日(金)に行われた、「『シネマスコーレを解剖する。』公開決起集会」の模様は特別記事にしました(暁)。

シネマジャーナルHP 特別記事
『シネマスコーレを解剖する。』公開決起集会 LOFT9 Shibuyaにて

*参照記事 
・シネマジャーナル30号 (1994)
「張暖忻監督に会いに名古屋のアジア文化交流祭に行く」
・シネマジャーナル31号 (1994)
 第三回NAGOYAアジア文化交流祭報告

『シネマスコーレを解剖する。~コロナなんかぶっ飛ばせ~』公式HP
2022年/日本/カラー/ビスタ/5.1ch/93分
制作:メ~テレ(名古屋テレビ放送)
配給:メ~テレ(名古屋テレビ放送)、シネマスコーレ
posted by akemi at 18:17| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

マーベラス(原題:THE PROTEGE)

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監督:マーティン・キャンベル
出演:マギー・Q、マイケル・キートン、サミュエル・L.ジャクソン

裏社会で⻑年トップクラスの暗殺成功率を誇ってきたアンナ(マギー・Q)とムーディ(サミュエル・L.ジャクソン)。師弟コンビとして親⼦の様な絆で結ばれた⼆⼈だったが、ある⽇、ムーディが何者かに惨殺されてしまう。復讐に乗り出したアンナの前に現れたのは、ターゲットの護衛を請け負ったプロのセキュリティ、レンブラント(マイケル・キートン)だった。敵対関係のはずのアンナに、意外にもソフトな物腰で迫る、底知れない魅⼒を持ったレンブラント。復讐に燃える暗殺者vs完璧を追求する護衛者。超⼀流の知⼒とスキルを駆使した戦いには、予測不可能な結末が待っていた。

『ジョン・ウィック』を手掛けた製作スタジオと『007/カジノ・ロワイヤル』『007/ゴールデンアイ』のマーティン・キャンベル監督が組んだ作品と聞き、その時点で間違いないと思っていましたが、期待を裏切らない作品でした。
何といっても、マギー・Qのキレのあるアクションが見ごたえたっぷりで素晴らしい。ジャッキー・チェンに師事して本格的にアクションを学んだそう。しかもどんなピンチに陥っても冷徹な判断⼒と精神⼒でさらりと乗り越えてしまうところがクールビューティーでカッコいい。
アンナと敵対するプロのセキュリティ、レンブラントを演じたのはマイケル・キートン。御年70歳とは思えないアクションを見せてくれます。同世代の俳優でこれができる人って日本にいる?!
脚本もよく練られており、クライマックスの作戦は見事としか言えません。すっかり騙されてしまいました。ぜひ、続編を作ってほしい!(堀)


マギー・Qは香港映画で先に観ていました。あれあれというまにハリウッドに進出して大作にも起用されました。美人でアクションができる上、何カ国語も話せる(父・アメリカ人。母・ベトナム人)のは強みです。
この頃女性の暗殺者の映画が多くなった気がするのですが、これもジェンダー平等が進んだ証拠?このメンバーなら攻守交替しても面白い作品になりそうです。マギー・Qにはジョン・ウィックにも出てキアヌと共演してほしいな。(白)


2021年/アメリカ・イギリス/109分/4Kスコープ R15
配給:REGENTS
© 2021 by Makac Productions, Inc.
公式サイト:https://marvelous-movie.jp/
★2022年7⽉1⽇(⾦)、TOHOシネマズ⽇⽐⾕ほか全国ロードショー

posted by ほりきみき at 02:41| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブラック・フォン(原題:The Black Phone)

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監督:スコット・デリクソン
出演:イーサン・ホーク、メイソン・テムズ、マデリーン・マックグロウ

コロラド州デンバー北部のとある町では、子供の行方不明事件が頻発していた。気が小さく独り立ちできない少年フィニーは、ある日の学校の帰り道、マジシャンだという風船を持った男に出くわす。「マジックを見たいだろ?」の一言を発したかと思うと、フィニーは黒いバンに無理やり押し込まれ、気が付くと、地下室のような密室に閉じ込められていた。壁に囲まれたその部屋には鍵のかかった扉と鉄格子の窓、そして「断線している黒電話」があった。すると突如、断線しているはずの電話のベルが鳴り響く。フィニーは恐る恐るその受話器を取るが、それは死者からのメッセージだった。
一方、行方不明のフィニーを探しているグウェンは兄の失踪に関する不思議な予知夢を見たというが…。

原作はジョー・ヒルが2005年に発表した短編集「20世紀の幽霊たち (20th Century Ghosts )」 に収められた「黒電話」。ちなみにヒルは『IT』や『シャイニング』などで有名な小説家スティーヴン・キングの息子です。親の七光りではなく、自分の力で成功を勝ち取るため、本名 ジョセフ・ヒルストーム・キングを簡略化してペンネームにしたそうです。「20世紀の幽霊たち」はデビュー作ながら評論家から絶賛され、2006年にブラム・ストーカー賞、英国幻想文学大賞、国際ホラー作家協会賞受賞を受賞しています。
その原作を『ドクター・ストレンジ』『エミリー・ローズ』のスコット・デリクソン監督がイーサン・ホークを主演に迎えて映画化しました。
が、印象としてはフィニーが主人公。優しくて賢いけれど、少し気が弱く、学校ではいじめの標的になっていますが、さらわれたことをきっかけに成長していく物語なのです。兄を助けたいと必死に行動するグウェンのがんばりも心を打ちます。
死者と電話で会話をする辺りはスリラーというよりもホラーに近く、苦手な人は少々どきどきするかもしれません。しかし、そこを乗り越えれば、さまざまな伏線が最後にしっかり回収され、「こうことなのね」と予想したことを見事に外したラストに驚き、清々しい気持ちに満たされるはず。フィニーはもう学校でいじめられることはないでしょう。(堀)


2022年/104分/PG12/アメリカ
配給:東宝東和
© 2021 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/blackphone
★2022年7月1日(金)全国公開
posted by ほりきみき at 02:22| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月25日

マルケータ・ラザロヴァー(原題:Marketa Lazarova)

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監督・脚本:フランチシェク・ヴラーチル
原作:ヴラジスラフ・ヴァンチュラ
撮影:ベドジフ・バチュカ
美術・衣装:テオドール・ピステック
音楽:ズデニェク・リシュカ
出演:マグダ・ヴァーシャーリオヴァー(マルケータ)、フランチシェク・ヴェレツキー(ミコラーシュ)、ヨゼフ・ケムル(コズリーク)、ミハル・コジュフ(ラザル)、イヴァン・パルーフ(アダム)、パヴラ・ポラーシュコヴァー(アレクサンドラ)、ヴラスチミル・ハラペス(クリスティアン)

13世紀半ば、動乱のボヘミア王国。ロハーチェクの領主コズリークは、勇猛な騎士であると同時に残虐な盗賊でもあった。ある凍てつく冬の日、コズリークの息子ミコラーシュとアダムは遠征中の伯爵一行を襲撃し、伯爵の息子クリスティアンを捕虜として捕らえる。王は捕虜奪還とロハーチェク討伐を試み、元商人のピヴォを指揮官とする精鋭部隊を送る。
一方オボジシュテェの領主ラザルは、時にコズリーク一門の獲物を横取りしながらも豊かに暮らしていた。彼にはマルケータという、将来修道女になることを約束されている娘がいた。
ミコラーシュは王に対抗すべく同盟を組むことをラザルに持ちかけるが、ラザルはそれを拒否し王に協力する。ラザル一門に袋叩きにされたミコラーシュは、報復のため娘のマルケータを誘拐し、陵辱する。部族間の争いに巻き込まれ、過酷な状況下におかれたマルケータは次第にミコラーシュを愛し始めるが…

チェコの大作が55年を経て上映されることになりました。原作小説はベストセラーになったそうで、日本に歴史小説ファンがいるように、ヨーロッパでも混沌の中世歴史小説ファンがいるのでしょう。フランチシェク・ヴラーチル監督は、当時の衣食住を同じ材料同じ作り方で再現し、極寒の⼭奥で当時と同じように⽣活しながら548⽇間に渡って撮影したというから驚きです。どれだけ凝り性なのでしょ。モノクロのシネマスコープ画面の中で、俳優たちが近代文明をそぎ落とした表情で生きています。二度とない経験をしたに違いない。マルケータ役のマグダ・ヴァーシャーリオヴァーは撮影開始時はまだ10代のはず。女優さんの露出が多いので気になりました。
13世紀中ごろと言えば日本では鎌倉時代です。「鎌倉殿の13人」放映中ですが、ほぼ同じころ。東ヨーロッパでは、地続きの諸国が領地を取ったり取られたり戦国時代の様相です。女性の人権などなかったでしょう。マルケータの強い視線と、背後に流れる音楽が記憶に刻まれました。蛇足:伯爵の息子クリスティアンが『ロード・オブ・ザ・リング』のレゴラスみたいな美青年でした。(白)


1967年/チェコ/166分/モノクロ/シネマスコープ/モノラル/DCP/
配給・宣伝:ON VACATION/後援:チェコセンター東京
© 1967 The Czech Film Fund and Národní filmový archiv, Prague

公式サイト   http://marketalazarovajp.com/
公式Twitter   https://twitter.com/m_lazarovajp
公式facebook  https://www.facebook.com/marketalazarovajp
公式Instagram https://www.instagram.com/marketalazarovajp/

★2022年7月2日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
posted by shiraishi at 22:21| Comment(0) | チェコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

映画 ゆるキャン△

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監督:京極義昭
脚本:田中 仁・伊藤睦美
キャラクターデザイン:佐々木睦美
原作:あfろ(芳文社「COMIC FUZ」掲載)
制作:C-Station cあfろ・芳文社/野外活動委員会
出演:花守ゆみり(各務原なでしこ) 、東山奈央(志摩リン) 、原紗友里(大垣千明)、豊崎愛生(犬山あおい)、高橋李依 (斉藤恵那)

志摩リンは故郷の山梨を離れ、名古屋のちいさな出版社に就職し、一人暮らしをしていた。とある週末、ツーリングの計画を立てていたところに、高校時代の友人・大垣千明から唐突にメッセージが届く。「今、名古屋にいるんだが」山梨の観光推進機構に勤める千明は、数年前に閉鎖された施設の再開発計画を担当していた。「こんなに広い敷地なら、キャンプ場にでもすればいいじゃん」そんなリンの何気ないから、動き出す千明。東京のアウトドア店で働く各務原なでしこ、地元・山梨の小学校教師となった犬山あおい、横浜のトリミングサロンで働く斉藤恵那。かつてのキャンプ仲間が集まり、キャンプ場開発計画が始動する。
キャンプでつながった五人が、今だからできることに挑む、アウトドア系ガールズストーリーの幕が上がる。

原作コミックは2015年~2019年に連載、後に漫画配信サイト『COMIC FUZ』に移籍して連載中。テレビアニメ版、テレビドラマ版と展開して、このたび初の映画版が公開となりました。ソロキャン(一人でのキャンプ)が好きなリンがキャンプ初心者のなでしこと出逢って、キャンプの知識や工夫を伝え、なでしこはぐんぐん吸収して、仲間を誘ってグルキャン(グループでのキャンプ)を始めます。お互いに自分の好みを押し付けないゆる~いキャンプなのが、長く愛されてきた理由かもしれません。それに恋愛ネタもありません。
キャンプのあれこれがよくわかり、彼女たちが出かけたキャンプ地は同じ趣味のファン達の聖地となってマップも作られています。映画版では自分たちでキャンプ場を作ろう!ということになりました。作品として盛り上がります。
いつものゆるキャンは何か大きな目的を達成するのでなくてもいいんです。花火が見たいとか、キャンプ飯が食べたいとか…。ちょっと日常から離れて違う場所に行き、普段やれない火起こしをして温まったり、食べたり飲んだり。空を見上げてゆったりできたら、新たな元気が充電されそうです。
全然アウトドア派じゃない私も、キャンプいいなぁと思いました。(白)


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アニメはほとんど観ないけど、キャンプ仲間の女の子たちを描いた作品と知り、観てみた。なぜかというと、かつて40年以上も前、キャンプには何度も行き、また山登りにテントを背負って登ったことがあったから。川原や湖、山里、海辺のキャンプ場に行き、テントを張ったり、キャビンやログハウスなどに泊まって、キャンプ飯を作る。そのキャンプ飯はだいたいバーベキューだったり、カレーだったりが多かったけど、普段の生活から抜け出して自然の中で生活したり、夜のキャンプファイヤーやランタンでの明かり。そしてなにより綺麗な空気や景色の中での生活というのが楽しみだった。山でのキャンプは、水が貴重だったり、使えるコンロが小さくて、キャンプ場でのキャンプとは違うけど、不自由な中で工夫をこらして食事を作り、寝袋に入って寝るという生活。そして、どちらも、朝起きた時のさわやかさが気に入っていた。
昨今のキャンプブームのことは、TVで時々見聞きしていたけど、最近のキャンプ事情はどんな風になっているんだろうという思いもあった。そしたら、こういうアニメまでできていたとは驚いた。これは学生時代のキャンプ仲間の女子5人が、かつての仲間と故郷山梨でキャンプ場を作るという物語。最初のシーンは学生時代に行ったキャンプ。たぶん富士五湖、それも富士山の見え方からいって山中湖あたりのキャンプ場じゃないかな。そしてキャンプ場を作る場所からも富士山がよく見えていた。ここはどこだったんだろう。言っていた地名を調べてみたけど、みつからなかった。でも、かつて東京小平市で働いていた時、8年間、会社の自室の窓から見える「富士山の見える日の記録」をつけていた私としてはとても気になった。あんなにきれいに富士山が見える場所にキャンプ場を作るなんてすばらしい。それにいろいろな場面で富士山が出てきた。原作者もきっと、富士山が綺麗に見える場所が好きな人に違いないと思った。また、キャンプ場を作っていたところから縄文式土器も出土したというのも興味深かかった。ま、あんな高台の周りに川もなさそうなところから縄文土器?という感じもあるけど、そのエピソード自体は面白かった。縄文時代の遺跡とキャンプ場という形でオープンできてよかった。なにより、いろいろな試練の中、5人はキャンプ場ができるまでこぎつけた。これは彼女たちの成長の記録でもある。こんな経験なかなかできない(暁)。


