2021年07月17日

夕霧花園  原題:夕霧花園 The Garden of Evening Mists

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監督:トム・リン(林書宇)(『九月に降る風』)
脚本:リチャード・スミス
原作:タン・トゥアンエン(陳團英)
出演:リー・シンジエ(李心潔)、阿部寛、シルヴィア・チャン(張艾嘉)、ジョン・ハナー、ジュリアン・サンズ、デビッド・オークス、タン・ケン・ファ、セレーヌ・リム

1980年代、マレーシアで史上二人目の女性裁判官ユンリン(シルヴィア・チャン)は連邦裁判所事を目指していた。かつて愛した男、謎多き日本皇室庭師の中村(阿部寛)が、とある財宝にまつわるスパイとして指弾されているのを知り、彼の潔白を証明できる証拠を探すことを決意する。
ユンリンにとって、忘れることのできない約30年前の記憶を手繰り寄せる。
1950年代。イギリスの統治が再開されたマレーシア。ユンリン(リー・シンジエ)は戦犯法廷のアシスタントとして働いていた。戦時中、収容所で亡くなった妹の夢であった日本庭園を造りたいと、キャメロンハイランドで活躍する日本人庭師の中村の元を訪ねる。中村は、現在造っている庭園“夕霧花園”で見習いしながら庭造りを学ぶことを提案する。ユンリンは、第二次世界大戦中のことを思い起こす。イギリスの植民地のマラヤ(現在のマレーシア)でユンリンは妹のユンホンと共に日本軍によって強制労働に駆り出されていた。日本は敗戦し、現地人捕虜を収容所ごと焼き払う。ユンリンはただ一人助かり、妹を見殺しにしてしまった自責の念に苛まれ続けていた。日本人に対しても悲しみと憎しみを抱えていたのだが、造園を手伝いながら、どこかミステリアスで孤独な中村に惹かれていく・・・

台湾のトム・リン(林書宇)監督が、マレーシアの作家タン・トゥアンエン(陳團英)の英文小説でブッカー賞ノミネートの「The Garden of Evening Mist」を映画化。
裁判官として活躍するユンリンが、かつて愛した日本人の皇室庭師である中村のスパイ容疑を晴らそうとする中で、時代をさかのぼって過去の出来事が明かされていきます。最後に、ユンリンが日本占領下のマラヤで妹と共に受けた辛い出来事にたどり着き、胸を締め付けられる思いがしました。中村が造る夕霧花園に秘められた謎にもぞくぞくさせられました。中村を演じた阿部寛、はつらつとした裁判官を演じたシルヴィア・チャン、どちらもとても素敵です。(咲)


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トム・リン監督(2020.3大阪アジアン映画祭リモート挨拶 オープニングにて)

昨年の大阪アジアン映画祭オープニング作品。昨年3月はすでにコロナの影響で、海外からのゲストは来日できず、トム・リン監督はリモートで登場。東京や名古屋からいつもこの映画祭に参加するメンバーも私の周りでも数人来ませんでした。でもこの作品、けっこう人が入っていました。
作品の内容的には、いろいろなことが入り込み、人間関係とか登場人物の関係性とか複雑で、もう一度見ないと消化不足という感じで終わっていたので、それから2年余り、再度見て、関係性、マラヤの当時の状況、今日の状況とか、いろいろなことが繋がってきて、胸の中にあったモヤモヤを解消することができた。それにしても、時代背景、マラヤでの日本軍のこと(太平洋戦争時の日本による支配)、イギリス植民地時代の影響など、いろいろなことが絡まっていて、人間関係の前に、そういう時代背景を理解して、日本人、イギリス人とのかかわりなども含めて、物語は語られている。それにしても日本人庭師というのがマラヤで活躍していたという背景、やはり不思議だなと思う。現在のマレーシアは、マレー系、インド系、中華系の民族からなる国になっているが、その融和というのが一番の課題なのだろう。
私が1990年、初めての外国、オーストラリアに行った時、マレーシア航空で行ったので、最初に降り立ったのがマレーシア・クアラルンプールだった。そこで1日街中を歩きまわった時、インド人街、マレー人街、中国人街と、はっきりと住む街が分かれているのに驚いたが、それはマレーシアの歴史から来たものだった。その時は知らなかったけど、ヤスミン・アフマド監督の『細い目』でマレーシアの人種構成、人種間の距離というのを知った。この映画はさらに、台湾のトム・リン監督が製作した作品ということで、また、マレーシア在住の華人とは思いが違うかもしれない(暁)。

