2022年02月25日
中村屋酒店の兄弟
監督・脚本:白磯大知
撮影:光岡兵庫
音楽:総理
出演:藤原季節(中村和馬)、長尾卓磨(中村弘文)、藤城長子
数年前家を出て一人東京で暮らす和馬は、親が経営していた酒屋を継いだ兄、弘文の元へ帰ってくる。年齢を重ね、変わってしまった母の姿に戸惑いながらも、その時を受け入れ過ごしていく和馬。相手を思うほど、和馬、弘文は少しずつズレていったお互いの距離を感じていた。
和馬の抱える秘密を知る弘文、それを知る和馬。お互いが前に進むためとった選択には、純粋に相手を思う辛さと難しさがあった。そして、2 人は朝を迎える・・・。
同じ親から生まれた子でも、何番目に生まれたかで微妙にその後が違ってしまうのが兄弟姉妹。小さくても下の子が生まれたとたんに、お兄ちゃんやお姉ちゃんになります。親は同じように育てた、と言いがちですが「お兄ちゃんだからしっかりしなきゃ」「大きいんだから我慢できるでしょ」と言いませんでしたか?そう言われた人は多いはず。私も息子に言ってたかもしれない…と今更ながらごめん。
家父長制の名残か、家を継ぐのは長男という意識が今も残っています。中村屋酒店でも長男の弘文が後を継ぎ、次男の和馬は自分のしたいことのために上京しました。事情を抱えて帰ってきた和馬には安心できる実家。1人で母の世話もしながら店を続けていた兄は弟を迎えますが、奥底から忸怩たる思いがわきあがってきます。これは自分が上の子か下の子かで、感想が違うかも。私は中の子なので、どっちもわかる気がしました。
日本は一人っ子や子どもを持たない夫婦、結婚しない人も増えて出生率が下がっています。それでも親はいるわけで、お母さんの身になってしまいました。みんな否応なく年だけは取るので、自立した老後が理想ですが希望通りにいくかどうかは、神のみぞ知る。
若い白磯監督がこのシナリオを書き、中編にまとめあげたのに驚きました。
公開を前に白磯大知監督、藤原季節さん、長尾卓磨さんにお話を伺いました。(白)
★藤原季節さん、長尾卓磨さんインタビューはこちら
★白磯大知監督インタビューはこちら
田舎暮らしが嫌で家を飛び出して東京に行ったのであろうけれど、連絡もせずにいきなりふらっと帰ってきて、事情は語らずにいつの間にか当たり前のように実家の酒屋を手伝う。これってなかなかできることではありません。弟役を演じた藤原季節は以前、別の作品でインタビューしたときに自分のことを「人の懐にすっと入ってしまう傾向がある」といっていましたが、本作の役は自身の性格がうまく反映されています。
兄はそんな弟を非難することなく受け入れ、しかも弟の事情を察して、さりげなく配慮する。これって兄だからでしょうか。姉だったら絶対に文句を言い、口うるさく詮索するような気がします。男兄弟っていいなぁ~。(堀)
●2019年第13回田辺・弁慶映画祭コンペティション部門にてTBSラジオ賞を受賞
2018年/日本/カラー/45分+ラジオドラマ
配給:パルコ
©『中村屋酒店の兄弟』
https://nakamurayasaketennokyoudai.com/
★2022年3月4日(金)より渋谷シネクイントにてレイトショー先行公開
2022年3月18日(金)より全国順次公開
この日々が凪いだら
監督・脚本:常間地裕
撮影:萩原脩
主題歌:羊文学「夕凪」
出演:サトウヒロキ(宮嶋大翔)、瀬戸かほ(望月双葉)、山田将(藤大吾)、小田敦(嶋寛)、五頭岳夫(三田春雄)、藤原季節(長谷川恭介)、川瀬陽太(前田謙)
故郷を捨てるように上京してきた宮嶋大翔。建設現場で働く彼は、花屋で働く望月双葉と出会い、いつしか恋人同士の関係に。時代は平成から令和へと変化するも、二人の日々は穏やかに流れ、このまま何も変わらないかに思えた。しかし、住居の取り壊しや身近な人の死によって、彼らは変化を余儀なくされる。
「MOOSIC LAB 2019」では「ゆうなぎ」のタイトルで上映。羊文学とのコラボも話題となり、連日満席となった作品。
大翔と双葉のカップルの他に、大吾の日々も描かれ、あるときに交差します。わだかまりがあって故郷を捨ててきた大翔、聞くに聞けない双葉。
何かが足りない、とは誰もが思うものです。もう少しだけなのか、両手にいっぱいなのか、心の空き具合によるのでしょう。双葉が望んだのは小さな幸せでした。大翔くんわかってやってよ。
建設現場の先輩・藤原季節さん、故郷で働く川瀬陽太さん、そしてあちこちで地方出身らしいお爺ちゃん役で見かける五頭岳夫さんが、常間地監督の初長編作をぴりりと締めています。(白)
2021年/日本/カラー/84分
配給:Filmssimo
(C)映画「この日々が凪いだら」製作委員会
https://konohibi-naidara.com/#main_wrp
★2022年2月25日(金)シネマカリテほか全国順次公開
初日舞台挨拶左から常間地裕監督、瀬戸かほ、サトウヒロキ、山田将
常間地監督「撮影初日から藤原さんとの共演のシーンがあったことで、サトウさんの顔つきが明確に変わった瞬間があって、私も撮影のスタッフも、その表情を見たことで現場の雰囲気が変わりました。目指す方向が示されたように思え、お二人の共演シーンはとても印象的でした」
瀬戸「企画段階から話し合い、駅で撮影が行われたシーンは自身の経験が盛り込まれているため、とても印象深かった。そのこともあって、自分と近い感覚がある役となり、撮影中、自分なのか、双葉なのか曖昧になりました。ただ改めて見返すとちゃんと双葉だなと思いました」
山田「令和の最初に撮影があったので、それからあったことを、今さまざま思い出します。僕自身も作品に対して思い入れがありますし、たくさんの方々に届くことを祈っています」
サトウ「2019年からは皆さんにとっても苦しい期間だったと思います。自分が俳優部として一緒に映画を作って行く中で、何ができるのか、そこに光があると思ってやっていました。とあるミュージックビデオに本当に救われた時があり、これをしたい、これをやる価値があると思いました。また皆さんと再会できるように映画を作り続けたいです」
常間地監督「3人を含めキャストやスタッフを劇場公開まで待たせてしまったので、申し訳なく思う気持ちもありますが、この決断が正しいと言える日が来て欲しいと思います。(満員の客席を見て)この景色は双方、当たり前じゃないと実感しています。今日が来るまで、映画をやめようと考えたことも正直ありましたが、まだ頑張れる気がします」