2021年12月19日
ただ悪より救いたまえ 原題:다만 악에서 구하소서 (ただ悪より救いたまえ) 英題:Deliver us from Evil
監督・脚本:ホン・ウォンチャン (『チェイサー』『哀しき獣』(脚本))
出演: ファン・ジョンミン、イ・ジョンジェ、パク・ジョンミン、白竜、豊原功補
インナム(ファン・ジョンミン)は、かつて韓国国家情報院の工作員だったが、組織は解体され、今は韓国から逃れ、東京で暗殺者として生きていた。ヤクザのコレエダ(豊原功補)殺害を最後の仕事にして、パナマでのんびり暮らす算段を立てていた。ところが、かつての恋人ヨンジュ(チェ・ヒソ)がバンコクで殺害され、自分の娘かもしれない9歳の少女ユミンは誘拐されていると聞かされる。インナムはユミンを探すべくバンコクに飛ぶ。一方、コレエダの弟で冷血な殺し屋レイ(イ・ジョンジェ)は、兄がインナムに殺されたと知り、復讐しようとバンコクに向かう。
インナムは、国家情報院時代の上司チュンソン(ソン・ヨンチャン)の協力者に紹介されたトランスジェンダーのユイ(パク・ジョンミン)をガイド役に組織のアジトに乗り込むが、ユミンはすでに心臓移植手術のために連れていかれた後だった・・・
娘を助けようと必死のインナムを、兄の復讐をしようと執拗に追うレイ。大好きなイ・ジョンジェが、本作では邪魔者はばっさり消す血も涙もない冷酷な殺し屋。役者魂には感服しますが、やっぱり笑顔が見たい。そして、ファン・ジョンミンは、どうしたって殺し屋には見えません。それでも繰り広げられるのは、殺伐とした殺し合い。性転換手術を受けるためバンコクに来ているトランスジェンダーのユイの存在が、なんといってもほっとさせてくれました。身の危険にさらされながらも、少女を守る姿がとてもキュート。 演じているパク・ジョンミンは、なんと、『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』で、カン・ハヌルが演じたユン・ドンジュ(尹東柱)の従兄ソン・モンギュ(宋夢奎)を演じていた人。学生服姿のモンギュと、ホットパンツ姿のユイが同一人物には、どうしたって見えません。いやはや驚きました。(咲)
殺し屋同志の対決で腕が互角なら、より非情なほうが勝算が高いはず。わき目もふらずに追うレイに引きかえ、インナムには弱みがあります。だから殺し屋は家族を持たないのでしょう。一緒に暮らしたこともない娘を守りたいインナムは、自分を捨ててでもという背水の陣。守る者のある人は強みに変わるんですね。
イ・ジョンジェは出演作を選ぶとき、これまでしたことのない役を優先するようです。大ヒットのNetflixドラマ「イカゲーム」ではいたって普通の市井の人。命がけのゲームに振り回される主人公を演じています。人気スターのオーラは消していて、今回のギラギラしたレイとは別人。ファン・ジョンミンもいつもはくしゃっとした笑顔が印象的な人ですが、悪徳政治家もやれますよね。俳優さんっていくつもの顔を持っていて、毎回楽しみです。(白)
2020年/韓国/韓国語ほか/シネスコ/カラー/108分
配給:ツイン
C)2020 CJ ENM CORPORATION, HIVE MEDIA CORP. ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:https://tadaaku.com/
★2021年12月24日(金)よりシネマート新宿、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国公開
ヴォイス・オブ・ラブ(原題:Aline)
監督・脚本:ヴァレリー・ルメルシエ
撮影:ローラン・ダイヤン
歌唱:ヴィクトリア・シオ
衣裳:カトリーヌ・ルテリエ
出演:ヴァレリー・ルメルシエ(アリーヌ)、シルヴァン・マルセル(ギィ=クロード)、ダニエル・フィショウ(アリーヌ母)、アントワーヌ・ヴェジナ(アリーヌの兄 ジャン=ボバン)
アリーヌはカナダの田舎町の音楽好きの一家に、14人兄弟の末っ子として生まれた。小さなころから歌がうまく、いろいろな集まりで歌っては人々を幸せにしていた。彼女の歌の才能に気づいた地元の名プロデューサー、ギィ=クロードは”奇跡の原石”として、大切に育てる。12歳でデビューして以降、アリーヌは世界的歌姫へと成長していった。そして自分を見出し、デビューさせてくれたプロデューサー、ギィ=クロードへの年齢差をものともしない愛に気づいていく。
セリーヌ・ディオンの半生を、フィクションをまじえながら再現、映画化した作品。監督・脚本・主演のヴァレリー・ルメルシエがセリーヌ・ディオンの大ファンで、たっぷりの愛が込められています。幼少期も全てルメルシエが演じているので、いくら小さくしても身体のバランスなど違和感はあるのですが、それも織り込み済み?設定に違和感を持たせるのも、印象に残る手段の一つなのだとか、何かで読みました。それだけルメルシエが自分で演じたかったということのようです。
圧巻の豪華なステージも再現。さすがに楽曲は歌手のヴィクトリア・シオがカバーしていますが、パフォーマンスはあたかもセリーヌ・ディオンのライブを実際に観ているような感覚になります。次々と披露される名曲をお楽しみください。(白)
第74回カンヌ国際映画祭 アウト・オブ・コンペティション部門 正式出品作品
2020年/フランス、カナダ/カラー/シネスコ/126分
配給:セテラ・インターナショナル
(C)Rectangle Productions/Gaumont/TF1 Films Production/De l'huile/Pcf Aline Le Film Inc./Belga
http://www.cetera.co.jp/voiceoflove/
★2021年12月24日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷先行ロードショー
12月31日(金)全国ロードショー
夫とちょっと離れて島暮らし
監督・撮影・編集:國武綾
プロデューサー:中川究矢
エグゼクティブプロデューサー:宮下公一
出演:ちゃず、マム、ヘイ兄、加計呂麻島 西阿室集落のみなさん、けんちゃん 他
イラストレーターのちゃずさんはずっと東京暮らし。仕事に追われる日々がなんだか息苦しくなって、夫と相談の結果、1年間だけ単身奄美群島の加計呂麻島に移住することにした。仕事はパソコンがあれば東京とやりとりができる(接続は遅い)。夫とは毎日スマホで交信、島の人々と顔見知りになり挨拶をかわし、自転車で走り回る。ちゃずさんはたくさん充電ができた。
そんな島暮らしの様子をたまたまラジオで聞いた國武綾は、ちゃずさんのinstagramやHPをフォローし、ワニブックスの著書も読んだ。そしてちゃずさんが島にいる間に”ドキュメンタリーを作ろう!”と思い立つ。
國武綾監督は俳優をしながらアルバイトもしています。そのバイト先のラジオでちゃずさんの声を聞いたのが、映画のきっかけというのですから面白いです。ちゃずさんと同じく夫さんが映像作家で、撮影許可をもらいに2人で加計呂麻島を訪ねました。飛行機で成田から奄美空港へ(一日一便/3時間)、南下して船で30分。遠路はるばる出かけ初めてちゃずさんに出逢って、カメラを回したときの感想がHPに掲載されています。初々しいです。
私はこの映画で初めてちゃずさんを知りました。笑顔も元気もいっぱいの方です。東京を飛び出したいほど、元気の出ないときもあったんですね。期限付きの移住って、故郷がもひとつ増えた感覚じゃないでしょうか?島暮らしは不便なこともあるけれど、島時間が流れて東京のようにせかせかしません。映画を観たら島に行きたくなりました。(白)
期間限定の奄美大島・加計呂麻島への移住。この作品を観て、私自身の1981年から85年までの信州、鹿島槍高原、白馬村暮らしのことを思いだした。私の場合は写真をやっていて鹿島槍ヶ岳という山の写真を撮ろうと思っての信州暮らしだったけど、この作品を観て、これも今思えば「期間限定の移住」だったなと思いました。山やスキーにハマって、1970年から80年の約10年の間に60回くらい長野、松本、白馬など信州の山々に通い、鹿島槍ヶ岳に魅せられ、結局、北アルプス山麓で暮らすことになったのでした。私の信州での山里暮らしも当初1年の予定だったけど、結局延べ5年の滞在。やはり魅せられた場所での暮らしは離れがたくなるのです。私の場合は、帰るか残るかすごく迷いましたが、やはり東京に戻ってきました。ちゃずさんも当初は1年の予定だったけど2年半の加計呂麻島・西阿室集落での生活を続けました。イラストレーターという仕事を持ち、地元の人たちとの交流、共同作業や仕事の請負いなど、その地に根付いてしまうと離れがたくなるのです。ちゃずさんの仕事を観て、『街は誰のもの?』を思いだしました。この作品はブラジルサンパウロで、家の壁などに文字やイラストなどを描いている人たちのことを描いていたけど、ちゃずさんもいろいろな人の家の壁などに絵を描いていました。こういう絵もいいなあと思いました。
奄美大島というと、私にとっては田中一村が移住して絵を描いた島というイメージで、一村は50歳をすぎてから奄美大島に行き、大島紬の染色工として生計を立てながら絵を描き続け、生涯を終えた69歳までここで絵を描き続けました。彼の絵は亡くなってから知られるようになり、今、奄美大島に「田中一村記念美術館」もありますが、一村の作品も奄美の自然に魅せられて、鮮やかな色彩と奄美の動植物を描いていますが、ちゃずさんの絵を見て、ここに暮らすとやはり同じように自然に影響された色彩や姿かたちを描くのだなと思いました。一村の絵は生きているうちは社会に知られることがなかったけど、現代に生きるちゃずさんはインターネットを駆使して、自分の今を社会に発信しています。
私は一村の絵を見て衝撃を受けたのですが、奄美の自然は人の心を揺さぶります。いつか奄美大島に行ってみたいと思っていましたが、『夫とちょっと離れて島暮らし』を観て、いっそうその気持ちが強くなりました(暁)。
2021年/日本/カラー/90分
配給:Amami Cinema Production
https://chaz-eiga.com/
協力:BUENA、エビス大黒舎、お食事処もっか、株式会社ワニブックス
★2021年12月25日(土)より新宿K's cinemaにて2週間限定公開!
ほか全国順次公開
連日朝10時より上映※1/1は休映ロードショー
レイジング・ファイア(原題:怒火・重案)
監督・脚本:ベニー・チャン
製作:ドニー・イェン、 ベニー・チャン
撮影:フォン・ユンマン
アクション監督:ドニー・イェン
スタントコーディネート:谷垣健治
出演:ドニー・イェン(チョン)、ニコラス・ツェー(ンゴウ)、チン・ラン(チョン警部の妻)
東九龍警察本部のチョン警部は凶悪犯ウォンを逮捕できるはずだった。しかし上層部の嫌がらせで、チョン警部チームは4年越しで追った事件から外されてしまった。先輩のイウ警部のチームが乗り込んだが、仮面をつけた5人が待ち構えておりウォンの逮捕どころか、チーム全員が殉死してしまう。イウ警部が絶命前に見た犯人は意外な人物だった。
4年前、大手銀行会長が誘拐され、警察は秘密裡に調査していた。担当官のンゴウはある男から自白を得て会長を救助するが、自白を強要された男は死んでしまった。当時ンゴウはチョンの後輩で彼を目標として慕っていたが、正義感の強いチョンは仲間のためでも嘘の証言ができない。「どんなことをしても吐かせろ。責任は取る」と言った上官は認めず、ンゴウと部下たちは有罪となった。
刑期を終えて出所した彼らが自分たちを切り捨て、見捨てた者への復讐を始めたのだった。
チョン警部は悪を憎み、人情に厚く愛妻家です。もうすぐ初めての子どもも生まれます。正義感が強い故に、上層部の汚職にも厳しく法を曲げることは許せません。静かな武闘家イップ・マンを演じたドニー・イエンがまっすぐで熱血な警部役。敵対するンゴウをニコラス・ツェー。1999年の『ジェネックス・コップ』(ベニー・チャン監督)あたりから観ているのに、ドニー・イェンと互角に渡り合う役ができるようになったのねぇ。親戚の子を見るように感慨深いものがあります。20歳ころの香港の紅館コンサートでも堂々としていて、感心しました。今や40代になって香港映画界でも中堅です。ニコラスの新人時代、ヤンチャな彼を鍛えてくれたベニー・チャン監督は映画を完成させ、公開を待たずに昨年8月58歳で亡くなられました。
『天若有情(邦題:アンディ・ラウの逃避行)』(1990年)以来、情のある作品のファンでした。この作品も悪に走った人の心情を丁寧に、私利私欲に走る人間を厳しく描いています。香港映画でお馴染みの俳優陣の登場と、身体をはったアクション、カーチェイスも見どころ。もっとベニー・チャン監督作品が観たかったですが…。エンドロールでニコラス・ツェーの歌と一緒に監督の映像が流れますので、最後までご覧ください。(白)
ベニー・チャン監督が、ドニー・イェンとニコラス・ツェーを起用して作った映画となれば、期待も高まります。美しい香港の全景が空から映し出されて、それだけでもう胸がいっぱい。大通りで繰り広げられるダイナミックなカーチェイスや銃撃戦に、暗い地下での殺戮。久しぶりに、これぞ香港アクションという映画でした。でも、これがベニー・チャン監督の遺作になってしまったとは! デビュー作の『天若有情(邦題:アンディ・ラウの逃避行)』も、香港の魅力がたっぷりのアクション映画で忘れられません。『香港国際警察/NEW POLICE STORY』では、ニコラス・ツェーたちが香港コンベンションセンターの屋根を転がり落ちる場面をスタントでなく自分たちで演じていて、度肝を抜かれました。
ニコちゃん(ニコラス・ツェーのこと、ついこう呼んでしまいます)を初めて生で見たのは、1997年8月。英国が6月30日に返還式典の前に雨の中で離別の儀式を行ったグランドで行われた香港の人気歌手たちのコンサートでのことでした。俳優・謝賢の息子が歌手デビューと注目されていて、シルバーの衣装のニコちゃんは、ちょっと生意気に見えました。久しぶりに本作で見たニコラスは、もうニコちゃんというのははばかれるほど、魅力ある男になってました。
そして、ドニー・イェン。最初に観たのが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』(1992年)で、すっかり怖いイメージを植え付けられてしまったのですが、今や、イップ・マンシリーズで穏やかな印象になり、本作では、なんと、冒頭から愛妻家を演じていて微笑ましいです。
映画の中で、「白と黒だけでなくグレーゾーンがある」ことが語られ、最後に流れるニコラスの歌う歌詞にも「一生過ちを犯さぬ者がいるだろうか」とあったのが強く印象に残った映画でした。(咲)
残念ながらこの作品はまだ観ていないのですが、香港電影金像奨で撮影したドニー・イエンとニコラス・ツェの写真をアップします。
甄子丹(ドニー・イェン)・汪詩詩(Cissy Wang)夫妻
2012年第31回香港電影金像奨授賞式にて 撮影:宮崎暁美
謝霆鋒(ニコラス・ツェ)『硝子のジェネレーション』で新人賞受賞
左右はプレゼンテーターの千葉真一と呉君如
第18回香港電影金像奨(1999)にて 撮影:宮崎暁美
2021年/香港・中国/カラー/シネスコ/126分
配給:ギャガ
(C)Emperor Film Production Company Limited Tencent Pictures Culture Media Company Limited Super Bullet Pictures Limited ALL RIGHTS RESERVED
https://gaga.ne.jp/ragingfire/
★2021年12月24日(金)ロードショー
BELUSHI ベルーシ(原題:Belushi)
監督:R・J・カトラー
音楽:トゥリー・アダムズ
音楽監修:リズ・ギャラチャー
アニメーション:ロバート・バレー
出演:ジョン・ベルーシ、ダン・エイクロイド、チェビー・チェイス、キャリー・フィッシャー、ジュディス・ベルーシ
ジョン・ベルーシ、1949年アルバニア移民の子としてイリノイ州に生まれた。大学生のころ演劇に興味を持ち、シカゴの即興コメディ劇団セカンド・シティに入団。最年少ながら劇団のスターとなる。ニューヨークに拠点を移し、ダン・エイクロイドと出会い意気投合、親友となる。1975年テレビのコメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」に参加。舞台、ラジオ、テレビから映画出演と活躍場所を拡げ、全米で大ブレイクした。人気絶頂の1982年、薬物の過剰摂取で亡くなる。33歳だった。
本作はジョンの高校時代からの恋人で、仕事面でも彼を支え1981年に妻となったジュディスの協力により映画化が実現した。
ジョン・ベルーシの映画は大ヒット作『ブルース・ブラザース』(1980)だけ観ています。兄弟が育った孤児院が経営難に陥り、金策のために動くたびに街を壊し、警察に追われとハチャメチャな騒動を繰り広げます。豪華出演者に派手なカーアクション(何台壊れたか数えきれません)、チャリティライブと続き、当時劇場内がおおいに盛り上がったはずです。ほかに「サタデー・ナイト・ライブ」でのダンとジョンの場面は何度か観た覚えがあります。「黒スーツに帽子、夜でもサングラス」というスタイルは今も定番です。20代から亡くなる33歳まで、まさに駆け抜けた人でした。この人も薬物…と残念です。
恋人ジュディスが共有してくれた大量のラブレター、日記、復元された8ミリや16ミリフィルム、とこれまで目にふれることのなかった貴重なお宝満載のドキュメンタリー。破天荒でカッコよくて、純粋で傷つきやすいジョンが蘇りました。(白)
2020年/カラー/ビスタ/108分
配給宣伝:アンプラグド
Belushi (C) Passion Pictures (Films) Limited 2020. All Rights Reserved.
http://belushi-movie.com/
★2021年12月17日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開!ー
2021年12月16日
なれのはて
監督・撮影・編集:粂田 剛
出演:嶋村正、安岡一生、谷口俊比古、平山敏春
フィリピンの首都マニラの貧困地区。ここでひっそりと暮らす「困窮邦人」と呼ばれる高齢の日本人男性4人を、7年にわたって追ったドキュメンタリー。
嶋村 正 (62)
神奈川出身。元神奈川県警の警察官。フィリピーナにハマり、離婚してフィリピンへ。日本料理店のコック、旅行代理店などで働いていたが、脳梗塞で倒れたことで仕事ができなくなり、生活が困窮。フィリピン人の妻にも逃げられる。その後知人の紹介で偽装結婚の相手となり、わずかなお金をもらって暮らす。
安岡 一生 (58)
大阪出身。元証券会社勤務。証券会社を退職後、ゴルフ場の開発に絡んでフィリピンに来て、その魅力にハマり、居つく。いつしかマニラに遊びに来る日本人向けのガイドとして生計を立てるようになった。エルミタ・マラテ地区のカジノやKTV、置屋に精通している。内縁の妻クリスティと10年以上同居生活を送る。
谷口 俊比古 (64)
東京出身。元暴力団構成員、ドッグトレーナー。日本で或る「事件」を起こし、当時弟がいたマニラに逃げて来た。その後、中古自動車販売店を営んでいた弟が借金で夜逃げ、残された本人はお金も家も無く路上生活を送るハメに。その頃知り合った自転車店に出入りして仕事の手伝いをするうちに、軒下を掃除して、居候するようになった。
平山 敏春 (63)
福岡出身。元トラック運転手、建設現場の重機オペレーター。離婚してフィリピンパブにハマる。日本で仕事が無くなり、知人に誘われ移住を決意。有り金全部に、借金もしてマニラに来るが、そのお金は知人によってカジノに消えた。それからは知り合いの家を転々としながら、現場作業員やジープの呼び込みなどで稼いで細々と暮らす。そんな生活の中で知り合ったテスに惚れ結婚、子供もできた。
粂田監督は、2012 年から 2019 年にかけて 20 回ほどマニラを訪れ、1回につき 10 日から2週間の滞在で4人の「なれのはて」を追っています。かつては、日本に家族もいたのに、それぞれワケあって日本に帰国せず、マニラで人生の終焉を迎えようとしている姿が、なんとも痛ましく思えるのですが、本人たちは案外そうでもないのかもしれません。
スラムの人たちは、自分たちの生活で精一杯のはずなのに、頼る家族のいない日本人男性たちに何かしら手を差し伸べている様が見てとれます。この地に身をゆだね、様々なしがらみから解き放たれてはいるのでしょうけど、私にはとうてい真似はできないなぁ~と、みていてつらいものがありました。歯が抜け落ちたままの方が多くて、さらに哀れな印象を受けてしまいました。歯の悪いのを長らく放っておいた私は、今後はちゃんと綺麗に治療しなくてはと反省!(咲)
第3回東京ドキュメンタリー映画祭 長編部門グランプリ&観客賞
2021年/日本/DCP/カラー/120分
製作:有象無象プロダクション
配給・宣伝:ブライトホース・フィルム
Ⓒ有象無象プロダクション
公式サイト:https://nareno-hate.com/
★2021年12月18日(土) 新宿K's cinemaにてロードショー! 以降全国順次公開
2021年12月11日
夜空に星のあるように 原題:Poor Cow
監督・脚本:ケネス(ケン)・ローチ(『麦の穂をゆらす風』『わたしは、ダニエル・ブレイク』)
原作・脚本:ネル・ダン
製作:ジョセフ・ジャンニ
製作協⼒:エドワード・ジョセフ
撮影:ブライアン・プロビン
編集:ロイ・ワッツ
⾳楽:ドノヴァン
出演:テレンス・スタンプ(『イギリスから来た男』)、キャロル・ホワイト、ジョン・ビンドン、クイーニ・ワッツ、ケイト・ウィリアムス
ケン・ローチ監督の長編映画デビュー作。
ロンドンの労働者階級に生まれた18歳のジョイ。泥棒家業のトムと結婚し妊娠。出産の日、トムは病院に来ないどころか、狭い家に帰ると一日早く帰ったと怒られる。トムに大金が入り、広い家に引っ越すが、やがてトムは仲間と仕組んだ強盗に失敗して逮捕されてしまう。ジョイは息子のジョニーを連れて叔母の家に身を寄せる。トムの強盗仲間のデイヴが訪ねてくる。ジョイは優しいデイヴに惹かれ、一緒に暮らすようになる。ジョニーのことも実の息子のように可愛がってくれるが、デイヴも逮捕され、懲役12年の刑となってしまう。ジョイは、パブで働き始める。デイヴに手紙を書き続け、出所したら、一緒に暮らしたいとトムとの離婚手続きも始める。だが、トムが出所し、結局、トムと暮らし始める。半年は幸せだったけれど、そんな日も長くは続かなかった・・・
社会的弱者に寄り添った作品を作り続けてきたケン・ローチ監督。 初の長編では、泥棒稼業とわかっている男と暮らす健気で明るいジョイの姿を描き出しています。冒頭の出産シーンは圧巻。生まれて来る子は母親を選べません。母親のステータスで育つ環境も決まってしまいます。そこから抜け出せるかどうかは、成長過程での本人次第ですが、ジョニーに泥棒家業は継いでほしくないなぁ~と。
今年1月に公開されたジェームズ・マーシュ監督の『キング・オブ・シーヴズ』も、実在の窃盗団をモデルにした映画でした。イギリスには、職業欄:泥棒があるのかと思うほど!
ジョイは、夫にあっけんからんと、「今度はどこを襲ったの?」と聞くのですが、ケン・ローチ監督は、【泥棒とは結婚するな】と小見出しをつけています。 でも、そうして生きていくしかない悲しさでしょうか。(咲)
『夜空に星のあるように』特報youtubeリンク
https://youtu.be/PM7twl1KguA
1967年/イギリス/ヨーロピアン・ビスタ/カラー/102分
配給:コピアポア・フィルム 提供:キングレコード
©1967 STUDIOCANAL FILMS LTD.
公式サイト:https://yozoranihoshi.com/#pageTop
★2021年12月17日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開·
2021年12月10日
ボス・ベイビー ファミリー・ミッション(原題:The Boss Baby: Family Business)
監督:トム・マクグラス「マダガスカル」シリーズ
原作:マーラ・フレイジー
脚本:マイケル・マッカラーズ
音楽:ハンス・ジマー スティーブ・マッツァーロ
声の出演(日本語吹き替え版):ムロツヨシ(ボス・ベイビー)、多部未華子(ボス・レディ)、芳根京子(タビサ)、宮野真守(ティム)、乙葉(ジャニス(おばあちゃん))、石田明/NON STYLE(テッドSR(おじいちゃん))、坂本真綾(キャロル)、ウィジー(銀河万丈)、大塚芳忠(アームストロング博士)
ボス・ベイビーことテッドが兄のティムと<赤ちゃんvs子犬>の死闘を繰り広げてから25年―。ボス・ベイビーは世界を飛び回るエリート・サラリーマンに成長。ティムはタビサとティナの二人の娘に恵まれ、妻キャロルを送り出す専業主夫になっていた。兄弟はこの頃疎遠となり、パパとママが気にかけている。
タビサの学校長であるアームストロング博士が「世界征服を企んでいる」という情報がベイビー社にもたらされた。そして派遣された<ボス・レディ>は、なんとティムの次女のティナだった!新たな任務のため、ボス・ベイビーとティムはスーパーミルクで赤ちゃん返りして、再びタッグを組んで闘うことになった。
ほぼ2頭身のベイビーたちが頭脳を駆使して活躍するのが、もうとっても可愛くて楽しかった2018年の前作『ボス・ベイビー』。25年後の本作ではティムとテッドの兄弟はそれぞれ大人になり、パパとママは白髪のおじいちゃんとおばあちゃんになっています。兄弟は揃ってスーパーミルクで赤ちゃんに戻り(中身はおっさん)、まず学校に潜入調査に向かいます。ここの内部のようすや、個性豊かな生徒たちの描写にもご注目ください。ベイビーたちのアクションが怒涛のように続き、天才アームストロング博士の野望やその正体が明らかに。生き方が違って、喧嘩ばかりしていた2人がミッションをクリアするうちに、仲良し兄弟に戻れるか否や?も見どころ。
この冬休みご家族で、カップルで、もちろんお1人でも楽しめる作品です。予防対策も忘れずに。(白)
2021年/日本/カラー/シネスコ/107分
配給:東宝東和、ギャガ
(C)2021 Dreamworks Animation LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://gaga.ne.jp/bossbaby/
★2021年12月17日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
私はいったい、何と闘っているのか
監督:李 闘士男
原作:つぶやきシロ―「私はいったい、何と闘っているのか」(小学館刊)
脚本:坪田 文
音楽:安達 練
主題歌:ウルトラ寿司ふぁいやー「今すぐアナタを愛したい」(AMUSE)
出演:安田顕(伊澤春男)、小池栄子(伊澤律子)、岡田結実(伊澤小梅)、ファーストサマーウイカ(高井)、SWAY/劇団EXILE(梅垣聡)、金子大地(金子)、菊池日菜子(伊澤香菜子)、小山春朋(伊澤亮太)、田村健太郎、佐藤真弓、鯉沼 トキ、 竹井亮介、久ヶ沢徹、伊藤ふみお(KEMURI)、伊集院光、白川和子
伊澤春男45歳。スーパーウメヤの万年主任。店長に期待され、クールな高山さん、熱い金子くんたちと充実した毎日を送っている。家庭では妻、律子と可愛い娘、小梅と香菜子、長男の小学生の亮太と5人家族のマイホームパパ。実は春男の頭の中は常に先を読み、妄想が止まらない。気を遣ったはずがことごとく裏目に出て、自分の人生こんなもんと諦めの境地である。ある日ウメヤに緊急事態発生、本部から新店長がやってくる。春男にはこれまでなかった”副店長”という肩書がついた。
李闘士男監督と安田顕さんが『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』(18年)以来の再タッグ。李監督の作品の登場人物は”濃い人”が多いですが、今回も大勢揃っています。空回りばかりの主人公・春男の笑顔の裏の闘い(脳内)をモノローグで表現していて、安田顕さんのモノローグも大量。逡巡するのもみな音声でかぶさるので、最初うざいです(笑)。いろいろ考えた割に成果がないのはお約束。思ったことを口に出せず、行動に移せず、損な役回りになってしまうのですが、しょうがないなぁと思われても、嫌われたりしません。こんな人だからあんな家族がいて、差し引きプラスの人生です。後半意外な事実が判明し、さらにほっこりします。
『母さんがどんなに僕を嫌いでも』(18年)の”タイジくん役”だった小山春朋くんがずいぶんと大きくなっていました。(白)
2021年/日本/カラー/114分
配給:日活、東京テアトル
(C)2021 つぶやきシロー・ホリプロ・小学館/闘う製作委員会
https://nanitata-movie.jp/
★2021年12月17日(金)ロードショー
偶然と想像
監督・脚本:濱口竜介
撮影:飯岡幸子
出演:古川琴音(芽衣子)、中島歩(彼)、玄理(つぐみ)、渋川清彦(瀬川)、森郁月(奈緒)、甲斐翔真(佐々木)、占部房子(夏子)、河井青葉(あや)
「魔法(よりもっと不確か)」
撮影帰りのタクシーの中、モデルの芽衣子は、仲の良いヘアメイクのつぐみから、彼女が最近会った気になる男性との惚気話を聞かされる。つぐみが先に下車したあと、ひとり車内に残った芽衣子が運転手に告げた行き先は──。
「扉は開けたままで」
作家で教授の瀬川は、出席日数の足りないゼミ生・佐々木の単位取得を認めず、佐々木の就職内定は取り消しに。逆恨みをした彼は、同級生の奈緒に色仕掛けの共謀をもちかけ、瀬川にスキャンダルを起こさせようとする。
「もう一度」
高校の同窓会に参加するため仙台へやってきた夏子は、仙台駅のエスカレーターであやとすれ違う。お互いを見返し、あわてて駆け寄る夏子とあや。20年ぶりの再会に興奮を隠しきれず話し込むふたりの関係性に、やがて想像し得なかった変化が訪れる。
タイトルの”偶然と想像”を共通テーマに全く違う色合いの短編3本。昨年の『ドライブ・マイ・カー』に続いて国内外での受賞多数。
1本目、世間は意外に狭くて、ありえるかも。でもあったら気まずいと思う設定。古川琴音さんが不思議ちゃんタイプの生々しくない女の子。
2本目、反対にやたら官能的な朗読に、現場の人はどうしていたのかと気になりましたた。人目に触れたくないものをメールで送ってはいけません。とてもまじめでニコリともしない渋川さんが珍しい。
3本目、一番親近感あり、これはありそうです。ネットウィルスのためあらゆる機密情報が流失してまだ復旧できず、通信手段は数十年前に逆戻りしている、というのがミソ。2人の女優さんが良くて好きな短編でした。皆さんのお好みは?(白)
『偶然と想像』は、2021年の東京フィルメックスのオープニング作品として上映され、上映前に濱口竜介監督をはじめ、第一話「魔法(よりもっと不確か)」に出演の古川琴音さん、玄理さん、第二話「扉は開けたままで」に出演の渋川清彦さん、甲斐翔真さん、第三話「もう一度」に出演の占部房子さん、河井青葉さんが登壇し、舞台挨拶が行われた。
上映後のQ&Aで
「偶然と想像」ベタなタイトルだけど、人生、想像もしなかったことが偶然起きるということが時々ある。そんな人生においての事象を切り取った作品。あるいは偶然起こったことを利用して新しく「創造」された作品ともいえる。こんなことあるかもと思わせる。撮影は飯岡幸子さん。濱口監督は、この作品の撮影は彼女に頼みたかったとQ&Aで答えていたけど、彼女の撮影した作品が来年早々2本公開される。
*『春原さんのうた』2022年1月8日、『三度目の、正直』2022年1月下旬
日本の映画界での女性撮影者は女性監督以上に少ないと思うが、芦澤明子さんに続く撮影監督としてぜひ日本の映画界の中で活躍していってほしい(暁)。
第71回 ベルリン国際映画祭(2021年)審査員グランプリ(銀熊賞)受賞
ナント三大陸映画祭 グランプリ(金の気球賞)と観客賞
第17回CineFest ミシュコルツ国際映画祭 エメリック・プレスバーガー
第22回東京フィルメックス 観客賞を獲得
シカゴ国際映画祭 シルバー・Q・ヒューゴ賞
2021年/日本/カラー/1.85:1/5.1ch/121分
配給:Incline
(C)2021 NEOPA / Fictive
https://guzen-sozo.incline.life/
★2021年12月17日(金)Bunkamuraル・シネマほかロードショー
雨とあなたの物語(英語題:Waiting for Rain)
監督:チョ・ジンモ
出演:カン・ハヌル(ヨンホ)、チョン・ウヒ(ソヒ)、カン・ソラ(スジン)
2003年韓国、ソウル。将来に夢も目標も持てない予備校生のヨンホは、長い間大切にしてきた記憶の中の友人に手紙を書いた。
プサンで暮らす女性ソヒは進学せず、母と一緒に古本屋を営んでいる。ソヒの姉ソヨンにヨンホからの手紙が届く。病気の姉に代わってソヒは返事を書く。”質問しない、会いたいと言わない、会いに来ない”という条件つきで。思いがけない返事にヨンホは喜び、また手紙を書く。2人の手紙のやりとりは退屈だった日常を色鮮やかに染めていく。やがてヨンホは「12月31日に雨が降ったら会おう」という提案をする。
カン・ハヌル、『ミッドナイト・ランナー』(17年)以来4年ぶりの映画出演です。この間兵役につき、除隊してNetfrix人気ドラマ「椿の花咲く頃」に主演。これは市井の人々の暮らしや喜怒哀楽(主人公は警官なので、殺人事件もありますが)を丁寧に描いて、作品もキャストも高評価を得、大ヒットしました。
脚本で出演を決めるというカン・ハヌル。本作もヒーローでも御曹司でもない”普通の青年”の真面目な恋を描いています。カン・ハヌルは目立ってしまいそうですが、そこは演技力でオーラを消してしまうのでしょう。チョン・ウヒは、行動的な予備校生スジンを演じたカン・ソラと『サニー 永遠の仲間たち』で共演。カン・ソラはドラマ「ミセンー未生ー」(14年)でカン・ハヌルとインターン同期生役で共演していました。
スマホやメールのない時代、時間のかかる手紙だからこそ届くのを楽しみに、心を繋げていたヨンホとソヒでした。今はなんでも「すぐ」です。便利と引き換えに、私たちは何かを失ってしまったようです。
手紙を待つ、雨の降るのを待つ、人を待つ‥‥本作は”待つこと”についての物語でもあります。(白)
カン・ハヌル演じる主人公に積極的にモーションをかけるカン・ソラ演じる女子がレスリー迷だと聞かされて楽しみにしていた作品です。2022年の初映画に♪
スタッフ日記にレスリー・チャンの出番を中心に物語を紹介しました。さわりだけこちらに!
映画は、2011年の大晦日、ヨンホ(カン・ハヌル)が8年前の春を思い出すところから始まります。それが、2003年4月1日。ヨンホは二浪が決まって、また予備校に。帰り道、ビルの外壁の大画面に、『欲望の翼』の場面が映し出され、脚のない鳥が落ちたと、レスリー・チャン飛び降り自殺のニュースが流れているのを眺めていると、同じく二浪のカン・ソラ演じるスジンが声をかけてきて、「朝まで一緒にいて。レスリーの命日だから覚えていられる」とラブ・ホテルへ・・・
レスリーが好きなスジンとの物語は本筋ではないのですが、こんな形ででも登場するのはファン冥利に尽きます。
そして、大学に進学するのはやめたけれど、初恋の人と文通するうちに自分のやりたいことを見つけてオリジナルの傘を作る職人になったヨンホの物語、とても素敵です。(咲)
2021/韓国/カラー/シネスコ/117分
配給:シンカ
(C)2021 KIDARI ENT, INC., SONY PICTURES ENTERTAINMENT KOREA INC. (BRANCH), AZIT FILM CORP., AZIT PICTURES CORP. ALL RIGHTS RESERVED
https://synca.jp/ametoanata
★2021年12月17日(金)ロードショー
ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男(原題:Dark Waters)
監督:トッド・ヘインズ
脚本:マリオ・コレア、マシュー・マイケル・カーナハン
撮影:エドワード・ラックマン
出演:マーク・ラファロ(ロブ・ピロット)、アン・ハサウェイ(サラ)、ティム・ロビンス(トム・タープ)、ビル・キャンプ(ウィルバー・テナント)、ヴィクター・ガーバー(フィル・ドネリー)、ビル・プルマン(ハリー・ディーツラー)
1998年、オハイオ州の名門法律事務所で働く企業弁護士ロブ・ビロットが、見知らぬ中年男から思いがけない調査依頼を受ける。ウェストバージニア州パーカーズバーグで農場を営むウィルバー・テナントは、大手化学メーカー、デュポン社の工場からの廃棄物によって土地を汚され、190頭もの牛を病死させられたというのだ。さしたる確信もなく、廃棄物に関する資料開示を裁判所に求めたロブは、“PFOA”という謎めいたワードを調べたことをきっかけに、事態の深刻さに気づき始める。デュポンは発ガン性のある有害物質の危険性を40年間も隠蔽し、その物質を大気中や土壌に垂れ流してきたのだ。やがてロブは7万人の住民を原告団とする一大集団訴訟に踏みきる。しかし強大な権力と資金力を誇る巨大企業との法廷闘争は、真実を追い求めるロブを窮地に陥れていくのだった……。
2016年のNYタイムズの記事をマーク・ラファロが目にしました。1人の弁護士が巨大企業のデュポン社と十数年に渡って闘っていることに心を動かされた彼は、映画化に向けて動き始めました。ラファロ自身が演じたロブ弁護士の孤立無援の日々を映画の中に観るだけでも、その勇気と粘り強さに感動します。街や暮らしのために大企業を歓迎しても、身体を損ねては何にもなりません。最初に訴えにきたウィルバー・テナントも妻も病に倒れてしまいます。
工業排水や産業廃棄物には毒性の強い化学物質が含まれていて、これは自然に分解できず永久に蓄積されます。川に流れ込み地下にしみ込んだ化学物質は飲料水を汚染し、何年も飲み続けた近隣住民の健康被害が明らかになりました。ロブの訴訟をきっかけの一つに、2019年5月国連の会議で、汚染の原因となる物質、有機フッ素化合物の1つ「PFOA(ピーフォア)」の製造と使用の禁止が決議されました。その10年前には「PFOS(ピーフォス)」が禁止されています。が、昨年沖縄の米軍基地近くで「PFOSやPFOAによる水質汚染」が相次いで見つかっているというのはどういうことなんでしょう。(白)
大企業の壁に果敢に闘う弁護士の姿に感銘を受けました。水俣も然り。有害物質を垂れ流した張本人の企業はなかなか非を認めません。被害を受けた方たちの心労は計り知れませんが、長年の法廷闘争に弁護士の方たちも心身共に疲れ果てていることと思います。
それにしても、私たちは知らないうちに有害物質の危険にさらされていることをあらためて思いました。テフロン加工(フッ素加工)のフライパンは、焦げなくて便利で使っているけれど有害では?と気になります。蛇口をひねれば出てくる水も大丈夫かしらと心配は尽きません。(咲)
●トッド・ヘインズ監督コメンタリー映像はこちら
2019年/アメリカ/カラー/スコープ/126分
配給:キノフィルムズ
(C)2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.
https://dw-movie.jp/
★2021年12月17日(金)TOHOシネマズシャンテ他ロードショー
2021年12月05日
神的少女ジャンヌ・ダルクを描いた2作品 『ジャネット』『ジャンヌ』
中世末期、イングランドとの百年戦争の中で果敢にフランス軍を率い、「救国のおとめ」として知られるジャンヌ・ダルク。
現代フランス映画において一筋縄ではいかない挑発的な作品を発表してきた鬼才、ブリュノ・デュモン監督が、シャルル・ペギーの詩劇「ジャンヌ・ダルク」(1897)と「ジャンヌ・ダルクの愛の秘義」(1910)を大胆な手法で二つの映画に仕上げました。
『ジャネット』では神の声を聞く体験と戦いに旅立つまでの幼年時代、『ジャンヌ』では異端審問と火刑までを描いています。
『ジャネット』
原題:Jeannette, l'enfance de Jeanne d'Arc 英題: Jeannette, the childhood of Joan of Arc
監督・脚本:ブリュノ・デュモン
原作:シャルル・ペギー
撮影:ギヨーム・デフォンタン
音楽:Igorrr
振付:フィリップ・ドゥクフレ
出演:リーズ・ルプラ・プリュドム、ジャンヌ・ヴォワザン、リュシル・グーティエ ほか
2017年/フランス/フランス語/112分/カラー/ビスタ
日本語字幕:高部義之
1425年、フランスとイングランドによる王位継承権をめぐる「百年戦争」の真っただ中。幼いジャネット(ジャンヌ・ダルクの幼年期の呼び名)は、小さな村ドンレミで羊の世話をして暮らしていた。ある日、友だちのオーヴィエットに、イングランドによって引き起こされた耐え難い苦しみを打ち明ける。思い悩む少女を修道女のジェルヴェーズは諭そうとするが、ジャネットは神の声を聴く体験を通し、フランス王国を救うために武器を取る覚悟を決める。
原作の詩劇を映画化するのに、ブリュノ・デュモン監督は初めてミュージカルに挑戦。詩を音楽にのせて描いています。とはいえ、いわゆるミュージカルをイメージすると、ちょっと違いました。野原や川をあどけないジャネットが友達と歩き回り、後に軍を率いて戦う勇ましい乙女に成長するとは想像もできない、のどかな風情。
幼少期のジャネット役は、演技経験のない8歳の少女。清楚で純粋な雰囲気の可愛らしい子。神の声を聞いて目覚め、野性的で衝動的な13歳のジャネット役もプロの俳優ではありませんが、踊りを習っていて歌も上手な少女。監督の思うジャネットを描けたそうです。(咲)
『ジャンヌ』
原題:Jeanne 英題: Joan of Arc
監督・脚本:ブリュノ・デュモン
原作:シャルル・ペギー
撮影:デイビット・シャンビル
音楽:クリストフ
出演:リーズ・ルプラ・プリュドム、ファブリス・ルキーニ、クリストフほか
2019年/フランス/フランス語/138分/カラー/ビスタ
日本語字幕:高部義之
15世紀、フランスの王位継承をめぐって、フランスとイングランドが血で血を洗う争いの時代。若きジャンヌ・ダルクは、「フランスを救え」と言う神の声に導かれてフランス王の軍隊を率いていた。神、愛、罪、福音と祈りを説くジャンヌだが、その力に畏怖と疑心を持った味方の軍内部から反発が生じる。やがてジャンヌはイングランド側に捕らえられ、教会によって異端審問にかけられる。抑圧と支配の濃密な論理で迫る「雄弁」な男たちを相手に、反駁の叫びと沈黙で応じるジャンヌ。告発に屈せず、自らの霊性と使命に忠実であり続ける。
冒頭、太鼓に合わせて、馬がステップを踏む様が優雅で、まるで踊っているよう。それが、これから戦いに挑むジャンヌたちを乗せていく馬たちなのです。少女ジャネットが神の啓示を受けてドンレミ村を出立するまでを描いた『ジャネット』が光を浴び、希望に満ちたものだったのが、『ジャンヌ』では、パリ攻略の失敗から敗北、そしてルーアンでの異端審問によって19歳で処刑されるまでを描いていて、映画のトーンも違います。
これまでになんとなく見聞きしていたジャンヌ・ダルク像とも違う印象を持ちました。それが、鬼才ブリュノ・デュモンらしさといえるのかもしれません。
自分ですっかり忘れていたのですが、ブリュノ・デュモン監督にインタビューしたことがありました。「いかにも哲学がご専門で気難しそうな雰囲気」と第一印象を書いていました。
フランス映画祭2010『ハデウェイヒ』ブリュノ・デュモン監督インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2010/fffj2010d/index.html
このインタビューの中で、こんな言葉がありました。
「映画の仕事をする時に、いつも思っているのが理想を持たないこと。だから、プロを使いません。真実は普通のものから生まれます。プロだと理想像を持ちたがります。平凡である、普通であること、その人が世界で一つであることが、普遍的で真実を訴えることが出来るのです。」
驚いたことに、『ジャンヌ』でジャンヌを演じたのは、『ジャネット』で13歳のジャネットを演じたジャンヌ・ヴォワザンではなく、幼少期を演じたリーズ・ルプラ・プリュドム。ジャンヌ・ヴォワザンが諸事情で出られなくなったとき、リーズを起用することが天啓のようにひらめいたのだそうです。観ているときには、まさかそんな年が下の子が19歳を演じているとは気が付きませんでした。(咲)
配給:ユーロスペース
https://jeannette-jeanne.com/
★2021年12月11日(土)よりユーロスペースほか全国にて2作同時公開
街は誰のもの?
監督・撮影・編集:阿部航太
整音:鈴木万里
出演:エニーボ(サン・パウロ)、チアゴ・アルヴィン(ベロ・オリゾンチ)、オドルス(プラナルチナ)、中川敦夫(サン・パウロ)、ピア(リオ・デ・ジャネイロ)
*()内は出逢った都市
南米一の大都市サン・パウロ。そこには多様なルーツ、カルチャーが混沌とするブラジル特有の都市の姿があった。東京でグラフィックデザイナーとして活動する阿部航太が、2018~2019のブラジル滞在で体感した「街」。そこには歪んだ社会に抗いながら、混沌の波を巧みに乗りこなすグラフィテイロ、スケーター、そして街を歩き、座り込み、踊り明かす人々がいた。ブラジルの4都市を巡り、路上から投げかけられた一つの問いへの答えを追うストリート・ドキュメンタリー。
この作品に登場するグラフィテイロ(グラフティを描く人)たちは、警察の目を気にしながら、あっというまに描き上げていなくなります。スプレー缶だって安くはないのに「ここにいるよ」という発信なのでしょうね。大きな壁に自由にメッセージや好きな絵を描けたら、さぞ楽しいはず。歓迎してくれる人も中にはいて、なんだか嬉しくなります。所有者が気に入って消されずに残っていくといいな。
このストリートアートは、世界中で描かれてアーティストとして認められた人もいますね。バンクシーやバスキアも。台湾の虹の村「彩虹眷村」も観光スポットとして有名です。お爺ちゃんが家や道路にポップな絵を描き始めて話題になりました。2019年に訪ねて、あまりに面白くてバスの集合時間に遅れてしまったんでした。
東京では落書きとみなされてすぐ消されてしまうんでしょうか。高速道路や高架下で読めない文字?を見かけるくらいです。ちゃんと所有者に許可をもらったか、発注されたかと思われるものは原宿などにあるようですね。浅草仲見世の商店のシャッターには、日本の四季や祭りなどが描かれています。閉店後でないと見られませんが、寄席や演劇の帰りに観るのが楽しみです。Googleマップであちこち壁伝いに探してみようかな。
「街は誰のもの?」というタイトルの答えは、観た人によって少しずつ違うでしょう。でも願うのは、誰もが生きていける街であること。(白)
『街は誰のもの?』は、サンパウロの街中で壁に落書きをしている人たちを追ったドキュメンタリー。私は2018年12月から2019年2月まで、ピースボートの船で世界一周の旅に出て、途中、リオデジャネイロの街中を観光し、その時、落書きの多さにびっくりした。ファベーラ(スラム街)の家々の壁にはずっと落書きが続いていた。さすがにコルコバードの丘、イパネマ海岸、コパカバーナなどの観光地の周辺には落書きが少なかったけど、その後に行った、ウルグアイ、アルゼンチン、チリと、南米の国々は落書きのオンパレードだった。南米に行ってびっくりしたことです。街の文化というべきか、混沌とした街の姿なのか。あるいは若者の発露の場所なのかもしれません。庶民が暮らす街中にはこの落書きがあふれていて、街の文化を形成している。この映画でも文化、あるいは仕事として書かれています(暁)。
南米の落書き写真:撮影 宮崎暁美
参考記事 シネマジャーナルHP スタッフ日記
ピースボート世界一周船旅の写真整理(暁)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484784517.html
2021年/日本/カラー/98分
配給:Trash Talk Club
(C)KOTA ABE
https://www.machidare.com/
★2021年12月11日(土)シアター・イメージフォータムにてロードショー
東洋の魔女(原題:Les Sorcieres de l'Orient)
監督・脚本:ジュリアン・ファロ
製作:ウィリアム・ジェアナン
撮影:山崎裕
音楽:ジェイソン・ライトル K-Raw
ラインプロダクション:ドキュメンタリージャパン、橋本佳子、角田良子
出演:河西昌枝、松村好子、半田百合子、谷田絹子、宮本恵美子、磯部サタ、松村勝美、篠崎洋子、大松博文
1964年、東京で日本初のオリンピックが開催された。柔道、体操、レスリング、次々とメダルを獲得していく日本人選手に国中が熱狂した。中でも圧倒的な強さを見せたのが女子バレーボール。大松博文監督率いる大日本紡績(現ユニチカ)の選手を中心としたチームは、決勝戦でソ連チームと対戦し、固唾を飲んで見守る中3-0で勝利し、金メダルを獲得した。その後緒空前のバレーボールブームが起こり、「アタックNo.1」「サインはV」の漫画やアニメが大ヒットした。
ジュリアン・ファロ監督はかつてのメンバーたちにインタビューし、当時の思い出を語ってもらう。市川崑監督の『東京オリンピック』(65)、渋谷昶子監督『挑戦』(63)、当時の日本の風景なども織り交ぜ、「東洋の魔女」の姿を浮き彫りにする。
当時の熱狂ぶりをよく覚えています。バレーボールの決勝戦も観ていました。「アタックNo.1」「サインはV」も観ていて、主題歌も当然記憶にあります。作品中に出てきて懐かしかったです。「鬼の大松」と呼ばれた大松監督の練習の様子はテレビで何度も取り上げられました。「スパルタ」という言葉はここで覚えたはず。「回転レシーブ」にも目を見張りました。
下の渋谷昶子監督『挑戦』を後に観て、10代、20代の女の子たちが、定時の勤めを終えてからこんなに厳しい練習をよく続けていたこととあらためて感心しました。それが連勝記録を打ち立てていったのでしょう。戦後復興を悲願としていた日本人に少なからず影響を与えたんじゃないでしょうか。
作品に登場する元「東洋の魔女」たちは素敵なおばあちゃまになられていました。厳しい練習に耐えて偉業を成し遂げたことが、身体の芯として残っている気がしました。(白)
「東洋の魔女」と聞いて、私は1964年の東京オリンピックをすぐに思い出す世代ですが、この映画を作ったジュリアン・ファロ監督は、1978 年生まれ。しかもパリ在住。なぜ、ファロ監督が、半世紀以上前の「東洋の魔女」に焦点をあてた映画を作ったのか興味津々でした。監督は、フランス国立スポーツ体育研究所(INSEP)の映像管理部門に所属している方。これまでにも、超人的なパワーを持つアスリートたちに焦点を当てた作品を制作されています。2020年に再び東京でオリンピックが開催されることにも関係して「東洋の魔女」を取り上げたのかと思ったら、監督が本作のアイディアを思いついたのは、10年程前のこと。日本オリンピック委員会が1964年に製作したバレーボール関連の16 ミリフィルムの映像を観たのがきっかけでした。
冒頭、アニメで日本の魔女のイメージとして、お岩さん(かな?)やどくろ首が出てきます。今は素敵なおばあちゃまになった「東洋の魔女」たちが会食しながら当時を振り返るのですが、魔女というと鼻が大きくて悪いことをするのが魔女だと思っていたら、欧州に遠征したときに、人ができないことをできるのが魔女と聞いて、イメージが変わったと語っていました。
本作を観て、1964年の東京オリンピックが戦後復興の象徴として開催されたことを再認識しました。2020年の東京オリンピックはいったい何だったのでしょう・・・ (咲)
この欄に感想を足そうと思ったのですが、書いた文章が長くなってしまい、スタッフ日記のほうに書きました。こちらも良かったら読んでみてくださいね(暁)。
シネマジャーナルHP スタッフ日記
『東洋の魔女』を観に行く(暁)
2021年/フランス/カラー/100分/DCP
配給:太秦
宣伝協力:スリーピン
©UFO Production ©浦野千賀子・TMS
https://toyonomajo.com/
★2021年12月11日(土)より、渋谷ユーロスペースにて公開!
◎シネジャでも何度か記事に取り上げた故・渋谷昶子監督。youtubeチャンネルに「挑戦ー1964年カンヌ映画祭短編部門グランプリ作品」と題して”日紡貝塚女子バレーチーム”のドキュメンタリー『挑戦』が公開されています。渋谷監督のコメント「25歳から監督業をやり始めたが、30歳までに社会的に監督として認知されなければ、監督を辞めて、転進を計ろうと考えていた矢先の受賞で、今日まで50年の永きに亘って、監督業をつづけることになった」という記念碑的作品です。ぜひこちらもご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=krbJ1MBYXTo
(1963年/35ミリ/コダックカラーフイルム/30分)
ローラとふたりの兄(原題:Lola et ses freres)
監督・脚本:ジャン=ポール・ルーブ
出演:リュディヴィーヌ・サニエ(ローラ)、ジョゼ・ガルシア(ピエール)、ジャン=ポール・ルーブ(ブノワ)、ラムジー・ベディア(ゾエール)
フランス西部の都市・アングレーム。弁護士のローラにはちょっと困った2人の兄がいる。眼鏡士のブノワと解体業者のピエール。三兄妹は両親の墓参りで月に一度は集まることが習慣になっている。
ブノワの三度目の結婚式、大遅刻をしてきたピエールの失礼なスピーチが原因で兄弟喧嘩が勃発してしまう。そんな中、ピエールは深刻な仕事のトラブルを抱え、新婚早々ブノワは妻とすれ違うことに。ローラは離婚調停の依頼人だったゾエールとの恋に落ちる。兄たちは妹の恋にいい顔をしない。
父は娘に、兄は妹に甘いとよく聞きます。このお兄さん2人も両親がいないせいもあって、大人のローラに過保護です。まだ会ってもいないローラの恋人が気に入りません。細かい長男は監督・脚本のジャン=ポール・ルーブ。『セラヴィ!』(2017)で共演したガブリエルくんが次男ピエールの息子ロミュくんで出ています。仕事がトラブってイライラしているピエールをジョゼ・ガルシア。間が悪くて災難に見舞われても、意地っ張りで弱みをみせません。弁護士のローラはリュディヴィーヌ・サニエ。いつのまにか40代になりましたが、昔からずっと笑顔が可愛いままです。
あちこちクスクス笑えるコメディ仕立てですが、人生の哀歓もたっぷり。兄弟姉妹は最初のライバル。喧嘩したりもめたりしますが、親亡きあとはやはり頼りになります。いろいろめんどくさいけど、愛情いっぱいの家族の物語。(白)
妹しかいない私は、小さいとき、お兄さんがいたらいいなと、よく思ったものです。ローラのこのふたりのお兄さん、憎めないけど、こんなお兄さんがいたら大変! 頼りになるどころか、世話のやける兄たち。大いに笑わせてくれました。それにしても、フランス人って愛に生きる人たちなのだなぁ~と感心します。懲りずに3度目の結婚をするブノワ。奥さんに逃げられたらしいピエールは、仕事を優先してまたまた恋人に見限られてしまいます。でも、未練たっぷり。弁護士のローラは離婚調停をしていて、修羅場を散々見てきたのに、よりによって自分が担当して離婚したばかりの男と恋に落ちます。
月初めの木曜日に3人で両親のお墓に集まると、必ず近くのお墓にいる男性。亡き妻をよほど愛していたのかと思いきや、生きてる間は憎かったのに先立たれたら寂しいそうで。
フランスの地方都市を舞台に繰り広げられる本作、等身大のフランスの人たちの暮らしを垣間見ているようでした。(咲)
2018年/フランス/カラー/105分
配給:サンリスフィルム、ブロードメディア
(C)2018 NOLITA CINEMA - LES FILMS DU MONSIEUR - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - FRANCE 2 CINEMA
https://senlisfilms.jp/lola_and_bros/
★2021年12月10日(金)ロードショー
ニューイヤー・ブルース 原題:새해전야 英題:NEW YEAR BLUES
監督:ホン・ジヨン(『キッチン~3人のレシピ~』『結婚前夜~マリッジブルー~』)
脚本:コ・ミョンジュ(『結婚前夜~マリッジブルー~』)、ハン・ヒョンギョン
撮影:オ・スンチョル
編集:シン・ミンギョン(『82年生まれ、キム・ジヨン』)
音楽:イ・ジス(『建築学概論』)
出演:キム・ガンウ(『死体が消えた夜』)、ユ・インナ(「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」)、ユ・ヨンソク(『ビューティー・インサイド』)、イ・ヨニ(「華政[ファジョン]」)、イ・ドンフィ(『エクストリーム・ジョブ』)、チェン・ドゥーリン(『ナミヤ雑貨店の奇蹟 -再生-』)、ヨム・ヘラン(『無垢なる証人』)、チェ・スヨン(『ガール・コップス』)、ユ・テオ(『めまい 窓越しの想い』)、イェ・スジョン(『69歳』)、イ・ジュンヒョク(『僕の中のあいつ』)、チョ・ハンチョル(『8番目の男』)、アン・セハ(『スウィンダラーズ』)、ソン・サンウン(「ザ・キング:永遠の君主」)
クリスマスから新年を迎えるまでの7日間。
結婚を控えた人に離婚訴訟中の人、プロポーズされた女性もいれば、失恋し旅に出る女性もいる。来年はいい年にしたいと願う4組のカップルの1週間。
パラスノーボード国家代表のレファン(ユ・テオ)。試合で良い成績で滑り終え、恋人の園芸師オウォル(チェ・スヨン)にプロポーズ。幸せいっぱい順風満帆に見えるレファンだが、障がい者であることから恋人に負い目を感じている。
つきあって2000日を迎えようとする時に、恋人から別れを告げられたスキー場スタッフのジナ(イ・ヨニ)。旅行会社に出来るだけ遠くに行きたいと言って勧められアルゼンチンへ。そこで、燃え尽き症候群に陥りアルゼンチンで暮らすワイン配達員ジェホン(ユ・ヨンソク)に出会う。
離婚して4年経つベテラン刑事ジホ(キム・ガンウ)。離婚訴訟中のリハビリトレーナー ヒョヨン(ユ・インナ)を、接近禁止命令を無視して近づく夫から守るため、ジホは身辺保護を担当する。結婚に失敗し、恋愛に臆病な二人だったが、いつしかトキメキを覚えるようになる。
旅行会社の代表ヨンチャン(イ・ドンフィ)は、中国女性ヤオリン(チェン・ドゥーリン)と結婚間近。ヨンチャンの姉ヨンミ(ヨム・ヘラン)は、言葉の通じないヤオリンとなんとか意思疎通を図ろうとし、弟を気遣う。そんな中、ヨンチャンは思いもよらぬ出来事で結婚資金まで失ってしまう。
ホワイトクリスマスから、花火のあがる新年までの、慌ただしくも心浮き立つ年の瀬。それぞれに人生の節目を迎えた人たちの姿を丁寧に描いたホン・ジヨン監督。前作『結婚前夜~マリッジブルー~』では、7日後に結婚を控えた4組のカップルのマリッジブルーを捉えていました。2009年、『キッチン ~3人のレシピ~』公開前に来日したホン・ジヨン監督にインタビュー。「スクリーンの中の1人1人の人生を大切に描きたい」と語っていたのが印象的でした。『ニューイヤー・ブルース』でも、それぞれの人生が細やかに描かれています。一番印象に残ったのは、国際結婚を間近に控えた弟を気遣う独身の姉のヨンミ。いいキャラでした。
レファンが参加するパラスノーボード大会が行われたのは、ジナが働くスキー場,
失恋したジナが旅行の申し込みに行くのが、ヨンチャンの経営する小さな旅行会社、離婚訴訟中のリハビリトレーナー ヒョヨンは、パラスノーボードのレファンのリハビリを担当・・・と、さりげなく絡まっているのも、楽しいです。6年付き合ったジナをばっさり振った男の末路も、ジホの務める警察署で最後に明かされますのでお見逃しなく!(咲)
ホン・ジヨン監督(撮影:梅木直子)
2009年『キッチン ~3人のレシピ~』公開の折のインタビュー
2021年/韓国/韓国語/114分/シネマスコープ/カラー
日本語字幕:朴澤蓉子
配給:クロックワークス
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公式サイト:https://klockworx-asia.com/newyear/
★2021年12月10日(金) シネマート新宿 ほか順次公開
2021年12月01日
クナシリ(原題:Kounachir)
監督:ウラジーミル・コズロフ
撮影:グレブ・テレショフ
北海道からわずか16キロに位置し、かつては四島全体で約17,000人の日本人が生活していたという北方領土。しかし、旧ソ連軍が終戦後島に入り、1947年から48年にかけて日本人住民の強制退去が行われた。日本政府は問題が解決するまで、日本国民に入域を行わないよう要請している。本作は、そんな、日本人が容易に足を踏み入れることができない地、北方領土の国後島で暮らすロシア人島民らの生活、島の様子をありのままに映し出す。
2008年に友人たちと知床旅行をしたとき、お天気が良くて海の向こうに国後島がくっきりと見えました。こんなに近いのかと驚いたものです。北方四島は良い漁場で、島民たちは豊かに暮らしていたようです。敗戦後旧ソ連の住民が移住してきたことは知っていましたが、現在の姿を見ることはありませんでした。旧ソ連生まれのコズロフ監督が撮影許可を得て、ドキュメンタリー作品としたものです。砲台や朽ちた船の残骸は残っていますが、かつての日本の住民たちの家は跡形もなく、墓石が湖に捨てられて墓地が荒れ放題です。水仙の花が綺麗に咲いていたのがせめてもの慰めでした。
高齢のロシア人男性は強制退去のようすを詳細に語り、戦火から遠いここもまた大変だったのだと知らされました。移住してきた人々が満足したかというと、そうでもなかったようです。せっかくの日本の設備などを使わせず、廃棄させたとはもったいない。夫を亡くした妻はその後もインフラが整わずトイレもないここはゴミ溜めと吐き捨てるようにいいます。ソ連の崩壊後、住民にしわ寄せがきているのに、軍事博物館を建設すると自慢気な軍人に、それよりも生活基盤をと言いたくなりました。作中に意気盛んな安倍総理とニコリともしないプーチン大統領のニュース映像。いまだ日本とロシアに平和条約は結ばれていません。(白)
♪はるかクナシリに白夜は明ける♪
森繁久彌さん作詞・作曲の「知床旅情」の一節。
私が初めて北海道を旅した1974年の夏、ユースホステルの夕食後のミーティングで、よく歌われていた曲でした。知床には行かなかったのですが、野付半島から、すぐ向こうに国後島が見えて、あ~これが、歌に出てくるクナシリかと感慨深いものがありました。翌冬、納沙布岬からは、水晶島がすぐそばに見えて、その向こうに見える雪を頂いた国後の山は、まさに「はるかクナシリ」のイメージでした。こんなに近いのに、ソ連の領土になってしまって、強制退去させられた人たちは、どんな思いで、故郷の島を眺めているのだろうと思ったものです。
映画の中で、日本人の引き揚げの頃を覚えている1938年生まれの方が、写真や葉書の持ち出しは禁止だったと語っていました。かつてここで暮らした証も持ち出せなかったとは!
そして、国策で国後に来たのは、クラスノダール(黒海に近い北コーカサス西部の都市)や、ベラルーシ(これまた旧ソ連の西端!)の人たち。国後には電話も電気も水道も整っていて、これまで見たこともない文明的な環境だったといいます。それなのに、入植者たちは日本人の残した薪ストーブすら使いこなせなかったのだとか。
ウラジーミル・コズロフ監督は、旧ソ連(現ベラルーシ)出身で、現在はフランスを拠点に活動している方。旧ソ連の、そして、現ロシアの体制の中で、僻地で暮らす人々の姿を映しだし、大国の正義の空しさを感じさせてくれました。(咲)
1984年、車で北海道を1か月くらい旅した。その時、摩周湖から国道272号を走った。山間地から海に向かって降りていく途中で海が見え、その向こうに島が見えた。それが国後島だった。国後島がそんな近くにあると思っていなかったので、その島影の大きさにびっくりした。私が経験した国後島の姿は、今もそのイメージで残っている。北方四島というと出てくる国後島だが、こんなに日本のそばにあるのに、今、そこに暮らしている人たちの姿というのは日本ではほとんど知られていない状態だと思う。
そしてこのドキュメンタリー作品。かつて日本領土だった島の姿を見ることができる。1945年9月のソ連侵攻で占領され、それ以来、ソ連、ロシアの領土となり、いまだ返還されずにいる。日本人は1947,8年頃強制退去させられたという。このドキュメンタリーでは、かつて日本人が暮らしていたあとがまだ残っている状態がたくさん出てくる。日本人が暮らしていたあとに入ってきたのは中央アジアや、旧ソ連の西方から移住してきた人が多いようだ。そして、現ロシアの首脳やここに暮らしている人々は日本に返還なんて考えられないという割には、開発は進まず、昔のこの島の姿、それも寂れた姿のまま残っている様が映し出される。きっと繁栄しているのは中心部だけで、後は何も手付かず、建物なども朽ち果てた姿や、林に戻っているのだろう。
それでも日本から譲られた友好丸なんて船があったり、日本からの開発を期待する人たちがいるということも出てくる。そうなるといいけど、この情勢では難しいでしょうね。元島民も、もう少なくなっている状況で、日本に戻ってくることも遠ざかってしまっていると感じたドキュメンタリーでした(暁)。
2019年/フランス/カラー/ビスタ/74分
配給・宣伝:アンプラグド
(C) Les Films du Temps Scelle - Les Docs du Nord 2019
https://kounachir-movie.com/
★2021年12月4日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開