監督:コー・チェンニエン(柯貞年)
エグゼクティブ・プロデューサー:ユー・ベイファ(於蓓華), チュウ・ヨウニン(瞿友寧)
出演:リウ・ツーチュアン(劉子銓)、チェン・イェンフェイ(陳妍霏)、キム・ヒョンビン(金玄彬)、リウ・グァンティン(劉冠廷) 他
普通学校から台湾南部のろう学校に転校してきたチャン (リウ・ツーチュアン)。折しも、創立記念パーティが開かれていて、愛らしい少女ベイベイ(チェン・イェンフェイ)が積極的に声をかけてくれて打ち解ける。普通学校で肩身の狭い思いをしていたチャンは、心地よい環境に期待を抱く。
ある日チャンは、ベイベイがスクールバスの中で男子生徒たちから性暴力を受けているのを目撃する。それでも、ベイベイは学校では彼らと何事もなかったように戯れている。先生に言うべきだとベイベイに言っても、「先生に嫌われて普通学校に行かされる。あなたも一緒にいじめてもいいのよ」と言われてしまう。スクールバスに乗ろうとしないチャンに、異変を感じたワン先生が声をかける。チャンは思い切ってバスの中での出来事を打ち明け、彼女を救ってほしいと嘆願する。 ベイベイは、友達を裏切りたくないと頑なに話をしたがらない。これまで何度も訴えたのに、周りの大人たちは何も解決してくれず諦めていたのだ。ワン先生とチャンは、何があっても彼女を守らなければと、校長にベイベイの被害を訴えるが、ことを荒げたくないと取り合ってくれない。過去にも同様の事件があったに違いないとワン先生は、生徒達から聞き取り調査をする。100件以上の性暴力・セクシャルハラスメント被害が明るみになるが、命令をしていた主犯格のユングァン(キム・ヒョンビン)は、見ていて楽しいと加害者であることを認めない。マスコミも学校の実態を取り上げるが、校長は事件の真相を隠蔽する。ユングァンが卒業するまでの辛抱というベイベイ。ワン先生とチャンにはなす術がないのか・・・
冒頭、転校してきたチャンが、町で老人を殴って捕まります。財布を盗まれたから殴ったと訴えるのですが、手話が通じません。ろう学校のワン先生が通りがかって警官に通訳するのですが、事を大きくしない為に、「彼も反省しているので」と財布を盗まれたことは伝えません。真実や、自分の気持ちをちゃんと伝えられないろうの人たちの悔しさや辛さが、最初からずっしり伝わってきました。そんなワン先生ですが、チャンからベイベイへの生徒たちの性暴力を聞かされて、学校での実態を調べ始めます。性暴力を受けても声を立てて抵抗できないのをいいことに、先生までもが生徒に性暴力を繰り返していたことが明らかにされます。それでも校長は学校経営を優先して公にはしません。その校長はろう学校を経営しながら、手話を使うこともないのです。
本作は、台湾南部のろう学校で実際に起きた、性暴力・セクシャルハラスメント事件を題材にしていますが、メインの出演者たちがとても魅力的で、一気に物語に惹きつけられました。正義感溢れるチャンと愛くるしいベイベイは、まだあまり顔を知られていない新人。存在感たっぷりの性暴力の黒幕ユングァン役は、韓国で子役として活躍してきたキム・ヒョンビン。いずれも健常者ですが、ほんとうにろうあ者のようです。 ろう学校での出来事ですが、監督も述べているように、どこにでも起こり得る物語。声を出せても、その声が届かないことは多々あること。声が出せない人にとっては、さらに届かないことと思いました。(咲)
監督: コー・チェンニエン(柯貞年)
1982 年生まれの監督・脚本家。世新大学ラジオ・テレビ・映画総合大学院を卒業。学生時代から精力的に短編映画を制作しており、 『無名馬』(2011)が金馬奨の最優秀短編映画賞にノミネートされ、若くして才能を開花。その後、2015 年に短編映画『溺境』が第 57 回金穂奨優等賞を受賞。Netflix で配信中のドラマシリーズ『暗闇は目を閉じて』(2016)で監督を務めた他、リウ・ツーチュアンやリウ・グァンティンも出演したドラマシリーズ『你那邊怎樣,我這邊 OK』(2019)でも監督を務めた。 2020 年に本作で第 57 回金馬奨の新人監督賞とオリジナル脚本賞にノミネートされた。
2020年東京フィルメックス コンペティション部門選出
東京フィルメックス コー・チェンニエン監督とのリモートQ&A動画はこちらで!
*Q&Aでの監督の言葉より*
事件が報道されたとき、台湾の人たちは韓国映画『トガニ(邦題:トガニ 幼き瞳の告発)』を思い起こす人が多かったです。私にとっては、この事件がなぜ起きたかに興味がありました。事件後も被害者も学校に残って加害者と一緒にいることに疑問に思っていました。背後の問題にアプローチしたいと映画にすることにしました。
真実の事件が背景になっているので、いかに加害者や被害者の子どもたちのプライバシーを守るかに注意しました。リサーチの時も撮影の時も、実際の加害者や被害者とは誰とも会いませんでした。事件に関する記事をたくさん読んで脚本を作っていきました。見た目はろうあ学校で起きている話ですが、人のいるところではどこでも起こり得る事件だと思います。
メインの役者は健常者です。あまり演技経験のない新人を選びました。有名な役者に演じてもらうより、顔を知られてない役者の方が感情移入しやすいと思いました。演技指導は3か月くらいかけて行い信頼関係を築きました。エキストラで出演していただく役者にも手話の手ほどきをしました。
ユン・グアンはキム・ヒョンビンにアテ書きしたわけではありません。適任者がなかなか見つからなかったのですが、ろうあ者なのでセリフが必要ないので、アジアの顔であればいいと範囲を広げました。韓国のドラマが好きなのでキム・ヒョンビンがいいのではと連絡を取ったところ受けてもらえました。現場では、言葉がわからないことから、健常者がいきなりろうあ者の世界に入ったのと同じ状況でした。
この映画はもともと公共放送が制作する予定の作品でした。企画を進めていくうちに映画にして広げたほうがいいとアドバイスを受けました。実際の事件を映画にしたものは台湾では少ないので、とても意義のあることだと応援してもらうことができました。製作費に関しては中くらいのバジェットで、商業エンターテインメントの規模ではありません。
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台湾では、教育者や政治家をはじめ多くの観客が事件の深刻さを問題視し、台北の週間興行収入1位を獲得。第57回金馬奨で8部門ノミネート、チェン・イェンフェイの最優秀新人俳優賞など2部門を受賞。2021年度の台北映画祭では最多7部門8ノミネートを記録し、チェン・イェンフェイの最優秀新人俳優賞など3部門の他、観客賞を受賞。
2020年/台湾/台湾語・中国語/5.1ch/104分/DCP
日本語字幕:島根磯美
配給:ライツキューブ
配給協力:渋谷プロダクション
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公式サイト:https://thesilentforest-jp.com/
★2022年1月14日(金)より、シネマート新宿・心斎橋他、全国順次公開