2021年03月28日

レッド・スネイク  原題:Soeurs d'armes  英題:Sisters in Arms

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監督・脚本:カロリーヌ・フレスト
撮影:ステファン・ヴァレ
編集:オドレイ・シモノー(『96時間/レクイエム』)
音楽:マチュー・ランボレ(『英雄は嘘がお好き』)
出演:ディラン・グウィン(『ドラキュラ ZERO』)、アミラ・カサール(『君の名前で僕を呼んで』)、マヤ・サンサ(『眠れる美女』)、カメリア・ジョルダナ(『不実な女と官能詩人』)、エステール・ガレル(『君の名前で僕を呼んで』)

イスラム過激派ISに挑んだ女性たちの特殊部隊「蛇の旅団」の物語

2014年8月、ISがイラク西部のヤジディ教徒のクルド人の村々を襲った。ザラは目の前で父親を殺され、弟は連れ去られ、母や兄とも引き離される。若い女性たちはISのメンバーに奴隷として売られた。英国人幹部に買われたザラは監禁状態になるが、なんとか逃げだす。女性だけで構成される特殊部隊「蛇の旅団」に助けられ、難民キャンプで母や兄と再会を喜ぶ。父の仇を討ち、弟も探したいと、ザラは「蛇の旅団」に加わる。ザラは、「レッド・スネイク」というコードネームをつける。赤はヤジディ教の色だ。アメリカ、フランス、イスラエル、パレスチナ等々さまざまな国から駆け付けた女性たちと共に訓練を受ける。そして、いよいよ“姉妹たち”と共にISと対峙する・・・

ザラの父親は、ISに銃を向けられ、「宗教の強制はクルアーンが禁じている」と訴えますが、「なぜおまえがクルアーンを持っている?」と殺されてしまいます。本来、イスラームは寛容な宗教のはず。独自の過激な解釈で様々なことを禁止するIS。音楽や踊りの禁止はまだしも、「切り口が十字のトマトを食べるな、キュウリを人前で丸ごと食すな」は誇張にしても笑ってしまいます。でも彼らにとっては厳格な規範。
ISがヤジディ教を邪教として根絶やしにするため、イラク北部に侵攻し、数週間のうちに5千人もの人を虐殺し、7千人以上の若い女性や子供たちを性奴隷や少年兵として連れ去ったことについては、『ナディアの誓い - On Her Shoulders』(アレクサンドリア・ボンバッハ監督)で詳しく知ることができました。性奴隷という忌まわしい経験を世に発したナディア・ムラドさんの勇気に胸が震えました。

女性だけの戦闘部隊のことは、当時ニュースで知り、女性たちが果敢に立ち上がったことに驚かされました。
『バハールの涙』(エバ・ユッソン監督)では、ISの性奴隷となったバハールが、なんとか抜け出して、女性だけの戦闘部隊に入り、連れ去られた息子を探す姿を描いていました。
【女性に殺されたら天国に行って天女と暮らすことができない】と信じるISの戦闘員たちに、女性戦闘部隊は恐れられています。本作でも、銃を向けられ「女に殺されたくない」と訴えます。
「蛇の旅団」で司令官の女性が「昔、メソポタミアでは民族関係なく地母神を崇めていた。一神教や資本主義が入ってきて男性優位の社会にした」と語る場面があります。男女や民族、宗教の違いをこえて共生できる社会はいつ実現するのでしょう・・・

本作の監督カロリーヌ・フレストは、フランスの風刺週刊誌「シャルリー・エブド」にも寄稿していたライターで、2015年1月7日のイスラム過激派の「シャルリー・エブド」襲撃で同僚を失っています。その経験から、過激派と女性を長編初監督作品のテーマに選んだそうです。
ケンザとヤエルという2人の若いフランス人女性が、蛮行を繰り返すISと戦うために、危険を承知でイラクにやってきたことも、本作のメインの話になっています。ザラたちと、宗教や民族の違いをこえて「姉妹」として戦う姿に胸が熱くなりました。(咲)


2019年/フランス・イタリア・ベルギー・モロッコ/112分/PG12
字幕翻訳:大嶋えいじ
配給:クロックワークス
© 2019 Place du Marché Productions – Kador – Davis Films – Délice Movie – Eagle Pictures – France 2 Cinéma
公式サイト:https://klockworx-v.com/redsnake/
★2021年4 月 9 日(金) 新宿バルト9ほか 全国ロードショー



posted by sakiko at 12:15| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

緑の牢獄

2021年3月27日沖縄桜坂劇場先行ロードショー
2021年4月3日より ポレポレ東中野ほか全国順次公開
劇場情報 
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(C)2021 Moolin Films, Ltd. & Moolin Production, Co., Ltd.

監督・プロデューサー・編集:黃インイク(黃胤毓:ホアン・インユー)
共同プロデューサー:山上徹二郎
撮影:中谷駿吾
出演:橋間良子(江氏緞)

2021年製作/101分/日本・台湾・フランス合作
配給:ムーリンプロダクション、シグロ
『緑の牢獄』公式HPはこちら

台湾から西表島に来た女性の人生と、忘れ去られた炭鉱の記憶

西表島には1886(明治19)年頃~1960(昭和35)年頃まで石炭を採掘する炭鉱があった。炭鉱は最初、島の囚人を使役して始めたという。囚人を坑夫で使うのは九州や北海道でもあったが、その方法が沖縄でも取り入れられた。その後、炭鉱がいくつもでき、台湾や朝鮮からも人を集めるようになった。朝鮮人坑夫もいたけど、台湾人坑夫の方が多かったという。大正時代には琉球炭鉱や沖縄炭鉱などが乗り出し、坑夫千人余を使って採掘するようになった。しかし、坑夫たちは過酷な労働やマラリアにかかってたくさんの人が亡くなった。次第に炭鉱はすたれ、戦後の一時期、米軍が石炭採掘を試みたけど、長くは続かなかった。廃坑の周りはすでにジャングルに飲み込まれ、自然に戻りつつある。
そして廃坑近くに住む90歳の橋間良子(江氏緞)さん。彼女は、坑夫たちの親方だった養父に連れられ、10歳で台湾から来て、人生のほとんどをこの島で過ごし、今はたった一人で家と墓を守る。炭鉱で働いていた人たちのことを今でも思い出し、子供の頃から知っている炭鉱の記憶を語る。台湾で坑夫を募った話。父が語っていた炭鉱の話。島でいじめられ、学校に通えなかった話。今でもその人とは口をきかないと話す。島を出て音信不通の自身の子どもたち。父はなぜ家族を連れてここへ来たのか。望郷の思いもあるけど、もう台湾には戻れない。怒り、不安、希望、後悔、様々な思いが交錯する。

沖縄を拠点として活動する黄インイク監督が七年間の歳月を費やし製作した『緑の牢獄』。植民地時代の台湾から八重山諸島に移住した“越境者”たちと現在を描く「狂山之海」シリーズの第二弾として作られた。第一作は『海の彼方』。2017年に公開された。
*『海の彼方』シネマジャーナル作品紹介はこちら 
*シネマジャーナル『緑の牢獄』黄インイク監督インタビュー記事はこちら

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大阪アジアン映画祭2017で『海の彼方』が上映された時、黄監督は、今『緑の牢獄』を撮っていると語っていたけど、その時に初めて西表島に炭鉱があったということを知った。そして、いつ公開されるかと思ってきた。その映画がやっと公開される。7年かかって作った作品。沖縄と台湾は近い。そしてかなり昔から行き来があったんだろうと思う。黄監督は2013年から1年かけて、フィールドワークで150人以上の方にインタビューしたと語っていた。
1977年に私は沖縄に行き、西表島、石垣島にも行ったし、両方とも島を1周した。その後も沖縄に関心があったのに、沖縄には台湾から移住してきた人たちがいるとは最近まで知らなかった。その43年前の沖縄行きは台湾まで行く船だったので、那覇に着いた時、確かに台湾は近いと思ったんだけど、そういう行き来があったということには思いがいたらなかった。
パイナップルも水牛も台湾の人たちが伝えたということは、2015年に公開された『はるかなるオンライ山~八重山・沖縄パイン渡来記~』(本郷義明監督、原案・監修三木健)で知った。さらに『海の彼方』で、もっと詳しく知ることができたけど、西表島に炭鉱があったということはこの『緑の牢獄』で知った。たくさんの方が重労働やマラリアで亡くなったということも。映画はそういう歴史の記憶を記録し伝えてくれる(暁)。


西表島というとマングローブ林の広がる島というイメージ。かつて炭鉱があって、坑夫たちがマラリアに苦しめられ、まさに「緑の牢獄」だったのだと知り、驚きました。
橋間良子(江氏緞)さんは、日本の敗戦で台湾に帰りますが、居心地が悪かったのか、また西表島に戻る選択をしました。もう日本の統治下ではないので、台湾から西表島へは密航。なかなか乗せてくれる船がなくて、やっと漁船に乗せてもらったそうです。西表島から台湾は、沖縄本島よりも、ずっと近くて、漁船で渡れるほどの距離なのだとあらためて思いました。
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3月23日(火)にアンスティチュ・フランセ東京で完成披露試写会が開かれ、上映後に黄インイク監督(写真中央)と井上修氏(写真左:元ドキュメンタリストユニオン)が登壇。司会は、ジャーナリストの野崎剛氏(写真右)。
井上修氏が1972年に撮った記録映画の中に橋間良子さんの養父の姿が映っていて、「50年も前に撮ったものを大事に使っていただいてびっくり・・・」と感慨深げな井上氏でした。
黄インイク監督は、橋間良子さんが帰ろうと思えば帰れた台湾に、なぜ戻らず、何を守ってきたのかを知りたくて、彼女を撮っていたといいます。
黄インイク監督が台湾語で話しかけたことで親しくなり、西表島の炭鉱で働いていた台湾人のことを調査している結果を伝えると、さらに深い話をしてくれたそうです。橋間良子さんの台湾語は、戦前のままで、台湾にいるお年寄りの話す台湾語とも違い、黄インイク監督にとって少し難しかったとのこと。
橋間良子さんは、翡翠の腕輪をしていて、それは台湾の人が大事にしているもの。長年、西表島で暮らしていても台湾のアイデンティティを失っていないのです。
橋間良子さんは、2018年にお亡くなりになられ、『緑の牢獄』は彼女の生きた証として貴重な作品になりました。合掌。(咲)



ポレポレ東中野 舞台挨拶情報
4/3(土)10:00の回上映後 初日舞台挨拶
<登壇>黄インイク(本作監督)、中谷駿吾(本撮影)

4/4(日)&4/5(月) 各日10:00の回上映後舞台挨拶
<登壇>黄インイク(本作監督)、中谷駿吾(本作撮影)
posted by akemi at 07:50| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする