2022年04月03日

親愛なる同志たちへ   原題:Дорогие товарищи!  Dorogie Tovarischi 英題:Dear Comrades

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©Produced by Production Center of Andrei Konchalovsky and Andrei Konchalovsky Foundation for support of cinema, scenic and visual arts commissioned by VGTRK, 2020

監督・脚本:アンドレイ・コンチャロフスキー(『暴走機関車』『 パラダイス』) 
出演:ユリア・ビソツカヤ(『くるみ割り人形 3D』『パラダイス』)、ウラジスラフ・コマロフ、アンドレイ・グセフ

1962年、フルシチョフ政権下のソ連で起きたノボチェルカッスクの虐殺。機関車工場のストライキに端を発し、大勢の市民が犠牲になりながら、ソ連が崩壊するまで約30年間隠蔽されていた事件。
本作は、84歳になるロシアの巨匠アンドレイ・コンチャロフスキーが、一人の共産党員の女性を主人公に、事件の真相に迫ったもの。

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©Produced by Production Center of Andrei Konchalovsky and Andrei Konchalovsky Foundation for support of cinema, scenic and visual arts commissioned by VGTRK, 2020


1962年6月1日、ソ連南西部ノボチェルカッスク。
早朝、リューダは共産党市政委員会の同僚で恋人のロギノフの家を後にし食料品店に急ぐ。物不足で、なんとか入手しようと開店を待ち構えている人たちをかき分け、顔見知りの店員から乳製品や煙草を受け取る。家に帰ると、女手ひとつで育てた18歳の娘スヴェッカが工場に出勤する支度に追われている。年老いた元コサック兵の父は煙草を嬉しそうに受け取る。
リューダが美容院で身なりを整えて出勤し会議に参加中、機関車工場でストライキが発生したとの連絡が入る。リューダはモスクワから駆け付けた高官たちを交えた緊急会議に出席する。市外への情報漏洩を防ぐため、軍による封鎖と監視体制を敷いたとの報告を受ける。夜遅く帰宅したリューダは娘に工場に行くなと言い聞かせるが、「抗議するのも民主主義」と家を飛び出していく。

6 月2 日 レーニンの肖像を掲げて行進してくる大勢の労働者たちに、リューダの勤める党地方本部の建物が取り囲まれる。リューダは KGBのスナイパーが屋上に身を潜めているのを目撃する。銃声が鳴り響き、デモ参加者や市民が次々と倒れる。逃げ惑う群衆の中を、リューダは娘を探して遺体安置所や病院を駆けずり回るが、見つからない。

6 月3 日 朝、街は何事もなかったかのように平静を取り戻し、広場では夜に開くダンス・パーティーの準備が行われている。リューダはKGBのヴィクトルから隣町に多数の遺体が埋められていると聞き、彼に付き添ってもらって検問をなんとかすり抜けて隣町に行く・・・

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©Produced by Production Center of Andrei Konchalovsky and Andrei Konchalovsky Foundation for support of cinema, scenic and visual arts commissioned by VGTRK, 2020


スターリンを信奉し、「デモを扇動した者には厳罰を」と強硬手段まで提案したリューダ。群衆が無差別銃撃に倒れる姿を目の当たりにして、それまで信じていたものが崩れ落ちます。さらに、娘が虐殺されたかもしれないと知り、一人の母親として、党の規律を破って探しにいきます。娘の捜索に協力したKGBのヴィクトルもまた、事件の隠蔽を図る国家の実態を知ってしまいます。「軍が市民に向けて発砲するのは憲法違反だからありえない」と言っていたのですが。
この事件は、30年後に真相が明かされましたが、世界には内政にしろ外政にしろ、真実が隠蔽されていることは多々ありそうです。
ノボチェルカッスクは、ウクライナにほど近い町。ロシア軍の通過地として被害を被っているのではないでしょうか。
私たちが耳にする、今ウクライナで起きていることも、西側からの報道だけなので真相はわかりません。そんなことも思い起こさせてくれた映画でした。 そして、犠牲になるのは、罪のない庶民・・・ (咲)


2020年/ロシア/ロシア語/121分/モノクロ/スタンダード/5.1ch
日本語字幕:伊藤美穂
配給:アルバトロス・フィルム  提供:ニューセレクト
公式サイト:https://shinai-doshi.com/
★2022年4月8日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開.
posted by sakiko at 21:39| Comment(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

クレマチスの窓辺

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(C)Route 9

監督・編集:永岡俊幸
出演:瀬戸かほ、里内伽奈、福場俊策、小山梨奈、ミネオショウ、星能豊、サトウヒロキ、牛丸亮、宇乃うめの、しじみ、西條裕美、小川節子

東京生まれ東京育ちの絵里。仕事に追われる中、1週間の休暇をもらう。地方の湖畔の町の亡き祖母が遺した家で過ごすことに。近くに住む叔母が駆けつけてくれる。同い年で建築家の従兄や大学生の従妹との再会。従兄のフィアンセや、従兄たちが靴を作ってもらった靴職人、従妹の大学の古墳研究者とも知り合う。
3日目、従妹とドライブ。祖母の描いた絵にあった灯台のある海辺へ。
4日目、湖畔に座っていると、自転車がパンクしたというバックパッカーに声をかけられる。祖母の家に招きパンクを直し、代わりに回らなくなったレコードプレイヤーを直してもらう・・・

窓を開けると、庭にはクレマチスの花。縁側から庭に降りるところに沓脱石のある伝統的な日本の家。佇まいが素敵です。
祖母の描いた絵に囲まれ、レコードを聴きながら、祖母の日記を読む・・・
時が静かに流れる中、出会いもあった7日間。
日常を離れて、こんなヴァカンスの過ごし方もいいなぁ~と。
映画の中では、あえて松江や日御碕の名前を出していませんが、宍道湖の畔にある松江や、崖っぷちに高くそびえる白い日御碕灯台など、観る人が観ればわかるロケ地。私にとっては懐かしい場所で、心が和みました。
クレマチスの花言葉は、精神の美、旅人の喜び、策略などとか。
どれもが当てはまりそうな7日間の物語です。(咲)


2020年/日本/カラー/62 分/ヨーロピアンビスタ/デジタル
配給:アルミ―ド
協力:島根県観光連盟、松江フィルムコミッション協議会、松江観光協会
公式サイト:https://clematis.space/
★2022年4月8日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開




posted by sakiko at 13:52| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ふたつの部屋、ふたりの暮らし   原題:Deux

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© PAPRIKA FILMS / TARANTULA / ARTÉMIS PRODUCTIONS - 2019

監督・脚本:フィリッポ・メネゲッティ
出演:バルバラ・スコヴァ、マルティーヌ・シュヴァリエ、レア・ドリュッケール、ミュリエル・ベナゼラフ、ジェローム・ヴァレンフラン

南仏モンペリエ。眺めのいいアパルトマンの最上階。向かい合う部屋に住む二人の女性、フランス人のマドレーヌとドイツ人のニナ。表向きには仲の良い隣人だが、実は二人は恋人同士。夫に虐待されていたマドレーヌは、旅先のローマでニナと知り合い愛し合うようになり、夫の亡きあと、子どもたちも独立し、隣人を装ってお互いの部屋を行き来して暮らしているのだ。二人の夢は、アパルトマンを売ったお金で、二人の出会ったローマで家を買って一緒に暮らすこと。だが、マドレーヌは娘たちにそのことをなかなか言えないでいた。そんなある日、マドレーヌが脳卒中で倒れる。数日後、退院するが口が聞けず、麻痺が残り車椅子生活になってしまう。娘アンヌが住み込みの介護士ミュリエルを雇う。ニナはマドレーヌを見舞いたいと訪ねるが、ミュリエルに邪険に断られる。ニナが合鍵で忍び込んだところをミュリエルに見つかってしまう。ニナは、マドレーヌに会いたいために、ミュリエルにある提案をする・・・

冒頭、古い石橋のかかる川のそばの森の中のベンチに、白と黒のドレスの二人の少女。烏の群れのカァカァと鳴く声がなんとも不気味で、一筋縄ではいかない物語を暗示しているかのよう。
ローマで二人で暮らすために、マドレーヌは娘にほんとのことを打ち明けようとするのですが、なかなか言えません。マドレーヌが倒れてから、娘は母がニナを愛していることを知ってしまいます。多様な性指向があるとわかっていても、身内となればすんなりと受け入れられないでしょう。結末はぜひ劇場で!
本作はフランスを舞台にしていますが、イタリアのフィリッポ・メネゲッティ監督による初長編作品。老いても愛に生きる女性たちの姿を静かな中にも力強く描き出しています。(咲)


LGBTQについて描いた作品はここ数年、ぐっと増えてきているけれど、70代女性カップルというのはかなり珍しいのではないでしょうか。しかし、性的指向に年齢は関係ないことを改めて気づかされました。
とはいえ、第三者の立場ならさらりと受け入れられることも家族となると大分違ってきます。そして、子どもからよりも親からのカミングアウトは受け入れにくいのかもしれません。親のそれを受け入れることは自分の存在そのものを否定することに繋がるのですから。マドレーヌの子どもたちの反応は至極当然と言えるでしょう。しかし、残り少ない人生だからこそ、一緒に生きたいというマドレーヌたちの気持ちも尊重してあげたい。
なかなか難しい問題に果敢にトライしたのはてっきり女性監督かと思ったところ、本作が長編監督デビューの男性で、脚本も共同で担当していました。しかし、女性の心の機微がしっかりと描かれていました。しかもサスペンスタッチな展開に最後までハラハラし、作品に引き込まれます。監督の次回作も楽しみです。(堀)


2019 年/フランス=ルクセンブルク=ベルギー/フランス語/95 分/カラー/2.39:1/5.1ch
字幕:齋藤敦子
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本、在日ルクセンブルク大公国大使館、ベルギー大使館
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:https://deux-movie.com/
★2022年4月8日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
posted by sakiko at 01:11| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする