2021年08月29日

『MINAMATA-ミナマター』公開記念 土本典昭監督作品特別上映 『水俣─患者さんとその世界─〈完全版〉』『水俣一揆─一生を問う人びと─』

9.11(土) ─ 9.23(木) ユーロスペースにて2週間限定公開

★『水俣-患者さんとその世界-<完全版>』

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(c)塩田武史

★『水俣一揆ー一生を問う人びとー』


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●ユーロスペース上映時間割

9月11日(土)~9月17日(金)
11:00『水俣─患者さんとその世界─〈完全版〉』
14:15『水俣一揆─一生を問う人びと─』

9月18日(土)~9月23日(木)
11:00『水俣一揆─一生を問う人びと─』
13:15『水俣─患者さんとその世界─〈完全版〉』

●記録映画作家土本典昭がみつめた水俣病患者たちの闘いの記録

水俣病が公式に確認されてから65年目を迎える今年(2021年)、ジョニー・デップ製作・主演の映画『MINAMATA─ミナマタ─』が9月23日より公開される。この映画の公開を記念し、社会的な弱者に目を向けたドキュメンタリー映画を多数発表し、水俣病を長期にわたり記録した土本典昭監督の水俣を描いた代表作、水俣病を世界に知らしめた『水俣 ─患者さんとその世界─<完全版>』 、チッソ本社と水俣病患者の直接交渉を記録した『水俣一揆 ─一生を問う人びと─』の2本が特別上映される。「記録なくして事実なし」と語る土本監督がみつめた水俣病患者たちの人間としての尊厳をかけた闘いの記録。ぜひ、こちらを観てから『MINAMATA─ミナマタ─』を観てほしい。これらの記録に残された印象的なシーンが『MINAMATA─ミナマタ─』の中で甦る。(暁)

土本典昭(つちもと・のりあき)
1928年岐阜県生まれ。記録映画作家。
岩波映画製作所を経て、1963年『ある機関助士』でデビュー。『ドキュメント 路上』、『パルチザン前史』などを発表ののち、1970年代以降「水俣」シリーズ17本を連作。1965年、テレビドキュメンタリー「水俣の子は生きている」で初めて水俣を取材し、それ以来40年に渡って水俣病に関する問題を記録し続けた。
『よみがえれカレーズ』などアフガニスタン関連作も3本を数える。
2008年6月24日逝去。

以下公式HPより

『水俣-患者さんとその世界-<完全版>』

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© ︎塩田武史

監督:土本典昭
1971年/167分/16mm /モノクロ/東プロダクション
1973年モントリオール世界環境映画祭グランプリ/1972年ベルン映画祭銀賞/1972年マンハイム・ハイデルベルク国際映画祭フィルムデュキャット賞
「水俣病」を世界に知らしめた記録映画の記念碑的作品。1969年、チッソを相手に裁判を起こした29世帯を中心に、潜在患者の発掘の過程を描き、肉親の記憶にのみ残された事実から水俣病患者の実態が明らかにされる。
※Blu-ray上映

『水俣一揆 ─一生を問う人びと─』

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*編集部:「チッソ水俣病患者連盟」の川本輝夫委員長がチッソとの交渉中、机の上に乗って会社側に迫っているこの有名な場面、映画『MINAMATA─ミナマタ─』の中でも出てきます

監督:土本典昭
1973年/108分/16mm /モノクロ/青林舎
水俣第2作。水俣病裁判判決の後、チッソ本社を舞台に生涯の医療と生活の補償を求め、チッソ本社と水俣病患者との直接交渉を同時録音を駆使し生々しく記録した長編ドキュメンタリー。交渉にあたる患者の行動を追う中で語られる、水俣病患者達の闘いの記録。
※Blu-ray上映
posted by akemi at 21:33| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

テーラー 人生の仕立て屋   英題:Tailor 原題:Raftis

発想の転換が未来を開いてくれる!

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監督・脚本:ソニア・リザ・ケンターマン
出演:ディミトリス・イメロス、タミラ・クリエヴァ

アテネ中心部にある高級スーツの仕立て屋。50歳になるニコスは、父のもとで36年間、黙々とスーツを仕立ててきた。既製品が安価で手に入るようなり、数年前にギリシャを襲った経済危機も相まって、お得意様の型紙の出番もほとんどない。そんなある日、銀行から突然店の差し押さえの通知が届く。ショックで倒れる父。ニコスは病院で見たキャスター付きの台を見て、ミシンを乗せた屋台を思いつき、移動式の仕立て屋を始める。だが、高値のオーダースーツは露店では全く売れない。そんな彼に、結婚式を控えた娘のためにウェディングドレスを仕立ててほしいと声がかかる。バイクを走らせ、郊外のカミニアの町に赴くニコス。採寸するもののウェディングドレスを作るのは初めて。隣家の夫人オルガと娘のヴィクトリアに手伝ってもらってウェディングドレス作りに挑戦する・・・

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© 2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.

胸元がちょっと寂しいと言われ、レースのテーブルクロスを切って、さっとあしらうニコス。頑なに高級紳士服にこだわってきた父も、息子の作った斬新なウェディングドレスに、「悪くないね」とまんざらでもない様子。内気で黙々と足踏みミシンで作業していたニコスに、こんな才能があったなんてと、観ている私たちも驚かされます。
50歳にして危機に面し、お陰で父親の呪縛からも解かれて、自分らしい生き方を見つけるニコスがとても素敵です。コロナ禍の今、発想の転換が未来を切り開いてくれることを教えてくれる本作を観て元気を貰っていただければと願ってやみません。

ところで隣家のオルガが娘のヴィクトリアにロシア語で話しかけていて、娘から「ギリシャ語で話して」と言われています。オルガを演じたタミラ・クリエヴァはアゼルバイジャン出身ですが、ギリシャでは東欧などからの移民の女性をギリシャ男性が娶ることも多いとか。この映画の中でオルガの夫は暴力的なのですが、実はギリシャ女性は強いので、外国人妻のほうが夫は威張れるらしいです。
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© 2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.
経済危機や移民のことなどをさりげなく背景にいれながら、独特の哀愁漂うコメディタッチで描いた作品。丸い缶から小粒のドロップをつまんで、ひょいと口に入れ仕事を始めるニコスの姿が忘れられません。抜けるような青空やピレウス港から眺めたエーゲ海、陽気な人たちの集う市場や結婚式・・・と、ギリシャの魅力もたっぷり描いたソニア・リザ・ケンターマン監督は、ちょうど今日8月29日に39歳となりました。次回作も期待したいです。(咲)


監督・脚本
ソニア・リザ・ケンターマン
SONIA LIZA KENTERMAN
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1982年8月29日生まれ。ギリシャ出身。ドイツ人の父とギリシャ人の母を持つ。アテネで社会学の学士号を取得した後、ギリシャのスタヴラコス映画学校と、イギリスで最も古い映画学校であるロンドン・フィルム・スクールで映画製作を学ぶ。彼女の卒業制作である短編映画“Nicoleta”(12・原題)はギリシャ映画アカデミー賞で最優秀短編映画賞にノミネートされた。41の国際映画祭に出品し、合計15の賞に輝く快挙を成し遂げた。今までに8本の短編映画を手掛けており、長編映画は本作が初めてとなる。ギリシャを拠点に、2本目の長編映画を製作中。(公式サイトより)

2020年/ギリシャ・ドイツ・ベルギー/ギリシャ語・ロシア語/101分/スコープ/カラー/5.1ch
日本語字幕:星加久実 字幕監修:柳田富美子
後援:駐日ギリシャ大使館 
配給:松竹
© 2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/tailor/
★2021年9月3日(金) 新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開





posted by sakiko at 18:57| Comment(0) | ギリシャ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ミス・マルクス(原題:Miss Marx)

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監督・脚本:スザンナ・ニッキャレッリ
撮影:クリステル・フルニエ
衣装デザイン:マッシモ・カンティーニ・パリーニ
音楽:ガット・チリエージャ・コントロ・イル・グランデ・フレッド
   ダウンタウン・ボーイズ
出演:ロモーラ・ガライ(エリノア・マルクス)、パトリック・ケネディ(エドワード・エイヴリング)、フィリップ・グレーニング(カール・マルクス)、ジョン・ゴードン・シンクレア(フリードリヒ・エンゲルス)、フェリシティ・モンタギュー(ヘレーネ・デムート)、カリーナ・フェルナンデス(オリーヴ・シュライナー)、オリバー・クリス(フレディ)

1883年、イギリス。最愛の父カールを失ったエリノア・マルクスは、劇作家で社会主義者のエドワード・エイヴリングと出会い恋に落ちた。ところがエイヴリングは金銭感覚が普通でなく、浪費家で誰彼問わず借金をしては放置する。中でもエリノアを苦しめたのは、エイヴリングの女性関係だった。不実な男と知りながら、助けずにいられない。エリノアを心配し何かと話相手になっていた親友が国を出て、心のうちを話す相手がいなくなってしまった。父親から受け継いだ社会主義とフェミニズムを結びつけた草分けの一人として時代を先駆けながら、自分の信念と彼への愛情に引き裂かれていく。

カール・マルクスの伝説の3姉妹の末娘であり、女性や子供たち、労働者の権利向上のため生涯を捧げ、43歳の若さでこの世を去った女性活動家エリノアの、知られざる激動の半生を初めて映画化したのが本作。監督・脚本を手掛けたスザンナ・ニッキャレッリは、イタリア出身。前作『Nico, 1988』(17)でヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門作品賞を受賞しています(未見)。
新しい思想、社会の改革を進めてきた聡明な女性が、なぜこんなに甲斐性のない浪費家でうそつきな浮気男を愛してしまったんでしょうか?「可哀想たぁ惚れたってことよ」という芝居の台詞が浮かんできます(寅さんだったかも)。しっかり者の女にはダメ男が寄ってくる、ということ?
支えようと頑張るあまり、いっぱいいっぱいになってしまったエリノア。誰かに愚痴をこぼして肩の荷を降ろすことができたならと思わずにいられません。ロックに合わせて激しく踊るエリノアの姿は、スザンナ・ニッキャレッリ監督からエリノアへのプレゼントでしょう。こんなにたぎる想いがありながら、十分に発揮できず。こんな風に自分を解放できたら違う結末になったはず。
エリノアという保護者を失ったエイヴリンはどうしたかと思えば、4ヶ月後に亡くなっています。それまでの浪費癖からくる大小の負債、多くの女性との不貞などで嫌われていたそうなので、それなりの最期であったようです。

2020年ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門でFEDIC賞、ベストサウンドトラックSTARS賞の2冠に輝き、2021年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞11部門ノミネート、3冠受賞を果たしました。公式サイトのTOPで印象的なサウンドトラックのさわりが聞けます。(白)


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Photo by Emanuela Scarpa


マルクスの末娘で、父譲りの政治活動家として労働者や女性の権利向上のために貢献し、「資本論」の英語版の刊行を手掛け、イプセンなどの戯曲を翻訳した演劇人としても知られたエリノア・マルクス。本作では、浪費家で女たらしのエイヴリングに翻弄された負の部分が強調されて、脆い面ばかりが印象に残ってしまいました。エイヴリングは既婚者でしたが、エリノアは「結婚は時代遅れの制度」と公言し、事実上の妻として同棲していました。(それ自体は、私は賛成!) ところが、それをいいことに、エイヴリングは妻とこっそり離婚し、若い女性と再婚! どこまで不実な男なのでしょう。
ところで、父カール・マルクスもまた不実な男だったことが明かされます。冒頭、父カールの埋葬式で、エリノアは父が17歳の時に出会った母イェニーと翌年結婚し、いかに仲睦まじかったかを熱く語ります。その後、父の盟友エンゲルスが亡くなる直前にエリノアに、エンゲルスとマルクス家の使用人ヘレーネとの間に生まれた息子フレディが、実はカール・マルクスとヘレーネの息子だと明かします。父の不実を知った時のエリノアは、どんな思いだったでしょう。ま、世の中、男も女もお互いに騙しあって生きているのだと考えると、スザンナ・ニッキャレッリ監督は、一人の女性の生涯を描きながら、現代にも通じる人間の本質を暴き出しているのだと感じます。(咲)


マルクスとエンゲルス、名前は知っていても、資本論などにどんなことが書かれているのかは知らない。それでも、労働者や搾取されている人たちを擁護する本や活動をしていた思想家ということくらいは知っている。でも、マルクスに3人の娘がいたことや、エンゲルスがマルクス家を援助していたということはこの作品で知った。また、マルクスの3女エリノア・マルクスのことも、彼女の活動のこともこの作品で知った。1970年代から婦人運動やウーマンリブなどの運動に興味を持ち、この運動で知り合った人もたくさんいて、今も励ましあいながら生きている私なのに、あの時代に男性に交じって労働運動、政治活動、女性の地位向上のために戦っていた彼女のことを、これまで全然知らなかったのはなぜだろう。そして、この作品を観ながら、あまり共感できないという思いもあった。せっかく、エリノア・マルクスのことを知らしめる作品なのに、彼女の思いや描き方になんか納得がいかなかった。事実をもとに語っているのだろうけど、正しいこと、目標としていることは良くても、なんだか違うなという思いがあった。それはきっと、上記で(咲)さんが書いていることにつながることかもしれない。いくらりっぱなことを言っている人でも、最低な夫を突き放さず擁護しているところが、私が彼女の生き方に共感できなかった原因かも。それにしても、せっかくエリノア・マルクスのことを知らしめる良い機会なのに残念(暁)

2020年/イタリア・ベルギー/カラー/ビスタ/107分/英語・ドイツ語
配給:ミモザフィルムズ
(c)2020 Vivo film/Tarantula  
https://missmarx-movie.com/
★2021年9月4日(土)よりシアター・イメージフォーラム、新宿シネマカリテほか全国順次公開

posted by shiraishi at 01:15| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

その日、カレーライスができるまで

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監督・脚本・編集:清水康彦
原案・脚本:金沢知樹
脚本:いちかわニャー
撮影:川上智之
主題歌:安部勇磨「テレビジョン」(Thaian Records)
出演:リリー・フランキー(健一)、神野三鈴(美津子/声)、中村羽叶(映吉)

土砂降りの中、くたびれた様子の男がアパートに帰ってきた。独り住まいの健一。今日はカレーを作る日だ。薄暗い台所で材料を取り出し、丁寧に調理する。いつも聴いているラジオ番組では、リスナーの「マル秘テクニック」を募集している。ガラケーに文字を打ち込んでみる。「妻の誕生日にカレーを作っています。3日後が、誕生日です…」
心臓病で亡くなった幼い息子・映吉の写真が父を見守っている。

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ほぼワンシチュエーションで、リリー・フランキーの一人芝居。部屋の壁は薄くて、ラジオの音が少し大きいと「うるさい!」と隣人に壁を叩かれます。わびしい住まいの中で、笑顔の息子の写真を眺めながら思い出を反芻しています。子に先立たれた親は後悔に苛まれます。健一は同じ心臓病で苦しんでいる子どもたちのために街頭募金をしているようです。
3日がかりでカレーを作るのは、妻が3日目のカレーが好きだったから。息子が亡くなった後、妻は出て行ってしまいましたが、例年通りにカレーを煮込んでいます。
リリー・フランキーの細やかな表情の変化に目が吸い寄せられます。息子の写真を見ながらだんだん鼻の頭が赤くなり、目がうるんでくるのに釘付けになりました。もらい泣きしたのは言うまでもありません。寂しいばかりでなく、愛聴しているラジオ番組が一役買う嬉しいできごとも起こります。観終わるとカレーが食べたくなること請け合い。
『37セカンズ』(18)の神野三鈴が健一の妻役で声の出演。齊藤工が企画・プロデュース。

併映作品に『HOME FIGHT』。伊藤沙莉、大水洋介(ラバーガール)が兄妹に扮してリモートで会話する短編。軽妙な二人の会話に笑えます。どこまで脚本で、どこからアドリブなんでしょうか?(白)


2021年/日本/カラー/52分  *併映作品あり
配給:イオンエンターテイメント
(C)2021「その日、カレーライスができるまで」製作委員会
https://sonocurry.com/
★2021年9月3日(金)全国公開
posted by shiraishi at 00:54| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

科捜研の女 劇場版

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監督:兼崎涼介
脚本:櫻井武晴
撮影:朝倉義人
音楽:川井憲次
出演:沢口靖子(榊マリコ)、内藤剛志(土門薫)、佐々木蔵之介(加賀野亘)、若村麻由美(風丘早月)、風間トオル(宇佐見裕也)、金田明夫(藤倉甚一)、渡辺いっけい(倉橋拓也)、小野武彦(榊伊知郎)、戸田菜穂(芝美紀江)、斎藤暁(日野和正)、西田健(佐伯志信)、田中健(佐久間誠)、佐津川愛実(秦美穂子)、野村宏伸(佐沢真)、山崎一(宮前守)、長田成哉(相馬涼)、奥田恵梨華(吉崎泰乃)、崎本大海(木島修平)、渡部秀(橋口呂太)、山本ひかる(涌田亜美)、石井一彰(神原勇樹)ほか

京都・洛北医科大学で女性教授が転落した.落下していくのを見てしまった法医学教室の風丘教授が発見者となった。殺人事件を疑うが、証拠もないまま初めは自殺として処理されそうになった。しかし、京都から始まった不審死は、日をおかずロンドン、トロントなど世界各国で同時に発生した。それも科学者ばかりが亡くなっている。悪意を持つ誰かが企んだものなのか?何のために?死者たちに共通するものは何か?科捜研のメンバーは一丸となってこの難事件に立ち向かう。浮上してきたのは帝政大学の微生物学教授の加賀野亘。通称「ダイエット菌」と呼ばれる腸内細菌を発見し、最初の被害者である教授とも会っていた。

1999年から20年以上に渡って放映された人気ドラマ初の映画化。マリコの京都府警科学捜査研究所(略称:科捜研)の新旧メンバーが勢ぞろいして書ききれません。
背景となる京都の秋の風情も美しく、緊迫した事件の間に、ちょっとした遊び心もはさんであります。伊東四朗がカフェでマリコをナンパする老紳士役を粋に演じているほか、現場から実況するアナウンサーに人気声優の福山潤が扮しています。
映画『校庭に東風吹いて』(2016)で小学校の先生を演じた沢口さんを取材させていただきました。若く溌剌とした「藍より青く」(1972年の連ドラ)から拝見していますが、成熟した女性になられてますます美しいのに驚きました。
本作は映画ならではの多くのキャスト、美しいロケ地を舞台に沢口さんも「ある初体験」に挑戦しています。複雑な難事件、縦横に張り巡らせたトリックをマリコたちはどう見抜いていくのか?お見逃しなく。

9月3日の劇場版公開を記念して8月16日~9月10日、テレビ朝日にて番組がリピート放送されています。始まりの第1話からシーズン20までの中からスタッフや各界のファンが選んだベストエピソードまで。番組表を確認してお楽しみください。(白)


子供のころからミステリー小説や探偵小説、SF小説などが好きで文庫本をよく読んでいた。でも、20代~50代くらいまで、そういうのを読んだり、見たりする余裕やチャンスもなく過ごした。しかし、2011年、TVがデジタル方式に移行した時に録画が容易になり、その頃から、この「科捜研の女」や「相棒」を録画しては見るという生活様式(笑)が日課になり、かつて好きだった「事件解決もの」の番組を見るようになった。
工業化学出身ということもあり、その中でも<科学の力で事件を解決する>「科捜研の女」は、私のお気に入り。それにマリコさんの諸突猛進型の事件解決はあっぱれと思い大好き。と言っても、いつもパソコン作業をしながらの「ながら見」なので、画面をしっかり見ることはあまりないし(食事をしながら見ている時だけ)、集中して見ることもほとんどない。それでも、ほとんど毎日録画して見ている。今も数日前に録画した「科捜研の女」を観ながら、この文章を書いている(笑)。そんな私だけど、高校時代、工業化学科だったこともあり、聞いたことのある化学薬品の名前や、化学現象などの名前などが出て来たり、植物にとても興味がある私にとって、事件があった場所の植物の名前や分布などがわかる方法があるんだとか、そんなにいろいろなことが科学でわかるということに驚きの連続。しかし、防犯カメラや科学を使っての事件解決から感じるのは、なんでもかんでも、すぐに事情が見えてしまうんだなと思い、いかに私たちは管理されているかを思う。
それにしても、この番組は20年も続いていると知り驚いた。私が見ているのは、この10年くらい。科捜研のメンバーも、沢口靖子さん以外も変わらないのだろうか。多少の移動や新規参加などは見てきたけど、大きな変更もあったのでしょう。
映画化は初めてのことらしいが、科捜研や警察側のメンバー以外の、いろいろな回でのゲスト出演者も出てきて、その時のキャラクターのまま出ていて、その回のことを思いだしたりした。映画化を記念して、初期の頃の回とか、この映画を観るのに参考になるような作品の上映が何回かあった。そして何より驚いたのはマリコさんはかつて結婚していたということだった。ずっと独身できたのかと思っていたけど、そうではなかった。それも、8月16日くらいの回の放映で出てきて、そうだったんだと思っていたら、この映画でも元夫が出てきて「なるほど!」と思った。映画を観るための下準備の古い作品のTV再放映、結構参考になりました(暁)。


2021年/日本/カラー/ビスタ/108分
配給:東映
(C)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会
https://kasouken-movie.com/
★2021年9月3日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 00:49| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

くじらびと

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監督・プロデューサー:石川梵
エクゼクティブ・プロデューサー:広井王⼦
撮影:石川梵、⼭本直洋、宮本麗
編集:熱海鋼⼀、簑輪広⼆
録⾳:Jun Amanto
⾳響:帆苅幸雄
⾳楽:⽥⼤致 *はなおと* 歌:森⿇季

インドネシアの東の島にラマレラ村がある。ガスも水道もない素朴な村に1500人が暮らす。火山岩に覆われた土地は作物が育たず、太古さながらのクジラ漁が村の生活を支えていた。年間10頭獲れれば村人全員が生きていけるという。「ラマファ」と呼ばれるクジラの銛打ち漁師たちは最も尊敬される存在だ。彼らは手造りの小さな舟と銛1本で、命を懸けて巨大なマッコウクジラに挑む。
2018年、ラマファのひとりであるベンジャミンが捕鯨中に命を落とした。人々が深い悲しみに暮れる中、舟造りの名人である父イグナシウスは家族の結束の象徴として、伝統の舟を作り直すことを決意。1年後、彼らの舟はまだ見ぬクジラを目指して大海へと漕ぎ出す。

写真家であり映画監督の石川梵監督の2作目のドキュメンタリー。1991年からこの村を取材、過去の貴重な記録とともに2017年から2019年までの3年間に撮影された映像が本作として結実しています。30年の間に世界も村の生活も変わり、伝統的な漁だけでは暮らしがたちいかなくなっています。石川監督はいつ来るかわからないクジラを待ち、最初のクジラ漁を撮影するまでに4年かかっています。海の上での人間とクジラの闘いは写し取ったものの、何かが足りない。それがクジラの心だと、今度は水中撮影を試みます。よく無事に戻ったこと!また3年。成功した日は大漁でしたが、一人が大怪我をします。漁は命がけなのです。そこまでは2011年発行の新書「鯨人」に書かれています。当時の貴重な映像に、その後のラマレラ村の人々の映像を加えて丁寧に見せているのが本作。新しく作り直された船はクジラに逢えるのでしょうか?
潮風に焼かれたラマファたちの精悍な表情、男たちを支えて働く女たち。屈託ない子供たちの笑顔にラプラック村のアシュバドルやプナムを思い出します。ドキュメンタリーには珍しく、シネコンでの上映です。大きな画面で雄大な海とクジラ漁に出会ってください。

ネパール地震後のラプラック村を撮影した前作『世界でいちばん美しい村』(2017)石川梵監督のインタビュー記事はこちら。(白)


石川梵監督は、映画を撮る前から写真家として素晴らしい写真を撮ってきた。じっくり被写体と向き合い、長い年月をかけて撮ってきた。このラマレラ村のクジラ漁にしても30年近い取材を行うことで村人にとけ込み、彼らの自然な姿を捉えている。
精霊とともに生きる村人たちは「雨ごい」のように、クジラがこの島にやってくるようにと「クジラごい」をする。そして20人くらいしか乗れないような小舟で海に漕ぎ出す。もちろん島人たちはクジラばかりでなく、マンタやサメ、トビウオなども捕る。でも村人たちが生きていくためにはクジラを年に10頭くらいは捕らないと生活していけないらしい。そして島人たちはクジラ漁に出る。そこには漁師を目指す10歳くらいの少年も。村の男たち総出の漁へのデビュー。でも船酔いしてしまったのがなんだか気の毒でもあり可愛かった。
30年の間にカメラの技術は進歩しドローンも出現。この作品ではドローンを結構使っていたけど、海の綺麗さ、クジラたちの動き、島人たちの舟団の姿、配置。動きなども撮影されている。それが作品に躍動感を与えている。舟も手ごきではなく、エンジンで動くものがほとんどに。それでも銛を打ち込む時の躍動感や危険性は変わらない。そういう緊迫感ある漁の光景がたくさん出て来る。
そしてカメラはじっくりと人々の生活を捉える。捕らえた魚たちを捌くシーンは何回も出てきた。クジラを捌くシーンは、対象が大きいだけに圧倒的。取れたクジラの肉や油は、村人で分け合うし、あますところなく全部使うという。
週に1回の市で山の幸と海の幸が交換されたり、教会に通う人々の姿も。90%以上がキリスト教徒だという。こんな離島にまでキリスト教布教に行った人がいたということに驚いた。そして人々は漁を始める前に舟の上で、命をもらう魚たちのために十字を切る。
新しい舟を作るシーンや伝統的な舟の作り方を学ぶ姿も映している。
ベンジャミンが亡くなって1年。あかりを灯したたくさんの紙の舟たち。それはまるで灯篭流しのようだった(暁)。


石川梵監督著作
☆「鯨人 」(集英社新書) 2011/2/17発行
☆「くじらの子」(少年写真新聞社 写真絵本) 2021/5/28発行

2021年/日本/カラー/ビスタ/113分
配給:アンプラグド 配給協力:アスミック・エース
(C)Bon Ishikawa
https://lastwhaler.com/
https://www.instagram.com/kujirabito1/
★2021年9月3日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
posted by shiraishi at 00:12| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月22日

ホロコーストの罪人 原題:Den største forbrytelsen 英題:Betrayed  

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監督:エイリーク・スヴェンソン
出演:ヤーコブ・オフテブロ、ピーヤ・ハルヴォルセン、ミカリス・コウトソグイアナキス

ノルウェー警察&市民がホロコーストに加担していた!

1942年10月26日、早朝。まだ薄暗い中、秘密警察を乗せたタクシーが一斉にユダヤ人宅に向かう。その日、ノルウェーに住むユダヤ人全員がオスロ港へと強制連行された。港で待ち構えていたのは、アウシュヴィッツへと向かう船“ドナウ号”だった。

リトアニアからノルウェーに亡命してきたユダヤ人のブラウデ家。次男チャールズは、ノルウェーを代表するボクサーとして活躍し、非ユダヤ人の女性ラグンヒルと結婚し、幸せな日々を送っていた。
1940年4月、ナチス・ドイツがノルウェーに侵攻。ユダヤ人は身分証明書にユダヤ人の印「J」のスタンプが押される。男性はベルグ収容所に連行され、過酷な労働を強制される。ブラウデ家もチャールズと兄イサクに弟ハリー、そして父ヘンツェルの4人が収容所に連行され、家には母サラと、チャールズの妻ラグンヒルが残される。スウェーデンに逃れた姉ヘレーンを追って、母もスウェーデンに逃れることを考えていた矢先、1942年10月26日の朝を迎える・・・

ベルグ収容所にいたチャールズは、「非ユダヤ人の妻に感謝しろ」と、アウシュヴィッツ行きを免れ、生き延びます。本作は、家族を引き離されたブラウデ家に焦点を当てて描いたマルテ・ミシュレのノンフィクションの原作を基に映画化したもの。エイリーク・スヴェンソン監督は、ノルウェー警察や市民がホロコーストに加担していたことを知って、過去のあやまちを知らしめ、今も世界にはびこる人権侵害に目を向けてほしいと警鐘を鳴らしているのです。
なお、事件から70年経った2012年1月、当時のノルウェー・ストルテンベルグ首相は、ホロコーストにノルウェー警察や市民らが関与していたことを認め、政府として初めて公式に謝罪の表明を行っています。
フランスでは、1995年にシラク大統領が、ナチス占領下のヴィシー政権がユダヤ人の強制連行に加担していたことを国家として認めて謝罪しています。
「当時の状況下では仕方なかった」ではなく、二度と過ちを繰り返すことのないよう、映画で描かれた悲劇を胸に刻みたいものです。
もちろん、匿うことで罰せられることも恐れず、ユダヤ人を救った人たちもいて、美談を描いた映画も数多く作られています。本作と同じ8月27日に公開される『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』も、後にパントマイムの神様と称えられたマルセル・マルソーが、ナチスに親を殺されたユダヤ人の子どもたちを助けた実話に基づく映画です。併せてご覧ください。(咲)

2020年/ノルウェー/ノルウェー語・ドイツ語/126分/カラー/ビスタ/5.1ch/PG12
日本語字幕:高橋澄
後援:ノルウェー大使館
配給:STAR CHANNEL MOVIES
©2020 FANTEFILM FIKSJON AS. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://holocaust-zainin.com/
★2021年8月27日より新宿武蔵野館ほか全国順次公開




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沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家   原題:Resistance

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監督・脚本・製作:ジョナタン・ヤクボウィッツ
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、クレマンス・ポエジー、マティアス・シュヴァイクホファー、フェリックス・モアティ、ゲーザ・ルーリグ、カール・マルコヴィクス、ヴィカ・ケレケシュ、ベラ・ラムジー、エド・ハリス、エドガー・ラミレス

1938年、フランス、ドイツ国境に近いストラスブール。アーティストを夢見る青年マルセルは、昼間は精肉店で働き、夜はキャバレーでチャップリンに似せた姿でパントマイムを披露していた。戦争が激化し、親をナチに殺されたユダヤ人の孤児たち123人がストラスブールに疎開してくる。マルセルは、兄アランや従兄弟のジョルジュ、思いを寄せるエマと共に、子どもたちの世話にあたる。悲しみに暮れる子どもたちをパントマイムで和ませるマルセル。
そんな中、フランスでもユダヤ人迫害が激化。マルセルはフランス風にマルソー名乗る。
“リヨンの虐殺者”と恐れられたナチのクラウス・バルビー親衛隊中尉がユダヤ人やその協力者たちを拷問し射殺。それに対し武力で復讐しようという恋人エマに、マルソーは一人でも多くの命を救おうと、ユダヤ人孤児たちをフランスからスイスへと逃がすことを提案する・・・

<パントマイムの神様>と称えられたマルセル・マルソーですが、2007年9月22日にパリで亡くなるまで、第二次世界大戦中にナチスに加担したフランスのヴィシー政権に対するレジスタンス運動に身を投じていた活動内容を自ら語ることはなかったとのこと。没後10年以上の時を経て、マルセルたちがユダヤ人の孤児たちを助けた実話が映画化されました。ジョナタン・ヤクボウィッツ監督は、1978年、ベネズエラ、カラカス生まれのポーランド系ユダヤ人。
マルセルの家族も食事の前のお祈りのあとの「ポーランドでのユダヤ人差別から逃げてきたのに、ヒトラーはいずれフランスにも侵攻してくる」という言葉からポーランド系ユダヤ人だとわかります。
ナチスの侵攻を察知して、ストラスブールのフランス人の多くが南部に疎開する中、マルセルたちは逃げることなく、ユダヤ人の孤児たちを助けたのです。
父に、「芸術に何の意味が?」と尋ねられたマルセルが、「なぜトイレに?」と問い、「体が求めるから」と答える父に、「僕の答えも同じ」という場面があります。そんな父も、歌手になることが夢だったのです。「戦争が終わったら一緒に舞台に立とう」と父はマルセルに語るのですが、父はホロコーストの犠牲になり、夢が叶うことはありませんでした。
戦後、マルセルがどんな思いを抱えて、パントマイムで皆を笑わせていたのかと思うと涙が出ます。人種や宗教で人を差別する風潮は、今また激化しています。差別することなく共生できる世界の実現を願うばかりです。
本作はユダヤ人を救った美談ですが、同じ8月27日公開の『ホロコーストの罪人』は、ノルウェーで警察と市民がホロコーストに加担していたことを暴いた物語です。人は状況次第で善にも悪にもなりえることをずっしり感じます。(咲)


2020 年/アメリカ・イギリス・ドイツ/英語・ドイツ語/120 分/カラー/スコープ/5.1ch
日本語字幕:高内朝子
配給:キノフィルムズ
公式サイト:http://resistance-movie.jp/
©2019 Resistance Pictures Limited.
★2021年8月27日(金)TOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー




posted by sakiko at 12:55| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ショック・ドゥ・フューチャー   原題:Le choc du futur

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監督:マーク・コリン(音楽ユニット“ヌーヴェル・ヴァーグ” )
出演:アルマ・ホドロフスキー、フィリップ・ルボ、クララ・ルチアーニ、ジェフリー・キャリー、コリーヌ

1978年、パリ。若手女性ミュージシャンのアナは、CMの作曲を依頼され、インドの道場に修行にいっているミシェルの音楽機材を置いてある部屋を貸してもらう。自分には高くて買えないシンセサイザーで作曲に取り組むが、なかなか思うような曲が書けない。プロデューサーと約束した締め切りは過ぎ、明朝にはクライアントに提出しないといけないのに、シンセサイザーが故障してしまう。修理に来た技術者が持っていた日本製のリズムマシンROLAND CR-78に魅せられたアナは、これがあれば素晴らしい曲が作れると、頼み込んで貸してもらう・・・

男性優位の音楽業界で、新しいエレクトロミュージックに挑む若き女性ミュージッシャンの姿を描いた瑞々しい作品。
「男なら期限に間に合わせる」などと、レコード会社の男性の口から出てきて、男だって期限を守れない人もいると、ムッとしますが、私自身、なかなか締め切りを守れないので何もいえません。
主人公のアナを演じているアルマ・ホドロフスキーが、あのアレハンドロ・ホドロフスキー監督の孫というだけで、もうこの映画にぐっと惹かれます。
思うように曲が書けない苦悩、そして、電子楽器が醸し出す新しい音色に魅せられ生き生きとするアナを、アルマ・ホドロフスキーは素敵に体現しています。
映画の最後には、実在する女性ミュージシャンの人たちの名前が掲げられています。マーク・コリン監督が、なかなか日の当たらない女性たちに敬意を表した映画でもあります。

ローランドのリズムマシンで思い出すのが、1970年代後半に大学のジャズバンドでキーボードを担当していた妹のこと。倉庫から楽器がごっそり盗まれたことがあって、妹が使っていたローランドのマシンも、もしかしたらこれではないかと警察から連絡があって見に行ったものの、キズをつけないよう綺麗に使っていたので見極められなかったということがありました。妹に型番を聞いたら、もう忘れてしまったとのこと。当時としては、いろんな音が出て画期的で面白かったそうです。譜面通りにしかピアノを弾けなかった私には、自由自在に弾くことのできる妹がうらやましかったことも思い出しました。(咲)


2019年/フランス/78分/5.1ch/シネマスコープ/DCP/映倫区分G
配給:アットエンタテインメント
公式サイト:https://chocfuturjp.com/
(C)2019 Nebo Productions - The Perfect Kiss Films - Sogni Vera Films
★2021年8月27日(金)より新宿シネマカリテ、渋谷ホワイトシネクイントほかにて公開


posted by sakiko at 04:15| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月21日

大地と白い雲 原題「白雲之下」

2021年8月21日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー!
上映情報
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©2019 Authrule (Shanghai) Digital Media Co.,Ltd, Youth Film Studio All Rights Reserved.

思いがすれ違う一組の夫婦の喪失と再生の物語

監督:王瑞(ワン・ルイ)
原作:「羊飼いの女」漠月著
脚本:チェン・ピン
字幕:樋口裕子
字幕監修:山越康裕
キャスト
ジリムトゥ:チョクト役
タナ:サロール役
ゲリルナスン
イリチ
チナリトゥ
ハスチチゲ

内モンゴル自治区フルンボイル草原に暮らす一組の夫婦。夫チャクトは妻サロールと一緒に都会で暮らしたいが、サロールは伝統的なパオでの暮らしに満足で都会には住みたくない。ここではないところへ思いを巡らせ、ふらりといなくなるチョクトに腹を立ててはいても、夫を愛するサロール。どこまでも続く大草原、白い雲。群れをなす羊、草原を駆けまわる馬も映し出される。しかし、モンゴルの草原でも、今では往来は馬でなく、ほとんどがバイクや車。でも年1回の馬追いの行事では馬乗りの妙技が披露される。
夫がふらっと出かけてしまうと、いつ帰ってくるかわからず、妻はひとりで家畜の羊の世話を続けるが気が気でない。雄大で壮大な大平原の厳しい大自然の中、新しい社会に憧れる夫と、今の暮らしを継続したい妻の間には心のすれ違いが広がっていく。ともに生きていきたいと願いながらも、時代の変化や価値観の多様化の中ですれ違っていく1組の夫婦と変わりゆくモンゴル草原の姿を描く。
北京電影学院の教授でもある王瑞監督が、内モンゴル出身の作家・漠月(モー・ユエ)の小説「放羊的女人」を原作に10年の歳月をかけて映画化。草原の生活の質感と四季の美しさにこだわり、内モンゴル出身の俳優やスタッフたちとともに、モンゴル語で挑んだ本作は中国映画に新たな可能性と多様性を提示し、中国最大の映画祭である金鶏奨で最優秀監督賞を受賞。東京国際映画祭2019では最優秀芸術貢献賞を受賞(映画祭での上映タイトルは『チャクトゥとサルラ』)。王瑞監督の長編5作目。
*シネマジャーナルHP 特別記事
第32回東京国際映画祭 クロージングセレモニー
http://www.cinemajournal.net/special/2019/tiff/index4.html

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東京国際映画祭2019授賞式での王瑞監督

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チョクト役のジリムトゥさん(東京国際映画祭2019で)

果てしない大空、大自然の美しさが描かれるが、厳しさも描かれ、激烈な吹雪のシーンも圧巻。零下40度のなか撮影が行われたそう。バイクに車、スマホまで登場し、草原の中には鉄塔も見える。草原の暮らしも便利になり、以前の暮らしからは大きく変わってきて、近代化からは逃れようもない。そんな中で描かれる未知のものへの憧れと、すでにある暮らしの満足。その狭間でゆれる気持ち。誰しもある普遍的なテーマ。
妻への思いはあっても、都会に行きたい夫の気持ち。束縛せずお互いの気持ちを大事にして、そのすれ違いをすり合わせることができなかったのだろうか。彼らが暮らしているところは都会からあまり離れていない場所のようなので、草原に住みながら都会にも時々行くとか何か方法はなかったのではないだろうかと私は思ってしまった。私自身は都会というより自然への憧れが強いけど、あちこち行きたい人なので夫の気持ちがよくわかる。空の大きさ、壮大な草原、そして羊や馬、そしてパオでの生活。そんな生活に憧れてはいるけど、毎日そこにいる人は刺激の多い都会に憧れるのだろう。
音も印象的。羊や馬の鳴き声、草原を渡る風の音、嵐の音、雪の上を歩く音。そして歌と馬頭琴。草原に響き渡る歌声が素晴らしかった。馬追いの映像も素晴らしかった。でもこの馬追いのレースは、映像の中だけ? 今はないのだろうか(暁)。


2019年の東京国際映画祭の折、EXシアターの大画面で拝見。映画祭での上映タイトルは、『チャクトゥとサルラ』。内モンゴルの草原で暮らす新婚夫婦。町に出たい夫と、草原で羊を飼う生活を続けたい妻。まったくのすれ違い夫婦。
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ふいと出ていって、何か月も帰ってこない夫に呆れかえっていたら、上映後に登壇した夫チョクト役のジリムトゥさん(写真:右端)、「大きな画面で自分の演技を観て感動した」と、なんとも大らかな言葉! もしかしたら、普段から空気が読めない人?なんて、思ってしまったのを思い出す。若い人たちが都会に出たがって、地方がすたれるのはいずこも同じ。普遍的な問題を内蔵した物語。(咲)



配給:ハーク
配給協⼒:EACH TIME
2019 年/中国映画/中国語・モンゴル語/111 分
posted by akemi at 14:53| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月20日

鳩の撃退法

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監督:タカハタ秀太
原作:佐藤正午「鳩の撃退法」(小学館刊)
脚本:藤井清美 タカハタ秀太
撮影:板倉陽子
音楽:堀込高樹
主題歌:KIRINJI feat. Awitch (ユニバーサル ミュージック)
出演:藤原竜也(津田伸一)、土屋太鳳(鳥飼なほみ)、風間俊介(幸地秀吉)、 西野七瀬(沼本)、佐津川愛美(幸地奈々美)、 桜井ユキ(加賀まりこ)、 柿澤勇人(晴山次郎)、駿河太郎(多々良)、浜野謙太(大河内)、岩松了(川島社長)、 / 村上淳(山下)、 坂井真紀(加奈子)、濱田岳(堀之内)、ミッキー・カーチス(房州老人)、リリー・フランキー(まえだ)、豊川悦司(倉田健次郎)

この男が書いた小説(ウソ)は、現実(ホント)になる。
その結末を決めるのは、あなたー。

かつては直木賞を受賞した作家の津田伸一、天才ともてはやされたのは過去の話。今は富山で送迎ドライバーとして働いている。ある夜、いきつけのコーヒーショップで、文庫本を読んでいる男・幸地秀吉に目が止まった。話がはずみ、今度会ったら「ピーターパンの本を貸そう」と別れた。しかしその夜から幸地秀吉は妻と子と共に姿を消してしまう。
そして旧知の古本屋の房州老人が亡くなり、津田のもとに遺品のスーツケースがやってくる。数字を合わせる鍵がついていたので、こつこつと組み合わせの数字を一つずつ入れてみた。何日か目についに鍵が開き、中に入っていたのは3千万と数万円の現金。思いがけない収入に津田は喜ぶが、使った1万円札が偽札だとわかる。

編集者の鳥飼は津田の小説を出版したいとなだめすかし褒めちぎり…そんな彼女に新作を読ませてやるからと現金をねだる津田。これがむさいおじさんなら、ふん!ですが藤原竜也さんだもんね。クズ男だと思いつつ、財布を開いてしまいそうです。コーヒーショップの店員・沼本もなんだかんだ言いながら津田に巻き込まれてしまいます。
小説は虚々実々入り混じり、鳥飼も観客も事実なのか小説なのかわからなくなってきます。この小説を映画にしようと、脚本を書き始めた監督エライ!タイトルの「鳩」は津田が手にしてしまった偽札のこと。これが間違いの元で、回りまわってスーツケースに入っていたことから、津田をはじめ周りの人間が右往左往してしまうのです。ここぞというときに名前があがり、ついに姿を現す倉田健次郎。裏社会の大物の風格を豊川悦司さんが表わしています。ほんのちょっとだけ出てきてその場をさらっていく、演技巧者も多数。これは現実なのか?小説の中なのか?あなたも劇場で翻弄されてきましょう。(白)


2020年/日本/カラー/シネスコ/119分
配給:松竹
(c)2021「鳩の撃退法」製作委員会 c佐藤正午/小学館
https://movies.shochiku.co.jp/hatogeki-eiga/
https://twitter.com/hatogeki_eiga
https://www.instagram.com/hatogeki_eiga/
★2021年8月27日(金)全国ロードショー
posted by shiraishi at 18:17| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

岬のマヨイガ

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監督:川面真也
原作:柏葉幸子「岬のマヨイガ」(講談社刊)
脚本:吉田玲子
撮影:渡辺有正
音楽:宮内優里
主題歌:羊文学
出演:芦田愛菜(ユイ)、粟野咲莉(ひより)、伊達みきお/サンドウィッチマン、富澤たけし/サンドウィッチマン、宇野祥平、達増拓也(岩手県知事)、天城サリー、大竹しのぶ(キワさん)

避難所の体育館でユイはキワさんとひよりに出逢った。事故で両親をなくして以来声の出ないひよりは、預けられた親戚もいなくなって身寄りがなかった。居場所のない17歳のユイと8歳のひよりを引き受けてくれたキワさんは、岬にぽつんとある古民家「マヨイガ」に連れていく。誰かいそうな気がする古い家で、温かいごはんを食べ、何も心配せずに眠れた2人は、ふしぎなおばあちゃんキワさんと、ふしぎなこのマヨイガになじんでいく。
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「マヨイガ(迷い家)」をこのアニメーションで知りました。岩手県に伝わっている森の中を動き回る家のことで、迷い込んだ人をもてなし、その人に富貴をもたらすとか。「遠野物語」に無欲な女が訪れて何も食べず何も持たずに帰り、後にその女の家が栄えたとあります。映画の中でもキワさんがユイとひよりに語って聞かせる話のひとつです。話し上手だった祖父を思い出しました。
大竹しのぶさんが声をあてているキワさんは、元気で物知りで、いったい何者なんでしょう?マヨイガに連れていくのをはじめ、”ふしぎっと”と呼ばれる妖怪たちと仲良し、その後も次々と信じられないことが起こります。ファンタジー好きは必見!
マヨイガに恐る恐るやってきたユイは、見えない傷を抱えています。それまで自分のことだけでいっぱいだったユイが幼いひよりをかばい、キワさんやマヨイガやこの町を守りたい!とたくましくなります。ジュブナイル好きも必見!

原作の「岬のマヨイガ」(2015)は岩手日報に連載後に出版され、野間児童文芸賞を受賞しています。試写の後にすぐ原作を読み、ほかの柏葉作品も次々に読みました。著者の柏葉幸子さんは岩手県出身・在住。大学生のときに最初の童話を書き、これまでにたくさんの作品を発表しています。ファンタジーが多く、伝承の不思議な生き物や妖怪やお年寄りが登場。主人公が好き嫌いしたりすぐにぷっとふくれたり、お転婆だったりするところに親近感がわきます。ちょっと不思議で、読み終わった後ぽっと胸が温かくなるお話ばかりです。子どもも大人もどうぞ。(白)


◎映画版ノベライズも発刊されました。こちらです。

2020年/日本/カラー/105分
配給:アニプレックス
(C)柏葉幸子・講談社/2021「岬のマヨイガ」製作委員会
https://misakinomayoiga.com/
★2021年8月27日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 17:57| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

白頭山大噴火(原題:Ashfall)

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監督・脚本:イ・ヘジュン、キム・ビョンソ
出演:イ・ビョンホン(リ・ジュンピョン)、ハ・ジョンウ(チョ・インチャン)、マ・ドンソク(カン・ボンネ)、チョン・ヘジュン(チョン・ユギョン)、ペ・スジ(チェ・ジヨン)

北朝鮮と中国の国境付近に位置する火山 白頭山(ペクトゥサン)観測史上最大の噴火が発生した。マグマ溜りがあるために2次3次と噴火が続くと予想された。爆発物処理班(EOD)の大尉チョ・インチャンは、除隊直前に足止めされてしまった。白頭山噴火を予見した地質学のカン・ボンネ教授のアイデァで人工的な爆発を起こして、続く噴火を食い止めることになったからだ。大統領府の民政主席のチョン・ユギョンは教授を支持し、爆発物処理班に期待を寄せる。ただしその遂行には北朝鮮に入り、情報を持つリ・ジュンピョンを確保することが必須だった。
インチャンはソウルの崩壊を目の当たりにするが、特別任務に向かう。帰りを待っている出産間近の愛妻ジヨンには、本当のことを告げるわけにはいかない。ジヨンは夫のインチャンが北朝鮮に向かったと知らないまま、ソウルを襲った災害を生き抜こうとする。北に向かった一行はいくつもの国の思惑に行く手を阻まれ、その間にもタイムリミットは刻々と近づいている。

韓国を代表するふたりの俳優イ・ビョンホンとハ・ジョンウの初共演が実現しました。共同監督として『神と共に』シリーズ(17/18)『PMC:ザ・バンカー』(18)でのダイナミックな世界観を作り上げたキム・ビョンソ。『彼とわたしの漂流日記』と『22年目の記憶』(14)ではイ・ヘジュンは監督として、キム・ビョンソは撮影監督として参加。本作では3度目のタッグです。2人で脚本を練り上げ、白頭山大噴火により朝鮮半島は壊滅かという大災害を、敵対する2人の男を中心に描いています。百戦錬磨のリ・ジュンピョンに翻弄されながら持ち前の正義感と責任感で進んでいくチョ・インチャン。家庭を捨ててスパイ活動をしてきた男と愛妻家の男が次第に近づいていくところにぐっときます。
噴火による大地震でビルが倒壊し、津波で橋が流され、町や村が灰に埋もれていきます。大迫力かつリアルで鳥肌がたちます。これが日本だったらどうなることでしょう。
肉体派のマ・ドンソクが教授役で専門用語を連発、意外にも似合っています。イ・ビョンホンとハ・ジョンウたちが、噴火を食い止めようと命がけで奮闘するのをハラハラしながら見守りました。韓国では820万人を動員したという大ヒット作品を大きな画面・音響の良い劇場でご覧ください。(白)


白頭山といえば、朝鮮民族発祥の地として崇められ、特に北朝鮮にとっては金日成主席が根拠地として戦い、そこで金正日が生まれた地としても特別な場所。
朝鮮半島の最高峰ですが、標高は2744メートルで富士山より低いことを今さらながら今回知りました。
1000年に一度、大噴火、100年に一度、小噴火が起こると言われていて、直近では1925年に小噴火がありました。もうすぐ、次の噴火?
そう思うと、この映画で描かれていることも有り得ない話ではないと、ぞくっとさせられます。人工的な爆発を起こせば、4次爆発はくいとめられると奮闘するのですが、科学の進歩は自然にほんとに打ち勝つことができるの?と思ってしまいます。
北と南の二人が任務にあたる中で、“「チェオクの剣」の最後を教えてくれたら、機密情報を教えてあげる”なんて言葉が出てきて和ませてくれます。イ・ビョンホンとハ・ジョンウの共演、そして学者役という意外なマ・ドンソクという名優たちが繰り広げるダイナミックな映画、ぜひ劇場でご覧ください。(咲)



2019年/韓国/カラー/シネスコ/128分
配給:ツイン
(C)2019 CJ ENM CORPORATION, DEXTER STUDIOS & DEXTER PICTURES ALL RIGHTS RESERVED
https://paektusan-movie.com/
★2021年8月27日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 13:55| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

クリーン、シェーブン(原題:Clean, Shaven)

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監督・脚本:ロッジ・ケリガン
撮影:テオドロ・マニアチ
編集:ジェイ・ラビノウィッツ
音楽:ハーン・ロウ
出演:ピーター・グリーン、ロバート・アルバート、ミーガン・オーウェン、ジェニファー・マクドナルド

ピーターは自分の頭に受信機、指に送信機が埋め込まれていると信じている。頭の中には常にノイズが流れ込んで休まるときがない。施設を出た彼は母がいる実家に向かうが、会いたかった一人娘はそこにいなかった。里子に出されたという娘を、幼児の頃の写真を手に捜し歩くピーター。その跡を追う刑事がいた。同じころ、幼児が続いて殺される事件が起きて、容疑者として目をつけられていたのだった。

ロッジ・ケリガン監督の長編デビュー作。撮影監督としてフレデリック・ワイズマンに師事し、ミュージックビデオなどを手掛けてきた1993年に製作され、日本では1996年9月に劇場公開。今回25年ぶりにリバイバル公開となりました。主演は『ユージュアル・サスペクツ』『テスラ エジソンが恐れた天才』のピーター・グリーン。『マスク』(1994)で、ジム・キャリーの敵役で出演しています(これが映画初出演だったキャメロン・ディアスが可愛い)。
本作では幻聴にさいなまれる男の役です。今でいう統合失調症でしょうか。病気の原因は今もはっきりしないようですが、溜まったストレス、強いストレスが引き金になりそうです。本人が苦しんでいても、ほかの人間にはその辛さがわかりません。『閉鎖病棟 それぞれの朝』(2019)で綾野剛さんが演じたチュウさんもそうでした。薬とリハビリで快癒し、社会生活が可能になっていましたが、1993年ではまだまだだったはずです。
ピーターの頭の中では四六時中不快な音が鳴り響き、いつも誰かに監視されているという緊張と不安の中にいます。幻聴と幻視なのですが、これは拷問と同じですね。映画では誰にも受け入れられず、母親は厳しく実家も安らげる場所ではありません。そんな中で娘に逢うことだけを楽しみにしていたピーターの心が切ないです。ラストに少しだけ救われます。
ググってみますと統合失調症は100人に1人と言われているようです。軽重の差こそあれ、誰でもかかりうる病気です。今コロナ禍の中で、緊張と不安の中で暮らしています。疑心暗鬼に陥ったり、監視しあうのでなく互いの理解が進みますように。(白)


1993年製作/アメリカ/79分/PG12
配給:アンプラグド
(C)1993 DSM III Films, Inc. (C) 2006 Lodge Kerrigan. All Rights Reserved.
http://clean-shaven.com/
★2021年8月27日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開


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2021年08月15日

ドライブ・マイ・カー

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(C)2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会

監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介 大江崇允
音楽:石橋英子
原作:村上春樹「ドライブ・マイ・カー」(短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊)
出演:
西島秀俊
三浦透子 霧島れいか
パク・ユリム ジン・デヨン ソニア・ユアン ペリー・ディゾン アン・フィテ 安部聡子
岡田将生

舞台俳優で演出家の家福(西島秀俊)と、妻で脚本家の音(霧島れいか)はお互いを補完しあいながら満ち足りた日々を送っていた。ウラジオストクの演劇祭に招聘された家福は成田空港に向かうが、フライトが欠航になり自宅に引き返す。音が男と寝ているのを目撃してしまい、そっと家を後にする。
ある日、出がけに音が「今晩帰ったら話したいことがあるの」という。帰宅すると、音は帰らぬ人になっていた。彼女は何を話したかったのか・・・
それから2年後、家福は広島国際演劇祭から、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」の演出を依頼され、東京から広島に向けて愛車サーブを走らせる。音の生前から準備していた企画で、音は「ワーニャ伯父さん」の練習用に台詞をカセットテープに吹き込んでくれていた。車を走らせながら、カセットを聴きながら台詞を覚えるのが家福のスタイルなのだ。広島での宿も、そのために1時間程離れたところに取ってもらっている。だが、広島に着くと、安全のため、車は自分で運転しないよう、専属ドライバーに依頼していると、渡利みさき(三浦透子)を紹介される。みさきの運転で往復する日々。寡黙なみさきだが、やがてお互いの過去を明かし、家福はそれまで目を背けてきたあることに気づかされていく・・・

村上春樹の妻を失った男の喪失と希望を綴った短編「ドライブ・マイ・カー」に惚れ込み映画化を熱望した濱口竜介監督が自ら脚本も手掛けた本作。カンヌ国際映画祭で日本映画としては史上初となる脚本賞を受賞した際のスピーチで、「まずは、原作を書いた村上春樹さんに感謝」と述べていましたが、原作のエッセンスを失わないように気遣いながら、大きく膨らませた物語になっています。
『ハッピーアワー』(2015年)の317分には、遠く及びませんが、179分という長尺。覚悟して観たのですが、思いのほか長く感じませんでした。大好きな西島秀俊さんが、ほぼ出ずっぱりということもありますが、それだけではない不思議。
不思議といえば、劇中劇「ワーニャ伯父さん」には、韓国・台湾・フィリピン・インドネシア・ドイツ・マレーシアからオーディションで選ばれた海外キャストが参加していて、それぞれが自国語で台詞を語るのです。通訳を介さず、話は続いていきます。 
グローバルなのは劇中劇だけでなく、映画の最後は、韓国。いろいろな余韻を残してくれる作品です。(咲)


カンヌ映画祭で4冠!のニュースを聞いて以来、原作も「ワーニャ伯父さん」も読み、作品を観られるのを楽しみにしていました。愛妻の浮気を知りながら追求もしない家福は大人なのか、臆病なのか? 演じるのはいつも端正なたたずまいの西島秀俊さん。反対に思ったままに話し、動くのが高槻(岡田将生)です。この2人が妻の死の2年後「ワーニャ伯父さん」で再会、演出家対俳優の静かなバトルを開始します。寡黙なドライバーのみさき(三浦透子)は、若いのに何を経験してきたの?と勘繰りたくなる落ち着きようで、只者ではない感ありありです。各地の風景とそれぞれの登場人物の心情を追っているうちに3時間は過ぎていました。
本読みで、家福が感情を入れないように指導する場面が興味深かったのですが、これは濱口竜介監督の演出方法なのだと知って「へぇー」。ためて発酵させて本番で一気に出るのでしょうか?自分の台詞に感情を入れないで繰り返すことで、全体の流れとほかの台詞も頭に入ります。
劇中劇の多言語の台詞にもまた「ほぉー」と感心しきりでしたが、韓国手話の動きや表情に見とれました。原作は短いのに、これだけの長尺の作品にできる濱口監督の手腕と、その演出にしっかりとくらいついていく俳優陣の力が織りなした作品でした。(白)


2021年/日本/179分
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://dmc.bitters.co.jp/
★2021年8月20日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

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祈り 幻に長崎を想う刻(とき)

2021年8月20日(金)より、シネ・リーブル池袋他全国ロードショー!
8月13日(金)より、ユナイテッド・シネマ長崎にて先行公開 劇場情報 

ポスター「祈り ―幻に長崎を想う刻―」 _R_R.jpg
(C)2021 Kムーブ/サクラプロジェクト

監督:松村克弥
原作:田中千禾夫(たなかちかお)
脚本:渡辺善則 松村克弥 亀和夫
エグゼクティブプロデューサー : 中込重秋 矢敷和男 中原大幾(Motki) 
撮影監督 : 髙間賢治J.S.C.  
美術 : 安藤 篤 
音楽 : 谷川賢作 
特殊メイク : 飯田文江 
VFX :渡辺輝重 
編集 :川島章正 
助監督:山本優子
出演
鹿:高島礼子
忍:黒谷友香
一ノ瀬:村田雄浩
被爆マリア像の声:美輪明宏

失われつつある戦争の肉声を記憶しつづけるために……。
岸田演劇賞、芸術選奨文部大臣賞受賞。
現代演劇の金字塔「マリアの首」を映画化

人類史上、実際の武器として使用された原子力爆弾は、広島、長崎に投下された。これは原爆投下地となった長崎で、復興期を生き抜いた人々と被爆マリア像の数奇な運命をめぐる戦後史である。

1945年8月9日11時2分、8月6日の広島に次ぐ二発目の原子力爆弾が長崎市に投下され、人口24万人のうち約7万4000人が一瞬にして命を奪われた。東洋一の大聖堂といわれた浦上天主堂も被爆し、外壁の一部を残して倒壊。聖母マリア像も崩壊。それから12年の時が過ぎ、1957年(昭和32年)の冬。戦争の爪痕が生々しく残る浦上天主堂跡には、誰も近寄るものもない瓦礫のなかにひっそりと埋もれるように崩壊した「被爆マリア像」が転がっている。そして、そのマリア像を人知れず運び出している2人の女性がいた。カトリック信徒の鹿と忍を首謀者とする一味がある目的で倒壊した浦上天主堂跡から被爆したマリア像人を盗み出していたのである。

1959年に発表され、第6回岸田演劇賞、第10回芸術選奨文部大臣賞を受賞した田中千禾夫の戯曲「マリアの首 幻に長崎を想う曲」を映画化したもの。鹿役を高島礼子、忍役を黒谷友香が演じ、田辺誠一、金児憲史、村田雄浩、寺田農、柄本明、温水洋一ら演技派俳優陣が脇を固める。またマリア像の声を美輪明宏が演じている。主題歌は長崎市出身のさだまさしが「祈り」(アルバム「新自分風土記Ⅰ〜望郷編〜」より)を提供。曲中のコーラスパートは、再建された浦上天主堂で長崎市民コーラスの方々の協力を得て収録されている。監督は『サクラ花─桜花最期の特攻』『ある町の高い煙突』の松村克弥。

終戦から76年を経た現在、太平洋戦争のことや、原爆のことを語れる人たちはどんどん少なくなっている。この時代に、戦争の愚挙や悔恨を後世に語り継ぐために、戯曲「マリアの首 幻に長崎を想う曲」は、『祈り ─幻に長崎を想う刻(とき)─』という映画として新たに生命を吹き込まれた。
戦後12年がたち、復興の兆しが見えはじめた長崎で、日米国交の妨げとなる浦上天主堂の残骸を撤去するか、被爆遺構として保存するかで、市民と行政のあいだで議論を呼んでいた。浦上天主堂の保存を巡って議会が紛糾しているなか、「被爆マリア像」の残骸を持ち出した人々は、なんとかこの像を再建したいと考えていた。
廃墟と化した浦上天主堂に置き去りにされた、崩壊された「被爆マリア像」の姿と、戦後の混乱期の日本の街の姿と人々の思いを表現した作品だった(暁)。


『祈り 幻に長崎を想う刻(とき)』公式HP
配給 : ラビットハウス/Kムーブ 
製作 : Kムーブ/サクラプロジェクト 
制作協力 : NHKエンタープライズ 
製作著作 : Ⓒ 2021 Kムーブ/サクラプロジェクト inori-movie.com 
推薦 : 長崎県教育映画等審議会[青年(含む高校生)向・一般成人向]
2020年/日本/カラー/110分/シネマスコープサイズ/5.1ch
posted by akemi at 17:41| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

スザンヌ、16歳   原題:16 Printemps(Seize Printemps)

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監督・脚本: スザンヌ・ランドン 
編集:パスカル・シャヴァンス
音楽:ヴァンサン・ドレルム
出演:スザンヌ・ランドン、アルノー・ヴァロワ、フレデリック・ピエロ、フロランス・ヴィアラ、レベッカ・マルデール

パリ、モンマルトル。
スザンヌは 16 歳。 ちょっと大人になった気分。高校の同級生たちとの会話は退屈。恋に憧れるけど、学校の男子たちはお子ちゃまに見える。そんなある日、彼女は劇場の前で舞台俳優のラファエルと出会う。35歳。一回り以上、年上の彼はとても頼もしく見えて、瞬く間に恋に落ちる。ラファエルもまた、舞台仲間たちとの毎日繰り返される日常に退屈していて、スザンヌと過ごす時間は新鮮。カフェで音楽を聴きながら過ごしたり、道でダンスをしてみたり、満ち足りた日々。でも、スザンヌはふっと不安になる。これでいいの? 母に「私、恋をしてしまったの・・・」と打ち明けて涙ぐむ・・・


スザンヌ・ランドン:監督・脚本・主演(スザンヌ)
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2000 年パリ生まれ。俳優のサンドリーヌ・キベルランと、ヴァンサン・ランドンの長女として誕生。15 歳でフランスの名門高校 Henri IV に入学し、同時に本作『スザンヌ、 16 歳』の執筆を開始。2018 年優秀な成績で高校を卒業し、パリの国立高等装飾美術学 校に入学。2019 年、15 歳のときに書いた脚本を元に、19 歳で映画制作に着手。監督と主演の両方に初挑戦した。こうして完成した本作は、2020 年カンヌ国際映画祭にて オフィシャルセレクションに選定認定され、その後、各国の映画祭で高い評価を受けている。 また彼女は映画の枠を超えて、セリーヌ(CELINE)のクリエイティブディレクター、 エディ・スリマンによる“PORTRAIT”プロジェクトにモデルとして参加。さらにシャネル(CHANEL)のアーティス ティックディレクター、ヴィルジニー・ヴィアールに新しいミューズとして抜擢されるなど、フランス国内のカルチ ャー&アートシーンで注目される存在となっている。 (公式サイトより)


カフェのテラスに座って、ラファエルと音楽を聴きながら、同じ動作をする場面。忘れられません。携帯電話も出てこない世界に注目を!
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スザンヌ・ランドン自身が自分探しをしながら、のびやかに描いた瑞々しい映像詩。
脚本を書いたのは 15 歳のとき。「恋をしてみたい」と強く憧れて、まだ経験したことのない恋愛感情を思い描きながら書いたとのこと。まさに恋に恋する思春期の賜物。それに気づいたのか、スザンヌは、自分でラファエルとの恋に終止符を打ちます。次の恋に進む第一歩。まだまだ人生は始まったばかり。ラファエルとの恋がプラトニックなものに終わったのも素敵です。父親や母親との関係も細やかに描いていて、この年代だからこその感情に共感する人も多いのではないでしょうか。
俳優の両親のもとに生まれ、映画の世界をそれなりに小さいときから知っていると思われるスザンヌ・ランドンですが、自由な発想に、若い才能のこれからが楽しみです。(咲)


2020年/フランス/77分
配給:太秦
公式サイト:http://suzanne16.com/
★2021年8月21日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

posted by sakiko at 16:30| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月14日

恋の病 潔癖なふたりのビフォーアフター(原題:怪胎)

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監督・脚本:リャオ・ミンイー
出演:リン・ボーホン(ボーチン)、ニッキー・シエ(ジン)

重度の潔癖症のボーチンは、家中を隅々まで綺麗にし、何度も手を洗う。そのため汚れがいっぱいの外に出るときは完全防塵スタイル、マスクと手袋も欠かせない。社会生活が送れないので、在宅でできる仕事についている。同じような完全武装の女性ジンを電車で見つけて、思わず後をついていくと、彼女も同じくらいの潔癖症でさらに万引きがやめられない窃盗症まであった。一生ひとりぼっちで生きると思っていた2人の運命的な出会いを果たし、ジンはボーチンの家に引っ越してくる。このままずっと2人で暮らしていこうと誓ったのだが、ある日突然ボーチンの症状が消えてしまう。

「スタートレック」のスポックみたいな髪型のボーチン。この外形だけでなんだかこだわりの強そうな人、という感じがします。万引きを繰り返してもなんだか愛らしいジン、潔癖すぎる異色な2人の恋愛ストーリーです。
リャオ・ミンイー監督の初長編監督作、全篇iPhoneで撮影されています。メインテーマは「愛の約束と固執」、愛は時とともに最初の高揚感は薄れ、日常に変っていくのを世の恋人たち、夫婦はよ~く理解しているはずです。けれどもジンとボーチン、稀少な2人が結びついたのだから、それを認めたくありません。あの手この手で元に戻し、自分の元に留め置こうとします。それが両方の視点で描かれています。
中身は結構切実なのですが、画面は明るい色彩でポップ、ちょっと絵本を見ているようにファンタジックに描かれています。2人は結局どうなるの?と気になった方はぜひ完全武装で、いえ、コロナ対策をしたうえでぜひ劇場でご覧ください。(白)


2020年/台湾/100分/G
配給:エスピーオー、フィルモット
(C)2020 牽猴子整合行銷股イ分有限公司 滿滿額娯楽股イ分有限公司 台湾大哥大股イ分有限公司
http://filmott.com/koiyama/
★2021年8月20日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 13:51| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月13日

リル・バック ストリートから世界へ  原題:LIL BUCK REAL SWAN

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監督:ルイ・ウォレカン
出演:リル・バック

ダンサー、チャールズ・ライリー(愛称リル・バック)。
アメリカ南部テネシー州メンフィスの貧困地区で育ったリル・バックは、幼い頃から抜群の身体感覚を持っていた。メンフィス発祥の地面を滑るような動きの「ジューキング」にのめり込む。ダンスが上手くなりたいと、奨学金を得てバレエ・スクールに入学。クラシックバレエとジューキングを組み合わせ、名曲「白鳥」(「瀕死の白鳥」)を踊り、動画で発信する。それは、世界的チェロ奏者ヨーヨー・マの目にとまり、あるパーティーで共演。偶然居合わせた映画監督スパイク・ジョーンズがその様子を携帯で撮影し、YouTubeに投稿。その1本の動画が、リル・バックの運命を変えていく・・・

スニーカーで踊る「瀕死の白鳥」は、独特の滑らかな動き。一度見たら、忘れられません。
ヨーヨー・マから声がかかり、調べてみたら世界的なチェロ奏者だとわかり、びっくりするリル・バック。ヨーヨー・マのチェロの伴奏で、ちょっとおじけながら踊る姿が、なんとも素朴で可愛いです。
私にとっては、ヨーヨー・マの6歳の頃のデビュー映像も観れて嬉しい一齣でした。
ヨーヨー・マとの共演をきっかけに、さらにジャネール・モネイ、マドンナとの共演や、ヴェルサーチ、シャネルなどとのコラボなど、多彩な活躍を続けているリル・バック。犯罪多発地域のメンフィスの子どもたちの希望の星です。
エルビス・プレスリーはじめ、多くのミュージッシャンを生み出したメンフィス。そんな土壌がジューキングを生み出し、リル・バックのような人物を輩出したのですね。(咲)



★日本公開を前に行われたリル・バックへのインタビューの中から観客へのメッセージが配給・宣伝のムヴィオラ様から届きました。
◆リル・バックより日本のダンサー・観客の皆さんへ
どんな困難があったとしても、自分のやっていることを愛しつづけて。
個人的に苦しかったり、世界の状況が大変だったとしても、
どうか、好きなことを止めないでください。
ダンサーとしてどれだけお金を稼げるかとか、稼げないとかではなくて、
なぜダンスを始めたのかを忘れないで。
だって、最初にダンスを始めたのはお金のためではないでしょう?
ダンスが大好きだから始めたんだ、ということを忘れないでほしい。
自分の身体すべてを捧げて、どんな困難も乗り越えようと思うほど、
ダンスを愛していたということを。
その情熱を忘れないで。
そうすればもう大丈夫。
だってそれが、君の踊る理由だから。

経済的なことに左右されないで。
君にとって”成功”が何を意味していようと、
本当に成功したいのなら、どうかもがいて手に入れて欲しい。
ダンスへの情熱で自分を動かして、そこに到達してください。



SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020で『リル・バック/メンフィスの白鳥(仮題)』のタイトルで上映された作品。
映画祭事務局によるルイ・ウォレカン監督インタビュー
https://youtu.be/B31ijYnPr9A

2019トライベッカ映画祭公式出品
2019サンフランシスコ・ダンス映画祭最優秀作品賞

2019年/フランス・アメリカ/ドキュメンタリー/85分/DCP/カラー 
配給・宣伝:ムヴィオラ
公式サイト:http://moviola.jp/LILBUCK
★2021年8月20日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺他全国順次公開


posted by sakiko at 03:42| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月12日

ドント・ブリーズ2(原題:Don't Breathe 2)

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監督:ロド・サヤゲス
脚本:フェデ・アルバレス、 ロド・サヤゲス
製作:フェデ・アルバレス/サム・ライミ/ロブ・タパート
出演:スティーブン・ラング、ブレンダン・セクストン3世、マデリン・グレース

人気のない郊外の古びた屋敷に住む、ある盲目の老人。彼はその屋敷で一人の少女を大切に育て、二人だけで静かに暮らしていた――その男こそ、8年前、強盗に押し入られた被害者として生きているが、実は強盗団を惨殺した過去をもつ、あの盲目の老人だった・・・。
ある日、謎の武装集団が老人の屋敷に静かに忍び込む。その目的は少女――。暗闇の中、すべてを知り尽くした屋敷内で全員の抹殺を試みるも、訓練されていた集団は老人を襲い、火を放つ。命からがら炎の中から逃げ出したが、そこに少女の姿はない。目覚める狂気の怒り。老人は己の手で大切に育てた少女を取り戻すため、武装集団の後を追う・・・。その集団はなぜ少女を狙うのか、少女はいったい何者なのか、老人はなぜ少女に固執するのか。全ての真実を知ったとき、前作を超える衝撃に息が止まる――。

5年前の前作『ドント・ブリーズ』はそれこそ息をつめて観ました。盲目の住人を「弱者」とたかをくくって侵入した強盗の若者たちが返り討ちに逢い、逆に気の毒になりましたっけ。それほど容赦ない強すぎる老人でした。
今回は、自分一人ではなく守らねばならない娘がいて、それが老人の弱点になります。隅々まで熟知している自宅では優位に立てるものの、相手は前回と違う玄人集団。自宅を燃やされ、娘を攫われ、否応なく勝手知らないほかの場所へ移動することになってしまいました。圧倒的に不利な状況でどう戦うのか?お楽しみに。
息詰まる攻防と敵の正体、娘が攫われた理由、老人の過去などなど、この作品で初めて明らかになる真実。前作を上回る過激なバイオレンスに観客は休まる隙がありません。が、守られるだけではない娘と犬に注目してください。娘役のマデリン・グレースとワンコたちに何か賞をあげたい~。(白)


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2021年/アメリカ/カラー/シネスコ/98分/R15+
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
https://www.donburi-movie.jp/
★2021年8月13日(金)全国ロードショー

posted by shiraishi at 01:01| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

孤狼の血 LEVEL2

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監督:白石和彌
原作:柚月裕子「虎狼の血」シリーズ (角川文庫/KADOKAWA刊)
脚本:池上純哉
撮影:加藤航平
美術:今村 力
音楽:安川午朗
出演:松坂桃李(日岡秀一)、鈴木亮平(上林成浩)、村上虹郎(近田幸太)、西野七瀬(近田真緒)、音尾琢真(吉田滋)、早乙女太一(花田優)、渋川清彦(天木幸男)、毎熊克哉(佐伯昌利)、筧 美和子(神原千晶)、青柳 翔(神原憲一)、斎藤 工(橘雄馬)、中村梅雀(瀬島孝之)、滝藤賢一(嵯峨大輔)、矢島健一(友竹啓二)、三宅弘城(中神悟)、宮崎美子(瀬島百合子)、寺島 進(角谷洋二)、宇梶剛士(溝口明)、かたせ梨乃(五十子環)、中村獅童(高坂隆文)、吉田鋼太郎(綿船陽三)

呉原市での暴力団抗争から3年後。裏社会を取り仕切っていた伝説の刑事・大上章吾はその抗争の中で無残な死を遂げた。当時新人刑事だった日岡秀一がその遺志を受け継いだ。使えるだけの権力を行使して裏社会の平穏を保っていたが、たった一人の“悪魔”と呼ばれる男が出所し返り咲いたことで事態は急転、危ういバランスは崩れ始める。その男上林成浩は、親と慕っていた五十子会会長・五十子正平の死の真相を突き止め、仇を討とうとしていた。執拗に調査した結果、ついにその黒幕が誰かを知ってしまう。

前作から実際に3年経って、原作にない完全オリジナルストーリーで日岡が戻ってきました。松坂さんこれまでの片鱗も遺さない変貌ぶり。今回の新たな敵となる上林役の鈴木亮平さんも同じ。こんな悪人顔の鈴木さんを初めて見ました。行動も容赦なく過激で、仇討ちのためなら何でもやります。ハードなシーンを撮影した後ふらふらになったというのも、気のいい鈴木さんにはダメージが大きかったのだろうと想像がつきます。ほかの役者陣も『アウトレイジ』に匹敵する人相の悪さ。非道な暴力シーンの苦手な方は覚悟が必要です。女性が少ない中、どちらの陣営にも出入りする幸太役の村上虹郎さんの美しさが際立ちました。さて生き残るのは誰か?劇場でご確認ください。

大上が愛用していた「狼」の姿が刻まれた ZIPPO(ジッポ)ライター、欲しいと思われた方が多かったのでしょう。劇中レプリカになんと数時間で 370 個もの注文がが殺到し、全体で発売開始から 3 日で完売!1000個の追加生産が決定したそうです。
詳しくはこちらで。メインの出演者ポスターも魔除けになりそうな迫力です。
鈴木亮平さんが描かれた日岡の絵は入場者特典のポストカードになりました。ゲットしましょう!(白)


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鈴木亮平さん作・日岡像。松坂桃李さん感激!


2021年/日本/カラー/シネスコ/139分/R-15
配給:東映
(C)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会
https://www.korou.jp/
★2021年8月20日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 00:25| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月11日

うみべの女の子

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監督:ウエダアツシ
原作:浅野いにお
脚本:ウエダアツシ、平谷悦郎
撮影:大森洋介
音楽:world's end girlfriend
出演:出演:石川瑠華(佐藤小梅)、青木柚(磯辺恵介)、前田旺志郎(鹿島翔太)、中田青渚(小林桂子)、倉悠貴(三崎秀平)、いまおかしんじ(佐藤満)、村上淳(磯部秀雄)

海辺の田舎町に暮らす中学2年生の小梅は、憧れていた三崎先輩に告白したものの、遊びなれた三崎にセクハラを受ける。傷ついて自棄になった小春は、1年のときに告られた同級生の磯辺を誘って衝動的に初体験を済ませてしまった。今も好きだという磯辺だったが、小梅はまだ三崎が好き。そんな小梅を幼なじみの翔太が見守っている。

高校生の話かと思ったら、中学生。え、え~!今の中学生はこんななの?とおばちゃんはびっくりです。親が知らないだけ?レイテイングが「R15+」なので、小梅たちと同じ中2は観られません(ということになっています)。演じている俳優さんが上手いので中学生に見えますが当然大人です。安心して(?)。
小梅が三崎を好きになったのはたぶん見た目のカッコよさと少し大人なところでしょう(けれど中身はひどかった)。磯部は小梅の気持ちが自分にないのを知りながら、身体の関係だけは続けます。磯部の喪失感を小梅は理解できず、どちらも満たされません。台詞のひとつひとつが生々しくて、彼らの心の隙間の大きさとヒリヒリと疼く傷口が見えるようでした。痛くて切なくて同年代の人には刺さるでしょう。

浅野いにおさんが原作の映画『ソラニン』(2010/ 三木孝浩監督)も観ています。宮崎あおいさんがパートナー高良健吾を亡くした喪失を抱え、遺された楽曲を歌うことで乗り越えるお話でした。
小梅や磯部のそばには翔太や桂子がいます。迷っても悩んでも、何もしなくても日々は過ぎていき、大人になるのはあっというまです。急いで大人にならないで子どもでいることを楽しめ、と言いたいおばちゃんでした。(白)


2020年/日本/カラー/シネスコ/107分/R15+
配給:スタイルジャム
(C)浅野いにお/太田出版・2021「うみべの女の子」製作委員会
https://umibe-girl.jp/
★2021年8月20日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか公開


posted by shiraishi at 23:55| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Summer of 85(原題:Ete 85)

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監督・脚本:フランソワ・オゾン
原作:エイダン・チェンバーズ「Dance on My Grave」(「おれの墓で踊れ」/徳間書店刊)
音楽:ジャン=ブノワ・ダンケル
出演:フェリックス・ルフェーヴル(アレックス)、バンジャマン・ヴォワザン(ダヴィド)、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ(ゴーマン夫人)、イザベル・ナンティ(ロバン夫人)、フィリッピーヌ・ヴェルジュ(ケイト)、メルヴィル・プポー(ルフェーヴル先生)

1985年の夏、北フランスの海辺の町。友人のヨットで一人沖に出た16歳のアレックスは、強風で転覆し海に投げ出されてしまった。自分だけではどうすることもできずにいたところ、通りかかったダヴィドに助けられた。18歳の彼は頼りがいがあって楽しく、危険な魅力も併せ持っていた。純朴なアレックスは急速に惹かれていく。ダヴィドの母の船具店でアルバイトを始め、両親に不審がられることもなく、毎日ダヴィドと一緒にいられるようになった。しかし、自由奔放なダヴィドにはアレックスの一途さが重荷になり始める。海岸で出会ったケイトが2人の間に入ってきてしまい、嫉妬にかられたアレックスがダヴィドをなじり、大げんかになった。店を飛び出して帰宅したアレックスは、バイクで後を追ったダヴィドが事故死したのを知る。

原作通り、アレックスのモノローグから始まります。アレックスがダヴィドと出会って恋に落ち、一緒に過ごした輝く日々、そして永遠に別れてしまうまでの6週間が、ノルマンディーの海を背景に全編フィルム撮影で刻み込まれています。
フランソワ・オゾン監督が17歳のときに出逢い、いつか映画化したいと大切にしてきた原作「おれの墓で踊れ」。本作のオーディションでオゾン監督がフェリックス・ルフェーヴルを大抜擢。フェリックス・ルフェーヴル1999年生まれ、バンジャマン・ヴォワザンは1996年生まれで、2人とも次の作品が楽しみな若手俳優です。バイクに二人乗りするシーンは『マイ・プライベート・アイダホ』(91)のキアヌ・リーブスとリバー・フェニックスを思い出させます。
恋の歓喜と痛み、人の命の儚さを短い間に知り苦しむアレックス。原題の「(先に死んだ者の)墓の上で踊れ」という約束は、ほかの人間には死者を冒涜する行為としか思われません。文章を書くことで自分の気持ちを整理し、ようやくダヴィドの死と向き合います。2人の間にヒビを入れる原因となったケイトに悪気はなく、瑞々しい青春の光と影(歌がありましたね!)を描いて、心に残りました。この3人の若い俳優を支えるベテラン俳優たちも好演。
映像をさらに引き立たせる音楽は、THE CUREの「In Between Days」、ロッド・スチュワート「Sailing」。あー懐かしい。(白)


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2020年/フランス/カラー/ヴィスタ/100分
配給:フラッグ、クロックワークス
(C)2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINEMA-PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES
https://summer85.jp/
★2021年8月20日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開!

posted by shiraishi at 23:19| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月07日

妖怪大戦争 ガーディアンズ

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監督:三池崇史
脚本:渡辺雄介
撮影:山本英夫
音楽:遠藤浩二
主題歌:いきものがかり「ええじゃないか」(ソニー・ミュージックレーベル)
挿入歌作詞:荒俣宏
挿入歌作曲:東儀秀樹
挿入歌演奏:東儀秀樹
出演:寺田心(渡辺ケイ)、杉咲花(狐面の女)、猪股怜生(渡辺ダイ)、安藤サクラ(姑獲鳥)、大倉孝二(猩猩)、三浦貴大(天狗)、大島優子(雪女)、赤楚英二(天邪鬼)、北村一輝(渡辺綱)、SUMIRE(茨木子)、松嶋菜々子(渡辺礼香)、岡村隆史(小豆洗い)、石橋蓮司(大首)、大森南朋(ぬらりひょん)、大沢たかお(隠神刑部)、柄本明、荒俣宏(雨降小僧)、HIKAKIN、神木隆之介(加藤先生)

フォッサマグナに眠る古代の化石たちが一つに結集し、巨大な妖怪獣へと姿を変えた! 向かう先は東京。
このまま妖怪獣の進撃を許せば、人間も妖怪たちもタダでは済まない。
この危機に妖怪たちは、伝説の武神『大魔神』の力を借りるため、伝説の妖怪ハンター・渡辺綱の血を受け継ぐ気弱な少年・渡辺ケイに白羽の矢を立てる。
しかし、ひょんなことから、ケイと間違えて弟のダイが妖怪たちに連れ去られてしまう! ダイを助けるため、ケイは謎の妖怪剣士・狐面の女の導きで大魔神のもとへ向かうが、人間嫌いの狸の大妖怪・隠神刑部がケイと妖怪たちに待ったをかける。
そして渡辺綱の末裔であるケイの命を狙う、鬼の一族が姿を現わすのだった。はたして、選ばれた少年・ケイは弟を救い、大魔神をよみがえらせ、妖怪獣を止めることができるのか?すべてを巻き込んだ妖怪大戦争がついに始まる!

1968年からの三部作、2005年には平成版が興行収入20億円の大ヒットを記録した映画『妖怪大戦争』が、新たな時代と共にスケールアップした『妖怪大戦争 ガーディアンズ』としてスクリーンに復活しました!
八百万の神様が住むと言われる日本には、こんなにもたくさんの妖怪もいました。もう誰が誰やらわからないほどの特殊メイクを施した俳優たちが、実に楽しそうに妖怪になりきっています。2005年版のメガホンを取った三池崇監督が続投。当時「小豆洗い」として登場した岡村隆史さんも同じ役、すぐわかります。情報を入れずに(上に書いてしまいましたが)、この妖怪は誰なのかな~と当てるのも楽しいです。すごい布陣ですよ! 画面も一段と綺麗。メイクも特殊効果も格段に進歩しているのがわかります。
主人公の少年渡辺ケイを演じるのは寺田心くん。渡辺綱の子孫という設定。気弱なのですが、弟が攫われたために勇気を振り絞って向かいます。かつて主人公の少年を演じた神木隆之介さんがすっかり大人になって顔を見せるのも嬉しいです。前作と同じく少年の成長を見せる夏休み映画です。感染予防をしたうえで、ご家族で大きな画面で観てほしい作品。(白)


書籍:「妖怪大戦争 ガーディアンズ」(角川文庫、角川つばさ文庫、メディアワークス文庫、角川コミックス・エース)

2021年/日本/カラー/シネスコ/118分
配給:東宝、KADOKAWA
(C)2021「妖怪大戦争」 ガーディアンズ
https://movies.kadokawa.co.jp/yokai/
★2021年8月13日(金)全国公開

posted by shiraishi at 20:04| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート

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監督・撮影・編集:青山真也
音楽:大友良英

東京2020オリンピックに伴う再開発により取り壊された都営霞ヶ丘アパート。実は1964年のオリンピック開発の一環で建てられた住宅。
国立競技場に隣接し、住民の平均年齢65歳以上の高齢者団地であった。単身で暮らす者が多く、住民同士で支えあいながら生活していたが、2012年7月東京都から「移転のお願い」が届く。2020東京オリンピックの開催、そして国立競技場の建て替えにより、移転を強いられた公営住宅の2014年から2017年の記録。

最初から何かとあったオリンピックも今日で閉幕です。華やかな催し(になるはずだった)の陰に、国策のために暮らしの変更を余儀なくされた人たち。存在を記録し、忘れてはならないと青山監督が住民の方々に取材して撮影を続けました。感情をかきたてるようなナレーションも音楽もなしに、カメラは淡々と暮らしを写します。別れていく人たちの、その後が安寧であるよう願わずにいられません。
東京ドキュメンタリー映画祭2020にて特別賞受賞。先行上映が23日からあったのに、うっかりして掲載していませんでした。すみません。13日より全国順次公開です。(白)


2021年/日本/カラー/80分
配給:アルミード
(C)Shinya Aoyama
http://www.tokyo2017film.com/
★2021年8月13日(金)ロードショー
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2021年08月06日

モロッコ、彼女たちの朝  : 原題:Adam  アラビア語題: آدم (ādam)‎ 

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監督・脚本:マリヤム・トゥザニ
製作・共同脚本:ナビール・アユーシュ
出演:ルブナ・アザバル(『ビバ!アルジェリア』『愛より強い旅』『灼熱の魂』『テルアビブ・オン・ファイア』)、ニスリン・エラディ、アジズ・ハッタブ

カサブランカの旧市街。未婚で妊娠した美容師のサミアは、地元から遠く離れたこの町で子どもを産んで里子に出そうと、仕事と寝場所を探して彷徨う。臨月のお腹を抱えたサミアをどこも受け入れてくれない。日没のお祈りの時間を知らせるアザーンが聞こえてくる。夫を事故で亡くし、一人で娘を育てながら小さなパン屋を営むアブラは、道端に座るサミアを見かねて家に招きいれる。娘が声をかけてきて、ワルダと名乗る。「ママが好きな歌手の名前なの」と。翌朝、ルジザという春雨状の生地をまとめたパンを作るサミア。手間がかかるのでアブラが作るのをやめてしまったパンだ。一晩だけのつもりが、結局、家に留め置き、二人でパンを作る日々が始まる。
やがてイードルアドハー(犠牲祭)を迎え、アブラのパン屋もお客で賑わう。そんな中、サミアは破水し、赤ちゃんが生まれる。男の子。母親になれないから名前は付けないと涙ぐむ。早く里子に出したいのに、祝日で施設は休みだ。サミアは、泣き止まない赤ちゃんに乳を含ませ、アダムと名付ける・・・

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(C)Ali n' Productions - Les Films du Nouveau Monde - Artemis Productions
趣のある旧市街、哀愁漂うアラブ音楽、美味しそうなモロッコのパンたち・・・ 一気に心はカサブランカに飛びます。そこで語られるのは、悲しい運命を背負った二人の女性の出会い。不慮の事故で夫を亡くしたアブラは心を閉ざしていましたが、予期せぬ妊娠に困り果てながらも明るく振る舞うサミアと暮らすうちに、心を開いていきます。
犠牲祭は、家族や親戚が集まって過ごす大事な時。アブラとサミアにとっては、犠牲祭の準備にパンを買いにくる人たちが幸せそうに見えて、つらいものがあるはず。だからこそ、寄り添う二人。そして、夫を亡くしたアブラに、「僕にチャンスをくれ」と、いつも小麦粉を納品しにくるスリマニが語りかける場面には、人生、まだまだ捨てたものじゃないと、ほっこり♪

サミアが妊娠した経緯について詳しくは語られませんが、未婚で妊娠することは、モロッコだけでなく、イスラーム社会では許されないこと。一族の「恥」となるので、親にも言えないのが常のようです。そんな女性を保護することは、未亡人のアブラにとって勇気のいること。

本作は、マリヤム・トゥザニ監督がタンジェの町で両親と暮らしていた時の忘れられない経験をもとに描いたもの。遠くの町からやってきた未婚で妊娠した女性を、両親は一切面識がなかったにもかかわらず、家に受け入れて出産するまで面倒をみたのです。その女性は妊娠したことから結婚を約束していた男性に逃げられ、故郷から遠く離れた地で密かに出産し、子どもを養子に出して故郷に戻ろうと考えたのです。出産直後は、いずれ手放す子に触れるのもためらっていた彼女が母性に目覚めていった姿は、マリヤム・トゥザニ監督の心にいつまでも残り、初監督長編作品へと繋がったのです。

マリヤム・トゥザニ
MARYAM TOUZANI

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(c)Lorenzo Salemi
1980年、モロッコ・タンジェ生まれ。映画監督、脚本家、女優。本作で長編監督デビュー。
初めて監督を務めた短編映画『When They Slept』(12)は、数多くの国際映画祭で上映され、17の賞を受賞。2015年、2作目となる『アヤは海辺に行く』も同様に注目を集め、カイロ国際映画祭での観客賞をはじめ多くの賞を受賞した。
夫であるナビール・アユーシュ監督の代表作『Much Loved』(15) では、脚本と撮影に参加、さらにアユーシュ監督最新作『Razzia』(17) では、脚本の共同執筆に加え主役を演じている。


本作は、夫ナビール・アユーシュが製作と脚本でサポートしていますが、モロッコ社会における女性の立場について、さりげないながら細やかに描いているのは、やはり女性監督ならではだと思います。
港で働いていた夫が不慮の事故で亡くなったのですが、アブラが「夫の匂いも嗅ぐことも、触ることも、お墓へ行くことも許されなかった」と語る場面があります。
イスラームでは埋葬は同性の手で行うのが原則で、お墓で埋葬に立ち会えなかったのはわかるのですが、その前に最後のお別れに夫に触れることもさせてもらえなかったというのは、遺体の処理を行った男たちの勝手な解釈のように思えます。得てして、宗教を拡大解釈して何かと行動を制限することは、保守的な家父長社会でありがちなこと。
未婚で妊娠したのを相手の男性が責任を取らないのもおかしなことです。

◆日本で初めて公開されるモロッコの長編劇映画
『モロッコ、彼女たちの朝』が、実は日本で初めて公開されるモロッコの長編劇映画。
ドキュメンタリー映画では、モロッコのアトラス山脈の村で暮らすアマズィーグ族の姉妹を追った『ハウス・イン・ザ・フィールズ』(2017年)が、昨年オンライン公開された後、2021年4月9日に劇場公開されています。

思えば、映画祭でもモロッコ映画の上映はあまりなく、私の記憶にあるのは、『女房の夫を探して』(1993年、ムハンマド・アブデッラハマーン・タージ監督)を2000年の地中海映画祭で観た後、2018年のイスラーム映画祭3でも観ています。
2000年の地中海映画祭では、『失われた子供たちの海岸』『運命』というモロッコ映画も上映されていますが、残念ながら未見。
2020年のイスラーム映画祭では、モロッコの侵攻に非暴力で闘う西サハラの人たちを描いた『銃か、落書きか』(2016年/スペイン)という映画が上映されています。こちらはモロッコを嫌いになりそうな内容!

さて、『モロッコ、彼女たちの朝』がモロッコの劇映画として初公開作品であることに驚いたのですが、それは、これまでモロッコを舞台にした映画を結構観てきたからです。
古くは、アメリカ映画『モロッコ』(1930年)、『カサブランカ』(1942年)『知りすぎていた男』(1956年)、ベルナルド・ベルトルッチ監督の『シェルタリング・スカイ』(1990年)、ジャッキー・チェンの『プロジェクト・イーグル』(1991年)、オランダに住むモロッコ移民の女の子を描いた『ドゥーニャとデイジー』(2008年)・・・

物語自体の舞台はモロッコではないのにモロッコはロケ地に選ばれることも多いです。
私が観た中で、記憶にあるのは・・・
『グラディエーター』(2000年)
『サハラに舞う羽根』(2002年)
 スーダンが舞台ですが、モロッコでの撮影が大変だったと監督が記者会見でおっしゃっていました。
『ワールド・オブ・ライズ』(2008年)
『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』(2010年)(ペルシアの沙漠は赤くないので、すぐにわかりました)
『セックス・アンド・ザ・シティ2』(2010年)
(「アブダビに着きました!」という台詞があったけれど、明らかにモロッコとわかりました!)

もっともっとモロッコ映画を観たいと思っていたら、先日、偶然、ケーブルテレビのTV5MONDEで『ノマド(NOMADES)』(2018年、フランス・モロッコ、監督・脚本:オリヴィエ・クスマク)を放映していて観ることができました。ただし、アラビア語音声、フランス語字幕! 女手一つで息子3人を育ててきた女性の物語。

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(C)Ali n' Productions - Les Films du Nouveau Monde - Artemis Productions
モロッコには、1983年に旅したことがあります。その時には、カサブランカ、ラバト、マラケシュ、メクネス、フェズ、タンジェ その後、ジブラルタル海峡を渡ってスペインへという旅程だったので、いつかアトラス山脈のほうにも行ってみたいと思っています。
カサブランカでは、パリを思わせる(パリは行ったことがないので)新市街のカフェでお茶しましたが、女性はほとんどいなくて肩身が狭かったのを思い出します。本作に出てきたカサブランカの旧市街(メディナ)も、ぜひ訪れてみたいです。

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(C)Ali n' Productions - Les Films du Nouveau Monde - Artemis Productions
最後になりましたが、アブラを演じたルブナ・アザバルさん(写真左)は、『ビバ!アルジェリア』『パラダイス・ナウ』『愛より強い旅』『灼熱の魂』『テルアビブ・オン・ファイア』と、私にとって愛おしい作品の数々に出演されている方。ベルギー生まれで、お父様がモロッコ人、お母様がスペイン人。モロッコとベルギーの二重国籍。これからのご活躍も期待したいです。 (咲)


第92回アカデミー賞モロッコ代表
第72回カンヌ国際映画祭 ある視点部門 正式出品

2019年/モロッコ、フランス、ベルギー/アラビア語/101分/1.85ビスタ/カラー/5.1ch
日本語字幕:原田りえ
提供:ニューセレクト、ロングライド   
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/morocco-asa/
★2021年8月13日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国公開



posted by sakiko at 19:00| Comment(0) | モロッコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ジュゼップ 戦場の画家  原題:JOSEP

スペイン内戦に翻弄された画家ジュゼップ・バルトリ
亡命先のメキシコでフリーダ・カーロの愛人に


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監督:オーレル
脚本:ジャン=ルイ・ミレシ (『幼なじみ』、『キリマンジャロの雪』)

病床のセルジュは一枚の絵を手にして、孫ヴァランタンに憲兵をしていた若かりし頃の思い出を語り始める・・・
1939年2月、スペイン内戦の戦火を逃れ、大勢の難民がピレネー山脈を越えてフランスに押し寄せた。だが、彼らはフランス政府によって強制的に収容所に閉じ込められ、劣悪な環境に苦しむことになった。監視役のフランス人憲兵たちは難民を蔑み、ことあるごとに虐待していた。
難民の中に、建物の壁や地面に黙々と絵を描き続けるジュゼップ・バルトリという画家がいた。新米の憲兵セルジュは、先輩の憲兵たちの目を盗み、ジュゼップにそっと鉛筆と紙を手渡し、いつしか二人の間には友情が芽生えていった。セルジュは、ジュゼップがスペインを脱出する時に、婚約者マリアと離れ離れになったと知り、マリアの行方を捜す。とある病院船で療養中のマリアと思われる女性にジュゼップを引き合わせるが、一瞥して別人とわかり、ジュゼップは海に飛び込み、そのまま姿をくらましてしまう。やがて、フランスとドイツの戦争が勃発。レジスタンスとして活動し囚われの身となったジュゼップと再会したセルジュは、彼の逃亡を助ける。数カ月後、亡命先のメキシコから、画家フリーダ・カーロと親密になったとのジュゼップの手紙を受け取ったセルジュは、メキシコの彼のもとに旅立つ・・・

フランスの全国紙ル・モンドなどのイラストレーターとして活躍してきたオーレルの長編監督デビュー作。
画家ジュゼップ・バルトリは、1910年、スペイン・バルセロナ生まれ。スペイン内戦時代に共和国軍の一員としてフランコの反乱軍に抵抗。1939年、避難先のフランスの強制収容所で想像を絶する過酷な難民生活を経験。収容所からの脱走を繰り返したのち、1942年にメキシコへの亡命に成功し、フリーダ・カーロの愛人に。1945年にニューヨークへ拠点を移し、マーク・ロスコ、ジャクソン・ポロックらと交流を持ち、画家としての名声を確立。
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(C)Les Films d'Ici Mediterranee - France 3 Cinema - Imagic Telecom - Les Films du Poisson Rouge - Lunanime - Promenons nous-dans les bois - Tchack - Les Fees Speciales - In Efecto - Le Mémorial du Camp de Rivesaltes - Les Films d'Ici - Upside Films 2020
オーレル監督は、ジュゼップの残した鮮烈な絵画の数々に触発され、命を懸けて闘ったレジスタンスの活動家の波乱万丈の人生をアニメーションで描いています。
フランスの強制収容所での過酷な待遇には涙が出る思いでしたが、メキシコで恋多き画家フリーダ・カーロ(1907-1954)と親しい関係だったことには、ちょっとほっとさせられました。
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(C)Les Films d'Ici Mediterranee - France 3 Cinema - Imagic Telecom - Les Films du Poisson Rouge - Lunanime - Promenons nous-dans les bois - Tchack - Les Fees Speciales - In Efecto - Le Mémorial du Camp de Rivesaltes - Les Films d'Ici - Upside Films 2020
フリーダ・カーロは、1936年7月にスペインで内戦が勃発後、共和国側を支援するために同調者を募り、連帯委員会を創設して政治活動にのめり込むほどだったので、共和派の画家ジュゼップとは自然に意気投合したのでしょう。

『フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように』(2015年、監督・撮影:小谷忠典)
『フリーダ・カーロに魅せられて』(2020年、 監督:アリ・レイ)

フランコ将軍の台頭で祖国を捨てるしかなかった共和派の人たち。ヨーロッパ各国が受け入れを拒む中、手を差し伸べたのが当時のメキシコ大統領だったことを知ったのは、映画『メキシカン・スーツケース』(2011年、監督・脚本:トリーシャ・ジフ)を通じてのことでした。実に20万人ものスペイン人の亡命希望者を受け入れたとのことで驚かされました。

本作は、祖父が強制収容所で憲兵として経験したことを、孫に語る形で綴られていて、今もなお、世界の各地で故国を去り難民とならざるをえない人たちに思いを馳せてほしいという監督の願いを感じました。そして、剣ではなく、ペンで抗うことができることも教えてくれました。(咲)


3月の東京アニメアワードフェスティバルでひとあし先に鑑賞していました。力作が並ぶコンペの中で、一見地味な作風のこの作品が一番残りました。実際に難民収容所でジュゼップ・バルトリが描いた絵を元にして、その絵が指先から立ち現れる様子、描かれた人々が動き出すのもアニメーションで表現されています。ちょっとでも絵を描く人は見入ってしまうはず。過酷な収容所の様子に胸を痛めるのはもちろんですが、導入部の現代の話にもぐっとつかまれます。
物忘れが始まったらしいセルジュを娘と孫が訪ね、これまで知らなかった祖父の過去に孫がすこしずつ引き込まれていきます。この布石があった上のラストシーンがじんわり胸にしみこんできました。(白)


第46回セザール賞・長編アニメーション賞、第 26 回リュミエール賞・アニメーション賞&音楽賞、
第 33 回ヨーロッパ映画賞長編アニメーション賞
東京アニメアワードフェスティバル2021・グランプリ&東京都知事賞

2020年/フランス・スペイン・ベルギー/フランス語・カタロニア語・スペイン語・英語/74分/シネマスコープ/カラー/5.1ch
日本語字幕:橋本裕充
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/josep/
★2021年8月13日(金)、新宿武蔵野館ほか全国順次公開


posted by sakiko at 18:54| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月01日

オキナワ サントス 英題:OKINAWA/SANTOS

7月31日(土)より[沖縄] 桜坂劇場にて先行上映、 
8月7日(土)より[東京]シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
劇場情報
『オキナワ サントス』チラシ表面_R_R.jpg
(C)玄要社

戦後70年以上を経て明かされる
サントス「日系移民強制退去事件」の真実

監督・撮影・編集:松林要樹
カラーコレクション:中谷駿吾 (ムーリンプロダクション)
整音:川上拓也
取材協力:ブラジル沖縄県人会 サントス日本人会

かつてブラジル南東部の港町サントスは移民が着く玄関港だった。
第二次世界大戦前夜から戦中のブラジルでは、ヴァルガス独裁政権は高まるナショナリズムの中、約20万人の日系移民に対し日本語新聞の廃刊、日本語学校の閉鎖、公の場での日本語の使用禁止などを命じた。そして1943年7月8日、突然サントスで暮らす日系とドイツ系の移民に、24時間以内の退去命令が下った。家財や土地を残したまま、着の身着のまま、ある者は収容所へ、ある者はサンパウロの親戚の家や他の地域へと退去させられた。家族と生き別れ、コミュニティは離散した。しかし戦後70年以上、この「サントス日系移民強制退去事件」はタブーになっていて、この悲惨な出来事がブラジルの日系人社会で公に語られることはなく来てしまった。なぜ人々は口を閉ざし続けてきたのか? いったい何が起きていたのか?  
この歴史の深い闇を探るのは『花と兵隊』『祭の馬』の松林要樹監督。監督は、サンパウロで発行されているニッケイ新聞編集長・深沢正雪さんから「サントス強制退去事件」のことを聞き調査を始めた。そして発見された強制退去者の「名簿」から、日系585世帯の6割が沖縄からの移民だった事実に注目し、ブラジル沖縄県人会の協力を得て生存者たちを訪ね、日本とブラジル、大和と沖縄の間に埋もれた史実を明らかにしていく。日本から遠く離れた異国で、知られざる「戦中」「戦後」を生き抜き、晩年を迎えた人々の証言。なぜ、この事件を大っぴらに語ってこられなかったのかが、だんだんわかってくる。
公式HPより
「東京オリンピックが開催されようとしているが、今も世界各地で移民や難民の排除が起きている。具体例を挙げるまでもなく、日本政府はもちろん、一般のいわゆる日本人が難民や移民に対して決して寛容だとは思えない。この映画の撮影を開始した2016年には、今のようなパンデミックな世の中になっていることは予想すらできなかったが、不寛容な社会になっていることは想像できた。戦時中、地球の裏側のブラジルで起きたことは、日本がアジアでとった軍事行動の裏返しだったと考えるようになった。時として戦争の加害者と被害者とが表裏一体になることがあると思う。だから戦時中に日系ブラジル人が経験したことは、遠い国の昔の話ではなくて、現代にも通じる普遍的な教訓になる出来事だと信じている」松林監督はこのように語っている。

子供の頃からアマゾン河一帯の動物や自然に興味を持ち、中学生くらいからブラジル(というかアマゾン)移住を考えていた私は、中学校、高校と、ブラジルや移民関係の本を図書館から借りてきては読んでいた。なのでブラジル移民の歴史や事件、苦労はある程度知っているつもりだった。でも、戦中・戦後の日系人の苦労を全然知ってはいなかった。この10数年のブラジルを描いたドキュメンタリー作品などから、「勝ち組・負け組抗争」などの事件を知った。そして、この作品では「サントス強制退去事件」のことと共に、沖縄からの移民と本土からの移民の間に対立というか溝があったことを知った。また「強制退去」はサントスだけで起きたのだろうか? ほかの地域ではなかったのだろうか?という疑問も残った。サントスがブラジルの入口だったこととか、当時ドイツ軍の潜水艦がサントスにやってきて、ブラジルやアメリカの商船を攻撃し撃沈させるという事件が起き、「サントスのドイツ・日本関係者の中にスパイがいると、24時間以内の退去を命じた」とも言われたらしい。彼らの人生を語る話は、ヘイトクライムや難民問題、技能実習生や海外から日本に働きに来ている人たちへの対応問題など、現代の日本が直面していることにも通じる。
2019年、ピースボートの船で南米に行った時、ブラジル(リオデジャネイロ)、ウルグアイ(モンテビデオ)、アルゼンチン(ブエノスアイレス)、チリ(バルパライソ)に立ち寄ったが、「日本人は、国の農業や産業に多大な貢献をして、尊敬されている」と聞かされた。しかし、この「サントス強制退去事件」から思うのは、そのイメージからは程遠い。戦前は嫌われ、その後は日本からの移民も打ち切るというような話さえあったという。サントス強制退去の時には、日本人が去った後、土地や家財道具などを市民が略奪したという話もあった。そんなこともあったけど、戦後、努力した日本人たちのおかげで、そういう「尊敬される日本人」が形成されていったのだろうか。この映画の中でも、こういう強制退去のことも蒸し返さず、損害賠償も起こさずに来たことが出てきたが、そういう「我慢=あきらめ」の結果として、「尊敬される日本人像」が生まれたのかと思うと、悔しい思いをした人の心情を思わずにはいられない。そういう経験者も数少なくなってきている現在、この事件の記憶、記録を残す最後の機会だったと思う(暁)。


『オキナワ サントス』公式HP
FB:https://www.facebook.com/okinawa.santos.film
Twitter:https://twitter.com/okinawa_santos

製作:玄要社
配給:東風 
日本/2020年/90分/(C)玄要社
posted by akemi at 21:09| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件(原題:Horizon Line)

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監督:ミカエル・マルシメーン
脚本:ジョシュ・キャンベル マシュー・ストゥーケン
撮影:フラビオ・マルティネス・ラビアーノ
出演:アリソン・ウィリアムズ(サラ)、アレクサンダー・ドレイマン(ジャクソン)、キース・デヴィッド(フレディ・ワイマン)

かつて仕事をとって恋人のジャクソンと別れたサラ、友人の結婚式のためにやってきた島で何年ぶりかにその元カレと再会。旧交を温めてうっかり船に乗り遅れてしまった。式に遅れるわけにはいかないと、知り合いの小型機に乗りこんだが、なぜかジャクソンも同乗する。なんとなく気まずい雰囲気でいたら、パイロットのフレディが飛行中に急死してしまう。サラは少しだけ操縦を習ったが、単独の経験はない。ジャクソンはもちろんただの人だ。自動操縦が機能しなくなり2人はパニックに陥る。おまけに目の前には巨大な乱気流が待ち構えていた。さあ、どうする??

タイトルが今風で面白いですが、内容は窮地に陥った元恋人の2人が、墜落だけは避けたいと必死に奮闘するストーリー。かなり古い小型機が6000mの上空でパイロット急死。誰だってパニックになるし、「ツイラク」はしたくありません。頼りになるのはサラのずっと前の飛行経験だけ。一難去ってまた一難とばかりにトラブル続出です。臨場感たっぷりの音声に包まれたら、ジェットコースターの何倍もの「キャー――!!」が劇場に満ちるはず。暑い日は涼しくなりそうです。
アリソン・ウィリアムズは『ゲット・アウト』(2017)で、主人公の彼女役でした。アレクサンダー・ドレイマンはお初です。2人、上空でトム・クルーズばりの活躍を見せます。カップルで観ると絆が深まるかも。(白)


2020年/スウェーデン、アメリカ合作/カラー/シネスコ/92分
配給:ギャガ
(C)2020 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
★2021年8月6日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 19:50| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

カウラは忘れない

8月7日(土)~ ポレポレ東中野、東京都写真美術館ホール他全国順次公開
上映情報
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©瀬戸内海放送

瀬戸内海放送発ドキュメンタリー映画第2弾
監督:満田康弘
撮影:山田寛
音楽:三好麻友
MA:木村信博
EED:吉永順平
CG:斎藤末度加 南真咲 渡辺恵子 小林道子
通訳:スチュアート・ウォルトン 清水健

カウラの日本人捕虜集団脱走事件を知っていますか?

『カウラは忘れない』は、『クワイ河に虹をかけた男』で旧日本軍の贖罪と和解に生涯をささげた永瀬隆を20年にわたって取材したTV番組(のちに映画として公開)を作った満田康弘監督のライフワーク、渾身の第2作目のドキュメンタリー。
*『クワイ河に虹をかけた男』HP

太平洋戦争中の1944年8月。オーストラリア東部にあるカウラの捕虜収容所で、近代戦史上最大の1104人の日本人捕虜集団脱走事件が起こった。正確には脱走というより「このまま生きては祖国には帰れない」という「死ぬための行動」だった。捕虜234人が死亡、108人が負傷した(のちにこの時の傷で3人が死亡)。オーストラリア監視兵4人も犠牲に。彼らを絶望的な集団脱走へ向わせたのは、「生きて虜囚の辱めを受けず、死して罪過の汚名を残すこと勿れ」という、「捕虜になることを恥」とした東條英機陸相による「戦陣訓」(1941年)に象徴される旧日本軍の方針だった。そのため捕虜たちは本名を名乗らず偽名の人も多かった。
オーストラリア側の捕虜の待遇は悪くはなかった。食料不足はなく、強制労働というのもなかったという。捕虜たちは麻雀や花札、演劇など様々な娯楽を楽しんだり野球を楽しむこともあった。手製のバットやグローブを作り、班対抗の試合なども行われていた。
そんな収容所で生活を送るうち、捕虜たちの間には「生きたい、生きて帰りたい」と思う人もいた。しかし「貴様らそれでも帝国軍人か!」のひと言でかき消され、「このまま生きて祖国には帰れない」と脱走に突き進んだ。
カウラ事件から77年。カウラの人々はこの事件で亡くなった人たちを追悼する式典を続け、事件を教訓に平和都市として日本文化の理解や交流に取り組んできた。また日本側でも、生存者たちに残る悔恨や思いを受け止めようと聞き書きをする高校生や演劇人がいる。70周年記念行事に生存者としてただ一人参加した村上輝夫さんに、当時事件の収拾にあたったオーストラリアの元兵士は「もう私たちは隣人だ」と語りかけた。カウラは事件を教訓に平和都市として日本文化の理解や交流に取り組んできたのだ。
日本ではほとんど知られていないこの事件の真相を探るドキュメンタリー。

日本人の間にはほとんど知られてこなかった、近代史上最大の捕虜脱走事件といわれるカウラ事件。捕虜収容所では、捕虜の間に階級の序列はなく、重要事項は全員の投票を経て決定し、形式的には民主的な秩序が成立していたという。決起への是非を問う投票で、トイレットペーパーの投票用紙に8割の人が「○」(脱走に賛成)と書いたらしい。生存者の捕虜の一人は「本当は×と書きたいけど、〇と書かなければならないという『雰囲気』があった」。「貴様らそれでも帝国軍人か!」という一言で、「生への執着」が抗えなかったと語っていた。これを現代に置き換え、同じような状況に置かれたとき、私たちは大きな声、まわりの圧力に抗い、自分の意志を貫くことができるだろうか? 現代を生きる私たちに問いかける。知られざる戦争の歴史を知らせてくれるドキュメンタリー。この事件があったことを日本人は忘れてはならない(暁)。

98歳の父に、このカウラでの日本人捕虜集団脱走事件を知っているかと尋ねたところ、初めて聞いたとのこと。捕虜といえばと、こんな話をしてくれた。学徒出陣した時の同期で、横須賀の武山海兵団での予備学生時代の友人が、沖縄の特攻隊に任命されて戦死したと聞いていたのに、戦後、中野の商店街で店番しているのに出会い、びっくりして「戦死したのじゃなかったのか?」と聞いたら、実はアメリカの駆逐艦に助けられて捕虜になり、終戦までハワイにいたとのこと。捕虜になっていたことは、おおっぴらには言えなくて・・・と笑っていたそう。ハワイの捕虜収容所でも、意見の対立があって大変だったと聞かされたそうだ。ちなみに、父たち海軍同期の間では、お上のいうことを鵜呑みにする雰囲気はなかったという。
カウラでは、捕虜とはいえ待遇も悪くなく、せっかく生き長らえたのに、「捕虜は恥」と集団で死ぬことを扇動され、嫌と言えずに命を落とした人もいたことに涙が出る。地上戦になった沖縄でも、同じ地域で、軍人のいた防空壕では集団自死を強要されたが、軍人のいなかった防空壕では全員が助かった事例がある。こんな悲しい歴史を繰り返してはならないと思う。コロナ禍の今、似たようなことが起こっても不思議はないので、なおさらその思いを強くする次第だ。(咲)


*シネマジャーナル 特別記事
戦時下の捕虜脱走事件が現代に問いかける
『カウラは忘れない』満田康弘監督インタビュー
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/cowra-mitsuda.html

『カウラは忘れない』公式HP
協力 国立療養所邑久光明園 山陽学園 
Theater company RINKOGUN燐光群 坂手洋二 山田真美 田村恵子
カウラ事件70周年記念行事実行委員会
資料提供 オーストラリア戦争記念館 国立駿河療養所
製作 瀬戸内海放送 配給 太秦 
後援 オーストラリア大使館
2021/日本/DCP/カラー/96分
posted by akemi at 18:13| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする