2021年11月11日
SAYONARA AMERICA
監督:佐渡岳利
撮影:飯田雅裕
音楽:細野晴臣
出演:細野晴臣、高田漣、伊藤大地、伊賀航、野村卓史、ショーン・オノ・レノン
2019年、細野晴臣は音楽活動50年を迎え、初のアメリカでのソロライブを開催した。ニューヨーク、マンハッタンのグラマシー・シアター、ロサンゼルス、ダウンタウンのステイプルズ・センターの舞台で軽やかに、自由に、ギターを奏で、歌う細野晴臣。これまでの“集大成”となるライブを記録したドキュメンタリー。
初めてアメリカン・ミュージックに触れた思い出をとつとつと英語で語っています。客席との会話も自由自在「マッカーサーは音楽を連れて来た。資本主義もね」誰かが「sorry!」と返して笑いが起きます。初めはとてもいいものだと思ったはずなのに、今や格差と分断を作り出す元凶です。
1947年生まれの細野晴臣さんは戦後のベビーブーム世代。港区で生まれ育ったシティボーイです。立教大生のころベースを始め、1969年”エイプリル・フール”のベーシストとしてメジャーデビュー。以後”はっぴいえんど”を経て”イエロー・マジック・オーケストラ(Y.M.O.)”が5年間。休みなく作曲、プロデューサー、レーベル主宰者…挙げきれないほど多岐にわたった活動は誰もが知るところでしょう。2019年、六本木でのTIFFと同時期にあった展覧会「細野観光1969-2019」を見て感嘆したものです。コロナ禍で何かと不自由ですが、17曲の楽曲で彩られるライブを映画館でお楽しみください。(白)
2021年/日本/カラー/シネスコ/83分
配給:ギャガ
(C)2021“HARUOMI HOSONO SAYONARA AMERICA”FILM PARTNERS
ARTWORK TOWA TEI & TOMOO GOKITA
https://gaga.ne.jp/sayonara-america/
★2021年11月12日(金)シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
梅切らぬバカ
監督・脚本:和島香太郎
撮影:沖村志宏
出演:加賀まりこ(山田珠子)、塚地武雅(山田忠男)、渡辺いっけい(里村茂)、森口瑤子(里村英子)、斎藤汰鷹(里村草太)、林家正蔵(大津進)、高島礼子(今井奈津子)
山田珠子は、自閉症の息子・忠男と二人暮らし。毎朝決まった時間に起床して、朝食をとり、決まった時間に家を出る。庭にある梅の木の枝は伸び放題で、隣の里村家からは苦情が届いていた。ある日、腰を痛めた忠男と一緒に転んでしまった珠子は「このまま共倒れになちゃうのかね」と、気づく。グループホームの案内を受けて、悩んだ末に忠男の入居を決める。しかし、初めて離れて暮らすことになった忠男は環境の変化に戸惑い、ホームを抜け出してしまう。そんな中、珠子は邪魔になる梅の木を切ることを決意するが・・・。
障がいや病気のある子どもと暮らす親の心配はたぶん世界中同じ。自分が年を取って先に逝った後、この子は暮らしていけるのだろうか? ほかに頼る人や場所がなければ、その心配が消えることはありません。この映画では77分という短い中で、それをぎゅっと縮めて見せてくれます。塚地武雅さんのオーバーすぎない「忠さん」、母性溢れる加賀まりこさんの「珠子」、障がいのある人を身近で見たからこその温かいシーンに切なくなります。辛口の占いのシーンに笑いました。私も見てもらいたい。
和島監督がこの映画を作るきっかけになったのは助監督をしたドキュメンタリー『だってしょうがないじゃない』(2019/坪田義史監督)だったそうです。公開当時に観て、先に逝く親と遺された子どもの辛さ、親を亡くした後の自立の難しさを知りました。そちらには桜の木を切るシーンがあり、フィクションの本作では梅の木を切るか切るまいかというシーンがあります。「桜切るバカ、梅切らぬバカ」というのは、対象に則して考えよということわざ。生き方や人間関係にも当てはまります。忠さんにもいろいろありましたが、ラストに希望を感じました。
我が家も道路にはみ出る枝には注意して、人に当たらないようやっぱり剪定しています。忠さんもそこだけは譲ったほうがいいんじゃないかな。(白)
こちらに「爪切り」メイキングシーンが公開されています。
2021年/日本/カラー/シネスコ/77分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
https://happinet-phantom.com/umekiranubaka/
★2021年11月12日(金)全国順次ロードショー
唐人街探偵 NEW YORK MISSION (原題:唐人街探案2)
監督・脚本:チェン・スーチェン
出演:ワン・バオチャン(タン・レン)、リウ・ハオラン(チン・フォン)、シャオ・ヤン(ソン・イー)、妻夫木聡(野田 昊)、ナターシャ・リュー・ボルディッツォ(チャン・イン)、シャン・ユーシエン(KIKO)
中国の天才探偵、チン・フォンは、叔父であるタン・レンの結婚式に招待され、アメリカ・ニューヨークへ向かう。しかし、結婚式というのは真っ赤なウソで、タン・レンの目的は賞金500万ドルが賭けられた「世界名探偵大会」に参加させることだった。その内容は唐人街マフィアの孫が惨殺された猟奇的殺人事件の犯人を捜し出すというもの。探偵専用の推理アプリ「CRIMASTER」(クライマスター)で世界ランキング上位の名探偵たちも、賞金目当てに各国から集結し、事件の謎に挑む。ところが、この事件は大きな陰謀が渦巻く連続殺人事件の序章に過ぎなかった—。
公開日が前後しましたが、このシリーズ3作目『唐人街探偵 東京MISSION』はすでに公開済み。舞台が日本だとどうもちょっと「?」が出てきてしまうので、違いのわからないNY編は落ち着いて観られます。
世界中の名探偵がそろったという趣向なので、チン・フォンの好敵手になる野田 昊(のだ・ひろし)役の妻夫木聡も登場します。賑やかというか騒々しいのは変わらず、殺人事件もミステリーもこの人たちにかかれば、ドタバタコメディに早変わり。ワン・バオチャンを正月映画で見るのをみんな楽しみにしているのでしょう。そろそろ人情物やアクション映画での彼を観たいものですが。(白)
『唐人街探偵 東京MISSION』(原題:唐人街探案3)はこちら。
2018年/中国/カラー/シネスコ/121分
配給:チームジョイ
(C)Wanda Media Co., Ltd.
https://toujingai-nyc-movie.com/
★2021年11月12日(金)
ヒューマントラストシネマ渋谷・池袋HUMAXシネマズ 他全国順次公開!
フォーリング 50年間の想い出(原題:Falling)
監督/製作/脚本/作曲:ヴィゴ・モーテンセン
出演:ランス・ヘンリクセン(75歳時のウィリス)、ヴィゴ・モーテンセン(50歳時のジョン)、スヴェリル・グドナソン(23~43歳時のウィリス)、ローラ・リニー(サラ)
認知症を抱える父との再会をきっかけに辿る50年間の記憶
言葉にできなかった想いを確かめ合う親子の物語
言葉にできなかった想いを確かめ合う親子の物語
パイロットのジョンは高齢になった父の新しい住居を探すため、久しぶりに再会した。父の怒りっぽい性格はそのまま、認知症を患って口汚く相手を罵るのに閉口する。ジョンがゲイであることを受け入れず、パートナーのエリックには冷たいが、養女のモニカとだけは交流する。記憶も混濁していて、飛行機の中で死んだ妻の名を呼んで騒ぎ出す。心配して来てくれた妹家族とも打ち解けない。ジョンは悪口三昧の父に長く耐えてきたがついに心のうちを吐き出してしまう。繊細な息子は不器用な父との間の深い溝を埋められるのか?
ヴィゴ・モーテンセンの父との思い出が反映されている作品。昔の思い出と現在が代わる代わる現れます。ジョンの鬱屈の理由が少しずつわかってきます。まだ若かった両親の楽しい日々は短く、離婚して兄妹は母と家を出てしまいました。母が亡くなった後、戻った家での継母と父との生活。父の記憶の中では母と継母が入り混じっています。
認知症の本人も、記憶が零れ落ちていくのが不安でなりません。できないことが日々増え、遠く見えていた死に近づいていきます。きっと心の中では、恐れや情けなさや怒り、悲しみが渦巻いているはず。
若き日の父をビヨン・ボルグを演じたスヴェル・グドナソン、老父をベテランのランス・ヘンリクセン。ヴィゴ・モーテンセン、主演であり監督であり、脚本と音楽も手掛けています。なんと多才な人なんでしょう。こちらにヴィゴ・モーテンセンから日本の観客に向けてのメッセージと予告編があります。(白)
2020年/カナダ・イギリス合作/カラー/シネスコ/112分英語・スペイン語
配給:キノシネマ
(c)2020 Falling Films Inc. and Achille Productions (Falling) Limited・ SCORE
(c)2020 PERCEVAL PRESS AND PERCEVAL PRESS INC. ・ A CANADA - UNITED KINGDOM CO-PRODUCTION
https://movie.kinocinema.jp/works/falling
★2021年11月12日(金)キノシネマ他、全国順次公開
カオス・ウォーキング(原題:CHAOS WALKING)
監督:ダグ・リーマン
原作:『心のナイフ〈混沌(カオス)の叫び1〉』パトリック・ネス著(東京創元社)
脚本:パトリック・ネス&クリストファー・フォード
出演:トム・ホランド(トッド)、デイジー・リドリー(ヴァイオラ)、マッツ・ミケルセン(フレンティス首長)、デミアン・ビチル(ベン)、シンシア・エリヴォ(ヒルディ)、ニック・ジョナス(ディヴィ・フレンティス・ジュニア)、デヴィッド・オイェロウォ(アーロン牧師)
西暦2257年、〈ニュー・ワールド〉。そこは、汚染した地球を旅立った人類がたどり着いた〈新天地〉のはずだった。だが、男たちは頭の中の考えや心の中の想いが、〈ノイズ〉としてさらけ出されるようになり女は死に絶えていった。この星で生まれ、最も若い青年であるトッドは、一度も女性を見たことがない。
ある時、地球からやって来た宇宙船が墜落し、トッドはたった一人の生存者となったヴァイオラと出会い、ひと目で恋におちる。ヴァイオラを捕えて利用しようとする首長のプレンティスから、彼女を守ると決意するトッド。
二人の逃避行の先々で、この星の驚愕の秘密が明らかになっていく──。
男ばかりの村で育ったトッドは母の思い出は薄れ、女性を見たことがありません。宇宙船から来た女性ヴァイオラと出会って、心の声〈ノイズ〉がみな外に駄々洩れしてしまうところがとても面白いです。男だけのノイズという設定が奇抜で、これは困るだろうし、メンタル弱い人はやっていけません。
粗野で純真なトッドをスパイダーマンで人気となったトム・ホランド。ヴァイオラを『スター・ウォーズ』3部作でレイを演じたデイジー・リドリー。ノイズは頭の周りにタバコの煙のように現れ、これは特殊効果のスタッフが一番考えたところでしょう。能力が高ければノイズは力となり、形を結んだり、人を操ったりもでき、唯一自分のノイズをコントロールできるのがプレンティス首長。その力で周りを従わせている権力者をマッツ・ミケルセン。迫力です。
原作は3部作のヤングアダルト向けの長編でいずれも受賞しています。長尺の原作を1本の映画脚本にしたのは、原作者のパトリック・ネス。映画だから可能な表現をおおいに楽しんだようすです。原作も読んで見比べてみたいのですが、いつになるやら。
地球に住めなくなる日が来ると想像したくありませんが、地球に害成す人類は地球によって淘汰されてしまわないか、とそれが怖い。(白)
2021 年/アメリカ・カナダ・香港/カラー/109 分/ドルビーデジタル/スコープサイズ
配給:キノフィルムズ
(C)2021 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved
https://cw-movie.jp/
Twitter:@ChaosWalking_jp
★2021年11月12日(金)より TOHO シネマズ 日比谷ほかにて公開
ミムジー・ファーマー主演の2本
『MORE モア』(原題:More)
監督:脚本:バーベット・シュローダー
撮影:ネストール・アルメンドロス
音楽:ピンク・フロイド
出演:ミムジー・ファーマー(エステル)、クラウス・グリュンバーグ(ステファン)、ハインツ・エンゲルマン(ウォルフ)、ミシェル・シャンデルリ(チャーリー)、ヘンリー・ウルフ(ヘンリー)、ルイズ・ウィンク(キャシー)
ドイツ人の若者ステファンは学業を放り出し、自分探しの旅に出た。資金が底をつく頃、賭けでステファンに勝ったチャーリーとつるむことになった。ある夜、2人で潜り込んだパーティで、ステファンはアメリカ人女性エステルに一目ぼれする。チャーリーの忠告を聞き流し、彼女を追ってイビサ島を訪れる。眩しい陽光と青い海に囲まれた大自然の中で愛し合い、自由で幸せな日々を過ごすステファンとエステルだったが、エステルが隠し持っていたヘロインが2人の運命を大きく変えていく。
アメリカ出身の女優ミムジー・ファーマーは今回2本のリバイバル上映で知りました。金髪のショートカット、スタイル良く青春スターの外観で、悪女の片鱗もないのですが、関わった相手も自分もいつのまにやら破滅させてしまうという。まぜるな危険じゃなく「近づくな危険」の女子でした。本作ではバイセクシュアルの麻薬中毒者を鮮烈に演じて、一躍人気とになったそうです。ピンク・フロイドが初めて映画音楽を手がけています。1969年には『明日に向って撃て』『真夜中のカーボーイ』や『イージー・ライダー』なども本国でヒットしています。なんだか時代の共通点があるような。(白)
1969年/西ドイツ・フランス・ルクセンブルク合作/カラー/スコープ/116分/R15+
(C)1969 FILMS DU LOSANGE
日本初公開:1971年2月20日
『渚の果てにこの愛を』(原題:La route de Salina)
監督・脚本:ジョルジュ・ロートネル
原作:モーリス・キュリー
出演:ミムジー・ファーマー(ビリー)、ロバート・ウォーカー(ジョナス)、リタ・ヘイワース(マラ)、エド・べグリー(ワレン)、ブルース・ぺシュール(チャーリー)、デビッド・サックス(警察署長)
港町サリナへと続く一本道。荒野にガソリンスタンド兼食堂がポツンとある。若い旅人のジョナスが立ち寄り、女主人と目が合った。すると「ロッキー!」と呼ばれた。4年前に家を出たきりの息子と間違えているらしい。妹だという美しい娘ビリーも兄と呼んで抱きついて再会を喜んでいる。そんなに似ているのかととまどうジョナスだったが、行く当てもないので、そのままロッキーとして二人と暮らすことにした。
『MORE/モア』で一躍時の人になったミムジー・ファーマーのもう一つの代表作。こちらは人違いをされたまま、他人になりきって暮らしてしまう男と、その裏にある真実が描かれます。荒野の先は青い海と砂浜。平和そうな田舎町で何が起こっていたのか、可憐なミムジー・ファーマーのヌードにくらくらしていると、あなたもき・け・ん。(白)
1970年/フランス・イタリア合作/カラー/スコープ/95分/R15+
© 1970 STUDIOCANAL - Fono Roma - Selenia Cinematografica S.R.L. All Rights Reserved.
日本初公開:1971年6月19日
https://mimsyfarmer2021.com/
配給:コピアポア・フィルム
★2021年11月5日(金)新宿 シネマカリテにてロードショー