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2021年/日本/カラー/シネスコ/120分
配給:松竹 アニメーション
(C)あfろ・芳文社/野外活動委員会
https://yurucamp.jp/cinema/
公式Twitter>@yurucamp_anime
★2022年7月1日(金)ロードショー

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わたしは最悪。(原題:The Worst Person in the World)

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監督:ヨアキム・トリアー
脚本:エスキル・フォクト、エスキル・フォクト
撮影:キャスパー・トゥクセン
音楽:オーラ・フロッタム
出演:レナーテ・レインスヴェ(ユリヤ)、アンデルシュ・ダニエルセン・リー(アクセル)、ヘルベルト・ノルドルム(アイヴィン)

優秀な成績のユリヤは医学部に入学したものの、自分の興味はこれではないと気付いてしまう。心理学や写真もやってみた。道はいくつも開かれていると思っていたが、方向が定まらないまま30歳になるところだ。年の離れた恋人のアクセルはグラフィックノベル作家として成功し、若いユリヤを全て受け入れてきた。40代の彼は、ユリヤときちんと結婚して家庭を持ちたいと思っている。心を決められないユリヤはある晩アクセルと出席したパーティから抜け出し、通りかかった他人のパーティに紛れ込む。そこで魅力的なアイヴィンに出会って、久しぶりに大笑いし楽しい時間を過ごした。

「わたしは最悪」とは、ユリヤの自虐。あれ?若い人たちが大人になる過程で「あるある」なことばかりじゃないの、最悪なわけじゃないと思いつつ観ていました。あれもしたいこれもしたい(それも気が多くてに一つに決められない)と手を出しているうちに時間が過ぎて、いつのまにか30代に。30というのがミソで、10年ごとに刻みがちな人生の中でも子どもから大人への転換時期でもあります。もっと早く結婚して子供を持てば親になり、自分も子ども感覚から抜けて大人にならざるを得ません。
ユリヤには離婚した両親が健在、祖母もいます。そこに行けば「子ども」です。アイヴィンといるときは自分たちのことだけで済みます。しかもユーモアのセンスが合います。アクセルにはもう親はいなくて兄弟のみ。彼といれば「生活」と向き合わねばなりません。ストーリーが進むと、なぜ「最悪」と言ったのか、彼女の悔恨がわかります。
溌剌として何にでも興味を持つユリヤがチャーミングです。恋する気持ちや好きなものを見つけたキラキラな部分がまぶしいほど。大人で考え深く、包容力のあるアクセルがいても、若くて楽しいアイヴィンにも惹かれてしまう。節目ごとに章仕立てで語られる青春ラブストーリーですが、演じた俳優がそこにちゃんと生きていて3人の誰を主人公にしても映画になりそうです。
ヨアキム・トリアー監督作品は『テルマ』(2017)を観ています。美しい映像のホラー作品でした。今回は幻覚を起こす場面に片鱗が見えます。趣は違いますが、アイヴィンに会うためにオスロの街を走る場面が秀逸。周りの人間たちはみなフリーズする中、ユリヤが走り抜けていきます(ポスターはそのワンカット)。美しい上、遊び心もあって好きなシーン。(白)


ユリヤの20代半ばから30代初めにかけての数年間が、序章+12章+終章 と小説のような構成で語られていきます。だんだん大人になっていくのかと思いきや、そうでもありません。人生は試行錯誤。出会いがあって別れもある。別れたと思っても、またくっつくこともある。あの年齢の時にはこんなことをしていた等々。観ていて、誰しもどこかで感情移入できそうです。
「第4章 私たちの家族」では、30歳のユリヤが、母系家族をさかのぼって、30歳の時を写真を見ながら語ります。母30歳で離婚しユリヤを一人で育てる。祖母、曾祖母・・・それぞれの30歳を語り、最後、18世紀、女性の寿命は35歳というオチ。寿命の延びた現代では、30歳はまだまだこれからという年齢だけど、18世紀には余命を考えなければいけなかったのだとドキッとします。
そんなことを考えされられた映画ですが、それよりもオスロの街の魅力が本作には溢れていて、いつか訪れてみたいと思いました。(咲)


行き詰ると別のことがやりたくなるユリヤ。自分探しの節目ごとに男も変わる。そんなユリヤが自分にとって大切なものが何なのかに気づくまでを描いていく。
アクセルはユリヤと出会ったとき、自分は40歳を超えているから一般的な幸せ(子ども)を求めて束縛してしまう可能性があるからこれ以上は踏み込めないと伝えるが、そのひとことがきかっけでユリヤは恋に落ちる。その一方でそのことが彼女を苦しめ、心が離れていく。事前にいってあったのに、それが辛いと言われてしまうのはアクセルからすれば勝手に思えるだろう。しかし、これは恋においてはよくあること。女性心理をしっかりリサーチして脚本が書かれたことがわかる。
ヨアキム・トリアー監督が本作を撮った動機の1つはレナーテ・レインスヴェと語る。自身の過去作『オスロ、8月31日』に端役で出演したときに特別なエネルギーを放っていたそう。ユリヤはレナーテ・レインスヴェをあて書きされた。
またアクセルを演じたアンデルシュ・ダニエルセン・リーのことを監督は自分自身の分身的存在といい、彼の役を執筆するときには自身の過去の経験を反映させているとのこと。ユリヤからみれば“年上で懐が深い”アクセルも、本人いわく“自信のなさを必死に隠していた”というのは監督の経験だったのだろうと思えてくる。
大切なものは失ってから気づくとはよく言われるけれど、それを自分なりに受け止め、前に進むことを決めたユリヤの表情は清々しい。正直、それまでのユリアにはあまり共感できず、自分本位な女と思っていたのだが、その顔を見て、印象が一変した。ユリヤの人生に幸あれと願わずにはいられない。(堀)


2021年/ノルウェー・フランス・スウェーデン・デンマーク合作/カラー/シネスコ/128分
配給:ギャガ
(C)2021 OSLO PICTURES - MK PRODUCTIONS - FILM I VAST - SNOWGLOBE - B-Reel – ARTE FRANCE CINEMA
https://gaga.ne.jp/worstperson/
★2022年7月1日(金)より、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ他全国順次ロードショー

posted by shiraishi at 18:17| Comment(0) | 北欧 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

リコリス・ピザ(原題:Licorice Pizza)

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監督・脚本・撮影:ポール・トーマス・アンダーソン
撮影:マイケル・バウマン
音楽:ジョニー・グリーンウッド
出演:アラナ・ハイム(アラナ・ケイン)、クーパー・ホフマン(ゲイリー・バレンタイン)、ショーン・ペン(ジャック・ホールデン)、トム・ウェイツ(レックス・ブロウ)、ブラッドリー・クーパー(ジョン・ピーターズ)、ベニー・サフディ(ジョエル・ワックス)

1970年代、ハリウッド近郊、サンフェルナンド・バレー。子役として活躍してきたゲイリー・バレンタインは、写真撮影の助手で高校に来ていたアラナに一目惚れする。連絡先を聞こうとつきまとうゲイリーに、アラナは年が違い過ぎるとそっけない。「君と出逢うのは運命なんだ」というゲイリーにほだされたアラナはついに食事を行くことを承諾する。将来を迷うことなく、自信満々なゲイリーに「何がしたいの?」と聞かれ、わからないとしか答えられないアラナ。ゲイリーに勧められ、女優のオーディションを受けてベテラン俳優のジャック・ホールデンやレックス・ブロウ監督と知り合った。次々と思いつきを実行するゲイリーは、ウォーターベッドの販売を始める。

年下ながら芸能界で大きくなってきたゲイリー、初めはガキ扱いしていたアラナでしたが、だんだんと年の差を感じなくなります。ゲイリーの大人顔負けの実行力と、たまに見せる幼さのギャップにやられたんでしょうか。このカップルは、悪さをして逃げたり、お互いを探したり、とにかくよく走っています。若いなぁ。ガス欠車が「走る」シーンにはあっけにとられました。
丁寧に再現された70年代のファッションと音楽、大物俳優が実際にいた人物役で登場する意外さ、当時を知る人はもちろん知らない人も、新人とベテラン俳優をアレンジする監督の手腕に喝采するはず。
三姉妹バンド、”ハイム”の三女であるアラナ・ハイム、フィリップ・シーモア・ホフマンの息子であるクーパー・ホフマンが本作で映画デビュー。撮影時アラナは29歳、クーパーは17歳と映画の設定より離れています。アラナ・ハイムはどこか東洋の雰囲気があり、香川京子さんの若いころを思い出させます。アラナの実の両親と姉“ハイム一家”も家族役で総出演。
クーパー・ホフマンには、どうしても父親の面影をさがしてしまいます。やっぱり似ていますよね。父を越える名優になってほしいものです。
原題“Licorice Pizza”は、ジョニー・グリーンウッドの楽曲名ですが、1969年から1980年代後半にかけてカリフォルニア州南部で店舗を展開していたレコードチェーンの名前なのだと、観終わった大分後に記述を見つけました。画面には登場しなかったようです。(白)


15歳の高校生男子と25歳の年上女性との恋。日本だったら“禁断の恋”として端正な顔立ちの若手俳優と清純な雰囲気の中にも色気のある美しい女優を組み合わせて、情感たっぷりに背徳的な甘美さを描いた作品になっていたに違いない。
しかし、本作はそういった雰囲気とは無縁だ。アラナはなんとすっぴんで出演している。ニキビの跡やそばかすなどを隠そうとはしない。とにかくよく走り、全編通じて躍動感がある。年下のゲイリーに魅かれつつ、それを恋と認識していいのかがアラナ自身でもわからない。自分探し真っ最中な状況が手に取るように伝わってきた。
一方のゲイリーは15歳とは思えない実行力を見せる。子役として大人社会に早くから関わってきたからなのだろう。そうかと思えば、初心なところもあったりして、そのギャップがアラナには魅力的に見えたのかもしれない。
主演の2人以外では、ブラッドリークーパーの濃い感じが強烈な印象を落とし、ショーン・ペンとトム・ウェイツは物語にアクセントと深みを与えている。
さてさて、2人の恋はいったいどこへ向かっていくのだろう。(堀)


2021年/アメリカ/カラー/シネスコ/134分
配給:ビターズ・エンド、パルコ
(C)2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.
https://www.licorice-pizza.jp/#
★2022年7月1日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー


posted by shiraishi at 18:06| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

哭悲/SADNESS(英題:The Sadness)

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監督・脚本:ロブ・ジャバズ
撮影:バイ・ジエリー
音楽:TZECHAR
出演:レジーナ・レイ(カイティン)、ベラント・チュウ(ジュンジョー)、ジョニー・ワン(ビジネスマン)、ラン・ウエイホア(ウォン・ジャンリアン)、ラルフ・チウ(リンさん)、アップル・チェン(シェン・リーシン)

謎のウィルスが蔓延している台湾。感染した当初は風邪のような症状だが、そのうち狂犬病のように信じられないほど凶暴になってしまうことがわかった。各地で阿鼻叫喚の地獄が展開し始めていたが、誰も止められず解決策も見つかっていない。カイティンとジュンジョーのカップルはまだ何も知らず幸せに暮らしている。ジュンジョーはカイティンをバイクで駅まで送り届けた後、血に飢えた感染者たちに出逢ってしまう。やっと家に戻ると、隣人もすでに感染していた。必死にカイティンに連絡するが、彼女は地下鉄で隣に座ったビジネスマンから難癖をつけられていた。カイティンは執拗に追ってくる彼から逃げて病院に駆け込むことができたが…。

コロナ禍の中で観ると、怖さが増幅します。感染して死に至るのも怖いですが、この映画では、ウィルスの突然変異種がうまれ、脳に作用して人間の理性が吹き飛び凶暴になる、とのこと。それも意識ははっきりしているのに、自分で制御できず残虐な行為に走ってしまいます。意識下の欲望が出てしまうというおぞましさ。これはいやだ。
初の長編監督作というロブ・ジャバズ監督は、大のホラーファン。これまでに観た作品にオマージュを捧げつつ、観たこともないような作品を作り上げ海外で高評価を受けています。残虐な描写とバケツでぶちまけたような大量の血に、気の弱い方はご注意。そんな中でなんとしても再会したいカイティンとジュンジョー、2人の絆の強さも描かれています。さてその願いは叶うや否や?
実は一番恐ろしいもの、見たくないものは、人の本音・欲望かもと思った作品。以前「他人の心が読める人が、知りたくなくても入ってくる人間の欲望の醜さに発狂してしまう」漫画を見たのを思い出しました。それも怖かった。(白)


2021年/台湾/カラー/108分
配給:クロックワークス
(C)2021 Machi Xcelsior Studios Ltd. All Rights Reserved.
https://klockworx-v.com/sadness/
★2022年7月1日(金)あなたの中の悪意が目覚めるロードショー
posted by shiraishi at 16:59| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月23日

愛に奉仕せよ  原題:인민을 위해 복무하라(人民に奉仕する) 英題:SERVE THE PEOPLE 

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© 2022 JNC MEDIA GROUP. All Rights Reserved.

