2022年02月22日
チェチェンへようこそ ーゲイの粛清ー 原題:Welcome to Chechnya
監督:デイヴィッド・フランス
ロシア支配下のチェチェン共和国で国家主導の"ゲイ狩り"が横行している。チェチェンではゲイやトランスジェンダーであることは悪とされ、国家警察や自身の家族から拷問を受け、殺害され、社会から抹消されている。LGBTQの人々は息をひそめ恐怖に怯えて暮らしている。
フランス監督は、決死で国外脱出を試みるLGBTQの人々と、彼らの救出に奔走する活動家たちの姿をゲリラ撮影の手法で追って、驚くべき実情を暴き出す。
なお、本作では、命の危険に晒された避難者の身元を保護するため、彼らの声を変え、偽名を採用し、ディープフェイクの使用法を更に進化させた「フェイスダブル」技術を駆使し身元を特定不能にしている。
取材対象者
“アフマド”:活動家らが運営するシェルターに身を寄せる青年の一人。チェチェンの迫害による避難者を受け入れているカナダへ渡る。
“アーニャ”:チェチェン政府高官の娘。男性の親類から干渉と絶え間ない監視を受け、自宅で監禁状態に置かれていた。性的指向が知られてしまい、国外への脱出を余儀なくされる。
デイヴィッド・イスティーフ:ロシアLGBTネットワークの危機対応コーディネーター。サンクト・ペテルブルグに拠点を置いていた元ジャーナリスト。チェチェンの迫害問題に取り組み、活動を率いる。
“グリシャ”:チェチェンで拘束され拷問を受けた生存者。そもそもチェチェン出身者ではないが、仕事のためチェチェンに滞在していた。チェチェン人でないことが確認され、沈黙を守るということで一旦解放されるが・・・
オリガ・バラノバ:モスクワLGBT+イニシアチブコミュニティセンターの創設ディレクター。コミュニティメンバーの危機回避のため、国内最大のシェルターを開設し運営を行う。
チェチェンの反体制派の人たちが、亡命先でも殺害されるなど、人権侵害が激しいことは耳にしていましたが、LGBTQの人たちが国家主導で弾劾されている実情を本作で目の当たりにして驚きました。 チェチェン共和国というとイスラーム教徒が大半の国。イスラームで同性愛がタブーとされているとはいえ、これほどまで粛清の対象にされているとは!
昨年12月18日に、日本学術振興会カイロ研究連絡センター主催で行われた毎日新聞カイロ支局長 真野森作様のご講演「ロシアから見たシリア内戦、そしてチェチェン」の中で、その事情の一端を知る言葉がありました。
シリアで台頭した「イスラム国」(IS)の構成員のうち約1500人(2014年現在)のロシア人のほとんどがチェチェン出身だったこと。
チェチェンで独裁者カディロフ首長の体制に閉塞感を抱え過激化した若者たちが、シリアやイラクという行先がなくなり、地元で荒れている。
イスラームを極端に解釈する若者たちの矛先が、LGBTQの人たちにも向かっているのでしょう。
下記に、「ロシアから見たシリア内戦、そしてチェチェン」のご講演内容についても触れています。
『チェチェンへようこそ ーゲイの粛清ー』(2月公開) 関連トークイベントが12/21に開催されます
フランス監督は、同性愛者権利グループがLGBTの虐待犠牲者を救出する地下活動に同行し、避難した人々の身の安全だけでなく心理面や経済面でもサポートし、ロシア国外へ脱出させる支援をしている様を映し出しています。監督にとっても身に危険がおよぶかもしれず、勇気に感銘を受けました。(咲)
2020年製作/107分/アメリカ・イギリス合作
配給:MadeGood Films
公式サイト:https://www.madegood.com/welcome-to-chechnya/
★2022年2月26日ユーロスペース、シネ・ヌーヴォ、MOVIX 堺、元町映画館 ほか全国上映開始
牛久
監督・撮影・編集:アッシュ・トーマス
茨城県牛久市にある“東日本入国管理センター”、通称「牛久」。
全国に17カ所ある“不法滞在者”を強制的に収容している施設の一つ。在留資格のない人、更新が認められず国外退去を命じられた外国人が“不法滞在者”として収容されている。紛争などにより出身国に帰れず、難民申請をしている人も多くいる。
本作は、トーマス・アッシュ監督が当事者達の了解を得て、面会室で彼らの訴える言葉を“隠し撮り”で記録したものである。
トルコのクルド人デニズ。国に帰れば殺されると難民申請しているが認められない。
カメルーン出身のルイス。中央アフリカでのクーデターで家族を失い、2002年に日本へ。難民申請が認められないまま月日が経った。
LGBTQのナオミ。男性しか収容されない牛久で居心地が悪い。ハンガーストライキして仮放免。
そのほか、クラウディオ、C(シー)、ニコラス、アリー、ピーター。
それぞれの語る日本の入管の厳しい現実・・・
監督のアッシュ・トーマスは、もともとボランティアとして牛久の東日本入国管理センターを訪れ、収容されている人たちの話を聞いていて、彼らの言葉を映画の力で、日本の市民や世界に伝えることができないだろうかと考えるようになったとのことです。
隠し撮りの動画は、見ていて、ちょっと息苦しくもなります。でも、それが収容されている人たちの現実そのものなのだと感じました。
アッシュ・トーマス監督が、仮放免されたアリーを食事に誘う場面がありました。大宮のシュルーというペルシャ料理のお店で、2020年5月に残念ながらコロナに負けて閉店してしまったイラン人のカミさんが経営していたお店でした。彼はお店を辞めても奥様が日本人だし、すでに在留資格を持っているのかなぁ~と、ふと思いました。
外国籍の人が婚姻により在留資格を得たものの、日本人や日本の在留資格を持つ配偶者と死別や離別すると、在留資格を失うという現実があります。私の知人で、離婚して在留資格を失い、入管に相談に行ったところ、「またいい子見つけて結婚すれば」と言われ、悔しいので起業して在留資格を得た人がいます。日本で暮らしたいという人に、どうして、こうも冷たいのでしょう。しかも、国に帰れば身の危険があると申告している人のことを、どうして信じてあげないのでしょう。スリランカ出身女性・ウィシュマさんが入管に収容中に亡くなられたことは、日本国家として恥ずべきこと。二度とこんな不祥事を起こさないようにしてほしいものです。そして、在留希望者にもっと柔軟な対応をしてくれることを願うばかりです。(咲)
国内外から批判が出ているのに、入管はなぜこうも変わらないのでしょう。刑務所のほうがましでは?と思えてきます。外国から命からがら逃げてきた人たちや、夢や希望を持ってやって来た人たちが、人として尊重されていません。収容所で長い間閉じ込められるのはなぜ?一定期間外に出られても、働くことはできずその間どうやって生きていけと?人手がほしい人と働きたい人を結ぶことができないのは、どこが滞っているのでしょう?収容所で無為に過ごすより、日本語や生活習慣をレクチャーするとか、出てからの暮らしが成り立つように援助することはできないのでしょうか。制服姿の職員が羽交い絞めにして、押さえつける姿に愕然としました。
久しぶりに試写室で観られた作品がこの『牛久』で、これはたまたま日の目があたっただけで、お役所だから全国似たような状況なのだろう、と、どんよりして家路に着きました。映像で知らせてくださったアッシュ・トーマス監督には感謝。(白)
試写後にトーマス・アッシュ監督とクルド人デニズさんが登壇して、話をされました。デニズさんはとりあえず牛久の東日本入国管理センターを出ることができたよう。作品のときよりも日本語が格段にうまくなっていて、今の状況や思いを語っていました。
そこで知ったのが、センターを出ることはできても働くことは許されていないということ。かといって、生活費が支給されているわけではありません。いったいどうやって生活しろというのでしょうか。「霞を食べて生きていけるって本気で思っている?」と入管の方に聞いてみたくなりました。(堀)
2021年/日本/87分/DCP/16:9
配給:太秦
公式サイト:https://www.ushikufilm.com/
★2022年2月26日(土)より、東京:シアター・イメージフォーラム、茨城:MOVIXつくば他、全国順次公開
ハード・ヒット 発信制限 原題:발신제한(発信制限) 英題:Hard Hit
監督:キム・チャンジュ
出演:チョ・ウジン、イ・ジェイン、チ・チャンウク
銀行支店長として働くソンギュ。副頭取からの電話で目を覚ます。朝寝坊したのに、いつもなら妻が学校に送る娘と息子を車の後部座席に乗せて、桜並木の海沿いの道を走らせる。息子の学校に着こうとするころ、“発信番号表示制限電話(非通知電話)”がかかってくる。声の主は男。「座席の下に爆弾を仕掛けた。席を立つと爆発する」と警告される。信憑性はないが、学校を通り過ぎて、そのまま車を走らせる。部下の副支店長から電話がかかってくるが、彼の車が目の前で爆発し、ソンギュの息子の脚が撃たれる。一体、彼らを狙う声の主は誰なのか、そして、なぜ彼らに爆弾を仕掛けたのか・・・
席を立つと爆発すると脅され、車から降りれないソンギュたちの姿に、観ている私も緊張してしまいました。チ・チャンウクが出ているとあって、楽しみに観始めたのですが、なかなか出てきません。実は、声の主がチ・チャンウクでした! 思えば、確かに彼の声。甘いです♪ もちろん、ちゃんと姿も出しますから、ファンの方、ご安心を! (でも、なかなか出てきません・・・)
キム・チャンジュ監督は、これまで『あなた、そこにいてくれますか』『観相師-かんそうし-』『スノーピアサー』『テロ・ライブ』等々、幅広いジャンルのヒット作を手掛けてきた韓国映画界トップの編集マン。本作が長編監督デビュー。
銀行支店長を演じたチョ・ウジンは、『SEOBOK/ソボク』での敵役が記憶に新しいですが、本作が映画初主演。
そのほか、リュ・スンス(釜山海雲台警察署長役)、チン・ギョン(警察・パン班長役)、キム・ジホ(ソンギュの妻役)と、映画やドラマでお馴染みの顔ぶれです。
何より、桜が満開の釜山の海沿いのダイナミックな風景が素晴らしいです。(咲)
こういう緊張が続く作品に弱い小心者です。酷い目に遭うのが他人事ながら怖くて、本なら後ろをまず読んで生き残るかどうか確認したくなります。『スピード』は止まったら爆発ですが、これは立ち上がったら爆発です。犯人はどこからか監視していて、遠隔操作されているため小細工もできません。とてもハラハラしますので覚悟して観てくださいね。
この設定なんだか覚えがある…と思ったらドイツ映画の『タイムリミット 見知らぬ影』(クリスティアン・アルヴァルト/2018)で、それもスペイン映画の『El Desconocido』(2015)のリメイク。スペイン語題名は「未知なるもの」だそうで、ドイツ映画も同じようなタイトルにしたんですね。検索で『暴走車 ランナウェイ・カー』とヒットしたので公開されていたようです。
国は違えど、無情な組織、家族のすれ違いや愛情は共通しているので、どこでリメイクしてもヒットするのでしょう。日本で作るなら誰がいいかな、とつい妄想。(白)
2021年/韓国/韓国語/94分/シネマスコープ/5.1ch
字幕翻訳:福留友子
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-asia.com/hardhit/
★2022年2月25日(金)シネマート新宿ほか 全国ロードショー