2022年01月23日

ロックフィールド 伝説の音楽スタジオ  原題:Rockfield:The Studio on the Farm

劇場公開 2022年1月28日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
劇場情報
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(C)2020 Ie Ie Rockfield Productions Ltd.

スタッフ・キャスト
監督:ハンナ・ベリーマン
撮影:パトリック・スミス
編集:ルパート・ハウスマン
音楽:アレクサンダー・パーソンズ
日本語字幕:大塚美左恵
出演
キングズリー・ウォード、チャールズ・ウォード、オジー・オズボーン、ロバート・プラント、リアム・ギャラガー、クリス・マーティン、ティム・バージェス、ジム・カー

伝説はこの場所で生まれた 英国のロック史を紐解く作品
農場を史上最も成功した音楽スタジオに変えた兄弟と名曲誕生の物語

1970年代から2000年代にかけブリティッシュロックの名曲を多数生み出した伝説の音楽スタジオの歴史をたどったドキュメンタリー。ロンドンから西へ230キロ。ウェールズの農場にある伝説の音楽スタジオ「ロックフィールド」。キングズリーとチャールズのウォード兄弟が1963年頃、農場内の屋根裏部屋を改修して世界初の宿泊可能な音楽スタジオを設立した。
当時エルヴィス・プレスリーに夢中だったウォード兄弟は親から酪農場を引き継ぎ、農場の仕事の傍ら屋根裏に録音機材を持ち込みレコーディングスタジオを作った。当初は自分たちと友人たちが使用する目的だっったが、宿泊施設も設置したことで、世界初の宿泊可能な滞在型音楽スタジオ、ロックフィールドになっていった。都市と違って大きな音を気にすることもなく、また滞在しながら録音ができることが評判を呼び、多くのミュージシャンたちが利用することになった。
クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」など、数え切れないほどのブリティッシュ・ロックの名曲がこのスタジオで誕生したという。当時、このスタジオを利用したミュージシャンたちも登場し、ここでどのように過ごし、自分の音楽体験にどうつながったかなど、録音時のエピソードや思い出を語り、名曲誕生秘話を、楽曲とともに振り返る。

私はブリティッシュロックに詳しくはないので、ここに出てきた人やグループ、音楽などにあまりなじみはないけれど、1970年代は日本やアメリカのロックなどは聴いていた。私自身はフォークソングにハマって、1969年、高校3年の時に初めてアルバイトして買ったのはギター(ガットギター)だったので、そういう意味では同時代に音楽に夢中な若者だった一人ではある。そんな私でもオジー・オズボーン、クリス・マーティンくらいは名前を知っていたし、クイーンやオアシスというバンド名は知っている。ロックフィールドという名前も聞いた記憶はあるのだけど、農場を利用したスタジオだったというのは、今回初めて知った。それにしてもこういう環境で録音ができるということがあったのだとうらやましく思い、すてきなスタジオだと思った。こんな環境で録音できるのなら、詩や曲も浮かぶかも。
1969年、私たちはアメリカンフォークの歴史を作った曲を集めたLPレコードを作ろうと1年の間、教室で練習をしていた。結局レコードはできなかったけど、学校にギターや録音機を持っていき練習したことが懐かしい。そういえば、このスタジオではないけど、泊りがけで合宿して練習したこともあったのを思い出した。もう50年以上前の話である。久しぶりにギターを弾いてみたくなった(暁)


2020年製作/96分/G/イギリス
原題:Rockfield: The Studio on the Farm
配給:アンプラグド
posted by akemi at 21:04| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

〈特集上映〉タル・ベーラ伝説前夜『ダムネーション/天罰』『ファミリー・ネスト』『アウトサイダー』

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タル・ベーラはいかにして、唯一無二の映画作家になったのか----

『ニーチェの馬』(2011年)を最後に56歳という若さで映画監督引退を宣言したハンガリーの巨匠タル・ベーラ。伝説の『サタンタンゴ』(1994年)以前の足跡をたどる、日本初公開3作『ダムネーション/天罰』『ファミリー・ネスト』『アウトサイダー』が4Kデジタル・レストア版で一挙上映されます。

監督・脚本:タル・ベーラ
脚本:クラスナホルカイ・ラースロー (『ダムネーション/天罰』) 
撮影監督:メドヴィジ・ガーボル(『ダムネーション/天罰』)
音楽:ヴィーグ・ミハーイ(『ダムネーション/天罰』)
編集:フラニツキー・アーグネシュ(『アウトサイダー』『ダムネーション/天罰』)
日本語字幕:北村広子 字幕監修:バーリン・レイ・コーシャ
4Kデジタル・レストア版
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/tarrbela/
★2022年1月29日(土)、シアター・イメージフォーラムほかにて一挙公開!


『ダムネーション/天罰』原題:Kárhozat/英題:Damnation
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1988年/ハンガリー/121分/モノクロ/1:1.66
クラスナホルカイ・ラースローが初めて脚本を手掛け、ラースロー(脚本)、ヴィーグ・ミハーイ(音楽)が揃い、“タル・ベーラ スタイル”を確立させた記念碑的作品。ラースローと出会ったタル・ベーラは『サタンタンゴ』をすぐに取りかかろうとしたが、時間も予算もかかるため、先に本作に着手する。
不倫、騙し、裏切りー。荒廃した鉱山の町で罪に絡みとられて破滅していく人々の姿を、『サタンタンゴ』も手掛けた名手メドヴィジ・ガーボルが「映画史上最も素晴らしいモノクロームショット」(Village Voice)で捉えている。

窓の外にゆっくりと動く滑車。
おもむろに出かける男。
さびれた酒場。
大雨。
踊り続ける人たち・・・
『サタンタンゴ』の世界が、すでに展開していました。(咲)


『ファミリー・ネスト』原題:Családi tűzfészek/英題:Family Nest
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1977年/ハンガリー/105分/モノクロ/1:1.37
住宅難のブダペストで夫の両親と同居する若い夫婦の姿を、16ミリカメラを用いてドキュメンタリータッチで5日間で撮影した、22歳の鮮烈なデビュー作。不法占拠している労働者を追い立てる警察官の暴力を8ミリカメラで撮影して逮捕されたタル・ベーラ自身の経験を基にしている。「映画で世界を変えたいと思っていた」とタル・ベーラ自身が語る通り、ハンガリー社会の苛烈さを直視する作品となっている。社会・世界で生きる人々を見つめるまなざしの確かさは、デビュー作である本作から一貫している。

狭いアパートで夫の両親と同居せざるを得ない若い妻。何かと小言をいう義父。あげく、除隊して家に帰ってきた夫は、どちらにもいい顔をしようと妻の肩を持つわけではない。父親から妻が浮気していると言われ、信じる夫。48時間居座れば自分の家になるという噂を聞き、娘を連れ空き家に居座る妻・・・ タル・ベーラのその後の作品とは、ちょっと雰囲気が違って、社会問題を痛烈な皮肉で描いた作品でした。(咲)


『アウトサイダー』原題:Szabadgyalog/英題:The Outsider
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1981年/ハンガリー/128分/カラー/1:1.37
社会に適合できないミュージシャンの姿を描いた監督第2作にして、珍しいカラー作品。
この作品がきっかけで、タル・ベーラは国家当局より目をつけられることになる。本作以降すべての作品で編集を担当するフラニツキー・アーグネシュが初めて参加。酒場での音楽とダンスなど、タル・ベーラ作品のトレードマークと言えるような描写が早くも見てとれる。日本でも80年代にヒットしたニュートン・ファミリーの「サンタ・マリア」が印象的に使われている。

どうしようもない男が描かれた本作。カラーなのに、しっかりタル・ベーラの世界でした。(咲)

******

私が最初に観たタル・ベーラ作品は『倫敦から来た男』(2007年、日本公開2009年12月)でした。
モノクロームで静かに描かれた映像美にぞくっとし、「鬼才」という言葉を実感したものでした。次に、期待して観に行った『ニーチェの馬』は、荒野の一軒家に住む父と娘と馬の過酷な日常をモノクロで描いた154分! ひたすら風の音が吹き荒れ、いつ、この映画から解放されるのだろう・・・と思いながらも、映像の美しさに引き込まれました。
『ニーチェの馬』が東京フィルメックスで上映されるのにあわせ、タル・ベーラが来日。2011年11月18日(金)、ハンガリー大使館で開かれた記者会見に颯爽と現れ、「監督は引退するけれど、映画界を引退する訳じゃない、後身を育てる」と、さらっと言ってのけました。
その後、2019年に伝説的な7時間18分の『サタンタンゴ』(1994年)が日本で初公開され、再来日したタル・ベーラは8年の間にだいぶんお年を召した雰囲気になっていましたが、健啖家なのは変わらずでした。
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『サタンタンゴ』 タル・ベーラ監督来日記者会見 
2019年9月14日(土) 撮影:景山咲子


今回の特集上映では、『サタンタンゴ』と『ニーチェの馬』も特別上映されます。

〈特別上映〉
●『サタンタンゴ』(1994年/438分/モノクロ) ※途中2回休憩有り
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降り続く雨と泥に覆われ、村人同士が疑心暗鬼になり、活気のない村に死んだはずの男イリミアーシュが帰ってくる。彼の帰還に惑わされる村人たち。イリミアーシュは果たして救世主なのか?それとも?クラスナホルカイ・ラースローの同名小説を原作として、タンゴのステップ〈6歩前に、6歩後へ〉に呼応した12章で構成される、伝説の7時間18分。
シネジャ作品紹介 

●『ニーチェの馬』(2011年/154分/モノクロ/35mm) ※35mmフィルム上映。リールの交換のため途中休憩有り
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1889年トリノ。ニーチェは鞭打たれ疲弊した馬車馬を見つけると、駆け寄り卒倒した。そのまま精神は崩壊し、二度と正気に戻ることはなかった。その馬の行方は誰も知らない─。馬と農夫、そしてその娘。暴風が吹き荒れる6日間の黙示録にして、タル・ベーラ監督“最後の作品”。
シネジャ作品紹介 




posted by sakiko at 19:36| Comment(0) | ハンガリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

名付けようのない踊り

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© 2021「名付けようのない踊り」製作委員会

脚本・監督:犬童一心(『ジョゼと虎と魚たち』『メゾン・ド・ヒミコ』『のぼうの城』)
エグゼクティブプロデューサー:犬童一心 和田佳恵 山本正典 久保田修 西川新 吉岡俊昭 プロデューサー:江川智 犬童みのり
アニメーション:山村浩二 音楽: 上野耕路 音響監督:ZAKYUMIKO 撮影:清久素延 池内義浩 池田直矢 編集:山田佑介
出演:田中泯
石原淋 / 中村達也 大友良英 ライコー・フェリックス / 松岡正剛

田中泯のダンスと旅に出る
ポルトガル-東京-広島-愛媛-パリ-福島そして山梨・・・
72歳から74歳の田中泯を追ったドキュメンタリー

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© 2021「名付けようのない踊り」製作委員会

ポルトガル、サンタクルス。石畳の街角に佇む田中泯。
おもむろに動き出す。
それは踊りといっていいのか・・・
1945年生まれ。クラシックバレエとアメリカンモダンダンスを学び、30代、モダンダンスの舞台に立つ。1968年、初めて土方巽の踊りを観て打ちのめされる。「踊りとは何か」と考える。
1978年、33歳のとき初めてパリで踊る。世界中で踊るようになるが、完成した踊りはない。日々違う。旅芸人のようと語る。それを「場踊り」と呼ぶ田中泯。観ている人と自分の間にダンスが生まれるのが理想だ。観ている人もまたダンサーなのだ。
40歳の時、「桃花村」と吉田一穂の随筆から名付けた山梨の山間の地で畑仕事をして作った体で踊ると決めた田中泯。日焼けした肉体で踊る。
57歳の時、山田洋次監督に乞われ、『たそがれ清兵衛』(02)に出る。映画初出演で、どう演じていいかわからず、「踊った」と語る。
モンパルナスに眠る敬愛するフランスの哲学者ロジェ・カイヨワの墓を訪ねる。名前のない墓。「ミミクリ」という擬態や模倣を伴う遊びの類型を示す概念を提唱した人物。
福島・浪江町の廃屋でクモの動きを夢中で模倣する田中泯・・・

申し訳ないことに『たそがれ清兵衛』での田中泯さんが記憶になくて、昨年、『HOKUSAI』で晩年の北斎を演じられたのを観て、初めて凄い方がいると認識したのでした。
何も知らずに、突然、そばで田中泯さんが場踊りを始められたら、変人と思ってしまうかもしれません。気恥ずかしい感じもします。知る人ぞ知るで、広場や街角で大勢の人が取り囲むこともあるのですが、田中泯さんはゆっくりと自分のペースで動きます。「世界には違う速度が同時にある」のだと語ります。

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© 2021「名付けようのない踊り」製作委員会

山村浩二によるアニメーションで、子ども時代のことが描かれます。泯さんは、「私の子ども」と子ども時代のことを語ります。近くに朝鮮人の家があって、普段いない父親がたまに帰ってくると宴をしていたというエピソードがありました。泥棒稼業で出所祝いの宴だったという話が妙に印象に残りました。そして、警察官だった泯さんのお父さんのコートは、今は踊りの衣装になっているそうです。そのコートを羽織ったお父さんが、朝鮮人の泥棒さんを捕まえたかもしれないと想像すると、ちょっと楽しい。(咲)


*記者会見*
1月24日(月)日本外国特派員協会(千代田区 丸の内)で開催された記者会見に田中泯と犬童一心監督が登壇。
田中泯がポルトガルで踊る際に、犬童監督を誘ったことが制作のきっかけとなり、2年間に渡り、約30もの田中の踊りを追いかけ続けて出来た本作について、二人が語りました。
田中は「僕の踊りは、その場での1回限りのものなので、そのまま映像化しても、その時々の空気は伝わらない。犬童監督が編集をすることによって、踊りを再構築してくださいと伝えました。僕自身は踊りを踊る人間としてカメラの前に居ただけです。普段の撮影と違い、よーいスタートもなければ、NGもありません」と振り返りました。
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メイキング_copyright Rin Ishihara
© 2021「名付けようのない踊り」製作委員会

犬童監督は「どういう映画にしようか決めないで、ひたすら泯さんの踊りを追い掛けました。その後に、シナリオを書いて、踊りを組み直しました。その際に大切にしたのは、自分が実際に泯さんの踊りを実際に観に行った時の時間感覚です」と説明。
泯さんの「世界には様々な文化があり、言葉と共に発展してきましたが、言葉が生まれる前の“沈黙”という文化は間違いなく世界共通。人間は一つの種。私たちはホモサピエンスです。その身体の生んだ文化の一つして、踊りはある」という言葉に真髄を感じました。
(記者会見には参加できなかったのですが、配給・宣伝のハピネットファントム・スタジオ様からいただいたレポートより印象的な部分を掲載させていただきました)


2021/日本/114分/5.1ch/アメリカンビスタ/カラー/G
助成:文化庁文化芸術振興費補助金 協賛:東京造形大学 アクティオ
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ 制作プロダクション:スカイドラム
製作:「名付けようのない踊り」製作委員会(スカイドラム テレビ東京 グランマーブル C&Iエンタテインメント 山梨日日新聞社 山梨放送)

公式サイト:https://happinet-phantom.com/unnameable-dance/
★2022年1月28日(金)より ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9、Bunkamura ル・シネマほか全国ロードショー

posted by sakiko at 18:37| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

テレビで会えない芸人

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監督:四元良隆、牧祐樹
プロデューサー:阿武野勝彦
撮影:鈴木哉雄
音楽:吉俣良
音響効果:久保田吉根(くぼた・よしね)
クレジットアニメーション:加藤久仁生
出演:松元ヒロ

テレビで会えない芸人—
その生き方と笑いの哲学から、いまの世の中を覗いてみる。
モノ言えぬ社会の素顔が浮かび上がる。

今日のメディア状況に強い危機感を募らせていたのは、松元の故郷鹿児島のローカルテレビ局。2019年の春から松元ヒロの芸とその舞台裏にカメラが張りついた。監督は鹿児島テレビの四元良隆と牧祐樹。プロデュースを手掛けたのは『ヤクザと憲法』『さよならテレビ』などの衝撃作を世に送り出してきた東海テレビの阿武野勝彦。なぜ松元ヒロはテレビから去ったのか? なぜテレビは松元ヒロを手放したのか? そして本作はその答えを見つけられたのか?

鹿児島テレビ放送のドキュメンタリー番組「テレビで会えない芸人」は「第58回ギャラクシー賞」テレビ部門の優秀賞、「2020年日本民間放送連盟賞」の「番組部門 テレビエンターテインメント番組」最優秀賞、「第29回FNSドキュメンタリー大賞」大賞。受賞後全国で再放送があったそうですが、なんと放送時間は午前四時頃から。録画した方もいるかと思いますが、これではたいていの人が見たくても見られません。そこで「映画にしましょう」と決めた鹿児島テレビ放送さん、テレビ局を越えて参加した阿武野勝彦プロデューサーはエライ!
渋谷を歩く、一人でネタを考える、稽古場で愛妻お結びを食べながら稽古に励む、故郷鹿児島へ行く、懐かしい人に会う…密着したカメラはいろんな松元ヒロさんを見せてくれます。もちろん舞台でのヒロさんも映します。
忖度、気遣いばかりのメディアに慣れたらいけません。ヒロさんが主戦場に選んだ舞台で、笑顔で突っ込む政治・社会ネタは嘘でもオーバーでもありません。私たちが毎日の暮らしで「変だぞ、おかしいな、なんで?」と考えていることです。弱者の立場で強者に向かい、はっきり口に出してくれるので、大笑いしながら「よくぞ言ってくれた!」「あー、すっきりした!」となります。だから満席になるんですよね。
映画の中で「憲法くん」の名調子が聞けます。こんなにまっすぐで真面目で研究熱心で、お話が面白い方を以前取材で独り占めしました。今更ながらなんと贅沢だったことかと感謝×感謝。みなさまも映画でヒロさんの人となりを知って、その話芸を楽しんでくださいまし。(白)


●『誰がために憲法はある』「憲法くん」原作:松本ヒロさんインタビューはこちら

2021年/日本/カラー/81分
配給:東風
(C)2021 鹿児島テレビ放送
https://tv-aenai-geinin.jp/
★2022年1月29日(土)よりポレポレ東中野にてほか全国順次公開

posted by shiraishi at 16:29| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

クレッシェンド 音楽の架け橋  原題:CRESCENDO #makemusicnotwar

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©CCC Filmkunst GmbH

監督:ドロール・ザハヴィ
出演:ペーター・シモニシェック(『ありがとう、トニ・エルドマン』)、サブリナ・アマーリ、ダニエル・ドンスコイ、メフディ・メスカル、ビビアナ・ベグラウ、エーヤン・ピンコヴィッチ、ゲッツ・オットー

和平を願って結成されたイスラエルとパレスチナ混合オーケストラ。融和はあるのか?

「愛し合ってる」と両親宛のビデオメッセージを録画するオマルとシーラ。
オマルはパレスチナ人のクラリネット奏者、シーラはユダヤ人のホルン奏者だ。二人が出会ったのは、中東の和平交渉が行われる南チロルでの一夜限りの演奏会のために結成されたイスラエルとパレスチナ混合のオーケストラ。
企画を任された世界的指揮者エドゥアルト・スポルクによる厳正なオーディションがテルアビブで開かれた。パレスチナ自治区ヨルダン川西岸で暮らすオマルはヴァイオリニストのレイラと共にチェックポイントでのイスラエル兵の厳しい検査をなんとかパスして会場に駆けつけ、メンバーに選ばれた。受かった奏者たちが練習を始める。スポルクは、コンサートマスターに、ユダヤ人の優秀なヴァイオリニストのロンではなく、パレスチナ人のレイラを指名する。レイラが指揮をとって始めようとしても、ユダヤ人の奏者たちは誰も言うことをきかない。スポルクは、本番までの3週間、南チロルの山間部での合宿で、彼らの敵対心を和らげようと荒療治に出る。ロープを挟んで二手に分かれ、5分間、相手への不満を叫ぶよう指示する。「アラブ人はテロリスト」「ユダヤ人こそ人殺し」「おじいちゃんは70年前リッダから追い出された。母親が亡くなる前に家の鍵を受け取った」と怒鳴りあう中で、オマルとシーラだけは戸惑って黙っていた。そんな二人がいつしか心を通わせるようになる・・・

タイトルの「クレッシェンド」は、音楽用語で「だんだん強く」の意味ですが、ロープを挟んで怒鳴りあう声がだんだん強くなっていくのを指しているのではと思うほど。今のパレスチナの状況と同様、この混合オーケストラも二つの民族が分かち合うことはないのかと危惧してしまいます。“音楽の架け橋”という副題に、心温まる感動物語かと思いきや、一筋縄ではいきません。「クレッシェンド」というタイトルには、成長するという意味と共に、音楽を通じて芽生える共振がだんだん広がっていくことを願う気持ちが込められているそうです。

ドロール・ザハヴィ監督は、1959年2月6日、イスラエル・テルアビブ生まれ。物心がついた時からイスラエルとパレスチナの対立を目にして関心を寄せてきました。1982年、奨学金を受け、旧東ドイツのコンラート・ヴォルフ映画テレビ大学で演出を学び、卒業後はイスラエルで映画評論家として活動。ベルリンの壁崩壊直前の1989年の秋にベルリンに渡り、1991年から永住。テレビ番組の製作に勤しむ傍ら、イスラエルとパレスチナの政治的対立をテーマにした長編映画『For My Father』(08・英題)を監督。
本作は、ユダヤ人とアラブ人で結成された実在のいくつかのオーケストラにインスパイアされて描いた物語。特に、1999年に世界的指揮者のダニエル・バレンボイムとパレスチナ系米文学者のエドワード・サイードの提唱により「共存への架け橋」を理念に結成された「ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団」の名前を挙げていますが、あくまでフィクション。中でも、指揮者スポルクがドイツ人で、しかもホロコーストに関わったナチス党員の息子という、葛藤を抱えた人物として描いたことに監督のさらなる思いを感じました。団員のユダヤ人も肉親に強制収容所でつけられたタトゥーがあると語っていて、ヨーロッパのキリスト教社会で脈々と続いてきたユダヤ人蔑視が、今のイスラエル&パレスチナで暮らす人々に影を落としていることも感じさせてくれる作品になっています。(咲)
(注:イスラエル人というと、イスラエル国籍のパレスチナ人も含まれるため、国家はイスラエル、民族としてはユダヤ人としました。)


パレスチナとイスラエルの対立。日本にいるとわかっているようで全然わかっていないことがこの作品を見るとよくわかります。ナチスに両親を殺され、何とか生き延び、イスラエルで平和な暮らしができると思ったら、独立戦争で妹を殺された祖母の話をするイスラエルの青年。イスラエル建国で立ち退かされ、生まれ故郷の家の鍵を母から託され、いつかその鍵を使って家に帰ることを願っている祖父の話をするパレスチナの女性。身近な大切な人の悲しみは時間が経っても癒えることはありません。
対立する2つの民族をまとめる立場のマエストロがドイツ人で、彼もまた歴史的な大きな枷を背負っていました。心を1つにできないままでいる楽団員たちがそれを知り、気持ちに変化が現れる。それが演奏にも如実に表れてきます。相手の悲しみに耳を傾けることで歩み寄る努力はできるのですね。作品内で演奏される曲はドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第2楽章など、どれも有名な曲ばかり。「そういわれてもクラシックは苦手でわからない…」と尻込みしなくても大丈夫。演奏が始まれば「あ~この曲なら聞いたことがある!」と思えるはず。
終盤に思いもしない展開が待っていますが、その先にも希望があったことがうれしい。

ちなみに楽団一のヴァイオリンの腕を持ち、ハンサムで人気者のロンを演じるダニエル・ドンスコイはNetflixドラマシリーズ「ザ・クラウン」シーズン4で、ダイアナ妃の不倫相手ジェイムズ・ヒューイット役に抜擢されたイケメンです。俳優として活躍する傍ら、ミュージシャンとしてアルバム制作やライブを精力的に行っています。しかも5ヶ国語を操るマルチリンガル! 天は二物も三物も与えてしまったようです。(堀)


2019年/ドイツ/英語・ドイツ語・ヘブライ語・アラビア語/112分/スコープ/カラー/5.1ch
日本語字幕:牧野琴子、字幕監修:細田和江
配給:松竹 宣伝:ロングライド
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/crescendo/
★2022年1月28日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、 シネ・リーブル池袋ほか全国公開




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