2022年01月30日

再会の奈良 原題:又見奈良

12022.2/4(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開 / 1/28(金)より奈良県にて先行上映 劇場情報
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©2020“再会の奈良”Beijing Hengye Herdsman Pictures Co.,Ltd,Nara International Film Festival, Xstream Pictures (Beijing)

中国残留孤児の娘と母の60年にわたる「絆」 
中国と日本の戦争の歴史を今に伝え、問いかける


スタッフ・キャスト
監督・脚本:鵬飛(ポンフェイ)
エグゼクティブプロデューサー:河瀬直美、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)
出演:國村隼、吴彦姝(ウー・イエンシュー)、英澤(イン・ズー)、秋山真太郎、永瀬正敏
撮影:廖本榕(リャオ・ペンロン)
音楽:鈴木慶一  編集:陳博文(チェン・ボーウェン)
照明:斎藤徹 録音:森英司 美術:塩川節子
共同製作:21インコーポレーション 
後援:奈良県御所市 

『再会の奈良』は、河瀬直美監督がエグゼクティブディレクターを務める「なら国際映画祭」が、今後の活躍を期待する若手の映画監督を招き、奈良を舞台に映画を制作する、“今と未来、奈良と世界を繋ぐ”映画製作プロジェクト、「NARAtive2020」から生まれた日中合作映画。

奈良・御所市を舞台に、日中の国境を越えた中国残留孤児の家族の絆を描き、日中の魅力あふれる演技人が出演。歴史に翻弄された「中国残留孤児」とその家族がたどる運命、互いを思い合う気持ちを、2005年秋の奈良を舞台に切なくもユーモア豊かに紡いでいます。監督・脚本は、中国の鵬飛(ポンフェイ)。フランスの映画学校を卒業後、蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督の現場で助監督・共同脚本などを務め、ホン・サンス監督のアシスタントプロデューサーも務めています。本作は3本目の長編。2作目の『ライスフラワーの香り(米花之味)』が、2018年の「なら国際映画祭」で観客賞を受賞し、“今と未来、奈良と世界を繋ぐ”映画製作プロジェクト「NARAtive2020」の監督に選出され、奈良を舞台にした本作『再会の奈良』を製作。エグゼクティブプロデューサーは奈良出身で「なら国際映画祭」のエグゼクティブ・ディレクターでもある河瀬直美監督(自らの境遇から製作された『につつまれて』『かたつもり』を始め、『萌の朱雀』『殯の森』など奈良を舞台にした映画を多数作ってきた)と中国映画「第六世代」のジャ・ジャンクー監督(『一瞬の夢』『山河ノスタルジア』『長江哀歌』など)が務めている。

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©2020“再会の奈良”Beijing Hengye Herdsman Pictures Co.,Ltd,Nara International Film Festival, Xstream Pictures (Beijing)

1994年に日本に帰国させた中国残留孤児の養女麗華と数年前から連絡が途絶えたのを心配して、中国から陳ばあちゃんが、孫娘のような存在の小澤(シャオザー)を頼って一人奈良にやって来た。手掛かりは麗華の写真と日本から届いた十数通の手紙だけ。麗華の日本名も分からない。麗華を捜し始めた2人は一雄という男性と知り合い、元警察官だったという一雄と麗華捜しを始める。紅葉最中の奈良・御所を舞台に言葉の壁を越えて不思議な縁で結ばれた3人のおかしくも心温まる旅が始まる。異国の地での新たな出会いを通して、陳ばあちゃんは愛する娘との再会を果たせるのか。
麗華探しを手伝う元警察官の一雄を演じるのは、河瀬直美監督の『萌の朱雀』(97)で映画初主演し、『男たちの挽歌』(92)、『哭声/コクソン』(16)、『マンハント』(18)、『MINAMATA-ミナマタ-』(21)など海外作品の出演も多い國村隼。養女探しに来日した養母役には『妻の愛、娘の時(相愛相親)』『花椒(ホアジャオ)の味(花椒之味)』などの日本公開作がある、1938年生まれ83歳のウー・イエンシュー。シャオザー役にはポンフェイ監督の長編デビュー作『 地下香(Underground Fragrance)』で女優デビューを果たし、同監督の長編2作目『ライスフラワーの香り』では主演を演じ、共同脚本も務めた中国の若手女優イン・ズー。物語の鍵を握る寺の管理人を演じるのは『あん』(15)、『光』(17)、『Vision(18)』で河瀨監督と過去3度組んできた永瀬正敏が友情出演。そういえば永瀬正敏も『ミステリー・トレイン』『KANO 1931海の向こうの甲子園』など海外の監督作品、海外を舞台にした作品への出演が多い。シャオザーの元恋人役は劇団EXILEの秋山真太郎と、豪華な出演人。撮影は『河』(97)、『Hole-洞』(98)、『楽日』(03)、『西瓜』(05)、『郊遊<ピクニック>』(13)など多くのツァイ・ミンリャン作品を撮ってきたリャオ・ペンロン。ポンフェイ監督作品は2作目の『ライスフラワーの香り』と本作で撮影を担当している。音楽を担当したのは、はちみつぱい、ムーンライダーズなどで活躍し、PANTAや高田渡ともユニットを組んだこともある鈴木慶一。映画音楽の分野では北野武監督作品の音楽を多数手がけている。

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©2020“再会の奈良”Beijing Hengye Herdsman Pictures Co.,Ltd,Nara International Film Festival, Xstream Pictures (Beijing)

連絡が取れなくなってしまった中国残留孤児の娘を探す陳おばあちゃんと、協力するシャオザーと元警察官の一雄。3人の珍道中的ロードムービーではあるけど切ない。そして日本語ができない陳ばあちゃんのユーモアたっぷりな肉屋でのジェスチャーが面白い。これだけでも心休まる。さすが83歳のベテラン俳優。
そして紅葉の奈良の景色が素晴らしい。奈良には3回くらいしか行ったことがないけど、中学校の修学旅行で行った興福寺や法隆寺なども出てきて懐かしかった。こういう奈良の定番観光地だけでなく、山里の柿の出荷工場や日本酒の酒蔵などの光景も出てきて、古都奈良の魅力とともに、人々の人情、中国から日本に来た人たちも出演し、残留孤児の実情と現在日本に来ている中国人の実情も垣間見える。
中国残留孤児や中国残留婦人など中国残留邦人たちは、戦後の引き揚げ事業の時に日本に帰れず、そのあと中国の内戦、国交の断絶のため、1972年の国交回復まで帰れなくなり、日本にやっと帰れることになったのは1981年頃。1945年の終戦から36年もたっていた。日本に帰国しても肉親が見つからなかったり、日本語が話せなかったりして、日本社会で生きていくのに大変な苦労をしている人が多い。日本の国策で満州に行ったのに、帰国した人たちへの国の支援は充分とは言えない。しかも、もう戦後77年。中国残留邦人のことを知らない若者たちも増えた。せめて、そういう人たちがいるということを忘れないためにも、こういう映画は大きな役目をしているのではないかと思う。1972年に日中国交正常化され、50周年の節目となる2022年。たくさんの人にこの作品を観てほしい(暁)。


今と未来、奈良と世界をつなぐ映画制作プロジェクト「NARAtive(ナラティブ)」では、これまでなら国際映画祭で受賞した世界各地の監督たちが、奈良県の各地を舞台にそれぞれの「奈良」を描いてきました。
「NARAtive(ナラティブ)」公式サイト https://narative.jp/
NARAtive2010 『光男の栗』 監督:趙曄(チャオ・イェ)/中国  橿原市
NARAtive2010 『びおん』 監督:山崎都世子/日本 奈良市田原地区
NARAtive2012 『祈/Inori』 監督:ペドロ・ゴンザレス・ルビオ/メキシコ  十津川村
NARAtive2014 『ひと夏のファンタジア』監督:チャン・ゴンジェ/韓国  五條市
NARAtive2016 『東の狼』 監督:カルロス・M・キンテラ/キューバ  東吉野村
NARAtive2018 『二階堂家物語』 監督 : アイダ・パナハンデ/イラン 天理市


私がこれまでに観たのは、『東の狼』 『二階堂家物語』 の2作品ですが、監督の出身国との繋がりは特になく、監督たちが奈良に思いを巡らして描いたものでした。今回の『再会の奈良』は、ポンフェイ監督が自身の出身国である中国と日本を繋いで紡いだ作品で、NARAtive作品として素敵な着地をしていると思いました。何より、1982年生まれで残留孤児が話題になった頃を知らない若い監督が作ったことに意義を感じました。 本作を通じて、日本や中国の若い世代に残留孤児という悲しい歴史を知っていただければと願います。(咲)



『再会の奈良』公式サイト 
2020年製作/99分/G/中国・日本合作
原題:又見奈良 Tracing Her Shadow
配給:ミモザフィルムズ

*シネマジャーナルHP記事
・特別記事
再会の奈良』ポンフェイ監督インタビュー
・スタッフ日記
『再会の奈良』に出演の女優吴彦姝(ウー・イエンシュー)さん

*参考資料
・「満蒙平和記念館」長野県阿智村に2013年(平成25年)4月オープン
満蒙開拓のミニ知識
posted by akemi at 19:32| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ギャング・オブ・アメリカ  原題:LANSKY

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© 2021 MLI HOLDINGS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.


監督・脚本:エタン・ロッカウェイ
出演:ハーヴェイ・カイテル(『ピアノ・レッスン』『レザボア・ドッグス』『タクシードライバー』)、サム・ワーシントン(『アバター』『ターミネーター4』『タイタンの戦い』、ジョン・マガロ(『オーヴァーロード』)、アナソフィア・ロブ(『チャーリーとチョコレート工場』)、ミンカ・ケリー(『大統領の執事の涙』)、デヴィッド・ジェームズ・エリオット(『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』)、ダニー・A・アベケイザー(『THE ICEMAN 氷の処刑人』)、デビッド・ケイド、シェーン・マクレア、ワス・スティーブンス、ジェームズ・モーゼズ・ブラック、アーロン・アバウトボール、ジョエル・ミカエリー

マイヤー・ランスキー。禁酒法時代から戦後まで、アメリカの暗黒街を牛耳った伝説のギャング。
1981年、マイアミ。作家のデヴィッド・ストーンが、老いたマイヤー・ランスキーを訪ねる。伝記を書きたいというデヴィッドに、「俺が死ぬまで誰にも見せるな」と条件をつけて、語り始める。

1902年、ユダヤ系ロシア人として生まれたランスキー。1912年、10歳の時、ニューヨークにやって来た。貧しい移民の子がのし上がるには、危ない橋を渡るしかない。不良グループのボスだったラッキー・ルチアーノが運び屋を探していると悪の世界に誘われる。
1920年代初期は、酒の密輸ビジネスや地下賭博場に関わり、組織の規模を拡大。1931年、ルチアーノがニューヨーク・マフィアを制すると、殺し屋集団《マーダー・インク》の設立に関わった。1934年に全米犯罪シンジケートを立ち上げ、ニューヨーク外に進出し、全米各地に次々とヤミ賭博の拠点を作ってゆく。第2次大戦中は、米国内でのドイツのスパイ工作に対抗する作戦に関与。戦後、キューバに進出したランスキーは、カジノ経営で巨万の富を築く。FBIの追及で《マーダー・インク》の殺し屋たちは次々と逮捕されるが、ランスキーの悪事が暴かれることはなかった。
イスラエルのメイア首相の代理人と称するヤリーフ氏が援助を求めてくる。多額の寄付に「イスラエルの民を代表して感謝します」とヤリーフ氏。1970年に脱税容疑を受けてイスラエルに逃亡する。祖父のお墓のあるイスラエルで余生を送りたいと思うも、メイア首相がニクソン大統領に武器を要求し、その見返りにランスキーを米国に送還してほしいと主張。強制送還されるも起訴は免れた。その後、マイアミの閑静な隠れ家で暮らしている。
数奇な人生を語り終え、「家族のもとに帰りなさい」とデヴィッドに語るランスキー・・・

デヴィッドが最初にランスキーに会ったとき、「歴史は人によって見方が違うのが面白い」と言われます。ランスキーの長い人生の物語を聞き終えたデヴィッドが、「愛する人の目にどう映るか・・・評価は一つとランスキーは教えてくれた」と語っていたのが心に残りました。
そして、マイヤー・ランスキーという伝説のギャング王。デヴィッドの取材中、「ユダヤ人のジョーク」が飛び出します。ルチアーノが、「出会った時、少年マイヤーは彷徨うユダヤ人だった」と語っています。ランスキー自身も、あれだけ多額の寄付をして尽くしたイスラエルから追い出され「彷徨うユダヤ人」と自嘲しています。老いて静かに暮らすランスキーが、アメリカのモダンなシナゴーグで祈る姿に、どこまでもユダヤ人なのだと感じさせられました。
1983年1月、肺癌で死去。3億ドル以上の資産を残したと言われていますが、スイスの銀行口座も札束も発見されず、「失われた資産」は、いまだに見つかっていないとのこと。どこかで有効利用されているといいのですが・・・ (咲)


2021年/アメリカ映画/英語/119分/シネマスコープ
字幕:草刈かおり
提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム
★2022年2月4日(金) 新宿バルト9ほか全国公開


posted by sakiko at 00:27| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

パイプライン  原題:파이프라인 英題:PIPELINE

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©2021 [CJ ENM, GOM PICTURES, M.o.vera Pictures] All Rights Reserved.

監督:ユ・ハ( 『マルチュク青春通り』『卑劣な街』『霜花店(サンファジョム)運命、その愛』『江南ブルース』)
脚本:ユ・ハ、キム・ギョンチャン
出演:ソ・イングク(『君に泳げ!』)、イ・スヒョク、ウム・ムンソク、ユ・スンモク、テ・ハンホ、ペ・ダビン

石油を盗め!
送油管に穴を開けて石油を盗み、転売する特殊犯罪「盗油」。
カン・セドル(ソ・イングク)は、3分あればパイプに的確に穴をあけることができる敏腕の穿孔技術者。盗油業界で“ピンドリ”の名で知られる彼に、大企業の後継者ゴヌ(イ・スヒョク)が数千億ウォンの盗油作戦を持ちかける。湖南ラインと京釜ラインの二つの油送管が接近している地で、山の上の廃工場の貯水槽に高圧ホースで石油を流せというのだ。10億ウォンで請け負い、町はずれのキャピタル観光ホテルに、ピンドリを頭に、プロ溶接工のチョプセ(ウム・ムンソク)、建築公務員を30年務めたナ課長(ユ・スンモク)、怪力の人間掘削機ビッグショベル(テ・ハンホ)、そして紅一点、ホテルの受付で監視役を務める“カウンター”(ペ・ダビン)が集結する。さっそく夜中に地下で岩盤の掘削を始めるが、付近を見回るチョ警察官がやってくる。作業音を隠すため、カラオケで大音量で歌っていたチョプセが、さらに絶叫する・・・

赤いスポーツカーで現場に赴き、プラダのスーツ姿で華麗にパイプに穴をあけるピンドリを演じたのは、本作が『君に泳げ!』以来、8年ぶりの映画出演となるソ・イングク。ちょうど今、テレビで観ているドラマ「空から降る一億の星」で主役を演じていて、捉えどころのない不思議な魅力のある青年。
盗油作戦を仕掛けた大企業の後継者ゴヌを演じたのは、モデル出身のイ・スヒョク。冷徹な金の亡者を体現しています。ペ・ダビン演じる“カウンター”は、工具や建設機械を器用にこなすリケジョ。これはという場面で大活躍です。 お巡りから出世できないでいるチョ警察官が、要所要所で出没していい味出しているのですが、この人物に関してはプレス資料に記載なく、詳しく知りたいところです。
エンドロールで流れる出演者たちの楽しい動画は、チョプセ役のウム・ムンソクが制作したもの。本作では、ずる賢い役どころで笑いを誘っています。5人が集結し、本名は?と聞かれ、「チョン・ウソン」と答えるチョプセ。(もちろん似てません) ピンドリは、「じゃ僕はウォンビンだ」。
皆それぞれ悪に手を染めるようになったのにはワケがあって、笑えて泣けるアクション・エンターテイメントです。それにしても、ほんとに油送管から油を盗む犯罪はあるのでしょうか・・・ (咲)


