2022年04月05日
見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界(英題:Beyond the Visible t Hilma af Klint)
監督:ハリナ・ディルシュカ
撮影:アリシア・パウル、ルアーナ・クニップファー
編集:アンチェ・ラス、マリオ・オリアス、ハリナ・ディルシュカ
出演:イーリス・ミュラー=ヴェスターマン、ユリア・フォス、ジョサイア・マケルヘニー
ヨハン・アフ・クリント、エルンスト・ペーター・フィッシャー
アンナ・マリア・ベルニッツ
声の出演:ペトラ・ファン・デル・フォールト
現在、美術史において、ヴァシリー・カンディンスキーが抽象絵画の先駆者として知られていましたが、その定説が覆されそうになっています。ヒルマ・アフ・クリントがカンディンスキーよりも数年早く、抽象画を描いていたことが判明したのです。本作ではキュレーター、美術史家、科学史家、遺族などの証言と、彼女が残した絵と言葉からヒルマの人生を紐解きながら、抽象画とは何なのかを解説し、現在の絵画ビジネスの在り方についてまで言及しています。
1862 年にスウェーデンの裕福な貴族の家に生まれたヒルマ・アフ・クリントは海軍学校の教師だった父親から数学や天文学、航海学など、さまざまなことを学びました。その後、スウェーデン王立美術院で美術を学ぶと当時の女性としては珍しく職業画家として成功を収めます。“当時、女性が王立の学び舎に入れるとは、スウェーデンはなんて男女平等が進んだ国なんだろう”と驚いたのですが、その裏には男性優位社会の思惑があることを作品は教えてくれます。
一方、霊的世界や神智学に関心を持っていたヒルマは次第に神秘主義に傾倒し、独自の表現の道を歩み始めます。しかし、アドバイスを求めたルドルフ・シュタイナーから認められず、絵を描くことを止めていた時期がありました。同時代の画家たちが新たな芸術作品を発表し、展示を行う中、ヒルマは作品を公表することはなく、最期は甥にすべての作品を遺します。“死後 20 年間はそれを世に出さないように”として。
そして月日は流れ、ヒルマは突如として世界に発見され、各地で開かれた展覧会で評判を呼びます。2019 年にニューヨークのグッゲンハイム美術館で開かれた回顧展は、同館史上最高の来場数(約 60 万人)を記録し、大きな話題となりました。
しかし、現代美術を仕切るMoMAの思惑が絡み、ヒルマが抽象画の先駆者として美術史の定説を覆すには時間が掛かりそうとのこと。芸術も結局、ビジネス優先のようです。(堀)
2019/ドイツ/94 分/英語、ドイツ語、スウェーデン語
配給:トレノバ
公式サイト:https://trenova.jp/hilma/
★2022年4月9日よりユーロスペースほか全国にて公開