2021年11月30日
悪なき殺人 原題: Seules les Bêtes 英題: Only the Animals
監督:ドミニク・モル (『ハリー、見知らぬ友人』『マンク 破戒僧』)
出演:ドゥニ・メノーシェ (『エンテベ空港の 7 日間』『ジュリアン』)、 ロール・カラミー (『女っ気なし』) 、ダミアン・ボナール (『ダンケルク』『レ・ミゼラブル』)、ナディア・テレスキウィッツ、バスティアン・ブイヨン、ギイ・ロジェ・“ビビーゼ”・ンドゥリン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ
南仏、銀世界のコース高原。
吹雪の夜。パリからコース高原にやって来た女性が、雪道に車を残して行方不明になり夫が心配しているというニュースが流れる。
父と夫と3人で暮らす社会福祉士のアリス(ロール・カラミー)
牧牛業を営むアリスの夫ミシェル(ドゥニ・メノーシェ)
母親を亡くし、一人暮らしの羊飼いジョゼフ(ダミアン・ボナール)
同居している父から、夫との不仲を心配されるアリス。実は、ジョゼフと浮気している。
南仏の港町セートのレストランで働く若い女性マリオン(ナディア・テレスキウィッツ)。
食事に来た20歳年上のエヴリーヌ(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)と愛を交わす。突然去ったエヴリーヌを追いかけて、コース高原に行くが、夫の家だから泊めてあげられないと言われる。
西アフリカのコートジボワールの旧首都アビジャン。青年アルマン(ギギイ・ロジェ・“ビビーゼ”・ンドゥリン)は、ネットで見つけたマリオンの写真を借用し、若く魅惑的な女性アマンディーヌを装い、ロマンス詐欺を企む。それが、どんな事態を引き起こすか、その時には誰も知らなかった・・・
南フランス、そして、5000km 離れた西アフリカ・アビジャン。
2つの地で暮らすアリス、ジョゼフ、マリオン、アマンディーヌことアルマン。
それぞれの視点で語られる出来事。観ている私たちは、偶然が生む勘違いにハラハラさせられます。
『悪なき殺人』という公開タイトルのため、すぐには気がつかなかったのですが、2019年の東京国際映画祭で『動物だけが知っている』のタイトルで上映され、観客賞と主演女優賞を取った作品。
第32回東京国際映画祭レッドカーペットでのナディア・テレスキウィッツさんとドゥニ・メノーシェさん(撮影:宮崎暁美)
最優秀女優賞を受賞したナディア・テレスキウィッツさんは、帰国してしまい、授賞式では、ドゥニ・メノーシェさんが代理でトロフィーを受け取りました。(撮影:宮崎暁美)
第32回東京国際映画祭 クロージングセレモニー
http://www.cinemajournal.net/special/2019/tiff/index4.html
観客賞を受賞し、シネジャのミッキーさんも、「最高の群像サスペンス。最後のシーンで観ている全員が息をのんだ。公開が待たれるが1日も早くとお願いしたい作品」と当時、書いていて、観られなかったことを残念に思っていた作品でした。
冒頭、アビジャンの町の喧騒の中を、鹿(?)を背負ったアルマンが自転車で駆け抜け、黒魔術師に助言を求めにいきます。ぞくぞくする序章。折に触れて出てくる犬や牛や羊… 『動物だけが知っている』という原題に近いタイトルの方が、よりこの映画の魅力を伝えてくれると感じます。(咲)
2019 年/フランス、ドイツ合作/フランス語、ヌシ語//116分/カラー/シネスコ/5.1ch/R15+
日本語字幕:高部義之
配給:STAR CHANNEL MOVIES
© 2019 Haut et Court – Razor Films Produktion – France 3 Cinema visa n° 150 076
公式サイト:https://akunaki-cinema.com/
★2021年12月3日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー!
12月4日(土)デジタル公開決定
2021年11月28日
天才ヴァイオリニストと消えた旋律 原題:The Song of Names
監督:フランソワ・ジラール
製作総指揮:ロバート・ラントス
音楽:ハワード・ショア
ヴァイオリン演奏:レイ・チェン
原作:ノーマン・レブレヒト著「The Song of Names」
出演:ティム・ロス、クライヴ・オーウェン、ルーク・ドイル、ミシャ・ハンドリー、キャサリン・マコーマック
1951年、ロンドン。21歳のユダヤ人の天才ヴァイオリニスト、ドヴィドル・ラパポートの初演奏を待ち構える貴族や国会議員、タイムズ紙の批評家たち。開演時間が間近に迫る。ドヴィドルをサポートし初舞台を企画したギルバード・シモンズ(スタンリー・タウンゼント)と、その息子マーティンがやきもきして待つが、ドヴィドルはとうとう現れなかった。
35年後、マーティン(ティム・ロス)は、妻のヘレン(キャサリン・マコーマック)と二人で暮らしていた。忽然と消えたドヴィドルのことを、マーティンは片時も忘れたことがなかった。第二次世界大戦下、ヴァイオリンの指導者を探してポーランドから父親に連れられてやってきたユダヤ人の少年ドヴィドル。その才能を見抜いて父が家に引き取った時、マーティンは同い年の9歳だった。自信満々で生意気なドヴィドルを嫌っていたマーティンだったが、ナチスドイツがポーランドに侵攻したニュースに、家族の写真を見ながら涙するドヴィドルを励ましたことをきっかけに、二人は兄弟のような絆を結んでいたのだ。
ある日、コンクールの審査員をしていたマーティンは、あるヴァイオリニストが演奏前にドヴィドルと同じ仕草をしたのを見て、ドヴィドルが生きていることを確信。探し出す旅に出る・・・
ポーランドにいたドヴィドルの両親や姉妹は、終戦後、行方不明になってしまい、マーティンの父がポーランドに赴いて探すのですが、トレブリンカ収容所に移送されたという記録だけが残っていました。このことが、初演奏にドヴィドルが戻ってこなかったことと深く関わっていたのです。
原作では、ドヴィドルを引き取ったロンドンの家族もユダヤ人だったのを、映画ではキリスト教の家庭に変更。マーティンは、「ドヴィドルのせいでベーコンも食べられない」と文句を言っていて、ユダヤの食習慣に配慮していたことが伺えます。13歳の時に行うユダヤの成人式「バル・ミツバ」にもマーティンは臨席するのですが、その後、ドヴィドルはシナゴーグでマーティンを立ち会わせて、タリス(お祈りの時のショール)やキッパ(帽子)を切り刻み、ユダヤであることを捨てます。そんな彼が、またユダヤであることを自ら選んだのが、この映画の肝。いったい何があったのか、どうぞ劇場でご確認ください。
映画の原題にもなっている「The Song of Names(名前たちの歌)」は、ホロコーストで犠牲になった人たちの名前を美しい旋律で記憶に留めたもの。犠牲になった人たちの名前を後世に伝えて、魂を悼むものなのです。
ユダヤ人が「記憶の民」であることを思い起こさせてくれる物語でしたが、ユダヤでない監督が、よく丹念に調べて作られたと感心しました。 堀木さんによる監督インタビューをぜひお読みください。(咲)
『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』フランソワ・ジラール監督インタビュー
2019年/イギリス・カナダ・ハンガリー・ドイツ/英語・ポーランド語・ヘブライ語・イタリア語/DCP/スコープサイズ/5.1ch/113分
字幕翻訳:櫻田美樹
配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ
公式サイト:https://songofnames.jp/
★2021年12月3日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国公開
ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド(原題︓SHOPLIFTERS OF THE WORLD)
監督・脚本︓スティーヴン・キジャック
出演︓ヘレナ・ハワード(クレオ)、エラー・コルトレーン(ディーン)、エレナ・カンプーリス(シーラ)、ニック・クラウス(ビリー)、ジェームズ・ブルーア(パトリック)、ジョー・マンガニエロ(DJフルメタル・ミッキー)
1987年9月、ザ・スミス解散のニュースが駆け巡った。コロラド州デンバー。スーパーで働くクレオは、大好きなザ・スミスが解散したというのに、何も変わらない日常に傷つく。行きつけのレコードショップの店員ディーンに怒りをぶちまけ、「この町の連中に一大事だと分からせたい」と訴える。クレオに恋しているディーンは、地元のヘビメタ専門のラジオ局に向かい、「ザ・スミスの曲をかけろ」とDJに銃を突きつける。その頃、クレオは明日入隊するビリー、友達のシーラ、パトリックの仲良し4人組でバカ騒ぎをしていた。ラジオからディーンが強要したザ・スミスの曲が流れてくる。
スティーヴン・キジャック監督はウォーカー・ブラザーズの伝記映画やローリング・ストーンズ、Xジャパンのドキュメンタリーを撮った監督。本作はザ・スミスの解散のニュースに端を発した電波ジャック事件を主軸に、将来に悩む若者たちを描いています。クレオには心の拠り所だったザ・スミス。大人にはその存在の大切さが理解できません。自分の若いころだって形は違えど、何かしらあったはずですが、日常に追われるうちにどこかへ埋もれてしまってるんでしょう。
ディーンがありったけの勇気をふりしぼったに違いない行動は、DJを動かして、ラジオを聴いている若者たちに届きます。DJも傾倒しているものがあるからこそ、彼らの気持ちがわかるんですね。バカだなぁと思いつつ、若いゆえの純粋さにうるっとしました。
ディーン役のエラー・コルトレーンはリチャード・リンクレイター監督の『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)で、実際に12年かけて主人公のメイソンを6歳から18歳まで演じています。とっても可愛い男の子でしたが、今27歳になっていました。(白)
2021 年/アメリカ=イギリス/カラー/シネスコ/91分/
配給:パルコ
©2018 SOTW Ltd. All rights reserved
https://sotw-movie.com/#modal
★2021年12月3日(金)TOHOシネマズシャンテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショー
彼女が好きなものは
監督・脚本:草野翔吾
原作:浅原ナオト「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」(角川文庫)
撮影:月永雄太
出演:神尾楓珠(安藤純)、山田杏奈(三浦紗枝)、前田旺志郎(高岡亮平)、三浦獠太(小野雄介)、池田朱那(今宮くるみ)、三浦透子(佐倉奈緒)、渡辺大知(近藤隼人)、山口紗弥加(安藤みづき)、磯村勇斗(Mr.ファーレンハイト)、今井翼(佐々木誠)
⾼校⽣の安藤純は⾃分がゲイであることを隠している。ある日、書店でクラスメイトの三浦紗枝が、男性同⼠の恋愛をテーマとした、いわゆるBLマンガを購⼊しているところに遭遇。BL好きを隠している紗枝から「誰にも⾔わないで」と口止めされ、そこから2人は急接近。しばらしくて、純は紗枝から告白される。「⾃分も“ふつう”に⼥性と付き合い、“ふつう”の人生を歩めるのではないか?」。
一縷の望みをかけ、純は紗枝の告⽩を受け⼊れ、付き合うことになったのだが…。
高校生の恋愛ものにひとひねり。最近あちこちで見かける神尾楓珠くん(濃いイケメンなので目にとまる)がゲイであることで悩む男子高校生。映画初主演。今ドラマ「顔だけ先生」主演でも注目されています。『ミスミソウ』(2018)で仰天させられた山田杏奈さん溌剌としていて制服姿も可愛いです。純の親友亮平役に前田旺志郎くん、ついこの前『うみべの女の子』でも見たばかりで、転校してきたの?と思ってしまうくらい、高校生役がはまります。それもこんな友達がいてほしいというタイプ。つっかかる隼人も正直。
”ふつう”でいたい純が悩むのを母親が必死で支えようとしていて、つい母親の気持ちになって自分ならどうするかと考えてしまいます。紗枝も一時引いてしまいますが、なんとか立ち直ります。今井翼さん演じる佐々木誠には、もっと大人なりの対処の仕方があったのでは、と不満。それもストーリーのうちですが、ハリセンで叩いてやりたいと思ってしまうのは私だけ?(白)
2021年/日本/カラー/シネスコ/121分
配給:バンダイナムコアーツ、アニモプロデュース
(C)2021「彼女が好きなものは」製作委員会
https://kanosuki.jp/
★2021年12月3日(金)ロードショー
スティール・レイン 原題:강철비2: 정상회담(鋼鉄の雨2:頂上会談) 英題:Steel Rain 2:Summit
監督/脚本:ヤン・ウソク(『弁護人』)
撮影:キム・テソン
照明:ソン・ジェホ
美術:ヤン・ホンサム
音楽:キム・テソン
出演:チョン・ウソン、クァク・ドウォン、ユ・ヨンソク、アンガス・マクファーデン、白竜
長らく分断が続く韓国と北朝鮮。「平和協定締結」に向け、韓国のハン・キョンジェ大統領(チョン・ウソン)、北朝鮮の若き最高指導者チョ・ソンサ委員長(ユ・ヨンソク)、そしてアメリカのスムート大統領(アンガス・マクファーデン)による首脳会談が北朝鮮のウォンサン(元山)で開催された。北朝鮮と米国の間で意見が割れ膠着状態が続く中、風速90メートルを超える大型台風「鋼鉄の雨<スティール・レイン>」が接近していた。そんな折、北朝鮮の護衛司令部パク・ジヌ総局長(クァク・ドウォン)が、核兵器を放棄してアメリカと外交関係を結べば北朝鮮は破滅するとして、軍事クーデターを起こし、三首脳を弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦「白頭号」に拉致監禁する・・・
冒頭、アメリカが日本と結託して、中国を政治的にも軍事的にも壊滅させる影武者作戦が語られます。実はそれは、北朝鮮が核を放棄すれば軍備の必要性がなくなってしまうため、なんとしてでも日本と中国を戦わせるよう仕向けたいアメリカの戦略だと、のちに明かされます。南北和平を取り持つフリをして、裏では次に儲ける方法を考えているという、いかにもありそうな話に唸ります。
緊迫感溢れる中で、チョン・ウソン演じるハン大統領が、バランス感覚のある対応で和ませてくれます。家では、数学教師の妻にいつも押され気味の大統領ですが、「(1953年に締結した朝鮮戦争の)休戦協定に、韓国は署名していない」という言葉には、妻もはっとさせられています。国連軍と中朝連合軍が署名し、韓国は署名していないのです。え?そうなの?と、私も知らなかった。
先日、文在寅大統領が国連総会の演説の中で、休戦状態の朝鮮戦争について終戦を宣言するよう北朝鮮、中国、米国に呼びかけましたが、韓国自体が休戦協定に署名していないという背景を知ると、複雑です。(咲)
朝鮮半島と日本、複雑な関係を理解していないと、けっこう難しい作品。
1953年の朝鮮戦争休戦協定に、韓国は同意していないということは思ってもいなかった。日本語の正式名称は「朝鮮における軍事休戦に関する一方国際連合軍司令部総司令官と他方朝鮮人民軍最高司令官および中国人民志願軍司令員との間の協定」というのだそう。だから北と南はいまだ分断されたままということなのですね。改めて思った。そして、1965年に締結された「日韓基本条約」は「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約」が正式名称。日本と韓国との条約であって、北朝鮮とは締結していないということを、この作品を観て、改めて思った。それにしても潜水艦のなかでの攻防、ヒヤヒヤハラハラの連続でした。こんなことが実際起こったらどうなることやらです。領土問題をめぐって、こういうことになりかねない状況が出てきそうな世界情勢。人間の機知をあわせ世界平和を維持したいものですが、どうなることやら(暁)。
すぐお隣の国なのに、実はよく知らないような感じがします。学校の授業で学ぶことも少ないうえ、日本はアジアの隣人より欧米のほうを見がち。韓流、韓ドラの人気が高いのですから、もっと理解が進めばいいのにと思います。
この作品もそうですが、日本よりも韓国の映画人の方々が難しい題材を果敢に扱っています。自分の国の批判も忘れていません。ソウルを一度訪ねただけですが、いい思い出しかありません。コロナが収まったら再訪したい国です。次は映画を観たいものです。(白)
2020年/韓国/韓国語/132分/スコープサイズ/5.1ch
配給:ハーク 配給協力:イーチタイム
公式サイト:https://www.hark3.com/steelrain/
★2021年12月3日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
ベロゴリア戦記 第2章:劣等勇者と暗黒の魔術師(原題:The Last Warrior: Root of Evil)
監督:ドミトリー・ディアチェンコ
脚本:ヴィタリー・シュリャッポ、ドミトリー・ジャン、ワシリー・クツェンコ、パヴェル・ダニロフ、イゴール・トゥドヴァセフ
撮影:パベル・カピノス
音楽:ジョージ・カリス
出演:ヴィクトル・ホリニャック(イワン)、ミラ・シヴァツカヤ(ヴァシリーサ)、エカテリーナ・ヴィルコワ(ヴァルヴァラ)、コンスタンチン・ラヴロネンコ(コシチェイ)、イェーレナ・ヤコブレワ(バーバ・ヤーガ)、セルゲイ・ブルノフ(ヴォジャノーイ)
ベロゴリアにようやく平和が訪れ、イワンはヴァシリーサと共に暮らしていた。たびたび人間界に戻って最新機器を持ち帰り便利さを自慢しているが、ヴァシリーサはそんな文明の利器が好きではない。イワンは結婚して人間界へ行こうと誘うが気が乗らずにいた。一方闇に潜んでいた強大な敵が目覚めるときが近づいていた。そうとは知らず、力比べの大会を前にいまだ戦士の能力が覚醒しないイワンは、恋敵の出現に心穏やかではない。ヴァルヴァラも復活し、イワンの剣を狙っている。そして意外な人物がそこに…。
第1章の続きのこの第2章も本国で大ヒット。前作よりさらにダイナミックなアドベンチャー+アクション色が濃くなっています。イワンは相変わらずお調子者で、バーバ・ヤーガのベリーを盗んだり嘘をついたり懲りない男です。スマイルマーク立体版のようなコロボークや巨人も登場。コロボークとお話に登場するジャガイモ団子(バスケットボール大)が、イワンが優しくしてくれたと旅の友になります。自分で「イワンの馬鹿」と言うやつですが、いいところもありました。テーマがなかなか深いのですよ。
ラストに明かされる過去におおっとびっくりします。第3章も控えているようですが、どんな未来になるのでしょう?お楽しみに。(白)
2021年/ロシア、アメリカ/カラー/シネスコ/121分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)Disney 2020 (C)YBW Group 2020
https://belogorie.jp/
★2021年12月3日(金)よりロードショー
2021年11月27日
ナチス・バスターズ 原題:Krasnyy prizrak 英題:The Red Ghost
監督・製作・脚本:アンドレイ・ボガティレフ
出演:アレクセイ・シェフチェンコフ(『セイビング・レニングラード』)、ウラディミール・ゴスチューキン、ユーリー・ボリソフ(『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』『ワールドエンド』)、オレグ・バシリコフ、ポリーナ・チェルニショワ、ウォルフガング・セルニー(『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』)、ミクハイル・ゴレボイ、パベル・アブラメンコフ、コンスタンティン・シモノフ、ブヤチェスラフ・シクハリフ、ポール・オルリヤンスキー、ミクハイル・メリン
1941年、冬。ドイツ軍はソ連に侵攻したが、モスクワを目前に戦線が膠着していた。一匹狼のロシア狙撃兵が、ドイツ兵を次々と射殺しているらしいという噂が広まり、ドイツ兵はその正体不明の死神を《赤い亡霊》と呼び、いつ狙撃されるか分からない恐怖に怯えていた。
そんな中、頭に袋を被せられたロシア人の男がドイツの大尉の前に連れて来られる。負傷兵を癒すための役者だという。「芝居をして見せろ!」と命じられ、ヒトラーの演説の真似をするが、「笑えない」と怒鳴る大尉が、銃弾に倒れる。《赤い亡霊》が木陰から狙い撃ちしたのだ。《赤い亡霊》に助けられた5人のロシア兵の一行は、部隊とはぐれて味方の戦線に戻ろうと敵地を進んでいたのだった。一行の中には役者のほか、看護師で妊婦のベラもいた・・・
ヒトラー風の格好をしていてもドイツ語は話せないロシア人の役者。そして、ドイツの将校はロシア語を解さないので、多少ロシア語のわかる若いドイツ兵が通訳を務めるのですが、完璧な通訳はできません。人と人とが対面した、かつての戦争では、言葉が通じないことで誤解が生じて、殺しあうことになってしまったことも多々あるのではと思いました。
冗談の通じなさそうな四角四面のドイツ兵に対して、ロシア人の小話(アネクトード)好きを垣間見ることができました。イギリス兵とフランス兵とロシア兵が、ドイツ兵に捕まって、「最後の望みは?」と聞かれた時のお国柄の出た答え。別の話もあるよと、ほんとにロシア人は小話好き。
あと、圧巻は、看護師のベラが産気づいたとき、これまでに3回お産に立ち会っているというロシア兵が、みごと、男の子を取り上げる場面。戦地に臨月の身で参加していたとはと驚きます。
映画は、「名もなき戦士に捧ぐ」と終わりました。80年前、極寒の戦地で、命を落とした人たちを悼む作品でした。(咲)
冒頭からハラハラの連続で、緊張感が続きます。ドイツ軍のブラウン大尉はモデルばりのイケメンですが冷血。兵隊になったばかりのグンターは心優しい若者で、子豚を可愛がったり妊婦のベラをかばったりします。古参の兵はそんな彼にわざわざ辛い役目を押しつけ、戦争は人を歪ませるとつくづく思います。
5人のロシア兵が30人のドイツ兵と闘うときにブラウン大尉は入浴中で素っ裸。いちいち入るボカシが一緒に動き、きりりとした軍服姿と違って無防備で笑わせてくれます。どうしても酒が飲みたいロシア兵もいて、笑ってる場合ではないんですけどところどころにそんなシーンがありました。極寒の地で命がけの闘いを続ける戦争映画ですが、キレキレのエンタメ作品でもありました。(白)
こちらも、あわせてどうぞ!
11/19公開 『1941 モスクワ攻防戦80年目の真実』
2020年/ロシア映画/ロシア語・ドイツ語/99分/シネマスコープ
字幕:仲村渠和香子
提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム
公式サイトhttps://nazisbusters.com/
★2021年12月3日(金)よりグランドシネマサンシャイン池袋ほか全国順次公開
グロリア 永遠の青春 原題:GLORIA BELL
監督 :セバスティアン・レリオ(『グロリアの青春』『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』『ナチュラルウーマン』)
出演 :ジュリアン・ムーア(『アリスのままで』)、ジョン・タトゥーロ(『バートン・フィンク』)
アメリカ、ロサンゼルス。アラフィフのグロリア・ベルは、10年前に離婚し、息子や娘も独り立ちし、自由な日々を送っている。ある夜、よく行くクラブでアーノルドという男性から声を掛けられる。紳士的で知的なアーノルドは、1年前に離婚したという。意気投合して付き合い始めるが、デート中に元妻や娘から電話が入るのが気になる。グロリアの息子ピーターの誕生日パーテイにアーノルドを連れていくが、今度は彼のほうが話の輪に入れず、黙って帰ってしまう。後日、彼から何度も電話が入る。なかなか電話に出なかったグロリアだが、再び、アーノルドと付き合うことにし、二人はラスベガスに飛ぶ。久しぶりの二人の楽しいひととき、元妻が大怪我をしたとの娘からの電話が飛び込んでくる・・・
本作は、ジュリアン・ムーアが、チリのセバスティアン・レリオ監督の『グロリアの青春』に惚れ込みリメイクを熱望して実現したもの。『グロリアの青春』は、チリの首都サンティアゴを舞台に、58歳の離婚を経験したキャリアウーマンの女性が、元海軍将校で実業家の男性と出会い一夜をともにし、恋に落ちる物語。本筋はそのままに、ハリウッドの豪華キャストで生まれ変わらせています。
アーノルドと出会い、「この年で恋すると思わなかった」というグロリア。70過ぎと思われる母親からは、「人生、あっという間よ」と、年なんか気にせず、恋もしなさいと言われているよう! 恋もいいけど、男に振り回されるのは、真っ平。男なんて、アテにせず、自由に生きるのが一番!と思わせてくれました。とはいっても、心ときめく人が現れるといいなと、いくつになっても思うものです♪ (咲)
『グロリアの青春』も本作も、なんて(恋愛に)マメなの!と思って観ていました。「人生あっというま」なのは、身に染みて感じていますが、今更めんどくさいのは勘弁。
映画やドラマは他人ごとなので、めっちゃロマンチックか、問題山積みなのを解決していくのが面白いです。本作もそちら。グロリアがダンス好きということで「Love is in the air」はじめ楽曲がとてもいいです。1960年生まれのジュリアン・ムーア、色気と才気減りませんね。インタビュー映像はこちら。(白)
2018年/アメリカ/英語/101分/カラー/シネスコ/5.1ch
字幕翻訳:栗原とみ子
提供:木下グループ 配給:キノシネマ
© 2018 GLORIA FILM DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/gloriabell
★2021年12月3日(金) キノシネマ他、全国順次公開
ベロゴリア戦記 第1章:異世界の王国と魔法の剣(原題:The Last Warrior: Root of Evil)
監督:ドミトリー・ディアチェンコ
脚本:ヴィタリー・シュリャッポ、ドミトリー・ジャン、ワシリー・クツェンコ、パヴェル・ダニロフ、イゴール・トゥドヴァセフ
撮影:パベル・カピノス
音楽:ジョージ・カリス
出演:ヴィクトル・ホリニャック(イワン)、ミラ・シヴァツカヤ(ヴァシリーサ)、エカテリーナ・ヴィルコワ(ヴァルヴァラ)、コンスタンチン・ラヴロネンコ(コシチェイ)、イェーレナ・ヤコブレワ(バーバ・ヤーガ)、セルゲイ・ブルノフ(ヴォジャノーイ)
人気TV番組に魔術師として出演するイワン。魔術が使えるわけではなく、孤児院で育ち口先だけで生き抜いてきたペテン師。騙した相手は数知れず、その日も嘘がばれて逃走劇を繰り広げ、プールのウォータースライダーに逃げ込んだ。飛び出したのは全く見覚えのない世界。目の前には魔法使いのようなお爺さん。なぜかイワンを待っていたらしい。ここはベロゴリア王国で、イワンは戦士イリヤの息子に生まれてすぐ人間界に隠されていたのだ。そして今、王国を救う「救世主」として召喚されたんだそうだが…イワンには電波の届かないスマートフォンがあるだけだった―。
ディズニー・ロシアが送り出す異世界ファンタジー。イワンは人間界から異世界に召喚されて、王国を救わねばならないのですが、強大な敵の前になんのスキルもありません。そこに賢くて勇敢な娘ヴァシリーサが現れ、力を合わせて闘うことになります。イワンがまた調子のいい奴で、ペテン師で食べていけたのも納得。
この頼りないイワンを助けてロシアの民話や神話に登場する妖怪たちも活躍します。バーバ・ヤーガはロシア版山姥。鳥の足が生えている小屋に住んで、どこへでも移動する人食い妖怪。「美しいヴァシリーサ」というお話では、ヴァシリーサは継母の使いでバーバ・ヤーガの小屋で働かされますが、亡くなった母が残してくれた人形の知恵で切り抜けるヒロインでした。ヴォジャノーイは沼や川に住む水の精で、大事にすると豊漁となり、粗末にすると人間を引きずり込みます。どちらもロシアのベテラン俳優が演じています。
2017年、ロシアでは大ヒットし、2020年に第2章が作られました。作りこんだ異世界を舞台に、馴染みのあるキャラが活躍するので、大人も子どもも大いに楽しんだはず。悪役がまた迫力あるんですよ。ファンタジー好きな方、ご覧くださいませ。(白)
2017年/ロシア/カラー/シネスコ/114分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)Disney 2017 (C)YBW Group 2017
https://belogorie.jp/
★2021年11月26日(金)よりロードショー
ダ・ヴィンチは誰に微笑む (原題:The Savior For Sale)
監督:アントワーヌ・ヴィトキーヌ
編集:イヴァン・ドゥムランドル、タニア・ゴールデンバーグ
撮影監督:グザヴィエ・リバーマン
関係者(インタビュイー):ロバート・サイモン/ 美術商、「サルバトール・ムンディ」の発⾒者
ルーク・サイソン /ナショナル・ギャラリー学芸員
マーティン・ケンプ /オックスフォードの美術歴史家、ナショナル・ギャラリーとクリスティーズの主任専⾨家
マシュー・ランドラス /オックスフォードの美術歴史家、マーティン・ケンプの反駁者
スコット・レイバーン /ニューヨーク・タイムズ紙記者
ウォレン・アデルソン /美術商、「サルバトール・ムンディ」の販売者
ニコラス・ジョリー /サザビーズ・フランスの元副社⻑
イブ・ブービエ /美術商、ドミトリー・リボロフレフのアドバイザー
エルヴェ・ティマイム /ドミトリー・リボロフレフの弁護⼠
アン・ラミュニエール /クリスティーズ・ジュネーヴの元代表
クリス・ドルコン /フランス国⽴美術館連合、グランパレ元代表
“アリア・アル・セヌッシ王⼥ /” サウジアラビア⽂化⼤⾂バッダー王⼦のアドバイザー
“ピエール” /フランス⽂化⼤⾂の⾼官
“ジャック” /政府⾼官
2017 年、レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の絵画とされる「サルバトール・ムンディ」(世界の救世主の意)が、史上最⾼額となる510 億円で落札された。100年間所在が不明だったが、2005年にアメリカの美術商がダ・ヴィンチの模写と紹介されていた古い絵画を発見、わずか1175ドル(約13万円)で手に入れた。著名な修復家が洗浄し、修復を進めるうちに模写でなく原画の可能性が高まる。2008年ダ・ヴィンチの研究家たちが集められ、調査する。ダ・ヴィンチの権威の研究者のお墨付きを得て、ロンドン・ナショナル・ギャラリーは2012~2013年「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」を開催した。以後このお宝の元に金儲けに目のない輩が集まってくる。
レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画といえば誰もが思い浮かべるのは「モナ・リザ」でしょう。この一回り小さいサイズの「サルバトール・ムンディ」はやわらかい微笑をたたえ、雰囲気が似ていて通称「男性版モナ・リザ」と呼ばれています。この作品が発見されてから、オークションで史上最高額で落札されるまでに、何があったのか?本物だったのか?今どこにあるのかまで、多くの関係者のインタビューを並べて、紐解いていきます。
驚くのは作品が人の手に渡るたびに値が吊り上がること。委託されたのに「中抜き」して商慣習だと開き直る人がいること。規定の手数料をもらっているのに、です。それがばれて、多額ですから訴訟沙汰になりました。売るオークション側も都合の悪いことには触れず、売り切って手数料を稼ぐんです。
500年も前に描かれた作品の真贋を決定するのは至難の業。この作品も工房で弟子が描いたものという意見もあり、真筆と判断した研究家も間違うこともあると言っています。弟子の手になるのか、本人なのか、はたまたいくらかは手が入っているのかは大きな差ですが、それはマーケット内でのこと。美術ファンは最後の1枚と言われるこの作品を一目観たいはず。大衆の目に触れることなく、破格の値がつく投機対象や政治の取引に使われてしまうことは、残念です。
アントワーヌ・ヴィトキーヌ監督は、初めはサウジアラビアの皇太子のドキュメンタリーを撮っていて、ヒョウタンから駒のようにこの絵画の取引の顛末を追いかけることになったようです。裏側は面白いですねぇ。(白)
思いもかけず、サウディアラビアが絡んでいることに興味津々。
イエス・キリストを描いた肖像画である「サルバトール・ムンディ」をなぜイスラームの盟主サウディアラビアが?と思う方もいるかもしれませんが、イスラームにおいても、イエス(アラビア語でイーサー)は預言者の一人。不思議はありません。
ムハンマド・ビン・サルマーンが皇太子になって以来、女性の自動車運転を認めたり、映画館を復帰させるなど、外に向けてアピールする改革を進めていますが、文化にも力を入れている証に「サルバトール・ムンディ」を購入したのだとしても、超高額での落札は、いかにも石油成金の金満国家らしい!
古代都市マダイン・サーレハ付近の沙漠をいく車の隊列の場面があって、おぉっと思ったのですが、アル・ウラ遺跡の観光開発のためにフランスと協定を結んだことが語られていました。
サウディアート委員会も結成されていて、メトロポリタン美術館並みの美術館を5つ作るという話も。
なので、ますますサウディアラビア王室が落札したのではないかという推理は真実味があります。
思えば、冒頭、いくつかのニュースが出てくる最初に、「サウディアラビアが攻撃してイエメン紛争が激化」とありました。うがった見方をすれば、金に飽かせてのやりたい放題を揶揄しているようにも思えました。
そんな中でも、サウディアラビア文化大臣バドル王子のアドバイザーであるアリア・アル・セヌーシ王女が、髪の毛も顔も出して、歯切れのいい物言いをしているのは実に痛快でした。(咲)
2021年/フランス映画/カラー/ヴィスタ/100 分/5.1ch デジタル
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/last-davinci/
★2021年11月26日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開
CHAIN チェイン
監督:福岡芳穂
脚本:港岳彦
撮影:栢野直樹
音楽:中城隆
出演:上川周作(山川桜七郎)、塩顕治(斎藤一)、池内祥人(松之助)、村井崇記(藤堂平助)、佐々木詩音(大石鍬次郎)、延岡圭悟(窪川藤次)、松本薫(惣吉)、和田光沙(お染)、辻凪子(お鈴)、土居志央梨(花香太夫)、駒野侃(永倉新八)、宮本伊織(原田左之助)、東山龍平(中岡慎太郎)、山本真莉(つる)、鈴川法子(ふね)、水上竜士(萱野長修)、福本清三(水野弥三郎)、大西信満(土方歳三)、山本浩司(近藤勇)、渋川清彦(武田観柳斎)、高岡蒼佑(伊東甲子太郎)
幕末・京都。会津を脱藩した浪人山川桜七郎は、賭場の用心棒として雇われていた。賭場の胴元、侠客・水野弥三郎に御陵衛士の篠原泰之進、藤堂平助が資金繰りの相談をしている時、九州の菓子屋の息子・松之助が賭け金の持ち逃げで引っ立てられてくる。同郷と知った篠原が松之助を救い藤堂らと出ていこうとした時、陰間乞食・惣吉が襲い掛かり、咄嗟に篠原は惣吉の脇腹を斬るが、同時に用心棒の桜七郎が藤堂の前に立ちはだかった。藤堂は刀を交える中で桜七郎に対し侍としての共感を抱き、御陵衛士への合流を誘う。しかし桜七郎は無言で去る。片や松之助は屯所の下男として御陵衛士盟主・伊東甲子太郎始め仲間たちから快く迎え入れられる。そんな様子を、斎藤一がじっと見つめていた。
「京都芸術大学映画学科」プロジェクト【北白川派】第8弾。1867年11月18日に起こった新撰組終焉の象徴“油小路の変“を、よく知られた人物でなく、新しく浪人山川桜七郎を作り出して中心において描いています。このときの時代背景や暗殺にいたるまでは、新撰組に詳しい方々ならよくご存知かと思います。私は池田谷事件は知っていても、伊東甲子太郎が謀殺されたこちらは知りませんでした。新撰組は脱退が禁じられていたので、分離したと見せて御陵衛士を立ち上げたけれども、結局粛清されたということのようです。
現在の油小路に突如侍姿のキャストが出現するというシーンが挟まれていて、今の時代と当時はそれこそ地続きなのだという実感がわきます。キャストは現役の学生からプロのベテラン俳優まで入り混じり、プロの俳優の圧倒的な存在感と、経験の浅い彼らの、演技とは別な生々しさを感じる作品でした。
どこの土地もそこで死んだ人間たちの血や汗がしみついていそうですが、京都は特にそれが積み重なっている気がします。「伊東甲子太郎外数名殉難跡」という石碑が本光寺の門前に建てられています(昭和46年)。京都駅から10分ほどだそうです。いつか行って安らかにと祈りたい気分になりました。監督は京都芸大の福岡芳穂教授、港岳彦氏の脚本は『あゝ、荒野』『宮本から君へ』などどれも毎回印象に残ります。互いに真剣を振り回した時代を映した作品の中で、何千回も斬られた福本清三さんが賭場の親方として出演しています。この作品が遺作となりました。(白)
2021年/日本/カラー/シネスコ/114分
配給:マジックアワー
(C)北白川派
http://www.chain-movie.com/
★2021年11月26日(金)ロードショー
2021年11月26日
ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”
監督:堤幸彦
撮影監督:山本英夫
出演:嵐(相葉雅紀、松本潤、二宮和也、大野智、櫻井翔)
人気グループ”嵐”のデビュー20周年記念ツアーを体感できる初のライブフィルム。2019年12月23日、東京ドームで1日限りの映画撮影のために「シューティング・ライブ」が開催された。52000人の観客で埋め尽くされた会場と嵐5人のパフォーマンスをドローンを含む125台のカメラが撮影、一人一人のライブフィルムができるほどの映像を記録した。
本作は2021年6月、第24回上海国際映画祭のGala部門とDolby Vision部門出品。両部門への同時出品は史上初、最高の上映環境であるドルビーシネマで、ワールドプレミアを飾りました。2020年には中国・北京でのコンサート開催予定でしたが、コロナ禍のために中止。映画の形で中国のファンに届けたことになります。そしてようやく日本のファンも劇場で体感できることになりました。
東京ドームのてっぺんの席でコンサートを見たことがありますが、ステージははるかに遠いです。この映像は5人が目の前の特等席!さらにあらゆる方向から捉えた映像を楽しめます。次々と歌われるヒット曲に包まれて、ライブ会場にいる感覚です。
20年間トップを走り続けてきた”嵐”は2020年12月31日で活動休止となりました。この映画で夢の続きを見ましょう。5人が輝いています。(白)
2021年/日本/カラー/シネスコ/148分
配給:松竹
(C)2021 J Storm Inc.
https://recordofmemories.jp/
★2021年11月26日(金)ロードショー
スパゲティコード・ラブ
監督:丸山健志
脚本:蛭田直美
撮影:神戸千木
主題歌:三浦透子「Never」
出演:倉悠貴(羽田天)、三浦透子(桜庭心)、清水尋也(大森慎吾)、八木莉可子(黒須凛)、古畑新之(氷室翼)、青木柚(赤羽圭)、xiangyu(千葉桜)、香川沙耶(綾瀬夏美)、上大迫祐希(小川花)、三谷麟太郎(宍戸一樹)、佐藤睦(渋谷桃子)、ゆりやんレトリィバァ(目黒梅子)、 土村芳(剣持雫)
フードデリバリー配達員の羽田は大好きなアイドルへの気持ちの区切りをつけるため、配達1000件を目指している。桜庭心はシンガーソングライターの夢を諦めてダラダラ過ごしている。大森慎吾はfacebookの友達が5000人もいるが、本当の友達はいない。広告クリエイターの凛はプレッシャーに押しつぶされそうだ。カメラマンの氷室は力不足を自覚。死にたいが口癖の桜を心配しつつ、圭は告白できない。モデルの夏美は本業よりパパ活が忙しい。不登校の女子高生の花はインスタにウソの投稿。中学生の一樹はコンビニで時間をつぶす。失恋して引きこもる桃子は占いに依存、隣室の梅子はそれに聞き耳を立てている。雫は不倫相手に尽くすのが生きがい。これがなくなったら…。
丸山健志監督は乃木坂46のデビューシングルからミュージックビデオを手がけ、ドキュメンタリー『悲しみの忘れ方 DOCUMENTARY of 乃木坂46』を2015年に発表しています。たくさんの登場人物に光をあてて、まとめていくのはお得意なのかもしれません。テンポよくストーリーが紡がれます。「スパゲティコード」とは、解読不能なほど複雑に絡み合ったプログラミングコードのことだそうです。
登場する若者たちは東京でそれぞれの愛を模索しています。初めは関わりなど見えなかったのが、次第に複雑に連鎖し、絡み合っていきます。みんな寂しくて、あるいは迷ってもがいているのですが、自分の心や身体だって思い通りにはなりません。ましてやほかの人を知ること、理解することは難しいです。してもらうことも。人生は一回限りなのに時間が足りません。
この作品に出てくる人たちが、傷ついたり、泣いたり、回り道したりして見つけたものをそっと分けてもらえるのが観客。胸に大事にしまってお帰り下さい。ほどき方がわかるかも。(白)
いかにも今どきの若い人たちの姿がポップに描かれていて、最初、若い感覚についていけないのではと思ったのですが、なかなかどうして、テンポのいい群像劇で、どんどんひきこまれていきました。現代社会で生き方に迷う姿が眩しかったです。(咲)
2020年/日本/カラー/シネスコ/96分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)「スパゲティコード・ラブ」製作委員会
https://happinet-phantom.com/spaghetticodelove/
★2021年11月26日(金)渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開
2021年11月21日
水俣曼荼羅
劇場公開 2021年11月27日 公開劇場情報
監督・撮影:原一男
構成・編集:秦岳志
エグゼクティブプロデューサー:浪越宏治
プロデューサー:小林佐智子 原一男 長岡野亜 島野千尋
整音:小川武
はじまりの海 おわらない世界
日本四大公害病の一つとして知られる水俣病。補償をめぐっていまだ裁判の続く患者たちの闘いを15年に渡って取材し、5年の編集を経て完成したドキュメンタリー。1956年に水俣病が公式確認されて以来65年、今も患者としての認定や救済をめぐって裁判が続く。「水俣はもう、解決済み」そう世間では、思われているかも知れない。でもいまなお和解を拒否して裁判闘争を継続している人たちがいる。映画は3部からなる。
坂本しのぶさん始め、水俣病患者の方の生活や日常、思いを描くだけでなく、これまでの水俣病の医学的研究で得られたもの、現在に至るまで続く裁判闘争の経過や闘争に長くかかわってきた人たちの人間模様が凝縮された一大叙事詩。まさしく「曼荼羅」というのがふさわしい。
かつて水俣は海の幸に恵まれた不知火海の豊かな漁村だったが、化学肥料などを生産する化学工業会社・チッソの城下町になり栄えた。しかし、有機水銀がその海に流され、その発展と引きかえに〝死に至る病″を背負った。それは今なお、暗い陰を落としている。不自由な身体のまま大人になった胎児性、あるいは小児性の患者さんたち。彼らの現在の姿が映される。「末端神経ではなく、有機水銀が大脳皮質神経細胞に損傷を与えることが、原因だ」これまでの常識を覆す、あらたな水俣病像論も提出される。
原監督のドキュメンタリーは出てくる人の魅力が最大限引き出され面白い。しつこく迫る原監督に根負けするのだろうか(笑)。坂本しのぶさんの写真や映像はこれまでたくさん見てきたが、この作品ほど彼女の素顔&魅力を見せてくれたものを知らない。50年余りの時がたち、彼女も年を取ったが、この作品ではしのぶさんは「恋多き女」として描かれる(笑)。彼女が恋したという相手も数人、一緒に登場する。その時の彼女がまるで乙女のよう。恥ずかしがる姿が可愛いしのぶさんです。それにしても「恋した相手」まで映画に出演させてしまうとは。
2017年の東京フィルメックスで『ニッポン国vs泉南石綿村』(2017)が観客賞を受賞した時、監督は「この映画は撮影に8年、編集に2年かかりましたが、この映画と並行して水俣病の映画を撮っています。水俣病の方は撮影を始めて12年。未だに形になっていません」と語っていたが、それが完成し映画という形になった。6時間を超える作品だが、15年という取材の年月を思えば長くはない。このくらいの時間が必要だった。そして、国と県を相手取っての裁判はいまなお係争中。しかし、何人もの患者さんが亡くなっている。今年はハリウッド製作の『MINAMATA ―ミナマタ―』も公開され、改めて水俣病に注目が集まっているが、終わりの見えない裁判闘争はそろそろ終わってほしい。
このドキュメンタリーに写真を提供している桑原史成さんの<水俣病を撮り続けて60年 桑原史成写真展「MINAMATA」>に行きました。10月12日にこの作品の試写をを観て、16日に桑原さんの写真展に行ったのですが、坂本しのぶさんの最近の姿を映像で見て、50年前の彼女の姿を写真で見て、彼女なりに生きてきたと感じ、思わず涙してしまいました。ユージン・スミスさんの助手を務めた石川武志さんの写真展にも行きましたが、そのレポートはスタッフ日記に掲載しています。また、現在はユージン・スミスさんの写真展も開催中。この機会に皆さん行ってみませんか。水俣だけでないユージン・スミスさんの写真も見ることができます。詳細は下記に(暁)。
*スタッフ日記参照
『MINAMATA ―ミナマタ―』公開記念 桑原史成・石川武志写真展・ユージン・スミスとアイリーンが写した「MINAMATA」作品展&ユージン・スミス集大成写真展のお知らせ
http://cinemajournal.seesaa.net/article/483705121.html
水俣病をテーマにした桑原史成さんと石川武志さんの写真展に行ってきました。原一男監督の『水俣曼荼羅』も11月28日から公開されます(暁)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484153661.html
桑原史成写真美術館@津和野で「アフガニスタン崩壊」1/19まで開催中 (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484246699.html
原一男監督が、水俣で公害による病に苦しみながら暮らす人々に長年寄り添って撮った渾身の作品。372分という長尺に身構えて観ましたが、水俣の人たちが65年以上、翻弄されてきたことを思うと、この映画の長さは必要な時間軸なのだと思いました。
裁判に勝ったところで身体がよくなるわけじゃないという言葉がずっしり響きました。なぜ水俣の人たちは、こんな思いをして生きることになってしまったのか・・・ 元凶となった企業の無責任、そして、管理すべき行政の無責任にむなしくなりました。そして、それは水俣病に限ったことではないということにも気付かされます。安部のマスクや、go to travelなど、無駄にお金を使うことは得意でも、ほんとに支援の必要な人にお金を出さないのが行政なのだと思うと、ほんとに悲しいです。(咲)
『水俣曼荼羅』公式HP
助成:文化庁文化芸術振興費補助金 (映画創造活動支援事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会
製作・配給:疾走プロダクション 配給協力:風狂映画舎
2020年/372分/DCP/16:9/日本/ドキュメンタリー
監督・撮影:原一男
構成・編集:秦岳志
エグゼクティブプロデューサー:浪越宏治
プロデューサー:小林佐智子 原一男 長岡野亜 島野千尋
整音:小川武
はじまりの海 おわらない世界
日本四大公害病の一つとして知られる水俣病。補償をめぐっていまだ裁判の続く患者たちの闘いを15年に渡って取材し、5年の編集を経て完成したドキュメンタリー。1956年に水俣病が公式確認されて以来65年、今も患者としての認定や救済をめぐって裁判が続く。「水俣はもう、解決済み」そう世間では、思われているかも知れない。でもいまなお和解を拒否して裁判闘争を継続している人たちがいる。映画は3部からなる。
坂本しのぶさん始め、水俣病患者の方の生活や日常、思いを描くだけでなく、これまでの水俣病の医学的研究で得られたもの、現在に至るまで続く裁判闘争の経過や闘争に長くかかわってきた人たちの人間模様が凝縮された一大叙事詩。まさしく「曼荼羅」というのがふさわしい。
かつて水俣は海の幸に恵まれた不知火海の豊かな漁村だったが、化学肥料などを生産する化学工業会社・チッソの城下町になり栄えた。しかし、有機水銀がその海に流され、その発展と引きかえに〝死に至る病″を背負った。それは今なお、暗い陰を落としている。不自由な身体のまま大人になった胎児性、あるいは小児性の患者さんたち。彼らの現在の姿が映される。「末端神経ではなく、有機水銀が大脳皮質神経細胞に損傷を与えることが、原因だ」これまでの常識を覆す、あらたな水俣病像論も提出される。
原監督のドキュメンタリーは出てくる人の魅力が最大限引き出され面白い。しつこく迫る原監督に根負けするのだろうか(笑)。坂本しのぶさんの写真や映像はこれまでたくさん見てきたが、この作品ほど彼女の素顔&魅力を見せてくれたものを知らない。50年余りの時がたち、彼女も年を取ったが、この作品ではしのぶさんは「恋多き女」として描かれる(笑)。彼女が恋したという相手も数人、一緒に登場する。その時の彼女がまるで乙女のよう。恥ずかしがる姿が可愛いしのぶさんです。それにしても「恋した相手」まで映画に出演させてしまうとは。
2017年の東京フィルメックスで『ニッポン国vs泉南石綿村』(2017)が観客賞を受賞した時、監督は「この映画は撮影に8年、編集に2年かかりましたが、この映画と並行して水俣病の映画を撮っています。水俣病の方は撮影を始めて12年。未だに形になっていません」と語っていたが、それが完成し映画という形になった。6時間を超える作品だが、15年という取材の年月を思えば長くはない。このくらいの時間が必要だった。そして、国と県を相手取っての裁判はいまなお係争中。しかし、何人もの患者さんが亡くなっている。今年はハリウッド製作の『MINAMATA ―ミナマタ―』も公開され、改めて水俣病に注目が集まっているが、終わりの見えない裁判闘争はそろそろ終わってほしい。
このドキュメンタリーに写真を提供している桑原史成さんの<水俣病を撮り続けて60年 桑原史成写真展「MINAMATA」>に行きました。10月12日にこの作品の試写をを観て、16日に桑原さんの写真展に行ったのですが、坂本しのぶさんの最近の姿を映像で見て、50年前の彼女の姿を写真で見て、彼女なりに生きてきたと感じ、思わず涙してしまいました。ユージン・スミスさんの助手を務めた石川武志さんの写真展にも行きましたが、そのレポートはスタッフ日記に掲載しています。また、現在はユージン・スミスさんの写真展も開催中。この機会に皆さん行ってみませんか。水俣だけでないユージン・スミスさんの写真も見ることができます。詳細は下記に(暁)。
*スタッフ日記参照
『MINAMATA ―ミナマタ―』公開記念 桑原史成・石川武志写真展・ユージン・スミスとアイリーンが写した「MINAMATA」作品展&ユージン・スミス集大成写真展のお知らせ
http://cinemajournal.seesaa.net/article/483705121.html
水俣病をテーマにした桑原史成さんと石川武志さんの写真展に行ってきました。原一男監督の『水俣曼荼羅』も11月28日から公開されます(暁)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484153661.html
桑原史成写真美術館@津和野で「アフガニスタン崩壊」1/19まで開催中 (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484246699.html
原一男監督が、水俣で公害による病に苦しみながら暮らす人々に長年寄り添って撮った渾身の作品。372分という長尺に身構えて観ましたが、水俣の人たちが65年以上、翻弄されてきたことを思うと、この映画の長さは必要な時間軸なのだと思いました。
裁判に勝ったところで身体がよくなるわけじゃないという言葉がずっしり響きました。なぜ水俣の人たちは、こんな思いをして生きることになってしまったのか・・・ 元凶となった企業の無責任、そして、管理すべき行政の無責任にむなしくなりました。そして、それは水俣病に限ったことではないということにも気付かされます。安部のマスクや、go to travelなど、無駄にお金を使うことは得意でも、ほんとに支援の必要な人にお金を出さないのが行政なのだと思うと、ほんとに悲しいです。(咲)
『水俣曼荼羅』公式HP
助成:文化庁文化芸術振興費補助金 (映画創造活動支援事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会
製作・配給:疾走プロダクション 配給協力:風狂映画舎
2020年/372分/DCP/16:9/日本/ドキュメンタリー
ずっと独身でいるつもり?
監督:ふくだももこ
脚本:坪田文 音楽:池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)
原作:おかざき真里(原案:雨宮まみ)「ずっと独身でいるつもり?」(祥伝社フィールコミックス)
撮影:中村夏葉
主題歌:にしな「debbie」(WARNER MUSIC JAPAN)
出演:田中みな実(本田まみ)、市川実和子(佐藤由紀乃)、村松沙友理(鈴木美穂)、徳永えり(高橋彩佳)、稲葉友、松澤匠、山口沙弥加、藤井隆、橋爪淳、筒井真理子
10年前に執筆したエッセイ集で有名ライターになった本多まみ36歳、独身。自立した女性の幸せの価値を赤裸々に綴って読者の指示を得たが、その後ヒット作が書けずにいる。恋人はいるものの、結婚は具体的ではない。
まみ出演の配信番組を見ている女性たち3人。由紀乃はまみのエッセイからのファンで、自立した生き方を貫いている。人気のインスタ主婦の彩佳の夫は、なんちゃってイクメン。いいとこどりだけする夫にほんとは言いたいことが山積みだ。沙友理はパパ活で生計を立てているものの、若狭が失われていくのにおびえている。
タイトルの「ずっと独身でいるつもり?」は、まみが周りから言われている言葉。主に母親からです。一人娘らしいので、気になっていつまでも言われるんですよね。他に兄弟姉妹がいて、一人が結婚して孫でもできれば風当りはぐんと減ります。人間も生き物として子孫を残したい本能なんでしょうか?
ほかの3人の年齢と背景はバラバラで、主婦なのは彩佳だけ。まみと3人はそれぞれ生きにくい、と感じていますがものすごく深刻なわけでもありません。ライターの雨宮まみさんが「女子をこじらせて」を書いたのは2011年。こじらせ女子という言葉がはやりましたっけ。おかざき真里さんのコミック「ずっと独身でいるつもり?」は未見でした。世の中も当時とは様変わりしているので、「パパ活」女子が新たに加えられたようです。独身女子にはいろいろと共感するところ大かと思います。どんな選択をしても、そっちじゃないほうがなんだか良かったかも、と思いたくなるときがくるはず。なんにせよ、自分で道を選べば後悔は少ないよ、と先に生まれたおばちゃんより。(白)
2021年/日本/カラー/94分
配給:日活
© 2021日活
https://zuddoku-movie.com/
★2021年11月19日(金)ロードショー
2021年11月20日
COME & GOカム・アンド・ゴー(英題:COME AND GO)
プロデューサー・監督・脚本・編集 : リム・カーワイ
エグゼクティブプロデューサー : 毛利英昭 / リム・カーワイ
撮影:古屋幸一
録音・整音:松野泉
美術:藤原達昭
音楽:渡邊崇
衣裳:碓井章訓
出演: リー・カーション、リエン・ ビン・ファット、J・C・チー、モウサム・グルン、ナン・トレイシー、ゴウジー、イ・グァンス、デイヴィッド・シウ、千原せいじ、渡辺真起子、兎丸愛美、桂雀々、尚玄、望月オーソン
大阪キタの古いアパートで独り暮らしの老女の白骨死体が見つかった。孤独死なのか事件なのか警察は事情聴取を行っている。この狭い地域にも近隣国からの観光客、ビジネスマンがやってくる。刑事は妻とむつまじく暮らしているつもりだったが、妻には妻の生活があった。中国と台湾の観光客は言葉は通じても、政治の話で口論になる。将来を夢見て日本に来た難民や留学生、実習生は日々の仕事に追われ、親が病気でも帰国さえ叶わない。今日も一人いなくなった。それぞれが事情を抱えて行ったり来たりの3日間。
キタに暮らしている人、出没する人たちの群像劇。「ドリフター(漂流者)」と自称するリム・カーワイ監督の交流の広さと人脈が見えてくるようなキャストです。それまで監督が観たり聞いたりしたことがたくさん詰まっているんじゃないかしら。作劇は殆ど即興に近く、俳優たちは自分の台詞のところしか知らないので、作品が出来上がって初めて「こういうストーリーだったのか!」とわかったそうです。
2020年の東京国際映画祭で上映されたときのご挨拶で、俳優の一人として登壇された雀々師匠が「今日は自分(がどこに出ているか)探しに来ました」と言われたのがおかしくて忘れられません。またとってもマメなリム監督が、ロケや俳優の宿泊、移動の手配など自らやってしまうので、渡辺真起子さんからは「そういうのは他の人に任せて監督の仕事をやってください(笑)」。↓の写真はその時のものです。(白)
林家威(リム・カーワイ)監督とは、あちこちの映画祭で出くわす。山形国際ドキュメンタリー映画祭、大阪アジアン映画祭、東京国際映画祭、東京フィルメックスと各映画祭に行くと必ずいる(笑)。拠点は大阪なのかマレーシアなのか知らないけど、日本中あちこちの映画祭に出没する。ということは私もあちこちの映画祭に出没しているのだけど。もちろんリム監督は私のことは知らないだろうけど、いつも映画祭で会う人として会釈くらいは交わす。そんな監督の国際的な漂流者としての生き方をいつもうらやましく思ってもいる。そんな監督のことを“シネマドリフター(漂流者)”というらしい。今回、そういう呼び方を初めて知った。
そして、監督の作品、半分以上は観ていると思うけど、実は私はリム監督の作品、混沌としすぎて、なかなか理解ができていない。今回のこの作品も、リム監督が出会った、アジア各国の俳優を大阪に呼んでの即興に近く、ストーリーがあるのかないのか、こういう作品を好きな人は好きなのでしょうが、私はちゃんとストーリーがある作品が好きなので、イメージ映画みたいのはあんまり好きじゃない。でも、彼の生き方はすごいと思っている。こういう方が、いろいろな文化の中で、いろいろなコラボレーションを作り出していくのでしょう。それにリム監督だからこそできる映画キューレーターとしての役割。年末の「香港映画祭2021」も楽しみにしています(暁)。
2020年/日本・マレーシア合作/カラー/シネスコ/158分
配給: リアリーラィクフィルムズ / Cinema Drifters
©️ cinemadrifters
https://www.reallylikefilms.com/comeandgo
★2021年 11月19日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷絶賛公開中、ほか全国順次公開
2021年11月14日
茲山魚譜 チャサンオボ 原題:자산어보 英題:The Book of Fish
監督:イ・ジュニク(『王の男』『王の運命–歴史を変えた八日間–』『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯』『金子文子と朴烈』)
出演:ソル・ギョング、ピョン・ヨハン、イ・ジョンウン
「茲山魚譜(チャサンオボ)」―― 庶民のために書かれた海洋生物学書。
本作は、「茲山魚譜」を執筆した学者・丁若銓(チョン・ヤクチョン)と、その手助けをした若き漁夫・昌大(チャンデ)の物語。
1801年、朝鮮時代。第22代国王・正祖(チョンジョ)亡き後、幼き王・純祖(スンジョ)に変わり曾祖母の貞純(チョンスン)王后が権力を握り、天主教(カトリック)信者を迫害する。それまで王から信頼を得ていた天才学者・丁若銓も天主教を信仰していたため黒山島(フクサンド)に流刑になる。貧しいが暖かくもてなそうとする島民たち。何より美しい海。ガンギエイ、タコ、ムツゴロウなど、これまで知らなかった海の生物の魅力にとりつかれる。そんな折、島の誰よりも海の生き物に詳しい青年漁師の昌大と出会う。彼は島の外に出ることを夢見て書を読みあさっていたが独学に限界を感じていた。丁若銓は、身分も歳も違う彼に学問を教える代わりに、海の生物の知識を教えてくれと持ちかける・・・
日本でも渋沢栄一の孫、敬三が翻訳版の出版を志した、韓国で有名な海洋生物学書「茲山魚譜」。その序文に、魚や海藻などに詳しい昌大(チョンデ)という青年の助言によって完成されたと記されていることに基づいて描いた物語。
墨絵のような美しいモノクロームの映像。時代に翻弄され島流しになった天才学者が、生きる意味を見つけ、島の青年もまた都会から来た学者から学ぶことで目が輝いていきます。学者・丁若銓を演じたソル・ギョングは、意外にも本作が初めての時代劇。もちろん、間違いのない重厚な演技で丁若銓を体現しています。両班の父に認められないながら、勉学に励む漁師の青年・昌大を演じたピョン・ヨハンは、ドラマ「ミセン–未生–」(2014)で一躍人気となり、日本映画『太陽は動かない』(2021)にも出演しています。『あなた、そこにいてくれますか』(2016)のピョン・ヨハンがなんといっても好きでしたが、本作でさらに好感度が増しました。
また、『パラサイト 半地下の家族』で一躍、国際的にも知られるようになったイ・ジョンウンが、島流しになった丁若銓を甲斐甲斐しく世話をし、やがては彼との子を宿すという役どころなのも、心を和ませてくれます。
『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯』や『金子文子と朴烈』で、日本ではあまり知られていない近代史の人物のことを知らしめてくれたイ・ジュニク監督。またしても、知られざる人物のことを心に染みる作品で届けてくださいました。(咲)
2021年/韓国/韓国語/モノクロ/シネスコ/5.1ch/126分
字幕翻訳:本田恵子
配給:ツイン
公式サイト:https://chasan-obo.com/
★2021年11月19日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
ユダヤ人の私 原題:Ein judisches Leben 英題:A Jewish Life
監督:クリスティアン・クレーネス、フロリアン・ヴァイゲンザマー、クリスティアン・ケルマー、ローランド・シュロットホーファー
製作:ブラックボックスフィルム&メディアプロダクション
終戦から74年間 悪夢を語り続けたホロコースト生存者マルコ・ファインゴルト氏の最後の警鐘。
ゲッベルスの秘書ブルンヒルデ・ポムゼルの証言を記録した『ゲッベルスと私』(2018年 岩波ホール公開)の【ホロコースト証言シリーズ】第2弾。
ユダヤ人のマルコ・ファインゴルトは1939年に逮捕され、アウシュヴィッツを含む4つの強制収容所に収容される。終戦後は、10万人以上のユダヤ人難民をパレスチナへ逃がし、自らの体験とナチスの罪、そしてナチスに加担した自国オーストリアの責任を、70年以上訴え続けた。本作はマルコの数奇な人生を通じ、反ユダヤ主義がどのように広まりホロコーストに繋がったか世界初公開のアーカイヴ映像を交えながら映し出す貴重なドキュメンタリー。“国家と人は過去の過ちを忘れている”と語るマルコのインタビューは、過去と地続きにある現在に警鐘を鳴らす。
マルコ・ファインゴルト(1913-2019)
1913年にハンガリーで生まれウィーンで育つ。小学校の教師が反ユダヤ主義者だったため登校を拒否する。1938年、ビジネスで滞在していたイタリアから一時帰国すると、アンシュルス(ドイツ=オーストリア合併)によって反ユダヤ主義が急速に広まる。1939年、ゲシュタポに逮捕され、1945年まで4つの強制収容所に収容される。終戦後はユダヤ人難民の人道支援と公演活動に取り組む。オーストリアのユダヤ人協会代表を務め、その功績に多くの栄誉ある章が与えられる。2019年9月19日にその生涯を閉じる。享年106歳。
ファインゴルト氏の語る中で、一番気になったのが、「ブーヘンヴァルトに収容されていた28カ国の囚人のなかで、祖国から迎えが来なかったのはオーストリア人だけだった」という言葉でした。28カ国からユダヤ人を連行してきたことにも驚きましたが、なぜオーストリア人だけ?と疑問に思った次第です。
オーストリアといえば、ヒトラーの出身地。プレス資料などで確認してみたところ、「反ユダヤ主義はドイツ人が持ち込んだものではなく、オーストリアで何世紀にもわたって培われ、カトリック教会がそれを後押ししたのです」というフロリアン・ヴァイゲンザマー監督の言葉がありました。実に、オーストリア国民の90%が反ユダヤ主義! ヒトラーの反ユダヤ主義もそのような環境だったからこそ根付いたのでしょう。
ユダヤ人生存者128人のウィーン帰還を阻止したのは、臨時政府首相から戦後初代大統領となった社会民主主義者カール・レンナー。ファインゴルト氏は、ウィーンの家に戻ることができず、収容所に戻されるのを恐れ、ザルツブルクで列車を降り、そのままそこで生涯をおくっています。ユダヤ人というだけで、財産も故郷も家族も奪われたファインゴルト氏。一方で、戦後、ユダヤ人のためにできた国イスラエルが、パレスチナ人を今も蹂躙しているという状況があります。私たちはますます不寛容になる社会に何をできるかを考えないといけないと強く思いました。(咲)
★公開初日監督舞台挨拶
11月20日(土)岩波ホール13:00からの回上映後
11月27日(土)第七藝術劇場15:55からの回上映後
クレーネス監督、ヴァイゲンザマー監督の舞台挨拶(zoom)
2021年/オーストリア映画/114分/16:9、4:3/モノクロ
日本語字幕:吉川美奈子
配給:サニーフィルム
協力:オーストリア文化フォーラム東京
公式サイト:https://www.sunny-film.com/shogen-series
★2021年11月20日(土)岩波ホール他全国順次公開
ボストン市庁舎 原題:City Hall
11月12日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ他全国順次公開 劇場情報
ボストン市役所の仕事から見えてくるもの
監督・製作・編集・録音:フレデリック・ワイズマン
出演 ボストン市の職員の方たち
フレデリック・ワイズマン監督の最新作は、米マサチューセッツ州の古い街、ボストンの市役所を舞台に撮影した“市民のために働く市役所”。数百種類ものサービスを提供するボストン市庁舎の舞台裏を、市政改革をかかげるマーティン・ウォルシュ市長(当時)をはじめ、問題に対峙し奮闘する職員たちの姿を映し出している。多様な人種・文化が住む大都市ボストンは、ワイズマンの生まれ故郷であり、現在も暮らす街でもある。
カメラは市庁舎の中へ入り込み、市職員の方とともに街のあちこちへ。警察、消防、保健衛生、高齢者支援、出生、結婚、死亡記録など、数百種類ものサービスを提供する市役所の仕事の数々の舞台裏を映し出す。市民のために奮闘するウォルシュ市長と市役所職員たちの姿から浮かび上がってくるのは、私たちが使う「お役所仕事」という言葉には当てはまらないボストン市庁舎の仕事。意外性と驚きに満ちたドキュメンタリー。
ボストン市の職員の方たちの仕事ぶりに驚かされた。それにしても市役所が抱える仕事というのは多様なのだと、改めて知らされた。そして、市職員の対応を見ていたら、こんな町に住んでみたいと思った。ボストンは人種のルツボと言われれるアメリカの中でも、いろいろな国からの移民がいて、多彩な人種が混在している町なんだと思った。それに、この街はアメリカの中でも黒人の割合が高いように感じた。そして、市職員の中のリーダー格にも黒人が多いようだし、女性の幹部も多いのかなとも思った。いろいろな国の出身者が出てきたし、アジアからの移住者も多かったけど、残念だったのは日本人は一人も出てこなかったこと。たぶん日本人もたくさん暮らしている町だと思うけど、日本人はあまり目に入らなかったのかな(暁)。
フレデリック・ワイズマン監督は、1930年1月1日、ボストン生まれ。現在91歳。
「ボストン市庁舎は、市民サービスを合衆国憲法や民主主義の規範と整合のとれるかたちで提供することを目指していて、それはトランプが体現するものの対極にある」と監督は語っています。
映画の中で、マーティン・ウォルシュ市長がよく口にするのが、「自分以外の人々を尊重してほしい」という言葉。自身がかつて虐げられて移民してきたアイルランド人の子孫だとも語ります。トランプの登場で、様々な分野で分断が起こり、医療も住宅も弱者に不利な状況になったのを、なんとか救いたいと模索します。「人を分断したくない。すべての声を聴き、国を市から変えましょう」という力強いウォルシュ市長の言葉に、市庁舎で働く人たちも励まされ、市民に機敏に対応しているのだと思いました。組織を率いる強いリーダーシップが、社会を変えることをまざまざと感じました。
マーティン・ウォルシュ市長は、2021年3月23日よりアメリカ合衆国労働長官に就任。今はどんな活躍をされているのでしょう。日本にもこんな逸材がほしいとも思いました。(咲)
★「市役所割」
「日本の都道府県・市町村の首長や職員に見せたい」の声に応え、
役所職員が特別料金で見られる「市役所割」が実施されています!
通常当日¥2,800の処、当日料金¥2,200
(劇場窓口にて「職員証」または職員証に準ずるものを提示)
(都道府県・区などの役所も含みます)
長引くコロナ禍で大変な中、市役所で頑張る職員の皆さんを応援する企画でもあります。
市役所割の“詳細”
『ボストン市庁舎』HP
2020年/アメリカ/英語/274分/カラー/1.78:1/モノラル/DCP
字幕:齋藤敦子
後援:アメリカ大使館 配給:ミモザフィルムズ、ムヴィオラ
ボストン市役所の仕事から見えてくるもの
監督・製作・編集・録音:フレデリック・ワイズマン
出演 ボストン市の職員の方たち
フレデリック・ワイズマン監督の最新作は、米マサチューセッツ州の古い街、ボストンの市役所を舞台に撮影した“市民のために働く市役所”。数百種類ものサービスを提供するボストン市庁舎の舞台裏を、市政改革をかかげるマーティン・ウォルシュ市長(当時)をはじめ、問題に対峙し奮闘する職員たちの姿を映し出している。多様な人種・文化が住む大都市ボストンは、ワイズマンの生まれ故郷であり、現在も暮らす街でもある。
カメラは市庁舎の中へ入り込み、市職員の方とともに街のあちこちへ。警察、消防、保健衛生、高齢者支援、出生、結婚、死亡記録など、数百種類ものサービスを提供する市役所の仕事の数々の舞台裏を映し出す。市民のために奮闘するウォルシュ市長と市役所職員たちの姿から浮かび上がってくるのは、私たちが使う「お役所仕事」という言葉には当てはまらないボストン市庁舎の仕事。意外性と驚きに満ちたドキュメンタリー。
ボストン市の職員の方たちの仕事ぶりに驚かされた。それにしても市役所が抱える仕事というのは多様なのだと、改めて知らされた。そして、市職員の対応を見ていたら、こんな町に住んでみたいと思った。ボストンは人種のルツボと言われれるアメリカの中でも、いろいろな国からの移民がいて、多彩な人種が混在している町なんだと思った。それに、この街はアメリカの中でも黒人の割合が高いように感じた。そして、市職員の中のリーダー格にも黒人が多いようだし、女性の幹部も多いのかなとも思った。いろいろな国の出身者が出てきたし、アジアからの移住者も多かったけど、残念だったのは日本人は一人も出てこなかったこと。たぶん日本人もたくさん暮らしている町だと思うけど、日本人はあまり目に入らなかったのかな(暁)。
フレデリック・ワイズマン監督は、1930年1月1日、ボストン生まれ。現在91歳。
「ボストン市庁舎は、市民サービスを合衆国憲法や民主主義の規範と整合のとれるかたちで提供することを目指していて、それはトランプが体現するものの対極にある」と監督は語っています。
映画の中で、マーティン・ウォルシュ市長がよく口にするのが、「自分以外の人々を尊重してほしい」という言葉。自身がかつて虐げられて移民してきたアイルランド人の子孫だとも語ります。トランプの登場で、様々な分野で分断が起こり、医療も住宅も弱者に不利な状況になったのを、なんとか救いたいと模索します。「人を分断したくない。すべての声を聴き、国を市から変えましょう」という力強いウォルシュ市長の言葉に、市庁舎で働く人たちも励まされ、市民に機敏に対応しているのだと思いました。組織を率いる強いリーダーシップが、社会を変えることをまざまざと感じました。
マーティン・ウォルシュ市長は、2021年3月23日よりアメリカ合衆国労働長官に就任。今はどんな活躍をされているのでしょう。日本にもこんな逸材がほしいとも思いました。(咲)
★「市役所割」
「日本の都道府県・市町村の首長や職員に見せたい」の声に応え、
役所職員が特別料金で見られる「市役所割」が実施されています!
通常当日¥2,800の処、当日料金¥2,200
(劇場窓口にて「職員証」または職員証に準ずるものを提示)
(都道府県・区などの役所も含みます)
長引くコロナ禍で大変な中、市役所で頑張る職員の皆さんを応援する企画でもあります。
市役所割の“詳細”
『ボストン市庁舎』HP
2020年/アメリカ/英語/274分/カラー/1.78:1/モノラル/DCP
字幕:齋藤敦子
後援:アメリカ大使館 配給:ミモザフィルムズ、ムヴィオラ
JOINT
監督:小島央大
脚本:HVMR
撮影:寺本慎太朗
出演:山本一賢(石神武司)、キム・ジンチョル(ジュンギ)、キム・チャンバ(イルヨン)、三井啓資(ヤス)、樋口想現(荒木)、尚玄(ジェイ)、平山久能(市川)、鐘ヶ江 佳太(渡辺佑)、林田隆志(今村)
刑務所から出所した半グレの石神(山本一賢)は、個人情報の「名簿」を元手に、特殊詐欺用の名簿ビジネスを再開する。真っ当に生きたいと望む彼はベンチャービジネスに介入し投資家へ転身を図るも、稼業から足を洗うのは至難の技だった。そんな石神の周囲でうごめく、関東最大の暴力団と外国人犯罪組織の影。それぞれの抗争に挟まれた石神。白か黒か曖昧な世界で、“何者か”になろうともがく石神は、いかなる決断を下すのか―――
青味がかった画面に展開していくのは、ドキュメンタリーさながらの緊迫したストーリー。抜き取られた個人情報のゆくえ、作られた名簿を使った振り込め詐欺。その電話に対応する女性と見守る警察官、車で移動しつつ電話をしていた「かけ子」たちが足取りをつかまれて逮捕される…。ハラハラさせられたこの映画は若い新人監督さんが作ったんです。さっそく小島央大監督にお話を伺いました。
こちらです。
半グレとは暴力団に属さない犯罪集団の呼び方で、愚連隊の「グレ」、黒でも白でもないグレーゾーンの「グレ」でもあるようです。ついでに「グレる」はなんなのかと検索したら江戸時代からある言葉だそうで、不良化するということのほか「見込みが外れる」という意味もあるとか。へー!
「悪銭身に付かず」といいます。石神はそれを知ってか、出所後働いて得た綺麗なお金を投資しましたが、半グレから抜けるのも容易ではなく、それこそ見込みが外れてしまいます。犯罪と金儲けの殺伐とした話の中に、石神と人の繋がりを挟み込んで和む場面があり、息がつけました。小島監督うまい!(白)
2020年/日本/カラー/カラー/シネスコ/118分
配給:イーチタイム
(C)小島央大/映画JOINT製作委員会
公式サイト︓ joint-movie.com
公式Twitter︓@JOINT2020
公式Instagram︓ jointmovie
★2021年11月20日(土)渋谷・ユーロスペース他全国順次公開!
モスル あるSWAT部隊の戦い 原題:Mosul
監督: マシュー・マイケル・カーナハン
出演: スヘール・ダッバーシ、アダム・ベッサ、イスハーク・エルヤス、クタイバ・アブデル=ハック、アフマド・ガーネム、ムハイメン・マハブーバ、ワリード・エル=ガーシィ
イラク第二の都市モスル。21歳のカーワは、警官になってまだ2か月。ISIS(イスラム過激派組織 ★注)に目の前で叔父を殺され茫然としているところを、モスル出身の精鋭の警官で構成された特殊部隊SWATに救われる。部隊を率いるジャーセム少佐は、カーワをその場でSWATの一員にスカウトする。「クルド人のガキを仲間にするのか」という隊員に、「身内をISISに殺されたという入隊条件を満たしている」とジャーセム少佐。カーワは、10数名の元警察官で編成されたSWAT隊に同行するうち、本部からの命令を無視して独自の任務を遂行していることに気づく。ISISの秘密基地を見つけるが、遠巻きにして襲撃しようとしない。SWATの任務はいったい何なのか・・・
★注:ISIS(イスラム過激派組織): 映画の冒頭で、アラビア語では「ダーイッシュ」と呼ばれると掲げられています。日本では、IS、イスラム国などの呼び方がメディアで定着していて、イスラムが過激なものというイメージを増長しています。ダーイッシュ(イスラム国)のイスラムの解釈は本来のイスラムの教義からかけ離れていることを念頭においてほしいものです。
アメリカの雑誌「ザ・ニューヨーカー」に掲載された、イラクのSWAT隊の驚くべき任務についての記事を、「アベンジャーズ」シリーズの『インフィニティ・ウォー』と『エンドゲーム』の監督、ジョー&アンソニー・ルッソ兄弟が、どうしても世界に知らしめなければと映画化権を取得。彼らが監督に指名したのは、ロバート・レッドフォード監督の『大いなる陰謀』や、ブラッド・ピット主演の『ワールド・ウォーZ』の脚本で絶賛されたマシュー・マイケル・カーナハン。監督デビュー作となる本作に、「アラビア語を母語とする俳優を起用しなければ意味がない」とこだわった。ジャーセム少佐役のスへール・ダッバーシはイラク生まれで、難民としてヨルダン経由アメリカに移住。カーワ役アダム・ベッサはチュニジア人の両親のもと、南フランス生まれ。アミール役ムハイメン・マハブーバは、イラク人の両親のもとデトロイトで生まれたが、7歳から高校までイラクで過ごす。イスハーク・エルヤス(ワリード役)、クタイバ・アブデル=ハック(カマール役)、アフマド・ガーネム(シーナーン役)は、ヨルダン生まれ。イランのアスファハーニー少佐役のワリード・エル=ガーシィは、スーダン生まれだが、イランにも色々な人種がいるので良しとしましょう。
地上部分の撮影は、モロッコのマラケシュでセットを組んでいますが、ドローンで映し出したモスルの街は本物。
なにより、冒頭で映し出されるモスルの破壊尽くされた姿に胸が痛みます。
モスルは、イラク北部のチグリス川両岸に広がる古い歴史を持つ町。アッシリア王国の古都ニネヴェもすぐ近く。ネストリウス派キリスト教徒の歴史的な中心地ですが、今は住民のほとんどがムスリムのアラブ人。(クルド人が統治するクルディスタン地域はすぐ隣り)第一次世界大戦で、イギリス軍が1918年10月にオスマン帝国と戦い、モスルを占領しました。
映画の中で、イランのアスファハーニー少佐に「今の国境は欧州が決めたもの。君たちには国と誇れるものがない」と言われ、ジャーセム少佐は、「イラクにはサッダーム・フセインも、米国もイランもアルカーイダもいらない」と答える場面がありました。
別の場面で「米国はイラクの再建など考えずに破壊するだけ」という言葉も。
クウェートのテレビ番組で、第一婦人と第三婦人がもめている場面を見ながら「金持ちの国は違う」「女房なんて一人でも面倒」と、イラク周辺の金満国への皮肉も出てきて、アメリカ映画ながら、イラクの人たちの本音に近いものを描いていると感じました。
本作製作の経緯について、公式サイトに掲載されているプロデューサーのジョー&アンソニー・ルッソ兄弟およびモハメド・アルダラジー(イラク人)のインタビューを是非お読みください。
https://mosul-movie.jp/assets/data/interview_producer.pdf
イラク人のプロデューサーであるモハメド・アルダラジーさんに、監督作品『バビロンの陽光』が2011年に日本で公開された折にインタビューしています。
『バビロンの陽光』モハメド・アルダラジー監督インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2011/babylon/index.html
この2011年のアルダラジー監督インタビューの中に、「サッダーム・フセインの失墜後、イラクの人たちはアイデンティティを失いました。自分を見失ったのです。フセイン政権崩壊直後には、宗派や民族に自らのアイデンティティを求める傾向もあったけれど、今はイラク人という共通の意識で、国を良くしようという雰囲気が大衆の間にはあります」という言葉がありました。あれから10年経ちましたが、いまだに落ち着かないイラク。本作を観て、少しでもイラクの人たちの思いに寄り添っていただければと願います。(咲)
2019 年/アメリカ/カラー/102 分/シネスコ/5.1ch
配給:ポニーキャニオン
公式サイト:https://mosul-movie.jp/
★2021年11月19日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
2021年11月13日
1941 モスクワ攻防戦80年目の真実 原題:Podolskiye kursanty 英題:THE LAST FRONTIER
監督・脚本:ヴァディム・シメリェフ
製作・脚本:イゴール・ウゴルニコフ(『ブレスト要塞大攻防戦』)
製作:ヴァディム・ザドロジニ
撮影:アンドレイ・ガーキン
音楽:ユーリ・ポテイェンコ(『ナイト・ウォッチ』)
出演:アルチョム・グビン、リュボフ・コンスタンティノワ、イゴール・ユディン、アレクセイ・バルデュコフ「メトロ42」、エフゲニー・ディアトロフ、セルゲイ・ベズルコフ、ロマン・マディアノフ、エカテリーナ・レドニコワ、セルゲイ・ボンダルチュク(『スターリングラード 史上最大の市街戦』)、グラム・バブリシヴィリ(『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』)
第2次世界大戦の流れを変える転換点となった「モスクワ攻防戦」。
最前線でドイツ軍に対峙した若き士官候補生たちの知られざる物語。
1941年10月、ポドリスク砲兵学校で訓練中の士官候補生ラヴロフとディミトリ。二人は共に思いを寄せている看護師のマーシャをめぐって喧嘩し、独房に入れられてしまう。そんな最中、ナチス・ドイツ軍がワルシャワ街道をモスクワに向かって進撃中との情報が入る。中央司令部は適切な援軍を集めるまで進軍を阻止するべく、訓練中の学生兵を前線に送ることを決断する。士官候補生のラヴロフたちは、いずれは将校や中尉となり、兵士を率いる立場だが、基礎訓練も終えておらず、現役の経験もない。いきなり最前線でし烈なドイツ軍の攻撃を受け、仲間が次々に命を落としていく・・・
1941年10月、ポドルスクの2つの軍事学校とモスクワの軍事工学学校から、20歳前後の若者約3,500人の士官候補生が、指揮官とともにマロヤロスラベッツ近郊の前線に派遣された。彼らの任務は、第43軍の部隊とともに、ワルシャワ街道をモスクワに向かって進む敵軍の進撃を少なくとも5日間は阻止すること。ドイツ・ナチス軍は、重砲、空爆、戦車などで士官候補生たちの陣地を叩いたが、突破することはできなかった。士官候補生たちは12日間イリインスキーラインを守り続け、一人として自分の持ち場を捨てようとはしなかった。この作戦で約2,500人が命を落とした。
1941年のイリインスキー防衛線を忠実に再現するために、現在は住宅地となっている前線から少し離れた場所に映画のセットを建設。人工の川、村、ピルボックス、橋、ワルシャワ・ハイウェイの一部などを、航空写真などのアーカイブ資料を使って再現。Vadim Zadorozhny氏の車両博物館に展示されていたソ連やドイツの戦車の実物を使用し、銃器や軍装にも、こだわって1941年の戦いを再現しています。果敢にドイツの戦車に立ち向かう若き士官候補生たちが次々に命を落としていきます。あまりに過酷な戦場の実態。遠隔操作で敵を攻撃する今の時代と違って、戦争が人と人が殺し合うものであることを思い起こさせてくれます。
軍医の女性が嘆きます。「なぜ、未来のある若者が戦うの? 母国を守るために戦っている若者たちを、母国はなぜ助けないの?」
一人の女性を巡って争うけれど、深い友情で結ばれたラヴロフとディミトリ、前線に向かう前に思いを寄せている女性に思い切ってプロポーズする青年、ノートに詩を書きとめ皆に聞かせる青年・・・ 世界のどこにでもいそうな若者たちの姿が描かれていて、戦争の虚しさをずっしりと感じさせられました。(咲)
こちらも、あわせてどうぞ!
12/3公開 『ナチス・バスターズ』
2020年/ロシア映画/ロシア語/142分/シネマスコープ
字幕:藤本聡
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
© Voenfilm
公式サイト:https://1941.jp/
★2021年11月19日(金)より東京・グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国ロードショー
2021年11月12日
シネマハウス大塚特選企画 『日常を「観察」する映画作家・想田和弘の仕事2007‐2020』
なぜ彼はドキュメンタリーを撮るのか?
想田監督のレクチャー付きで最新作『精神0』までの想田監督の軌跡がすべて上映されます。
【期日と期間】11月14日(日)から11月23日(火・祝)
【時間】10:00-22:00帯 シネマハウス大塚ホールにて。
【料金想定】全プログラム:1300円
【上映作品】A―K 上映時間
A選挙120 B精神135分 CPeace75分 D演劇1 172分 E演劇2 170分
F選挙2 149分 G牡蠣工場145分 H港町122分 Iザ・ビッグハウス 119分
J短編特集 計65分 K精神0 128分
【上映スケジュール】
11月14日(日)10:30A「選挙」13:00F「選挙2」 16:00 C「Peace」 18:00H「港町」
11月15日(月)10:30B 「精神」13:30K「精神0」 16:30G「牡蠣工場」
11月16日(火)10:30D 「演劇1」14:00E「演劇2」 17:30F「選挙2」
11月17日(水)10:30A「選挙」13:00F「選挙2」 16:00 H「港町」 18:30J「短編特集」
11月18日(木)10:30B 「精神」13:30K「精神0」16:00G「牡蠣工場」19:00C「Peace」
11月19日(金)10:30I「ザ・ビッグハウス」 13:00B「精神」 16:00K 「精神0」
11月20日(土)10:30D 「演劇1」14:00E「演劇2」 17:30C「Peace」19:00レクチャー
11月21日(日)10:30I「ザ・ビッグハウス」13:00A 「選挙」15:30レクチャー 18:00H「港町」
11月22日(月)10:30D「演劇1」14:00E「演劇2」17:30I「ザ・ビッグハウス」
11月23日(火・祝祭)10:30B 「精神」13:30K「精神0」 16:30G「牡蠣工場」
全プログラム1300円(税込み)。障害者1000円(税込)。
レクチャーは90分予定。
予約・問い合わせ info@cinemahouseotsuka.com
シネジャの作品紹介
選挙 http://www.cinemajournal.net/review/2007/index.html#senkyo
選挙2 http://www.cinemajournal.net/review/2013/index.html#senkyo2
精神 http://www.cinemajournal.net/review/2009/index.html#seishin
想田監督のレクチャー付きで最新作『精神0』までの想田監督の軌跡がすべて上映されます。
【期日と期間】11月14日(日)から11月23日(火・祝)
【時間】10:00-22:00帯 シネマハウス大塚ホールにて。
【料金想定】全プログラム:1300円
【上映作品】A―K 上映時間
A選挙120 B精神135分 CPeace75分 D演劇1 172分 E演劇2 170分
F選挙2 149分 G牡蠣工場145分 H港町122分 Iザ・ビッグハウス 119分
J短編特集 計65分 K精神0 128分
【上映スケジュール】
11月14日(日)10:30A「選挙」13:00F「選挙2」 16:00 C「Peace」 18:00H「港町」
11月15日(月)10:30B 「精神」13:30K「精神0」 16:30G「牡蠣工場」
11月16日(火)10:30D 「演劇1」14:00E「演劇2」 17:30F「選挙2」
11月17日(水)10:30A「選挙」13:00F「選挙2」 16:00 H「港町」 18:30J「短編特集」
11月18日(木)10:30B 「精神」13:30K「精神0」16:00G「牡蠣工場」19:00C「Peace」
11月19日(金)10:30I「ザ・ビッグハウス」 13:00B「精神」 16:00K 「精神0」
11月20日(土)10:30D 「演劇1」14:00E「演劇2」 17:30C「Peace」19:00レクチャー
11月21日(日)10:30I「ザ・ビッグハウス」13:00A 「選挙」15:30レクチャー 18:00H「港町」
11月22日(月)10:30D「演劇1」14:00E「演劇2」17:30I「ザ・ビッグハウス」
11月23日(火・祝祭)10:30B 「精神」13:30K「精神0」 16:30G「牡蠣工場」
全プログラム1300円(税込み)。障害者1000円(税込)。
レクチャーは90分予定。
予約・問い合わせ info@cinemahouseotsuka.com
シネジャの作品紹介
選挙 http://www.cinemajournal.net/review/2007/index.html#senkyo
選挙2 http://www.cinemajournal.net/review/2013/index.html#senkyo2
精神 http://www.cinemajournal.net/review/2009/index.html#seishin
サマーゴースト
原案/監督:loundraw
脚本:安達寛高(乙一)
キャラクター原案:loundraw
音楽:小瀬村晶、当真伊都子、Guiano、HIDEYA KOJIMA
企画:FLAGSHIP LINE
アニメーション制作:FLAT STUDIO
声の出演:小林千晃(杉崎友也)、島袋美由利(春川あおい)、島﨑信長(小林涼役)、川栄李奈(佐藤絢音)
「サマーゴーストって知ってる?」
ネットを通じて知り合った高校生、友也・あおい・涼。都市伝説として囁かれる“通称:サマーゴースト”は、若い女性の幽霊で、花火をすると姿を現すという。自身が望む人生へ踏み出せない"友也"。居場所を見つけられない"あおい"。輝く未来が突然閉ざされた"涼"。
彼等にはそれぞれ、サマーゴーストに会わなくてはならない理由があった。生と死が交錯する夏の夜、各々の想いが向かう先はー。
イラストレーター loundraw(ラウンドロー) 初監督映画作品。優しい色使いで、繊細な感情を表現しています。3人が抱いている幽霊に会いたい理由はそれぞれですが「これは自分のこと?」と思える人もいるでしょう。若い人にはもっと刺さりそうです。サマーゴーストは綺麗なお姉さんで、足もあります。なので、怖くはありません。
友也はサマーゴーストがもとはどこでどう生きていて、なぜゴーストとなっているのか疑問を持ちます。そしてもう一つの物語が進んでいくのですが、それが前半と色合いの違うミステリー。短い中によくまとめられています。連続アニメでひとりずつじっくり見てもよかったな。(白)
2021年/日本/カラー/シネスコ/40 分
製作・配給:エイベックス・ピクチャーズ
Ⓒサマーゴースト
公式サイト:https://summerghost.jp
公式Twitter:@summerghost_PR
本予告公開URL:https://youtu.be/DLMF3GxXVYM
★2021年11月12日(金)ロードショー
『サマーゴースト』スタッフトークショー付き上映会 概要
【舞台挨拶日時・登壇者】
2021年11月27日(土)13:00の回 上映後登壇
登壇者:loundraw<監督>、石井 龍<プロデューサー>
ゲスト:小瀬村晶<音楽>
2021年11月29日(月)18:30の回 上映後登壇
登壇者:loundraw<監督>、石井 龍<プロデューサー>
ゲスト:小林千晃、島袋美由利
2021年12月1日(水)18:30の回 上映後登壇
登壇者:loundraw<監督>、石井 龍<プロデューサー>、今福太郎<プロデューサー>
ゲスト:佐野徹夜<小説家>
※敬称略 ※開映時間・登壇者は変更になる可能性がございます。
【会場】TOHOシネマズ 池袋
【舞台挨拶チケット】一般・大学生1,300円均一、高校生以下1,000円
※ムビチケ使用可
※一部パスポートチケット・各種招待券・無料鑑賞使用不可
※各種割引適用不可
【チケット販売】
【PC・スマートフォン】11月24日(水)0:00~(11月23日(火)24:00~)
URL: https://hlo.tohotheater.jp/net/schedule/084/TNPI2000J01.do
【劇場窓口】11月24日(水)劇場オープン時~
※シネマイレージ会員の早期購入(上映3日前、21時からの購入)対象外です。
【入場者特典】
限定ポストカード
※ご入場お一人様につき1部の配布となります。
2021年11月11日
SAYONARA AMERICA
監督:佐渡岳利
撮影:飯田雅裕
音楽:細野晴臣
出演:細野晴臣、高田漣、伊藤大地、伊賀航、野村卓史、ショーン・オノ・レノン
2019年、細野晴臣は音楽活動50年を迎え、初のアメリカでのソロライブを開催した。ニューヨーク、マンハッタンのグラマシー・シアター、ロサンゼルス、ダウンタウンのステイプルズ・センターの舞台で軽やかに、自由に、ギターを奏で、歌う細野晴臣。これまでの“集大成”となるライブを記録したドキュメンタリー。
初めてアメリカン・ミュージックに触れた思い出をとつとつと英語で語っています。客席との会話も自由自在「マッカーサーは音楽を連れて来た。資本主義もね」誰かが「sorry!」と返して笑いが起きます。初めはとてもいいものだと思ったはずなのに、今や格差と分断を作り出す元凶です。
1947年生まれの細野晴臣さんは戦後のベビーブーム世代。港区で生まれ育ったシティボーイです。立教大生のころベースを始め、1969年”エイプリル・フール”のベーシストとしてメジャーデビュー。以後”はっぴいえんど”を経て”イエロー・マジック・オーケストラ(Y.M.O.)”が5年間。休みなく作曲、プロデューサー、レーベル主宰者…挙げきれないほど多岐にわたった活動は誰もが知るところでしょう。2019年、六本木でのTIFFと同時期にあった展覧会「細野観光1969-2019」を見て感嘆したものです。コロナ禍で何かと不自由ですが、17曲の楽曲で彩られるライブを映画館でお楽しみください。(白)
2021年/日本/カラー/シネスコ/83分
配給:ギャガ
(C)2021“HARUOMI HOSONO SAYONARA AMERICA”FILM PARTNERS
ARTWORK TOWA TEI & TOMOO GOKITA
https://gaga.ne.jp/sayonara-america/
★2021年11月12日(金)シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
梅切らぬバカ
監督・脚本:和島香太郎
撮影:沖村志宏
出演:加賀まりこ(山田珠子)、塚地武雅(山田忠男)、渡辺いっけい(里村茂)、森口瑤子(里村英子)、斎藤汰鷹(里村草太)、林家正蔵(大津進)、高島礼子(今井奈津子)
山田珠子は、自閉症の息子・忠男と二人暮らし。毎朝決まった時間に起床して、朝食をとり、決まった時間に家を出る。庭にある梅の木の枝は伸び放題で、隣の里村家からは苦情が届いていた。ある日、腰を痛めた忠男と一緒に転んでしまった珠子は「このまま共倒れになちゃうのかね」と、気づく。グループホームの案内を受けて、悩んだ末に忠男の入居を決める。しかし、初めて離れて暮らすことになった忠男は環境の変化に戸惑い、ホームを抜け出してしまう。そんな中、珠子は邪魔になる梅の木を切ることを決意するが・・・。
障がいや病気のある子どもと暮らす親の心配はたぶん世界中同じ。自分が年を取って先に逝った後、この子は暮らしていけるのだろうか? ほかに頼る人や場所がなければ、その心配が消えることはありません。この映画では77分という短い中で、それをぎゅっと縮めて見せてくれます。塚地武雅さんのオーバーすぎない「忠さん」、母性溢れる加賀まりこさんの「珠子」、障がいのある人を身近で見たからこその温かいシーンに切なくなります。辛口の占いのシーンに笑いました。私も見てもらいたい。
和島監督がこの映画を作るきっかけになったのは助監督をしたドキュメンタリー『だってしょうがないじゃない』(2019/坪田義史監督)だったそうです。公開当時に観て、先に逝く親と遺された子どもの辛さ、親を亡くした後の自立の難しさを知りました。そちらには桜の木を切るシーンがあり、フィクションの本作では梅の木を切るか切るまいかというシーンがあります。「桜切るバカ、梅切らぬバカ」というのは、対象に則して考えよということわざ。生き方や人間関係にも当てはまります。忠さんにもいろいろありましたが、ラストに希望を感じました。
我が家も道路にはみ出る枝には注意して、人に当たらないようやっぱり剪定しています。忠さんもそこだけは譲ったほうがいいんじゃないかな。(白)
こちらに「爪切り」メイキングシーンが公開されています。
2021年/日本/カラー/シネスコ/77分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
https://happinet-phantom.com/umekiranubaka/
★2021年11月12日(金)全国順次ロードショー
唐人街探偵 NEW YORK MISSION (原題:唐人街探案2)
監督・脚本:チェン・スーチェン
出演:ワン・バオチャン(タン・レン)、リウ・ハオラン(チン・フォン)、シャオ・ヤン(ソン・イー)、妻夫木聡(野田 昊)、ナターシャ・リュー・ボルディッツォ(チャン・イン)、シャン・ユーシエン(KIKO)
中国の天才探偵、チン・フォンは、叔父であるタン・レンの結婚式に招待され、アメリカ・ニューヨークへ向かう。しかし、結婚式というのは真っ赤なウソで、タン・レンの目的は賞金500万ドルが賭けられた「世界名探偵大会」に参加させることだった。その内容は唐人街マフィアの孫が惨殺された猟奇的殺人事件の犯人を捜し出すというもの。探偵専用の推理アプリ「CRIMASTER」(クライマスター)で世界ランキング上位の名探偵たちも、賞金目当てに各国から集結し、事件の謎に挑む。ところが、この事件は大きな陰謀が渦巻く連続殺人事件の序章に過ぎなかった—。
公開日が前後しましたが、このシリーズ3作目『唐人街探偵 東京MISSION』はすでに公開済み。舞台が日本だとどうもちょっと「?」が出てきてしまうので、違いのわからないNY編は落ち着いて観られます。
世界中の名探偵がそろったという趣向なので、チン・フォンの好敵手になる野田 昊(のだ・ひろし)役の妻夫木聡も登場します。賑やかというか騒々しいのは変わらず、殺人事件もミステリーもこの人たちにかかれば、ドタバタコメディに早変わり。ワン・バオチャンを正月映画で見るのをみんな楽しみにしているのでしょう。そろそろ人情物やアクション映画での彼を観たいものですが。(白)
『唐人街探偵 東京MISSION』(原題:唐人街探案3)はこちら。
2018年/中国/カラー/シネスコ/121分
配給:チームジョイ
(C)Wanda Media Co., Ltd.
https://toujingai-nyc-movie.com/
★2021年11月12日(金)
ヒューマントラストシネマ渋谷・池袋HUMAXシネマズ 他全国順次公開!
フォーリング 50年間の想い出(原題:Falling)
監督/製作/脚本/作曲:ヴィゴ・モーテンセン
出演:ランス・ヘンリクセン(75歳時のウィリス)、ヴィゴ・モーテンセン(50歳時のジョン)、スヴェリル・グドナソン(23~43歳時のウィリス)、ローラ・リニー(サラ)
認知症を抱える父との再会をきっかけに辿る50年間の記憶
言葉にできなかった想いを確かめ合う親子の物語
言葉にできなかった想いを確かめ合う親子の物語
パイロットのジョンは高齢になった父の新しい住居を探すため、久しぶりに再会した。父の怒りっぽい性格はそのまま、認知症を患って口汚く相手を罵るのに閉口する。ジョンがゲイであることを受け入れず、パートナーのエリックには冷たいが、養女のモニカとだけは交流する。記憶も混濁していて、飛行機の中で死んだ妻の名を呼んで騒ぎ出す。心配して来てくれた妹家族とも打ち解けない。ジョンは悪口三昧の父に長く耐えてきたがついに心のうちを吐き出してしまう。繊細な息子は不器用な父との間の深い溝を埋められるのか?
ヴィゴ・モーテンセンの父との思い出が反映されている作品。昔の思い出と現在が代わる代わる現れます。ジョンの鬱屈の理由が少しずつわかってきます。まだ若かった両親の楽しい日々は短く、離婚して兄妹は母と家を出てしまいました。母が亡くなった後、戻った家での継母と父との生活。父の記憶の中では母と継母が入り混じっています。
認知症の本人も、記憶が零れ落ちていくのが不安でなりません。できないことが日々増え、遠く見えていた死に近づいていきます。きっと心の中では、恐れや情けなさや怒り、悲しみが渦巻いているはず。
若き日の父をビヨン・ボルグを演じたスヴェル・グドナソン、老父をベテランのランス・ヘンリクセン。ヴィゴ・モーテンセン、主演であり監督であり、脚本と音楽も手掛けています。なんと多才な人なんでしょう。こちらにヴィゴ・モーテンセンから日本の観客に向けてのメッセージと予告編があります。(白)
2020年/カナダ・イギリス合作/カラー/シネスコ/112分英語・スペイン語
配給:キノシネマ
(c)2020 Falling Films Inc. and Achille Productions (Falling) Limited・ SCORE
(c)2020 PERCEVAL PRESS AND PERCEVAL PRESS INC. ・ A CANADA - UNITED KINGDOM CO-PRODUCTION
https://movie.kinocinema.jp/works/falling
★2021年11月12日(金)キノシネマ他、全国順次公開
カオス・ウォーキング(原題:CHAOS WALKING)
監督:ダグ・リーマン
原作:『心のナイフ〈混沌(カオス)の叫び1〉』パトリック・ネス著(東京創元社)
脚本:パトリック・ネス&クリストファー・フォード
出演:トム・ホランド(トッド)、デイジー・リドリー(ヴァイオラ)、マッツ・ミケルセン(フレンティス首長)、デミアン・ビチル(ベン)、シンシア・エリヴォ(ヒルディ)、ニック・ジョナス(ディヴィ・フレンティス・ジュニア)、デヴィッド・オイェロウォ(アーロン牧師)
西暦2257年、〈ニュー・ワールド〉。そこは、汚染した地球を旅立った人類がたどり着いた〈新天地〉のはずだった。だが、男たちは頭の中の考えや心の中の想いが、〈ノイズ〉としてさらけ出されるようになり女は死に絶えていった。この星で生まれ、最も若い青年であるトッドは、一度も女性を見たことがない。
ある時、地球からやって来た宇宙船が墜落し、トッドはたった一人の生存者となったヴァイオラと出会い、ひと目で恋におちる。ヴァイオラを捕えて利用しようとする首長のプレンティスから、彼女を守ると決意するトッド。
二人の逃避行の先々で、この星の驚愕の秘密が明らかになっていく──。
男ばかりの村で育ったトッドは母の思い出は薄れ、女性を見たことがありません。宇宙船から来た女性ヴァイオラと出会って、心の声〈ノイズ〉がみな外に駄々洩れしてしまうところがとても面白いです。男だけのノイズという設定が奇抜で、これは困るだろうし、メンタル弱い人はやっていけません。
粗野で純真なトッドをスパイダーマンで人気となったトム・ホランド。ヴァイオラを『スター・ウォーズ』3部作でレイを演じたデイジー・リドリー。ノイズは頭の周りにタバコの煙のように現れ、これは特殊効果のスタッフが一番考えたところでしょう。能力が高ければノイズは力となり、形を結んだり、人を操ったりもでき、唯一自分のノイズをコントロールできるのがプレンティス首長。その力で周りを従わせている権力者をマッツ・ミケルセン。迫力です。
原作は3部作のヤングアダルト向けの長編でいずれも受賞しています。長尺の原作を1本の映画脚本にしたのは、原作者のパトリック・ネス。映画だから可能な表現をおおいに楽しんだようすです。原作も読んで見比べてみたいのですが、いつになるやら。
地球に住めなくなる日が来ると想像したくありませんが、地球に害成す人類は地球によって淘汰されてしまわないか、とそれが怖い。(白)
2021 年/アメリカ・カナダ・香港/カラー/109 分/ドルビーデジタル/スコープサイズ
配給:キノフィルムズ
(C)2021 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved
https://cw-movie.jp/
Twitter:@ChaosWalking_jp
★2021年11月12日(金)より TOHO シネマズ 日比谷ほかにて公開
ミムジー・ファーマー主演の2本
『MORE モア』(原題:More)
監督:脚本:バーベット・シュローダー
撮影:ネストール・アルメンドロス
音楽:ピンク・フロイド
出演:ミムジー・ファーマー(エステル)、クラウス・グリュンバーグ(ステファン)、ハインツ・エンゲルマン(ウォルフ)、ミシェル・シャンデルリ(チャーリー)、ヘンリー・ウルフ(ヘンリー)、ルイズ・ウィンク(キャシー)
ドイツ人の若者ステファンは学業を放り出し、自分探しの旅に出た。資金が底をつく頃、賭けでステファンに勝ったチャーリーとつるむことになった。ある夜、2人で潜り込んだパーティで、ステファンはアメリカ人女性エステルに一目ぼれする。チャーリーの忠告を聞き流し、彼女を追ってイビサ島を訪れる。眩しい陽光と青い海に囲まれた大自然の中で愛し合い、自由で幸せな日々を過ごすステファンとエステルだったが、エステルが隠し持っていたヘロインが2人の運命を大きく変えていく。
アメリカ出身の女優ミムジー・ファーマーは今回2本のリバイバル上映で知りました。金髪のショートカット、スタイル良く青春スターの外観で、悪女の片鱗もないのですが、関わった相手も自分もいつのまにやら破滅させてしまうという。まぜるな危険じゃなく「近づくな危険」の女子でした。本作ではバイセクシュアルの麻薬中毒者を鮮烈に演じて、一躍人気とになったそうです。ピンク・フロイドが初めて映画音楽を手がけています。1969年には『明日に向って撃て』『真夜中のカーボーイ』や『イージー・ライダー』なども本国でヒットしています。なんだか時代の共通点があるような。(白)
1969年/西ドイツ・フランス・ルクセンブルク合作/カラー/スコープ/116分/R15+
(C)1969 FILMS DU LOSANGE
日本初公開:1971年2月20日
『渚の果てにこの愛を』(原題:La route de Salina)
監督・脚本:ジョルジュ・ロートネル
原作:モーリス・キュリー
出演:ミムジー・ファーマー(ビリー)、ロバート・ウォーカー(ジョナス)、リタ・ヘイワース(マラ)、エド・べグリー(ワレン)、ブルース・ぺシュール(チャーリー)、デビッド・サックス(警察署長)
港町サリナへと続く一本道。荒野にガソリンスタンド兼食堂がポツンとある。若い旅人のジョナスが立ち寄り、女主人と目が合った。すると「ロッキー!」と呼ばれた。4年前に家を出たきりの息子と間違えているらしい。妹だという美しい娘ビリーも兄と呼んで抱きついて再会を喜んでいる。そんなに似ているのかととまどうジョナスだったが、行く当てもないので、そのままロッキーとして二人と暮らすことにした。
『MORE/モア』で一躍時の人になったミムジー・ファーマーのもう一つの代表作。こちらは人違いをされたまま、他人になりきって暮らしてしまう男と、その裏にある真実が描かれます。荒野の先は青い海と砂浜。平和そうな田舎町で何が起こっていたのか、可憐なミムジー・ファーマーのヌードにくらくらしていると、あなたもき・け・ん。(白)
1970年/フランス・イタリア合作/カラー/スコープ/95分/R15+
© 1970 STUDIOCANAL - Fono Roma - Selenia Cinematografica S.R.L. All Rights Reserved.
日本初公開:1971年6月19日
https://mimsyfarmer2021.com/
配給:コピアポア・フィルム
★2021年11月5日(金)新宿 シネマカリテにてロードショー
2021年11月07日
我が心の香港 映画監督アン・ホイ 原題/好好拍電影 英題/Keep Rolling
11月6日(土) 新宿K’s cinemaにてロードショー!! 上映劇場
監督:文念中(マン・リムチョン)
音楽:大友良英
主な登場人物:許鞍華(アン・ホイ)、施南生(ナンサン・シー)、徐克(ツイ・ハーク)、陳果(フルーツ・チャン)、田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)・侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、劉徳華(アンディ・ラウ)、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)、張艾嘉(シルヴィア・チャン)、蕭芳芳(ジョセフィン・シャオ)
ただ 香港と映画を愛した
人生は映画とともに――
これまでも これからも香港のために映画を撮り続ける
ヴェネチア国際映画祭で「生涯功労賞」を受賞した香港の映画監督許鞍華(アン・ホイ)。『客途秋恨』(1990年)、『女人、四十。』(1995年)、『桃さんのしあわせ』(2011)、『黄金時代』(2014)などの作品で、香港電影金像奨の最優秀監督賞に6度、台湾金馬奨では3回の監督賞に輝くなど、世界的に知られ、今年74歳になる香港の映画監督アン・ホイ。1980年代以降、ツイ・ハークやイム・ホー、パトリック・タムらと共に、<香港ニューウェーブ>の旗手として香港映画の発展に大きく貢献した40年に及ぶ映画人生。
激動の香港の歴史と時間の流れに沿いながら、アジアの女性監督のトップランナーとしての歩み続けた。香港の文化を重んじ、ロンドンで映画を学んだ彼女は、まさに“東洋と西洋の出会い”と“香港魂”を体現する存在でもあった。今日に至る香港映画の発展に大きな貢献を果たしてきた彼女の実像に迫る。中華映画界の活躍する監督や俳優たちが語るアン・ホイ監督の実像とは!
日本人の母と暮らす慎ましやかな日常生活、香港への思い、女性としての生き様、エネルギッシュな撮影風景を映し出し、ひとりの映画監督のこれまで歩んできた道を探る。シルヴィア・チャン、アンディ・ラウ、ツイ・ハーク、ホウ・シャオシェン、フルーツ・チャン、ティエン・チュアンチュアン、ジャ・ジャンクーなど香港・台湾・中国映画界の映画人たちが、彼女の作品と交遊、人柄について語る。
公式サイトより
マン・リムチョン監督は本作で2021年香港電影監督会新人監督賞受賞!
監督のマン・リムチョンは、美術監督・衣装デザイナーを務めた『君のいた永遠(とき)』(1999年/シルヴィア・チャン監督)で香港電影金像奨芸術監督賞を受賞。『花様年華』(2000年/ウォン・カーウァイ監督/カンヌ国際映画祭2000年最優秀男優賞[トニー・レオン]他多数)のアート・ディレクターも務めた実力派。初監督となる本作で見事、2021年香港電影監督会新人監督賞を射止めた。アン・ホイ監督作では『男人四十』(2002年)の芸術監督、『黄金時代』(2014年)の衣装デザインなども担う。
「あまちゃん」「いだてん」の大友良英が奏でる、香港と映画への想い
音楽はNHK連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽で日本レコード大賞作曲賞等、数多くの映画やテレビの音楽を手がける大友良英。大友は『女人、四十。』でもアン・ホイ監督の音楽を手がけ、本作は2度目のタッグとなる。
社会派ドラマからアクション映画、ホラー、コメディ、ラブストーリーまで幅広いジャンルで数々の作品を手がけてきた許鞍華監督。彼女の活躍はとても心強く思ってきました。シネマジャーナルでは、第13回東京国際映画祭(2000)で『千言萬語』(1999)が上映された時に許鞍華監督にインタビューしたことがあります(2000年発行のシネマジャーナル50号に掲載)。実は、その時のアン・ホイ監督の印象はあまりよくはなかったのです。しかも、その後、自分の作品の日本公開があっても監督は日本に来ていないし、日本が嫌いなのかなと思っていました。でも、この作品を観て、あの時の監督の態度の原因がわかりました(笑)。夕方のインタビューで、監督は疲れきっていたのでしょう。同じ質問にうんざりしていたし、煙草も吸いたかったのでしょう。そして、母親は日本人でも、日本に対して、やはり距離を置く思いがあったのかもしれません。でも、『極道追踪』(1991年)や『客途秋恨』 (1990年)は日本で撮影しているし、若い頃あったという反日感情は今はないのではないかと思います。15,6歳頃、母が日本人だと知ってからの母に対する反感とかわだかまりは、だんだなくなって今は二人でつつましく暮らしている様子が描かれていて、ほっとしました。中華圏の名だたる監督たちや俳優たちへのインタビューが出てきましたが、アンディファンの私としては彼のデビュー作『望郷』での若々しい姿を久しぶりに観て、今の活躍ぶりはアン・ホイ監督あってのものだったのだなと感慨深く思いました(暁)。
『桃さんのしあわせ(桃姐)』一行 左から原作者でプロデューサーの李恩霖(ロジャー・リー)、許鞍華(アン・ホイ)監督、桃姐役の葉德嫻(デニー・イップ)、ロジャー役の劉徳華(アンディ・ラウ)
香港/2020年/119分/DCP/日本版字幕:鈴木真理子
協力:大阪アジアン映画祭/鮑智行/柳川由加里
提供・配給:パンドラ
監督:文念中(マン・リムチョン)
音楽:大友良英
主な登場人物:許鞍華(アン・ホイ)、施南生(ナンサン・シー)、徐克(ツイ・ハーク)、陳果(フルーツ・チャン)、田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)・侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、劉徳華(アンディ・ラウ)、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)、張艾嘉(シルヴィア・チャン)、蕭芳芳(ジョセフィン・シャオ)
ただ 香港と映画を愛した
人生は映画とともに――
これまでも これからも香港のために映画を撮り続ける
ヴェネチア国際映画祭で「生涯功労賞」を受賞した香港の映画監督許鞍華(アン・ホイ)。『客途秋恨』(1990年)、『女人、四十。』(1995年)、『桃さんのしあわせ』(2011)、『黄金時代』(2014)などの作品で、香港電影金像奨の最優秀監督賞に6度、台湾金馬奨では3回の監督賞に輝くなど、世界的に知られ、今年74歳になる香港の映画監督アン・ホイ。1980年代以降、ツイ・ハークやイム・ホー、パトリック・タムらと共に、<香港ニューウェーブ>の旗手として香港映画の発展に大きく貢献した40年に及ぶ映画人生。
激動の香港の歴史と時間の流れに沿いながら、アジアの女性監督のトップランナーとしての歩み続けた。香港の文化を重んじ、ロンドンで映画を学んだ彼女は、まさに“東洋と西洋の出会い”と“香港魂”を体現する存在でもあった。今日に至る香港映画の発展に大きな貢献を果たしてきた彼女の実像に迫る。中華映画界の活躍する監督や俳優たちが語るアン・ホイ監督の実像とは!
日本人の母と暮らす慎ましやかな日常生活、香港への思い、女性としての生き様、エネルギッシュな撮影風景を映し出し、ひとりの映画監督のこれまで歩んできた道を探る。シルヴィア・チャン、アンディ・ラウ、ツイ・ハーク、ホウ・シャオシェン、フルーツ・チャン、ティエン・チュアンチュアン、ジャ・ジャンクーなど香港・台湾・中国映画界の映画人たちが、彼女の作品と交遊、人柄について語る。
公式サイトより
マン・リムチョン監督は本作で2021年香港電影監督会新人監督賞受賞!
監督のマン・リムチョンは、美術監督・衣装デザイナーを務めた『君のいた永遠(とき)』(1999年/シルヴィア・チャン監督)で香港電影金像奨芸術監督賞を受賞。『花様年華』(2000年/ウォン・カーウァイ監督/カンヌ国際映画祭2000年最優秀男優賞[トニー・レオン]他多数)のアート・ディレクターも務めた実力派。初監督となる本作で見事、2021年香港電影監督会新人監督賞を射止めた。アン・ホイ監督作では『男人四十』(2002年)の芸術監督、『黄金時代』(2014年)の衣装デザインなども担う。
「あまちゃん」「いだてん」の大友良英が奏でる、香港と映画への想い
音楽はNHK連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽で日本レコード大賞作曲賞等、数多くの映画やテレビの音楽を手がける大友良英。大友は『女人、四十。』でもアン・ホイ監督の音楽を手がけ、本作は2度目のタッグとなる。
社会派ドラマからアクション映画、ホラー、コメディ、ラブストーリーまで幅広いジャンルで数々の作品を手がけてきた許鞍華監督。彼女の活躍はとても心強く思ってきました。シネマジャーナルでは、第13回東京国際映画祭(2000)で『千言萬語』(1999)が上映された時に許鞍華監督にインタビューしたことがあります(2000年発行のシネマジャーナル50号に掲載)。実は、その時のアン・ホイ監督の印象はあまりよくはなかったのです。しかも、その後、自分の作品の日本公開があっても監督は日本に来ていないし、日本が嫌いなのかなと思っていました。でも、この作品を観て、あの時の監督の態度の原因がわかりました(笑)。夕方のインタビューで、監督は疲れきっていたのでしょう。同じ質問にうんざりしていたし、煙草も吸いたかったのでしょう。そして、母親は日本人でも、日本に対して、やはり距離を置く思いがあったのかもしれません。でも、『極道追踪』(1991年)や『客途秋恨』 (1990年)は日本で撮影しているし、若い頃あったという反日感情は今はないのではないかと思います。15,6歳頃、母が日本人だと知ってからの母に対する反感とかわだかまりは、だんだなくなって今は二人でつつましく暮らしている様子が描かれていて、ほっとしました。中華圏の名だたる監督たちや俳優たちへのインタビューが出てきましたが、アンディファンの私としては彼のデビュー作『望郷』での若々しい姿を久しぶりに観て、今の活躍ぶりはアン・ホイ監督あってのものだったのだなと感慨深く思いました(暁)。
『桃さんのしあわせ(桃姐)』一行 左から原作者でプロデューサーの李恩霖(ロジャー・リー)、許鞍華(アン・ホイ)監督、桃姐役の葉德嫻(デニー・イップ)、ロジャー役の劉徳華(アンディ・ラウ)
香港/2020年/119分/DCP/日本版字幕:鈴木真理子
協力:大阪アジアン映画祭/鮑智行/柳川由加里
提供・配給:パンドラ
記憶の戦争 原題 기억의 전쟁 英題:Untold
2021年11月6日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開!
劇場情報
監督:イギル・ボラ
製作:ソ・セロム チョ・ソナ
製作総指揮:イギル・ボラ
撮影:クァク・ソジン
美術:クァク・ソジン
編集:パトリック・ミンクス イギル・ボラ キム・ナリ キム・ヒョンナム
音楽:イ・ミンフィ
ベトナム戦争時の韓国軍による民間人虐殺を検証
ダナンから車で20分ほどの場所にあるフォンニィ村。ベトナム戦争時、延べ30万人もの韓国軍が参戦していたが、その軍事行動での痛ましい民間人虐殺事件を取り上げたドキュメンタリー。イギル・ボラ監督の祖父がベトナム戦争に参加し枯葉剤の後遺症でなくなっていたり、18歳でアジア各地を放浪したことがこの作品を作るきっかけになったという。
2018年4月、ソウルで開かれた市民平和法廷で、1968年にあった「フォンニィ・フォンニャットの虐殺事件」の生存者であるベトナム人女性、グエン・ティ・タンは法廷にたった。8歳の時に韓国軍に家族を殺され孤児となった彼女は、その記憶を思い出しあの日見たことを語る。あの日、一体何が起こったのか…。
あの日の出来事を目撃したディン・コムは身振り手振りを交えて当時を再現する。あの日の後遺症で視力を失ったグエン・ラップはこれまで語ることのなかった記憶を絞り出すように語る。一方で、“参戦勇士”と称された韓国軍人たちは、「我々は、良民は殺していない」と主張する…。
監督のイギル・ボラは女性の製作陣とともに「ベトナム民間人虐殺」の記憶について当事者たちの生々しい証言を記録し、衝撃的で、勇敢で、優しい傑作ドキュメンタリーを誕生させた。
リアルタイムでベトナム戦争のニュースを聞き、TVで映像を見たり、あるいは現地の戦場写真を見てきた世代としては、韓国からこんなにもたくさんの兵士たちが従軍し、それを誇りとして生きているということを知りショックだった。しかも韓国の枯葉剤の被害者団体の会員が14万人と知り、さらにびっくり。兵士自身がそんなに被害を受けていたのにベトナム戦争そのものに疑問はなかったのだろうか。この作品の中に出てくる市民法廷が行われた会場に、そのメンバーによる妨害が出てきて、さらに重い気持ちになった。
イギル・ボラ監督は、そういう中で、このドキュメンタリーを撮った。とても勇気のいることだっただろう。ストレスも多かったのかもしれない。ボラ監督は、「若い女に、この戦争のことがわかるもんか」という言葉も兵士から言われて、かなりめげたらしい。2015年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で前作『きらめく拍手の音』がアジア特別賞を受賞し、台上に出てきた時、坊主頭だったのでびっくりしたことを思いだし、そのことを聴いたら、あの頃はいろいろむしゃくしゃするこがたくさんあって坊主頭にしたと語っていたので、ちょうど山形に来た頃が、この作品にとりかかった頃ということでストレスを感じていたのかもしれない。この作品は全員女性ばかりのチームで作ったとのことだったけど、それは良かったことかもしれない。女性ばかりのチームだからこそ作り上げることができ、自信にもつながっていると思う(暁)。
イギル・ボラ監督インタビュー記事
製作:Whale Film
2018年|韓国|韓国語・ベトナム語|カラー| 79 分| DCP
宣伝美術:李潤希
配給・宣伝:スモモ、マンシーズエンターテインメント
2018年製作/79分/韓国
劇場情報
監督:イギル・ボラ
製作:ソ・セロム チョ・ソナ
製作総指揮:イギル・ボラ
撮影:クァク・ソジン
美術:クァク・ソジン
編集:パトリック・ミンクス イギル・ボラ キム・ナリ キム・ヒョンナム
音楽:イ・ミンフィ
ベトナム戦争時の韓国軍による民間人虐殺を検証
ダナンから車で20分ほどの場所にあるフォンニィ村。ベトナム戦争時、延べ30万人もの韓国軍が参戦していたが、その軍事行動での痛ましい民間人虐殺事件を取り上げたドキュメンタリー。イギル・ボラ監督の祖父がベトナム戦争に参加し枯葉剤の後遺症でなくなっていたり、18歳でアジア各地を放浪したことがこの作品を作るきっかけになったという。
2018年4月、ソウルで開かれた市民平和法廷で、1968年にあった「フォンニィ・フォンニャットの虐殺事件」の生存者であるベトナム人女性、グエン・ティ・タンは法廷にたった。8歳の時に韓国軍に家族を殺され孤児となった彼女は、その記憶を思い出しあの日見たことを語る。あの日、一体何が起こったのか…。
あの日の出来事を目撃したディン・コムは身振り手振りを交えて当時を再現する。あの日の後遺症で視力を失ったグエン・ラップはこれまで語ることのなかった記憶を絞り出すように語る。一方で、“参戦勇士”と称された韓国軍人たちは、「我々は、良民は殺していない」と主張する…。
監督のイギル・ボラは女性の製作陣とともに「ベトナム民間人虐殺」の記憶について当事者たちの生々しい証言を記録し、衝撃的で、勇敢で、優しい傑作ドキュメンタリーを誕生させた。
リアルタイムでベトナム戦争のニュースを聞き、TVで映像を見たり、あるいは現地の戦場写真を見てきた世代としては、韓国からこんなにもたくさんの兵士たちが従軍し、それを誇りとして生きているということを知りショックだった。しかも韓国の枯葉剤の被害者団体の会員が14万人と知り、さらにびっくり。兵士自身がそんなに被害を受けていたのにベトナム戦争そのものに疑問はなかったのだろうか。この作品の中に出てくる市民法廷が行われた会場に、そのメンバーによる妨害が出てきて、さらに重い気持ちになった。
イギル・ボラ監督は、そういう中で、このドキュメンタリーを撮った。とても勇気のいることだっただろう。ストレスも多かったのかもしれない。ボラ監督は、「若い女に、この戦争のことがわかるもんか」という言葉も兵士から言われて、かなりめげたらしい。2015年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で前作『きらめく拍手の音』がアジア特別賞を受賞し、台上に出てきた時、坊主頭だったのでびっくりしたことを思いだし、そのことを聴いたら、あの頃はいろいろむしゃくしゃするこがたくさんあって坊主頭にしたと語っていたので、ちょうど山形に来た頃が、この作品にとりかかった頃ということでストレスを感じていたのかもしれない。この作品は全員女性ばかりのチームで作ったとのことだったけど、それは良かったことかもしれない。女性ばかりのチームだからこそ作り上げることができ、自信にもつながっていると思う(暁)。
イギル・ボラ監督インタビュー記事
製作:Whale Film
2018年|韓国|韓国語・ベトナム語|カラー| 79 分| DCP
宣伝美術:李潤希
配給・宣伝:スモモ、マンシーズエンターテインメント
2018年製作/79分/韓国
これは君の闘争だ 原題:Espero tua (Re)volta
11月6日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督・脚本:エリザ・カパイ
撮影:エリザ・カパイ、ブルーノ・ミランダ
編集:エリザ・カパイ、ユリ・アマラウ
音楽:Décio 7
ナレーション:ルーカス・“コカ”・ペンチアド、マルセラ・ジェズス、ナヤラ・スーザ
音響:Confraria de Sons & Cigars
プロデューサー:アリアナ・ジェネスカ
ブラジルの高校生たちの闘争を描く
2013年6月、ブラジル・サンパウロの路上学生たちが繰り広げる、公共交通機関の値上げ反対デモや、公立高校再編案に反対する学校占拠など、活発な政治運動がおこった。初めはバス料金20セントに対する要求だったが、次第に政治に対するものになり、物価上昇や重税、LGBTQ+や女性の権利、人種差別など、様々な問題に対する抗議へと広がっていった。
そして、2015年10月サンパウロの高校生たちが公立学校の予算削減案、公立学校再編案に抗して自らの学校を占拠することになった。運動はブラジル全土を巻き込み、翌月には200以上の学校が占領されるまでになった。ブラジル社会で高校生たちによる大きな変革が起きようとしていた。若者たち学校を、そして街頭を次々と占拠し、自らの主張を政治家たちに認めせていくが、しだいに警察は暴力的なものになり、学校占拠から3年後、ブラジル初の極右政権が成立するとともに裏切られることになった。14年間続いた左派政権は、たび重なる汚職や治安悪化により民衆の支持を失い、「ブラジルのトランプ」と称されるジャイル・ボルソナロにその座を奪取されてしまった。
当事者である3人の高校生が当時の運動を振り返りながら、そんな激動の2010年代のブラジル社会を学生たちの視点から描いた。それぞれの意見をヒップホップ・ミュージックに乗せラップバトルのように展開させる。進歩的な公共政策の下で育った世代の彼らが混迷化し、急速に右傾化していくブラジル社会を糾弾していく過程で、学生たちの社会に対する希望と不安とが浮き彫りになっていく。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2019インターナショナル・コンペティション部門優秀賞受賞。
*参照記事 シネマジャーナルHP 映画祭報告
山形国際ドキュメンタリー映画祭2019 授賞式レポート
ELIZA CAPAI(エリザ・カパイ) 公式HPより
エリザ・カパイは社会問題に焦点を当てたインディペンデントのドキュメンタリー映画監督である。サンパウロ大学でジャーナリズムを専攻し、近年までマサチューセッツ工科大学(MIT)のオープン・ドキュメンタリー・ラボに特別研究員(fellow)として所属していた。
初長編作品Here Is So Faro (2013)は、7ヵ月間のアフリカ横断旅行での女性との出会いに基づいている。このドキュメンタリーは、リオ国際映画祭のニュートレンド部門でプレミア上映され、最優秀長編映画賞を受賞したほか、ブラジル国内外で複数の賞を受賞した。
長編2作目The Tortoise and the Tapir (2016)は、ブラジルで起きた数十年に一度の大干ばつの期間にアマゾンの熱帯雨林の真ん中に建設・計画された巨大な水力発電所を調査した作品である。
長編3作目『これは君の闘争だ』(2019)は、ブラジルの教育予算削減に対抗して学生たちが学校を占拠する様子を描いた作品である。2019年のベルリン国際映画祭でプレミア上映され、アムネスティ・インターナショナル映画賞と平和映画賞を受賞した。本作はその後、100以上の映画祭で上映され、20以上の賞を受賞している。
最新作『エリーゼ・マツナガ: 殺人犯が抱える心の闇』(2021) は、実在の殺人事件を追った作品であり、2021年9月現在、Netflixで視聴可能である。このドキュメンタリーシリーズでカパイは、ブラジルで最も有名な殺人事件の被告であるエリーゼ・マツナガに事件後初のインタビューを試みた。本シリーズは2021年7月に世界190ヶ国のVODプラットフォームで同時公開された。
新型コロナウィルスの流行下、ボルソナロ大統領はパンデミックが始まってから、新型ウイルス対策において、ロックダウンやマスク着用、ワクチンなどに否定的な発言を繰り返し、その対応によってブラジルでは大量の感染者を出したが、そんな今こそ、振り返るべき“闘争の記録”がここにある(暁)。
配給:太秦
2019年/93分/HD/16:9/ブラジル/ドキュメンタリー
公式HP
監督・脚本:エリザ・カパイ
撮影:エリザ・カパイ、ブルーノ・ミランダ
編集:エリザ・カパイ、ユリ・アマラウ
音楽:Décio 7
ナレーション:ルーカス・“コカ”・ペンチアド、マルセラ・ジェズス、ナヤラ・スーザ
音響:Confraria de Sons & Cigars
プロデューサー:アリアナ・ジェネスカ
ブラジルの高校生たちの闘争を描く
2013年6月、ブラジル・サンパウロの路上学生たちが繰り広げる、公共交通機関の値上げ反対デモや、公立高校再編案に反対する学校占拠など、活発な政治運動がおこった。初めはバス料金20セントに対する要求だったが、次第に政治に対するものになり、物価上昇や重税、LGBTQ+や女性の権利、人種差別など、様々な問題に対する抗議へと広がっていった。
そして、2015年10月サンパウロの高校生たちが公立学校の予算削減案、公立学校再編案に抗して自らの学校を占拠することになった。運動はブラジル全土を巻き込み、翌月には200以上の学校が占領されるまでになった。ブラジル社会で高校生たちによる大きな変革が起きようとしていた。若者たち学校を、そして街頭を次々と占拠し、自らの主張を政治家たちに認めせていくが、しだいに警察は暴力的なものになり、学校占拠から3年後、ブラジル初の極右政権が成立するとともに裏切られることになった。14年間続いた左派政権は、たび重なる汚職や治安悪化により民衆の支持を失い、「ブラジルのトランプ」と称されるジャイル・ボルソナロにその座を奪取されてしまった。
当事者である3人の高校生が当時の運動を振り返りながら、そんな激動の2010年代のブラジル社会を学生たちの視点から描いた。それぞれの意見をヒップホップ・ミュージックに乗せラップバトルのように展開させる。進歩的な公共政策の下で育った世代の彼らが混迷化し、急速に右傾化していくブラジル社会を糾弾していく過程で、学生たちの社会に対する希望と不安とが浮き彫りになっていく。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2019インターナショナル・コンペティション部門優秀賞受賞。
*参照記事 シネマジャーナルHP 映画祭報告
山形国際ドキュメンタリー映画祭2019 授賞式レポート
ELIZA CAPAI(エリザ・カパイ) 公式HPより
エリザ・カパイは社会問題に焦点を当てたインディペンデントのドキュメンタリー映画監督である。サンパウロ大学でジャーナリズムを専攻し、近年までマサチューセッツ工科大学(MIT)のオープン・ドキュメンタリー・ラボに特別研究員(fellow)として所属していた。
初長編作品Here Is So Faro (2013)は、7ヵ月間のアフリカ横断旅行での女性との出会いに基づいている。このドキュメンタリーは、リオ国際映画祭のニュートレンド部門でプレミア上映され、最優秀長編映画賞を受賞したほか、ブラジル国内外で複数の賞を受賞した。
長編2作目The Tortoise and the Tapir (2016)は、ブラジルで起きた数十年に一度の大干ばつの期間にアマゾンの熱帯雨林の真ん中に建設・計画された巨大な水力発電所を調査した作品である。
長編3作目『これは君の闘争だ』(2019)は、ブラジルの教育予算削減に対抗して学生たちが学校を占拠する様子を描いた作品である。2019年のベルリン国際映画祭でプレミア上映され、アムネスティ・インターナショナル映画賞と平和映画賞を受賞した。本作はその後、100以上の映画祭で上映され、20以上の賞を受賞している。
最新作『エリーゼ・マツナガ: 殺人犯が抱える心の闇』(2021) は、実在の殺人事件を追った作品であり、2021年9月現在、Netflixで視聴可能である。このドキュメンタリーシリーズでカパイは、ブラジルで最も有名な殺人事件の被告であるエリーゼ・マツナガに事件後初のインタビューを試みた。本シリーズは2021年7月に世界190ヶ国のVODプラットフォームで同時公開された。
新型コロナウィルスの流行下、ボルソナロ大統領はパンデミックが始まってから、新型ウイルス対策において、ロックダウンやマスク着用、ワクチンなどに否定的な発言を繰り返し、その対応によってブラジルでは大量の感染者を出したが、そんな今こそ、振り返るべき“闘争の記録”がここにある(暁)。
配給:太秦
2019年/93分/HD/16:9/ブラジル/ドキュメンタリー
公式HP
2021年11月06日
ドーナツキング 原題:The Donut King
製作総指揮:リドリー・スコット(『ブレードランナー』)
監督:アリス・グー
出演:テッド・ノイ、クリスティ、チェト・ノイ、サヴィ・ノイ、メイリー・タオ
米・カリフォルニア州にある約5,000店舗のドーナツ店。その90%以上がカンボジア系アメリカ人による個人経営の店だという。どの店のルーツも全米の“ドーナツ王”と呼ばれたテッド・ノイにたどり着く。テッドおじさんのお陰とカンボジア難民たちは感謝する。
テッド・ノイは、1941年、カンボジアのシソポン生まれ。5歳の時、カンボジア人の父が失踪し、中国人の母の苦労を見て必死に勉強。憧れた高校のチャーミングな同級生と結婚。カンボジア国軍の陸軍少佐として家族と共にタイで勤務していた1975年4月、給料を取りにカンボジアに帰った折、クメール・ルージュによりプノンペンが陥落。義父の助けで間一髪、米軍機で脱出するが、国に残った義父の行方は今も不明。テッド一家は、難民としてアメリカに亡命。カリフォルニア州タスティンのガソリンスタンドで働いていたテッドは、初めて口にしたドーナツの美味しさに恋をする。深夜にも客が途絶えないドーナツ店。大手ドーナツチェーン、ウィンチェルで研修を受け、3か月後には店舗責任者に。さらに、翌年、自分の店「クリスティ」1号店を開き、掛け持ちで経営。クリスティは恋女房がアメリカに来てから付けた名前だ。家族経営で経費を抑え、ドーナツを入れる箱も白より安いピンク色に変える。(★注) 自分の店で同胞のカンボジア難民たちを雇い、ドーナツ製造のノウハウを教え、店を構える手助けもした。資産は2,000万ドル(日本円で約22億円)にも達し、1991年には、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領にアメリカンドリームを実現した功績を称えられて表彰も受けた・・・
★注)当時、白い箱に比べピンクの箱は安く手に入り、目立つからという理由だったそうですが、LAタイムズには、アジア人にとって赤やピンクはおめでたい色、白は葬儀で使う縁起の悪い色だったからと書かれているとのことです。
https://www.latimes.com/business/la-fi-pink-doughnut-boxes-20170525-htmlstory.html
監督は、LA生まれの中国系アメリカ人アリス・グー。ベビーシッターから聞いた「カンボジア・ドーナツ」という言葉が気になり、由来を辿った先で出会ったのがドーナツ王のこと。内戦を逃れてアメリカに来たテッド・ノイの人生は、監督自身の両親が共産革命から逃れて中国からアメリカにやってきたことにも重なったそうです。
テッドの生い立ちや魅力的な奥様との馴れ初めから、クメール・ルージュによる大虐殺を逃れてアメリカに渡り、必死に働きわずか3年で大富豪になったことをテンポよく語り、テッドのお陰でドーナツ店を営むカンボジア難民の人たちの生き生きとした姿も映しだしています。カリフォルニアでこれほどまで多くのカンボジア人の経営するドーナツ店が人気なのに驚かされたのですが、それよりもっと驚いたのが、ドーナツ王テッド・ノイのその後の波乱の人生! 今は故国カンボジアに戻っているテッド・ノイ。どんな人生を送ったのかは、ぜひ映画をご覧ください。「いや~面白かった」と言ってはテッドさんに申し訳ないのですが、ほんとにワクワクするドキュメンタリーでした。 一方で、今も故国をあとにして難民とならざるを得ない人が多くいることに思いが至りました。難民となった人たちが、新天地で幸せな暮らしをおくれることを祈るばかりです。(咲)
登場する人の言葉のはしはしに「?」と思うところあり、後でそうだったのかと腑に落ちます。この展開はネタバレできませんものね。テッドさんの九死に一生を得た脱出から始まって「アメリカン・ドリーム」をを掴むまでのお話とその後は、そうそう体験できないものすごく濃い人生です。私がやりたいかといえば、後半は変えたいですね。テッドさん自身が一番そう思っているはずですが。ともかくも、たくさんの同胞に手を貸してあげたことは自慢していいと思います。日本も少しは見習おうよ。(白)
2020年/アメリカ/ビスタ/カラー/99分
配給:ツイン
公式サイト:http://donutking-japan.com/
★2021年11月12日(金) 新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショー
ファイター、北からの挑戦者 英題:Fighter
監督:ユン・ジェホ(『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』)
出演:イム・ソンミ、オ・グァンロク、ペク・ソビン
韓国、ソウル。北朝鮮から逃れてきた女性リ・ジナ(イム・ソンミ)は、定着支援研修を終え、小さなアパートにたどり着いた。食堂で働き始めるが、中国に残した父を呼び寄せるために、ボクシングジムの清掃も掛け持ちする。ある日、トラブルに巻き込まれ、男を傷つけてしまい高額の治療費を請求されてしまう。先に脱北した母に頼るしかないが、母はすでに再婚して娘も設けていた。困窮しているジナに、ボクシングジムの館長とトレーナーのテスは、そっとグローブを渡す。ジナは北朝鮮時代に軍隊でボクシングを経験していて、次第にボクシングにのめりこんでいく・・・
脱北者の思いに寄り添って取材を続けてきたユン・ジェホ監督。前作『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』(16)はドキュメンタリーでしたが、本作では、脱北者の若い女性を主人公に、韓国で新たな人生を切り開く姿を瑞々しく描いています。先に脱北して、すでに新しい人生を切り開いた母には頼らず、中国に残してきた父親をなんとか韓国に連れてきたいと頑張る姿に、なぜこんな思いをしなければと胸が痛みます。生まれた国で、希望を持って暮らせない人々の姿に重なり、さらに涙。(咲)
『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』公開の折にユン・ジェホ監督にインタビューしています。
http://www.cinemajournal.net/special/2017/mrsB/index.html
脱北して韓国に住む女性リ・ジナ。目立たないようにひっそりと暮らしている。そんな女性がまさかのボクシングに挑戦。北朝鮮では女性も軍隊に入るのか? そういえば、韓国や台湾の男性はある年齢になると徴兵制で軍隊に行かなといけないけど、北朝鮮ではどうなんだろう。そういう話を聞いたことがない気がする。それにしても、ボクシングなんて全然関係なさそうな、この女性のどこから、こんな力が出てくるのでしょう。北にいても南にいても、拠り所のない姿に、そっと力を与えてくれるユン・ジェホ監督の優しさが出ている作品だと思いました。前作『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』の時にユン・ジェホ監督インタビューしましたが、か弱そうな監督の姿からは思いもよらない、力強い女性の姿をまた観ることができました(暁)。
2020年/韓国/104分/シネスコ/5.1ch
日本語字幕:江波智子
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
(c)2020 Haegrimm Pictures All Rights Reserved
公式サイト: https://fighter-movie.com/
★2021年11月12日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか公開
恋する寄生虫
監督:柿本ケンサク
原案:三秋縋『恋する寄生虫』(メディアワークス文庫)
脚本:山室有紀子(『長い散歩』『眉山―びざん―』『トワイライト ささらさや』)
出演:林遣都、小松菜奈、井浦新、石橋凌
主題歌:Awich「Parasite in Love」
失業中の27歳の青年・高坂賢吾(林遣都)は、極度の潔癖症。8歳の時に両親が亡くなり、孤独の中で生きてきた彼は人と関わることが苦手だ。
17才の高校生・佐薙ひじり(小松菜奈)は、視線恐怖症で不登校。10歳の時に母を亡くしているが、虫の研究をしている祖父・瓜実(石橋凌)から、ひじりも母と同じく頭の中に虫がいて成長すると脳を餌に人間を食いつぶすと言われている。虫は人に感染するので、ひじりは誰も好きにならないと決めて孤独に生きている。
ある日、高坂のところに見知らぬ男・和泉(井浦新)が訪ねてきて、報酬50万円でガキの面倒をみてほしいと、ひじりに引き合わされる。和泉の目的は、虫を成長させることだった・・・
ひきこもり、潔癖症、視線恐怖症、パニック障害など、社会不適応と言われる人たちの多くは虫の感染者だというのが祖父・瓜実や和泉の説。高坂の頭にも実は虫が寄生していて、虫が生殖のために宿主の脳に銘じて、別の宿主に近づくよう仕向けて、この人は運命の人と思わせるのだそう。寄生虫が結ぶ縁という次第。
なんとも奇想天外な発想なのですが、林遣都さんは、潔癖症で孤独な青年をみごとに体現しています。『私をくいとめて』『犬部!』『護られなかった者たちへ』と、活躍が目覚ましい注目株ですね。
賢吾とひじりの出会いは、よこしまな大人が仕向けたものでしたが、社会に適応できない二人だからこそ、わかり合えるものもあるのでしょう。ほんとに大切なものは何なのかを心に問いかけたくなる物語です。(咲)
2021年/日本/99分
配給:KADOKAWA
©2021「恋する寄生虫」製作委員会
公式サイト:https://koi-kiseichu.jp/
★2021年11月12日(金) 全国ロードショー