2022年02月27日
ボブという名の猫2 幸せのギフト 原題: A Gift from Bob
監督:チャールズ・マーティン・スミス(『ベラのワンダフル・ホーム』『イルカと少年』)
原作:ジェームズ・ボーエン「ボブが遺してくれた最高のギフト」&「ボブが教えてくれたこと」(辰巳出版)
製作:アダム・ロルストン(『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』)
脚本・製作:ギャリー・ジェンキンス(『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』)
出演:ルーク・トレッダウェイ(『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』『不屈の男 アンブロークン』)、クリスティーナ・トンテリ=ヤング(「シスター戦士」Netflix)、ファルダット・シャーマ(『ゼロ・グラビティ』)、アンナ・ウィルソン=ジョーンズ(「女王ヴィクトリア 愛に生きる」)
『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(2016年、監督:ロジャー・スポティスウッド)の続編。
ストリート・ミュージシャンとして生計を立てていたホームレスの青年ジェームズが、一匹の野良猫ボブと出会い、困難を乗り越え、一躍ベストセラー作家になった前作から5年。
ボブを連れて出版社のクリスマスパーティーに出席したジェームズ。場違いを感じて早々に抜け出した帰り道、路上演奏違反で警察官に取り押さえられているホームレスの若者ベンを助ける。ジェームズは自暴自棄になったベンに、路上で過ごした最後のクリスマスの話を始める・・・
てっきり、ベストセラー作家として活躍しているジェームズの物語かと思っていたら、苦難の時代のもう一つのエピソードでした。寒い中、ボブを伴って路上ライブで日銭を稼いでいたジェームズは、動物福祉担当職員に目を付けられてしまい、引き離されそうになったことがあったのです。それをどう乗り越えたかを、かつての自分を見る思いでベンに語って、励ますという物語。
ジェームズをいつも助けてくれていたのが、近所で小さな店を営むヒンドゥー教徒のインド人のムーディでした。彼の語る小話が、実に含蓄があって心に残りました。
*農民が作ったバター1キロを、店で小麦や砂糖と交換してもらっていました。次にバターを持ち込んだら、900gしかないと言われます。「貧しくて秤を持ってないので、1キロの砂糖で重さを測った」と答える農民。
*3人の巡礼がいました。一人目は、後ろに良いことを、前に悪いことを抱えていたら、重くて前に進めなかった。
二人目は、前に良いこと、後ろに悪いこと・・・やはり重くて前に進めなかった。
三人目は、良いことを前に、後ろに穴をあけて悪いことを入れたら、どんどん落ちて巡礼地にたどり着いた。
ムーディーは、クリスマスの日に息子を亡くしているのです。かつてはくよくよしていたけれど、今は息子のいい思い出だけを持って過ごしていると語り、過去の記憶を未来の重しにするなと諭します。
ヒンドゥー教徒のムーディーのほか、シク教のターバンの男性、アジア系の女性でイギリスに里子に貰われてきた福祉事務所の女性、ジェームズに1000アルバニア・レクのチップを渡したアルバニア人、モロッコ風の帽子を被った少年たちなどが登場して、ロンドンがいかに人種のるつぼかを感じさせてくれました。
そして悲しいかな、名優・猫ボブは2020年6月に亡くなり、本作はボブの遺作になってしまいました。(咲)
猫に対して興味がない私は、前作の『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』観ていなかったし、ストーリーも全然知りませんでした。ただ、チラシだけは何度も見ていて知っていました。今回初めて、この作品を観て、「ああ、気になっていたんだから、観ておけば良かった」と思いました。飼い主の肩に乗って街を行く猫ってかっこいい!!そんな芸当ができるのかと思ってしまった。まだ無名で街角でストリート・ミュージシャンとしてチップをもらいながら生活している青年の話だったけど、その生活にボブはかけがえのない相棒だったんだと、後半、映画を観ながら涙が出てきた。この生活の日々を書いてベストセラーになったというのが1作目なのだろうか。機会があったら観てみたい(暁)。
2020年/イギリス/英語/92分
配給:コムストック・グループ
提供:テレビ東京、コムストック・グループ
配給協力:REGENTS
公式サイト:http://bobthecat2.jp/#
★2022年2月25日(金)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
ムクウェゲ「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師
監督:立山芽以子
撮影:寺尾文人 音声:長谷部全伸 吉良絵里菜
編集:大生哲司
語り: 常盤貴子
2018年、ノーベル平和賞を受賞した医師デニ・ムクウェゲ。
アフリカ中部、コンゴ民主共和国。1955年、東部地区ブカヴで生まれ、牧師の父が人々のために祈る姿を見て、8歳の時、自分は医師として人を助けると決意。出産で命を落とす女性が多く、婦人科医になるが、最初の患者はレイプされた女性だった。
ムクウェゲ医師が湖の畔の町ブカブに1999年に設立したパンジ病院には、年間2500人~3000人がレイプされ運び込まれてくる。これほどまでにレイプが横行しているのには、ある理由があった・・・
「女性にとって世界最悪の場所」と呼ばれるコンゴ東部地区。
1994年の隣国ルワンダでの大量虐殺を機に、コンゴに難民と共に虐殺の首謀者たちが逃げ込み、100もの武装勢力の乱立する無法地帯となりました。これまでに40万人以上の女性たちがレイプされていて、それも、生後6か月の赤ちゃんから、90歳を越える女性まで。武装勢力がレイプするのは、欲望を満たすためではなく、恐怖を植え付け支配するため。この地域では、スズ、金、レアメタル等の天然資源が豊富で、それを奪うのが目的なのです。コンゴは、窓もドアも警備員もいない宝石店のようなもの。埋蔵量は世界一なのに、世界一の輸出国ではないのです。豊富な資源があるのに、住民は貧困の中で暮らしているのです。
レアメタルは、スマホやPCの原料。ムクウェゲ医師は、コンゴの女性たちの犠牲によって採掘された原料のスマホを使っているかもしれないことを思えば、決して遠い国の問題でないと、国際社会の無関心を嘆きます。
2019年9月に来日したムクウェゲ医師。滞在中に広島を訪れ、核兵器は廃絶されるべきと強調しました。実は、広島に落とされた原子爆弾にはコンゴで採掘されたウランが使われているのだそうです。
暗殺未遂に遭い、一度は国を離れたムクウェゲ医師ですが、今も、国連軍に見守られながらパンジ病院の敷地内で暮らし、女性たちの治療だけでなく自立のための手助けもしています。
2018年のノーベル平和賞授賞式の時に、イラクのヤズィーディー教徒の女性でイスラム国の性奴隷となっていたナディア・ムラドさんの隣に立っていたムクウェゲ医師のご功績をあらためて知ることのできる映画でした。(咲)
デニ・ムクウェゲ医師は牧師の父が働く姿を見て、8歳の時に「父が祈るひとなら、僕は白衣を着て薬を配る人になる」と医師になることを心に決め、隣国ブルンジの大学で医学生となりました。出産で命を落とす女性が多いことを知り、婦人科医を目指すためにフランスのアンジェ大学に留学。帰国し、専門的な医療を受けていなかった女性たちの出産ケアに取り組むようになりました。
ところがブカブにパンジ病院を設立して最初の患者がレイプされた女性だったことで、性暴力の蔓延を知るのです。
「男って最低!」と思って見ていたところ、景山さんが書いているように“武装勢力がレイプするのは、欲望を満たすためではなく、恐怖を植え付け支配するため”と知り、驚きました。だから1歳にも満たない赤ちゃんまでもが襲われていたのです。しかも襲う側にも武装勢力に脅かされて不本意ながら参加し、後悔している男性もいることが映し出されました。武装勢力全体の意思ではなく、一部の人間の思惑で恐ろしいことが行われている。不幸な人がどんどん増えていく状況はあってはならないはずなのに。
「コンゴに生まれなくてよかった」と胸をなでおろしてしまいがちですが、”日本にいても何かできることはないのだろうか”というな気持ちを多くの人が持てば、コンゴも変わっていくでしょうか。(堀)
コンゴの、この東部地域にはレアメタル、錫など豊かな鉱物資源が埋まっていて、武装勢力はその利権を得るため組織的に性暴力という武器を使い、住民を恐怖で支配している。ムクウェゲ医師は「その根源を断ち切らない限り、コンゴの女性たちに平和は訪れない」と、この地で起きていることを世界に訴え、長年の活動に対して、2018年ノーベル平和賞が授与された。しかしムクウェゲ医師の闘いは終わることはなく今も続いている。その闘いの日々を追ったのが本作である。
「遠く離れた国で起きていることで、自分とは関わりのないことと思わないでください。もし、あなたが手にしているスマホが遥か遠くで暮らす女性たちの犠牲のもとで作られているとしたら。この映画は、自分たちの快適で、便利な暮らしは何によって支えられているのかを考えるきっかけになれば、という思いで作った」と監督は語る。私たちが生きる世界で起きていること。決して他人事と思ってはいけない現実がここにはある。パンジ病院では肉体的な傷を治療するだけでなく、精神的なケアも行い、村に戻って生活できるよう洋裁などの技術訓練も行っているのがせめてもの希望である。
ムクウェゲさんには好きな日本語がある。「利他(りた)」という言葉。他者を思い、世界で起きていることを想像する力という意味だそうです。これこそが今、必要なのだと。私はこのドキュメンタリーで、初めてこの日本語を知った。今まで、この「利他」という言葉を知りませんでしたが、この映画の後、TV番組や映画で、「利他」という言葉を何度か耳にするようになりました。
ところで、この映画でも出てきましたが、被害にあった女性に対して、味方であるはずの男たちが(家族や親戚、同じ部落)、レイプされた女性を「汚れたもの」として扱うシーンがあり、被害にあった女性に対して、そのように思うなんてひどいと思った。コンゴでもそうだったけど、つい最近イスラーム映画祭で観た、政府・軍とイスラーム主義勢力との対立から始まった1990年代のアルジェリア内戦を描いた『ラシーダ』(アルジェリア、フランス映画)という作品の中でも、レイプ被害にあった女性の父親が「いっそ死んでくれたらよかったのに」と、娘を拒否するシーンがあり、男ってどうしてそうなのと思ってしまった。この作品の中で唯一救いだったのは、その女性の甥っ子?が、「僕はそう思わない。彼女は被害者だ」という意味のことを言っていたこと。ヤミーナ・バシール=シューイフというアルジェリアで最初の女性監督の作品だそうですが、やはり女性監督だからこそ出てきた言葉なのだろうと思った。太平洋戦争中、日本軍の従軍慰安婦にされた韓国や中国、台湾、インドネシアなどの女性たちも、終戦後、そういう差別があって地元に帰れなかった人がいました。被害者なのにそういう差別を受けるなんてと思っていたけど、それは現代も変わらないということに怒りを覚えます(暁)。
これを観たらみな怒りに震えるはず。女性は自分の痛みとして、心ある男性は自分の母や姉妹や娘だったら、と想像して。男性も被害にあっているけれど、女性は望まない妊娠をしたり、そのために不妊になったり、男性不信に陥ったりと傷はより深い。
襲った男たちが命令されたから、と言って悪びれず、お金を積んで刑罰を逃れているのに腹が立つ。妻子が画面に映っていたけれど、夫や父親となって、自分のしたことをなんとも思わないのだろうか?被害にあった女性を汚れた傷ものと断ずる男たちは、自分が加害者と同じところに立っていることに気づかないのだろうか?
心身を痛めつけ、恐怖で支配するのは、はるか昔のことではなく今も起こっていることだということに、この映画で気づいてほしい。ムクウェゲ医師が傷ついた人たちを助け、再生の手伝いをする人たちも周りにいることに少しホッとする。この作品の監督がTBSの女性ディレクターであることも嬉しい。(白)
☆2021年3月開催の「TBSドキュメンタリー映画祭」で上映されたバージョンから、音楽とナレーションを一新して劇場公開
2021年/日本/カラー/ビスタ/ステレオ/75分
配給:アーク・フィルムズ
公式サイト:http://mukwege-movie.arc-films.co.jp/
★2022年3月4日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
2022年02月26日
あしやのきゅうしょく
監督:白羽弥仁
脚本:白羽弥仁、岡本博文
撮影:吉沢和晃
音楽:妹尾武
主題歌:「ドラセナ」大塚愛
出演:松田るか(野々村菜々)、石田卓也(今村達也)、仁科貴、宮地真緒、藤本泉、栗田倫太郎、小笠原拓己、 芹沢 凜
堀内正美/桂文珍/赤井英和(高杉公一)、秋野暢子(立山蓮子)
野々村菜々は新任の栄養士として芦屋の小学校に赴任した。退任するベテラン栄養士の立山蓮子は、これまで給食の全てを込めたファイルを菜々に贈り、困ったことがあったら相談してと電話番号を渡す。引き継いだ菜々は張り切るが、給食の味が変わった、味が落ちたという子どもの声を聞いて落ち込んでしまう。調理のベテランたちは「栄養士が変わったと知ったからそんな気がするだけ。よくあること」と、慰める。予算内で、美味しく子どもが喜び、どの子も食べることができるものと、菜々はメニューに頭を悩ませる。
芦屋市制施行80周年記念映画として、学校給食にフォーカスを当てて制作された作品。「温かいものは温かく、冷たいものは冷たく」食べられる自校式給食に加え、各校に1名専属で配置された栄養士がオリジナルの独立メニューを展開しています。映画には仕入れから調理まで、給食に携わるいろいろな人たちが登場し、給食が作られる過程も見られます。何百人分の給食を作るための大きなお釜や鍋、煮物の味は出来立ては薄く感じても、配膳までにだんだん浸みてちょうど良くなる、というのも発見でした。アレルギーや宗教上の理由で食べられないものがある子どもへの配慮も欠かせません。ハラルフードを研究する菜々と調理員の達也、動物の肉の代わりに何を使うのか?卵アレルギーの子どもにオムライスを食べさせてあげるには?そんな工夫が随所に見られて、ママたちにも参考になるはず。
離婚を考える母親と芦屋の実家に移り、転校してきた祐樹がクラスに馴染んでいく様子も描かれます。子どもたちが楽しみにしている「My給食」をどう実現していくのかお楽しみに。阪神大震災の体験を語る人にもぐっときます。自分が子どもだった頃の給食を思い出しながら、作ってくれる人にも思いをはせられる作品です。(白)
2022年/日本/カラー/96分
配給:アークエンタテイメント
(C)2022「あしやのきゅうしょく」製作委員会
http://ashiyanokyushoku.com/
★2022年2月 4 日(金)より関西先行公開、3月4日(金)より新宿武蔵野館ほかロードショー
公開記念舞台挨拶 3月5日
―それぞれの給食
松田(沖縄出身)「当時は気付かなかったんですが、沖縄ナイズされていた給食だったなと。イナムドゥチ(汁物)や、クーブイリチー(昆布の炒め煮)が出ていました」
秋野(大阪出身)「私たちの時代は戦後12年後で、黒歴史だと思います。脱脂粉乳だったんです。豚の肥料となっていた昔の牛乳です。あのおかげで未だに牛乳が飲めません。あと、関西ではくじらの竜田揚げが出てました。それに揚げパンに脱脂粉乳。今の子は良いものを食べてるなと思います」
白羽監督(芦屋市出身)「くじらのノルウェー煮がありました。今でもくじらは芦屋市の人気ベスト3には入りますね。私は昭和39年生まれですが、脱脂粉乳はなく瓶の牛乳でした」
―栄養士の仕事
松田「食べさせたいものと子供たちが食べたいものが違うので栄養士さんの永遠の課題だと思います」
秋野「食べることは生きること。この作品のテーマです。みんな食に対してないがしろにしている所はあると思います。栄養士はいっぱい考えてます。子供たちが健やかに育つ手助けになるためにも、子供の口に入れるのは何がいいのか、この作品がご家庭でも考え直すきっかけになって頂ければ」
―ひとこと
松田「食べることは体をつくることだけではなく、メンタルを作る栄養にも関わってきます。当たり前だけど大切なことを芦屋市は取り入れているのだと思います。この作品を日本のみならず世界に届けたいと思います」
白羽監督「タイトルに“あしや”とついていますが、食育は全世界の問題です。子供たちの未来のために、真っすぐ作った作品です。是非SNSで拡散してください」
ブルーサーマル
監督・脚本:橘正紀
脚本:橘正紀、高橋ナツコ
原作:小沢かな「ブルーサーマル ―青凪大学体育会航空部―」(新潮社バンチコミックス)
キャラクターデザイン:谷野美穂
主題歌:「Blue Thermal」SHE’S(ユニバーサル ミュージック)
挿入歌:「Beautiful Bird」SHE'S(ユニバーサル ミュージック)
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
声の出演:堀田真由、島崎信長、榎木淳弥、小松未可子、小野大輔
白石晴香、大地葉、村瀬歩、古川慎、高橋李依、八代拓、河西健吾、寺田農
バレーボール一筋の高校生活を送ってきた都留たまきは、憧れの東京の大学に合格した。これからはキラキラのキャンパスライフだ!と期待一杯で長崎から上京。サークルの勧誘を見て回っているうち、ひょんなことで高額なグライダーを傷つけてしまう。弁償のため"体育会航空部”の雑用係をするはめになった。思ってもみなかった展開に「こんなはずじゃなかった」と不満なたまきだったが、主将の倉持潤に誘われ、初めて”空”を飛び、その美しさに感動する。
”サークル活動で空を飛ぶ”というと、「鳥人間コンテスト」に挑む『トリガール』(2017/英勉)を思い出します。土屋太鳳さん主演の実写版で、人力飛行機で琵琶湖の上を滑空してその距離や滞空時間を競うものでした。コンテストのテレビ番組を見ていたので、裏側が見られてとても面白かったのでした。
さて、こちらはアニメーション。グライダーで飛ぶ大学生たちを描いています。今まで知らなかったことが次々と目の前に現れるので、たまきと同じように魅了されました。倉持先輩はたまきの意外な素質に気づいて、バックアップします。ここで、贔屓するなとか邪魔が入りそうですが、天真爛漫なたまきの性格と開花していく才能でチームの一員になっていきます。
グライダーはエンジンがなく、上昇気流(サーマル)を捕まえてそれに持ち上げてもらい、上がることができます。その日の風、雲など周りの状況を観察して機体を操縦し、長い距離を飛んで着陸するまで安全に行われないといけません。ピーカンの青空だと強いサーマルが生まれますが、それは体感で捕まえるのだそうです。
新入部員になった気分で、青空に飛び出すのは閉塞感いっぱいのこの時期余計に心地よいです。アニメーションが作り出した浮遊感、ヴォイスキャストの元気な声をぜひ劇場でお楽しみください。(白)
東京で大学生になったら、サークルに入って、素敵な恋をして…。そんな思いで地方から上京した主人公に自分を重ねてしまう人も多いかもしれません。何かと文句をつけてくる1つ上の先輩、失敗も受け入れてくれる幹部学年の先輩、一緒に雑用をしながら絆を結んでいく同期。たまきの奮闘に共感しつつ、懐かしい大学生活を思い出し、当時は黒歴史だったことも、今となってはいい思い出になっていることに気がつくのではないでしょうか。(堀)
2022年/日本/カラー/103分
配給:東映
(C)2022「ブルーサーマル」製作委員会
https://blue-thermal.jp/
★2022年3月4日(金)公開
2022年02月25日
中村屋酒店の兄弟
監督・脚本:白磯大知
撮影:光岡兵庫
音楽:総理
出演:藤原季節(中村和馬)、長尾卓磨(中村弘文)、藤城長子
数年前家を出て一人東京で暮らす和馬は、親が経営していた酒屋を継いだ兄、弘文の元へ帰ってくる。年齢を重ね、変わってしまった母の姿に戸惑いながらも、その時を受け入れ過ごしていく和馬。相手を思うほど、和馬、弘文は少しずつズレていったお互いの距離を感じていた。
和馬の抱える秘密を知る弘文、それを知る和馬。お互いが前に進むためとった選択には、純粋に相手を思う辛さと難しさがあった。そして、2 人は朝を迎える・・・。
同じ親から生まれた子でも、何番目に生まれたかで微妙にその後が違ってしまうのが兄弟姉妹。小さくても下の子が生まれたとたんに、お兄ちゃんやお姉ちゃんになります。親は同じように育てた、と言いがちですが「お兄ちゃんだからしっかりしなきゃ」「大きいんだから我慢できるでしょ」と言いませんでしたか?そう言われた人は多いはず。私も息子に言ってたかもしれない…と今更ながらごめん。
家父長制の名残か、家を継ぐのは長男という意識が今も残っています。中村屋酒店でも長男の弘文が後を継ぎ、次男の和馬は自分のしたいことのために上京しました。事情を抱えて帰ってきた和馬には安心できる実家。1人で母の世話もしながら店を続けていた兄は弟を迎えますが、奥底から忸怩たる思いがわきあがってきます。これは自分が上の子か下の子かで、感想が違うかも。私は中の子なので、どっちもわかる気がしました。
日本は一人っ子や子どもを持たない夫婦、結婚しない人も増えて出生率が下がっています。それでも親はいるわけで、お母さんの身になってしまいました。みんな否応なく年だけは取るので、自立した老後が理想ですが希望通りにいくかどうかは、神のみぞ知る。
若い白磯監督がこのシナリオを書き、中編にまとめあげたのに驚きました。
公開を前に白磯大知監督、藤原季節さん、長尾卓磨さんにお話を伺いました。(白)
★藤原季節さん、長尾卓磨さんインタビューはこちら
★白磯大知監督インタビューはこちら
田舎暮らしが嫌で家を飛び出して東京に行ったのであろうけれど、連絡もせずにいきなりふらっと帰ってきて、事情は語らずにいつの間にか当たり前のように実家の酒屋を手伝う。これってなかなかできることではありません。弟役を演じた藤原季節は以前、別の作品でインタビューしたときに自分のことを「人の懐にすっと入ってしまう傾向がある」といっていましたが、本作の役は自身の性格がうまく反映されています。
兄はそんな弟を非難することなく受け入れ、しかも弟の事情を察して、さりげなく配慮する。これって兄だからでしょうか。姉だったら絶対に文句を言い、口うるさく詮索するような気がします。男兄弟っていいなぁ~。(堀)
●2019年第13回田辺・弁慶映画祭コンペティション部門にてTBSラジオ賞を受賞
2018年/日本/カラー/45分+ラジオドラマ
配給:パルコ
©『中村屋酒店の兄弟』
https://nakamurayasaketennokyoudai.com/
★2022年3月4日(金)より渋谷シネクイントにてレイトショー先行公開
2022年3月18日(金)より全国順次公開
この日々が凪いだら
監督・脚本:常間地裕
撮影:萩原脩
主題歌:羊文学「夕凪」
出演:サトウヒロキ(宮嶋大翔)、瀬戸かほ(望月双葉)、山田将(藤大吾)、小田敦(嶋寛)、五頭岳夫(三田春雄)、藤原季節(長谷川恭介)、川瀬陽太(前田謙)
故郷を捨てるように上京してきた宮嶋大翔。建設現場で働く彼は、花屋で働く望月双葉と出会い、いつしか恋人同士の関係に。時代は平成から令和へと変化するも、二人の日々は穏やかに流れ、このまま何も変わらないかに思えた。しかし、住居の取り壊しや身近な人の死によって、彼らは変化を余儀なくされる。
「MOOSIC LAB 2019」では「ゆうなぎ」のタイトルで上映。羊文学とのコラボも話題となり、連日満席となった作品。
大翔と双葉のカップルの他に、大吾の日々も描かれ、あるときに交差します。わだかまりがあって故郷を捨ててきた大翔、聞くに聞けない双葉。
何かが足りない、とは誰もが思うものです。もう少しだけなのか、両手にいっぱいなのか、心の空き具合によるのでしょう。双葉が望んだのは小さな幸せでした。大翔くんわかってやってよ。
建設現場の先輩・藤原季節さん、故郷で働く川瀬陽太さん、そしてあちこちで地方出身らしいお爺ちゃん役で見かける五頭岳夫さんが、常間地監督の初長編作をぴりりと締めています。(白)
2021年/日本/カラー/84分
配給:Filmssimo
(C)映画「この日々が凪いだら」製作委員会
https://konohibi-naidara.com/#main_wrp
★2022年2月25日(金)シネマカリテほか全国順次公開
初日舞台挨拶左から常間地裕監督、瀬戸かほ、サトウヒロキ、山田将
常間地監督「撮影初日から藤原さんとの共演のシーンがあったことで、サトウさんの顔つきが明確に変わった瞬間があって、私も撮影のスタッフも、その表情を見たことで現場の雰囲気が変わりました。目指す方向が示されたように思え、お二人の共演シーンはとても印象的でした」
瀬戸「企画段階から話し合い、駅で撮影が行われたシーンは自身の経験が盛り込まれているため、とても印象深かった。そのこともあって、自分と近い感覚がある役となり、撮影中、自分なのか、双葉なのか曖昧になりました。ただ改めて見返すとちゃんと双葉だなと思いました」
山田「令和の最初に撮影があったので、それからあったことを、今さまざま思い出します。僕自身も作品に対して思い入れがありますし、たくさんの方々に届くことを祈っています」
サトウ「2019年からは皆さんにとっても苦しい期間だったと思います。自分が俳優部として一緒に映画を作って行く中で、何ができるのか、そこに光があると思ってやっていました。とあるミュージックビデオに本当に救われた時があり、これをしたい、これをやる価値があると思いました。また皆さんと再会できるように映画を作り続けたいです」
常間地監督「3人を含めキャストやスタッフを劇場公開まで待たせてしまったので、申し訳なく思う気持ちもありますが、この決断が正しいと言える日が来て欲しいと思います。(満員の客席を見て)この景色は双方、当たり前じゃないと実感しています。今日が来るまで、映画をやめようと考えたことも正直ありましたが、まだ頑張れる気がします」
2022年02月24日
愛なのに
監督:城定秀夫(じょうじょうひでお)
脚本:今泉力哉、城定秀夫
撮影:渡邊雅紀
主題歌:みらん「低い飛行機」
出演:瀬戸康史(多田浩司)、さとうほなみ(一花)、河合優実(岬)、中島歩(亮介)、向里祐香(美樹)、丈太郎(正雄)、毎熊克哉(広重)
古本屋の店主・多田は昔のバイト仲間の一花(いちか)が忘れられず、いまも独身。店に通ってくる女子高生・岬は万引きした挙句、多田に「結婚して」という。2人の年の差と好きな人がいるからと断るが、岬は諦めずにプロポーズしてくる。
多田が心を寄せる一花は亮介と婚約中で、結婚式の準備に余念がない。ウェディングプランナーの美樹は、一花の相談に親身にのる陰で亮介との関係を続けていた。
出てくる人の愛情のベクトルが一方通行ばかり。「想う人には想われず」というヤツですね。この何組かのカップルが、両想いになるのか、それとも破局するのか?
今泉力哉、城定秀夫の両監督が、お互いに脚本を提供し合ってコラボしたプログラムピクチャー”L/R15”(えるあーるじゅうご)第1弾!
今泉監督は心情を繊細に描いて、これまで拝見した恋愛映画のどれも好きでした。城定監督は『アルプススタンドのはしの方』で初めて作品を拝見。これは高校生の青春映画でしたが、ほかには『性の劇薬』など、おばちゃんにはちょっとハードルの高いVシネマやピンク映画をたくさん作られています。
3月18日には城定脚本、今泉監督のコラボ作品『猫が逃げた』が公開です。とぼけた表情の白黒猫・カンタ(オセロ)と広重が両作品をまたいで出演しています。そちらもお楽しみに。(白)
2022年/日本/カラー/107分/R15+
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
(C)2021「愛なのに」フィルムパートナーズ
https://www.lr15-movie.com/ainanoni/index.html
★2022年2月25日(金)ロードショー
焼け跡クロニクル
監督・撮影:原將人、原まおり
音楽:原將人
出演:原將人、原まおり
2018年7月、昔ながらの町家が残る京都西陣。路地奥にあった映画監督・原將人の自宅が不慮の火事で全焼した。幸い家族5人は無事だったものの、すべての家財道具と保管していた映画フィルムや機材が焼失してしまう。原は新作のデータを救いに火の中へ戻り、やけどを負って入院。夫を安心させようと、妻のまおりはとっさに家族の様子をスマートフォンで撮影した。焼け残ったフィルム映像と、火事の後の暮らしをまとめたドキュメンタリー。
これまでの人生で火事には遭っていませんが、子どもの頃、近所の友達の家が半焼したのと、1982年の長崎大水害を間近で体験したことがあります(社宅が高台だったので無事)。焼け跡や水が引いた後に息を飲みました。どんなにダメージを受けようが生活は続くので、すぐになんとかしなければいけないことが山積みでした。原家のご家族のようすを観ながら思い出しました。
映像のデータを取りに戻った夫、慌てて駈けつけながらもスマホで撮影した妻。なんと映画魂のあるご夫婦よ。きっと身体が動いてしまったんでしょう。屈託ない双子ちゃんが映った溶けかかったフィルムが、火事がほんとにあったんだよと見せてくれます。心身共に落ち着いて、この映画を作ることができたこと、お子さんたちが元気を取り戻していることにホッとしました。(白)
火事で家を失ったらどうなるのか。この作品を見て、その大変さを実感しました。白石さんが「どんなにダメージを受けようが生活は続く」と書いていますが、焼け跡に新しく建て直すにしても、別のところに家を見つけるにしても、それまで生活するところをまずは確保する。その上で食事や衣服を調達しなければいけない。そういった火事後のリアルな苦労をこの作品は見せていきます。
一方で焼け跡がどうなっているのかも映し出します。見えるところに取り出したいものがあっても現場には入れてもらえない。かろうじて焼け残った柱などがいつ倒れるかわからず、危険なのだそう。いや、でも入りたいでしょ。火傷を負う危険を顧みずに火の中に飛び込んだ原監督ですから。そこは、ね。持ち出したフィルムの使えるところを繋いでいる原監督の真剣な眼差しに、この監督が次に撮る作品がどんなものになるのか、すごく楽しみになりました。(堀)
2021年/日本/カラー/85分
配給:マジックアワー
(C)2022「焼け跡クロニクル」プロジェクト
http://www.yakeato-movie.com/
★2022年2月25日(金)ロードショー
2022年02月22日
チェチェンへようこそ ーゲイの粛清ー 原題:Welcome to Chechnya
監督:デイヴィッド・フランス
ロシア支配下のチェチェン共和国で国家主導の"ゲイ狩り"が横行している。チェチェンではゲイやトランスジェンダーであることは悪とされ、国家警察や自身の家族から拷問を受け、殺害され、社会から抹消されている。LGBTQの人々は息をひそめ恐怖に怯えて暮らしている。
フランス監督は、決死で国外脱出を試みるLGBTQの人々と、彼らの救出に奔走する活動家たちの姿をゲリラ撮影の手法で追って、驚くべき実情を暴き出す。
なお、本作では、命の危険に晒された避難者の身元を保護するため、彼らの声を変え、偽名を採用し、ディープフェイクの使用法を更に進化させた「フェイスダブル」技術を駆使し身元を特定不能にしている。
取材対象者
“アフマド”:活動家らが運営するシェルターに身を寄せる青年の一人。チェチェンの迫害による避難者を受け入れているカナダへ渡る。
“アーニャ”:チェチェン政府高官の娘。男性の親類から干渉と絶え間ない監視を受け、自宅で監禁状態に置かれていた。性的指向が知られてしまい、国外への脱出を余儀なくされる。
デイヴィッド・イスティーフ:ロシアLGBTネットワークの危機対応コーディネーター。サンクト・ペテルブルグに拠点を置いていた元ジャーナリスト。チェチェンの迫害問題に取り組み、活動を率いる。
“グリシャ”:チェチェンで拘束され拷問を受けた生存者。そもそもチェチェン出身者ではないが、仕事のためチェチェンに滞在していた。チェチェン人でないことが確認され、沈黙を守るということで一旦解放されるが・・・
オリガ・バラノバ:モスクワLGBT+イニシアチブコミュニティセンターの創設ディレクター。コミュニティメンバーの危機回避のため、国内最大のシェルターを開設し運営を行う。
チェチェンの反体制派の人たちが、亡命先でも殺害されるなど、人権侵害が激しいことは耳にしていましたが、LGBTQの人たちが国家主導で弾劾されている実情を本作で目の当たりにして驚きました。 チェチェン共和国というとイスラーム教徒が大半の国。イスラームで同性愛がタブーとされているとはいえ、これほどまで粛清の対象にされているとは!
昨年12月18日に、日本学術振興会カイロ研究連絡センター主催で行われた毎日新聞カイロ支局長 真野森作様のご講演「ロシアから見たシリア内戦、そしてチェチェン」の中で、その事情の一端を知る言葉がありました。
シリアで台頭した「イスラム国」(IS)の構成員のうち約1500人(2014年現在)のロシア人のほとんどがチェチェン出身だったこと。
チェチェンで独裁者カディロフ首長の体制に閉塞感を抱え過激化した若者たちが、シリアやイラクという行先がなくなり、地元で荒れている。
イスラームを極端に解釈する若者たちの矛先が、LGBTQの人たちにも向かっているのでしょう。
下記に、「ロシアから見たシリア内戦、そしてチェチェン」のご講演内容についても触れています。
『チェチェンへようこそ ーゲイの粛清ー』(2月公開) 関連トークイベントが12/21に開催されます
フランス監督は、同性愛者権利グループがLGBTの虐待犠牲者を救出する地下活動に同行し、避難した人々の身の安全だけでなく心理面や経済面でもサポートし、ロシア国外へ脱出させる支援をしている様を映し出しています。監督にとっても身に危険がおよぶかもしれず、勇気に感銘を受けました。(咲)
2020年製作/107分/アメリカ・イギリス合作
配給:MadeGood Films
公式サイト:https://www.madegood.com/welcome-to-chechnya/
★2022年2月26日ユーロスペース、シネ・ヌーヴォ、MOVIX 堺、元町映画館 ほか全国上映開始
牛久
監督・撮影・編集:アッシュ・トーマス
茨城県牛久市にある“東日本入国管理センター”、通称「牛久」。
全国に17カ所ある“不法滞在者”を強制的に収容している施設の一つ。在留資格のない人、更新が認められず国外退去を命じられた外国人が“不法滞在者”として収容されている。紛争などにより出身国に帰れず、難民申請をしている人も多くいる。
本作は、トーマス・アッシュ監督が当事者達の了解を得て、面会室で彼らの訴える言葉を“隠し撮り”で記録したものである。
トルコのクルド人デニズ。国に帰れば殺されると難民申請しているが認められない。
カメルーン出身のルイス。中央アフリカでのクーデターで家族を失い、2002年に日本へ。難民申請が認められないまま月日が経った。
LGBTQのナオミ。男性しか収容されない牛久で居心地が悪い。ハンガーストライキして仮放免。
そのほか、クラウディオ、C(シー)、ニコラス、アリー、ピーター。
それぞれの語る日本の入管の厳しい現実・・・
監督のアッシュ・トーマスは、もともとボランティアとして牛久の東日本入国管理センターを訪れ、収容されている人たちの話を聞いていて、彼らの言葉を映画の力で、日本の市民や世界に伝えることができないだろうかと考えるようになったとのことです。
隠し撮りの動画は、見ていて、ちょっと息苦しくもなります。でも、それが収容されている人たちの現実そのものなのだと感じました。
アッシュ・トーマス監督が、仮放免されたアリーを食事に誘う場面がありました。大宮のシュルーというペルシャ料理のお店で、2020年5月に残念ながらコロナに負けて閉店してしまったイラン人のカミさんが経営していたお店でした。彼はお店を辞めても奥様が日本人だし、すでに在留資格を持っているのかなぁ~と、ふと思いました。
外国籍の人が婚姻により在留資格を得たものの、日本人や日本の在留資格を持つ配偶者と死別や離別すると、在留資格を失うという現実があります。私の知人で、離婚して在留資格を失い、入管に相談に行ったところ、「またいい子見つけて結婚すれば」と言われ、悔しいので起業して在留資格を得た人がいます。日本で暮らしたいという人に、どうして、こうも冷たいのでしょう。しかも、国に帰れば身の危険があると申告している人のことを、どうして信じてあげないのでしょう。スリランカ出身女性・ウィシュマさんが入管に収容中に亡くなられたことは、日本国家として恥ずべきこと。二度とこんな不祥事を起こさないようにしてほしいものです。そして、在留希望者にもっと柔軟な対応をしてくれることを願うばかりです。(咲)
国内外から批判が出ているのに、入管はなぜこうも変わらないのでしょう。刑務所のほうがましでは?と思えてきます。外国から命からがら逃げてきた人たちや、夢や希望を持ってやって来た人たちが、人として尊重されていません。収容所で長い間閉じ込められるのはなぜ?一定期間外に出られても、働くことはできずその間どうやって生きていけと?人手がほしい人と働きたい人を結ぶことができないのは、どこが滞っているのでしょう?収容所で無為に過ごすより、日本語や生活習慣をレクチャーするとか、出てからの暮らしが成り立つように援助することはできないのでしょうか。制服姿の職員が羽交い絞めにして、押さえつける姿に愕然としました。
久しぶりに試写室で観られた作品がこの『牛久』で、これはたまたま日の目があたっただけで、お役所だから全国似たような状況なのだろう、と、どんよりして家路に着きました。映像で知らせてくださったアッシュ・トーマス監督には感謝。(白)
試写後にトーマス・アッシュ監督とクルド人デニズさんが登壇して、話をされました。デニズさんはとりあえず牛久の東日本入国管理センターを出ることができたよう。作品のときよりも日本語が格段にうまくなっていて、今の状況や思いを語っていました。
そこで知ったのが、センターを出ることはできても働くことは許されていないということ。かといって、生活費が支給されているわけではありません。いったいどうやって生活しろというのでしょうか。「霞を食べて生きていけるって本気で思っている?」と入管の方に聞いてみたくなりました。(堀)
2021年/日本/87分/DCP/16:9
配給:太秦
公式サイト:https://www.ushikufilm.com/
★2022年2月26日(土)より、東京:シアター・イメージフォーラム、茨城:MOVIXつくば他、全国順次公開
ハード・ヒット 発信制限 原題:발신제한(発信制限) 英題:Hard Hit
監督:キム・チャンジュ
出演:チョ・ウジン、イ・ジェイン、チ・チャンウク
銀行支店長として働くソンギュ。副頭取からの電話で目を覚ます。朝寝坊したのに、いつもなら妻が学校に送る娘と息子を車の後部座席に乗せて、桜並木の海沿いの道を走らせる。息子の学校に着こうとするころ、“発信番号表示制限電話(非通知電話)”がかかってくる。声の主は男。「座席の下に爆弾を仕掛けた。席を立つと爆発する」と警告される。信憑性はないが、学校を通り過ぎて、そのまま車を走らせる。部下の副支店長から電話がかかってくるが、彼の車が目の前で爆発し、ソンギュの息子の脚が撃たれる。一体、彼らを狙う声の主は誰なのか、そして、なぜ彼らに爆弾を仕掛けたのか・・・
席を立つと爆発すると脅され、車から降りれないソンギュたちの姿に、観ている私も緊張してしまいました。チ・チャンウクが出ているとあって、楽しみに観始めたのですが、なかなか出てきません。実は、声の主がチ・チャンウクでした! 思えば、確かに彼の声。甘いです♪ もちろん、ちゃんと姿も出しますから、ファンの方、ご安心を! (でも、なかなか出てきません・・・)
キム・チャンジュ監督は、これまで『あなた、そこにいてくれますか』『観相師-かんそうし-』『スノーピアサー』『テロ・ライブ』等々、幅広いジャンルのヒット作を手掛けてきた韓国映画界トップの編集マン。本作が長編監督デビュー。
銀行支店長を演じたチョ・ウジンは、『SEOBOK/ソボク』での敵役が記憶に新しいですが、本作が映画初主演。
そのほか、リュ・スンス(釜山海雲台警察署長役)、チン・ギョン(警察・パン班長役)、キム・ジホ(ソンギュの妻役)と、映画やドラマでお馴染みの顔ぶれです。
何より、桜が満開の釜山の海沿いのダイナミックな風景が素晴らしいです。(咲)
こういう緊張が続く作品に弱い小心者です。酷い目に遭うのが他人事ながら怖くて、本なら後ろをまず読んで生き残るかどうか確認したくなります。『スピード』は止まったら爆発ですが、これは立ち上がったら爆発です。犯人はどこからか監視していて、遠隔操作されているため小細工もできません。とてもハラハラしますので覚悟して観てくださいね。
この設定なんだか覚えがある…と思ったらドイツ映画の『タイムリミット 見知らぬ影』(クリスティアン・アルヴァルト/2018)で、それもスペイン映画の『El Desconocido』(2015)のリメイク。スペイン語題名は「未知なるもの」だそうで、ドイツ映画も同じようなタイトルにしたんですね。検索で『暴走車 ランナウェイ・カー』とヒットしたので公開されていたようです。
国は違えど、無情な組織、家族のすれ違いや愛情は共通しているので、どこでリメイクしてもヒットするのでしょう。日本で作るなら誰がいいかな、とつい妄想。(白)
2021年/韓国/韓国語/94分/シネマスコープ/5.1ch
字幕翻訳:福留友子
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-asia.com/hardhit/
★2022年2月25日(金)シネマート新宿ほか 全国ロードショー
2022年02月20日
若手作家育成プロジェクト
文化庁が主催する「短編映画製作等を通じた若手映画作家人材育成」(「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」)は、次代を担う若手映画作家の発掘と育成を目的に、映像産業振興機構(VIPO)が文化庁から委託を受けて2006年度より運営する人材育成事業です。具体的には、若手映画作家を対象として、ワークショップや製作実地研修をとおして作家性を磨くために必要な知識や本格的な映像製作技術を継承することに加え、上映活動等の作品発表の場を設けることで、今後の活動の助力となるよう支援します。
HP http://www.vipo-ndjc.jp/
pdfダウンロードはこちら
◆東京
上映日時:2022年2月 25日(金)~3月3日(木)連日18:30〜
上映劇場:角川シネマ有楽町(map)
入場料金(4本まとめて)
一般¥1,300円、学生・シニア¥1,100円(すべて税込)
※全席指定
※チケットは劇場HPまたは劇場窓口にてお求めください。
上映順
『遠くへいきたいわ』団塚唯我監督
『なっちゃんの家族』道本咲希監督
『LONG-TERM COFFEE BREAK』藤田直哉監督
『少年と戦車』竹中貞人監督
◆大阪
上映日時:2022年3月4日(金)~10日(木)連日18:00〜
上映劇場:シネ・リーブル梅田(map)
入場料金ほかは東京と同様
◆名古屋
上映日時:2022年3月18日(金)~24日(木)連日18:00~
上映劇場:ミッドランドスクエア シネマ(map)
入場料金ほかは東京と同様
テアトルクラシックス第1弾「愛しのミュージカル映画たち」
誰もが知る不朽の名作、密に人気を博す隠れた傑作を、東京テアトルのセレクションで贈るスペシャル・プRグラムが誕生。
往年の映画ファンには古き良き時代の思い出の作品を二谷スクリーンで堪能する喜びを、これまでN旧作に馴染みのなかった若い世代にはクラシック映画の素晴らしさをお届けします。
第1弾「愛しのミュージカル映画たち」
★2022年2月25日(金)より6作品を一挙上映!
公開劇場はこちら
詳細はHPでどうぞ
https://www.theatres-classics.com/
『若草の頃』(原題:Meet Me in St. Louis)
第17回 アカデミー賞(1945年)
脚色賞/撮影賞/作曲賞/歌曲賞 ノミネート
1944年|113分|アメリカ|カラー|スタンダード
監督: ヴィンセント・ミネリ
原作: サリー・ベンソン
脚色: アービング・ブレッチャー フレッド・F・フィンクルホフ
製作: アーサー・フリード
撮影: ジョージ・J・フォルシー
音楽: ジョージー・ストール
出演:ジュディ・ガーランド マーガレット・オブライエン メアリー・アスター ルシル・ブレマー トム・ドレイク
セントルイスで万博が開催された20世紀初めの物語。裕福な銀行家の暮らしぶりや姉妹の衣裳が可愛い。『若草物語』のベス役で観客を泣かせたマーガレット・オブライエンがここではやんちゃな妹役で名子役ぶりを見せています。
『イースター・パレード』(原題:Easter Parade)
第21回 アカデミー賞(1949年)作曲賞受賞
1948年|103分|アメリカ|カラー|スタンダード
監督: チャールズ・ウォルターズ
原作: フランセス・グッドリッチ アルバート・ハケット
脚色: シドニー・シェルダン フランセス・グッドリッチ アルバート・ハケット
製作: アーサー・フリード
撮影: ハリー・ストラドリング
作詞・作曲: アーヴィング・バーリン
振付: ロバート・アルトン
出演:ジュディ・ガーランド フレッド・アステア ピーター・ローフォード アン・ミラー
長年のパートナーに去られたダンサーのドンは、酒場で出会ったハンナを特訓する。ハンナは魅力を開花させ大人気のコンビとなった。ジュディ・ガーランドとフレッド・アステアの歌と踊りが楽しい作品。
『巴里のアメリカ人』(原題:An American in Paris)
第24回 アカデミー賞(1952年)
作品賞/脚本賞/撮影賞/作曲賞/美術賞/衣裳デザイン賞 受賞
1951年|113分|アメリカ|カラー|スタンダード
監督: ヴィンセント・ミネリ
脚本・原作: アラン・ジェイ・ラーナー
製作: アーサー・フリード
撮影: アルフレッド・ギルクス
音楽: ジョージ・ガーシュウィン
振付: ジーン・ケリー
出演:ジーン・ケリー レスリー・キャロン オスカー・レヴァント ジョルジュ・ゲタリー
先日リメイクが公開された軽快で王道のミュージカル映画。可愛いパリ娘リズ役のレスリー・キャロンはバレリーナだったのが、ジーン・ケリーに見出されてこの作品でデビュー。この傑作ミュージカルの監督ヴィンセント・ミネリは、1945年にジュディ・ガーランドと結婚してライザ・ミネリを授かりましたが、5年後に離婚しています。
『紳士は金髪がお好き』(原題:Gentleman Prefer Blondes)
1953年|91分|アメリカ|カラー|スタンダード
監督: ハワード・ホークス
製作: ソル・C・シーゲル
原作: ジョゼフ・フィルズ、アニタ・ルース
撮影: ハリー・J・ワイルド
音楽: ライオネル・ニューマン、ジュール・スタイン
出演:ジェーン・ラッセル マリリン・モンロー チャールズ・コバーン
姉御肌なジェーン・ラッセルが素敵、妹分のマリリン・モンローがとっても可愛くて目を奪われます。男性は頭のいい女よりおバカでセクシーな女が好き、と認識していた実は頭のいい女性。バックダンサーの中にまだ無名のジョージ・チャキリスがいます。右端。
『上流社会』(原題:High Society)
第29回 アカデミー賞(1957年)
作曲賞/歌曲賞 ノミネート
1956年|111分|アメリカ|カラー|アメリカンビスタ
監督: チャールズ・ウォルターズ
原作:フィリップ・バリー
脚色:ジョン・パトリック
製作:ソル・C・シーゲル 撮影:ポール・C・ボーゲル
音楽:コール・ポーター ジョニー・グリーン ソウル・チャップリン チャールズ・ウォルターズ
出演:ビング・クロスビー グレース・ケリー フランク・シナトラ ルイ・アームストロング
離婚した若い妻(グレース・ケリー)に未練たっぷりな男(ビング・クロスビー)は、再婚する元妻を取り返したい。再婚相手はやきもき。上流階級の取材にやってくる記者をフランク。シナトラ、パーティのゲストにルイ・アームストロングとなんとも豪華。グレース・ケリーがモナコ王妃になる前に出演した最後の作品。どこから見ても美しい。
『ビクター/ビクトリア』
第55回 アカデミー賞(1983年)
歌曲・編曲賞 受賞 主演女優賞/助演男優賞/助演女優賞/脚色賞/衣裳デザイン賞 ノミネート
[1982年製作|133分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|原題:VICTOR VICTORIA]
監督・脚本:ブレイク・エドワーズ
製作:ブレイク・エドワーズ トニー・アダムス 美術: ロジャー・マウス 撮影: ディック・ブッシュ
音楽: ヘンリー・マンシーニ 振付: パディー・ストーン
出演:ジュリー・アンドリュース ジェームズ・ガーナー ロバート・プレストン レスリー・アン・ウォーレン
ジュリー・アンドリュースが売れないオペラ歌手役。相棒になった芸人からのアイディアが大当たり。ゲイの「女装する男」として人気を博す。ところが愛する男性ができて、とややこしいコメディ。ジュリー・アンドリュースの歌やダンスがたっぷり。
ゴヤの名画と優しい泥棒(原題:The Duke)
監督:ロジャー・ミッシェル(『ノッティングヒルの恋人』『ウィークエンドはパリで』)
脚本:リチャード・ビーン、クライヴ・コールマン
撮影:マイク・エリー
出演:ジム・ブロードベント(ケンプトン・バントン)、ヘレン・ミレン(ドロシー・バントン)、フィオン・ホワイトヘッド(ジャッキー・バントン)、アンナ・マックスウェル・マーティン(グロウリング夫人)、マシュー・グード(ジェレミー・ハッチンソン)
197年の歴史を誇る美術館・ロンドン・ナショナル・ギャラリーで1961年、スペイン最大の画家と謳われるフランシスコ・デ・ゴヤの「ウェリントン公爵」盗難事件が起こった。この美術館の長い歴史の中で唯一にして最大の事件の犯人は、60歳のタクシー運転手ケンプトン・バントン。彼はゴヤの絵画を“人質”に取り、イギリス政府に対して身代金を要求。TVが唯一の娯楽だった時代、孤独な高齢者たちにはイギリスの公共放送であるBBCの受信料が重荷だった。彼らの生活を助けようと身代金で受信料を無料にしようと行動を起こしたと言う。しかし、事件にはもう一つの隠された真相があった。実話に基づく物語。
老夫婦を演じたイギリスの名優お2人の掛け合いが素晴らしい。実話のご本人たちにとても似ていて60年代の庶民になりきっています。小説執筆やモノ申すことに熱心な夫ケンプトンを支え、家政婦の仕事で暮らしを担う妻ドロシー。彼女に同情しつつ、当時のイギリスの庶民の暮らしぶりを興味深く観ました。頑なに見えるドロシーが抱えている悲しみも明らかになっていきます。
ほかの人が胸にしまっていることをケンプトンははっきりと口にして抗議します。おかげでパン工場を首になりますが。映画の山場である法廷場面での受け答えには大笑いでした。当時の裁判記録に基づいた台詞だそうなので、この楽天的なケンプトンのユーモアあふれる姿勢が評決に繋がったのではないかしらん。
60年前に彼が訴えた英国のBBCの受信料制度、今年の1月18日「見直しの時期にきている」と文化相(正確にはもっと長い名称)が表明しました。各国に影響がありそうですが日本のNHK受信料はどうなる??(白)
「事実は小説より奇なり」の諺を地でいくようなストーリーである。主人公のバントンは正しいと思ったことをすぐ口にする性格のせいで、妻ドロシーとも口論が絶えない。やることなすこと妻の機嫌を損ねて叱責される夫は、なかなかに痛ましい。盗んだ名画で身代金を得られれば人々を助けられると小躍りしたのも束の間、ひょんなことから計画が発覚して逮捕されてしまう。バントンの“正義”は報われないのか。観る側にフラストレーションが溜まりに溜まったところで、本作の見せ場である裁判シーンを迎える。ユーモアあふれるバントンの語りに法廷は笑いに包まれ、やがてその笑いによって、法廷が小さき者の存在に共感し、生きづらさを共有し、その勇気を称賛しようとする空気に変わっていく。裁判に集う人々の気持ちが一つに収斂していくさまは、感動的でさえある。
バントンは孤独な高齢者がテレビに社会とのつながりを求めていたと考えていた。現代のテレビ放送はそうした役割を果たせているか。テレビやNHKのあり方にも思いを巡らせる映画である。(堀)
実話に基づく物語で、記録に残っていた裁判記録からケンプトンの日常の人物像も描いたのでしょう。喋りが過ぎ、呆れられたり、仕事をクビになったりのケンプトンですが、本人はおおまじめに正義の味方。パキスタン人の若い同僚が休憩時間のことで差別された時には、「誰にも私の心を土足で踏みにじらせない」と、マハトマ・ガンディの言葉を語ります。
ワーテルローの戦いで勇敢に戦ったウェリントン公爵の絵を英国が取り戻したというニュースを見て、「彼は普通選挙に反対した人物」とつぶやくケンプトン。しかも、「あの絵の代金を払ったのは我々納税者。上流のやつらはやりたい放題」と不服なのです。
同じような事例は、日本にもたくさんありそうです。血税を、まるで自分のお金のように、無駄遣いするお上。例えば、アベノマスク。最初の発想にも驚きましたが、その後の保管料に廃棄料、さらには引き取ってくれる人への発送料! ケンプトン見習って、声をあげなくちゃ! (咲)
2020年/イギリス/カラー/シネスコ/95分
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
(c)PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020
公式サイト:happinet-phantom.com/goya-movie/
公式Twitter:@goya_movie #ゴヤの名画と優しい泥棒
★2022年2月25日(金)TOHOシネマズシャンテほかロードショー
選ばなかったみち(原題:The Roads Not Taken)
監督・脚本:サリー・ポッター
撮影:ロビー・ライアン
音楽:サリー・ポッター
出演:ハビエル・バルデム(レオ)、エル・ファニング(モリー)、ローラ・リニー(リタ)、サルマ・ハエック(ドロレス)
メキシコ人移民の作家のレオは若年性認知症を患い、誰かの助けなしには生活できなくなっていた。通いのヘルパーと離婚した元妻との娘モリーが訪ねてくれるが、徐々に意思疎通も困難になっている。モリーは職場に遠慮しながら、父親に付き添って病院へと急ぐ。娘と同じ時間を過ごしながら、レオの脳裏をめぐるのは現実世界ではない。かっての初恋の相手、ドロレスの面影と故郷の風景ばかり。あのとき別れなければ、どうなっていたのか、自分は妻と娘を犠牲にしていたのか、と幻想は止まらない。
サリー・ポッター監督が自身の弟を介護した経験をもとに脚本を執筆、映画化されました。父親レオの脳内での幻想風景と、現実を生きる娘モリーの24時間のストーリーです。選ばなかった道、は混乱するレオが過去の幻想の中で逡巡する道です。ああしていたら、こうしていたらというのは、現実世界の中でも思うことですが、日々の暮らしの中でしょっちゅう浮かぶわけではありません。
現実世界から浮遊しているレオはずっとその中にいて、そんな父親を理解し支えようとするモリーの負担はとても大きいのです。ことにその日は、モリーにはとても大切な仕事がありました。何度も職場に電話をかけるモリーが痛々しく、愛情はわかったからもう少し他人の手を借りたらいいのにと思ってしまいました。
若年性認知症はその字のとおり、年齢に関わらず若い人にも起こります。動脈硬化を起こさないように、ストレスや疲労を貯めないようにするくらいしか予防を思いつきません。難しい主題を初共演で演じたハビエル・バルデムとエル・ファニングに泣かされました。(白)
第70回ベルリン国際映画祭(コンペティション部門 出品)
2020年/イギリス・アメリカ合作/カラー/シネスコ/86分
配給:ショウゲート
(c) BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020
https://cinerack.jp/michi/
https://www.facebook.com/showgate.youga/
★2022年2月25日(金)ロードショー
ドリームプラン(原題:King Richard)
監督:レイナルド・マーカス・グリーン
脚本:ザック・ベイリン
撮影:レイナルド・マーカス・グリーン
出演:ウィル・スミス(リチャード)、アーンジャニュー・エリス(オラシーン)、サナイヤ・シドニー(ビーナス)、デミ・シングルトン(セリーナ)、トニー・ゴールドウィン(ポール・コーエン)、ジョン・バーンサル(リック・メイシー)
リチャード・ウィリアムズはプロテニスプレイヤーが多額の賞金を手にしたのを見て、自分の子どもを世界最強のプレイヤーに育てようと夢みる。看護師の妻オラシーンとの間に4人の娘たちに恵まれた。テニス未経験のリチャードだったが、娘たちが生まれる前に世界チャンピオンにするための78ページもの企画書=ドリームプランを書き上げ、愛妻と共に娘たちを特訓する。ビーナスとセリーナの才能を信じたリチャードは、その無謀なプランを胸に、すでに自分たちの指導では物足りなくなった2人のためにコーチを探し回る。
ウィル・スミスが映画化を熱望した”実話”から生まれた物語です。本当にこういうパパがいたんだ、と驚きますが、世界最強のテニスプレイヤー、ビーナス&セリーナ姉妹がその証拠。周りからの非難や顰蹙を買いながらも、娘たちの可能性を信じてひるむことがありません。何人もの名コーチと呼ばれる人を訪ね歩きますが、コーチ料も払えないのがわかるとけんもほろろに追い返されます。
ビーナスとセリーナの才能を見抜いたコーチによって、2人は困難を乗り越えながら、成功の階段を上がっています。
家族映画としてもスポ根ものとしても、面白く観られます。製作・主演のウィル・スミスは、アクションもコメディにおいてもトップスターですが、こういうヒューマンドラマに一番はまります。癖の強いお父さんを見てくださいな。(白)
2021年/アメリカ/カラー/シネスコ/144分
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
https://wwws.warnerbros.co.jp/dreamplan/
★2022年2月23日(水・祝)ロードショー
金の糸 原題:OKROS DZAPI 英語題: GOLDEN THREAD
監督・脚本:ラナ・ゴゴベリゼ
撮影:ゴガ・デヴダリアニ
音楽:ギヤ・カンチェリ
出演:ナナ・ジョルジャゼ、グランダ・ガブニア、ズラ・キプシゼ
トビリシ旧市街の古い家。石畳の道を見下ろす部屋。
“失われた時を求めて・・・”
作家のエレネはパソコンに向かい、人生を振り返る。
今日は彼女の79歳の誕生日。だが、一緒に暮らしている娘夫婦は忘れている。それどころか、娘ナトから姑のミランダにアルツハイマーの症状が出始め、一人住まいは心配なので、この家に連れてくると告げられる。
エレネはミランダが来るなら自分が彼女に家に移ると言い張る。ソ連時代に政府高官だったミランダには苦い思い出があるのだ。
そんな折、60年前の恋人アルチルから誕生日を祝う電話がかかってくる。かつてのように野の花を届けたいと。石畳の通りで朝までタンゴを踊った若き日を思い出す二人。
「妻を亡くし、君しか話し相手がいない」と、その日以来、折に触れて電話してくるアルチル。
一方、引っ越してきたミランダとの暮らしは、エレネの心をかき乱す。
テレビ出演したアルチルを見て、「昔、私に思いを寄せていた青年」というから、エレネはさらに面白くない。
自分と同じ名前の曾孫のエレネに、「金継ぎ」アート作品を壁に飾りながら、陶磁器の破損部分を金色に仕上げる日本の伝統的な修復技法を説明し、自分の過去の確執も修復したいと語る・・・
大粛清もあったソ連時代を経て、独立したジョージア。エレネはソ連政府の高官だったミランダから著書の出版禁止を言い渡され、その後、書けないでいたことをミランダにぶちまけます。小さな人形を作りながら、曾孫に、「私のお母さんが流刑中に作っていたのよ」と語るエレネ。
本作を91歳で紡いだラナ・ゴゴベリゼ監督。母ヌツァ・ゴゴベリゼは1934年に『ウジュムリ』を製作したジョージア最初の女性監督。父レヴァンは1937年の大粛清で処刑され、母も10年もの間、流刑されています。残されたラナは孤児院を経て、おばに引き取られ、成長後、強制収容所から帰還した母と再会。そんな過去も本作に反映されています。
トビリシの趣のある旧市街の家で、ゆるやかに語られる本作。2019年に亡くなった世界的作曲家ギヤ・カンチェリによる音楽が、静かに奏でられ、過去へのさまざまな思いにいざなわれました。
ジョージア映画祭2022で、ラナ・ゴゴベリゼ監督の『インタビュアー』(1978年)が上映され、観ることができました。妻であり母でありながら新聞記者として、様々な女性たちに取材するソフィコ。夫には家を留守にすることの多い仕事を辞めないからと浮気され、上司からは、出張のないポジションを提示されます。女性が本領を発揮できない家父長社会でもがく姿が鮮やかに描かれていました。
エレネを演じたナナ・ ジョルジャゼは、『インタビュアー』でインタビューを受ける女性の一人を演じていました。女優だけでなく、衣装や美術などで様々な映画に関わり、1979年に『ソポトへの旅(Mogzauroba Sopotshi)』で監督デビューもしているジョージアを代表する女性監督の一人。心に葛藤を抱えたエレネを素敵に演じています。(咲)
☆ラナ・ゴゴベリゼ監督メッセージ☆
公開を前に、93歳のラナ・ゴゴベリゼ監督より、今年で閉館となる岩波ホールと観客に向けたメッセージが届きました。
岩波ホールにはたくさんの思い出があります。80年代に私の映画『インタビュアー』を上映してくださったこと、その後『転回』が東京国際映画祭に選ばれて来日した際(その時の審査委員長はグレゴリー・ペックでした!)、温かく歓迎してくださったこと、私はその時、監督賞をいただいたのですが、当時、岩波ホールの総支配人だった髙野悦子さんが、私以上に喜んで、二人で抱き合って喜んだことが今でも思い出されます。映画への情熱が身体中から溢れ出ているような、忘れられない女性でした。歳をとると、かつての知人たちが次々にいなくなっていくものです。けれど、何歳になっても新しい出会いはあります。『金の糸』が日本で、若い世代の方たちとも出会えることを楽しみにしています。
◆ラナ・ゴゴベリゼ監督オンライン舞台挨拶
日時:2/26(土)13:00の回&15:30の回上映後
会場:岩波ホール
◆『金の糸』上映後トーク
スケジュール:※すべて13:00の回上映後
3/3(木)加藤登紀子さん(歌手)
3/10(木)はらだたけひでさん(画家・ジョージア映画祭主宰)①
3/17(木)ティムラズ・レジャバさん(駐日ジョージア大使)
3/24(木)はらだたけひでさん②
3/31(木)はらだたけひでさん③
4/7(木)五月女颯さん(ジョージア文学・批評理論研究)
4/14(木)廣瀬陽子さん(慶応大学教授・コーカサス地域研究)
2019年/ジョージア=フランス/91分
字幕:児島康宏
配給:ムヴィオラ
©️ 3003 film production, 2019
公式サイト:http://moviola.jp/kinnoito/
★2022年2月26日(土)より東京・岩波ホールほか全国順次公開
2022年02月13日
白い牛のバラッド 原題:Ghasideyeh gave sefid 英題:Ballad of a White Cow
監督:ベタシュ・サナイハ、マリヤム・モガッダム
出演:マリヤム・モガッダム、アリレザ・サニファル、プーリア・ラヒミサム
夫ババクが殺人罪で処刑されて1年。ミナは牛乳工場で働き、ろうあの娘ビタを育てながら必死に生きている。ある日、裁判所に呼び出され、義弟と共に出向く。真犯人が見つかり、2億7千万トマンの賠償金が出るといわれる。泣き崩れるミナ。賠償金よりも、夫を死刑に追い込んだ判事に謝罪をしてほしいとミナは裁判所に行くが、会ってもらえない。
そんな折、夫の友人のレザだと名乗る男が訪ねてきて、生前借りた1千万トマンを返したいという。さらに、娘ビタの学校に車で迎えにいくなど手助けしてくれる。だが、数日後、大家の夫人から、「夫がよその男を家に入れたのを見て、今月で出ていってほしいと言ってる」と申し訳なさそうに告げられる。不動産屋に行くが、未亡人、ペットの飼い主、麻薬は嫌がられると、部屋が見つからない。それを知ったレザが、ちょうど空いた部屋があると提供してくれる。一難去って、義弟から義父がビタの親権を求めて訴えたと連絡が入る。
その後、倒れたレザを行きがかり上、ミナが家で面倒をみることになる。ビタと3人、まるで家族のような暮らしに安らぎを感じ、レザに心を寄せ始めるミナ。そんなミナに義弟がレザの正体を告げる・・・
舞台はイランの首都テヘラン。冤罪で夫を死刑にされた喪失感を抱えた女と、心に葛藤を抱える男性が互いの距離感を縮めるうちに、思いもよらぬ結末を迎えることになる。こう書くと日本のテレビの2時間ドラマのようだが、イランの映画は一味違う。未亡人でシングルマザーの女性が幼い娘を抱えて困窮するのはどこの国にもある不幸な現実だが、そこに夫や親戚でもない男が、女性しかいない家に入るという行為が良しとされないイスラーム社会固有の事情も描かれる。主人公の女性は弱い存在であるが、闘志を内に秘める人でもある。自分を取り巻く理不尽な状況に立ち向かう女性が下した決断に、本作を観る者は等しく慄くだろう。普段見慣れたサスペンスモノとは一味も二味も違う。文句なしに面白い作品である。(堀)
予測不能なサスペンスフルな展開に、ぞくぞくさせられました。監督の一人マリヤム・モガッダムが主役ミナを演じ、喪失感の中で出会った男性に次第に思いを寄せていく様を見事に描き出しています。実によく出来た面白い作品なのに、イランでは2020年2月のファジル国際映画祭で3回上映されただけで、政府の検閲により劇場公開の許可が下りていないとのこと。どこが引っ掛かったのかと、考えてみました。死刑については、公開されている映画があるし、冤罪についても脚本段階で検閲を受けているので、違うだろうと。
次に、髪の毛を全面的に見せている場面。ミナが口紅を濃く塗って、レザのいる部屋に入っていく時に、スカーフをはずしています。また、娘ビタも学校を出たところで、スカーフをはずしていました。
ビタという娘の名前は、夫が革命前の有名な歌手グーグーシュ主演の映画『ビタ』が好きでつけたとありました。映画の場面がテレビの中に映し出されていて、もちろんグーグーシュは髪の毛も肌も出しています。革命後、女性がソロで歌うことは禁止され、グーグーシュも活動できなくなっています。
恐らく、細かく削除を求められた以外にも、検閲官の気に障ることがあったのでしょう。
イランで、こんなことも禁止されていると驚くことも描かれています。それは犬。
ミナが引っ越し先の上の階の家に鍵を取りにいった時に、犬の鳴き声が聞こえてきて、おっ来たなと思いました。その後、庭に犬がいるのをみて、レザが汚いから家に入れるようにと言い、犬の飼い主が、大通りで散歩させられないから庭に放させてもらったと言っています。犬は預言者ムハンマドが不浄だとした伝承から、イスラームでは忌み嫌われてきました。イランでペットとして飼う人が増えて、2011年頃に、国会で「犬の所持禁止法案」が審議されていました。家の中で飼うことと、散歩は例えば住宅団地などだとその域内はOKという形で、その時には決着したようです。2019年、首都テヘランでは、公共の場での犬の散歩が禁止になり、犬を車に乗せて運転することも禁止されてしまいました。イランの友人に聞いたところ、真夜中や明け方に大通りを散歩させたり、犬の飼い主たちで集まったりと、頑張って抵抗しているとのことです。
理不尽な冤罪を描いた映画ですが、イラン贔屓の私にとっては、イランの中流の人たちの暮らしがさりげなく描かれていて、イランの社会や文化を知っていただく機会になる映画だと思いました。
大家の奥さんも、引っ越し先の2階の奥さんも、そしてミナもレザに、食事をどうぞと声をかけるのは、まさにイラン人!と思いました。物価があがっても、昔ながらに、いつでも人に振舞えるように多めに作っているのではないかと思います。
ミナがレザと亡き夫のお墓参りのあと、小川の畔でピクニックをして、久しぶりと喜んでいますが、イランの人たちはよく家族でピクニックを楽しみます。夫を亡くして、その機会もなくなっていたのだと思わせてくれる場面でした。
死刑が多くて、息苦しい体制の中で生きている可哀そうな人たちというイメージを持ってほしくないと願うばかりです。息苦しいと思っている人が多いのも確かですが、それを跳ねのけて楽しむエネルギーを持っている人たちが多いと感じます。もちろん、気の毒な境遇の人もいるのですが、イスラームの教えから、自分より悪い境遇の人には手を差し伸べる精神が宿っている社会です。レザが退院するとき、必ず誰かがそばについているのを病院が条件にし、ミナが連れ帰ったこともその表れです。独居老人は少なく、病院でなく家で看取りたいと思う人が多いことも知ってほしいところです。(咲)
第71回ベルリン国際映画祭金熊賞&観客賞ノミネート
2020 年/イラン・フランス/ペルシア語/105 分/1.85 ビスタ/カラー/5.1ch
日本語字幕:齋藤敦子
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/whitecow/
★2022年2月18日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国公開.
ホテルアイリス 原題:艾利絲旅館
監督:奥原浩志(『黒四角』)
製作:北京谷天傳媒有限公司 長谷工作室 紅色製作有限公司
原作:小川洋子(©幻冬舎「ホテル・アイリス」)
出演:永瀬正敏、陸夏(ルシア)、寛一郎、菜葉菜、大島葉子、馬志翔(マー・ジーシャン)、李康生(リー・カンション)
寂れた海沿いのリゾート地─そこで日本人の母親が経営するホテル・アイリスを手伝っているマリは、ある日階上で響き渡る女の悲鳴を聞く。赤いキャミソールのその女は、男の罵声と暴力から逃れようと取り乱している。マリは茫然自失で、ただならぬその状況を静観している。一方で、男の振る舞いに激しく惹かれているもう一人の自分がいて、無意識の中の何かが覚醒していくことにも気づき始めていた。
男は、ロシア文学の翻訳家で、小舟で少し渡った孤島で独りで暮らしているという。住人たちは、彼が過去に起きた殺人事件の真犯人ではないかと、まことしやかに噂した。またマリも、台湾人の父親が不慮の事故死を遂げた過去を持ち、そのオブセッションから立ち直れずにいた。
男とマリの奇妙な巡り合わせは、二人の人生を大きく揺さぶり始める。
奥原監督が、金門島の海辺の集落・北山にある民宿「北山23-3号」に出会い、ここでなら『ホテルアイリス』が撮れると妄想が膨らみ、前々から脚本も書いていた『ホテルアイリス』が出来上がったとのこと。どこか哀愁漂うレトロな「北山23-3号」に泊まってみたくなること請け合います。
ホテル・アイリスと、孤島の翻訳家が暮らす家で繰り広げられる物語は、妖しく官能的。変質的な男も永瀬正敏が演じると、どこか紳士的に見えてしまうから不思議。ロシア文学の翻訳家という役柄故でしょうか・・・
逆に、海辺の売店を営み孤島への舟の船頭役の李康生は、最初に出てきた時から、中年のエロ親父に見えてしまいました。撮影現場には、蔡明亮監督の姿もあったそうです。なんとも贅沢な話です。そんな中で、若い娘マリを演じた陸夏(ルシア)は、台湾で雑誌のモデルやCMで人気のタレントで、映画は初出演。アニメで培った日本語を駆使しています。彼女に変な色気がないことがまた、映画『ホテルアイリス』の謎めいた世界を作り出しているように思えました。(咲)
2021年/日本・台湾/100分/日本語・中国語/ビスタサイズ/5.1ch/DCP・Blu-ray
配給:リアリーライクフィルムズ、長谷工作室
©長谷工作室
公式サイト:http://hoteliris.reallylikefilms.com/
★2022年2月18日(金)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋 他にて全国公開
2022年02月12日
リング・ワンダリング
監督:金子雅和
脚本:金子雅和 吉村元希
撮影:古屋幸一
音楽:富山優子
美術:部谷 京子
劇中漫画:森泉岳土
出演:笠松将(間草介)、阿部純子(川内ミドリ/梢)、安田顕(川内青一)、片岡礼子(川内藍子)、品川徹(川内黄太)、田中要次(塩屋)、長谷川初範(銀三)
東京の下町。猟師とニホンオオカミを題材に漫画を描いている草介、なかなか思うように描けず筆が止まっている。絶滅してしまった種のため、モデルを見ることも叶わない。スケッチに出かけた山で出逢った少年は「オオカミはまだいる」と不思議なことを言う。バイト先の工事現場で、古びた動物の骨を見つけて、こっそり持って帰った。夜になってまた出かけた現場で、飼い犬のシロを探している娘・ミドリと出逢う。足を痛めて歩けない彼女をおぶって家まで送ることになった。鳥居をくぐって進み、着いたのは家族で営んでいるという古い写真館。ミドリや家族との会話は草介とどこかかみ合わないが、暖かいひと時を過ごした。
現代の草介の生活と、ミドリと家族が住むいつかの東京の物語を繋ぐのは、草介が描いたシロの絵と古いカメラを持った少年。もうひとつは草介が製作中の漫画の猟師銀三が住む世界。森泉岳士さんの絵と、その実写版が、うまく配されています。
オオカミの絵に苦労する草介は笠松将さん。漫画は遅々として進まず、ぼんやりしてバイト先の工事現場ではベテラン作業員によく邪険にされています。ミドリは阿部純子さん。中原淳一の抒情画に住んでいる女の子はこんな雰囲気です。
ミドリの家族と草介が囲む丸いちゃぶ台、お父さんがまず箸をとってつつく鍋。草介を送るミドリを見る両親、小さな積み重ねがかつてあった世界を優しく、忘れられないものにしています。ラストの画面に、あっ!となりますよ。お楽しみに。(白)
★タイトルの「リング・ワンダリング」とは登山用語で、人が方向感覚を失って無意識の内に円を描くように同一地点を彷徨い歩く現象のこと。
ドイツ語(独: Ringwanderung)で「環形循環」という意味がある。
◆第52回インド国際映画祭(ゴア)金孔雀賞グランプリ受賞
◆第37回ワルシャワ国際映画祭 エキュメニカル賞スペシャルメンション受賞
◆第22回東京フィルメックス メイドインジャパン部門 正式上映
2021年/日本/カラー/1:185/DCP/103分
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
(C)2021 リング・ワンダリング製作委員会
https://ringwandering.com/
★2022年2月19日(土)よりイメージフォーラムを皮切りに全国順次公開!
初日舞台挨拶阿部純子、笠松将、金子雅和監督
金子監督「東京生まれの東京育ちなので、一度は東京を舞台にした映画を作りたいと思っていました。ちょうど東京オリンピックに向かって東京が新しく開発され、変わっていく時期で、その地面の下に埋もれた記憶や命があるんじゃないか? と着想しました」
笠松「草介という役は、基本的に僕でした。漫画を描いてるけどうまくいかないし、探し物も見つからない――結構、自分と近くて、無理なく等身大でやれました。当時僕は仕事(俳優)が自分には向いてないと思って、この作品を最後にやめようと思っていました。だからこの作品を一生懸命やりたかった。がむしゃらにやっていたころの作品です」
阿部「笠松さんはチームを引っ張ってくれる存在でした。私を背負って石段を何度も上り下りしても弱音を吐かず、この映画も、私も背負ってくれました」
笠松「2年前僕自身も、もしかしたら、すごく大きな夢の中にいたのかもしれないけど、僕の精一杯は届かないと思ってました。でも2年経って、こうやってたくさんの人に観てもらえました。これからもっともっとたくさんの人に観てもらえるように、僕もならないといけない。いい映画に出会えて、こういう機会をいただけてお会いできたことがすごく嬉しいです。いい時間だなと思えて幸せです。ありがとうございます」
マヤの秘密(原題:The Secrets We Keep)
監督・脚本:ユヴァル・アドラー
撮影:コーリャ・ブラント
音楽:ジョン・パエサーノ
出演:ノオミ・ラパス(マヤ)、ジョエル・キナマン(トーマス)、クリス・メッシーナ(ルイス)、エイミー・サイメッツ(レイチェル)
1950年代後半のアメリカ。公園で遊ぶ息子を見守っていたマヤは指笛を聞いた。そのとたん戦争中の悪夢がよみがえってくる。ロマ民族のマヤは戦争中ナチスの迫害を受け、マヤは暴行され妹は殺されてしまったのだ。指笛の主は近所に引っ越してきた男で、忘れようとしても忘れられないその兵隊だった。今も夢でうなされているマヤは、男を誘拐して自宅に監禁する。トーマスと名乗る男は人違いだと言い続けるが、マヤは真実を知るまでは解放しないと告げる。夫のルイスはマヤの過去を初めて知って同情するものの、男への暴力に加担したくない。
戦争の傷跡がどれほど深いのか、当事者の心情は想像するのみ。マヤは幸せな家庭を築いて子どもにも恵まれましたが、かつての悪夢のようなできごとは心の奥深くに巣食ったままです。穏やかな暮らしの中で、相手に気づいたばかりに、復讐に駆り立てられてしまいます。いつも強い女のノオミ・ラパス、今作でも夫が引いてしまうほどの過激さです。マヤがナチス兵と思った男も、家庭があり妻も子もいて平和に暮らしています。そこがまた考えどころなのですが。復讐や怒りは連鎖してしまいます。
戦時中に狂気にかられた兵隊たちが犯した女たちは、生き残って何年経とうと決して忘れずにいます。彼らを罰してほしい、赦しを乞い願ってもらいたい。女は戦利品でも慰安物資でもありません。ノオミ・ラパスも女性の身になって、この主演と製作総指揮を務めたのでしょう。ラストは苦いです。(白)
過去にナチスから辱めを受けた主人公のマヤが加害者と思しき男トーマスを拉致して、自白させようとする。邦題はマヤが過去に受けた辱めを夫ルイスに言えなかったことかと思いましたが、抱えた秘密は幾重にも重なっていました。原題は「The Secrets We Keep」。なぜ「We」なのかが疑問でしたが、作品を見ると大いに納得。ただ、この「We」はダブル・ミーニング。マヤとトーマスが経験した事実、マヤとルイスが抱えていく事実の2つあります。どちらも辛い。(堀)
2020年/アメリカ/シネスコ/カラー/93分
配給:STAR CHANNEL MOVIES
(C)2020 TSWK Financing and Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://maja-secret.com/#modal
★2022年2月18日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
グッバイ、ドン・グリーズ!
監督・脚本:いしづかあつこ
キャラクターデザイン:吉松孝博
美術監督:岡本綾乃
撮影監督:川下裕樹
音楽:藤澤慶昌
主題歌:[Alexandros]/「Rock The World」
アニメーション制作:MADHOUSE
声の出演:花江夏樹(ロウマ/鴨川朗真)、梶裕貴(トト/御手洗北斗)、村瀬歩(ドロップ/佐久間雫)、花澤香菜(チボリ/浦安千穂里)、田村淳(ロウマの父/鴨川太朗)、指原莉乃(ロウマの母/鴨川真子)
東京から少し離れた田舎町。ロウマは周囲と上手く馴染むことができない少年。同じように浮いた存在だったトトと二人だけのチーム"ドン・グリーズ"を結成する。東京の高校に進学したトトも夏休みに帰ってきた。そこにドロップという男の子が加わって3人チームになった。
「ねえ、世界を見下ろしてみたいと思わない?」というドロップの何気ない一言にのせられて、ロウマたちは山登りへ。その結果、山火事の犯人に仕立て上げられてしまった。空の彼方へと消えていったドローンが唯一の証拠、探しに行かなくては!
3人の小さな冒険は、やがて少年たちの“LIFE=生き方”を一変させる大冒険へと発展していく。
引っ込み思案な男子ロウマ、進学高へ進んだトト、長い付き合いの2人。新しく友達になった金髪のドロップはアイスランドからやってきました。秘密を抱えているようですが、ずっと後まで明らかにされません。
身の回り半径数メールから、次第に広くなっていく世界。表情豊かな少年たちとその軽快な動き、遠景も素敵です。ヴォイスキャストにもご注目を。人気の声優さんに加え、田村淳さんと指原莉乃さんがお父さんお母さん役です。
男の子3人組の冒険をアニメーションに仕上げたのは、いしづかあつこ監督と『サマー・ウォーズ』(2009)のMADHOUSE。
最近では『若おかみは小学生!』(2018)、テレビアニメも「宇宙よりも遠い場所」(いしづかあつこ監督)ほか多数。1月5日からは「ハコヅメ~交番女子の逆襲~」放映中。今年4月には『時をかける少女』(2006)が4DX版で再上映されます。その前にファンタジックな胸アツのこの作品を。(白)
作画のクオリティの高さに驚きました。ドローンで映した打ち上げ花火は最高。これは絶対にスクリーンで見てほしい。クライマックスはファンタジー感が強いのですが、それもすんなり受け入れられるのも背景画の美しさがあってこそ。
物語は『スタンド・バイ・ミー』的な要素がたっぷり。その中で医者になるために東京の進学高へ進んだトトの葛藤は同じ道を目指す多くの高校生の悩みでもあって、普段、アニメや映画を見ない受験生にも気分転換もかねてぜひ見てほしいと思います。人生の歩み方って人それぞれで、焦らなくてもいいんだよと気が付いてもらえるのではないでしょうか。(堀)
2022年/日本/カラー/95分
配給:KADOKAWA
(C)Goodbye,DonGlees Partners
https://donglees.com/
★2022年2月18日(金)ロードショー
君が落とした青空
監督:Yuki Saito
脚本:鹿目けい子
原作:櫻いいよ「君が落とした青空」(スターツ出版刊)
撮影:花村也寸志
VFXスーパーバイザー:古橋由衣
音楽:富貴晴美
主題歌:まふまふ「栞」(A-Sketch)
出演:福本莉子(水野実結)、松田元太(Travis Japan/ジャニーズJr.)(篠原修弥)、板垣瑞生(本山佑人)、横田真悠(西村トモカ)、莉子(丸井佐喜子)、矢柴俊博 松本若菜
付き合いはじめて2年が経つ高校3年生の実結(みゆ)と修弥(しゅうや)。“毎月1日は何があっても一緒に映画を観に行く”という約束通り、その日もデートへ向かった2人。しかし、修弥は突然「急用ができた」と言い、どこかへ行ってしまう。最近何かを隠しているような彼の態度に不安を感じていた実結。気まずい空気の中、「もう一度話したい」と戻ってきた修弥に会うため向かった待ち合わせ場所で、彼は実結をかばって交通事故に遭ってしまう――。突然の出来事にパニックになるが、目が覚めると自分の部屋のベッドで朝を迎えていた実結。時間が経つにつれて自分がタイムリープをしていることに気がついた。
ケータイ小説として発表されたのは2010年。のちに同名で書籍が発行されました。ある時間を繰り返すタイムループ・ラブストーリーで、これだけで興味しんしんです。実結を『思い、思われ、ふり、ふられ』(2020)、『しあわせのマスカット』(2021)の福本莉子さん。修弥を”Travis Japan/ジャニーズJr.の松田元太さん。2人を見守る佑人を板垣瑞生さん。実結と違うタイプのトモカを横田真悠さん。4人の思いが交錯して切なさ倍増です。
両想いで幸せな日々だった2人がちょっとした行き違いで取返しのつかないことに…なったはずが、何度でもその事故の日に戻っていきます。さて、あなたならどうします?なんとか彼を助けようと、奮闘しますよね。そのたびに辛い思いをしても、何度でも戻っていい方向を探るでしょう。女の子たちに「切ない小説NO.1」と大ヒットしたのも納得。(白)
高校時代にキラキラした青春を経験していなくても、映画を見ることで追体験できるところがエンタメ作品のうれしいところ。福本莉子さんが等身大の女子高生として演じているので、自分の年齢を忘れて、すーっと入り込めます。
といいながら、朝のリビングシーンはつい親目線で見てしまいました。同じ朝を繰り返すことで母親のありがたさに気づく実結。毎朝の食事の支度やお弁当作り、制服のアイロン掛けをターゲットのティーンエージャーたちはきっと当たり前のように思っているのでしょうね。せっかくこの作品を見たのだから、家に帰ってお母さんに「いつもありがとう」といってくれたら、お母さんも大喜びするはずなんだけれどなぁ。(堀)
2022年/日本/カラー/93分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(c)2022映画『君が落とした青空』製作委員会
https://happinet-phantom.com/kimiao/
★2022年2月18日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
銀鏡SHIROMI 英題:SHIROMI
監督:赤阪友昭
撮影:古木洋平
録音:森英司
音楽:林正樹
歌 :松田美緒
奥日向にある神楽の里、宮崎県西都市銀鏡。
毎年12月12日〜16日、銀鏡神社の例大祭で、夜空に瞬く星のもと、500年以上前の古より伝わる「星の神楽」が奉納される。
この神楽を守り続けるため、銀鏡の人々は、柚子や唐辛子を生産し加工までを担う会社をつくって雇用を生み出し、山村留学を通じて人を育て、学校を残してきてもいる。
人里離れた奥深くにある銀鏡には、今も、自然と人が一体となって存在している・・・
一年に一度、神楽を奉納するため、知恵を絞り、自然の恵みを活かして暮らしている銀鏡の人たちの姿に、日本では太古から、こうして人々は自然と共に生き、神様に感謝を捧げてきたことを思い起こさせてくれました。
公式サイトに
「かぐら」いう言葉は、「かみくら」が約まったものと言われ、「神蔵」や「神倉」、「神座」などと表することから、「神」という存在を招き入れ顕現を呼び起こす儀礼を指した。これに「神楽」という文字を当てるのは、日本神話で語られるアマテラスを岩戸から導き出したアメノウズメのように、その儀礼が手鈴などを使った賑やかな動きのある身体表現を用いて神を楽しませることに由来する。この神話からもわかるように神楽の主たる目的と起源は、一年のうち最も日の短い冬至を境とした太陽の復活、そして生命力の再生を願うことにある。
とあります。冬至を太陽が生まれた日として祝う風習は、イランにもあります。イスラームの入るよりずっと以前からのもの。自然の摂理は、地球上のどこであろうと変わらないもの。人々がそれを大事にして生きてきたことも、本作は教えてくれました。(咲)
2022年/日本/113分/カラー/DCP
配給:映画「銀鏡 SHIROMI」製作委員会事務局
後援:宮崎県、西都市
公式サイト:https://shiromi-movie.com/
★2022年2月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開
白いトリュフの宿る森(原題:The Truffle Hunters)
監督:マイケル・ドウェック、グレゴリー・カーショウ
世界で最も希少で高価な食材といわれるアルバ産白トリュフ。その名産地である北イタリアのピエモンテ州では、老人たちが訓練された犬たちと共に、危険のつきまとう森の奥深くで宝探しを愉しむように白トリュフを探し出す。気候変動や森林伐採により供給量が減り、世界中のシェフやバイヤーらが、トリュフ探しの極意を聞き出そうと躍起になるが、彼らはトリュフが実る場所やその方法を決して誰にも明かさない。それは長年連れ添った妻や友人にさえも、絶対に―。
写真家のマイケル・ドウェック監督は3年間にわたって彼らの生活に入り込み、信頼関係を築いたうえで貴重な撮影に成功。大地に寄り添い、時の流れが止まったかのような純粋で美しい暮らしを映し出す。
年明け早々、「ジャにのチャンネル」の動画をきっかけにTruffle BAKERY(トリュフベーカリー)の白トリュフの塩パンが話題になっています。いつ行っても行列ができていて、1人2個しか買えない貴重なパン。せっかくなので並んで買って食べてみました。普通の塩パンにはない香りがしましたが、きっと白トリュフなのでしょう。
その白トリュフを題材にしたドキュメンタリー作品が『白いトリュフの宿る森』です。登場する白トリュフ探しの達人たちの生活は自然とともにあり、まるでミレーの絵画を見ているかのよう。悠久の時の中でゆったりと生きている彼らの姿を見ているだけで癒される気がします。
一方で、バイヤーの手に渡ってからの白トリュフは人間の欲にまみれていく。クッションの上に鎮座まします白トリュフはその象徴でしょう。群がる人間たちの業が悲しい。達人たちが今のままの生活を続けていけることを祈らずにはいられません。(堀)
2020年/イタリア、アメリカ、ギリシャ/84分
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©2020 GO GIGI GO PRODUCTIONS, LLC
公式サイト:https://www.truffle-movie.jp/
★2022年2月18日(金)ロードショー
2022年02月11日
オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体― 原題:Operation Mincemeat
監督:ジョン・マッデン(『女神の見えざる手』『恋におちたシェイクスピア』)
原作:「ナチを欺いた死体:英国の奇策・ミンスミート作戦の真実」ベン・マッキンタイア―著(中央公論新社刊)
出演:コリン・ファース、マシュー・マクファディン、ケリー・マクドナルド、ペネロープ・ウィルトン、ジョニー・フリン、ジェイソン・アイザックス
重大任務を背負った諜報部員は“死体”だった!
1943 年。第二次世界大戦が激化する中、イギリス軍は、ヒトラーが占領したヨーロッパ奪還を決意。シチリアから上陸しドイツ軍総攻撃を計画する。問題は、いかに上陸地がシチリアであることを敵に隠すかだ。標的はギリシャだと欺く方針が決まり、諜報機関 20 委員会の作戦会議で、元弁護士の諜報部員ユーエン・モンタギュー(コリン・ファース)は欺瞞作戦を主張。イアン・フレミング少佐(ジョニー・フリン)が考え出した、「偽造文書を持たせた死体を海に流す」という奇策。MI5 (英国諜報部)所属のチャールズ・チャムリー大尉(マシュー・マクファディン)も賛同。さっそく、死体を“英国海兵隊のビル・マーティン少佐”に仕立てる任務を開始する。溺死した兵士に見える死体探しは難航するが、ようやく住所不定の路上生活者の死体を手に入れる・・・
偽装書類を携えた“死体”を潜水艦からスペインの海岸へと流し、ヨーロッパ各国の二重三重スパイたちの手を経由して、ベルリンの諜報機関へと到達させるという奇想天外な作戦。まるで小説のようだけど、実際に、この偽情報はナチスに伝わり、第二次世界大戦の流れを変え、ヒトラーのヨーロッパ支配を断ち切ったというのですから凄い! 死体に任務を託すという奇策を出したイアン・フレミングは、小説「ジェームズ・ボンド」シリーズを生み出した人。本作の原作者のマッキンタイアーによれば、このプロットは、バジル・トンプソンという人の小説が元になっており、フレミングは、トンプソンの小説にあったアイデアをゴドフリーに提案したとのこと。イアン・フレミングは、戦時中の海軍情報部の責任者で、後にジェームズ・ボンドの M のモデルとなったゴドフリー提督の助手を務めていたのです。まさに事実は小説より奇なり! 死体のポケットに恋人(もちろん偽!)の写真を忍ばせるところなど、演出がにくいです。お堅いどこかの国の軍人には思いつかないかも。(咲)
2022 年/イギリス/128 分/カラー/シネスコ/5.1CH デジタル
字幕翻訳:栗原とみ子
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/mincemeat/
★2022年2 月 18 日(金)TOHO シネマズ 日比谷他全国ロードショー
2022年02月10日
THE RESCUE奇跡を起こした者たち 原題:THE RESCUE
監督/プロデューサー:エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ&ジミー・チン(『フリーソロ』『MERU /メルー』)
撮影:デヴィッド・カッツネルソン、イアン・シーブルック、ピチャ・スリサンサニー
音楽:ダニエル・ペンバートン
編集:ボブ・アイゼンハルト
2018年6月23日、サッカーチーム「ムーパ(イノシシ)」に所属する少年12 人がサッカーの練習後、コーチ同行のもとタイ北部チェンライ県のタムルアン洞窟探検に入った。しかしその日は豪雨により洞窟が浸水し、出入り口が塞がれてしまった。少年たちは帰宅できなくなり、不審に思った家族から行方不明と報告され、捜索作業が始まった。少年たちは洞窟の入り口から約5キロ入った場所に取り残されていることが確認されたが、洞窟内は増水し救助は不可能と思われた。タイ海軍特殊部隊、米軍特殊部隊に加えて各国から応援が入り数千人が集まったが、洞窟ダイビングは死のリスクが高く、特殊技能が必要であるため、少年たちの救出活動は進まない。そこで世界各地から集められたのは、民間の洞窟ダイバー達だった・・・
当時、日本でも連日報道され、世界中で少年たちが救出されるのを固唾を飲んで見守った出来事。2020年に日本で公開された『THE CAVE サッカー少年救出までの18日間』(監督:トム・ウォーラー、2019年/タイ・アイルランド)では、世界中から集まったダイバーたちが洞窟に入って救出にあたる姿をはじめ、洞窟内の水位を下げるために奔走するタイの人たちや、洞窟のそばで祈りを捧げ続けた人々などが、フィクションとして再現されていました。
本作は、『フリーソロ』(18)で2019年アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィとジミー・チン両監督が、洞窟探検のエキスパートたちの果敢な挑戦と功績に焦点を当てて、救出劇の詳細を描き出したドキュメンタリー。
ダイバーたちへのインタビューや、タイ海軍から入手した救出現場の87 時間分の映像に加え、VFXを駆使して洞窟救助の全貌を3D で再現。
少年たちに麻酔を打って、時間と闘いながら命がけで救い出したダイバーたちの姿に感無量でした。(咲)
咲さんも書いているように、『THE CAVE サッカー少年救出までの18日間』の方は、このサッカー少年たちを救出するために参加したタイの人たちや、海外から駆けつけた人たちなど、たくさんの人達の姿が映され、いかに多国籍の人たちが関わったかということが描かれていたけど、こちらの作品は、さらに踏み込み、いかに専門家たちが協力体制を組んで救出活動を行ったかということが描かれていた。
そして洞窟探検家というのは聞いたことがあったけど、水のある洞窟探検を専門にしている冒険家がいるのだというのをこの作品で知った。彼らがいなかったら、この救出は可能ではなかったかもしれない。まさに彼らは自分たちが趣味でやってきたことを人命救助に役立てたということですね。そんな彼らと同じように危険と隣合わせの冒険を映画で撮ってきたエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィとジミー・チン両監督だからこそ作れた作品だと思いました。彼らの作った『MERU /メルー』『フリーソロ』の迫力を観れば、この作品の迫力と緊張感。納得です(暁)。
2021年/アメリカ/ドキュメンタリー/107 分/ビスタ/5.1ch/4K
日本語字幕:渡邊一治
配給・宣伝:アンプラグド
公式サイト:https://unpfilm.com/rescue-movie/
★2022年2月11日(金・祝)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開!
2022年02月09日
ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ 原題:The United States vs. Billie Holiday
監督:リー・ダニエルズ(『大統領の執事の涙』『プレシャス』)
脚本:スーザン=ロリ・パークス(2002年ピューリッツアー賞受賞)
出演:アンドラ・デイ、トレヴァンテ・ローズ(『ムーンライト』)、ギャレット・ヘドランド(『オン・ザ・ロード』)、レスリー・ジョーダン(『ヘルプ ~心がつなぐストーリー』)ほか
ビリー・ホリデイ。
1959年に44歳の若さでこの世を去った伝説の黒人女性歌手。
世界的名声を得ながら、酒と麻薬で健康を害し早世したビリー。
本作は、アメリカの国家権力に抗い、人権を掲げた「奇妙な果実」を歌い続けたビリーの姿を描き、連邦麻薬局の陰謀を暴き出した物語。
もとになったのは、イギリス人作家ヨハン・ハリが「麻薬と人間 100年の物語」のビリー・ホリデイの章。アメリカ合衆国財務省管轄の連邦麻薬局を率いたハリー・J・アンスリンガーが、「奇妙な果実」を歌わないようホリデイを脅し、彼女のドラッグの問題を利用して追い詰めたことを明かしたもの。脚本は、舞台作品「Topdog/Underdog(原題)」で黒人女性作家として初のピュリッツァー賞を受賞したスーザン=ロリ・パークス。
1939年からカフェ・ソサエティで歌い始めた「奇妙な果実」が大評判を呼びレコードも大ヒットを記録、一躍スターとなったビリー。1940年代、人種差別の撤廃を求める公民権運動が盛んになり、「奇妙な果実」は運動を扇動するとFBIはビリーに歌うことを禁止する。それでも「この歌だけは捨てない」と歌い続けるビリー。FBIは、黒人の捜査官ジミー・フレッチャーをおとり捜査に送り込む。逆境の中で、ますます輝き人々を魅了する姿にジミーは心酔し、ビリーもまたジミーに心を寄せるようになる。そんな最中、1947年、麻薬不法所持で逮捕されてしまう。翌年、出所しカーネギー・ホールの舞台に立ったビリー。客席を埋め尽くした観客の大半は白人だった。しかし、さらなる陰謀がビリーを待ち受けていた・・・
私がビリー・ホリデイの名前を知ったのは、2006年に公開されたドイツ映画『白バラの祈り:ゾフィー・ショル、最期の日々』(2005年)でのことでした。
第2次世界大戦時、ヒトラー政権に立ち向かい、"白バラ"と呼ばれた学生たちの反政府運動に参加し、21歳で処刑された女性ゾフィー・ショルの物語です。冒頭がビリー・ホリデイの歌を聴きながら楽しそうにくちずさんでいる場面でした。ただただ敵国アメリカの軽快な歌で、ビリー・ホリデイが黒人だということもわかりませんでした。今回、この映画を観て、国家に果敢に立ち向かったビリーの歌ということに意味があったのだと気づきました。
1959年にビリーが亡くなって60年以上経ち、アメリカでの黒人差別はなくなるどころか、ますます過激になっている状況があります。世界を見回しても、さまざまな差別が加速化しています。法律を整備したとしても、人々の心の中にある他者への偏見をなくさない限り、理不尽な差別はなくならないと感じます。
本作、冒頭で白人の女性インタビュアーが、「黒人でいる気分はどう?」と尋ね、ビリーが「ドリス・デイにも聞く?」と返します。「彼女は黒人じゃないから」とさらに不躾なインタビュアーに、「リンチを見たことは?」と、「奇妙な果実」が人権の歌であることを堂々と語るビリー。ビリーに成り切ったアンドラ・デイの存在感が半端じゃないです。(咲)
第78回ゴールデン・グローブ賞[ドラマ部門]主演女優賞受賞
第93回アカデミー賞主演女優賞ノミネート
2021年/アメリカ/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/131分/R15+
字幕翻訳:風間綾平
配給:ギャガGAGA
(C)2021 BILLIE HOLIDAY FILMS, LLC.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/billie/
★2022年2月11日(祝・金)より、新宿ピカデリーほか全国公開
高津川
原作*脚本・監督:錦織良成(映画『白い船』『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』)
出演:甲本雅裕 戸田菜穂 大野いと 田口浩正 高橋長英 奈良岡朋子 ほか
島根県西部を流れる一級河川「高津川」。ダムが一つもない日本一の清流の流域で暮らす人々の物語。
山の上で牧場を営む斎藤学(甲本雅裕)は、妻を亡くし、母絹江(奈良岡朋子)、大阪から帰ってきた娘の七海(大野いと)、高校生の息子・竜也(石川雷蔵)の4人暮らし。竜也は、今年、地元で受け継がれてきた神楽で舞手の舞台を踏むことになっているのに、稽古をさぼってばかり。学は自分の息子も多くの若者同様、故郷を離れていくのではと心配している。
そんな折、母校の小学校閉校の知らせや、高津川上流にリゾート開発の話が入ってきて、学の同級生で母親の介護をしながら老舗の和菓子屋を継いだ陽子(戸田菜穂)、寿司屋を継いだ健一(岡田浩暉)、高津川の清流で農業・養蜂をしている秀夫(緒形幹太)、東京で弁護士をしている誠(田口浩正)、市役所勤めの智子(春木みさよ)、主婦の久美子(藤巻るも)たちは集まり、何をすべきか相談する・・・
2018年の夏・秋に益田市、吉賀町、津和野町で撮影され、2019年3月に完成し、地元では特別先行試写会も開催され、2020年4月3日(金)に全国公開が決まっていましたが、コロナで延期。2年近く経って、ようやく公開されることになりました。
伝統芸能の継承者不足や、開発による自然破壊など、日本の各地で抱えている問題でしょう。何が大切かを考えるきっかけにしていただければと思います。
私にとっては、父方母方双方の祖父母が津和野や石見の出なので、高津川と聞いて、とても懐かしく感じました。ダムが一つもない清流だということは、本作を観て初めて知りました。これからも開発で汚されることなく、美しい川であり続けてほしいと願います。(咲)
2019年/カラー/5.1ch/ ビスタ/113分
制作プロダクション:goen
配給:ギグリーボックス
(c) 2019 映画「高津川」製作委員会
公式サイト: https://takatsugawa-movie.jp/
★2022年2月11日(金)新宿バルト9ほか全国順次公開
2022年02月06日
国境の夜想曲 原題:NOTTURNO
(C)21 UNO FILM / STEMAL ENTERTAINMENT / LES FILMS D’ICI / ARTE FRANCE CINEMA / Notturno NATION FILMS GMBH / MIZZI STOCK ENTERTAINMENT GBR
監督・撮影・音響:ジャンフランコ・ロージ (『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』)
それでも、そこで暮らす人々・・・
夜明け、整列し掛け声を発しながら走る兵士たち。
荒涼とした地に建つキャラバンサライのような建物。スカーフ姿の女性たちが嘆く。ここに投獄され拷問を受け亡くなった息子たち。「神がお前のいない人生を生きることをお決めになった」と言いつつ、トルコ政府を恨む母親。
暗い中、バイクに乗る男。油田のやぐらに火が見える。
湿地帯。ボートで湖に漕ぎだす。遠くから銃声が聞こえる。
夕闇の町を見下ろす屋上にたたずむカップル。水煙草をふかす女性。遠くからアザーンが聴こえてくる。男は正装して、白い帽子を被り、太鼓を叩きながら歌い、古い町並みを行く。
荒野を装甲車が行く。
女性兵士たちが兵舎に入り、ストーブを囲む。
外では銃を構え荒野を見張る女性兵士。
精神病院。選ばれた患者たちが舞台で政治風刺劇の練習に勤しむ。(アラビア語)
軍事クーデター、アルカーイダ、ISIS・・・すべてを入れ込んだ台本。
スクリーンに映し出される映像。町をいく戦車。爆破されるモスク。博物館で叩き壊される古代の遺物・・・
夜明け前から家族のために、海で魚を釣り、草原で猟をする少年。時には猟師のガイドをして日銭も稼ぐ。父親はいない。幼い5人の兄弟たちと朝食を済ませると、少年はやっとソファで眠りにつく。
幼いヤズィーディー教の子どもたち。描いた絵の説明をする。ISISが家を爆発。拷問して人々を殺した・・・ 子どもたちのおぞましい記憶。
オレンジ色の囚人服の男たち。
刑務所の中庭から、前の人の肩に手を乗せ、連なって中に入っていく。
大きな川。橋が途中で途切れている。筏のような“渡し”で車もミニバスも運ぶ。
水の溜まった道を行く車。
破壊し尽された町。娘からのVOICEメールを聴く母親。「500ドル送って」という娘。そばで男が監視しているようだ。シリアにいる。連絡が取れなくなっても心配しないでという娘。
再び、演劇。「尊厳のある国で暮らしたい」
冒頭、「オスマン帝国の没落と第二次世界大戦後、あらたな宗主国が国境線を引いた」と掲げられます。
かつては、メソポタミア文明の発祥した地。
民族や宗教の異なる人たちが、お互いに切磋琢磨して豊かな文化を育んできた地。
今は残念ながら紛争地域のイメージが植え付けられてしまったイラク、シリア、レバノン、クルディスタンの国境地帯。
監督が捉えるのは、その地で、自分の運命を受け入れ、懸命に生きる人たちの姿。
そこがどこで、なぜそのような境遇にあっているのかなど、一切の解説を廃した映像。
だからこそ、ちょっとしたヒントから、そこはどこと詮索してしまいますが、それは監督の意図するところではないでしょう。
あるがままを観て、感じて、想像を掻き立てて、そこで暮らす人たちの気持ちに寄りそうことができれば、それだけでいいのだと。
それでもヒントを得たい方は、公式サイト
『国境の夜想曲』を読み解くためのキーワードをどうぞ!
https://bitters.co.jp/yasokyoku/background.php
ジャンフランコ・ロージ監督は、1964年、エリトリア国アスマラ生まれ。エリトリア独立戦争中、13歳の時に家族と離れてイタリアへ避難。このご経歴が紛争地区で暮らす人々への静かな眼差しに繋がっているのだと感じました。 そして、私たちもまた、いつ歴史に翻弄されるかもしれないことを心しなければと感じさせてくれました。(咲)
受賞ノミネート
第77回ヴェネチア国際映画祭 ユニセフ賞/ヤング・シネマ賞
最優秀イタリア映画賞/ソッリーゾ・ディベルソ賞 最優秀イタリア映画賞 受賞
第33回東京国際映画祭 正式出品
山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 コンペティション部門 正式出品
2020年/イタリア・フランス・ドイツ/アラビア語・クルド語/104分
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/yasokyoku/
★2022年2月11日(金・祝)Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
北風アウトサイダー
監督・脚本・プロデューサー:崔哲浩
出演:崔哲浩 櫂作真帆 伊藤航 上田和光
浦川奈津子 遠藤綱幸 佐野いずみ 新宮里奈 梅津翔 田中あいみ 秋宮はるか
千賀多佳乃 福本翔 玉木惣一郎 松田俊大 杉浦豪 大原広基 許秀哲 及川欽之典 森本姫愛 丹春乃 菊地玲緒 岡部浬功 黒田焦子 藤代麻美 永田もえ
永倉大輔 松浦健城 竜崎祐優識 並樹史朗 岡崎二朗
大阪・生野区にある在日朝鮮人の町。
オモニ食堂を切り盛りしていたオモニ(お母さん)が亡くなり、自宅の座敷で身内だけの葬儀が行われていた。次男・チョロと妻・朱美、三男のガンホと彼女のユナ、長女のミョンヒと彼氏の透。そして、食堂で働く和希。15年前に失踪した長男・ヨンギは葬儀にも現れない。僧侶の読経に、皆がオモニに思いを馳せている最中、オモニに世話になったという祥子が焼香させてくださいと現れる。僧侶の配慮で座敷にあがる祥子。
オモニが店のためにした借金を残していて、途方に暮れる兄弟たち。ヨンギの親友で、オモニと食堂を愛するヤクザの清田も、なんとか店を残そうと尽力してくれる。
そんなある日、15年ぶりに長男・ヨンギが帰ってくる。変わり果てた姿に当惑する兄弟たち。家族の絆は取り戻せるのか、そしてオモニ食堂を守れるのか・・・
「朝鮮人も日本人もみんな人間だから、仲良くできる時代が必ず来る」というオモニ(母)の言葉を胸に、4人兄妹が、オモニ食堂で一緒に働く仲間や、日本のヤクザの組に入った旧友らと協力し、店の借金返済や一方的な価値観を押し付ける在日朝鮮統一連合会などの難題に挑む群像劇。
長男・ヨンギを崔哲浩監督自身が演じた以外、在日コリアンを演じた方たちは日本人の役者でしたが、しっかり在日に見えました。在日も日本人も変わりはないという証でしょう。
それでも、在日の方たちが差別や偏見を受けている実情があります。この映画の物語の8割ほどは、崔監督自身の経験や、周りの在日の実話とのこと。
次男・チョロが日本人の朱美と結婚したいとオモニに告げた時、オモニは「こんな出来損ないと結婚してくれるなんて」と大歓迎。なのですが、朱美は不妊症と判明。泣いて謝る朱美にオモニは優しく接します。その後、長男・ヨンギの妻が生まれたばかりの娘を残して逝ってしまい、娘ナミをチョロ夫妻の養女に。そのナミが大学進学にあたって、日本の大学よりも朝鮮大学に進学したいと願うのですが、日本で認可されていないので学費が高い上に、卒業しても朝鮮銀行など狭い選択肢しかないことで親が心配します。
葬儀で始まった本作、在日であることの悩みや問題を織り込み、三男ガンホとユナの結婚式で華やかにフィナーレを迎えます。日本の生活様式に馴染みながらも、どこかにコリアンであることも感じさせてくれる在日の人たちの暮らしを垣間見せてくれました。 登場人物が多くて、関係性をのみこむのにくらくらするのですが、それもまた楽し♪(咲)
2021年/日本/5.1ch/DCP/150分
配給:渋谷プロダクション
©2021 ワールドムービーアソシエーション
公式サイト:https://www.kitakaze-movie.com
★2022年2月11日(金)〜 シネマート新宿ほか、全国順次ロードショー!
標的
監督:西嶋真司
法律監修:武蔵小杉合同法律事務所・神原元、北海道合同法律事務所・小野寺信勝
監修:佐藤和雄
プロデューサー:川井田博幸
撮影:油谷良清、西嶋真司
音楽:竹口美紀
出演:植村隆
1991年8月、朝日新聞大阪社会部記者の植村隆氏が、元「慰安婦」だったと名乗り出た韓国人女性の証言を伝える記事を書いた。日本政府は国や軍部が関与したことを否定していた。記事が書かれてから何年も経った2014年以降、一部から「捏造記者」として植村氏への執拗なバッシングが始まる。SNSでの誹謗中傷ばかりか、自宅への電話、当時の勤め先だった大学や家族への脅迫や嫌がらせを受けた。同じような記事を書いた別の記者や新聞社には関与せず、なぜ植村記者がバッシングの「標的」とされたのか? 植村氏と彼を支える人々は、理不尽なバッシングに屈することなく、裁判に訴えて真正面から闘い続ける。
元RKB毎日放送(福岡)ディレクターの映像作家、西嶋真司監督が製作したドキュメンタリー映画。西嶋監督は、ジャーナリストが萎縮することなく真実を報道しなければ社会は衰退する、と危機感が募りました。勤めていたテレビ局へ企画を出しますが、実現しません。この映画は退職して作るほかない、とテレビ局を辞めて植村さんの行動に密着します。多くのジャーナリストや歴史学者、元記者、支える人たちに取材します。札幌や旭川、韓国のナヌムの家を訪ねる植村さんを追います。
バッシングの元になったものが明らかになるにつれ、日本を覆っている戦前戦中のような空気が形を持って見えてきます。これは植村さんに限ったことではなく、いつ誰が「標的」になってもおかしくないとわかります。では、どうしたらいいのか?それを観客の一人一人が考え、見つけ出すこと。そのためには「相手」を知らねば。知ることがいつも最初の一歩です。
「恐怖」で人は支配されやすいです。本人が強靭であればその周りが攻撃されます。まだ高校生だった植村さんの娘さんが、SNSに素顔や学校をさらされ、どんなに怖い思いをしたことか。どんなにご両親が辛かったか、想像するだけで苦しくなります。父と娘の会話を映す監督の胸の内も同じだったはず。
札幌と東京で行われた裁判をたくさんの市民が見守り、支えているのが心強いです。一人の力は、砂一粒かもしれません。でもゼロと1では大違い。劇場のないところでも上映会ができますよ。(白)
●2021年 JCJ賞(日本ジャーナリスト会議)を受賞!
2021 年/日本/カラー/99 分
配給:グループ現代
(C)ドキュメントアジア
https://target2021.jimdofree.com/
★2022年2月12日(土)よりシネマリン、シネ・ヌーヴォほか全国順次公開
西成ゴローの四億円 死闘篇
監督・脚本:上西雄大
製作総指揮:奥山和由
主題歌 「西成 TOWN」 唄:西成の神様(作詞・作曲:せきこ〜ぢ 添詞:西成の神様)
挿入歌 「飛びます」唄:山崎ハコ (作詞・作曲:山崎ハコ)
劇中歌 「川向うのラストデイ」 唄:原田喧太 (作詞:松田優作 作曲:荒木一郎)
出演:上西雄大 津田寛治 山崎真実 徳竹未夏 古川藍 笹野高史 木下ほうか 阿部祐二 加藤雅也(友情出演) 松原智恵子(友情出演) 石橋蓮司(特別出演) 奥田瑛二
『西成ゴローの四億円』(前篇)の続き
大阪・西成で日雇い労働をしながら暮らす土師晤郎(上西雄大)。元妻・片桐真理子(山崎真実)から、娘の心臓移植のために4億円が必要だと聞かされ、何がなんでも4億円つくると闇仕事に勤しむ日々。記憶が少しずつ蘇り、記憶喪失の原因を作ったのはゴルゴダ(加藤雅也)だったことを思い出す。とある教会を根城に表向きは信仰団体を装う秘密結社テンキングス。ゴルゴダは、最高位幹部の百鬼万里生(木下ほうか)の元、邪魔な人間を始末していた。ゴローと縁が出来た闇金姉妹の松子(徳竹未夏)と梅子(古川藍)は暴力団たちと西成の利権争いをしていたが、姉妹のバックにいる韓国眞劉会会長のウー・ソンクー(石橋蓮司)により守られていた。
ある時、世の中に新型ウイルスが蔓延する。西成の仲間たちもウイルスに感染し、倒れていった。ゴローが心を許していたカネやんこと金本康治(笹野高史)もウイルスに侵されてしまう。カネやんは、息子が一緒に暮らそうと声をかけてくれたが、手ぶらではいけないと目と腎臓を売って金を手にしたばかりだった。このウイルスを故意に国外から持ち込んだのがゴローだとニュースが流れる。それはゴルゴダたちと手を組んだゴローの元同僚・日向誠也(津田寛治)が影で糸を引き流したデマ報道だった・・・
残忍なゴルゴダを演じている加藤雅也さん。バタ臭い雰囲気で一見カッコいいのですが、変な髪形に円形ハゲで笑わせてくれます。そして、カネやんを演じた笹野高史さんが、緩衝材のようないい味出してます。カネやんの息子役で実の息子ささの友間さんが出演していて、一緒に出てくるシーンはないのですが、親子共演となっています。松原智恵子さんや石橋蓮司さんも凄味のある役どころなのですが、全編を通じて、「死闘編」と言いながら、どこかほんわかしているのは、大阪弁だからでしょうか。西成を舞台にした人情物語の様相が強かったです。(咲)
記憶が戻ってきたゴロー、アクションの見せ場も多くなります。上西監督は香港映画ファンでしょうか?なんだか昔懐かしい動きが見受けられました。それに加えて、中国資本に翻弄されるとか、ウィルスの蔓延とか、フィクションの中に真実味があり、笑いの中にぴりりと辛みも効いています。
ちょっと面白いシーンは、こわもてのウー会長が相手の目の中に真実を見るところ。いつもテンションMAX!闇金姉妹のお姉ちゃん松子が恋する乙女になって、妹の梅子は面白くありません。それを見透かすのもこの会長です。その眼力羨ましい。(白)
2021 年/日本/カラー/124 分/PG12
企画・製作・制作:10ANTS
配給:吉本興業 チームオクヤマ シネメディア
©上西雄大
公式サイト:https://goro-movie.com
★2022年2月5日(土)より大阪先行上映、2月19日(土)より新宿K'sシネマほか全国順次ロードショー
西成ゴローの四億円
監督・脚本:上西雄大
製作総指揮:奥山和由
挿入歌 「寂(レクイエム)唄」「西成 TOWN」唄:西成の神様
出演:上西雄大、津田寛治、山崎真実、波岡一喜、徳竹未夏、古川藍、奥田瑛二
大阪の西成に住む、日雇い労働者・土師晤郎(上西雄大)は、「人殺しのゴロー」と呼ばれて、皆から頼られる存在だ。本人は記憶を失っていて、なぜここ釜ヶ崎で暮らしているのかわからない。ある日、いざこざから頭に大怪我をして手術し、一部記憶が戻る。元妻・片桐真理子(山崎真実)と再会し、かつて元政府諜報機関ヒューミントの工作員だったと聞かされる。娘が難病で心臓移植する以外に助かる方法が無いが、4億円の費用の援助を受けようにも、父親が殺人犯であることが障害になっていると言われる。妻が大学教授を辞め、SM の風俗嬢をしながら娘の延命費を稼いでいることを知り、どんなことをしてでも4億円稼ぐと、ゴローは奔走する・・・
上西雄大監督自身が演じるゴローは、記憶喪失のせいか、上西雄大ご本人の人柄のせいか、人殺しをするような強面に見えません。
とてつもない力をもつフィクサー・莫炉脩吉役の奥田瑛二は、さすがの迫力。諜報機関ヒューミントの同僚だった日向誠也役の津田寛治も、負けず劣らずの迫力。
登場する人ごとに、所持金、貯金、借金の額などが囲みで表示されます。貯金3億や4億の人たちが、所持金も貯金もない輩から、借金を取り立てるという構造。金のある者は、さらに蓄財し、金のない者は、雪だるま式に借金が増える・・・ 世の常とはいえ悲しい現実。ゴローは娘のために、どうやって4億円を作るのでしょう。本作は前編。まだ4億には程遠いのです。顛末は、後編『西成ゴローの四億円 死闘篇』でどうぞ! (咲)
『ねばぎば 新世界』を観て以来、上西雄大監督の次作が気になっていました。ほんとに諜報機関があるのかどうか知りませんが、出張の多すぎる公務員の妻がいたらちょっと疑ってみましょう(笑)。音と一緒に表示される金額を思わずしげしげと見てしまいました。あるところにはきっとあるんでしょう。心臓手術と費用の話で『五億円のじんせい』(2019)を思い出しました。善意の募金で命が助かった男の子が生き方に悩むのです。
この映画では一人娘のために、両親が身体を張ってお金を作ります。ゴローは妻子に負い目があり、娘のためなら命も惜しみません。手始めに身体の一部で金策。その値段は高いか安いか?自分の金銭感覚も試されます。(白)
2021 年/日本/カラー/104 分/G
企画・製作:10ANTS
配給:吉本興業 チームオクヤマ シネメディア
©上西雄大
公式サイト:https://goro-movie.com
★2022年1月29日(土)より大阪先行上映、2月12日(土)より新宿K'sシネマほか全国順次ロードショー
オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険 原題:Austria2Australia
監督・脚本・撮影・編集:アンドレアス・ブチウマンとドミニク・ボヒス
監修 :マルティナ・アイヒホルン
最終編集:イネス・ヴェーバー
プロデューサー:ヨーゼフ・アイヒホルツァー
オーストリアでIT企業に勤める青年アンドレアス・ブチウマンとドミニク・ボヒスは、大学時代からの友人。二人はオーストリアからオーストラリアまで自転車で走破する旅に出る。海路を除いてその距離 18,000km、訪問国 19 か国、期間にして 11 か月!
ふたりを突き動かしたのは「限界に挑戦したい」というシンプルな情熱と好奇心。
本作は、自転車に積み込んだ小型カメラ2台と、GoPro(ゴープロ)のカメラにドローンで撮った旅の記録。
自転車で冒険旅行に出ると決めた二人。地図を手に取り、いちばん下の右端にあるオーストラリアを目的地に決め、ビザ発行があまり面倒でなさそうな国を通る計画を立てたとのこと。
オーストリアのリンツを出て、東欧などを経由してロシアに入るまでは、毎日、寝場所を探し、食料や水の調達をするのに精一杯であまり映像がありません。ようやく余裕が出来たのかモスクワの赤の広場が映し出されますが、ロシアではビザの有効期間 30 日の間に2500 キロを走破しなくてはならず、地元の人と交流する時間もなかった模様。
ロシアからカザフスタンに入ったとたん、知り合った運転手さんの家に招かれ、ご馳走を振舞われ、さらに結婚式にも参加と、イスラーム世界あるあるのおもてなしがさっそく展開。キルギスや中国のカシュガルでも中央アジア風のムスリムのおもてなし。
カシュガルには、1990年代に行ったことがあるのですが、すでに漢民族がじわじわと入ってきていました。ここ数年、ウィグルの人たちの文化が蹂躙されている報道が続いていますが、この映画にはウィグルの人たちの活気ある姿が映し出されていて、もしかしたら貴重な記録になるのではと思ってしまいました。
次に入ったパキスタンでは、パトカーがすぐ後ろに密着してついてきて、ウザイし怖いと、なんとかまくのですが、また警官たちが現れて、実は心配して見守ってくれていたのだとわかります。その夜は、警官たちはじめ大勢の男の人たちと太鼓と手拍子で踊るというお酒抜きの宴が続きました。私もパキスタンでは町を散策していた時に、好奇心いっぱいの人たちに取り囲まれた経験があるので、これまたあるあるの世界だなぁ~と。
(C)Aichholzer Film / Dominik Bochis / Andreas Buciuman
インドに入り、アムリトサルにあるシク教の黄金寺院で、振舞い料理をいただく場面が出てきました。『聖者たちの食卓』(2011年/ベルギー 監督:フィリップ・ウィチュス、ヴァレリー・ベルト)を思い出しました。
ネパールにも行き、その後、ミャンマーのビザが取れず仕方なく飛行機でタイへ。マレーシア経由シンガポールまで走り、飛行機でオーストラリアのパースへ。そこで旅は終わらず、さらに東のブリスベーンまで。 後半は(暁)さんに詳細は譲りますが、途中でやめたくなる苦労もあった自転車の旅。やり遂げた時の爽快感(と脱力感も?)が観ている私たちにも伝わってきました。そも、自転車に乗れないので、とても真似はできませんが、見知らぬ土地の人たちと交流しながらの旅に、いつかまた出たくなりました。コロナがうらめしいです・・・ (咲)
恐らくアンドレアスとドミニクは自転車での旅がここまでハードなものになるとは思っていなかったのではないだろうか。作品の前半は軽口をたたく余裕もあったけれど、次第に自分の決断に迷いが生じてくる。そんな姿もしっかり映し出しているので、2人に感情移入し、他人事には思えなくなってしまう。旅行中にすでにFacebookを通じて発信していたことから、旅先で声を掛けられる場面があり、リアルタイムで知らなかった自分が残念に思えてきた。この旅をやり遂げたアンドレアスとドミニクは今、どんな生活をしているのだろう。もし、また自転車でどこかに行くようなことがあったら、Facebookで追いかけてみたい。(堀)
本当はスタッフ日記のほうに書く予定だったのだけど、もう公開が始まってしまうので、こちらの作品紹介に映画を観ての感想や思ったことを記します。
まずタイトルに惹かれました(笑)。「オーストリア」と「オーストラリア」、昔から紛らわしいと思っていました。オーストリアとオーストラリア、どっちなの?ということ、何度もありました。このオーストリア在住の若者たちがオーストラリアに向けて自転車で旅をする、これは面白そうと思いました。
ヨーロッパからロシアに向けての最初は雨が多かったようですが、ロシアを通り抜けカザフスタンに入ってからのからっとした草原の景色を見てほっとしました。11か月にも渡る旅の間、いろいろな人と出会い、二人の関係もぎくしゃくした時もあったようだし、アクシデントも何回も。自転車が壊れたこともありました。でも目標のオーストラリアに向かって走り続けました。その姿がすがすがしかった。パキスタンの部分の詳細は(咲)さんのところに詳しく書かれているけど、最後警官の人たちとの宴会では、思わず大笑いしてしまいました。喧噪のインド、ヒマラヤやカラコルムの山々を眺めながら走り、そしてネパール、マレーシア、シンガポールへ。このアジアの景色は、けっこう映画などで観て来た景色ではあるものの、思わず懐かしくてほっこりしてしまいました。
シンガポールからオーストラリアには飛行機で入国し、オーストラリアの西から東へ横断したものの、入り口の「パース」という地名は語られず。HPの地図にも載っていません。とても残念。なぜこだわるかというと、私が初めて海外旅行に行ったのは1990年でパースでした。そこに移住した友人を訪ねて、友人3人で訪ねました。なのでパースからのこの二人の自転車の旅は、その時のことを思い出させてくれました。舗装された道路の横は大地の赤い土の色がずっと続いていたのですが、同じようにそれが映されていました。まっかな大地の色にびっくりしたことを覚えています。そして二人が通った砂漠の砂の色が真っ白でびっくりしました。映画を観終わってから、ふと数日前にTVで見た「NHK ブラタモリ」の「南紀白浜」の回で、「白浜の白い砂はオーストラリアから輸入したものがある」と言っていたのを思いだしました。もしかしたら、この砂漠の砂かもと思って調べてみたら、たぶんそのようでした。それほど印象的な真っ白な砂漠が続いていました。そしてたどりついた最終目的地ビリズベン。ちなみにそのパースに移住した友人はオーストラリアに帰るオーストラリア人と一緒に行ったのですが、この二人とは逆に、東のシドニーからパースへ(つまり東から西へ)車で約6000㎞移動したそうです。途中たくさんの野生のカンガルーにも会ったと言っていました。
それにしても自転車でこの旅を続けるという、難しいけど素晴らしい冒険旅行。そしてそれを記録し映画にしたということは、撮影機材が小型化したこの時代だからできたことだし、この新型コロナが広がる前だからできたこと。絶妙なタイミングだったということですね。映画公開という意味ではこのくらいの長さがいいのかもしれませんが、通った土地の映像がもう少しある長いバージョンも観てみたいな(暁)。
写真クレジット © Aichholzer Film 2020
2020 年/オーストリア/ドイツ語/カラー/デジタル/16:9/88 分
日本版字幕:吉川美奈子
© Aichholzer Film 2020
日本公開後援:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム
公益財団法人日本サイクリング協会
提供・配給:パンドラ
公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/austria2australia/
★2022年2月11日(金祝)ヒューマントラストシネマ有楽町&アップリンク吉祥寺他全国順次公開‼
2022年02月05日
ロスバンド(原題:Los Bando)
監督:クリスティアン・ロー
出演:ターゲ・ホグネス(グリム)、ヤコブ・ディールード(アクセル)、ティリル・マリエ・ホイスタ・バルゲル(ティルダ)、ヨナス・ホフ・オフテブロー(マッティン)
ノルウェーの田舎町。グリムとアクセルは幼いころからの親友で、2人はロックが大好き。グリムはドラム、アクセルはギターが村で一番上手い。本人は全く気付いていないが、困ったことに音痴なのだ。グリムはどうしてもアクセルに本当のことが言えず、こっそり調整した音源で大会に応募する。おかげで大会への出場権は得たけれど、メンバーが足りない。ベースを募集してみると応募してきたのは、9歳のチェロ少女ティルダだけだった。開催地は遥か北の街トロムソ。2人の有り金をはたいて、近所のマッティンに運転手を頼んでみた。家での不満が鬱積していたマッティンは、兄のワゴン車をこっそり塗り替え、3人とともに北を目指してくれることになった。
グリムの両親は不仲で喧嘩が絶えません。争う声が聞こえるとグリムは音楽を聴きます。アクセルはクラスの女の子に片想いしていますが、モテる彼女の反応は冷たくて落ち込んでいます。小さなティルダの両親は仕事で多忙、いつも独りぼっちでした。それぞれに事情を抱えた少年少女が、南北に細長いノルウェーの南から車で北上します。にわか仕立てのバンドは、最初のうち不協和音を奏でるばかり。本番までにアクセルの音痴をどうしよう…とグリムの悩みは尽きません。
お金がなくなったり、ティルダの両親に大騒ぎされたり、問題も続出。ほんとに会場までたどり着いて出場できるのでしょうか?観客はノルウェーの美しい景色を眺めながら、彼らを見守ることになります。
この作品はベルリン国際映画祭のジェネレーション部門(4歳以上が対象)に選出されています。それを聞くとちょっと安心しますよね。豊かな北欧の自然を堪能し、音楽を楽しんでください。出演の子どもたちが成長して、いつかまた画面に登場するのが今から楽しみです。(白)
2018年/ノルウェー,スウェーデン合作/カラー/シネスコ/94分
配給:カルチュアルライフ
FILMBIN AS (C) 2018 ALLE RETTGHETER FORBEHOLDT
https://www.culturallife.jp/losbando/
★2022年2月11日(金・祝)より新宿シネマカリテほか全国公開