監督:チャン・チョルス(『シークレット・ミッション』)
出演:ヨン・ウジン(『ときめきプリンセス婚活記』)、ジアン(『罠 Deep Trap』)、チョ・ソンハ(『哀しき獣』)、キム・ジチョル(『シークレット・ミッション』)

1976年5月1日、模範兵士ムグァンは師団長宅の炊事兵として着任する。ほどなく、師団長は軍首脳会談のため、1か月家を空けるという。2階には、命令しない限り上がるなと言い残しで出かける師団長。一方、若く美しい師団長の妻スリョンからは、位牌が定位置にない時には2階に上がってくるよう命じられる。2階に上がり、「奥様」と呼びかけると、「人のいないところでは、ヌナ(お姉さん)と呼んで」と命じるスリョン。師団長は若くして戦場で生き残り、人民の英雄として大きな権力を手にしているが、戦地で受けた弾のため、男としての役目を果たせないとスリョンは明かす。スリョンの誘惑に負け、一線を越えるムグァン。市場で1か月分の食糧を買い込み、鍵をかけて、二人きりで一糸まとわぬ姿で過ごす。やがて師団長が戻ってくる。ムグァンは、スリョンの口添えで工場長に出世する・・・

ムグァンには、出世して、村に残してきた妻子をいつか都会に住まわせたいという夢があって、工場長になったことで夢は実現します。けれども、スリョンと過ごしためくるめく日々は、ムグァンにとって忘れがたいもの。スリョンもまた、女として満たされた気持ちになったのですが、夫には言えないし、ムグァンが別れの挨拶に来た時にも、何事もなかったように接します。もちろん、これで話は終わりません。二人の行く末は劇場でご覧ください。
それにしても、大胆な描写にどきまぎしてしまいます。それもそのはず、原作は、その性描写により刊行直後に中国で発禁処分となった閻連科(えんれんか)の小説「人民に奉仕する」。架空の社会主義国家が舞台ですが、「主席様」の写真が飾られていたりして、北朝鮮を思わせます。
ムグァンを演じたヨン・ウジンは、つい先日、再放送で観たドラマ「君の歌を聞かせて」で主役を務めて、ニヒルな魅力のある男でした。Netflixで配信中のドラマ「39歳」では、ソン・イェジン演じる主人公と恋に落ちる皮膚科医役だそうです。
大胆なベッドシーンに挑み、奥様としての威厳も見せたジアンは、『罠 Deep Trap』でマ・ドンソクの妹を演じた方。師団長役は、『哀しき獣』はじめ数々の映画やドラマで活躍しているチョ・ソンハ。威厳を見せています。
韓国版『ラスト、コーション』とも呼ばれているそうですが、私は、ソン・スンホン主演の『情愛中毒』(2014年)を思い出しました。(咲)


2022年/韓国/146分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
日本語字幕:福留友子
配給会社:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-asia.com/houshi/
★2022年6月24日(金) シネマート新宿 ほか ロードショー



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2022年06月19日

あなたの顔の前に  原題:당신 얼굴 앞에서 英題:In Front of Your Face 

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(C)2021 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved

監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽:ホン・サンス
出演:イ・ヘヨン、チョ・ユニ、クォン・ヘヒョ、シン・ソクホ、キム・セビョク、ハ・ソングク、ソ・ヨンファ、イ・ユンミ、カン・イソ、キム・シハ


長年アメリカで暮らしていた元女優のサンオク。突然帰国し、母が亡くなって以来疎遠だった妹ジョンオクの暮らすソウルの高層マンションに身を寄せる。朝食後、川沿いのカフェでコーヒーを飲みながら、ジョンオクはサンオクに目の前で建設中のマンションを購入して住めばと勧める。
カフェを出て公園を歩いていたサンオクとジョンオクは、とおりすがりのふたりの女性に写真を撮ってほしいと頼む。「女優さんでは?」と言われ、「今は違います」と答えるサンオク。
二人はジョンオクの息子スンウォンが経営するトッポッキ店に寄る。スンウォンは不在で、帰ろうとすると、帰ってきたスンウォンが追いかけてきて、大好きな伯母さんにとプレゼントを渡す。
サンオクが午後会う約束をしていた相手から場所を仁寺洞に変更したと連絡が入る。まだ時間があるので、サンオクはタクシーで梨泰院に向かい、昔、住んでいた家を訪ねてみる。家は洒落たお店になっていたが、庭は記憶の中のままで癒される。少女が現れジウンと名乗る。愛おしくて抱きしめる。
サンオクが指定された仁寺洞の「小説」に着くと、そこは居酒屋。彼女を誘ったのは面識のない映画監督ソン・ジュウォン。昼食を食べてなかったサンオクのためにエビチリと酢豚を頼んでくれる。昼間で誰もいない店で、監督は、学生だった30年前に観たサンオク出演作が忘れられないと熱く語る。そして、3カ月で脚本を仕上げるので、自分の作品にぜひ出演してほしいという。「ごめんなさい。私には時間がありません」と理由を語るサンオクの前で、いつしか監督は寝てしまっていた・・・

長年疎遠になっていた祖国の家族のもとに帰ってきた元女優サンオクの一日の出来事。過去に何があったのか、そして、なぜ突然帰国したのか、妹や監督との会話の端々から、観ている私たちは知ることになります。これまでのホン・サンス監督作品と同様、人と人の対話の妙を楽しみました。
元女優サンオクを演じたイ・ヘヨンさんは、ホン・サンス作品初出演。1962年生まれで、父は、1960年代の韓国映画に多大なる影響を与えた巨匠イ・マンヒ監督。1981年、ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」で俳優デビュー。その後、多数の演劇作品に出演し、1982年、『ママの結婚式』で映画デビュー。1980年代の名だたる監督の映画に出演している大ベテラン。本作で、第58回百想芸術大賞<映画部門>女性最優秀演技賞受賞。
サンオクに憧れる監督役のクォン・ヘヒョさんは、ホン・サンス作品の常連。本作でも、真面目な顔で語っているのに、笑わせてくれました。
サンオクの妹ジョンオクを演じたチョ・ユニさんはクォン・ヘヒョさんの実の奥様。
ホン・サンス監督の公私にわたるパートナーであるキム・ミニさんは、本作には出演せず、プロダクション・マネージャーを務めています。
サンオクの一日を辿りながら、自分の人生を振り返りたくなる映画でした。(咲)




2021年/韓国/韓国語/85分/カラー/1.78:1/モノラル
字幕:根本理恵
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:http://mimosafilms.com/hongsangsoo/
★2022年6月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開


posted by sakiko at 20:13| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

イントロダクション  原題:인트로덕션 英題:Introduction 

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© 2020. Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved

監督・脚本・撮影・編集・音楽:ホン・サンス 
出演:シン・ソクホ、パク・ミソ、キム・ヨンホ、イェ・ジウォン、ソ・ヨンファ、キム・ミニ、チョ・ユニ、ハ・ソングク

将来の進路も定まらず、まだ何者にもなれない青年ヨンホの物語。

ソウルの一角。ヨンホは、父が経営する韓方病院に呼び出される。説教されるのを覚悟で行くが、父は演劇界の大物俳優への応対に忙しい。時間を持て余し、外で煙草を吸っていると顔馴染みの看護師の女性から「愛してると言ったのを覚えてる?」と言われる。「はい、今も愛してますよ」と答えるヨンホ・・・

ヨンホの恋人ジュウォンは衣装デザインを学ぶため母親と共にドイツのベルリンに行き、母の旧友宅に居候する。3人が散歩中、ヨンホから電話がかかってくる。一日も離れていたくなくて追いかけてきたというのだ。さっそく会う二人。「僕もここで勉強できればいいな」とジュウォンを抱きしめる・・・

東海の海辺の食堂。ヨンホの母と演劇界の大物俳優がヨンホの到着を待っている。かつて、ヨンホはこの大物俳優に父親の病院で会い、「俳優になるといい」と助言され、俳優になろうとしたが、あることがあって断念したのだ。理由を聞いた俳優は「若いのに頭が固くてどうする」と怒声を浴びせる・・・

“イントロダクション”には、「紹介」「序文」「入門」「導入」など多様な意味が込められていて、韓国語にはそれに見合うひとつの単語がないため、英語のタイトルにしたとのこと。
タイトルに込められた意味を聞いて、本作を振り返ると、ふむ、なるほど・・・という部分もあるのですが、いつもながらホン・サンス監督にはぐらかされた思いが残りました。
ヨンホは、金持ちの父をアテにしているワケではないのですが、どこか甘い・・・ 
そんな息子を心配する母親に、ちょっと同情してしまいました。(咲)


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『イントロダクション』主演 シン・ソクホ オンライン舞台挨拶

2020年/韓国/韓国語/66分/モノクロ/1.78:1/モノラル
字幕:根本理恵 
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:http://mimosafilms.com/hongsangsoo/
★2022年6月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開



posted by sakiko at 19:56| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ホン・サンス監督『イントロダクション』『あなたの顔の前に』2作品同時公開

2022年ベルリン国際映画祭で3年連続の銀熊賞受賞を果たした名匠ホン・サンス監督の日本公開最新作となる長編25作目『イントロダクション』と長編26作目『あなたの顔の前に』が、2本同時に2022年6月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開されます。
公式サイト http://mimosafilms.com/hongsangsoo/

各作品の詳細:
◆『イントロダクション』
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/488984647.html
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◆『あなたの顔の前に』
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/488984805.html
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★昨年も、数多くのホン・サンス監督作品が上映されました。

『逃げた女』2021年6月11日公開
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/nigetaonna.html

HONG SANGSOO RETROSPECTIVE 12色のホン・サンス
2021年5月~6月 12作品上映
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/481669403.html

特集上映「作家主義 ホン・サンス」
上映作品:『カンウォンドのチカラ』(1998)、『オー!スジョン』(2000)
6月12日(土)~渋谷・ユーロスペース 6月26日から長野・上田映劇以降、全国順次公開
https://apeople.world/hongsangsoo/


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ウクライナ映画 『アトランティス』&『リフレクション』 2作品同時緊急公開

戦禍のウクライナの真実を伝える
名匠ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ
2作品同時 緊急劇場公開

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2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻から3カ月近く経った今もなお戦禍にあるウクライナ。 ウクライナ映画界の俊英として世界中の期待を集めるヴァレンチン・ヴァシャノヴィチが監督・脚本・撮影・編集・製作を手がけた『アトランティス』(2019)と『リフレクション』(2021)の2作品が、6月25日(土)よりシアター・イメージフォーラム他にて緊急同時公開されます。

今年3月、この2作品の上映およびウクライナ映画人支援のための寄付を集めるクラウドファンディングが「ウクライナ映画人支援上映 有志の会」により行われ、目標額を上回る5,994,500円を
集め、3月29〜31日の3日間、東京・渋谷のユーロスペースとユーロライブで上映されています。

『アトランティス』では、近未来の2025年を舞台に、元兵士の“生”のはかなさと“愛”の尊さ、『リフレクション』では、“戦争のはじまりの2014年”に敵の捕虜となった外科医の運命が描かれていて、今年2月の侵攻のずっと以前から、ウクライナが戦争の脅威にさらされてきたことを知らしめてくれます。

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2019年東京国際映画祭で『アトランティス』が審査委員特別賞受賞し、授賞式にビデオメッセージを寄せたヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督 (撮影:宮崎暁美)

◆『アトランティス』  原題:Атлантида|英題:Atlantis
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(C)Best Friend Forever

監督・脚本・撮影・編集・製作:ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ
出演:アンドリー・ルィマルーク、リュドミラ・ビレカ、ワシール・アントニャック

2025年、ウクライナ東部。ロシアとの戦争終結から1年。製鉄工場で働く元兵士のセルヒーは戦争で家族を亡くし、今も PTSD に苦しみ、唯一の友人であるイワンと射撃訓練を行っている。そのイワンも生きる気力を失い身投げしてしまう。さらに製鉄工場も閉鎖され、セルヒーは水源が汚染された地域に水を運ぶトラックの運転手になる。そんなある日、車の故障で立ち往生していたカティアという女性を助ける。戦争前には大学で考古学を学んでいたカティアは、今はブラック・チューリップというボランティア団体で戦死者の遺体の回収を行っているという。セルヒーも団体に加入し、カティアとともに各地の遺体発掘現場を回る。カティアと話すうちに、次第にセルヒーは生きる意味を取り戻していく・・・

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2019年東京国際映画祭審査委員特別賞受賞の折に監督に代わり、トロフィーを受け取ったセフヒー役アンドリー・ルィマルークさん (撮影:宮崎暁美)
冒頭、雪の中に立てた8体の人型を標的にしての射撃訓練。『アトランティス』のタイトルを聞いても思い出せなかったのですが、この場面を観て、2019年の東京国際映画祭で観たことをしっかり思い出しました。その時には、クリミア半島がロシアに取られたことはすっかり忘れていました。
本作は、この度のロシア侵攻前に描いた「戦争終結1年後」のウクライナ。
セルヒーが「ある日、普通の暮らしが突然終わった」と語る場面があります。ウクライナの人たちは、再び普通の暮らしを失ってしまいました。この映画のように、2025年には「戦後」であることを祈るばかりです。(咲)


2019年ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門作品賞
2019年東京国際映画祭審査委員特別賞
2020年米アカデミー賞長編国際映画賞ウクライナ代表

2019年/ウクライナ映画/ウクライナ語/109分/シネスコ/デジタル5.1ch
日本語字幕:杉山緑  字幕監修:梶山祐治 字幕協力:東京国際映画祭

★公開初日6月25日(土)
12:50〜の『アトランティス』上映終了後
梶山祐治氏(筑波大学UIA)によるトークイベントが開催されます


◆『リフレクション』 原題:Відблиск  英題:Reflection
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©Arsenal Films, ForeFilms

監督・脚本・撮影・編集・製作:ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ
出演:ロマン・ルーツキー、アンドリー・ルィマルーク、ニカ・ミスリツカ

ロシアによるクリミア侵攻が始まった2014年の首都キーウ。
外科医セルヒーは、夜勤明けに娘ポリーナの12歳の誕生祝いの花束を持って、娘の「サバイバルゲーム」の会場を訪れる。元妻オルガと、その再婚相手のアンドリーも任地の前線から戻ってきてポリーナの誕生日に駆け付ける。ロシア軍の奇襲攻撃がひどいと語るアンドリーだが、1週間後には戦地に戻るという。セルヒーの勤めるキーウの病院にも負傷兵が次々と運ばれてくる。やがて、セルヒーは志願して前線に赴くが、道に迷って人民共和国軍の検問所に迷い込み、捕虜になってしまう・・・

東部戦線で人民共和国軍の捕虜となったセルヒーは、ひどい非人道的な拷問を受けます。なんとか命を助けてもらい捕虜交換でキーウに帰還するのですが、地獄を見てしまったセルヒーは、なかなか立ち直れません。アンドリーの消息は不明と家族には伝えられているのですが、実はセルヒーはアンドリーの消息を知っていて、それも苦悩の一つ。
娘ポリーナから、「アンドリーがドローンを買ってくれる約束をした。乗馬もさせてくれると言ってた」と言われると、それをアンドリーに代わって叶えることしかセルヒーにはできません。
映画には、移動式火葬場(車)の場面も出てきて、ドキッとさせられます。前線で亡くなった兵士を火葬しているのです。
ロシア侵攻後、成人男子の出国を禁じたウクライナ。ロシアもまた同じ。国を守るという名目で、人の命が失われていくことに虚しさを感じます。どうしたら戦争を終わらせることができるのでしょう・・・ (咲)


2021年/ウクライナ映画/ウクライナ語・ロシア語/126分/シネスコ/デジタル5.1ch日本語字幕:額賀深雪 字幕監修:梶山祐治


『アトランティス』&『リフレクション』 
協力:ウクライナ映画人支援上映 有志の会 
提供:ニューセレクト 
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://atlantis-reflection.com/
★2022年6月25日(土)よりシアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開


posted by sakiko at 18:21| Comment(0) | ウクライナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

どうしようもない僕のちっぽけな世界は、

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監督・脚本:倉本朋幸
撮影:杉村高之
主題歌:クリープハイプ
出演:郭智博(彼)、古田結凪(ひいろ)、和希沙也(妻・かな)、冨手麻妙(彼の恋人・あい)、渡辺真起子(保育士)、美保純(彼の母・智子)、カトウシンスケ(彼の同僚・クラ)、後藤剛範 (彼の同僚・ポー)

夫婦は娘のひいろへの虐待が疑われ、娘と引き離される。養護施設へ入った娘は条件付きで戻ることになった。父親は実家に頼り、仕事も見つからずにいる。母親は勝手気ままで、娘との約束も果たせない。父親としての責任を感じる一方、恋人とあいまいな関係を続ける彼は、現状に苛立つと娘にあたってしまう。

彼も妻も親の自覚が無さすぎ、観ていてイライラしてしまいました。口先だけの母親、だらしない生活をしていながら娘に八つ当たりする父親、泣きもせず黙って従っている「ひいろ」が可哀想でなりませんでした。彼にはちゃんとした両親がいて育てられたはずなのに、なんでこうなってしまうのか。自分自身が一番どうしようもない、とわかっていてもがく「彼」、諦めたらダメ!と、思わず応援してしまいました。子どもを産んだ責任があります。
”おかん”からは、彼がまともな父親になれるようにとの必死の思いが伝わります。ふがいない息子に責任を感じたに違いない。美保純さんが彼のおかん、ひいろのばぁば役、時の流れを感じます。『男はつらいよ』でタコ社長の娘・あけみ役だったのは1984年~1987年。登場するとパッと場が明るくなりましたっけ。
私はやはり”ばぁば”に肩入れしましたが、若い人たちはいかがでしょうか? 親は子どもを育て、子どものおかげで親も育ちます。(白)


「お子様を車内に置き去りにしないでください」
先日、駅近くの駐車場の看板にふと目がとまりました。そこはパチンコ屋さんの専用駐車場。親がパチンコをしている間に、車の中で小さい子が亡くなったというニュースをよく目にするので、なるほどと!
本作の彼や妻かなも、自分の子に責任なさすぎ。「出来ちゃった」子なのかもしれませんが、産んだ以上は大事に育てなければ。
そして、「今日は大丈夫だから」と彼に迫った彼女あいも、あとからやってきて「出来たけど、自分一人で育てるから」というのも、あまりに勝手。結婚は神聖なものであるべきなどとは思いませんが、快楽の結果だとしても、生まれてきた子の人生を考えるべきでしょう。
美保純さんは、可愛いばぁば役でしたが、渡辺真起子さんはひいろの保育園の保育士でした。出番は短いながら、印象に残りました。(咲)



2019年/日本/カラー/87分
配給:Nabura
(C)TOM company
https://doushiyoumonai.jp/
★2022年6月25日(土)ロードショー


posted by shiraishi at 18:10| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

彼女たちの革命前夜  原題『Misbehaviour』

2022年6月24日(金) 
kino cinéma立川髙島屋S.C.館、シネ・リーブル梅田他全国順次公開
劇場情報
『彼女たちの革命前夜』ポスタービジュアル_R補正_R.jpg
© Pathé Productions Limited, British Broadcasting Corporation and The British Film Institute 2019

女性をモノのように品定めをするミス・ワールドの開催を阻止しようと活動した女性たち

監督:フィリッパ・ロウソープ
製作:スザンヌ・マッキー サラ・ジェーン・ウィール
原案・脚本:レベッカ・フレイン
脚本:ギャビー・チャッペ
撮影:ザック・ニコルソン
美術:クリスティーナ・カサリ
編集:ウナ・ニ・ドンガイル
音楽:ディコン・ハインクリフェ
出演
キーラ・ナイトレイ:サリー・アレクサンダー
ググ・バサ=ロー;ジェニファー・ホステン
ジェシー・バックリー:ジョー・ロビンソン
グレッグ・キニア:ボブ・ホープ
キーリー・ホーズ、レスリー・マンビル、リス・エバンス

1970年頃に起こった女性解放運動。女性を外見で評価し順位をつけるミスコンテストに対して女性差別だと訴え、美の基準について考えるきっかけを作った。
「ミス・ユニバース」「ミス・インターナショナル」と並び、世界三大ミスコンテストの一つである「ミス・ワールド」。1970年ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開催された「ミス・ワールド世界大会」で、実際に抗議行動を行ったフェミニズム運動の活動家たちを題材に前代未聞の大騒動を映画化。
学び直すため大学に再入学をしたサリー。仕事、大学、家庭の忙しい毎日を送る中、女性解放運動の活動家であるジョーに出会う。彼女が所属するグループは「女性をモノのように品定めするミス・ワールド」を阻止するための計画を練っていた。一方、ミス・ワールドの主催者側は開催に向けた準備を進め、司会者にはアメリカのコメディアン、ボブ・ホープを起用。世界各国から出演者が続々と集結し、コンテストに向けたウオーキングの練習や、立ち振る舞いなどのレッスンも行われていた。カリブ海の島国グレナダから参加したジェニファーは自身の夢と自国の子供たちに自信を持たせるために出場をしたが、白人の出場者ばかりに注目が集まる状況に「優勝する見込みはないな」と、複雑な心境でいた。それぞれの想いが交差をする中、ミス・ワールドの当日を迎えた。当時、絶大な人気を誇っていた「ミス・ワールド」で実際に起きた前代未聞の大騒動を、女性活動家や大会の出場者、主催者の三方向から描いた。

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© Pathé Productions Limited, British Broadcasting Corporation and The British Film Institute 2019

ミス・ワールドの開催を阻止しようと活動する主人公のサリーを演じたのは、『ベッカムに恋して』(02)、『プライドと偏見』(05)、『はじまりのうた』(13)などのキーラ・ナイトレイ。ともに行動をする盟友のジョーには『ワイルド・ローズ』(18)、『ジュディ 虹の彼方に』(19)、『ドクター・ドリトル』(20)などのジェシー・バックリー。ミス・ワールドの代表の一人であるミス・グレナダのジェニファーには『女神の見えざる手』(16)のググ・バサ=ロー、司会者のボブ・ホープには『リトル・ミス・サンシャイン』(06)のグレッグ・キニアと、個性派俳優が脇を固めている。ドキュメンタリー作品の監督としてキャリアをスタート、テレビシリーズ「サード・デイ 〜祝祭の孤島〜」(20)などを手掛けたフィリッパ・ロウソープが監督を務め、ミス・ワールドを舞台にそれぞれの思惑が交差する群像劇を見事に描いた。

1970年代、日本でもウーマンリブの人たちが、問題提起する中に「ミスコン」はあったけど、1970年にイギリスの「ミス・ワールド世界大会」の場で、実際に抗議行動があったということは、この映画を観るまで知らなかった。1970年と言えば、私が社会人になった年、会社に入って、女性差別より以前に、学歴差別という壁を感じていた頃だったかもしれない。職業における女性差別を感じるようになったのはもう少しあとだった。もちろんそれまでに「女らしく」「女のくせに」というという言葉に表される女性差別は子供の頃から感じていて、そのことにかなり反発はしていた。
女性を姿、形で評価し、順位をつけるというミスコンテスト自体に興味はなかったので、全然無視して生きてきたから、世界三大ミスコンテストというのがあるとは、今回初めて知った(笑)。その後、「目的のある美」を掲げ、単なる美人コンテストからの脱却を図り、美貌のほかに知性や個性も選考基準に加えるように基準を改めたらしいので、1970年の彼女たちの行動も少しは効いているのかも。
1970年の「ミス・ワールドコンテスト」では、初めて黒人も出場し、最終的にグレナダ代表ジェニファー・ジョセフィン・ホステンが黒人女性初のミス・ワールド優勝者になったとのこと。そこから少しづつ変わっていっているということなのでしょう。でも「ミスコン」そのものはなくならず、今も続いている。それってどうなのと思う私です(暁)。


公式HP
2019年製作/107分/G/イギリス
提供:木下グループ 配給:キノシネマ
字幕翻訳:平井かおり
posted by akemi at 17:44| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ヘイ!ティーチャーズ!(原題:Katya I Vasya idut v shkolu)

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監督:ユリア・ヴェシュネヴェッツ
出演:エカテリーナ、ワシリイ

モスクワの大学を卒業したエカテリーナとワシリイは、大都会から行ったこともない地方都市の学校に赴任した。エカテリーナは文学、ワシリイは地理を担当する。教師1年生の2人は、授業の計画を立て、生徒たちを知って様々なことを教え、一緒に考えたいという情熱と夢を抱いていた。ところがそれは早々に打ち砕かれる。生徒たちは教師の言葉を聞かず、授業中もお喋りを止めない。輪ゴムを飛ばし合い、こっそりスマホでゲームをしている者までいる。怒鳴ったり、脅したりしたくない2人はあれこれと工夫するのだが…。

「教師はツライよ」…そんなシリーズはありませんが、どの国にも共通する「新米教師あるある」が満載です。ロシアの学校は小さな1年生から大きな11年生まで、日本でいう小、中、高校が同じ敷地にあります。都会で育った2人の新米教師が、地方の学校で奮闘努力する姿をとらえたドキュメンタリー。
エカテリーナは冒頭で、ブルーのミックスに染めていた頭髪をおとなしい色に染め変えました。フェミニズム、個人の尊厳など新しめの考えの彼女は、生徒をもっと感じたいと率直に語りますが、ベテランの先生は「そんなことはどうでもいい。生徒に学ぶべきことを教えて導くのが教師の仕事」とピシャリ。自分で考えるより目上の者に従順であれ、結論はすでにあっての議論というわけです。
ワシリイはアウトドア派、陽気でポジティブな男性ですが、保守的な地方のシステムは手ごわく、苦労します。生徒は新米先生の力量を見極めようといろいろ仕掛けてきますが、一度信頼すると屈託なく話すようになっています。生徒たちのやりとりも楽しく、よく撮影させてくれたこと、と思う場面が多いです。スマホで情報が手に入る現代でも、教会の権力は大きいようで、ヤンチャ坊主もみなかしこまっているのがほほえましいです。
せっかくの高い志が空回りしたエカテリーナとワシリイが、これからもめげませんように。今、大きくなった子たちは戦場に行っているのではないでしょうか?2人と、自由にモノが言えていたあの子たちがどうしているのか、そちらが気にかかります。(白)


エカテリーナが子どもたちの作文を読み、学級の半分がナショナリストと嘆き、授業で移民について取り上げました。すると子どもたちから「外国人はルールを守らない」「外国人は好き勝手をする」「虫けらみたいにうじゃうじゃいる」といった意見が次々と出てきます。必死に人権について語っても聞く耳を持たない子どもたち。しかし、校長先生からSNS投稿について釘を刺されると、言論の自由を主張するし(校長先生は民衆扇動と反論しましたが)、ナワリヌイの崇拝者ではないけれど共感すると言い、「プーチンは終わっている」と一刀両断する子も。学校教育の大切さと同時に難しさを感じました。
学内イベントで銃の解体と組み立をするのに驚いていたら、軍の訓練に参加したためテストが受けられず留年する子がいました。ナショナリストの彼らが軍に入って銃を持ったらどうなるのか。不安しかありません。(堀)


2020年/ロシア/カラー/デジタル/90分
配給:豊岡劇場
(C) OkaReka 
http://heyteachersjapan.com/
★2022年6月25日(土)ユーロスペースにてロードショー、全国順次公開
posted by shiraishi at 15:22| Comment(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ルッツ 海に生きる   原題:Luzzu

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(C)2021 LUZZU Ltd

脚本・監督・編集:アレックス・カミレーリ
出演:ジェスマーク・シクルーナ、ミケーラ・ファルジア、デイヴィッド・シクルーナ、スティーブン・ブハジーア、ウダイ・マクレーン

マルタの伝統的な木造漁船ルッツ。
26歳の漁師ジェスマークはある日、先祖代々受け継いだルッツが水漏れすることに気づき修理に出す。一方、生まれたばかりの息子は成長不全といわれ、お金がかかる。そんな折、禁漁中のメカジキを裏取引すれば大金を稼げることを知る。そのためには漁業停止の申し出をしてルッツを売り、冷凍庫付きのワゴン車を買う必要がある。ジェスマークは大きな決断を迫られる・・・

「船を失うと、道を失うぞ」と友人。修理を終え、綺麗になったルッツに、ジェスマークは息子の足跡を付け、久しぶりにルッツで大海原に出ます。可愛い目がついたルッツは、もう水漏れもしません。これで一件落着かと思いきや、思いもしない結末が待っていました。マルタの美しい風景を舞台に描かれる、ちょっぴり悲しく愛おしい物語。
アレックス・カミレーリ監督は、マルタ系アメリカ人。マルタの漁村で主人公を演じられる人を2か月位探したものの、皆50歳以上で若い人が少なく、ようやく明日はニューヨークに帰るという日にジェスマーク・シクルーナとデイヴィッド・シクルーナの二人に出会いました。映画の中では友人ですが、実際は従兄弟。「メカジキを釣った場面をやってもらったら、演技を学んだ人以上に、漁師の姿をまさに見せてくれました。撮影に入ったら、漁師から演技者へと成長してくれました」と監督。サンダンス映画祭ワールドシネマ・ドラマティック部門でジェスマークは俳優賞を受賞しています。今はまたマルタの海で漁師をしているのでしょうか・・・ (咲)


SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021 
『ルッツ』のタイトルで上映され、最優秀作品賞受賞。
監督インタビューを含めた報告記事です。(咲)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/483711282.html

子供の頃は北海道の漁師の娘だったので、この映画に出てくるルッツ(漁に使う船)がカラフルでコロンと可愛い形なのにびっくり。父が一人で乗っていた船は「磯船」と言って細長く、ちょうど笹船のような形。浅くて海面がすぐそこでした。片足で櫂を操り箱眼鏡で覗きながら、ウニやアワビを獲っていました。ずっと沖へ出て網で獲るときはもっと大きな船でした。お国柄と漁の形態にもよるのでしょうね。
父も廃業してサラリーマンになりましたが、あの時の船は誰かに買われたのか今となっては聞く相手がいません。
作中の廃車場ならぬ廃船が捨てられる場所にはまだ使えそうな船もあります。細々と漁師を続ける人も自分の船だけで手一杯なのでしょう。あのまま朽ちていくのかと思うと寂しいです。海は豊かですが、獲るばかりで育てていかないと漁業は衰退していきます。洋の東西を問わず、同じことになるのだなぁと、父や故郷を思い出しつつ観ました。(白)


黄、青、赤、緑のカラフルな木造漁船「ルッツ」。地中海にあるマルタ島の漁師ジェスマークの舟は曾祖父の代から受け継ぎ、修理しながら使ってきた。誇りを持って漁師を続けてきたが、最近は魚が捕れない。捕りすぎなのか温暖化の影響なのか。魚市場では仲買人が絶対的な力をもち競りを仕切る。競りにかける順番や価格を決める。仲買人に逆らえば競りに参加できず、漁師は自ら捕った鮮魚を港周辺のレストランに売りに行くしかない。ここでの漁師は末端の存在。そんな中、舟が水漏れをして修理が必要だったり、生まれたばかりの息子に発達障害がみつかったり、なにかとお金のかかる状態に陥ったジェスマークは、漁師をやめて安定したお金を得られる仕事につくかどうか人生の選択を迫られる。
誇りをもって励んできた漁師の仕事だが、それを続けることができるか。変わりゆく環境の中で変化を余儀なくされる。
漁師仲間が修理してくれたルッツを廃船にしなければならなかったつらい思い、経済や効率優先の世の中で古き良きものが排除されてゆく姿を描いた。漁師のジェスマークやデイヴィッドなどは、俳優ではなく本当の漁師とのこと。やっている作業が巧みと思ったら本物だったんだ。納得(暁)。




2021年/マルタ/カラー/ビスタ/5.1ch/95分
日本語字幕:杉本あり
配給:アーク・フィルムズ、活弁シネマ倶楽部
後援:駐日マルタ大使館 
公式サイト:http://luzzu-movie.arc-films.co.jp/
★2022年6月24日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開

posted by sakiko at 13:24| Comment(0) | マルタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

母へ捧げる僕たちのアリア   原題:La Traviata Mes frères et moi

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© 2021 – Single Man Productions – Ad Vitam – JM Films

監督・脚本:ヨアン・マンカ
出演:マエル・ルーアン=ブランドゥ、ジュディット・シュムラ、ダリ・ベンサーラ、ソフィアン・カーメ、モンセフ・ファルファー

南仏の海辺の町。14 歳の少年ヌールは、砂浜でサッカーに興じる兄3人を眺めながら、明日からの夏休みを、どう過ごすか思い巡らしている。古ぼけた団地に帰り、昏睡状態の母に大音量で母が大好きなオペラを聴かせる。兄たちは「消せ」「音量をさげろ」とつれない。
翌日から、教育矯正の一環で自分の中学校の修繕の仕事に就く。教室からオペラが聴こえてきて覗き込むと、講師のサラから歌ってみてと言われる。歌える曲は、「人知れぬ涙」しかない。亡くなった父がパヴァロッティと同じ町の出身で、父はこの歌でお母さんを落としたと説明するヌール。サラはヌールの才能を感じて、「椿姫」の楽譜を渡し、教室に通うよう勧める。
ヌールは声楽クラスに通いたいと思うのに、修繕作業もあるし、家では3男エディが母の薬代を持ち出し一騒動に。さらに、伯父が母を入院させてしまう。兄弟4人で病院に潜り込み、何とか母を家に連れ帰る。そんなある日、サラがレッスンに来なくなったヌールを心配して訪ねてくる。「才能があるから続けてほしい」というサラ。そこへ、警察がエディがドラッグを隠していると疑って家宅捜査にやってくる。ピアノに隠したのではと壊そうとするのを制止したサラが連行されてしまう・・・

ヌールが、声楽の先生と出会って、目覚めていく姿がとても爽やかでした。14歳という年齢で自分のしたいことに出会えたのは幸せだなと思いました。実は、ヨアン・マンカ監督自身が、サラを演じたジュディット・シュムラの歌う「椿姫」に魅了され音楽芸術の虜になったことが本作の原点。二人は公私ともにパートナー。
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(C)2021 Single Man Productions Ad Vitam JM Films
舞台が南仏で、主人公の名前がヌール(アラビア語で「光」)なので、移民の人たちを描いた私好みの作品かなと観始めたのですが、ことさら移民社会を強調したものではありませんでした。父親はイタリア人、母親はマグレブ(北アフリカ)出身らしく、兄の一人が「どうせ顔をみれば、出自はわかる」という場面もあるのですが、少年の目覚め、親の介護などを描いた普遍的な物語。
母親が昏睡状態でも自宅で最期まで一緒に過ごしたいと、兄弟たちが一致団結して病院から連れ出す姿に拍手を送りたくなりました。
ヌールがいつもオペラを大きな音で母親に聴かせている場面には、小学校の同級生M子さんがクモ膜下出血で意識不明になり、息子さんが人工呼吸器につながれた彼女に、好きだったオペラを聴かせていたのを思い出して涙でした。
ヨアン・マンカ監督がプロデューサーに企画の相談をした際、「オペラは低所得者層のものではないよ」と言われたとのこと。本作は、オペラが決してエリート層だけのものでなく、好きな人のものだと証明しています♪ (咲) 


舞台は、南仏のリゾート地? 夏にはいろいろな所からやってくる人たちが滞在するような街。主人公の家族はイタリアからの移民? 海沿いの町の古ぼけた集合住宅で暮らす4人兄弟と昏睡状態の母親。14歳のヌールと3人の兄たち。兄たちはすでに社会人? でも、3人ともなんだか危なげな仕事をしている。昏睡状態の母を3人の兄たちと自宅介護しているが、介護費用も滞ったりしている。ヌールも夏休みはバイトをしないといけない状態。諍いは絶えないし不器用だけど、兄弟それぞれ思い合っていることは伝わってくる。母のために聴かせていたオペラだったけど、不安定な生活の中で歌う喜びを見つけたヌール。パヴァロッティやマリア・カラスの力強い歌声。オペラは自分にとって遠い存在でほとんど聴かないけど、そんな私でも知っている曲がかかり、オペラがちょっと身近になったかも(暁)。

2021年/フランス/フランス語/108分/カラー/ビスタサイズ/5.1chデジタル
字幕翻訳:手束紀子
配給:ハーク 配給協力:FLIKK  後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
公式サイト:https://hark3.com/aria/
★2022年6月24日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
posted by sakiko at 12:42| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ザ・ロストシティ   原題:The Lost City

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© 2022 PARAMOUNT PICTURES

監督:アーロン・ニー、アダム・ニー
プロデューサー:ライザ・チェイシン、サンドラ・ブロック、セス・ゴードン
出演:サンドラ・ブロック、チャニング・テイタム、ダニエル・ラドクリフ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ブラッド・ピット

恋愛歴史小説のベストセラー作家ロレッタ(サンドラ・ブロック)。新作のロマンティックなアドベンチャー小説を完成させるが、家に引きこもっている。出版者で親友でもあるベス(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)に、ロレッタは宣伝ツアーに駆り出される。借り物のきらびやかな赤紫色のジャンプスーツは、ピチピチで落ち着かない。おまけに、新作小説のカバーモデルのアラン(チャニング・テイタム)は、長髪のウィッグ姿でどうにもウザい。そんな折、ロレッタは謎の実業家フェアファックス(ダニエル・ラドクリフ)に突然、南の島に連れ去られる。彼は冒険小説を読んで、伝説の古代都市【ロストシティ】の場所をロレッタが知っていると確信したのだ。そんなロレッタ誘拐事件を知って、真っ先に助けに駆け付けたのは、ウザいセクシーモデルのアランだった。ロレッタはアランと共に島から抜けだそうとジャングルを彷徨ううちに、滝の裏にある秘密の洞窟で財宝を見つける手がかりとなる古代の象形文字を発見する。二人は、【ロストシティ】に隠された謎を解き明かし、無事に脱出することができるのか・・・

世界的なパンデミックによって閉じこめられた後、大きなスクリーンで冒険を楽しめることが必要だと考えたサンドラ・ブロックたち製作陣による、壮大なアクション・アドベンチャー・コメディ。豪華メンバーが、ハチャメチャな演技で楽しませてくれます。
ブラッド・ピットは、元海軍特殊部隊員で、ヨガと人質奪還に精通するジャック・トレーナーという役どころで、アランがお助けマンとして呼ぶのですが、アランと同じような長髪! 仏教徒で、自然派で、グラノーラ (文化的なヒッピー)というキャラクターだとサンドラ・ブロック。ブラッド・ピット自身、チベット的な雰囲気を持たせ、探検家で、世界中を旅しているような風貌にしたいと撮影に臨んだそうです。
架空の島のロケ地に選ばれたのは、カリブ海に浮かぶドミニカ共和国。サルト・デ・ソコアの川やジャン グル、サン・ロレンソ湾、ラス・テ レナス、アロヨ・バリル空港などのほか、ココナッツ林の空き地であるウエストグローブに、美術・セット装飾部門が謎の実業家フェア ファックスの豪華な屋敷と広大な発掘現場を作り出しています。
まさに映画館の大きなスクリーンで醍醐味を味わいたい映画です。(咲)


2022年/アメリカ/シネスコ/1時間52分
字幕翻訳:栗原とみ子
吹替翻訳:高橋有紀
配給:東和ピクチャーズ
© 2022 PARAMOUNT PICTURES
公式サイト:https://thelostcity.jp/
★2022年6月24日(金) 全国ロードショー




posted by sakiko at 02:58| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月18日

パリ・オペラ座バレエ・シネマ「ジェローム・ロビンズ・トリビュート」

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振付:ジェローム・ロビンズ
音楽:ワレリー・オブシャニコフ 
演奏:パリ・オペラ座管弦楽団
芸術監督:オーレリ・デュポン
撮影年月日:2018年11月8日、パリ・オペラ座ガルニエ宮

「ファンシー・ブリー」
音楽:レナード・バーンスタイン
キャスト:エレオノーラ・アバニャート、アリス・ルナヴァン、ステファン・ビュリオン、カール・パケット、フランソワ・アリュ、オーレリア・ベレ、アレクサンドル・カルニアト

「ダンス組曲」
音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ 
キャスト:マチアス・エイマン

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「牧神の午後」
音楽:クロード・ドビュッシー
キャスト:ニンフ/アマンディーヌ・アルビッソン、牧神/ユーゴ・マルシャン

「グラス・ピーシズ」
音楽:フィリップ・グラス
キャスト:セウン・パク、フロリアン・マニュネ

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ジェローム・ロビンズ(1918ー1998)の名前を知らずに試写を観始めました。
最初の作品「ファンシー・フリー」は、振付家としてのデビュー作。水兵が女性との出逢いを楽しむコミカルなバレエで、歌のないミュージカルを観ているような気になりました。これは後に「オン・ザ・タウン」(On the Town/1944年)としてミュージカル化、1949年にはジーン・ケリーの監督・主演で『踊る大紐育』として映画化されています。
20代半ばで振付家として脚光を浴びて以来、多くの作品を送り出したジェローム・ロビンズ。その中からパリ・オペラ座での4つの演目が選ばれています。それぞれ異なった趣と、ダンサーたちの感情表現、鍛えぬいた身体での羽のように軽やかな動きをお楽しみください。アップの画面では流れる汗も、肩で息をする様子もわかります。それでもいつも笑顔の彼らに感嘆。
ロビンズはアメリカ、マンハッタン生まれ。アメリカン・バレエ・シアターでソリストとして、のちにニューヨーク・シティ・バレエ団で活躍しました。アカデミー賞受賞映画『ウエスト・サイド物語』(1961)では、ロバート・ワイズと共同監督。今回ご紹介したほかにも「王様と私」「屋根の上のバイオリン弾き」などの振付を手がけています。(白)


2018年/フランス/カラー/シネスコ/114分
配給:カルチャヴィル
Photos (C) Sebastien Mathe / OnP
https://www.culture-ville.jp/jerome
★2022年6月24日(金)東劇/新宿ピカデリー/ミッドランドスクエア シネマなんばパークスシネマ/kino cinema神戸国際/札幌シネマフロンティア/熊本ピカデリーロードショー

posted by shiraishi at 14:23| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

神は見返りを求める

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監督・脚本:吉田 恵輔(吉は土に口が正式表記)
撮影:志田貴之
音楽:佐藤望
主題歌:空白ごっこ「サンクチュアリ」
挿入歌:空白ごっこ「かみさま」
出演:ムロツヨシ(田母神尚樹)、岸井ゆきの(川合優里)、若葉竜也(梅川葉)、吉村界人(チョレイ)、淡梨、柳俊太郎、

合コンで知り合った田母神尚樹(たもがみなおき)と川合優里。イベント会社に勤める田母神は人が良く誰にも優しい。いいように利用されても怒ることもない。優里は「ゆりちゃん」という底辺YouTuberだが、登録者数も再生数も伸びず全く評価されないことに悩んでいた。田母神はそんな彼女に献身的に協力して見返りも求めない。私の「神」と優里は大喜びし、2人はコンテンツ作りに熱中した。そのまま続くかに見えた2人だったが、あることをきっかけに関係が崩れてしまう。

吉田監督の脚本は原作ものもオリジナルも手掛けていて、見過ごしそうな小さなことに光を当てていたり、ひとことの台詞が忘れられなかったりします。キャストの視線も印象的です。
ムロツヨシさんは『ヒメアノ~ル』(2016)以来の吉田監督とのタッグです。初主演作として『マイ・ダディ』が公開されましたが、撮影に入ったのはこちらが先。いい人感たっぷりのムロさんが後半見せる黒イメージをお楽しみに。
ゆりちゃんが自分から離れていき、冷たくされて追い詰められる田母神の悲哀、好意を踏みにじられた落胆の深さ。「恩をあだで返すひどい女」ゆりちゃん役・岸井ゆきのさんは、前半と後半の差がすごい。田母神へ向ける笑顔がなくなり、田母神ならずとも「それはないでしょ」という豹変っぷりです。悪口垂れ流し男の若葉竜也さんの梅川にも腹が立ちます。無自覚に周りの人間関係を悪化させるこういう人が一番たちが悪い。どっちの味方もする若葉さんがうまい。
人の感情を容赦なく描き出すこの作品、SNSの使い方も考えさせられます。2021年進研ゼミが調査した”小学生がなりたい職業”1位がYouTuberだったそうです。スマホに親しんでいる子どもたちはよく見ていて、再生数が上がると広告料で高収入も望めると知っています。再生数や高評価を追求するあまり、一部の過激な行動がニュースになったこともありました。そんな世界の裏側がちょっと覗けます。アンドリュー・ガーフィールド主演の『メインストリーム』(2021)も人気YouTuberを目指して人気が上がるにつれ、人間が壊れていく映画でした。SNSに凝るのもほどほどに。生身の人を大事にしましょう。(白)
 

2022年/日本/カラー/ビスタ/105分
配給:パルコ
(C)2022 「神は見返りを求める」製作委員会
https://kami-mikaeri.com/
★2022年6月24日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイント他全国ロードショー

posted by shiraishi at 13:15| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月17日

鬼が笑う

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監督:三野龍一
脚本:三野和比古
撮影:金山翔太郎
出演:半田周平(石川一馬)、梅田誠弘(劉煒 リュウ・ウェイ)、赤間麻里子(石川由紀子)、坂田聡(石川修三)、大谷麻衣(大友まどか)、中藤契(石川一馬 青年期)、大里菜桜(石川まどか 少女期)

一馬は両親と妹の4人家族。父親は酒を飲むとひどい暴力をふるった。ある日、母親と妹を守るために父を殺めてしまった一馬。刑期を終えて出所すると母は酒浸りで家は荒れ放題。妹は家庭を持っていたが一馬を拒絶する。社会復帰を目指してスクラップ工場で働くが、そこでは外国人労働者のイジメが横行していた。見ないフリをする同僚ばかりの中、中国人のリュウが止めに入る。リュウは率直で過去も問わず、初めて友人ができた思いの一馬だった。

一馬は父親を死なせてしまったので、母や妹への献身はマイナスになってしまいました。法律上は罪を償いましたが、烙印は押されたままです。残った母や妹は、言葉にできない苦労をしたとしても、せめて母親がしっかりしてよ、という思いがぬぐえません。再起のための就職先はブラック企業で、弱い立場の人へのパワハラが噴飯ものです。すさんでしまいそうな一馬が留まれたのは、リュウとの出逢いが大きく、彼の前でだけは笑顔になれます。
一馬役の半田周平さんは、このきつい役柄を心身を削って演じたのではないでしょうか?リュウ役の梅田誠弘さんは、知らなければほんとに中国から来た人?と思うほど。『かぞくへ』(2016)のときから注目、『由宇子の天秤』(2021)での好演も記憶に新しいです。今回も拍手。

罪を犯したものへの非難や差別は紀元前から。聖書の中に姦淫の罪を犯した女(律法の刑罰では石で打たれる。男はどうなの?)に、イエスが「罪なきものが石を投げなさい」というくだりがあります。誰もが自分の罪を思い浮かべ、一人も石を投げるものはいなかった、のです。が、現代は、自分が特定されない(見えたら違うはず)のをいいことに「われこそは正しい」とばかりに責め、石礫がわりにSNSで攻撃するんですね。
スタッフに同じ名前が並んでいるのは、兄弟の制作ユニット「MINO Bros.」だからでした。兄・三野龍一監督、弟・三野和比古脚本の長編第2作。前作『老人ファーム』(2019)は未見ですが、いつか見られる機会がありますように。
不幸の連鎖に気が重くなる作品ですが、目を開いて世の中の理不尽を知りましょう。鬼はどこにでも誰の中にも巣食っています。(白)


2021年/日本/124分/PG12
配給:ラビットハウス、ALPHA Entertainment、MINO Bros.
(C)2021 ALPHA Entertainment LLP 「鬼が笑う」
https://onigawarau.minobros.net/
★2022年6月17日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 13:52| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月12日

マタインディオス、聖なる村  原題:Mataindios

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(C)LA TROPILLA DE OBRAJEROS EIRL

監督:オスカル・サンチェス・サルダニャ、ロベルト・フルカ・モッタ
出演:カルロス・ソラノ、ナタリー・アウレス、グリセリオ・レイノソ

ペルー、アンデスの山岳地帯にある集落。家族を失った悲しみから解き放たれようと、村の守護聖人サンティアゴを称える祭礼を行うことになる。教会の鍵を開け、祭礼の準備を始める村人たち。その祭礼は、守護聖人を満足させるために、完璧なものでなければならない。祭礼の準備は順調に進むのだが、予期せぬ出来事によって、自身の信仰と、守護聖人による庇護の力に疑問をいだいていく・・・

監督と脚本は、本作が初長編作品となるオスカル・サンチェス・サルダニャ監督とロベルト・フルカ・モッタ監督。2016年、ペルー文化庁が管轄するDAFO(Direcciíon Audiovisuali,la Fonografía y los Nuevos Medios)シネ・レヒオナル映画コンクールに入賞。第22回リマ映画祭に出品され、2018年のベストペルー映画に選ばれた。ペルーの映画界を牽引する映画運動の「シネ・レヒオナル(地域映画)★」が日本初公開。

★ペルーのシネ・レヒオナル(地域映画)
ペルーの首都リマ以外の地域で、その地域を拠点とする映画作家やプロダクションによって制作される映画を指す。娯楽的なジャンル映画から作家性の強いアート映画までタイプは様々だが、いずれの作品もその地域独自の文化や習慣を織り込んでおり、都市圏一極集中ではない多元的なペルー映画を構成している。

教会の鍵穴を覗く人々の顔、そして、鍵穴から見える村の風情。まるで彫刻のような人々の顔、顔、顔・・・ 独特の映像に、とにかく圧倒されました。
劇映画のはずなのに、アンデスの村のドキュメンタリーのように見えます。撮影が行われたのは、オスカル・サンチェス監督の故郷であるワンガスカル。司祭を俳優が演じている以外、出演者はワンガスカルに暮らす村人たち。演じているというより、それぞれの人物が、その人そのもののよう。

マタインディオスとは、村の守護聖人サンティアゴ(イエス・キリストの十二使徒の一人)の別名。サンティアゴは、スペインがイスラーム勢力に支配されていた時代、レコンキスタ(再征服運動)のためキリスト教徒の守護聖人として顕現したという伝説があります。1492年のレコンキスタ完了後、スペインによる新大陸征服が始まり、イスラーム教徒に代わって異教徒である先住民がサンティアゴに踏みつけられ殺されるという図像が描かれるようになったそうです。サンティアゴ・マタインディオスは、キリスト教徒(先住民も含む)の守護聖人であり、先住民を収奪する白人征服者の守護聖人であるという二つの面があります。
このことを念頭に置いて映画を観ると、500年も前に征服者から押し付けられた宗教(カトリック)が根付いている一方で、先住民たちが征服以前から培ってきた伝統が今なお根底にあることが、こうした葛藤をもたらすのだと感じました。
とにもかくにも、凄いものを観た!という興奮が冷めやりません。(咲)


(咲)さんが「劇映画のはずなのに、アンデスの村のドキュメンタリーのように見えます」と書いているのを読んで初めてこの作品が劇映画だと知りました。それほどリアリティに基づいた物語なのでしょう。
ペルー山岳部の慣習とカトリック信仰が入り混じった価値観が描き出されます。その土着感が隠れキリシタン信仰を思い出させました。隠れキリシタンは本来のカトリック信仰とは別物になってしまったと言われています。このアンデスの村はどうなんでしょうか。
そもそも信仰は昔のままということはないわけで、キリスト教からカトリックとギリシア正教という2つの宗派が生まれ、さらに16世紀には宗教改革が起こり、キリスト教はカトリック、プロテスタント、ギリシア正教の3つに分断されました。イギリスではヘンリー8世の離婚問題から何と国王主導でイングランド国教会が成立しています。時代とともに、結果として生活に合わせるように信仰の在り方は変わってきたわけで、そこには人々の心に溜まった澱のようなものがたくさんあったことと思います。そして、この作品からもそんな澱がそこかしこに感じられます。(堀)


ペルー、アンデスの山岳地帯にあるワンガスカルに暮らす村人たちの集落。家族を失った悲しみから解き放たれようと、村の守護聖人サンティアゴを称える祭礼を行う。聖人を称えるための歌を練習し、マントを作り、ミサの練習をする。そして当日、司祭が守護聖人を称える説教をする。歌を歌うのにハープが使われていたのが珍しいと思った。そして聖水は、なんとサボテンから取り出した水。水の乏しいこの山岳地帯ではサボテンから水を得ているのだった。モノクロ風の映像だけど、中に赤など少し色がついている。これはどのように撮るのだろうか。
スペインによるインカ帝国の征服から約500年。約300年のスペインの植民地時代が続き、独立をしたけど、スペインに押し付けられたキリスト教は残った。土着の生活、文化や伝統と折り合いながらキリスト教が根付いているのだと思った(暁)。


2018年/ペルー/ケチュア語・スペイン語/77分
配給:ブエナワイカ
公式サイト:https://www.buenawayka.info/mataindios
★2022年6月18日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開



posted by sakiko at 19:21| Comment(0) | ペルー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

エリザベス 女王陛下の微笑み  原題:Elizabeth: A Portrait in Part(s)

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(C)Elizabeth Productions Limited 2021

監督:ロジャー・ミッシェル(『ノッティングヒルの恋人』)
製作:ケヴィン・ローダー
音楽:ジョージ・フェントン
出演:エリザベス2世、フィリップ王配、チャールズ皇太子、ウィリアム王子、ジョージ王子、ダイアナ元妃、ザ・ビートルズ、ダニエル・クレイグ、マリリン・モンロー、ウィンストン・チャーチル ほか

2022年に在位70周年を迎えたエリザベス女王の初の長編ドキュメンタリー。
新型コロナウイルスの感染拡大で撮影ができないことから、ロジャー・ミッシェル監督は、アーカイブ映像からドキュメンタリーを作ることを提案。様々なテーマの中から選んだのが女王陛下。プロデューサーのケヴィン・ローダーと共に、ありきたりな王室ドキュメンタリーでなく、「機知に富んだイタズラ心と、サプライズがあるものを作りたい」と意見が一致。1930年代から2020年代までの膨大なアーカイブ映像の中から紡ぎだしたエリザベス女王の90年の物語。

ロジャー・ミッシェル監督は、2021年9月、最後のサウンドミックスの日に残念ながら亡くなられ、本作は遺作となってしまいました。
エリザベス女王の生誕からの素の姿から、公式の場でのとっておきの場面までがぎゅっと詰まった90分。6月2日から4日間にかけて行われた在位70周年「プラチナ・ジュビリー」の祝賀行事の生中継をはじめ、関連番組の数々が放映されましたが、その記憶も新しいうちに観ると、また格別な感動があると思います。
1952年、25歳の若さで英国女王という重責に就き、数多くの公務をこなしながらも、自然体で家族と暮らす姿に魅せられます。なによりお若い時のエリザベス女王は、チャーミングで華麗で女優さんのよう! ユーモアにも溢れるお人柄に和ませられます。

ELIZABETHsub01.jpg
(C)Elizabeth Productions Limited 2021

私にとってエリザベス女王といえば、香港の中環(セントラル)の中央郵便局の1階から2階に上がるエスカレーターの正面にかかっていた若い時の写真。よく眺めていた可憐な女王様の写真は、1997年7月1日以降は外されてしまい、ちょっと寂しい思いをしたのを思い出します。
今年4月21日に96歳になられたエリザベス女王。まだまだ気高い姿を見せてくださることを願っています。(咲)


2021年/イギリス/カラー/90分/英語/5.1ch/ビスタ
字幕:佐藤恵子/字幕監修:多賀幹子
後援:ブリティッシュ・カウンシル
配給:STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト:https://elizabethmovie70.com/
★2022年6月17日よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー




posted by sakiko at 19:12| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

百年と希望

6月18日(土)より、渋谷ユーロスペースほかにて全国公開! 
その他の劇場情報

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© ML9

もっとも身近で、もっとも遠い 日本共産党の今とこれから

監督・撮影・編集:西原孝至
プロデューサー:増渕愛子 録音・整音:川上拓也 
録音:黄永昌 音楽:篠田ミル
出演:池内さおり 池川友一 木村勞 吉田剛 黒田朝陽

日本で一番歴史がある政党が歩んできた百年の歴史と
受け継ぐ若い世代を撮影した1年間の記録


2022年7月15日に創立百周年を迎える日本共産党。経済界最優先の新自由主義を押し通してきた保守的な自由民主党が長く政権を担う日本で、共産党は左派政党として庶民の立場から独自の立ち位置を貫いてきた。1922年創立の日本共産党は日本で最も長く存続する政党で、自民党政治を厳しく批判してきた。
2021年、コロナ禍が続く中、カメラは日本共産党の99年目の姿にカメラを向け、夏の東京都議会議員選挙、秋の衆議院総選挙活動を続ける若い党員を追い、60年を超える党歴を持つ古参の党員、共産党の機関紙「しんぶん赤旗」編集部、若い世代の支援者をカメラは追う。
2020東京オリンピック・パラリンピックが反対世論もある中で2021年に開催され、その一方繰り返される事業者への休業要請、市民へ自粛を求める政府の姿勢に、社会の分断は進む。自己責任、自助努力という言葉が飛び交い、国民への負担を強いる政治が続く中、政治の果たす役割、あるべき姿とは何か。それを問いかけている。
2014年、衆議院議員初当選後、刑法改正、ジェンダー平等、LGBTQなどの人権問題に取り組んできた池内さおりは前回選挙では落選してしまい、4年ぶりに行われる秋の総選挙に挑戦。若い女性たちからの応援で二度目の当選を目指す。2021年、夏の東京都議会議員選挙で再選を目指す池川友一は4人の子供のお父さん。子どもの権利保障、理不尽な学校校則の改革に取り組む姿が描かれるが、家でのお父さんぶりも取材している。そして、入党60年を超える地方在住の古参党員のスタンスや、若い世代の支援者を党の外側からも描く。また機関紙「赤旗」の編集部にも取材し、「赤旗」が作られる過程が映し出される。
監督は『Starting Over』(2014)『わたしの自由について〜SEALDs 2015〜』(2016)、『シスターフッド』(2019)などの西原孝至。2010年代から日本の社会運動を撮り続けてきた。経済格差、ジェンダー平等、気候危機など、数多くの課題に対して政治は何をすべきなのか問いかける作品を撮り続けている。本作では日本共産党の姿を通して、新しい社会の可能性とその希望について問いかける。

我が家は大叔母が創価学会で公明党、妹が共産党で、若いころから「聖教新聞」、「赤旗」の両方が家にあった。そして一般紙は読売新聞を取っていた。そしてそれらに目を通す中から、自分なりの社会への思いや政治への思いというのを持つようになった。実家を出てからは毎日新聞や朝日新聞などを取ってきた。また、べ平連などの活動をしてきた私は共産党とはちょっと方向が違うとずっと思ってきたし、赤旗を通して共産党のことをある程度知っていたつもりだったが、私の共産党への思いは、もう古いと思わせたのがこの作品だった。特に池内さおりさんのような人が共産党にいるとは思ってもいなかった。そして池川友一さんもことも。新たな共産党の姿という感じがした。そして何よりも「赤旗」編集部に食い込み、この新聞ができるまでの工程を追った映像は貴重なものだった。どこの編集部も、何を入れ、何を削るか。真実は何か。政党の新聞なら、よけい気を使って作らなくてはならないというのが伝わってきた。新聞にも新しい風が吹いているのだと思った(暁)。

公式HP
予告編
製作・配給・宣伝:ML9 配給・宣伝協力:太秦
2022年/107分/カラー/DCP/日本
posted by akemi at 15:11| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月11日

ポーランドへ行った子どもたち(英題:The Children Gone To Poland)

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監督:チュ・サンミ
プロデューサー:チェ・スウン
音楽:キム・ミョンジョン
出演:チュ・サンミ、イ・ソン
ヨランタ・クリソヴァタ、ヨゼフ・ボロヴィエツ、ブロニスワフ・コモロフスキ(ポーランド元大統領)、イ・へソン(ヴロツワフ大学韓国語科教授)、チョン・フンボ(ソウル大学言論情報学科 教授)

1950年代、半島を二分する朝鮮戦争が3年余り続き、双方に多くの犠牲者が出た。北朝鮮は自国の戦争継続のために、同じ社会主義国へ戦争孤児を託した。ロシア、ハンガリー、ルーマニア、チェコへ数千人。ポーランドには1500人が送られた。
チュ・サンミ監督はポーランドで作られたドキュメンタリーを観て、当時を思い出して泣く元教師たちを不思議に思う。子どもたちとどんな繋がりがあったのか? 映画制作のために監督は脱北してきた少年少女たちのオーディションを行なった。明るく振舞っている子も家族の話になると涙が止まらない。その中に大学生のイ・ソンがいた。監督は彼女と一緒にポーランドへリサーチに行く。

ポーランドで孤児を世話した養育院の元教師や保母たちの記憶は鮮明で、辞書もない中、覚えた朝鮮語を忘れずにいました。孤児たちもポーランド語を学び、職員たちをパパ、ママと呼んで慕ったそうです。自分たちも戦火で焼かれ復興途中であったのに、北朝鮮の孤児を預かり慈しんだポーランドの人たち。今ウクライナからの避難民を次々と受け入れています。広い心の奥深くに同じ傷があることに想いがいたります。
北朝鮮は国の復興を労働力に頼り、東欧に散らばっていた孤児を徐々に帰国させました。1959年に最後の一団が北朝鮮に帰るとき、「ここにいたい」と泣いた子どもたちは今どうしているのでしょう。
監督と旅して心を開いたイ・ソンも、辛い体験をしていました。これからはいい思い出で満たされていきますように。準備中の映画が完成して観ることができる日を待っています。(白)


北朝鮮が、朝鮮戦争時の戦争孤児に思想教育を受けさせるために、当時のソ連や東欧の社会主義国に送り、数年後には呼び戻したという史実に驚きました。子どもたちに宿っていた寄生虫を調べると、出身地が今の韓国というケースもあって、北が釜山近くまで迫ったことを思い起こします。寄生虫で出身地がわかるということにもびっくり。
チュ・サンミ監督が劇映画のためのオーディションで見出した脱北者のイ・ソンさんが、とても素敵です。かつて世話をした子どもたちを思い出して涙する教師たちを見て、もらい泣きするイ・ソンさん。今も北朝鮮にいる家族のことを思い出しての涙でしょうか・・・ 
チュ・サンミ監督の劇映画には、イ・ソンさんは少し年を取ってしまったので起用できなくなったそうですが、今後、女優の道が開けるといいなと思いました。(咲)


朝鮮戦争時の家族の離散は随分と描かれてきましたし、朝鮮戦争後の孤児たちが韓国から海外に引き取られていったという話も、いくつか映画化され観てきました。でも北朝鮮に残った孤児たちが、共産圏の東欧諸国に託されたということは全然知りませんでした。しかも個人ではなく団体で、各国に託されていたということを知り、大変驚きました。このドキュメンタリーではポーランドに託された子供たちのこと。その子供たちを世話したポーランドの神父さんや、寮で世話をしていた人など、子供たちと密接にかかわってきた人たちに取材していました。ほんとに歴史というのは、埋もれていくものです。これを観て、日本の孤児たちはどのように、日本の復興の中で育っていったのだろうと思いを馳せました。戦後の映画やドキュメンタリーを観ると日本の孤児たちはけっこう出てきますが、あの頃の浮浪児や、街頭で暮らしていた孤児たちは、ほとんど孤児院や養護施設に入ったのでしょうか。その後の生活と日本の中でどのように成長していったのかという映画やドキュメンタリーというのは、ほとんど観たことがないように思います。戦後10年くらいまでのものしか。その後の社会での受け入れなどを描いた映画は、あまりないように思います。映画の中のエピソードや断片では描かれていることもあるけど。日本の孤児たちがどうなったのかもぜひ観てみたい(暁)。

2018年/韓国/カラー/DCP/78分
配給:太秦
協力:大阪アジアン映画祭、座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル
©2016. The Children Gone To Poland.
公式サイト:http://www.cgp2016.com/
★2022年6月18日(金)ポレポレ東中野ほか全国順次公開
☆チュ・サンミ監督インタビューこちらです。


posted by shiraishi at 23:38| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

君たちはまだ長いトンネルの中

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監督・脚本:なるせゆうせい
原作・原案:消費税増税反対botちゃん「こんなに危ない!? 消費増税」(ビジネス社刊)
経済監修:藤井聡
撮影:佐藤雅樹
主題歌:「君たちはまだ長いトンネルの中」あまりかなり
出演:加藤小夏(髙橋アサミ)、北川尚哉、定本楓馬、青木陣、高橋健介、川本成、萩野崇(二階堂議員)、モト冬樹(長内銀次郎)、かとうかず子(美津子)

高橋アサミは、高校3年生。元財務省職員の父・高橋陽一郎(川本成)の薫陶を受け、政治に対し人一倍強いイデオロギーと知識を持っている。政治経済の授業でも、逆質問をして先生もたじたじ。学校の外部相談役の二階堂議員から注意を受けるが、自分の考えを変えるつもりはなかった。ただの女子高生のアサミひとりがヤキモキしても、この国を救えるわけもない。せめて、父が他界してからお世話になっている親戚の長内夫婦(モト冬樹・かとうかず子)の店や商店街の応援をしたい。

この映画でまた一つ勉強になりました。このアサミさん、とても分かりやすく解説してくれるのです。数字や経済には弱いのですが、これまでぼんやりしていたことがはっきりします。ああもっと早く見たかった。というとアサミさんに叱られそう。今や何でも情報はあります。知ろうとしないと、あっても見えません。
アサミさんは小さいころからお父さんに、ものの値段や社会のしくみを子どもにわかる言葉で教わっているのです。その尊敬するお父さんは財務省を辞めた後、事故死してしまいます。
「国は借金をかかえていて、一人あたり…」という台詞にアサミさんが「またそれ」と歯噛みします。ギリシャの破綻と日本は違うという説明もありますよ。劇中でも言及する「消費税を上げるときに、なんと説明されたのか、覚えていますか?」それで国家予算が増えて福祉や暮らしをよくすることに回されるはずでした。誰もが必ず支払うことになる消費税5%が8%に、8%が10%になっても、同じ割合で収入は増えません。買い控えをしようと思ったものです。あっというまに膨張してしまったオリンピック経費は、誰がどう責任を取るのかとか、コロナ予備費で11兆円もの使途不明金が出るとか聞くと、なに~!?
消費税をはじめ、自分が払った税金がどう使われているのか、もっと厳しく見ていないとあきません!!若い人もこの映画を観て候補者の公約をよくチェックしましょう。18歳から投票ですからね。(白)


2022年/日本/カラー/87分
配給:トリプルアップ
http://www.kimiton.com/
★2022年6月17日(金)池袋HUMAXシネマズ他にて全国順次公開!

posted by shiraishi at 23:22| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

PLAN 75

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脚本・監督:早川千絵
出演:倍賞千恵子 磯村勇斗 たかお鷹 河合優実 ステファニー・アリアン 大方斐紗子 串田和美

夫と死別してひとりで慎ましく暮らす、角谷ミチ(倍賞千恵子)は78歳。ある日、高齢を理由にホテルの客室清掃の仕事を突然解雇される。住む場所をも失いそうになった彼女は<プラン75>の申請を検討し始める。一方、市役所の<プラン75>の申請窓口で働くヒロム、死を選んだお年寄りに“その日”が来る直前までサポートするコールセンタースタッフの瑶子(河合優実)は、このシステムの存在に強い疑問を抱いていく。また、フィリピンから単身来日した介護職のマリア(ステファニー・アリアン)は幼い娘の手術費用を稼ぐため、より高給の<プラン75>関連施設に転職。利用者の遺品処理など、複雑な思いを抱えて作業に勤しむ日々を送る。
果たして、<プラン75>に翻弄される人々が最後に見出した答えとは―――。

2018年に『十年 Ten Years Japan』の一編として発表した短編を監督自ら再構築、キャストを一新し、長編映画化しました。短編は問題提起に留まっていましたが、本作ではその先に感じられる希望も描かれています。第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、初長編作品に与えられるカメラドールのスペシャルメンション(次点)に選ばれました。
75歳以上が自ら生死を選択できる制度といえば聞こえはいいけれど、体のいい姥捨て山。そんなことをしていいのかと思う反面、将来、自分が1人で暮らしていけなくなったとき、選択肢としてあったらいいのにと思う気持ちもある。いや、まだその状況に陥っていないからそう思えるのか。でも私のように考える人はほかにもきっといるはず。頭の中をいろいろな思いが渦を巻く。絶対にこのような未来はないと断言できないほどのリアリティのある作品で、捉え方によってはホラーよりも怖いかもしれません。(堀)


冒頭で、この<プラン75>法案ができたきっかけは、高齢者施設の襲撃事件が続いたからという説明が入ります。反対意見も多かったけれども、「ようやく」成立したとニュースで言うんです。「ようやく」…っていうほど待たれていたのかと、映画の台詞ではありますが愕然。現実世界でも「生産性」ということばがひところ話題になりました。障害者や高齢者への予算を出し渋る政治家さん、邪魔だという人、あなたも予備軍なんです。
ミチが手を尽くしても仕事を得られず、決意した後サポート役の瑶子と話すのを心待ちにし、「先生」と呼ぶ声が明るくなるのに胸が痛みました。人生の幕引きは本人の希望を尊重してほしい。そして生きている間、切り捨てないでほしいと願うのは贅沢なんでしょうか。(白)


つい先日、私より若い長年の友人Yさんが亡くなられたとの葉書が届きました。差出人は、「死後事務受任者」の司法書士の方。Yさんは一人っ子で、まだ62歳でしたが、ご両親をすでに見送られていました。自分が亡くなった後のことをきちんと司法書士の方に託されていて、彼女らしいと感じ入りました。そんなときに観た本作・・・ 身寄りのないお年寄りが、PLAN75を選ばざるをえないような社会は、あまりにも悲しい。高齢化社会で、財政的に支えられなくなったとしても、命ある限り、心地よく暮らせる世の中であってほしいと願います。そう思いながら、さて、私のこの先はどうなるのだろう・・・と不安が募ります。(咲)

2022年/112分/G/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ
© 2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee 
公式サイト:https://happinet-phantom.com/plan75/
★6月17日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開

posted by ほりきみき at 17:51| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

峠 最後のサムライ

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監督・脚本:小泉堯史
原作:司馬遼太郎「峠」
撮影:上田正治、北澤弘之
美術:酒井賢
衣裳デザイン:黒澤和子
主題歌:「何処(いずこ)へ」石川さゆり
出演:役所広司(河井継之助)、松たか子(おすが)、香川京子(お貞)、田中泯(河井代右衛門)、永山絢斗(松蔵)、芳根京子(むつ)、坂東龍汰(小山正太郎)、榎木孝明(川島億次郎)、花輪求馬(花輪求馬)、AKIRA(山本帯刀)、東出昌大(徳川慶喜)、佐々木蔵之介(小山良運)、井川比佐志(月泉和尚 )、山本 學(老人)、吉岡秀隆(岩村精一郎)、仲代達矢(牧野雪堂 )

慶応3年(1867年)、大政奉還。260年余りに及んだ徳川幕府は終焉を迎え、諸藩は東軍と西軍に二分していく。
慶応4年、鳥羽・伏見の戦いを皮切りに戊辰戦争が勃発した。越後の小藩、長岡藩の家老・河井継之助は、東軍・西軍いずれにも属さない、武装中立を目指す。戦うことが当たり前となっていた武士の時代、民の暮らしを守るために、戦争を避けようとしたのだ。だが、和平を願って臨んだ談判は決裂。継之助は徳川譜代の大名として義を貫き、西軍と砲火を交えるという決断を下す。
妻を愛し、国を想い、戦の無い世を願った継之助の、最後の戦いが始まった……

人の上に立つ、率いる立場の辛さがわかる作品。河井継之助はグローバルな考えを持つ人で中立を保ち、仲介役をかって出たが成しえませんでした。旧恩を忘れず筋を通した結果、敵軍50,000人に、たった690人で立ち向かうことになった長岡藩。一時は落城、取返し、また敵の手に落ちることになりました。藩の規模のわりに戦死者が多いのは、熾烈な闘いを物語っています。
戦が始まる前の穏やかな日常や、夫婦仲睦まじい様子が丁寧に描かれます。最後の武士としての矜持を保った男たちは本望かもしれませんがが、夫や息子を送り出す女たちはさぞ無念であったでしょう。表には出さず声をしのんで泣いただろうと想像がつきます。
小泉堯史監督の時代劇作品は監督・脚本の『雨あがる』(2000)『蜩ノ記』(2014)、脚本の『散り椿』(2018)と観てきました。役所さんは『蜩ノ記』以来2度めの小泉組主演です。どちらも死なせるには惜しい人物で、侍の世界とは理不尽です。この『峠 最後のサムライ』を集大成とされるのでしょうか?コロナ禍で上映が延びましたが、新しく戦火の上がっているこの時期に公開されるのも意味のあることですね。(白)


2022年/日本/カラー/シネスコ/114分
配給:松竹、アスミックエース
(C)2020「峠 最後のサムライ」製作委員会
http://touge-movie.com/
★2022年6月17日(金)ロードショー
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メタモルフォーゼの縁側

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監督:狩山俊輔
原作:鶴谷香央理
脚本:岡田惠和
撮影:谷康生
出演:芦田愛菜(佐山うらら)、宮本信子(市野井雪)、髙橋恭平<なにわ男子>(河村紡)、古川琴音(コメダ優)、汐谷友希(橋本英莉)、伊東妙子(佐山美香)、生田智子(花江)、光石研(沼田)

佐山うらら17歳。クラスメートとキラキラの青春…でなくBL漫画をこっそり読むのが唯一の楽しみといういたって目立たない女子高生。
市野井雪75歳。夫に先立たれて一人暮らし、これといった趣味もない。ある日うららのアルバイト先の本屋に雪が現れ、1冊の本をレジに出す。思わず見つめるうらら。雪は綺麗な表紙にひかれてBL漫画と知らずに買ったのだったが、初めて見た男子の恋物語に魅了されてしまう。雪は続きが読みたいと、再び本屋に向かった。嬉しくなったうららは、雪とBL漫画の世界について語り合う。雪の贔屓の漫画家はコメダ優、うららの知識を吸収し、2人は共通の好きなものですっかり親しくなる。年の差58歳の新しい友情が生まれた。

年の差も、それまでの人生や暮らしも関係なく”好きなものを好き”と語り合える喜びは、どんなジャンルでも存在します。地味な高校生活を送っていたけれど”同好の士”に出逢って、周りとは別の”キラキラ”に包まれてくるうららを愛菜さんが。なんの楽しみがなかった老後に”別世界”を見出した雪を宮本信子さんが演じて、共感を呼びます。好きなもので繋がった友達って年齢も経歴も関係ないんですよね。それまでと、そのほかが違うほど、別のフィールドが拡がってとても面白いです。それも「メタモルフォーゼ(変身)」の始まりかも。
同名の原作は「このマンガがすごい!2019オンナ編」「文化庁メディア芸術祭 マンガ部門 新人賞」など数々の漫画賞を受賞しました。原作と映画は別物とは思いますが、原作があれば読んでみることにしています。公式サイトから1,2話をお試し読みもできますので、ちょっと覗いてみると雰囲気がわかります。(白)


BLコミックを通じて世代を超えた友情を結ぶ話ですが、うららと雪、2人の華やぎぶりを見ていると、好きなものについて語るのに年齢なんて関係ないということが伝わってきます。お気に入りの連載モノの新しい号を書店で買ったときのワクワクする気持ち。自分にもそんな頃があったと懐かしく思い出されました。
人生を積み重ねてきた雪はうららにはない強さを持っていて、あるチャレンジを後押しします。それは周りの人を巻き込むだけでなく、思いがけず、ある人の悩みにも寄り添うことになりました。世の中って知らないところでこんな風に支え合っているのかもしれないと思うとうれしくなりますね。
メタモルフォーゼは雪にも訪れます。この物語は雪にとって助走期間だったよう。見事に羽ばたいていった雪。人はいくつになっても変われるものだと勇気がもらえました。
ロケーションも作品に一役買っています。昭和な感じの雪の自宅がすごく心に馴染むのです。私もおばあちゃんの家に行ったときは玄関からではなく、縁側から家に上がっていったなぁ。残念ですが、今はこういうオープンな感じは危険を伴うのでしょう。それでもせめて人間関係だけでもオープンになると生きやすいのかもしれません。(堀)


2021年/日本/カラー/シネスコ/118分
配給:日活
(C)2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会
公式サイト:metamor-movie.jp
公式Twitter:@metamor_movie
★2022年6月17日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 15:08| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

恋は光

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脚本・監督:小林啓一
原作:秋★枝「恋は光」(集英社ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ刊)
撮影:野村昌平
音楽:野村卓史
劇中歌:She & Him 「Sentimental Heart」(Merge Records/Bank Robber Music)
出演:神尾楓珠(西条)、西野七瀬(北代)、平祐奈(東雲)、 馬場ふみか(宿木)

恋する女性が光って視える”特異な体質を持つ大学生・西条。幼なじみの北代(きたしろ)とは屈託なく話すものの、恋愛とは無縁の学生生活を送っていた。忘れ物のノートを拾ったことから文学少女・東雲(しののめ)と出会う。「恋というものを知りたい」と言う東雲と交換日記を始めることになった。小学生からずっと西条に片想いをしている北代(きたしろ)は、そんな2人の様子に心穏やかではいられない。さらに、他人の恋人がよく見えて常に”略奪愛”に走る宿木(やどりぎ)は、西条を北代の彼氏と勘違いし、猛アプローチを開始する。

この頃あちこちで見かける神尾楓珠さん、先週はNHKで17歳の総理役でした。こちらでは体質もものの言い方も独特な大学生。東雲さんも西条と「恋の定義」をすることに熱中します。「恋は遺伝子レベルの欲求」「恋は本能から」とか、「人間は本能だけではなく、200万年も自分たちの記憶、経験を次の世代に引き継いできた」とか、普段聞けないような2人の会話が面白いです。東雲さんはおばあちゃん子のせいか今どきの女の子ではなく、昔風の女の子で言葉が綺麗です。西条からも「マジ?」「ヤバイ!」は一度も出てきませんでした。西条の恋のイメージは「ただ会いたい、ただ触れたい」とシンプルです。生真面目な2人と、幼馴染ポジションから抜け出せない北代はどうなるのか?横入りしてくる宿木はいかに?4人のやりとりを観ながら、自分の恋愛観を確認できます。これからの方なら参考に。
西条の部屋もなかなかいいですが、東雲さんの住むお婆ちゃんの家は時代がかって素敵です。電車とバスを乗り継いだ遠くでしたが、ちょっと登場するバスや道しるべで、わかる人にはわかるかも。ロケーションや美術にもご注目ください。(白)


東雲さんの住むお婆ちゃんの家のあるところは、高梁市吹屋。レトロなボンネットバスで、赤褐色の石州瓦が美しい街並みに降り立つと、ベンガラ格子の趣のある家が並んでいて、旅心をくすぐられます。ほかにも、岡山市内を走る路面電車「おかでん」、倉敷の美観地区、明るい表町商店街等々、岡山に行きたくなること必至です♪  
ロケ地はこちらでご確認ください。
https://www.okayama-kanko.jp/feature/koihahikari
恋を避けてきた西条を演じた神尾楓珠さんは、本作では口調も古風で内向的な男子なのですが、5月27日から公開されている『20歳(はたち)のソウル』では、応援曲作曲に挑戦する青春真っただ中の熱血高校生を演じていました。同じ人に見えなかった・・・ 
本作を観て、恋っていいな♪と、若い人たちは思うはず。 恋に恋した時期が懐かしい! (咲)



2021 年/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/111 分
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ/KADOKAWA
(C)秋★枝/集英社・2022 映画「恋は光」製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/koihahikari/
Twitter・Instagram:@koihahikarimv
★2022年6月17日(金)ロードショー


posted by shiraishi at 13:58| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

三姉妹(原題:Three Sisters)

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監督:脚本:イ・スンウォン
製作:キム・サンス、ムン・ソリ 
音楽:パク・キホン
出演:ムン・ソリ(ミヨン)、キム・ソニョン(ヒスク)、チャン・ユンジュ(ミオク)、チョ・ハンチョル(ミヨンの夫)、ヒョン・ボンソク(ミオクの夫)

ソウルに住む三姉妹。長女ヒスクは花屋を営んでいるが、別れた夫が金の無心に現れ、一人娘は反抗期真っ盛り。気弱で主張もできないけれど”大丈夫なフリ”をしている。
次女ミヨンは教会の聖歌隊の指揮者を務めている模範的な信者。大学教授の夫、息子、娘と高級マンションに引っ越したばかり。一点の曇りもないはずだったが夫の不倫が発覚、”完璧なフリ”にも限界がきた。
三女のミオクは、劇作家だがスランプで1文字も書けない。酒浸りになって、年上の夫に当たり散らす。夫の連れ子は懐きもせず、実母を保護者面談に呼ぶ。それを知ったミオクは”酔っていないフリ”をして学校に乗り込む。
そんな3人が父親の誕生日会に実家に集まることになった。

三姉妹が蓋をしていた子どもの頃の記憶が随所に挟まれます。厳しい家父長制が残っていて、父親のいうことは絶対、家を継ぐ男子は女子より優遇された時代。躾けと称して子どもが親に折檻されても、隣近所も助けずとがめられないとは。日本でもかつては同じようなことが散見されたでしょうし、今もその種や芽が残っています。暮らしが閉鎖的になって外には見えにくくなっているだけかもしれません。
三姉妹は過去の傷をかかえて大人になり、三者三様の苦しみから逃れられずにいます。一番問題なさそうな次女のミヨンも、これまで必死に築き上げてきたものが壊れる寸前のところです。妻のミヨンがあまりにしっかりしているので、夫が息苦しかったのかもと男性は同情しそう。三姉妹には弟がいて、両親と暮らしていますが登場するのはずっと後。辛いエピソードの中にも、クスっと笑える場面もあり、全てと向き合ったラストの笑顔に、先の希望が見えました。
主演とプロデューサーをつとめたムン・ソリからのメッセージです。
「三姉妹を演じたわたしたちには、それぞれ娘がいます。彼女たちが暴力や嫌悪の時代を越えて、明るく、堂々と笑いながら生きていけるような社会になって欲しい、という願いを込めた作品です」
自分がされてイヤなことを人にするなと、言われましたし、言ってきました。幸せな人は他に悪意を向けたり、暴力をふるったりしません。まず自分が幸せであるために、何をすればいいのか?は各自の宿題。(白)


別れた妻に借金を背負わせたのに、まだお金の無心をするのかと怒りしか感じない男性にお金を渡してしまう長女。完璧主義者で夫や子どもをぎゅうぎゅうに締め付ける次女。脚本が書けないスランプからお酒に逃げる自分の弱さに嫌気がさして、さらに飲んでしまう三女。三者三様の三姉妹の日常が交互に描かれます。どの家庭も強烈すぎて、初めのうちは引いてしまいますが、それぞれの思いが少しずつわかってくると、ダメな部分があるからこそ、人間臭くてリアルだし、他人事には思えなくなってきます。
やがて彼女たちが幼いころに父親から受けた心と体の痛みも明らかに。今、抱えている生き難さも違って見えてきます。しかし、「大変だったのね。それじゃあ仕方ないわね」と慰められることを彼女たちはよしとはしないでしょう。トラウマに決着をつけた先に今の現実が続いてはいます。それでも逃げずに向かい合う強さが彼女たちにはあると感じるラストに韓国映画と日本映画の違いを見せつけられた気がします。(堀)


2020年/韓国/カラー(一部モノクロ)/2.00:1/115分
配給:ザジフィルムズ
(C)2020 Studio Up. All rights reserved.
http://www.zaziefilms.com/threesisters/
★2022年6月17日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

posted by shiraishi at 13:07| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする