2022年01月16日

クライ・マッチョ 原題:Cry Macho

公開日 2022年1月14日
上映劇場情報


スタッフ
監督:クリント・イーストウッド
製作:クリント・イーストウッド アルバート・S・ラディ ティム・ムーア ジェシカ・マイヤー
製作総指揮:デビッド・M・バーンスタイン
原作:N・リチャード・ナッシュ
脚本:ニック・シェンク N・リチャード・ナッシュ
撮影:ベン・デイビス
美術:ロン・リース
衣装:デボラ・ホッパー
編集:ジョエル・コックス
音楽:マーク・マンシーナ
出演
クリント・イーストウッド:マイク・マイロ
エドゥアルド・ミネット:ラフォ
ナタリア・トラベン
ドワイト・ヨーカム
フェルナンダ・ウレホラ

ほんとうの強さの意味を問う

誘拐から始まった少年との出会いが、二人の人生を変える。
テキサス。ロデオ界のスターだったマイク・ミロ(クリント・イーストウッド)は落馬事故の後、家族と別れ、今は競走馬の種付けの仕事をしながら一人で暮らしている。そんなある日、恩義がある元雇い主から詳しい理由は告げられぬまま、別れた妻に引き取られている息子のラフォ(エドゥアルド・ミネット)をメキシコから連れ戻してほしいと頼まれる。誘拐まがいの犯罪スレスレの仕事。最初は断ったが、結局、元雇い主に恩義があるマイクは引き受け、メキシコに向かう。
ラフォは、自分の思い通りにしようとがんじがらめの母に見切りをつけ、自分で生きていこうと闘鶏用のニワトリとストリートで生きていた。マイクは街でラフォをみつけ父親の元に行こうと説得。二人で米国境への旅を始める。そんな二人に迫るメキシコ警察やラフォの母が放った追手をくぐりぬけ、国境に向かう。そして国境で決断した二人の選択は…。人生の岐路は緊張感の連続。二人にとってそれぞれの居場所とは。
そして「マッチョ」を目指す少年に、「マッチョ」とは強がりであってほんとの強さではないこと。ほんとの強さとは何かということを、マイクはこのロードムービーの中で少年に伝えていく。


クリント・イーストウッド監督デビュー50周年。監督40作目の記念作品。
本作の舞台は、1979年。実は企画を持ち込まれたのは40年程前。主人公のマイクは落馬事故以来落ちぶれた元ロデオ界のスター。家族も亡くし孤独に暮らす老人をクリント・イーストウッドが演じるには、まだ若すぎてお蔵入り。それでも物語が頭の片隅に残っていて、2019年、クリントは映画製作者のアルバート・S・ラディに「まだ脚本が手元にあるか」と電話。そうして機が熟して完成したのが本作。
身も心もぼろぼろの90を過ぎたマイクが、元雇い主に最後の恩返しをしようとする物語。枯れたとはいえ、ダンディなマイク。途中で知り合った酒場のメキシコ人の女主人との素敵な関係に、人生、捨てたもんじゃないと勇気が貰えました。

ところで、試写で本作を観た前日に、やはり試写で観たリーアム・ニーソン主演の『マークスマン』(2021年、ロバート・ローレンツ監督、1月8日公開)の物語の設定がとてもよく似ていました。
愛妻に先立たれ、メキシコ国境付近の人里離れた地で細々と牧場を営みながら愛犬と暮らす元海兵隊の腕利き狙撃兵のジム。ある日、メキシコの麻薬カルテルに追われ、国境を越えて逃げて来た母子に出会います。母親は追手に撃たれ、ジムに11歳の息子ミゲルをシカゴの親戚のところに送り届けてほしいと言って絶命。行きがかり上、ミゲルをシカゴまで送るのですが、メキシコの麻薬カルテルは執拗に二人を追ってくるという物語。
2作とも少年役がとても光っていました。アメリカとメキシコの国境を越えての母と引き裂かれた少年の物語に、事情は全く違うのですが、思い起こしたのが、トランプ大統領の時代に移民流入阻止の政策のために親と引き裂かれたメキシコの子どもたちのことでした。地続きの国境を挟んで、さまざまな物語がありそうです。(咲)



2121年/アメリカ/104分/スコープサイズ/2D/5.1chリニアPCM+ドルビーダラウンド7.1(一部劇場にて)
字幕:松浦美奈
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/crymacho-movie/


posted by akemi at 20:31| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

さがす  英題:Missing

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©2022『さがす』製作委員会 

監督・脚本:片山慎三(『岬の兄妹』)
共同脚本:小寺和久 高田亮
音楽:髙位妃楊子
出演:佐藤二朗
伊東蒼 清水尋也
森田望智 石井正太朗 松岡依都美
成嶋瞳子 品川徹

大阪の下町を大急ぎで駆けていく中学生の少女・楓。父・原田智がスーパーでおにぎりを万引きしたと呼び出されたのだ。呆れかえって家に連れて帰ると、「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」とつぶやく父。「また、冗談ゆうて」と楓。
翌朝、起きると父がいない。必死に町を探し、警察にもいくが、「大人の失踪は結末が決まっとう」と相手にされない。最悪の気分なのに、同級生の花山豊から告白される。付き合うのを条件に豊を父親捜しに巻き込む楓。日雇い事務所で父の名前が載っている現場を見つけ、訪ねていくが、原田智と呼ばれて振り向いたのは若い男だった。お父ちゃんはどこに?

通天閣の見える町での物語。予測不能な思いもかけない展開に、何度もひっくり返りそうになりました。
楓役の伊東蒼さんは大阪生まれ。コテコテの大阪弁が可愛いです。
お父ちゃんは、かつてピンポンクラブを運営していたのですが、家賃が払えなくなってやめました。でも、そこは今でも借り手が見つからないのか、卓球台がまだそのまま置いてあるのです。父と娘が押し黙って打つピンポンの音が忘れられません。(咲)


妻を喪い、立ち直れない夫を佐藤二朗が情けないくらいに見事に体現。「娘がいるんだからしっかりしなさい」と天国にいる妻に変わって叱り飛ばしたくなります。そんな男の娘を演じたのが伊東蒼。情けないだけでなく、殺人犯を見つけたと言ったまま失踪した父を探す姿は健気です。『湯を沸かすほどの熱い愛』の頃はまだ幼かったのに、いつの間にかこんなに立派な中学生になっていました。
ラストは「これでいいの?」と思っていたら、ちゃんとけじめをつけてくれました。父と娘の卓球シーンはハンカチ必須です。(堀)


2022年/日本/123分/PG12
配給:アスミック・エース
公式サイト:https://sagasu-movie.asmik-ace.co.jp
★2022年1月21日(金)、テアトル新宿ほかにて全国公開

posted by sakiko at 19:11| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シルクロード.com 史上最大の闇サイト(原題:Silk Roard)

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監督・脚本:ティラー・ラッセル
原作:デビッド・クシュナー
撮影:ペーター・フリンケンバリ
出演:ジェイソン・クラーク(リック・ボーデン)、ニック・ロビンソン(ロス・ウルブリヒト)、ダレル・ブリット=ギブソン(レイフォード)、ポール・ウォルター・ハウザー(カーティス)

「世界を変えたい」─天才的な頭脳に恵まれたロスは、自由な世界を求め、表では絶対に買えない違法物を匿名で売買できる闇サイトを立ち上げた。〈シルクロード〉と名付けたサイトは、瞬く間に熱狂的なブームを巻き起こし、栄華を極める。ハデな動きですぐに警察にマークされるが、ロスは絶対に身元がバレない強固なシステムを創り上げていた。そんなロスを追う捜査官の中に、一人のはぐ れ者がいた。リック・ボーデン、問題行動を起こし、麻薬捜査課からサイバー犯罪課へ左遷された男だ。アナログ全開で足手まといのリックだったが、独自の捜査でロスとの接触に成功する。 リックが考えた驚愕の捜査方法とは?そして二人を待つ運命とは─?

“闇のアマゾン”と呼ばれた 史上最大のダークウェブ〈シルクロード〉を立ち上げた若き天才を、パソコンも使えないアナログ捜査官が暴く!これが実際にあった事件を元にしているとは!
2011年にロスがたちあげた闇サイトは警察、FBIの追求もかわし、ドラッグの売り上げは1日1億円を超えたそうです。通貨がビットコインだったのも成功の元だったとか(と言われてもよくわからない)。追い詰めていくのがアナログ捜査官であることに、世のパソコン苦手なおじさまたちは溜飲が下がるのではないでしょうか。見えないものは少しも現実と思えない私も同意。無骨なリックをジェイソン・クラーク。体格も良くて味方ならば頼れる感じがしますよね。
〈シルクロード〉は他者に危害を加えたり、詐欺行為を禁じていて、ロスが理想とした”自由至上主義”を共有していたそうです。せっかくの天才的頭脳を世界が良くなる方向で使ってほしかったです。今どうしているのでしょう?(白)


今やスマホがあれば、何でも買える時代。妹は次々にお知らせがきて、ポイントも使えるからとあれこれ購入していますが、私は現物をみないと買う気になれません。そも現金派で、クレジットなどを使うのも嫌い。でも、ドラッグなど違法なものが匿名で買えるとなれば、欲しい人は飛びつきますね。売り上げが一日1億円超えるというのも納得です。ウルブリヒトは巧妙に闇サイトを構築しましたが、悪はいつかは暴かれるもの。
ティラー・ラッセル監督は、闇サイト〈シルクロード〉を実際に運営していたロス・ウルブリヒトが逮捕された翌日から、本作の構想を始めたそうです。ドキュメンタリーを数多く製作してきた監督は、本作も徹底して資料を調べあげ、そこから今回はフィクションとして昇華させたとのこと。捜査官のリック・ボーデンは、いわゆる切れ者ではなく、実に人間臭いキャラクター。一方、闇サイトを運営していたロス・ウルブリヒトは、一見、将来を夢見るごく普通の青年。捜査官として大先輩のリックを小馬鹿にするサイバー犯罪課の若き上司シードルのキャラも際立っていました。
リックが娘に語る「世の中、白と黒だけじゃない。でも善と悪がある。正しいものを選びなさい」という言葉が心に残りました。(咲)


2021年/アメリカ/カラー/シネスコ/117分
配給:ショウゲート
(C)2020 SILK ROAD MOVIE, LLC ALL RIGHTS RESERVED. VE
https://silkroad-movie.com/
★2022年1月21日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 18:52| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブラックボックス 音声分析捜査(原題:Boite noire)

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監督:ヤン・ゴズラン
脚本:ヤン・ゴズラン、シモン・ムタイルー 、ニコラ・ブーベ=ルブラー
撮影:ピエール・コットロー
出演:ピエール・ニネ(マチュー・ヴァスール)、ルー・ドゥ・ラージュ(ノエミ・ヴァスール)、アンドレ・デュソリエ(フィリップ・レニエ)

ヨーロピアン航空の最新型機がアルプスで墜落。乗客・乗務員316人全員の死亡が確認される。司法警察の立会いの下、航空事故調査局の音声分析官が、フライトレコーダー、通称“ブラックボックス”を開く。いつもなら責任者のポロックに同行するのは、最も優秀なマチューだったが、天才的なあまり孤立していた彼は外されてしまう。だが、まもなくポロックが謎の失踪を遂げ、引き継いだマチューは「コックピットに男が侵入した」と記者会見で発表する。やがて乗客にイスラム過激派と思われる男がいたことが判明、マチューの分析は高く評価され、責任者として調査をまとめるよう任命される。本格的な捜査に乗り出したマチューは、被害者の一人が夫に残した事故直前の留守電を聞いて、ブラックボックスの音と違うことに愕然とする。今、マチューのキャリアと命をかけた危険な探求が始まる──。

飛行機事故のたびに話題となるブラックボックス。これを分析する専門の方がいると知っていましたが、実際の仕事をこの映画で初めて目にしました。どんな些細な音の違いも聞き逃さず聞き分ける感覚、記憶力も必要です。安全を下支えしてくれる重要な仕事ですが、誰にでもできることではありません。繊細なマチューは、普段余計な音が耳に入らないように耳栓をしています。
冒頭は快適な空の旅を続けている機内が写り、そして事故に。マチューが別のヘリコプター事故を分析中の場面では、50ヘルツの違いを聞き分けるマチューが「再テストを」というのに上司が却下。わずかでも疑念があるなら飛ばさないでと思います。数々の航空機事故を思い出すと、墜落して生存するのはほんとに奇蹟なんですから。
映画は事故の真相を探りながら、欲や名誉に走る人間も映し出します。判断を間違ったことを認めて、さらに真実を追求するマチューはまた孤立してしまいます。驚愕の展開にドキドキしてください。(白)


ヤン・ゴズラン監督は、本作誕生のきっかけを、「航空機メーカー、航空会社、パイロットなど様々な関係者の間に巨大な経済的利益があるこの業界が、創造的で魅力的な映画の舞台になると思ったから」と語っています。フライトレコーダーの音声分析官の緻密な仕事に焦点をあて、サスペンスフルな人間ドラマに仕立て上げています。本作が実在の事故をモデルにしたものでないことから、国家機関であるBEA(フランス民間航空事故調査局)が全面協力。技術面だけでなく、分析官の仕事の進め方から生活のリズムに至るまで、さまざまな情報を提供してもらったとのこと。
フライトレコーダーが、通称ブラックボックスと呼ばれているのは、1930年代に使われ始めた時、写真フィルムに飛行計器の情報を投影するため、感光性のフィルムを遮光性の黒っぽい容器に入れていたことから。現在は、がれきの中で目立つようにオレンジ色で、光を反射する白のストライプがついています。公式サイトのイントロダクションのところに、実物の写真が掲載されています。
ピエール・ニネが、細かい神経が必要な仕事をこなす分析官を体現していて、実際の分析官の方たちも、自分たちの仕事に日の目があたって喜んでいるのではないでしょうか。(咲)

●主演ピエール・ニネ インタビュー映像はこちら

2021年/フランス/カラー/シネスコ/129分
配給:キノフィルムズ
(C)2020 / WY Productions - 24 25 FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA - PANACHE Productions
https://bb-movie.jp/
★2022年1月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他全国で公開ロードショー
posted by shiraishi at 16:41| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ライダーズ・オブ・ジャスティス  原題:RETFÆRDIGHEDENS RYTTERE 英題:RIDERS OF JUSTICE

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© 2020 Zentropa Entertainments3 ApS & Zentropa Sweden AB.

監督・脚本:アナス・トマス・イェンセン
撮影:キャスパー・トゥクセン
編集:ニコライ・モンベウ、アナス・エスビャウ・クレステンスン
音楽:イエッペ・コース
出演:マッツ・ミケルセン、ニコライ・リー・コース、アンドレア・ハイク・ガデベルグ、ラース・ブリグマン、ニコラス・ブロ、グスタフ・リンド、ローラン・ムラ

クリスマスを数日後に控えたエストニアのタリン。少女マチルダはお祖父さんから店頭に売りに出ていた赤い自転車をプレゼントにすると言われるが、青い自転車がいいと答える。マチルダの父で軍人のマークスが任地アフガニスタンから妻に電話すると、娘の自転車が盗まれたから車で学校に送りにいくところだという。
買い物をして大荷物を抱えて列車に乗り込むマチルダと母。眼鏡をかけた男が母に席を譲ってくれる。その後、事故が起こり母を含め11名が亡くなる。
知らせを受け、急きょ帰国したマークスのもとに、二人の男が訪ねてくる。その一人、数学者のオットーが、席を譲ったために奥さんが亡くなられてしまったと誤り、さらに事故ではなく、“ライダーズ・オブ・ジャスティス”と言う犯罪組織が、殺人事件の重要な証人を暗殺するために仕掛けたものだという。マークスは妻の無念を晴らそうと、オットーたちの協力を得て復讐に身を投じていく・・・

眼鏡をかけたオットーは数学者なのですが、いつもおどおどしています。そして彼の仲間レナートはヘラヘラしているし、最強のハッカーだというエメンタールも超デブで、まさに3馬鹿トリオ。オットーは、事故の起こる直前に、一口食べただけのサンドイッチと、ほとんど飲んでいないジュースを列車に捨てていった男が事故の仕掛け人に違いないと推測し、エメンタールが人物像を検索します。ヒットしたのが、エジプトに住むAharon Nahas Shadidという歯科技工士。そんな遠くに住む奴じゃないと、 Palle Olesenという兄がギャングという男に辿りつきます。Omar Shargawiの二役。似てるはず! 
ところで、使用言語は、Estonian、Danish、Arabicとあって、エストニア語とデンマーク語の違いは私にはわからないのですが、イスラームのお祈りを知らせるアザーンが聞こえてきて、エジプトに帰ったAharonがアラビア語で話す場面がありました。これが笑える種明かしになってます。お見逃しなく!
本作のマッツ・ミケルセンは、職業軍人で家族と過ごすこともあまりなかったのに妻を失い、にこりともしない鬱ぎみという役どころ。マチルダに「パパは軍人だから暴力で乗り切ろうとする」と言われます。マチルダはマチルダで、ポストイットに、赤い自転車、青い自転車・・・と、母親が事故死するに至った過程を自分なりに探っています。オットーもまた、女性には席を譲るものと教え込まれてなければ・・・とつぶやきます。でも、人生に「もし」はありません。そんなことを思わせてくれた映画でした。 最後には、それぞれにクリスマスらしいセーターを着て、プレゼント交換。出会いは、どんなきかっけであれ、人と繋がれるのはいいなぁ~と!(咲)


2020年/デンマーク・スウェーデン・フィンランド/カラー/シネスコ/5.1ch/116分 /デンマーク語ほか/PG12
日本語字幕:平井かおり
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-v.com/roj/
★2022年1月21日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー



posted by sakiko at 16:25| Comment(0) | 北欧 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

声もなく(原題:소리도없이 英題:Voice of Silence)

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監督・脚本:ホン・ウィジョン
製作:キム・テワン
撮影:パク・ジョンフン
音楽:チャン・ヒョクジン&チャン・ヨンジン
出演:ユ・アイン(テイン)、ユ・ジェミョン(チャンボク)、ムン・スンア(チョヒ)、イ・ガウン(ムンジュ)

貧しさゆえ、犯罪組織からの下請け仕事である死体処理で生計を立てる2人。口のきけない青年テインと片足を引きずる相棒のチャンボクは、身代金目的で誘拐された11歳の少女チョヒを、1日だけ預かることになった。トラブルが重なり、テインとチョヒの疑似家族のような奇妙な生活が始まるが、チョヒの親から身代金が支払われる気配はない。出会うはずのなかった者たちの巡り合わせが、韓国社会で生きる声なき人間たちの孤独を浮き彫りにする。

ホン・ウィジョン監督は82年生まれの女性監督。ロンドンの映画学校卒業後、CMや短編を制作してきました。本作が初の長編作品にもかかわらず、青龍賞新人監督賞、百想芸術大賞監督賞を受賞しました。
主人公のテインを『バーニング 劇場版』(2018)、『国家が破産する日』(2018)で主演男優賞を受賞したユ・アイン。15㎏も増量して口のきけないテインを身体から作りあげ、台詞のない演技を見せました。相棒のチャンボクはテインの父親代わり、生活のために闇の仕事をせざるを得ません。ユ・ジェミョンは鬼気迫るような『ビースト』(2021)と違い、根は善人でありながら底辺で生きる辛苦を体現しています。2人は犯罪の後始末という一番の汚れ仕事に手を染めて生きていますが、子どもを巻き込む誘拐をするつもりはありません。テインがしかたなく連れ帰ったチョヒに妹のムンジュが懐いて、一時家族のように暮らすシーンにほっこりしました。陰惨な場面があってもどこか明るく、気を許しているととてつもなく切ないところに持っていかれます。ホン・ウィジョン監督に今後も注目です。(白)


チョヒがそばにいても、淡々と死体を運び処理するテインとチャンボクの姿からは、可笑しささえ漂ってきます。彼らにとって死体は、処理しなければならない単なるモノ。社会の底辺には、人が嫌がることを生業にするしかない人々がいることに思いが至ります。テインは声が出ませんが、テインならずとも、嫌なことも嫌と声をあげられない人たち・・・ そういう人たちの働きがあって、社会が成り立っていることを忘れてはならないと思いました。それにしても、額に汗して呻くユ・アインは見事でした。低予算の映画に出演を決めた気概を感じました。(咲)

2020年/韓国/カラー/ビスタ/99分
配給:アットエンタテイメント
(C)2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & LEWIS PICTURES & BROEDMACHINE & BROCCOLI PICTURES. All Rights Reserved.
https://koemonaku.com/
★2022年1月21日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 15:40| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする