2022年05月31日
ALIVEHOON アライブフーン
監督・編集:下山天
脚本:作道夫、高明
撮影:清川耕史
監修:土屋圭市
出演:野村周平(大羽紘一)、吉川愛(武藤夏実)、青柳翔(小林総一郎)、福山翔太(柴咲快)、本田博太郎(葛西隆司)、陣内孝則(武藤亮介)、モロ師岡(檜山三郎)、土屋アンナ(チーム・スクリューオーナー)、きづき(田村孝)
解散の危機にあるドリフトチームの夏実は、新たな才能を意外なところで発見する。檜山に紹介されたのは、レーシングゲームで圧倒的な強さを誇るゲーマーの大羽紘一。真面目だが内気な性格で、人付き合いがうまくない。実際に車を運転させると、飲み込みが早くすぐにドリフトのコツを掴んだ。ゲーマーなんてと期待しなかったチームの面々も、紘一の才能に驚愕し、チームの再起をかけようと一丸となる。
車やレースに詳しくないので、この映画で初めて「ドリフト」のレースがあると知りました。ドリフトは車を横滑りさせるテクニックで、ドリフトレースは日本発のモータースポーツなのだそうです。公道で試してはいけません。
紘一が世界を目指しているゲームは、本物そっくりの運転席、目の前にはコースのスクリーン。走行に合わせて揺れてゲームと侮れません。
1人でゲームに挑戦していた紘一は、初めて得たチームメイトに後押しされ実車でのドリフトレースに出場します。同時に走るほかの車との状況を見ての駆け引きも必須。全く知識がなくとも、ドキドキして観戦しました。
”ドリフトキング”土屋圭市が監修・出演。CGに頼らず、レーサーたちがカースタントを担い、野村周平さんも好演です。迫力の映像をぜひ ⼤スクリーンで!”爆走”を体感せよ!(安全です)(白)
『ALIVEHOON アライブフーン』というタイトルが、まず気になりました。
ALIVE = 生きる HOON =〈走り屋〉の俗語
を組み合わせ 【今を生きる走り屋たち】という意味だそうです。クルマに熱く燃える人たちの物語。
ドリフトという車を横滑りさせるテクニックに驚かされましたが、ドリフトの聖地二本松市のエビスサーキットや、福島県只見町の六十里越街道をはじめ福島県でのロケに目を見張りました、山道のカーチェイスに、『頭文字<イニシャルD THE MOVIE』(2005年、香港、監督:アンドリュー・ラウ/ アラン・マック)を思い出しました。(咲)
車のレースについてはあまり知らないのですが、野村周平君が出るというので観ることにしました(笑)。私が野村周平君のことを初めて見たのは、NHKの朝ドラ「梅ちゃん先生」(2012年)でした。まだ彼が10代の時。東北(秋田?)から集団就職で出てきて、松坂桃李が親方の職場に勤めるという役だったけど、すごい東北訛りのしゃべり方が印象的で、若いのに演技にこだわりを持つ人かもしれないとその時思いました。それから気にはなっていたのですが、その後は野暮ったい役ではなく現代の若者という感じの軽い役が多く、ちょっと期待外れのところもありました。でも、この作品ではひきこもりの青年からカーレーサーへと成長を遂げる役で目を見張りました。でもやっぱり最後は人から注目され持ち上げられるのではなく、静かに自分のペースでやるものを選ぶという役でした。それにしてもゲームレーサーの世界から実際のレーサーへの転身というのがほんとにあるのかな。運転テクニックは同じとして描かれていたけど。ネットでのカーレースを争うゲームの世界があるというのをこの映画で知りました。
私は初めて就職した会社がタイヤ製造会社でした。その中で「福島のサーキット」という言葉を何回も聞いたことがあり、今思えばそのサーキットとは、この映画に出てきたエビスサーキットのことだったのかもしれません。カーレースの中で「ドリフト走行」という技術があると知ったのは、香港映画『頭文字<イニシャルD THE MOVIE』(2005年)でした。日本の原作だけど、主人公を台湾の歌手&俳優の周杰倫(ジェイ・チョウ)、その父親を香港の黄秋生(アンソニー・ウォン)が演じ、原作の榛名山の山道で撮影していました。この時「ドリフト走行」という、こんな危険な走行技術があるんだと知りびっくりしました。現在では公道で、このドリフト走行をするのは禁止されているとのことですが、高尾山の山道などでは、今も見ることがあります。この映画はカーレース界のそうそうたるメンバーの協力により、迫力あるシーンが満載の作品ができあがりました。ものすごくしっかり書かれたパンフレットによると、かなりの数のカメラを車に装着して撮影していると書かれていたので、迫力あるシーンがたくさん撮れたのでしょう(暁)。
*参照記事 シネマジャーナル特別記事2005年
『頭文字<イニシャル>D THE MOVIE』公開記念イベントレポート
http://www.cinemajournal.net/special/2005/initialD01/index.html
2022年/日本/カラー/シネスコ/120分
配給:イオンエンターテイメント
(C)2022アライブフーン製作委員会
https://alivehoon.com/
★2022年6月10日(金)ロードショー
はい、泳げません
監督・脚本:渡辺謙作
原作:髙橋秀実「はい、泳げません」(新潮文庫刊)
撮影:笠松則通
音楽:渡邊琢磨
出演:長谷川博己(小鳥遊雄司)、綾瀬はるか(薄原静香)、麻生久美子(美弥子)、阿部純子(奈美恵)、小林薫(鴨下教授)、伊佐山ひろ子(佐々木ひばり)、広岡由里子(葦野敦子)、占部房子(橘優子)、上原奈美(英舞)
大学で哲学を教えている小鳥遊(たかなし)雄司は全く泳げない。それがひょんなことから、水泳教室に通うことになった。水に顔をつけることさえ無理な雄司を、励まし指導するのは薄原静香。雄司と逆に泳ぎしかできないという人魚のようなコーチ。にぎやかなおばちゃんメンバーたちも、ワイワイと応援してくれる。少しずつ水に慣れていくうちに、雄司はこれまで目をそらし続けてきた現実と向き合うことになる。
カナヅチの私は、原作に細かに描かれている雄司の胸の内に、大いに共感していました。雄司と全く同じように潜ることはおろか、顔が濡れるのもいやだったからです。遡れば子どもの頃、船べりから「箱眼鏡」を覗いて乗り出し過ぎ、海にドボンと落っこちた経験あり。それがトラウマになった、と責任を過去に押し付けています。
大きな身体で水を怖がる雄司にも、それ相応の理由がありました。そちらは映画館でご確認ください。
シングルマザーの奈美恵や元妻と、女性は華やかに登場しますが、二股も三角関係もありません。色っぽい話というより泳ぎを通して現実を克服していく男の再生ストーリーです。水着姿の多い綾瀬はるかさん、「大丈夫!私が助けます」とあくまでも凛々しく頼れるコーチです。こういう人に習えていたなら私も人魚になれたかも。(白)
長谷川博己と綾瀬はるかのラブストーリーを期待していると、あれっ?と思うかもしれません。本作はあくまでも心に抱えるトラウマを乗り越えようとがんばる人たちの物語。彼らの必死な一歩をちょっとコミカルに描くことで観る者にほんわかした共感をもたらします。監督の演出手腕とそれに応えたキャストの演技力の見事なハーモニーが本作の最大の魅力でしょう。
苦手だからと避けている何かのある方は是非この作品をご覧ください。私もがんばってみようかなと勇気がもらえるはずです。(堀)
房総半島上総湊に親戚があり(祖父の出身地)、小学生時代は夏休みになると長期間そこに滞在した。だから小学生低学年の時から泳げたというのは覚えている。そして小学生高学年のころには水泳部に入りたいとも思っていた。そんな私ですが、泳げるようになったきっかけは、やはりプールだったと思う。やはり子供の頃、そこに通っていた父親から、泳ぎを教わった。最初は水面に顔をつけるのが怖かったのを覚えている。だから雄司が水に顔をつけられないシーンで、突然その時のことを思い出した。誰でも最初はそうだよね。トラウマがあると、人から大丈夫と言われても、なかなか実際やるのは勇気がいる。やってみると大したことないんだけど、その第一歩が始まり。綾瀬はるかの何にもめげない凛々しい演技と、長谷川博己の臆病丸出しの演技、そして周りのおばさまたちのワイワイはやしたてながらも応援してくれる姿が心強い。はてさて雄司はどの程度泳げるようになるのか(暁)。
2021年/日本/カラー/シネスコ/113分
配給:東京テアトル、リトルモア
(C)2022「はい、泳げません」製作委員会
http://hai-oyogemasen.jp/
★2022年6月10日(金)ロードショー
ストーリー・オブ・フィルム 111 の映画旅行(原題:The Story of Film : A New Generation)
監督&ナレーション:マイク・カズンズ『オーソン・ウェルズの目』(2018)
本作で監督とナレーションを務めているマーク・カズンズは北アイルランドのベルファスト生まれ。エディンバラを拠点に活動するドキュメンタリー監督であり作家。発案から20年、観た作品は16000本。そのうち2010年から2021年までに製作された111作品をジャンル問わず選び、映画愛と知識で紐解いていく。
20年で16000本!年に800本とは!この映画のために、最近10年分の中から111作品選ぶのはさらに大変なはずです。シネジャスタッフになって1年に数百本観るだけでも結構大変なのですが、毎週作品紹介を書くために見直すことが多々あり(おまけによくラストを忘れてしまう)オンライン試写なのがとてもありがたいです。
マイク・カズンズ監督は日本映画が大好きだそうです。選んでいると似たようなものばかりになりがちですが、こちらでは広範囲にわたって様々なジャンルからとり上げられています。きっと記憶力もいいのでしょう。未見の作品の解説やヒントを聞くと、後で観たくなること必至。鑑賞済みでも印象に残る場面は人によって違いますしね。未見の作品と、その見どころをメモするのも楽しいです。
公式サイトには映画クイズが11問、どうぞお試しください。(白)
マーク・カズンズ監督は2011年に「ストーリー・オブ・フィルム」という全15章・全編900分以上にも及ぶドキュメンタリーのTVシリーズを制作。19世紀末の映画草創期から2000年代に至る映画120年の歴史を数多くの名監督、名優へのインタビューや膨大な数の映画の印象的なシーンを引用し、映画史を新しい視点で紐解きました。
本作はその続きともいえる作品。まずは『ジョーカー』と『アナと雪の女王』に共通点があると監督は伝えます。「えっ、どこに共通点がある?」と思ったら、ぜひご覧ください。監督が見つけた意外なキーワードに驚くはず。その後も「映画言語の拡張」、「我々は何を探ってきたのか」という二部構成で映画を検証していきます。
圧倒的にアメリカの作品が多いのですが、幅広く世界各国の作品が登場します。もちろん日本の作品も。さて、日本からは何が取り上げられたのか。今、日本で話題のあの監督の作品といったらわかるでしょうか。(堀)
2021年/イギリス/カラー/ビスタ/167分/5.1ch/
配給:JAIHO
公式サイト:https://storyoffilm-japan.com/
Twitter:@JaihoTheatre
★2022年6月10日(金)新宿シネマカリテ他、全国順次ロードショー!
2022年05月29日
オフィサー・アンド・スパイ(原題:J’accuse)
監督:ロマン・ポランスキー
脚本:ロバート・ハリス、ロマン・ポランスキー
原作:ロバート・ハリス「An Officer and a Spy」
出演:ジャン・デュジャルダン、ルイ・ガレル、エマニュエル・セニエ、グレゴリー・ガドゥボワ、メルヴィル・プポー、マチュー・アマルリック他
19世紀末のフランス。ユダヤ系の陸軍大尉ドレフュス(ジャン・デュジャルダン)が、ドイツに軍事機密を流したスパイ容疑で軍法会議にかけられ、終身刑を宣告される。ところが新たに防諜部門の責任者に就いたピカール中佐が、はからずもドレフュスの無実を示す衝撃的な証拠を発見してしまう。中佐は上官に対処を迫るが、国家的なスキャンダルを恐れ、隠蔽をもくろむ上層部に左遷を命じられてしまう。すべてを失ってもなお、ドレフュスの再審を願うピカールは己の信念に従い、作家のエミール・ゾラらに支援を求める。しかし、行く手には腐敗した権力や反ユダヤ勢力との過酷な闘いが待ち受けていた……。
<ドレフュス事件とは>
1894年にフランスで、ユダヤ系のドレフュス大尉がドイツのスパイとして終身刑に処せられた。1896年に真犯人が現れるが軍部が隠匿。これに対しゾラや知識人らが弾劾運動を展開し、1898年1月13日付オーロール紙に「J’accuse」(私は告発する)の見出しで、ゾラの大統領あての公開告発状が掲載された。ドレフュス事件の理不尽さを厳しく批判したこの有名な告発状は、国論を二分する政治的大事件となった。1899年にドレフュスは大統領の恩赦により釈放され、1906年に無罪が確定した。2021年10月には、その生涯に敬意を表するドレフュス博物館が開館。マクロン大統領も来訪し「記憶伝承の場」と世界に訴えた。
第76回ベネチア国際映画祭 銀獅子賞(審査員大賞)受賞
ドレフュスの冤罪を証明することになる主人公のピカール中佐も登場当初はユダヤ人であることだけでドレフュスが犯人と決めつけ、官位剥奪式を物見遊山的に見ていました。それが諜報部に栄転し、冤罪の可能性があることに気付き、調査を進めた結果、真犯人を突き止めるのです。しかし、軍上層部はそれを認めず、食い下がるピカールをむしろ左遷してしまう。理不尽で不条理な政治の世界はどこの国も同じようです。
無実の罪で島流しの憂き目にあうドレフュス。アメリカを追われたロマン・ポランスキー監督は「俺は無実だ」とドレフュスに自身を重ねているのかもしれません。(堀)
有名人が意見を表明すると影響は大きく、それまで無視を決め込んでいた権力側が譲歩する、という構図。力のあるなしが人生を決める、そうでない者にはやりきれません。ユダヤ人であることが迫害の理由とは、もとはと言えば宗教のせい?争いを生むのでなく、人の平安のためではなかったのでしょうか。力を持つものが人心を掌握するために便利に使われたくないものです。
実話を元にした作品ですが映画を観るまで接点もなく、観られて良かった…。作品になったことで多くの人に知られるでしょう。古今東西不条理は変らず。
(白)
2019年/フランス・イタリア/仏語/131分/4K1.85ビスタ/カラー/5.1ch
配給:ロングライド
©️2019-LÉGENDAIRE-R.P.PRODUCTIONS-GAUMONT-FRANCE2CINÉMA-FRANCE3CINÉMA-ELISEOCINÉMA-RAICINÉMA
公式サイト:https://longride.jp/officer-spy/
★2022年6月3日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国公開
極主夫道 ザ・シネマ
監督:瑠東東一郎
原作:おおのこうすけ「極主夫道」(新潮社バンチコミックス刊)
脚本:宇田学
音楽:瀬川英史
出演:玉木宏、川口春奈、志尊淳、古川雄大、玉城ティナ、MEGUMI、安井順平、田中道子、白鳥玉季、水橋研二、本多力、くっきー!(野性爆弾)、中川大輔、片岡久道、新川優愛、渡辺邦斗、猪塚健太、藤田朋子
かつて“不死身の龍”と恐れられた伝説の極道・黒田龍 (玉木宏)は美久(川口春奈)との結婚を機に足を洗い、最強の専業主夫として血のつながらない娘・向日葵(白鳥玉季)と3人で穏やかに暮らしていた。
そんなある日、街に近藤(吉田鋼太郎)率いる極悪地上げ屋が現れる。彼らが狙うのは、白石(安達祐実)が園長を務める「かりゅう保育園」の土地。近藤の手下による執拗な嫌がらせは続き、龍は元舎弟の雅(志尊淳)と用心棒を買って出るが、近藤たちの行動はエスカレートしていく。
やがて元武闘派ヤクザで現在はクレープ屋の虎二郎(滝藤賢一)、その妹で元レディース総長の虎春(松本まりか)も龍の仲間に加わるが、龍の家の前に男の子が捨てられていたことで”隠し子騒動”が持ち上がったり、龍の男気に虎春が惚れたことで美久との間に龍を巡る恋愛バトルが勃発するなど、問題が次々に出現!
龍は抗争を終わらせるため、すべてにケリをつけるために“史上最大の夏祭り”を開幕する!
玉木宏に初めてときめいたのは2006年にフジテレビ月9で放送された「のだめカンタービレ」でした。知的で繊細な千秋先輩にすっかりはまってしまったのがついこの間のことのよう。それが本作では“不死身の龍”と恐れられた伝説の極道ということで、強面バリバリ。そんな玉木宏が受け入れられるのか、実は心配しながら見たのですが、全くの杞憂でした。いつの間にこんなに筋肉隆々になっていたのでしょうか。刺青を披露したときに刺青よりもその肉体に目が釘付け。しかもアクションシーンはキレッキレでため息モノ。そんな見かけにもかかわらず、愛する家族のために日夜奮闘する姿はかなりコミカル。千秋先輩にはない魅力満載のキャラクターです。ドラマ版を受けての映画化ですが、ドラマ未見でも問題ありません。玉木宏だけでなく、本作のキャラクターはみな、かなりぶっ飛んだところがありますが、俳優のみなさんが振り切った演技を見せてくれるので最後まで笑いが絶えません。撮影現場も絶対に楽しかったはず!日頃のストレス発散にぴったりの作品です。(堀)
人気コミック原作、連続ドラマ、映画と進んできた「極主夫道」、暗~くなりがちだったこの頃、わははと笑って楽しんで観ました。冷徹な切れ者役が似合っていた玉木さんですが、この作品では男前な元極道、家事に命がけな主夫として手際の良さを見せてくれます。振り切ったコメディ演技でさえどこまでも二枚目なのは、あの声もプラスになっています。ほかの誰とも違いますよね。
2004年の主演作『雨鱒の川』(磯村一路監督)の試写で監督、綾瀬はるかさんと並んだ玉木さんはまだ24歳の美青年でした。今や妻子もありすっかり貫禄が出ましたが、スリムな体型はそのまま。厄年ゆえいろいろ気をつけながらますますのご活躍を。しっかり者の向日葵を演じたもう一人のたまき=白鳥玉季さんもヘンな大人たちばかりの中で、楽しそうです。どんな女優さんに育つのか先が楽しみ。(白)
『雨鱒の川』(2004)磯村一路監督インタビューと舞台挨拶記事はこちら
2022年/117分/G/日本
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2022「極主夫道 ザ・シネマ」製作委員会
公式サイト:https://www.gokushufudo-movie.jp/
★2022年6月3日(金)公開
歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡 原題:Nomad : In the Footsteps of Bruce Chatwin
監督・脚本・ナレーション:ヴェルナー・ヘルツォーク
出演:ヴェルナー・ヘルツォーク、ブルース・チャトウィン、エリザベス・チャトウィン、ニコラス・シェイクスピア
イギリスの伝説の紀行作家ブルース・チャトウィン(1940-1989)。
本作は、チャトウィンの没後30年、彼と親交のあったドイツの巨匠ヴェルナー・ヘルツォークが、チャトウィンの歩いた世界を辿るドキュメンタリー。
チャトウィンとゆかりのあった人々へのインタビューを交えながら、8章にわたって、ヘルツォーク監督自身のナレーションで綴られる。
第1章 ブロントサウルスの皮
第2章 魂の風景
第3章 歌とソングライン
第4章 放浪者という選択
第5章 世界の果てへの
第6章 チャトウィンのリュックサック
第7章 「コブラ・ヴェルデ」
第8章 本は閉じられた
幼い頃、祖母の家に飾られていた“ブロントサウルス”の毛皮に魅せられ先史時代や人類史に関心を抱いたチャトウィン。サザビーズの美術鑑定士や、サンディタイムズ紙でジャーナリストとして成功を収めても飽き足りず、最終的に選んだのは、旅をしながら小説を書く人生。南米を旅し、1978年に「パタゴニア」で作家デビュー。 その後、アボリジニの神話に魅せられ、中央オーストラリアへ。当時は不治の病だったHIVに感染し、死が近づいたアボリジニが生を受けた地に帰還するように、自らの死に方を探りながら「ソングライン」を書きあげました。
ヴェルナー・ヘルツォークは、1983年にメルボルンでチャトウィンと出会い、神話を心の旅とする彼を同志と感じ、親交が始まったのだそうです。
そのヘルツォークが自ら歩いて誘ってくれるチャトウィンの世界。人は大自然の中で、ほんとに小さな存在。だからこそ、いつかは迎える死にどう向き合って、自分らしく生きるかを模索することの大切さを教えてくれたような気がします。
本作は、54年の歴史に幕を下ろす岩波ホールで上映される最後の映画となります。
ジョージア映画祭の折に、何度も予告編を観て、これは大きな画面で観なければとそそられました。チャトウィンの観た、圧倒的な光景を岩波ホールで味わっていただければと思います。(咲)
『歩いて見た世界ブルース・チャトウィンの足跡』は、まさに私のツボの映画でした。
子供の頃から南米やアフリカ、動植物などに興味があったのですが、1970年に登山を始めた私にとって、ブルース・チャトウィンが初めて書いた『パタゴニア』(78)の頃は、一番山に行っていた時期なので、この本の情報を全然知らないということはないはずなのに、ブルース・チャトウィンという名前に記憶がありません。しかも世界のあちこちを放浪して本を書いた方で、パタゴニア、 アボリジニなど、興味の対象が似通っているのに、この映画で初めて彼のことを知りました。
冒頭にパタゴニア氷河が出てきましたが、私も2019年に行ってきました。氷河はたくさんあったので、どの氷河かはわかりませんでしたが、ドローンで上から氷河を撮った映像を初めてみました。氷河の上はあんな風に見えるのだなと、最初から映像に引き込まれました。私はピースボートの世界一周ツアーで2018年末~2019年4月初めまでの日程で行き南米を回ったのですが、2019年2月20日に訪ねたその時は、世界で一番南端の都市はアルゼンチンのウシュアイアでした。この映画を見て調べてみたら、2019年3月にチリのナバリノ島の都市プエルト・ウィリアムズが町から市になり、最南端の都市になったようなので、ヴェルナー・ヘツツォーク監督はその後に行ったのだなと思いました(笑)。
私自身はチャールズ・ダーウィンの「ビーグル号航海記」を中学校の頃に読んだのもひとつのきっかけで、世界を旅してみたいという夢を持ちました。このウシュアイアとナバリノ島の間を通っているのがビーグル水道で、かつてダーウィンはビーグル号でここを通ったのです。それでここにもぜひ行ってみたかったのです。この映画で、ここのことも出てきました。そして、ウシュアイアの博物館で原住民の写真を見ましたが、ヘツツォーク監督はプエルト・ウィリアムズの博物館で見たようなので、こちらにも博物館があるのだと思いました。
また、「歌とソングライン」では、アボリジニに始まるソングラインのことが語られていましたが、オーストラリアの先住民に受け継がれる“ソングライン”という思想/信仰に基づいたドキュメンタリー『大海原のソングライン』で、かつて同じ言葉や音楽で繋がっていた島々の歌を もう一度集結させる壮大な音楽プロジェクトが描かれていました。と、語りたいことがいっぱいあるので、あとはスタッフ日記の方に書こうと思います(暁)。
◆特集上映「ヴェルナー・ヘルツォーク・レトロスペクティブー極地への旅」
岩波ホールで6月4日より上映されているヴェルナー・ヘルツォーク監督作品『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』に関連して、異郷・辺境を旅してきた巨匠ヘルツォーク監督の日本未公開作品を含む計6作品の特集上映が行われます。
開催日時:7月13日(水)~7月18日(月・祝)
連日16:30から 岩波ホールにて
上映作品:
『ウォダベ 太陽の牧夫たち』
『彫刻家シュタイナーの大いなる陶酔』
『ガッシャーブルーム 輝ける山』
『生の証明』
『闇と沈黙の国』
『スフリエール』(30分)
詳細:https://www.iwanami-hall.com/topics/news/5253
2019年/イギリス=スコットランド=フランス/85分/ドキュメンタリー
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/brucechatwin
★2022年6月4日(土)~2022年7月29日(金)岩波ホールほか全国にて順次公開
ニューオーダー(原題:Nuevo Orden)
監督・脚本:ミシェル・フランコ
出演:ネイアン・ゴンザレス・ノルビンド(マリアン)、ディエゴ・ボネータ(ダニエル)、モニカ・デル・カルメン(マルタ)
メキシコの裕福な家庭に育ったマリアン。今日は多くの賓客を招いて結婚披露のパーティが催されている。人生最良の一日になるはずだった。
邸宅から近い通りでは、貧富の格差に対する抗議運動が勃発し、暴動と化していた。それまでにたまりにたまった鬱憤を吐き出す民衆は、暴徒と変わりマリアンの家にも押し寄せ、塀を乗り越えてやってくる。集まっていた名士たちは殺戮と略奪の恰好の標的となり、マリアンは辛くも逃げ出すことができたのだが・・・これは始まりに過ぎなかった。
冒頭に短く重ねられる映像の数々。全裸の女性が雨に打たれ、奔流が階段を下り、ガラス窓に液体がぶっかけられます。その水が全て緑色。破壊される家、病院に担ぎ込まれる血だらけの怪我人、折り重なる死体と衝撃的な場面が3分間ほど続きます。次の華やかなパーティの場面の裏ではこんなことがという不穏な幕開け。
メキシコの映画界を牽引する俊英ミシェル・フランコ監督は「メキシコだけでなく、世界は極限状態に追い込まれている。まるで日々ディストピアに近づいているように」と語っています。限りなく真実に近いフィクションだと誰しも思うでしょう。
社会的・経済的格差は拡がり、この映画のようにいつ怒りが噴出するのか不安になります。始まったら誰が止められるのか、自分がどんな風になるのか、考えずにいられません。そうならないように、何ができるのでしょうか? 絶望的な場面では人間の醜悪さが露呈し、観客は想像したくないもの、観たくないものを観てしまった気分になります。ぎゅっと詰まった86分、「観ておくべき映画、でも短くて良かった」と思うはず。ヴェネツィア国際映画祭審査員大賞を受賞。(白)
メキシコの国旗は緑、白、赤の縦三色の中央に国章を配しています。東京都立図書館のHPによれば「緑・白・赤は、スペインから独立するときに掲げた諸州の独立・信仰・統一の「3つの保障」を表し、緑は諸州の独立を、白はカトリックへの信仰心を、赤は民族の統一を象徴している」とのこと。本作では冒頭から世界が緑に飲み込まれていくように描かれる中、ヒロイン的存在のマリアンが真っ赤なスーツに身を包み、メキシコ国旗を彷彿させます。彼女の結婚パーティーが開かれているところにやってきたのが元使用人。彼は妻の手術費用の援助を頼み込んできました。妻も元使用人だったこともあり、彼女は何とかしてあげようと必死に行動します。民族の統一を象徴する赤がここでは富裕層と貧民層を繋ぐ希望となっていく…。
なんて安直なストーリーではありませんでした。だからこそ、リアルに感じてしまう。いつどこで同じことが起こるかわかりません。メキシコのことなどと高を括っていると日本でも起こるかもしれない。そんな恐怖をたっぷり感じる作品です。(堀)
「世界が嫌悪し括目した、今そこにある“悪夢”を描くディストピア・スリラー」と大きく書かれた案内に、ホラーやスリラーが苦手な私は、この映画は観ないでおこうと実は思ったのです。でも、公式サイトに書かれていることや、観た人たちの映画評から、「体制が変わる」ことを描いたものだと知り、思い切って観てみました。確かに、居心地のいい映画ではありません。メキシコで撮影していて、メキシコならではの⽀配階級の白人が裕福で、スペインに征服される前から暮らしているネイティブの人たちが貧困という対比が背景にあるものの、具体的な政変を描いたものではありません。まさに、世界のどこにでも起こりうる話として描いたことに監督の思いを感じます。
私も含め、戦後生まれの日本人は体制が変わるという経験をしていませんが、戦前生まれの日本人は体制が大きく変わったことを経験しています。
私の身近なところでは、イランが1979年の革命で、王政からイスラーム体制に変わり、王政時代の閣僚や富裕層が処刑されるのを目撃しました。生活規範も大きく変わって、王政時代と革命後のイランは、まるで違う国のようです。革命当時、信条の違いで、隣人と仲を分かつということも経験した人たちは、体制派なのか反体制派なのか、はっきり表明しないことが生き延びる術だということも知っているように思えます。
70年以上、「平和」といわれる中で暮らしてきた私たち日本人。事が起こった時に対応できるでしょうか・・・ 映画を観終わって、私たちにも起こりうることと、背筋が寒くなりました。
冒頭に出てくる色鮮やかな抽象画は、メキシコの画家オマール・ロドリゲス・グラハムの「死者だけが戦争の終わりを見た」というタイトルがついたもの。 映画の最後に、冒頭の絵の意味深なタイトルを知り、さらにぞくっとしました。(咲)
2020年/メキシコ・フランス/カラー/スペイン語/シネスコ/86分
配給:クロックワークス
(C)2020 Lo que algunos sonaron S.A. de C.V., Les Films d’Ici
https://klockworx-v.com/neworder/
★2022年6月4日(土)ロードショー
冬薔薇
監督・脚本:阪本順治
撮影:笠松則通
出演:伊藤健太郎(渡口淳)、小林薫(渡口義一)、余貴美子(渡口道子)、眞木蔵人(中本裕治)、永山絢斗(美崎輝)、毎熊克哉(君原)、坂東龍汰(中本貴史)、河合優実(智花)、佐久本宝(友利洋之)、和田光沙(澤地多恵)、笠松伴助(近藤次郎)、伊武雅刀(永原健三)、石橋蓮司(沖島達雄)
ある港町。親にねだって入学した専門学校にも行かず、半端な不良仲間とつるんで自堕落に生きる渡口淳。両親の義一と道子は、ガット船と呼ばれる船で埋立て用の土砂を運ぶ海運業を営んでいる。仕事は減っているが、長く勤めてくれた従業員を辞めさせるわけにもいかない。経営に頭を悩ましながらも船から離れず、なんとか日々暮らしていた。それでもリストラにあった道子の兄弟の裕治を受け入れる。従兄弟の貴史と久しぶりにガット船に乗ってみるが、仕事に興味はわかない。
淳は不良の喧嘩に参加しても手助けにならず、逆に負傷してしまう。親の心配をよそに、怪我した足を見せつけてひっかけた女から金をせびってはダラダラ暮らすていたらく。ある晩不良仲間が襲われ、SNSで動画が拡散された。
坂本順治監督が、主演にと見込んだ伊藤健太郎と時間をかけて話して作り上げたオリジナルストーリー。伊藤健太郎が「失うものはなにもない」と内面をさらけ出して挑んだという作品。両親役の小林薫さん余貴美子さんを始め、実力派のベテラン・若手のキャストが揃って、物語をしっかりと支えています。
淳には居心地が良さそうな不良仲間も上の立場の者にいいように使われ、楽なわけではありません。ろくに行かない専門学校も在籍していたいだけ。同期生に拒まれるまで、自分は役立つ友達だと勝手に考えています。自分が彼にしたことも忘れ、何て甘ちゃんな淳でしょう。
初めて見たガット船の内部は、部品も土砂を入れる船倉も大きく、高いところの苦手な私は、危ない~とヒヤヒヤ。乗り物好きな男子には貴重な映像ではないでしょうか。
タイトルの「冬薔薇(ふゆそうび)」は普通花が開かない冬に咲く種類の薔薇のこと。映画の中では、義一が買ってきて、妻の道子が嬉しそうに世話をしています。はぐれ者の淳も花開いてほしい親心にも見えます。それぞれの厳しい人生にもいくばくかの慰めがある、ということかもしれません。(白)
2022年/日本/カラー/109分
配給:キノフィルムズ
(C)2022 「冬薔薇(ふゆそうび)」 FILM PARTNERS
https://www.fuyusoubi.jp/
★2022年6月3日(金)ロードショー
頭痛が痛い
監督・脚本:守田悠人
出演:阿部百衣子(島内いく)、せとらえと(佐藤鳴海)、鐘ヶ江佳太(浅井直樹)、山本華世子(宮下麻衣)、大友久志(佐藤隆之)、ナツメ(佐藤恵子)、杉山宗賢(工藤将也)
2018年東京。東京オリンピックに向けて、新国立競技場の建設が急ピッチで進んでいる。高校3年の鳴海は、不登校気味で学校へ行かずに今日も自撮りでライブ配信中。家にも学校にも居場所がない思いを抱えている。鳴海の同級生のいくは、優等生で友人の面倒見もいい。いつも明るく振舞っているが、実はなんともいえない憂鬱な気分から抜け出せない。ある日いくは、梶井基次郎の「檸檬」を真似て、知らない他人の郵便受けに自分の遺書を投函して回る。たまたま鳴海がそれを目にしていた。いくの遺書を郵便受けで見つけたライターの工藤は、手掛かりもないまま、探し出そうとする。
子どもから大人になる途中の思春期は脱皮したばかりで、心も身体も傷つきやすいのでしょう。しっかりつかまるものもない、安心できる場所も見つからず途方にくれている時期。誰もが必ずそこを通ってくるのに、硬い殻ができてしまって久しくそんな頃を忘れがちです。鳴海といくは同じ教室にいながら深く関わらずにいましたが、ある日から2人で「あの世」を目指すことにします。
周りの人々は2人の家出の理由や「死にたさ」を想像します。本人でさえ、正確に測れるものではないでしょう。今が辛い、未来が想像できない、自分も周りもいや、いっそいなくなりたい・・・が積み重なってしまうのかもしれません。そんな危うい時期を切り取っています。同年代の人、そのころを忘れずにいる人には深く刺さる作品。PFFアワード2020で審査員特別賞(白)
2020年/日本/カラー/16:9
配給:アルミード
(C)KAMO FILMS
https://zutsugaitai-movie.com/
Twitter:https://twitter.com/eiga_zutugaitai
Facebook: https://www.facebook.com/zutsugaitai
★2022年6月3 日(金)よりアップリンク吉祥寺にて他全国順次公開
太陽とボレロ
監督・脚本:水谷豊
撮影監督:会田正裕
音楽:山元淑稀
マエストロオブオーケストラ:西本智実
出演:檀れい(花村理子)、石丸幹二(鶴間芳文)、森マリア(宮園あかり)、町田啓太(田ノ浦圭介)、田口浩正(牧田九里郎)、藤吉久美子(池田絹)、原田龍二(与田清)、河相我聞(片岡辰雄)、田中要次(遠藤正道)、六平直政(吉村益雄)、檀ふみ(花村頼子)、水谷豊(藤堂謙)
緑豊かなある地方都市のアマチュア交響楽団「弥生交響楽団」が解散することになった。主宰者の花村理子はピアニスト志望だったが、父親の急死により事業をつぎ、残された母親の世話のために故郷に戻ったのだ。弥生交響楽団は理子の大切な夢で、長年存続のために力を尽くしてきた。3年前から大学時代の恩師である藤堂を指揮者に迎えたものの、年々客足が遠のき、協力者も減っていた。楽団員の心のかなめであった藤堂が倒れ、ついに苦渋の決断をしたのだ。理子は解散コンサートを企画するが、団員たちの落胆は大きく、なかなか息の合った練習ができない。
水谷豊監督のオリジナル脚本・監督作『TAP-THE LAST SHOW』(2017)、『轢き逃げ-最高の最悪な日-』(2019)に続く3作目。コロナ禍で撮影が1年遅れたものの、その間楽団員役の俳優たちは、楽器の練習に励みました。その甲斐あってクライマックスでは吹替なしで演奏をしています。これは良いほうの誤算ですね。楽団員に理子の仕事関係、母親の病院の医師…と出演者が多くて書ききれません。檀れいさんは初の主演映画。明るくチャーミングな理子を溌剌と演じています。
世界で活躍する指揮者・西本智美さん率いる”イルミナートフィルハーマニーオーケストラが1年かけて楽器演奏の指導をしたほか、楽曲の録音を担当。劇中のコンサートシーンに登場して「ボレロ」「白鳥の湖」、「カヴァレリア・ルスティカーナ」、「ファランドール」などの演奏で映画を彩っています。どうぞひととき名曲に浸ってください。(白)
弥生市という、ある地方都市を舞台にした物語。
冒頭、森の中に優雅に佇む弥生市の誇るコンサートホールが空撮で映し出されます。ヨーロッパを思わせる風情。迎賓館赤坂離宮でした。映画の撮影では初めて使われたそうです。
クライマックスのコンサートシーンは、よこすか芸術劇場。西本智美さんの指揮で奏でられる「ボレロ」が素晴らしいです。コロナ禍の賜物とはいえ、俳優さんたちが吹き替えなしで楽器を演奏していることにも驚きます。
メインのロケ地は山に囲まれた松本市。安曇野のせせらぎのそばで演奏の練習をする風景も清々しいです。喧嘩も起こってしまいますが・・・
大勢のメンバーがいる楽団だから、人間模様もあれこれ描けて、水谷豊さん、脚本を書くのも楽しかったのではないでしょうか。(咲)
2021年/日本/カラー/シネスコ/133分
配給:東映
(C)2022「太陽とボレロ」製作委員会
https://www.sun-bolero.jp/
★2022年6月3日(金)ロードショー
2022年05月28日
私のはなし 部落のはなし
5月21日(土)より [東京]ユーロスペース、[大阪]第七藝術劇場、シネマート心斎橋ほか全国順次公開 他の上映情報
監督:満若勇咲
プロデューサー:大島新
撮影:辻智彦
編集:前嶌健治
整音:高木創
音楽:MONO
語り・テキスト制作:釆奈菜子
「部落差別」は、いかにしてはじまったのか
なぜ私たちは、いまもそれを克服できずにいるのか?
日本の〈部落差別〉をみつめたドキュメンタリー
日本には穢多・非人などと呼ばれる賤民が存在した。1871年(明治4年)の「解放令」によって賤民身分が廃止されて以降、かれらが集団的に住んでいた場所が「部落」と呼ばれるようになり、廃止されても差別構造は残存している。日本に根強く残る「部落差別」。現在、法律や制度のうえでは「部落」や「部落民」というのは存在しない。しかし、いまなお差別はある。なぜ名目上はなくなった差別が残っているのか。
この「部落」差別は、いかにしてはじまったのか? その起源と変遷から近年の「鳥取ループ裁判」まで、堆積した差別の歴史と複雑に絡み合った構造を、多彩なアプローチで見える化し、差別の構造を鮮やかに描きだしたのがこの作品。
監督は、屠場で働く人々を写した『にくのひと』(2007年)が各地で上映され好評を博し、第一回田原総一朗ノンフィクション賞を受賞したが、劇場公開を断念せざるをえなかった経験を持つ満若勇咲。あれから十数年、プロデューサーに『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』の大島新を迎え、これまでにないアプローチで<部落>を語る映画を作った。
「部落差別」のことは、子供の頃に観た『橋のない川』という映画を観て知った。かれこれ60年くらい前のこと。東京の三多摩に住んでいた私は、新興住宅地で、そういうことがあるということを全然知らなかった。当時、そのあたりには「部落」とかがなかったので、その言葉自体を知らなかった。そして、成長するにつれ、「人種差別」「女性差別」「障害者差別」と様々な差別があることを知るようになった。でも「部落差別」に関しては、文章や映画、ニュースなどからしか知ることがなかった。身近にそういうこと自体がなかったから、実態も知らなかった。でも今だに実際に「部落差別」があるということが、この映画によって思い出された。この映画では「部落差別」を研究している学者による差別の起源やどういう実態があるという話や、今もある「部落」と言われている地域に住む若者たちの話なども登場し、多面的な見方で、観た人、ひとりひとりが考えるためのきっかけを作ってくれるような作品だった。
会社の人事などで、今もそういう人を排除するような風潮が残っていたりというのには驚いたが、結婚の時に血筋や家柄などを重視する社会観が残る限り、この差別は残っていくのだろうか。3時間半という長さのドキュメンタリーだが、様々な視点から語っていて、長くは感じなかった(暁)。
公式HP
2022年|205分|日本|ドキュメンタリー
配給:東風
監督:満若勇咲
プロデューサー:大島新
撮影:辻智彦
編集:前嶌健治
整音:高木創
音楽:MONO
語り・テキスト制作:釆奈菜子
「部落差別」は、いかにしてはじまったのか
なぜ私たちは、いまもそれを克服できずにいるのか?
日本の〈部落差別〉をみつめたドキュメンタリー
日本には穢多・非人などと呼ばれる賤民が存在した。1871年(明治4年)の「解放令」によって賤民身分が廃止されて以降、かれらが集団的に住んでいた場所が「部落」と呼ばれるようになり、廃止されても差別構造は残存している。日本に根強く残る「部落差別」。現在、法律や制度のうえでは「部落」や「部落民」というのは存在しない。しかし、いまなお差別はある。なぜ名目上はなくなった差別が残っているのか。
この「部落」差別は、いかにしてはじまったのか? その起源と変遷から近年の「鳥取ループ裁判」まで、堆積した差別の歴史と複雑に絡み合った構造を、多彩なアプローチで見える化し、差別の構造を鮮やかに描きだしたのがこの作品。
監督は、屠場で働く人々を写した『にくのひと』(2007年)が各地で上映され好評を博し、第一回田原総一朗ノンフィクション賞を受賞したが、劇場公開を断念せざるをえなかった経験を持つ満若勇咲。あれから十数年、プロデューサーに『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』の大島新を迎え、これまでにないアプローチで<部落>を語る映画を作った。
「部落差別」のことは、子供の頃に観た『橋のない川』という映画を観て知った。かれこれ60年くらい前のこと。東京の三多摩に住んでいた私は、新興住宅地で、そういうことがあるということを全然知らなかった。当時、そのあたりには「部落」とかがなかったので、その言葉自体を知らなかった。そして、成長するにつれ、「人種差別」「女性差別」「障害者差別」と様々な差別があることを知るようになった。でも「部落差別」に関しては、文章や映画、ニュースなどからしか知ることがなかった。身近にそういうこと自体がなかったから、実態も知らなかった。でも今だに実際に「部落差別」があるということが、この映画によって思い出された。この映画では「部落差別」を研究している学者による差別の起源やどういう実態があるという話や、今もある「部落」と言われている地域に住む若者たちの話なども登場し、多面的な見方で、観た人、ひとりひとりが考えるためのきっかけを作ってくれるような作品だった。
会社の人事などで、今もそういう人を排除するような風潮が残っていたりというのには驚いたが、結婚の時に血筋や家柄などを重視する社会観が残る限り、この差別は残っていくのだろうか。3時間半という長さのドキュメンタリーだが、様々な視点から語っていて、長くは感じなかった(暁)。
公式HP
2022年|205分|日本|ドキュメンタリー
配給:東風
2022年05月25日
エコー・イン・ザ・キャニオン 原題:Echo in the Canyon
2022年5月27日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開 その他の劇場情報
彼らはみんなライバルであり仲間でもあった。
熱く刺激的だった60年代のアメリカの音楽シーンが現代によみがえる
ミュージシャンの知られざるエピソードが満載!
監督:アンドリュー・スレイター
脚本:アンドリュー・スレイター、エリック・バーレット
製作・出演:ジェイコブ・ディラン
出演:トム・ペティ、ブライアン・ウィルソン、リンゴ・スター、エリック・クラプトン、スティーヴン・スティルス、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、ジャクソン・ブラウン、フィオナ・アップル、ベック、ノラ・ジョーンズ、キャット・パワー、ジェイコブ・ディラン
カリフォルニア州のロサンゼルス市にある映画産業の中心地ハリウッド。その近くに、60年代後半から70年代に多くのミュージシャンが住み、数々の名曲を生み出したウェストコーストサウンドの聖地ローレル・キャニオンがある。新しい音楽を目指すアーティストが世界中から集まり、互いに影響し合い、ムーブメントを巻き起こした。
製作のジェイコブ・ディランが進行を務め、当時活躍していた下記のミュージシャンたちにインタビューし、また当時の貴重な映像をたくさん駆使して、ローレル・キャニオンの歴史的音楽シーン描きだし、当時の音楽が現在の音楽シーンにいかに影響を与えているかを導きだす。
トム・ペティ、ブライアン・ウィルソン、リンゴ・スター、ミシェル・フィリップス、エリック・クラプトン、スティーヴン・スティルス、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、ロジャー・マッギン、ジャクソン・ブラウンらへのインタビューや、ザ・ビーチ・ボーイズ、ママス&パパス、ザ・バーズ、バッファロー・スプリングフィールドらの貴重なアーカイブ映像とともに、音楽ができた時のエピソードなども語られる。
インタビューするジェイコブ・ディランはボブ・ディランの息子で、やはりミュージシャン。伝説のミュージシャンたちから創作の秘密や知られざる逸話を引き出し、ベック、ノラ・ジョーンズ、フィオナ・アップル、キャット・パワーなど、当時の音楽に影響を受けた新しい世代のミュージシャンらとともに、かつてのカリフォルニア・サウンドをアレンジしたバンドを結成し、スタジオでのセッションを重ねトリビュートライブを行う。この時代を知らない世代にも、その音楽の響きが伝わることでしょう。
ロサンゼルス映画祭でオープニングを飾り絶賛を博した話題作とのこと。
またトム・ペティ生前最後のフィルム・インタビューになってしまった。
この作品の前に『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』が公開され、1960年代後半から70年代前半のアメリカの音楽シーンにウェストコーストサウンドが大きな影響を与えたことが描かれ、アメリカ西部カリフォルニア州ロサンゼルス「ローレル・キャニオン」の地にミュージシャンが集まってきたことが大きな流れとしてあったことを知ったが、『エコー・イン・ザ・キャニオン』ではさらに、たくさんの大物ミュージシャンが登場し、具体的な音楽の作られるまでのエピソードとか、交流の模様が描かれ、あの時代から今に続くアメリカの音楽シーンへの流れを形作った人々のエピソードなど、貴重なドキュメンタリーです。
なかでもママス&パパスの「夢のカリフォルニア」ができたエピソードが面白かった。ニューヨークでレコード会社との契約を待っている間に、カリフォルニアへ帰りたくて、懐かしんで作った歌だと語られていた。
あの頃はラジオから流れてくる音からしか知らなかった。映像なんて見ることもなかったし、あることも知らなかった。だから名前は知っていたけど、顔は知らなかったという人もたくさん(笑)。今回、これら60年代の音楽シーンの映画をいくつも観て、その頃の映像がたくさんあったことを知った。そして、もとの映像や当時のライブ映像や音楽番組などをYouTubeでたくさんみつけた。元の音源を耳が覚えていて、この歌は個々の場でこういう風に歌われていたんだという発見もたくさんすることができた。
この作品の製作と進行はなんと、ボブ・ディランの息子のジェイコブ・ディラン。ボブ・ディランに息子がいて、彼も音楽をやっているとは全然知らなかった。やはし若き日のボブ・ディランを彷彿とさせる雰囲気がある。大物ミュージシャンたちからいろいろな話を引き出すことができたのは彼だからこそかもしれない。さらにジェイコブ・ディランは新しい世代のミュージシャンたちと共に、60、70年代の音楽のカバーライブまで催し、その映像も流れる。
ここに至って、日本での60、70年代の音楽シーンのドキュメンタリーがあったらなあと思った。確かにこれまで、数々の個別のミュージシャンやコンサートなどのドキュメンタリー作品はこれまでも数々公開されてきた。でも、『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』や『エコー・イン・ザ・キャニオン』のような、音楽シーンや交流を描いた作品はほとんどないような気がする。日本でもこの時代、フォークソングからニューミュージックへの大きな音楽のうねりがあった。ザ・ブロードサイド・フォー、森山良子などから、高石友也、岡林信康、高田渡、中川五郎、小室等、吉田拓郎、加藤登紀子、カルメン・マキ、イルカ、五つの赤い風船、ザ・フォーククルセダーズ、赤い鳥、海援隊、アリス、RCサクセション、THE ALFEE、井上陽水、中島みゆき、荒井由実、さだまさしなどへ続く音楽シーンを描いたら面白いものができるのではと思った。特に関西フォークの流れを作った人たちとコンサートの数々をつないで作ったら貴重な記録ができるのでは。高田渡を描いた作品は、3,4本公開されてきているが、彼の息子高田漣も今やミュージシャンで活躍している。彼をフィーチャーして作ったら面白いのではと勝手に妄想してしまう私(笑)。これらの音楽映画を観て、かつて音楽好きだった自分の趣味の歴史を思い出したり、懐かしい人たちの姿を観て、過去を振り返ったり、いろいろな楽しみ方をできると思った映画の数々でした。なにより50年も前の映像を、今、観ることができるという発見は嬉しかった(暁)。
『エコー・イン・ザ・キャニオン』公式HP
2018年/アメリカ/ビスタ/83分/5.1ch
日本語字幕:本田久乃 配給・宣伝:アンプラグド
これまでの「極上のロック・ドキュメンタリー ROCKUMENTARY2022」の3本の作品は下記にて紹介しています。
『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/486944223.html
『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/487528181.html
『スージーQ』
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/487526374.html
彼らはみんなライバルであり仲間でもあった。
熱く刺激的だった60年代のアメリカの音楽シーンが現代によみがえる
ミュージシャンの知られざるエピソードが満載!
監督:アンドリュー・スレイター
脚本:アンドリュー・スレイター、エリック・バーレット
製作・出演:ジェイコブ・ディラン
出演:トム・ペティ、ブライアン・ウィルソン、リンゴ・スター、エリック・クラプトン、スティーヴン・スティルス、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、ジャクソン・ブラウン、フィオナ・アップル、ベック、ノラ・ジョーンズ、キャット・パワー、ジェイコブ・ディラン
カリフォルニア州のロサンゼルス市にある映画産業の中心地ハリウッド。その近くに、60年代後半から70年代に多くのミュージシャンが住み、数々の名曲を生み出したウェストコーストサウンドの聖地ローレル・キャニオンがある。新しい音楽を目指すアーティストが世界中から集まり、互いに影響し合い、ムーブメントを巻き起こした。
製作のジェイコブ・ディランが進行を務め、当時活躍していた下記のミュージシャンたちにインタビューし、また当時の貴重な映像をたくさん駆使して、ローレル・キャニオンの歴史的音楽シーン描きだし、当時の音楽が現在の音楽シーンにいかに影響を与えているかを導きだす。
トム・ペティ、ブライアン・ウィルソン、リンゴ・スター、ミシェル・フィリップス、エリック・クラプトン、スティーヴン・スティルス、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、ロジャー・マッギン、ジャクソン・ブラウンらへのインタビューや、ザ・ビーチ・ボーイズ、ママス&パパス、ザ・バーズ、バッファロー・スプリングフィールドらの貴重なアーカイブ映像とともに、音楽ができた時のエピソードなども語られる。
インタビューするジェイコブ・ディランはボブ・ディランの息子で、やはりミュージシャン。伝説のミュージシャンたちから創作の秘密や知られざる逸話を引き出し、ベック、ノラ・ジョーンズ、フィオナ・アップル、キャット・パワーなど、当時の音楽に影響を受けた新しい世代のミュージシャンらとともに、かつてのカリフォルニア・サウンドをアレンジしたバンドを結成し、スタジオでのセッションを重ねトリビュートライブを行う。この時代を知らない世代にも、その音楽の響きが伝わることでしょう。
ロサンゼルス映画祭でオープニングを飾り絶賛を博した話題作とのこと。
またトム・ペティ生前最後のフィルム・インタビューになってしまった。
この作品の前に『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』が公開され、1960年代後半から70年代前半のアメリカの音楽シーンにウェストコーストサウンドが大きな影響を与えたことが描かれ、アメリカ西部カリフォルニア州ロサンゼルス「ローレル・キャニオン」の地にミュージシャンが集まってきたことが大きな流れとしてあったことを知ったが、『エコー・イン・ザ・キャニオン』ではさらに、たくさんの大物ミュージシャンが登場し、具体的な音楽の作られるまでのエピソードとか、交流の模様が描かれ、あの時代から今に続くアメリカの音楽シーンへの流れを形作った人々のエピソードなど、貴重なドキュメンタリーです。
なかでもママス&パパスの「夢のカリフォルニア」ができたエピソードが面白かった。ニューヨークでレコード会社との契約を待っている間に、カリフォルニアへ帰りたくて、懐かしんで作った歌だと語られていた。
あの頃はラジオから流れてくる音からしか知らなかった。映像なんて見ることもなかったし、あることも知らなかった。だから名前は知っていたけど、顔は知らなかったという人もたくさん(笑)。今回、これら60年代の音楽シーンの映画をいくつも観て、その頃の映像がたくさんあったことを知った。そして、もとの映像や当時のライブ映像や音楽番組などをYouTubeでたくさんみつけた。元の音源を耳が覚えていて、この歌は個々の場でこういう風に歌われていたんだという発見もたくさんすることができた。
この作品の製作と進行はなんと、ボブ・ディランの息子のジェイコブ・ディラン。ボブ・ディランに息子がいて、彼も音楽をやっているとは全然知らなかった。やはし若き日のボブ・ディランを彷彿とさせる雰囲気がある。大物ミュージシャンたちからいろいろな話を引き出すことができたのは彼だからこそかもしれない。さらにジェイコブ・ディランは新しい世代のミュージシャンたちと共に、60、70年代の音楽のカバーライブまで催し、その映像も流れる。
ここに至って、日本での60、70年代の音楽シーンのドキュメンタリーがあったらなあと思った。確かにこれまで、数々の個別のミュージシャンやコンサートなどのドキュメンタリー作品はこれまでも数々公開されてきた。でも、『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』や『エコー・イン・ザ・キャニオン』のような、音楽シーンや交流を描いた作品はほとんどないような気がする。日本でもこの時代、フォークソングからニューミュージックへの大きな音楽のうねりがあった。ザ・ブロードサイド・フォー、森山良子などから、高石友也、岡林信康、高田渡、中川五郎、小室等、吉田拓郎、加藤登紀子、カルメン・マキ、イルカ、五つの赤い風船、ザ・フォーククルセダーズ、赤い鳥、海援隊、アリス、RCサクセション、THE ALFEE、井上陽水、中島みゆき、荒井由実、さだまさしなどへ続く音楽シーンを描いたら面白いものができるのではと思った。特に関西フォークの流れを作った人たちとコンサートの数々をつないで作ったら貴重な記録ができるのでは。高田渡を描いた作品は、3,4本公開されてきているが、彼の息子高田漣も今やミュージシャンで活躍している。彼をフィーチャーして作ったら面白いのではと勝手に妄想してしまう私(笑)。これらの音楽映画を観て、かつて音楽好きだった自分の趣味の歴史を思い出したり、懐かしい人たちの姿を観て、過去を振り返ったり、いろいろな楽しみ方をできると思った映画の数々でした。なにより50年も前の映像を、今、観ることができるという発見は嬉しかった(暁)。
『エコー・イン・ザ・キャニオン』公式HP
2018年/アメリカ/ビスタ/83分/5.1ch
日本語字幕:本田久乃 配給・宣伝:アンプラグド
これまでの「極上のロック・ドキュメンタリー ROCKUMENTARY2022」の3本の作品は下記にて紹介しています。
『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/486944223.html
『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/487528181.html
『スージーQ』
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/487526374.html
おれらの多度祭
東京 K's cinema 2022年5月28日(土)より公開 連日10:20〜
ほかの劇場情報
暦応年間(1338-1341)に武士たちによって始められたと言われる三重県桑名市多度町の奇祭・多度祭。多度町は人口約1万人の町。
元亀二年(1571)、織田信長の軍勢により多度大社が焼き落とされ、それからおよそ30年中断されたが、それ以外は戦時中も一度も休まず続けられてきたと伝えられている。
多度町内の6地区がそれぞれ馬と騎手を選出し、毎年5月4〜5日で各地区3回づつ、馬と騎手が人馬一体となり約2メートルの崖を昇り越えられるかに挑戦する(上げ馬神事)。命がけの祭である。この祭りはコロナ感染拡大防止のため2020、2021、2022と休止中である。
この多度祭に携わる若者たちの姿を2016年から2018年にわたって追ったのは多度町出身の伊藤有紀監督。これまで、『まちや紳士録』『人情噺の福団治』などを撮っている。
多度祭は、馬と人間、人馬一体の壁への挑戦である。それに向けて、10代から20代の若者たちが集まり、騎馬の練習をする。その光景が幾度となく描かれる。都市化の中で馬を調達するのはどうしているのかと思ったら、そういう費用を持ってくれる篤志家の方がいて、馬自体は牧場とかで飼われているのを祭り用に借りてきて、この行事に向けて調教しているよう。
ただ、日常的に馬と接していないので、なかなか慣れるまでが大変そうだった。そして馬に乗って全速力で走り、最後は急坂と2mくらいの崖を越えるという難しいことに挑戦する。タイミングと馬の操作術を駆使できて、それは可能で、なかなか皆さん越えられない。何度も映されていたけど、ぴたりとそれが合ったのは1回くらい。越えられなくて悔し涙を流す若者の姿に、私も思わず涙。
馬と人間が走り抜けつつ何かに挑戦するという行事としては福島の相馬野馬追が有名だが、こちらの多度祭も勇壮な行事である。やはり祭りの時にはたくさんの人たちがやってくる。長く続く祭りではあるけど、続けていくには参加する若者たちの数を維持できるかが鍵。この地区の若者たちはあまり変化がなく、一定数の若者がいるというのが安心なのだろうか。上げ馬の最終地点、崖の直前の場所では、かつての若者たちも駆り出され守りを固めていたけど、以前に比べたら参加する若者の数が減っているのだろうか。
多度町は名古屋市まで電車で約40分という便利な立地で、名古屋のベッドタウンということで町に引っ越してくる人は少なくないけど、それらの人々は町内の店舗を利用したり、町内会などのコミュニティに参加することは少ないそう。少子高齢化も進み祭りを維持するのが大変そう。それは都市周辺の町が抱えている共通した状況かもしれない。多度祭の時期になると、町を離れ進学・就職していた若者たちや、町に残って暮らしていた若者たちが久しぶりに再会し、ともに祭に従事するという。そしてまた、祭が終わるとそれぞれの場所に帰っていく。一年に一回、たった数日間、町はかつての賑わいを取り戻す。
私は中学校時代の恩師が、山梨県の丹波山村(奥多摩湖の奥)に住んでいて、先生に頼まれ、そこの冬の祭り(お松引き)と夏の祭り(ささら獅子舞)の写真を撮りに行ったことがあるが、ここもかなり過疎の村になり祭りの維持が厳しい状況。でもこの祭りの時には村を離れた人々が帰ってきて祭りを盛り上げていた。どこも地方の現状は近いのかもしれないと思った(暁)。
おれらの多度祭 公式HP
監督・撮影・構成・編集・語り 伊藤有紀
出演 多度町小山地区のみなさん
2020/日本/ドキュメンタリー/カラー/60分
配給・宣伝 オフィスアリガト
後援 三重県
ほかの劇場情報
暦応年間(1338-1341)に武士たちによって始められたと言われる三重県桑名市多度町の奇祭・多度祭。多度町は人口約1万人の町。
元亀二年(1571)、織田信長の軍勢により多度大社が焼き落とされ、それからおよそ30年中断されたが、それ以外は戦時中も一度も休まず続けられてきたと伝えられている。
多度町内の6地区がそれぞれ馬と騎手を選出し、毎年5月4〜5日で各地区3回づつ、馬と騎手が人馬一体となり約2メートルの崖を昇り越えられるかに挑戦する(上げ馬神事)。命がけの祭である。この祭りはコロナ感染拡大防止のため2020、2021、2022と休止中である。
この多度祭に携わる若者たちの姿を2016年から2018年にわたって追ったのは多度町出身の伊藤有紀監督。これまで、『まちや紳士録』『人情噺の福団治』などを撮っている。
多度祭は、馬と人間、人馬一体の壁への挑戦である。それに向けて、10代から20代の若者たちが集まり、騎馬の練習をする。その光景が幾度となく描かれる。都市化の中で馬を調達するのはどうしているのかと思ったら、そういう費用を持ってくれる篤志家の方がいて、馬自体は牧場とかで飼われているのを祭り用に借りてきて、この行事に向けて調教しているよう。
ただ、日常的に馬と接していないので、なかなか慣れるまでが大変そうだった。そして馬に乗って全速力で走り、最後は急坂と2mくらいの崖を越えるという難しいことに挑戦する。タイミングと馬の操作術を駆使できて、それは可能で、なかなか皆さん越えられない。何度も映されていたけど、ぴたりとそれが合ったのは1回くらい。越えられなくて悔し涙を流す若者の姿に、私も思わず涙。
馬と人間が走り抜けつつ何かに挑戦するという行事としては福島の相馬野馬追が有名だが、こちらの多度祭も勇壮な行事である。やはり祭りの時にはたくさんの人たちがやってくる。長く続く祭りではあるけど、続けていくには参加する若者たちの数を維持できるかが鍵。この地区の若者たちはあまり変化がなく、一定数の若者がいるというのが安心なのだろうか。上げ馬の最終地点、崖の直前の場所では、かつての若者たちも駆り出され守りを固めていたけど、以前に比べたら参加する若者の数が減っているのだろうか。
多度町は名古屋市まで電車で約40分という便利な立地で、名古屋のベッドタウンということで町に引っ越してくる人は少なくないけど、それらの人々は町内の店舗を利用したり、町内会などのコミュニティに参加することは少ないそう。少子高齢化も進み祭りを維持するのが大変そう。それは都市周辺の町が抱えている共通した状況かもしれない。多度祭の時期になると、町を離れ進学・就職していた若者たちや、町に残って暮らしていた若者たちが久しぶりに再会し、ともに祭に従事するという。そしてまた、祭が終わるとそれぞれの場所に帰っていく。一年に一回、たった数日間、町はかつての賑わいを取り戻す。
私は中学校時代の恩師が、山梨県の丹波山村(奥多摩湖の奥)に住んでいて、先生に頼まれ、そこの冬の祭り(お松引き)と夏の祭り(ささら獅子舞)の写真を撮りに行ったことがあるが、ここもかなり過疎の村になり祭りの維持が厳しい状況。でもこの祭りの時には村を離れた人々が帰ってきて祭りを盛り上げていた。どこも地方の現状は近いのかもしれないと思った(暁)。
おれらの多度祭 公式HP
監督・撮影・構成・編集・語り 伊藤有紀
出演 多度町小山地区のみなさん
2020/日本/ドキュメンタリー/カラー/60分
配給・宣伝 オフィスアリガト
後援 三重県
2022年05月22日
狼たちの墓標 原題:강릉(カンヌン 江陵) 英題:TOMB OF THE RIVER
© 2021 ASCENDIO CO., LTD., DAYDREAM ENTERTAINMENT CO., LTD., BON FACTORY CO., LTD., JOY N CINEMA CO., LTD., ALL RIGHTS RESERVED.
監督・脚本:ユン・ヨンビン
撮影:ユン・ジュファン『技術者たち』
音楽:モク・ヨンジン『暗数殺人』
出演:ユ・オソン(『安市城 グレート・バトル』『友へ チング』)、チャン・ヒョク(『剣客』『僕の彼女を紹介します』)、パク・ソングン(『KCIA 南山の部長たち』)、オ・デファン(『ただ悪より救いたまえ』)、イ・ヒョンギュン(『幼い依頼人』)、シン・スンファン(『ベテラン』)
韓国・東海岸屈指のリゾート地・江陵(カンヌン)。平昌オリンピック(2018年2月)を半年後に控え、さらなる大規模開発に沸いている。この地を牛耳る組織の幹部キルソク(ユ・オソン)は、暴力に頼らず、秩序と義理を重んじて町を安定させ、地元警察からも一目置かれている。そんな彼の前に、巨大な開発利権を狙う新たな勢力が現れる。目的のためなら手段を選ばない非情な男ミンソク(チャン・ヒョク)が、キルソクの前に立ちはだかる。二つの組織の対立は、警察をも巻き込み血で血を洗う抗争へと発展していく・・・。
冒頭、2007年、南西部の港町・群山に密航船が漂着してくる。船には、殺した男のそばに血まみれになった男ミンソクがいた。密航してきた彼は、ある組織の人殺しなどの汚れ仕事や、臓器やクスリの売買で生き抜き、待遇が気に入らず会長をも殺し、手段を選ばずのし上がっていく。チャン・ヒョクが、これでもかという非情な男を演じきっています。
方や、ユ・オソンが演じるのは、「俺」よりも「俺たち」を常に大事にする義理堅い親分。海辺に佇むだけで、ただならぬ存在感を見せつけてくれました。
江陵出身のユン・ヨンビン監督は、いつか故郷を舞台に映画を撮りたかったとのこと。江陵の市場で繰り広げられる追走劇、日の出に夜景・・・ 海を眺めながら、「西海岸より、東海岸だな」という言葉に、監督の江陵愛をずっしり感じました。(咲)
2021年/韓国/カラー/シネスコ/5.1ch/119 分/韓国語
日本語字幕:金 仁恵
配給:クロックワークス
公式サイト: http://klockworx-asia.com/bohyo/
★2022年5月27日(金) より シネマート新宿 ほか順次公開
私だけ聴こえる
監督::松井至
共同監督:ヒース・コーゼンズ
プロデューサー:平野まゆ
コープロデューサー:ポール・カデュー
撮影:ヒース・コーゼンズ
編集:ハーバート・ハンガー
サウンドミキサー:高梨智史
カラーグレーディング:齋藤直彦
音楽:テニスコーツ
コーダ(CODA:Children Of Deaf Adults):耳の聴こえない親から生まれた、耳の聴こえる子どもたち。1980年代のアメリカで生まれた造語。
家では親と手話で、外に出れば口話で話す彼らは、学校では“障害者の子”扱い、ろうからは「耳が聞こえるから」と距離を置かれる。本作は、コーダという言葉が生まれたアメリカでコーダ・コミュニティを取材した初めての長編ドキュメンタリー。
2015年、松井至監督は、東日本大震災の番組制作の過程で、津波から生還したろうの人々を訪ねる。そこで知ったのは耳の聴こえる子供たちが津波からろうの親を救ったという事実。番組のレポーターで手話通訳者のアシュリーから、CODA:Children Of Deaf Adultsという言葉を初めて聞かされる。アシュリー自身もコーダで、「ろうの世界と聴者の世界のあいだで育ち、居場所を失い、ストレスに苛まされる」と気持ちを明かされ、コーダのドキュメンタリーを作ってほしいと言われる。
松井監督は、さっそくアメリカ中西部に住む10代のコーダたちを訪ねる。
ろうの世界に慣れ親しんで育ったナイラは、学校になかなか馴染めなくて「デフ(ろう)になりたい」と悩む。
ろうのシングルマザーに育てられたジェシカは、母親の通訳を担ってきたが、大学進学で家を出ることになり葛藤する。
MJは、コーダである自分の人生を手話で物語ることで肯定し友達を作ろうとする。
そんな聴こえる世界にもろうの世界にも居場所がなく悩む彼らが、一年に一度の“CODAサマーキャンプ”の時だけ、同じ立場の子供たちと共に過ごして、ありのままの自分でいられる姿も目撃する・・
代々、ろうの家系のナイラの一族が、手話で豊かに会話する姿も映し出して、ろうにはろうの世界があることを見せてくれます。どちらの世界も身をもって知っていることは、それだけ感受性も豊かな心を持てると思うと同時に、葛藤もわかります。
聴者として生まれたアシュリーが妊娠して、生まれてくる子がろうかもしれないと医者から言われた時の戸惑う気持ちも身に沁みます。
行きついた「自分は自分、ありのままでいい」という気持ちは、コーダだけでなく、私たちの誰しもに通じるものでしょう。
フランス映画『エール!』のリメイクの『コーダ あいのうた』(2021年、シアン・ヘダー監督、アメリカ・フランス・カナダ合作)がアカデミー賞で作品賞、脚色賞、助演男優賞(トロイ・コッツァー)の3冠に輝き、「コーダ」という言葉も認知されるようになりました。
2015年からコーダを追い続けてきた松井監督にとっても思いがけない朗報ではないでしょうか。(咲)
「CODA」という言葉を初めて聞いたのは、イギル・ボラ監督が2015年の山形国際ドキュメンタリー映画祭でアジア特別賞を獲った『きらめく拍手の音』(2014)だった。聾唖の両親を描いた明るい家族の話。2017年に日本公開もされたのに知らなくて、去年(2021年)正月、ポレポレ東中野で上映されていたので観にいった。「CODA」である自分と明るい両親、弟との生活を撮ったものだったけど、子供のころから両親の通訳をしていて、それなりに苦労はあり、それも描かれていた。そして『Coda あいのうた』も聾唖の両親と兄の家族の元、「CODA」を務める女の子の話で、自分がやりたいことと両親を助けたいという思いとの間で葛藤する。でも両親の理解で歌の世界に旅立つ少女の物語が描かれ感動的だった。
この『私だけ聴こえる』では、そういう「CODA」の少年少女たちのキャンプが描かれ、葛藤を抱える彼らの思いが共通にあるということが描かれていた。それにしても、こんなにもたくさんの若い子たちが聾唖の家族をかかえ葛藤を抱えて生きていたんだと改めてしらされ、そういう思いがわかる仲間との出会いが、彼らの気持ちを解放してくれるということが描かれる。自分らしくいられる場所がこのキャンプ。私は私でいいと納得し、自分の居場所をみつけて帰っていく。私の身近にそういう人がいたら、私ができることは何だろうと考えさせられた(暁)。
*スタッフ日記
2020年最後に観た映画『越年 Lovers』と2021年最初に観た映画『きらめく拍手の音』
http://cinemajournal.seesaa.net/article/479577610.html
2022年/日本/カラー/DCP/5.1ch/76分
配給:太秦
公式サイト:https://www.codamovie.jp/
★2022年5月28日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
20歳(はたち)のソウル
企画・監督:秋山 純
脚本:中井由梨子
原作:中井由梨子
「20 歳のソウル 奇跡の告別式、一日だけのブラスバンド」(小学館 刊)
「20 歳のソウル」(幻冬舎文庫)
出演:
神尾楓珠
尾野真千子 福本莉子 佐野晶哉(Aぇ! group/関西ジャニーズ Jr.)
前田航基 若林時英 佐藤美咲 宮部のぞみ 松大航也
塙宣之(ナイツ) 菅原永二 池田朱那 石崎なつみ
平泉成 石黒賢(友情出演)/高橋克典
佐藤浩市
千葉県船橋市立船橋高等学校(市船)の応援曲「市船 soul」。この曲は、市船を勝利へと導く神応援曲。作曲したのは、吹奏楽部に所属していた浅野大義さん。
本作は、高校卒業後、2017年1月に20歳という若さで天国に旅立った浅野大義さんの物語。
屋上でトロンボーンを吹く浅野大義(神尾楓珠)。市立船橋高校に入学し吹奏楽部に入った大義。顧問・高橋健一先生(佐藤浩市)から、「今しか出来ないことを精一杯やれ。高校生活には限りがある。今を大切に」と檄を飛ばされる。大きな応援旗を振ろうとするが、1年生の大義には重すぎた。仲間たちと青春を謳歌し、心身ともに成長していく大義。重い応援旗も大きく振れるようになる。やがて大義は、市船・野球部のために応援曲の作曲に挑戦する。高橋先生の指導や親友・佐伯斗真(佐野晶哉 <Aぇ! group/関西ジャニーズJr.>)の助け、母・桂子(尾野真千子)の応援も得て、「市船soul」を完成させる。「市船soul」は、試合でいざという時に演奏されるとたちまち得点し、“神応援曲”と呼ばれる様になる。大義は、高橋先生の様な教師になりたいと音楽大学を受験。無事合格し、夢に向かってキャンパスライフをおくっていたが、ある日、大義が身体に異変を覚えて診察を受けると、癌に侵されていることが判明する・・・
20歳で短い生涯を閉じた浅野大義さんの告別式では、高橋先生の呼びかけで「市船ソウル」を皆で演奏して天国に送ろうと、164人の吹奏楽部員が集まりました。撮影したのは、実際に大義さんの告別式が行われた葬儀場。164人という人数に驚きます。
高校時代に作曲した「市船ソウル」が今も応援曲として奏でられ、こうして映画にもなったことを天国にいる大義さんは、びっくりしながらも嬉しい思いで眺めていることでしょう。
屋上での応援練習や、球場での高校野球の応援風景をみて、高校に入学してすぐ、屋上に集められて応援団の指導のもと応援練習をしたり、県大会の応援に行ったりしたことを懐かしく思い出しました。そして、同じクラスで席が近かったY子さんが、大義さんと同じ20歳で白血病で旅立ってしまったことも・・・。
自分がいつまで生きていられるのかはわかりません。「今を大切に」という言葉をいつも忘れないようにしたいと思います。(咲)
船橋市立船橋高等学校(市船)という学校を初めて知った。あんなに大がかりな応援団や吹奏楽部がある学校というのがあるのも初めて見た。もしかしたら野球部の為にあるのか…。全国大会に出るような部活があるような学校は、あんな感じなのか…。それにしてもすごくたくさんの部員がいるのだと驚いた。実話に基づく作品ということで、実際の吹奏楽部の生徒たちが協力をしているが、才能ある若者たちの成長物語としてみても、ほろ苦く胸に刺さる。
あの屋上での大旗振りは、かなり大変だったろうなと思うし、応援部とのコラボも大人数ですごい。私はこういう青春は味あわなかったけど、こういう経験は大人になっても大きな糧になっていくのではないだろうかと思う。私もこういう経験をしてみたかったと、この作品を観て思った(暁)。
2022年/日本/136分
配給:日活
公式サイト:https://20soul-movie.jp/
★2022年5月27日(金)全国ロードショー
ウォーハント 魔界戦線 原題:War Hunt
監督・製作・脚本:マウロ・ボレッリ
出演:ミッキー・ローク、ロバート・ネッパー、ジャクソン・ラスボーン、アグラヤ・タラーソヴァ、アンナ・パリガ、ロー・スタッセン、ポリーナ・プシュカレヴァ・ニオリー
1945年、第二次世界大戦末期のドイツ戦線。連合軍の輸送機が、カラスの大群に襲われてドイツ南部の黒い森に墜落。米軍のジョンソン少佐(ミッキー・ローク)は、捜索の指揮をとるブリューワー軍曹(ロバート・ネッパー)に、ウォルシュ(ジャクソン・ラスボーン)という若い特務兵を連れて行くよう命じる。輸送機に積まれていた機密文書の回収がウォルシュに課せられた任務だった。捜索隊は森の中でドイツ部隊と遭遇し交戦するが、敵兵は正気を失い廃人のようだった。ようやく輸送機の残骸を発見するが、乗員の死体は見当たらない。やがて、奇怪な事態が起き始め、捜索隊の兵士たちは幻覚を見るようになる・・・
ウォルシュが回収するよう命じられていた機密文書は、『魔女の記録』という、ヒトラーが追い求める“永遠の生命”の秘密が記されたもの。ウォルシュは、生命の樹を見つけ、ついに永遠の生命を得る秘密を知るという物語。戦争アクションが、いつしかホラーにという展開。
妻の写真を見ながら、「神様、もう一度妻に会わせて」という兵士の前に、妻が現れます。幻想でもいいから会いたい・・・と、現実に戦地にいる男たちは思うのだろうなぁ~と、切なくなくなりました。(咲)
2022年/アメリカ/93分/G
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:http://war-hunt.com/
★2022年5月27日(金)より、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国公開.
2022年05月19日
ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇(原題:Ghost Fleet)
監督:シャノン・サービス、ジェフリー・ウォルドロン
出演:パティマ・タンプチャヤクル、トゥン・リン、チュティマ・シダサシアン(オイ)
あなたの買っているシーフードやペットフードは「海の奴隷」が捕ったものかもしれない。
ゴースト・フリートは幽霊船の意味。この漁船ではミャンマー、ラオス、カンボジアなどから「良い仕事がある」と騙され、または拉致されてタイの漁業会社に集められた人々が働いている。実際は監禁されて過酷なタダ働きをしている奴隷労働者である。IUU漁業と呼ばれ(*)、タイのバンコクでNGO「労働者推進ネットワーク(LPN)」を立ちあげたパティマ・タンプチャヤクルや、自身も11年間奴隷労働した経験のあるトゥン・リンたちが救出にあたっている。彼らは脅迫など数々の困難に直面しながら、インドネシアの離島に逃げた男性たちを救出するために命がけの航海へと漕ぎ出していく。
タイは世界有数の水産国で、日本のタイからの水産物輸入高は世界第2位だそうです。日本は海に囲まれて豊かな漁場に恵まれているはずですが、安価なタイからの輸入品を歓迎してきたのでしょう。その陰でこんなにひどい搾取が行われていたとは全く知らずにいました。白身魚のフライなどの冷凍品が安いのは、それだけの理由がありました。反省しきりです。
人身売買業者によって、奴隷にされ故郷に帰れない人々を、パティマさんたちは探し、助けてきました。2015年3月から9月までの6ヶ月間にインドネシア沖の島から5000人以上が救出され、出身国に帰国しました。少年のときに連れ去られた息子を必死で探していた親御さんとの再会場面ではもらい泣きしてしまいました。
夫のソンボンさんと愛息を置いて、遠くの島へと船を走らせるパティマさんは風格ある肝っ玉母さんという感じです。2017年ノーベル平和賞にノミネートされました。受賞は”核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)”でしたが、個人的にはパティマさんにあげたい。(白)
年齢のせいでしょうか。肉よりも魚を選ぶことがめっきり増えました。でも魚って切り身で買うと高いんですよねぇ。魚だけでなく海老も。揚げるだけになっている冷凍品は品物によってはすごく安くて、つい手が伸びてしまうのですが、安さのカラクリがこの作品で分かりました。
それにしても酷い話です。本人の意思とは関係なく拉致して働かせる。ありえません。しかも船上なので逃げられない。給油のときとかに逃げ出せばと作品を見るまで思っていましたが、全ては大きな船が運んでくる。陸地のカケラも見えない海の上で何十年と延々と漁が続けられる実態に闇の深さが伝わってきます。
救出活動を続けるパティマさん。闇社会から抹殺される可能性もあるはず。それでも活動を止めない彼女たちに私たちができることは安い魚に手を出さないということでしょうか。(堀)
私たちの生活と密接に繋がりながらも、私たちが知ることがなかったシーフード産業の闇に迫る驚くべき衝撃の事実を知った。奴隷労働5年、7年、12年…。信じられないけど現代も奴隷が存在し、東南アジアの海で「海の奴隷たち」が私たちの食卓に並ぶ魚を捕っている。数万人も存在するといわれ、ゆっくり眠ることも許されず、長時間漁船で働かされる男たちの過酷な実態が描かれる。
日本は決して無関係ではない。私自身、スーパーで魚を買う時に、なぜ安いのか考えずに、なるべく安いものを買おうとしてきた。労働に対する賃金が支払われず働かされていた人たちがいての安い魚だったんだ。これはぜひ、魚の輸入に携わる人たちやスーパーで魚を仕入れる人に観てほしい。でも、そういう日本人は実態を知っているのかもしれない。それでもこれを観たら、日本人として考えるところはあると思う。
パティマ・タンプチャヤクルさんたちの命懸けの活動もすごいけど、自身11年間奴隷労働し、タイ語、インドネシア語を繰るミャンマー人のトゥン・リンさんも、脅迫など数々の困難に直面しながらパティマさんたちに協力する。彼がいるから彼女たちの救援活動も進められるのだと思う(暁)。
*IUU漁業とは”Illegal, Unreported and Unregulated”漁業=「違法・無報告・無規制」に行なわれている漁業のことで、いわゆる密漁だけでなく、不正確および過少報告の漁業、旗国なしの漁船による漁業、地域漁業管理機関(RFMOs)の対象海域での、認可されていない漁船による漁業も含まれます。
2018年製作/アメリカ/90分
配給:ユナイテッドピープル
特別協力:WWFジャパン
(C)Vulcan Productions, Inc. and Seahorse Productions, LLC
https://unitedpeople.jp/ghost/
★2022年5月28日(金)よりシアター・イメージフォーラム他にて全国順次ロードショー
犬王
監督:湯浅政明
原作:「平家物語 犬王の巻」古川日出男著/河出文庫刊
脚本:野木亜紀子
キャラクター原案 :松本大洋
音楽:大友良英
アニメーション制作:サイエンスSARU
声の出演:アヴちゃん(女王蜂)、森山未來、柄本佑、津田健次郎、松重豊
室町の京の都、猿楽の一座に生まれた異形の子、犬王。周囲に疎まれ、その顔は瓢箪の面で隠された。
ある日犬王は、平家の呪いで盲目になった琵琶法師の少年・友魚(ともな)と出会う。名よりも先に、歌と舞を交わす二人。 友魚は琵琶の弦を弾き、犬王は足を踏み鳴らす。一瞬にして拡がる、二人だけの呼吸、二人だけの世界。
「ここから始まるんだ俺たちは!」
壮絶な運命すら楽しみ、力強い舞で自らの人生を切り拓く犬王。呪いの真相を求め、琵琶を掻き鳴らし異界と共振する友魚。乱世を生き抜くためのバディとなった二人は、お互いの才能を開花させ、唯一無二のエンターテイナーとして人々を熱狂させていく。頂点を極めた二人を待ち受けるものとは――?
歴史に隠された実在の能楽師=ポップスター・犬王と友魚から生まれた、時を超えた友情の物語。
原作を手にしたときに、その文体に「わ!」と驚きましたが、犬王の先が心配で読み進みました。湯浅政明監督&松本大洋さんの絵、それに、数々のドラマ(好き!)を書かれた野木さんの脚本です。アニメーションではこう表現されるのか~。
犬王は異形に生まれ、友魚は呪いによって目が見えなくなり…だからこそ出逢った2人です。自分の好きなものに向かって進む彼らの周りには、身過ぎ世過ぎにとらわれる人もいますが、2人はただただまっすぐ。犬王が一つのパフォーマンスを終えると、異形の身体の一つが取り戻せます。犬王ならば、生まれたままの姿でも、取り戻さずともきっと生き抜いただろうと思えます。
アヴちゃんの力強い声に、ライブを観ているような感覚になりました。実写の映像からアニメを起こしたのかな。原作、スタッフ、キャストそれぞれのファンが劇場で観たなら、今まで知らなかった別の世界の良さがわかるんじゃないでしょうか。(白)
平家の栄枯盛衰を描いた平家物語。
現代になってスピンオフ的に書かれた小説が原作です。
「そうはいっても能楽師と琵琶法師の話でしょ。何を歌っているのか意味が分からず眠くなるんじゃない?」なんて思った方にこそぜひご覧いただきたい! 湯浅政明監督がダイナミックな演出と音楽で映像化。歌詞の意味は聞き取れたところだけ分かれば大丈夫。ただリズムと空気感を体で楽しめばいいんです。思わず拳を突き上げ、足を踏み鳴らしたくなること請け合い。(でも映画館では堪えてくださいね)「それってこの時代でもできる?」といった仕掛けも出てきますが、よく見ると背景にちゃんと舞台装置が作られていて、リアリティにも配慮がされています。
見どころは音楽シーンだけではありません。呪いによって人とは異なる体つきで生まれてきた犬王が友魚と知り合い、お互いの良さを認め合う。自分とは違う人を受け入れるというテーマは今だからこそ考えたいこと。政治的な圧力を掛けられたとき、2人は正反対の決断を下しますが、それぞれの思いが伝わってきて、自分にとって大切なものを守ることの難しさを感じます。
この作品はいずれどこかの配信サービスで見ることが出来るかと思いますが、小さい画面で見るのではなく、大きなスクリーンで見てほしい。心からそう思える作品です。(堀)
2021年/日本/カラー/シネスコ/97分
配給:アニプレックス、アスミック・エース
公式サイト: https://inuoh-anime.com
公式Twitter:@inuoh_anime
(c)2021 “INU-OH” Film Partners
★2022年5月28日(土) 全国ロードショー
瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと
監督:中村裕
製作:朝日新聞社、KADOKAWA、平成プロジェクト、スローハンド、クイーンズカンパニー、徳島新聞社、京都新聞、朝日放送テレビ
制作:スローハンド
協力:曼陀羅山 寂庵
出演:瀬戸内寂聴
瀬戸内寂聴さん大正11年5月15日生まれ。 2022年5月15日で満100歳を迎えるはずだったが、2021年〈令和3年〉11月9日惜しまれつつ亡くなった。
本作は<生誕100年記念>として作られたドキュメンタリー。中村裕(なかむらゆう)監督は17年間、撮影し続けた。2015年にNHKスペシャル「いのち 瀬戸内寂聴 密着500日」(ATP賞ドキュメンタリー部門最優秀賞受賞)のディレクターもつとめ、長年、寄り添い続けた監督だから描ける<誰も知らない瀬戸内寂聴>、その金言の数々がスクリーンに映し出される。
小説家としての瀬戸内晴美さんはなんだか苦手意識がありました。ほとばしるようにたくさん書かれていた著書も1,2冊読んだだけです。ところが得度されてからは、赤裸々な欲望から遠くなったのかチャーミングになられました。長いお付き合いで気の置けない中村監督とのやりとりはなんだか可愛らしく、それまで私が抱いていたイメージがすっかり変わりました。登場するたび違うセーターを着ていた寂聴さん、デザインや色がまたどれも若々しく素敵です。
そんな中に夫や娘を捨てて家を出たことを悔いている場面もあり、この世でのいろいろを片付け、書きたいものを書き(まだ構想があったようですが)身軽になって逝かれたのかなと思いました。(白)
霜降り肉のすき焼きにステーキ、脂の乗ったトロやウニ、いくら。寂聴さんは本当によく召し上がる。肉を食べると頭がよくなるのよと和かに笑っていらっしゃるが、90代にになってもエネルギッシュに生きる活力はこの食欲が支えているのだろう。外食にも出掛けられ、天ぷらやスッポンのお店にスタスタと入っていかれた。蛍狩りで何度も足を運ばれた清滝と合わせて、隠れた京都のおススメスポットを紹介するグルメ番組のよう。
もちろん、寂聴さんの生き様そのものも映し出す。寂庵で月1回開かれていた講話では笑いを取りつつ、死生観が語られた。話を聞きたいと集まってくる大勢の聴衆の気持ちがよくわかった。機会があったら聞いてみたかったと思う。
それにしても表情豊かな寂聴さんにびっくり。zoomでの講話がうまくいかず、「裕さんに申し訳ない」と泣く寂聴さんはまるで純真な少女。子どもほど歳の離れた監督に恋心を抱いていたのが伝わってきました。生きる活力の源はそこにあったのかもしれません。(堀)
瀬戸内寂聴さんの小説は読んだことがないけれど、TVやラジオなどでの話や行動、活動は好きでした。ユーモアある語り口、本音でズバリいう所も好きです。瀬戸内晴美さんの生きた時代、女性が自分が生きたいように生きるというのは、かなり勇気のいること。若い頃から自身の考え方をぬいて生きてきたこと、あっぱれな生き方だと思います。そして得度してからの講話も味があります。参加した人の思いを汲んだ回答の仕方。長い経験から来るアドバイスの仕方、見事です。そしてかわいらしさを持っている人だなと思いました。
そして、17年に渡る取材でしっかり信頼関係を築いた中村裕監督だからこそ撮れた瀬戸内寂聴さんの素顔。ニュースや番組などでは観ることがない、自宅での誰も知らない寂聴さんの姿がたくさん映し出されていました。自宅での食事風景や執筆光景なども何度も映し出されていましたが、とにかくよく食べる。肉や海鮮。映し出されたのは贅沢な食風景。おいしそうな料理。専属の料理人がいたのかなとも思いました。秘書の方以外にもいつもいる方(お手伝いさん?)が映っていました。とんかつみたいな少し硬いものも食べていたので、きっと歯も丈夫だったのでしょう。歯が丈夫な方は長生きなのかもしれません。そういえば、女性報道写真家の草分け笹本恒子さんは、今、107歳!、90すぎからよくマスコミに出てきていたけど、やはりすき焼きや肉を食べ赤ワインを飲んでいて、これが元気の秘訣と言っていたけど、寂聴さんのこのドキュメンタリーを観て、ほんとにそうかもと思いました。
晩年も、忙しく執筆や講演など続をけ、「時間が足りない」と言っていました。リハビリも作業療法士さんが来て、やっていて続けていたのも長生きできた理由だったのかもしれません。「したいこと全部したから、いい人生だったと思う」と語っていましたが、私もそういう風に生き抜けたらと思いました(暁)。
2021年/日本/カラー/G/99分
(c)2022「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」製作委員会
配給:KADOKAWA
公式サイト
https://movies.kadokawa.co.jp/jakuchomovie/
★2022年5月27日(金)緊急公開!
2022年05月15日
ドンバス 原題:Донбасс 英題:Donbass
監督・脚本:セルゲイ・ロズニツァ(『国葬』『粛清裁判』『アウステルリッツ』)
出演:ヴァレリウ・アンドリウツァ、ボリス・カモルジン、イリーナ・プレスニャエワ、スヴェトラーナ・コレソワ、セルゲイ・コレソフ、タマラ・ヤツェンコ、トルステン・メルテン、リュドミーラ・スモロジナ、セルゲイ・ルスキン
ウクライナ東部ドンバス地方。
ロシアと国境を接するこの地域にはロシア系住民が多く住んでいる。2014年、親ロシア派勢力「分離派」が一方的にウクライナからの独立を宣言し、実効支配。ウクライナ系住民との分断が深まり、ウクライナ軍との武力衝突が日常的に起きている。
本作は、内戦状態のドンバスを舞台に、ウクライナ出身のセルゲイ・ロズニツァ監督が⾵刺を織り交ぜながら描いた劇映画。2018年カンヌ国際映画祭《ある視点》部門監督賞受賞作品。
映画は、ロシアとウクライナの複雑なしがらみを理解するため、ドンバス地方での実話に基づく13のエピソードで構成されています。
冒頭、厚化粧を施す女性。実は、フェイクニュースを撮影するために集められたクライシスアクターと呼ばれる俳優たち。続いて、次々と下記の物語が連なります。
仕組まれた市議会襲撃事件
仕組まれた産婦人科物資横領事件
分離派占領区に帰省する男性住民の携帯と体を調べる検問所
ドイツ人記者が見た前線の様子とロシア正規軍の影
地下シェルターでフェイクニュースに怯える住民
占領区政府に近寄ろうとするマイナーな宗教
略奪行為を働いた分離派兵士への懲罰
住民の財産を略奪する分離派地域警察
リンチされるウクライナ義勇兵の捕虜
分離派占領区の結婚セレモニー (迫力ある花嫁と、物腰柔らかい新郎は本物の夫婦)
両軍による激しい交戦
冒頭のクライシスアクターたちが登場し、新たなフェイクニュースの撮影・・・
映画を製作した当時、実話に基づいたとはいえ、作った物語だったものが、今、毎日、ニュースで流されている現実と重なります。
携帯の履歴をみて、親ロシアか反ロシアかを見定めることも現実に行われていること。
反ロシアを掲げていた老いたウクライナ義勇兵がリンチされる姿には、いたたまれない思い。
こうした複雑な土地では、どちら側という意思をはっきりさせないで、身を処することが生き延びるコツだと思い知らされます。携帯には何も残さないことが肝心ですね。
旧ソ連の全体主義とロシアの独裁政治体制に反対する作品を数多く発表し、ロシアの本質を語ってきたセルゲイ・ロズニツァ監督。
先⽇、包括的なロシア映画のボイコット運動に異論を唱えた事で、ロズニツァ監督はウクライナ映画アカデミーから除名処分を 受けました。このことに対し、ロズニツァ監督は3⽉14⽇に、「ロシアの映画⼈の中には、公然と戦争を⾮難し、政権に反対を表明している⼈たちがいます。ある意味、彼らも私たちと同じようにこの戦争の犠牲者なのです」と異論を唱え、「このような集団責任をロシア映画コミュニティ全体に課すことがないよう、今の社会はより知的で洗練されたものであると願う」と表明しています。
これは映画に限らず、今、起こっている対ロシア制裁の動きにも同じことがいえるのではないでしょうか。制裁は、ロシアの庶民を苦しめるだけでなく、制裁を加えた側の国の庶民にも弊害が跳ね返ってきます。今、世界がするべきことは、戦争をやめさせることであるはずです。ウクライナに武器支援しても戦争を煽るだけで、戦争を終わらせることはできません。
映画『ドンバス』は、戦争が土地や建物だけでなく人々の心をも破壊するいかに愚かなものであるかを教えてくれます。 ロズニツァ監督の思いが、戦争を引き起こしている権力者に届くことを祈るばかりです。(咲)
※ドンバス戦争について
2014年、ロシアとの接近を図る政府に対する反政府デモから始まったマイダン⾰命で、親ロシア 派だったヤヌコーヴィチ⼤統領が失脚すると、ロシアはウクライナの領⼟であるクリミア半島を ⼀⽅的に併合し実効⽀配する。同時期にウクライナ東部ドンバス地⽅(ドネツィク州とルハンシ ク州)に、ロシア軍の⽀援を受ける「分離派」が独⽴を宣⾔し、ウクライナ軍との軍事衝突が勃 発する。ウクライナはナチス・ドイツに占領された時期には⻄部地⽅を中⼼にして反ソ連の動き が⾒られた⼀⽅、東部地⽅は親ロシア派の住⺠が多いなど、国内の歴史的経緯や地域対⽴は複雑 であり、ロシアの介⼊も相まって分断は深まっていった。
2018年/ドイツ、ウクライナ、フランス、オランダ、ルーマニア/ウクライナ語、ロシア語/121分
日本語字幕:守屋愛
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/donbass
★2022年5月21日から渋谷・シアター・イメージフォーラムにて2週間限定先行公開
6月3日から東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、その他全国順次ロードショー
◆ロズニツァ監督最新作 2作品 シアター・イメージフォーラムにて公開
◉『Babi Yar. Context』(9⽉下旬)
第⼆次世界⼤戦中にウクライナで起きた、ユダヤ⼈⼤量虐殺事件の歴史を再構成するアーカイヴ映画。 (2021年カンヌ国際映画祭特別上映作品 / ルイユ・ドール 審査員特別賞受賞)
◉『Mr. Landsbergis』
リトアニア⾰命の指導者ヴィータウタス・ランズベルギスの証⾔ドキュメンタリー(2021年アムステ ルダム国際ドキュメンタリー映画祭最優秀作品賞、最優秀編集賞)
両作の配給:サニーフィルム
シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~(原題:Military Wives)
監督:ピーター・カッタネオ
出演:クリスティン・スコット・トーマス、シャロン・ホーガン
愛する人を戦地に送り出し、最悪の知らせが届くことを恐れながらイギリス軍基地に暮らす軍人の妻たち。大佐の妻ケイト(クリスティン・スコット・トーマス)は、そんな女性たちを元気づけ、共に苦難を乗り越えるための努力を惜しまないが、その熱意は空回りするばかり。そんな中、何気なく始めた“合唱”に、多くの女性達が笑顔を見せ始める。女性達のまとめ役リサ(シャロン・ホーガン)も、かつて慣れ親しんだキーボード・ピアノをガレージから引っ張り出し、積極的に関わり始める。
しかし、ケイトとリサは方針の違いで衝突を繰り返し、集ったメンバーたちも、美しい声を持っているのに人前で歌えなかったり、合唱を楽しむあまり音程を無視して歌ったりと、心も歌声もてんでバラバラ。担当将校も耳を覆う有り様だったが、心情を吐露するように共に歌い続けるうちに、同じ気持ちを持つ仲間として互いを認めていく。心が一つになっていくにつれ、次第に美しい歌声を響かせるようになった合唱団のもとに、ある日、毎年大規模に行われる戦没者追悼イベントのステージへの招待状が届く。思いがけない大舞台に浮足立つ妻たちだったが、そんな彼女たちの元に舞い込んだのは、恐れていた最悪の知らせだった。
イギリス軍基地で愛する人の帰りを待つ女性たちが合唱団を結成した実話をベースにして生まれたフィクションです。監督や脚本家たちが合唱団の女性たちに丁寧な取材をして物語を紡いでいきました。脚本家は女性ですが、それは監督が “主人公たちが女性なので制作にあたっては女性の視点が入った方がいい”と考えたから。脚本家の2人が合唱団の女性たちと仲良くなって様々なエピソードを聞き出し、作品に反映しているそうです。女性の軍人が同性婚パートナーと一緒に基地に住んでいることに驚きました。イギリスでも多くはないけれど、起こりうる話とのこと。多様なキャラクターが描かれています。
劇中で合唱団がシンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」、ティアーズ・フォー・フィアーズの「シャウト」など、80年代のヒット曲を歌います。懐かしくなって思わず一緒に歌ってしまいそうになること必至!
合唱団の女性たちのパートナーはアフガニスタンに派兵された設定ですが、ウクライナで現実に起きていることを思うと複雑な気持ちになります。しかし本作が伝えようとするテーマは大切な人を想う仲間たちと互いに支え合って苦難を乗り越える絆。自分を表現する場所があると人はこんなにも強くなれるのだと教えられました。(堀)
原題は、Military Wives(軍人の妻たち)。
任地に送り出したら、もしかしたら、二度と会えないかもしれない・・・ 夫が任地から無事帰ってくることを祈りながら、同じ立場の妻たちが寄り添って歌う姿に、世界各地にいる軍人の妻たちの気持ちに思いを馳せました。夫とやりとりした手紙の中から選んだ言葉を紡いで作った曲が、切なかったです。
同じ立場だった妻たちですが、その後、悲報を受け取る妻もいれば、重傷を負ってでも帰還した夫を迎える妻もいます。それが、軍人の妻の運命とはいえ、お互い、どう接したらいいのか複雑な思いでしょう。
それにしても、戦争のない世界はいつになったら実現するのでしょう・・・(咲)
イギリス軍の基地からアフガニスタンの戦地への従軍と最初に出てきて、アメリカに追随し、アフガニスタンを土足で踏み荒らし、結局はタリバンが支配するようになってしまったアフガニスタンのことを思うと、イギリス軍の銃後を描いた映画なんて「これはイギリスのプロパガンダ映画か」と、最初はムッとしたものの、敵味方関係なく、パートナーを戦地に送り出すということは、「愛する人を失うかもしれない」という意味では、どちらも同じ感情をいだくということだと思いながら観た。
基地という小さなコミュニティの中で暮らし、大切な人を想う気持ちを仲間たちと分かち合い、支え合って乗り越えていく女性たちの絆。「合唱」という表現方法をみつけ、歌う喜びを知っていく彼女たちの表情の変化。最初はなかなかかみ合わず聴くに堪えない歌だったけど、だんだんにうまくなる合唱に引き込まれる。そして彼女たちは自信をもってゆく。最後には、実際に戦地から届いた手紙から歌が作られ、彼女たちの心情が伝わり、悲しみや喜びを織り込んだ作品に仕上がった(暁)。
2019年/イギリス/英語/上映時間:112分/スコープ/5.1ch/
配給:キノフィルムズ
© MILITARY WIVES CHOIR FILM LTD 2019
公式サイト:https://singasong-movie.jp/
★2022年5月20日(金)より全国順次公開
a-ha THE MOVIE 原題:A-HA: THE MOVIE
監督:トマス・ロブサーム、アスラーグ・ホルム
製作:イングヴィ・セーテル、トマス・ロブサーム
脚本:トマス・ロブサーム
撮影:アスラーグ・ホルム
編集:ヒルデ・ビョルンスタット
出演:モートン・ハルケット、ポール・ワークター=サヴォイ、マグネ・フルホルメン
a-ha。
1982年にポール・ワークター=サヴォイ(ギター)、マグネ・フルホルメン(キーボード)、モートン・ハルケット(ボーカル)の3人によりノルウェー・オスロで結成されたシンセポップバンド。
1985年に革新的なMVが大きな話題を呼んだデビュー曲「テイク・オン・ミー」が米ビルボード1位を獲得。ノルウェーのアーティストとして初めての快挙。
ファーストアルバム「ハンティング・ハイ・アンド・ロウ」が全世界で1,100万枚以上のセールスを記録し、その後もヒット曲が次々に生み出されるが、栄光の影で次第にメンバーの間に溝が生まれていく。
本作は、3人の出会い、バンドの誕生、狂騒の80年代から90年代、解散、そして再結成を経て、いまも進化し続けるa-haの軌跡を追ったドキュメンタリー。
これほどの実績を持つのに、a-haの名前を知りませんでした。さすがに、「テイク・オン・ミー」の印象的な出だしは聴いたことがありました。「売れる曲には必ず耳に残る部分がある」と映画の中で語られていました。確かに! そんなa-haを知らなかった私にとっても、本作は興味深いドキュメンタリーでした。
アニメーションと写真で綴られる少年時代の3人のエピソード。ポールとマグネがボーカルを探していて、声がいい奴がいるとマグネがモートンに最初に会った時のこと。トランペット奏者だったマグネの父は飛行機事故で亡くなっているのですが、その飛行機が落ちるのをモートンが見ていたという偶然。でも、その時には、モートンはマグネとバンドを組むことになるとは思っていなかったそう。
その後、3人でバンドを結成するのですが、曲作りを巡っての意見の違いはしばしば。1985年以来のカメラマンも、3人一緒に撮るのを嫌がられることがあると証言しているほど。解散しても再結成という3人。「音楽を通した絆で一緒に入れた。友情じゃない」と言い切るところがまた凄い。
a-haに親しんできた方たちにとっても、素の彼らの姿をみることができて面白いこと間違いなし! (咲)
a-haの「テイク・オン・ミー」を聞くと今でも学生時代を思い出し、気持ちがアップテンポになってしまう。それなのに、実写とアニメーションが融合した斬新さが話題になったMVのこと、本作を観るまですっかり忘れていた。恥ずかしい…
彼らがメジャーになるまでに経験した辛さ、「テイク・オン・ミー」で爆発的に売れたからこそ始まった苦労。インタビューを交えて丁寧に映し出します。“a-haのこと、実は何も知らなかったんだ”と気づかされつつ、彼らが過ごしてきた40年弱に自分もいろいろ経験してきたことを改めて振り返る。そうして、もう一度聴く「テイク・オン・ミー」は味わいが違っていました。(堀)
1960年代後半から1970年代中頃まではよくラジオを聴いていたのですが、「a-ha」の「テイク・オン・ミー」がヒットした1982年頃にはほとんど聴いていなかったせいなのか「a-ha」の名前は知っていたのに、曲はほとんど聴いたことがありませんでした。でもなんでだろう。「a-ha」という名前はよく聞いたのに。それでもルウェーからイギリスに行き、世界的なグループになったというところで、スージーQがやはり、アメリカからイギリスに行き世界的なロッカーになったというドキュメンタリーを観た後なので、1970年代から80年代に、世界の音楽を引っ張っていたのはイギリスの音楽シーンだったのかもしれないと思った。
それにしても、このところ1960年代から70年代、80年代の音楽シーンを描いたドキュメンタリーが次々と公開され、青春時代によく聴いた音楽の数々を懐かしく聴くことができ、また、当時は映像などほとんどなかったから、その頃の貴重な映像が残っていて、それを観ることができるのが嬉しい。そしてYouTubeでも観ることができるということを知った。40年も50年も前の映像が残っていて、今、観ることができるなんて嬉しすぎる(暁)。
2021 年/ノルウェー・ドイツ/112 分/16:9/ノルウェー語・英語・ドイツ語/5.1ch
日本語字幕:大嶋えいじ、幕監修:勝山かほる
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-v.com/a-ha/
★2022年5月20日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
2022年05月14日
パイナップル・ツアーズ デジタルリマスター版
2022年5月14日より シアター・イメージフォーラムほか 全国順次公開
劇場情報
沖縄本土復帰50周年記念!
オキナワ・ルネッサンスに火をつけた痛快作、旋風を巻き起こしたオキナワン・ネオ・コミカル劇映画がデジタルリマスター版で30年振りに蘇る!
ようこそ、パラドックスのパラダイスへ
日本本土のはるか南に存在する沖縄の離島・具良間島(ぐらましま)
そこには、第二次世界大戦中にアメリカ軍が落とした不発弾が眠っている
この島を舞台に繰り広げられる、3つのエピソードからなるドタバタ活劇!
この若さ溢れる痛快作を生み出したのは、本作で劇場公開デビューを果たした当時20代の3人の監督。沖縄生まれの真喜屋力と當間早志、大学入学後にどっぷり沖縄にハマった中江裕司の3人は琉球大学映画研究会で出会った。架空の島・具良間島を舞台に、アメリカ軍の不発弾を巡って繰り広げられるオムニバス活劇は、それぞれ一人づつ監督を担当しているが、モチーフや登場人物はしばしばエピソードをいったりきたりして顔をのぞかせる。この摩訶不思議な魅力あふれる物語を紡いだのは、沖縄独特の“テーゲー(いいかげん)”感覚と、本土復帰と同時期に生まれた世代、そしてこの3人だからこそ描けた、“沖縄と日本”を巡るアンビバレンツな視点によるものかもしれない。
総合プロデューサー:代島治彦
監督・原案・編集:真喜屋力、中江裕司、當間早志
撮影:一之瀬正史/録音:滝澤修/音楽:照屋林賢+りんけんバンド
出演:兼島麗子、新良幸人、富田めぐみ、利重剛、宮城祐子、照屋林助、津波信一、仲宗根あいの、洞口依子、藤木勇人、平良とみ
◆『麗子おばさん』 監督:真喜屋 力
オペラ歌手の麗子は原因不明の病で声が出なくなった。娘の由美子と共に島に里帰りし、霊能者“ユタ”に見てもらうがその原因は意外なものだった。麗子の父親はアメリカ兵で、戦争の時にこの島に不発弾を落とした。その不発弾を探し出すことができれば声は元通りになるという。果たして麗子はその歌声を取り戻せるのか。
◆『春子とヒデヨシ』 監督:中江 裕司
リンスケとタル―の連絡船が島に到着。乗っているのはヤマトから具良間島に流れてついて、そのまま居ついてしまった青年ヒデヨシ。島の年寄りたちは、この青年をなんとか島の人間にしようと、島の娘春子とくっつけたいと画策している。
そしてヒデヨシと春子は懇意になる。子宝に恵まれた二人は、島の人々の策略もあってとんとん拍子で結婚へ。ヒデヨシの意に反して島総出での結婚式の準備が着々と進められ、村人の策略に気がついたヒデヨシは島から逃げようと試みる。
◆『爆弾小僧』 監督:當間 早志
ホテル建築を進めたい東京のリゾート開発会社は、島に埋まっているという不発弾に1億円の懸賞金をかける。「爆弾小僧」なるパンクバンドでめちゃくちゃな曲を披露しているアキラと夏子のコンビも、懸賞金に目を付け一獲千金を目論むのだが果たしてみつけることができるのか。
沖縄ブームの火付け役となったヒット曲「島唄」や、NHKのあさドラ「ちゅらさん」に先駆けて1992年に劇場公開され、新しい時代のオキナワ映画として話題を呼んだ『パイナップル・ツアーズ』がデジタルリマスター版として30年振りに復活! この後『ナビィの恋』(99)がヒットする中江裕司監督を始めとする当時20代の監督たちが紡いだ物語に、音楽は照屋林賢+りんけんバンド、出演はその照屋林助さんを始め、「ちゅらさん」にも出演した平良とみさん、今年のあさドラ「ちむどんどん」で沖縄言葉を指導している藤木勇人(はやと)さんなど、沖縄芸能界を代表するエンターテイナーたちが結集。
2022年に本土復帰50周年を迎える沖縄。基地問題は大きな問題だが、それだけでない沖縄の伝統や民族音楽なども交え、若い力と、明るさ、躍動感
にあふれたオムニバス映画が30年前に作られた。このハチャメチャな映画(笑)は、沖縄在住の若者たちだからこそ作れたと思う。こんな映画をヤマトンチュウが作ったらウチナンチュウから総スカンだと思う(暁)。
『パイナップル・ツアーズ デジタルリマスター版』公式HP
予告編
(2022/日本/118分/カラー/5.1ch/DCP)
製作:スコブル工房、パナリ・ピクチュアズ、琉映
配給:ノンデライコ/宣伝:テレザ
劇場情報
沖縄本土復帰50周年記念!
オキナワ・ルネッサンスに火をつけた痛快作、旋風を巻き起こしたオキナワン・ネオ・コミカル劇映画がデジタルリマスター版で30年振りに蘇る!
ようこそ、パラドックスのパラダイスへ
日本本土のはるか南に存在する沖縄の離島・具良間島(ぐらましま)
そこには、第二次世界大戦中にアメリカ軍が落とした不発弾が眠っている
この島を舞台に繰り広げられる、3つのエピソードからなるドタバタ活劇!
この若さ溢れる痛快作を生み出したのは、本作で劇場公開デビューを果たした当時20代の3人の監督。沖縄生まれの真喜屋力と當間早志、大学入学後にどっぷり沖縄にハマった中江裕司の3人は琉球大学映画研究会で出会った。架空の島・具良間島を舞台に、アメリカ軍の不発弾を巡って繰り広げられるオムニバス活劇は、それぞれ一人づつ監督を担当しているが、モチーフや登場人物はしばしばエピソードをいったりきたりして顔をのぞかせる。この摩訶不思議な魅力あふれる物語を紡いだのは、沖縄独特の“テーゲー(いいかげん)”感覚と、本土復帰と同時期に生まれた世代、そしてこの3人だからこそ描けた、“沖縄と日本”を巡るアンビバレンツな視点によるものかもしれない。
総合プロデューサー:代島治彦
監督・原案・編集:真喜屋力、中江裕司、當間早志
撮影:一之瀬正史/録音:滝澤修/音楽:照屋林賢+りんけんバンド
出演:兼島麗子、新良幸人、富田めぐみ、利重剛、宮城祐子、照屋林助、津波信一、仲宗根あいの、洞口依子、藤木勇人、平良とみ
◆『麗子おばさん』 監督:真喜屋 力
オペラ歌手の麗子は原因不明の病で声が出なくなった。娘の由美子と共に島に里帰りし、霊能者“ユタ”に見てもらうがその原因は意外なものだった。麗子の父親はアメリカ兵で、戦争の時にこの島に不発弾を落とした。その不発弾を探し出すことができれば声は元通りになるという。果たして麗子はその歌声を取り戻せるのか。
◆『春子とヒデヨシ』 監督:中江 裕司
リンスケとタル―の連絡船が島に到着。乗っているのはヤマトから具良間島に流れてついて、そのまま居ついてしまった青年ヒデヨシ。島の年寄りたちは、この青年をなんとか島の人間にしようと、島の娘春子とくっつけたいと画策している。
そしてヒデヨシと春子は懇意になる。子宝に恵まれた二人は、島の人々の策略もあってとんとん拍子で結婚へ。ヒデヨシの意に反して島総出での結婚式の準備が着々と進められ、村人の策略に気がついたヒデヨシは島から逃げようと試みる。
◆『爆弾小僧』 監督:當間 早志
ホテル建築を進めたい東京のリゾート開発会社は、島に埋まっているという不発弾に1億円の懸賞金をかける。「爆弾小僧」なるパンクバンドでめちゃくちゃな曲を披露しているアキラと夏子のコンビも、懸賞金に目を付け一獲千金を目論むのだが果たしてみつけることができるのか。
沖縄ブームの火付け役となったヒット曲「島唄」や、NHKのあさドラ「ちゅらさん」に先駆けて1992年に劇場公開され、新しい時代のオキナワ映画として話題を呼んだ『パイナップル・ツアーズ』がデジタルリマスター版として30年振りに復活! この後『ナビィの恋』(99)がヒットする中江裕司監督を始めとする当時20代の監督たちが紡いだ物語に、音楽は照屋林賢+りんけんバンド、出演はその照屋林助さんを始め、「ちゅらさん」にも出演した平良とみさん、今年のあさドラ「ちむどんどん」で沖縄言葉を指導している藤木勇人(はやと)さんなど、沖縄芸能界を代表するエンターテイナーたちが結集。
2022年に本土復帰50周年を迎える沖縄。基地問題は大きな問題だが、それだけでない沖縄の伝統や民族音楽なども交え、若い力と、明るさ、躍動感
にあふれたオムニバス映画が30年前に作られた。このハチャメチャな映画(笑)は、沖縄在住の若者たちだからこそ作れたと思う。こんな映画をヤマトンチュウが作ったらウチナンチュウから総スカンだと思う(暁)。
『パイナップル・ツアーズ デジタルリマスター版』公式HP
予告編
(2022/日本/118分/カラー/5.1ch/DCP)
製作:スコブル工房、パナリ・ピクチュアズ、琉映
配給:ノンデライコ/宣伝:テレザ
2022年05月13日
人生ドライブ
監督:城戸涼子
撮影:緒方信昭
ナレーション:板谷由夏
出演:岸家のみなさま
熊本県宇土市に住む岸英治さん・信子さん夫妻は10人(7男3女)の子どもを授かり、愛情いっぱいに育ててきた。この岸家を2000年ころから21年にわたり熊本県民テレビが密着取材し、スタッフが繋いできた人気ドキュメンタリーが元になっている。開局40周年を迎え、このほど再編集して映画公開となった。
10人の子どもたちの成長ぶり、熊本地震や病気などの家族のできごとがこの中にある。大きい子は小さい子の世話をし、小さい子も自分のできるお手伝いをする。子どもたちは次々と大きくなり、巣立っていく。地震も火事も病気も乗り越えて英治さん・信子さんは60代になった。
英治さんは仕事を掛け持ちして、家事もちゃんと担当します。信子さんはいつもニコニコと笑顔で、山のような洗濯物や食事作りをこなします。岸家の手作りカレンダーには、子どもたちが父か母を独り占めできる日が書かれています。そのときだけは「自分が一番」になれるのです。英治さんと信子さん夫妻は、子育ての合間に2人だけの時間を持ち、映画やドライブのデートをします。60代の今も名前で呼び合うお2人は、いまだ恋人でもあり、人生のベストパートナーなのでしょう。素晴らしい。
城戸涼子監督は熊本県民テレビに入社して、2006年に先輩スタッフからバトンを受け取りました。これが初監督作品。生活や子育てのヒントをたくさん得たはず。(白)
山のように洗濯物があっても、大病をしても、いつも笑顔の信子さんが素敵です。そんな信子さんに、タイプじゃなかったのに好きになってしまったと語る英治さん。
2010 年、岸さんの家が全焼してしまいます。焼け跡から、英治さんから信子さんに送ったプロポーズの言葉を綴ったはがきが奇跡的に見つかりました。
「私は君を幸福にするために愛国からやってきました。これはそのための切符です。君にしか発売しません。すぐには幸福にはいけないかもしれませんがずっと乗っててください。道を外れないように運転します」 と綴られている手紙の表面は、今は廃線になってしまった北海道の旧国鉄広尾線愛国駅で売られていた「幸福駅」行きの切符を大型にしたもの。
今、60代の岸英治さん・信子さんご夫妻の青春時代に一大ブームになった切符で、同年代の私も北海道に旅した時に、わざわざ広尾線に乗って愛国駅に行き、硬券を購入したものです。(どこにしまってあるのやら・・・ですが)
てんやわんやで10人の子育てを卒業し、今は夫婦水入らず。時々、大勢のお子達やお孫さんに囲まれて、とても幸せそう! 二人のドライブをどうぞいつまでも楽しんでください。(咲)
私は4人姉妹で育ったのですが、それでも「多いね」と言われてきました。4人でもけっこう大変なのに、10人の子供ってとっても育児、教育、生活が大変だったと思います。余裕もない生活のなか、そんなに子供を産み、育てようと思ったのはなぜだったのでしょう。私はそれを知りたいと思いました。4人でもいろいろ争いや、競争などがあり、私はうんざりだったのですが、10人もいて、そういうのもあったと思うのですが、そういうのは描かれていなくて、いつも笑顔の母親や、子供たちのために働くお父さん、元気な子供たちの姿しか出ていなくて、しんどいだろうなという部分は描かれていなかったですが、そういう部分も出してほしかったなと思います。お母さんにしても長女にしても、家族のために明るく家事を担っている部分しか出てきませんが、なんで私ばかりと思うこともあると思いますが、そういう部分は出てきません。それでも子供たちがなるべく協力して家族の生活が回っていくよう、全員が努力しているというところが描かれてはいたので、それが救いでした。一人が好きで、6人家族でも大変だと思った私は、子供をほしいと思ったことがないので、こんなに家族がいると大変だなというのが感想です(暁)。
☆ほりきの城戸涼子監督インタビューはこちら
2022年/日本/カラー/DCP/93分
配給:太秦
(C)2022 KKT熊本県民テレビ
https://jinsei-drive.com/
★2022年5月21日(土)ロードショー
ハケンアニメ!
監督:吉野耕平
原作:辻村深月
脚本:政池洋佑
出演:吉岡里穂(斎藤瞳)、中村倫也(王子千晴)、柄本佑(行城理)、尾野真千子(有科香屋子)
公務員からアニメ界に転身した斎藤瞳は、7年目にしてようやくテレビアニメ『サウンドバック 奏の石』で監督デビューすることになった。瞳を抜擢したプロデューサーの行城理は、味方するでもなくビジネス最優先、瞳の意気込みは空回りするばかりだ。同じ時間枠には瞳が憧れた天才監督、王子千晴の『運命戦線リデルライト』。王子はかつてメガヒットを出したものの低迷が続いて、この作品で復帰を狙っている。プロデューサーの有科香屋子だけが王子の才能に惚れ込み、我儘な王子と制作現場をつないでいるが、その王子は姿をくらましたままだ。
デビュー作に入れ込む瞳は睡眠も削って頑張っていますが、周りを見る余裕がありません。ようやく各部署のスタッフの名前を覚え、苦楽をともにするうち、みんなが持っている「いい作品を作りたい」という思いが結実していきます。普段見えることのないさまざまな部署や、大手の無理な注文に応じる小さなプロダクションの仕事ぶりもきちんと描かれています。多くのキャスト一人一人も説得力あり、共感を呼ぶでしょう。
原作にも劇中アニメの描写がしっかりとありましたが、映画でも瞳と王子の個性が光る2本が作られ、放映されるまでの過程が見られます。第一線のクリエイターたちが手掛けたもので、どちらも別建てで観たいほどです。スピンオフとか、特典映像とかになりませんかね?
それぞれを推すファンのツイートが色別でパタパタと現れるのが、人気の可視化としても面白いです。タイトルの「ハケン」は「覇権」。思わず「とります!」と宣言してしまった新人監督の瞳と、実力トップクラスの王子の覇権争いの結果はいかに? アニメ好きはもちろん、お仕事ドラマとして、日々悩める女子たちにもおすすめ。(白)
2021年/日本/カラー/シネスコ/128分
配給:東映
(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
https://haken-anime.jp/
★2022年5月20日(金)ロードショー
ワン・セカンド 永遠の24フレーム (原題:一秒鐘 One Second)
監督:チャン・イーモウ
脚本:チャン・イーモウ、ヅォウ・ジンジー
撮影:チャオ・シャオティン
出演:チャン・イー(逃亡者)、リウ・ハオツン(リウの娘)、ファン・ウェイ(ファン電影)
1969年文化大革命まっただなか。強制労働所送りになった男は、妻と別れ最愛の娘とも疎遠になっていた。数年後「ニュース映画22号」の中に娘が映っていると聞き、それを一目観たいがために強制労働所から逃げ出した。次の村へと運ばれるフィルム1缶が盗まれるのを目撃した男は、その後を追う。盗んだのは孤児のリウ。弟と二人暮らしのリウにはフィルムがどうしても必要なわけがあった。
リウからフィルムを取り戻した男は、映写技師のファンに手渡すことができたが、一難去ってまた一難。今度は他のフィルムが運搬中に落下して引きずられ、傷だらけになってしまったのだ。逃亡中の男は娘の場面を観るまでは保安隊に捕まるわけにいきません。上映は間に合うのか? リウの問題は片付くのか?
広大な砂漠のシーンが美しいです。美しいけれども、これで作物が育つのか?どうやって水を得て生活をしているのか?と気になってしまいました。
名前の明かされない逃亡者の男とリウの攻防は何度も繰り返され、口の達者なリウにやり込められたり、出しぬかれたりが笑いを呼びます。背景に強制労働や貧困を描きながら、映画愛が満ちていました。村の人たちが数ヶ月に一度の上映を待ちわびていること、映写技師が慕われ、仕事に誇りをもっていることがわかります。上映のために村をあげて協力する人々、上映時に超満員の観客が熱狂する場面には胸がいっぱいになります。劇中映画は父と娘の情愛を描いた『英雄子女』。映写技師のファンにも父親としての反省がありました。父親の想いはどの時代、どこの国でも変わりません。
チャン・イーモウ監督が見出した新星リウ・ハオツンは、この作品で第15回アジア・フィルム・アワード新人賞を受賞。ずっと男の子みたいですが、親代わりに弟を守る姉の愛情が伝わります。笑顔が見られるまで辛抱してください。コン・リーやチャン・ツィイーを継ぐ女優に育ちますように。(白)
映画1本が数缶に分かれ、結構な重さ(20~30キロ)だった時代。映画の重さだけ、人々の映画への思いも熱かったのではないでしょうか。それが、長年、会ってない娘の姿が、ほんの1秒(ワン・セカンド)でも出ているとなれば、なんとしてでも観たいのが親心。泣けます。
髪の毛がボサボサで男の子みたいだったリウ・ハオツンが、やっと見せてくれる少女の姿は初々しくて、『初恋のきた道』で初めて観たチャン・ツィイーの愛らしさを彷彿させられました。
フィルムがからまったのを必死に修復する場面があります。デジタルが主流となった今では考えられません。
チャン・イーモウ監督の若い時代の経験や思い出がぎっしり詰まった映画愛に溢れる珠玉の1作。(咲)
ニュース映画に映った娘の姿を観たいとフィルムを追う父親と、貧しいながらもけなげに生きている少女と、映画を上映することに情熱を燃やす興業主の偶然の出会いを描くドラマ。
野外に白い幕を張って村人が集まって映画を観る光景は、中国映画の中で幾度となく描かれてきた。張芸謀(チャン・イーモウ)監督作品の中でも何度も描かれてきたと思うけど、それ自体が主体に描かれてきたことはなかったかもしれない。野外に白い幕を張って映画を観るというのは、日本でも昔あった。私が小学生低学年くらいまであったと思う。観た記憶がある。たぶん1960年代前半くらいまでは、東京でもあったのではないかと思う。その後は亡くなってしまったけど、学校で1年に1回くらい大きい教室や講堂に集まって映画を観た記憶は小学校高学年まである。なので、この中国での光景も1960年代後半の時代なので、同じころ日本でもあった光景だと思う。東京でもそうなので、地方だったらもっと後まであったかも。
それにしても、映画を観るという行為と映画愛に満ち溢れた映画だった。
自分の娘が一秒鐘(1秒間)描かれているという情報を得た、男(張譯=チャン・イー)はなんとかその映像を観たいと労働改造所から逃亡するが、砂漠を歩き続けて上映されるという村まで歩く。その砂漠の景色は張芸謀らしく雄大さと美しい光景、そして自然の厳しさも映し出す。村は砂漠の向こうにあるのか。そこの関係はわからない。そして村についた逃亡者の男は、映画のフィルムが入った缶を運ぶ配達人に偶然出会った?
そして、それを盗んだリウの娘(劉浩存=リウ・ハオツン)をみつけ、おいかけていく。見失ってしまうけど、映画が上映される村(場所)の食堂でビャンビャン麵を食べようとしている娘からそれを奪って食べるのだけど、そこに偶然出くわしたのがファン電影のファン(范偉=ファン・ウェイ)。取り戻したフィルムをファンに渡した時、男は娘が盗んだとは言わない。この3人を中心にして物語は進む。それにしても、単純な物語の中に、映画への愛、男の娘への愛、リウの娘の父親や弟に対する思い、それらをうまくからませながら、1本の作品ができているというのはさすがです。
私は映像ではなく、スチール写真の現像などの技術者だったので、フィルムを洗って、拭いて、乾かすシーンを見て、同じような経験をしたことがあるので、思わず「張芸謀、やったね」とニヤリとしてしまいました。もちろんあんなざつな処理は普通ありえないけど、あの場ではしょうがなかったのだろうし、あれがベストの解決方法だったと思ったそして映し出された映像と何回も上映するシーンは感動だった。優しさとずる賢さ両面をもつファンを演じた范偉(ファン・ウェイ)は元々コメディアンなので、そういうのがうまい。日本でいえば、伊東四朗さんみたいな感じかも。
主人公の張譯(チャン・イー)は観たことあると思ったけど『クライマーズ』『帰れない二人』『山河ノスタルジア』『最愛の子』などの作品にも出ていた。これまで名前を知らなかった。そして劉浩存(リウ・ハオツン)は、今回張芸謀監督に見いだされた新人(暁)。
2020年/中国/カラー/シネスコ/103分
配給:ツイン
(C)Huanxi Media Group Limited
https://onesecond-movie.com/
★2022年5月20日(金)ロードショー
2022年05月08日
グロリアス 世界を動かした女たち 原題:The Glorias
監督:ジュリー・テイモア
脚本:ジュリー・テイモア、サラ・ルール
出演:ジュリアン・ムーア、アリシア・ヴィキャンデル、ティモシー・ハットン、ジャネール・モネイ、ベット・ミドラー
グロリア・スタイネム(1934年3月25日、アメリカ・オハイオ州生まれ)
本作は、アメリカの女性解放運動を語る上で欠かすことのできないグロリア・スタイネムと、その活動家仲間たちの物語。
原作は、グロリア・スタイネムの自伝『My Life on the Road』(2015年)。
大学卒業後、インドに留学したグロリア。列車の三等車に乗って地方に行き、低カーストの女性たちが虐げられている実態を目の当たりにする。アメリカに帰り、ニューヨークに行きジャーナリストを目指すが、女性であることを理由に社会的なテーマを書かせてもらえない。グロリアは「プレイボーイ・クラブ」に自らバニーガールとして潜入。その内幕を記事にして暴き、女性を商品として売り物にする実態を告発する。徐々に実績を積むが、公民権運動のデモの取材に行くのを編集長から反対されるなど、なかなか思うようにはいかない。ようやく、テレビの対談番組に出演し、徐々に女性解放運動の活動家として知られ始める。40代を迎えた頃には仲間たちと共に女性主体の雑誌「Ms.」を創刊。全米各地の女性たちに受け入れられていく・・・
「グロリアスというから何の映画かと思ったら、グロリア・スタイナムの話なんだ。それなら私が書かなくちゃ」と、若いころから女性解放運動に関心を持っていたシネジャの暁さん。私はといえば、女性解放運動に背を向けて過ごしてきたので、グロリア・スタイナムの名前は、本作を観て初めて知りました。お恥ずかしい。
そんな私が、1983年頃に労働組合の婦人部長をさせられたことがありました。思えば、「女性差別撤廃条約」批准を前に、会社でも男女雇用機会均等法に沿った人事制度の改正(女性にとっては実際には改悪)をしようとしていて、私ならはむかわないと思っての人選だったと思われます。(御用組合ですからね!) それでも、女性社員の意見を吸い上げて「Voice of Ms.〇〇(会社の略称)」を何号か発行しました。私は30歳の大台に乗ったところで未婚。当時としては行き遅れ。そんな時に知ったのが、MissでもMrsでもない、Ms.という敬称。未婚既婚の別がわからなくていいなと思って使ったのですが、グロリアたちが作り出した言葉で、創刊した雑誌の名称にもなったことを知ったのも本作を通じてのことでした。
実は、本作に興味を持ったのは、グロリアが女性解放運動の先駆者であるということよりも、大学卒業後インドに留学し、その時に目にした女性たちの悲惨な状況がジャーナリストになる原動力だったという部分でした。実際にインド(ウダイプールらしいです)で撮影した場面には心躍りました。
映画は、グロリアの少女時代、インド留学時代、記者として駆け出しの頃、雑誌「Ms.」を創刊し、仲間たちと女性解放運動にまい進する40歳以降、さらに父親や母親との関係、66歳の時に結婚したこと・・・と、様々な話が目まぐるしく交錯して進んでいきます。
捉える問題も、仕事のこと、中絶の是非、人種差別と様々。それを147分という中で描いているので、女性解放運動についてというより、グロリア・スタイネムの人生についての物語と割り切ったほうがいいかもしれません。
それでも、女性を取り巻く環境が、グロリアはじめ様々な女性たちが地道に活動を続けてきたお陰で、少しずつ改善されてきたことはずっしりと伝わってきました。「女性解放運動はマラソンではなくリレー」という言葉が心に残りました。
「先のことがわからないのはワンダフル」というグロリアのお父様の言葉も!(咲)
シネマジャーナル本誌105号の発行を控え、原稿書き、編集作業が佳境の4月初旬、どこかの試写室でこの『グロリアス』のポスターをみつけ、グロリア・スタイネムと仲間たちのことを描いた作品が公開されるということを知りましたが、ほんの数日の差で本誌はすでにページが埋まっていてこの作品を入れることができずすごく残念でした。そして、オンラインでの試写状が来ていたのを知ったのは、さらにその後。しかし、この映画を観ている時間もなく、やっと公開間際に観ることができました。
グロリア・スタイネムのことは、1970年代、日本のウーマンリブ運動に参加している人たちの間では「日本には田中美津、アメリカにはグロリア・スタイネムがいる」と言われていました。ウーマンリブ運動は女性たちの地位も低く、生き方が今より自由でなく、その解放を目指して起こった運動でした。もちろん、その前の市川房枝さんたちの女性解放運動もありましたが、あらたな女性の生き方を目指す運動でした。
この映画の中でもアメリカのウーマンリブの女性たちが男性ジャーナリズムに叩かれている状態が描かれていましたが、日本でもウーマンリブの女性たちの行動の趣旨がちゃんと伝えられず、行動の突飛さの部分だけが伝えられ、私自身、最初は「この人たち何しているんだろう」と思っていました。たとえば、「身体の拘束から解放されるためにブラジャーを燃やす」という行動があり、メディアでは「ブラジャーを燃やす」というところだけが強調されていました。「ブラジャーは女性を拘束する象徴」として拒否するということのデモストレーションだったのに、その意味について正確に伝えたメディアというのはほとんどなかったのではないかと思います。1970年頃でした。そのおかげで、「何やってるの、この女たちは」と、彼女たちと直接知り合う1975年くらいまで思っていました。彼女たちの真意を知って、大いに共感した私でした。これは、元々、アメリカでの1960年代からのウーマンリブ運動の中で「ブラジャーは女性を拘束する象徴」とみなす女性たちが「ノーブラ」を始めたというのがあるようです。なので、この映画のグロリア・スタイネムについても詳しいことは知らず、「プレイボーイ・クラブ」にバニーガールとして潜入し、その記事を書いたこととか、雑誌「Ms.」を創刊したことぐらいしか知らなかったのですが、この映画を観て、彼女の生きてきた道を知りなるほどと思いました。
この映画でも何度も出てきたのが、「結婚しているか、いないか」「子供がいるか、いないか」。それが「女性の信用格付け」の高低をはかる基準だったことが何度も描かれていました。でも実際はまやかしで、アメリカだけでなく世界中の女たちが結婚して子供がいようといまいと、女性は自分のやりたいことをすることができず我慢して生きていたのです。『メイドイン・バングラデシュ』でも「結婚していても結婚していなくても女性の地位は低い」と描かれていました。1970年当時は日本でも「結婚することが女の幸せ。結婚することが女の生きる道」と押し付けられ、独身女性は「行き遅れ」などと言われていたのです。今では、そういうふうには表立っては言われなくなりましたが、そういうのもグロリアさんたちや日本のリブたちの運動があったからこそです。私も「行き遅れにならないうちに結婚しなさい」なんて、親や親戚からは言われましたが、家制度、家父長制の強い日本の結婚制度には懐疑的でした。
『新しい女性の創造』を書いたベティ・フリーダンのことも出てきましたが、ベット・ミドラーが演じたベラ・アプツーグという人は知りませんでした。数年前、『RBG 最強の85才』『ビリーブ 未来への大逆転』という映画がありましたが、この題材になったアメリカの連邦最高裁判事を27年務めたルース・ベイダー・ギンズバーグさんのことも知りませんでした。
そういえば、後半グロリアさんは大きなサングラスをかけていましたが、あれが彼女のトレードマークでした。また、父親と正反対といいつつ似た者同士という部分も、私もそうだったと思いました。父親の生き方に反発しつつ、世間に対する行動など似ているところもあるなあ思っていたのを思いだしました(暁)。
2020年/アメリカ/英語/147分/カラー/ビスタ/5.1ch
字幕翻訳:髙橋彩
提供:木下グループ 配給:キノシネマ
© 2020 The Glorias, LLC
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/theglorias
★2022年5月13日(金) kino cinéma横浜みなとみらい他にて全国順次公開
2022年05月07日
生きててよかった
監督・脚本:鈴木太一
撮影:高木風太
アクション監督:園村健介
音楽:34423(MIyoshi Fumi)
出演:木幡竜(楠木創太)、鎌滝恵利(楠木幸子)、今野浩喜(松岡健児)、栁俊太郎(新堂勇)、渡辺紘文(コウジ)、長井短(松岡絵美)、黒田大輔(髙田春男)、松本亮(ボクサー)、三元雅芸(剛力)、銀粉蝶(楠木光子)、火野正平(海燕会長)
ボクサー・楠木創太は、長年の闘いが体を痛めつけ、ドクターストップによって強制的に引退させられた。第二の人生を歩もうと、恋人との結婚を機に新たな生活に踏み出したものの、ボクシング漬けだった創太は社会にうまく馴染めない。苦しい日々の中、創太のファンだと名乗る男から、地下格闘技へのオファーを受ける。そこは大金を賭けて戦う欲望うずまく場所だった・・・。
創太を演じた木幡竜(こはたりゅう)さんは、自身もプロボクサーでした。だからあんなに迫力があったんですね。納得。サラリーマンも経て俳優になり、中国映画に縁ができて、主に中国で俳優活動を続けて来られたとか。今回は初めての邦画主演です。これからも日本と中国の橋渡しのできる俳優さんでいてほしいです。
戦うことが生きることだったのに、引退して半分死んだような日々を送る創太。地下格闘技場で水を得た魚のように生き生きするのを見たら、戻れという言葉も引っ込んでしまいます。それにしても痛そうです。こういう人の奥さんになったら、諦めるしかないかも。
アクション監督は園村健介さん。『ベイビーわるきゅーれ』の方ではないですか。出演した三元雅芸さん、ゲストで伊澤彩織さんも登壇したトークイベントの画像が宣伝さんから届きました。(白)
『生きててよかった』トーク付き上映イベント
三元雅芸、伊澤彩織、木幡竜、園村健介(アクション監督)、鈴木太一監督
三元雅芸、伊澤彩織、木幡竜、園村健介(アクション監督)、鈴木太一監督
楠木創太が、引退しても結局ボクサーでしか生きることができないのと同様、今野浩喜さん演じる親友の松岡健児も、いつまでも端役しか貰えなくても映画の世界でしか生きられない男。二人の人生を決めたのは、映画『ロッキー』。創太はボクサーに憧れ、健児はロッキー演じるシルベスター・スタローンに魅せられ映画スターを目指したのでした。
へこたれることばかりでも、一瞬でも「生きててよかった」と思える瞬間があるのは素敵なことだなぁ~と思わせてくれました。(咲)
2021年/日本/カラー/シネスコ/119
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2022ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト https://happinet-phantom.com/ikiteteyokatta/
a 公式 Twitter @ikitete_movie
★2022年5月13日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開
教育と愛国
監督:⻫加尚代
語り:井浦 新
プロデューサー:澤⽥隆三、奥⽥信幸
撮影:北川哲也
編集:新⼦博⾏
録⾳・照明:⼩宮かづき
朗読:河本光正、関岡 ⾹、古川圭⼦
軍国主義へと流れた戦前への反省から、戦後の教育は常に政治とは一線を画してきたが、昨今変わりつつある。2006年第一次安倍政権下で教育基本法は改変され、「愛国心」が戦後初めて盛り込まれた。以降、改革・教育の名の元に政治の教育への介入がじわじわと進んでいる。
2014年、大手教科書出版社が戦争加害の記述をきっかけに倒産に追い込まれた。その元編集者や、教科書の執筆者、歴史研究者たちへ取材、毎日放送(MBS)で「映像ʼ17 教育と愛国〜教科書でいま何が起きているのか」として放送され、反響を呼ぶ。2017年ギャラクシー賞受賞。追加取材、再構成して映画化された。
小学校の「どうとく」の授業の様子を紹介した次には、大戦中アメリカが「汝の敵日本を知れ」と作った映像が続きます。「同じように考える子どもの大量生産」をする日本の義務教育は、軍国少年少女を作りました。先生や大人を信じた子どもたちは、お国のために働き、たくさんがまんしました。大きくなったら兵隊に志願し、銃後を守り、敵艦に体当たりし、捕虜とならず散ることを誉れとしました。これで子どもは幸せだったでしょうか? 敗戦後の大きな反省から教育は変った、はずでした。
教育は誰のものでしょう? 教科書で子どもに伝えてほしいことは何ですか? あなたの子どもたちの未来がどんなものになると思いますか?
戦争の加害や被害を体験し、記憶している人たちが次第に減っていきます。みんないなくなってしまったら、また国民を駒に戦争をしたがる人たちが出てくるでしょう。「愛国」や「日本人の誇り」という言葉を都合良く使うはずです。そうならないように‟知ること”をこの映画から始めてみませんか。教科書は各地の教科書センターで閲覧することができます。(白)
ひとりの記者が見続けた“教育現場”に迫る危機
軍国主義へと向かった戦前教育の反省から、戦後教育では政治と常に一線を画してきたが、この流れが大きく変わってきた。2014年以降、「教育改革」「教育再生」の名のもと、力を増していく教科書検定制度。あからさまな政治介入ともいえる状況下で繰り広げられる出版社と執筆者の攻防が続く。じわじわと教育の現場に政治が介入し、教科書の書き換え、自己規制や自己検閲が行われ、政治圧力の結果であることが描かれる。慰安婦や沖縄戦を記述する教科書を採択した学校に押し寄せる大量の抗議ハガキ。これはどういう人たちが出しているのか、誰が出させているのか探る場面もある。慰安婦問題など加害の歴史を教える教師、研究する大学教授へのバッシング、さらには日本学術会議任命拒否問題など、健全な民主主義とは思えない状況が示される。
20年以上にわたって教育現場を取材してきた斉加尚代ディレクターが、教育はいったい誰のものなのか、「教育と政治」の関係を見つめながら最新の教育事情を取材した。こういう映画でもない限り、一般的には知らないでいる。いつの間にか、戦前のような状況が作られていることが明らかになる。そしてあったことをなかったことにしようとたくらんでいる人たちが教科書にも迫っている(暁)。
☆⻫加監督インタビューはこちら
2022年/⽇本/カラー/DCP/107分
配給・宣伝:きろくびと
©2022 映画「教育と愛国」製作委員会
公式サイト:mbs.jp/kyoiku-aikoku
★2022年5⽉13⽇(⾦)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋、アップリンク吉祥寺ほかにて公開
5⽉14⽇(⼟)より⼤阪・第七劇術劇場 他全国順次公開
夜を走る
監督・脚本:佐向大
撮影:渡邉寿岳
出演:足立智充(秋本太一)、玉置玲央(谷口渉)、菜葉菜(谷口美咲)、高橋 努(本郷真一)、玉井らん(橋本理沙)、坂巻有紗(矢口加奈)、山本ロザ(ジーナ)、川瀬陽太(小西彰)、宇野祥平(美濃俣有孔)、松重 豊(キム・ジュンウ)
郊外のスクラップ工場で働くふたりの男。
ひとりは40 歳を過ぎて独身、不器用な性格が災いして嫌味な上司から目の敵にされている秋本。ひとりは妻子との暮らしに飽き足らず、気ままに楽しみながら要領よく世の中を渡ってきた谷口。
退屈な、それでいて平穏な毎日を過ごしてきたふたり。しかし、ある夜の出来事をきっかけに、彼らの運命は大きく揺らぎ始める……。
足立智充さんはこの映画で初めてお顔を覚えました。最初のほうの自信なさげな様子、ニューライフデザイン研究所で受け入れられてからの、妙な明るさと押しの強い様子が同じ人とは思えない変わりようでした。動きがなんだか違うのは、舞台に出ている方だからでしょうか。
玉置玲央さんは佐向大監督作『教誨師』では冷徹な若き死刑囚役、教誨師役が大杉漣さんでした。本作では、人あたりはいいものの実は姑息な計算をする男。一時の激情で手を出した秋本が発端ですが、それまでに積もり積もったものがあったのでしょう。谷口が正直なら、ほかに手段もあっただろうと秋本が気の毒になります。
2人とも起こったことをなかったことにはできません。この先は救われずに落ちていき、最初のボタンの掛け違いを悔やむはず。間違いに気づいたら、修復せよ。修復するなら早いうちと自分にも言い聞かせました。佐向大監督、次は生きる元気の出る映画を作ってください。(白)
2021年/日本/シネスコ/125分
配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
(C)2021「夜を走る」製作委員会
http://mermaidfilms.co.jp/yoruwohashiru/
★2022年5月13日(金)ロードショー
流浪の月
監督・脚本:李相日
原作:凪良ゆう「流浪の月」(東京創元社)
撮影:ホン・ギョンピョ(『パラサイト 半地下の家族』『バーニング 劇場版』)
音楽:原摩利彦
美術:種田陽平、北川深幸
照明:中村裕樹
出演:広瀬すず(家内更紗)、松坂桃李(佐伯文)、横浜流星(中瀬亮)、多部未華子(谷あゆみ)、白鳥玉季(更紗)、趣里(安西佳菜子)、三浦貴大(湯村)、内田也哉子(佐伯音葉)、柄本明(阿方)
両親のもとで自由に育った家内更紗(かない さらさ)は、父が亡くなった後、母は失踪し10歳で一人ぼっちになった。預けられた伯母の家は窮屈なうえ、中学生の従兄がちょっかいを出してくる。居場所のない更紗は、いつも一人公園で本を読んでいる。雨が降り出した日、傘をさしかけてくれたのは、やはり一人でベンチに座っていた大学生・佐伯文(さえき ふみ)だった。
文は何も強要せず、更紗のしたいように過ごさせてくれた。更紗は毎日が幸せで「ここにいてもいい?」と聞く。文も更紗といるのが楽しかった。そして夏の終わり、失踪した更紗を探していた警察に発見され、文は「誘拐犯」、更紗は「被害女児」となった。
15年後。2人は偶然に再会した。
原作は2020年本屋大賞。10歳で公園から行方知れずになり、失踪届が出されても、更紗は伯母の家には戻りたくありませんでした。孤独な文にも事情があり、一人と一人は心地よかったのです。文は烙印を押され、子どもの更紗の言葉は受け入れられません。15年後2人にはそれぞれ恋人がいましたが、幸せとは言えません。
更紗発見時の動画がネットで拡散されていて、それに新しい情報が加わったことで、昔の事件が蒸し返されてしまいます。真実は2人の中にあるのに、はたの人がなぜお節介をするのやら。
w主演の広瀬すずさん、松坂桃李さん、それぞれの恋人役となった横浜流星さん、多部未華子さんたちは、これまでのどの役とも違う顔を見せています。
引き出したのは『フラガール』『悪人』『怒り』と胸に刻まれる作品を作ってきた李相日監督。表情や風景をとらえた撮影はホン・ギョンピョさん。「日本は月が綺麗に見える」とおっしゃったそうです。闇を秘めた物語に特別大事なのは美術と照明、”カフェ・calico”がよかった。ひっそりと文がいられる場所でした。共感するとかしないとかでなく、忘れられない作品。(白)
真実は当事者だけが知っている・・・ということをつくづく思いました。
ほんとのことを言っても信じてもらえないから、あえて言わないという思いを松坂桃李さんがおさえた演技でしっかり伝えてくれました。
内田也哉子さんが、松坂桃李さん演じる文のお母さん役! もうそんなお歳なのですね。樹木希林さんに似てきました。出番は少ないけれど、強く印象に残りました。
そして、”カフェ・calico”のたたずまいが、ほんとに素敵です。ロケ地にふさわしいお店を松本で見つけたことから、ほかの撮影地も長野県内で決めたそうです。
不思議な余韻の残る作品です。(咲)
初日舞台挨拶
写真左から 李相日監督、横浜流星(中瀬亮役)、広瀬すず(家内更紗役)、増田光桜(安西梨花)、松坂桃李(佐伯文役)、多部未華子(谷あゆみ役)、内田也哉子(佐伯音葉)
写真左から 李相日監督、横浜流星(中瀬亮役)、広瀬すず(家内更紗役)、増田光桜(安西梨花)、松坂桃李(佐伯文役)、多部未華子(谷あゆみ役)、内田也哉子(佐伯音葉)
2022年/日本/カラー/シネスコ/150分
配給:ギャガ
(C)2022「流浪の月」製作委員会
https://gaga.ne.jp/rurounotsuki/
★2022年5月13日(金)全国ロードショー
劇場版 おいしい給食 卒業
監督・脚本:綾部真弥
脚本:永森裕二
撮影:小島悠介
出演:市原隼人(甘利田幸男)、土村芳(宗方早苗)、佐藤大志(神野ゴウ)、勇翔[BOYS AND MEN]、いとうまい子、直江喜一 、木野花、酒井敏也、山﨑玲奈、田村侑久[BOYS AND MEN]、登坂淳一(真野浩太)、山崎玲奈(皆川佐和子)
80年代のとある地方。中学校教師・甘利田幸男は給食に対する愛情とこだわりが人一倍強い。彼の究極の楽しみは、毎日の給食。そのために学校に来ていると言っても過言ではない。それを生徒に悟られては、教師の威厳が失墜してしまう。気取られないように苦労しつつ、甘利田は給食愛については自分こそ一番と思っていた。しかし担任するクラスの生徒・神野ゴウは甘利田を上回るマニアだった。神野ゴウと、いかに給食を美味しく食べるかバトルを続けつつ、「給食廃止」を阻止するためにも戦った前作。今回は給食メニューの改革に甘利田は不穏な空気を感じ、給食を守るために立ち上がる。宿敵ゴウが卒業を控え、最後の勝者はどちらか?そして独身の甘利田と、学年主任の宗方早苗先生にようやく恋の予感・・・か?
元はテレビドラマとして2019年10月スタートした学園グルメコメディ。season1、2が放映済みです(DVD発売中)。映画は2020年『劇場版 おいしい給食 Final Battle』についで今作が第2弾。
普段シリアスな役柄が多い気がする市原隼人さん。『チェケラッチョ!!』(2006)の高校生が大きくなったような、明るくてテンションの高すぎる教師役を楽しげに演じています。ちょうどそのころに生まれたのが、給食マニアのライバル、ゴウ役の佐藤大志くん。同じ事務所の先輩後輩でもあります。完成披露舞台挨拶では、伸び盛りの佐藤大志くんを親戚のおじさんのように見守っていたという監督と、市原さん。撮影に行くのが楽しみだったという佐藤くん。あのたくさんの給食は撮影後、みんなで食べたんでしょうか?
給食は毎年約200食、家での食事と共に身体を作るのに大いに貢献したはずです。映画は80年代、アルミのお盆と容器、先割れスプーンにコッペパン、牛乳、汁物、主菜、副菜が並んでいます。一つずつに脳内解説を加えながら食する甘利田先生と一緒に懐かしく観ました。
「2022年 給食献立 画像」と検索すると、市町村によって様々な今の給食が見られます。(白)
生徒相手に給食を巡って大真面目にバトルを繰り広げる甘利田先生に大笑い。
給食には、皆それぞれ思い出がありますよね。
小学校の時の給食は美味しくて、近隣の小学校から見学に来るほどでした。竹輪を薄くスライスして素揚げにしたものや、さらっとしたカレー味のスープくらいしか今となっては思い出せないのですが。雛祭りの日にはコトブキのひし形のケーキが定番でした。
中学校では給食はなくて、3時のホームルームの時間に、ビスケットやパンなどの間食と牛乳1本が出ました。私は生の牛乳が苦手で、全部飲まないと帰してくれないのですが、毎日拷問のようでした。今では、おそらくアレルギー体質だからと拒否することも出来るのではないでしょうか。宗教的な配慮をしているところもあるようですし。
美味しくて栄養のバランスがとれた給食を提供することも、学校教育の一環であることを本作は教えてくれました。そんな当たり前のことが、コロナ禍で出来ない事態になっているとも聞きます。また皆で給食を囲む楽しい時間が持てるようになりますように♪ (咲)
私の給食体験は小学校を卒業する直前の1ヶ月ほど。ぎりぎり給食体験ができました。たった1ヶ月の給食だったし、58年も前の体験なのでよく覚えていませんが、それでも、家では出ないような食事が出て楽しみだったなというのは覚えています。おいしかったという記憶はありませんが、揚げパンはおいしかったという記憶があります。
この映画では「おいしい給食」というタイトルがついているので、今の給食は栄養だけに重点を置かず、「おいしさ」も大きな焦点なのでしょう。それにしても給食をめぐるバトルだなんておもしろすぎます。私はけっこう食をめぐるTV番組が好きでよく見ますが、グルメだけでなく、その食をめぐる話題を広げたもの、食をめぐる歴史などにも興味があります。給食であっても、今は、いろいろなバリエーションがあるのだなと感心しました(暁)。
2021年/日本/カラー/シネスコ/104分
配給:AMGエンタテインメント
(C)2022「おいしい給食」製作委員会
https://oishi-kyushoku2-movie.com/
★2022年5月13日(金)ロードショー
2022年05月05日
沖縄本土復帰50周年特集 国境の島にいきる『ヨナグニ 旅立ちの島』
与那国島が舞台の映画が2本公開されます『ばちらぬん』『ヨナグニ ~旅立ちの島~』
沖縄 桜坂劇場 TEL 098-860-9555 4/30(土) ~
東京 新宿 K's Cinema TEL 03-3352-2471 5/7(土) ~
東京 UPLINK 吉祥寺 TEL 0422-66-5042 5/7(土) ~
公開劇場情報
HPより
時代の波に翻弄される文化、言葉、暮らしそれでも島に息づくものがある。
かつて「与那国島」はアジアの交易の中継地として栄えてきた。その交流から生まれた文化と、日本や沖縄本島とも異なる独自の言語は島の誇りであった。
1972年、沖縄の日本本土復帰とともに、与那国は日本の最西端つまり国境の島になった。
その後50年の間、島はどのように移り変わり、人々の暮らしはどのように変化したのか。
そして、時代を経てもなお変わらないものとは ――
2021年、世界がコロナ禍に見舞われる中、与那国島は二つの映画を生み出した。
島に生まれ育った若き才能が描く望郷の島 『ばちらぬん』。
欧州からやって来た気鋭の視点で描かれる日常の島『ヨナグニ ~旅立ちの島~』。
与那国島を新たな角度から描いたこの作品を通して、国境の島そして復帰50周年の意味を問い直す。
与那国島ってどこ ?
与那国島ってどこ日本最西端に位置する国境の島。東京から南西に約1,900km、石垣島から127km。台湾までは111kmに位置し、晴れた日にはその山々を望むことができる。人口は約1700人、面積28.88平方kmの小さな島ながら、黒潮の激流が造り上げた壮大な自然と文化が色濃く息づく。主な産業は漁業や農業で、祖納(そない)・比川(ひがわ)・久部良(くぶら)の3つの集落がある。琉球王朝と南方文化の影響を受けた文化芸能は、ハーリー祭、豊年祭、金比羅祭などがあり、島の人々によって受け継がれている。2016年に自衛隊の駐屯が開始され、人口の15%に当たる自衛隊員とその家族250人が住民に加わり、複式学級が解消される小学校も出るなど、島の暮らしには大きな変化が生じつつある。
緯度・経度24.459251062906088, 122.99462682025388
『ヨナグニ 旅立ちの島』
監督・録音:アヌシュ・ハムゼヒアン、ヴィットーリオ・モルタロッティ
編集:Gabriel Gonzalez
製作:La Bete
出演:金城元気、中井舞風、野底みみ、小島南帆、伊東珠璃、長濵衣織
イタリア出身の映像作家アヌシュ・ハムゼヒアンと写真家ビットーリオ・モルタロッティのコンビが監督。
与那国島には高校がない。若者たちは中学卒業とともに島を離れる。別れと再会を予感しながら。卒業前の中学生たちに密着し、学校生活や、豊かな自然の中で戯れる放課後の彼らに集まってもらい、思春期の本音が漏れる会話を導きだす。島を出る不安と期待など多感な10代の思いが映し出される。
そして、失われつつある島の言葉「どぅなん」や、伝統文化が若い世代へと受け継がれる様子も描かれる。彼らを見守る島の人々、島を出ていく日の風景など、緩やかで郷愁溢れる国境の島の記録が映し出される。
HPより
イタリア出身の映像作家アヌシュ・ハムゼヒアンと写真家ヴィットーリオ・モルタロッティのコンビが与那国島に初めて訪れたのは2018年。これまでにクラゲの研究者である日本人男性を取材した『Monsieur Kubota』(2018年/ドキュメンタリー)やアメリカの原爆実験とオッペンハイマー博士の記録を追いかけた『Most Were Silent』(2018年/書籍)など、映像や写真、インスタレーションなど特定の媒体にとらわれない形で作品を制作してきた二人は、与那国の言葉"どぅなんむぬい(与那国語)"が日本で最も消滅の危機に瀕している言語の一つであること知る。最初の滞在時に“少数言語の消滅”というワードの裏側には、一つの世界が消失することに二人は気付く。その言葉を話す人が少なくなり、その言葉で表されていたはずの風景、文化、関係性もまた変化せざるをえない局面を迎えていることを最初の滞在時に感じ取った。二人は消失の危機にあるコミュニティの痕跡を3年間にわたり記録していった。島の風土や人々の暮らしを写真や映像、音声で記録し、国際的に有名な社会言語学者であるパトリック・ハインリッヒ教授とのコラボレーションのおかげで、ドゥナン語や島の象形文字であるカイダ文字についてもテキストとして記録した。
イタリア出身の映像作家が与那国島で映画を撮る。なぜ?と思ったけど、元々、この島の風土や人々の暮らしを写真や映像、音声で記録していたことがきっかけで、この島の中学生たちのことを追ったドキュメンタリー作品を撮ることになったというのが興味深い。島には高校がなく、中学を卒業すると島を離れる。やはり一旦は島を旅立つ。彼らは島に戻るのだろうか。4人の中学3年生の姿を追い、彼らの思い、島の人たちや先生の関係。狭い島の中で育まれた、関係が優しい。船で旅立つ時の、垂れ幕や、島の人たちと彼らの表情。やはり船での別れはドラマがある。
HPに「2016年には自衛隊の駐屯が開始され、人口の15%に当たる自衛隊員とその家族250人が住民に加わり、複式学級が解消される小学校も出るなど、島の暮らしには大きな変化が生じつつある」(上記記事)と、書かれていたが与那国にも自衛隊の基地が作られていたんだ。先月4月23日に行った、<第64回 憲法を考える映画の会 「憲法映画祭2022」>で上映された『島がミサイル基地になるか 若きハルサーたちの唄』を観た時に知ったが、いつのまにか南西諸島に自衛隊基地が配備されている。そのことを本土のメディアはほとん本土の人に知らせていない。知らせていてもごくわずか。すでに与那国島、宮古島、奄美大島、そして沖縄本島に基地が配備され稼動しているという。『島がミサイル基地になるか 若きハルサーたちの唄』には石垣島の島民の合意もないまま自衛隊のミサイル基地が建設されていることが描かれていた。与那国島はどうだったのだろうか(暁)。
*シネマジャーナルHP スタッフ日記
「憲法映画祭2022」に行ってきました。本日4月24日もあります!(暁)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/487046406.html
2021年/フランス/日本語・与那国語/ドキュメンタリー/カラー/74分/5.1ch
後援 イタリア文化会館
配給 株式会社ムーリンプロダクション
公式HP『ヨナグニ 旅立ちの島』
*参照
与那国島は日本の西のはてだが、シネマジャーナルでは以前、沖縄の東側の南大東島を舞台にした、やはり島に高校がない中学3年生の「島からの旅立ち」をドラマにした『旅立ちの島唄〜十五の春〜』の吉田康弘監督にインタビューをしている。この『ヨナグニ 旅立ちの島』と同じように、子どもたちは15歳で島を出て家族と離れて暮らさなければならない。日本にはそういう場所があるということを忘れてはならない。
『旅立ちの島唄~十五の春』2013 年
監督・脚本 吉田康弘さんインタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2013/shimauta/index.html
沖縄 桜坂劇場 TEL 098-860-9555 4/30(土) ~
東京 新宿 K's Cinema TEL 03-3352-2471 5/7(土) ~
東京 UPLINK 吉祥寺 TEL 0422-66-5042 5/7(土) ~
公開劇場情報
HPより
時代の波に翻弄される文化、言葉、暮らしそれでも島に息づくものがある。
かつて「与那国島」はアジアの交易の中継地として栄えてきた。その交流から生まれた文化と、日本や沖縄本島とも異なる独自の言語は島の誇りであった。
1972年、沖縄の日本本土復帰とともに、与那国は日本の最西端つまり国境の島になった。
その後50年の間、島はどのように移り変わり、人々の暮らしはどのように変化したのか。
そして、時代を経てもなお変わらないものとは ――
2021年、世界がコロナ禍に見舞われる中、与那国島は二つの映画を生み出した。
島に生まれ育った若き才能が描く望郷の島 『ばちらぬん』。
欧州からやって来た気鋭の視点で描かれる日常の島『ヨナグニ ~旅立ちの島~』。
与那国島を新たな角度から描いたこの作品を通して、国境の島そして復帰50周年の意味を問い直す。
与那国島ってどこ ?
与那国島ってどこ日本最西端に位置する国境の島。東京から南西に約1,900km、石垣島から127km。台湾までは111kmに位置し、晴れた日にはその山々を望むことができる。人口は約1700人、面積28.88平方kmの小さな島ながら、黒潮の激流が造り上げた壮大な自然と文化が色濃く息づく。主な産業は漁業や農業で、祖納(そない)・比川(ひがわ)・久部良(くぶら)の3つの集落がある。琉球王朝と南方文化の影響を受けた文化芸能は、ハーリー祭、豊年祭、金比羅祭などがあり、島の人々によって受け継がれている。2016年に自衛隊の駐屯が開始され、人口の15%に当たる自衛隊員とその家族250人が住民に加わり、複式学級が解消される小学校も出るなど、島の暮らしには大きな変化が生じつつある。
緯度・経度24.459251062906088, 122.99462682025388
『ヨナグニ 旅立ちの島』
監督・録音:アヌシュ・ハムゼヒアン、ヴィットーリオ・モルタロッティ
編集:Gabriel Gonzalez
製作:La Bete
出演:金城元気、中井舞風、野底みみ、小島南帆、伊東珠璃、長濵衣織
イタリア出身の映像作家アヌシュ・ハムゼヒアンと写真家ビットーリオ・モルタロッティのコンビが監督。
与那国島には高校がない。若者たちは中学卒業とともに島を離れる。別れと再会を予感しながら。卒業前の中学生たちに密着し、学校生活や、豊かな自然の中で戯れる放課後の彼らに集まってもらい、思春期の本音が漏れる会話を導きだす。島を出る不安と期待など多感な10代の思いが映し出される。
そして、失われつつある島の言葉「どぅなん」や、伝統文化が若い世代へと受け継がれる様子も描かれる。彼らを見守る島の人々、島を出ていく日の風景など、緩やかで郷愁溢れる国境の島の記録が映し出される。
HPより
イタリア出身の映像作家アヌシュ・ハムゼヒアンと写真家ヴィットーリオ・モルタロッティのコンビが与那国島に初めて訪れたのは2018年。これまでにクラゲの研究者である日本人男性を取材した『Monsieur Kubota』(2018年/ドキュメンタリー)やアメリカの原爆実験とオッペンハイマー博士の記録を追いかけた『Most Were Silent』(2018年/書籍)など、映像や写真、インスタレーションなど特定の媒体にとらわれない形で作品を制作してきた二人は、与那国の言葉"どぅなんむぬい(与那国語)"が日本で最も消滅の危機に瀕している言語の一つであること知る。最初の滞在時に“少数言語の消滅”というワードの裏側には、一つの世界が消失することに二人は気付く。その言葉を話す人が少なくなり、その言葉で表されていたはずの風景、文化、関係性もまた変化せざるをえない局面を迎えていることを最初の滞在時に感じ取った。二人は消失の危機にあるコミュニティの痕跡を3年間にわたり記録していった。島の風土や人々の暮らしを写真や映像、音声で記録し、国際的に有名な社会言語学者であるパトリック・ハインリッヒ教授とのコラボレーションのおかげで、ドゥナン語や島の象形文字であるカイダ文字についてもテキストとして記録した。
イタリア出身の映像作家が与那国島で映画を撮る。なぜ?と思ったけど、元々、この島の風土や人々の暮らしを写真や映像、音声で記録していたことがきっかけで、この島の中学生たちのことを追ったドキュメンタリー作品を撮ることになったというのが興味深い。島には高校がなく、中学を卒業すると島を離れる。やはり一旦は島を旅立つ。彼らは島に戻るのだろうか。4人の中学3年生の姿を追い、彼らの思い、島の人たちや先生の関係。狭い島の中で育まれた、関係が優しい。船で旅立つ時の、垂れ幕や、島の人たちと彼らの表情。やはり船での別れはドラマがある。
HPに「2016年には自衛隊の駐屯が開始され、人口の15%に当たる自衛隊員とその家族250人が住民に加わり、複式学級が解消される小学校も出るなど、島の暮らしには大きな変化が生じつつある」(上記記事)と、書かれていたが与那国にも自衛隊の基地が作られていたんだ。先月4月23日に行った、<第64回 憲法を考える映画の会 「憲法映画祭2022」>で上映された『島がミサイル基地になるか 若きハルサーたちの唄』を観た時に知ったが、いつのまにか南西諸島に自衛隊基地が配備されている。そのことを本土のメディアはほとん本土の人に知らせていない。知らせていてもごくわずか。すでに与那国島、宮古島、奄美大島、そして沖縄本島に基地が配備され稼動しているという。『島がミサイル基地になるか 若きハルサーたちの唄』には石垣島の島民の合意もないまま自衛隊のミサイル基地が建設されていることが描かれていた。与那国島はどうだったのだろうか(暁)。
*シネマジャーナルHP スタッフ日記
「憲法映画祭2022」に行ってきました。本日4月24日もあります!(暁)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/487046406.html
2021年/フランス/日本語・与那国語/ドキュメンタリー/カラー/74分/5.1ch
後援 イタリア文化会館
配給 株式会社ムーリンプロダクション
公式HP『ヨナグニ 旅立ちの島』
*参照
与那国島は日本の西のはてだが、シネマジャーナルでは以前、沖縄の東側の南大東島を舞台にした、やはり島に高校がない中学3年生の「島からの旅立ち」をドラマにした『旅立ちの島唄〜十五の春〜』の吉田康弘監督にインタビューをしている。この『ヨナグニ 旅立ちの島』と同じように、子どもたちは15歳で島を出て家族と離れて暮らさなければならない。日本にはそういう場所があるということを忘れてはならない。
『旅立ちの島唄~十五の春』2013 年
監督・脚本 吉田康弘さんインタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2013/shimauta/index.html
沖縄本土復帰50周年特集 国境の島にいきる『ばちらぬん』
与那国島が舞台の映画が2本公開されます『ばちらぬん』『ヨナグニ ~旅立ちの島~』
沖縄 桜坂劇場 TEL 098-860-9555 4/30(土) ~
東京 新宿 K's Cinema TEL 03-3352-2471 5/7(土) ~
東京 UPLINK 吉祥寺 TEL 0422-66-5042 5/7(土) ~
公開劇場情報
HPより
時代の波に翻弄される文化、言葉、暮らしそれでも島に息づくものがある。
かつて「与那国島」はアジアの交易の中継地として栄えてきた。その交流から生まれた文化と、日本や沖縄本島とも異なる独自の言語は島の誇りであった。
1972年、沖縄の日本本土復帰とともに、与那国は日本の最西端つまり国境の島になった。
その後50年の間、島はどのように移り変わり、人々の暮らしはどのように変化したのか。
そして、時代を経てもなお変わらないものとは ――
2021年、世界がコロナ禍に見舞われる中、与那国島は二つの映画を生み出した。
島に生まれ育った若き才能が描く望郷の島 『ばちらぬん』。
欧州からやって来た気鋭の視点で描かれる日常の島『ヨナグニ ~旅立ちの島~』。
与那国島を新たな角度から描いたこの作品を通して、国境の島そして復帰50周年の意味を問い直す。
与那国島ってどこ ?
与那国島ってどこ日本最西端に位置する国境の島。東京から南西に約1,900km、石垣島から127km。台湾までは111kmに位置し、晴れた日にはその山々を望むことができる。人口は約1700人、面積28.88平方kmの小さな島ながら、黒潮の激流が造り上げた壮大な自然と文化が色濃く息づく。主な産業は漁業や農業で、祖納(そない)・比川(ひがわ)・久部良(くぶら)の3つの集落がある。琉球王朝と南方文化の影響を受けた文化芸能は、ハーリー祭、豊年祭、金比羅祭などがあり、島の人々によって受け継がれている。2016年に自衛隊の駐屯が開始され、人口の15%に当たる自衛隊員とその家族250人が住民に加わり、複式学級が解消される小学校も出るなど、島の暮らしには大きな変化が生じつつある。
緯度・経度24.459251062906088, 122.99462682025388
『ばちらぬん』
監督・脚本・撮影・編集・美術・与那国語指導 東盛あいか
美術: 笹木奈美、東盛あいか
制作: 木村優里、三井康大
出演 東盛あいか/石田健太/笹木奈美/三井康太/山本桜
2021年ぴあフィルムフェスティバル グランプリ受賞
与那国島で生まれ育った東盛あいか監督の初監督作品。
本作品は花、果実、骨、儀式など与那国島の象徴的なイメージで構成されるフィクションパートと与那国島の日常や祭事を取材したドキュメンタリーパートが交差するように進む実験作。フィクションとドキュメンタリーが交じり合う映像を通して、島に紡がれてきた歴史、文化、人々の記憶がスクリーンに映し出される。日本の最西端、沖縄県与那国島の言葉で「ばちらぬん」は「忘れない」という意味だそう。
与那国島生まれの女性監督が、若い感性で作られた作品。私には意味が分からずついていけないところもあったけど、与那国島の様子、雰囲気、イメージ、自然など、いろいろなものが混ざり合って、「私の島」を主張しているのかなとも思いました。本土とは違う、亜熱帯の植物たちが珍しく、いつか機会があったら行ってみたいと思いました。西表島までは行ったことがあるのですが、与那国島にはまだ行ったことがありません。沖縄が舞台の映画はけっこう観てきているのですが、与那国島が舞台の作品は、映画では観たことがなかったかも(暁)。
2021年/日本/日本語・与那国語/61分/カラー/フィクション/61分/5.1ch
エンディング曲: 「どぅんた」與那覇有羽 有限会社 RESPECT RECORD
配給 株式会社ムーリンプロダクション
協力:リスペクトレコード
後援:与那国町、イタリア文化会館
公式HP 『ばちらぬん』
沖縄 桜坂劇場 TEL 098-860-9555 4/30(土) ~
東京 新宿 K's Cinema TEL 03-3352-2471 5/7(土) ~
東京 UPLINK 吉祥寺 TEL 0422-66-5042 5/7(土) ~
公開劇場情報
HPより
時代の波に翻弄される文化、言葉、暮らしそれでも島に息づくものがある。
かつて「与那国島」はアジアの交易の中継地として栄えてきた。その交流から生まれた文化と、日本や沖縄本島とも異なる独自の言語は島の誇りであった。
1972年、沖縄の日本本土復帰とともに、与那国は日本の最西端つまり国境の島になった。
その後50年の間、島はどのように移り変わり、人々の暮らしはどのように変化したのか。
そして、時代を経てもなお変わらないものとは ――
2021年、世界がコロナ禍に見舞われる中、与那国島は二つの映画を生み出した。
島に生まれ育った若き才能が描く望郷の島 『ばちらぬん』。
欧州からやって来た気鋭の視点で描かれる日常の島『ヨナグニ ~旅立ちの島~』。
与那国島を新たな角度から描いたこの作品を通して、国境の島そして復帰50周年の意味を問い直す。
与那国島ってどこ ?
与那国島ってどこ日本最西端に位置する国境の島。東京から南西に約1,900km、石垣島から127km。台湾までは111kmに位置し、晴れた日にはその山々を望むことができる。人口は約1700人、面積28.88平方kmの小さな島ながら、黒潮の激流が造り上げた壮大な自然と文化が色濃く息づく。主な産業は漁業や農業で、祖納(そない)・比川(ひがわ)・久部良(くぶら)の3つの集落がある。琉球王朝と南方文化の影響を受けた文化芸能は、ハーリー祭、豊年祭、金比羅祭などがあり、島の人々によって受け継がれている。2016年に自衛隊の駐屯が開始され、人口の15%に当たる自衛隊員とその家族250人が住民に加わり、複式学級が解消される小学校も出るなど、島の暮らしには大きな変化が生じつつある。
緯度・経度24.459251062906088, 122.99462682025388
『ばちらぬん』
監督・脚本・撮影・編集・美術・与那国語指導 東盛あいか
美術: 笹木奈美、東盛あいか
制作: 木村優里、三井康大
出演 東盛あいか/石田健太/笹木奈美/三井康太/山本桜
2021年ぴあフィルムフェスティバル グランプリ受賞
与那国島で生まれ育った東盛あいか監督の初監督作品。
本作品は花、果実、骨、儀式など与那国島の象徴的なイメージで構成されるフィクションパートと与那国島の日常や祭事を取材したドキュメンタリーパートが交差するように進む実験作。フィクションとドキュメンタリーが交じり合う映像を通して、島に紡がれてきた歴史、文化、人々の記憶がスクリーンに映し出される。日本の最西端、沖縄県与那国島の言葉で「ばちらぬん」は「忘れない」という意味だそう。
与那国島生まれの女性監督が、若い感性で作られた作品。私には意味が分からずついていけないところもあったけど、与那国島の様子、雰囲気、イメージ、自然など、いろいろなものが混ざり合って、「私の島」を主張しているのかなとも思いました。本土とは違う、亜熱帯の植物たちが珍しく、いつか機会があったら行ってみたいと思いました。西表島までは行ったことがあるのですが、与那国島にはまだ行ったことがありません。沖縄が舞台の映画はけっこう観てきているのですが、与那国島が舞台の作品は、映画では観たことがなかったかも(暁)。
2021年/日本/日本語・与那国語/61分/カラー/フィクション/61分/5.1ch
エンディング曲: 「どぅんた」與那覇有羽 有限会社 RESPECT RECORD
配給 株式会社ムーリンプロダクション
協力:リスペクトレコード
後援:与那国町、イタリア文化会館
公式HP 『ばちらぬん』
2022年05月02日
マイ・ニューヨーク・ダイアリー 原題:My Salinger Year
監督・脚本:フィリップ・ファラルドー(『ぼくたちのムッシュ・ラザール』『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』)
原作:「サリンジャーと過ごした⽇々」(ジョアンナ・ラコフ 著/井上里 訳/柏書房)
出演:マーガレット・クアリー、シガニー・ウィーバー、ダグラス・ブース、サーナ・カーズレイク、ブライアン・ F ・オバーン、コルム・フィオールほか
1995年、秋、ニューヨーク。作家を夢見るジョアンナ。職探しに人材紹介会社を訪ねる。「作家志望は敬遠されるから出版社はダメね」と、老舗出版エージェンシーを薦められる。著者の代理人として出版社へ企画を持ち込んだり、著作物の権利管理を代行する仕事。ジョアンナは、J.D.サリンジャー担当のマーガレットの下で働き始める。
日々の仕事は、世界中から毎日大量に届くサリンジャーへの熱烈なファンレターに返事を出すこと。でも、ジョアンナは「ライ麦畑でつかまえて」どころか、サリンジャーの小説を一つも読んでなかった。
定型文で返事を出せと指示されていたが、戦争体験を打ち明ける退役軍人、作家志望の娘を亡くした母親、返事を貰えれば落第せずに済むという学生・・と、熱心に語り掛ける手紙に、ジョアンナは自分の署名入りで返事を書き始める。
そんなある日、ボスの不在時にサリンジャーからの電話を取る。「人嫌いという噂は嘘よ」とボスから聞いていた通り、「会えるのを楽しみにしてるよ」と気さくに話しかけてくれるサリンジャー。ジョアンナが詩を書くと知って、その後も電話で励ましてくれる。
ようやくボスから数点の原稿を渡され、ふさわしい雑誌を選んで売り込むよう任される。担当した作品の出版が初めて決まり、上司から、「これで一人前ね」と言われる・・・
目をきらきらさせて、水を得た魚のようにはつらつと働くジョアンナが、とてもキュート。ジョアンナはいつか作家になりたいという目標に向かって、日々邁進しているのです。まだ若い時に、自分のやりたいことを見つけられるっていいなと思いました。
フィリップ・ファラルドー監督には、『ぼくたちのムッシュ・ラザール』が公開された折にインタビューしたことがあって、こんな爽やかな作品を作ってくれた!と、懐かしく思い出しました。
サリンジャーは、なかなか姿を見せないのですが、映画のラスト、ジョアンナが外出先から帰ってくると、シガニー・ウィーバー演じる上司を訪ねてきていて歓談中。 ジョアンナがサリンジャーと直接会えたかどうかは、ぜひ劇場で! ラストがとても爽やかで素敵です。(咲)
2020年/アイルランド・カナダ合作/101分/ビスタ
提供:カルチュア・パブリッシャーズ、ビターズ・エンド
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://bitters.co.jp/mynydiary/
★2022年5月6日(金)新宿ピカデリー、Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー