2021年04月29日

海辺の彼女たち

umibe pos.jpg

脚本・監督・編集:藤元明緒
撮影監督:岸建太朗
プロデューサー:渡邉一孝、ジョシュ・レビィ、ヌエン・ル・ハン
出演:ホアン・フォン、フィン・トゥエ・アン、クィン・ニュー他

ベトナムから来た3人の女性、アン、ニュー、フォン。彼女たちは日本で技能実習生として働いていたが、ある夜、過酷な職場からの脱走を図った。ブローカーを頼りに、辿り着いたのは雪深い港町。パスポートも身分証も前の職場に置いたまま。不法就労がわかるとベトナムに送り返されてしまう。3人は怯えながらも、故郷にいる家族のため、幸せな未来のために懸命に働き始めるが、フォンの体調が悪くなる。病院に行きたくとも、身分証も保険証もない。アンとニューも付き添って町の医院に出向くが、やはり書類がなくては診てもらえなかった。

umibe2.jpg

親の借金を返すため、弟妹の学費のため、家族や自分の未来のために日本に働きに来たベトナム人女性たちのストーリー。研修とは名ばかりの「安い労働力」として酷使されている外国からの研修生/実習生たち。少ない台詞ながら雄弁に物語る彼女たちの表情。密着するカメラの力と繊細な演出と演技、音楽もナレーションも説明もなくても、訴えてくる力があります。現場の生活音や風や波の音も効果的です。見慣れないキャストのせいもあって、ドキュメンタリーと勘違いしそうなほどリアルでした。
作品がフィクションではあっても、丁寧なリサーチの末の描写と思うと、彼女たちの状況に胸がつまります。日本に暮らす研修生/実習生、出稼ぎの方々に労働に見合った賃金が支払われ、一人ひとりが尊重され、辛い思いをすることがありませんように。
コロナ禍の今、派遣のためクビになったり、仕事先が倒産したりと困難な目に遭っている方々も多いはずです。声をあげられない人たちみんなの身近な問題でもありました。
『僕の帰る場所』(2018)で日本で暮らすミャンマー人家族を描いた藤元監督の最新作です。インタビューを前編、後編に分けてお届けします。(白)


藤元明緒監督インタビュー前編はこちらです。
後編はこちら
です。

P1130946_R.jpg
藤元明緒監督(撮影:宮崎)

藤元明緒監督たちのクルーは、前作はミャンマーと日本との関係を描いた『僕の帰る場所』を製作し、最新作『海辺の彼女たち』ではベトナム人を主人公に日本での労働環境、働いている状況について描く映画を作りました。これまでも、フィリピン、中国、タイなど、日本で就労や技能実習生として働く人々がいて、同じように借金を抱えて日本にきて働いている人はいました。そして最近はベトナムからの技能実習生が多くなっている現状を、この映画は捉えています。実習生とは名ばかりで、だまされて借金を背負わされ安い給料で働かされている人たちが多い現状。その結果、失踪したり、不法就労も増えています。ブラジルや南米からの日系人就労者も含め、様々な形での外国からの労働力がなければ工業、農業、介護の現場など、成り立たない日本。スーパーで売っている安価な商品も、つきつめれば彼女たちのような外国から働きに来ている人たちが安い給料で働いているからだと思います。
外国から日本に働きに来た人たちを搾取する人たちの存在をなんとかできないものかと、常々思うのだけど、公共事業のようなかたちでできないのでしょうか。民間に振っておいて、国は見て見ぬふりをしているとしか思えないのです。少なくとも自国で借金を背負わせたまま日本に来るという形をなんとかできないのでしょうか。そんなことを思わせてくれる映画でした。韓国も以前はそうだったけれど、今は国が外国からの労働者の受け入れ事業をしていると最近の新聞に載っていましたが、本当だろうか。もしそうなら日本でも、そういう形ができるのではないかかしら。監督たちはこの映画を作ることで、外国から来て働いている人たちの現状を知らせてくれている。その思いにどんなかたちで私たちはエールを送ることができるか、観客の人たちもぜひ考えてほしい(暁)。


2020/日本=ベトナム/カラー/88分/ベトナム語・日本語
©2020 E.x.N K.K. / ever rolling films
https://umikano.com/
https://www.facebook.com/umikano/
https://twitter.com/umikano_film
★2021年5月1日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
◎コロナ禍のため、ポレポレ東中野でが座席を半分にして上映しています。チケットがネット販売で売り切れる場合もあるので、問い合わせてからお出かけください。

★ミャンマーチャリティー上映
『僕の帰る場所』ポレポレ東中野にて1週間の再上映です。
 5.22(土)〜28(金)※時間未定

posted by shiraishi at 14:19| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月25日

過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道

2021年4月30日(金)より全国順次公開
※緊急事態宣言のため上映劇場は公式サイト(https://daido-documentary2020.com/)をご確認ください。

上映劇場
Y6eers___R_R.jpg
(C)「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい」フィルムパートナーズ


これはひとりの写真家の彷徨の記録である

監督・撮影・編集:岩間玄
プロデューサー:杉田浩光、杉本友昭、飯田雅裕、行実良
音楽:三宅一徳
出演:森山大道、神林豊、町口覚ほか
2021年/日本/112分/5.1ch/スタンダード/DCP/G

スナップショットで知られる森山大道は、1968年、写真集「にっぽん劇場写真帖」でデビュー。1968年は、プラハの春、ベトナム戦争、キング牧師暗殺、パリ5月革命、アポロ7号打ち上げ、学生運動の激化など、さまざまな事件が起き、騒乱と混沌の激動の1年だった。
そんな中、森山大道の作品は粗い粒子、被写体がブレ、ピントが合っていないボケ写真で、当時の写真に対する常識を覆す先鋭的なもので写真界に大きな衝撃を与えた。「こんなものは写真じゃない」という人たちがいる一方で、「これこそぼくたちが求めていた写真だ!」という人たちがいた。賛否両論があったものの、粗い粒子のブレボケ写真は、大道写真として認識され世界でも知られるようになった。
そして『なぜ、植物図鑑か』で知られる中平卓馬との出会いと別れ。切磋琢磨して写真を撮っていたが、盟友中平卓馬は若くして言語能力と記憶に障害を負ってしまった。
デビューから50年、2018年秋、世界最大の写真の祭典「パリ・フォト」で伝説の写真集が半世紀ぶりに甦り、写真家森山大道のまわりは黒山の人だかり。サインする姿を世界中から集まったファンが熱いまなざしで見つめている。
この祭典のために2018年春、デビュー作「にっぽん劇場写真帖」復刊プロジェクトが始まった。編集者・神林豊と造本家・町口覚は、敬愛する森山の処女作を決定版として世に送り出すべく奮闘する。カメラは写真集を創るための樹木の伐採から追う。そして、この写真集を歴史的資料として後世に残そうと、この写真群は、いつ、どこで、どのように撮られたのか、一点一点確認し、本人の記憶をたどり解き明かしてゆく。
そして森山大道は、50年たった今も小さなデジタルカメラを片手に街を歩きスナップ写真を撮っている。新宿、池袋、秋葉原、中野、渋谷、神保町、青山、中目黒、三軒茶屋、四谷、蒲田、羽田などを彷徨し激変する東京を切り取る。カメラや街は変わっても撮影スタイルは昔と同じ。
監督は「映画の狙いとしては、過去と未来が一直線に繋がっているというより、過去と未来が響きあい、そのなかから現在が立ち現れるような構成を目指しました。撮影機材は変わりましたが、街の中で写真を撮る森山さんはあまり変わりません。本作最大の見どころが、東京を彷徨する森山さんの姿です。森山さん自身は感覚に導かれるままシャッターを切っている」と語る。

私が写真に興味を持ったのも1968年。工業高校工業化学科の実習で写真のプリントやフィルム現像をしたのがきっかけだった。父親も写真に興味があり家に現像・プリントのための道具があったのと、母親もPTAの写真部に所属していたのも影響があったかと思う。その頃、家にあったカメラはハーフサイズ(35mmフィルムの半分のサイズ)だった。1970年に高校を卒業し就職した会社でも写真部に所属した。そして一眼レフカメラを買ったのが1972年頃。ベトナム戦争最中でもあり、キャパ、一ノ瀬泰三、石川文洋、桑原史成などの影響で報道写真に興味を持っていた。
その頃は写真というとモノクロ(白黒)がほとんど。カラー写真が一般に普及しだしたのが1972年頃。カラーが普及しても、私はモノクロ写真中心で、自宅でフィルム現像し、モノクロプリントを1990年代まで続けていた。デジタル一眼レフカメラを買ったのが2006年。その頃にはフィルム写真は卒業。
そんな写真界の変遷があったが、私が森山大道を知ったのは1970年前後だったと思う。彼の写真に対しては、私が求めていた写真の種類とは違ったのであまり興味がなかった。というより、粒子の粗い、ブレボケの写真は、私の好みではなかった。それでも森山大道の写真展は、たぶん1970年代に数回行っていると思う。私も写真に燃えていたから。あの頃1週間に1、2回はいろいろな人の写真展に通っていた。あまりに古くてよく思いだせないけど、たぶん1974「遠野物語」、1975「五所川原」、1978「津軽海峡」あたりだろう。
1976年には働きながら、夜は写真学校に通っていた。その後は山岳写真にはまって山の写真を撮るために長野県大町市や白馬村に5年くらい住んでいたこともある。そして東京に戻ってきて働いていた職場では、写真の現像やプリント制作、カタログ制作のための写真を撮ったり、写真管理の仕事をしていた。そのような分野は森山大道のようなブレボケ、粒子の粗い写真とは対極にあった。だから彼の写真はほとんど見てこなかった。
そして、このドキュメンタリー。50年近くたって森山大道の写真を見て、やはり写真的には好みではないけど、本人のさりげない生き方は好き。アラキーのようにエキセンテリックではなく淡々と写真を撮っている姿は相変わらずで、その気持ちは伝わってきた。デジタルカメラの時代になって、私は最初に1眼レフカメラ、そのあとに少し小型のレンズ一体型の中型カメラ、そして毎日持って歩けるよう、手に入るような小さなカメラへと、3台目に大道さんが持っているような小さくて軽いカメラを買った。軽いカメラは大道さんのような写真には向いていたけど、私が撮りたいピントが良くてブレのない写真には向いてなかった。結局、私はカメラを毎日は持って歩かなくなり使うカメラは中型カメラに落ち着いた。
このドキュメンタリーはその頃から変わらない大道さんの撮影スタイルが映し出されていて、一気に古い時代を思い出した。そして80歳になっても街を歩きまわり、小さなデジタルカメラで撮影している姿を見て元気をもらった(暁)。


森山大道という名前はこの作品で初めて知ったが、『あゝ荒野』でスチール写真を担当された方だった。作品に挟み込まれる過去の写真はボケていたり、ピントが外れていたり、ざらざらした感じがして、ちょっとバイオレントな雰囲気があるのに、森山大道さん自身はとってもシャイな感じ。作品だけではわからないものだと思う。
このドキュメンタリーはccccccccc森山大道さんの写真集「にっぽん劇場写真帖」の復刻プロジェクトの進行を軸に進められる。写真集がモノとして作られていく過程が興味深い。特に印象に残ったのは印刷所での色の決定。森山大道さんの最近の主だった写真集の色をすべて管理してきたプリンティングディレクターの差配は神業。驚嘆ものである。(堀)


320(2)_R.jpg
(C)「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい」フィルムパートナーズ

『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』 公式HP
制作・配給:テレビマンユニオン
配給協力・宣伝:プレイタイム
企画協力:森山大道写真財団ほか
印刷協力:東京印書館、誠晃印刷

【公開記念関連イベント】
■森山大道 写真展「衝撃的、たわむれ」
写大ギャラリー森山大道アーカイヴより
●会場 東京工芸大学 写大ギャラリー
    〒164-8678 東京都中野区本町2-4-7 5号館(芸術情報館)2F
    TEL 03-3372-1321 (代)
    地下鉄丸ノ内線/大江戸線 中野坂上駅下車 1番出口・徒歩7分
●会期 2021年3月22日(月)~2021年5月31日(月)
●時間 月〜金 10:00~18:00、(土)10:00~17:00
 日曜日休館
●無料
●展示作品 モノクロ写真作品 61点
●主催 東京工芸大学 芸術学部
●協力 森山大道写真財団、月曜社、マッチアンドカンパニー、株式会社テレビマンユニオン、株式会社ほぼ日
http://www.shadai.t-kougei.ac.jp/overview.html

■展覧会「はじめての森山大道。」
●会期:2021年4月30日(金)~5月30日(日)
※4月25日からの渋谷PARCO全館休業に合わせて開幕を延期します。
今後の情報については、ほぼ日曜日のTwitter(https://twitter.com/hobo_nichiyobi)でお知らせします
●会場:ほぼ日曜日 渋谷PARCO8階
●時間:11時~20時
●料金:600円(小学生以下無料)
森山大道の映画と展覧会が同時に観られる貴重な機会です
https://www.1101.com/daido-moriyama/index.html
posted by akemi at 21:57| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

FUNNY BUNNY

funny.jpg

監督・脚本・編集:飯塚健
撮影:小松高志
音楽:海田庄吾
出演:中川大志(剣持聡)、岡山天音(漆原聡)、関めぐみ(服部茜)、森田想(遠藤葵)、レイニ(新見晴)、ゆうたろう(田所修)、田中俊介(藤井元伸)、佐野弘樹(安達充)、山中聡(荒木広彦広彦)、落合モトキ(菊池広重)、秋尾秋好(角田晃広)、菅原大吉(西門静男)

剣持と漆原がタクシーで乗り付けたのは閉館寸前の図書館。二人はウサギの被り物で押し入り、司書の茜と新見を縛り上げる。目的は「絶対に借りられない本」を探すこと。それも今日中に。たまたま残っていた葵のおかげで形勢逆転。謎が気になる3人は2人に真実を語らせ、懇願されて捜索に協力することにした。

飯塚健監督のオリジナル脚本、もとは演劇だったそうです。台詞のひとつひとつが「」でくくられている感じがするのは、舞台で練りに練った言葉だから?いや、ほかのシナリオもそうでしょうが。
図書館襲撃が第1章。第2章が4年後のラジオ電波ジャック。どちらも最初は何々?なノリですが、真実が明かされるにつれ、切なさがじわじわとやってきます。まっすぐで過ぎるほど熱い剣持聡。彼をうまく制御しながら一緒に走るもう一人の聡、の漆原聡。「素」とは違うかもしれないけれど、とても似合う二人。もったいをつけて披露される剣持語録にもご注目を。(白)


大切な仲間の死をどう受け入れ、乗り越えていくか。まったく違う2つの話を前半と後半で取り上げるが、どちらも抱える葛藤は同じ。一見コミカルなタッチで始まるけれども扱うテーマはなかなかしんどい。しかし逃げずに向き合うことで乗り越えていく。いつまでも思い悩まずに、忘れることで前進するのもありなんだというメッセージがクライマックスに奏でられたセッションから伝わってきた。
主演の中川大志は見た目のイメージがちょっと変わった気がする。髪形のせいだろうか? 何だかちょっと厳つい感じがした。そして、そんな主人公に強引に巻き込まれる相方を演じたのが岡山天音。こういう役をやらせると本当にうまい。(堀)


2021年/日本/カラー/103分
配給:「FUNNY BUNNY」製作委員会
(C)2021「FUNNY BUNNY」製作委員会
https://entm.auone.jp/camp/funny-bunny/
★2021年4月29日(木・祝)ロードショー
およびauスマートパスプレミアムにて配信開始
posted by shiraishi at 19:12| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月18日

るろうに剣心 最終章 The Final

ruroken.jpg

監督・脚本:大友啓史
原作:和月伸宏
撮影:石坂拓郎
アクション監督:谷垣健治
音楽:佐藤直紀
主題歌:ONE OK ROCK
出演:佐藤健(緋村剣心)、新田真剣佑(雪代縁)、武井咲(神谷薫)、江口洋介(藤田五郎/斎藤一)、青木崇高(相楽左之助)、蒼井優(高荷恵)、伊勢谷友介(四乃森蒼紫)、土屋太鳳(巻町操)、三浦涼介(沢下条張)、音尾琢真(呉黒星)、鶴見辰吾(浦村署長)、中原丈雄(前川宮内)、大西利空(明神弥彦)、阿部進之介(鯨波兵庫)、柳俊太郎(乙和瓢湖)、丞威(乾天門)、成田瑛基(八ツ目無名異)

かつて人斬抜刀斎(ひときりばっとうさい)として恐れられ、激動の幕末を刀一本で戦い抜いた男、緋村剣心。新時代を迎え、二度と人を殺さないと誓う。斬れない逆刃刀(さかばとう)に持ち替え、日本転覆を狙った志々雄真実をはじめ数々の敵との戦いを乗り越えてきた。仲間たちと平穏な日々を送っていたある日、東京が何者かに攻撃され、次々と大切な人々が襲われる。
次第に追い詰められ憔悴しきった剣心の前に現れたのは、あの志々雄に武器や軍艦を送り込んでいた上海マフィアの頭目・雪代 縁(ゆきしろえにし)。剣心の”十字傷の謎”を知る彼こそが、剣心自らが生み出してしまった最恐最悪の敵だった。剣心に強烈な恨みを持ち、剣心だけではなく、剣心が作った新時代をも破壊するため”人誅(じんちゅう)”を仕掛けてくる!

”るろ剣”オールスター集合の最終章です。2012年公開の『るろうに剣心』から1本も外さずに観ていますが、期待を裏切られることはありませんでした。この度も期待満々で出かけました。いつもしょっぱなから渾身のアクション、今からこれでクライマックスはどうなるんだ?!と心配してしまいます。
燃え上がる町にハラハラと落ちてくる”人誅”と書かれた紙片。原作の和月伸宏氏が”天誅”に対してつくった「天が裁かないなら己が裁きを下す」という意味の造語。これが剣心が満身創痍になる始まり。雪代 縁は新田真剣佑。ビジュアル系バンドもかくやという華々しさで登場です。復讐に燃える目も鍛え上げた身体も美しい。6月4日に公開予定の『るろうに剣心 最終章 The Beginning』に繋がる彼のエピソードをしかとご覧ください。
この10年間、大友啓史監督と走り続けてきたキャスト・スタッフの絆の確かさがわかる本作。俳優さんはもちろん、谷垣健治アクション監督ひきいるチーム、支える美術や衣裳、照明や音声、編集さんの汗と努力の結果は、できるだけ大きな画面&良い音響のもとで観ることをお勧めします。(白)


2012年に『るろうに剣心』を見たとき、新しい感覚の時代劇に衝撃を受けました。以降、緋村剣心は佐藤健の代名詞ともいえる役になり、その後、いろいろな作品に出演していますが、きっと心の奥には剣心が内包していたのでしょう。本作で剣心の十字傷の理由が明らかになり、剣心が頬の傷に触れるシーンがありましたが、1作目にあった同じようなシーンと比べて演技に深みを感じました。
そして、新たなヒーローとして、新田真剣佑が登場。父親のDNAをしっかり受け継ぎ、冒頭から見事なアクションシーンを繰り広げます。クライマックスは単なるアクションに留まらず、心の葛藤もしっかり表現し、今後が楽しみになりました。
そして、ラスト。剣心の何気ない行動に思いっきり泣けます。実はその演出、脚本にはなく、現場で佐藤健が思いついたそう。剣心として10年近く生きてきた佐藤健だからこそだと改めてきゅんとなりました。(堀)


2021年/日本/カラー/シネスコ/138分
配給:ワーナー・ブラザース
(C)和月伸宏/集英社 (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
https://wwws.warnerbros.co.jp/rurouni-kenshin2020/
公式 Twitter/公式 Instagram @ruroken_movie #るろうに剣心最終章
★2021年4月23日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 14:21| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

グランパ・ウォーズ おじいちゃんと僕の宣戦布告  原題:The War with Grandpa

granpa wars.jpg

監督:ティム・ヒル
脚本:トム・J・アッスル、マット・エンバー
原作:The War with Grandpa (ロバート・キンメル・スミス著)
制作:フィリップ・グラッサー、マーヴィン・ビアート、ローザ・モリス・ビアート
出演:ロバート・デ・ニーロ、オークス・フェグリー、クリストファー・ウォーケン、ユマ・サーマン、ロブ・リグル、ジェーン・シーモア

エド(ロバート・デニーロ)は妻を亡くして一人暮らしに。転んで怪我をしたエドを心配した娘サリー(ユマ・サーマン)に一緒に暮らそうと言われ、思い出のある家から引っ越すことになる。孫のピーター(オークス・フェグリー)は、おじいちゃんと暮らせることを喜んだものの、自分の部屋を明け渡して、鼠のいる屋根裏部屋に移ることになり激怒。ピーターは、おじいちゃんを追い出すために手紙を書き、宣戦布告。あの手この手で攻撃をしかけてくる。あまりにも度を越したイタズラにエドも激怒。悪友ジェリー(クリストファー・ウォーケン)の悪知恵を借り、ピーターに報復を始める。二人の部屋をかけた小さな戦争は、やがて隣人を巻き込み大騒動へ。果たして勝つのはエドか、ピーターか!?

これでもかとイタズラを仕掛けてくる孫のピーターが、こまっしゃくれていて、ほんとに憎たらしいのです。オークス・フェグリー、上手い!
立ち向かうおじいちゃんは、ロバート・デニーロが演じてるワケですから、一筋縄ではいきません。抱腹絶倒の部屋を巡る戦争! これぞアメリカ映画!
それにしても、ロバート・デニーロもいいおじいちゃんになりました。(咲)


親を引き取りたくても部屋が足りない。息子を屋根裏部屋に追いやって、親の部屋を確保する。アメリカでもそんな悩みがあるんだと何だかとっても身近に感じられました。
子ども相手に本気で立ち向かう祖父を演じたロバート・デニーロも何だかとっても楽しそう。そんなことまでできないだろうというイタズラもあるけれど、その盛り具合が作品を極上のエンタメとして昇華させています。それでいて、戦争は負けた人だけでなく勝った人をも傷つけると孫に諭す脚本のバランス感覚は見事。(堀)


2020年/アメリカ/カラー/スコープサイズ/英語/94分
配給:パルコ
公式サイト:https://grandpa-wars.jp/
★2021年4月23日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開



posted by sakiko at 11:35| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブックセラーズ  原題:The Booksellers

booksellers.jpg

監督・編集 : D ・W・ヤング
製作総指揮&ナレーション : パーカー・ポージー

世界最大規模のニューヨークブックフェアの裏側から“本を探し、本を売り、本を愛する”ブックセラーの世界を紐解く映画

社会の多様化やデジタル化で本をめぐる世界が大きく変わってゆく中で、それでも本を愛し続ける人たち。
映画の要所要所に登場するのはNY派の作家、フラン・レボウィッツ。Netflixで配信が始まったマーティン・スコセッシ作の新作ドキュメンタリーシリーズ『都市を歩くように -フラン・レボウィッツの視点-』の主人公でもある。
また、ビル・ゲイツによって史上最高額の2800万ドル(約28億円超え)で競り落とされた本「レオナルド・ダ・ヴィンチのレスター手稿」や、あの「若草物語」のオルコットが偽名で書いたパルプ小説、宝石が施された本、人間の皮膚で作られた本など、映画には、コレクターしか見ることのできないような希少本が多数紹介される。
本を愛するすべての人が好きにならずにいられない一級品のドキュメンタリー。

★コロナ禍で多くの国で劇場公開できなかった本作の、日本劇場公開を喜ぶ監督&プロデューサー&NYのブックセラーの皆さんからメッセージ動画が届いています。
https://youtu.be/owKTGmCLXpM
D ・W・ヤング監督は、「皆さんに映画館で見てもらえて嬉しい」と喜びのコメント。
人気テレビ番組「アメリカお宝鑑定団ポーンスターズ」に出演し注目を浴びた若手ブックセラーのレベッカ・ロムニーは、日本への留学経験があり、メッセージ動画では流暢な日本語も披露。
映画でマンモスの標本付きの探検記や化石の研究書を披露しているブックセラーのデイヴ・バーグマンは映画に登場し日本版ポスターにも使われている飼い猫”ムツヘタ”と共にメッセージを寄せています。その他、ブックセラーのヘザー・オドネルや、本作のプロデューサーで自身も”ブックセラー”であるダン・ウェクスラーなどからのメッセージも。ぜひご覧ください。

先日、久しぶりに神保町に行ったので、語学書や辞書を置いている山田書店は健在かしらと寄ってみました。ここは美術書や浮世絵がメインのようですが、世界各国の語学書や旅本もあるので、かつてよく利用していました。
語学書や旅本がすっかり少なくなっていたので、伺ってみたら、今や、どちらもネットの時代になって売れないとのこと。夏頃には在庫セールをして、取り扱い品目を変更されるそうです。なんとも寂しくなりました。それでも、本を愛する人がいる限り、本はなくならないと、『ブックセラーズ』を観て確信しました。
我が家にも、中をろくに読んでいないけれど、飾ってあるだけで嬉しいという本が多々あります。もちろん、いつかちゃんと読むつもりなのですが、装丁の素晴らしい本は、それだけで価値があると感じます。(咲)


本好き、本屋さん好き、図書館好きゆえ、劇場で観てきました。ふだん見る機会もない貴重な本をアップで紹介してもらえて眼福。美術品とはまた違ったこだわりのコレクターがたくさんいました。
町の本屋さんが1軒また1軒と閉じていきます。デジタル化に押されて、紙の本はだんだん少なくなるのかもしれませんが、レコードの人気が再燃しているように、本は細く長く愛されると信じたいです。1冊の本との出会いがどれだけ世界を拡げ、深くしてくれることか。あなたの「1冊」はなんですか?(白)


◆公開記念オンライントークイベント
「かげろう文庫」店主・佐藤龍さん&「Flying Books」店主・山路和広さん
アーカイブでご覧ください。
https://youtu.be/oxqmCIgAd2E


2019年/アメリカ/99分
字幕翻訳 : 斎藤敦子
配給:ムヴィオラ、ミモザフィルムズ
公式サイト:http://moviola.jp/booksellers/
★2021年4月23日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開



posted by sakiko at 11:07| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

SNS 少女たちの10日間  原題:V siti

sns.jpg

監督:バーラ・ハルポヴァー、ヴィート・クルサーク
原案: ヴィート・クルサーク
出演:テレザ・チェジュカー、アネジュカ・ピタルトヴァー、サビナ・ドロウハー

偽のSNSアカウントで暴き出す少女たちの性被害の実態

巨大な撮影スタジオに作られた3つの子ども部屋。幼い顔立ちをした18歳以上の3人の女優たちが、10日間、その部屋でパソコンに向かって12歳の少女を演じる。
ルールは、7つ。
1.自分からは連絡しない
2.12歳であることをハッキリ告げる
3.誘惑や挑発はしない
4.露骨な性的指示は断る
5.何度も頼まれた時のみ裸の写真を送る *偽の合成写真
6.こちらから会う約束を持ちかけない
7.撮影中は現場にいる精神科医や弁護士などに相談する

SNSに写真と共に偽アカウントで登録すると、またたく間に大勢の男たちが群がってくる・・・

あどけない少女たちに、露骨にビデオセックスを要求したり、自身の性器を見せつけたりする男たち。
チェコでドキュメンタリーとしては異例の大ヒット。警察からも犯罪の証拠として、映像を要求されたそうです。

パソコンに映し出される部屋には、少女を演じた女優たちの子ども時代の私物も持ち込まれて、窓の外も3つの部屋それぞれ違うので、まさか同じ撮影スタジオだとは誰も思わないでしょう。
やらせといえば、やらせ。手法はどうかと思う面もありますが、未成年が危険な世界に誘われていく実態を暴き出しています。今やインターネットで簡単に見知らぬ人と繋がりのできる時代。情報もたやすく手に入れることができます。こんな時代に、どうすれば親は我が子を守ることができるのか・・・ 映画は警鐘を鳴らしてはいますが、答えは教えてくれません。子どもだけでなく、大人もまた、ネット社会で危険と隣り合わせだということを心しないといけないと思わせてくれました。(咲)


10代の少女に群がってくる成人男性たち。おぞましくて固まりました。この人たちも母親から産まれています。姉や妹や娘がいたりしないのでしょうか?自分の行為で相手の女性が傷つくなど1ミリも想像できないのでしょう。
ほかのスタッフもいて後のケアもあるとはいえ、この女の子役の女性たちのトラウマにならないとは言えません。いったん出した映像はいくらでも広まっていってしまいます。つきとめた男性の家にスタッフだけ行くならまだしも、女性も一緒なのに驚きました。実際は大人でも、彼女たちがその後どうなったのかが心配です。あのひどい男たちは処罰されたんでしょうか?
この映画で自分の認識も新たにしました。なんにでも手軽にアクセスできてしまうこの頃、被害者になることもあります。利用者が知らなかったでは済まされません。周知と厳しい規制を望みます。(白)


この問題はチェコだけのことではなく、日本でも同じなのでしょう。子どもたちが通った学校では学校では警察庁サイバー犯罪対策課から専門家を講師に招き、SNS を通じた出会いの危険性、スマートフォンやタブレットなどの使いすぎなどを子どもたちに伝える情報モラル教育が行われていました。社会人の長女は高校生のとき、7歳離れた次女は中学生のときに受けたと記憶していますから、それを必要としている子たちがどんどん低年齢化して、今は小学生が受ける時代なんですね。
一方で自分の子どもがいけないことをしている場合もあります。知り合いの娘さんの母校(女子校)に若い男性の先生が赴任したとき、在校生がそれをTwitterでつぶやき、繋がっている先輩へと伝播し、その中の誰かがその先生のアカウントを特定して、そこからその先生の写真が流出したそう。若い男性に興味がある気持ちはわからなくもないですが、やっぱりそれはいけないこと。SNSは諸刃の剣。好奇心で軽はずみな行動を取ることがないよう伝えることも大事だと思いました。(堀)


2020年/チェコ/チェコ語/5.1ch/ビスタサイズ/104分/R-15
字幕翻訳:小山 美穂
字幕監修:牧野ズザナ
配給:ハーク
配給協力:EACH TIME
公式サイト:http://www.hark3.com/sns-10days/
★2021年4月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、 新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
posted by sakiko at 05:10| Comment(0) | チェコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

風が踊る [デジタルリマスター版](原題:風兒踢踏踩)

thumbnail_「台湾巨匠傑作選2021_侯孝賢監督デビュー40周年記念<ホウ・シャオシェン大特集>.jpg

監督・脚本:ホウ・シャオシェン
出演:フォン・フェイフェイ、ケニー・ビー、アンソニー・チャン、メイ・ファン

CMの撮影で澎湖島を訪れた女性カメラマン・シンホエ(フォン・フェイフェイ)は、事故で視力を失った青年チンタイ(ケニー・ビー)と知り合う。その後ふたりは台北で偶然再会を果たし、シンホエはなにかとチンタイの世話を焼いてしまう。チンタイは角膜移植が決まり、成功すれば目が見えるようになる。シンホエはCM監督のローザイ(アンソニー・チャン)と結婚する予定だったが、チンタイの人柄に惹かれていき、どちらにもはっきり伝えることができない。

「台湾巨匠傑作選2021_侯孝賢監督デビュー40周年記念<ホウ・シャオシェン大特集>」のうちの1本。公開当時はまだ香港のエンタメ作品を観ていて、台湾モノは後回し。このたび初めて観た作品です。香港映画でお馴染みのケニー・ビー、アンソニー・チャンが出演していて、あらまあと懐かしくなりました。当時アイドルだったというフォン・フェイフェイが、ちゃっかりして明るいシンホエに扮して可愛らしいです。服装や笑いをとるところが時代を感じさせますが、澎湖島や台北、シンホエの故郷の鹿谷の暮らしが垣間見られます。親と娘、男性と女性の結婚観など、今も昔も変わらないエピソードが織り込まれています。(白)

『風が踊る』(1981年)は、ホウ・シャオシェン監督のデビュー作『ステキな彼女』(1980年)と同時期に観た記憶がありました。調べてみたら、日本初公開は『風が踊る』1998年2月14日、『ステキな彼女』1998年2月7日でした。
どちらの作品にも、フォン・フェイフェイ、ケニー・ビー、アンソニー・チャンの3人が出ていて、観た当時、話がなんだかごちゃまぜに記憶されたように思います。
はっきり覚えているのは、阿B(ケニー・ビー)が爽やかだったということだけ。

ケニー・ビーも、アンソニー・チャンも、ウィナーズ(温拿)という1970年代に「香港のビートルズ」とも言われて人気だった5人組のメンバー。私がレスリー・チャンに落ちる前にファンだったアラン・タムがウィナーズのボーカルなので、映画を観たときに二人を知っていた次第。
『ステキな彼女』『風が踊る』の2本を1998年に観て、それからしばらくして香港に行った時に、たまたまウィナーズの再結成コンサートを香港コロシアムでやってました。空いていた席が、ステージの真後ろ。彼らの背中を見る位置だったのですが、ちゃんと時々振り返って顔を見せてくれました。

今回、23年ぶりに『風が踊る』を観たわけですが、最初はほんとに観たのかしらと思う位、記憶が蘇りませんでした。絶対観た!と、確信を持てたのが、ケニー・ビー演じるチンタイが、目の見えない人たちの為に読み聞かせを頼んでいる人の都合が悪くて、急遽、シンホエを連れていって、本(カラマーゾフの兄弟!)を読んでもらった場面。目の見えない人たちが一生懸命点字タイプを打ちながら聞いている姿をはっきりと覚えていました。
今回の<ホウ・シャオシェン大特集>の中に、『ステキな彼女』はありませんが、こちらもいつかまた観てみたいです。(咲)


中華圏の監督としては侯孝賢監督の作品が一番好きな時期もありました。特に初期の頃の抒情性のあるノスタルジックな作品が好きでした。なので、日本で観ることができた作品はほとんど観ていたので、この作品も観ていたつもりだったのですが、試写で確認したら観たことがなく、今回のリマスター版で初めて観ました。
この作品は侯孝賢監督の2作目の作品。1981年の作品で、服装や髪形、風俗、村や町の雰囲気、乗り物、建物などに時代を感じますが、侯孝賢の作品に流れる映画の雰囲気、ほっこりさせるものがありました。侯孝賢監督の作品といえば、海辺や山間部の田舎町、いたずら好きな子供たち、その子供たちの失敗、あるいはずっこけ風景、学校、授業風景、緑が多いところを走るローカル線、古い列車、単線の線路、バイクの疾走、そんなシーンを思い浮かべますが、その後の作品につながる片りんもたくさん出てきました。
第一作目の『ステキな彼女』同様、当時人気歌手だった鳳飛飛(フォン・フェイフェイ)と鐘鎭濤(ケニー・ビー)、それに陳友(アンソニー・チェン)が出演していたけど、まだそんなに名を知られていない侯孝賢監督の作品に、そういう人たちが出ていたということが今となっては驚き。あるいはそういう人たちが出てくれたことで、監督の名が知られるようになっていった部分もあるのか? 私は『悲情城市』で侯孝賢監督のことを初めて知ったので、あの頃の台湾や香港の芸能界事情にはうとかったから、そのへんのいきさつとかはわからない。
でも侯孝賢監督には先見の明というか、撮影地を後に有名にさせる何かがあるのかも。撮影クルーがCM 撮影のために訪れた澎湖(ポンフー)島。この島はのちの『風櫃(フンクイ)の少年』の撮影地にもなりました。映画に写っていたのはひなびた島だったけど、今やこの島は観光地として賑わっているらしい。『悲情城市』に出てきた九份も、金山の賑わいが去って、寂れた街だったけど、この映画以降ここも観光地になり、今や観光客がたくさん訪れ、土日は人込みがすごくて歩くのも思うようにいかない状態になっている。『恋恋風塵』に出てきた十分駅や駅のそばの列車が人家すれすれに走っていた十分老街も、今やお土産屋が並ぶ一大観光地になっている。侯孝賢監督作品が好きで、撮影地である九份と十分は、これらの映画以降5回も訪れた私です(笑)。大好きな侯孝賢監督の映画でしたが、残念ながら『好男好女』あたりからあまり好きではなくなりました(暁)。


1981 年/台湾/シネスコ/92 分
原題:風兒踢踏踩
英題:Cheerful Wind ©1982 Kam Sai (H.K.) Company /
© 2018 Taiwan Film Institute. All rights reserved.
配給:オリオフィルムズ
提供:竹書房/オリオフィルムズ
https://taiwan-kyosho2021.com/
★2021年4月17日(土)より~6 月 11 日(金) 新宿 K’s cinema 他順次上映
posted by shiraishi at 01:30| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

きみが死んだあとで

劇場公開 2021年4月17日 ユーロスペースほか
劇場情報 
きみが死んだあとで_B5チラシ_表_R_R.jpg
(C)きみが死んだあとで製作委員会

製作・監督・編集:代島治彦
撮影:加藤孝信
整音・音響効果:滝澤 修
音楽:大友良英
写真:金山敏昭、北井一夫、渡辺 眸
登場人物はこちら

すべては「第一次羽田闘争=きみの死」からはじまった
「あの時代」を語り継ぐ

1967年10月8日。佐藤栄作内閣総理大臣(当時)の南ベトナム訪問阻止のため、ヘルメットやゲバ棒で武装した学生は羽田空港に通ずる弁天橋で機動隊と激突。その「三派全学連」を主体とする第一次羽田闘争は、その後、過激化してゆく学生運動のきっかけとなる事件だった。そのなかで一人の若者が殺された。山﨑博昭、18歳だった。死因は諸説あるが、機動隊に頭部を乱打されたためか、装甲車に轢かれたためか、彼の死は同世代の若者に大きな衝撃を与えた。山﨑博昭の死から半世紀が過ぎた。亡くなった山﨑博昭の兄や、高校の同級生・同窓生たち、当時の運動の中心だった人たち14人が登場し、彼のこと、事件のこと、あの時代のこと、その後の運動のことを語る。それぞれの記憶の中から語られるそれぞれの青春と悔恨。あの時代の若者たちの熱い思いと行動の意味が浮かびあがる。
「きみの死」はまだ終わっていない。半世紀を経てもなお、その宿題は続いているのだ。
上・下巻合わせて3時間20分の大長編にまとめたのは、『三里塚に生きる』『三里塚のイカロス』代島治彦監督。音楽は大友良英。フリージャズをベースにしたアナーキーな主題曲は、混乱と若者たちの息吹を感じさせる。最後にかかる「インターナショナル」もこの方法で演奏されよけいやりきれない思いが押し寄せる。権力と闘い、革命を叫んだ「全共闘世代」の思いを記録した重厚なドキュメンタリー。

このドキュメンタリーを作ったきっかけ HPより 代島治彦監督
「10・8山﨑博昭プロジェクト」は、山﨑博昭の兄・建夫さんが弟の死を追悼したいと呼びかけ、集まった大手前高校の同期生や先輩、第一次羽田闘争を一緒に闘った同志が中心となって立ち上げたプロジェクト。設立は2014年10月だったと思います。プロジェクトの大きな目標は3つ。羽田・弁天橋の近くに山﨑博昭を永遠に追悼するモニュメントを建立すること、山﨑博昭が残した日記や手記を一冊の本として出版すること、山﨑博昭が生命をかけて闘った「日本のベトナム反戦運動」の歴史を後世に伝える展覧会を開催すること。このなかで、ぼくに映画を作らせる入り口となったのが二冊の本でした。当初は一冊の本として出版する予定だったのが、集まった原稿量が多くて、それから当時の資料をすべて収集網羅しようとしたために総頁数1200を超える二冊の大著になったのです。本の題名は『かつて10・8羽田闘争があった』。「寄稿編」と「記録資料編」の二冊に分かれています。ぼくが特に心奪われたのは、山﨑博昭の大手前高校同期生や先輩、羽田・弁天橋で一緒に闘った同志、そして「あの時代」を共に生き抜いた同時代者たちが寄せた原稿でした。そこには第一次羽田闘争を出発点とした61人の長い人生がありました。61人それぞれの個人の記憶が交錯し、時代の記憶が紡がれていました。

kimiga_sinda_atode_001main_R_R.jpg
(C)きみが死んだあとで製作委員会

私は代島監督より少し上で、かろうじて学生運動に間に合った最後の世代。羽田闘争があった1967年に高校に入学。通っていた工業高校でも1968年頃から学生運動の波が届き、学内集会なども行われた。
この羽田闘争くらいから学生運動が高揚し、ヘルメットにゲバ棒というスタイル、大学にはスローガンを掲げた立て看板が立ち並ぶようになっていった。ベトナム戦争はますます激しくなり、沖縄からベトナムに出撃する飛行機が増え、アメリカ兵も増えていった時期でもあった。新宿駅西口でで反戦フォークを歌う集会などもおこなわれるようになり、1968年10月21日の国際反戦デーには新宿騒乱事件もあった。これらの運動の原点が、この第一次羽田闘争だったのだとこのドキュメンタリーで改めて認識した。
1969年には私もベトナム戦争に反対する反戦集会やデモに出かけるようになっていた。高校3年だった。友人から誘われて学校帰りに学生服のままベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)のデモに参加した。結局、高校を卒業し就職するまでデモに20回くらい参加したと思う。その頃、あちこちの地域でベ平連のデモはあったけど、私が行ったのは四谷の清水谷公園が多かったので、たぶん中央会場だったのだろう。ニュースなどで名を知っていた小田実さんや吉川勇一さんなどがいた。ベトナム戦争当時、アメリカ軍の飛行機は沖縄の基地からも飛び立っていたから、「ベトナムに平和を。日本はこの戦争に加担すべきでない」というのが、これらの運動、行動をする人たちの共通認識だった。その会場にヘルメットにゲバ棒をもち、ジグザグ行進する学生運動の人たちもいたが、私には「平和を」と言っているのに暴力を肯定するような行動と言動には違和感があったが、そういう人たちも含んでの、あの頃の「ベトナム反戦運動」だった。
そんな市民運動や学生運動は終わってしまったという人もいるけど、私は終わっていないと思う。それらに参加した人たちは、あの頃の行動とは違った形で自分の思いを表現し、行動し、生きている。あれから40年以上たって、あの頃のことが検証されるのはとても意義のあること。彼らがまだ生きているうちに記録し、あの頃の行動の意味、息吹を後の世代に伝えていかなければ、彼らの思いは伝わらず、ただ「暴動」のような言い方をされてしまう。私自身、「羽田闘争」などの行動の時に参加していた人たちの思いとかその後の生き方などを知らなかったので、このドキュメンタリーを観て、改めて彼らの思いを知ることができた。
そして意外な繋がりを感じた。山﨑博昭さんの先輩で、京大中核派のリーダーだった赤松さんが、その後ワイン醸造会社に就職して葡萄を育てているというので調べてみたら、赤松さんは、私がずっと気になっていたワイン会社の農場の農場長だったということがわかった。すでに退職しているけれども、私は今もこの農場に行ってみたいと思っている。また、この事件で「羽田10.8救援会」を組織し、この後「救援連絡センター」を設立。その後、反原発運動にかかわり、日本の反原発の主導的役割を担っていた物理学者の水戸巌さんと一緒に活動していた妻の喜世子さんも出てきたが、長年登山をやっていた私は剣岳で亡くなった水戸巌さん親子の遭難のことを覚えている。いっぺんに夫と双子の息子の家族3人を亡くしてしまった喜世子さんの無念さを思うと涙が出た。ちなみに剣岳は私も2回挑戦したけど、結局登頂できていない。挑戦して登頂できなかった山は剣岳だけなので、喜世子さんだけでなく、亡くなった方たちの無念さもすごくわかる。
最後に流れた「インターナショナル」。これまでに聞いたこともないようなフリージャズ的なノイジーな演奏でとても気になった。大友良英さんが音楽担当だったんだ。私は「インターナショナル」を、このベ平連のデモの中で知った。今も映画を観ていると、いろいろな映画で「インターナショナル」が出てくるが、こういう形の演奏は初めてだった。私は大友良英さんの名前をアジア映画を観る中で知ったけど、本来はこういうフリージャズなどの分野で活躍している人だったのですね。
金山敏昭、北井一夫、渡辺 眸3氏の写真もたくさん出てきて、こんなにもたくさんの写真を撮っていたんだとびっくりした。貴重な記録だと思う。北井一夫さんが学生運動の写真を撮っていたのは知っていたけど、渡辺 眸さんがこんなにも学生運動の写真を撮っていたとは知らなかった。そして私自身は、キャパ、一ノ瀬泰三、石川文洋などのベトナム戦争での写真を見て報道写真を志したことを思いだした。私の人生にとってもベトナム戦争はとても大きな影響を受けた出来事だった(暁)。


大阪の隣り、神戸で生まれ育った私にとって、大阪の公立の進学校といえば、北野か大手前という認識でした。その大手前高校から京大に進学された山﨑博昭さん。生きていらしたら、どんな人生を歩まれたでしょう。同級生の方たちの「その後」を、本作で知って、そんなことをまず思いました。
山﨑博昭さんの兄・山崎建夫さんが検死のための解剖に立ち会われた時に、身体がとても奇麗だったと語っていらして、死亡の原因が諸説ある中で、学生たちが奪った装甲車に轢かれたという説は違うと感じました。機動隊に頭部を乱打されたことを原因としたくなかったのではと勘ぐってしまいます。真実はわかりませんが。
山崎建夫さんが見せてくださったお母様の家計簿に書き留められていた言葉に涙が出ました。短い言葉の中に、お母様の無念な思いが溢れ出ていました。

私は1953年生まれで、安保闘争で1960年6月15日に東大の樺 美智子さんが死亡した事件はよく覚えているのですが、1967年に山﨑博昭さんが亡くなられた羽田闘争については記憶が飛んでいました。ずっと学生運動が続いていて、ニュースを見ても、感覚が麻痺して受け付けていなかったのかもしれません。
私が高校2年生だった1969年には、学生運動が高校にも飛び火してきて、私の高校でも2~3か月授業を一切しないで、毎日討論していました。背中を向けて、後ろで本を読んでいたほど関心がありませんでした。
高校闘争は、ハンストをした学生がいて、文理系の区別をなくしたクラス設定にするなどの結論が出されて終止符が打たれました。授業が再開された中、クラブが一緒で親しくしていたF君が、ベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)にのめり込んでいき、何を思い詰めたのか自殺してしまいました。
1960年代という時代、大きな歴史のうねりの中で、真剣に社会や政治に立ち向かった若い人たちが大勢いたのに、今の若い人たち(もちろん、元若い人も含めて)には、そんな覇気のある人が少ないと感じます。あの60年代のエネルギーはどこから湧いてきたのかと、ノンポリの私がいうのもおこがましいですが・・・ いろんな思いがよぎった『きみが死んだあとで』、ぜひ若い方たちに観てほしい映画です。(咲)


『きみが死んだあとで』公式HP
(日本/2021年/200分(上巻:96分/下巻:104分)/DCP/5.1ch)
制作:スコブル工房/配給:ノンデライコ/
宣伝:テレザ/企画・製作:きみが死んだあとで製作委員会

大友良英
posted by akemi at 01:23| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

台湾巨匠傑作選2021 侯孝賢監督40周年記念 ホウ・シャオシェン大特集

2021年 4月17日(土)〜 6月11日(金)
新宿K's cinema他順次上映 上映スケジュール

メインビジュアル_台湾巨匠傑作選2021_侯孝賢40周年記念ホウ・シャオシェン大特集s_R_R.jpg


今年の「台湾巨匠傑作選2021」は、2020年に映画監督生活40周年を迎えた侯孝賢監督(ホウ・シャオシェン)の特集上映が行われる。侯孝賢の、監督、主演、プロデュース作品、オリビエ・アサイヤス監督による貴重なドキュメンタリーを含む全22作品が上映される。今回の特集は、同年11月に中華圏映画のアカデミー賞と称される金馬奨の名誉賞(終身成就賞)を受賞したことを記念したもの。また、ホウ・シャオシェン特集のほか、「隠れた名作台湾映画発掘!貴重な未公開映画上映&解説」も開催される。

侯孝賢が主演した「台北ストーリー」.jpg
侯孝賢が主演した「台北ストーリー」(監督エドワード・ヤン)の劇中衣装を洋服店で物色中のヤンと侯孝賢_写真提供:朱天文

上映されるのは、台湾ニューシネマの誕生と表される『坊やの人形』から、世界の映画人から評価された『風櫃(フンクイ)の少年』『冬冬(トントン)の夏休み』『童年往事 時の流れ』といった初期傑作群。89年にベネチア国際映画祭金獅子賞受賞し、中華圏映画初の世界三大映画祭グランプリ受賞の快挙を成し遂げた大作『悲情城市』は、35ミリフィルムでの上映。

監督デビュー2作目『風が踊る』はデジタルリマスター版での披露となり、『フラワーズ・オブ・シャンハイ』は4Kデジタルリマスター版で劇場初上映。プロデュース作からは、『One Day いつか』(監督:ホウ・チーラン)を日本初上映、今夏劇場公開予定の『日常対話』(監督:ホアン・フイチェン)を特別上映。

『風が踊る』
『風が踊る[デジタルリマスター版]』メイン_R_R.jpg
(C)1982 Kam Sai (H.K.) Company c 2018 Taiwan Film Institute. All rights reserved.

『HHH:侯孝賢』
「HHH:侯孝賢」メイン_R_R.jpg
(C)AMIP-La Sept ARTE-INA-France 1997

「隠れた名作台湾映画発掘!貴重な未公開映画上映&解説」は、台湾映画コーディネーター・江口洋子さんが選んだ5作品を披露。『大仏+』(監督:ホアン・シンヤオ)、『狂徒』(監督:ホン・ズーシュアン)、『よい子の殺人犯』(監督:ジャン・ジンシェン)、『High Flash 引火点』(監督:ジャン・ジンシェン)、『アリフ・ザ・プリン(セ)ス』(監督:ワン・ユーリン)がラインナップされ、各回上映終了後、江口さんの解説映像を上映する。

『よい子の殺人犯』(最乖巧的殺人犯)
よい子の殺人犯_R.jpg
ⓒ 2019 ANZE PICTURES Co. , Ltd. ALL RIGHTS


『High Flash 引火点』(引爆點)
『High Flash〜引火点』.jpeg
Ⓒ闊世電影股份有限公司

台湾巨匠傑作選2021 侯孝賢監督40周年記念 ホウ・シャオシェン大特集
公式HP 
◆You tube URL

「騒豆花 新宿ミロード店」タイアップ
配給:オリオフィルムズ 提供:竹書房/オリオフィルムズ
配給・宣伝協力:トラヴィス 
協力:竹書房|松竹|ぴあ|熱帯美術館ENGAWA|山形 国際ドキュメンタリー映画祭|アクセスエー|A PEOPLE CINEMA|太秦|ディメンション|華文創股份有限公司|
貴金影業傳媒股份有限公司|時光草莓電影有限公司| 安澤映畫有限公司|闊世電影股份有限公司|蔓菲聯爾創 意製作有限公司|東京国際映画祭|アジアンパラダイス| 台湾映画同好会(順不同)
協賛:騒豆花 新宿ミロード店
後援:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター

posted by akemi at 01:20| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月15日

AVA/エヴァ 原題:Ava

ava.jpg

監督:テイト・テイラー(『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』)
出演:ジェシカ・チャステイン、コモン、ジョン・マルコヴィッチ、コリン・ファレル
ジェシカ・チャステイン(『ゼロ・ダーク・サーティ』)、コモン(『ハンターキラー 潜航せよ』)、ジョン・マルコヴィッチ(『RED/レッド』)、コリン・ファレル(『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』)

エヴァ(ジェシカ・チャステイン)は組織に属する暗殺者として、その美貌で男を油断させ、軍隊仕込みの腕で完璧に仕事をこなしている。今日もパリの空港で出迎えた男を森に連れ込んで消し去った。8年ぶりにボストンの実家に帰ると、妹はエヴァの元彼マイケル(コモン)と暮らしていた。母は心筋梗塞で入院中。ほどなく次なる指令を受け、サウディアラビアの首都リヤドに向かう。外国人の集うパーティーで、標的の男を色香で別室に誘い込む。いつものように殺しの跡を残さず始末しようとしている最中、男たちが乗り込んできて激しい銃撃戦となる。かろうじて逃げ延びたエヴァは、師として仰ぐデューク(ジョン・マルコヴィッチ)に会いにいく。デュークが育て、今や組織最強の実力者となったサイモン(コリン・ファレル)が、エヴァを消そうとして偽指令を出したらしいと判明する・・・

指令を受けて、暗殺理由を問うのはご法度。エヴァは自分の仕事の意義を知りたくなります。とどめをさす間際に、「どんな悪いことをしたの?」と尋ねたのを監視者に盗聴されてしまいます。サイモンはエヴァを組織にとって危険人物と判断して敵対視するのです。
デュークは、組織の内輪もめと知られてはまずいと、シリアの友人に偽の中東のテロ組織の犯行声明を出してもらうと言います。西側の政府や組織が実際にやりそうな手口!
本作では、エヴァがなぜ暗殺者になったかも、家族との関係を丁寧に描きながら紐解いていきます。
私にとって、何といっても興味深かったのがサウディアラビアの場面。パーティーで、エヴァは胸元もみせる艶やかな真っ赤なドレス姿。ほかの女性たちも肌を見せています。厳格なイスラームの国ですが、壁で囲まれた外国人居住区の中では、髪の毛や肌を見せることは問題ないと聞いていました。なるほどと! エヴァが銃撃戦から逃げ出して、外に出る時、赤いドレスの裾から、さっと赤い布を出して頭に巻いて出ていきます。鮮やかな演出でした。(咲)


ジェシカ・チャステインをはっきり認識したのは本作のテイラー監督の『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』(2012年公開)。マリリン・モンローを思わせる金髪美人の人妻役でした。自分がどう思われているかよく知っていて、可愛くて悲哀も抱えている女性を好演していました。同年夏に公開された『ツリー・オブ・ライフ』の奥さん役よりこちらが断然良かったです。
女性の権利を守る活動にも熱心で頼もしい限り。2017年のカンヌ映画祭で審査員を務めたときは、作品の中の女性の描かれかたに違和感があったと語っていました。もっと女性の作り手が出てくれればという彼女の希望は、4年後の今少しは叶えられているでしょうか。
今回の映画では暗殺者役ですが「カッコいい!」です。(白)


2020年/アメリカ/英語/97分/シネマスコープ/カラー/PG12
日本語字幕:平井かおり
配給:クロックワークス
©2020 Eve Nevada, LLC.
公式サイト:https://klockworx-v.com/ava/
★2021年4月16日(金) 新宿バルト9ほか 全国ロードショー

posted by sakiko at 02:05| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月09日

ザ・バッド・ガイズ(原題:나쁜 녀석들、英題:THE BAD GUYS:REIGN OF CHAOS)

thebadguys.jpg
 
監督:ソン・ヨンホ 『鬼はさまよう』
出演:マ・ドンソク、キム・サンジュン、キム・アジュン、チャン・ギヨン 

囚人たちを乗せた護送車が武装集団に突如襲撃され、凶悪な犯罪者たちが脱走してしまった。この史上最悪の事件を解決するため、警察組織の上層部は元警察官のオ・グタク(キム・サンジュン)に指令を出し、重罪で刑務所に収監中の服役囚たちを集めた極秘プロジェクト、“特殊犯罪捜査課”を始動させる。オ・グタクは“伝説の拳”と呼ばれて恐れられているパク・ウンチョル(マ・ドンソク)、どこか信用できないが頭は切れる詐欺師のクァク・ノスン(キム・アジュン)、過失致死罪に問われた無鉄砲な元エリート刑事のコ・ユソン(チャン・ギヨン)をメンバーとした最凶チームを結成。減刑を条件として、時に協力し合い、時に衝突しながらも凶悪犯たちを追い詰めていく。しかし、今回の事件の背後には国家を揺るがす巨大な陰謀が見え隠れし、謎の組織が暗躍していた。

“マブリー”と呼ばれて、すっかりいい人キャラが定着したマ・ドンソク。みんなの期待に応えて、今作でも素手で強敵に立ち向かう主人公をド迫力で演じています。監督が3~4日掛かると思っていたクライマックスのアクションシーンを圧倒的な力で押しまくり、1日半ですべてこなしてしまったというのだから驚きです。
一方、病身に鞭打って現場復帰したオ・グタクを演じたキム・サンジュンもここぞという瞬間にベテランの一発を見せてくれました。ラブコメからシリアスまでこなす実力派キム・アジュンはかつてモデルだった抜群のスタイルでしなやかで機敏なアクションを繰り広げ、思わず見とれてしまいそう。ドラマで活躍してきたチャン・ギヨンは本作で映画デビュー。迫力あるアクションシーンを披露するために、撮影前にソウルのアクションスクールで特訓し、見事なワイヤーアクションで存在感を放っていました。
わかりやすいストーリー展開で痛快無比なアクション・エンターテインメントは疲れたときの気分転換にぴったりです。(堀)


2019年/韓国/115分/カラー/シネマスコープ/5.1CH
配給:エスピーオー
ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BIDANGIL PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:https://thebadguys.jp/
★2021年4月9日(金)よりロードショーシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国ロードショー
posted by ほりきみき at 20:00| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

約束の宇宙(そら)  原題:Proxima

yakusokuno.jpg

監督・脚本:アリス・ウィンクール
脚本:ジャン=ステファヌ・ブロン
音楽:坂本龍一
出演:エヴァ・グリーン、ゼリー・ブーラン・レメル、マット・ディロン、ラース・アイディンガー、ザンドラ・ヒュラー

サラ(エヴァ・グリーン)は8歳の時に抱いた宇宙に行きたいという夢に向かって、今は故郷フランスを離れ、ドイツにある欧州宇宙機関(ESA)で宇宙飛行士としての訓練を受けている。そして、いよいよチャンスが巡ってくる。「プロキシマ(Proxima)」と名付けられた約1年間の国際宇宙ステーション滞在クルーに選ばれたのだ。物理学者の夫トマス(ラース・アイディンガー)と離婚し、7歳の娘ステラ(ゼリー・ブーラン・レメル)を一人で育てているサラにとって、1年間娘と離れることが一番の心配だ。元夫にステラを託すしかない。
出発まで、あと2カ月。サラはロシアのスターシティに移動する。初めての面会日、飛行士と家族のサポートを担当するカウンセラーのウェンディ(ザンドラ・ヒュラー)がステラを連れてきてくれる。分刻みのスケジュールの訓練の合間を縫っての面会に、ステラは寂しさのあまり、ろくに口をきかないまま帰国してしまう。サラはステラに打ち上げ前に二人でロケットを見ようと約束していた。それはちゃんと果たせるのか・・・

女性宇宙飛行士と幼い娘の母子の情を紡いだのは、『裸足の季節』(2015年)でのデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督との共同脚本が絶賛されたアリス・ウィンクール。
アリス・ウィンクール監督_.jpg

1976年フランス・パリ生まれで、脚本執筆当時、自身の娘が8歳。親子の関係を描きたいという思いを、幼いころからの宇宙への憧れと重ね合わせた物語。執筆にあたり、欧州宇宙機関(ESA)に滞在させてもらい、二人の宇宙飛行士に取材。その一人がフランス人初の女性宇宙飛行士クローディ・エニュレ。取材で目の当たりにした過酷な訓練の様子や、女性宇宙飛行士の心情が映画に反映されています。男性主導の宇宙飛行士の世界での苦労は計り知れません。女性としての存在を感じさせないように振舞わなければならない世界。一方で、我が子に愛情をふりそそぐのは、どこにでもある母の姿。宇宙に飛び立ったあと、もしかして戻って来られないかもと思うと、なおさら娘が愛おしいでしょう。
映画の最後に、実際に宇宙を体験した女性宇宙飛行士の方たちの姿が映し出されます。彼女たちに賛辞を贈るとともに、これから宇宙に挑む女性たちへのエールとなっています。
撮影は、欧州宇宙機関(ESA)全面協力の下、ドイツ、ロシア、カザフスタンの宇宙関連施設で行われ、リアルな宇宙飛行士の世界が伝わってきます。
いよいよ打ち上げを2週間後に控え、感染予防のため隔離期間に入ったサラと娘が面会する場面。ガラス戸を隔てて、実際にハグすることが出来ない姿に、今のコロナ禍の状況を重ね合わせてしまいました。手や肌のぬくもりを感じあうことの大切さをつくづく思います。(咲)


2019 年/フランス/フランス語・英語・ロシア語・ドイツ語/107分/カラー/ビスタ/5.1ch
配給:ツイン
後援:JAXA
©Carole BETHUEL ©DHARAMSALA& DARIUS FILMS
公式サイト:http://yakusokunosora.com/
★2021年4月16日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー



posted by sakiko at 19:17| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月05日

BLUE/ブルー

EYUbBqy4.jpg

監督・脚本・殺陣指導:吉田恵輔
撮影:志田貴之
音楽:かみむら周平
主題歌:竹原ピストル「きーぷ、うぉーきんぐ!!」(ビクターエンタテインメント)
出演:松山ケンイチ(瓜田信人)、木村文乃(天野千佳)、柄本時生(楢崎剛)、東出昌大(小川一樹)、守谷周徒、松浦慎一郎、松木大輔

誰よりも何よりもボクシングを愛している瓜田。しかし熱情とその努力とは裏腹に負け続き。瓜田が誘った後輩の小川は、卓抜した才能とセンスで瓜田を追い越して駆け上がった。チャンピオンに手が届くところにまで来て、瓜田の幼なじみの千佳ともうじき結婚する。瓜田は千佳への想いを語らず、胸に秘めたままやってきた。手の中には何も残っていないけれど、努力することだけはやめられない。

タイトルのブルーはリングの「青コーナー」のこと。挑戦者の場所です。受けて立つ方は赤コーナー。中学生の頃からボクシングを続けてきた吉田監督には、瓜田のモデルとなった忘れられない先輩がいました。絵にかいたようないい人だったけれども、ボクシングで開花することはなく、今どうしているだろうと脚本を書き始めたのだとか。トレーナーで俳優の松浦慎一郎さんが、俳優にボクシング指導をしていますが、試合のアクションは監督がビデオコンテを作り指導にあたっています。結果、経験者が見てもウソのない、リアルなシーンが完成。リアルを目指していくほど地味になったそうです。
松山さんは努力家のイメージがありますが、今回も役を受けてから2年もジムに通い、身体や感覚を瓜田に寄せていったそうです。片思いの瓜田が、なんだかとても色っぽいです。天才肌の小川、モテたくてボクシングを始めた楢崎は意外にセンスがありました。そんな後輩を笑顔で見ながら、瓜田は忸怩たる思いを抱えていたはず。3人は『聖の青春』(2016)以来5年ぶり、演技での「競演」もじっくりご覧ください。(白)


切ない物語でした。
松山ケンイチさん、柄本時生さん、東出昌大さん、それぞれが演じた役柄の思いが、身体全体から醸し出されています。
格闘技は嫌いなのに、格闘技に賭ける人たちの思いを描いた映画には惹かれます。
古くは『ロッキー』(1976)や『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)、比較的最近では『ジョーのあした -辰吉丈一郎との20年-』(2015)、『オリ・マキの人生で最も幸せな日』(2016年)『あゝ、荒野』(2017)が今でも心に残っています。
この映画もそんな映画の一つになりそうです。(咲)



2021年/日本/カラー/シネスコ/107分
配給:ファントム・フィルム
©2021『BLUE/ブルー』製作委員会
https://phantom-film.com/blue/
★2021年4月9日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー

posted by shiraishi at 00:59| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

砕け散るところを見せてあげる

kudakechiru.jpg

監督・脚本:SABU
原作:竹宮ゆゆこ
出演:中川大志(濱田清澄)、石井杏奈(蔵本玻璃)、井之脇海(田丸玄悟)、清原果耶(尾崎・妹)、松井愛莉(尾崎・姉)、北村匠海(真っ赤な嵐)、矢田亜希子(清澄の母)、木野花(おばちゃん)、原田知世、堤真一(玻璃の父)

普通の高校3年生・濱田清澄は朝礼に遅刻して、目立たないように1年生の列に紛れ込んだ。そこで一人の女子生徒がいじめの標的になっていることに気づく。正義感が人一倍強い清澄は見過ごすことができず、その子を助けていた。学年一の嫌われ者の蔵本玻璃と知るが、なぜなのか理由はわからない。玻璃をいじめからかばっているうちに、清澄は彼女が普通の女の子でむしろ可愛いと思うようになる。次第に玻璃も清澄に心を開き、2人の心の距離も縮まっていくのだったが…。

原作は竹宮ゆゆこの同名小説。ターゲットは高校生前後あたりか?あまりに隔たっていて初めて聞くお名前で、1冊も読んだことがありませんでした。『坂道のアポロン』の中川大志と『ガールズ・ステップ』の石井杏奈のW主演で映画化。
始まりは高校を舞台に、ヒーローが女子を助け出し、二人が仲良くなって明るく爽やかな青春ストーリー、にと思いきや、そんなことにはならず。こ、これは?な展開になだれ込みます。いやはや。詳しくは書けませんが、玻璃の秘密が明らかになっていくのがミソです。SABU監督と玻璃の父親役の堤真一さん、大いに楽しんだに違いない。SABU監督の『jam』(2018)の筒井真理子さん凄かったけれど、こちらもなかなか。(白)


2021年/日本/カラー/127分/PG12
配給:イオンエンターテイメント
(C)2020 映画「砕け散るところを見せてあげる」製作委員会
https://kudakechiru.jp/
★2021年4月9日(金)より

posted by shiraishi at 00:43| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゾッキ

zokki.jpg

監督:竹中直人・山田孝之・齊藤 工
原作:大橋裕之
脚本:倉持裕
音楽:Chara
出演:吉岡里穂(前島りょうこ)、鈴木福(伊藤)、満島真之介(旅人)、柳ゆり菜(若い女)、南沙良(松原京子)、安藤政信(道場の師範代)、ピエール瀧(定男)、森優作(牧田)、九条ジョー(伴くん)、木竜麻生(本田)、倖田來未(足立の女房)、竹原ピストル(父)、渡辺佑太朗/潤浩(マサル)、松井玲奈(幽霊のような女)松田龍平(藤村)、石坂浩二(祖父)、國村隼(ヤスさん)

りょうこは縁側で日がな寝ている祖父から「生き物は秘密がなくなったら死ぬんじゃないだろうか」と言われて秘密が気になってくる。あてのない人生を続けてきた藤村は、ママチャリで南へ向かって旅に出ることにした。荷物は寝袋と道端で拾ったエロ本一冊。牧田は美人の姉がいるという誤解をとけないまま、妄想に走る伴くんと友達になった。マサルはいなくなった父と、子どものころに遭遇した出来事を思い出す。ビデオやのバイト店員伊藤は海の向こうの国での事件を知った。

孤高の天才漫画家大橋裕之の幻の初期作集「ゾッキA」「ゾッキB」にほれ込んだ竹中直人企画・監督、山田孝之が製作・監督、齊藤工も監督で加わりました。短いエピソードをオムニバスにせず、脚本の倉持裕がそれぞれが少しずつ重なるよう、ゆるやかにつなげています。自分のシーンだけしか知らない出演者たちが、完成した作品を観て「わー!」とか「へー!?」とか驚いたはず。
描かれているのはありふれた日常、ちょっと妙なことが散りばめられています。一番インパクトがあったのは友達のお姉さんに妄想をたぎらせる伴くんと、初めてできた友達のために奔走する牧田くんのストーリー。のめり込む九条ジョーくんと貧乏くじをひく森優作くんインプットしました。着ぶくれた石坂さんと、パーティ帽の國村さんにも、こんな姿見たことない!と思わずニンマリしてしまいました。
勝手に金言「人生は秘密でより楽しくなる」。
※「ゾッキ」とは、“寄せ集め”という古本市場で使われる特殊用語だそうです。(白)


2020年/日本/カラー/シネスコ/113分
配給:イオンエンターテイメント
(C)2021「ゾッキ」製作委員会
★2021年4月2日(金)より全国公開中!
posted by shiraishi at 00:00| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月04日

街の上で

machinouede.jpg

監督:今泉力哉
脚本:大橋裕之
撮影:岩永洋
音楽:入江陽
主題歌:ラッキーオールドサン「街の人」(NEW FOLK / Mastard Records)
出演:若葉竜也(荒川青)、穂志もえか(川瀬雪)、古川琴音(田辺冬子)、萩原みのり(高橋町子)、中田青渚(城定イハ)、成田凌(友情出演)

下北沢の古着屋で働いている荒川青(あお)。青は基本的にいつも一人で行動している。ライブや飲み屋や古本屋、自分にとって必要なものが間に合う下北沢から出ることもない。そんな青に自主映画を撮っているという女性客が「自分の映画に出ないか」と声をかける。ふってわいた話に戸惑う青だったが、ちょっとその気になって初めての映画の撮影現場に出かけてみる。

コロナ禍で、昨年の公開予定が延びて、このほど上映が決まった2019年の作品。後からの『あの頃。』がつい先日公開になりました。そちらにも出演している若葉竜也さんの初の主演作品です。舞台は下北沢、見たことのある通りや店の看板に、ブラブラ町歩きがしたくなります。事件が起きるわけでもなく、ふんわりして優しい空気の中を漂うような作品です。
試写は去年の春でした。若葉さんは出演作品が続いていますし、青が出会う4人の女優さんたちも、ほかの作品で次々と見かけました。今泉監督が「若い俳優さんたちをおんぶしてやりたい」と語るのをどこかの記事で読みました。有名俳優さんは素晴らしいけれど、どんな花が咲くかわからない若い芽を見つけてるのっていいですよね。日に当てたり、肥料をあげて育てるのって楽しい。こちらは見守らせていただきます。(白)


主人公は彼女から別れを告げられたけれど、なかなか吹っ切れない。彼が勤める古着屋には好きな女に告白しようとしている男とその男が好きだから告白の衣装決めに付き合う№2の女がくる。行きつけの古本屋のアルバイト店員は妻子ある店長に想いを寄せる。主人公を振った女は別の男と付き合うが…。恋愛って人によって本当にさまざま。何が正しくて、何が間違っているとは決められない。好きになってしまったら止められないし、気持ちが冷めたら続けられない。そんな当たり前のことで人は思い悩む。それを下北沢という街を舞台にさらりと描いてしまう今泉力哉監督の手腕に唸る。(堀)

2019年/日本/カラー/シネスコ/130分
配給:『街の上で』フィルムパートナーズ
配給協力:SPOTTED PRODUCTIONS
(C)『街の上で』フィルムパートナーズ
公式サイト:https://machinouede.com/
公式Twitter:https://twitter.com/machinouede
公式Facebook:https://www.facebook.com/machinouede/
★2021年4月9日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 19:14| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アンモナイトの目覚め  原題:Ammonite

Ammonite.jpg

監督・脚本:フランシス・リー(『ゴッズ・オウン・カントリー』)
出演:ケイト・ウィンスレット(『愛を読むひと』)、シアーシャ・ローナン(『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』)、ジェマ・ジョーンズ、ジェームズ・マッカードル、アレック・セカレアヌ、フィオナ・ショウ

英国女性メアリー・アニング。
ダーウィンの進化論の理論形成にも影響を与えたともいわれる研究を成し遂げながら、女性故に死の直前まで認められなかった。
本作は、メアリー・アニングにインスパイアされて、想像力たくましく描いた物語。

1840年代、イギリス南西部の海辺の町ライム・レジス。
石のごろつく海岸で、化石を探すメアリー。13歳の時に魚竜イクチオサウルスの化石を発掘した栄光も過去のものとなり、今は観光客の土産物用アンモナイトを探して生活の糧としている。老いた母(ジェマ・ジョーンズ)との二人暮らしだ。
そんなある日、ロンドンから化石収集家のロデリック・マーチソン(ジェームズ・マッカードル)が、妻のシャーロット(シアーシャ・ローナン)を伴ってやってくる。ロデリックは、アンモナイトを高額で購入し、採集に同行させてほしいと頼む。メアリーは独学だが古生物学者として知られているのだ。
ロデリックがロンドンに帰る日、流産した妻をこの町でしばらく静養させるので、相手をしてやってほしいと頼まれる。人付き合いの苦手なメアリーにとって迷惑な話だったが、謝礼をはずまれ嫌といえなかった。化石の採集についてくるシャーロットが、メアリーには鬱陶しい。海に入り、高熱をだして倒れてしまうシャーロット。家で献身的に介抱するうち、二人は心を通わせていく。
往診に来ていた医師から、自宅で開く音楽会に招かれる。すぐに上流階級の輪の中に溶け込むシャーロット。かつてメアリーと関係のあったエリザベス・フィルポット(フィオナ・ショウ)とも、打ち解けている姿を見て、メアリーは一人先に帰ってしまう。
翌日、海辺から大きな化石を二人で運び出し、価値ある発見を喜ぶとともにお互いの気持ちに気づく。やがて、シャーロットがロンドンに帰る日がくる・・・

メアリー・アニング
1799年5月21日、イギリス南西部ドーセット州ライム・レジス生まれ。1847年没。
家計のために観光客向けの化石採集をしていた家具職人の父に化石発掘を教わる。
1810年に父が急死。学校にも行けなくなり、兄ジョセフと家計を支える。
1811年、13歳の時、イクチオサウルスの世界初の全身化石を発掘。
独学で地質学や解剖学を学び、さらに多くの化石を発見するが、女性で労働者階級のメアリーは論文発表も学会入会も認められなかった。
彼女の死の直前、ロンドン地質学会は彼女を名誉会員に認定。
彼女の死後163年の時を経た2010年、王立協会はメアリーを「科学の歴史に最も影響を与えた英国女性10人」の1人に選んでいる。(映画公式サイトより抜粋)


13歳の時に発掘した魚竜イクチオサウルスの化石が大英博物館に展示される時に、「発掘者メアリー・アニング」の名札が外され、寄贈者の名札に変えられるところから映画は始まります。男性優位の階級社会で、女性というだけで認められなかった時代。しかもメアリーは労働者階級。亡くなってから163年も経って、栄誉を与えられたことを天国のメアリーはどんな風に思っていることでしょう。

本作誕生のきっかけは、フランシス・リーの恋人の誕生日。彼は、化石や鉱物好きな彼氏へのプレゼントを探している中で、何度もメアリー・アニングの名前を目にし、彼女の功績を知ります。ですが、メアリーがどんな人生を送ったかの記録はほとんど見つからなかったそうです。フランシス・リーは、メアリーの自伝を作りたかったわけではないと語っています。彼自身の階級やジェンダーへの思いが強く反映された物語を紡いだのだと感じます。
男性優位の社会の中でかき消されてしまったメアリー・アニングの存在を、映画という形で遺したかったのはわかるのですが、メアリーが性的マイノリティだったかどうかは不明。これまた、メアリーは映画を観て、どう思うでしょう・・・(咲)


女性は能力があっても自分の名前では評価されない。イクチオサウルスの世界初の全身化石を発掘し、大英博物館に展示されても、自分の名前ではなく、寄贈者の名前が記される。そういえば、この作品と同じくGAGAが配給した『燃ゆる女の肖像』も主人公は画家として絵を描いても認められず、父親の名前で出品していたはず。そういう時代とはいえ、何と理不尽なことか。しかし声高に不満を訴えることさえできない。男性から軽んじられる女性の鬱憤がケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンの視線や仕草で繊細に伝わってくる。一方で。やるせなさで共鳴し合った主人公2人が肉体的にも共鳴するシーンは荒々しささえ感じるほど大胆に描かれている。フランシス・リー監督の緩急あふれる演出が最近よく見かける同じようなテーマの作品と一線を画す。(堀)

2020年/イギリス/118分/1chデジタル.5/ビスタ/カラー 字幕翻訳:稲田嵯裕里
配給:ギャガ
(C) The British Film Institute, The British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited 2019
公式サイト:https://gaga.ne.jp/ammonite/
★2021年4月9日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか、全国順次公開



posted by sakiko at 18:28| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

パーム・スプリングス(原題:Palm Springs)

palm springs.jpg

監督:マックス・バーバコウ
脚本:アンディ・シアラ
出演:アンディ・サムバーグ(ナイルズ)、クリスティン・ミリオティ(サラ)、ピーター・ギャラガー(ハワード)、J・K・シモンズ(ロイ)

砂漠のリゾート地、パームスプリングス。妹の結婚式に参加するためやってきたサラは、幸せいっぱいのムードに馴染めずにいた。会場で初めて会ったお調子者のナイルズに興味がわいて二人きりに。いい雰囲気になったところ、突如謎の老人にナイルズが襲撃される。怪我をしたナイルズを追って、止めるのも聞かずに洞窟に入ってしまう。目がさめると、同じ結婚式の朝に戻っていた!わけがわからないまま、昨日とそっくり同じ会話を繰り返し、会場でナイルズに再会する。洞窟に入ったサラは、ナイルズと同じ“タイムループ”に閉じ込められたとわかる。ナイルズはループから出られず、ずっと同じ日を繰り返しているのだと言う。しばらくこの世界を楽しんだサラだったが、やはり違う明日がきてほしい。

さあ、みんなの好きな“タイムループ”作品ですよ~。コロナで鬱々としていた2020年、アメリカのドライブインシアターで限定公開されるや、観客をおおいに沸かせたというラブコメです。アンディ・サムバーグは「サタディ・ナイト・ライブ」のレギュラーで、『俺たちポップスター』(2016)で主演していますが未見。本作では主演と共に制作も兼ねています。
クリスティン・ミリオティはイタリア系のはっきりした顔立ちで、表情豊かです。同じ日をループしたらどうなる?な観客の予想通りの反応をしてくれて、おおいに笑わせてもらいました。謎の老人のJ・K・シモンズが、コメディにぴりりと苦味をきかせています。タイムループもの映画というと『ハッピー・デス・デイ』が浮かびます。さて、こちらの二人はループから抜けることができるのでしょうか??(白)


同じことの繰り返しで単調な毎日にうんざりしている人は意外に多い。タイムループものはそんな日常に似ているのではないだろうか。ナイルズやロイは大きな喪失の可能性よりもそんな生活の中だからこその微かな幸せを見つけて満足しようとする。一方でサラは何としてでもループから逃れようと奮闘を繰り返す。男女の差なのか、個人の差なのかは分からない。しかし、どちらも私たちが抱えている、単調な日々の生活をどう乗り越えていくかというリアルな問題にヒントとなるような気がする。さて、あなたはどっち派?(堀)

2020年製作/90分/PG12/アメリカ・香港合作
配給:プレシディオ
(C)2020 PS FILM PRODUCTION,LLC ALL RIGHTS RESERVED.
http://palm-springs-movie.com/
★2021年4月9日(金)新宿ピカデリーほかロードショー
posted by shiraishi at 17:38| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

椿の庭

tsubakinoniwa.jpg

監督・脚本・撮影:上田義彦
音楽:中川俊郎
音楽プロデューサー:ケンタロー
出演:
富司純子、沈 恩敬(シム・ウンギョン)
田辺誠一、清水綋治
張 震(チャン・チェン)特別出演
鈴木京香

海を見下ろす葉山の高台に佇む風情ある古い家。手入れの行き届いた庭の木々が美しい。
絹子(富司純子)は夫の四十九日の法要を終え、ひと息つく。法要のため東京から実家に帰っていた次女・陶子(鈴木京香)は、老いた母が、この家で孫娘・渚(沈恩敬)と二人きりで暮らすことを心配して、東京で一緒に暮らそうという。夫や家族との思い出が詰まった家は離れがたい。
ある日、税理士の黄(張震)より、相続税の問題から家を手放すことを勧められる。大事にしてくれる人に買ってもらうと言って、人を連れて下見にくる・・・

サントリー、資生堂、TOYOTAなど数多くの広告写真を手掛けてきた写真家 上田義彦の初監督作品。
藤の花、紫陽花、蝉の声、牡丹、椿・・・、何年も、この家で絹子が家族とともに眺めてきた季節の移ろいを味わい深く捉えています。
チャン・チェンの起用が何より気になりました。『牯嶺街少年殺人事件』の少年が、『ブエノスアイレス』で爽やかな青年となり、本作では中年の域に入った税理士! 
なぜシム・ウンギョン?と思ったら、駆け落ちして海を渡った長女の忘れ形見という役どころでした。

切なく、いろいろなことを思い出した映画でした。
絹子がくつろぐとき、夫も好きだったとかける曲「トライ・トゥー・リメンバー」は、もう50年も前、高校生の時に憧れの君の鎌倉の家で聴かせてもらったブラーザース・フォアのアルバムに入っていた曲。(できれば、花にちなんで「七つの水仙」をかけてほしかった!)

チラシ画像にもある、沓脱石(くつぬぎいし:縁側から庭に降りるところにある大きな石)には、母方の祖父が昭和6年に建てた神戸の家を思い出しました。私が生まれ、15歳まで育った家。贅を尽くした和風+洋風建築の家でしたが、東京に越して数年後、東京で家を買う為に母は泣く泣く手放しました。もう跡形もありませんが、子ども時代のことと共に、隅々まで蘇ります。庭に四季折々に咲いた花のことも。
モノはなくなっても、思い出が人生を豊かにしてくれるとつくづく思わせてくれた映画でした。(咲)


前情報なしで試写を観て、静かな画面に家庭画報とかミセスとかのグラビアみたい、と思っていました。監督は写真を撮る方だったんですね。家の作りや調度、ちょっと置かれている小物が素敵でした。そこに夫の思い出と住む絹子役の富司純子さんの佇まいも美しく、品良いお召し物はきっとご自分の着慣れたもの(当たり)。3世代の女性それぞれに気持ちを重ねながら観ることでしょう。四季折々の庭の変化も愛でて、こんな風に年をとれたらいいなぁと、現実とは程遠いことを考えました。(白)

四季折々の庭や古いけれど手入れが行き届いた日本家屋が静謐な時間の中で見事に映し出されます。監督の美的センスはさすが写真界の巨匠! まるで絵画のようです。蒸れた土の匂いまで伝わってくる気がする。そこに凛とした姿勢で佇む富司純子がこれまた素晴らしい。しかし、家も庭もそして人間も時間を掛けて手を入れてきたからこその美しさです。お金を掛ければ手に入れられるものではありません。こんな風に歳を重ねたいものです。
そうそう監督の奥さまは桐島かれん。彼女がプロデュースする「ハウス オブ ロータス」のHPにこの作品で舞台となった家で撮影したのではないかと思われる写真がありました。(堀)


2020年/日本/128分/5.1ch/アメリカンビスタ/カラー
配給:ビターズ・エンド 
©2020 "A Garden of Camellias" Film Partners
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/tsubaki/
★2021年4月9日(金)よりシネスイッチ銀座ほか、全国順次公開

posted by sakiko at 12:55| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする