2022年04月29日

不都合な理想の夫婦(原題:The Nest) 

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監督・脚本:ショーン・ダーキン
出演:ジュード・ロウ、キャリー・クーン

1986年。NYで貿易商を営む英国人のローリーは、米国人の妻アリソンと、息子と娘の四人で幸せに暮らしていた。満ち足りた生活を送っているように思えたが、大金を稼ぐ夢を追って、好景気に沸くロンドンへの移住を妻に提案する。かつての上司が経営する商社に舞い戻ったローリーは、その才能を周囲から評価され、復帰を歓迎される。プライベートではロンドン郊外に豪邸を借り、息子を名門校に編入させ、妻には広大な敷地を用意。それはまるで、アメリカン・ドリームを体現した勝者の凱旋のようだった。しかし、ある日、アリソンは馬小屋の工事が進んでいないことに気付く。業者に問い合わせると、支払いが滞っており、更には驚くべきことに新生活のために用意をしていた貯金が底を突いている事を知ってしまうのだった・・。

虚栄心しかないようなローリー。ロンドンでの仕事ぶりは見ているだけでも痛くなる。NYでは成功したかのように話しているが、それもはったりだったのかもしれない。一緒に働く仲間や仕事相手にとって、ローリーの一方的な会話は苦痛でしかなかっただろう。
では家庭におけるローリーはどうだったのか。ロンドンの郊外に豪邸を借り、息子を名門校に入れ、妻には毛皮を贈る。恐らくNYでも同じようなことをしていたことだろう。アリソンもローリーの野心に夢を掛け、セレブな生活を享受していたに違いない。ただ、NYから馴染みのないロンドンに引っ越してしまったから、大きな出費が重なり、綻びが大きくなった。妻子も初めての土地で馴染み切れない。すべてが裏目に出てしまった。「住むところを与え、暴力もふるわない」といったローリーに対して、「そんな事は父親として最低限やることだ」と答えたタクシーの運転手のカッコよさが心に残る。経済的、精神的安定が家族には必要。そのうえでどれだけ愛情を注げるかを父親は求められるのだ。
一家は崩壊に向かっていくように見える。流れに任せて壊してしまうのは簡単だ。しかしショーン・ダーキン監督は家族の在り方に踏み込んでいく。必死に支えようとした妻ではなく、思いっきり反抗していた娘が鍵になって再生の糸口を見つけていけるのではないかと思わせる物語を紡ぎ、逃げずに向き合うことの大切さを説く。夫婦の在り方は夫婦それぞれ。家族もまた然り。(堀)


野心に燃え、「いい話がある、大金が手に入る」と夢を抱くのはいいけれど、家族やまわりの人も巻き込んで、結局、夢破れて大ぼらで終わってしまう男・・・ こういう人、私の知ってる人にもいたいたと! ジュード・ロウが危うい熱血漢を実に上手く演じている。
『The Nest』という原題が示す通り、ローリーは自分の巣である家族のためを思ってこそ、夢を膨らませるのでしょう。それが空回りしてしまう悲しさ。お金だけが幸せをもたらすのではないことをじんわり感じさせてくれる物語。(咲)


2019年/イギリス/英語/107分/カラー/ビスタ/5.1ch
配給:キノシネマ 
©Nest Film Productions Limited/Spectrum Movie Canada Inc. 2019
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/thenest
★2022年4月29日(金)より kino cinéma横浜みなとみらい・立川髙島屋S.C.館・天神 ほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 13:01| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月23日

リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス (原題:Linda Ronstadt: The Sound of My Voice)

2022年4月22日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか3作連続公開
劇場情報

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©LR Productions, LLC 2019 – All Rights Reserved


アメリカの1960年代以降の音楽、フォーク、カントリー、ロックなどの分野を代表する歌い手を紹介する、「極上のロック・ドキュメンタリー ROCKUMENTARY2022」の3本が公開され、その第一弾として『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』が4月22日から公開される。

『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』
ウェストコーストの歌姫 リンダ・ロンシュタットの半生を描く

監督・製作:ロブ・エプスタイン&ジェフリー・フリードマン
製作:ジェームズ・キーチ、ミシェル・ファリノラ
製作総指揮:エイミー・エンテリス コートニー・セクストン
撮影:ナンシー・シュライバー、イアン・コード
編集:ジェイク・プシンスキー
音楽:ジュリアン・レイモンド、ベネット・サルベイ
出演
リンダ・ロンシュタット、ジャクソン・ブラウン、エミルー・ハリス、ドリー・パートン、ボニー・レイット、ライ・クーダー、ドン・ヘンリー、ピーター・アッシャー、デビッド・ゲフィン、キャメロン・クロウ他

世界が愛し続ける「ウェストコーストの歌姫」リンダ・ロンシュタット。
フォーク、カントリー、ロック、ポップス、ソウル、オペラ、そして彼女のルーツであるメキシコのマリアッチに至るまで、どんなジャンルの曲も歌いこなしたアメリカ西海岸を代表するシンガー、リンダ・ロンシュタット。そのたぐいまれなる歌声は一度聴いたらきっと忘れない。そんな彼女の半生を彼女自身のガイドによって描きだす。
リンダは1946年メキシコ国境に近い米国アリゾナ州ツーソンに生まれた。父方の曾祖父がドイツからの移民で、曾祖父はメキシコ人と結婚。父親は金物屋だったが若い頃は歌手だった。兄弟は4人で、父は子供たちに幅広く様々な音楽を聴かせたそう。兄と姉との3人でツーソンのコーヒーハウスやクラブで歌い始め、14歳の時には、のちにグループで活動するボブ・キンメルに見いだされた。ボブに誘われ、1965年にロサンゼルスへ。1967年にはソロ活動を始め、またたくまに音楽界で認められるようになった。
バンド時代、ソロ2枚目あたりまではカントリー・フォーク色が強かったが、だんだんにロック色を強め、バックバンドをしていたイーグルスのナンバーやオールディーズナンバーをカバーし、ロック的なボーカルスタイルに変えていった。1974年~1980年にかけて発売したアルバムがミリオンヒット。曲としては「悪いあなた」「ブルー・バイユー」「イッツ・ソー・イージー」などがヒット。それら彼女が歌う歌が全編に流れる。ビルボード1位のアルバムは3枚、グラミー賞を10回受賞し、来日公演し日本武道館で公演した。
ニール・ヤング、ジェームス・テイラー、ジャクソン・ブラウン、ライ・クーダー他、イーグルスのメンバーなど、多数のあの当時から活躍している歌手やアルバムプロデューサーなどが登場。また、ドリー・パートン、エミルー・ハリスとは時々共演し、1987年には共演アルバム『Trio』を発表するまでのいきさつが語られる。
2021年・第63回グラミー賞で最優秀音楽映画賞を受賞したドキュメンタリー。

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©LR Productions, LLC 2019 – All Rights Reserved

1968年頃、フォークソングにはまり、ジョン・バエズやボブ・ディラン、PPM,ブラザース・フォー、ニール・ヤングやドノバン、キングストントリオなど、アメリカやイギリスなど欧米の歌手の歌をラジオでよく聴いていた。その関係で、カントリーウエスタンにも興味を持っていた。その後、日本のフォークソングも聴くようになり、あげくのはてに高校3年の時に友人5人とフォークグループを組んで、卒業までの半年くらいは、ギターと歌の練習に励んでいた。就職も決まり、そういう余裕があったし、バイトをして自分のお金で初めてギターを買ったということもあった。まさにその頃は音楽三昧だった。
1970年、社会人になってからは、自分でギターを弾いたり、ラジオで音楽を聴くという生活がほとんどだったけど、時々、学生時代の音楽仲間から誘われ、新宿歌舞伎町のコマ劇場隣りの東宝会館地下にあった「ウィッシュボン」というカントリーウエスタン専門のライブハウスに通うようになった。そこで、日本のカントリーウエスタン歌手の人たちを知ったけど、彼らはアメリカのカントリーウエスタンの歌をよく歌っていたし、ライブタイム以外はカントリーウエスタンの歌がよくかかっていた。
ウィリー・ネルソンやジョニー・キャッシュ、ハンク・ウイリアムス、ジミー・ロジャース、ジェームス・テイラーなどの男性歌手だけでなく、ドリー・パートン、パッツィー・クライン、ロレッタ・リン、エミルー・ハリスなどの歌も流れ、そんな中にリンダ・ロンシュタットもいた。映像も流れていたけど、おしゃべりに夢中で画面はあまり見てはいなかった。それに、その頃は自分でオーディオ機器を買って、レコードを聴く余裕はなく、ラジオでこれらの歌を聴いていた。だから名前は知っていても顔は知らないという人がほとんどだった。
今、YouTubeなどを見ると、その頃の映像がたくさんあるということを知った。そして、こういうドキュメンタリー映画を観て、ほんとに昔の映像がたくさん残っているのだなと思い、今になって、やっと名前と顔が一致するという人がたくさんいる(笑)。ライ・クーダーなどはその代表。当時名前を良く聞いたけど、顔は全然知らなかった。この映画で当時の顔を知ったけど、知ったばかりで、年を経た今の顔がどの人なのかわからずという状態。ライ・クーダーばかりでなく、他にもこの映画の中で顔を知った(一瞬なので覚えるまではいかなかったかも)人が何人も出てきたのでよけい混乱(笑)。おかげで出てくるたびに、この人誰だっけ?と思いながら観ていた。2,3回は観ないとなかなか覚えられないくらいのたくさんの人が出てきて、リンダはたくさんの人に支えられながら、大きな存在になっていったのだなと思った。
そしてなんといっても圧巻だったのは、ドリー・パートンやエミルー・ハリスと3人で時々共演し歌っていたシーン。YouTubeを見てみたら、3人で歌っているシーンがたくさんアップされていた。こんな豪華なメンバーがそろって歌うなんてことがあったんだ。そのことは、リアルタイムでは知らなくて残念だったけど、今はYouTubeなどで見ることができる。すごい時代だなとも感じた。
それにしてもこんなにも広い分野で活躍していたのは知らなかったし、パーキンソン病を患って引退していたことも、この映画で知った。音楽界を引退した後も家族と一緒に音楽を楽しんでいることが描かれ、彼女はコンサートなどで歌うことはなくなったけど、好きな音楽を楽しんでいる姿に安心した。ほんとに知られざるリンダ・ロンシュタットの姿をみせてもらった。彼女のスケールの大きな生き方、自分を通して来た姿は、私たちに勇気を与えてくれた(暁)。


2019 年/アメリカ/93 分/ビスタ/ステレオ
提供:ジェットリンク
配給:アンプラグド
©LR Productions, LLC 2019 – All Rights Reserved
極上のロック・ドキュメンタリー ROCKUMENTARY2022 公式HP
posted by akemi at 10:06| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ  英題:BAD LUCK BANGING OR LOONY PORN

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© 2021 MICROFILM (RO) | PTD (LU) | ENDORFILM (CZ) | K INORAMA (HR)


監督・脚本:ラドゥ・ジューデ
出演:カティア・パスカリウ、クラウディア・イェレミア、オリンピア・マライ、ニコディム・ウングレアーヌ、アレクサンドル・ポトチェアン

ルーマニア、ブカレスト。名門校の歴史教師エミは、コロナ禍の街をさまよい歩いていた。夫とのプライベートセックスの動画が、パソコンよりネットに流失してしまい、生徒や親の目に触れて問題となり、保護者会が開かれることになったのだ。その前に校長宅に行くと、寝たきりのお婆さんが垂れ流した糞尿の処理に皆が追われていて、事情説明するどころじゃない。さらに、街をさまよい、夜、学校の中庭で保護者が待ち受けているところに着くと、正面に座らされる。問題の動画を観ていない者もいるからと、動画が流される。立ち上がって動画を覗き込む男性もいる。そして、まるで弾劾裁判のような保護者会が始まる・・・

あらすじを簡単に書いてしまえば、こんな流れなのですが、この映画、あちこち寄り道して、実に面白い構成でできています。

プロローグ 
ベッドの上でセクシーな下着姿の女性が男を誘う。ホームビデオのような映像。
「皆さん、検閲版だよ」と、画面が隠される。男女の喘ぎ声だけが聞こえてくる。「殺 人シーンはOKで、フェラはNG?」「米アカデミー賞で一票を!」「見られなくて残念!」「検閲=金」と矢継ぎ早にコメントが映し出される。
(というワケで、肝心な問題の場面は、みられません!)

第一部:一方通行の通り  
マスクをしてコロナ禍のブカレストの街をさまよい歩くエミ。市場で花を買う。教会の鐘が鳴る。トラムの走る大通り。町の喧騒。工事中の建物だらけ。本屋。ソーシャルディスタンスを保つため、外で待つ人。
校長の家を訪ねる。寝たきりのお婆さんが垂れ流したと皆が慌てふためいている。事情説明もそこそこに失礼する。
モールのおもちゃ売り場へ。レジで「食事券で全部は買えない」とぶつぶつ言いながら計算する女性。レジは一つしかなくて、待たされる。
歩道に止めている車に文句をいうと、汚い言葉を返す車の持ち主。
夫から「誰かが保存していた動画を再アップした」と電話。ポルノ教師と書かれているらしい。
本屋で、エドガー・リー マスターズの詩集を求める。「コロナの時代にぴったり」と。
「チャールズ・レズニコフはどう?」と本屋。「19世紀後半の恐ろしいことが書かれてるよ」と。
戸外のカフェで休憩。若者たちが、神風特攻隊で文系の若者たちが使い捨てにされたと話している。
大きなソフトクリームのオブジェが道端に並んでいる。
1918年の年号と兵士の絵が壁に。
シネマトフラフィ・ブカレストの建物を映して、第一部終了。


第二部:逸話 兆候 奇跡の簡易版辞書  
AからZまでの言葉を映像で綴る。
始まりは、8月(August)23日の連合国軍事パレード。
「軍隊」国民制圧の手段。1848年革命、1907年農民一揆、第一次大戦後、少数民族や左翼を抑圧、第二次大戦中は少数民族虐殺、1989年革命家たちを殺した
「ルーマニア正教会」独裁政権と親しく、1989年革命家たちが軍から逃げてきた時、教会の扉を開けなかった。
「競争」ペルシアの王は、訪英時に競馬鑑賞の誘いを断った。勝者と敗者が生じるのは明白だから。
「コロナ禍のダンス」長い棒を持ってソーシャルディスタンスを保ってのダンス
「ロボット」中東で戦った将校が言った。「戦争が自動化されつつある」
「禅」本物の詩人は喜劇と悲劇を同時に作る。人生には悲劇と喜劇の両方が含まれているからだ。

第三部:実践とほのめかし  
夜、学校に着いたエミ。体温を測り、中庭に行くと、保護者たち20数名と校長が待ち構えている。思い思いの目立つマスクをした保護者たち。話し合いの前に、問題の動画を見ていない人もいるのでと、全員の前でさらされる。身を乗り出して好奇心丸出しで見る人たち。見終わって、いよいよ弾劾裁判が始まる。高圧的にエミを追いつめる人たち。エミも負けてはいない。「偉そうな教会の人がいるせいで、この国には性教育が存在しない」
「国民的詩人エミネスクもエロティックな詩を書いています」と、詩を朗読するエミ。
「最も大切なことは成績よりも知識を求めること」というハンナ・アーレントの言葉を引用する。
校長が、「エミは優秀な教師」と時折、口を挟むのもさもありなんのエミの堂々とした受け答え。最後に処遇をどうするか多数決をとることになる・・・
ここで監督が提供してくれるのが、3つのエンディング。まずは、おおごとにならないバージョン。最後は、映画自体をジョークで終わらせるバージョン。

映画全体を通じて、笑いでぶっ飛ばそうとする場面があるかと思えば、ルーマニアの歴史や、人間の本質をついた場面があって、くらくら。
『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』というタイトルに、思い切り引いてしまい、観るのをやめようと思ったほどだったのですが、第一部では、ブカレストの街のなにげない風情が楽しめたし、第二部では、それぞれの言葉のウンチクが面白かったし、第三部では、保護者たちの言葉の暴力に応酬するエミの姿が小気味よくて、ぜひ観てくださいと太鼓判を押せる映画でした。“イカれたポルノ”に惹かれた方には、日本公開バージョンは、監督による検閲版ですので、期待外れです! 念のため。
それにしても、「教師にあるまじき卑猥な行為」と攻め立てる母親に、「あなたは聖母マリアさま?」と問い詰めたくなりました。(咲)


第71回ベルリン国際映画祭金熊賞受賞
2022年米アカデミー賞®ルーマニア代表作品

2021/ルーマニア、ルクセンブルク、チェコ、クロアチア/ルーマニア語/106分/シネスコ/5.1ch R-15
字幕翻訳:大城哲郎
配給:JAIHO 
公式サイト:https://unluckysex-movie.com/
★2022年4月23日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー



posted by sakiko at 03:17| Comment(0) | ルーマニア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

チロンヌプカムイ イオマンテ

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監督:北村皆雄
撮影:柳瀬 裕史・森 照通・明⽯ 太郎
音楽:豊川容子+nin cup
語り:豊川容子
監修・カムイノミ対語訳:中川裕
(千葉大学名誉教授、『ゴールデンカムイ』アイヌ語監修)
出演:日川善次郎エカシ

1986年、北海道屈斜路コタンの美幌峠で、大正時代に行われてから75年ぶりに「キタキツネのイオマンテ(霊送り)」が行われた。
狩猟民であるアイヌの伝統的な考えでは、ヒグマやキタキツネといった生き物は、自らの肉や毛皮を土産にして、神の国から人間の国へやってくる。それを受け取ったアイヌは、お返しにわが子のように育てた動物の霊魂を、その父母のいる神の国へと送る。
歌や踊りで喜ばせ、お礼の品をどっさり背負わせてお送りするのがイオマンテである。
イオマンテではカムイノミ(祈詞)の一言一句に全霊が込められる。そして沢山のウポポとリㇺセが霊魂に捧げられる。心を尽くして歌い踊るアイヌの精神文化の原点がここにある。旅立つキタキツネに捧げるアイヌシンガーの歌が天まで響きわたる。

1986年撮影のこの映像には、75年ぶりに行われたその儀式が残されています。アイヌ語研究の第⼀⼈者・中川裕氏による現代語訳がつけられているので、ますます貴重なものとなりました。祭祀を司るのは、明治44生まれの日川善次郎エカシ(当時75歳)。立派な髭をたくわえて朗々と長い長い祈詞を唱えます。間違うと神を怒らせてしまうそうですが、口伝で覚えたのでしょうか?近代ではローマ字やラテン語表記をするようです。
神の国へ戻るチロンヌプカムイは、自分の役割を知っているかのように泣き騒いだりせずなんだかシンとしました。人間の国のようすを神に報告して、子孫を残すためにまた人間の国に戻って、と円環が続いていきます。晴れ着姿の男女が歌い踊る場面にも見入りました。みな手作りなのでしょう、1枚も同じのが見当たりません。民族衣装に興味のある方も必見。
北村皆雄監督が再訪したときには、日川エカシはすでに亡くなられています。今や生活も変わり、伝統文化の継承がどうなるのか先行きが気にかかります。北海道に開拓民が入るずっと前から、自然への畏敬の念を忘れずにきたアイヌの人々の知恵を知る一端になります。(白)

※タイトル「チロンヌプ」の「プ」は⼩⽂字が正式表記。

ーー祈詞ーー
それは 神というのは
ne hi anakne kamuy anakne
昔から 力のあるものが
teeta wano u nupur kuni p
神であると 聞きながら
kamuy ne sekor ku=nu pa ki kor
私は育ったもの ですから
ku=sukup pe ku=ne p ne ki na.
足らないところがあっても
u hayta yakka
よくよく 斟酌して いただいて
pirkano ceenomare a=ki pa ki wa
何事もなく 終わるように
apunno kane hopita kuni
尊き神 神のもとに
u pase kamuy kamuy or ta
ことづけを 私はするのですよ
u sonko(y)ani ku=ki pa ki na
キツネの神が 明日は
cironnup kamuy nisatta anak
神の国 神の元へ 行くので
kamuy mosir kamuy or ta arpa kusu
歩みの先 歩みの上を
arpa etok arpa kurkasi
神々よ よく見守って いただいて
kamuy utari u pirka nukar an=ki pa ki wa
無事に 着くように
u pirkanopo sirepa kuni
食料でも なんでも たくさん 背負って
haru ne yakka nep ne yakka poronno kane u se pa ki wa
神の元へ 行くように
kamuy or ta arpa kuni
尊き神 神々よ
pase kamuy kamuy utari
よく見守って いただけるように
pirka nukar an=ki pa kuni

[1986年5⽉31⽇ 前夜祭での⽇川エカシの祈詞より]

2021年/日本/カラー/105分
配給:ヴィジュアルフォークロア
(C)堤大司郎
https://www.iomantefilm.com/
★2022年4月30日(土)ロードショー

posted by shiraishi at 01:43| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

手紙と線路と小さな奇跡(原題:기적 英語題:Miracle:letters to the President)

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監督・脚本:イ・ジャンフン
撮影:キム・テス
出演:パク・ジョンミン(ジュンギュン)、イ・ソンミン(ジュンギュン)、イム・ユナ(ラヒ)、イ・スギョン(姉ボギョン)

「大統領様 僕の村には道路がありません。冗談のようですが線路しか通ってないのです。どうか、駅を作ってください」高校生のジュンギュンは54通目の手紙を大統領府へ出した。本当に線路しかなく、村の人たちは電車の来ないうちに、一番近い駅へと線路を歩いている。時刻表にのっていない貨物列車がやってくると、大急ぎで線路わきによけるのだ。危険なことこの上ない。
クラスメイトのラヒは、父親が国会議員の自称「ミューズ=女神」。数学の天才ではあるけれど、一風変わったジュンギュンを気にして何かと世話を焼いている。有難迷惑だと言いながら、なんだか嬉しいジュンギュン。

1988年、韓国で初めてできた私設の両元(ヤンウォン)駅をモチーフにしたフィクションです。パク・ジョンミンは『ただ悪より救いたまえ』でドラァグクイーン姿を見せて、別人かと思いましたっけ。ここでは数学の天才で、県や国の代表になれるほどの頭脳の持ち主を演じています。堅物の機関士の父親をイ・ソンミン。映画・ドラマどちらでもどんな役でもできる俳優さんで、この人が出ていると安心します。弟を見守り応援する姉にイ・スギョン。
家族の秘密がすこしずつ明かされるたびに「え~、そうだったの!」と驚かされます。お互いを想っているのに、外に出せずにすれ違ってしまっているのはどこの家族にもあることです。ちゃんと言ってくれないとわかりません、お父さん。ジュンギュンとラヒのぎこちない初恋はほほえましいです。演じるユナさんはガールズグループ”少女時代”のセンターでリードボーカル。デビューは2007年で今も続いていますね。
実在の両元駅は2012年に閉鎖されましたが、翌年から観光列車が停車するようになり、村には道路ができて、住民の往来は便利になったそうです。(白)


『空と風と星の詩人 ~尹東柱の生涯~』(2016年)で独立運動家ソン・モンギュ(宋夢奎)を演じたパク・ジョンミン、『ただ悪より救いたまえ』(2020年)でホットパンツ姿がキュートなトランスジェンダーを演じて、びっくりさせてくれましたが、本作では高校生役。撮影当時34歳だったそうです。同級生のラヒを演じた少女時代のユナも1990年生まれ! 二人とも、ちゃんと高校生に見えました。初キスに挑む姿のなんと初々しいこと! 二人とも、慶尚北道の方言を懸命に練習して撮影に臨んだそうです。一方、父を演じたイ・ソンミンは慶尚北道の出身で、俳優になって以来、方言で演技したいという夢が叶ったのだとか。とはいえ、父はずっと押し黙っていて、台詞はあまりないのです。最後に叫ぶお父さん! 寡黙だった理由がわかって涙でした。(咲)


2021年/韓国/カラー/シネスコ/117分
配給:クロックワークス
(C)2021 LOTTE ENTERTAINMENT & BLOSSOM PICTURES CO., LTD. All Rights Reserved.
https://klockworx-asia.com/miracle/
★2022年4月29日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 01:40| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

フェルナンド・ボテロ 豊満な人生(原題:Botero)

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監督:ドン・ミラー
撮影:ジョー・タッカー、ヨハン・レグレー
出演:フェルナンド・ボテロ

フェルナンド・ボテロは1932年4月19日コロンビアのメデジン生まれ、満90歳になった今も絵筆をとる現役のアーティスト。独特な画風は世界中から愛され、芸術家の頂点にいる。コロンビアからヨーロッパに渡って絵画を学び、ルネサンスに傾倒したボテロ。彼がいかにしてここまでたどり着いたのか、あの画風はいつから身についたのか。ボテロ本人、家族、歴史家やキュレーターたちの証言と映像を組み合わせて、素顔と作品の本質にせまるドキュメンタリー。

一度見たら忘れない個性的な画風、名前を知らなくても彼の絵画や彫刻は、きっと目にふれたことがあるはず。そしてくっきり残って忘れられません。人や動物、静物でさえも穴をあけて空気を吹き込んだように、ぷくぷくと膨らんでいます。そのためユーモラスで官能的、包容力と温かさも感じます。後に彫刻を学んで、やはり大きく重量感のある人や動物を制作しました。
実生活では2度結婚し、再婚した妻との間に生まれた息子を交通事故で亡くしました。可愛い盛りに亡くし、悲嘆の中描き続けたその子の絵がたくさん紹介されています。最初の妻との息子・娘が今父親を助けているのにホッとしました。
彼の作品のほとんどは多幸感にあふれていますが、一方コロンビアで起こったテロ、イラクで米軍が捕虜に対して行った虐待(飛行機の中で読んだ雑誌で写真を目にしてスケッチを残した)を描いた作品もあります。ボテロの筆致で描かれた大きな絵は、深く記憶に残るでしょう。
ボテロは超有名な芸術家となってもおごらず、探求心を消しません。しかも正義に燃える心があって、お金儲けに走らない(ように見えます)。美術館に自分の作品だけでなく、有名画家のコレクション、さらに買い足した作品まで寄付しています。映画では犯罪都市として描かれる印象のコロンビアですが、ボテロの作品はそこかしこにあり、美術館も充実しているようです。いいなぁ~。
コロンビアは遠いけれど、渋谷Bunkamuraでボテロの映画と展覧会が同時に鑑賞できます。(白)


思い切りふっくら膨らんで、ほっこりさせてくれるボテロの絵画や彫刻。
本作は、そこに込められた思いを紐解いてくれました。
4歳の時に父が亡くなったことを語るボテロ。彼の生まれ育ったコロンビア第二の都市メデジン。1940年代、司祭たちが町を支配していて、信仰心がなかった両親にはつらい環境だったようです。父亡き後、母は裁縫で生計をたて、ボテロは厳しく育てられました。
叔父の勧めで闘牛士を養成する学校に通うも、闘牛の絵を描くことに夢中になり、売店に6枚の絵を委託。初めての売上2ペソは、喜び勇んで自宅に帰る途中で落としてしまいました。海辺で警察が自由党の庶民を棒にぶら下げて運ぶ様を描いた絵が7000ドルで売れてスペインへ。ベラスケスやゴヤの作品から学び、イタリアのピエロ・デラ・フランチェスカに惹かれ、バイクでフィレンツェへ。ルネサンスに出会い、このころからはっきりと「ふくよかさ」を意識。お金が尽きてコロンビアに戻り、恋に落ち結婚。メキシコに移住。そして離婚。世界一の画家を目指してニューヨークへ。所持金わずか200ドル。1960年代のことです。若い女性キュレーターに見いだされ、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に出展。再婚し、息子も生まれ、パリに移住するも、交通事故でまだ幼い息子を亡くし、結局、離婚。描き続けた愛息の絵からは愛おしさが溢れ出ています。
名を成すようになったボテロは、誘拐や殺人の蔓延する故郷メデジンの汚名を返上したいと多くの作品を寄贈。ところが、1995年、メデジンのサン・アントニオ広場でボテロの鳩の銅像に仕掛けられた爆弾でテロが発生。破損した鳩は撤去される予定でしたが、ボテロ自身が同じものを隣に展示することを条件に今も残されています。破壊された鳩も、イラクのアブグレイブ刑務所の惨い捕虜虐待を美しく描いた何十枚の絵も、人々の記憶にいつまでも残るようにとの思い。ゲルニカをピカソが残したように。
90歳の今も、モナコの海の見えるアトリエで絵を描き、夏の1か月はイタリアのトスカーナ州ピエトラサンタの家で子どもや孫たちと一緒に過ごすボテロ。つらい思いもした人生の最終章が穏やかで幸せに満ちている様子に、ほっこり♪ (咲)



2018年/カナダ/カラー/ビスタ/82分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2018 by Botero the Legacy Inc. All Rights Reserved
https://botero-movie.com/
★2022年4月29日(金・祝)よりBunkamuraル・シネマほかにて全国順次ロードショー
◆同日より7月3日(日)までBunkamuraザ・ミュージアムにて展覧会「ボテロ展 ふくよかな魔法」開催
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_botero/
国内では26年ぶりとなる待望の大規模展、≪モナ・リザの横顔≫世界初公開!


posted by shiraishi at 00:59| Comment(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ホリック xxxHOLiC

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監督:蜷川実花
原作:CLAMP「xxxHOLiC」(ヤングマガジン)
脚本:吉田恵里香
撮影:相馬大輔
音楽:渋谷慶一郎
美術監督:Enzo
美術:後藤レイコ
装飾:前田陽
出演:神木隆之介(四月一日君尋)、柴咲コウ(侑子)、松村北斗(「SixTONES」)(百目鬼静)、玉城ティナ(九軒ひまわり)、趣里(美咲)、DAOKO(マルダシ)、モトーラ世理奈(モロダシ)、磯村勇斗(アカグモ)、吉岡里帆(女郎蜘蛛)

高校生の四月一日君尋(わたぬききみひろ)は、あるときから人の心の闇に寄り憑くアヤカシが見えるようになった。その能力のせいで、孤独な生活を送っていたが、ある日不思議な蝶に導かれて、「ミセ」にたどり着く。妖艶な女主人の侑子(ゆうこ)は、能力を消したいという四月一日の願いを叶えてやれるが「一番大切なものと引き換え」だという。お手伝いとしてミセに住みこみ、通学する四月一日に初めて同級生の友達ができた。百目鬼静(どうめきしずか)や九軒(くのぎ)ひまわりと、これまでにない楽しい日々を過ごす四月一日に、アヤカシを操る女郎蜘蛛の魔の手が近づいていた。

新体感ビジュアルファンタジー。目くるめく蜷川実花ワールドにクラクラすること必至。ストーリーは妖怪譚で、闇の世界のおぞましいものがたくさん登場しますが、それもまた美しいです。願いを叶えてとやってくる人々に、女主人の侑子がかける言葉はなかなか含蓄があります。柴咲コウさんにひたと見つめられたら、何でも頷いてしまいそうではあります。
いつまでも高校生役ができそうな神木くん、エプロン姿で家事をするのもサマになっています。声優としてもベテラン。朝ドラで稔さんだった松村くん、道着姿が凛々しいです。『惡の華』で強い印象を残した玉城ティナさんは監督・脚本にも進出。難読人名の3人でした。若い俳優さんたちの今後も楽しみです。
ほかの映画より多そうな美術や衣裳の方々の熱の入れようがわかる出来栄え。ご苦労したはずですが、同時にすごく楽しんだのではないでしょうか?コミケでコスプレしたくとも、侑子の衣裳は豪華絢爛すぎて真似するのも大変そうです。出るたびに違う、あの素敵な衣裳は撮影が終わったらどこにいくのでしょう?気になります。(白)


2021年/日本/カラー/シネスコ/110分
配給:松竹、アスミック・エース
(C)2022映画「ホリック」製作委員会 (C)CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./講談社
https://xxxholic-movie.asmik-ace.co.jp/
★2022年4月29日(金・祝)ロードショー

posted by shiraishi at 00:51| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

山歌

sanka.jpg

監督・脚本・製作:笹谷遼平
撮影:上野彰吾
音楽:茂野雅道
出演:杉田雷麟(則夫)、小向なる(ハナ)、渋川清彦(省三)、内田春菊(則夫の祖母・幸子)、蘭妖子(タエ)、飯田基祐(則夫の父・高志)

東京オリンピックの翌年、1965年の日本は高度成長に沸いている。中学生の則夫は受験勉強のため、東京から田舎の祖母の家に戻ってきた。ふとしたことでサンカの少女ハナと出逢う。定住せず、山から山へと漂泊の旅をする人々がサンカと呼ばれていた。山をすみずみまで知り、魚や山菜を手に入れ竹製品を作り、現金が必要になったら村里に降りてそれらを売る。戸籍も家も持たない自由な暮らしをしていた。
将来に漠然とした不安を感じていた則夫は、ハナと家族に出逢ってその自由な生き方に憧れる。

笹谷遼平監督が2018年に”伊参スタジオ映画祭”へシナリオを応募、大賞を受賞して映画化が実現した作品。厳しい父の期待を背負っている則夫を、杉田雷麟(らいる)くん。安らげる場所のない則夫は、何ものにも縛られないサンカの家族が羨ましくなります。実はサンカの人々も動いていく時代に抗えず取り残され、生きる術を失いつつありました。こういう生き方をしていた人たちが、昭和の時代までいたというのを初めて知りました。ナイーブな少年と山育ちの少女の淡い交流、時代を見据える省三の強い視線も描いています。自然に抱かれて土に還っていく人が少し羨ましいです。ハナの歌が観終わった後も残りました。(白)

2022年/日本/カラー/77分
配給:マジックアワー
(C)六字映画機構
https://www.sanka-film.com/
★2022年4月22日(金)よりテアトル新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 00:29| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月17日

インフル病みのペトロフ家  原題:Петровы в гриппе 英語題:Petrov's Flu

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© 2020 – HYPE FILM – KINOPRIME - LOGICAL PICTURES – CHARADES PRODUCTIONS – RAZOR FILM – BORD CADRE FILMS – ARTE FRANCE CINEMA -ZDF


監督:キリル・セレブレンニコフ(『LETO -レト-』)
原作:アレクセイ・サリニコフ著「Петровы в гриппе и вокруг него(インフル病みのペトロフ家とその周囲)」(邦訳未出)
出演:セミョーン・セルジン、チュルパン・ハマートワ、ユリヤ・ペレシリド

2004年のロシア、エカテリンブルク。インフルエンザが流行している。ペトロフは高熱にうなされ、妄想と現実の間を行ったり来たり。やがてその妄想は、まだ国がソヴィエトだった子供時代の記憶へと回帰していく…。

キリル・セレブレンニコフ監督は、2017年、国からの演劇予算の不正流用を疑われて詐欺罪で起訴され、自宅軟禁に。かねてよりロシアのジョージア侵攻やクリミア併合、LGBTへの抑圧を批判するなど、政権に批判的な姿勢を明らかにしていたため、この逮捕を不当な政治弾圧と見る向きもあり、演劇界・映画界からセレブレンニコフを支持する声が上がった。2018年のカンヌ映画祭で『LETO ‒レト‒』が上映された際は、軟禁により参加できず、女優のティルダ・スウィントンなどが「セレブレンニコフに自由を」とアピール。2018年8月にはフランス芸術文化勲章最高位(コマンドゥール)を受章。2020年6月10日有罪判決が下され、 3年の保護観察、執行猶予付き3年の刑及び罰金となる。本作の脚本は自宅軟禁中に執筆された。(公式サイトより抜粋)

父親はユダヤ人の外科医、母親はウクライナ人のロシア語教師というセレブレンニコフ監督。この度の、ロシアのウクライナ侵攻についても複雑な思いでいるのではないでしょうか。
『LETO ‒レト‒』のなんとも不思議な世界が忘れられず、今回も期待して拝見。やっぱりセレブレンニコフ監督らしいテイストでした。このワケのわからなさが癖になりそうです。(咲)


◆『インフル病みのペトロフ家』公開記念・無料オンラインレクチャー 
<ロシア・ウクライナ・ベラルーシ映画の知られざる世界 ―今こそ知りたい現状と今後―> 
2022年5月15(日) 17:30~19:30
要・事前申し込み 詳細は下記で!
http://cineja4bestfilm.seesaa.net/article/487048033.html


第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品
CST Artist-Technician Prize受賞

2021年/ロシア/146分/DCP/カラー
日本語字幕:守屋愛 
配給:ムヴィオラ
公式サイト:http://www.moviola.jp/petrovsflu/
★2022年4月23日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開



posted by sakiko at 19:20| Comment(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

カモン カモン(原題:C'mon C'mon)

カモンカモン日本版ビジュアル①.jpg

監督・脚本:マイク・ミルズ『人生はビギナーズ』『20 センチュリー・ウーマン』
撮影:ロビー・ライアン
音楽:アーロン・デスナー、ブライス・デスナー
出演:ホアキン・フェニックス(ジョニー)、ウディ・ノーマン(ジェシー)、ギャビー・ホフマン(ヴィヴィ)、モリー・ウェブスター(ロクサーヌ)、ジャブーキー・ヤング=ホワイト(ファーン)

ラジオジャーナリストのジョニーは、アメリカ中を回って子供たちにインタビューしている。気ままな独身で、ロサンゼルスに妹ヴィヴがいる。認知症を患っていた母が1年前に逝って以来、疎遠になっていた。ヴィヴは夫のポールとは別居中だが、彼の手助けをするためオークランドに出かけるという。ジョニーはその間、9歳になる甥のジェシーの世話を引き受ける。ジェシーは賢くてちょっと風変わりな子どもだった。ポールの問題は長引き、ジェシーを連れてニューヨークへ戻ることになった。

両親が亡くなれば、頼りになるのは兄弟姉妹か、近くの他人。ジョニーは子どもと暮らしたことはなかったけれど、妹の役に立ちたかったようです。溺愛された兄は(たぶんたまにしか会わない)母親の妄想に話を合わせられますが、理解されなかった妹は家庭を持ちながら一人で介護を担っていたのでしょう。諍いの原因はそのあたり。
ロサンゼルス、ニューヨーク、デトロイト、ニューオーリンズへとロケーションが移り、ジョニーのインタビューの現場が映ります。ここは脚本ではなく、ドキュメンタリーです。答える子どもたちの何と率直で聡明なこと。ろくに返答もしない大人に聞かせてやりたい。ジェシーからたくさんのことを尋ねられるジョニー、それまで言葉にしなかったあいまいなものと向き合うことになります。取り繕ったりするとすぐに見破られてしまいます。「ぎゃふん」というのは漫画だけかと思いましたが、ジョニーがまさにそうでした。たまに子どもと大人が逆転しています。
ホアキン・フェニックスが素晴らしい俳優なのはいうまでもありません。オーディションのアドリブ演技で天才だ!とうならせたという、ウディ・ノーマン、この子がすごい。成長期の不安定で「天使と悪魔が同居」しているような時期を、これは素!?かと思うほど自然に見せています。(白)


2021年/アメリカ/モノクロ/ビスタ/108分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.
https://happinet-phantom.com/cmoncmon/
Twitter・Instagram:@cmoncmonmoviejp
★2022年4月22日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 16:39| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ミューン 月の守護者の伝説(原題:Mune, le gardien de la lune)

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監督:アレクサンドル・へボヤン(『カンフー・パンダ』等)、ブノワ・フィリポン
音楽:ブリュノ・クレ
日本語吹き替えキャスト:大橋彩香(ミューン)、小野友樹(ソホーン)、武藤志織(グリム)、小林千晃(リユーン)、柿原徹也(グリムの父)、森嶋秀太(ネクロス)、蓮岳大(フォスフォ)

空想の世界に暮らす、青白くいたずら好きな森の子、ミューン。
ひょんなことから、夜を運び、夢の世界を守る『月の守護者』に選ばれたミューンだったが、何をするにも失敗ばかり。そしてとうとう月は失われ、太陽は冥界の王に盗まれてしまった。
世界に昼と夜を取り戻すため、ミューンはプライドの高い太陽の守護者ソホーンと、か弱い蝋人形の少女グリム(フランス語版では蝋を意味するシール)と共に旅に出る。これは素晴らしい冒険を経て、ミューンが伝説の守護者となるまでの物語。

Dream Works Pictures 出身のエボヤン監督と、犯罪アクション『略奪者』脚本家フィリポンがタッグを組んだファンタジー。宮崎駿、細田守ほか日本のアニメーションの影響を多大に受けたと言っているとおり、似ているキャラクターや映像が現れます。自分が作り手になれたとき、好きなものをとり入れて自分の味付けをしたくなりますよね。『もののけ姫』の森の神や『千と千尋の神隠し』のススワタリ(まっくろくろすけ)と似たキャラには思わずにっこりしてしまいます。
舞台はファンタジーですが、主人公の成長譚にとどまりません。異なる者同士が対決しても、双方の描写を忘れず、和解に至るまでを描いています。違いでなく、同じところ、共感できるところを探せば争いは減るはず。子どもたちと一緒に大人も観てほしい作品です。
東京アニメアワードフェスティバル(TAAF2015)にて優秀賞を受賞・フランス映画祭 in 横浜 2021 出品作品(白)


太陽と月、それぞれを聖獣と呼ばれる生き物が引っ張って動かし、聖獣をそれぞれの守護神が司る。その守護神の後継者選びにちょっとしたトラブルが起こって、予想外の存在だった主人公ミューンが月の後継者に選ばれます。突然のことに驚いた主人公は聖獣をうまく扱えず、月は軌道を外れてしまいました。
幼い子どもにも理解できるストーリーでありながら、大人をも満足させるのはフランスらしい、センスの良さを感じるキャラクターデザインと色合いのおかげ。月の守護神として成長していくミューンを見ていると、リーダーに必要な資質は腕力ではないことも伝わってきます。太陽や月を奪った悪者を成敗する勧善懲悪モノではなく、悪者にも更生の機会を与える辺りも含めて、今の世界のリーダーたちこそ見てほしい作品ではないかと思わずにはいられません。(堀)


=公開記念特別番組=
番組名: 仏アニメ映画「ミューン 月の守護者の伝説」公開記念 YouTube 生配信
日時: 4 月 23 日(土) 18:30-
出演: 大橋彩香(ミューン cv)、武藤志織(グリム cv)、森嶋秀太(ネクロス cv)
ゲスト:Julie (エンディング「Rescue me」歌手) MC:森遥香
https://www.youtube.com/c/RiskitMovie

2014年/フランス/カラー/シネマスコープ/85分
配給:リスキット
(C)Onyx Films-OrangeStudio-Kinology
https://mune-movie.com/
★2022年4月19日(火)より、日本語吹替え版/国際版 東京都写真美術館先行公開
2022年 5月20日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋を皮切りに全国順次公開


posted by shiraishi at 15:53| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月15日

スパークス・ブラザーズ(原題:The Sparks Brothers)

sparks-brothers.jpg
 
監督:エドガー・ライト
出演:スパークス(ロン・メイル、ラッセル・メイル)、ベック、アレックス・カプラノス、トッド・ラングレン、フリー、ビョーク(声)、エドガー・ライト

兄ロンと弟ラッセルのメイル兄弟からなる「スパークス」は、デビュー以来、謎に包まれた唯一無二のバンド。レオス・カラックス監督最新作『アネット』で原案・音楽を務めたことでも話題沸騰中!そんな彼らの半世紀にもわたる活動を、貴重なアーカイブ映像やバンドが影響を与えた豪華アーティストたちのインタビューと共に振り返る。スパークスの魅力を語るのは、グラミー賞アーティストのベックをはじめ、フリー(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、アレックス・カプラノス(フランツ・フェルディナンド)、トッド・ラングレン、デュラン・デュラン、ニュー・オーダー、ビョーク(声の出演)など 80 組にのぼる。音楽界の“異端児”と呼ばれ、時代と共に革命を起こし続ける<スパークス兄弟>は、なぜこれほどまでに愛され続けるのかー。挑戦的かつ独創的な楽曲、遊び心溢れる映像、さらには彼らの等身大の姿までを捉え、その理由を探る。

本作ではデビューから現在に至るまでのふたりの50年の軌跡が、スパークスの大ファンであるライト監督によって1つずつ丁寧に紐解かれる。『アネット』でスパークスを知ったばかりの者にはうってつけの作品である。エドガー・ライト監督は過去の映像に、音楽に疎い私でも知っているような有名アーティストの証言、アニメーションと様々な手法を組み合わせて表現するので、2時間21分と長尺だが、まったく飽きが来ない。仏頂面の兄は昔とあまり変わらないが、かつてはバリバリのアイドルだった弟は大分落ち着いた感じ。50年の時を感じてしまう。
来日したシーンも登場したので調べてみたら、フジロックで何度も来日していたのには驚いた。(堀)


2021年/イギリス・アメリカ/141分
配給:パルコ ユニバーサル映画
© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/sparks-brothers
★2022年4月8日(金)より全国公開

posted by ほりきみき at 01:11| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ベルイマン島にて(原題:BERGMAN ISLAND) 

bergman-island.png

監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ
出演:ヴィッキー・クリープス、ティム・ロス、ミア・ワシコウスカ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー

映画監督カップルのクリス(ヴィッキー・クリープス)とトニー(ティム・ロス)は、アメリカからスウェーデンのフォーレ島へとやって来た。創作活動にも互いの関係にも停滞感を抱いていた二人は、敬愛するベルイマンが数々の傑作を撮ったこの島でひと夏暮らし、インスピレーションを得ようと考えたのだ。やがて島の魔力がクリスに作用し、彼女は自身の“1度目の出会いは早すぎて2度目は遅すぎた”ために実らなかった初恋を投影した脚本を書き始めるのだが──。

作品の舞台はイングマール・ベルイマンが晩年を過ごしたスウェーデンの孤島、フォーレ島。映画監督夫婦が娘を親に預けて滞在し、創作活動に勤しんでいる。夫は自分の名前でトークイベントの客が集まり、サインを求められるくらい名の知れた監督で、作品の構想に行き詰まった年下の妻に
「子どもじゃないんだから書けるだろ」
「書けないなら休んでみてもいいんじゃないか」と優しくアドバイスをする。
本人にはそのつもりはないのだけれど、歳上のできる男性にありがちな対応。愚痴を聞いてほしいだけの妻には上から目線の指示に聞こえてしまう。夫婦あるあるの話に共感する方は多いのでは。
フォーレ島ということで、前半はベルイマンの私生活や『ある結婚の風景』や『鏡の中にある如く』の撮影秘話などが語られる。ファンには垂涎ものだろう。
ちなみに夫婦が滞在した家の主寝室はベルイマンが『ある結婚の風景』を撮影した場所。この作品を見て離婚が激増したとか。主人公夫婦も気持ちのすれ違いが次第に大きくなっていく。ベルイマンの呪縛なのか、そう思うから離れていってしまうのか。ミア・ハンセン=ラブ監督のかつてのパートナーがオリビエ・アサイヤス監督で、2人は2009年に結婚し、娘が誕生したものの、2016年に離婚している。主人公は監督自身のことだとしたら…(堀)


2021年/フランス・ベルギー・ドイツ・スウェーデン/英語/113分/カラー/スコープ/5.1ch
配給:キノフィルムズ
© 2020 CG Cinéma - Neue Bioskop Film - Scope Pictures - Plattform Produktion - Arte France Cinéma
公式サイト:https://bergman-island.jp/
★2022年4月22日(金)より公開
posted by ほりきみき at 00:13| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ハッチング―孵化―(原題:Pahanhautoja/英題:HATCHING)

hatching.jpg
 
監督:ハンナ・ベルイホルム
出演:シーリ・ソラリンナ ソフィア・ヘイッキラ ヤニ・ヴォラネン レイノ・ノルディン

北欧フィンランド。
12歳の少女ティンヤ(シーリ・ソラリンナ)は、完璧で幸せな自身の家族の動画を世界へ発信することに夢中な母親(ソフィア・ヘイッキラ)を喜ばすために全てを我慢し自分を抑え、新体操の大会優勝を目指す日々を送っていた。
ある夜、ティンヤは森で奇妙な卵を見つける。家族に秘密にしながら、その卵を自分のベッドで温めるティンヤ。やがて卵は大きくなりはじめ、遂には孵化する。卵から生まれた‘それ’は、幸福な家族の仮面を剥ぎ取っていく・・・。

子どもには幸せになってほしい。母親なら誰しもが思うこと。自分に諦めざるを得なかったことがあれば、子どもにはそんな思いをさせたくありません。しかし、それと自分の夢を託すのは大分違う…。
この物語に登場するのは北欧フィンランドに暮らす裕福な一家。前途有望なフィギュアスケート選手としてのキャリアを事故で断念した母親の夢を押し付けられている娘が主人公です。美人でスタイルばっちりな母は富と成功を手に入れた建築家と結婚。抜群のインテリアセンスで整えた家の中で営まれる、幸せで完璧な生活をアップするYouTuberとしてチャンネル登録者数を増やすことに余念がありません。娘とは何でも話せる親友のような関係で、秘密の恋心も隠さずに共有します。
これって母親側から見ればとても幸せな状況に見えますが、果たして娘にとっても幸せなのでしょうか。
母にとって体操選手として大会を目指す娘は希望や幸せの象徴。自分の思いを押し付けるだけで、娘の辛い思いに気づく余裕がありません。娘は辛くても隠すしかない。どんどん大きくなっていくカラスの卵は娘が持つことを許されない”負の感情”の代替なのです。それが限界点に達したときに卵は孵化して外に出て、とんでもないことを引き起こしていく。
娘のいる母親にとって、本作はけっして他人事ではありません。「映画の母娘と共通する部分はない?」という恐怖が半端ないホラー作品です。(堀)


配給:ギャガ
2022年/フィンランド/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/91分/PG12
© 2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Väst
公式サイト:https://gaga.ne.jp/hatching/
★2022年4月15日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国にて順次公開
posted by ほりきみき at 00:03| Comment(0) | フィンランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月10日

メイド・イン・バングラデシュ 原題:Made in Bangladesh

made in bangladesh.jpg
(C)2019 - LES FILMS DE L’APRES MIDI - KHONA TALKIES - BEOFILM - MIDAS FILMES

監督・脚本・製作:ルバイヤット・ホセイン
撮影:サビーヌ・ランスラン
出演:リキタ・ナンディニ・シム、ノベラ・ラフマン、パルビン・パル、ディパニタ・マーティン

バングラデシュの首都ダッカ。縫製工場で働く23歳の主婦シムは、毎日、せわしなくミシンを踏み続けている。時には、男性ボスから、納期に間に合わせるよう残業し、工場で寝て、朝になったら帰れと言われることもある。扇風機を止められ、抗議するシムたち。朝帰ると、家では、無職の夫がシムの給金をアテにして待っている。
そんなある日、労働者権利団体のナシマ・アパに取材したいと声をかけられる。シムは、13~14歳の時、継母が40男と結婚させようとしたので、村を出てダッカに来たこと、恋愛結婚したけど夫は無職で、劣悪な環境の縫製工場で働いていて、給料の未払いが続いていることなど身の上を語る。協会から工場主と交渉するために労働組合を結成することを勧められる。また、当座の生活費を貸す代わりに、工場の写真を撮ってほしいとスマホを渡される。シムは同僚たちと労働法を学び、署名を集め組合結成に向け奔走するが、工場幹部からの脅し、夫や同僚の反対など、さまざまな困難が待っていた・・・

冒頭、所狭しと女性たちがミシンを踏んでいる縫製工場で火事が起こり、サイレンが鳴り続け、白い煙の中を女性たちが階段を駆け下りていきます。
思い出したのが、数年前に耳にしたダッカで縫製工場がいくつも入ったビルの崩落事故。(2013年、ラナ・プラザビル崩落事故とプレス資料にありました。)ユニクロが縫製の拠点を中国からバングラデシュに移したというニュースを聴いたのは、その事故のさらに数年前のことでした。H&MやGUなども既にバングラデシュを拠点にしていて、中国よりも人件費が安いのかと、バングラデシュの人たちを思い、悲しくなったものです。
でも、本作が映し出すのは、虐げられて可哀そうというだけの女性たちではありません。
ルバイヤット・ホセイン監督は、縫製工場で働く女性の社会状況を描きたいとリサーチを重ねる中で、10代半ばからバングラデシュの労働闘争に関わってきたダリヤ・アクター・ドリと出会いました。夫の虐待を受けながらも、勇気があり、尊厳を求める姿に感銘を受け、彼女をモデルに脚本を執筆。映画の95%はダリヤから聞いた事実に基づいているそうです。
ダリヤは、出演する俳優たちに縫製の技術指導も行い、海外の映画祭で上映の折には、監督とともに参加したことも。2020年3月の大阪アジアン映画祭には単独で来日しています。

撮影を担当したのは、フランスの女性撮影監督の第一世代に属するサビーヌ・ランスラン。
同僚の結婚式でカラフルな民族衣装で踊るシムたちの姿や、早朝、出動前のリキシャ(思い思いの絵が描かれた独特のもの)が通りの脇に一列に並ぶさまなど、伝統的なバングラデシュの風情を鮮やかに映し出しています。
アザーン(お祈りの時間を知らせる声)が流れる中。裏通りを家路につき、部屋で静かにお祈りをするシム。幸せな人生を送ってほしいと願わずにはいられませんでした。そして、いわゆる先進国で暮らす私たちが、安価で丁寧に作られた衣服の恩恵を受けているのは、低賃金で働かされている彼女たちのお陰であることを忘れてはいけないと肝に銘じました。(咲)


監督・脚本・製作:ルバイヤット・ホセイン Rubaiyat Hossain
1981年1月24日、バングラデシュ・ダッカ生まれ。バングラデシュで数少ない女性監督の一人。映画製作者のほか、作家、研究者としても活動。米国スミスカレッジで女性学の学士号を取得し、米国ペンシルベニア大学で南アジア研究の修士号を取得。ニューヨーク大学のTisch芸術学部で映画を学んだ。また、バングラデシュの著名な女性の権利NGOで働いていた。2006年以来、バングラデシュのダッカにあるBRAC大学の経済社会科学部で非常勤講師を務める。バングラデシュ独立戦争下で敵兵と恋に落ちた女性を描いたデビュー作“Meherjaan”(2011)、タゴールの詩を背景に葛藤する女性を描いた“Under Construction”(2015)が各国の映画祭で高く評価される。(公式サイトより)

◆岩波ホールにて 初週末 ダッカとつないでオンライン監督舞台挨拶予定!
4.16(土)&4.17(日)14:30の回上映終了後

◆トークイベントを予定!
※いずれも14:30の回上映終了後
4/20(水) 長田華子さん(茨城大学人文社会科学部准教授)
4/23(土) 南出和余さん(神戸女学院大学文学部英文学科准教授)
4/27(水) 佐々木美佳さん(『タゴール・ソングス』監督/文筆家)
5/3(火・祝) 対談
ジェームズ・ミニーさん(フェアトレード専門ブランドピープルツリー社長)
×
胤森なお子さん(グローバル・ヴィレッジ代表)

2019年/フランス=バングラデシュ=デンマーク=ポルトガル/カラー/95分
配給:パンドラ
公式サイト:http://pan-dora.co.jp/bangladesh/
★2022年4月16日(土)より岩波ホールほか全国順次公開





posted by sakiko at 16:05| Comment(0) | バングラデシュ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月09日

バーニング・ダウン 爆発都市(原題:拆弾専家2)

birning down.jpg

監督・脚本:ハーマン・ヤウ
アクション監督:ニッキー・リー
出演:アンディ・ラウ(プン・センフォン)、ラウ・チンワン(ドン・チョクマン)、ニー・ニー(ポン・レン)

爆弾処理班のエース、フォンは数々の難事件を解決してきた。しかしある事件で爆発に巻き込まれ、左脚を失ってしまう。懸命にリハビリを続け、義足を作り職場復帰を目指すが、配属されたのは内勤だった。現場復帰の希望は叶えられず、フォンは自暴自棄になり警察を辞めて姿を消してしまった。再び姿を現したのはテロ組織「復生会」が起こしたホテル爆破事件の現場だった。警察の被疑者となったが、負傷したフォンは爆発の後遺症で記憶を失い、自分の名前も出てこない。入院中のフォンは「復生会」に連れ出されてしまった。テロ組織とフォンは繋がりがあるのか?

香港国際空港が爆発炎上する場面で映画がスタートします。このテロは「怒り」が引き起こしたとナレーションが入り、思わず世界中で起きている紛争やテロを思い起こしました。小さな怒りが集まって大きな闘争となったり、個人的な怒りが引き金になったりするのかもしれません。
爆弾処理班でのバディだったフォンは片脚を失い現場には戻れず、ドンは昇進と明暗が分かれました。だからといって、せっかくのスキルを悪いことに使うか?今まで人助けをしてきたのに、と疑問がわきます。いつも正義の味方役だったアンディ・ラウも、いつからか複雑な役回りをするようになりました。白か黒かだけではなく、その間に無限の灰色があり、この映画の中でアンディ扮するフォンは揺れ動きます。
繁華街や高層ビル、様々なロケーションでの大がかりな撮影やアクションシーンに、目を見張ります。テロ組織のボスにはツェ・クワンホウ(謝君豪)。
観ている間、緊張が続きますが、行けなくなって久しい香港の街市が観られます。アンディやチンワンを始め、レイ役のフィリップ・キョンほか、お馴染みの香港俳優が変わらず元気なのも嬉しい作品でした。(白)


サブ2.jpg


アンディ・ラウとラウ・チンワンが一刻を争う爆弾処理に臨む姿にはらはらしながらも、背景の香港に心が躍りました。
香港国際空港に始まり、空港と中環の香港駅を結ぶ機場快線、旺角の女人街(通菜街)や屋根付き歩道橋、屋上にプールのあるホテル、昼に夜に空から映した香港の全景・・・ 香港の魅力がたっぷり♪ 全編、ダイナミックなシーンが展開するのですが、青馬大橋のラストは特に圧巻でした。この橋の建設中、まだ橋が繋がってない時に、真下の海を船で通ったことを思い出しました。久しく行ってない香港に飛んでいきたくなりました♪
1990年代、香港に足繁く通っていた頃、デートしたい男優の上位にラウ・チンワンが入っていて、え~どこがいいの?と思ったものですが、久しぶりに本作で観て、なるほど魅力的と! この映画では、アンディ・ラウがひねくれた役柄なので、余計にいい男に見えるのですね。そのアンディ・ラウも、最後には、これぞ男!という姿を見せてくれます。
最後に流れる主題歌「相信我」はアンディ・ラウの作詞。恋人役のニー・ニーとのデュエットが切ないです。(咲)

アンディ・ラウとニー・ニーの珠玉のデュエット『バーニング・ダウン 爆発都市』MV
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=-MkyZSfXcTs

『バーニング・ダウン 爆発都市』予告編
https://burning-down.com/

『バーニング・ダウン 爆発都市』予告編 block for hong kong and china"
https://www.youtube.com/watch?v=RJYO9vCNb-A

『バーニング・ダウン 爆発都市』 メイキング
https://www.youtube.com/watch?v=vgPxMQzCukU

2020年/香港・中国/カラー/シネスコ/121分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2020 ALL RIGHTS RESERVED BY UNIVERSE ENTERTAINMENT LIMITED
https://burning-down.com/
★2022年4月15日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 15:36| Comment(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月08日

ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード(原題:HITMANʼS WIFEʼS BODYGUARD)

hitmanswifesbodyguard.jpg

監督:パトリック・ヒューズ
出演:ライアン・レイノルズ、サミュエル・L.ジャクソン、サルマ・ハエック、アントニオ・バンデラス、モーガン・フリーマン、フランク・グリロ ほか

超一流のボディガード、マイケル・ブライス(ライアン・レイノルズ)も今や落ち目。宿敵の殺し屋ダリウス(サミュエル・L.ジャクソン)に保護対象者を殺害されたトラウマで神経症に陥り、ライセンスをはく奪され、休暇で訪れたバカンス先にも災難は待ち受けていた。
ダリウスの妻で詐欺師のソニア(サルマ・ハエック)に拉致されたマイケルは、マフィアに捕まったダリウスを救出するというミッションを強いられる。クレージーな彼女に振り回されながらも、救出に成功するが、殺したマフィアの中にインターポールへの情報提供者も混じっていたことで、かわりに捜査に協力するハメになる。最先鋭装置を使ってEUへのサイバーテロを企てるギリシャの大富豪アリストテレス(アントニオ・バンデラス)から、装置の奪取に成功するマイケルたちだったが、敵の包囲網は彼らを苦しめていく。新婚旅行気分のダリウスとソニアに対して、マイケルは心も体もボロボロになり、伝説のボディガードである父(モーガン・フリーマン)を頼る。しかし、魔の手はすぐそこに迫っていた。
3人は世界を救うことができるのか?そして、ひたすら打ちのめされ、神経をすり減らすマイケルの運命は⁉︎

前作『ヒットマンズ・ボディガード』は殺し屋のダリウスが服役中の妻ソニアの釈放を条件に国際司法裁判所で裁かれる独裁者について証言することになり、元一流ボディガードのブライスが裁判所へ護送するまでを描いていました。
マイケルとダリウス。それぞれ、仕事人としての能力は超一流ですが、相性は最悪。そんな2人がバディを組んで繰り広げられる派手なカーアクションにハラハラドキドキしながらも、随所で笑わせてくれる作品でした。
その前作では殺し屋・ダリウスの妻・ソニアはちらりとしか出てきませんでした(とはいえ、かなりの印象を残しました)が、本作ではメインキャラクターとして登場。猛女ぶりを全編通して発揮します。厳つい男性が束になってかかってきても怯みません。あっという間になぎ倒してしまいます。ここまでパワフルな女性キャラクターをこれまで見たことがないくらい派手にやらかしてくれるので、見ているだけでどんなストレスもスッキリしてしまいそう。
そんなソニアの願いはただ一つ。行きそびれていた新婚旅行に出掛けて、2人の愛の証を授かること。お母さんになりたいと語ります。普段の行動とのギャップに驚くものの、そんなところがダリウスには可愛く思えるのでしょう。鋼のように強固な夫婦の愛にほろりとしてしまいます。そしてラストにソニアが下した決断に男性2人の更なる試練が求められるに違いありません。(堀)


2020/アメリカ/116分/5.1ch /カラー
配給: REGENTS
© 2020 Hitman Two Productions, Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:https://hitmanswifesbodyguard.jp/
★2022年4月8日(金)TOHOシネマズ⽇⽐⾕ほか全国ロードショー
posted by ほりきみき at 11:52| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

白骨街道 ACT1 (英題:Bleached Bones Avenue ACT1)

ミャンマーイベントポスター_R.jpg
© E.x.N K.K.

『白骨街道 ACT1』が、ミャンマー支援企画「映画を観て、ミャンマーを知る Vol.2」の上映作品として劇場公開される。国軍によるクーデターから一年が経ち、いまだに市民弾圧が続き、混迷を極めるミャンマーを支援するイベント「映画を観て、ミャンマーを知る Vol.2」で、藤元監督のデビュー作『僕の帰る場所』(2017)と同時上映される。東京のポレポレ東中野を始め、全国18館(※3月4日現在)で開催される。上映による配給収益の一部と、設置した募金箱への協力金はミャンマー市民を支援する活動に寄付される。

(イベント開催概要)
◇タイトル  映画を観て、ミャンマーを知る Vol.2
◇上映作品:『白骨街道 ACT1』『僕の帰る場所』同時上映
◇開催期間  2022年4月16日(土) ~4月22日(金)
◇開催劇場  全18館 (※3/4現在)

<東京>ポレポレ東中野 <神奈川>シネマ・ジャック&ベティ、あつぎのえいがかんkiki<群馬>シネマテークたかさき* <北海道>シアターキノ* <宮城>フォーラム仙台* <新潟>シネ・ウインド <福井>メトロ劇場 <富山>ほとり座* <石川>シネモンド <長野>上田映劇  <愛知>名古屋シネマテーク <大阪>シネ・ヌーヴォ <兵庫> 元町映画館 <広島>横川シネマ* <山口>山口情報芸術センター、萩ツインシネマ* <佐賀>シアター・シエマ*

*下記の劇場については、スケジュールが一部異なります。各劇場の公式サイトを参照ください。
※<富山>ほとり座 4/16(土) ・4/17(日) ※<広島>横川シネマ 4/15(金) 〜 4/21(木) ※<山口>萩ツインシネマ 4/16(土) 〜 4/29(金) ※<群馬>シネマテークたかさき 4/15(金) 〜 4/21(木) ※<宮城>フォーラム仙台 4/15(金) 〜 4/21(木) ※<佐賀>シアター・シエマ 4/15(金) 〜 4/21(木) ※<北海道>シアターキノ 4/22(金)

企画・配給:株式会社E.x.N 協力:藤元組FSC
公式サイト:https://fujimotofilms.com/myanmar 

『白骨街道 ACT1』

脚本・監督・編集:藤元明緒
撮影:岸建太朗
録音:弥栄裕樹
プロデューサー:渡邉一孝、キタガワユウキ
日本、ミャンマー/2020年/16分/日本語・英語字幕
配給:E.x.N

『白骨街道 ACT1』は、昨年、日本におけるベトナム人労働者を描いた『海辺の彼女たち』(2020/日=ベトナム)で、新藤兼人賞金賞、TAMA 映画賞最優秀新進監督賞をはじめ、大島渚賞など多数の映画賞を受賞した藤元明緒監督の新作短編。

かつてビルマと呼ばれていたミャンマー。インドとミャンマーの国境地帯の山奥の地。映画の舞台となる北西部のチン州は、第2次世界大戦のビルマ戦線の舞台の一つだった。1944年3月、日本軍は同地で“史上最も無謀な作戦”といわれる「インパール作戦」を決行。約9万人の兵士を投入したが、多くの日本兵が飢えやマラリアなどで命を落とした。戦死者の数は3万人以上とも言われている。その退却路は「白骨街道」と呼ばれ、現地には今もかつての日本兵の遺骨と遺留品が数多く残されている。

2013年、独立後に長く続いた内戦が停戦に至たりチン州における外国人の立入制限が解除。それに伴い日本側と連携した戦没者の遺骨収集事業が始まった。以来、現地に住む少数民族ゾミ族の人々が中心となり、遺骨および遺品の発掘作業が行われている。

HPより
2019年1月、藤元監督を始めとする制作チーム5名は、今では軍のクーデターの影響により撮影することが困難なチン州に滞在し、第二次世界大戦の体験者を取材。彼らの視点から語られる戦争体験を知る。ゾミ族の一団に同行するなかで、彼らに出演を打診し、取材で得た"記憶"や"声"を込めたフィクションとして本作を撮影した。なお、『白骨街道』は今後長編化を視野に入れたシリーズを構想しており、本作はその第一弾となる。

2020年の大阪アジアン映画祭で上映されたが、その時は観ることができず、もう観ることができないかと思っていたが、こういう形で上映されることになり嬉しい。ただ、これはとりあえずの第一弾。今はコロナ禍でもあり、軍による弾圧が続くなか、撮影の続行は難しく、いつ再開できるかの目途が立たないなか、支援のため上映されることになった。撮影の岸建太朗さんや共同プロデューサーのキタガワユウキさんの祖父が、このインパール作戦に参加していたという。「目に見えない糸に引き寄せられた感覚がありました」と大阪での上映の時に語っていたという。

8名くらいのゾミ族の男たちが車に乗り山道を登ってゆく。やがて雲海が下に見える高さ(2000mくらい?)まで到達して車を降りた。十字架のあるところで作業の無事を願う祈りをささげ、スコップを持って作業場に向かい、周辺を掘り起こし始めた。彼らはキリスト教徒だった。ミャンマーだから仏教徒だと思っていたので、このあたりに住む山岳民族?がキリスト教徒だというのが意外だった。日本兵に家畜や食料を奪われ殺された人もあり、図らずも戦争に巻き込まれてしまった現地の人たちの遺恨も出てくる。それでも彼らは、日本兵の遺骨探しに協力してくれる。ありがたいと思った(暁)。


シネジャHP 藤元明緒監督、渡邉一孝プロデューサーインタビュー記事
『僕の帰る場所』
『海辺の彼女たち』前編
『海辺の彼女たち』後編

posted by akemi at 08:13| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月06日

潜水艦クルスクの生存者たち(原題:KURSK) 

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監督:トマス・ヴィンターベア
出演:マティアス・スーナールツ、レア・セドゥ、マックス・フォン・シドー、コリン・ファース

乗艦員118名を乗せた原子力潜水艦クルスクは軍事演習のため出航するのだが、艦内の魚雷が突然暴発、凄まじい炎が艦内を駆け巡る。次々と命を落とす惨状に直面したミハイル(マティアス・スーナールツ)は、爆発が起きた区画の封鎖を指示し、部下と安全な艦尾へ退避を始めるが、艦体は北極海の海底まで沈没し、わずか23名だけが生き残った。
海中の異変を察知した英国の海軍准将デイビッド(コリン・ファース)は救援を表明するが、ロシア政府は沈没事故の原因は他国船との衝突にあると主張し、軍事機密であるクルスクには近寄らせようとしない。乗組員の命よりも国家の威信を優先する政府の態度に、ターニャ(レア・セドゥ)たち家族は怒りを露わに抗議する。酸素が徐々に尽きていく中、果たして愛する家族のもとへ帰る事はできるのだろうか──

2000年にロシアで実際に起きた未曾有の原子力潜水艦事故の映画化です。当時、ニュースをご覧になっていて事故のことを覚えていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、もしご存じなければ調べないまま、ご覧ください。登場人物たちの喜びや希望、悲しみ、絶望、怒りがストレートに伝わってきます。
作品では事故そのものだけでなく、乗組員たちのそれまでの状況にも触れ、海軍でありながら陸での生活が長く、海上での経験が圧倒的に少なかったことが描かれていました。それでも海軍としての絆は強く、海底に沈んだ艦内で生き残った者たちが支え合う様子に胸が締め付けられます。
一方で機密にこだわる政府の対応は本当に腹立たしい。「国を守る」といったときの「国」とはいったい何を意味するのでしょうか。主人公の息子が海軍の高官に対して取った、胸をすくような行動がそれを代弁しています。プーチン大統領があのとき、どこで何をしていたのかにも触れた製作側に勇気に頭が下がります。
ところで、主人公の司令官ミハイルの妻をレア・セドゥが演じていますが、自身も出産を経験した直後に初めての母親役に挑みました。『アデル、ブルーは熱い色』でカンヌ映画祭史上初となる出演女優としてのパルム・ドール受賞を果たしたころに比べて、すっかりたくましくなっています。(堀)


救助がもう少し早かったら父親は助かったかもしれないのに、国の威信がそれを阻んだと知った時の、妻や子どもたちの思いに涙でした。
冒頭、水に潜る少年ミーシャ。腕時計をした父の腕が映ります。防水の腕時計。
「57秒潜れたよ!」と頭をあげるミーシャ。実は家のバスタブ。
父ミハイルは、潜水艦の乗艦員。
出航前に、乗艦員仲間の結婚式が行われます。披露宴のために、お酒を調達しにいくミハイルたち。ウォッカだけでなくシャンパンも揃えるためには、用意したお金では足りなくて、腕時計を差し出します。この腕時計の辿ったドラマにも涙です・・・ (咲)



2018年/ルクセンブルク/英語/117分/カラー/シネスコ/5.1ch
配給:キノシネマ
© 2018 EUROPACORP
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/kursk
★4月8日より kino cinéma横浜みなとみらい他にて全国順次公開




posted by ほりきみき at 00:52| Comment(0) | ルクセンブルグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月05日

見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界(英題:Beyond the Visible t Hilma af Klint)

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監督:ハリナ・ディルシュカ
撮影:アリシア・パウル、ルアーナ・クニップファー
編集:アンチェ・ラス、マリオ・オリアス、ハリナ・ディルシュカ
出演:イーリス・ミュラー=ヴェスターマン、ユリア・フォス、ジョサイア・マケルヘニー
ヨハン・アフ・クリント、エルンスト・ペーター・フィッシャー
アンナ・マリア・ベルニッツ
声の出演:ペトラ・ファン・デル・フォールト

現在、美術史において、ヴァシリー・カンディンスキーが抽象絵画の先駆者として知られていましたが、その定説が覆されそうになっています。ヒルマ・アフ・クリントがカンディンスキーよりも数年早く、抽象画を描いていたことが判明したのです。本作ではキュレーター、美術史家、科学史家、遺族などの証言と、彼女が残した絵と言葉からヒルマの人生を紐解きながら、抽象画とは何なのかを解説し、現在の絵画ビジネスの在り方についてまで言及しています。

1862 年にスウェーデンの裕福な貴族の家に生まれたヒルマ・アフ・クリントは海軍学校の教師だった父親から数学や天文学、航海学など、さまざまなことを学びました。その後、スウェーデン王立美術院で美術を学ぶと当時の女性としては珍しく職業画家として成功を収めます。“当時、女性が王立の学び舎に入れるとは、スウェーデンはなんて男女平等が進んだ国なんだろう”と驚いたのですが、その裏には男性優位社会の思惑があることを作品は教えてくれます。

一方、霊的世界や神智学に関心を持っていたヒルマは次第に神秘主義に傾倒し、独自の表現の道を歩み始めます。しかし、アドバイスを求めたルドルフ・シュタイナーから認められず、絵を描くことを止めていた時期がありました。同時代の画家たちが新たな芸術作品を発表し、展示を行う中、ヒルマは作品を公表することはなく、最期は甥にすべての作品を遺します。“死後 20 年間はそれを世に出さないように”として。
そして月日は流れ、ヒルマは突如として世界に発見され、各地で開かれた展覧会で評判を呼びます。2019 年にニューヨークのグッゲンハイム美術館で開かれた回顧展は、同館史上最高の来場数(約 60 万人)を記録し、大きな話題となりました。
しかし、現代美術を仕切るMoMAの思惑が絡み、ヒルマが抽象画の先駆者として美術史の定説を覆すには時間が掛かりそうとのこと。芸術も結局、ビジネス優先のようです。(堀)


2019/ドイツ/94 分/英語、ドイツ語、スウェーデン語
配給:トレノバ
公式サイト:https://trenova.jp/hilma/
★2022年4月9日よりユーロスペースほか全国にて公開
posted by ほりきみき at 01:20| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月03日

親愛なる同志たちへ   原題:Дорогие товарищи!  Dorogie Tovarischi 英題:Dear Comrades

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©Produced by Production Center of Andrei Konchalovsky and Andrei Konchalovsky Foundation for support of cinema, scenic and visual arts commissioned by VGTRK, 2020

監督・脚本:アンドレイ・コンチャロフスキー(『暴走機関車』『 パラダイス』) 
出演:ユリア・ビソツカヤ(『くるみ割り人形 3D』『パラダイス』)、ウラジスラフ・コマロフ、アンドレイ・グセフ

1962年、フルシチョフ政権下のソ連で起きたノボチェルカッスクの虐殺。機関車工場のストライキに端を発し、大勢の市民が犠牲になりながら、ソ連が崩壊するまで約30年間隠蔽されていた事件。
本作は、84歳になるロシアの巨匠アンドレイ・コンチャロフスキーが、一人の共産党員の女性を主人公に、事件の真相に迫ったもの。

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©Produced by Production Center of Andrei Konchalovsky and Andrei Konchalovsky Foundation for support of cinema, scenic and visual arts commissioned by VGTRK, 2020


1962年6月1日、ソ連南西部ノボチェルカッスク。
早朝、リューダは共産党市政委員会の同僚で恋人のロギノフの家を後にし食料品店に急ぐ。物不足で、なんとか入手しようと開店を待ち構えている人たちをかき分け、顔見知りの店員から乳製品や煙草を受け取る。家に帰ると、女手ひとつで育てた18歳の娘スヴェッカが工場に出勤する支度に追われている。年老いた元コサック兵の父は煙草を嬉しそうに受け取る。
リューダが美容院で身なりを整えて出勤し会議に参加中、機関車工場でストライキが発生したとの連絡が入る。リューダはモスクワから駆け付けた高官たちを交えた緊急会議に出席する。市外への情報漏洩を防ぐため、軍による封鎖と監視体制を敷いたとの報告を受ける。夜遅く帰宅したリューダは娘に工場に行くなと言い聞かせるが、「抗議するのも民主主義」と家を飛び出していく。

6 月2 日 レーニンの肖像を掲げて行進してくる大勢の労働者たちに、リューダの勤める党地方本部の建物が取り囲まれる。リューダは KGBのスナイパーが屋上に身を潜めているのを目撃する。銃声が鳴り響き、デモ参加者や市民が次々と倒れる。逃げ惑う群衆の中を、リューダは娘を探して遺体安置所や病院を駆けずり回るが、見つからない。

6 月3 日 朝、街は何事もなかったかのように平静を取り戻し、広場では夜に開くダンス・パーティーの準備が行われている。リューダはKGBのヴィクトルから隣町に多数の遺体が埋められていると聞き、彼に付き添ってもらって検問をなんとかすり抜けて隣町に行く・・・

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©Produced by Production Center of Andrei Konchalovsky and Andrei Konchalovsky Foundation for support of cinema, scenic and visual arts commissioned by VGTRK, 2020


スターリンを信奉し、「デモを扇動した者には厳罰を」と強硬手段まで提案したリューダ。群衆が無差別銃撃に倒れる姿を目の当たりにして、それまで信じていたものが崩れ落ちます。さらに、娘が虐殺されたかもしれないと知り、一人の母親として、党の規律を破って探しにいきます。娘の捜索に協力したKGBのヴィクトルもまた、事件の隠蔽を図る国家の実態を知ってしまいます。「軍が市民に向けて発砲するのは憲法違反だからありえない」と言っていたのですが。
この事件は、30年後に真相が明かされましたが、世界には内政にしろ外政にしろ、真実が隠蔽されていることは多々ありそうです。
ノボチェルカッスクは、ウクライナにほど近い町。ロシア軍の通過地として被害を被っているのではないでしょうか。
私たちが耳にする、今ウクライナで起きていることも、西側からの報道だけなので真相はわかりません。そんなことも思い起こさせてくれた映画でした。 そして、犠牲になるのは、罪のない庶民・・・ (咲)


2020年/ロシア/ロシア語/121分/モノクロ/スタンダード/5.1ch
日本語字幕:伊藤美穂
配給:アルバトロス・フィルム  提供:ニューセレクト
公式サイト:https://shinai-doshi.com/
★2022年4月8日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開.
posted by sakiko at 21:39| Comment(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

クレマチスの窓辺

cremachis.jpg
(C)Route 9

監督・編集:永岡俊幸
出演:瀬戸かほ、里内伽奈、福場俊策、小山梨奈、ミネオショウ、星能豊、サトウヒロキ、牛丸亮、宇乃うめの、しじみ、西條裕美、小川節子

東京生まれ東京育ちの絵里。仕事に追われる中、1週間の休暇をもらう。地方の湖畔の町の亡き祖母が遺した家で過ごすことに。近くに住む叔母が駆けつけてくれる。同い年で建築家の従兄や大学生の従妹との再会。従兄のフィアンセや、従兄たちが靴を作ってもらった靴職人、従妹の大学の古墳研究者とも知り合う。
3日目、従妹とドライブ。祖母の描いた絵にあった灯台のある海辺へ。
4日目、湖畔に座っていると、自転車がパンクしたというバックパッカーに声をかけられる。祖母の家に招きパンクを直し、代わりに回らなくなったレコードプレイヤーを直してもらう・・・

窓を開けると、庭にはクレマチスの花。縁側から庭に降りるところに沓脱石のある伝統的な日本の家。佇まいが素敵です。
祖母の描いた絵に囲まれ、レコードを聴きながら、祖母の日記を読む・・・
時が静かに流れる中、出会いもあった7日間。
日常を離れて、こんなヴァカンスの過ごし方もいいなぁ~と。
映画の中では、あえて松江や日御碕の名前を出していませんが、宍道湖の畔にある松江や、崖っぷちに高くそびえる白い日御碕灯台など、観る人が観ればわかるロケ地。私にとっては懐かしい場所で、心が和みました。
クレマチスの花言葉は、精神の美、旅人の喜び、策略などとか。
どれもが当てはまりそうな7日間の物語です。(咲)


2020年/日本/カラー/62 分/ヨーロピアンビスタ/デジタル
配給:アルミ―ド
協力:島根県観光連盟、松江フィルムコミッション協議会、松江観光協会
公式サイト:https://clematis.space/
★2022年4月8日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開




posted by sakiko at 13:52| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ふたつの部屋、ふたりの暮らし   原題:Deux

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© PAPRIKA FILMS / TARANTULA / ARTÉMIS PRODUCTIONS - 2019

監督・脚本:フィリッポ・メネゲッティ
出演:バルバラ・スコヴァ、マルティーヌ・シュヴァリエ、レア・ドリュッケール、ミュリエル・ベナゼラフ、ジェローム・ヴァレンフラン

南仏モンペリエ。眺めのいいアパルトマンの最上階。向かい合う部屋に住む二人の女性、フランス人のマドレーヌとドイツ人のニナ。表向きには仲の良い隣人だが、実は二人は恋人同士。夫に虐待されていたマドレーヌは、旅先のローマでニナと知り合い愛し合うようになり、夫の亡きあと、子どもたちも独立し、隣人を装ってお互いの部屋を行き来して暮らしているのだ。二人の夢は、アパルトマンを売ったお金で、二人の出会ったローマで家を買って一緒に暮らすこと。だが、マドレーヌは娘たちにそのことをなかなか言えないでいた。そんなある日、マドレーヌが脳卒中で倒れる。数日後、退院するが口が聞けず、麻痺が残り車椅子生活になってしまう。娘アンヌが住み込みの介護士ミュリエルを雇う。ニナはマドレーヌを見舞いたいと訪ねるが、ミュリエルに邪険に断られる。ニナが合鍵で忍び込んだところをミュリエルに見つかってしまう。ニナは、マドレーヌに会いたいために、ミュリエルにある提案をする・・・

冒頭、古い石橋のかかる川のそばの森の中のベンチに、白と黒のドレスの二人の少女。烏の群れのカァカァと鳴く声がなんとも不気味で、一筋縄ではいかない物語を暗示しているかのよう。
ローマで二人で暮らすために、マドレーヌは娘にほんとのことを打ち明けようとするのですが、なかなか言えません。マドレーヌが倒れてから、娘は母がニナを愛していることを知ってしまいます。多様な性指向があるとわかっていても、身内となればすんなりと受け入れられないでしょう。結末はぜひ劇場で!
本作はフランスを舞台にしていますが、イタリアのフィリッポ・メネゲッティ監督による初長編作品。老いても愛に生きる女性たちの姿を静かな中にも力強く描き出しています。(咲)


LGBTQについて描いた作品はここ数年、ぐっと増えてきているけれど、70代女性カップルというのはかなり珍しいのではないでしょうか。しかし、性的指向に年齢は関係ないことを改めて気づかされました。
とはいえ、第三者の立場ならさらりと受け入れられることも家族となると大分違ってきます。そして、子どもからよりも親からのカミングアウトは受け入れにくいのかもしれません。親のそれを受け入れることは自分の存在そのものを否定することに繋がるのですから。マドレーヌの子どもたちの反応は至極当然と言えるでしょう。しかし、残り少ない人生だからこそ、一緒に生きたいというマドレーヌたちの気持ちも尊重してあげたい。
なかなか難しい問題に果敢にトライしたのはてっきり女性監督かと思ったところ、本作が長編監督デビューの男性で、脚本も共同で担当していました。しかし、女性の心の機微がしっかりと描かれていました。しかもサスペンスタッチな展開に最後までハラハラし、作品に引き込まれます。監督の次回作も楽しみです。(堀)


2019 年/フランス=ルクセンブルク=ベルギー/フランス語/95 分/カラー/2.39:1/5.1ch
字幕:齋藤敦子
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本、在日ルクセンブルク大公国大使館、ベルギー大使館
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:https://deux-movie.com/
★2022年4月8日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
posted by sakiko at 01:11| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする