2021年11月5日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
劇場情報
脚本・監督:麥曦茵(ヘイワード・マック)Director: Heiward MAK
監制(プロデューサー):許鞍華(アン・ホイ)、朱嘉懿(ジュリア・チュウ)
撮影監督:葉紹麒(イップ・シウケイ)[HKSC]
美術&スタイリング・ディレクター:張兆康(チャン・シウホン)
編集:麥曦茵、鐘邵康(チョン・シウホン)
配樂(音楽):波多野裕介
出演:
父 夏亮(ハー・リョン):鍾鎮濤(ケニー・ビー)
娘 如樹(ユーシュー):鄭秀文(サミー・チェン)、
娘 如枝(広東語読みユージー、北京語読みルージー):赖雅妍(メーガン・ライ)
娘 如果(広東語読みユーグォ、北京語読みルーグオ):李曉峰(リー・シャオフェン)
如枝母 張雅玲(チャン・ヤーリン):劉瑞琪(リウ・ルイチー)
如果祖母 劉芳(リウ・ファン):吳彥姝(ウー・イエンシュー)
父の友人の麻酔医蔡浩山(チョイ・ホーサン):任賢齊(リッチー・レン)
如樹の元恋人郭天恩(クォック・ティンヤン):劉徳華(アンディ・ラウ)
『花椒(ホアジャオ)の味』公式サイト
2019年/中国・香港/広東語・北京語/118分
日本語字幕:最上麻衣子/字幕協力:大阪アジアン映画祭/G
写真クレジット
© Dadi Century (Tianjin) Co., Ltd. Beijing Lajin Film Co., Ltd. Emperor Film Production Company Limited Shanghai Yeah! Media Co., Ltd. All Rights Reserved.
花椒はしびれるような辛さがあるけど味わい深い
自分と母親を置いて家を出てしまった父(ケニー・ビー)とは距離を置いていた如樹(サミー・チェン)は、父の急死で自分に異母姉妹が二人いることを知る。一人は母親と共に台北に住む如枝(メーガン・ライ)、もう一人は祖母と重慶に住む如果(リー・シャオフェン)。香港・中国・台湾の三地に分かれた姉妹が父の死を機に葬儀の席で出会う。初めて顔を合わせた3人は、始めはよそよそしかったけど、父親の店を切り盛りする中でそれぞれの事情を越えて理解しあう。
父は香港島大抗で火鍋店を経営していたが結構繁盛していた。賃貸契約期間が残っていて、途中で解約すると違約金を払わなくてはならなかったり、雇われていた従業員がすぐには仕事をみつけられないというような事情があって、如樹は店を続けることにした。店を再開したら目の回る忙しさに。疲れきった如樹は重慶と台北に帰っていた姉妹に手伝ってくれるようにSOSを出す。それぞれ居場所をみつけようとしていた二人は戻ってきてくれて、三人は協力しあって店を切り盛りする。
しかし、父の作った火鍋の出し汁の在庫が少なくなった時、レシピが従業員には伝わっていないことがわかった。父の残した火鍋スープのレシピを再生する過程で、育った文化も境遇も違う三人に姉妹としての情と絆が芽生えてくる。それぞれが抱える問題も描きながら、店を立て直す姿が描かれる。家族とのわだかまりや、自分の進んで行く方向の模索など、それぞれの夢と現実をかかえながら歩む女性たちの姿が美しい。そして、父の友人(リッチー・レン)や、元恋人(アンディ・ラウ)など男性人の励ましも嬉しい。「花椒」はピリッと渋くて辛いけどおいしい。
麥曦茵(ヘイワード・マック、『烈日当空』)の日本初紹介作。『恋の紫煙』の脚本家でもある。エリック・ツァン、パン・ホーチョンに見出された新世代の才能。その才能に惚れ込みアン・ホイがプロデューサーを担当。原作はエイミー・チャンの小説「我的愛如此麻辣」。2020年第39回香港電影金像奨に11部門ノミネート。張兆康が最優秀美術受賞。
コロナ禍で自粛期間が始まる直前の去年3月、東京から大阪に行き、大阪アジアン映画祭で最初に観た。「今年は大阪に行くのやめる。あなたもやめたほうがいいわよ」というまわりのこの映画祭ファンの声があったけど、それでも私はこの作品を観たいという思いを胸に大阪に行ったのでした。結局、この映画祭以降、あいち国際女性映画祭、山形国際ドキュメンタリー映画祭など、地方の映画祭には行くことができず、いまだにその状態が続いているのですが、この『花椒(ホアジャオ)の味』はあいち国際女性映画祭でも上映され、しかもこの映画祭のカタログには私自身が作品紹介を書いたにもかかわらず、行けなくて残念でした。でも、その時点では日本公開されるとは思っていなかったので、公開が決まって嬉しかったです。
この物語そのものはどうなんだろうと思う。この環境にある3人の女性が協力して店を切り盛りするなんてことは発想すらできない。男(父)にとって都合のいいことだから。香港、台湾、中国と3か所に、別々の家族を作り、そんなに年の離れていない娘が3人もいるという設定。私だったら、「なんだこの男。女(妻)をとっかえひっかえ変えて許せない」と思ってしまう。長女の如樹(サミー・チェン)も、そういう思いがあるから父と間を置いていたのでしょう。しかも、自分以外に娘が二人も別にいるということさえ伝えていなかったのだから、そりゃあ、父の葬式で初めて知った時の気持ちは複雑だったんじゃないかな。それを乗り越えて3人の協力体制になるわけだけど、これぞプロデューサーのアンホイティストという感じ。あるいは香港的というべきか。
父親役がケニー・ビーというのも好感度あげている。ケニー・ビーは温拿楽隊(ザ・ウィナーズ)の ボーカルで俳優としても活躍。1970年代から台湾映画に出演、80年代以降香港映画にも出演している。
如樹役のサミー・チェンもベテラン歌手であり、主演作も多い女優でもある。第21回香港電影金像奨(2002)では『ダイエット・ラブ 』『鍾無艶』『ファイティング・ラブ』の3作品が主演女優賞にノミネートされた。また2020年の第39回香港電影金像賞奨では『花椒の味』と『聖荷西謀殺案』の2作品が主演女優賞にノミネートされた。
如枝役のメーガン・ライは『愛到底』(09)、『あの頃、君を追いかけた』(11)などに出演。如果役のリー・シャオフェンはフォン・シャオガン監督の『芳華-Youth-』(17)に出演している。如樹の母は出てこないけど、次女の母役は台湾の女優、張雅玲(チャン・ヤーリン)。『迷走廣州』で第五十七回金馬獎(2020)で助演女優賞にノミネートされた。また、如果の祖母役は吳彥姝(ウー・イエンシュー)。中国映画界の中国国家一級俳優。シルヴィア・チャン監督の『妻の愛、娘の時』(17)では田舎のお婆さんを演じた。今回のモダンなお婆さんの姿と比較して、とても同人物とは思えない。
そしてリッチー・レン(台湾)とアンディ・ラウ(香港)。二人ともベテランの歌手であり俳優である。二人とも日本でコンサートを行ったことがある。リッチー・レンは『星願 あなたにもういちど』(1999)での演技が印象的だった。アンディ・ラウはアン・ホイ監督の『望郷』(1982)で映画デビュー以来120本以上の作品に出演している。サミー・チェンとの共演作も多く、『ニーディング・ユー』『ダイエット・ラブ』(00)、『インファナル・アフェア 無間道』(02)、『イエスタデイ・ワンスモア』(04)などで共演している。また、歌手としても活躍し「香港四天王」の一人。
プロデューサーのアン・ホイ監督を撮ったドキュメンタリー作品『我が心の香港』(文念中/マン・リムチョ監督)も、11月6日(2021)に公開される。(暁)
2021年10月31日
2021年10月29日
スズさん~昭和の家事と家族の物語
監督・撮影・編集:大墻敦
プロデューサー:村山英世、山内隆治
音響監督:Mick沢口
音楽:矢部優子・長谷川武尚
語り:小林聡美
出演:小泉和子(昭和のくらし博物館館長)
昭和26年(1951年)に建てられた木造2階建の住宅は、いま「昭和のくらし博物館」となり、当時の人々の暮らしを伝えています。館長の小泉和子さんの実家であるこの博物館には、母・スズさん(1910~2001年)の思い出がたくさんつまっています。娘によって語られる、母の人生。そこには生活の細部に工夫を凝らし、知恵を絞り、家族のために懸命に手を動かしながら生きてきた一人の女性の姿がありました。当時、当たり前に継承されていた経験や生活の知恵は、時代の変化とともに失われつつあります。母から娘へ、娘から今を生きる私たちへ。スズさんが遺してくれた3章からなる物語です。
第1章 「生い立ちと横浜大空襲」
第2章 「ちいさなおうち」
第3章 「昭和の家事の記録」
小泉一家
ドキュメンタリー『春画と日本人』(2018)が好評だった大墻敦監督作品。小泉スズさんと義母がほぼ同世代、実母はもっと下ですが。戦後から続く暮らしをとても懐かしく観ました。漉し餡作り以外は私もみな経験しました。戦中戦後の大変な時期、食べ物も生活物資も足りなかったはず。日本中のお母さんたちが子どもたちを食べさせ、生活を支えてきたご苦労を思いました。
スズさんの長女の小泉和子さんは生活史研究家。お母さんの思い出や学童疎開のお話などを生き生きと語っています。大墻監督にお話を伺った日、その足で大田区の「昭和のくらし博物館」を訪ねてきました。大切に保存されている家や道具が、昔を蘇らせてくれます。(白)
2021年/日本/DCP/86分/ドキュメンタリー/
配給:記録映画保存センター
©️映画「スズさん」製作委員会
https://kirokueiga-hozon.jp/movie/movie-suzusan
★2021年11月6日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
◆大墻監督インタビューはこちら
◆スタッフ日記はこちら
昭和のくらし博物館(東京都大田区)
http://www.showanokurashi.com/
https://twitter.com/showastaff
2021年10月27日
ほんとうのピノッキオ( 原題:PINOCCHIO)
監督/共同脚本:マッテオ・ガローネ
原作:カルロ・コロディ
脚本:マッシモ・チョッケリーニ
プロデューサー:ジェレミー・トーマス
撮影:ニコライ・ブルーエル
美術:ディミトリー・カプアーニ
衣裳:マッシモ・カンティーニ
音楽:ダリオ・マリアネッリ
出演:ロベルト・ベニーニ(ジェペット)、フェデリコ・エラピ(ピノッキオ)、ロッコ・パパレオ(ネコ)、マッシモ・チョッケリーニ(共同脚本/キツネ)、マリーヌ・ヴァクト(妖精)、ジジ・プロイエッティ(人形劇一座の親方)
貧しい木工職人のジェペットは丸太を手に入れて、一心に人形を作り始めた。話しかけると人形は喋り出し、足ができると歩き始めた。息子ができたと大喜びのジェペットは、ピノッキオと名付けてベッドカバーで帽子と洋服も作ってやった。自分の上着を売って教科書を買い、学校へ送り出す。ところがピノッキオは教科書を売って人形劇の公演を観に行ってしまった。人形劇の一座と別れたピノッキオは親方からもらった金貨を持って、ジェペットの家への道を探していた。そこにペテン師のネコとキツネがやってきて、もっと金貨を増やそうとピノッキオにウソを吹き込む。危ないところを妖精に救われるのだが…。
マッテオ・ガローネ監督はイタリアの裏社会を描いたクライムストーリー『ゴモラ』(2008)がカンヌ映画祭コンペティション部門でグランプリ、一躍有名になりました。原作は1883年に出版された「ピノッキオの冒険」です。世界中で知られている童話ですが、私も含めてイメージはディズニーのアニメーションでしょう。1939年制作だそうです。そんなに前からだったの!
原作はけっこう風刺もきいたダークファンタジーで、映画は原作にかなり忠実です。貧しく空腹、服は着た切り雀のジェペットの描写から始まります。ユーモアと悲しみが同居しているロベルト・ベニーニが適役。ベニーニは2003年公開の『ピノッキオ』を監督・主演していますが、そちらは未見。子どもの愛らしさに及ばないんじゃないかなあ。
ピノッキオは好きなように遊びまわり、ジェペットを死ぬほど心配させます。生まれたばかりで世間知らずなのに、よくウソをつき、妖精の家で鼻がどんどんのびて大騒ぎになります。長時間の特殊メイクに耐えたピノッキオのフェデリコ・エラピはじめ、不思議な生き物を演じた俳優たちと特殊メイクのマーク・クーリエの仕事に拍手。抑えた色味の泰西名画のような背景、登場人物の造形や衣裳も素晴らしいです。
ガローネ監督は6歳のときに「ピノッキオ」のストーリーボードを書いたそうです。映画化しようと原作を読み直して、満を持して送り出されたこの作品はこれまで観たピノキオとは大きく違っています。舞台は貧しく、厳しく、理不尽な世間。無知な木の人形が信じてくれる人を何度も裏切り、「楽な道を選んでは失敗」を繰り返します。苦労して少しずつ成長していく普遍的な物語は、現実を生きる私たちと変わりません。ピノッキオが人間の少年になるまで、応援しつつご覧ください。(白)
2019年/イタリア/カラー/シネスコ/122分
配給:オフィシャルサイト
copyright 2019 cARCHIMEDE SRL - LE PACTE SAS
happinet-phantom.com/pinocchio/
公式twitter:@Pinocchio_2021
★2021年11月5日(金)ロードショー
アンテベラム(原題:Antebellum)
監督・脚本:ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ
撮影:ペドロ・ルケ・ブリオッツォ
出演:ジャネール・モネイ(ヴェロニカ/エデン)、エリック・ラング(彼/マザーズ上院議員)、ジェナ・マローン(エリザベス)、ジャック・ヒューストン(ジャスパー司令官)、カーシー・クレモンズ(ジュリア)、ガボレイ・シディベ(ドーン)
南部の広大なプランテーションで綿花を摘み取る黒人奴隷たち。過酷な労働を強いられるうえ、許可なく声を出すことも禁止されている。軍服姿の男たちが監視し、脱走したものは連れ戻され処罰される。エデンが脱走を図ったため一人が殺され、エデンは忠誠心が足りないと身体に焼き印を押された。
ヴェロニカは公私ともに充実した日々を送る社会学者で人気作家でもある。ニューオリンズの出版記念講演会では黒人女性たちを力づけるスピーチで喝采を浴びた。親友たちとのディナーの後、何者かに連れ去られてしまう。
「Antebellum」は「南北戦争前」のこと。奴隷制存続を主張した南部の11州が合衆国から脱退して連合国を作り、北部の23州と戦争を始めました。南部のプランテーションは財産の黒人奴隷の労働で成り立っていたので、手放すわけにはいかなかったんですね。そんなことを思い出しながら観てください。冒頭の「Past is never dead. It's not ever past. (過去は決して死なない。過ぎ去ることさえない)」というフォークナーの言葉も意味深です。
脚本・監督のジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツはこれが長編第1作。2人が大ファンだというジャネール・モネイがヒロインです。彼女ばかりでなく、非情な悪役トリオも魅了されたという脚本に、実際に奴隷たちが酷使されたプランテーションでのロケが力を与えました。『ゲット・アウト』(2017)と『アス』(2019)のプロデューサーたちが手掛けたと知ると、深読みしたくなりますが予想の斜め上(ってどこ?)をいく展開に驚くでしょう。(白)
2020年/アメリカ/カラー/シネスコ/106分
配給:キノフィルムズ
(C)2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
https://antebellum-movie.jp/
★2021年11月5日(金)ロードショー
2021年10月24日
モーリタニアン 黒塗りの記録 原題:THE MAURITANIAN
監督:ケヴィン・マクドナルド(『ラストキング・オブ・スコットランド』『消されたヘッドライン』)
原作:モハメドゥ・ウルド・スラヒ「モーリタニアン 黒塗りの記録」(河出文庫)
出演:ジョディ・フォスター ベネディクト・カンバーバッチ タハール・ラヒム シャイリーン・ウッドリー ザッカリー・リーヴァイ
2001年11月、モーリタニア。モハメドゥ・スラヒ(タハール・ラヒム)は、9.11同時多発テロの首謀者の1人として拘束される。ヨルダンなどを経て、キューバにある米軍のグアンタナモ収容所に移送される。裁判は一度も開かれないまま時が経ち、2005年、人権派弁護士ナンシー・ホランダー(ジョディ・フォスター)が、「不当な拘禁」だとしてモハメドゥの弁護を買って出る。時を同じくして、9.11 の戦犯法廷で政府が望む死刑第 1 号にモハメドゥの名があがり、起訴をスチュアート中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)が担当する。中佐はハイジャックされた機の副操縦士だった親友の無念を晴らそうと意気込んでいた。
ナンシーは通訳兼アシスタントの若手弁護士テリー・ダンカン(シャイリーン・ウッドリー)を伴ってモハメドゥと面談し、証言として手記を書くよう説得する。ナンシーたちは、モハメドゥの手記から厳しい尋問や拷問が横行する実態を知り息を飲むと共に、彼のユーモアと人間味に溢れた人柄に惹かれていく。政府に請求していた軍による調査資料がようやく届くが、中身はほとんど真っ黒に塗りつぶされていた。スチュアート中佐側に届く資料も同様だった・・・
本作の原作であるモハメドゥ・ウルド・スラヒの手記「モーリタニアン 黒塗りの記録」が出版されたのは、まだモハメドゥ本人がキューバのグアンタナモ米軍基地に収容中の2015年のこと。軍による調査資料が黒塗りだったのと同様、アメリカ政府による検閲で多くが黒く塗りつぶされた状態のまま出版されています。
手記を読んで、モハメドゥの文章にあるウィットや詩のような美しさや英知に驚き、彼のストーリーに心を動かされた製作のロイド・レヴィンたちが、手記のオプション権を獲得し、製作を決めたのは、まだモハメドゥがグアンタナモに収容中のことでした。何らかの罪で起訴されることなく、2016 年 10月 16 日にようやく釈放されました。拘禁は 14 年 2 か月にも及びました。
悪名高きグアンタナモ収容所には、少なくとも 15 人の子どもを含む約 780 人が各地から連行され、司法手続きなしに厳しい尋問や拷問、長期拘禁を強いられています。国際社会や人権団体からの非難が相次ぎ、2009 年オバマ政権が閉鎖を表明しましたが、いまだに閉鎖されていません。
映画の中で、モハメドゥの「アメリカは正義の国と信じていたのに、恐怖で支配するとは思っていなかった」とう言葉が、まさにそうだ!と胸に響きました。(正確にいえば、「アメリカは正義をふりかざす国と思っていたのに」が、私の気持ちですが)
冒頭、モーリタニアの大きなテントの中で結婚を祝う宴が開かれている最中、モハメドゥは母たちが心配する中、突然連行されます。9・11同時多発事件後の「テロとの戦い」のもと、グアンタナモに収容された780人だけでなく、世界で多くの人たちが、いわれなき罪に問われ、このように家族との平穏な日々を壊されたことに思いが至りました。拘束されないまでも、イスラーム圏の出身者というだけで監視されたり偏見の目で見られることは欧米だけでなく、日本でも聞きます。
モハメドゥは、あれほどまで長年にわたり自由を奪われ屈辱的な拷問も受けたのに、「私は許そうと思う。それが私の神の教えだから」と語ります。映画の最後に、モハメドゥ本人が釈放されて、故国で大勢に出迎えられ、目を輝かせている姿が映し出されます。タハール・ラヒムが、限りなく本人の雰囲気に近づけて演じていたのを感じました。
ちょうど、この映画の紹介記事を書こうと思っていた矢先に、友人でエッセイスト・写真家の加藤智津子さんから、『モーリタニアン 黒塗りの記録』についてお便りをいただきました。何度もモーリタニアに通っていて、日本モーリタニア友好協会の理事でもある加藤さん。映画を未見の立場で書かれていますが、とても参考になります。映画の中で映し出された美しいモーリタニアの風景をもっと味わえるブログです。
https://www.chizukokato.com/blog
このブログの中で、映画の最後に出てきたモハメドゥ本人が帰国した時の映像が含まれた「Guardian」が制作したドキュメンタリー(22分)もご紹介されています。
「My Brother’s Keeper: a former Guantánamo detainee, his guard and their unlikely friendship」
https://www.youtube.com/watch?v=IH-h3h22Hck
最後に会ってから13年後、元看守のひとりである Steve Wood がモーリタニアまで会いにきます。Steve は、イスラームに改宗していて、モハメドゥと並んで祈る姿にじ~んとさせられました。 (咲)
2021 年/イギリス/英語・アラビア語・フランス語/129 分/ドルビーデジタル/カラー/スコープ
字幕翻訳:櫻田美樹
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
© 2020 EROS INTERNATIONAL, PLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://kuronuri-movie.com/
★2021年10 月 29 日(金) TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
老後の資金がありません!
劇場公開日 2021年10月30日 劇場情報
監督:前田哲
原作:垣谷美雨
脚本:斉藤ひろし
企画プロデュース:平野隆
プロデューサー:岡田有正 下田淳行
音楽:富貴晴美
主題歌:氷川きよし
出演
後藤篤子:天海祐希
後藤 章:松重豊
後藤まゆみ:新川優愛
後藤勇人:瀬戸利樹
松平琢磨:加藤諒
神田サツキ:柴田理恵
桜井秀典:石井正則
桜井志津子:若村麻由美
本間:友近
城ケ崎君彦:クリス松村
レイナ:高橋メアリージュン
松平金造:佐々木健介
松平美和:北斗晶
荻原博子
後藤芳乃:草笛光子
舅の葬儀、娘の派手婚、夫婦W失職、浪費家の姑との同居!
貯めたお金がみるみる減っていく!
老後の資金がありません!
「人生100年時代」に近づいてきた日本。年金や貯蓄だけで老後の生活は大丈夫なのだろうか。社会の仕組みがどんどん変わってきて、高齢になっても働かなくてはなりたたない状況が…。「老後の資金は2000万円必要」と言われる中、生活をしていくのにどんな備えが必要なのか? 現代日本が抱える問題に普通の主婦が立ち向かう! 痛快! お金のコメディ・エンターテイメント!
原作は、稀代のストーリーテラー垣谷美雨の34万部を突破したベストセラー小説「老後の資金がありません」(2011年/中公文庫)。巧みな設定で読者の共感を呼ぶ。親の葬式、娘の派手婚、夫の失職に続き、自分も失職。さらに浪費家の姑との同居と、お金の必要なことが続き、老後のために節約してためてきた貯金がどんどんなくなっていく。お金の「災難」に振り回される主婦・後藤篤子の奮闘がユーモラスに小気味よく綴られる。老後の資金問題という深刻なテーマを、コメディタッチで描いた。
主人公の主婦を元タカラジェンヌの天海祐希が演じ、周りの人たちに癖の強い俳優陣を配し、盛り立てる。監督は『ブタがいた教室』『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の前田哲。
天海祐希、けっこう好きです。あのきっぱりとした立ち姿がかっこいい。私は宝塚ファンではないけれど、彼女のサバサバとした性格(ほんとのところは知りませんが)が小気味よい。なので、主婦役といってもイメージではないのですが、この映画で演じた主婦の役は彼女ならでは。コメディアンヌのセンスも抜群。
それにしても、この映画の設定甘すぎません? 舅が亡くなって葬式代を長男が負担というのも変。あんな高価な高齢者マンション?(老人ホーム?)に入っているのに自分の葬式代を用意していないなんて普通ないと思うのだけど。それとも子供たちが費用を負担してするのが当然と思っているのか…。私は自分の葬式代くらい用意しておこうと思って、葬式代と、そのあとの部屋の片づけ代などを想定して用意はしているけど。それに娘だって自分が結婚するのに結婚式の費用、全部親持ちって考えているというのは考えられない。結婚相手の息子だって、相手の家の事情を考えずに結婚費用を半々持ちと考えるような男と結婚させる? 姑も息子の家の経済事情も考えず、好き勝手というのもなあ。ま、『老後の資金がありません!』というタイトル設定上、極端な形にしたのか。それでも最後はほっとしました(暁)。
公式HP
2021年製作/115分/G/日本
製作:映画『老後の資金がありません!』製作委員会
制作プロダクション:ツインズジャパン
配給:東映
予告
監督:前田哲
原作:垣谷美雨
脚本:斉藤ひろし
企画プロデュース:平野隆
プロデューサー:岡田有正 下田淳行
音楽:富貴晴美
主題歌:氷川きよし
出演
後藤篤子:天海祐希
後藤 章:松重豊
後藤まゆみ:新川優愛
後藤勇人:瀬戸利樹
松平琢磨:加藤諒
神田サツキ:柴田理恵
桜井秀典:石井正則
桜井志津子:若村麻由美
本間:友近
城ケ崎君彦:クリス松村
レイナ:高橋メアリージュン
松平金造:佐々木健介
松平美和:北斗晶
荻原博子
後藤芳乃:草笛光子
舅の葬儀、娘の派手婚、夫婦W失職、浪費家の姑との同居!
貯めたお金がみるみる減っていく!
老後の資金がありません!
「人生100年時代」に近づいてきた日本。年金や貯蓄だけで老後の生活は大丈夫なのだろうか。社会の仕組みがどんどん変わってきて、高齢になっても働かなくてはなりたたない状況が…。「老後の資金は2000万円必要」と言われる中、生活をしていくのにどんな備えが必要なのか? 現代日本が抱える問題に普通の主婦が立ち向かう! 痛快! お金のコメディ・エンターテイメント!
原作は、稀代のストーリーテラー垣谷美雨の34万部を突破したベストセラー小説「老後の資金がありません」(2011年/中公文庫)。巧みな設定で読者の共感を呼ぶ。親の葬式、娘の派手婚、夫の失職に続き、自分も失職。さらに浪費家の姑との同居と、お金の必要なことが続き、老後のために節約してためてきた貯金がどんどんなくなっていく。お金の「災難」に振り回される主婦・後藤篤子の奮闘がユーモラスに小気味よく綴られる。老後の資金問題という深刻なテーマを、コメディタッチで描いた。
主人公の主婦を元タカラジェンヌの天海祐希が演じ、周りの人たちに癖の強い俳優陣を配し、盛り立てる。監督は『ブタがいた教室』『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の前田哲。
天海祐希、けっこう好きです。あのきっぱりとした立ち姿がかっこいい。私は宝塚ファンではないけれど、彼女のサバサバとした性格(ほんとのところは知りませんが)が小気味よい。なので、主婦役といってもイメージではないのですが、この映画で演じた主婦の役は彼女ならでは。コメディアンヌのセンスも抜群。
それにしても、この映画の設定甘すぎません? 舅が亡くなって葬式代を長男が負担というのも変。あんな高価な高齢者マンション?(老人ホーム?)に入っているのに自分の葬式代を用意していないなんて普通ないと思うのだけど。それとも子供たちが費用を負担してするのが当然と思っているのか…。私は自分の葬式代くらい用意しておこうと思って、葬式代と、そのあとの部屋の片づけ代などを想定して用意はしているけど。それに娘だって自分が結婚するのに結婚式の費用、全部親持ちって考えているというのは考えられない。結婚相手の息子だって、相手の家の事情を考えずに結婚費用を半々持ちと考えるような男と結婚させる? 姑も息子の家の経済事情も考えず、好き勝手というのもなあ。ま、『老後の資金がありません!』というタイトル設定上、極端な形にしたのか。それでも最後はほっとしました(暁)。
公式HP
2021年製作/115分/G/日本
製作:映画『老後の資金がありません!』製作委員会
制作プロダクション:ツインズジャパン
配給:東映
予告
2021年10月23日
芸術家・今井次郎
監督・撮影・編集:青野真悟、大久保英樹
プロデューサー:橋本佳子
出演:今井次郎
時々自動
佐藤幸雄とわたしたち
uni-marca/ユニ・マルカ
石川浩司
オジュデュイイルフェボウ
with モモンガ・コンプレックス
テニスコーツ
とんぷくユニット
(向島ゆり子、近藤達郎、久下惠生、いしかわともこ)
2018 年、今井次郎のトリビュートライブが開催された。2012年に亡くなった今井が関わったバンドや劇団、今井にインスパイアされ、彼を尊敬している若いミュージシャンが集い、追悼ではなく「今こそ必要な音楽」として今井作品を演奏した。この一夜限りのライブ映像を主軸に、今井本人のパフォーマンス映像や今井作品の広がりについての取材映像などをリミックス。
一人の「そのようにしか生きられなかった芸術家」を基点にした、シリアスだけどユーモアにあふれた最高にハッピーな音楽ドキュメンタリー。
この映画を観るまで今井さんを知りませんでした。きっと真面目で狙っているわけではないだろうに、ご本人とそのパフォーマンス、作られたもの、それぞれが面白いのです。おかしいではなく、興味深い面白さ。
今井さんに出逢った、関わった方々の言葉には、思い出と一緒に「会いたいなぁ」という気持ちがいっぱいつまっていました。今井さんが遺した曲や手作りの愛しいものたちが画面に登場します。SNSで発信し続けた”病院食を動物や人に変身させたミールアート”は、写真集「 JIROX MEALS」になりました。購入はブックギャラリーポポタムへ。
互いに10代からのご縁という青野真悟監督、大久保英樹監督のお2人にお目にかかれました。
スタッフ日記はこちら。
インタビュー記事はこちら。
ポポタムでの展示はあと29日(金)~31日(日)の3日間です。こちら。
(白)
私もこのドキュメンタリーを観るまで、今井次郎さんのことを知りませんでした。私はしかも同い年。今井次郎とはいったい何者なのか。ミュージシャン、作曲家、パフォーマンサー、造形作家。様々な表現方法で「自分のやりたいことを続け生きた人」ともいえる。ユニークなものを使って表現活動を続け、「役に立たない大切なもの」で死ぬまで楽しいことを続け60歳まで生きた。特に目を見張ったのは、ガン病棟の病院食を使って表現した「アート」。こんな人がいたんだと目からうろこだった。
『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎 90 歳』『ひろしま 石内都・遺されたものたち』『沖縄スパイ戦史』などの橋本佳子がプロデューサーを務めた(暁)。
*参考記事
橋本佳子プロデューサー関連記事
●『ひろしま 石内都・遺されたものたち』
リンダ・ホーグランド監督・橋本佳子プロデューサーインタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2013/hiroshima/index.html
●『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』
長谷川三郎監督インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2012/nipponnouso/index.html
2021年/日本/カラー,一部モノクロ/94分
配給:ドキュメンタリージャパン
(C)2021「芸術家・今井次郎」製作委員会
公式HP imaijiro.com
★2021年10月30日(金)ユーロスペースほか全国順次公開
ジョゼと虎と魚たち(原題:Josee)
監督・脚本:キム・ジョングァン
原作:田辺聖子
出演:ハン・ジミン(ジョゼ)、ナム・ジュヒョク(ヨンソク)
卒業を控えた大学生のヨンソクは、ある日、道端に倒れている車椅子の女性に遭遇する。壊れた車椅子と彼女を家まで送り届けたヨンソクは、お礼に夕飯を振る舞われる。足が不自由な彼女は祖母と二人で暮らしていた。自分をジョゼと呼んでという彼女の身の上と、豊かな知識と空想の独特な世界を知ったヨンソクはジョゼに惹かれていく。ジョゼもまた次第にヨンソクに心開くようになった。
原作は田辺聖子さんの短編小説。1985年に短編小説集に収録されています。2003年に犬童一心監督が同名で映画化し、好評でした。大学生の恒夫(妻夫木聡)、ジョゼ(池脇千鶴)2人の愛情の行方を見つめました。ジョゼの手料理が美味しそうで、糠漬けをしなくちゃと思ったものです。2020年公開のアニメ版はこちら。子どもも観られる明るいものになっています。
またリメイク?韓国で?と意外でしたが、キム・ジョングァン監督がぜひともと送り出した本作。皮肉屋で空想家のジョゼ、素直なヨンソクの性格は変わりません。ジョゼの家や部屋、2人を包む風景などが違ってまた新鮮に観ることができます。(白)
恥ずかしながら、犬童一心監督の『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)を予告編しか観たことがなく、もちろん田辺聖子さんの原作も読んでいない立場で本作を拝見。しっかり韓国を舞台にした、切なくて愛おしい物語でした。結末を知らなかったのは逆によかったと思いました。これから犬童一心監督作品を観てみたいと思います。そして原作も!
ジョゼという名前は、犬童監督作品が公開された時から気になっていたのですが、フランソワーズ サガンの小説の主人公の名前。「一年ののち」「すばらしい雲」「失われた横顔」がジョゼを主人公とする三部作だそうです。
韓国版のジョゼの暮らす一軒家は、海辺の町・木浦にある1980年代に韓国で建てられていた様式の平屋。とても趣があります。リヤカーを引いて段ボールや廃品を集めて日銭を稼ぐ姿や、ヨンソクの大学生の彼女が考試院(コシウォン)という簡易宿泊所で暮らしていることなどからも韓国らしさを感じさせられました。
紅葉、雪、そしてはらはらと散る桜と、四季折々の美しい風景も心に残りました。(咲)
2020年/韓国/カラー/シネスコ/117分
配給:キノシネマ
Original Film (C) 2003 "Josee, the Tiger and the Fish" Film Partners. All Rights Reserved.
(C)2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
https://movie.kinocinema.jp/works/josee/
★2021年10月29日(金)キノシネマ他、全国順次公開
スウィート・シング(原題:Sweet Thing)
監督・脚本:アレクサンダー・ロックウェル
出演:ラナ・ロックウェル(ビリー)、ニコ・ロックウェル(ニコ)、ウィル・パットン(アダム)、カリン・パーソンズ(イヴ)、ジャバリ・ワトキンス(マリク)
普段は優しいのに酒を飲むと人が変わる父アダム。母親イヴが出て行ってから、父は酒浸りになってしまった。15歳の姉ビリーと11歳の弟ニコは母と恋人の暮らす家に行くが、居心地が悪い。ある日出会った元気な少年マリクとともに、彼らは逃走と冒険の旅に出る。世界はとても悲しい。でも、幸福な1日はある。3人は宝物のような一日を過ごす。
アレクサンダー・ロックウェル監督、25年ぶりの日本公開作品だそうです。1992年制作の『イン・ザ・スープ』は2006年リバイバル公開を見ていました。そちらの主演はスティーブ・ブシェーミとジェニファー・ビールス。当時監督夫人でしたが離婚しました。ウィル・パットンはブシェーミを翻弄するシーモア・カッセル(2019没)の弟役でした。『ミナリ』では十字架をかついでいました。今作ではアル中の父アダム、好きな歌手ビリー・ホリディの名前を娘につけています。
イヴを監督の妻で女優のカリン・パーソンズ、子どもたちを実の娘ラナと息子ニコが演じ、ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門で最優秀作品賞を受賞しました。少女から大人の女性に変っていくビリー役のラナがとても綺麗です。弟のニコも愛くるしく、自分の家族をこんな風にフィルムに焼き付けることのできたロックウェル監督、さぞ嬉しかったのではないかしら。守ってくれる大人がいない子どもたちの映画ですが、実は監督の愛情があふれています。16ミリのモノクロ映画中、子どもたちが幸せなシーンはさあっとカラーに変わります。父母の名前がアダムとイヴなのもミソ。(白)
なんと愛おしい映画なのでしょう。
始まりはクリスマス。パパはサンタのバイト中。
サンタに「銃とナイフをください」とお願いする弟ニコ。
サンタのパパはクリスマスツリーを抱えて帰ってくる。
恋人ボーのもとに行ってしまったママと、パパは久しぶりに中国料理店で一家団欒の時を約束していたのに、ボーも同席させるというのでおじゃんに。
ますます酒浸りになったパパは、断酒のために病院送りに。
夏、ママのいる海辺の彼の別荘へ。ニコがボーを相手に事件を起こしてしまった日、元気な少年マリクに導かれて、ビリーとニコは冒険の旅に出るのですが、マリクが実は悲しい運命を背負っていることを知ります。いろんな思いを抱えた3人の忘れられない一日・・・ どこか懐かしい曲の数々が心に響きました。(咲)
2020年/アメリカ/モノクロ+パートカラー/DCP/91分
配給:ムヴィオラ
Photo Credit: Lasse-Tolboll
公式Twitter→ https://twitter.com/sweetthing_eiga
http://moviola.jp/sweetthing/
★2021年10月29日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
ロックウェル監督から<メッセージ動画>とファンの質問に答える<スペシャルQ&A動画>が届けられ、『スウィート・シング』を上映する映画館での限定上映が決定しました。<メッセージ動画>は1週間限定、<スペシャルQ&A動画>は10/29&30の両日のみの限定上映の予定。詳しくはHPにて。
2021年10月22日
ビルド・ア・ガール(原題:How to Build a Girl)
監督:コーキー・ギェドロイツ
原作・脚本:キャトリン・モラン
出演:ビーニー・フェルドスタイン(ジョアンナ・モリガン)、パディ・コンシダイン(パット・モリガン)、サラ・ソルマーニ(アンジー・モリガン)、アルフィー・アレン(ジョン・カイト)、ローリー・キナストン(クリッシー・モリガン)、エマ・トンプソン(アマンダ・ワトソン)
1993年、イギリス郊外。16歳の女子高生ジョアンナは、貧しくも優しい両親や兄弟の家族7人で暮らしている。文才や想像力にたけ、あふれる表現欲求や自己実現を持てあますジョアンナは、学校では冴えない子扱い。定番のヒロインと自分は全然違うよねと納得しつつも、悶々とした日々を送っていた。兄クリッシーの勧めで大手音楽情報誌「D&ME」のライターに応募し、ロンドンへ一人で乗り込む。仕事を手に入れたジョアンナは赤い髪にセクシーなファッションで、“ドリー・ワイルド”へと生まれ変わる。音楽ライターとして人気者となったジョアンナだったが、取材で出会ったロック・スターのジョン・カイトに夢中になってしまい、冷静な記事を書けずに大失敗。編集部の提案で、今度は歯に衣着せぬ毒舌ライターに変身…。
試写を観て女子高生がこんな過激な!と仰天しました。子だくさんの家に育って、自立を願う女子はこのくらい押しが強くないといけないようです。幸いにもジョアンナには才能とガッツがありました。壁のピンナップ写真も彼女を全力応援(笑)。
出版界も音楽業界も男性中心のきつい社会。若い女の子が飛び込めば、セクハラもパワハラにも負けずにつっぱらなければ芽を出せません。ビーニー・フェルドスタインがくじけず諦めず、パワフルに演じて爽快ですが、自分の娘だったら心配でたまりません。ジョアンナが恋するロック歌手は『ゲーム・オブ・スローンズ』のアルフィー・アレン。エマ・トンプソン上司がジョアンナに最高の助言をしてくれます。90年代の音楽シーンに詳しい方はもっと楽しめそうです。
キャトリン・モランの半自伝的小説「女の子をつくる方法」(How To Build a Girl/2014)が原作です。図書館にはキャトリン・モランの著作「女になる方法 ―ロックンロールな13歳のフェミニスト成長記」(2011/日本では2018年青土社より刊行)が1冊だけありました。饒舌な文章で主人公が大人になり、結婚し、子どもを持った30代半ばくらいまでが書かれています。興味のある方はこちらも。(白)
2020年/イギリス/カラー/シネスコ/105分
配給:ポニーキャニオン、フラッグ
(C)Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019
https://buildagirl.jp/
★2021年10月22日(金)より公開中
2021年10月20日
六つの黒帯を持つ男 世界のアクション・スター 追悼・千葉真一
2021年10月20日(水)~30日(土)
チラシのPDF
新文芸坐HP
アクションスターとして日本だけでなく世界でも活躍し、2021年8月19日に亡くなった千葉真一。千葉真一の追悼特集が組まれ、『激突!殺人拳』『魔界転生』などの出演作が2本立てで12本上映される。
10月20日(水)・26日(火)『激突!殺人拳』『直撃!地獄拳 大逆転』
10月21日(木)・27日(水)『けんか空手 極『真拳』『少林寺拳法』
10月22日(金)・28日(木)『脱走遊戯』『ゴルゴ13 九龍の首』
10月23日(土)・29日(金)『沖縄やくざ戦争』『仁義なき戦い 広島死闘篇』
10月24日(日)・30日(土)『柳生一族の陰謀』『魔界転生』
10月25日(月) 『子連れ殺人拳』『ボディーガード牙』
上映スケジュール 詳細はこちら
千葉真一(本名 前田 禎穂)プロフィール
別名サニー千葉、JJサニー千葉
1939年1月22日没日2021年8月19日生まれ
福岡市生まれ、千葉県君津市育ち
俳優・空手家・歌手・芸能プロモーター・アクション監督・映画監督・映画プロデューサー・作詞家・作曲家・ナレーター・声優。吹き替えに頼らず自ら演じるアクションスターの元祖ともいえる。芸能生活は60年を越え、映画・テレビドラマ・演劇などで計1,500本以上の作品に出演。監督・プロデュースと幅広く活躍。
1959年「東映ニューフェイス」のオーディションに合格。60年TVドラマ「新 七色仮面」で俳優デビュー。61年『警視庁物語 不在証明』で映画デビュー。映画『風来坊探偵 赤い谷の惨劇』(61)やTVドラマ「キイハンター」(68)で人気アクションスターに。70年には「ジャパンアクションクラブ(JAC)」を設立しアクション俳優を育成。『戦国自衛隊』(79)や『魔界転生』(81)でアクション監督も兼ねる。TV時代劇「影の軍団」シリーズ(80〜82、85)で活躍し、日本のアクション界をリード。海外の映画では「サニー・チバ」の名で出演し、『エイセス 大空の誓い』(92)でハリウッド映画に進出。クエンティン・タランティーノ監督『キル・ビル』(03)にも出演。1998年には香港映画『風雲 ストームライダーズ』に出演し、第18回香港電影金像奨で外国人として初めて優秀主演男優賞にノミネートされた。2021年8月19日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による肺炎のため82歳で死去。元妻は女優の野際陽子。娘の真瀬樹里、息子の新田真剣佑、眞栄田郷敦という俳優一家。
『』は映画、「」はTV。
1999年の第18回香港電影金像奨の取材に行った。この年、千葉真一さんは『風雲 ストームライダーズ』で最優秀主演男優賞にノミネートされていて香港に来た。千葉さんの写真も何枚か撮影したのだけど、まだネガカラーの時代。ジャッキー・チェンとのツーショットと、新人賞のプレゼンテーターとして登場した時の写真の2枚をデジタル化したので掲載します。この時、千葉さんは2歳くらいの男の子を抱いてレッドカーペットを歩いてきたのだけど、今、思えばこの男の子が新田真剣佑だったんだなと感慨深い。この「男の子を抱いてレッドカーペットを歩いている写真」も撮影したのだけど、その写真はどこにあるのか探さないとわからない状態なのが残念(暁)。
第18回香港電影金像奨での写真 撮影:宮崎暁美
2021年10月16日
彼女はひとり
監督・脚本・編集:中川奈月
撮影:芦澤明子
出演:福永朱梨(戸田澄子)、金井浩人(勝沼秀明)、美知枝(波多野牧子)、中村優里(聡子)、三坂知絵子(戸田薫)、山中アラタ(戸田隆)
高校生の澄子はある日橋から身を投げた。しかし、死ねずに生還する。父は引っ越そうと言うが自分の意思で残ることを選び、1年留年して学校に戻ってきた澄子は、同級生となった幼馴染の秀明を執拗に脅迫し始める。身を投げる原因を作ったのは秀明であり、秀明が教師である波多野と密かに交際している秘密を握っていたのだった。その行為は日々エスカレートしていくが、そこには過去の出来事、そして澄子の家族に関わる、もうひとりの幼馴染・聡子の幻影があった…。
中川監督は、立教大学を卒業後、NCW(ニューシネマワークショップ)で映画制作を開始。立教大大学院映像身体学科で本作『彼女はひとり』を制作しました。
福永朱梨(ふくながあかり)さん演じる澄子の痛切な孤独が胸を打ちます。父親は死を選んだ澄子の気持ちがわかりません。八つ当たりのように秀明にいくら復讐したところで、空になった心は満たされず、なんともやりきれない思いで見続けました。
明日がなくてもいい、自分がいなくてもいい、という気持ちの裏側にはその逆の渇望があります。澄子の強いまなざしと絞り出すような叫びが観終わった後も残りました。福永朱梨さんは『本気のしるし』(2019年連続ドラマ/2020年劇場版)のみっちゃん。そちらでは失恋しても乗り越えられる女子でした。ネタバレ気味ですが、父親と秀明が澄子に「なぜ〈彼女〉が好きなのか」と聞かれて、同じ答えだったのになんだかムカつきました。私だけ?(白)
⼤学院の修了制作として撮影された学⽣映画と思って軽い気持ちで見たら痛い目に遭いました。60分の短尺にもかかわらず、主人公の抱える闇を見事なタイミングで少しずつ明らかにしていき、ラストで思いっきり爆発させます。この展開は予想の遥か斜め上をものすごいスピードで飛んでいく感じ。脚本を書いた監督の才能に驚かされました。主人公の澄子の苦しみを監督自身が経験したことがあるのではないかと思ってしまいます。
そして、その脚本をさらにいいものにしたのが主演の福永朱梨。誰からも愛されない寂しさから暴走していく澄子を怯むことなく繊細に演じ切りました。
2人の若き才能が今後、どう花開いていくか。楽しみでしかありません。(堀)
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018国際コンペティション部門「SKIPシティアワード」受賞
TAMA NEW WAVE2019ある視点部門 / ドイツニッポンコネクション2019 / ちば映画祭2019
田辺・弁慶映画祭2019「俳優賞」受賞(福永朱梨)
2018年/日本/カラー/60分
配給・宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト
配給協力:ミカタ・エンタテインメント(C)2018「彼女はひとり」
https://mikata-ent.com/movie/884/
★2021年10月23日(土)ロードショー
グレタ、ひとりぼっちの挑戦(原題:I Am Greta)
監督:ネイサン・グロスマン
出演:グレタ・トゥーンベリ、スベンテ・トゥーンベリ
環境活動家グレタ・トゥーンベリに2年間密着したドキュメンタリー。 当時15歳のグレタは、ひとりの内気で繊細な少女であり、発するメッセージもとてもシンプルなものだった。
・気候変動は深刻な危機であることに気づいてほしい。
・安全な未来を守ってほしい。
孤独だった少女が地球の危機を憂い、たったひとりで国会議事堂前に座り込んだ。家族は心配しながらも、そんなグレタの意志を尊重して応援する。
グレタさんの活動を知ったのはニュースでした。思っても行動できない人が大半なのに、こんなに若い人が地球の未来を考えて動いていることに感動しました。それまでにも環境破壊についてのドキュメンタリーや記事など、観たり読んだりしましたが、大人の一人として何ができるだろうと責任も一緒に考えたのはグレタさんのおかげです。夏にはテレビ番組でも特集があって、試写と前後して観ました。グレタさんはとっても小柄な少女ですが、いまは18歳になって、ますます進む温暖化と遅々として変わらない世界を憂えています。絶望しかけているけれど諦めてはいません。
国連総長アントニオ・グテーレスやフランスのエマニュエル・マクロン大統領、ローマ法王と会うグレタさんの姿とともに、非難する大人も登場します。活動が取り上げられるとアンチも出てくるもの、こちらの予告編ではそんな誹謗中傷にも耐えるグレタさんの姿も見せています。取返しがつかなくなってから「あのときああしていれば、こうしていれば」と後悔しても遅いですよね。子どもや孫を送り出した自分が具体的にできることを見つけて知らせていければと思います。
日本はCO2排出量が世界で5番目に多い国だそうです。電気・ガス・水などを無駄にしない、ゴミを減らす、エコバッグを持ち歩く、なるべく自転車や徒歩で移動など…すぐできることを始めませんか?(白)
ニュースで見ていたグレタさんは、一途な発言が攻撃的に見えて、言ってることは正しいと思うのに、好きになれませんでした。本作の中で、グレタさんは学校の同級生から誕生日パーティーなどに誘われたことがなくて仲間外れと語っています。どこか寄せ付けない雰囲気なのは、アスペルガー症候群故でしょうか。
本作を観ていて、そんなグレタさんをいつも暖かく見守るお父さんの姿が印象的でした。国連でスピーチするためにニューヨークに行くのに、飛行機を拒否し、ヨットで行くグレタさんにも同行。予備知識なく観たので、そこまで出来るお父さんって、よほどお金持ち?と思ってしまったのですが、父スヴァンテ・トゥーンベリさんは俳優で作家。金銭的なことはともかく、時間は自分の裁量で作れる方なのでした。母マレーナ・エルンマンさんはオペラ・メゾソプラノ歌手。2歳年下の妹・ベアタさんは歌手。一見華やかな家族の中で、自分を貫くグレタさん。凄いなと思います。(咲)
2020年/スウェーデン/カラー/ビスタ/101分
配給:アンプラグド
(C)2020 B-Reel Films AB, All rights reserved.
https://greta-movie.com/
★2021年10月22日(金)新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
〈主婦〉の学校(原題:Húsmæðraskólinn)
監督・脚本・編集:ステファニア・トルス
製作・音楽・音響:ヘルギ・スババル・ヘルガソン
音楽:フリス
出演:アゥスロイグ・クリスティヤンドッティル(卒業生・1947年在学)、ラグナ・フォスベルグ(卒業生・1967年在学)、ラグナル・キャルタンソン(卒業生・1997年在学)、グズムンドゥル・インギ・グズブランドソン(卒業生・1997年在学)
世界最北の首都、アイスランドのレイキャビクに、1942 年に創立された伝統ある「主婦の学校」がある。寮での共同生活を送りながら生活全般の家事を実践的に学ぶことができる、一学期定員 24 名の小さな学校。かつて、義務教育後に進学の機会が少なかった女性たちを、良き主婦に育成することを目的としていた家政学校(花嫁学校)は、世界のあちこちにあった。その多くが衰退していくなか、この学校は、家政学校へと改称し、州立学校となった。1997 年に初めて男子学生を受け入れ、男女共学に。1998 年に国庫からの拠出金で運営される私立の学校となった。同年、マルグレート・ドローセア・シグフスドッティル校長が就任。レイキャビク女性協会のサポートを受けながら、現在も続いている。
「主婦になるために行くわけじゃない」「自分のことは自分で面倒を見られる人間になりたい」と、性別に関わりなく、「いまを生きる」ための知恵と技術を求めて学生たちが集まってきている。本作は、時代の移り変わりと共にその役割を変化させてきた「主婦の学校」に注目したドキュメンタリー。
〈今を生きるための、自立した人生を楽しむための術〉が、この学校で学べます。それは生きていくための基本の術で、男女関わりなく必要なもののはず。妻が亡くなったとたん、靴下のありかも洗濯機の使い方もわからない夫はいませんか?女の子だからと姉妹だけに家事を押し付けている兄弟は?コロナ禍で外出が思い通りにならず、巣ごもり状態の中もめたご家族は?
この作品に登場する元生徒の男性たちが、懐かしそうに思い出を語り「入ってよかった」と口をそろえます。楽しい家事を男性にも経験させてあげましょう。美味しいものが作れる、家で気持ち良くすごせる、工夫を生かせる丁寧な暮らし方はどんな時代であっても、心豊かにしてくれるもののはずです。
アイスランドは、2021 年世界経済フォーラム公表のジェンダーギャップ指数ランキングにて 12 年連続 1 位の “ジェンダー平等” が進んでいる国。日本は同ランキング 120 位です。国民の代表たる国会議員たちが、しばしばジェンダーについての失言でやり玉にあがっている日本では、まだまだ道は遠い…。しかーし嘆いていないでまずは身近から。(白)
2021 年世界経済フォーラム公表のジェンダーギャップ指数ランキングで 12 年連続 1 位のジェンダー平等が進んでいる国、アイスランドに<主婦>になるための学校があるとは!とタイトルに驚きましたが、この学校は1970年代に「家政学校」に名称が変更されましたが、監督が敢えて映画のタイトルに「主婦の学校」と昔の名前を復活させたそう。けっして、ここで学ぶ女性たちは良き花嫁を目指しているのではありません。入学理由も人それぞれ。しかし、ざっくり捉えればみな、“自立した生活を送るための術を身につけたい”ということ。登場する在学生は女性だけですが、過去には男性も学んでおり、学校初の男子学生だった卒業生の1人はアイスランドの環境・天然資源大臣となり、インタビューを受けています。きっとここで学んだことがその後の彼の人生に大きく影響を及ぼしたことは想像に難くありません。
結婚してもしなくても、家事ができることに越したことはありません。せめて、中高時代にもっと真面目に家庭科の授業を受けておけばよかったと思ってしまいました。(堀)
2020 年/アイスランド/カラー/ビスタサイズ/ステレオ/アイスランド語/ドキュメンタリー/78 分/DCP
後援:アイスランド大使館
提供・配給:kinologue
© Mús & Kött 2020
https://kinologue.com/housewives/
★2021年10月16日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!
ビースト(英題:The Beast)
監督・脚本:イ・ジョンホ
撮影:ジュ・ソンリム
出演:イ・ソンミン(ハンス)、ユ・ジェミョン(ミンテ)、チョン・ヘジン(チュンベ)、チェ・ダニエル(ジョンチャン)
仁川(インチョン)で猟奇殺人事件が発生した。かつて相棒同士だった、捜査1班を率いるハンスと2班を率いるミンテは、昇進をかけて捜査に臨む。早々にハンスが容疑者を逮捕したが、冤罪を確信したミンテが独断で釈放したことで捜査は混迷を極め、また二人の溝は深まっていくのだった。その頃、情報屋のチュンべに呼び出されたハンスは、猟奇殺人事件の情報を提供する交換条件として、殺人の共犯になるように要求されていた。困惑するハンスの拳銃を奪い、待ち伏せていた男を射殺したチュンベ。予測不能の殺人事件に巻き込まれたハンスは、チュンベの隠蔽工作に加担することになってしまった。ハンスが容疑者のアジトを突き止め、事件は解決へ向かうかに見えたが、チュンベと海に沈めたはずの車が引き揚げられ、凶器に使われた拳銃の銃弾が発見されてしまう。焦燥を募らせていくハンスの姿をミンテは怪しみ、疑惑の目を向け始める──。
色彩もダークな韓国の警察ノワールもの。同期の警察官2人がことあるごとに衝突し、競い合ったあげく殺人事件にまで加担することになってしまいます。隠そうとしたばかりにウソにウソが重なり、にっちもさっちも行かなくなる2人。人間正直になるのが一番。それを妨げるのは、なんとかなるかもしれないという甘い期待と欲でしょうかね?
主演のイ・ソンミンは今年1月公開の『KCIA 南山の部長たち』で大統領役、2019年『工作 黒金星と呼ばれた男』ほかでも主要な役を演じています。テレビドラマ「ミセン 未生」のオ課長も印象的で、人情味のある役にも冷徹な政治家役にもはまります。ユ・ジェミョンは日本でも大ヒットのテレビドラマ「梨泰院クラス」の長家グループ会長、「花郎」の側近パク、『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』では警長でした。情報屋のチョン・ヘジン『白頭山(ペクトゥサン)大噴火』ではクールな民政主席。俳優さんの顔は数え切れないほどあるんですね。それを観るのが楽しみです。(白)
2019年/韓国/カラー/シネスコ/130分
配給:キノシネマ
(C)2019 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & STUDIO&NEW. All Rights Reserved.
https://movie.kinocinema.jp/works/thebeast/
★2021年10月15日(金)キノシネマほか全国順次公開
2021年10月10日
パリのアメリカ人 原題:An American in Paris - The Musical
映画版監督:クリストファー・ウィールドン
出演:
ジェリー・マリガン役:ロバート・フェアチャイルド
リズ・ダッサン役:リャーン・コープ
アンリ・ボーレル役:ハイドゥン・オークリー
マイロ・ダヴェンポート役:ゾーイ・レイニー
アダム・ホックバーグ役:デイヴィッド・シードン=ヤング
マダム・ボーレル役:ジェーン・アッシャー
『パリのアメリカ人』は、アメリカのミュージカル映画史上に君臨する「巴里のアメリカ人」(1951年)の舞台版。
2015年、ブロードウェイでトニー賞12部門ノミネート中最多4部門を獲得。本作は、ブロードウェイ・プロダクションとキャストによる、2018年のウェストエンド公演(Dominion Theatre)を特別に撮影した作品。
*物語*
1945年、第二次世界大戦が終結し、やっとナチスから解放されたパリ。
アメリカの退役軍人ジェリー・マリガン(ロバート・フェアチャイルド)は、画家としての新たな人生を夢見てパリに残る決意をする。ジェリーは若く美しいダンサーのリズ(リャーン・コープ)と運命的に出会い、一目で恋に落ちる。
ジェリーは、作曲家を目指すアダムと、ショーマンを夢見るアンリに出会い、友情で結ばれる。ある日、アダムに連れられてスケッチのために訪れたバレエスタジオで、ジェリーはリズと再会する。一方、アダムもまたリズの踊りに魅せられ、彼女に恋してしまう。実は、彼らの友人アンリもまたリズに恋していた。リズは、ナチス占領下のパリでアンリの一家に匿われていた恩義があって、アンリと婚約するが、自由な世界へ自分を連れ出そうとするジェリーにも惹かれ、激しく揺れ動く・・・
冒頭、戦争中、友人や隣人の密告もあって、戦争の傷跡はすぐには消えないと語られます。ナチスの占領下で、フランスのビシー政権がユダヤ人弾圧に加担。リズの両親は犠牲になり、リズ自身はアンリの家に隠れていたのです。ジェリーが下宿探しをしていると、ユダヤ人の芸術家なら家賃はいらないといわれ、パリの人たちの罪悪感がみられます。
『巴里のアメリカ人』(1951年)というタイトルは知っていたものの、映画は観てなくて、今回、こんな深い背景のある物語だったことを初めて知りました。まだ戦時中の記憶の生々しかった頃に作られたものですが、70年近くの時を経た今また観る意義は大きいと思います。華麗なミュージカルに込められた自由・平等・博愛の精神をずっしり感じました。(咲)
【楽曲一覧】
第1幕
「協奏曲 ヘ長調」カンパニー
「アイ・ガット・リズム」アンリ、アダム、ジェリー、カンパニー
「セカンド・プレリュード」リズ、女性アンサンブル
「ビギナーズ・ラック」ジェリー
「ザ・マン・アイ・ラブ」リズ
「ライザ」ジェリー
「スワンダフル」ジェリー、アダム、アンリ、カンパニー
「シャル・ウィ・ダンス」マイロ
「セカンド・ラプソディ&キューバン・オーバチュア」カンパニー
第2幕
「アントラクト」オーケストラ
「足がウズウズ」ジェリー、カンパニー
「フー・ケアズ?」マイロ、アンリ
「きみに 僕に 永遠に」アンリ、ジェリー、リズ、マイロ
「バット・ノット・フォー・ミー」アダム、マイロ
「パラダイスへの階段」アンリ、アダム、カンパニー
「パリのアメリカ人」カンパニー
「決して奪えはしない」アダム、アンリ、ジェリー
2018年/イギリス/139分/G
配給:松竹
公式サイト:https://broadwaycinema.jp/
★2021年10月15日(金)から東劇(東京)、なんばパークスシネマ(大阪)、ミッドランドスクエア シネマ(名古屋)ほか全国順次限定公開
THE MOLE(ザ・モール) 原題:THE MOLE - UNDERCOVER IN NORTH KOREA
監督:マッツ・ブリュガー(『誰がハマーショルドを殺したか』)
出演:ウルリク・ラーセン
10年前、ブリュガー監督のもとに、コペンハーゲン郊外在住の元料理人ウルリク・ラーセンからメールが届く。謎に満ちた独裁国家、北朝鮮の真実を暴くため、自ら潜入捜査するので、それを追ったドキュメンタリーを作ってほしいという。
コペンハーゲンの北朝鮮友好協会に入会したウルリクはたちまち信頼を得て、2012年に協会の一員として北朝鮮を初訪問。文化省の高官カンに迎えられ、北への貢献を称えるメダルを授与される。ウルリクは、現地でKFA(朝鮮親善協会)会長のスペイン人アレハンドロ・カオ・デ・ベノスと出会う。アレハンドロの信頼を得たウルリクは、翌年新設されたKFAデンマーク支部の代表に任命される。2015年、アレハンドロから、北朝鮮に関心がある投資家を探すよう命じられたことをウルリクから報告を受け、監督は、かつてフランス軍の外人部隊に所属していた“ジム”という男を、ミスター・ジェームズという偽の投資家役に起用する。ウルリクとジェームズは、北朝鮮が生産する武器や覚醒剤の違法取引に深く関わり、実態を暴き出していく・・・
マッツ・ブリュガー監督は、映画デビュー作『ザ・レッド・チャペル』(2009)で北朝鮮の怒りを買い、入国禁止になっていて、北朝鮮での撮影は、ウルリク自身の隠しカメラによるもの。よくぞ見つからずに撮影できたと驚きます。怪しまれたら、拘束されるのは必至の北朝鮮。
ウガンダに秘密工場を建設する話が進み、北朝鮮だけでなく、スペイン、ヨルダン、カンボジア・・・と、要人との打合せに飛ぶウルリクたち。2019年、これ以上の潜入は危険との監督の判断により二人は潜入から身を引きます。10年間のスパイ活動を妻に明かすウルリク。「存在が薄くなって、しっかりしてと言いたかった」と、夫がスパイだったとは全く気づいてなかった妻。
『クーリエ 最高機密の運び屋』(9月23日公開)でも、妻たちは夫のスパイ活動に気がついていませんでした。スパイたるもの、まずは家族を欺くことが肝心なのだと、長年、まったく家族に気づかれなかったことに感嘆するばかりです。それにしても、この映画を北朝鮮などの関係者が観て、ウルリクたちに危険が及ぶのではと心配になりました。(咲)
2020年/ノルウェー、デンマーク、イギリス、スウェーデン/135分/DCP/映倫区分G/
協力:NHKエンタープライズ
配給:ツイン
(c)2020 Piraya Film I AS & Wingman Media ApS
公式サイト:https://themole-movie.com/
★2021年10月15日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
かそけきサンカヨウ
原作:窪美澄「かそけきサンカヨウ」(「水やりはいつも深夜だけど」角川文庫刊所収)
脚本:澤井香織、今泉力哉
音楽:ゲイリー芦屋
主題歌:「幽けき」(Sony Music Labels) 崎山蒼志
出演:志田彩良 (国木田 陽)、井浦 新(国木田 直)、鈴鹿央士(清原 陸)、中井友望(鈴木沙樹)、鎌田らい樹(有村みやこ)、遠藤雄斗(宮尾数人)、菊池亜希子(国木田美子)、梅沢昌代(清原絹枝)、西田尚美(清原 夏紀)、 石田ひかり(三島佐千代)
幼い頃に母が家を出て、父と二人暮らしの陽はずっと主婦のように家事をこなしている。これからもそんな暮らしが続くと思っていたが、ある夜父から「恋人ができた。その人と結婚しようと思う」と告げられる。父の再婚相手である美子とその連れ子の4歳のひなたと、4人家族の新たな暮らしが始まった。一方、幼なじみの陸は心臓の手術を終え、これまでのように将来の夢が描けず、生活が変わっていく不安を感じていた。陽は陸を誘って実の母であることは伏せたまま、三島佐千代の個展に出かける。
タイトルの「サンカヨウ」は花の名前。どんな花か知らなかったので、すぐ画像を探してみました。映画の中では、陽の古い思い出の中の母の姿とともに現れてきます(でも背中合わせにおんぶされてると見えないんですけど>お母さん)。
春から初夏にかけ冷涼な山地など限られた地域で見られるようです。元は白い花びらが朝露や雨などで水にぬれると透明になって、ガラス細工のように変わるんだそうです。それは見てみたい!(wikiはこちら)
映画は受験前から高校1年生の陽と陸を中心に、それぞれの家族や友人たちとが描かれています。淡くてはかない感じのサンカヨウの花のように、静かでさわやかな青春劇。恋愛と友情のあわいを揺れるような2人を描いて、「とにかく恋愛成就にまっしぐら!感」はひとかけらもありません。そんな中で母子家庭でバイトを続けている沙樹の、地に足がついている台詞が印象に残ります。子どもたちを見守る母たち3人+父1人の視線も優しく、ベタベタしません(あ、おばあちゃんはちょっと…私も気をつけよう)。レモンスカッシュみたいな作品でした。(白)
2020年/日本/カラー/シネスコ/115分
配給:イオンエンターテイメント
©2020 映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会
https://kasokeki-movie.com/
★2021年10月15日(金)より、テアトル新宿ほか、全国公開
WHOLE/ホール
監督・編集:川添 ビイラル
脚本:川添 ウスマン
主題歌:「Wouldn't It Be Great」rei brown
出演:サンディー海 川添 ウスマン 伊吹 葵
菊池 明明 尾崎 紅 中山 佳祐 松田 顕生
ハーフの大学生、春樹(サンディー 海)は親に黙って海外の大学を辞め、日本の実家に帰ってくる。「中退してどうするの」とつれない母。生まれ故郷なのに、電車に乗っていても、よそ者を見るような視線を感じてしまう。幼馴染の仁美(伊吹 葵)からクラス会に誘われても、小学校時代の疎外感を思い出して、気が進まない。
ある夜、春樹は鍵がなくて家に入れず、入ったラーメン屋で建設作業員のハーフの青年・誠(川添 ウスマン)と知り合う。母親と二人で暮らす団地の部屋に泊めてもらい、一見ぶっきらぼうな誠が母親に甲斐甲斐しく尽くしている姿をみる。そんな誠から、春樹は英語の手紙を訳してくれと頼まれる。国籍も知らず会ったこともない父親からの手紙だった・・・
神戸で生まれ育ち、日本のパスポートしか持っていない、監督の川添ビイラルと脚本・主演の川添ウスマン兄弟。日本のメディアが伝えるハーフのイメージが特定の偏った人たちを描いていると感じ、日本で普通に暮らすハーフを主人公にした映画を作ることを決意。知り合いの紹介で、同じく日本で生まれ育ったサンディー 海に出会い、春樹役に抜擢。自らのアイデンティティーに戸惑い、自分探しをする姿を繊細に描き出しました。
冒頭、日本に帰ってきた春樹が乗っている電車(ポートライナー)から、六甲山の麓に広がる神戸の町が見えてきて、神戸生まれの私はそれだけで胸がいっぱいに。幼馴染の仁美と会う神社は、なんと、私が住んでいた岡本の家の裏山にある保久良神社でした。
脚本・主演の川添ウスマンさんというお名前。ムスリムに違いないと、川添兄弟のルーツも気になり、インタビューを申し入れました。サンディー 海さんも是非一緒にとのことで、3人にお話を伺ったのですが、ウスマンさんと海さんは終始じゃれあい、楽しいひと時となりました。日本語が上手だねと言われることは、1週間に一度はあるとのこと。そんなハーフならではの体験も盛り込み、ちょっとセレブな春樹と、建設作業員の誠という対照的なハーフの二人の友情を描いた素敵な物語です。(咲)
『WHOLE/ホール』公開を前に映画にかけた思いを聞く
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/483861021.html
第14回大阪アジアン映画祭 JAPAN CUTS Award受賞
ニューヨーク・JAPAN CUTS 2019 正式出品作品
ソウル国際映画祭2019 正式出品作品
2019年/日本/カラー/44分/16:9/Stereo
配給宣伝:アルミード
公式サイト:https://www.whole-movie.com/
Twitter:@WHOLE_Film21 Facebook: @filmwhole
Instagram: @078firm
★2021年10月15日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかにてロードショー
2021年10月09日
歌と羊と羊飼い
劇場公開 2021年10月9日
ユーロスペース、ジャック&ベティなど 劇場情報
●STAFF
監督:四海兄弟
製作総指揮:飯塚冬酒
撮影:長棟航平 / 中田敦樹
音楽:伴正⼈
整音:東凌太郎
●出演
眞塩藍咲/HIKARU/ MARISA/杉本民奈子/Rev.Taisuke/遠谷政史/ 大山小夜子/Pencil Bunch(松谷麗王/KIWA/綿引京子/ 平田ゆり)
千代延大介(サルーキ=)/Timothy Riley/Steven MacCaster
鈴木智晴/松枝利育/河崎将己
2021 年|56 分40 秒 製作・宣伝・配給:ガチンコ・フィルム
公式HP
日本にもゴスペルを愛する人たちがたくさんいる!
アメリカ発祥のゴスペル。黒人教会で歌われた黒人霊歌がルーツの「ゴスペル」はアメリカなどでは教会に通う人々だけでなく多くの人に親しまれている。日本では1970年代、フォークソングや黒人霊歌などにつながる歌として広まったが、1992年に公開された『天使にラブ・ソングを』などの影響もあって、多くの人に知られブームを巻き起こしたという。その影響は大きく、現在、日本でのゴスペル人口は約20万人もいるらしい。しかし日本でゴスペルを歌う人々のおよそ90%はノンクリスチャン。これは世界でも非常にめずらしい。この作品はそんな「ゴスペル」を愛し、歌っている日本在住の人たちにカメラを向け、なぜゴスペルに興味を持ち歌うようになったのか、何のために歌っているのか、また宗教との関わりなど、それぞれの人たちの思いや活動を追いながらその一端を明らかにしていく。
スペイン生まれのゴスペルシンガー(MARISA)、アメリカの黒人教会でゴスペルを指導していた経歴を持つ牧師(Rev.Taisuke)、全国ゴスペルコンテストに挑戦する二人の女子中高生(眞塩藍咲、HIKARU)、ゴスペルに向き合うミュージシャン(遠谷政史、大山小夜子、Pencil Bunch)、ゴスペルと出会い変わっていく女性(杉本民奈子)。それぞれの活動を追い、歌うことへの「思い」「祈り」、そしてゴスペルとの関わりを引き出してゆく。
監督は日本人青年とベトナム人青年の結婚式までを描いた『ぼくと、彼と、』、クレイジーケンバンドの聖地である横浜の伝説のライブハウス『FRIDAY』などのドキュメンタリーを手掛けた四海兄弟。2014年に公開された、無宗教の日本人がなぜゴスペルを歌うのか、歌の先に何が在るのかをテーマにしたドキュメンタリー映画『GOSPEL』(監督松永大司)でプロデューサーを務めた飯塚冬酒が本作でも製作総指揮をしている。14年続く日本最大のゴスペルイベント「横濱ゴスペル祭」を作り上げた方。
私が「ゴスペル」のことを知ったのは50年以上前。高校2年生だった1968年頃。フォークソングにはまり、アメリカ発のフォークソングを聴き、そして黒人霊歌なども聴いていた。ある時マヘリア・ジャクソンが歌う「アメイジング・グレイス」をラジオで聴き感動。この曲はジョン・バエズが歌っていたので知っていて、彼女の歌うこの歌も素晴らしかったけど、マヘリア・ジャクソンの野太い歌声はまた別の感動を覚え心が震えた。後にマヘリア・ジャクソンのCDを買い、「山の上で告げよ」「ジェリコの戦い」「時には母のない子のように」などの名曲を知った。そして日本でも亀渕友香さんがゴスペルを歌っていることを知った。それは高校3年の1969年頃。亀渕友香さんが活躍始めた頃で、まだあまり知られていなかったが、彼女の兄の亀渕昭信さんがオールナイトニッポンのDJをやっていて亀渕友香さんのことを紹介していた。日本人でゴスペルを歌う人がいるということを知りとてもうれしかったのを、この作品を観て思い出した。それにしても、今や20万人ものゴスペル愛好者がいるというのがHPに載っていてほんとかな?とも思ったけど、そんなにいるのもほんとかもしれないと思えるようなほど、たくさんのゴスペル愛好者が出てきたし、「ゴスペル甲子園」というのがあるというのも驚きだった。さらに驚いたのは中高校生の愛好家がいたこと。彼女たちは将来、日本のゴスペル愛好者を引っ張っていくのかもしれない(暁)。
ユーロスペース、ジャック&ベティなど 劇場情報
●STAFF
監督:四海兄弟
製作総指揮:飯塚冬酒
撮影:長棟航平 / 中田敦樹
音楽:伴正⼈
整音:東凌太郎
●出演
眞塩藍咲/HIKARU/ MARISA/杉本民奈子/Rev.Taisuke/遠谷政史/ 大山小夜子/Pencil Bunch(松谷麗王/KIWA/綿引京子/ 平田ゆり)
千代延大介(サルーキ=)/Timothy Riley/Steven MacCaster
鈴木智晴/松枝利育/河崎将己
2021 年|56 分40 秒 製作・宣伝・配給:ガチンコ・フィルム
公式HP
日本にもゴスペルを愛する人たちがたくさんいる!
アメリカ発祥のゴスペル。黒人教会で歌われた黒人霊歌がルーツの「ゴスペル」はアメリカなどでは教会に通う人々だけでなく多くの人に親しまれている。日本では1970年代、フォークソングや黒人霊歌などにつながる歌として広まったが、1992年に公開された『天使にラブ・ソングを』などの影響もあって、多くの人に知られブームを巻き起こしたという。その影響は大きく、現在、日本でのゴスペル人口は約20万人もいるらしい。しかし日本でゴスペルを歌う人々のおよそ90%はノンクリスチャン。これは世界でも非常にめずらしい。この作品はそんな「ゴスペル」を愛し、歌っている日本在住の人たちにカメラを向け、なぜゴスペルに興味を持ち歌うようになったのか、何のために歌っているのか、また宗教との関わりなど、それぞれの人たちの思いや活動を追いながらその一端を明らかにしていく。
スペイン生まれのゴスペルシンガー(MARISA)、アメリカの黒人教会でゴスペルを指導していた経歴を持つ牧師(Rev.Taisuke)、全国ゴスペルコンテストに挑戦する二人の女子中高生(眞塩藍咲、HIKARU)、ゴスペルに向き合うミュージシャン(遠谷政史、大山小夜子、Pencil Bunch)、ゴスペルと出会い変わっていく女性(杉本民奈子)。それぞれの活動を追い、歌うことへの「思い」「祈り」、そしてゴスペルとの関わりを引き出してゆく。
監督は日本人青年とベトナム人青年の結婚式までを描いた『ぼくと、彼と、』、クレイジーケンバンドの聖地である横浜の伝説のライブハウス『FRIDAY』などのドキュメンタリーを手掛けた四海兄弟。2014年に公開された、無宗教の日本人がなぜゴスペルを歌うのか、歌の先に何が在るのかをテーマにしたドキュメンタリー映画『GOSPEL』(監督松永大司)でプロデューサーを務めた飯塚冬酒が本作でも製作総指揮をしている。14年続く日本最大のゴスペルイベント「横濱ゴスペル祭」を作り上げた方。
私が「ゴスペル」のことを知ったのは50年以上前。高校2年生だった1968年頃。フォークソングにはまり、アメリカ発のフォークソングを聴き、そして黒人霊歌なども聴いていた。ある時マヘリア・ジャクソンが歌う「アメイジング・グレイス」をラジオで聴き感動。この曲はジョン・バエズが歌っていたので知っていて、彼女の歌うこの歌も素晴らしかったけど、マヘリア・ジャクソンの野太い歌声はまた別の感動を覚え心が震えた。後にマヘリア・ジャクソンのCDを買い、「山の上で告げよ」「ジェリコの戦い」「時には母のない子のように」などの名曲を知った。そして日本でも亀渕友香さんがゴスペルを歌っていることを知った。それは高校3年の1969年頃。亀渕友香さんが活躍始めた頃で、まだあまり知られていなかったが、彼女の兄の亀渕昭信さんがオールナイトニッポンのDJをやっていて亀渕友香さんのことを紹介していた。日本人でゴスペルを歌う人がいるということを知りとてもうれしかったのを、この作品を観て思い出した。それにしても、今や20万人ものゴスペル愛好者がいるというのがHPに載っていてほんとかな?とも思ったけど、そんなにいるのもほんとかもしれないと思えるようなほど、たくさんのゴスペル愛好者が出てきたし、「ゴスペル甲子園」というのがあるというのも驚きだった。さらに驚いたのは中高校生の愛好家がいたこと。彼女たちは将来、日本のゴスペル愛好者を引っ張っていくのかもしれない(暁)。
2021年10月07日
燃えよ剣
監督・脚本:原田眞人
原作:司馬遼太郎
撮影:柴主高秀
音楽:土屋玲子
出演:岡田准一(土方歳三)、柴咲コウ(お雪)、鈴木亮平(近藤勇)、山田涼介(沖田総司)、伊藤英明(芹沢鴨)、尾上右近(松平容保)、山田裕貴(一橋慶喜)
江戸時代末期。黒船の来航により、外国から日本を守るため幕府の権力を回復させようとする佐幕派と、天皇を中心にした新政権を目指す討幕派の対立が深まりつつあった。武州多摩の農家に生まれた土方歳三は「武士になりたい」と、近藤勇、沖田総司ら同志とともに京都へ向かう。芹沢鴨を局長に、徳川幕府の後ろ盾で新選組を結成し、土方は「鬼の副長」と恐れられながら、討幕派の制圧のため京都の町で活躍を見せるが……。
新選組を扱った小説、ドラマ、映画は数多ありますが、こちらの原作は司馬遼太郎の同名小説。俳優なら一度はやってみたい役柄がこの中に詰まっています。なかでも人気はこの土方歳三、次に沖田総司ではないでしょうか。土方歳三は洋装断髪の写真が残されていて、なかなかお洒落で美男であったようす。活躍のほどもすでにあれこれで語られていますが、本作は『関ヶ原』(2017)の原田眞人監督と石田三成役だった岡田准一の再タッグで新たに映画化されました。新選組の歴史や多くの登場人物がよくわからない~という方は公式サイトの「3分でわかる新選組」トレーラーをどうぞ。完成報告イベントの映像も観られます。
たぎる想いを抱いて京都へ向かい、新選組副長となり、池田屋事件、大政奉還を経て戊辰戦争の勃発、箱館・五稜郭での戦いで絶命するまでの土方歳三をご覧ください。柴崎コウさんが生涯歳三に寄り添ったお雪を演じて、その凛々しいこと。剣士に負けていません。(白)
2021年/日本/カラー/シネスコ/148分
配給:東宝、アスミック・エース
(C)2021「燃えよ剣」製作委員会
http://moeyoken-movie.com/
★2021年10月15日(金)ロードショー
2021年10月06日
そしてキアロスタミはつづく デジタル・リマスター版特集上映
『友だちのうちはどこ?』にはじまるジグザグ道三部作や、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『桜桃の味』などで知られるイランを代表する巨匠アッバス・キアロスタミ監督(Abbas Kiarostami、1940年6月22日-2016年7月4日)。
詩や写真でも才能を発揮していた彼の映画は人生の真実にあふれ、観た者の心に忘れえぬ記憶として今なお残りつづけています。
そのキアロスタミ監督の珠玉の傑作7作品が、生誕81年を記念してデジタル・リマスター版でスクリーンに甦ります。
本来は生誕80年である2020年に、フランス・パリのポンピドゥーセンターでの回顧展「Abbas Kiarostami Ou est l’ami Kiarostami?」に合わせて日本でも劇場公開が企画されていましたが、コロナによって回顧展が延期。その後、没後5周年となる2021年5月に同展が開催されたのを受け、世界的にキアロスタミ監督の再評価が高まるなか、日本でも満を持してデジタル・リマスター版が劇場初公開されます。
今回の7作品はパリのmk2、ニューヨークのクライテリオンコレクション、ボローニャのラボ、リマジネ・リトロヴァータが2年をかけて修復した4Kまたは2Kリマスター版。上映は全作品2Kで行われます。
期間・劇場:2021年10月16日(土)よりユーロスペースほか全国順次開催
ユーロスペース 公式サイト:http://www.eurospace.co.jp/
上映作品:
『トラベラー』(1974)
『友だちのうちはどこ?』(1987)
『ホームワーク』(1989)
『そして人生はつづく』(1992)
『オリーブの林をぬけて』(1994)
『桜桃の味』(1997)
『風が吹くまま』(1999)
☆各映画の詳細は、公式サイトでご覧ください。
https://kiarostamiforever.com/
*上映スケジュール*
★リピーター・プレゼント:会期中、2作品ご鑑賞ごとにオリジナル・ポストカードを1種ずつ、全7作品ご鑑賞でオリジナル・トートバッグをプレゼント。
(チケット半券を劇場受付にご提示ください。)※数量限定
提供:WOWOWプラス 配給:ユーロスペース 宣伝:大福
料金:一般1500円/大学生1000円/会員・シニア1100円/高校生800円/中学生以下500円
★公開記念トークショー開催!
10月16日(土)12:40『友だちのうちはどこ?』
上映前 ゲスト:中村獅童(歌舞伎俳優)
10月17日(日) 12:40『トラベラー』
上映後 ゲスト:アミール・ナデリ(映画監督/『CUT』)
※オンラインでの開催
10月23日(土)12:40『風が吹くまま』
上映後 ゲスト:ショーレ・ゴルパリアン(映画プロデューサー、翻訳家、通訳)
10月24日(日)12:40『そして人生はつづく』
上映後 ゲスト:佐藤元状(英文学・映画研究者)
◆アフマド・キアロスタミ氏(デジタル・リマスター版監修)
動画メッセージ https://youtu.be/tfjE5dLemHo
私の父の映画が日本で上映され続けていることをとても嬉しく思います。日本は父にとってとても特別な国でした。父が日本で撮った作品を見ればそれは明らかだと思います。父の映画が上映されるのに一番ふさわしい国でしょう。近い将来、父の短編作品も日本で見てもらえたらと思います。またグラフィックデザインや写真といった異なるタイプの作品、とりわけどこにも発表していない2つの写真のシリーズを日本で紹介できたらと願っています。私自身にも日本はとても特別なつながりのある国です。イラン国外への初めての旅行、しかも長い時間をへてようやく父と一緒に旅したのが日本でした。私は父アッバスと映画祭に参加し、素晴らしい時間を過ごしました。近いうちにまた日本へ行けることを願っています。ありがとうございました。
◆アミール・ナデリ監督 コメント
アッバス・キアロスタミは、日本の文化や魂に限りなく近い映画を作った、世界でたったひとりの映画監督です。
また、小津安二郎や清水宏の作品にも似たエッセンスも持っています。
キアロスタミの作品を見ることは、誰にとっても忘れられない経験となるでしょう。
なぜなら、彼の作品には真摯さと生命への敬意があふれているからです。
アミール・ナデリ(映画監督/『CUT』)
キアロスタミ監督とナデリ監督
■関連書籍発売情報
「映画の旅びと イランから日本へ」 ショーレ・ゴルパリアン/みすず書房
憧れの日本に来てから40年、激動の時代のなかでイランと日本を往復。キアロスタミをはじめとする個性派ぞろいの監督たちとともに映画をつくり、訳し、拡め、二つの文化に橋をかけたイラン女性の涙と笑いの半生記。
http://cinemajournal.seesaa.net/article/483265973.html
********
先日、ショーレさんにお話を伺ったのですが、コロナ禍の今、ぜひキアロスタミ監督の作品を大きな画面で観て、心を癒していただければとの言葉をいただきました。
ショーレ・ゴルパリアンさんにキアロスタミ監督の思い出を伺う
試写で『友だちのうちはどこ?』を拝見。何度も観ている映画ですが、大きな画面で観るのは格別でした。
また、『桜桃の味』も、久しぶりに観て、前とまた違った印象を持ちました。
最初、大通りを車で走っていると、アフガニスタン難民と思われる青年たちが仕事を求めて声をかけてきます。こんな場面で始まったっけ?と思っているうちに、郊外の丘へ。
自殺しようとしている主人公が、これはと思う人物に声をかけて車に乗せると、必ずどこの出身かを聞いています。エンドロールに、最後の場面に出てきた兵士たちの名前が出身地と共に掲載されていることにも気が付きました。ペルシア語がわかる方は、ぜひそれにも注目してみてください。
イランに多様な人たちがいることを自然な流れでキアロスタミが描いていることに、あらためて気が付いた次第です。
(景山咲子)
アッバス・キアロスタミ監督の『友だちのうちはどこ?』を初めてみたのは、日本公開された1993年。イランの映画を見たのも初めてでした。その後、日本で上映、公開されるキアロスタミ映画はほとんど見てきたかと思います。穏やかな時間の経過とユーモアさをもちながら、主人公が置かれた状況をしっかり映像の中に収めている映像。その後、日本で上映、公開されるイランの映画をたくさん観てきました。それらの映画で、ニュースや文章の中でしか知らなかったイランや周辺諸国の事情を知ることになりました。そして、今はまた混乱の中にある中東周辺国。私たちにできることは、せめて、それらの国の人達のことを知ることから始まるのかもしれません。それにしてもキアロスタミの映画を観ると、イランの人びとの思い、街や自然の姿が思い浮かびます。そしてユーモアと皮肉が含まれた映像を観て、クスっとするのも好きです(暁)。
2021年10月05日
PITY ある不幸な男 原題:Pity
監督:バビス・マクリディス
脚本:バビス・マクリディス、エフティミス・フィリップ(『ロブスター』)
出演:ヤニス・ドラコプロス、エヴィ・サウリドウ、マキス・パパディミトリウ
海を見晴らせる瀟洒なアパートメント。
ベルが鳴り、隣人の女性が焼き立てのオレンジケーキを届けてくれる。
「奥様は?」
「危篤状態」と男。
妻は事故に遭い、加害者は裁判で懲役刑を受けたらしい。
10代の息子と向かい合って、黙々と朝食にオレンジケーキを食べる。
クリーニング屋へ。
ここでも「奥様は?」と聞かれる。
「事故以来、犬も元気がない。妻と添い寝してた」と悲しげな面持ちで答える男。
息子がピアノを弾いている。
「明るい曲を弾くべきじゃない。母親が死にそうで喜んでいると思われる」と男。
妻がすっかり回復して自宅に帰ってくる。
息子のピアノも軽やかだ。
隣人からオレンジケーキが届かなくなり、催促にいくが、つれない態度を取られる・・・
なんとも凄まじい物語でした。
同情してもらうことに快感を覚える男。
妻が退院してからの男の行動にあっけにとられます。
それは、観てのお楽しみ。いえ、楽しいとはいえない。もう、ぞくっとします。
人間の心理って、案外そんなものかもと思うと、さらに怖くなります。
息子がピアノで弾いていて明るいと叱られた曲は、モーツァルトのPiano Sonata No 16 C major K 545。懐かしい曲と思ったら、大昔にピアノ発表会で弾いた曲でした。
ちなみに、前半の妻の意識がなくて絶望的なはずの場面では、歓喜に溢れたベートーベンの交響曲第9番。妻が元気になって幸せなはずの場面では、悲しげなモーツアルトのレクイエムが流れます。思えば、それが男の心情だったと思うと、またぞくっとします。
最後の最後は、ちょっとほっとさせられる場面です。後味悪く映画館を出ないで済む、せめてもの監督の配慮でしょうか・・・(咲)
2018年/ギリシャ、ポーランド/ギリシャ語/99分/カラー/1.85:1/5.1ch/DCP
後援:駐日ギリシャ大使館
提供:シノニム
配給:TOCANA
公式サイト:https://pity.jp/
©2018 Neda Film, Madants, Faliro House
★2021年10月8日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテ他 全国ロードショー
夢のアンデス 原題:The Cordillera of Dreams
監督・脚本:パトリシオ・グスマン
撮影:サミュエル・ラフ
編集:エマニュエル・ジョリー、パブロ・サラス
録音:アルバロ・シルヴァ・ウス、アイメリク・デュパス、クレア・カフ
音楽:ミランダ・イ・トバー/
出演:フランシスコ・ガシトゥア、ビセンテ・ガハルド、パブロ・サラス、ホルヘ・バラディットほか
チリでは、1970年の大統領選挙でサルバドール・アジェンデが当選。世界史上初めて、選挙によって社会主義政権が成立する。アジェンデ大統領は、銅産業の国有化など様々な改革政策を実施するが、保守派は反発。銅企業を無償接収された米国の後押しもあって、1973年9月11日、軍事クーデターでピノチェト政権が成立し、アジェンデ派は徹底的に弾圧された。その過程を追ったドキュメンタリー『チリの闘い』を撮影後、パリに亡命したパトリシオ・グスマン監督。
『夢のアンデス』は、『光のノスタルジア』『真珠のボタン』に続き、チリの歴史的記憶、政治的トラウマ、地理の関係を探る三部作最終章。
インタビューに登場するのは、アンデスの原材料を使って作品を制作する彫刻家のビセンテ・ガハルドとフランシスコ・ガシトゥア。歴史や小説の作家であるホルヘ・バラディッドは、現代のチリの社会・経済構造におけるピノチェトのプロジェクトの継続について語り、音楽家のハビエラ・パラは、子供の頃に目撃した暴力を思い出す。1980年代以降、政治的抵抗や国家による暴力行為を記録するために活動してきた映像作家であり、アーキビストでもあるパブロ・サラスはこう語る。「記録し、どんな時代だったのか次の世代に伝えたい。二度と過ちを繰り返さないために」
チリの国境に沿って、高くそびえたつ世界最長の山脈アンデス。
「2度と祖国で暮らすことはない」と話すグスマン監督にとって、忘れ得ぬ故郷の象徴。麓で起きる痛ましいできごとを、アンデスは静かに見つめ続けてきました。
『光のノスタルジア』『真珠のボタン』で、虐げられ悲惨な国民の姿とは裏腹に。えもいえない美しい映像に溜息をつきました。『夢のアンデス』でも、気高くそびえたつ山々に、目を奪われました。アンデスが見守る人たちが、心安らかに暮らすことができますように・・・ (咲)
2019年/チリ、フランス/85分/16:9/スペイン語
日本語字幕:原田りえ
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/andes/
★2021年10月9日(土)より岩波ホールほか全国順次公開
キャッシュトラック(原題:Wrath of Man)
キャッシュトラック(原題:Wrath of Man)
監督・脚本・プロデューサー:ガイ・リッチー
原案:ニコラ・ブークリエフ、エリック・ベナール
脚本:マーン・デイヴィス
アイヴァン・アトキンソン
撮影:アラン・スチュワート
出演:ジェイソン・ステイサム(パトリック・ヒル 通称H)、ホルト・マッキャラニー(ブレット)、ジョシュ・ハートネット(デイヴ)、ニーヴ・アルガー(デイナ)、エディ・マーサン(テリー)、ジェフリー・ドノヴァン(ジャクソン)、スコット・イーストウッド(ジャン)
LAにある現金輸送専門の武装警備会社フォーティコ・セキュリティ社。日々、百貨店やカジノ、銀行などあらゆる場所から集められた現金を積んだ現金輸送車(キャッシュトラック)を運転するのは、特殊な訓練を受け厳しい試験をくぐり抜けた強者の警備員たち。そこへぎりぎりの成績で合格した新人のパトリック・ヒル、通称“H”が加わった。しかし、トラックが強盗に襲われたとき、驚くほど高い戦闘スキルでそれを阻止する。Hによって皆殺しにされた強盗への過剰防衛を疑うFBIも捜査に動くが、フォーティコの社長は仲間と現金を守り切った彼を英雄扱いする。その数カ月後、新たな強盗によってHの乗るトラックがまた襲われる。しかし、今回は彼の顔を見た犯人たちがなぜか金も奪わずに逃げ出してしまった。
ストーリーを貫くのは、ジェイソン・ステイサム演じる”Hは何者なのか”。いきなり強奪シーンで始まり、あれよあれよというまに、Hが登場し、フォーティコ社で際立った存在になっていきます。一見地味なジェイソン・ステイサムですが、やたらイケメンの俳優よりも身近な感じが良いのかもしれません。固い助演陣にスコット・イーストウッド、ジョシュ・ハートネットらイケメンも配して、緊張感あるストーリーが進みます。謎は丁寧に回収されて「面白い映画観た!」と劇場を出られます。
ガイ・リッチー監督とステイサムは『リボルバー』(2005)以来2度目のタッグ、3度目もすでに用意されているようです。原題の”Wrath of Man”のWrathは日本語なら激怒、憤怒という激しい怒りのことです。(白)
2021年/アメリカ・イギリス合作/G/118分
配給:クロックワークス
(C)2021 MIRAMAX DISTRIBUTION SERVICES, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
https://cashtruck-movie.jp/
★2021年10月8日(金)ロードショー
2021年10月03日
スターダスト(原題:STARDUST)
監督:ガブリエル・レンジ
脚本:スリスターファー・ベル、ガブリエル・レンジ
出演:ジョニー・フリン(デヴィッド・ボウイ)、ジェナ・マローン(アンジー・ボウイ)、マーク・マロン(ロブ・オバーマン)、デレク・モラン(テリー)、アーロン・プール
“the story of the young David Bowie”
1971年、「世界を売った男」をリリースした24歳のデヴィッドはイギリスからアメリカへ渡り、マーキュリー・レコードのパブリシスト、ロブ・オバーマンと共に初の全米プロモーションツアーに挑む。しかしこの旅で、自分が全く世間に知られていないこと、そして時代がまだ自分に追いついていないことを知る。ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、アンディ・ウォーホルとの出会いやファクトリーなど、アメリカは彼を刺激した。兄の病気もデヴィッドを悩ませていたが、やがて彼は世界屈指のカルチャー・アイコンとしての地位を確立する最初の一歩を踏み出す。《デヴィッド・ボウイ》になる前のデヴィッドの姿。
人気が出る前の若き日のデイヴィッド・ボウイ。初めて渡米して入管で荷物を調べられたり、期待していたツアーもなくて落胆したり、自分の期待がことごとく裏切られる始まりはちょっと気の毒。インタビューも自分を作りすぎて失敗、ロブに「自分を出せないならいっそのこと別の人間になれ」と言われてしまいます。このアメリカでの経験が架空のロックスター、”ジギー・スターダスト”を生む素地になったのか。
彼を認識したのは、華やかなパフォーマンスで注目されるようになってからだったので、こんな時代があったのを興味深く観ました。主演のジョニー・フリンは俳優・歌手で、ボウイおたくといっていいほどのファンだそうです。繊細で臆病かと思えば大胆なところもある若き日のデヴィッドを蘇らせました。
何にでも興味を持ち、自分のできることを探したデヴィッドは、映画出演も多数。『地球に落ちて来た男』(1976)『戦場のメリークリスマス』(1982)『ラビリンス 魔王の迷宮』(1986)、『プレステージ』(2007)ほか。だんだん落ち着いた素敵なおじ様になっています。(白)
●アルバム
『THE RISE AND FALL OF ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARS / ジギー・スターダスト』
1972年に発表したアルバム「ジギー・スターダスト」(1972)で架空のロックミュージシャン「ジギー・スターダスト」を名乗り、バックバンドの「スパイダーズ・フロム・マーズ」を従え、1年半もの世界ツアーを組んだ。奇抜な衣装とメイクが耳目を集め、73年の来日公演では山本寛斎のデザインによる衣装が話題を呼んだという。ボウイはなぜ、別人格を装おうことになったのか。一般にはあまり知られていなかった経緯に、本作はスポットを当てた。71年の米国行きはツアーとは名ばかりのドサまわりで、惨憺たるものだった。失意のボウイはオバーマンに「僕には怖れと音楽しかないんだ」と打ち明ける。ボウイの怖れというのは、兄テリーを含む親族の多くが抱えている心の病に、いつか自分も取り込まれるとの強烈な恐怖感だった。ある時、ボウイは兄の治療の現場に立ち会い、「別の人格になるならあなたは何になる」と患者に語りかける場面に遭遇する。自分の人生を立て直すために、ボウイは別人格を装い、勝負に打って出る。米国での道行きはさほど悲惨に描かれることはないが、恐怖感を抱えた売れないアーティストのひりひりする心情は画面から痛いほど伝わってきた。駆け出し時代を経てヒット曲を飛ばし、栄光に上り詰め、やがて挫折するというロックスター映画のお決まりの流れとは全くテイストの異なる、不思議な魅力の映画である。(堀)
2020年/イギリス、カナダ/カラー/シネスコ/109分
配給:REGENTS
©COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED, WILD WONDERLAND FILMS LLC
http://davidbeforebowie.com/
★2021年10月8日(金)TOHO シネマズ シャンテ ほか全国公開
2021年10月02日
メインストリーム(原題:Mainstream)
監督:ジア・コッポラ
脚本:ジア・コッポラ、トム・スチュアート
撮影:オータム・デュラルド
音楽:デヴ・ハインズ
出演:アンドリュー・ガーフィールド(リンク) 、マヤ・ホーク(フランキー)、ナット・ウルフ(ジェイク)、 ジェイソン・シュワルツマン(マーク・シュワルツマン)、ジョニー・ノックスヴィル(テッド・ウィック)、アレクサ・デミー(イザベル・ロバーツ)
20 代のフランキーは映像作品を YouTube にアップしながら、さびれたコメディバーで生計を立てる日々に嫌気がさしていた。ある日、天才的な話術の持ち主・リンクと出会い、そのカリスマぶりに魅了される。作家志望のジェイクを巻き込んで、本格的に動画制作をスタートする。
自らを「ノーワン・スペシャル(ただの一般人)」と名乗り、破天荒でシニカルなリンクの言動を追った動画は、かつてない再生数と「いいね」を記録。リンクは瞬く間に人気 YouTuber となり、3人は SNS 界のスターダムを駆け上がってゆく。
刺激的な日々と、誰もが羨む名声を得た喜びも束の間、いつしか「いいね!」の媚薬は、リンクの人格を蝕んでいた。ノーワン・スペシャル自身が猛毒と化し、やがて世界中のネットユーザーからの強烈な批判を浴びるとき、野心は狂気となって暴走し、決して起きてはならない衝撃の展開をむかえる―。
「いいね」の承認欲求が止まらない人はこれ観て頭冷やしてくださいね。暴走の果てに何が起こるのか?子どもたちがなりたいものに「 YouTuber 」が上がってるというのはほんとなんでしょうか?SNSのメインストリーム(主流)の裏側はこんなにたいへんなんですよ~。ユーザーはわがままで移り気。お金を儲けたい大人はもっともっとと煽って、その責任は取りません。
ユーザーが反応する画面にあふれる色彩と音、疾走するドラマ。これが長編2作目のジア・コッポラ監督はフランシス・F・コッポラの孫+ソフィア・コッポラの姪。才能が受け継がれているのは、主演女優のマヤ・ホークもでした。ユマ・サーマンとイーサン・ホークの娘ですが、七光りとは言えないほどの活躍。今後もチェックしたい女優さんです。製作にも参加している、アンドリュー・ガーフィールドの振り切りっぷりが凄まじいです。(白)
2021年/アメリカ/カラー/シネスコ/94分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(c)2020 Eat Art, LLC All rights reserved.
公式サイト:https://happinet-phantom.com/mainstream/
公式 twitter:https://twitter.com/mainstream_jp
公式 instagram:https://www.instagram.com/mainstream_jp
★2021年10月8日(金)新宿ピカデリーほかにて全国公開
ONODA 一万夜を越えて(原題:Onoda, 10 000 nuits dans la jungle)
監督:アルチュール・アラリ
脚本:アルチュール・アラリ
撮影監督:トム・アラリ
出演:遠藤雄弥(小野田寛郎・青年期)、津田寛治(小野田寛郎・成年期)、仲野太賀、松浦祐也、千葉哲也、カトウシンスケ、井之脇海、足立智充、吉岡睦雄、伊島空、森岡龍、諏訪敦彦、嶋田久作、イッセー尾形
太平洋戦争終結後も任務解除の命令を受けられず、フィリピン・ルバング島で孤独な日々を過ごし、約30年後の1974年に51歳で日本に帰還した小野田寛郎旧陸軍少尉の物語を、フランスの新鋭アルチュール・アラリ監督が映画化。終戦間近の1944年、陸軍中野学校二俣分校で秘密戦の特殊訓練を受けていた小野田寛郎は、劣勢のフィリピン・ルバング島で援軍部隊が戻るまでゲリラ戦を指揮するよう命じられる。出発前、教官からは「君たちには、死ぬ権利はない」と言い渡され、玉砕の許されない小野田たちは、何が起きても必ず生き延びなくてはならなかった。ルバング島の過酷なジャングルの中で食糧も不足し、仲間たちは飢えや病気で次々と倒れていく。それでも小野田は、いつか必ず救援がくると信じて仲間を鼓舞し続けた。
小野田寛郎さんは1945年の終戦後も命令に従い続け、当時の上官の作戦任務解除令を受けて初めて30年ぶりに日本に帰還しました。その2年前にはグアムで生き残っていた横井庄一さんが帰還していたので、本当にこれが最後の日本兵だろうかと思ったものです。当時のニュース映像は今も覚えていますが、津田寛治さんが小野田さんにとてもよく似ています。顔よりもストイックな雰囲気でしょうか。
戦争で多くの人が亡くなりましたが、しみこんだ軍人教育に何十年もの間縛られていた方々もまた気の毒です。教育は怖い。横井さんは現地の人に発見され、小野田さんは日本から小野田さん探しにやってきた日本人青年に発見されます。「この人は信じられる」と思って姿を現したのでしょう。小野田さんが信頼した青年を、仲野太賀さんが演じてぴったりです。第74回カンヌ国際映画祭2021「ある視点」部門 オープニング作品。(白)
横井庄一さんがグアム島から帰還したのが1972年。小野田寛郎さんがフィリピン・ルバング島から帰還したのは1974年。横井さんが日本に戻ってきた時、私は高校2年生。終戦が1945年ですから二人とも30年近くジャングルに潜伏していたわけです。戦後30年近くも終戦を知らずに、ジャングルで暮らしている人がいたというのに驚きました。特に小野田さんが日本に帰って来た時には、この映画でも描かれたように、すぐには終戦を納得せず、鈴木さんという青年が何度もルバング島を訪れ、やっと日本に帰ってきて、その経過が連日マスコミのニュースになり、大騒ぎになりました。こうして小野田さんは日本に帰ってきましたが、その後、小野田さんは次兄がいるブラジルに移住してしまいました。やはり日本の高度成長の中で暮らすのに堅苦しさを感じてしまったのだろうかとも思いました。マスコミに追い回される生活に嫌気がさしてしまったのかもしれません。日本に帰国したばかりの頃の小野田さんの険しい顔と、晩年の優しい顔になった顔の変化が忘れられません(暁)。
1972年にグアムから帰国した横井庄一さん。「恥ずかしながら生きて帰ってまいりました。」という言葉が流行語になるほど、帰ってきたことを恥じていたのが印象的でした。
その2年後、ルソン島から帰還した小野田寛郎さんは、いかにも軍人らしい険しい顔つきでした。
二人が帰還したのは、私が10代半ばの頃で、よく覚えていますが、二人から受ける印象は正反対でした。それは、腰の低い印象の横井庄一さんが招集されて戦地に行った方で、小野田寛郎さんは陸軍中野学校で特殊訓練を受けた「軍人」だという違いだったのでしょうか・・・ いすれにしても二人に共通するのは、生きて戦地から帰ることは恥という思いでした。
今年8月に公開された『カウラは忘れない』では、オーストラリアのカウラにあった捕虜収容所で、「捕虜は恥」と集団で死ぬことを選んだ日本兵の悲劇を知りました。
戦地から捕虜となって生きて帰ることを「恥」と教え込んだ国家の犠牲になった人は数多くいるはず。こんな時代に逆戻りしませんように。(咲)
2021年製作/174分/G/フランス・ドイツ・ベルギー・イタリア・日本合作
原題:Onoda, 10 000 nuits dans la jungle
配給:エレファントハウス
(C)bathysphere‐ To Be Continued ‐ Ascent film ‐ Chipangu ‐ Frakas Productions ‐ Pandora Film Produktion ‐ Arte France Cinéma
https://onoda-movie.com/
★2021年10月8日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
神在月のこども
監督:四戸俊成 白井孝奈
原作:四戸俊成
脚本:三宅隆太 瀧田哲郎 四戸俊成
キャラクターデザイン:佐川遥
撮影監督:高津純平
声の出演:蒔田彩珠(カンナ)、坂本真綾(シロ)、入野自由(夜叉)、柴咲コウ、井浦新、新津ちせ、永瀬莉子、高木渉、茶風林、神山明
母を亡くした12歳の少女カンナは、大好きだった“走ること”と向き合えなくなった。鬱々とした毎日を過ごしていたある日、母の形見に触れたカンナの前に、神使の兎・シロが現れる。驚くカンナを人々と神々の境界をまたぐ壮大な旅へと誘う。目指すのは、全国から神々が姿を消す神無月(10月)に神々を迎えてまつる“神在月”の出雲。鬼の少年・夜叉に行く手を阻まれながらも、自分を信じて走り続けるカンナだったが……。
日本各地で10月を「神無月(かんなづき)」と呼ぶのは、八百万の神々がみな出雲に集うから。出雲地方では神が集まる「神在月(かみありづき)」と呼ばれます。ご縁があればと条件つき?ながら母に会えると信じてカンナは走り続けます。声をあてる蒔田彩珠(まきたあじゅ)はしっかりした演技で出演作が続く若手のホープ。
各地で出会う神々は、「これが見えたら驚きだけれど、やっぱり楽しいだろう」と思わせる造形です。妖怪でなく神ですから。
案内役のシロに「不思議の国のアリス」のウサギを思い浮かべましたが、「因幡の白兎」のお話はもっと古くからあるのでした(古事記)。その子孫なんだそうです。様々な苦難に遭いながら、出雲を目指すカンナは母に会えるのでしょうか?(白)
私の祖父が出雲の頓原の神社の家の生まれで神職についていたこともあるので、神在月の出雲に向かう物語となれば、興味津々。冒頭に出てきたのは、墨田川の畔にある牛島神社。都内の別宅の近くで馴染み深いところ。まずは、狛牛が重要な役どころで、大きな姿となって少女カンナの前に現れます。牛島神社の脇の鳥居の向こうに見えるスカイツリーもちゃんと描かれています。
次に出てきたのが、都営浅草線本所吾妻橋駅のある交差点。まさに別宅最寄り駅! 角のみすほ銀行のATMや、和食の福井にドトールと、きっちり描かれてます。
カンナが白い兎に導かれて各地の神様から「馳走」(ご馳走の語源)を預かりながら、出雲に届ける道筋が、これまた風景がリアルに描かれていて楽しいです。
愛宕神社、荏原天神、鸛神社、神流川、諏訪湖、諏訪大社、須賀神社、宍道湖・・・ 出雲にやっと着くと大黒様が出雲弁で迎えてくれます。
いろいろなことに阻まれながら目的を達するカンナの成長物語。満開の桜のもと、墨田川の堤を走るカンナの姿が清々しいです。(咲)
2021年/日本/カラー/シネスコ/99分
配給:イオンエンターテイメント
(C)2021 映画「神在月のこども」製作御縁会
http://kamiari-kodomo.jp/
★2021年10月8日(金)より全国公開