©2020“再会の奈良”Beijing Hengye Herdsman Pictures Co.,Ltd,Nara International Film Festival, Xstream Pictures (Beijing)
中国残留孤児の娘と母の60年にわたる「絆」
中国と日本の戦争の歴史を今に伝え、問いかける
スタッフ・キャスト
監督・脚本:鵬飛(ポンフェイ)
エグゼクティブプロデューサー:河瀬直美、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)
出演:國村隼、吴彦姝(ウー・イエンシュー)、英澤(イン・ズー)、秋山真太郎、永瀬正敏
撮影:廖本榕(リャオ・ペンロン)
音楽:鈴木慶一 編集:陳博文(チェン・ボーウェン)
照明:斎藤徹 録音:森英司 美術:塩川節子
共同製作:21インコーポレーション
後援:奈良県御所市
『再会の奈良』は、河瀬直美監督がエグゼクティブディレクターを務める「なら国際映画祭」が、今後の活躍を期待する若手の映画監督を招き、奈良を舞台に映画を制作する、“今と未来、奈良と世界を繋ぐ”映画製作プロジェクト、「NARAtive2020」から生まれた日中合作映画。
奈良・御所市を舞台に、日中の国境を越えた中国残留孤児の家族の絆を描き、日中の魅力あふれる演技人が出演。歴史に翻弄された「中国残留孤児」とその家族がたどる運命、互いを思い合う気持ちを、2005年秋の奈良を舞台に切なくもユーモア豊かに紡いでいます。監督・脚本は、中国の鵬飛(ポンフェイ)。フランスの映画学校を卒業後、蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督の現場で助監督・共同脚本などを務め、ホン・サンス監督のアシスタントプロデューサーも務めています。本作は3本目の長編。2作目の『ライスフラワーの香り(米花之味)』が、2018年の「なら国際映画祭」で観客賞を受賞し、“今と未来、奈良と世界を繋ぐ”映画製作プロジェクト「NARAtive2020」の監督に選出され、奈良を舞台にした本作『再会の奈良』を製作。エグゼクティブプロデューサーは奈良出身で「なら国際映画祭」のエグゼクティブ・ディレクターでもある河瀬直美監督(自らの境遇から製作された『につつまれて』『かたつもり』を始め、『萌の朱雀』『殯の森』など奈良を舞台にした映画を多数作ってきた)と中国映画「第六世代」のジャ・ジャンクー監督(『一瞬の夢』『山河ノスタルジア』『長江哀歌』など)が務めている。
©2020“再会の奈良”Beijing Hengye Herdsman Pictures Co.,Ltd,Nara International Film Festival, Xstream Pictures (Beijing)
1994年に日本に帰国させた中国残留孤児の養女麗華と数年前から連絡が途絶えたのを心配して、中国から陳ばあちゃんが、孫娘のような存在の小澤(シャオザー)を頼って一人奈良にやって来た。手掛かりは麗華の写真と日本から届いた十数通の手紙だけ。麗華の日本名も分からない。麗華を捜し始めた2人は一雄という男性と知り合い、元警察官だったという一雄と麗華捜しを始める。紅葉最中の奈良・御所を舞台に言葉の壁を越えて不思議な縁で結ばれた3人のおかしくも心温まる旅が始まる。異国の地での新たな出会いを通して、陳ばあちゃんは愛する娘との再会を果たせるのか。
麗華探しを手伝う元警察官の一雄を演じるのは、河瀬直美監督の『萌の朱雀』(97)で映画初主演し、『男たちの挽歌』(92)、『哭声/コクソン』(16)、『マンハント』(18)、『MINAMATA-ミナマタ-』(21)など海外作品の出演も多い國村隼。養女探しに来日した養母役には『妻の愛、娘の時(相愛相親)』『花椒(ホアジャオ)の味(花椒之味)』などの日本公開作がある、1938年生まれ83歳のウー・イエンシュー。シャオザー役にはポンフェイ監督の長編デビュー作『 地下香(Underground Fragrance)』で女優デビューを果たし、同監督の長編2作目『ライスフラワーの香り』では主演を演じ、共同脚本も務めた中国の若手女優イン・ズー。物語の鍵を握る寺の管理人を演じるのは『あん』(15)、『光』(17)、『Vision(18)』で河瀨監督と過去3度組んできた永瀬正敏が友情出演。そういえば永瀬正敏も『ミステリー・トレイン』『KANO 1931海の向こうの甲子園』など海外の監督作品、海外を舞台にした作品への出演が多い。シャオザーの元恋人役は劇団EXILEの秋山真太郎と、豪華な出演人。撮影は『河』(97)、『Hole-洞』(98)、『楽日』(03)、『西瓜』(05)、『郊遊<ピクニック>』(13)など多くのツァイ・ミンリャン作品を撮ってきたリャオ・ペンロン。ポンフェイ監督作品は2作目の『ライスフラワーの香り』と本作で撮影を担当している。音楽を担当したのは、はちみつぱい、ムーンライダーズなどで活躍し、PANTAや高田渡ともユニットを組んだこともある鈴木慶一。映画音楽の分野では北野武監督作品の音楽を多数手がけている。
©2020“再会の奈良”Beijing Hengye Herdsman Pictures Co.,Ltd,Nara International Film Festival, Xstream Pictures (Beijing)
連絡が取れなくなってしまった中国残留孤児の娘を探す陳おばあちゃんと、協力するシャオザーと元警察官の一雄。3人の珍道中的ロードムービーではあるけど切ない。そして日本語ができない陳ばあちゃんのユーモアたっぷりな肉屋でのジェスチャーが面白い。これだけでも心休まる。さすが83歳のベテラン俳優。
そして紅葉の奈良の景色が素晴らしい。奈良には3回くらいしか行ったことがないけど、中学校の修学旅行で行った興福寺や法隆寺なども出てきて懐かしかった。こういう奈良の定番観光地だけでなく、山里の柿の出荷工場や日本酒の酒蔵などの光景も出てきて、古都奈良の魅力とともに、人々の人情、中国から日本に来た人たちも出演し、残留孤児の実情と現在日本に来ている中国人の実情も垣間見える。
中国残留孤児や中国残留婦人など中国残留邦人たちは、戦後の引き揚げ事業の時に日本に帰れず、そのあと中国の内戦、国交の断絶のため、1972年の国交回復まで帰れなくなり、日本にやっと帰れることになったのは1981年頃。1945年の終戦から36年もたっていた。日本に帰国しても肉親が見つからなかったり、日本語が話せなかったりして、日本社会で生きていくのに大変な苦労をしている人が多い。日本の国策で満州に行ったのに、帰国した人たちへの国の支援は充分とは言えない。しかも、もう戦後77年。中国残留邦人のことを知らない若者たちも増えた。せめて、そういう人たちがいるということを忘れないためにも、こういう映画は大きな役目をしているのではないかと思う。1972年に日中国交正常化され、50周年の節目となる2022年。たくさんの人にこの作品を観てほしい(暁)。
今と未来、奈良と世界をつなぐ映画制作プロジェクト「NARAtive(ナラティブ)」では、これまでなら国際映画祭で受賞した世界各地の監督たちが、奈良県の各地を舞台にそれぞれの「奈良」を描いてきました。
「NARAtive(ナラティブ)」公式サイト https://narative.jp/
NARAtive2010 『光男の栗』 監督:趙曄(チャオ・イェ)/中国 橿原市
NARAtive2010 『びおん』 監督:山崎都世子/日本 奈良市田原地区
NARAtive2012 『祈/Inori』 監督:ペドロ・ゴンザレス・ルビオ/メキシコ 十津川村
NARAtive2014 『ひと夏のファンタジア』監督:チャン・ゴンジェ/韓国 五條市
NARAtive2016 『東の狼』 監督:カルロス・M・キンテラ/キューバ 東吉野村
NARAtive2018 『二階堂家物語』 監督 : アイダ・パナハンデ/イラン 天理市
私がこれまでに観たのは、『東の狼』 『二階堂家物語』 の2作品ですが、監督の出身国との繋がりは特になく、監督たちが奈良に思いを巡らして描いたものでした。今回の『再会の奈良』は、ポンフェイ監督が自身の出身国である中国と日本を繋いで紡いだ作品で、NARAtive作品として素敵な着地をしていると思いました。何より、1982年生まれで残留孤児が話題になった頃を知らない若い監督が作ったことに意義を感じました。 本作を通じて、日本や中国の若い世代に残留孤児という悲しい歴史を知っていただければと願います。(咲)
『再会の奈良』公式サイト
2020年製作/99分/G/中国・日本合作
原題:又見奈良 Tracing Her Shadow
配給:ミモザフィルムズ
*シネマジャーナルHP記事
・特別記事
再会の奈良』ポンフェイ監督インタビュー
・スタッフ日記
『再会の奈良』に出演の女優吴彦姝(ウー・イエンシュー)さん
*参考資料
・「満蒙平和記念館」長野県阿智村に2013年(平成25年)4月オープン
・満蒙開拓のミニ知識