台湾・金馬奨最優秀スタイリングデザイン賞
2020年大阪アジアン映画祭オープニング作品

2020年/マレーシア/120分/カラー/ビスタ/5.1ch
字幕:川喜多綾子/字幕監修:山本博之
配給:太秦
公式サイト:http://yuugiri-kaen.com/
★2021年7月24日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開


posted by sakiko at 19:18| Comment(0) | マレーシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

復讐者たち  原題:Plan A

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監督・脚本:ドロン・パズ、ヨアヴ・パズ
出演:アウグスト・ディール、シルヴィア・フークス、マイケル・アローニ、イーシャイ・ゴーラン

1945年、第二次世界大戦での敗戦直後のドイツ。ナチス・ドイツによるユダヤ人絶滅政策ホロコーストを生き延びたユダヤ人男性マックス。離ればなれになった妻子の行方を捜すために難民キャンプに向かう途中、英国軍の指揮下にあるユダヤ旅団の兵士ミハイルと知り合う。難民キャンプで、妻子がナチスによって殺されたことを知ったマックスは、ナチスの残党への復讐を行っているユダヤ旅団に加わる。そんなある日、森の中で戦争の終結を知らないユダヤ人のパルチザンの一味ナカムと出会う。マックスは、恩人ミハイルより、過激分子ナカムの動向を監視する任務を与えられる。ナカムの隠れ家に潜入したマックスは、彼らが準備を進める“プランA”という復讐計画の全容を突き止める。それは水道水に毒物を混入し、ドイツの市民600万人を殺害するという恐ろしい計画だった・・・

本作の監督を務めたのは、イスラエル出身のドロン・パズとヨアヴ・パズの若い兄弟。
多くの民間人を巻き込む極悪な復讐計画に実際に関わった人たちへのインタビューを重ねて、本作を紡ぎました。ホロコーストで家族すべてを亡くし、生きる望みを失った人たちが、復讐することを生きる目的にしてしまったという切実だけれど残念な状況。けれども、憎悪は憎悪を生むだけ。そのことに気づけば、自ずと行動は変わってくるはずなのですが、今の世界をみると、そうでもないのを憂います。
ホロコーストでひどい目にあったからと、ユダヤ人がパレスチナ人を追い出したというのもまた、許されることではありません。 平和共存の世界はいつ実現するのでしょう・・・ (咲



2020年/ドイツ、イスラエル/英語/110分/シネスコ/5.1ch
日本語字幕:吉川美奈子
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:http://fukushu0723.com/
★2021年7月23日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイントほか全国公開

posted by sakiko at 19:05| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

サンマデモクラシー

2021年7月3日より沖縄・桜坂劇場にて先行公開
7月17日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開 劇場情報 

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©沖縄テレビ放送

監督・プロデューサー:山里孫存
撮影・編集:祝三志郎
音楽:巻く音 jujumo
ナレーター:川平慈英
ナビゲーター:志ぃさー(藤木勇人)

サンマにかけられた関税の還付訴訟をきっかけに、統治者アメリカに挑んだウシ・カメ・ラッパの物語

1963年沖縄。米軍占領下にあった沖縄で、祖国復帰を願う人々が日本の味として食べていたサンマ。サンマには輸入関税がかけられていた。それは琉球列島米国民政府の高等弁務官布令、物品税法を定めた高等弁務官布令十七号(1958年公布)による。しかし、関税がかかるとされた魚の項目に「サンマ」の文字はなかった。そこで、ずっと関税を払い続けてきた魚卸業の女将・玉城ウシは、「関税がかかっているのはおかしい!」と、琉球政府に徴収され続けていた税金の還付訴訟を起こした。求めた額は現代の貨幣価値で7000万円。ウシおばぁが起こした「サンマ裁判」は、いつしか、自治権を求め、統治者アメリカを追い詰める、民主主義を巡る闘いになっていった。この裁判を支えた弁護士は下里恵良。大きなことを言うことからラッパと呼ばれ、政治家でもあった。信条は違えど、“米軍(アメリカ)が最も恐れた政治家”、瀬長亀次郎とは盟友であり、彼らの行動の足跡をたどり、統治者アメリカと自治権をかけて闘った人々の姿を伝える。
このドキュメンタリー、『サンマデモクラシー』の監督は沖縄テレビの山里孫存。2020年3月公開の『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』に続き、沖縄テレビ第2弾となるこの作品を作った。ナレーションは川平慈英。ナビゲーターは、うちな~噺家 志ぃさー(藤木勇人)。沖縄のお笑い集団「笑築過激団」のメンバーとして活動。並行して、沖縄音楽ブームを牽引した「りんけんバンド」のメンバーとしても活躍。

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うちな~噺家 志ぃさー ©沖縄テレビ放送

サンマをめぐる裁判が、沖縄の復帰運動に広がっていったという話を知り驚きだった。ウシおばあの、何事にも動じないようなどんと構えたような容姿が心強かった。ああいう人、沖縄には多いよねと思った。保守派の政治家だった下里恵良弁護士がウシおばあを支え裁判を戦った話の元をたどれば、彼が発した言葉がきっかけだった。それにしてもあの時代、保守、革新という立場を越え、沖縄復帰のため、人々が声を上げ運動をしていったということは沖縄の「結(ゆい)」という言葉を思い起こさせてくれる。草の根民主主義の発展、あるいは発見。うちな~噺家・志ぃさーが、時々画面に登場し、話を結び付け、難しい内容の話を、穏やかにユーモアたっぷりに進めてくれる。この方はどこかで見たことがあると思ったら、NHK連続テレビ小説「ちゅらさん」(2001)にも出演していた。またナレーター川平 慈英のお父さん川平朝清も映画の中に出演し、当時のことを語る。川平朝清さんは、沖縄最初のアナウンサーとして活躍していた人。この話は歴史の影に埋もれていたとのこと。こういう埋もれた歴史を掘り起こし、若い人たちに伝えていくドキュメンタリー、ぜひぜひ残していってほしい(暁)。

『サンマデモクラシー』公式HP
『サンマデモクラシー』予告編
2021年製作/99分/G/日本
配給:太秦
posted by akemi at 19:03| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

最後にして最初の人類   原題:Last and First Men

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監督・脚本・音楽 ヨハン・ヨハンソン
原作:オラフ・ステープルドン
ナレーション:ティルダ・スウィントン

20億年先の未来に生きる人類第18世代のひとりが、20世紀に生きる第1世代の私たちにテレパシーで語りかけてくる。奇怪なモニュメントの数々を背景に語られる壮大な叙事詩。

ヨハン・ヨハンソン(1969~2018)。
アイスランド出身で、クラシックと電子音を融合させた音楽スタイルで知られ、映画をはじめ舞台・コンテンポラリーダンスなど幅広いジャンルで活躍した作曲家。映画音楽では、『博士と彼女のセオリー』(2014/ジェームズ・マーシュ監督)でゴールデングローブ賞作曲賞を受賞し、大ヒットした『メッセージ』(2016/ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)でも同賞にノミネート。世界的な注目を集めるようになったが、キャリア絶頂期にあった2018年2月9日にわずか48歳で急死。

『最後にして最初の人類』は、ヨハン・ヨハンソンが生前、最後に取り組んだ最初で最後の長編映画。原作は、英国の哲学者で作家オラフ・ステープルドンの「最後にして最初の人類」(1930/邦訳は絶版)。20世紀を代表するSF作家の一人であるアーサー・C・クラーク(「2001年宇宙の旅」)にも大きな影響を与えたといわれるSF小説の金字塔。
もともとシネマ・コンサートの形式で生上演されていたものがベースになっており、ヨハンソンが監督した16mmフィルムの映像をスクリーンに投影し、女優のティルダ・スウィントンが朗読を加え、ヨハンソンによるスコアをオーケストラが生演奏するというスタイル。ヨハンソンが亡くなった後、16mmフィルムの撮影監督を務めたシュトゥルラ・ブラント・グロヴレンを中心とした参加スタッフが、1本の長編映画として構成。ヨハンソンの死後2年を経て、2020年2月のベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映。

20億年後の人は、私たちに何を語りかけようとしているのか・・・
ヨハン・ヨハンソンが、それを映像で表す背景に選んだのが、旧ユーゴスラビアに点在する「スポメニック」と呼ばれる巨大な戦争記念碑。第二次世界大戦の対ドイツ戦で犠牲となった人々を追悼し、社会主義の勝利をアピールするべく建設された石碑。奇怪なモニュメントからは、戦争の虚しさが伝わってくるようです。
まだユーゴスラビアだった1987年に、ドゥブロヴニク(現クロアチア)からアドリア海沿いにイタリアのトリエステに抜ける旅をしたことがあります。どのあたりだったか覚えていないのですが、美しい公園の中に、勇ましい兵士を中心にした戦争記念碑があって、ドキッとしたのを思い出しました。のどかで、絵のような風景の続くユーゴスラビアとあまりにもかけ離れたものに思えたのですが、そのほんの数年後に、国がばらばらになる戦争が起こってしまいました。人類の歴史は戦争の繰り返し。本作を見終わって、いつか自滅することを警告されたような気がしました。(咲)


2020年/アイスランド/英語/71分/DCP/ヨーロッパビスタ1.66:1/5.1ch
字幕翻訳:安藤里絵、字幕監修:浜口稔
配給:シンカ
公式サイト:https://synca.jp/johannsson/
★2021年7月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネマカリテ他全国ロードショー.




posted by sakiko at 18:59| Comment(0) | アイスランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

かば

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制作総指揮・原作・脚本・監督:川本貴弘
主題歌:騒音寺
出演:山中アラタ(蒲先生)、折目真穂(加藤先生)、近藤里奈(由貴)、辻 笙(良太)、さくら 若菜(裕子)、松山 歩夢(繁)、木村知貴、高見こころ、牛丸亮、石川雄也、安永稔、山本香織、皷美佳、浅雛拓、髙橋瑞佳、趙 博、島津健太郎、白善 哲、徳城 慶太、染谷 有香、竹田 哲朗、中山 千夏ほか

阪神タイガースのリーグ制覇に沸く1985年の夏、被差別部落が隣接する西成区北部の中学校。人々の差別と偏見、貧困など多くの問題を抱えた環境の中で、生徒たちは荒んだ学校生活を送っている。蒲先生(43歳/山中アラタ)ら教師たちは手を焼いていた。
ある日、臨時教員として加藤 愛先生(23歳/折目真穂)が赴任してくるが、初日から生徒に受け入れてもらえず自信を喪失。先輩教師の蒲先生は「今、子どもらは加藤先生を試しとるんや、ただ教師と生徒の関係ではアカンねん」と、得意の野球で生徒と向き合うことを勧める。
案の定、反発する野球部員は「勝負に勝てばコーチとして認める」と豪語するもあっさり敗北。そのうち加藤先生はチャーコという愛称で呼ばれるようになる。
登校拒否になった転校生。家庭を顧みない母親、酒浸りで在日朝鮮人の父と暮らす女生徒。出身地を恋人に告白することができない卒業生。服役中の父親に代わって家庭を支える野球部主将。蒲先生ら教師たちは、それぞれの事情を抱えた生徒たちと正面から向き合い、時には生徒の家庭へ強引に入り込んでまで、彼らの生き方を模索する。

実在した「かば」と呼ばれるベテランの蒲先生を中心に同僚の先生たちが、問題だらけの生徒たちと向き合う姿を描いてます。生徒に現れる問題は、実は家庭の中、大人たち、ひいては社会の問題です。蒲先生はそれでも自分にはどうにもできないと諦めることなく、「あの子たちに出逢えてよかった」と言い合える同僚たちと、目の前の子どもたちに真剣に向き合ってきました。
2010年に58歳で亡くなった蒲先生の葬儀には学校関係者だけではなく、卒業生や住民たちなど蒲先生を惜しむ人たちが何百人も集まったそうです。川本監督は2014年から2年半にわたり綿密な取材を続け、7年余りかかってこの映画を完成させました。台詞は取材で集められた生きた言葉です。蒲先生に負けず劣らず熱い川本監督に、詳しいお話を伺いました。
こちらです。http://cineja-film-report.seesaa.net/article/482421995.html
自分が子どもだったころ、お世話になった懐かしい先生たちを思い出して思わず涙腺緩みました。DVDや配信の予定はありません。どうぞ劇場でご覧ください。(白)


この映画の舞台、大阪西成。労務者の街として、ニュースに出てきたり、映画や小説などの舞台にもなってきた。でも学生と先生を主題にした映画というのは、これまでほとんどなかったかもしれない。社会の吹き溜まりのような場所ともいわれる西成。貧困、出自、偏見、校内暴力、すさんだ家庭など、過酷な環境のなかで生活する人々がいて、家族、そして学校も当然ある。そして、よりよい未来、生活、コミュニティを築くために活動していた蒲益男さんという先生がいた。とても感動的な実話を映画にした作品だった。
これまで、この西成というと、「あいりん地区」「釜ヶ崎」と呼ぶことも多く、日雇い労働者が多く集まる街、安宿のドヤ街、炊き出しというイメージで、家族が住み、学生もいるというイメージはなかった。この作品で、家族もいるし、子供もいると、改めて思わせてくれた。この時から35年もたっているけど、今の西成地区はどんな感じなんだろう。
東京から大阪アジアン映画祭に通って10年くらい。ここ数年は全日参加するために、大阪に7,8泊することがある。最初の数年は梅田周辺に宿を取っていたけど高いので、ここ数年は宿代が安い西成地区にも泊まっている。大阪出身の人には「あの地域は治安も悪いし近づかないほうがいい。大阪人は近づかないよ」と言われた。それでも一度行ってみたかったので、5年くらい前に初めて西成(駅は新今宮)のホテルに泊まった。酔っぱらったオジサンが街をウロウロしているんじゃないかとか、ヒヤヒヤしながら行ったけど、そんな危険性は感じなかった。そして外国人がけっこう泊まっている。でも歩いていて、街中にタバコの匂いがただよっていたのには閉口した。ホテルは一泊2800円くらいのところに泊まった。3年くらいはそこを利用していたけど、やはり安いだけあって机とかなく、パソコン作業などもやりにくいし、風呂が12時くらいまでで、あとはシャワーしか使えなかったりして不便なので、去年はとうとう十三(じゅうそう)のホテルにした。なので、ほんの3,4年の旅行者としての経験しかないけど、西成は「そんなに危険な地区ではない」という印象を持っている。
そんな目でこの作品を観ると、やはり現代は街も変わっていて高いビルもあるのに、この映画ではそれが映っていない。通天閣を遠くから見ると、高い建物もあるはずなのになと思っていたら、CGでだいぶなくしていたのですね。1985年の街になっていると思いました。また映画の中では川が随分出てきたけど、私はあのあたりで川を見たことがなかったので、どのあたりを撮っていたのか気になっている。地図を見た限りでは西側のほうに川があり、その先が海のようだった。そして海に沈む夕日が素敵だった(暁)


2021年/日本/カラー/135分
配給:「かば」製作委員会
(C)「かば」製作委員会
https://kaba-cinema.com/
2021年7月24日(土)より新宿 K’s cinemaほか全国順次公開
posted by shiraishi at 08:41| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

親愛なる君へ(原題:親愛的房客 )

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© 2020 FiLMOSA Production All rights

監督・脚本:チェン・ヨウチェ
監修:ヤン・ヤーチェ
出演:モー・ズーイー(リン・ジエンイー)、チェン・シューファン(チョウ・シウユー)、バイ・ルンイン(ワン・ヨウユー)、ヤオ・チュエンヤオ(ワン・リーウェイ)、ジェイ・シー(ワン・リーガン)、シエ・チョンシュアン(検察官)、ウー・ポンフォン(警察官)、シェン・ウェイニエン(警察官)、ワン・カーユエン (ネット市民)

ピアノ講師をしているジエンイーは、間借りしている家の老婦・シウユーの介護と、その孫のヨウユーの面倒をひとりで見ている。血のつながりもないけれども、今は亡き同性パートナー、リーウェイの家族だからだ。彼の家に住み、彼の家族を愛することが何より重要なことだった。
しかしある日、痛みに苦しんでいたシウユーが亡くなってしまう。その死因を巡り、ジエンイーは不審の目で見られ警察沙汰になってしまうが、弁解もせず罪を受け入れようとする。それは愛する“家族”を守りたい一心から出たことだった。

シウユーは糖尿病らしく、脚や目に重い症状が出てきます。入院も手術も拒否して、何度も痛みを訴えます。これは在宅で看病する人にも辛い状況です。指先まで優しいジエンイーに「よく頑張っているね」と褒めてあげたいくらいです。母親が亡くなって、リーウェイの弟が戻ってきます。それまで実の息子でありながら、母の世話もせずジエンイーまかせだったのに、母親の財産の行き先を聞いて態度が変わります。ああ、やれやれ。控え目で辛抱強く、リーウェイを心から大切に想っているジエンイーをモー・ズーイーが静かに演じて、切なさが増します。ネットでジエンイーと知り合う男を演じたワン・カーユエンも印象に残りました。
ジエンイーはゲイであることで、常に理不尽な目に遭います。同性でも異性でも、相手を大切に想う気持ちは変わらないでしょうに。検察官がジエンイーに「なぜそこまで他人の世話をするのか」と尋ねたときに、「自分が女性だったら、そう聞くでしょうか?」と逆に質問します。相手は黙ります。
でも、今や女性だからといって夫亡き後、義父母を看取るとは限りませんよ。実の子だってそう、と自分の終活を思わず考えました。性別に関わらず、血のつながりがなくとも「家族になれる」というお話が最近多いです。家族にもいろんな形があっていい、ゆるやかなつながりで心地よく生きられればいいですよね。(白)


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© 2020 FiLMOSA Production All rights

映画が始まって程なく、背景に低い山に囲まれた港! あ、基隆!と、もう感無量でした。基隆は、私の母が7歳から終戦の年までの10年間を過ごした町。『親愛なる君へ』でジエンイーが間借りしている家は、少し高台に建っていて、時折映し出される港の風情がとてもいいです。
亡くなったパートナーの幼い息子と老いた母親を甲斐甲斐しく世話をするジエンイーの姿が切ないです。“国民のおばあちゃん”と呼ばれる名女優チェン・シューファン(陳淑芳)さん演じるシウユーが「痛い痛い」と苦しむのをなんとかしてあげたいと思うジエンイーや孫。自宅での介護の大変さも胸に迫ります。折に触れて基隆の港が背景に出てきた本作、シウユーの苦しむ姿が10年前に癌に苦しみながら亡くなった母に重なりました。(咲)
★スタッフ日記に、思いをたっぷり書きました。
『親愛なる君へ』 基隆で育った母の最期を想う(咲)

莫子儀(モー・ズーイー)には、『台北に舞う雪~Snowfall in Taipei』( 霍建起監督)が東京国際映画祭で上映された時(2009年)にインタビューしたことがある(シネマジャーナル本誌78号に掲載。HPにも掲載)。その頃はインディペンデントの作品に出ていて、この作品が初めての商業作品出演だった。その話し方から感じたのは、穏やかだけど、芯のある役者というイメージだった。それ以来、ずっと彼の出演作品を気にかけていた。その時からもう11年にもなる。激しさはないけど、穏やかで芯のある役者というイメージは今回の作品でもそう感じられた。

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2009年東京国際映画祭『台北に舞う雪~』舞台挨拶時の莫子儀(撮影 宮崎暁美)

去年夏頃、莫子儀のインタビュー記事が載っているシネマジャーナル78号(2010年春号)を購入したいという日本滞在中の台湾の方から連絡があり、何冊か購入していただいた。それで久しぶりに彼のことを思いだし、どうしているのかなと思っていたら、その方から11月にメールが来て、「莫子儀が『親愛的房客』で主演男優賞を獲得した」と連絡があり、「この作品、日本で公開されますかね?」と質問もされ、私は「来年あたり公開されるかもしれませんね」と答えたものの、情報はない状態だった。そうこうしているうちに6月頃、この映画の日本公開の情報を知った。

この作品を観て、ジエンイーは間借り人だけど、亡くなってしまった恋人の母親シウユーと子供ヨウユーを見捨てるわけにはいかなかったんだろうなと思い、彼と一緒に登った思い出の山など、情緒的な話の展開に引き寄せられた。そして、ジエンイーが逮捕された時に離れたくなかったヨウユーの行動を見て、血の繋がりを越えた家族の絆を感じた。
また、彼らが住んでいる家(マンション?)のベランダから見えた港の景色を見て驚いた。基隆だ! 基隆には3回行ったことがあり、去年2月にも行ったばかり。新コロナの影響が出始めたころで、行くのをさんざん迷ったけど、もう20年近く前から行ってみたかった十分(シーフェン)の天燈祭り(ランタン祭り)にやっと行けるというチャンスを逃したくなかったので出かけた。天燈上げの前に近くの基隆に行ったのだけど、その時は侯孝賢監督の『ミレニアル・マンボ』の冒頭に出てきた基隆の歩道橋が取り壊されてしまうというのでそれを探しに行った。橋をみつけた後、食堂に入ったけど、その食堂の後方あたりにあるビルのどこかが、この家族が住んでいるという設定の場所だろうと、この作品を観て思った。基隆湾の光景が懐かしかった。
天燈上げに興味を持ったきっかけは『シーディンの夏(石碇的夏天)』で、この作品で初めて天燈上げを観た。その後いろいろな作品で「天燈」が上がるシーンを観て、ますます興味を持った。そしていつかこの十分の「天燈祭り」に行ってみたいと思うようになった。去年、十分に行った時、道路標識で「石碇方向」というのを見て、石碇はこの十分の近くなんだと思った。この『親愛なる君へ』の作品紹介を書くにあたっていろいろ調べるうち、鄭有傑(チェン・ヨウチエ)監督のフィルモグラフィの中に『シーディンの夏』をみつけ、『シーディンの夏』は鄭有傑監督の作品だったんだと改めて思い縁を感じた。「基隆」しかり、「石碇」しかり、鄭有傑監督は、侯孝賢監督同様この台湾北部の地域が好きなのかもしれない。  
* 侯孝賢監督『悲情城市』は基隆、九份が舞台。『恋々風塵』は十分が舞台。
* 台湾ロケ地めぐり 平渓線沿線『台北に舞う雪』公開記念

台湾金馬奨では、老母を演じた81歳の陳淑芳(チェン・シューファン)がこの作品で助演女優賞を獲得したが、彼女は『孤味(弱くて強い女たち)』では主演女優賞を受賞し、金馬奨史上初めて、主演女優賞と助演女優賞ダブル受賞を果たした。『弱くて強い女たち』は、去年(2020)の東京国際映画祭で上映されたけど、この作品も日本公開されますように(暁)。


◆ジエンイーが恋人や、恋人の子供ヨウユーと登った山は
合歓山(ハーファンシャン Héhuān Shān)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%88%E6%AD%93%E5%B1%B1

◆終盤の圏谷の光景は雪山(シュエシャン) 台湾で2番目に高い山 
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%AA%E5%B1%B1_(%E5%8F%B0%E6%B9%BE)

2020年/台湾/カラー/シネスコ106分/R18+
原題:親愛的房客 Dear Tenant
配給:エスピーオー、フィルモット
(C)2020 FiLMOSA Production All rights
http://filmott.com/shin-ai/
★2021年7月23日(金・祝)シネマート新宿・心斎橋ほか全国順次公開

*シネマジャーナルHP 特別記事
『台北に舞う雪~Snowfall in Taipei』莫子儀(モー・ズーイー)インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2010/taipei-snow2/index.html
posted by shiraishi at 00:24| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする