2021年7月31日(土)ポレポレ東中野にてロードショー 、 全国順次公開
劇場情報
監督・撮影:黃惠偵(ホアン・フイチェン)
製作総指揮:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
プロデューサー:李嘉雯(リー・ジアウェン)
撮影指導:林鼎傑(リン・ディンジエ)
編集:林婉玉(リン・ワンユィ)
編集顧問:雷震卿(レイ・チェンチン)
音楽:林強(リン・チャン)、許志遠(ポイント・シュー)
カメラの前なら「言える」「聞ける」こともある
台湾発 娘がカメラを手に母の本音に迫る
「母(アヌ)は私(ホアン・(ホアン・フイチェン)と孫の食事を作ってから出かけ、帰るのは夜。夕飯は済ませて帰ってくる。同居しているのに何十年も他人同士のように暮らす母と私。「母の作る料理以外に、私たちには何の接点もない」と語るフイチェン監督。娘が誕生したことをきっかけに、監督はある日、勇気を出して母との対話を決意し、母親と向き合う様子を自らビデオカメラをまわし、同性愛者である母の思いを記録するすることにした。母のほか、親族、恋人、仲間などへのインタビューを通じ、アヌの思い、苦悩を浮き彫りにしてゆく。フイチェン監督も自身の過去と向き合い、子供の頃話せなかったある秘密を母に告げる。
2019年、アジアで初めて同性婚が合法化された台湾。だが1950年代、台湾中部の農村に生まれた母アヌがすごしてきたのは、「家」制度が支配し、父親(男)を中心にした保守的な村社会だった。先祖代々の墓に母や祖母(女)の名前は刻まれない。アヌは同性愛を自覚していたが、あの時代、日本と同じようにそういうことは理解されず、また結婚こそが女性の幸せとして、「女が一人で生きていく」ということは考えられない社会にいた。叔父や叔母など親族、故郷の人々はアヌが「同性が好きな人」ということは知らなかったとカメラの前では言う。だが、実際は知っていたのかもしれない。フイチェン監督の前では「知っていた」とは言えなかったのかも。
アヌは見合い結婚し、娘が二人生まれたが、夫は日雇い労働で稼いだ金を酒と賭博に使い果たしたあげく、アヌに暴力を振う。夫が家庭にお金を入れないので、アヌは「道士」として葬送の中で死者をあの世に送り届ける葬式陣頭「牽亡歌陣」の仕事をしていた。夫はアヌが葬式陣頭で稼いだお金さえ奪い、母娘はその日の食べるものさえ得ることができなくなった。暴力を振るう夫から身を守るため、アヌはフイチェンが10歳の頃、妹を連れて3人で家を出た。離婚もせず着の身着のままで家を出て、夫にみつからないように隠れて暮らしていたため、姉妹二人は学校にも行くことができなかった。
弔い業に対する世間の差別的な目。「女性が好きな人」として奔放に振る舞うアヌへの偏見。さらに娘よりも恋人を優先するアヌに、フイチェンは次第に不信感を募らせ、母娘関係はいつしか他人同士のように冷え切ってしまった。母が悪いわけではないのに、多くを語りたがらない母に不信感を募らせていく娘の心情が語られるが、カメラが進むうち、母アヌの苦悩がだんだんに明らかになってゆく。
フイチェンが20歳の時、仕事をしていた「牽亡歌陣」にドキュメンタリーの撮影隊がやってきて、ドキュメンタリー映画に興味を持ち、社区大学(コミュニティカレッジ)で映画を学びながら、消えゆく葬送文化とともに、同性を愛する母のありのままの姿を映像に収め始めたという。
監督がカメラを回す背後には、貧困、虐待、毒親、暴力の連鎖、マイノリティへの偏見等の問題が映し出される。民主化後、急速な経済発展を遂げる台湾社会に潜む問題として映し出されてはいるけど、それらは日本にとっても、決して他国の話ではない(暁)。
口をへの字に曲げ、「話さない方がいいこともある」「子どもに話すことじゃない」と、なかなか口を開かない母。そんなアヌが少しずつ胸の内を語る。暴力を振るう夫のことは「切り刻んで、ひき肉にしてやる!」というほど憎んでいる。10人以上はいたという母の彼女たち。そんな彼女たちの一人から、「とても優しいの。特にベッドの中では」という言葉も出てくる。暴力的な夫への反動か。ある彼女からは、「夫と寝たのは一度きり。娘二人は養女と言っていた」と聞かされる。
見合い結婚するしかなかった時代。針を戻せたら結婚しないという母。
「二人の娘を産んだことを後悔しているの?」との問いへの答えは、ぜひ劇場で!
本作では、母と娘の対話の背景に、台湾土着の葬送文化<牽亡歌陣>、亀甲型の墓(沖縄でも見られる形)での墓参り、街角にしつらえた舞台で行われている伝統劇など、台湾ならではの文化も映し出されていて興味深い。(咲)
『日常対話』公式HP
2016年製作/88分/台湾
配給:台湾映画同好会
*イベント情報 [ポレポレ東中野]
7月31日(土)
①12:10の回上映後 初日舞台挨拶+Q&A
登壇者:ホアン・フイチェン監督 ※台湾からのオンライン登壇
②16:10の回上映後トークショー
登壇者:北丸雄二(ジャーナリスト、コラムニスト)
8月1日(日)
①12:10の回上映後トークショー
登壇者:牧村朝子(タレント、文筆家)※オンライン登壇に変更となります
②16:10の回上映後トークショー
登壇者:鈴木賢(明治大学法学部教授)
8月6日(金)16:10の回上映後トークショー
登壇者:宇田川しい(ライター、編集者、ゲイ・アクティビスト)
8月7日(土)18:10の回上映後トークショー
登壇者:ティーヌ(読書サロン)
8月8日(日)18:10の回上映後トークショー
登壇者:栖来ひかり(文筆家、道草者)※台湾からのオンライン登壇
8月9日(月祝)18:10の回上映後Q&A
登壇者:ホアン・フイチェン監督 ※台湾からのオンライン登壇
8月10日(火)18:10の回上映後トークショー
登壇者:松尾亜紀子(エトセトラブックス代表)
8月11日(水)18:10の回上映後トークショー
登壇者:山縣真矢(編集者/「結婚の自由をすべての人に」訴訟原告
/NPO法人東京レインボープライド顧問)&
小島あつ子(『日常対話』配給、『筆録 日常対話』翻訳者)
*参照
『出櫃(カミングアウト) 中国 LGBT の叫び』 房満満監督インタビュー
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/479677060.html
中国のLGBTに関するドキュメンタリー作品。こちらでは、子供が親に「同性愛であること」をカミングアウトする様子が描かれる。こちらも「カメラの前だから言えた」と語っている。
2021年07月31日
映画 太陽の子
監督・脚本:黒崎博
撮影:相馬和典
音楽:ニコ・マーリー
主題歌:福山雅治 「彼方で」
出演:柳楽優弥(石村修)、有村架純(朝倉世津)、三浦春馬(石村裕之)、田中裕子(母フミ)、國村隼(荒勝文作)、イッセー尾形(澤村)、山本晋也(朝倉清三)
1945年夏。軍の密命を受けた京都帝国大学・物理学研究室の若き科学者・石村修と研究員たちは、原子核爆弾の研究開発を進めていた。
研究に没頭する日々の中、建物疎開で家を失った幼馴染の朝倉世津が修の家に居候することに。
時を同じくして、修の弟・裕之が戦地から一時帰郷し、久しぶりの再会を喜ぶ3人。ひとときの幸せな時間の中で、戦地で裕之が負った深い心の傷を垣間見る修と世津だが、一方で物理学に魅了されていた修も、その裏にある破壊の恐ろしさに葛藤を抱えていた。そんな二人を力強く包み込む世津はただ一人、戦争が終わった後の世界を見据えていた。
それぞれの想いを受け止め、自分たちの未来のためと開発を急ぐ修と研究チームだが、運命の8月6日が訪れてしまう。
2020年8月にNHKで放送されたドラマ「太陽の子」映画版。テレビは未見でした。
実験好きの石村修が在籍する京大の研究室のようすが詳しく描かれています。戦争中各国で原子爆弾の開発競争があり、日本もその一つだったと知っている人がどれだけいるでしょう?アメリカに先を越されて日本は被爆国となりましたが、研究室の面々もこれが完成すれば戦争を終えられると信じて開発していたのでした。
父の期待に応えて海軍に入隊した弟の裕之が帰省し、修、世津の3人が海辺で遊ぶ美しいシーン、その晩世津が2人の手を取って「お説教」するシーンも深く胸に刻まれます。隊に戻る朝、母が抱きしめたくて出しかけた手を裕之の耳にやります。三浦春馬さんファンの方ハンカチ握りしめていてください。
科学者の修が拠り所としているアインシュタインの声が随所に入ります。「真理」を掴みたい一心が科学を発展させてきたのですが、一番に人間を幸せにするものであってほしいです。注:エンドロール後も映像がありますので、最後までお席に。(白)
予備知識なしに拝見。観始めてすぐ、この話、観たことある・・・ 謎は観終わってプレス資料を確認して、昨年夏にNHKで放映されたものの映画版と判明したという次第でした。放映されたのが終戦の日の8月15日。三浦春馬さんが自ら旅立って、まだ1か月も経たない時でした。束の間の休みを海辺で楽しんだ三浦春馬さん演じる裕之が、死を覚悟して特攻隊の任地に戻る時に語る言葉にじ~んとさせられました。きらきら輝く目が忘れられません。
原子核爆弾の研究開発に勤しむ学生たちの姿からは、その爆弾が人を大量に殺すものであるということよりも、純粋に研究を成功させたいと思いが感じられました。敗戦後、そうした学生たちが日本の科学技術の目覚ましい発達に携わったことを思うと、原子核爆弾の完成が終戦に間に合わなくてよかったとさえ思いました。
テレビ版と映画版の違いは、テレビ版を観たのが去年のことなのでよくわからないのですが、やはり大きなスクリーンで見る海辺の場面は格別です。黒崎監督がこだわって探したロケ地は、京丹後の海。スタッフが兵庫の近辺から京都を超えるあたりまで海岸線をしらみつぶしに探してたどり着いた浜辺。エメラルドグリーンがかった独特なブルーは、地元の方が「9月半ばから下旬にかけてしか見られない、“奇跡のブルー”」と教えてくれた色だとか。
また、京都大学から特別に許可をいただいて撮影できた時計台を背景にした校門からの学徒出陣シーンも忘れられません。戦争の時代に青春を過ごした父母たちの世代の人たちの気持ちに思いを馳せました。(咲)
<配信トークイベント>
【番組名】『映画 太陽の子』公開記念!監督&プロデューサーの徹底解剖スペシャルトーク!
【配信日時】2021年8月14日(土)20:00~21:00(予定)※生配信
【配信場所】 共感シアター (https://bals.space/theater/233/)
【出演者】黒崎博監督、森コウプロデューサー/MC 伊藤さとり(映画パーソナリティー)
<トークイベント「太陽の小部屋」>
【実施日】2021年8月15日(日)10:30の回 上映終了後(予定)
【場所】渋谷HUMAXシネマ 東京都渋谷区宇田川町20−15
【出演者】黒崎博監督、森コウプロデューサーほか
2021年/日本・アメリカ合作/カラー/シネスコ/110分
配給:イオンエンターテイメント
(C)ELEVEN ARTS Studios/2021「太陽の子」フィルムパートナーズ
https://taiyounoko-movie.jp/
★2021年8月6日(金)ロードショー