2022年4月22日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか3作連続公開
劇場情報
アメリカの1960年代以降の音楽、フォーク、カントリー、ロックなどの分野を代表する歌い手を紹介する、「極上のロック・ドキュメンタリー ROCKUMENTARY2022」の3本が公開され、その第一弾として『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』が4月22日から公開される。
『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』
ウェストコーストの歌姫 リンダ・ロンシュタットの半生を描く
監督・製作:ロブ・エプスタイン&ジェフリー・フリードマン
製作:ジェームズ・キーチ、ミシェル・ファリノラ
製作総指揮:エイミー・エンテリス コートニー・セクストン
撮影:ナンシー・シュライバー、イアン・コード
編集:ジェイク・プシンスキー
音楽:ジュリアン・レイモンド、ベネット・サルベイ
出演
リンダ・ロンシュタット、ジャクソン・ブラウン、エミルー・ハリス、ドリー・パートン、ボニー・レイット、ライ・クーダー、ドン・ヘンリー、ピーター・アッシャー、デビッド・ゲフィン、キャメロン・クロウ他
世界が愛し続ける「ウェストコーストの歌姫」リンダ・ロンシュタット。
フォーク、カントリー、ロック、ポップス、ソウル、オペラ、そして彼女のルーツであるメキシコのマリアッチに至るまで、どんなジャンルの曲も歌いこなしたアメリカ西海岸を代表するシンガー、リンダ・ロンシュタット。そのたぐいまれなる歌声は一度聴いたらきっと忘れない。そんな彼女の半生を彼女自身のガイドによって描きだす。
リンダは1946年メキシコ国境に近い米国アリゾナ州ツーソンに生まれた。父方の曾祖父がドイツからの移民で、曾祖父はメキシコ人と結婚。父親は金物屋だったが若い頃は歌手だった。兄弟は4人で、父は子供たちに幅広く様々な音楽を聴かせたそう。兄と姉との3人でツーソンのコーヒーハウスやクラブで歌い始め、14歳の時には、のちにグループで活動するボブ・キンメルに見いだされた。ボブに誘われ、1965年にロサンゼルスへ。1967年にはソロ活動を始め、またたくまに音楽界で認められるようになった。
バンド時代、ソロ2枚目あたりまではカントリー・フォーク色が強かったが、だんだんにロック色を強め、バックバンドをしていたイーグルスのナンバーやオールディーズナンバーをカバーし、ロック的なボーカルスタイルに変えていった。1974年~1980年にかけて発売したアルバムがミリオンヒット。曲としては「悪いあなた」「ブルー・バイユー」「イッツ・ソー・イージー」などがヒット。それら彼女が歌う歌が全編に流れる。ビルボード1位のアルバムは3枚、グラミー賞を10回受賞し、来日公演し日本武道館で公演した。
ニール・ヤング、ジェームス・テイラー、ジャクソン・ブラウン、ライ・クーダー他、イーグルスのメンバーなど、多数のあの当時から活躍している歌手やアルバムプロデューサーなどが登場。また、ドリー・パートン、エミルー・ハリスとは時々共演し、1987年には共演アルバム『Trio』を発表するまでのいきさつが語られる。
2021年・第63回グラミー賞で最優秀音楽映画賞を受賞したドキュメンタリー。
1968年頃、フォークソングにはまり、ジョン・バエズやボブ・ディラン、PPM,ブラザース・フォー、ニール・ヤングやドノバン、キングストントリオなど、アメリカやイギリスなど欧米の歌手の歌をラジオでよく聴いていた。その関係で、カントリーウエスタンにも興味を持っていた。その後、日本のフォークソングも聴くようになり、あげくのはてに高校3年の時に友人5人とフォークグループを組んで、卒業までの半年くらいは、ギターと歌の練習に励んでいた。就職も決まり、そういう余裕があったし、バイトをして自分のお金で初めてギターを買ったということもあった。まさにその頃は音楽三昧だった。
1970年、社会人になってからは、自分でギターを弾いたり、ラジオで音楽を聴くという生活がほとんどだったけど、時々、学生時代の音楽仲間から誘われ、新宿歌舞伎町のコマ劇場隣りの東宝会館地下にあった「ウィッシュボン」というカントリーウエスタン専門のライブハウスに通うようになった。そこで、日本のカントリーウエスタン歌手の人たちを知ったけど、彼らはアメリカのカントリーウエスタンの歌をよく歌っていたし、ライブタイム以外はカントリーウエスタンの歌がよくかかっていた。
ウィリー・ネルソンやジョニー・キャッシュ、ハンク・ウイリアムス、ジミー・ロジャース、ジェームス・テイラーなどの男性歌手だけでなく、ドリー・パートン、パッツィー・クライン、ロレッタ・リン、エミルー・ハリスなどの歌も流れ、そんな中にリンダ・ロンシュタットもいた。映像も流れていたけど、おしゃべりに夢中で画面はあまり見てはいなかった。それに、その頃は自分でオーディオ機器を買って、レコードを聴く余裕はなく、ラジオでこれらの歌を聴いていた。だから名前は知っていても顔は知らないという人がほとんどだった。
今、YouTubeなどを見ると、その頃の映像がたくさんあるということを知った。そして、こういうドキュメンタリー映画を観て、ほんとに昔の映像がたくさん残っているのだなと思い、今になって、やっと名前と顔が一致するという人がたくさんいる(笑)。ライ・クーダーなどはその代表。当時名前を良く聞いたけど、顔は全然知らなかった。この映画で当時の顔を知ったけど、知ったばかりで、年を経た今の顔がどの人なのかわからずという状態。ライ・クーダーばかりでなく、他にもこの映画の中で顔を知った(一瞬なので覚えるまではいかなかったかも)人が何人も出てきたのでよけい混乱(笑)。おかげで出てくるたびに、この人誰だっけ?と思いながら観ていた。2,3回は観ないとなかなか覚えられないくらいのたくさんの人が出てきて、リンダはたくさんの人に支えられながら、大きな存在になっていったのだなと思った。
そしてなんといっても圧巻だったのは、ドリー・パートンやエミルー・ハリスと3人で時々共演し歌っていたシーン。YouTubeを見てみたら、3人で歌っているシーンがたくさんアップされていた。こんな豪華なメンバーがそろって歌うなんてことがあったんだ。そのことは、リアルタイムでは知らなくて残念だったけど、今はYouTubeなどで見ることができる。すごい時代だなとも感じた。
それにしてもこんなにも広い分野で活躍していたのは知らなかったし、パーキンソン病を患って引退していたことも、この映画で知った。音楽界を引退した後も家族と一緒に音楽を楽しんでいることが描かれ、彼女はコンサートなどで歌うことはなくなったけど、好きな音楽を楽しんでいる姿に安心した。ほんとに知られざるリンダ・ロンシュタットの姿をみせてもらった。彼女のスケールの大きな生き方、自分を通して来た姿は、私たちに勇気を与えてくれた(暁)。
2019 年/アメリカ/93 分/ビスタ/ステレオ
提供:ジェットリンク
配給:アンプラグド
©LR Productions, LLC 2019 – All Rights Reserved
極上のロック・ドキュメンタリー ROCKUMENTARY2022 公式HP
アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ 英題:BAD LUCK BANGING OR LOONY PORN
監督・脚本:ラドゥ・ジューデ
出演:カティア・パスカリウ、クラウディア・イェレミア、オリンピア・マライ、ニコディム・ウングレアーヌ、アレクサンドル・ポトチェアン
ルーマニア、ブカレスト。名門校の歴史教師エミは、コロナ禍の街をさまよい歩いていた。夫とのプライベートセックスの動画が、パソコンよりネットに流失してしまい、生徒や親の目に触れて問題となり、保護者会が開かれることになったのだ。その前に校長宅に行くと、寝たきりのお婆さんが垂れ流した糞尿の処理に皆が追われていて、事情説明するどころじゃない。さらに、街をさまよい、夜、学校の中庭で保護者が待ち受けているところに着くと、正面に座らされる。問題の動画を観ていない者もいるからと、動画が流される。立ち上がって動画を覗き込む男性もいる。そして、まるで弾劾裁判のような保護者会が始まる・・・
あらすじを簡単に書いてしまえば、こんな流れなのですが、この映画、あちこち寄り道して、実に面白い構成でできています。
プロローグ
ベッドの上でセクシーな下着姿の女性が男を誘う。ホームビデオのような映像。
「皆さん、検閲版だよ」と、画面が隠される。男女の喘ぎ声だけが聞こえてくる。「殺 人シーンはOKで、フェラはNG?」「米アカデミー賞で一票を!」「見られなくて残念!」「検閲=金」と矢継ぎ早にコメントが映し出される。
(というワケで、肝心な問題の場面は、みられません!)
第一部:一方通行の通り
マスクをしてコロナ禍のブカレストの街をさまよい歩くエミ。市場で花を買う。教会の鐘が鳴る。トラムの走る大通り。町の喧騒。工事中の建物だらけ。本屋。ソーシャルディスタンスを保つため、外で待つ人。
校長の家を訪ねる。寝たきりのお婆さんが垂れ流したと皆が慌てふためいている。事情説明もそこそこに失礼する。
モールのおもちゃ売り場へ。レジで「食事券で全部は買えない」とぶつぶつ言いながら計算する女性。レジは一つしかなくて、待たされる。
歩道に止めている車に文句をいうと、汚い言葉を返す車の持ち主。
夫から「誰かが保存していた動画を再アップした」と電話。ポルノ教師と書かれているらしい。
本屋で、エドガー・リー マスターズの詩集を求める。「コロナの時代にぴったり」と。
「チャールズ・レズニコフはどう?」と本屋。「19世紀後半の恐ろしいことが書かれてるよ」と。
戸外のカフェで休憩。若者たちが、神風特攻隊で文系の若者たちが使い捨てにされたと話している。
大きなソフトクリームのオブジェが道端に並んでいる。
1918年の年号と兵士の絵が壁に。
シネマトフラフィ・ブカレストの建物を映して、第一部終了。
第二部:逸話 兆候 奇跡の簡易版辞書
AからZまでの言葉を映像で綴る。
始まりは、8月(August)23日の連合国軍事パレード。
「軍隊」国民制圧の手段。1848年革命、1907年農民一揆、第一次大戦後、少数民族や左翼を抑圧、第二次大戦中は少数民族虐殺、1989年革命家たちを殺した
「ルーマニア正教会」独裁政権と親しく、1989年革命家たちが軍から逃げてきた時、教会の扉を開けなかった。
「競争」ペルシアの王は、訪英時に競馬鑑賞の誘いを断った。勝者と敗者が生じるのは明白だから。
「コロナ禍のダンス」長い棒を持ってソーシャルディスタンスを保ってのダンス
「ロボット」中東で戦った将校が言った。「戦争が自動化されつつある」
「禅」本物の詩人は喜劇と悲劇を同時に作る。人生には悲劇と喜劇の両方が含まれているからだ。
第三部:実践とほのめかし
夜、学校に着いたエミ。体温を測り、中庭に行くと、保護者たち20数名と校長が待ち構えている。思い思いの目立つマスクをした保護者たち。話し合いの前に、問題の動画を見ていない人もいるのでと、全員の前でさらされる。身を乗り出して好奇心丸出しで見る人たち。見終わって、いよいよ弾劾裁判が始まる。高圧的にエミを追いつめる人たち。エミも負けてはいない。「偉そうな教会の人がいるせいで、この国には性教育が存在しない」
「国民的詩人エミネスクもエロティックな詩を書いています」と、詩を朗読するエミ。
「最も大切なことは成績よりも知識を求めること」というハンナ・アーレントの言葉を引用する。
校長が、「エミは優秀な教師」と時折、口を挟むのもさもありなんのエミの堂々とした受け答え。最後に処遇をどうするか多数決をとることになる・・・
ここで監督が提供してくれるのが、3つのエンディング。まずは、おおごとにならないバージョン。最後は、映画自体をジョークで終わらせるバージョン。
映画全体を通じて、笑いでぶっ飛ばそうとする場面があるかと思えば、ルーマニアの歴史や、人間の本質をついた場面があって、くらくら。
『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』というタイトルに、思い切り引いてしまい、観るのをやめようと思ったほどだったのですが、第一部では、ブカレストの街のなにげない風情が楽しめたし、第二部では、それぞれの言葉のウンチクが面白かったし、第三部では、保護者たちの言葉の暴力に応酬するエミの姿が小気味よくて、ぜひ観てくださいと太鼓判を押せる映画でした。“イカれたポルノ”に惹かれた方には、日本公開バージョンは、監督による検閲版ですので、期待外れです! 念のため。
それにしても、「教師にあるまじき卑猥な行為」と攻め立てる母親に、「あなたは聖母マリアさま?」と問い詰めたくなりました。(咲)
第71回ベルリン国際映画祭金熊賞受賞
2022年米アカデミー賞®ルーマニア代表作品
2021/ルーマニア、ルクセンブルク、チェコ、クロアチア/ルーマニア語/106分/シネスコ/5.1ch R-15
字幕翻訳:大城哲郎
配給:JAIHO
公式サイト:https://unluckysex-movie.com/
★2022年4月23日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
チロンヌプカムイ イオマンテ
監督:北村皆雄
撮影:柳瀬 裕史・森 照通・明⽯ 太郎
音楽:豊川容子+nin cup
語り:豊川容子
監修・カムイノミ対語訳:中川裕
(千葉大学名誉教授、『ゴールデンカムイ』アイヌ語監修)
出演:日川善次郎エカシ
1986年、北海道屈斜路コタンの美幌峠で、大正時代に行われてから75年ぶりに「キタキツネのイオマンテ(霊送り)」が行われた。
狩猟民であるアイヌの伝統的な考えでは、ヒグマやキタキツネといった生き物は、自らの肉や毛皮を土産にして、神の国から人間の国へやってくる。それを受け取ったアイヌは、お返しにわが子のように育てた動物の霊魂を、その父母のいる神の国へと送る。
歌や踊りで喜ばせ、お礼の品をどっさり背負わせてお送りするのがイオマンテである。
イオマンテではカムイノミ(祈詞)の一言一句に全霊が込められる。そして沢山のウポポとリㇺセが霊魂に捧げられる。心を尽くして歌い踊るアイヌの精神文化の原点がここにある。旅立つキタキツネに捧げるアイヌシンガーの歌が天まで響きわたる。
1986年撮影のこの映像には、75年ぶりに行われたその儀式が残されています。アイヌ語研究の第⼀⼈者・中川裕氏による現代語訳がつけられているので、ますます貴重なものとなりました。祭祀を司るのは、明治44生まれの日川善次郎エカシ(当時75歳)。立派な髭をたくわえて朗々と長い長い祈詞を唱えます。間違うと神を怒らせてしまうそうですが、口伝で覚えたのでしょうか?近代ではローマ字やラテン語表記をするようです。
神の国へ戻るチロンヌプカムイは、自分の役割を知っているかのように泣き騒いだりせずなんだかシンとしました。人間の国のようすを神に報告して、子孫を残すためにまた人間の国に戻って、と円環が続いていきます。晴れ着姿の男女が歌い踊る場面にも見入りました。みな手作りなのでしょう、1枚も同じのが見当たりません。民族衣装に興味のある方も必見。
北村皆雄監督が再訪したときには、日川エカシはすでに亡くなられています。今や生活も変わり、伝統文化の継承がどうなるのか先行きが気にかかります。北海道に開拓民が入るずっと前から、自然への畏敬の念を忘れずにきたアイヌの人々の知恵を知る一端になります。(白)
※タイトル「チロンヌプ」の「プ」は⼩⽂字が正式表記。
ーー祈詞ーー
それは 神というのは
ne hi anakne kamuy anakne
昔から 力のあるものが
teeta wano u nupur kuni p
神であると 聞きながら
kamuy ne sekor ku=nu pa ki kor
私は育ったもの ですから
ku=sukup pe ku=ne p ne ki na.
足らないところがあっても
u hayta yakka
よくよく 斟酌して いただいて
pirkano ceenomare a=ki pa ki wa
何事もなく 終わるように
apunno kane hopita kuni
尊き神 神のもとに
u pase kamuy kamuy or ta
ことづけを 私はするのですよ
u sonko(y)ani ku=ki pa ki na
キツネの神が 明日は
cironnup kamuy nisatta anak
神の国 神の元へ 行くので
kamuy mosir kamuy or ta arpa kusu
歩みの先 歩みの上を
arpa etok arpa kurkasi
神々よ よく見守って いただいて
kamuy utari u pirka nukar an=ki pa ki wa
無事に 着くように
u pirkanopo sirepa kuni
食料でも なんでも たくさん 背負って
haru ne yakka nep ne yakka poronno kane u se pa ki wa
神の元へ 行くように
kamuy or ta arpa kuni
尊き神 神々よ
pase kamuy kamuy utari
よく見守って いただけるように
pirka nukar an=ki pa kuni
[1986年5⽉31⽇ 前夜祭での⽇川エカシの祈詞より]
2021年/日本/カラー/105分
配給:ヴィジュアルフォークロア
(C)堤大司郎
https://www.iomantefilm.com/
★2022年4月30日(土)ロードショー
手紙と線路と小さな奇跡(原題:기적 英語題:Miracle:letters to the President)
監督・脚本:イ・ジャンフン
撮影:キム・テス
出演:パク・ジョンミン(ジュンギュン)、イ・ソンミン(ジュンギュン)、イム・ユナ(ラヒ)、イ・スギョン(姉ボギョン)
「大統領様 僕の村には道路がありません。冗談のようですが線路しか通ってないのです。どうか、駅を作ってください」高校生のジュンギュンは54通目の手紙を大統領府へ出した。本当に線路しかなく、村の人たちは電車の来ないうちに、一番近い駅へと線路を歩いている。時刻表にのっていない貨物列車がやってくると、大急ぎで線路わきによけるのだ。危険なことこの上ない。
クラスメイトのラヒは、父親が国会議員の自称「ミューズ=女神」。数学の天才ではあるけれど、一風変わったジュンギュンを気にして何かと世話を焼いている。有難迷惑だと言いながら、なんだか嬉しいジュンギュン。
1988年、韓国で初めてできた私設の両元(ヤンウォン)駅をモチーフにしたフィクションです。パク・ジョンミンは『ただ悪より救いたまえ』でドラァグクイーン姿を見せて、別人かと思いましたっけ。ここでは数学の天才で、県や国の代表になれるほどの頭脳の持ち主を演じています。堅物の機関士の父親をイ・ソンミン。映画・ドラマどちらでもどんな役でもできる俳優さんで、この人が出ていると安心します。弟を見守り応援する姉にイ・スギョン。
家族の秘密がすこしずつ明かされるたびに「え~、そうだったの!」と驚かされます。お互いを想っているのに、外に出せずにすれ違ってしまっているのはどこの家族にもあることです。ちゃんと言ってくれないとわかりません、お父さん。ジュンギュンとラヒのぎこちない初恋はほほえましいです。演じるユナさんはガールズグループ”少女時代”のセンターでリードボーカル。デビューは2007年で今も続いていますね。
実在の両元駅は2012年に閉鎖されましたが、翌年から観光列車が停車するようになり、村には道路ができて、住民の往来は便利になったそうです。(白)
『空と風と星の詩人 ~尹東柱の生涯~』(2016年)で独立運動家ソン・モンギュ(宋夢奎)を演じたパク・ジョンミン、『ただ悪より救いたまえ』(2020年)でホットパンツ姿がキュートなトランスジェンダーを演じて、びっくりさせてくれましたが、本作では高校生役。撮影当時34歳だったそうです。同級生のラヒを演じた少女時代のユナも1990年生まれ! 二人とも、ちゃんと高校生に見えました。初キスに挑む姿のなんと初々しいこと! 二人とも、慶尚北道の方言を懸命に練習して撮影に臨んだそうです。一方、父を演じたイ・ソンミンは慶尚北道の出身で、俳優になって以来、方言で演技したいという夢が叶ったのだとか。とはいえ、父はずっと押し黙っていて、台詞はあまりないのです。最後に叫ぶお父さん! 寡黙だった理由がわかって涙でした。(咲)
2021年/韓国/カラー/シネスコ/117分
配給:クロックワークス
(C)2021 LOTTE ENTERTAINMENT & BLOSSOM PICTURES CO., LTD. All Rights Reserved.
https://klockworx-asia.com/miracle/
★2022年4月29日(金)ロードショー
フェルナンド・ボテロ 豊満な人生(原題:Botero)
監督:ドン・ミラー
撮影:ジョー・タッカー、ヨハン・レグレー
出演:フェルナンド・ボテロ
フェルナンド・ボテロは1932年4月19日コロンビアのメデジン生まれ、満90歳になった今も絵筆をとる現役のアーティスト。独特な画風は世界中から愛され、芸術家の頂点にいる。コロンビアからヨーロッパに渡って絵画を学び、ルネサンスに傾倒したボテロ。彼がいかにしてここまでたどり着いたのか、あの画風はいつから身についたのか。ボテロ本人、家族、歴史家やキュレーターたちの証言と映像を組み合わせて、素顔と作品の本質にせまるドキュメンタリー。
一度見たら忘れない個性的な画風、名前を知らなくても彼の絵画や彫刻は、きっと目にふれたことがあるはず。そしてくっきり残って忘れられません。人や動物、静物でさえも穴をあけて空気を吹き込んだように、ぷくぷくと膨らんでいます。そのためユーモラスで官能的、包容力と温かさも感じます。後に彫刻を学んで、やはり大きく重量感のある人や動物を制作しました。
実生活では2度結婚し、再婚した妻との間に生まれた息子を交通事故で亡くしました。可愛い盛りに亡くし、悲嘆の中描き続けたその子の絵がたくさん紹介されています。最初の妻との息子・娘が今父親を助けているのにホッとしました。
彼の作品のほとんどは多幸感にあふれていますが、一方コロンビアで起こったテロ、イラクで米軍が捕虜に対して行った虐待(飛行機の中で読んだ雑誌で写真を目にしてスケッチを残した)を描いた作品もあります。ボテロの筆致で描かれた大きな絵は、深く記憶に残るでしょう。
ボテロは超有名な芸術家となってもおごらず、探求心を消しません。しかも正義に燃える心があって、お金儲けに走らない(ように見えます)。美術館に自分の作品だけでなく、有名画家のコレクション、さらに買い足した作品まで寄付しています。映画では犯罪都市として描かれる印象のコロンビアですが、ボテロの作品はそこかしこにあり、美術館も充実しているようです。いいなぁ~。
コロンビアは遠いけれど、渋谷Bunkamuraでボテロの映画と展覧会が同時に鑑賞できます。(白)
思い切りふっくら膨らんで、ほっこりさせてくれるボテロの絵画や彫刻。
本作は、そこに込められた思いを紐解いてくれました。
4歳の時に父が亡くなったことを語るボテロ。彼の生まれ育ったコロンビア第二の都市メデジン。1940年代、司祭たちが町を支配していて、信仰心がなかった両親にはつらい環境だったようです。父亡き後、母は裁縫で生計をたて、ボテロは厳しく育てられました。
叔父の勧めで闘牛士を養成する学校に通うも、闘牛の絵を描くことに夢中になり、売店に6枚の絵を委託。初めての売上2ペソは、喜び勇んで自宅に帰る途中で落としてしまいました。海辺で警察が自由党の庶民を棒にぶら下げて運ぶ様を描いた絵が7000ドルで売れてスペインへ。ベラスケスやゴヤの作品から学び、イタリアのピエロ・デラ・フランチェスカに惹かれ、バイクでフィレンツェへ。ルネサンスに出会い、このころからはっきりと「ふくよかさ」を意識。お金が尽きてコロンビアに戻り、恋に落ち結婚。メキシコに移住。そして離婚。世界一の画家を目指してニューヨークへ。所持金わずか200ドル。1960年代のことです。若い女性キュレーターに見いだされ、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に出展。再婚し、息子も生まれ、パリに移住するも、交通事故でまだ幼い息子を亡くし、結局、離婚。描き続けた愛息の絵からは愛おしさが溢れ出ています。
名を成すようになったボテロは、誘拐や殺人の蔓延する故郷メデジンの汚名を返上したいと多くの作品を寄贈。ところが、1995年、メデジンのサン・アントニオ広場でボテロの鳩の銅像に仕掛けられた爆弾でテロが発生。破損した鳩は撤去される予定でしたが、ボテロ自身が同じものを隣に展示することを条件に今も残されています。破壊された鳩も、イラクのアブグレイブ刑務所の惨い捕虜虐待を美しく描いた何十枚の絵も、人々の記憶にいつまでも残るようにとの思い。ゲルニカをピカソが残したように。
90歳の今も、モナコの海の見えるアトリエで絵を描き、夏の1か月はイタリアのトスカーナ州ピエトラサンタの家で子どもや孫たちと一緒に過ごすボテロ。つらい思いもした人生の最終章が穏やかで幸せに満ちている様子に、ほっこり♪ (咲)
2018年/カナダ/カラー/ビスタ/82分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2018 by Botero the Legacy Inc. All Rights Reserved
https://botero-movie.com/
★2022年4月29日(金・祝)よりBunkamuraル・シネマほかにて全国順次ロードショー
◆同日より7月3日(日)までBunkamuraザ・ミュージアムにて展覧会「ボテロ展 ふくよかな魔法」開催
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_botero/
国内では26年ぶりとなる待望の大規模展、≪モナ・リザの横顔≫世界初公開!
ホリック xxxHOLiC
監督:蜷川実花
原作:CLAMP「xxxHOLiC」(ヤングマガジン)
脚本:吉田恵里香
撮影:相馬大輔
音楽:渋谷慶一郎
美術監督:Enzo
美術:後藤レイコ
装飾:前田陽
出演:神木隆之介(四月一日君尋)、柴咲コウ(侑子)、松村北斗(「SixTONES」)(百目鬼静)、玉城ティナ(九軒ひまわり)、趣里(美咲)、DAOKO(マルダシ)、モトーラ世理奈(モロダシ)、磯村勇斗(アカグモ)、吉岡里帆(女郎蜘蛛)
高校生の四月一日君尋(わたぬききみひろ)は、あるときから人の心の闇に寄り憑くアヤカシが見えるようになった。その能力のせいで、孤独な生活を送っていたが、ある日不思議な蝶に導かれて、「ミセ」にたどり着く。妖艶な女主人の侑子(ゆうこ)は、能力を消したいという四月一日の願いを叶えてやれるが「一番大切なものと引き換え」だという。お手伝いとしてミセに住みこみ、通学する四月一日に初めて同級生の友達ができた。百目鬼静(どうめきしずか)や九軒(くのぎ)ひまわりと、これまでにない楽しい日々を過ごす四月一日に、アヤカシを操る女郎蜘蛛の魔の手が近づいていた。
新体感ビジュアルファンタジー。目くるめく蜷川実花ワールドにクラクラすること必至。ストーリーは妖怪譚で、闇の世界のおぞましいものがたくさん登場しますが、それもまた美しいです。願いを叶えてとやってくる人々に、女主人の侑子がかける言葉はなかなか含蓄があります。柴咲コウさんにひたと見つめられたら、何でも頷いてしまいそうではあります。
いつまでも高校生役ができそうな神木くん、エプロン姿で家事をするのもサマになっています。声優としてもベテラン。朝ドラで稔さんだった松村くん、道着姿が凛々しいです。『惡の華』で強い印象を残した玉城ティナさんは監督・脚本にも進出。難読人名の3人でした。若い俳優さんたちの今後も楽しみです。
ほかの映画より多そうな美術や衣裳の方々の熱の入れようがわかる出来栄え。ご苦労したはずですが、同時にすごく楽しんだのではないでしょうか?コミケでコスプレしたくとも、侑子の衣裳は豪華絢爛すぎて真似するのも大変そうです。出るたびに違う、あの素敵な衣裳は撮影が終わったらどこにいくのでしょう?気になります。(白)
2021年/日本/カラー/シネスコ/110分
配給:松竹、アスミック・エース
(C)2022映画「ホリック」製作委員会 (C)CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./講談社
https://xxxholic-movie.asmik-ace.co.jp/
★2022年4月29日(金・祝)ロードショー
山歌
監督・脚本・製作:笹谷遼平
撮影:上野彰吾
音楽:茂野雅道
出演:杉田雷麟(則夫)、小向なる(ハナ)、渋川清彦(省三)、内田春菊(則夫の祖母・幸子)、蘭妖子(タエ)、飯田基祐(則夫の父・高志)
東京オリンピックの翌年、1965年の日本は高度成長に沸いている。中学生の則夫は受験勉強のため、東京から田舎の祖母の家に戻ってきた。ふとしたことでサンカの少女ハナと出逢う。定住せず、山から山へと漂泊の旅をする人々がサンカと呼ばれていた。山をすみずみまで知り、魚や山菜を手に入れ竹製品を作り、現金が必要になったら村里に降りてそれらを売る。戸籍も家も持たない自由な暮らしをしていた。
将来に漠然とした不安を感じていた則夫は、ハナと家族に出逢ってその自由な生き方に憧れる。
笹谷遼平監督が2018年に”伊参スタジオ映画祭”へシナリオを応募、大賞を受賞して映画化が実現した作品。厳しい父の期待を背負っている則夫を、杉田雷麟(らいる)くん。安らげる場所のない則夫は、何ものにも縛られないサンカの家族が羨ましくなります。実はサンカの人々も動いていく時代に抗えず取り残され、生きる術を失いつつありました。こういう生き方をしていた人たちが、昭和の時代までいたというのを初めて知りました。ナイーブな少年と山育ちの少女の淡い交流、時代を見据える省三の強い視線も描いています。自然に抱かれて土に還っていく人が少し羨ましいです。ハナの歌が観終わった後も残りました。(白)
2022年/日本/カラー/77分
配給:マジックアワー
(C)六字映画機構
https://www.sanka-film.com/
★2022年4月22日(金)よりテアトル新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開