2022年03月31日
今はちょっと、ついてないだけ
監督・脚本:柴山健次
原作:伊吹有喜「今はちょっと、ついてないだけ」(光文社文庫刊)
撮影:篠田力
音楽:小川明夏
出演:玉山鉄二(立花浩樹)、深川麻衣(瀬戸寛子)、音尾琢真(宮川良和)、団長安田(会田健)、髙橋和也(牧島雅人)、かとうかず子(母)
かつては秘境を旅する番組で人気だったカメラマンの立花浩樹は、バブル崩壊後に借金を追って表舞台から姿を消した。久しくカメラも持たずに働いていたある日、母から友達の写真を撮ってと頼まれる。テレビマンの宮川の母親だった。スマホで撮影した写真をフォトブックにして贈った後、亡くなってしまう。再会した宮川は仕事も家庭も失っていた。浩樹は泥酔した宮川を自分が住んでいるシェアハウスに連れて帰る。
シェアハウスには、美容師の瀬戸寛子が浩樹より先に住んでいた。お客とのコミュニケーションが苦手で、リストラされて仕事先を探している。宮川が来て賑やかになったシェアハウスで、浩樹はまた写真を撮り始めた。寛子は撮影前の女性にメイクしておおいに喜ばれ、自分のできることがあると気がつく。
上にあげた3人のほか、再起を図る芸人の会田健が加わります。この4人はみな、何かをなくして失意の底にあります。1人だとどっちにも踏み出せない不器用な大人たちですが、シェアハウスという場を得ることでちょっぴり変化が訪れます。1人2人と増えていくにつれ、ゆっくりと良い方向に作用するんですね。丁寧に淹れた珈琲を飲んだ人はみな、険しい表情だったのがほどけてふんわりと優しくなりました。美味しいものはいいですねぇ。私もシェアハウスで珈琲ごちそうになりたい。
浩樹が撮影のために足を運ぶ自然の風景、牧島を訪ねて降りる駅などロケーションが素敵です。調べたらあの駅は実在していました。
タイトルは、浩樹の母が息子に向かってかけた言葉です。責めるのではなく、頑張れでもなく、「今はちょっと、ついてないだけ」と言われたら、どんなに心が軽くなるでしょう。お母さんエライ!(白)
かつては脚光を浴びる仕事をしていたこともあるのに、思うようにいかない人生・・・ 「今はちょっと、ついてないだけ」と思えば、気が楽になりますよね。ほんと、この言葉を放ったお母さん、肝が座っててエライ!
この面白いタイトルの映画が、「地域連携による映画作り」で出来たもので、千葉県茂原市、長野県千曲市、愛知県幸田町、長崎県島原市が共同製作事業体。島原と千曲が特に気になって観てみました。
千曲市というと千曲川がまず思い浮かびますが、本作では、棚田の風景が圧巻でした。
大自然に囲まれた北竜湖で漕ぐカヌーも気持ちよさそうでした。
一番気になっていた島原では、水路のある城下町は残念ながら出てきませんでしたが、タクシーの窓の外に島原城の優雅な姿が映っていました。なにより、(白)さんが実在するのを検索した大三東駅が素敵です。有明海沿いを走る島原鉄道の駅で、ホームのすぐ向こうが海。行ってみたい!と思ったら、実は島原に行った時に通っているのです。覚えていなくて悲しいです。また行かなくちゃ。(咲)
2022年/日本/カラー/シネスコ/128分
配給:ギャガ
(C)2022映画「今はちょっと、ついてないだけ」製作委員会
https://gaga.ne.jp/ima-tsui/
★2022年4月8日(金)新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
2022年03月30日
最初の恋、最後の恋人(原題:A Way Station)
監督:脚本:キム・ジョンミン
撮影:チェ・ジュンソク
出演:キム・ジェギョン(ジア)、キム・ドンジュン(スンヒョン)
高校の同級生スンヒョンとジアは、ずっとお互いに好きだったのに素直に気持ちを伝えられないまま卒業してしまった。離れ離れになってしまって7年後、ジアの誕生日にスンヒョンからのケーキが届く。スンヒョンは希望を叶えて故郷でパティシエになっていた。ジアは順調だった仕事をやめ、つきあっていた同僚とも別れて故郷に戻ってきた。再会した二人は、ようやく互いの気持ちを確認することができた。相手を想うあまり「隠していたこと」を打ち明けた2人は最初の恋を実らせ、最後の恋人になろうとする。
ジアは父親が亡くなってから花屋を営む母だけが家族。スンヒョンの両親は早くに亡くなっています。高校生時代のスンヒョンは、いつも明るいジアに励まされていました。旧友たちに祝福されて付き合う2人ですが、韓国のドラマにつきものの難題がふりかかります。HPにはもう書かれているので、「病気で彼女は余命わずか、彼は記憶を失っていく」と書いておきます。そこからどう生きていくのかが肝なので、なんでもない日常を過ごしているのが文字通り「有難い」ことなんだと思い至ります。
スンヒョンは『私の頭の中の消しゴム』(2004)のソン・イエジンと同じ病気、と言ったらわかるでしょうか?古いかな。チョン・ウソンとの夫婦愛に泣かされました。制限のある中、愛情を育むジアとスンヒョンの日々をハンカチ片手に見守ってくださいませ。(白)
2021年/韓国/カラー/シネスコ/101分
配給:クロックワークス
(C)2021 PRIVATE COMPANY All rights reserved
https://klockworx-asia.com/koi/
★2022年4月1日(金)ロードショー
2022年03月27日
世の中にたえて桜のなかりせば
2022年4月1日 丸の内東映ほかで公開 劇場情報
監督:三宅伸行
原案:鈴木均
脚本:敦賀零 三宅伸行
企画:鈴木均
エグゼクティブプロデューサー:宝田明
エンディング曲 all at once
エンディング曲プロデュース 亀田誠治
主題歌「蒼空」 Produced by 亀田誠治
歌:all at once 作詞:Ra-U , レオリ 作曲:Ra-U
出演
加咲:岩本蓮加
敬三:宝田明
敬三の妻:吉行和子
土居志央梨、郭智博、名村辰、柊瑠美、伊東由美子、徳井優
70歳、年の差コンビが描く心温まるヒューマンドラマ
「乃木坂46」で活躍する岩本蓮加17歳と2022年に芸能生活68周年を迎えた大ベテラン宝田明がW主演を務める。二人は“終活アドバイザー”として「終活屋」で働き、様々な境遇の人たちの終活を手伝う。「桜の季節」と「終活」をテーマに、70歳の年の差コンビが描く心温まるドラマ。宝田明が企画立案し、自身でエグゼクティブプロデューサーも務める。また、余命幾ばくもない宝田の妻役は、これまでも『燦燦~さんさん~』などでの共演歴のある吉行和子さん。
終活アドバイザーのバイトをしている不登校の女子高生咲(岩本蓮加)は、一緒に働く老紳士柴田敬三(宝田明)と共に、様々な境遇の人々の「終活」の手助けをしている。
危険と隣り合わせの職業で、万が一のために家族に遺書を残そうとする人、余命わずかで思い出を残そうとする人たちに寄り添って「終活」のお手伝いをする日々を送っていた。
そんな中、咲の担任で国語教師だった南雲は生徒からのイジメに遭い、教師をやめ自暴自棄の生活をしていた。咲はひきこもりの彼女の様子を見に度々先生の家を訪れていた。イジメの張本人である女子生徒たちに自分の気持ちをぶつけたりもするが、彼女の中のやるせない気持ちは消えることはなくもやもやしていた。
自身も不登校で行き場を求めている咲に、敬三は病気で老い先短い妻とかつて見た桜の下での思い出を語った。咲は敬三たち夫婦を励まそうと、敬三がかつて見たという桜の木を探しに出かけた。
終活、不登校、いじめなど、様々な問題を織り込んだ作品。
最初、不登校の女子高生が「終活アドバイザー」?と思ったのだけど、だんだんに板についてきて、最後の方はなるほどと思いました。「危険と隣り合わせの職業で万が一の時のために遺書を残していく」という人はなんの職業かな?と思いましたが、あっと驚く意外な展開が面白かったです。また、国語の先生が「生徒からのイジメでひきこもりになる」という話も、これまでそんなことは考えたこともなかったので、物語の展開の面白さに引き込まれて行きました。そして70歳も年の離れた同僚「終活アドバイザー」宝田明さんは、やはり存在感がありました。彼女が部下ではなく、むしろ宝田さんのほうが後輩のような仕事場での仕事ぶりも意外でしたし、脚本家や監督はその辺の観客の認識を裏切るような展開を狙っているようにも思いました(笑)。
最後は老い先短い妻の役で吉行和子さんが出てきて、ふたりがかつて見たという桜の話を聞き、桜探しに出かける若者たち。桜はやはり、命のはかなさを表すアイテムなのかもしれません。
この映画の公開前の3月14日(月)に宝田明さんは急逝され、遺作になりました。
享年87歳。ご冥福をお祈りします。朝鮮半島に生まれ、満州からの引き揚げ者としての体験から平和の大切さを語っていました。これは、美しい桜をテーマに初めてプロデュースを手がけた作品でした(暁)。
宝田明さんは、戦争体験者として反戦の思いを伝えたいと、「桜」をモチーフに本作を企画されました。今年の桜をご覧にならないで旅立たれてしまいました。ご冥福をお祈りするばかりです。
日本人にとって、格別な思いのある桜。それは、花の命が短いからでしょうか・・・
春の訪れを感じさせてくれるからでしょうか・・・
満州でソ連軍の蛮行を目の当たりにされた宝田明さんにとって、満開の桜は平和な日本を感じさせてくれるものだったのかもしれません。
映画の中で、宝田さん演じる終活アドバイザー柴田が、「満州から引き揚げてきて、自分が外国人のようで学校になかなかなじめなかった」という言葉がありました。
亡き母は、台湾からの引揚者。満州や朝鮮半島にいた方のような壮絶な思いはしていないものの、思い出の詰まった家を後にし、同級生とも散り散りになりました。青春時代を戦争に翻弄され、「戦争反対」と、よく小さな声で叫んでました。
花が大好きだった母。それでも桜には特別な思いがあったようで、毎年、桜を眺めるたびに、「来年も桜を観ることができるかしら?」とつぶやいていました。今や、私自身が来年も観られるかしらと思う歳になってしまいました。(咲)
☆スタッフ日記に書いた追悼記事です。
宝田明さんのご冥福をお祈りしています (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/486075032.html
製作:埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ TOKYO MX ビーイング 東映ビデオ
製作プロダクション:アルタミラピクチャーズ デジタルSKIPステーション 配給:東映ビデオ
公式サイト:https://www.toei-video.co.jp/sakuramovie2022/
監督:三宅伸行
原案:鈴木均
脚本:敦賀零 三宅伸行
企画:鈴木均
エグゼクティブプロデューサー:宝田明
エンディング曲 all at once
エンディング曲プロデュース 亀田誠治
主題歌「蒼空」 Produced by 亀田誠治
歌:all at once 作詞:Ra-U , レオリ 作曲:Ra-U
出演
加咲:岩本蓮加
敬三:宝田明
敬三の妻:吉行和子
土居志央梨、郭智博、名村辰、柊瑠美、伊東由美子、徳井優
70歳、年の差コンビが描く心温まるヒューマンドラマ
「乃木坂46」で活躍する岩本蓮加17歳と2022年に芸能生活68周年を迎えた大ベテラン宝田明がW主演を務める。二人は“終活アドバイザー”として「終活屋」で働き、様々な境遇の人たちの終活を手伝う。「桜の季節」と「終活」をテーマに、70歳の年の差コンビが描く心温まるドラマ。宝田明が企画立案し、自身でエグゼクティブプロデューサーも務める。また、余命幾ばくもない宝田の妻役は、これまでも『燦燦~さんさん~』などでの共演歴のある吉行和子さん。
終活アドバイザーのバイトをしている不登校の女子高生咲(岩本蓮加)は、一緒に働く老紳士柴田敬三(宝田明)と共に、様々な境遇の人々の「終活」の手助けをしている。
危険と隣り合わせの職業で、万が一のために家族に遺書を残そうとする人、余命わずかで思い出を残そうとする人たちに寄り添って「終活」のお手伝いをする日々を送っていた。
そんな中、咲の担任で国語教師だった南雲は生徒からのイジメに遭い、教師をやめ自暴自棄の生活をしていた。咲はひきこもりの彼女の様子を見に度々先生の家を訪れていた。イジメの張本人である女子生徒たちに自分の気持ちをぶつけたりもするが、彼女の中のやるせない気持ちは消えることはなくもやもやしていた。
自身も不登校で行き場を求めている咲に、敬三は病気で老い先短い妻とかつて見た桜の下での思い出を語った。咲は敬三たち夫婦を励まそうと、敬三がかつて見たという桜の木を探しに出かけた。
終活、不登校、いじめなど、様々な問題を織り込んだ作品。
最初、不登校の女子高生が「終活アドバイザー」?と思ったのだけど、だんだんに板についてきて、最後の方はなるほどと思いました。「危険と隣り合わせの職業で万が一の時のために遺書を残していく」という人はなんの職業かな?と思いましたが、あっと驚く意外な展開が面白かったです。また、国語の先生が「生徒からのイジメでひきこもりになる」という話も、これまでそんなことは考えたこともなかったので、物語の展開の面白さに引き込まれて行きました。そして70歳も年の離れた同僚「終活アドバイザー」宝田明さんは、やはり存在感がありました。彼女が部下ではなく、むしろ宝田さんのほうが後輩のような仕事場での仕事ぶりも意外でしたし、脚本家や監督はその辺の観客の認識を裏切るような展開を狙っているようにも思いました(笑)。
最後は老い先短い妻の役で吉行和子さんが出てきて、ふたりがかつて見たという桜の話を聞き、桜探しに出かける若者たち。桜はやはり、命のはかなさを表すアイテムなのかもしれません。
この映画の公開前の3月14日(月)に宝田明さんは急逝され、遺作になりました。
享年87歳。ご冥福をお祈りします。朝鮮半島に生まれ、満州からの引き揚げ者としての体験から平和の大切さを語っていました。これは、美しい桜をテーマに初めてプロデュースを手がけた作品でした(暁)。
宝田明さんは、戦争体験者として反戦の思いを伝えたいと、「桜」をモチーフに本作を企画されました。今年の桜をご覧にならないで旅立たれてしまいました。ご冥福をお祈りするばかりです。
日本人にとって、格別な思いのある桜。それは、花の命が短いからでしょうか・・・
春の訪れを感じさせてくれるからでしょうか・・・
満州でソ連軍の蛮行を目の当たりにされた宝田明さんにとって、満開の桜は平和な日本を感じさせてくれるものだったのかもしれません。
映画の中で、宝田さん演じる終活アドバイザー柴田が、「満州から引き揚げてきて、自分が外国人のようで学校になかなかなじめなかった」という言葉がありました。
亡き母は、台湾からの引揚者。満州や朝鮮半島にいた方のような壮絶な思いはしていないものの、思い出の詰まった家を後にし、同級生とも散り散りになりました。青春時代を戦争に翻弄され、「戦争反対」と、よく小さな声で叫んでました。
花が大好きだった母。それでも桜には特別な思いがあったようで、毎年、桜を眺めるたびに、「来年も桜を観ることができるかしら?」とつぶやいていました。今や、私自身が来年も観られるかしらと思う歳になってしまいました。(咲)
☆スタッフ日記に書いた追悼記事です。
宝田明さんのご冥福をお祈りしています (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/486075032.html
製作:埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ TOKYO MX ビーイング 東映ビデオ
製作プロダクション:アルタミラピクチャーズ デジタルSKIPステーション 配給:東映ビデオ
公式サイト:https://www.toei-video.co.jp/sakuramovie2022/
英雄の証明 原題:قهرمان ghahreman 英題:A HERO
監督・脚本・製作アスガー・ファルハディ
出演:アミル・ジャディディ、モーセン・タナバンデ、サハル・ゴルデュースト、サリナ・ファルハディ
イラン南西部の古都シラーズ。元看板職人のラヒム・ソルタニは借金が返せず収監されている。婚約者ファルコンデから金貨17枚が入った鞄を拾ったとの連絡を受け、その金貨で借金を返済しようと刑務所から2日間の休暇を貰う。返済する相手は別れた妻の兄バーラム。だが、金貨は返済額の半分程にしかならず、バーラムは全額でないと受け取らないという。ラヒムは、だんだん罪悪感を覚えて、鞄を落とし主に返すことにする。刑務所の電話番号を連絡先にしたビラを、鞄を拾った辺りに貼り、刑務所に戻る。数日後、落とし主と名乗る女性から電話を受け、姉マリのところに取りにいってもらう。このことを刑務所の所長たちが知り、美談として報じたいといわれる。婚約者のことは公にしたくない為、自分が鞄を拾ったことにして報じてもらう。ラヒムは正直者の囚人として美談の英雄になる。特別休暇をもらい出所したラヒムはチャリティ協会の催しに招かれる。吃音症の息子シアヴァシュのスピーチも聴衆の涙を誘い、ラヒムの借金の為に皆が寄付金を差し出す。チャリティ協会から仕事も斡旋してもらい、面談に行くが、そこで「美談」が嘘との報がSNSで出回っているので、証拠を示せといわれる・・・
さすがファルハディ監督! ソーシャルメディアが、人を英雄にも悪者にもするという世界のどこにでも起こり得ることを巧みに描きながら、イランの人たちの暮らしや文化もしっかり見せてくれて唸りました。
冒頭、刑務所を出て向かった先が、2500年前の遺跡ナクシェ・ロスタム(ロスタムの絵)。 シラーズの町から車で1時間ほどのアケメネス朝ペルシアの都ペルセポリスの近くにある崖に刻まれた墓標群です。修復作業をしている義兄を訪ねて、仮設階段を何段もあがっていくので、どれだけ大きいかがわかると思います。
ロスタムといえば、イランが誇る詩人フェルドウスィーの叙事詩「シャー・ナーメ(王書)」に出てくる偉大な英雄。映画のタイトルにも呼応しますが、7世紀にイスラームが入ってくる以前よりの古い歴史を持つイランを強調しているようにも思えました。
出所し、久しぶりに会うファルコンデがいつものコートにスカーフではなく、伝統的なチャードルをはらりと翻しながら階段を下りてきます。「美しい」とつぶやくラヒムに、「鞄を隠すためよ」とファルコンデ。チャードルは実は万引きにも便利! そも、コートにスカーフは1979年の革命後に、イスラームの教えに沿って髪の毛や身体の線を隠すよう、それまでチャードルを利用していなかった人たちのために推奨されたもの。革命前にはなかったスタイルです。
ラヒムを囲んでの久しぶりの食事。絨毯の上に広げたソフレ(食布)に、料理を並べて皆で囲みます。少人数なら食卓で食べることもありますが、絨毯に座ってソフレを囲むのはイランの伝統的な日常の姿。人数が増えても大丈夫。
「早く来ないと、おこげを食べちゃうよ」と、ゲームをしている息子に声をかけます。おこげは、お皿に別盛りにして、お客様がいればまず先に差し上げるご馳走。
美談が広まり、ラヒムが出所したお祝いに隣近所に振る舞うためにたくさん作ったアーシュ(スープ)。息子がうれしそうな顔でご近所さんに届ける姿にほろっとさせられます。ファルコンデの家に持っていくアーシュには、ラヒム自身が表面に綺麗な飾りつけをしています。(薔薇の花びらやミントなどで絵を描くように飾ります)
休暇をもらって刑務所から一時的に出所できることに驚かされますが、コロナ禍で、密にならないよう一時的に家に帰したという話も聞きました。窃盗犯や麻薬犯などは帰宅できたのに政治犯は認められなかったそうです。
借金が返せなくて収監されることにもちょっと驚きますが、イランでは、結婚する時に取り決めした夫が妻に払う婚資(いつ渡してもいいのですが、離婚した時には必ず払わなければいけない)を払えなくて収監される男性も多いと聞きます。
婚資をせしめる為に、男性を引っかけて離婚するという女性の話も耳にしますが、この映画は、出所する夫が迎えにきた妻と抱き合う姿を遠目に映して終わります。妻が刑務所の人たちへの差し入れのお菓子の大きな箱を持ってきていて、皆さんでどうぞというのも、いかにもイラン♪ おしゃべりで好奇心が強くて、人付き合いを大切にするイランの人たちの姿を、この映画を通じて観ていただければ嬉しいです。
ラヒムのくだした結論も、ぜひ劇場で確認ください。 (咲)
SNSによって、瞬く間に英雄に持ち上げられ、そして叩かれる。嘘と正直、相反しているけど、隣り合わせ。どう解釈するかによって、善意や悪意が紙一重というのを、巧妙に描いている。物事を好意的に見るか悪意で見るか、知らないまに英雄になったり悪人にされたり。ネットの社会は恐ろしい。それにしても借金で拘留されるというのにも驚いたけど、刑務所にいるのに休暇があるというのにもまか不思議な感じがした。日本だったら刑期の途中で、刑務所から家に外出できるということは考えられないこと。やはり世界にはいろいろな考え方がある(暁)。
第74回カンヌ国際映画祭 グランプリ受賞
2021年/イラン・フランス/ペルシア語/127分
日本語字幕:金井厚樹/字幕監修:ショーレ・ゴルパリアン
提供:シンカ、スカーレット、シャ・ラ・ラ・カンパニー、Filmarks
後援:イラン・イスラム共和国大使館イラン文化センター、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
配給シンカ
公式サイト:https://synca.jp/ahero/
★2022年4月1日(金)よりBunkamuraル・シネマ、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテほか全国順次公開
女子高生に殺されたい
原作:古屋兎丸「女子高生に殺されたい」(新潮社バンチコミックス)
監督・脚本:城定秀夫
出演:田中圭、南沙良、河合優実、莉子、茅島みずき、細田佳央太、加藤菜津、久保乃々花、キンタカオ、大島優子
女子高生に殺されたいがために高校教師になった男・東山春人(田中圭)。
人気教師として日常を送りながらも“理想的な殺され方”の実現のため、9年間も密かに綿密に、“これしかない完璧な計画”を練ってきた。
彼の理想の条件は二つ「完全犯罪であること」「全力で殺されること」。
条件を満たす唯一無二の女子高生を標的に、練り上げたシナリオに沿って、真帆(南沙良)、あおい(河合優実)、京子(莉子)、愛佳(茅島みずき)というタイプの異なる4人にアプローチしていく……。
衝撃的なタイトルに胡散臭い内容かと思いきや、田中圭の高校教師があまりにもハマっていて、冒頭からぐいぐい引き込まれる。そのさり気ないけれど、思わせぶりなボディタッチはダメでしょう〜 言葉にするといやらしい感じだけれど、田中圭がすると見ているこちらまでドキドキしてしまう。
このワクワクに少し慣れてくると、「で、どうやって殺されるわけ? そんなの無理でしょう」と思うのだけれど、その方法が後半に明かされると、よくできた筋立てに思わず唸ってしまう。
果たして彼の思いは遂げられるのか。
そこに大島優子演じる元カノが絡んでくる。彼女との対峙は圧巻。瀬々敬久監督が『明日の食卓』の演技に感動して、『とんび』にもキャスティングしたのも納得の熱演。田中圭が主演で、彼だからこそ、本作にリアリティが生まれたのだけれど、最後の最後で大島優子に持っていってしまった!(堀)
2022年製作/110分/PG12/日本
配給:日活
(C)2022 日活
公式サイト:https://joshikoro.com/
★2022年4月1日(金)全国ロードショー!
2022年03月26日
私はヴァレンティナ(原題:Valentina)
監督・脚本:カッシオ・ペレイラ・ドス・サントス
出演:ティエッサ・ウィンバック、グタ・ストレッサー、ロムロ・ブラガ、ロナルド・ボナフロ、マリア・デ・マリア、ペドロ・ディニス
ブラジルの小さな街に引っ越してきた17歳のヴァレンティナ(ティエッサ・ウィンバック)。彼女は出生届の名であるラウルではなく、通称名で学校に通う手続きのため蒸発した父を探している。未だ恋を知らないゲイのジュリオ(ロナルド・ボナフロ)、未婚の母のアマンダ(レティシア・フランコ)など新しい友人や新生活にも慣れてきたが、自身がトランスジェンダーであることを伏せて暮らしていた。そんな中、参加した年越しパーティーで見知らぬ男性に襲われる事件が起きる。それをきっかけにSNSでのネットいじめや、匿名の脅迫、暴力沙汰など様々な危険が襲い掛かるのだった…
ブラジルはLGBTQの権利保障に対して前向きに動き、同性婚が認められた。その一方で差別はいまだ根強く残っており、トランスジェンダーの中途退学率は82%、そして平均寿命は35歳と言われている。
監督のカッシオ・ペレイラ・ドス・サントス、プロデューサーで監督の姉であるエリカ・ペレイラ・ドス・サントスはともにLGBTQであり、自分たちのような人物たちを社会がもっと認識してほしいという望みから映画を作ったという。
主人公のヴァレンティナを演じているのは実際にトランスジェンダーのティエッサ・ウィンバック。77万人の登録者がいるYouTubeチャンネルを運営している。演技経験はなかったものの、ヴァレンティナの言葉にできない辛さや悲しみが全身からにじみ出ていたのは自身が経験してきたことだからだけでなく、YouTuberとして表現してきたことが活きているのだろう。
希望を感じるラストに後味はとてもいい。ただ、フィクションだからこういう風に終われたのではないか。いや、このラストがリアルに感じられるような社会が早く来るよう、社会全体の意識が変わることを切に願う。(堀)
2020年/ブラジル映画/ポルトガル語/95分/スコープサイズ/カラー
配給:ハーク
(C)2020 Campo Cerrado All Rights Reserved.
公式サイト:https://hark3.com/valentina/
★2022年4月1日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性 原題:Casting By
監督:トム・ドナヒュー
製作:トム・ドナヒュー、ケイト・レイシー、イラン・アルボレダ、ジョアナ・コルベア
出演:マリオン・ドハティ、マーティン・スコセッシ、ロバート・デ・ニーロ、ウディ・アレン、クリント・イーストウッド、ロバート・レッドフォード、ダスティン・ホフマン、アル・パチーノ、メル・ギブソン、ジョン・トラボルタ、グレン・クローズ
キャスティング・・・
役にふさわしい俳優を選ぶという、映画にとって要の仕事。
だが、それが「仕事」として日の目をみることはなかなかない。
本作は、ハリウッドで長年活躍したキャスティングの先駆者マリオン・ドハティ(1923-2011)の軌跡をたどり、キャスティングという仕事の大切さに迫るドキュメンタリー。
マリオン・ドハティ(1923-2011)
1923年生まれ。大学卒業後にTVの配役アシスタントに就き頭角を現す。『裸の街』『ルート66』を手掛け、1964年『マリアンの友だち』で長編映画へ。代表作『俺たちに明日はない』『明日に向かって撃て!』『真夜中のカーボーイ』『ダーティハリー』『スティング』『レニー・ブルース』『レッズ』『グリース』『ガープの世界』『キリング・フィールド』『リーサル・ウェポン』『フルメタル・ジャケット』『バットマン』など。2011年 マンハッタンの自宅で死去。享年88歳。全米キャスティング協会は彼女の功績を称え、毎年授与する栄誉賞の一つに彼女の名を冠している。
冒頭、「映画監督の仕事の9割は、キャスティングの質で決まる」とマーティン・スコセッシ。
名だたる監督や俳優の語る言葉に、いかにマリオン・ドハティが的確なキャスティングをし、監督たちに信頼され、俳優たちからは感謝されたかを知ることができます。
そんな彼女が悔しい思いをしたことも。
『真夜中のカーボーイ』(1969年)で、ダスティン・ホフマンを『卒業』とは真逆のホームレス役にキャスティングしたマリオン。ジョン・シュレシンジャー監督は、マリオンから単独でキャスティングとしてクレジットするのが無理なら消してと言われ、名前を載せなかったことを45年間後悔していると語っています。
1976年、パラマウントにスカウトされ、ニューヨークからロスアンゼルスへ。3年後に社長が交代し、意見が合わなかったところへワーナーから声がかかり、社長は行かないでと引き留めるも、辞表を出してワーナーへ。
キャスティングは「直感」という信条通り、マリオン・ドハティの生き様は実に見事です。(咲)
2012年に米国で公開されキャスティングへの再評価と、その後にアカデミー賞が取り組む変革(2025年の第96回以降は作品賞候補に“インクルージョン(包摂性)”が評価条件に加わる等)にも重要な役割を果たしたと評価された注目作。2019年に英国アカデミー賞がキャスティング部門を新設したことも話題となり、今回が日本初公開。
2012年/アメリカ/89分/カラー/DCP
配給:テレビマンユニオン 配給協力・宣伝:プレイタイム
公式サイト:http://casting-director.jp/
★2022年4月2日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
2022年03月25日
TITANE チタン(原題:TITANE)
監督・脚本:ジュリア・デュクルノー
撮影:ルーベン・インペンス
出演:ヴァンサン・ランドン、アガト・ルセル、ギャランス・マリリエール
幼い頃、交通事故により頭蓋骨にチタンプレートが埋め込まれたアレクシア。
彼女はそれ以来<車>に対し異常な執着心を抱き、危険な衝動に駆られるようになる。自らの犯した罪により行き場を失った彼女はある日、消防士のヴァンサンと出会う。10年前に息子が行方不明となり、今は孤独に生きる彼に引き取られ、ふたりは奇妙な共同生活を始める。だが、彼女は自らの体にある重大な秘密を抱えていた──
冒頭は父親が運転する車の中で、前の座席を蹴って叱られている子どものアレクシア。何度言ってもやめないので、思わず後ろを振り返り怒鳴った父親。車は追突して大破。アレクシアは大きな怪我を負います。この子の目が怖い~。事故の前から暴力的な感じがするのは不幸せなのかもしれない。母親はほんのちょっとしか登場せず、父親は娘と関わりたくないようす。アレクシアの暴力は過剰な自己防衛であるのか、自分を突き放さないヴァンサンにだけは次第に心を開いていきます。
車と女性というと、男性の好きなものでしょうが、この作品では男性の入る余地なく、アレクシアは車と情交しています。悔しい?こんなストーリー初めて見ました。監督の前作『RAW 〜少女のめざめ〜』も少女の肉体と精神が変容していくホラーでした。2本目の本作で、カンヌで受賞してしまうなんてこれから先の作品はどんなものが出てくるんでしょう。(白)
★第74回カンヌ国際映画祭[最高賞]パルムドール受賞
主人公のアレクシアを演じたアガト・ルセルはこれが長編映画デビューとのこと。驚いた。いきなりこんな振り切った役を演じられるとは! 車に絡むように踊る姿はエロティシズムにあふれている。しかも、その作品がパルム・ドールを受賞したという。アレクシアの気持ちに共感はできないけれど、痛みを感じていることはびんびんに伝わってきました。監督は本作が2作目。その唯一無二の才能に嫉妬してしまいそう。(堀)
2021年/フランス・ベルギー合作/カラー/シネスコ/110分
配給:ギャガ
© KAZAK PRODUCTIONS – FRAKAS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA – VOO 2020
https://gaga.ne.jp/titane/
★2022年4月1日(金)新宿バルト9ほか全国公開
スピリットウォーカー(英題:Spiritwalker)
監督:脚本:ユン・ジェグン
出演:ユン・ゲサン、イム・ジヨン、パク・ヨンウ
交通事故の現場で目覚めた男は、すべての記憶を失っていた。鏡に映る自分の顔も、名前も、全てがしっくりこない。しばらくすると、男はまた馴染みのない場所で目を覚ます。今度は先ほどとは違う顔で。やがて彼は12時間ごとに違う人間の体に入れ替わっていることに気づく。そして突如として、謎の女が彼に銃口を向ける。一体なぜ?何が起きているのか?そして本当の自分は何者なのか?自分が生きているのかさえ定かではない。真実を求めて走り始めた男は、やがて自分が巨大な陰謀の渦中にいることを知るのだが …。
ユン・ゲサンが自分が何者を探す男の役。「自分探し」というような悠長なものではなく、命を狙われています。誰かの「身体」に男の「魂」が入りこみ、それもずっとではないのがミソ。鏡に映って初めてどんな姿をしているのかがわかります。ユン・ゲサンが1人走り回りますが、サンチョ・パンサのごとく手助けするのが、最初の事故現場で救急車を呼んでくれたホームレス。このときだけがちょっと息がつける時間です。観ていたら、ユン・ゲサンはこの作品中一度も飲んだり食べたりのシーンがありません。それどころじゃないという緊張感が続く作品でした。ときどき今誰なのかわからなくなるのですが、迫力のアクションシーンを観ていると細かいことはよくなります。
世界中で数々の映画祭に招待され「革新的なSFアクション!」として話題になった本作は、ハリウッド・リメイクが決定。(白)
本作を観て思い出したのが、『ビューティー・インサイド』(2015年 ペク・ジョンヨル監督)。眠りから覚めると中味は同じまま、外見が別の人間に変わってしまう18歳の女性ウジンの物語。毎朝、性別も年齢も人種までもが違うので、くらくら。本作のユン・ゲサン演じる男は、12時間ごとに外見が変わるのですから、さらに目まぐるしいです。鏡に映るのは、他人の顔なのに、鏡を見ているのは自分(ユン・ゲサン)という、なかなか面白い撮り方をしています。うまく背格好の似た俳優をそろえたものです。(咲)
2021年/韓国/カラー/シネスコ/108分
配給:クロックワークス
(C)2021 ABO Entertainment Co., Ltd., B.A. ENTERTAINMENT, SARAM ENTERTAINMENT, ALL RIGHTS RESERVED
https://klockworx-asia.com/spirit/
★2022年4月1日(金)ロードショー
アネット(原題:Annette)
監督:レオス・カラックス
原案・音楽 :スパークス
歌詞:ロン・メイル ラッセル・メイル & LC
撮影:キャロリーヌ・シャンプティ
出演:アダム・ドライバー(ヘンリー)、マリオン・コティヤール(アン)、サイモン・ヘルバーグ(指揮者)
ロサンゼルス。 攻撃的なユーモアセンスをもったスタンダップ・コメディアンのヘンリーと、国際的に有名なオペラ歌手のアン。“美女と野人”とはやされる程にかけ離れた二人が恋に落ち、やがて世間から注目されるようになる。だが二人の間にミステリアスで非凡な才能をもったアネットが生まれたことで、彼らの人生は狂い始める。
ダーク・ファンタジー・ロック・オペラってどんなの?と試写に行きました。スパークスが録音を始めるのかスタンバイ中、カラックス監督が声をかけ、ここからスタート。娘とスパークスと一緒に外に出て、キャストたちが合流し物語に引き込む変わったオープニングです。
アンが人気のオペラ歌手、哀切な歌で薄幸のヒロインを演じます。辛辣なギャグで笑わせるヘンリーが「真実を言って殺されないのはこの仕事だけ」というのが、刺さります。
マリオン・コティヤールはエディット・ピアフを演じたことがありました。カイロ・レンも歌うとは!いやいやアダム・ドライバー、何でもやれるんですね。タイトルは娘の名前ですが、想定外の姿でした。愛憎濃い物語がめくるめく映像の中で展開し、嵐の船の場面では酔いそうなほどです。カメラマンはどこにいたのでしょう?
2人の娘をとり上げる産科医が古舘寛治さんでおもいがけない登場にびっくり。他にも日本人キャストがいますので、よく見ていて。主演の2人が繰り返し歌う「We Love Each Other So Much」が残ります。(白)
子どもが生まれることで夫婦の関係性が変わることがよくあります。この作品の主人公夫婦がまさにそれ! 妻は母になれましたが、夫は父になり切れない。そこに夫婦間の経済価格差も絡んでくるから問題はさらにややこしくなる。精神的に追い詰められていくヘンリーを演じきったアダム・ドライバーはさすがなのですが、それに負けずとも劣らなく素晴らしいのが、娘のアネットを演じたデヴィン・マクドウェル。5歳の幼い少女にもかかわらずアダム・ドライバーと堂々と渡り合っているのには驚きました。父親にしっかりと引導を渡していました。
また本作はロックオペラ形式で、音楽をスパークスが担当しています。洋楽に疎いので、この作品で初めてスパークスを知りましたが、ロン(キーボード)とラッセル(ボーカル)のメイル兄弟によって結成されたバンドです。スパークスが監督に20曲ほどのデモと『アネット』のアイデアを送ってきたことがそもそものきっかけとか。冒頭シーンに本人たちも登場。しかめっ面のロンが何とも言えずいい味を出しています。音楽もクセになる感じでしばらく頭から離れませんでした。(堀)
2020年/フランス・ドイツ・ベルギー・日本・メキシコ合作/カラー/シネスコ/140分
配給:ユーロスペース
(C)2020 CG Cinema International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinema / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace /
https://annette-film.com/
★2022年4月1日(金)ロードショー
マイライフ、ママライフ
監督・脚本:亀山睦実
脚本監修:狗飼恭子
撮影:島大和
音楽:久保田千陽
主題歌:「Hello 」作詞・作曲・編曲 :小玉しのぶ
出演:尾花貴絵(大内綾)、鉢嶺杏奈(三島彩織)、水野勝(大内健太郎)、池田良(三島博貴)、柳英里紗(野田結衣)、中田クルミ(村井実加子)
結婚3年の綾は、まだ子供を持ちたくない。夫や義父母は「そろそろ」と期待している。今の仕事が面白いことに加えて、綾には妊娠に躊躇する理由があった。
ワーキングママの彩織には子どもが2人。本当にしたい仕事は別にあったが、保育所や勤務時間の兼ね合いで決めた事務職をしている。夫はあまり手を貸してくれない。綾は仕事で「家族留学」というプロジェクトに参加した。子どものいない夫婦が子育て中の夫婦の家を訪ね、食事や遊びを共にして交流する。この縁で出逢った彩織と綾はその後も連絡を取り合って、お互いの悩みを打ち明けられるようになった。
冒頭にたくさんの女性たちがあげたツイートが次々と流れます。「そうそう」と同意すること必至。「女性が活躍する時代」と言ったのは誰だったでしょう?未だ女性の政治家も企業の管理職も少なく、ジェンダーギャップ指数(GGI)は156ヶ国中120位の日本。「指導的役割の女性を3割に」の目標は2030年に繰り延べです。
職場の男性も夫も子育てや家事は女性がやるものという意識がなかなか抜けていません。耳の痛い男性諸氏が多いでしょう。ぜひカップルで観てお互いの心のうちを話すきっかけにすることをお勧め。子どもは意外に大人をちゃんと見ています。保育園児が綾にかける台詞にホロリとしました。(白)
平成元年生まれの主人公たちと同世代の長女が昨年、出産。育休を取っていましたが、この4月から仕事に復帰します。しかし、娘の友人には保活がうまくいかず、もう一年育休を取る人もいます。またもう少し早く出産し、育児と仕事の両立に苦労している友人も。娘世代のリアルがこの作品には詰まっていました。監督は自身の経験だけでなく、かなりリサーチして脚本を書かれたことでしょう。だからこそ、ハッピーエンド的なラストに「それでいいの?」と思いましたが、映画としてまとめるにはそれしかなかったのかもしれません。映画のラストにリアルを感じる日が来るためには、娘世代が男の子をどう育てるかにかかっているような気がします。(堀)
私は結婚する気もなかったし、子供を持ちたいと思ったこともないので、「結婚し、仕事も続け、子供を産むかどうするかということに悩む」ということに対しては、幾分冷ややかな目で見ていた。というか、子供を産んで育てながら仕事を続けることは大変と思っていたから、結婚しなかったというほうが正しいかもしれない。「なぜ女だけが、その部分で苦労しなければならないんだ」と思っていた。
何より、「結婚していたり、子供がいる女のほうが、社会的地位が高い」という考え方に反発していた。そして、子供がいるかいないかで、自分の生き方が全然変わってくる。私は両親の姿を見て「子供のために自分自身を生きられないという生き方はしたくない」と思った。70年代のウーマンリブの運動の中で、私はそういう思いを持つようになったけど、運動の中では、逆にシングルマザーを選んだ人もいた。そして、その仲間たちの中では、やはり結婚制度が問題という認識が多かった。男性の協力と言っても、家族制度の中で育った男はお米をとぐことすらわからない人もいた。
家族の中で、家事育児は女がやるものと植え付けられた男たちと、女は結婚して家庭に入ればいいという考え方。そんなものに反発して生きて来た。「男は仕事、女は家庭」ということに縛られたくない。そういうものを変えていこうと頑張った女たちがいた。でも、今、この映画を観て、今も女が仕事を持ち、子供を産むということの苦労、悩みはその頃と変わっていないなとつくづく思った。それでも、あの頃よりは社会の働く女性へ向ける目は随分変わったとは思う。少なくとも「女だから、こうしなくてはならない」と押し付けられることに屈しない女が増えたとは思う。でも雇用形態はよくなってはいないような気がする。女性の正社員が少なくなり、臨時職やパートが増えている気がする。今年(2022)4月から育休制度が変わって、男女とも仕事と育児を両立できるように、産後パパ育休制度(出生時育児休業制度)の創設や雇用環境整備、個別周知・意向確認の措置の義務化などの改正が行われたそうだけど、男性の育児休暇は取りやすくなるのかな。男女とも育休が取りやすくなれば、少しは変わってくるのでしょう。少しは期待していいのかな?(暁)。
育児・介護休業法 改正ポイントのご案内 - 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000789715.pdf
2021年/日本/カラー/88分
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
(C)2021 「マイライフ、ママライフ」製作委員会
https://mymom.mystrikingly.com/
★2022年4月1日(金)ロードショー
2022年03月19日
ベルファスト 原題:Belfast.
製作・監督・脚本:ケネス・ブラナー
出演:カトリーナ・バルフ、ジュディ・デンチ、ジェイミー・ドーナン、キアラン・ハインズ、ジュード・ヒル、ルイス・マカスキー
イギリス・北アイルランドの首府ベルファスト。
9歳の少年バディは、生まれ育ったこの町で、家族や友人たちと映画や音楽を楽しみ、充実した毎日をおくっていた。唯一寂しいのは、建具工の父がロンドンに出稼ぎに行っていて、2週間に1度しか帰ってこないことだった。
1969年8月15日の午後、通りで遊んでいたバディは、突然暴徒たちの一団に巻き込まれる。プロテスタントの暴徒が、街のカトリックの住民たちを攻撃し始めたのだ。これまで、街区の住民たちは、宗派の区別なく一つの家族のように暮らしていたのに、この日を境に分断し、暴力が横行する。折しも、父が帰宅し、ロンドンで良い仕事を見つけ、家も用意してくれるという。バディは住み慣れたベルファストを離れたくない。何より、大好きなお祖母ちゃんを置いてはいけない・・・
ベルファスト出身のケネス・ブラナー(製作・監督・脚本)の幼少期の経験をもとにした自伝的作品。子ども心に、それまで仲良く暮らしていた人たちが、突然、対立して暴力まで振るうようになったのを目の当たりにした記憶は忘れられないものでしょう。でも、それ以上に感じるのは、故郷への愛。
監督自身を投影した少年バディを演じたジュード・ヒル君は、本作が映画初出演。自然体の演技に唸りました。暴徒に巻き込まれ、雑貨店で何か盗めと言われるまま、「環境にやさしい」と書かれた洗剤を手に家に帰り、母親に怒られてべそをかくバディの可愛いこと!
暴動が激しくなり、ついに一家がロンドンに引っ越す日、パパが花を用意してくれて、バディは大好きな女の子に別れを告げにいきます。パパに、「将来、彼女と結婚できるかな? あの子はカトリックだけど」と聞くと、パパは「カトリックでもヒンドゥーでも結婚できるよ」と答えます。なんて素敵なパパでしょう!
ケネス・ブラナーが生まれ故郷ベルファストへの思いを込めて作り上げた物語。
役者の出身地にもこだわってキャスティングしています。少年バディ役のジュード・ヒルは北アイルランド出身。父さん役ジェイミー・ドーナンとじいちゃん役キアラン・ハインズはベルファスト出身。母さん役カトリーナ・バルフはアイルランド、ダブリン出身。ばあちゃん役のジュディ・デンチも、母親がダブリン出身でアイルランドの血が流れています。
冒頭と最後にカラーで現在のベルファストの町が映し出されます。造船所のある大きな港町。少年時代の物語は、モノクロで描かれていて郷愁を誘います。
父親の仕事の都合で、故郷を離れざるをえなかったのは、私も同じ。15歳の時に生まれ育った神戸から東京に移り、もう東京での年数が圧倒的に長いのに、今なお神戸への思いが強いです。ケネス・ブラナーが、いつか故郷ベルファストを舞台に映画を作りたかったという気持ちが、しみじみと伝わってきました。(咲)
2021年/イギリス/英語/98分/ビスタサイズ/モノクロ・カラー/5.1ch
日本語字幕:牧野琴子、字幕監修:佐藤泰人(東洋大学・日本アイルランド協会)
配給:パルコ ユニバーサル映画
公式サイト:https://belfast-movie.com/
★2022年3月25日(金)全国ロードショー
☆3月18日(金)よりTOHOシネマズシャンテ・TOHOシネマズ梅田にて先行公開
ニトラム/NITRAM (原題:NITRAM)
監督:ジャスティン・カーゼル
出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジュディ・デイヴィス、エッシー・デイヴィス、ショーン・キーナンほか
90年代半ばのオーストラリア、タスマニア島。かつて囚人の流刑地で、観光しか主な産業がない閉塞したコミュニティに母(ジュディ・デイヴィス)と父(アンソニー・ラパリア)と暮らす20代半ばの青年ニトラム(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)。メンタルヘルスの問題を抱え、母親から半ば強制的に抗うつ剤の薬を飲まされていた。
子供の頃から好きだった花火遊びをやめられない彼は、近所からは厄介者扱いされ、同級生からは本名を逆さ読みした蔑称“NITRAM”と呼ばれバカにされている。父がコテージを買ったら牛を飼いたい、ジェイミーのようにサーフィンがやりたい、などさまざまな願望を持っているが、親はコテージを買うことができず、母親はサーフボードを買ってくれない。なにひとつ思い通りいかず、何をしてもうまくいかない日々。
サーフボードを買う資金を貯めるため、芝刈りの訪問営業を始めた彼は、ある日、ヘレン(エッシー・デイヴィス)という女性と運命的に出会い、恋に落ちる。しかし悲劇的な事件をきっかけに、彼の精神は大きく狂い出す……。
1996年4月28日(日)にオーストラリア・タスマニア島のポート・アーサー流刑場跡で起きた無差別銃乱射事件を題材にした作品である。この事件では35人が亡くなり、15人が負傷。銃規制の必要性を全世界に問いかける先駆けとなった。
犯人は当時27歳だったマーティン・ブラインアント。本作は彼の視点で進んでいく。幼いころから危険なことを危険だと認知できず、しかもそれをやりたいという気持ちが抑えられない。そんな彼の気持ちを親ですら理解できず、彼の心は孤独感で覆われてしまう。
しかし、この作品は彼を擁護しているわけではない。やってはいけないことをやってしまった彼の責任は重い。そのうえで暴走しがちな彼を止める手段、親としての責任を必死に果たそうとする父母を支える手立てはなかったのかと社会の在り方を問うている。(堀)
無差別銃乱射事件を題材にした作品ということで、観なくてもいいかなとパスしようと思ったのですが、映画に対する感覚が似ている映画通の知り合いから「この作品は観ておいたほうがいいですよ」と言われ、彼女が言うのならと観てみた。
「銃規制の必要性を全世界に問いかける先駆けになった事件」と映画紹介には書かれているが、この1996年に起きたオーストラリア・タスマニア島での乱射事件のニュースを聞いた覚えがない。日本では大きくは報道されなかったのだろうか。ま、銃撃事件というのが多く、それらの記憶のかなたになってしまったのかもしれないが。
それにしても、こういう銃撃事件はこのオーストラリアの事件より以前からあったような気がしてネットで調べてみた。確かに1966年の「テキサスタワー銃乱射事件」というのはあったけど、その後の事件の記録などは、ネット上にはあまり載っていないのかもしれない。そして、この1996年の事件。その後、世界では銃乱射事件が何度も起こっているように思う。あるいは報道されるようになったというべきか。
そして「ニトラム」という青年が銃乱射事件を起こすまでを描いたこの作品。「ポートアーサー事件はなぜ起こったのか?」というテーマらしいが、あまり説明がなく、観ている間、この青年の行動にイライラした。もう大人なのに大人でない。10代の青年ならともかく、20代の大人なのに仕事にもついていない。芝刈りの仕事をして金を稼ぐというのなら高校生くらいじゃないかと思うんだけど、オーストラリアではそういうこともあるのか。あるいは仕事につけなくて、そういう風にしてバイトをしているのか。20代にもなって親がかり? そしてヘレンとの出会い。私的には恋ではなく、パトロン的な人、スポンサー的な人という感じがした。出会ってすぐ高級車を買ってくれたりと、お金がある人なのでしょうが、彼女自身が孤独を癒してくれる存在として、家出してきた彼の保護者になったということなのかな。
そして、「ニトラム」という人はなんだかわけわからない人物だと思った。20代半ばになっても保護者の庇護のもとにいるし、ヘレンの遺産で暮らしには苦労していない。暮らしは豊かだけど、地域社会の中で孤立していき、それが頂点に達した時、銃撃事件を起こしてしまったのだろうか。
それにしても、危険や迷惑ということに対する一般常識というのがわからない人なのか? 花火の件も、近所が迷惑と言っているのに、毎日続けるとか。親もそれを止められない。母親は医師に相談して抗うつ剤を飲ませていたけど、暴走は止められない。だいたい、こういう行動をするような人を薬で抑制するというは違うのではないだろうかと私は思う。彼自身が自分で、認識できるようにするにはどうしたらよかったのだろうか。結局、それができず、「ニトラム」は地域社会で孤立していったのだろう。アスペルガー症候群の人は自分の行動をうまく制御することができなくて、思いついたことをすぐに行動に移してしまったりするらしいが、そういう病気だったのだろうか。
彼の精神の彷徨の日々を描いた作品なのだろうけど、観ている間じゅう気分は重かった(暁)。
2021年 / オーストラリア / 英語 / 1.55:1 / 112分 /日本語字幕:金関いな
配給:セテラ・インターナショナル
© 2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/nitram/
★2022年3月25日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~
監督・撮影・語り:信友直子
プロデューサー:濱潤 大島新 堀治樹
制作プロデューサー:稲葉友紀子>
撮影:南幸男 河合輝久
音響効果:金田智子
ライン編集:池田聡
整音:富永憲一
前作『ぼけますから、よろしくお願いします。』(2018年)で、認知症になり家事のできなくなっていく母と、慣れない家事を引き受け母を支える父の姿を追った、一人娘である信友監督。その後も、折に触れ、呉の実家に帰り両親の姿を撮り続けた。
父は家事全般を取り仕切れるまでになり日々奮闘しているが、母の認知症はさらに進み、脳梗塞を発症し入院する。父は手押し車を押して、毎日1時間かけて病院に面会に行き母を励まし続けた。いつか母が家に帰ってくる日のためにと、父は98歳にして筋トレを始める。だが、母の症状は悪化。2020年春、新型コロナ感染拡大で、病院の面会すら困難な中、ついに母の最期の日々を見守るときがくる・・・
認知症にかかり始めたころ、「ぼけますから、よろしくお願いします」の名言を残したお母さん。症状が進み、だんだん人格が変わっていく様に、やはり認知症にかかった私の母の姿を重ねました。そして、ついに迎える最期の瞬間。涙が止まりませんでした。お父さんが放った感謝の言葉にも涙でした。誰しもが経験する肉親の死。その前には、介護や自分自身の老いとも向き合わなければいけないことを、ずっしり感じさせてくれました。うらやましいのは、ご両親の日々の何気なく暮らす姿が映像として残っていること。でも、お蔭様で記憶の中の母の姿が蘇りました。
コロナ禍にもかかわらず、お母様の最期の日々の面会と撮影を許されたのは、1作目で呉の町では信友一家の存在が知れ渡っていたからと信友監督がインタビューの折に語ってくださいました。私も母に先立たれ、現在99歳の父と暮らしているという同じような境遇に、ついつい話が脱線したインタビューを(白)さんが雑談を綺麗にはぶいてまとめてくれました。ぜひお読みください。(咲)
続編を心待ちにしていました。今回は肉親だからこそ撮れたご両親の映像に加えて、プロのカメラマンが撮った映像があります。どちらもかけがえのないもので、(咲)さんと同じく自分の両親を重ねて観てしまいました。冒頭のお2人が並んだ姿にもう目がうるみます。
しっかり者のお母さんは認知症になって、これまでになくお父さんに甘えられたんじゃないでしょうか。お父さんはお母さんの不安を受け止めつつ、前向きに過ごします。慣れない家事を始めたお父さんが、お母さんの手順をそのまま再現しているのにびっくりしました。飾らない映像に、ご両親が一人娘の監督を撮影者としても信頼していること、信友監督もご両親を大切に大切に想っていることが端々から伝わります。帰宅して久しぶりに実家の母へハガキを書きました。もう高齢なのにしばらく会えていません。
信友監督に取材して、その明るくめげない率直なお人柄に触れることもできました。(咲)さんと2人のどんな質問にも丁寧に答えてくださって、長くなりましたがほぼそのまま書き起こしています。おばちゃんのお喋りの常で、話があちこちへと飛びますがどうぞその輪の中にお入りくださいませ。(白)
介護を経験したことがある方はきっとご自身の経験を思い出し、ぐっとくるものがあるのでしょう。(咲)さん、(白)さんのコメントを読んでいるとそれを感じます。
幸いなことに介護の経験のない私は監督に共感するよりも、お母さんの姿に何年か先の自分の姿を想像して重ねてしまいます。「ボケますから、よろしくお願いします」と自分を受け入れることができるとは思えず、正直、とっても不安。
しかし、認知症をテーマにした作品によくあるような修羅場はこの作品にはほとんど出てきません。ありのままのお母さんを受け止め、前向きに支えるお父さんの優しさを娘が愛情深く映し出します。認知症が進行していくお母さんのドキュメンタリー作品ではなく、妻がどんな状況になってもひたすらに慈しむ夫の愛情物語に思えてきました。私もこんな風に愛されたい。それには私も夫を労わらないといけないですね。(堀)
信友監督インタビューの時に私も一緒に行きたかったのですが、その時はまだ映画を観ていなくて、監督にインタビューする日に試写を観る予定でした。でもそれもかなわず、もっとあとになってこの作品を観ました。
私の母も80歳の頃、脳梗塞で倒れ、さらにその症状も監督のお母さんと同じで左側麻痺ということもあり、映画を観ながら、そうそうとうなずいていました。そして、私の母は文子さんとは逆に脳梗塞のあと認知症になりました。そして約6年の介護、入院生活。一人1人の経験はそれぞれだけど、同じような経験、症状があるのだと、他の人の姿を見てわかりました。そういう意味では映像で残っているというのはわかりやすいと思いました。そして、この映像を観て、こういう風にもできた、ああいう風にもできたと後悔しました。でも、親が病気になったり、自分が病気になったり、そんなに数多くなるわけではないから、どういう判断で病院にかかるか、医者からの提案にどのように対応したらいいのか、そう何度もあることではないので、やはりその場にならないとわからないですよね。そういう意味では、このところ、年を取ることによる状況がわかるドキュメンタリーがけっこうあって、自分の時はどうするのが一番いいのだろうという参考になりました。それにしても信友監督のお母さんとお父さんのキャラクター、観ていてとても気持ちが明るくなります。私もこういう風に生きていけたらいいな(暁)。
◆ポレポレ東中野でのイベント情報◆
3/19(土)
10:00の回上映後&12:30の回上映後
初日舞台挨拶<登壇> 信友直子監督
3/20(日)
10:00の回上映後&12:30の回上映後
舞台挨拶<登壇> 信友直子監督
3/23(水)
12:30の回上映後
トークベント<登壇> 信友直子監督 × 大島新(本作プロデューサー/『香川1区』監督)
3/27(日)
13:30の回上映後
舞台挨拶<登壇> 信友直子監督
☆『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』先行公開に合わせて、スペシャルトークイベント開催
しっかり者のお母さんは認知症になって、これまでになくお父さんに甘えられたんじゃないでしょうか。お父さんはお母さんの不安を受け止めつつ、前向きに過ごします。慣れない家事を始めたお父さんが、お母さんの手順をそのまま再現しているのにびっくりしました。飾らない映像に、ご両親が一人娘の監督を撮影者としても信頼していること、信友監督もご両親を大切に大切に想っていることが端々から伝わります。帰宅して久しぶりに実家の母へハガキを書きました。もう高齢なのにしばらく会えていません。
信友監督に取材して、その明るくめげない率直なお人柄に触れることもできました。(咲)さんと2人のどんな質問にも丁寧に答えてくださって、長くなりましたがほぼそのまま書き起こしています。おばちゃんのお喋りの常で、話があちこちへと飛びますがどうぞその輪の中にお入りくださいませ。(白)
介護を経験したことがある方はきっとご自身の経験を思い出し、ぐっとくるものがあるのでしょう。(咲)さん、(白)さんのコメントを読んでいるとそれを感じます。
幸いなことに介護の経験のない私は監督に共感するよりも、お母さんの姿に何年か先の自分の姿を想像して重ねてしまいます。「ボケますから、よろしくお願いします」と自分を受け入れることができるとは思えず、正直、とっても不安。
しかし、認知症をテーマにした作品によくあるような修羅場はこの作品にはほとんど出てきません。ありのままのお母さんを受け止め、前向きに支えるお父さんの優しさを娘が愛情深く映し出します。認知症が進行していくお母さんのドキュメンタリー作品ではなく、妻がどんな状況になってもひたすらに慈しむ夫の愛情物語に思えてきました。私もこんな風に愛されたい。それには私も夫を労わらないといけないですね。(堀)
信友監督インタビューの時に私も一緒に行きたかったのですが、その時はまだ映画を観ていなくて、監督にインタビューする日に試写を観る予定でした。でもそれもかなわず、もっとあとになってこの作品を観ました。
私の母も80歳の頃、脳梗塞で倒れ、さらにその症状も監督のお母さんと同じで左側麻痺ということもあり、映画を観ながら、そうそうとうなずいていました。そして、私の母は文子さんとは逆に脳梗塞のあと認知症になりました。そして約6年の介護、入院生活。一人1人の経験はそれぞれだけど、同じような経験、症状があるのだと、他の人の姿を見てわかりました。そういう意味では映像で残っているというのはわかりやすいと思いました。そして、この映像を観て、こういう風にもできた、ああいう風にもできたと後悔しました。でも、親が病気になったり、自分が病気になったり、そんなに数多くなるわけではないから、どういう判断で病院にかかるか、医者からの提案にどのように対応したらいいのか、そう何度もあることではないので、やはりその場にならないとわからないですよね。そういう意味では、このところ、年を取ることによる状況がわかるドキュメンタリーがけっこうあって、自分の時はどうするのが一番いいのだろうという参考になりました。それにしても信友監督のお母さんとお父さんのキャラクター、観ていてとても気持ちが明るくなります。私もこういう風に生きていけたらいいな(暁)。
◆信友直子監督インタビューはこちらです。
◆ポレポレ東中野でのイベント情報◆
3/19(土)
10:00の回上映後&12:30の回上映後
初日舞台挨拶<登壇> 信友直子監督
3/20(日)
10:00の回上映後&12:30の回上映後
舞台挨拶<登壇> 信友直子監督
3/23(水)
12:30の回上映後
トークベント<登壇> 信友直子監督 × 大島新(本作プロデューサー/『香川1区』監督)
3/27(日)
13:30の回上映後
舞台挨拶<登壇> 信友直子監督
☆『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』先行公開に合わせて、スペシャルトークイベント開催
トーク約60分+参考上映「ザ・ノンフィクション おっぱいと東京タワー ~私の乳がん日記~」(2009年/45分)
3/19(土)15:00より
信友直子 × 西村陽次郎(フジテレビ「ザ・ノンフィクション」現CP) × 濱潤(「ぼけますから」シリーズプロデューサー)
3/20(日)17:10より
信友直子 × 味谷和哉(フジテレビ「ザ・ノンフィクション」元CP)
【参考上映作品】
「ザ・ノンフィクション おっぱいと東京タワー ~私の乳がん日記~」(2009年/45分)
<ディレクター>信友直子 <語り>石田ひかり <CP>味谷和哉
40代の独身テレビディレクターを襲った、3年連続の不幸。43歳で子宮筋腫のため子宮摘出。44歳で列車事故に遭い骨盤骨折。そして45歳で告知された乳がん。死すら覚悟したこれらの経験は、彼女の心に想像もしなかった変化をもたらした…。
2022年/日本/ドキュメンタリー/101分/2.0ch
製作プロダクション:スタッフラビ
3/19(土)15:00より
信友直子 × 西村陽次郎(フジテレビ「ザ・ノンフィクション」現CP) × 濱潤(「ぼけますから」シリーズプロデューサー)
3/20(日)17:10より
信友直子 × 味谷和哉(フジテレビ「ザ・ノンフィクション」元CP)
【参考上映作品】
「ザ・ノンフィクション おっぱいと東京タワー ~私の乳がん日記~」(2009年/45分)
<ディレクター>信友直子 <語り>石田ひかり <CP>味谷和哉
40代の独身テレビディレクターを襲った、3年連続の不幸。43歳で子宮筋腫のため子宮摘出。44歳で列車事故に遭い骨盤骨折。そして45歳で告知された乳がん。死すら覚悟したこれらの経験は、彼女の心に想像もしなかった変化をもたらした…。
2022年/日本/ドキュメンタリー/101分/2.0ch
製作プロダクション:スタッフラビ
製作:フジテレビ、ネツゲン、関西テレビ、信友家
配給:アンプラグド
公式サイト:https://bokemasu.com/
★2022年3月25日(金)より全国順次公開
☆2022年3月19日(土)よりポレポレ東中野にて先行公開
ナイトメア・アリー(原題:Nightmare Alley)
監督・脚本・原案・製作:ギレルモ・デル・トロ
原作:ウィリアム・リンゼイ・グレシャム「ナイトメア・アリー 悪夢小路」
撮影監督:ダン・ローストセン
音楽:ネイサン・ジョンソン
出演:ブラッドリー・クーパー(スタントン・カーライル)、ケイト・ブランシェット(リリス・リッター博士)、トニ・コレット(ジーナ・クランバイン)、ウィレム・デフォー(クレム・ポートリー)、リチャード・ジェンキンス(エズラ・グリンドル)、ルーニー・マーラ(モリー・ケイヒル)、ロン・パールマン(ブルーノ)、メアリー・スティンバージェン(フェリシア・キンポール)、デビッド・ストラザーン(ピート・クランバイン)
1939年、見世物小屋を覗いた流れ者のスタンは、カーニバルのマネージャーから仕事をしないかと声を掛けられる。読心術師のジーナに気に入られ、スタンは彼女のショーを手伝うことになった。ジーナのパートナーのピートは酔いつぶれてショーで合図を送れないことが多かった。酒浸りになったのは、霊媒のトリックで観客を騙すのが後ろめたくなったからとわかる。スタンは持ち前のカリスマ性で観客の興味をひくことに快感を覚えるようになった。電気のショーガールのモリーに心惹かれ、2人で組もうと持ちかけるが、ここで育ったモリーは相手にしない。警察が乗り込んできたとき、スタンの機転でモリーは逮捕されずにすみ、一緒に外の世界に出ることを決断する。
前半はカーニバルと見世物小屋のあれこれを詳細に描写。ギレルモ・デル・トロ監督の好きな物(たぶん)がたくさん詰め込まれていて、すみずみまでゆっくりと観たくなります。読心術のトリックや「獣人」をどうやって作るかも明かされますが、面白さが減じることはありません。ブルーノ役のロン・パールマンは『ヘルボーイ』(2004)が当たり役ですが、今もそんなに変わっていません。
カーニバルのショーの手伝いだったスタンは、後半から豪華ホテルのショーマンになり、さらに上へ上へと野心を燃やします。心理学博士のリリスと出逢ってからは、俳優ブラッドリー・クーパーとケイト・ブランシェットのガチ対決といった態になります。舞台と衣裳、光と影も2人をひきたてます。ガラドリエル様じゃなかったケイト・ブランシェットの妖艶さとその圧ときたら、すでに勝敗が見えた気がしました。が、豪華出演者とともに繰り広げられるギレルモ・デル・トロ監督ワールド、ラストまでお楽しみくださいませ。(白)
2021年/アメリカ/カラー/シネスコ/150分
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2021 20th Century Studios. All rights reserved.
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★2022年3月25日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
オートクチュール(原題:Haute couture)
監督・脚本:シルヴィー・オハヨン
撮影:ジョルジュ・ルシャプトワ
美術:マリー・シュミナル
衣装 :シャルロット・ブタイヨル
ディオール衣裳アドバイザー:ジュスティーヌ・ヴィヴィアン
出演:ナタリー・バイ(エステル)、リナ・クードリ(ジャド)、パスカル・アルビロ(カトリーヌ)、クロード・ペロン(アンドレ)、ソマヤ・ボークム(スアド)、アダム・ベッサ(アデル)、クロチルド・クロ(ミュミュ)
クリスチャン・ディオールのアトリエで責任者として働くエステルは、全てをささげてきたこの職場からもうじき去らねばならない。キャリア最後のコレクションを控えたある朝、弾き語りをする女の子を見ていてハンドバッグをひったくられてしまう。バッグを盗んだのは郊外の団地に住むジャドとスアド。移民2世の彼女たちにはまともな仕事もなく、金目のものを盗んでは小遣い稼ぎをしていた。バッグの中にユダヤの星のネックレスがあったことから、呪われないようにとスアドに勧められて返すことにする。
エステルを待ち伏せしてバッグを返したのが縁で、ジャドはエステルに誘われてアトリエを訪ねる。エステルにはジャドの指が美しいものを作るという直感があった。お針子の見習いになって初めて、ジャドは自分のしたいことを考える。エステルのアトリエはジャドにとって初めての大人社会、エステルに反発しながらも、技術のほか言葉遣いやマナーなどを身につけていく。
冒頭のジャドとスアドの盗みの手際の良さと、罪悪感のなさに驚きました。持ってる者から持たない者がちょっともらうだけ、という感じです。それでいて教会で祈りもすれば、ベッドで食べるかテレビを見るかだけの母親の面倒も見ます。詐病感ありありですが、ジャドの幼いころから親子の立場が逆転しているようです。
誇り高く厳格なエステルをナタリー・バイ。仕事にのめり込みすぎて娘が出ていってしまい孤独です。バスの若者との会話に口あんぐりでした。結構失礼です。自分より下と思った相手に何を言ってもいいわけ?品格はどこに? ジャドも気の強さでは負けていなくて、エステルに遠慮なく文句を言います。どこか似ている2人の周りには、とっても個性的な人たちがいて、きつい空気を和らげています。
窓からの光が美しいディオールのアトリエはセットですが、本物のお針子さんたちも出演しています。ふんだんに登場するデザイン画やドレスなども本物のディオール製。アトリエシーンの俳優さんたちは、撮影前にお裁縫の特訓をしたそうですが、そこは名女優のナタリー・バイ。ベテランの動きは、アドバイザーのジュスティーヌ・ヴィヴィアンお墨付きだったそうです。ジャドに意地悪をする先輩の「大変な人生」が何か気になります。お針子さんが首から下げているお裁縫道具を入れたポシェットが可愛くて便利そうで、作ってみようかな。(白)
普段は見ることがない世界的なブランドの世界。唯一無二のドレスを完成させるため、多くの人々が関わり、みなが細心の注意を払います。こんなに繊細な作業だとは知らず、びっくり。香水係という役割があるのですが、何をする人なのかは作品をご覧になってください。ファストファッションの製造現場との違いに唖然となります。価格の違いと言えばそれまでですが、働く者に対する待遇は意欲にも繋がります。そんな社会格差だけでなく、母と娘の確執、ヤングケアラーなど現代社会が抱えるさまざまな問題がディオールという華やかな世界を舞台にうまく織り込まれています。
ジャドを演じたリナ・クードリは『GAGARINE ガガーリン』『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』と今年になって出演作の公開が続きます。今後の成長が楽しみです。(堀)
2021年/フランス/カラー/シネスコ/100分
配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム
(C)2019 - LES FILMS DU 24 - LES PRODUCTIONS DU RENARD - LES PRODUCTIONS JOUROR
https://hautecouture-movie.com/
★2022年3月25日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、 Bunkamura ル・シネマほか全国公開
きかんしゃトーマス オールスター☆パレード
監督:デビッド・ストーン
原作:ウィルバート・オードリー
ソドー島には「歌をきかせると手に入る宝物がある」と、トップハムハット卿から聞いたトーマスたちは宝探しにチャレンジ?!
イースターのお祭りで大賑わいのソドー島。トーマスと仲間たちは、これまでの大冒険を歌でめぐったり、クイズやしりとりに挑戦したりします。もちろんお客様もいっしょに!イースターパレードに参加することになったトーマスたちは、ウサギさんを追いかけて虹のふもとにたどりつくと・・・?
今回は劇場に来た観客と、トーマスはじめ仲間たちが一緒にゲームをして遊ぶスタイルを取り入れました。トーマスたちの呼びかけに、手拍子や拍手で応えて遊びます。小さなお子さんも一緒に楽しめる作りです。今までの冒険を思い出せるトーマスソングが8曲登場します。みんなでしりとりやクイズにチャレンジしてね。トーマスたちのイースター用のボディペイント、いったいどんなのになるかお楽しみに。
コロナ禍でお子さんたちもいろいろと我慢を強いられているはず。制作側も映画館で「安全に楽しく遊べるもの」をと工夫しているのがわかります。(白)
2022年/イギリス/カラー/65分
配給:東京テアトル
(C)2021 Gullane(Thomas)Limited.
https://movie2022.thomasandfriends.jp/
★2022年3月25日(金)ロードショー
ヴォイジャー(原題:Voyagers)
監督・脚本:ニール・バーガー
撮影:エンリケ・シャディアック
音楽:トレヴァー・ガレキス
出演:タイ・シェリダン(クリス)、リリー=ローズ・デップ(セラ)、フィオン・ホワイトヘッド(ザック)、コリン・ファレル(リチャード)
地球温暖化による飢饉が人類を襲い、科学者たちは居住可能な新たな惑星を探した。そして2063年。可能性を秘めた惑星を発見し、探査隊を派遣することになる。航行にかかる期間は86年。乗員は訓練を受けた30人の子供たちと、彼らの教官であるリチャードが同乗した。子供たちは船内で成長して子孫を残し、惑星に到達するのは彼らの孫の世代だ。子供たちはリチャードに従順に従い、航行は順調かにみえた。そして10年後。クリストファーとザックは、彼らが毎日飲む薬によって人間としての欲望が抑制されていることを知る。そして、反発した乗員たちは本能の赴くままに行動するようになり、ある事件をきっかけに船内の統制が崩壊していく―。
人類が別の惑星を目指すのに、86年。想像するしかない時間と距離です。到着したときには地球側も探査船側も人が入れ替わっています。隊員30人と教官1人は1クラス分。少ない…。どちらにも人は残っているの?惑星が移住可能とわかってそれから出発しても遅いんと違う?と、観ながらいろいろツッコミしてしまいました。地球温暖化による飢饉よりも、少ない食料を取り合って大国が争い核戦争が起きるほうが、今や現実的な気がしてしまいます。人類を残すためなら、精子と卵子を保存して適宜受精させて体外で育てる方法が4,50年後には可能になっていそうです。
これは理屈ではなく、閉鎖空間での人の有り様を見る作品なのでしょう。ニール・バーガー監督の『ダイバージェント』(2014年の1のみ。2,3はロベルト・シュヴェンケ監督)も厳しい条件下で闘い、成長していくシリーズでした。集結した若手俳優たちがそれぞれ映画界で活躍しています。
ヤングアダルト路線では恋愛が不可欠。男の子が惹きつけられるリリー=ローズ・デップがいても、薬でコントロールされていては始まりません。それからが見どころかな。(白)
2021年/アメリカ。チェコ、ルーマニア、イギリス合作/カラー/シネスコ/108分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2020 VOYAGERS FINANCING AND DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://voyager-movie.com/
★2022年3月25日(金)より全国ロードショー
吟ずる者たち
監督・脚本:油谷誠至
脚本:仁瀬由深、安井国穂
音楽:南方裕里衣
出演:比嘉愛未、戸田菜穂、渋谷天外、ひろみどり、大森ヒロシ、山口良一、今井れん、中尾暢樹、中村久美、奥村知史、川上麻衣子/ 丘みつ子/大和田 獏 中村俊介
永峯明日香(比嘉愛未)は東京で仕事と恋人に別れ、故郷広島へ戻った。実家は三浦仙三郎(中村俊介)の杜氏の末裔が継いだ酒蔵。養女である明日香は、幼き頃から酒造りに興味を持っていたものの、実家を継ぐことはそぐわないと避けて生きてきた。目標を見失っていた明日香は父・亮治(大和田 獏)が「家宝」とする三浦仙三郎の手記を目にする。
明治初期、新米酒造家の三浦仙三郎は、醸造中に中の酒が腐る「腐造」に何度も見舞われる。資金不足、両親、愛する養女の死。逆境の中、腐造を起こさない、安定した日本酒醸造技術の確立に研鑽を重ね、ついに軟水による低温醸造法を導き出す。明日香は仙三郎の百回試して、千回改める〔百試千改〕の想いに強く惹かれる。
三浦仙三郎の手記を読んだ明日香は、自分の進む道をやっと見つけます。道に迷った人は原点に立ち返って見たら、という見本のような展開でした。本作では、現代と明治初期の酒造りのようすが交互に描かれ、今があるのは先人の苦労の賜というのがよくわかるうえ、明治時代の酒蔵や、働く杜氏たちや蔵元の暮らしなどが見比べられて興味深いです。どうしても明治のパートの印象が強くなりますが、現代パートでは女性が研究や杜氏の仲間入りをしています。
仙三郎が酒造りを始めた明治初期は、今と違って情報収集も簡単ではなく、成功している酒蔵や研究者に教えを乞うくらいしかありません。新しいことを始めると莫大な資金が必要でおまけに反発はつきもの。杜氏たちにそっぽを向かれながらもコツコツと研究していきます。酒どころの灘(なだ)へ行き、杜氏に交じって働くこともしています。〔百試千改〕の覚悟のもと、多くの人の努力と協力で美味しい吟醸酒の完成させ、しかも方法を公開し杜氏の養成にも力を尽くしたというのが立派です。
なんだか似たような話が…『めんたいぴりり』(2019)でした。辛子明太子を作った「ふくや」さんもやはり製法を公開して博多の名物にしたのでした。
広島発の映画を全国の映画館へ届けるために、製作の方々はコロナ禍もあって大変だったようすです。祝!公開!(白)
2021年/日本/カラー/115分
配給:ヴァンブック
(C)2021ヴァンブック
https://ginzuru.com/
★2022年3月25日(金)ロードショー
2022年03月13日
森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民
監督・撮影・編集:金子遊
現地コーディネーター・字幕翻訳:伊藤雄馬
出演:伊藤雄馬、パー、ロン、カムノイ、リー、ルン、ナンノイ、ミー、ブン、ドーイプラ、イワン村の人びと、フアイヤク村の人びと
タイやラオスの密林でバナナ葉の家をつくり、ゾミア(山岳地帯)でノマド生活を送るムラブリ族。1930 年代に民族学者のベルナツィークが接触して著書「黄色い葉の精霊」で紹介し、存在を知られるようになった。だが、平地民から姿を見られずに森のなかを遊動するムラブリ族の生活の実態は謎に包まれている。
金子遊監督が、インドシナ半島の各地に散らばったムラブリの言葉を比較研究する日本の言語学者・伊藤雄馬氏と出会ったことから、本作の企画がスタート。今や400人程度しかいない少数民族ムラブリの撮影に世界初成功した、映像人類学のドキュメンタリー。
映画はまず、タイ側で焼畑農業をおこなうモン族にジャングルを焼き払われた挙げ句、定住して、日雇い労働者としてモン族の農業を手助けしているムラブリ族への聞き取りから始まります。話している途中で、モン族の言葉になったらしく、そばから「ムラブリ語で話しなさいよ」と女性が声をかけます。
言語学者・伊藤雄馬さんは、文字のないムラブリ語の語彙を収集し、ムラブリ語をはじめ6言語に精通。生活環境の変化とともに、どんな風に使用言語に影響を受けているかも判断できるのがすごいです。
※日本語字幕は、ムラブリ語は明朝体、その他の言語はゴシック体と区別されているので、話の途中で言語が変わったこともわかるようになっています。
ムラブリ語を使用しているのは、タイ北部の一番大きなグループで約400名。方言を使うほんの5名の小グループ。そして、100年程前にラオスに行った15名の小集団。3つのグループの使うムラブリ語の違いも研究している伊藤雄馬さん。とうていお金にはならない努力ですが、いつ消えゆくかもしれないムラブリ族の言葉の記録は、ムラブリ族だけでなく人類にとっても貴重なもの。
金子遊監督と伊藤雄馬さんは、今は村に定住しているタイのムラブリ族の 1 人に、以前の森の生活を再現してもらいます。また、お互いに相手は人食い、悪い奴らと思っているタイ北部の2グループを引き合わせます。100年前に分かれてラオスに行ったムラブリ族の動画をタイのムラブリ族に見せることも。その反応から、かつては同じ言葉を使っていたらしい痕跡を知ることができて興味深いです。
撮影にあたっては、ムラブリ族の伝統生活を壊させないため、地名や場所を特定できない配慮をしていることにも感心しました。
「森のほうが涼しいから学校には行かない」という少年が出てきました。心地よく暮らせるなら、学校も必要ないのだと思い知らされました。
今や寸時に世界の情報が入ってくる社会に生きる私たちに、人間らしく生きていくこととは?と問いかけられた思いです。(咲)
☆さらに詳しい撮影秘話などを、下記のサイトでご覧ください。
金子遊監督オフィシャルインタビュー
https://www.cinemanavi.com/article_detail/id/5792/
言語学者・伊藤雄馬オフィシャルインタビュー
https://www.moviecollection.jp/news/134926/
☆トークイベント
(すべてシアター・イメージフォーラムにて)
3/19(土)
10:45の回、伊藤雄馬(出演)、金子遊(監督)舞台あいさつ
17:30の回、伊藤雄馬、金子遊の舞台あいさつ
3/20(日)
10:45の回、相澤虎之助(空族/映画監督・脚本家)トーク
3/21(祝)
10:45の回、関根秀樹(『縄文人になる!』著者)トーク
3/23(水)
17:30の回、長本かな海(身体人類学)トーク
3/26(土)
10:45の回、奥野克巳(文化人類学者)トーク
3/27(日)
10:45の回、宮台真司(社会学者)トーク
4/2(土)
10:45の回、名越康文(精神科医)トーク
4/3(日)
10:45の回、今福龍太(文化人類学者)トーク
2019 年/85 分/ムラブリ語、タイ語、北タイ語、ラオス語、日本語/カラー/デジタル
配給:オムロ 幻視社
協力:多摩美術大学芸術人 類学研究所、京都大学東南アジア地域研究研究所
公式サイト: https://muraburi.tumblr.com/
Twitter:@muraburi
Facebook:https://www.facebook.com/muraburi
★2022年3 月 19 日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
ストレイ 犬が見た世界 原題:STRAY
監督:エリザベス・ロー
出演:ゼイティン、ナザール、カルタル(犬たち)ほか
トルコ、イスタンブール。ボスポラス海峡をはさみ、ヨーロッパとアジアにまたがる町を、野良犬のゼイティンは、今日もアザーン(イスラームのお祈りを促す詠唱)を聴きながら気ままに歩いている。建設現場の男たちがセイティンはじめ野良犬たちに餌をあげ、面倒をみている。シリア・アレッポから紛争を逃れてやってきたジャミル、ハリル、アリの3人の少年たちは、夜中、建設現場を寝床にしていて、故郷を離れた地で犬たちが心の拠り所だ。配給の食事が届くと、犬たちも一緒に走っていく・・・
建設現場からは、海峡の向こうの高台にシュレイマニエモスクが見えて、ゼイティンはアジア側を根城にしながら、路面電車の走るイステグラル通りをあがってみたり、ガラタ橋を渡ってヨーロッパ側のエミニョニュの船着き場辺りに行ってみたりと、イスタンブールの町を見せてくれます。
シリア難民の少年たちは、自分たちの暮らしも大変なのに、建設現場から野良犬のゼイティンとカルタルを連れ出して一緒に路上生活を始めるのですが、路上で寝たことで少年たちは警察に捕まってしまいます。犬たちは保護・・・
『猫が教えてくれたこと』(2016年 監督:ジェイダ・トルン)で、イスタンブールの人たちが野良猫たちにやさしいことが描かれていました。預言者ムハンマドが猫好きだったことから、ムスリムの多いトルコで猫が愛されるのは当然のことと思っていましたが、本作を観て、実は野良犬にもやさしいと知って、少し驚きました。犬は預言者ムハンマドが不浄だとした伝承があるからです。本作の中でも、「俺はシャーフィイー派だから犬に触るのはご法度」と語る男性がいました。
1909年から1910年にかけてイスタンブールで野犬狩りが行われて、マルマラ海にある不毛の孤島に8万匹ともいわれる野良犬が置き去りにされたという悲しい歴史があります。2004年にトルコで「動物保護法」が可決され、今は殺処分ゼロの犬にも猫にもやさしい社会になっているのだとか。
監督のエリザベス・ローは、2017年にトルコを旅した時に、犬ゼイティンと偶然に出逢い、彼女の「強い意志を持つ雰囲気に惹かれ、追いかけた」ことが、本作に繋がりました。
路上の犬をモデルにして生活していた古代ギリシャの哲学者ディオゲネスの言葉が、冒頭や合間に掲げられ、私たち人間が犬に学ぶべきことを教えられます。
シリア難民の少年たちが捕まったあとには、ノーベル文学賞を受賞したトルコの作家オルハン・パムクの「政府にどれだけ追い払われても犬は自由に動いている」という言葉。
映画のラスト、モスクから流れてくるアザーンに呼応するように遠吠えするゼイティンの姿に、じ~んとさせられました。(咲)
エリザベス・ロー(監督、プロデューサー、撮影監督、編集)
香港で生まれ育ったローは、後にアメリカへ渡り、ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・アーツで美術学士号を取得。卒業後にはスタンフォード大学で美術学修士号を取得している。数々の短編映画を製作。本編で長編映画デビュー。
2020年/アメリカ / トルコ語・英語 / 72分 / ビスタ / カラー / PG-12
日本語字幕:岩辺いずみ
配給:トランスフォーマー
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/stray/
★2022月3月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
2022年03月12日
階段の先には踊り場がある
脚本・監督・編集:木村聡志
撮影・照明:道川昭如
出演:植田雅、平井亜門、手島実優、細川岳、朝木ちひろ
ダンサーを目指し芸大の舞踊科に通うゆっこ(植田雅)は、同じ大学の演劇科に通う元カレの先輩(平井亜門)と別れた後も同棲を続けている。お互いを応援する“いいパートナー”だと呼び合うが、最近は夢をかけた留学、そして先輩と急接近する友人・多部ちゃん(手島実優)の存在が気に掛かる。一方、社会人の滝(細川岳)は平穏な日々を送っているが、長年交際している港(朝木ちひろ)から結婚を意識させられ困惑していた。将来が見えない滝は、大学生のときに味わったある挫折を今も引きずっていたのだ。望まない方向に動きだす日々の先で、彼らは何を語り合うのか――。
相手の気持ちが離れてしまっても、そばにいられるだけでいい。ゆっこの一途な気持ちに思いっきり共感。ゆっこの気持ちに付け込んで、曖昧なまま同居を続けつつ、ゆっこの友人をその気にさせてしまう元彼の先輩には鉄槌を食らわせたい!!
“永い春”という死語のような言葉を思い出させる社会人の滝と港。2人の将来のことを考えていない滝を「いい加減、大人になりなさい!」と叩いてしまいたくなる。
しかし「世代もタイプも違うけれど、先輩と滝は幼すぎない? それとも男ってそんなもの?」と考えるのは私が女性だからなのでしょう。男性には男性の論理や思いがあるのかもしれません。そんなことを考えるくらい作品に引き込まれるのもキャストのリアルな演技があるからこそ。
まったく関係ないと思っていた2組の男女が実は大きく関わっていたという設定には脚本の巧みさを感じます。(堀)
2021年/日本/132分/カラー/ステレオ
配給:レプロエンタテインメント ©LesPros entertainment
公式サイト:https://kaidan.lespros.co.jp/
★2022年3月19日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国公開
2022年03月08日
虹が落ちる前に
監督 脚本 衣装:Koji Uehara
編集:Atsushi Nakajima
音楽:Koji Uehara、Hidetoshi Nishihara
出演:守山龍之介(風間公平)、畦田ひとみ(奥珠江)、白磯大知(神田竜彦)、末松暢茂(大崎健介)、梶田冬磨(元義)、昆竜弥登、バンダリ亜砂也、大崎健二、田宮拓貴、明田宮拓
20代後半になった公平は、今もアルバイトをしながら売れないバンドを続けている。バンドではキーボードと作詞・作曲を担当。公平の作曲の才能を信じるメンバーもいたが、中々上手くいかない状況が公平の作る曲のせいだというメンバーもいた。公平にとって大切だと思っていたバンドメンバーとの関係は活動を続けていくほど悪くなっていく。また公平の彼女の珠江も彼を支えながらも、2 人の将来に不安を募らせていた。ある日、”大切なモノを失う”という、公平が 1 番恐れていた現実に直面する。メンバーが起こした“ある事件”をきっかけに、複雑に交錯していく人間関係。裏切りやバンドの解散、街の愚連隊組織をまとめる公平の幼なじみの“歪”な決断。そして大切な彼女との別れ…。
バンドマンを健気に支えて応援する恋人や、バンドの存続の話だけでなく、メンバーが関わる人の繋がりで思いがけないストーリーが展開します。10代や20代の初めでなく、アラサーというところがミソ。もう夢みる子どもじゃいられず、生活やこれからのことをしっかり見つめる時期にきています。親も年取ってきますし、頼れないどころか頼られるかもしれません。
男性は仕事を考えるでしょうが、女性はそれに加えて出産のリミットを考えます。出産したいなら、ですが。公平よりも恋人の珠江のほうが切実、というのを公平は気づきながら、先送りしています。それは不安だよね、珠江さん。
そのへんのことも公平を演じた守山龍之介さんに伺ってみました。(白)
★主演の守山龍之介さんインタビューはこちら
2021年/日本/カラー/115分
配給:BABY OWL
© 2021 「虹が落ちる前に」製作委員会
https://www.nijiochi.com/
★2022年3月19日(土)ロードショー
ガンパウダー・ミルクシェイク(原題:Gunpowder Milkshake)
監督:ナヴォット・パプシャド
脚本:ナヴォット・パプシャド、エフード・ラフスキ
撮影:マイケル・セレシン
音楽:フランク・イルフマン
出演:カレン・ギラン(サム)、レナ・へディ(スカーレット)、クロエ・コールマン(エミリー)、カーラ・グギーノ(マデリン)、ミシェル・ヨー(フローレンス)、アンジェラ・バセット(アナ・メイ)、ポール・ジアマッティ(ネイサン)
ネオンきらめくクライム・シティ。サムはこの街の暗殺組織に属する腕利きの殺し屋。だがターゲットの娘を匿ったことで組織を追われ、命を狙われるハメに。殺到する刺客たちを蹴散らし、夜の街を駆け抜ける2人は、かつて殺し屋だった3人の女たちが仕切る図書館に飛び込んだ。図書館秘蔵のジェーン・オースティン、ヴァージニア・ウルフ、アガサ・クリスティの名を冠した銃火器の数々を手に、女たちの壮烈な反撃が今始まる!
サムと呼ばれているのは妙齢の女性。母と生き別れ、殺し屋として組織に育てられたサムの生身のアクションはすごいです。お母さん役は大ヒットドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の悪役サーセイ・ラニスターを演じたレナ・へディ。『ファイティング・ファミリー』(2019)でも女子プロレスラー役でした。そりゃ強いわ。図書館で働く3人の先輩たちとのシスターフッドも必見。ミシェル・ヨーは今年年女なんですが(聖子ちゃんと同い年)いつまでも華麗なアクションを見せていただきたいです。(白)
男社会に嫌気が差し、反旗を翻した女性たちの派手な暴れっぷりが最高! 仕事や家庭に鬱憤が溜まっていても、この作品を見れば、すっきり爽やかになれること請け合いです。しかも「その状況で?」とか「それをそう使う?」といった普通では考えられないアクションに思わず、笑ってしまうかも。『ジョン・ウィック』シリーズの “ガン・フー”や“カー・フー”を思い出してしました。
そして白石さんも書いているように、ミシェル・ヨーの変わらぬ身のこなしには驚いてしまいます。女性のアクションものは増えていますが、やっぱり若い女優中心の印象。しかし、この作品を見ると、年齢に応じたアクションがあり、本人の意志さえあれば、いくつになってもアクションはできると思え、それが自分へのエールにも繋がっていくかもしれません。(堀)
女性たちは実にカッコよく、対する男どもは力はあるかもしれないけれど、おバカな存在として描かれているのが痛快です。組織のボスは、次々娘が生まれ、やっと息子に恵まれ、女ばかりだった家の中で強い味方を得たのですが、その息子を殺されてしまって、また家の中で居場所をなくしてしまったと語るのです。情けない・・・
男どもに誘拐されながらも果敢に戦った8歳と9か月の少女エミリーが、最後に組織を訪ねた時に胸に抱えているのは『若草物語』。図書館を舞台に女性たちが繰り広げる華麗なアクション。銃が女性作家たちの名作の数々に隠されているのがミソですね!(咲)
基本、ドンパチ映画は好きではないんだけど、この映画は別。身体能力と知恵を絞ったシスターフッド・ハードボイルドアクションが爆裂。そしてユーモアも。
公式HPに「このシーンってあの映画の…? オマージュ満載!」って書いてあり、きっとこういうハードボイルドアクション映画が好きな人にとっては、いろいろな作品へのオマージュがわかるのだろうけど、私が唯一知っていたのは『男たちの挽歌』での周潤發(チョウ・ユンファ)の横跳び2丁拳銃使いのシーンだけ。このシーンはいろいろな映画で繰り返しオマージュされてきたので私でも知っている(笑)。この作品でこれをやったのは、これまた、この作品で唯一知っている女優・楊紫瓊(ミシェル・ヨー)。「彼女のアクションがすごい」と認識したのは、『ポリス・ストーリー3』(1992)。この作品での彼女のアクションを観て、こんなにアクションができる女優がいるんだとびっくりした。あれから30年。今も「横跳び二丁拳銃撃ち」ができる!!
『ガンパウダー・ミルクシェイク』に出演している他の女優さんのことは知らないけど、やはりアクションで有名な人たちなのかな。それにしても図書館が武器倉庫というのが面白い。これも何かの作品に出てきたアイデアへのオマージュなのか。あるいは本の中に銃が隠されているというのが何かの映画へのオマージュなのか。女性作家の本に銃を隠したというのは、この映画ならではのアイデアなのか知りたいところ(暁)。
3月9日解禁になったボウリング場でのバトルシーンを見よ!
https://www.youtube.com/watch?v=W-YAk_9toos
2021年/フランス・ドイツ・アメリカ/カラー/シネスコ/114分
配給:キノフィルムズ
(C)2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.
https://www.gpms-movie.jp/
★2022年3月18日(金)ロードショー
猫は逃げた
監督:今泉力哉
脚本:城定秀夫、今泉力哉
撮影:平見優子
音楽:菅原慎一
主題歌:LIGHTERS「don't cry」
出演:山本奈衣瑠(町田亜子)、毎熊克哉(町田広重)、手島実優(真実子)、井之脇海(松山俊也)
亜子と広重夫婦はそれぞれに不倫中で離婚直前なのに、飼い猫のカンタをどちらが引き取るかでもめて決着がつかない。レディースコミック作家の亜子は、担当編集者の俊也と。週刊誌記者の広重は後輩記者の真美子と。どちらかと言うと相手の方が真剣。猫のカンタは知らん!とばかりに家を出たまま帰ってこない。
『愛なのに』でオセロと呼ばれていた白黒のとぼけた顔の猫は、こちらの町田夫婦の飼い猫でした。子はかすがいといいますが、カンタも子どものいない2人を結びつけていたのでしょう。この子は動物プロダクションZOO所属のタレント猫オセロ、劇中でもみんなに可愛がられて場を和ませています。カンタを迎えたころと違って、いつのまにか心が遠くなってよそ見中の亜子と広重です。浮気の一つや二つ、いまや夫婦あるあるなんでしょうが、胸がチクリともしないんですかね。古風な夫婦感覚の私は、そんな二人ならとっとと別れて恋人とやり直せと思っちゃうのですが。
『愛なのに』の監督と脚本が交代して、今回も夫婦と恋人の愛のストーリーです。犬も食わないのは「夫婦喧嘩」、猫も呆れる「ダブル不倫」の結末やいかに?(白)
2021年/日本/カラー/シネスコ/109分
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
(C)2021「猫は逃げた」フィルムパートナーズ
https://www.lr15-movie.com/nekowanigeta/
★2022年3月18日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
カウンセラー
監督・脚本:酒井善三
撮影:川口諒太郎
音楽:Silver Valley
出演:鈴木睦海(倉田真美)、西山真来(吉高アケミ)、田中陸(栗林/宮谷)
ある心理相談室に勤める心理カウンセラー・倉田真美は、妊娠6ヶ月目で産休前最後の出勤日だった。予定していた最後の相談者を見送ったあと、ある一人の女性・吉高アケミが予約なしでやってくる。やむなく「相談内容だけでもお聞きしましょうか」と伝えた倉田に、アケミは「……妖怪が見えるんです」と語り始める。
謎めいた彼女の口から語られる暗い物語が、奇妙なことに聞いている倉田を妄想に駆り立て、不安の渦に堕としてゆく……。
ほぼ相談室のみで起こる心理ホラーです。受付から階段を上がって相談室へと行きますが、こういう作りは妊婦に良くないし、初めて会う人と閉じた空間で二人きりという状況も不安の種になります。
登場人物はほぼ三人。相談を受けているカウンセラーはプロのはずなのに、相手の話を聞くうちに自分も巻き込まれていくというじわじわ怖い作品。あっと思う切り返しもあり、人間の表情は奇妙で恐ろしいと感じました。短くて良かった。
相談者役の西山真来さん、お初かな?と思ったら、木村文洋監督・脚本の『へばの』(2008)のヒロインでした。(白)
2021年/日本/カラー/42分
配給:Drunken Bird
(C)DrunkenBird 2020
https://drunkenbirdrunning.wixsite.com/counselor
★2022年3月19日(土)~ユーロスペースにて2週間レイトショー上映
2022年03月06日
アンネ・フランクと旅する日記 原題:Where Is Anne Frank
監督・脚本:アリ・フォルマン(『戦場でワルツを』『コングレス未来学会議』)
アニメーション監督:ヨニ・グッドマン(『戦場でワルツを』『コングレス未来学会議』)
アートディレクター:レナ・グバーマン(『コングレス未来学会議』)
オリジナルスコア:カレン O(『かいじゅうたちのいるところ』)、ベン・ゴールドワッサー
原案:「アンネの日記」(ユネスコ「世界記憶遺産」2009 年登録)
協力:アンネ・フランク基金
声の出演:ルビー・ストークス、エミリー・キャリー
「アンネの日記」:第二次世界大戦下、ユダヤ人の少女アンネ・フランクが“空想の友達”キティー宛に綴っていた日記。1942年6月12日、13歳の誕生日に父・オットーから贈られたチェック柄の日記帳に、ナチスから身を潜めていた隠れ家での生活やペーターとの初恋などを書き連ねた。1947年、アウシュヴィッツを生き延びたオットーによって初出版。
現代のアムステルダム。「アンネの日記」オリジナル版を公開中の博物館<アンネ・フランクの家>の前には、早朝から大勢の人々が並んでいる。前夜、激しい嵐のせいで日記に異変が起き、アンネの“空想の友達”キティーが現れる。アンネと過ごした日から、既に75年経ったことを知らないキティーは、アンネを探し回る。日記を読み始めたキティーは時をさかのぼり、青春を謳歌していたアンネがナチスから身を潜めるため、家族と共に隠れ家に移る姿を見る。キティーが日記を手放すと、そこはまた現代。キティーは、アンネが恋をしていた少年と同じ名前のペーターと出会う。彼から、「キティーが日記を持って外に出ると姿が現れるが、日記を手放すとキティーは消えてしまう」という法則を発見したと聞かされる。日記を携えて街に出たキティーは、日記を盗んだ少女として警察に追われる。捕まる寸前、ペーターに助けられたキティーは、彼が仲間と運営する難民のためのシェルターに匿ってもらう。難民たちが強制送還させられそうなことを知り、世界的に貴重な財産である「アンネの日記」の力で、難民たちの命を救おうとする・・・
予備知識なしに観て、ホロコーストの犠牲になったアンネ・フランクと、現在の社会が抱える紛争による難民や人種差別の問題を無理なく自然に繋げる語り口に感心しました。
本作の企画は、アンネ・フランク基金(1963 年設立)がアンネの遺族とともに 2009 年、アニメーション映画制作を決定したことから始まりました。「アンネの日記」が1947年に出版されて 75 周年、最初の映画が作られてから 65 年後の完成を目指した、約 10 年がかりのプロジェクト。白羽の矢を立てられたのは、『戦場でワルツを』(08)で国際的な脚光を浴びたアリ・フォルマン監督。彼に託された条件は、「現在と過去をつなぐこと」、「アンネが最期を迎えるまでの7ヶ月間を描くこと」。アリ・フォルマン監督は、アンネが空想した親友キティーを現代によみがえらせる形で、キティーが日記に書かれていないアンネの最期の日々をたどり、さらには今の社会が抱える難民問題にも繋げて描いたのです。
監督は、アンネたちと同じ週にアウシュヴィッツに到着した両親から、ホロコーストの恐ろしい話を小さいときから聞かされてきて、逆に子どもたちには空想を膨らませる形で伝えるのがふさわしいと考えたそうです。思えば、私にとっては小中学生の時に、何度も読んだ「アンネの日記」を通じて、なぜユダヤ人が排斥されるのかに関心を持ち続けてきました。1冊の本が及ぼす影響の大きさを感じます。まだ本を読んでいない子どもたちには、この映画が原作を読むきっかけになればと願います。(咲)
アニメーションならではの表現が美しい作品。キティーが現れたり消えたりする場面も見入ってしまいます。アンネの”空想の友達キティ”はこんな姿なんですね。アンネに向かってキティーが「私を赤毛にするなんて!」と怒る場面があります。気のおけない女の子同士の口喧嘩のようで、思わず口元が緩みます。自分たちと同じように、血の通った女の子があの時代に生きていたのだ、と親近感がわくはず。
日記から現れたキティーは初めて外の世界に出て、様々な体験をします。ペーターと出逢うストーリーにしてくれた監督にお礼が言いたい気分になりました。(白)
『戦場でワルツを』アリ・フォルマン監督来日記者会見
http://www.cinemajournal.net/special/2009/bashir/index.html
★東京アニメアワードフェスティバル 2022の招待作品として上映決定!
3月13日(日)13:00~ 池袋HUMAXシネマズ
2021 年/ベルギー・フランス・ルクセンブルク・オランダ・イスラエル/英語/99 分/ビスタサイズ/5.1ch
日本語字幕:松浦美奈
後援:オランダ王国大使館/イスラエル大使館
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/anne/
★2022年3月11日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
2022年03月05日
プレゼント・ラフター(原題:PRESENT LAUGHTER)
シネマ版監督:デヴィッド・ホーン
ブロードウェイ版演出:モリッツ・フォン・スチュエルプナゲル
作:ノエル・カワード
出演:ケヴィン・クライン、ケイト・バートン、クリスティン・ニールセン、コビー・スマルダーズ
イギリスのロンドン、1900年代前半。ギャリーはミドルエイジの大人気喜劇役者。腐れ縁の(元?)妻、自分の事を親よりも知っている秘書、恋仲の女流作家と、ギャリーに好意を持つ男性作家に若い女性―。今日も個性的な面々に囲まれながら、本心を言い出せないギャリー。果たして、ギャリーは最後まで“プレゼント・ラフター(今の笑い)”を演じきることが出来るのか!?
「人間いくつになっても恋をする。役者魂ここにあり」がこの作品のキャッチコピー。中年の危機に陥りながらも、いまだにモテモテの喜劇役者をケヴィン・クライン。軽やかでスマートな身のこなし、絶対噛まない滑舌の良さ、さすがにキング・オブ・アクター。1947年生まれなので、中年というよりシルバーエイジですが全然そうは見えません。彼に憧れる美女たちと、マメな恋愛を懲りずに繰り返す日々。『アベンジャーズ』出演で注目のコビー・スマルダーズのドレス姿が際立って美しいです。
場面転換もなく、↓の画像のセットのみ。いくつかのドアを出入り、中央の階段を昇り降りするだけで2時間余りのドラマが進みます。
この戯曲の作家、ノエル・カワードは1940~1960年代に大人気だった元祖・マルチタレントのような人。作家、脚本家、演出家で俳優でもあり、作詞作曲もする。交友関係も幅広くお洒落で彼のファッションを真似するファンが多かったとか。このギャリーは彼に似ているのかもしれません。ケヴィン・クラインは2017年トニー賞で演劇主演男優賞を受賞しています。(白)
(C)Sara Krulwich
2017年/アメリカ/カラー/シネスコ/136分
配給:松竹 (C)BroadwayHD/松竹
■https://broadwaycinema.jp/
■www.instagram.com/shochikucinema/
■www.facebook.com/ShochikuBroadwayCinema
■twitter.com/SBroadwayCinema
★2022年3月11日(金)ロードショー
林檎とポラロイド 原題:Mila
監督・脚本:クリストス・ニク
エグゼクティブ・プロデューサー:ケイト・ブランシェット
出演:アリス・セルヴェタリス、ソフィア・ゲオルゴヴァシリ
ある夜、バスの中で目覚めた男は、記憶を失っていた。覚えているのはリンゴが好きなことだけ。医師から“新しい自分”プログラムに参加し、古い記憶を取り戻すのは諦め、新たな記憶を積み重ねて人生を築きなおすことを勧められる。住まい、食料、洋服、当面の生活費があてがわれる。毎日リンゴを食べ、カセットテープに吹き込まれたミッションをこなし、ポラロイドで記録する。
自転車に乗る、仮想パーティーで友達を作る、酒を飲み踊っている女を探す、ホラー映画を観る、高さ10mからプールにダイブする、運転して車をぶつける、死期の近い人と一緒に過ごし、亡くなったら葬式に参列する・・・
さて、男はどんな人生を築きなおすのか、それとも記憶を取り戻せるのか・・・
なんともいえない可笑しみがありながら、人生の真髄を感じさせてくれる映画でした。たくさんの記憶が、日々の暮らしを豊かにしてくれていることをあらためて思いました。記憶をなくしてしまったら・・・ それはそれで、楽に生きていけるのかもしれません。この映画の主人公のようなミッションを毎日与えられるのも、ちょっとつらいかも。
クリストス・ニク監督は、1984年、ギリシャ・アテネ生まれ。本作が初長編映画。デビュー作でありながらヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門のオープニング作品に選ばれています。同映画祭コンペティション部門の審査員長を務めていたケイト・ブランシェットが評判を聞いて本作を観賞。惚れ込んで、映画完成後にも関わらず、エグゼクティブ・プロデューサーに就任。長編第2作目は、ケイト・ブランシェットプロデュース、キャリー・マリガン主演でハリウッドデビューの企画が進行中。どんな作品になるのでしょう・・・・(咲)
長く生きていると悲しいことにも遭遇します。もしかすると主人公の男性は悲しいことを忘れたくて、あえてこのプログラムに参加したのかもしれません。果物店のご主人から「リンゴは記憶力の低下を防ぐ」と言われた男性は買うつもりだったリンゴを袋から出して、オレンジを買っていました。
淡々とミッションをこなしていく男性。悲しみの中に閉じ籠るのではなく、辛くても行動を起こして前に進んでいくことが大事だと教えられた気がします。(堀)
記憶をなくすのは彼一人ではなく、そういう「奇病が蔓延している世の中」なんだそうです。切り取られた静謐なシーン、淡々とした主人公に共する人も多いでしょう。
寓話だと思いつつ、もっと世間が騒ぎそうとか、いつ自分がなるかもしれないなら、連絡先や身元のわかるものを必ず持ち歩くとか、ついツッコミ。この人は一人暮らしだから誰も探してくれなかったけれど、家に犬や猫や小さな子供や病人がいる人が帰れなくなったら?変なミッションを与えるよりほかにやることがあるでしょ、と現実的なことを考えてしまいました。変な感想ですみません。リアルな話より、ファンタジーのほうが受け入れやすいし、新しい人生を築きたい人が多いのかな。(白)
2020年/ギリシャ・ポーランド・スロベニア/90分/G
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/ringo/
★2022年3月11日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開