「パイプライン」といえばザ・ベンチャーズの曲(64年にシャンテイズのオリジナル曲をカバーして大ヒット)です。当時のギター男子はこの曲をエレキギターで弾きたくて猛練習していました。あちこちの文化祭で生徒を熱狂させていたはずです。なんと半世紀も昔のこと。そんな懐かしい曲が冒頭に流れてびっくり!!
(咲)さんが思い当たらなかったチョ警察官はけっこう大事な役ですよね。『チャンシルさんには福が多いね』(2020)でフランス語の先生役だったペ・ユラム。前野朋哉さんにちょっと似た感じの人です。
泣きボクロが印象に残るソ・イングクはテレビドラマの出演が続いて、映画は久しぶり。ドラマではラブシーンが美しくて特に「キス職人」と呼ばれているようです。本作では女性と絡まないのでそんなシーンはございません。ちょっと残念。その代わり短時間で困難なミッションをこなす男前な姿が観られます。(白)


2021年/韓国/108分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/映倫【G】区分
日本語字幕:福留 友子
配給:クロックワークス
公式サイト:klockworx-asia.com/pipeline/
★2022年2月4日(金) シネマート新宿ほか全国ロードショー

posted by sakiko at 00:11| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月28日

鈴木さん

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監督・脚本:佐々木想(ささきおもい)
撮影:岸健太朗
出演:いとうあさこ(よしこ)、佃典彦(鈴木さん)、大方斐紗子(すみこ)、保永奈緒(のりこ)、宍戸開(ホンダ)

現人神である「カミサマ」を国家元首にいただき、清く、美しく輝ける とある国のとある街。少子化にあえぐこの街では、45歳以上の未婚者は市民権を失うという条例が制定されており、市民権を剥奪されると、街を出て行くかあるいは、軍に入隊し、強制的にお国の為に働く道を選ばなければならない。 この街で介護施設を営んでいる未婚のよしこは、45歳を目前に控え、この街から排除される不安を抱えながら、日々暮らしていた。市民権を得ることを諦め、街を出るという選択もあるが、彼女は施設に入居している老人たちを見捨てることはできない。そんな中、老後施設に一人の身元不明の中年男性が突如として迷い込んでくるのであった・・・。

2020年の東京国際映画祭で上映した際、観た人におおいにうけていて、観そびれた私はすごく残念でした。今回やっと試写を観て「ああ、こういう映画だったのか、いとうあさこさんの笑顔が出ないわけだよね」と納得。舞台挨拶を思い出しました。
日本には珍しいディストピアの物語。いや、佐々木監督は日本ではなく「とある国」と言っています。とある国は限りなく最近の我が国を思い起こさせます。そんな法律があるわけではないけれど(ないよね)、少数派への視線の冷たさ、異分子への疑いなどあるある。そりゃみんなと一緒は安心です。1人になるのは不安なので固まりたくなります。でもそこで「違ってる」と言えないのって、違ってません?「よしこ頑張れ~」と応援しつつ、頑張るのは自分だろ、と突っ込みながら見終えました。ラストのその先が見たいような、見たくないような…。こういう映画が作られて上映できる世の中で良かった!と思ったことです。「カミサマ」のお姿が、香港女優の呉君如(サンドラ・ン)に見えてしまうのは私だけ?(白)


●『鈴木さん』TIFF舞台挨拶レポはこちら

2020年/日本/カラー/シネスコ/90分
配給:Incline
(C)映画「鈴木さん」製作委員会
https://suzukisan-movie.com/
★2022年2月4日(金)K2、池袋シネマ・ロサにてロードショー


posted by shiraishi at 01:18| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

夢みる小学校

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監督・撮影・編集:オオタヴィン
ナレーション:吉岡秀隆
出演:堀真一郎、茂木健一郎、高橋源一郎、尾木直樹

「きのくに子どもの村学園」そこにはテストや宿題がありません。先生もいません。
子どもたちは「プロジェクト」とよばれる体験学習の授業を通じて、自分たちでプロジェクトを運営し自らの頭で考えます。
大人のスタッフは口や手を出さず、子どもから尋ねられたときに一緒に考えます。1人ひとりの個性が尊重されます。教えられ書き写す授業ではなく、実際の暮らしや体験から学びます。そして子どもが自由で幸せであることを一番大切にしています。
この学校は堀真一郎学園長の教育理念のもと、1992年に和歌山県橋本市の山中に誕生しました。今全国に6校あり、自称38歳の堀先生は毎日のように車で回っています。

子どもたちは底抜けに明るくて元気です。学校ってこんなに楽しいの?こんな学校に行きたかった!と思う子どもや大人がたくさんいるはずです。じゃあほかの学校と何が違うのでしょうか?ほかではなぜこういうことができないの?と「?」がたくさん出てきて、観ていくと「!」だらけになります。とかく学校の先生や親たちは「静かに」とか、「~してはいけません」と指図したり、禁止したりします。自分がそうやって育ってきたからです。
こんなに自由にできるのは、私立の学校だからでしょ、と思うでしょう?それが、公立の学校だってできるのです。実践している学校を紹介しています。通知表って、校則ってなくてもよかったんだと知って驚いたのなんの。管理したい大人の都合でできたものだったんですね。
これはまっさきに文科省のお役人と、学校の先生たちに観てほしいです。子どもの個性を伸ばし、自分で考え、意見をはっきりと言う、そして他者を尊重する…そんな大人に育ったら世の中変わるのに(変わっては困る人がいるんだよね、きっと)。目からうろこがポロポロ落ちることうけあい。(白)


本作を観て、学校というのは、学問を教える場ではなく、学びたいという心を育むところであるべきなのだとつくづく思いました。文科省の教育指針に沿いながらも、学校や教師の裁量で、こんなにも伸び伸びとした教育の場が作れるのですね。
自分自身を振り返ると、小中高、さらに大学と、それぞれで素晴らしい先生に出会うことができ、それはとても幸せなことと先生たちに感謝です。特に、小学校5・6年の担任だったK先生は、まさに自由な心を育ててくださいました。お天気がいいと「缶蹴り行こか」と皆を外に連れ出し、授業中には脱線してご自身の経験談をよくしてくださいました。勉強を教わった記憶がない・・・ でも、勉強が大好きでした。妹からお姉ちゃんの趣味は勉強と言われるほど! 探求心を自然に植え付けてくださったのだと思います。
「2020年度から教育指導要領の主題が「アクティブラーニング(自主的探求)」に大きく舵を切りました」とこの映画の公式サイトにありました。え~? 今ごろ?と、ちょっとびっくりです。 詰め込み式でない教育を皆が受けられますように!(咲)


2021年/日本/カラー/91分
配給:きろくびと
(C)まほろばスタジオ
https://www.dreaming-school.com/
https://twitter.com/dreaming_school

★2022年2月4日(金)シネスイッチ銀座・アップリンク吉祥寺
2月18日(金)から、名古屋 名演小劇場
3月4日(金)から、大阪 シネマート心斎橋にてロードショー!


●きのくに子どもの村学園のHPはこちら

posted by shiraishi at 01:07| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月27日

ミラクルシティコザ

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監督・脚本:平一紘
撮影:砂川達則
⾳楽プロデューサー:横澤匡広
⾳楽:Chris
主題歌:ORANGE RANGE「エバーグリーン」
特別協⼒:ジョージ紫、”紫(MURASAKI)”
出演:桐⾕健太(ハル/過去)、⼤城優紀(マーミー)、津波⻯⽃(翔太)、⼩池美津弘(ハル/現代)、津波信⼀(比嘉)、 神崎英敏(辺土名)、アカバナー⻘年会(平良)、渡久地雅⽃(比嘉/過去)、⼭内和将(辺土名/過去)、⽟代勢圭司(平良/過去)、⼭城智⼆(たつる)

沖縄市コザ。カフェの息子翔太は怠惰な日々を送り、「家を出て仕事しろ」と父に叱られている。コザはかつて米兵たちで賑わい、翔太の自慢のおじいちゃんハルは当時超人気のロックンローラーだった。バンド”インパクト”はずっと以前に解散して、祖父と父は折り合いが悪い。その祖父が交通事故で亡くなってしまった。祖父のようにモテたかった翔太が悲嘆にくれていると、死んだはずのハルが現れる。驚く翔太にハルは「未練がある。身体を交換してくれ~!」と突進してきた。身体をハルに乗っ取られた翔太の魂は、1970年にタイムスリップして、ライブ中のハルの身体に入ってしまう。誰も話を信じてくれずヤクザに絡まれる。ベトナム戦争特需に沸く50年前のコザは驚くことばかりだった。

おじいちゃんと孫の身体の入れ替わり+タイムスリップという設定で面白さ2倍。いや、それにコザと伝説のロックバンドの歴史が絡んでいますので、ふんだんに流れるロックに酔って+コザの歴史に胸をつまらせるという、いろいろとお得感のある作品です。70年代に沖縄ばかりか、日本中のロックファンを熱くした伝説のバンド”紫”を作ったジョージ紫さんと、現メンバーが全面協力。当時のエピソードを盛り込んだほか、曲を提供し新しく演奏しなおしています。みなさん現役なんです。すごい!

コザで生まれ育った平一紘(たいらかずひろ)監督は、コメディ仕立てでコザの昔と今、その中で生きた人たちを愛情をもって描き出しました。桐⾕健太さんと津波⻯⽃さんは、ハルと将太の本来の自分と、入れ替わった後の2人分を演じるので、その差に爆笑です。脇で支えるのは沖縄で活躍する方々。さまざまなわだかまりがとけてラストに向かうストーリーに胸がいっぱいになります。(白)


●第3回「未完成映画予告編大賞MI-CAN」グランプリ受賞して映画化されました。
受賞した予告編はこちら

2022年/日本/カラー/シネスコ/119分
配給:ラビットハウス
(C)2021 Office Crescendo
公式サイト:https://miraclecitykoza.com
公式 Twitter・Instagram:@miraclecitykoza
★2022年2月4日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 13:58| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

355(原題:THE 355)

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監督:サイモン・キンバーグ 
脚本:テレサ・レベック、サイモン・キンバーグ
出演:ジェシカ・チャステイン(メイス)、ペネロペ・クルス(グラシエラ)、ファン・ビンビン(リン)、ダイアン・クルーガー(マリー)、ルピタ・ニョンゴ(ハディージャ)、エドガー・ラミレス(ルイス)、 セバスチャン・スタン(ニック)

南米で開発されたデジタル・デバイスが盗まれ、闇マーケットに流出しようとしていた。この情報を入手したCIAは最強の女性エージェントのメイスと同僚のニックをただちにパリに向かわせた。取引現場で接触しようとしたとき、邪魔が入って国際テロ組織の殺し屋の手に渡ってしまう。メイスは敵対したドイツの秘密工作員マリー、イギリスのサイバー・インテリジェンスの専門家ハディージャ、コロンビア諜報組織の心理学者グラシエラと手を組むことにした。4人は敵をかわしながらデバイスの行方を追ってパリからモロッコへ、そして闇マーケットが開かれる上海へと飛ぶ。そこには中国人エージェント、リンがいた。

『355』とはアメリカ独立戦争時に、イギリス軍の機密情報をアメリカ将校たちに伝えた実在の女性からきているそうです。そのコードネームが「355」、正体は不明のままですが、彼女の成果はいまだ忘れられていません。現在諜報のプロである女性たちは、互いを「355」と言うことがあるのだとか。本作を立案し、プロデューサー兼主演のジェシカ・チャスティンが「認識されていない女性たちへの敬意と感謝」を表明したというタイトルは、各国を代表する女優陣が終結したこの作品にぴったりです。
5人にはそれぞれ特技があり、よくある男性の助手や守られる女性ではありません。格闘術を得意とするCIAのメイス、ドイツ人のマリーも男性に負けないタフさ、天才的なハッカーのイギリス人ハディージャ。闘いは専門外でも心理戦と度胸のグラシエラには夫と2人の子があり、なんとしても帰りたいのです。最後に登場するリンは中国武術や医術を身に着けています。ここぞというときに発揮される彼女たちの技に、おお~!と感嘆しました。パリのストリート、モロッコ・マラケシュの賑やかな市場など、身体をはったアクションの背景にもご注目を。(白)/span>

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明らかに台北の街なのに、上海と言われても・・・と思ったのですが、本物と思ったモロッコのマラケシュの混沌とした広場が、実はロンドンに作った本物そっくりのセット。映画ですねぇ。
本作の発端は、2017年のカンヌ国際映画祭の時に審査員を務めたジェシカ・チャスティンが、リビエラ海岸の街中に貼られていた近日公開のアクション映画のポスターのほとんどが男性だと気づき、女優たちが役作りにも主体的に関わる映画を作りたいと思ったこと。よくぞ、これだけ豪華な個性的な女優たちを集めたものです。底力を見せつけてくれました。(咲)


2022年/イギリス/カラー/スコープ/122分/PG-12/字幕翻訳:チオキ真理
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ 
©2020 UNIVERSAL STUDIOS. ©355 Film Rights, LLC 2021 All rights reserved.
https://355-movie.jp/
★2022年2月4日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

●プロデューサー・主演のジェシカ・ジャスティンのインタビュー動画はこちらです。

posted by shiraishi at 12:59| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ポスト・モーテム 遺体写真家トーマス(原題:Post Mortem)

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監督・脚本:ピーター・ベルゲンディ
撮影:アンドラーシュ・ナギー
出演:ヴィクトル・クレム、 フルジナ・ハイス、 ガブリエラ・ハモリ、 ユディット・シェル

トーマスは第一次世界大戦で爆風で瀕死の重傷を負った兵士。ある老人に助けられ、帰還して”遺体写真家”として生計をたてる。死者を埋葬する前に、生前のように再現して遺族と撮影するもので最後の写真が残ると遺族に喜ばれていた。ある日、怖がることなくその仕事ぶりを見る少女アンナと、彼女の村に向かうことになった。流行りのスペイン風邪で亡くなった多くの村人が、厳しい寒さで土が凍り、埋葬できないまま腐敗もせずに横たわっていた。何人かを望み通りに撮影するが、現像するとそこには不審な影が映っている。村では悪霊のせいだと言われる現象が続いていて、トーマスはその解明に乗り出す。

アカデミー賞国際長編映画部門ハンガリー代表作品。ハンガリーの映画というと、タル・ベーラ監督が浮かびます。ほかに作品では『サウルの息子』『心と体と』でしょうか。国の代表作品にホラー作品?と思いましたが、死体や怨霊は登場するものの、理不尽に命を奪われた死者や遺族の悲しみが迫ってくる物語でした。遺体と一緒に写真を撮るというのも、実際に庶民の間で行われていたことなのだそうです。
第一次世界大戦直後に流行したスペイン風邪は世界中に蔓延し、多くの人々が亡くなりました。アンナに導かれて、トーマスはたくさんの死者と対面します。中に風邪が原因ではない遺体を見つけて、その謎解きが始まります。
陰鬱な画面の中で孤児のアンナが可愛らしく、ほっとします。数少ない協力者の未亡人役の方も凛として、きっと有名な女優さんなのでしょう。モノクロかと思うような沈んだ色彩ですが、ほぼ100年前の寒村の暮らしや風景の映像が美しいです。遺体や怨霊役の俳優さんの演技にご注目を。「このロケ地は観光名所(センテンドレ市の野外博物館)で、別の季節はとても美しいところです」と、ハンガリー大使からのコメントより。(白)


2020年/ハンガリー/カラー/116分
配給:プレシディオ
©SZUPERMODERN STÚDIÓ
「未体験ゾーンの映画たち2022」
https://ttcg.jp/movie/0816900.html
https://twitter.com/htc_shibuya
★2022年2月4日(金)よりヒューマントラスト渋谷にて上映

*スケジュールをHPでお確かめのうえお出かけください。
監督とプロデューサーからのメッセージと予告編はこちら
posted by shiraishi at 11:11| Comment(0) | ハンガリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月25日

ゴーストバスターズ アフターライフ(原題:Ghostbusters: Afterlife)

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監督:ジェイソン・ライトマン
原作:ダン・エイクロイド、ハロルド・ライミス
脚本:ギル・キーナン、ジェイソン・ライトマン
撮影:エリック・スティールバーグ
出演:マッケナ・グレイス(フィービー)、ポール・ラッド(グルーバーソン先生)、フィン・ウルフハード(トレヴァー)、キャリー・クーン(母親キャリー)、ローガン・キム(ポッドキャスト)、セレステ・オコナー(ラッキー)

母と兄の3人で都会から田舎町へと引っ越してきたフィービー。この町では、30年間にわたり原因不明の地震が頻発していた。家族は祖父のイゴン・スペングラーが遺した古びた屋敷で暮らし始める。リビングの床にほどこされた奇妙な仕掛けに気づいたフィービーは、さらに祖父の地下研究室を発見。そこで目にしたのは、見たことのないハイテク装備の数々だった。祖父がかつてゴーストだらけのニューヨークを救った《ゴーストバスターズ》の一員だったことを初めて知る。床下に隠された装置を誤って開封したとたん、不気味な緑色の光が解き放たれる。それはゴーストを閉じ込めていた〈ゴーストトラップ〉だった。

ハリー・ポッター女の子版のように眼鏡の似合う、聡明で勇気のあるフィービー。祖父が封印していたゴーストたちが解き放たれてしまい、祖父の遺志を継ぐように立ち上がります。ちょっと頼りないお兄ちゃんも、口数の多い友人もなんとか彼女の力になります。1984年『ゴーストバスターズ』、1987年『ゴーストバスターズ2』のアイヴァン・ライトマン監督は本作では製作、息子のジェイソン・ライトマンが父からバトンじゃなかったメガホンを受け継ぎました。技術が進んだので、ゴーストの動きも破壊力も初期作品とは段違いです。旧作ファンには嬉しいストーリー展開ですので、ぜひお楽しみに。
『ゴーストバスターズ』を小学生の息子と観て、マシュマロマンがお気に入りでした。今回はちっちゃくなっての登場シーンが可愛くて面白いです。ムビチケカードのデザインがミニマシュマロマン、ミニサイズハンカチが特典についていますよ。(白)


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2020年/アメリカ/カラー/シネスコ/110分
配給:ソニー・ピクチャーズ
https://www.ghostbusters.jp
★2022年2月4日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 18:01| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

誰かの花

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監督・脚本:奥田裕介
撮影:野口高遠
音楽:伴正人
出演:カトウシンスケ(野村孝秋)、吉行和子(野村マチ)、髙橋長英(野村忠義)、和田光沙(楠本灯)、村上穂乃佳(長谷川里美)、篠原篤(岡部聡 )、太田琉星(楠本相太 )

鉄工所で働く孝秋は年取ってきた両親の様子を見に団地の実家に帰ってきた。父親の忠義は記憶が薄れていて、目の前の孝秋と数年前に亡くなった兄との区別がついていない。黙って出かけては帰ってこられず、母のマチを心配させている。
強風の吹き荒れた日、事件は起こった。団地のベランダから落ちたと思われる植木鉢が通り掛かった住民を直撃し、パトカーや救急車が出動する騒ぎになった。1人自宅にいた父は何事もなかったような顔をしていたが、使ったと思われる軍手には土がついてていた。

本作は、2021年に30周年を迎える横浜シネマ・ジャック&ベティの企画作品として製作され、昨年11月に東京国際映画祭で、12月には横浜シネマ・ジャック&ベティで先行上映されました。今週29日からあらためて公開されます。奥田裕介監督は横浜出身でこれが2作目の長編作品。
認知症になった父親、介護する母親。長男は亡くなり、次男の孝秋は息子としての責任を感じてはいます。もし自分だったら、という気持ちが湧き上がります。力のあるキャスト陣の中で、父を亡くした相太役の太田琉星くんだけがオーディションだったそうですが、奥田監督が「面白い子だな」と直感したとおり、カトウシンスケさんの大きな目にも負けないまっすぐな眼差しが印象的でした。(白)


2021年/日本/カラー/アメリカンビスタ/115分
配給:ガチンコ・フィルム
(C)横浜シネマ・ジャック&ベティ30周年企画映画製作委員会
http://g-film.net/somebody/
★2022年1月29日(土)より横浜シネマ・ジャック&ベティ、ユーロスペースほか全国順次ロードショー
posted by shiraishi at 17:23| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月23日

ロックフィールド 伝説の音楽スタジオ  原題:Rockfield:The Studio on the Farm

劇場公開 2022年1月28日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
劇場情報
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(C)2020 Ie Ie Rockfield Productions Ltd.

スタッフ・キャスト
監督:ハンナ・ベリーマン
撮影:パトリック・スミス
編集:ルパート・ハウスマン
音楽:アレクサンダー・パーソンズ
日本語字幕:大塚美左恵
出演
キングズリー・ウォード、チャールズ・ウォード、オジー・オズボーン、ロバート・プラント、リアム・ギャラガー、クリス・マーティン、ティム・バージェス、ジム・カー

伝説はこの場所で生まれた 英国のロック史を紐解く作品
農場を史上最も成功した音楽スタジオに変えた兄弟と名曲誕生の物語

1970年代から2000年代にかけブリティッシュロックの名曲を多数生み出した伝説の音楽スタジオの歴史をたどったドキュメンタリー。ロンドンから西へ230キロ。ウェールズの農場にある伝説の音楽スタジオ「ロックフィールド」。キングズリーとチャールズのウォード兄弟が1963年頃、農場内の屋根裏部屋を改修して世界初の宿泊可能な音楽スタジオを設立した。
当時エルヴィス・プレスリーに夢中だったウォード兄弟は親から酪農場を引き継ぎ、農場の仕事の傍ら屋根裏に録音機材を持ち込みレコーディングスタジオを作った。当初は自分たちと友人たちが使用する目的だっったが、宿泊施設も設置したことで、世界初の宿泊可能な滞在型音楽スタジオ、ロックフィールドになっていった。都市と違って大きな音を気にすることもなく、また滞在しながら録音ができることが評判を呼び、多くのミュージシャンたちが利用することになった。
クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」など、数え切れないほどのブリティッシュ・ロックの名曲がこのスタジオで誕生したという。当時、このスタジオを利用したミュージシャンたちも登場し、ここでどのように過ごし、自分の音楽体験にどうつながったかなど、録音時のエピソードや思い出を語り、名曲誕生秘話を、楽曲とともに振り返る。

私はブリティッシュロックに詳しくはないので、ここに出てきた人やグループ、音楽などにあまりなじみはないけれど、1970年代は日本やアメリカのロックなどは聴いていた。私自身はフォークソングにハマって、1969年、高校3年の時に初めてアルバイトして買ったのはギター(ガットギター)だったので、そういう意味では同時代に音楽に夢中な若者だった一人ではある。そんな私でもオジー・オズボーン、クリス・マーティンくらいは名前を知っていたし、クイーンやオアシスというバンド名は知っている。ロックフィールドという名前も聞いた記憶はあるのだけど、農場を利用したスタジオだったというのは、今回初めて知った。それにしてもこういう環境で録音ができるということがあったのだとうらやましく思い、すてきなスタジオだと思った。こんな環境で録音できるのなら、詩や曲も浮かぶかも。
1969年、私たちはアメリカンフォークの歴史を作った曲を集めたLPレコードを作ろうと1年の間、教室で練習をしていた。結局レコードはできなかったけど、学校にギターや録音機を持っていき練習したことが懐かしい。そういえば、このスタジオではないけど、泊りがけで合宿して練習したこともあったのを思い出した。もう50年以上前の話である。久しぶりにギターを弾いてみたくなった(暁)


2020年製作/96分/G/イギリス
原題:Rockfield: The Studio on the Farm
配給:アンプラグド
posted by akemi at 21:04| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

〈特集上映〉タル・ベーラ伝説前夜『ダムネーション/天罰』『ファミリー・ネスト』『アウトサイダー』

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タル・ベーラはいかにして、唯一無二の映画作家になったのか----

『ニーチェの馬』(2011年)を最後に56歳という若さで映画監督引退を宣言したハンガリーの巨匠タル・ベーラ。伝説の『サタンタンゴ』(1994年)以前の足跡をたどる、日本初公開3作『ダムネーション/天罰』『ファミリー・ネスト』『アウトサイダー』が4Kデジタル・レストア版で一挙上映されます。

監督・脚本:タル・ベーラ
脚本:クラスナホルカイ・ラースロー (『ダムネーション/天罰』) 
撮影監督:メドヴィジ・ガーボル(『ダムネーション/天罰』)
音楽:ヴィーグ・ミハーイ(『ダムネーション/天罰』)
編集:フラニツキー・アーグネシュ(『アウトサイダー』『ダムネーション/天罰』)
日本語字幕:北村広子 字幕監修:バーリン・レイ・コーシャ
4Kデジタル・レストア版
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/tarrbela/
★2022年1月29日(土)、シアター・イメージフォーラムほかにて一挙公開!


『ダムネーション/天罰』原題:Kárhozat/英題:Damnation
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1988年/ハンガリー/121分/モノクロ/1:1.66
クラスナホルカイ・ラースローが初めて脚本を手掛け、ラースロー(脚本)、ヴィーグ・ミハーイ(音楽)が揃い、“タル・ベーラ スタイル”を確立させた記念碑的作品。ラースローと出会ったタル・ベーラは『サタンタンゴ』をすぐに取りかかろうとしたが、時間も予算もかかるため、先に本作に着手する。
不倫、騙し、裏切りー。荒廃した鉱山の町で罪に絡みとられて破滅していく人々の姿を、『サタンタンゴ』も手掛けた名手メドヴィジ・ガーボルが「映画史上最も素晴らしいモノクロームショット」(Village Voice)で捉えている。

窓の外にゆっくりと動く滑車。
おもむろに出かける男。
さびれた酒場。
大雨。
踊り続ける人たち・・・
『サタンタンゴ』の世界が、すでに展開していました。(咲)


『ファミリー・ネスト』原題:Családi tűzfészek/英題:Family Nest
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1977年/ハンガリー/105分/モノクロ/1:1.37
住宅難のブダペストで夫の両親と同居する若い夫婦の姿を、16ミリカメラを用いてドキュメンタリータッチで5日間で撮影した、22歳の鮮烈なデビュー作。不法占拠している労働者を追い立てる警察官の暴力を8ミリカメラで撮影して逮捕されたタル・ベーラ自身の経験を基にしている。「映画で世界を変えたいと思っていた」とタル・ベーラ自身が語る通り、ハンガリー社会の苛烈さを直視する作品となっている。社会・世界で生きる人々を見つめるまなざしの確かさは、デビュー作である本作から一貫している。

狭いアパートで夫の両親と同居せざるを得ない若い妻。何かと小言をいう義父。あげく、除隊して家に帰ってきた夫は、どちらにもいい顔をしようと妻の肩を持つわけではない。父親から妻が浮気していると言われ、信じる夫。48時間居座れば自分の家になるという噂を聞き、娘を連れ空き家に居座る妻・・・ タル・ベーラのその後の作品とは、ちょっと雰囲気が違って、社会問題を痛烈な皮肉で描いた作品でした。(咲)


『アウトサイダー』原題:Szabadgyalog/英題:The Outsider
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1981年/ハンガリー/128分/カラー/1:1.37
社会に適合できないミュージシャンの姿を描いた監督第2作にして、珍しいカラー作品。
この作品がきっかけで、タル・ベーラは国家当局より目をつけられることになる。本作以降すべての作品で編集を担当するフラニツキー・アーグネシュが初めて参加。酒場での音楽とダンスなど、タル・ベーラ作品のトレードマークと言えるような描写が早くも見てとれる。日本でも80年代にヒットしたニュートン・ファミリーの「サンタ・マリア」が印象的に使われている。

どうしようもない男が描かれた本作。カラーなのに、しっかりタル・ベーラの世界でした。(咲)

******

私が最初に観たタル・ベーラ作品は『倫敦から来た男』(2007年、日本公開2009年12月)でした。
モノクロームで静かに描かれた映像美にぞくっとし、「鬼才」という言葉を実感したものでした。次に、期待して観に行った『ニーチェの馬』は、荒野の一軒家に住む父と娘と馬の過酷な日常をモノクロで描いた154分! ひたすら風の音が吹き荒れ、いつ、この映画から解放されるのだろう・・・と思いながらも、映像の美しさに引き込まれました。
『ニーチェの馬』が東京フィルメックスで上映されるのにあわせ、タル・ベーラが来日。2011年11月18日(金)、ハンガリー大使館で開かれた記者会見に颯爽と現れ、「監督は引退するけれど、映画界を引退する訳じゃない、後身を育てる」と、さらっと言ってのけました。
その後、2019年に伝説的な7時間18分の『サタンタンゴ』(1994年)が日本で初公開され、再来日したタル・ベーラは8年の間にだいぶんお年を召した雰囲気になっていましたが、健啖家なのは変わらずでした。
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『サタンタンゴ』 タル・ベーラ監督来日記者会見 
2019年9月14日(土) 撮影:景山咲子


今回の特集上映では、『サタンタンゴ』と『ニーチェの馬』も特別上映されます。

〈特別上映〉
●『サタンタンゴ』(1994年/438分/モノクロ) ※途中2回休憩有り
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降り続く雨と泥に覆われ、村人同士が疑心暗鬼になり、活気のない村に死んだはずの男イリミアーシュが帰ってくる。彼の帰還に惑わされる村人たち。イリミアーシュは果たして救世主なのか?それとも?クラスナホルカイ・ラースローの同名小説を原作として、タンゴのステップ〈6歩前に、6歩後へ〉に呼応した12章で構成される、伝説の7時間18分。
シネジャ作品紹介 

●『ニーチェの馬』(2011年/154分/モノクロ/35mm) ※35mmフィルム上映。リールの交換のため途中休憩有り
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1889年トリノ。ニーチェは鞭打たれ疲弊した馬車馬を見つけると、駆け寄り卒倒した。そのまま精神は崩壊し、二度と正気に戻ることはなかった。その馬の行方は誰も知らない─。馬と農夫、そしてその娘。暴風が吹き荒れる6日間の黙示録にして、タル・ベーラ監督“最後の作品”。
シネジャ作品紹介 




posted by sakiko at 19:36| Comment(0) | ハンガリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

名付けようのない踊り

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© 2021「名付けようのない踊り」製作委員会

脚本・監督:犬童一心(『ジョゼと虎と魚たち』『メゾン・ド・ヒミコ』『のぼうの城』)
エグゼクティブプロデューサー:犬童一心 和田佳恵 山本正典 久保田修 西川新 吉岡俊昭 プロデューサー:江川智 犬童みのり
アニメーション:山村浩二 音楽: 上野耕路 音響監督:ZAKYUMIKO 撮影:清久素延 池内義浩 池田直矢 編集:山田佑介
出演:田中泯
石原淋 / 中村達也 大友良英 ライコー・フェリックス / 松岡正剛

田中泯のダンスと旅に出る
ポルトガル-東京-広島-愛媛-パリ-福島そして山梨・・・
72歳から74歳の田中泯を追ったドキュメンタリー

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© 2021「名付けようのない踊り」製作委員会

ポルトガル、サンタクルス。石畳の街角に佇む田中泯。
おもむろに動き出す。
それは踊りといっていいのか・・・
1945年生まれ。クラシックバレエとアメリカンモダンダンスを学び、30代、モダンダンスの舞台に立つ。1968年、初めて土方巽の踊りを観て打ちのめされる。「踊りとは何か」と考える。
1978年、33歳のとき初めてパリで踊る。世界中で踊るようになるが、完成した踊りはない。日々違う。旅芸人のようと語る。それを「場踊り」と呼ぶ田中泯。観ている人と自分の間にダンスが生まれるのが理想だ。観ている人もまたダンサーなのだ。
40歳の時、「桃花村」と吉田一穂の随筆から名付けた山梨の山間の地で畑仕事をして作った体で踊ると決めた田中泯。日焼けした肉体で踊る。
57歳の時、山田洋次監督に乞われ、『たそがれ清兵衛』(02)に出る。映画初出演で、どう演じていいかわからず、「踊った」と語る。
モンパルナスに眠る敬愛するフランスの哲学者ロジェ・カイヨワの墓を訪ねる。名前のない墓。「ミミクリ」という擬態や模倣を伴う遊びの類型を示す概念を提唱した人物。
福島・浪江町の廃屋でクモの動きを夢中で模倣する田中泯・・・

申し訳ないことに『たそがれ清兵衛』での田中泯さんが記憶になくて、昨年、『HOKUSAI』で晩年の北斎を演じられたのを観て、初めて凄い方がいると認識したのでした。
何も知らずに、突然、そばで田中泯さんが場踊りを始められたら、変人と思ってしまうかもしれません。気恥ずかしい感じもします。知る人ぞ知るで、広場や街角で大勢の人が取り囲むこともあるのですが、田中泯さんはゆっくりと自分のペースで動きます。「世界には違う速度が同時にある」のだと語ります。

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© 2021「名付けようのない踊り」製作委員会

山村浩二によるアニメーションで、子ども時代のことが描かれます。泯さんは、「私の子ども」と子ども時代のことを語ります。近くに朝鮮人の家があって、普段いない父親がたまに帰ってくると宴をしていたというエピソードがありました。泥棒稼業で出所祝いの宴だったという話が妙に印象に残りました。そして、警察官だった泯さんのお父さんのコートは、今は踊りの衣装になっているそうです。そのコートを羽織ったお父さんが、朝鮮人の泥棒さんを捕まえたかもしれないと想像すると、ちょっと楽しい。(咲)


*記者会見*
1月24日(月)日本外国特派員協会(千代田区 丸の内)で開催された記者会見に田中泯と犬童一心監督が登壇。
田中泯がポルトガルで踊る際に、犬童監督を誘ったことが制作のきっかけとなり、2年間に渡り、約30もの田中の踊りを追いかけ続けて出来た本作について、二人が語りました。
田中は「僕の踊りは、その場での1回限りのものなので、そのまま映像化しても、その時々の空気は伝わらない。犬童監督が編集をすることによって、踊りを再構築してくださいと伝えました。僕自身は踊りを踊る人間としてカメラの前に居ただけです。普段の撮影と違い、よーいスタートもなければ、NGもありません」と振り返りました。
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メイキング_copyright Rin Ishihara
© 2021「名付けようのない踊り」製作委員会

犬童監督は「どういう映画にしようか決めないで、ひたすら泯さんの踊りを追い掛けました。その後に、シナリオを書いて、踊りを組み直しました。その際に大切にしたのは、自分が実際に泯さんの踊りを実際に観に行った時の時間感覚です」と説明。
泯さんの「世界には様々な文化があり、言葉と共に発展してきましたが、言葉が生まれる前の“沈黙”という文化は間違いなく世界共通。人間は一つの種。私たちはホモサピエンスです。その身体の生んだ文化の一つして、踊りはある」という言葉に真髄を感じました。
(記者会見には参加できなかったのですが、配給・宣伝のハピネットファントム・スタジオ様からいただいたレポートより印象的な部分を掲載させていただきました)


2021/日本/114分/5.1ch/アメリカンビスタ/カラー/G
助成:文化庁文化芸術振興費補助金 協賛:東京造形大学 アクティオ
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ 制作プロダクション:スカイドラム
製作:「名付けようのない踊り」製作委員会(スカイドラム テレビ東京 グランマーブル C&Iエンタテインメント 山梨日日新聞社 山梨放送)

公式サイト:https://happinet-phantom.com/unnameable-dance/
★2022年1月28日(金)より ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9、Bunkamura ル・シネマほか全国ロードショー

posted by sakiko at 18:37| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

テレビで会えない芸人

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監督:四元良隆、牧祐樹
プロデューサー:阿武野勝彦
撮影:鈴木哉雄
音楽:吉俣良
音響効果:久保田吉根(くぼた・よしね)
クレジットアニメーション:加藤久仁生
出演:松元ヒロ

テレビで会えない芸人—
その生き方と笑いの哲学から、いまの世の中を覗いてみる。
モノ言えぬ社会の素顔が浮かび上がる。

今日のメディア状況に強い危機感を募らせていたのは、松元の故郷鹿児島のローカルテレビ局。2019年の春から松元ヒロの芸とその舞台裏にカメラが張りついた。監督は鹿児島テレビの四元良隆と牧祐樹。プロデュースを手掛けたのは『ヤクザと憲法』『さよならテレビ』などの衝撃作を世に送り出してきた東海テレビの阿武野勝彦。なぜ松元ヒロはテレビから去ったのか? なぜテレビは松元ヒロを手放したのか? そして本作はその答えを見つけられたのか?

鹿児島テレビ放送のドキュメンタリー番組「テレビで会えない芸人」は「第58回ギャラクシー賞」テレビ部門の優秀賞、「2020年日本民間放送連盟賞」の「番組部門 テレビエンターテインメント番組」最優秀賞、「第29回FNSドキュメンタリー大賞」大賞。受賞後全国で再放送があったそうですが、なんと放送時間は午前四時頃から。録画した方もいるかと思いますが、これではたいていの人が見たくても見られません。そこで「映画にしましょう」と決めた鹿児島テレビ放送さん、テレビ局を越えて参加した阿武野勝彦プロデューサーはエライ!
渋谷を歩く、一人でネタを考える、稽古場で愛妻お結びを食べながら稽古に励む、故郷鹿児島へ行く、懐かしい人に会う…密着したカメラはいろんな松元ヒロさんを見せてくれます。もちろん舞台でのヒロさんも映します。
忖度、気遣いばかりのメディアに慣れたらいけません。ヒロさんが主戦場に選んだ舞台で、笑顔で突っ込む政治・社会ネタは嘘でもオーバーでもありません。私たちが毎日の暮らしで「変だぞ、おかしいな、なんで?」と考えていることです。弱者の立場で強者に向かい、はっきり口に出してくれるので、大笑いしながら「よくぞ言ってくれた!」「あー、すっきりした!」となります。だから満席になるんですよね。
映画の中で「憲法くん」の名調子が聞けます。こんなにまっすぐで真面目で研究熱心で、お話が面白い方を以前取材で独り占めしました。今更ながらなんと贅沢だったことかと感謝×感謝。みなさまも映画でヒロさんの人となりを知って、その話芸を楽しんでくださいまし。(白)


●『誰がために憲法はある』「憲法くん」原作:松本ヒロさんインタビューはこちら

2021年/日本/カラー/81分
配給:東風
(C)2021 鹿児島テレビ放送
https://tv-aenai-geinin.jp/
★2022年1月29日(土)よりポレポレ東中野にてほか全国順次公開

posted by shiraishi at 16:29| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

クレッシェンド 音楽の架け橋  原題:CRESCENDO #makemusicnotwar

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©CCC Filmkunst GmbH

監督:ドロール・ザハヴィ
出演:ペーター・シモニシェック(『ありがとう、トニ・エルドマン』)、サブリナ・アマーリ、ダニエル・ドンスコイ、メフディ・メスカル、ビビアナ・ベグラウ、エーヤン・ピンコヴィッチ、ゲッツ・オットー

和平を願って結成されたイスラエルとパレスチナ混合オーケストラ。融和はあるのか?

「愛し合ってる」と両親宛のビデオメッセージを録画するオマルとシーラ。
オマルはパレスチナ人のクラリネット奏者、シーラはユダヤ人のホルン奏者だ。二人が出会ったのは、中東の和平交渉が行われる南チロルでの一夜限りの演奏会のために結成されたイスラエルとパレスチナ混合のオーケストラ。
企画を任された世界的指揮者エドゥアルト・スポルクによる厳正なオーディションがテルアビブで開かれた。パレスチナ自治区ヨルダン川西岸で暮らすオマルはヴァイオリニストのレイラと共にチェックポイントでのイスラエル兵の厳しい検査をなんとかパスして会場に駆けつけ、メンバーに選ばれた。受かった奏者たちが練習を始める。スポルクは、コンサートマスターに、ユダヤ人の優秀なヴァイオリニストのロンではなく、パレスチナ人のレイラを指名する。レイラが指揮をとって始めようとしても、ユダヤ人の奏者たちは誰も言うことをきかない。スポルクは、本番までの3週間、南チロルの山間部での合宿で、彼らの敵対心を和らげようと荒療治に出る。ロープを挟んで二手に分かれ、5分間、相手への不満を叫ぶよう指示する。「アラブ人はテロリスト」「ユダヤ人こそ人殺し」「おじいちゃんは70年前リッダから追い出された。母親が亡くなる前に家の鍵を受け取った」と怒鳴りあう中で、オマルとシーラだけは戸惑って黙っていた。そんな二人がいつしか心を通わせるようになる・・・

タイトルの「クレッシェンド」は、音楽用語で「だんだん強く」の意味ですが、ロープを挟んで怒鳴りあう声がだんだん強くなっていくのを指しているのではと思うほど。今のパレスチナの状況と同様、この混合オーケストラも二つの民族が分かち合うことはないのかと危惧してしまいます。“音楽の架け橋”という副題に、心温まる感動物語かと思いきや、一筋縄ではいきません。「クレッシェンド」というタイトルには、成長するという意味と共に、音楽を通じて芽生える共振がだんだん広がっていくことを願う気持ちが込められているそうです。

ドロール・ザハヴィ監督は、1959年2月6日、イスラエル・テルアビブ生まれ。物心がついた時からイスラエルとパレスチナの対立を目にして関心を寄せてきました。1982年、奨学金を受け、旧東ドイツのコンラート・ヴォルフ映画テレビ大学で演出を学び、卒業後はイスラエルで映画評論家として活動。ベルリンの壁崩壊直前の1989年の秋にベルリンに渡り、1991年から永住。テレビ番組の製作に勤しむ傍ら、イスラエルとパレスチナの政治的対立をテーマにした長編映画『For My Father』(08・英題)を監督。
本作は、ユダヤ人とアラブ人で結成された実在のいくつかのオーケストラにインスパイアされて描いた物語。特に、1999年に世界的指揮者のダニエル・バレンボイムとパレスチナ系米文学者のエドワード・サイードの提唱により「共存への架け橋」を理念に結成された「ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団」の名前を挙げていますが、あくまでフィクション。中でも、指揮者スポルクがドイツ人で、しかもホロコーストに関わったナチス党員の息子という、葛藤を抱えた人物として描いたことに監督のさらなる思いを感じました。団員のユダヤ人も肉親に強制収容所でつけられたタトゥーがあると語っていて、ヨーロッパのキリスト教社会で脈々と続いてきたユダヤ人蔑視が、今のイスラエル&パレスチナで暮らす人々に影を落としていることも感じさせてくれる作品になっています。(咲)
(注:イスラエル人というと、イスラエル国籍のパレスチナ人も含まれるため、国家はイスラエル、民族としてはユダヤ人としました。)


パレスチナとイスラエルの対立。日本にいるとわかっているようで全然わかっていないことがこの作品を見るとよくわかります。ナチスに両親を殺され、何とか生き延び、イスラエルで平和な暮らしができると思ったら、独立戦争で妹を殺された祖母の話をするイスラエルの青年。イスラエル建国で立ち退かされ、生まれ故郷の家の鍵を母から託され、いつかその鍵を使って家に帰ることを願っている祖父の話をするパレスチナの女性。身近な大切な人の悲しみは時間が経っても癒えることはありません。
対立する2つの民族をまとめる立場のマエストロがドイツ人で、彼もまた歴史的な大きな枷を背負っていました。心を1つにできないままでいる楽団員たちがそれを知り、気持ちに変化が現れる。それが演奏にも如実に表れてきます。相手の悲しみに耳を傾けることで歩み寄る努力はできるのですね。作品内で演奏される曲はドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第2楽章など、どれも有名な曲ばかり。「そういわれてもクラシックは苦手でわからない…」と尻込みしなくても大丈夫。演奏が始まれば「あ~この曲なら聞いたことがある!」と思えるはず。
終盤に思いもしない展開が待っていますが、その先にも希望があったことがうれしい。

ちなみに楽団一のヴァイオリンの腕を持ち、ハンサムで人気者のロンを演じるダニエル・ドンスコイはNetflixドラマシリーズ「ザ・クラウン」シーズン4で、ダイアナ妃の不倫相手ジェイムズ・ヒューイット役に抜擢されたイケメンです。俳優として活躍する傍ら、ミュージシャンとしてアルバム制作やライブを精力的に行っています。しかも5ヶ国語を操るマルチリンガル! 天は二物も三物も与えてしまったようです。(堀)


2019年/ドイツ/英語・ドイツ語・ヘブライ語・アラビア語/112分/スコープ/カラー/5.1ch
日本語字幕:牧野琴子、字幕監修:細田和江
配給:松竹 宣伝:ロングライド
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/crescendo/
★2022年1月28日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、 シネ・リーブル池袋ほか全国公開




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2022年01月22日

きみは愛せ

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監督・脚本:葉名恒星
撮影:島大和
出演:海上学彦(慎一)、細川岳(岩田朋希)、兎丸愛美(岩田凛)、高野春樹(上野弘志)、田中爽一郎(竹内良太)、白子(麻美)

とある地方の小さな町。リサイクルショップで働く慎一は、毎日を生きるだけで自分にも将来にも欲がない。ルームメイトの朋希は雀荘で働き「愛だよ、愛」が口癖で同居の慎一に遠慮することもなく、女を家に連れてくる。慎一は朋希の妹 凛に片想いしているが積極的に出るわけでもない。凛は「結婚するなら慎さんみたいに優しい人がいい」と言いながら不倫中で、男に都合のいい女になっている。

”期待の新人監督スカラシップ”第1回作品。『愛うつつ』(2021) の葉名恒星(はなこうせい)監督が細川岳と続けてタッグ。『佐々木、イン、マイマイン』で強烈な印象を残した細川岳さんが、笑いながら「愛だよ、愛」と、手あたり次第に女に手を出しています。しかしそれは忘れられない人がいる裏返しの渇望。三者三様の不毛な愛はどこに行きつくんでしょう?同世代の、愛を求めてあがく人たちは共感するはず。恋する痛みも儚さも遥か遠くに感じる年頃になると、そんな感覚もまぶしいような気がします。若いっていいねぇ。一瞬ですよ、悩め若者たちよ。(白)


2021年/日本/カラー/シネスコ/103分
配給:映画の会
(C)2020「きみは愛せ」製作委員会
https://www.eiganokai.com/kimiaise/
★2022年1月28日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 23:29| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

殺すな

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監督:井上昭
原作:藤沢周平「橋ものがたり」
脚本:中村努
撮影:南野保彦
音楽:遠藤浩二
出演:中村梅雀(小谷善左エ門)、柄本佑(吉蔵)、安藤サクラ(お峯)、中村珠緒(おはな)、本田博太郎(利兵衛)

長屋で筆作りをしている浪人の小谷善左エ門は、船頭の吉蔵から一緒に暮らしているお峯の様子を見ていてくれと頼まれる。2人は元船宿の女将と抱え船頭だったが、密通した挙句駆け落ちしてきたのだった。初めの熱も冷めてきたお峯は、隠れ住むのに飽いてきて毎日のように橋のたもとに佇んでいる。橋を渡って向こうで気晴らしをしたいのだ。吉蔵はお峯が元の亭主のところに戻ってしまうのでは、と心配で仕方がない。
小谷善左エ門はお峯に筆作りを手伝わせながら、昔、自分が妻を手にかけたことを悔いていると打ち明ける。

長屋住まいの人々の人情話は多いですが、こちらは物悲しい空気が漂います。過去を悔いて生きる浪人を中村梅雀さん。妻が残したおさえ帯を大切にそばに置いています。現代ものにもよく出演されますが、やはり時代劇では姿勢と立居ふるまいの美しさが際立ちます。柄本佑さんと安藤サクラさんは駆け落ちしてきた二人ですが、実際にご夫婦です。この設定にどう臨んだのでしょう。お峯さんがたいへんに色っぽくて、これは片時も目が離せなくなるね、と吉蔵に同情してしまいます。

藤沢周平原作の「橋ものがたり」のうちの一篇。時代劇専門チャンネルでは藤沢周平の原作を多数映像化しています。2022年2月1日に初放送するのに先駆けて1月28日から劇場上映します。大きな画面で井上昭監督の最後の時代劇をご覧ください。井上監督は1月9日93歳で亡くなられました。(白)


2021年/日本/カラー/シネスコ/52分
配給:イオンエンターテインメント
(C)「殺すな」時代劇パートナーズ
https://www.jidaigeki.com/korosuna/
★2022年1月28日(金)イオンシネマにてロードショー

posted by shiraishi at 23:22| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アダムス・ファミリー2 アメリカ横断旅行!(原題:The Addams Family 2)

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監督:グレッグ・ティアナン、コンラッド・ヴァーノン
声の出演:生瀬勝久(ゴメズ)、杏(モーティシア)、二階堂ふみ(ウェンズデー)、堀江瞬(パグズリー)、京田尚子(バァバ)、秋山竜次(フェスター)、大塚明夫(ラーチ)、森川智之(サイラス・ストレンジ)

ウェンズデーは夏休み恒例の自由研究発表会で当然優勝を狙っている。フェスターおじさんにペットのタコ”ソクラテス”の特性を移植する実験を披露したが、順位をつけず全員入賞という結果になってがっかり。主催者のサイラス・ストレンジに共同研究を提案されるが「家族の秘密だから」と断った。
思春期を迎えたからか、家族との食卓にも姿を見せないウェンズデー。娘を心配したパパのゴメズは家族旅行に出かけることにした。火葬炉つき特製キャンピングカーでアメリカ横断の旅が始まった!ナイアガラの滝、マイアミビーチ、グランドキャニオンと騒動を巻き起こしながらアダムス一家は進む。家族の絆は期待通り深まるのか?

2020年9月に公開された『アダムスファミリー』の第2弾。今回は娘のウェンズデーを中心に、どこの家庭でも起こりうる(?)成長過程の子どものストーリーが展開します。自分の存在に疑問を抱くウェンズデー、爆発実験が大好きな息子のパグズリーも恋する年頃になりました。助言するのが今もって独身のフェスターおじさんというのが、頼りないところです。家族が出かけた留守を守るバァバがほくそ笑んでいるのがなんとも怪しい。キャンピングカーを付け狙う車はもっと怪しい。何が起こるのかお楽しみに。
それにしてもお姉ちゃんは弟にもう少し優しくしてあげてほしいです。
キャラ立ちまくりの一家に声をあてているスターたちにもぜひ注目を。試写は日本語吹き替え版でした。
ゴメズの従兄のエンタテイナー、カズン・イット役にスヌープ・ドッグが出演。(白)


2021年/アメリカ/カラー/93分
配給:パルコ ユニバーサル映画
(C)2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
https://www.universalpictures.jp/micro/addams-family-2
★2022年1月28日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 23:20| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

前科者

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監督・脚本:岸善幸
原作:香川まさひと(原作)、月島冬二(作画)
撮影:夏海光造
音楽:岩代太郎
出演:有村架純(阿川佳代)、森田剛(工藤誠)、磯村勇斗(滝本真司)、若葉竜也(実)、マキタスポーツ(鈴木充)、石橋静河(斉藤みどり)、北村有起哉(高松直治)、宇野祥平(店長)、リリー・フランキー(遠山史雄)、木村多江(宮口エマ)

阿川佳代28歳。いたって平凡なコンビニ店員で生計を立てるほか、もう一つの仕事を掛け持ちしている。元受刑者の更生を助ける”保護司”という仕事で、非常勤の国家公務員だが報酬は一切ないボランティア。保護司3年目となった佳代は、次々と問題を起こす前科者たちをあるときは厳しく叱り、あるときは優しく励まして寄り添い続けている。新しく担当になったのは殺人を犯して服役していた工藤誠。佳代は全力で支え、工藤も真面目に勤めていた修理工場に正社員として登用されることも決まって楽しみにしていた。しかし、保護観察の終了直前に工藤は忽然と姿を消してしまう。連続殺人事件の容疑者として、マークされていたのだった。

保護司という仕事の詳細をこの映画で初めて知りました。人生経験を積んだある程度の年齢の方が担うのかと思っていたら、佳代は28歳です。なぜ保護司になったのかは後で明らかになりますが、諦めない強い意志が必要な仕事のようです。罪を犯してしまった「前科者」が刑期を終えて社会復帰を目指すには、いろいろな困難が待ち構えています。保護司はその相談にのり、彼らを支える役割です。研修もあるとはいえ誰でも気軽にはできないですね。有村架純さんの明るさとひたむきさがよく似合っています。
原作は同名の人気漫画。WOWOWで2021年11月に全6話の連続ドラマが放映されました(Amazonプライムで視聴できます)。ドラマ版では佳代が出逢う何人かの詳細がわかります。映画版はオリジナルストーリーで、森田剛演じる自動車修理工の工藤とその周囲の人々にフォーカスしています。森田さんと言えば『ヒメアノ~ル』(2016)での好演を今も思い出します。若葉竜也さん、石橋静河さんのこれまでと全く違う表情にも感嘆。
この映画では加害者と被害者、それぞれの抱える過去の傷や、あってほしい未来、他者を許すということ、などなど多くのものが観た後に残りました。佳代さんのその後が観たいです。(白)


*保護司とは*
保護司法、更生保護法に基づき、法務大臣から委嘱を受けた非常勤の国家公務員。犯罪や非行に陥った人の更生を任務とする、活動内容に応じて実務弁償金が支給されるが、給与は支給されず、民間のボランティアによって成り立っている。
保護司法の第1条には、保護司の使命が次のように掲げられている。
「保護司は、社会奉仕の精神を持って、犯罪をした者の改善及び更生を助けるとともに、犯罪の予防のため世論の啓発に努め、もって地域社会の浄化をはかり、個人及び公共の福祉に寄与することをその使命とする」(HPより)


2022年/日本/カラー/シネスコ/133分
配給:日活、WOWOW
(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
http://zenkamono-movie.jp/
★2022年1月28日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 23:00| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

バイオハザード ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ(原題:Resident Evil: Welcome to Raccoon City)

 
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監督・脚本:ヨハネス・ロバーツ
出演:カヤ・スコデラリオ、ハナ・ジョン=カーメン、ロビー・アメル、トム・ホッパー、アヴァン・ジョーギア、ドナル・ローグ、ニール・マクドノー

製薬会社アンブレラ社の拠点があるラクーンシティ。
この街の養護施設で育った主人公クレア・レッドフィールド(カヤ・スコデラーリオ)は、アンブレラ社がある事故を起こしたことで、街に異変が起きていると警告する不可解なメッセージを受け取り、ラクーンシティへと戻ってきた。
R.P.D.(ラクーン市警)の兄クリス・レッドフィールド(ロビー・アメル)はクレアの言うことをありえない陰謀論とあしらうが、やがて二人は街中を彷徨う住民たちの変わり果てた姿を目の当たりにする。次々と襲い掛かってくる住民たち。
そんな中、アンブレラ社が秘密裏に人体実験を行ってきたことが徐々に明らかになっていく…。

『バイオハザード』といえば、2002年にミラ・ジョヴォヴィッチ主演で製作され、その後人気シリーズになった一連の作品を思い浮かべる方が多いかと思いでしょう。CAPCOMという日本のゲームメーカーが作ったゲームを原作としたアクションホラー映画シリーズで、アクションの側面が強く作られていました。
一方、本作はゲームの原点であるホラーに回帰した作品に仕上げられています。ゲームをやったことがある人の話ではゲームシリーズの1・2作目のストーリーに忠実であるとのこと。しかし、ゲームを全く知らなくても問題ありません。物語性が強く、クレアやクリス、ジル、レオンそれぞれの内面がしっかり描かれ、群像劇の様相を呈しているのです。
しかも、ホラーの要素がかなり強く、夜の孤児院シーンはハラハラドキドキが止まりません。ミラ・ジョヴォヴィッチ版バイオハザードのことはいったん忘れて、新しい作品として楽しんでください。(堀)


2021年/107分/PG12/アメリカ
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
公式サイト:https://bd-dvd.sonypictures.jp/residentevilraccooncity/
★2022年1月28日(金)ロードショー
posted by ほりきみき at 00:00| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月21日

おじドル,ヤクザ

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監督・脚本・編集・音楽:大川裕明
撮影・照明:福田陽平
録音/内田達也
メイク・制作:美名子
出演:大川裕明(金田)、 彦坂啓介(あずぽん)、たしろさやか、泉水美和子、榎本桜、松代大介、松田ぴろし、竜雷太

昔堅気のヤクザ金田は42才。潔癖症で人付き合いが苦手で口下手、最近のオレオレ詐欺などはとてもできず、借金取立の仕事をあてがわれている。債権者の一人、東という44歳の男はコンビニ店員だが、あずぽんという芸名で今でも地下アイドルとして活動している。借金を抱えながら呑気で、年取った両親ともども悲壮感はない。いつかブレイクすることを夢見ている。金田はイラつきながらも何度も会ううちに、人懐こいあずぽんが気にかかってくる。

金田はベテランヤクザですが、破産した老夫婦に情をかけたり、あずぽんをかばったり、若いヤクザのように冷酷にはなれません。半グレの若い男たちのほうがずっと酷くて、そっちを取り締まってよと警察を責めたくなります。あずぽんは優しい両親に育てられ、家族はどこまでもポジティブです。金田に足りないものがそこにはありました。
金田が煩雑に手を洗い、除菌シートを使うのには理由がありました。あずぽんのライブシーンと応援するファンとのやりとりが楽しいのは、大川監督が、バンド”RUDE BONES”の VO、SAX、リーダーという別の顔を持っているからでしょうか。
前作の短編映画『ファミリーファミリー』がAmazonプライムで観られると知ったので、さっそく拝見。金田、あずぽん、お母さん役の3人がそこでは家族でした。暮らしは厳しく辛いのですが、生きるのに不器用な人たちを応援しています。どちらも優しい映画でした。(白)


=1月22日初日舞台挨拶【オフィシャルレポート】=

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左から越山深喜、彦坂啓介、大川裕明、たしろさやか

おじドル・彦坂啓介、本当の憧れは半グレだった!?
『おじドル,ヤクザ』公開初日に願望明かす

ついに迎えた念願の封切り!早朝の初回上映後、ステージに立った大川監督は彦坂について「リアルに寝坊してきた!」と暴露して笑わせつつ「僕と彼がヤクザとアイドル。それだけで画として面白い。ヤクザとアイドルという凸凹な二人が、環境や家族の愛によって変わっていく。その姿をコメディを交えつつ伝えたかった」と斬新設定の狙いを明かした。
スパンコールのアイドル風劇中衣装で登壇した彦坂は「この衣装、あまりにも安くて動くたびにスパンコールがボロボロと落ちる」とぼやくと、すかさず大川監督が「三千円!」と低予算ならではの衣装事情をぶっちゃけ。また彦坂は、たしろから「セリフにあるお店の名前を噛み過ぎて正しく言えていなかった」と指摘されると、「あれ?僕今これ責められているの?泣けて来るヨオ~!」とションボリ。すかさずたしろが「そこがあずぽんと彦坂さんの可愛いところ!ほぼ素のキャラクターです」とフォローすると、大川監督も「頑張ってアイドルデビューさせます!」と宣言していた。
そんな彦坂のアイドルとしてのライブシーンも見所だが、実は口パク処理。大川監督は「全然歌を覚えられないの!どうしたらいいのか?と思ったけれど、彼にはスター性があるから、そのままでいいやと思った」と理由を明かすと、当の彦坂は「お酒が入っていればよかったんだけれどね」と反省。しかし熱狂的ファン役の越山は「楽しいライブシーンでした。高円寺の駅前でもゲリラライブをやって。彦坂さんの声の高さが独特でしたけど」と撮影現場での盛り上がりぶりを証言していた。

自身の“おじドル”姿に彦坂は「この衣装を着ている自分の姿を見て…これでいいのかな?と。いまだに僕はよくわからない」と公開を迎えてもなお混乱中だが、グラビアアイドル出身のたしろは「アイドルは謙虚な気持ちが大事だからいいと思うよ!」と性格面での資質に太鼓判。しかし彦坂は「半グレのリーダー役をいつか演じたい。ヤクザ映画のオファーがあればぜひ!」とギャップの在りすぎるジャンル進出に意気込んでいた。
インディペンデント作ながらも、『太陽にほえろ!』などで知られるベテラン俳優・竜雷太も出演。大川監督は「脚本を読んで決めてくれました。彼が自主映画に出演したのは初めてではないかと思う。現場で竜雷太さんに会ったときは感動してしまい、リハの途中で泣きそうになった」と感激していた。
最後に大川監督は「SNSでの告知、口コミ、リピーターなどの力を借りて、世界に行きたい!上映、地道に頑張ります!」とさらなる広がりに期待。彦坂は「月曜のチケットが売れていないのでぜひお願いします!」と頭を下げて爆笑を誘っていた。

2022年/日本/カラー/シネスコ/82分
配給:トリプルアップ
宣伝協力:TBSグロウディア
(c)2021 おじドル,ヤクザ
https://ojidoru893.com/
★2022年1月22日(土)新宿K’scinema他全国順次公開
posted by shiraishi at 18:50| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月16日

クライ・マッチョ 原題:Cry Macho

公開日 2022年1月14日
上映劇場情報


スタッフ
監督:クリント・イーストウッド
製作:クリント・イーストウッド アルバート・S・ラディ ティム・ムーア ジェシカ・マイヤー
製作総指揮:デビッド・M・バーンスタイン
原作:N・リチャード・ナッシュ
脚本:ニック・シェンク N・リチャード・ナッシュ
撮影:ベン・デイビス
美術:ロン・リース
衣装:デボラ・ホッパー
編集:ジョエル・コックス
音楽:マーク・マンシーナ
出演
クリント・イーストウッド:マイク・マイロ
エドゥアルド・ミネット:ラフォ
ナタリア・トラベン
ドワイト・ヨーカム
フェルナンダ・ウレホラ

ほんとうの強さの意味を問う

誘拐から始まった少年との出会いが、二人の人生を変える。
テキサス。ロデオ界のスターだったマイク・ミロ(クリント・イーストウッド)は落馬事故の後、家族と別れ、今は競走馬の種付けの仕事をしながら一人で暮らしている。そんなある日、恩義がある元雇い主から詳しい理由は告げられぬまま、別れた妻に引き取られている息子のラフォ(エドゥアルド・ミネット)をメキシコから連れ戻してほしいと頼まれる。誘拐まがいの犯罪スレスレの仕事。最初は断ったが、結局、元雇い主に恩義があるマイクは引き受け、メキシコに向かう。
ラフォは、自分の思い通りにしようとがんじがらめの母に見切りをつけ、自分で生きていこうと闘鶏用のニワトリとストリートで生きていた。マイクは街でラフォをみつけ父親の元に行こうと説得。二人で米国境への旅を始める。そんな二人に迫るメキシコ警察やラフォの母が放った追手をくぐりぬけ、国境に向かう。そして国境で決断した二人の選択は…。人生の岐路は緊張感の連続。二人にとってそれぞれの居場所とは。
そして「マッチョ」を目指す少年に、「マッチョ」とは強がりであってほんとの強さではないこと。ほんとの強さとは何かということを、マイクはこのロードムービーの中で少年に伝えていく。


クリント・イーストウッド監督デビュー50周年。監督40作目の記念作品。
本作の舞台は、1979年。実は企画を持ち込まれたのは40年程前。主人公のマイクは落馬事故以来落ちぶれた元ロデオ界のスター。家族も亡くし孤独に暮らす老人をクリント・イーストウッドが演じるには、まだ若すぎてお蔵入り。それでも物語が頭の片隅に残っていて、2019年、クリントは映画製作者のアルバート・S・ラディに「まだ脚本が手元にあるか」と電話。そうして機が熟して完成したのが本作。
身も心もぼろぼろの90を過ぎたマイクが、元雇い主に最後の恩返しをしようとする物語。枯れたとはいえ、ダンディなマイク。途中で知り合った酒場のメキシコ人の女主人との素敵な関係に、人生、捨てたもんじゃないと勇気が貰えました。

ところで、試写で本作を観た前日に、やはり試写で観たリーアム・ニーソン主演の『マークスマン』(2021年、ロバート・ローレンツ監督、1月8日公開)の物語の設定がとてもよく似ていました。
愛妻に先立たれ、メキシコ国境付近の人里離れた地で細々と牧場を営みながら愛犬と暮らす元海兵隊の腕利き狙撃兵のジム。ある日、メキシコの麻薬カルテルに追われ、国境を越えて逃げて来た母子に出会います。母親は追手に撃たれ、ジムに11歳の息子ミゲルをシカゴの親戚のところに送り届けてほしいと言って絶命。行きがかり上、ミゲルをシカゴまで送るのですが、メキシコの麻薬カルテルは執拗に二人を追ってくるという物語。
2作とも少年役がとても光っていました。アメリカとメキシコの国境を越えての母と引き裂かれた少年の物語に、事情は全く違うのですが、思い起こしたのが、トランプ大統領の時代に移民流入阻止の政策のために親と引き裂かれたメキシコの子どもたちのことでした。地続きの国境を挟んで、さまざまな物語がありそうです。(咲)



2121年/アメリカ/104分/スコープサイズ/2D/5.1chリニアPCM+ドルビーダラウンド7.1(一部劇場にて)
字幕:松浦美奈
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/crymacho-movie/


posted by akemi at 20:31| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

さがす  英題:Missing

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©2022『さがす』製作委員会 

監督・脚本:片山慎三(『岬の兄妹』)
共同脚本:小寺和久 高田亮
音楽:髙位妃楊子
出演:佐藤二朗
伊東蒼 清水尋也
森田望智 石井正太朗 松岡依都美
成嶋瞳子 品川徹

大阪の下町を大急ぎで駆けていく中学生の少女・楓。父・原田智がスーパーでおにぎりを万引きしたと呼び出されたのだ。呆れかえって家に連れて帰ると、「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」とつぶやく父。「また、冗談ゆうて」と楓。
翌朝、起きると父がいない。必死に町を探し、警察にもいくが、「大人の失踪は結末が決まっとう」と相手にされない。最悪の気分なのに、同級生の花山豊から告白される。付き合うのを条件に豊を父親捜しに巻き込む楓。日雇い事務所で父の名前が載っている現場を見つけ、訪ねていくが、原田智と呼ばれて振り向いたのは若い男だった。お父ちゃんはどこに?

通天閣の見える町での物語。予測不能な思いもかけない展開に、何度もひっくり返りそうになりました。
楓役の伊東蒼さんは大阪生まれ。コテコテの大阪弁が可愛いです。
お父ちゃんは、かつてピンポンクラブを運営していたのですが、家賃が払えなくなってやめました。でも、そこは今でも借り手が見つからないのか、卓球台がまだそのまま置いてあるのです。父と娘が押し黙って打つピンポンの音が忘れられません。(咲)


妻を喪い、立ち直れない夫を佐藤二朗が情けないくらいに見事に体現。「娘がいるんだからしっかりしなさい」と天国にいる妻に変わって叱り飛ばしたくなります。そんな男の娘を演じたのが伊東蒼。情けないだけでなく、殺人犯を見つけたと言ったまま失踪した父を探す姿は健気です。『湯を沸かすほどの熱い愛』の頃はまだ幼かったのに、いつの間にかこんなに立派な中学生になっていました。
ラストは「これでいいの?」と思っていたら、ちゃんとけじめをつけてくれました。父と娘の卓球シーンはハンカチ必須です。(堀)


2022年/日本/123分/PG12
配給:アスミック・エース
公式サイト:https://sagasu-movie.asmik-ace.co.jp
★2022年1月21日(金)、テアトル新宿ほかにて全国公開

posted by sakiko at 19:11| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シルクロード.com 史上最大の闇サイト(原題:Silk Roard)

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監督・脚本:ティラー・ラッセル
原作:デビッド・クシュナー
撮影:ペーター・フリンケンバリ
出演:ジェイソン・クラーク(リック・ボーデン)、ニック・ロビンソン(ロス・ウルブリヒト)、ダレル・ブリット=ギブソン(レイフォード)、ポール・ウォルター・ハウザー(カーティス)

「世界を変えたい」─天才的な頭脳に恵まれたロスは、自由な世界を求め、表では絶対に買えない違法物を匿名で売買できる闇サイトを立ち上げた。〈シルクロード〉と名付けたサイトは、瞬く間に熱狂的なブームを巻き起こし、栄華を極める。ハデな動きですぐに警察にマークされるが、ロスは絶対に身元がバレない強固なシステムを創り上げていた。そんなロスを追う捜査官の中に、一人のはぐ れ者がいた。リック・ボーデン、問題行動を起こし、麻薬捜査課からサイバー犯罪課へ左遷された男だ。アナログ全開で足手まといのリックだったが、独自の捜査でロスとの接触に成功する。 リックが考えた驚愕の捜査方法とは?そして二人を待つ運命とは─?

“闇のアマゾン”と呼ばれた 史上最大のダークウェブ〈シルクロード〉を立ち上げた若き天才を、パソコンも使えないアナログ捜査官が暴く!これが実際にあった事件を元にしているとは!
2011年にロスがたちあげた闇サイトは警察、FBIの追求もかわし、ドラッグの売り上げは1日1億円を超えたそうです。通貨がビットコインだったのも成功の元だったとか(と言われてもよくわからない)。追い詰めていくのがアナログ捜査官であることに、世のパソコン苦手なおじさまたちは溜飲が下がるのではないでしょうか。見えないものは少しも現実と思えない私も同意。無骨なリックをジェイソン・クラーク。体格も良くて味方ならば頼れる感じがしますよね。
〈シルクロード〉は他者に危害を加えたり、詐欺行為を禁じていて、ロスが理想とした”自由至上主義”を共有していたそうです。せっかくの天才的頭脳を世界が良くなる方向で使ってほしかったです。今どうしているのでしょう?(白)


今やスマホがあれば、何でも買える時代。妹は次々にお知らせがきて、ポイントも使えるからとあれこれ購入していますが、私は現物をみないと買う気になれません。そも現金派で、クレジットなどを使うのも嫌い。でも、ドラッグなど違法なものが匿名で買えるとなれば、欲しい人は飛びつきますね。売り上げが一日1億円超えるというのも納得です。ウルブリヒトは巧妙に闇サイトを構築しましたが、悪はいつかは暴かれるもの。
ティラー・ラッセル監督は、闇サイト〈シルクロード〉を実際に運営していたロス・ウルブリヒトが逮捕された翌日から、本作の構想を始めたそうです。ドキュメンタリーを数多く製作してきた監督は、本作も徹底して資料を調べあげ、そこから今回はフィクションとして昇華させたとのこと。捜査官のリック・ボーデンは、いわゆる切れ者ではなく、実に人間臭いキャラクター。一方、闇サイトを運営していたロス・ウルブリヒトは、一見、将来を夢見るごく普通の青年。捜査官として大先輩のリックを小馬鹿にするサイバー犯罪課の若き上司シードルのキャラも際立っていました。
リックが娘に語る「世の中、白と黒だけじゃない。でも善と悪がある。正しいものを選びなさい」という言葉が心に残りました。(咲)


2021年/アメリカ/カラー/シネスコ/117分
配給:ショウゲート
(C)2020 SILK ROAD MOVIE, LLC ALL RIGHTS RESERVED. VE
https://silkroad-movie.com/
★2022年1月21日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 18:52| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブラックボックス 音声分析捜査(原題:Boite noire)

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監督:ヤン・ゴズラン
脚本:ヤン・ゴズラン、シモン・ムタイルー 、ニコラ・ブーベ=ルブラー
撮影:ピエール・コットロー
出演:ピエール・ニネ(マチュー・ヴァスール)、ルー・ドゥ・ラージュ(ノエミ・ヴァスール)、アンドレ・デュソリエ(フィリップ・レニエ)

ヨーロピアン航空の最新型機がアルプスで墜落。乗客・乗務員316人全員の死亡が確認される。司法警察の立会いの下、航空事故調査局の音声分析官が、フライトレコーダー、通称“ブラックボックス”を開く。いつもなら責任者のポロックに同行するのは、最も優秀なマチューだったが、天才的なあまり孤立していた彼は外されてしまう。だが、まもなくポロックが謎の失踪を遂げ、引き継いだマチューは「コックピットに男が侵入した」と記者会見で発表する。やがて乗客にイスラム過激派と思われる男がいたことが判明、マチューの分析は高く評価され、責任者として調査をまとめるよう任命される。本格的な捜査に乗り出したマチューは、被害者の一人が夫に残した事故直前の留守電を聞いて、ブラックボックスの音と違うことに愕然とする。今、マチューのキャリアと命をかけた危険な探求が始まる──。

飛行機事故のたびに話題となるブラックボックス。これを分析する専門の方がいると知っていましたが、実際の仕事をこの映画で初めて目にしました。どんな些細な音の違いも聞き逃さず聞き分ける感覚、記憶力も必要です。安全を下支えしてくれる重要な仕事ですが、誰にでもできることではありません。繊細なマチューは、普段余計な音が耳に入らないように耳栓をしています。
冒頭は快適な空の旅を続けている機内が写り、そして事故に。マチューが別のヘリコプター事故を分析中の場面では、50ヘルツの違いを聞き分けるマチューが「再テストを」というのに上司が却下。わずかでも疑念があるなら飛ばさないでと思います。数々の航空機事故を思い出すと、墜落して生存するのはほんとに奇蹟なんですから。
映画は事故の真相を探りながら、欲や名誉に走る人間も映し出します。判断を間違ったことを認めて、さらに真実を追求するマチューはまた孤立してしまいます。驚愕の展開にドキドキしてください。(白)


ヤン・ゴズラン監督は、本作誕生のきっかけを、「航空機メーカー、航空会社、パイロットなど様々な関係者の間に巨大な経済的利益があるこの業界が、創造的で魅力的な映画の舞台になると思ったから」と語っています。フライトレコーダーの音声分析官の緻密な仕事に焦点をあて、サスペンスフルな人間ドラマに仕立て上げています。本作が実在の事故をモデルにしたものでないことから、国家機関であるBEA(フランス民間航空事故調査局)が全面協力。技術面だけでなく、分析官の仕事の進め方から生活のリズムに至るまで、さまざまな情報を提供してもらったとのこと。
フライトレコーダーが、通称ブラックボックスと呼ばれているのは、1930年代に使われ始めた時、写真フィルムに飛行計器の情報を投影するため、感光性のフィルムを遮光性の黒っぽい容器に入れていたことから。現在は、がれきの中で目立つようにオレンジ色で、光を反射する白のストライプがついています。公式サイトのイントロダクションのところに、実物の写真が掲載されています。
ピエール・ニネが、細かい神経が必要な仕事をこなす分析官を体現していて、実際の分析官の方たちも、自分たちの仕事に日の目があたって喜んでいるのではないでしょうか。(咲)

●主演ピエール・ニネ インタビュー映像はこちら

2021年/フランス/カラー/シネスコ/129分
配給:キノフィルムズ
(C)2020 / WY Productions - 24 25 FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA - PANACHE Productions
https://bb-movie.jp/
★2022年1月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他全国で公開ロードショー
posted by shiraishi at 16:41| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ライダーズ・オブ・ジャスティス  原題:RETFÆRDIGHEDENS RYTTERE 英題:RIDERS OF JUSTICE

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© 2020 Zentropa Entertainments3 ApS & Zentropa Sweden AB.

監督・脚本:アナス・トマス・イェンセン
撮影:キャスパー・トゥクセン
編集:ニコライ・モンベウ、アナス・エスビャウ・クレステンスン
音楽:イエッペ・コース
出演:マッツ・ミケルセン、ニコライ・リー・コース、アンドレア・ハイク・ガデベルグ、ラース・ブリグマン、ニコラス・ブロ、グスタフ・リンド、ローラン・ムラ

クリスマスを数日後に控えたエストニアのタリン。少女マチルダはお祖父さんから店頭に売りに出ていた赤い自転車をプレゼントにすると言われるが、青い自転車がいいと答える。マチルダの父で軍人のマークスが任地アフガニスタンから妻に電話すると、娘の自転車が盗まれたから車で学校に送りにいくところだという。
買い物をして大荷物を抱えて列車に乗り込むマチルダと母。眼鏡をかけた男が母に席を譲ってくれる。その後、事故が起こり母を含め11名が亡くなる。
知らせを受け、急きょ帰国したマークスのもとに、二人の男が訪ねてくる。その一人、数学者のオットーが、席を譲ったために奥さんが亡くなられてしまったと誤り、さらに事故ではなく、“ライダーズ・オブ・ジャスティス”と言う犯罪組織が、殺人事件の重要な証人を暗殺するために仕掛けたものだという。マークスは妻の無念を晴らそうと、オットーたちの協力を得て復讐に身を投じていく・・・

眼鏡をかけたオットーは数学者なのですが、いつもおどおどしています。そして彼の仲間レナートはヘラヘラしているし、最強のハッカーだというエメンタールも超デブで、まさに3馬鹿トリオ。オットーは、事故の起こる直前に、一口食べただけのサンドイッチと、ほとんど飲んでいないジュースを列車に捨てていった男が事故の仕掛け人に違いないと推測し、エメンタールが人物像を検索します。ヒットしたのが、エジプトに住むAharon Nahas Shadidという歯科技工士。そんな遠くに住む奴じゃないと、 Palle Olesenという兄がギャングという男に辿りつきます。Omar Shargawiの二役。似てるはず! 
ところで、使用言語は、Estonian、Danish、Arabicとあって、エストニア語とデンマーク語の違いは私にはわからないのですが、イスラームのお祈りを知らせるアザーンが聞こえてきて、エジプトに帰ったAharonがアラビア語で話す場面がありました。これが笑える種明かしになってます。お見逃しなく!
本作のマッツ・ミケルセンは、職業軍人で家族と過ごすこともあまりなかったのに妻を失い、にこりともしない鬱ぎみという役どころ。マチルダに「パパは軍人だから暴力で乗り切ろうとする」と言われます。マチルダはマチルダで、ポストイットに、赤い自転車、青い自転車・・・と、母親が事故死するに至った過程を自分なりに探っています。オットーもまた、女性には席を譲るものと教え込まれてなければ・・・とつぶやきます。でも、人生に「もし」はありません。そんなことを思わせてくれた映画でした。 最後には、それぞれにクリスマスらしいセーターを着て、プレゼント交換。出会いは、どんなきかっけであれ、人と繋がれるのはいいなぁ~と!(咲)


2020年/デンマーク・スウェーデン・フィンランド/カラー/シネスコ/5.1ch/116分 /デンマーク語ほか/PG12
日本語字幕:平井かおり
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-v.com/roj/
★2022年1月21日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー



posted by sakiko at 16:25| Comment(0) | 北欧 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

声もなく(原題:소리도없이 英題:Voice of Silence)

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監督・脚本:ホン・ウィジョン
製作:キム・テワン
撮影:パク・ジョンフン
音楽:チャン・ヒョクジン&チャン・ヨンジン
出演:ユ・アイン(テイン)、ユ・ジェミョン(チャンボク)、ムン・スンア(チョヒ)、イ・ガウン(ムンジュ)

貧しさゆえ、犯罪組織からの下請け仕事である死体処理で生計を立てる2人。口のきけない青年テインと片足を引きずる相棒のチャンボクは、身代金目的で誘拐された11歳の少女チョヒを、1日だけ預かることになった。トラブルが重なり、テインとチョヒの疑似家族のような奇妙な生活が始まるが、チョヒの親から身代金が支払われる気配はない。出会うはずのなかった者たちの巡り合わせが、韓国社会で生きる声なき人間たちの孤独を浮き彫りにする。

ホン・ウィジョン監督は82年生まれの女性監督。ロンドンの映画学校卒業後、CMや短編を制作してきました。本作が初の長編作品にもかかわらず、青龍賞新人監督賞、百想芸術大賞監督賞を受賞しました。
主人公のテインを『バーニング 劇場版』(2018)、『国家が破産する日』(2018)で主演男優賞を受賞したユ・アイン。15㎏も増量して口のきけないテインを身体から作りあげ、台詞のない演技を見せました。相棒のチャンボクはテインの父親代わり、生活のために闇の仕事をせざるを得ません。ユ・ジェミョンは鬼気迫るような『ビースト』(2021)と違い、根は善人でありながら底辺で生きる辛苦を体現しています。2人は犯罪の後始末という一番の汚れ仕事に手を染めて生きていますが、子どもを巻き込む誘拐をするつもりはありません。テインがしかたなく連れ帰ったチョヒに妹のムンジュが懐いて、一時家族のように暮らすシーンにほっこりしました。陰惨な場面があってもどこか明るく、気を許しているととてつもなく切ないところに持っていかれます。ホン・ウィジョン監督に今後も注目です。(白)


チョヒがそばにいても、淡々と死体を運び処理するテインとチャンボクの姿からは、可笑しささえ漂ってきます。彼らにとって死体は、処理しなければならない単なるモノ。社会の底辺には、人が嫌がることを生業にするしかない人々がいることに思いが至ります。テインは声が出ませんが、テインならずとも、嫌なことも嫌と声をあげられない人たち・・・ そういう人たちの働きがあって、社会が成り立っていることを忘れてはならないと思いました。それにしても、額に汗して呻くユ・アインは見事でした。低予算の映画に出演を決めた気概を感じました。(咲)

2020年/韓国/カラー/ビスタ/99分
配給:アットエンタテイメント
(C)2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & LEWIS PICTURES & BROEDMACHINE & BROCCOLI PICTURES. All Rights Reserved.
https://koemonaku.com/
★2022年1月21日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 15:40| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月15日

安魂 日中国交正常化50周年記念 日中合作映画

2022年1月15日(土)~1月28日(金)岩波ホール 2週間特別先行上映ほか全国順次ロードショー 劇場情報
「安魂」チラシ表_R_R.jpg
©2021「安魂」製作委員会

監督:日向寺太郎
原作:周大新/チョウ・ターシン(『安魂』谷川毅訳、河出書房新社刊)
脚本:冨川元文、撮影:押切隆世、照明:尾下栄治 、録音:王宝石
編集:川島章正
音楽:Castle in the Air(谷川公子+渡辺香津美)
製作: 陳斗勇、馮 学良、潘紅偉 、鈴木ワタル、張 朝喜、王欣
プロデューサー:王欣、馮 学良、岩村修
総合企画:田原(ティアン・ユアン)、芸術統括:明振江、美術:姬建 剛
整音:小川武、音響効果:中村佳央、助監督:王昊 陽
ラインプロデューサー:馬 文亮
【出演者】
巍子(ウェイ・ツー):唐大道
强宇(チアン・ユー):唐英建・劉力宏
欒蕾英(ルアン・レイイン):張爽
北原里英:日本人留学生星崎沙紀
陳瑾(チェン・ジン)、シャン・カンチョウ、サイ・ショウイ、ホウ・トウカイ、張立(ジャン・リー)

わが子に先立たれた喪失感と後悔の念を抱え、
息子が生きた証を探し求める父がその先に見つけたものとは


『火垂るの墓』『こどもしょくどう』の日向寺太郎監督と、『うなぎ』(今村昌平監督)の脚本家冨川元文が初タッグを組み中国で製作した日中合作映画。『香魂女-湖に生きる』(謝飛/シェ・フェイ監督)の原作者でもある周大新(チョウ・ターシン)の同名原作を映画化。中国の一人っ子政策の中、周氏の一人息子が若くして亡くなり、その息子との魂の交流を綴った実体験を元にした物語。
この「大切な人に先立たれた人々の心の再生」を描いた原作を元に、脚本家の冨川氏が大胆にアレンジ。「息子と瓜二つの青年との出会い」というシーンを加え主人公・唐大道とその家族が生きていく力を取り戻していく姿を描いた。
社会的名誉もあり、著名な作家の唐大道。彼は自ら選んだ道こそが最も正しい道だと信じて疑わない独善的な人間だった。そしてその信念を息子に押し付けようとした。息子の幸せの為と、恋人の張爽が農村出身という理由だけで別れさせようとした。その直後、息子英健は「父さんが好きなのは、自分の心の中の僕なんだ」という言葉を遺して亡くなってしまった。一人息子の英建を亡くし、「息子はどんな生き方を望んでいたのか」、息子にもう一度会いたいという思いから息子の魂を探す。
キャストは中国の俳優をキャスティング。主人公の小説家唐大道役には巍子(ウェイ・ツー)、息子の英健と出会った青年劉力宏の2役を演じるのは若手俳優・强宇(チアン・ユー)。『サニー 32』『映画 としまえん』の元AKB48の北原里英が、日本人留学生役を中国語を駆使して演じている。企画は、詩の芥川賞と言われるH氏賞を受賞し、谷川俊太郎の研究や中国語翻訳者としても知られる詩人の田原(ティアン・ユアン)氏が企画から携わっています。

製作:河南電影電視製作集團 秉 徳 行遠影視傳媒(北京)
パル企画 大原神馬影視文化発展
浙江聚麗影視傳媒 北京易中道影視傳媒 配給:パル企画 © 2021 「 安魂 」製作委員会
(2021/中国・日本/カラー/ビスタサイズ/5.1ch/108分)
©2021「安魂」製作委員会
公式HP https://ankon.pal-ep.com/
posted by akemi at 21:21| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

香川1区

kagawa.jpg

監督:大島新
プロデューサー:前田亜紀
撮影:高橋秀典  
編集:宮島亜紀   
音楽:石﨑野乃  
監督補:船木 光  
制作担当:三好真裕美  
宣伝美術:保田卓也

小川淳也氏に密着取材した『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020)に続くドキュメンタリー。第49回衆議院議員総選挙の香川一区の候補、小川淳也(立憲民主党)、初代デジタル大臣・平井卓也(自民党)、そして公示直前この激戦区に日本維新の会から町川順子が名乗りを上げた。大島新監督は小川を追いながら両陣営の候補者に会い、有権者たちにも広く取材する。

投票日の10月31日は、東京国際映画祭会期中だったので、期日前投票に行ってきました。自慢じゃないが棄権したことはありません。←自慢している(笑)。先人が苦労して勝ち取ってくれた選挙権です。行使しないでどうします?
このドキュメンタリーはその香川一区における選挙戦の内側を見せてくれます。生真面目な小川さんが候補者が増えて慌てる場面や、旧知の方へ向かって声を荒げる場面も捉えています。いかにいっぱいいっぱいの闘いであったか、わかろうというもの。結果を知っていても、各陣営、有権者とのやりとり、保守の牙城を崩せるかという緊迫感に、156分の長さを少しも感じませんでした。『れいわ一揆』は4時間もありましたが、やっぱり見続けられましたっけ。政治はエンタメに近いのか?
この衆院選をウィキペディアで調べたら
↓とありました。
有権者 満18歳以上の日本国民
有権者数 1億562万2758人
投票率 55.93%(増加2.25%)


大島監督は「あなたの街にも香川1区があるかもしれない」とおっしゃっています。このドキュメンタリーと今上映中の『決戦は日曜日』を両方観て、日本の政治を見つめて、次は必ず投票に行きましょう。(白)


『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020)は政治に疎い私に「政治絡みのドキュメンタリー作品も面白いかも!」と思わせてくれた作品です。ですから昨年の夏に本作のことを知ったときは「絶対に見たい!」と思いました。
本作は小川淳也陣営だけでなく、平井卓也陣営も同じように映したいという監督の思いとは裏腹に、平井陣営が作る壁がどんどん高くなっていきます。そして切羽詰まった人間は何でもしてしまう。選挙って人間の本質をとことん表に炙り出してしまうものなのだと改めて感じました。
クライマックスでの小川さんの長女さんのあいさつは号泣ものなのですが、それによって平井さんの孤独感も浮かび上がってきました。家族や友人が総出でサポートする小川陣営に対して、平井陣営にはスーツ姿のスタッフばかり。映画は思いもよらぬものまで見せてしまうものなのですね。(堀)

●大島新監督インタビューはこちら

2021年/アメリカ/カラー/DCP/156分
配給:ネツゲン
宣伝:きろくびと
https://www.kagawa1ku.com/

★2021年12月24日(金)緊急先行公開!ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋 にて緊急先行公開中!
2022年1月21日(金)より ​全国公開!


posted by shiraishi at 20:54| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月11日

ひかり探して (原題:내가 죽던 날 英題:The Day I Died: Unclosed Case) 

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監督・脚本:パク・チワン
撮影:チョ・ヨンギュ
出演:キム・ヘス、イ・ジョンウン、ノ・ジョンイ、キム・ソニョン

台風が吹き荒れるある日の夜、遺書を残し離島の絶壁から身を投げた少女。休職を経て復帰した刑事ヒョンスは、少女の失踪を自殺として事務処理するため島に向かう。少女の保護を担当した元刑事、連絡が途絶えた少女の家族、少女を最後に目撃した聾唖の女、彼らを通じて少女がとある犯罪事件の重要参考人だった事実を知ったヒョンスは、たった一人孤独で苦悩していた少女の在りし日に胸を痛める。捜査を進めていくにつれ、自身の境遇と似ている少女の人生に感情移入するようになり、上司の制止を振り切って、彼女は次第に捜査に深入りしていく。

ある事件の証言者で遺書を残して絶壁から消えた少女、夫から離婚を申し立てられているときに、その少女についての報告書を上司から任された刑事、少女が身を寄せていた場所の家主で声を失っている女性。パク・チワン監督は「人と人との関わりが生きる希望となる物語を描きたかった」と語り、厳しい状況にある3人が少しずつ関わることで、現実に立ち向かう勇気を得ていく姿を描きました。どんな状況であっても希望の光はあると指し示してくれる温かなヒューマンドラマです。(堀)

やり手の女史のイメージがあるキム・ヘスがほとんどすっぴんの疲れた顔の元刑事。島で声をかけられて、参加した集まりでおばちゃんたちにぽつぽつと話をします。気のいいおばちゃんたちの会話に思わず故郷の島を思い出しました。
イ・ジョンウンがいるとなんだか安心できますが、今作では笑顔はほとんど見せず。しかし少女やヒョンスを手助けします。台詞がない分、目や表情、身体で演技することでまた役の幅が拡がったのではないでしょうか。『茲山魚譜 チャサンオボ』でも、なんだか可愛いおばちゃんでよそから来た人を助ける役でした。(白)


2020年/韓国/116分/カラー/5.1ch/DCP
配給:スモモ×マンシーズエンターテインメント 
©2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
公式サイト:https://www.sumomo-inc.com/hikarisagashite
★2022年1月15日(土)より渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 02:09| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月10日

ポプラン

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監督・脚本:上田愼一郎()
撮影:曽根剛
音楽:鈴木伸宏
出演:皆川暢二(田上晃)、アベラヒデノブ、徳永えり、渡辺裕之、原日出子

東京の上空を高速で横切る黒い影。ワイドショーでは「東京上空に未確認生物?」との特集が放送されている――。
田上は漫画配信で成功を収めた経営者。ある朝、田上は仰天する。イチモツが失くなっていたのだ。田上は「ポプランの会」なる集会に行き着く。そこではイチモツを失った人々が集い、取り戻すための説明を受けていた。
「時速200キロで飛びまわる」
「6日以内に捕まえねば元に戻らない」
「居場所は自分自身が知っている」
田上は、疎遠だった友人や家族の元を訪ね始める。家出したイチモツを探す旅が今はじまる――。

“映画実験レーベル”Cinema Lab(シネマラボ)の中の一本として製作されたもの。この映画紹介しにくい。なにせ無くなったものは”男性自身”で、昔乙女でも口に出しにくいではありませんか。”Cinema Lab”だから作れたと上田監督。ほかの人がしないことをやってみるのがこの方の持ち味。『カメラを止めるな!』(2017)の監督ですからね。
自分の”一部”が家出して、行方不明になるけれど居場所は彼の想いが色濃く残っているところ。成功するまでに切り捨ててきた人を辿ることになる主人公田上。上田監督の分身でもあるのかも。演じるはこれまた話題となった『メランコリック』(2018)の監督・主演の皆川暢二さんです。
トイレで慌てふためくシーンで爆笑。モノがモノだけに200㎞で飛び回ったら自損事故を起こしそうだとか、その辺で遭遇したくないとか、余計なことを思ってしまいますが、観終わると田上がなぞってきた過去にしんみりしていました。田上が導かれていく先は…恨み爆発の元相棒、きっぱり言う元妻、息子を受け入れる両親…驚天動地の目に遭わないと振り返れなかった田上の成長譚でありました。(白)


●『ポプラン』公開記念/『カメラを止めるな!』×『メランコリック』特別コラボ動画公開
両方観た方は思わずにんまりしてしまう3分59秒です。
https://www.youtube.com/watch?v=nnBaY7oE_7A

2021年/アメリカ/カラー/シネスコ/96分
配給:エイベックス・ピクチャーズ
©映画「ポプラン」製作委員会
公式サイト popran.jp/
公式Twitter https://twitter.com/cinemalab_jp
★2022年1月14日(金)テアトル新宿ほか全国公開

posted by shiraishi at 22:31| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月08日

無聲 The Silent Forest   原題:無聲  英題:The Silent Forest

【確定】「無聲」ポスタービジュアル_1022修正版.jpg

監督:コー・チェンニエン(柯貞年)
エグゼクティブ・プロデューサー:ユー・ベイファ(於蓓華), チュウ・ヨウニン(瞿友寧)
出演:リウ・ツーチュアン(劉子銓)、チェン・イェンフェイ(陳妍霏)、キム・ヒョンビン(金玄彬)、リウ・グァンティン(劉冠廷) 他

普通学校から台湾南部のろう学校に転校してきたチャン (リウ・ツーチュアン)。折しも、創立記念パーティが開かれていて、愛らしい少女ベイベイ(チェン・イェンフェイ)が積極的に声をかけてくれて打ち解ける。普通学校で肩身の狭い思いをしていたチャンは、心地よい環境に期待を抱く。
NCZ_4322陳妍霏.jpg
ある日チャンは、ベイベイがスクールバスの中で男子生徒たちから性暴力を受けているのを目撃する。それでも、ベイベイは学校では彼らと何事もなかったように戯れている。先生に言うべきだとベイベイに言っても、「先生に嫌われて普通学校に行かされる。あなたも一緒にいじめてもいいのよ」と言われてしまう。スクールバスに乗ろうとしないチャンに、異変を感じたワン先生が声をかける。チャンは思い切ってバスの中での出来事を打ち明け、彼女を救ってほしいと嘆願する。 ベイベイは、友達を裏切りたくないと頑なに話をしたがらない。これまで何度も訴えたのに、周りの大人たちは何も解決してくれず諦めていたのだ。ワン先生とチャンは、何があっても彼女を守らなければと、校長にベイベイの被害を訴えるが、ことを荒げたくないと取り合ってくれない。過去にも同様の事件があったに違いないとワン先生は、生徒達から聞き取り調査をする。100件以上の性暴力・セクシャルハラスメント被害が明るみになるが、命令をしていた主犯格のユングァン(キム・ヒョンビン)は、見ていて楽しいと加害者であることを認めない。マスコミも学校の実態を取り上げるが、校長は事件の真相を隠蔽する。ユングァンが卒業するまでの辛抱というベイベイ。ワン先生とチャンにはなす術がないのか・・・
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冒頭、転校してきたチャンが、町で老人を殴って捕まります。財布を盗まれたから殴ったと訴えるのですが、手話が通じません。ろう学校のワン先生が通りがかって警官に通訳するのですが、事を大きくしない為に、「彼も反省しているので」と財布を盗まれたことは伝えません。真実や、自分の気持ちをちゃんと伝えられないろうの人たちの悔しさや辛さが、最初からずっしり伝わってきました。そんなワン先生ですが、チャンからベイベイへの生徒たちの性暴力を聞かされて、学校での実態を調べ始めます。性暴力を受けても声を立てて抵抗できないのをいいことに、先生までもが生徒に性暴力を繰り返していたことが明らかにされます。それでも校長は学校経営を優先して公にはしません。その校長はろう学校を経営しながら、手話を使うこともないのです。

本作は、台湾南部のろう学校で実際に起きた、性暴力・セクシャルハラスメント事件を題材にしていますが、メインの出演者たちがとても魅力的で、一気に物語に惹きつけられました。正義感溢れるチャンと愛くるしいベイベイは、まだあまり顔を知られていない新人。存在感たっぷりの性暴力の黒幕ユングァン役は、韓国で子役として活躍してきたキム・ヒョンビン。いずれも健常者ですが、ほんとうにろうあ者のようです。 ろう学校での出来事ですが、監督も述べているように、どこにでも起こり得る物語。声を出せても、その声が届かないことは多々あること。声が出せない人にとっては、さらに届かないことと思いました。(咲)


監督: コー・チェンニエン(柯貞年)
監督コー・チェンニエン.jpg
1982 年生まれの監督・脚本家。世新大学ラジオ・テレビ・映画総合大学院を卒業。学生時代から精力的に短編映画を制作しており、 『無名馬』(2011)が金馬奨の最優秀短編映画賞にノミネートされ、若くして才能を開花。その後、2015 年に短編映画『溺境』が第 57 回金穂奨優等賞を受賞。Netflix で配信中のドラマシリーズ『暗闇は目を閉じて』(2016)で監督を務めた他、リウ・ツーチュアンやリウ・グァンティンも出演したドラマシリーズ『你那邊怎樣,我這邊 OK』(2019)でも監督を務めた。 2020 年に本作で第 57 回金馬奨の新人監督賞とオリジナル脚本賞にノミネートされた。


2020年東京フィルメックス コンペティション部門選出
東京フィルメックス コー・チェンニエン監督とのリモートQ&A動画はこちらで!
*Q&Aでの監督の言葉より*
事件が報道されたとき、台湾の人たちは韓国映画『トガニ(邦題:トガニ 幼き瞳の告発)』を思い起こす人が多かったです。私にとっては、この事件がなぜ起きたかに興味がありました。事件後も被害者も学校に残って加害者と一緒にいることに疑問に思っていました。背後の問題にアプローチしたいと映画にすることにしました。

真実の事件が背景になっているので、いかに加害者や被害者の子どもたちのプライバシーを守るかに注意しました。リサーチの時も撮影の時も、実際の加害者や被害者とは誰とも会いませんでした。事件に関する記事をたくさん読んで脚本を作っていきました。見た目はろうあ学校で起きている話ですが、人のいるところではどこでも起こり得る事件だと思います。

メインの役者は健常者です。あまり演技経験のない新人を選びました。有名な役者に演じてもらうより、顔を知られてない役者の方が感情移入しやすいと思いました。演技指導は3か月くらいかけて行い信頼関係を築きました。エキストラで出演していただく役者にも手話の手ほどきをしました。
NCZ_2851金玄彬.jpg
ユン・グアンはキム・ヒョンビンにアテ書きしたわけではありません。適任者がなかなか見つからなかったのですが、ろうあ者なのでセリフが必要ないので、アジアの顔であればいいと範囲を広げました。韓国のドラマが好きなのでキム・ヒョンビンがいいのではと連絡を取ったところ受けてもらえました。現場では、言葉がわからないことから、健常者がいきなりろうあ者の世界に入ったのと同じ状況でした。

この映画はもともと公共放送が制作する予定の作品でした。企画を進めていくうちに映画にして広げたほうがいいとアドバイスを受けました。実際の事件を映画にしたものは台湾では少ないので、とても意義のあることだと応援してもらうことができました。製作費に関しては中くらいのバジェットで、商業エンターテインメントの規模ではありません。

*****
台湾では、教育者や政治家をはじめ多くの観客が事件の深刻さを問題視し、台北の週間興行収入1位を獲得。第57回金馬奨で8部門ノミネート、チェン・イェンフェイの最優秀新人俳優賞など2部門を受賞。2021年度の台北映画祭では最多7部門8ノミネートを記録し、チェン・イェンフェイの最優秀新人俳優賞など3部門の他、観客賞を受賞。

2020年/台湾/台湾語・中国語/5.1ch/104分/DCP
日本語字幕:島根磯美
配給:ライツキューブ
配給協力:渋谷プロダクション
©2020 Taiwan Public Television Service Foundation, Oxygen Film Co., Ltd., The Graduate Co., Ltd. and Man Man Er Co., Ltd. All Rights Reserved.
公式サイト:https://thesilentforest-jp.com/
★2022年1月14日(金)より、シネマート新宿・心斎橋他、全国順次公開




posted by sakiko at 15:13| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

なん・なんだ

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(C)なん・なんだ製作運動体

監督:山嵜晋平
出演 下元史朗、烏丸せつこ、佐野和宏、和田光沙、吉岡睦雄、外波山文明、三島ゆり子

海が見える古い団地。三郎と美智子は、結婚してもうすぐ40年。三郎は大工を引退して、一日ぼぉ~っと過ごしている。ある朝、美智子が入念に化粧をして文学講座に行くと出かけていく。出がけに届け物を頼まれた三郎は、家を出たもののどこに届けるのか思い出せなくて戻ってきてしまう。ビールを飲みながら妻の帰りを待っていると、携帯が鳴り、京都府警から美智子がひき逃げに遭って意識不明だと言われる。なぜ、京都?と思いながら、娘の知美にも連絡し、大急ぎで京都の病院に向かう。美智子の意識はなかなか戻らない。荷物の中には古いアルバムとカメラがあった。若いころ写真家を目指していた美智子が愛用していたカメラ。三郎はフィルムの現像を頼む。写っていたのは知らない男。京都でこの男に会っていたのか? 三郎は娘を連れて、奈良にある美智子の実家に向かい、自分の知らない美智子の世界を探る旅に出る・・・

五木寛之原作の映画『四季・奈津子』(80/東陽一)での奈津子の挑発的な姿が忘れられない烏丸せつこさん。どんな風に年を重ねられたのかを楽しみに映画を拝見。『なん・なんだ』というタイトルも気になりました。ちょっと文学講座に出かけた妻が遠く離れた京都で交通事故に遭って、しかも自分の知らない男と会っていたとあっては、まさに、夫にとっては、「なん・なんだ!?」でしょう。40年連れ添った夫婦で、お互い、知らないことがあるのは当然のこと。それが、いかに愛し合っていた夫婦だとしても。

1980 年生まれの山嵜晋平監督は、10 年ほど前に自殺しようとしているおじいさんを止めたことがあって、年を重ねていったとき、どう人は生きていけばいいのだろうかということがずっと頭にあって、それが本作の原点になっているとのこと。
その自殺を止めたというのが、ロケハンで行った百草園辺りの団地の11 階建ての高層階。飛び降り自殺しようとしていた老人は、60歳で市役所を定年で辞め、離婚して一人暮らしの70代。住まいは同じ団地の低層階のアパート。私が今の百草園近くの一軒家に引っ越す前、百草団地の11階建ての2階で暮らしてました。もしや、そこ? 
話は脱線しましたが、確かに、若い時には、元気もあって、先のことも心配せずに飛び歩いて、仕事も旅も楽しんだものです。年を重ねた今、残りの人生がどれくらいあるのかはわかりませんが、やっぱり今を楽しんでいることだけは変わりません。

映画は、奈良生まれの監督らしく、高台から美しい風景の見える場所で撮影しています。母と一緒に訪れたことのある百毫寺が出てきたのも嬉しかったです。美智子の浮気相手を演じた佐野和宏さんは、2011年に咽頭癌で声帯を失われていて、それでも懸命に会話している姿に、やはり咽頭癌で声を失った祖母を思い出しました。
横須賀の海の見える団地から、京都まであんなに早く行けるか?という映画ならではのマジックもあって、まさに「なん・なんだ!?」の楽しみもある映画です。 (咲)


2021年/日本/107分/アメリカンビスタ/DCP
配給:太秦
(C)なん・なんだ製作運動体
公式サイト:https://nan-nanda.jp/
★2022年1月15日(土)より、新宿K's cinemaほか全国順次公開


posted by sakiko at 11:10| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

こんにちは、私のお母さん  原題:你好,李煥英  英題:Hi, Mom

2022年1月7日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
劇場情報 
こんにちは、私のお母さん/ポスタービジュアル_R_R.jpg
© 2021 BEIJING JINGXI CULTURE & TOURISM CO., LTD. All rights reserved.

監督・脚本・主演:賈玲(ジア・リン)
脚本:スン・ジービン、ワン・ユー、ブー・ユー
製作:シー・シャオイエ
音楽:ポン・フェイ
字幕翻訳:本多由枝
出演
賈玲(ジア・リン):ジア・シャオリン
張小斐(チャン・シャオフェイ):若き日のリ・ホワンイン(李煥英)
沈騰(シェン・トン):シェン・グアンリン
陳赫(チェン・フー):ロン・ター
劉佳(リウ・ジア):リ・ホワンイン

舞台・テレビ・映画で活躍する人気喜劇女優ジア・リンが、母との実話を元に監督・脚本・主演に初挑戦した作品。元気と明るさが取り柄で、他は何をするにもまるでダメで母親に苦労ばかりかけていた娘が、母と巻き込まれた交通事故をきっかけに 20 年前の 1981 年にタイムスリップ!?
迷惑をかけてきた母の幸せのため、孤軍奮闘!「最愛の母にしてあげたかった親孝行や、話したかったこと」を描いた。
撮影当時ジア・リンは39歳にして高校生を演じ、喜劇王シェン・トンは劇中でジア・リンと楽しい漫才を披露。若き日の母を演じたチャン・シャオフェイは、中国版ツイッター微博(ウェイボー)で「2021年度実力俳優」に選出された。

こんにちは、私のお母さん/サブ1_R_R.jpg
©2021 BEIJING JINGXI CULTURE & TOURISM CO., LTD. All rights reserved.


この作品、去年(2020)の中国映画週間で上映された時、売り切れてしまい、観ることができなかったけど、日本公開が決まってよかった。
監督・脚本・主演と、大活躍の賈玲(ジア・リン)さん。中国の若手喜劇役者だそう。明るく元気な高校生役を演じている。それにしても、空から落ち葉の上に落ちてきてタイムスリップというのは面白かった。そして、若い日の母、自分と同じ年ごろの頃の時代にタイムスリップし、その時代で行動する。すでに起こったこと、わかっているので時代の流れを変えたりするのはできないはずなのだけど、変えようとするのがおかしい。もともと舞台で演じたものを映画化したとのことで、人気プログラムだったのかな?
中国では旧正月の2021年2月12日に公開され、公開6日後の2月18日に興行成績が約480億円を突破したそう。その後、4月6日には映画『ワンダーウーマン(17)』を超える約863.2億円を稼ぎ出し、最終的に900億円の興行収入を記録。ジア・リンは「世界で最高興収を稼ぐ女性監督」となった。すごいヒットだったんだ。


『こんにちは、私のお母さん』公式HP
2021年/中国映画/中国語/128分/カラー・モノクロ/シネマスコープ/5.1chデジタル/
配給:Tiger Pictures Entertainment、ハーク 配給協力:イーチタイム
後援:中華人民共和国駐日本国大使館文化部
posted by akemi at 00:27| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月07日

スティルウォーター(原題:Stillwater)

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監督:トム・マッカーシー
脚本:トム・マッカーシー マーカス・ヒンチー トーマス・ビデガン ノエ・ドゥブレ
撮影:マサノブ・タカヤナギ
出演:マット・デイモン(ビル)、アビゲイル・ブレスリン(アリソン)、カミーユ・コッタン(ヴィルジニー)、リル・シャウバウ(マヤ)

オクラホマ州のスティルウォーターで暮らしているビルには、一人娘のアリソンがいる。しかし、留学したフランスで女友達を殺した嫌疑で、もう5年も収監されている。かつては不仲の父娘だったが、アリソンが頼れるのは父親のビルだけ。アリソンの無実を信じるビルは、単身フランスへと旅立つ。マルセイユに着いてが言葉もわからないビルは、手掛かりを探したくても右往左往するだけ。ようやく通訳してくれる女性ヴィルジニーを見つけたのだが。

マット・デイモンが演じるのは留学先の仏マルセイユで殺人罪で捕まった娘アリソンの無実を証明すべく、米オクラホマ州スティルウォーターから言葉も通じない異国の地へ単身渡った父親ビル。ジェイソン・ボーンのときのようなスキルがあるのかと思ったら、本当にただの中年のおじさん。不良少年たちに囲まれると簡単に打ちのめされてしまいます。しかし、娘を思う気持ちはへこたれない。マット・デイモンはこういう役も似合いますね。ネタバレに絡んでくるので多くは語れないのですが、娘の無実を証明するために奔走した結果、娘の人生に大きく関わってくることを決断することになります。それは親として正しかったのか、間違っていたのか。苦渋するビルの心の内が映画を見終わった後もざらつきのように残っています。
そんなビルをサポートしてくれるフランス人女性を演じるのはカミーユ・コッタン。この作品と同日公開の『ハウス・オブ・グッチ』で主人公の夫といい仲になってしまう幼馴染みを演じていますが、全然雰囲気が違う。娘をしっかり育てながら演劇の世界で自己実現も諦めないシングルマザーをたくましく体現していました。(堀)


ビルがスティルウォーターからマルセイユに飛ぶという時点で、これはアラブが関係してくるなと思った直感は大当たり。マルセイユに留学した娘アリソンは同棲していた同性の恋人リナを殺したとして収監されているのですが、アリソンは、アキムという男が犯人だと弁護士への手紙に書いています。ヴィルジニーの運転する車で、アキムの住む移民の多い地区に行くのですが、車を降りようとしたビルは、危険だから降りるなと言われます。
「アラブ人を誰でもいいから投獄したい」というフランス人男性の言葉も飛び出して、マルセイユが地中海の対岸のマグレブ3国(モロッコ、アルジェリア、チュニジア)はじめアラブ系移民で溢れているのをフランス人たちが快く思っていないことも描かれています。(ちなみに、アキムを演じているIdir Azougliは、名前からするとトルコ系?)
アリソンがお墓参りに行く場面で、恋人リナ・ハムディの墓石に三日月と☆が刻まれていてイスラーム教徒だとわかります。アリソンは、彼女から学んだイスラームの「マクトゥーブ」という教えに解き放たれたと語ります。「マクトゥーブ」というアラビア語は直訳すれば「書かれている」ですが、イスラーム教徒なら誰しも、「すでに神によって(書かれた)定められた運命」と理解している言葉。字幕では、「寛容」とされていましたが、「定められたことを受け入れる」ことから転じての理解でしょうか。
本作、最初と最後のスティルウォーターの場面は、まぎれもなくアメリカ映画なのですが、大半を占めるマルセイユの場面はアラブの香りも漂うヨーロッパ映画だと感じました。
それもそのはず、トム・マッカーシー監督はマルセイユを舞台に映画を撮りたいと切望して自身で脚本を書いたものの、どうもしっくりこないと感じて、フランス人作家のトーマス・ビデガン(『預言者』脚本)とノエ・ドゥブレに脚本への協力を仰いだのです。さらに、製作チームの9割がフランス人という徹底ぶりです。
トム・マッカーシー監督は、『スティルウォーター』は究極的にはアメリカ、そして世界におけるアメリカの立ち位置を示している。我々アメリカ人が信じる道徳的義務に訴える映画である」と語っています。映画を振り返って、その言葉の意味をしみじみと噛みしめています。(咲)


2021年/アメリカ/カラー/シネスコ/139分
配給:パルコ
(C)2021 Focus Features, LLC.
https://www.universalpictures.jp/micro/stillwater
★2022年1月14日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 15:53| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

フタリノセカイ

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監督・脚本:飯塚花笑
撮影:根岸憲一
音楽:小野川浩幸
出演:片山友希(今野結)、坂東龍汰(小堀真也)、松永拓野(添田俊平)、関幸治(内田勇人)、クノ真季子(小堀華子)、嶺豪一、持田加奈子

保育園に勤めるユイと実家の弁当屋を手伝っている真也は、出会ってすぐに恋に落ちた。
付き合い始めた2人は将来結婚する約束を交わし、幸せな日々を過ごしていたが、真也にはユイに伝えていないことがあった。それは、体は女性、心は男性のトランスジェンダーだということ。真也が時折見せる思い詰めた顔に不安を感じていたユイは、ある時その理由を知る。

20代初めに出逢った2人の10年間を描いています。一目ぼれの瞬間、交際中の幸せなエピソードや諍い、結婚や出産に対するくい違いなどは、トランスジェンダーとシスジェンダーのカップルでなくとも経験することです。
真也がトランスジェンダーであることで経験したことや想いは、想像することしかできません。けれども知ろうとするのと、関わりがないからとスル―するのとでは大きな違いがあります。次から次へと壁が立ちはだかってくる2人が10年探した「フタリノセカイ」の幸せは2人だけのもの。登場するいろいろな人の言葉に共感したり考えたりしながら、自分のそばにいるかもしれないLGBTの人たちの存在もちょっと想像してみたらいかがでしょう。さまざまな選択を繰り返して生きていく私たちですが、自分を大切にするように、他の人の選択や生き方も尊重したいなと思った作品でした。
真也を理解したいユイに片山友希さん、昨年公開の『茜色に焼かれる』でのケイ役、公開中の『弟と僕とアンドロイド』でも謎の女子高生と印象的な役。
初めてのトランスジェンダー役に挑戦した坂東龍汰さんも出演作が続いています。『スパイの妻』『#ハンド全力』『犬鳴村』『静かな雨』『閉鎖病棟 それぞれの朝』など派手ではないけれど、息遣いの感じられる役でした。先が楽しみな若手2人です。(白)


●飯塚花笑監督インタビューはこちら
●公開記念舞台挨拶はこちら

2021年/日本/カラー/83分
配給:アークエンタテインメント
(C)2021 フタリノセカイ製作委員会
https://futarinosekai.com/
★2022年1月14日(金)新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
posted by shiraishi at 15:14| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする