2021年03月28日
レッド・スネイク 原題:Soeurs d'armes 英題:Sisters in Arms
監督・脚本:カロリーヌ・フレスト
撮影:ステファン・ヴァレ
編集:オドレイ・シモノー(『96時間/レクイエム』)
音楽:マチュー・ランボレ(『英雄は嘘がお好き』)
出演:ディラン・グウィン(『ドラキュラ ZERO』)、アミラ・カサール(『君の名前で僕を呼んで』)、マヤ・サンサ(『眠れる美女』)、カメリア・ジョルダナ(『不実な女と官能詩人』)、エステール・ガレル(『君の名前で僕を呼んで』)
イスラム過激派ISに挑んだ女性たちの特殊部隊「蛇の旅団」の物語
2014年8月、ISがイラク西部のヤジディ教徒のクルド人の村々を襲った。ザラは目の前で父親を殺され、弟は連れ去られ、母や兄とも引き離される。若い女性たちはISのメンバーに奴隷として売られた。英国人幹部に買われたザラは監禁状態になるが、なんとか逃げだす。女性だけで構成される特殊部隊「蛇の旅団」に助けられ、難民キャンプで母や兄と再会を喜ぶ。父の仇を討ち、弟も探したいと、ザラは「蛇の旅団」に加わる。ザラは、「レッド・スネイク」というコードネームをつける。赤はヤジディ教の色だ。アメリカ、フランス、イスラエル、パレスチナ等々さまざまな国から駆け付けた女性たちと共に訓練を受ける。そして、いよいよ“姉妹たち”と共にISと対峙する・・・
ザラの父親は、ISに銃を向けられ、「宗教の強制はクルアーンが禁じている」と訴えますが、「なぜおまえがクルアーンを持っている?」と殺されてしまいます。本来、イスラームは寛容な宗教のはず。独自の過激な解釈で様々なことを禁止するIS。音楽や踊りの禁止はまだしも、「切り口が十字のトマトを食べるな、キュウリを人前で丸ごと食すな」は誇張にしても笑ってしまいます。でも彼らにとっては厳格な規範。
ISがヤジディ教を邪教として根絶やしにするため、イラク北部に侵攻し、数週間のうちに5千人もの人を虐殺し、7千人以上の若い女性や子供たちを性奴隷や少年兵として連れ去ったことについては、『ナディアの誓い - On Her Shoulders』(アレクサンドリア・ボンバッハ監督)で詳しく知ることができました。性奴隷という忌まわしい経験を世に発したナディア・ムラドさんの勇気に胸が震えました。
女性だけの戦闘部隊のことは、当時ニュースで知り、女性たちが果敢に立ち上がったことに驚かされました。
『バハールの涙』(エバ・ユッソン監督)では、ISの性奴隷となったバハールが、なんとか抜け出して、女性だけの戦闘部隊に入り、連れ去られた息子を探す姿を描いていました。
【女性に殺されたら天国に行って天女と暮らすことができない】と信じるISの戦闘員たちに、女性戦闘部隊は恐れられています。本作でも、銃を向けられ「女に殺されたくない」と訴えます。
「蛇の旅団」で司令官の女性が「昔、メソポタミアでは民族関係なく地母神を崇めていた。一神教や資本主義が入ってきて男性優位の社会にした」と語る場面があります。男女や民族、宗教の違いをこえて共生できる社会はいつ実現するのでしょう・・・
本作の監督カロリーヌ・フレストは、フランスの風刺週刊誌「シャルリー・エブド」にも寄稿していたライターで、2015年1月7日のイスラム過激派の「シャルリー・エブド」襲撃で同僚を失っています。その経験から、過激派と女性を長編初監督作品のテーマに選んだそうです。
ケンザとヤエルという2人の若いフランス人女性が、蛮行を繰り返すISと戦うために、危険を承知でイラクにやってきたことも、本作のメインの話になっています。ザラたちと、宗教や民族の違いをこえて「姉妹」として戦う姿に胸が熱くなりました。(咲)
2019年/フランス・イタリア・ベルギー・モロッコ/112分/PG12
字幕翻訳:大嶋えいじ
配給:クロックワークス
© 2019 Place du Marché Productions – Kador – Davis Films – Délice Movie – Eagle Pictures – France 2 Cinéma
公式サイト:https://klockworx-v.com/redsnake/
★2021年4 月 9 日(金) 新宿バルト9ほか 全国ロードショー
緑の牢獄
2021年3月27日沖縄桜坂劇場先行ロードショー
2021年4月3日より ポレポレ東中野ほか全国順次公開
劇場情報
監督・プロデューサー・編集:黃インイク(黃胤毓:ホアン・インユー)
共同プロデューサー:山上徹二郎
撮影:中谷駿吾
出演:橋間良子(江氏緞)
2021年製作/101分/日本・台湾・フランス合作
配給:ムーリンプロダクション、シグロ
『緑の牢獄』公式HPはこちら
台湾から西表島に来た女性の人生と、忘れ去られた炭鉱の記憶
西表島には1886(明治19)年頃~1960(昭和35)年頃まで石炭を採掘する炭鉱があった。炭鉱は最初、島の囚人を使役して始めたという。囚人を坑夫で使うのは九州や北海道でもあったが、その方法が沖縄でも取り入れられた。その後、炭鉱がいくつもでき、台湾や朝鮮からも人を集めるようになった。朝鮮人坑夫もいたけど、台湾人坑夫の方が多かったという。大正時代には琉球炭鉱や沖縄炭鉱などが乗り出し、坑夫千人余を使って採掘するようになった。しかし、坑夫たちは過酷な労働やマラリアにかかってたくさんの人が亡くなった。次第に炭鉱はすたれ、戦後の一時期、米軍が石炭採掘を試みたけど、長くは続かなかった。廃坑の周りはすでにジャングルに飲み込まれ、自然に戻りつつある。
そして廃坑近くに住む90歳の橋間良子(江氏緞)さん。彼女は、坑夫たちの親方だった養父に連れられ、10歳で台湾から来て、人生のほとんどをこの島で過ごし、今はたった一人で家と墓を守る。炭鉱で働いていた人たちのことを今でも思い出し、子供の頃から知っている炭鉱の記憶を語る。台湾で坑夫を募った話。父が語っていた炭鉱の話。島でいじめられ、学校に通えなかった話。今でもその人とは口をきかないと話す。島を出て音信不通の自身の子どもたち。父はなぜ家族を連れてここへ来たのか。望郷の思いもあるけど、もう台湾には戻れない。怒り、不安、希望、後悔、様々な思いが交錯する。
沖縄を拠点として活動する黄インイク監督が七年間の歳月を費やし製作した『緑の牢獄』。植民地時代の台湾から八重山諸島に移住した“越境者”たちと現在を描く「狂山之海」シリーズの第二弾として作られた。第一作は『海の彼方』。2017年に公開された。
*『海の彼方』シネマジャーナル作品紹介はこちら
*シネマジャーナル『緑の牢獄』黄インイク監督インタビュー記事はこちら
大阪アジアン映画祭2017で『海の彼方』が上映された時、黄監督は、今『緑の牢獄』を撮っていると語っていたけど、その時に初めて西表島に炭鉱があったということを知った。そして、いつ公開されるかと思ってきた。その映画がやっと公開される。7年かかって作った作品。沖縄と台湾は近い。そしてかなり昔から行き来があったんだろうと思う。黄監督は2013年から1年かけて、フィールドワークで150人以上の方にインタビューしたと語っていた。
1977年に私は沖縄に行き、西表島、石垣島にも行ったし、両方とも島を1周した。その後も沖縄に関心があったのに、沖縄には台湾から移住してきた人たちがいるとは最近まで知らなかった。その43年前の沖縄行きは台湾まで行く船だったので、那覇に着いた時、確かに台湾は近いと思ったんだけど、そういう行き来があったということには思いがいたらなかった。
パイナップルも水牛も台湾の人たちが伝えたということは、2015年に公開された『はるかなるオンライ山~八重山・沖縄パイン渡来記~』(本郷義明監督、原案・監修三木健)で知った。さらに『海の彼方』で、もっと詳しく知ることができたけど、西表島に炭鉱があったということはこの『緑の牢獄』で知った。たくさんの方が重労働やマラリアで亡くなったということも。映画はそういう歴史の記憶を記録し伝えてくれる(暁)。
西表島というとマングローブ林の広がる島というイメージ。かつて炭鉱があって、坑夫たちがマラリアに苦しめられ、まさに「緑の牢獄」だったのだと知り、驚きました。
橋間良子(江氏緞)さんは、日本の敗戦で台湾に帰りますが、居心地が悪かったのか、また西表島に戻る選択をしました。もう日本の統治下ではないので、台湾から西表島へは密航。なかなか乗せてくれる船がなくて、やっと漁船に乗せてもらったそうです。西表島から台湾は、沖縄本島よりも、ずっと近くて、漁船で渡れるほどの距離なのだとあらためて思いました。
3月23日(火)にアンスティチュ・フランセ東京で完成披露試写会が開かれ、上映後に黄インイク監督(写真中央)と井上修氏(写真左:元ドキュメンタリストユニオン)が登壇。司会は、ジャーナリストの野崎剛氏(写真右)。
井上修氏が1972年に撮った記録映画の中に橋間良子さんの養父の姿が映っていて、「50年も前に撮ったものを大事に使っていただいてびっくり・・・」と感慨深げな井上氏でした。
黄インイク監督は、橋間良子さんが帰ろうと思えば帰れた台湾に、なぜ戻らず、何を守ってきたのかを知りたくて、彼女を撮っていたといいます。
黄インイク監督が台湾語で話しかけたことで親しくなり、西表島の炭鉱で働いていた台湾人のことを調査している結果を伝えると、さらに深い話をしてくれたそうです。橋間良子さんの台湾語は、戦前のままで、台湾にいるお年寄りの話す台湾語とも違い、黄インイク監督にとって少し難しかったとのこと。
橋間良子さんは、翡翠の腕輪をしていて、それは台湾の人が大事にしているもの。長年、西表島で暮らしていても台湾のアイデンティティを失っていないのです。
橋間良子さんは、2018年にお亡くなりになられ、『緑の牢獄』は彼女の生きた証として貴重な作品になりました。合掌。(咲)
ポレポレ東中野 舞台挨拶情報
4/3(土)10:00の回上映後 初日舞台挨拶
<登壇>黄インイク(本作監督)、中谷駿吾(本撮影)
4/4(日)&4/5(月) 各日10:00の回上映後舞台挨拶
<登壇>黄インイク(本作監督)、中谷駿吾(本作撮影)
2021年4月3日より ポレポレ東中野ほか全国順次公開
劇場情報
監督・プロデューサー・編集:黃インイク(黃胤毓:ホアン・インユー)
共同プロデューサー:山上徹二郎
撮影:中谷駿吾
出演:橋間良子(江氏緞)
2021年製作/101分/日本・台湾・フランス合作
配給:ムーリンプロダクション、シグロ
『緑の牢獄』公式HPはこちら
台湾から西表島に来た女性の人生と、忘れ去られた炭鉱の記憶
西表島には1886(明治19)年頃~1960(昭和35)年頃まで石炭を採掘する炭鉱があった。炭鉱は最初、島の囚人を使役して始めたという。囚人を坑夫で使うのは九州や北海道でもあったが、その方法が沖縄でも取り入れられた。その後、炭鉱がいくつもでき、台湾や朝鮮からも人を集めるようになった。朝鮮人坑夫もいたけど、台湾人坑夫の方が多かったという。大正時代には琉球炭鉱や沖縄炭鉱などが乗り出し、坑夫千人余を使って採掘するようになった。しかし、坑夫たちは過酷な労働やマラリアにかかってたくさんの人が亡くなった。次第に炭鉱はすたれ、戦後の一時期、米軍が石炭採掘を試みたけど、長くは続かなかった。廃坑の周りはすでにジャングルに飲み込まれ、自然に戻りつつある。
そして廃坑近くに住む90歳の橋間良子(江氏緞)さん。彼女は、坑夫たちの親方だった養父に連れられ、10歳で台湾から来て、人生のほとんどをこの島で過ごし、今はたった一人で家と墓を守る。炭鉱で働いていた人たちのことを今でも思い出し、子供の頃から知っている炭鉱の記憶を語る。台湾で坑夫を募った話。父が語っていた炭鉱の話。島でいじめられ、学校に通えなかった話。今でもその人とは口をきかないと話す。島を出て音信不通の自身の子どもたち。父はなぜ家族を連れてここへ来たのか。望郷の思いもあるけど、もう台湾には戻れない。怒り、不安、希望、後悔、様々な思いが交錯する。
沖縄を拠点として活動する黄インイク監督が七年間の歳月を費やし製作した『緑の牢獄』。植民地時代の台湾から八重山諸島に移住した“越境者”たちと現在を描く「狂山之海」シリーズの第二弾として作られた。第一作は『海の彼方』。2017年に公開された。
*『海の彼方』シネマジャーナル作品紹介はこちら
*シネマジャーナル『緑の牢獄』黄インイク監督インタビュー記事はこちら
大阪アジアン映画祭2017で『海の彼方』が上映された時、黄監督は、今『緑の牢獄』を撮っていると語っていたけど、その時に初めて西表島に炭鉱があったということを知った。そして、いつ公開されるかと思ってきた。その映画がやっと公開される。7年かかって作った作品。沖縄と台湾は近い。そしてかなり昔から行き来があったんだろうと思う。黄監督は2013年から1年かけて、フィールドワークで150人以上の方にインタビューしたと語っていた。
1977年に私は沖縄に行き、西表島、石垣島にも行ったし、両方とも島を1周した。その後も沖縄に関心があったのに、沖縄には台湾から移住してきた人たちがいるとは最近まで知らなかった。その43年前の沖縄行きは台湾まで行く船だったので、那覇に着いた時、確かに台湾は近いと思ったんだけど、そういう行き来があったということには思いがいたらなかった。
パイナップルも水牛も台湾の人たちが伝えたということは、2015年に公開された『はるかなるオンライ山~八重山・沖縄パイン渡来記~』(本郷義明監督、原案・監修三木健)で知った。さらに『海の彼方』で、もっと詳しく知ることができたけど、西表島に炭鉱があったということはこの『緑の牢獄』で知った。たくさんの方が重労働やマラリアで亡くなったということも。映画はそういう歴史の記憶を記録し伝えてくれる(暁)。
西表島というとマングローブ林の広がる島というイメージ。かつて炭鉱があって、坑夫たちがマラリアに苦しめられ、まさに「緑の牢獄」だったのだと知り、驚きました。
橋間良子(江氏緞)さんは、日本の敗戦で台湾に帰りますが、居心地が悪かったのか、また西表島に戻る選択をしました。もう日本の統治下ではないので、台湾から西表島へは密航。なかなか乗せてくれる船がなくて、やっと漁船に乗せてもらったそうです。西表島から台湾は、沖縄本島よりも、ずっと近くて、漁船で渡れるほどの距離なのだとあらためて思いました。
3月23日(火)にアンスティチュ・フランセ東京で完成披露試写会が開かれ、上映後に黄インイク監督(写真中央)と井上修氏(写真左:元ドキュメンタリストユニオン)が登壇。司会は、ジャーナリストの野崎剛氏(写真右)。
井上修氏が1972年に撮った記録映画の中に橋間良子さんの養父の姿が映っていて、「50年も前に撮ったものを大事に使っていただいてびっくり・・・」と感慨深げな井上氏でした。
黄インイク監督は、橋間良子さんが帰ろうと思えば帰れた台湾に、なぜ戻らず、何を守ってきたのかを知りたくて、彼女を撮っていたといいます。
黄インイク監督が台湾語で話しかけたことで親しくなり、西表島の炭鉱で働いていた台湾人のことを調査している結果を伝えると、さらに深い話をしてくれたそうです。橋間良子さんの台湾語は、戦前のままで、台湾にいるお年寄りの話す台湾語とも違い、黄インイク監督にとって少し難しかったとのこと。
橋間良子さんは、翡翠の腕輪をしていて、それは台湾の人が大事にしているもの。長年、西表島で暮らしていても台湾のアイデンティティを失っていないのです。
橋間良子さんは、2018年にお亡くなりになられ、『緑の牢獄』は彼女の生きた証として貴重な作品になりました。合掌。(咲)
ポレポレ東中野 舞台挨拶情報
4/3(土)10:00の回上映後 初日舞台挨拶
<登壇>黄インイク(本作監督)、中谷駿吾(本撮影)
4/4(日)&4/5(月) 各日10:00の回上映後舞台挨拶
<登壇>黄インイク(本作監督)、中谷駿吾(本作撮影)
2021年03月27日
サンドラの小さな家(原題:Herself)
監督:フィリダ・ロイド(『マンマ・ミーア!』、『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』)
共同脚本:クレア・ダン、マルコム・キャンベル(『リチャードの秘密』)
出演:クレア・ダン(サンドラ)、ハリエット・ウォルター(ペギー)、コンリース・ヒル(エイド)
シングルマザーのサンドラは、たびたび夫から暴力を受けている。ある日2人の娘たちと共に夫のもとから逃げ出すが、3人が泊まれる場所がない。頼みの公営住宅には長い順番待ち、高くつくホテルの代金は滞りがち、自分で小さな家を建てたいと思いつく。サンドラはインターネットでセルフビルドの設計図を見つけ、清掃人として働いている家のペギー、建設業者のエイドら、思いがけない人々の協力を得て、家の建設に取り掛かる。しかし、束縛の強い元夫の妨害にあい…。サンドラは自分の人生を再建することができるのだろうか?
恋愛して結ばれた夫だったのに、暴力をふるうようになるとは。サンドラの痛みと絶望がせまってきます。DVが世界中で起こっていていつまでもなくならないのは、「女は男に従うもの」という考えが根強く染みているのでしょう。自分の身に起こったらと思うだけで、身体が固まる気がします。女性と子どもを受け入れるシェルターや相談窓口がたくさんできますように。数は圧倒的に少ないのですが、妻からDVを受ける夫もいます。暴力の原因は様々あるでしょうが、幸せでないことだけは確か。
「自分の家を持つ」のは誰もの目標ですが、それだけでなく「自分で自分の家を作る」ことができるんですね。「そんなに難しくないんだよ」と提唱している人をサンドラはネットで見つけます。そのノウハウも公開されているんですよ。時代は進んでいます(男女の問題は進んでないのに)。
夢の実現には障がいがつきもので、サンドラも協力者を得た後も何度となく問題にぶち当たります。二人の娘がとても可愛く、いじらしくサンドラの生きがいになっています。息子だったら「母親を守りたい」と、また違う展開になったかもしれません。
脚本を書きあげたら自分で演じることになったクレア・ダンの才能と演技力、これからも注目していきます。(白)
本作は主演で脚本も担当したクレア・ダンがシングルマザーの親友から「ホームレスにあってしまった」という電話を受けたことから生まれました。3人も子どもがいる女性が家を見つけられずにいるという状況は社会システムが崩壊していると強く感じたよう。このことが心の奥にずっと残り、あるときふっと1人の女性が社会システムから抜け出して家を建てる話を思いついたそうです。
彼女の親友が夫からのDVを受けていたのかどうかは分かりませんが、本作での描写は凄まじいものがあります。外に助けを求めるのも命懸け。やっと家を出られたかと思っても、住まいと仕事の確保が難しい。支援グループのサポートがないわけではありませんが、現実的ではありません。しかし、親権争いでは生活の安定が重要視されてしまいます。意外だったのはこんなに辛い思いをしながら、復縁を迫る夫が娘を通じて見せてきた幸せだったころの夫婦の写真を見て、主人公が幸せだったころの彼を愛おしんでいたこと。“そんなバカな”と思いますが、「あの頃のあの人に戻ってくれるなら」と思わせることもDV夫が使う搦め手の1つなんですね。かなりリサーチして脚本が書かれたのを感じます。
ラストは驚きの展開でしたが、主人公なら娘たちと乗り越えていけると思えるはず。辛い思いをしている方にこそ見てほしい作品です。(堀)
2020年/アイルランド・イギリス/英語/97min/スコープ/カラー/5.1ch/
配給:ロングライド
提供:ニューセレクト、アスミック・エース、ロングライド
©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020
公式サイト:https://longride.jp/herself/
2021年03月26日
ブータン 山の教室 英題:Lunana A Yak in the Classroom
監督・脚本 : パオ・チョニン・ドルジ
出演:シェラップ・ドルジ、ウゲン・ノルブ・へンドゥップ、ケルドン・ハモ・グルン、ペム・ザム 他
ブータンの首都ティンプー。ウゲン(シェラップ・ドルジ)は、教師になって4年。卒業後の義務期間は5年。あと1年教師を務めたらオーストラリアに行って歌手として活動したいと画策している。そんなある日、上司から標高4,800メートルの辺境の地ルナナの学校に赴任するよう告げられる。ラバでまず6日。その後は険しい山道を数日歩いて、ようやくルナナにたどり着く。電気もなく、携帯電話も通じない。黒板もなくて手作りする。町にいた時には、やる気のない教師と呆れられていたウゲンが、辺鄙なルナナで、目を輝かせて授業に臨んでくれる生徒たちに接して、教師らしくなっていく。やがて、山に初雪が降り、村長から今出ないと町に降りられなくなると言われる・・・
哀愁ある「ヤクに捧げる歌」が抜けるような青空に響きます。ヤクはブータンの人たちにとって家族であり財産。歌詞にはヤクへの思い、さらに自然や大地への感謝や仏教の輪廻転生も込められているそうです。
ウゲンが村長に「前世はヤク飼いだったかも」というと、「いえ、ヤクですよ」と言われます。ヤクは乳や着火剤となる糞を提供してくれる宝。ウゲンも大事な先生という意味なのでしょう。
本作は、写真家として活動してきたパオ・チョニン・ドルジの初監督作品。1999年にインターネットとテレビが解禁されて以来、ブータンの独自性がだんだん失われていくのを肌で感じ、伝統を忘れないでほしいという思いでこの映画を作ったとのこと。
1971年まで長年鎖国政策を取っていたブータン。1980年以降、国語(ゾンカ語)以外のすべての教科を英語で教える一方、公の場での民族衣装着用を義務付けています。国際化と伝統を守ることを国として取り組んでいることに感心します。電気もないルナナの小学校でも、ちゃんと英語で教えていて、さすがだと思いました。
ウゲンは子どもたちの為に教科書を取り寄せるのですが、歩いて何日もかかるところにもちゃんと届きます。
2012年3月開催の「第20回アース・ビジョン 地球環境映像祭」で上映されたブータンの『思いを運ぶ手紙』という映画を思い出しました。首都ティンプーから険しい山道を歩いて5日かかる標高3500mの村リンシに、26年間にわたって手紙を運び続けている郵便局員を追ったドキュメンタリーです。国として、どんな僻地も見捨てない姿勢を感じます。(咲)
何日もかけてやっとたどり着くような山あいの学校に赴任がきまって、不満だらけのウゲン先生。それでも村人総出で出迎えられて、何もない教室で新しい先生を期待いっぱいで待ち構える子どもたちに心が動いていきます。「先生は未来に触れる人だから、将来は先生になりたい」と尊敬のまなざしで見つめられたら、すぐにでも帰りたいと思った自分を恥じるしかありません。まるでドキュメンタリーのように見えますが、監督がそれまでに取材したエピソードを入れ込んだシナリオのある劇映画です。3人のメインキャラクター以外は皆村の人たち。
キラキラの目が印象的なペム・ザムは、本当に家庭が壊れてしまっていておばあちゃんに育てられているそうです。村から出たこともない子どもたちは、先生を通じて未来や外の世界を知るわけですから先生の責任は大きい!今回たくさんの機材を持ち込んだ撮影隊、どんなに興味津々で子どもたちが見つめたことでしょう。メイキングが観たいです。
「国民総幸福量」第1位と言われるブータンですが、都会に憧れる若い人が増えているのは、ほかと同じ。ウゲン先生と一緒に「自分の幸せは何か、どこにあるのか」と考えさせられます。いろいろ疲れているこのごろです。雄大なヒマラヤの風景、響き渡る人生や暮らしの歌、純朴な村人や子どもたち…と美しいものがいっぱいのこの作品に、ただただ癒されるのもお薦め。(白)
☆トークイベント@岩波ホール☆
下記の日程15:30の回上映後
4/3(土):パオ・チョニン・ドルジ監督
4/10(土):磯真理子さん(元ブータン政府観光局・マーケティング担当)
5/8(土):パオ・チョニン・ドルジ監督
*当日に変更・中止になることもございますので予めご了承ください。
*パオ監督はインターネットを繋いで登場する予定。
2019年/ブータン/ゾンカ語、英語/110分/シネスコ
日本語字幕:横井和子 字幕監修:西田文信
配給:ドマ
後援:在東京ブータン王国名誉総領事館 協力:日本ブータン友好協会
(c)2019 ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://bhutanclassroom.com/
★2021年4月3日(土)より、岩波ホール他にて全国順次公開!
2021年03月21日
水を抱く女 原題:Undine
監督・脚本:クリスティアン・ペッツォルト(『東ベルリンから来た女』)
出演:パウラ・ベーア、フランツ・ロゴフスキ、マリアム・ザリー、ヤコブ・マッチェンツ
ギリシャ神話に登場する水の精 ウンディーヌ。
人間との結婚によってのみ不滅の魂を得ることができる女性の形をした水の精霊。
愛する男が裏切ったとき、その男は命を奪われ、ウンディーヌは水に還らなければならない・・・
クリスティアン・ペッツォルトが、ギリシャ神話のモチーフを現代に置き換えて、大胆に描いた物語。
ベルリン、風の強い日の朝。ウンディーヌは、職場近くの中庭のカフェで、恋人ヨハネスから他の女性に心移りしたと別れを告げられる。「また休憩時間に戻ってくるから、愛してると言って」とその場を去る。ウンディーヌは、ベルリンの都市開発を研究する歴史家。博士号も取り、博物館で見学者にベルリンの街の成り立ちを解説している。
休憩時間になり急いでカフェに戻るが、ヨハネスはもういない。悲嘆にくれるウンディーヌ。後ろにあった水槽が突然割れる。先ほど博物館で解説を聞いていた潜水作業員のクリストフが彼女を助ける。運命的な出会いだった・・・
バッハの調べにのせて綴られるミステリアスな愛の物語。その行方も気になりましたが、もっと惹かれたのが、ベルリンの街の成り立ちのこと。ウンディーヌが博物館でベルリンの街の大きな模型を前に、「“ベルリン”は、スラブ語で“沼”や“沼の乾いた場所を意味します。沼地に建てられた人工的な都市です・・・」と解説する場面があります。 思えば、ベルリンの博物館の集まる場所は「博物館島」。川の中州にあるのですが、そもそも沼地だったのかと、もっともっと街の成り立ちを知りたくなりました。
公式サイトの監督インタビューの中に、下記のような言葉があって、ベルリンの街の成り立ちが、この物語を生み出した大きな原動力だったと知りました。
この映画を企画している頃、ベルリン市立博物館に展示されている素晴らしいベルリンの模型を見ました。ベルリンは辺り一帯を排水処理して整地し、沼地に建てられた都市です。そして、神話を持たない人工的で近代的な都市です。かつての貿易都市のように神話を輸入しました。同時に、ベルリンはそれ自身の歴史をどんどん消し去っている都市でもあります。ベルリンの特徴的な要素であった「壁」は、非常に短い期間で取り壊されました。フンボルトフォーラム(「ベルリン王宮」の外観を復元した新しい複合文化施設)もまた過去の略奪なのです。これらの破壊された過去、神話の残骸はウンディーネの物語の一部だと思います。
(公式サイトより引用)
また、本作でもう一つ注目したのが、モニカ役で出演しているマリアム・ザリー。1983年、イラン、テヘランの刑務所生まれ。両親が反体制派で、2歳の時にドイツに亡命。自らの生い立ちやイランの政治について描いた監督作品『Born in Evin』(2019年)が、ドイツ映画賞最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。ぜひ観てみたいです。(咲)
第70回ベルリン国際映画祭 銀熊賞(最優秀女優賞)国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞 W受賞
2020年/ドイツ・フランス/ドイツ語/90分/アメリカンビスタ/5.1ch
日本語字幕:吉川美奈子
配給:彩プロ
(c)SCHRAMM FILM / LES FILMS DU LOSANGE / ZDF / ARTE / ARTE France Cinéma 2020
公式サイト:https://undine.ayapro.ne.jp/
★2021年3月26日(金)より、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
狼をさがして(原題:The East Asia Anti-Japan Armed Front)
監督:キム・ミレ
撮影:パク・ホンヨル
音楽:パク・ヒョンユ
出演:太田昌国、大道寺ちはる、池田浩士、荒井まり子、荒井智子、浴田由紀子、内田雅敏、宇賀神寿一ほか
1974年8月30日、東京・丸の内の三菱重工本社ビルで時限爆弾が爆発した。8名の死者と約380名の負傷者が出たこの事件は日本社会を震撼させた。事件から1ヶ月後、犯人から声明文が出される。「東アジア反日武装戦線“狼”」と名乗るその組織は、この爆破を「日帝の侵略企業・植民者に対する攻撃である」と宣言。その後、別働隊「大地の牙」と「さそり」が現れ、翌年5月までの間に旧財閥系企業や大手ゼネコンを標的とした“連続企業爆破事件”が続いた。1975年5月19日、世間を騒がせた“東アジア反日武装戦線”一斉逮捕のニュースが大々的に報じられた。人々を何よりも驚かせたのは、彼らが、会社員としてごく普通に市民生活を送る20代半ばの若者たちだったという事実であった。凄惨な爆破事件ばかりが人々の記憶に残る一方で、実際に彼らが何を考え、何を変えようとしたのかは知られていない。
2000年代初頭、釜ヶ崎で日雇い労働者を撮影していた韓国のキム・ミレ監督が、一人の労働者から東アジア反日武装戦線の存在を知り、彼らの思想を辿るドキュメントを撮り始めた。出所したメンバーやその家族、彼らの支援者の証言を追うなかで、彼らの思想の根源が紐解かれていく。
日本の監督でなくて、なぜ韓国の女性監督がこのドキュメンタリーを?と不思議でした。赤軍派を扱った映像は観たことがありましたが、”狼”を詳しく知ったのは初めてです。大道寺将司をはじめとした「東アジア反日武装戦線」の若者たちが、なぜ過激な行動に走って行ったのか、キム・ミレ監督は彼らの足跡を追っていきます。爆弾を使ったテロは彼らの予想を越えて、通行人も巻き込んだ惨事となりました。
過激なテロ集団と報道されていましたが、関係者や支援する人々、刑期を終えた本人の言葉から見えてくるのは、少し違うものでした。虐げられた人々に目を向けられる、その辛苦や思いを想像できる若者たちだったのに、手段がいけなかったと思えるのです。
今、私が年を取ったから言えることで、当時もし近くにいたなら、支援して逮捕された荒井まり子さんは私だったかもしれません。
大道寺将司は釧路出身で、アイヌの人々から土地を奪い搾取した末裔であると言っています。同じく北海道出身ですが、こんなにはっきりと加害者意識は持ちませんでした。韓国や中国の労働者たちが劣悪な環境のもと苦役につき、多くが死んでいったことも知っていきます。ゆがみや本質に気づける人だったのでしょう。小説や映画などで表現したり訴えたりするのでなく、暴力での攻撃になってしまったことが残念です。書簡集や句集を獄中から発表しているので、読んでみるつもり。(白)
1974年~1975年、東アジア反日武装戦線が起こした連続企業爆破事件。この爆破事件が起こった時、「日本はアジアに対して何をしてきたのか。これらの企業は彼らを搾取していた」という彼らの主張はわかるけど、なぜ企業爆破という方法で?と思った。こんなやり方をしたら、彼らの主張に寄り添える人も引いてしまうと思った。そして、その思いというのは、ほとんど社会に伝わらないまま「連続企業爆破事件」という名前だけが残ってしまった。そして、最近では「強制連行はなかった」という人までいる。こんな社会になってしまった日本だからこそ、この映画が伝える意味は大きい。
キム・ミレ監督は1998年から労働運動や人権に焦点をあてたドキュメンタリー作品を撮り始めた。日本の日雇い労働者を描いた『土方』(2005)という作品でソウル人権映画祭人権映画賞を受賞している。2007年に韓国で起こったスーパーで働く女性労働者の占拠運動を撮った『外泊』(2009)は、山形国際ドキュメンタリー映画祭のアジア千波万波部門特別招待作品にも選出され、日本国内でも自主上映された。釜ヶ崎を撮影中に、この事件の関係者と出会い、『狼をさがして』を製作したという。そんな監督だからこそ、この事件の検証に意味がある。「反日」という言葉をやたらに使う人たちにこそ見てほしい。彼らは少なくとも「反日」ではない。なんでも「反日」という言い方で決めつけるのは、あの戦争の時代につながる(暁)。
2020年/韓国/カラー/74分
配給:太秦
(C)Gaam Pictures
http://eaajaf.com/
★2020年3月27日(土)ロードショー
きまじめ楽隊のぼんやり戦争
監督・脚本・編集・絵:池田暁
撮影:池田直矢
音楽:かみむら周平
出演:前原滉(露木)、今野浩喜(藤間)、中島広稀(三戸)、清水尚弥(平一)、橋本マナミ(春子)、矢部太郎(仁科)、片桐はいり(城子)、嶋田久作(板橋)、きたろう(伊達)、竹中直人(大木)、石橋蓮司(夏目町長)
川を挟んだ津平町と太原町。二つの町は毎日「朝9時から夕方5時まで」規則正しく戦争をしている。いったいいつから、なんのために戦っているのか、もはや誰もわからない。川向うはとても怖いらしい、ということだけ囁かれている。露木は川岸に出勤し、昼はきまぐれおばさんの定食屋へ、夕方は物知りな総菜屋のおじさんの煮物を買って後は眠って明日に備える。突然音楽隊に異動になった露木は、トランペットを取り出して出動するが、どこにいけばいいのだろう?川岸に行ってみると向こうから音楽が聞こえてきた。
不思議な映画を観てしまいました。台詞は棒読み、登場人物は戦争中のせいか表情に乏しく、喜怒哀楽を表に出しません。誰がいるのか見たこともない隣町との戦争を日課に、町民たちは日々生きていきます。戦う相手はただただ怖い悪いヤツ、我々と同じ人間だなどとつゆほども思ってはいけません。「なんで?」と叫ぶ人は誰もいません。すごくヘン、不条理なんですが、これは今の私たちのこと?と疑いがわくと限りなくそう思えます。
戦争に疑問を持たずに、粛々と上の言う通りに出動する町民、喋ったはしから記憶がなくなる町長。今もいますね。個性的な俳優陣が個性的な監督のもと繰り広げる、面白くてやがて悲しい物語。ご飯てんこ盛り(減らすこともあり)おばさんの食堂が好きです。
ぼんやりするのはやめましょう。チコちゃんに叱られる、んじゃなく考えないと命にかかわります。(白)
俳優たちが棒読み、無表情で毎日、決まったことを繰り返す。自分で考え、判断することをせず、それに疑問を感じない。初めこそ違和感があったものの、しばらくするうちに慣れてしまった。もしかしたら、私も彼らと同じように考えることを放棄してしまったのかもしれない。みんながこんな風になってしまったら、国のトップは何だってできてしまう。危険な方向に進んでしまう可能性だってある。これこそが監督が伝えたかった怖さなのではないだろうか。危ない、危ない。(堀)
対岸は悪者と信じ込んで毎日規則的に戦う人々の姿がとても奇妙で笑ってしまいますが、笑い事ではありません。かつて鬼畜米英といって日本国民を戦争に動員させたのをまず思い起こしてしまいました。そして、今も世界では、敵をしつらえて戦争に民を駆り立てる権力者は後をたちません。まずは知らない世界にいる相手を理解し、お互い、違いを認め合うことから始めなければ!
いざ出陣の時にNHKドラマ「阿修羅のごとく」でお馴染みになったトルコの軍楽「ジェッディン・デデン」が奏でられ、もの悲しく響きました。(咲)
毎日、毎日、9時~5時まで戦争に通う。戦場はどこなのか。戦争相手は川向うの町というけど、相手の姿は見えず。無意味な戦い?を続けている。なんの情報もないまま見始めたけど、最初は「何この映画」何を表しているの?何を言いたいの?と思ってしまった。途中から、この奇妙な映画のおかしさ、現代社会に対するおちょくり方、皮肉の表現に、思わず「見事」と思った。何の疑問も持たずにぼんやり毎日を送っていたら戦争になっていたということにならないように、皆さんいろいろなことに興味をもっていきましょう。癖のある俳優たちの起用と奇妙な行動。よけいおかしかった。でもそこまで行くまでが苦痛だった(笑)。途中で帰りたいと思ってしまった(暁)。
2020年/日本/カラー/シネスコ/105分
配給:ビターズ・エンド
企画・製作:映像産業振興機構(VIPO)
制作協力:東映東京撮影所
共同事業幹事:カルチュア・エンタテインメント
(C)2020「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」フィルムプロジェクト
http://www.bitters.co.jp/kimabon/
★2021年3月26日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次ロードショー
2021年03月20日
騙し絵の牙
監督:吉田大八
脚本:楠野一郎、吉田大八
原作:塩田武士「騙し絵の牙」(KADOKAWA、角川文庫)
撮影:町田博
音楽:LITE
出演:大泉洋(速水輝)、松岡茉優(高野恵)、佐藤浩市(東松龍司)、佐野史郎(宮藤和生)、國村隼(二階堂大作)、宮沢氷魚(矢澤聖)、池田エライザ(城島咲)、斎藤工(郡司一)、中村倫也(伊庭惟高)、木村佳乃、塚本晋也、リリー・フランキー、小林聡美、和田聰宏、坪倉由幸
大手出版社「薫風社」創業一族の社長が急逝した。次期社長の椅子を巡って権力争いが勃発。かねてからの出版不況のため、専務・東松が進める大改革で、お荷物雑誌「トリニティ」は廃刊のピンチに立たされた。無理難題を押し付けられた変わり者編集長・速水は、新人編集者・高野と共に、会社上層部、同僚、ライバル誌のクセモノたちと生き残りをかけた攻防を繰り広げる。嘘、裏切り、リーク、告発――クセモノたちの陰謀が渦巻く中、速水の“大逆転”の奇策とは!?
オールスター出演♪と歌いたいくらい主役クラスのみなさんが出演です。原作は最初から大泉洋さんを当て書きしたと聞いて、そうかなぁと思ったのは自分のイメージとちょっと違ったから。映画は原作より女性が活躍していて、どの人も演技巧者で、印象に残ります。話の展開もスピーディながら、置いて行かれることはなくとても面白く観ました。
編集部の机周りや松岡茉優さん演じる高野恵の実家の本屋さんの棚など、画面を止めてチェックしたくなります。おまけにお父さんが塚本晋也さんとは!私も通って支えたいお店です。
原作を読んだのは2018年の4月でした。よく覚えているのは、そのころ取材した森崎ウィンさんに「今読んでいる本」を尋ねて返ってきた答えがこの本だったから。「出版業界の話だから共感しますよ」と言われて、いやいやミニコミなので…と思いつつ、すぐ読んでみたのでした。儲け話には人が群がり、権謀術数渦巻くでしょうが、シネジャは遠く離れたところにいます。それでも本という媒体が好きで、存続に頭を悩ませているのは同じ。会議にうんうん、そうそうと頷いてしまったのでした。(白)
大泉洋を主人公に当て書きした小説が原作だが、映画の物語は原作と全く違う。設定も薫風社の雑誌「トリニティ」編集長という肩書だけが同じで、生え抜きの社員ではない。作家の二階堂大作や編集部員の高野恵も大分違う。しかし、映画は映画で大泉洋にぴったりの役どころが用意されていた。原作ファンも十分どきどきできる展開が繰り広げられるのがうれしい。
吉田大八監督は細やかな演出で有名だが、スタッフも細やかに期待に応えている。「トリニティ」編集部のあるフロアの作り込みは半端ない。目を凝らしてスクリーンを見てほしい。本当に細やかに作り込まれている。普通は撮影のときに、ここから先は映り込まないようにと気をつけながらカメラを回すのだが、今回はそんな気遣いが無用なほど360度、カメラがどこを向いていてもOKだったそう。
逃げる大泉洋と宮沢氷魚を松岡茉優が追いかけるシーンがあるのだが、そこはホテルのバックヤードという設定ですごく狭い。カメラマンと照明技師が狭い中、必死に移動して撮っている。カーブする箇所もあるのだが、そこは何度も繰り返したそう。そんな技術スタッフのがんばりにも注目して見ると面白いかも。(堀)
2021年/日本/カラー/シネスコ/113分
配給:松竹
(C)2020「騙し絵の牙」製作委員会
https://movies.shochiku.co.jp/damashienokiba/
★2021年3月26日(金)ロードショー
旅立つ息子へ 原題:Hine Anachnu 英題:Here We Are
監督:ニル・ベルグマン(『ブロークン・ウィング』『僕の心の奥の文法』)
脚本:ダナ・イディシス
出演:シャイ・アヴィヴィ(アハロン)、ノアム・インベル(ウリ)、スマダル・ヴォルフマン(タマラ)、エフラット・ベン・ツール(エフィ)、アミール・フェルドマン(アミール)、シャロン・ゼリコフスキー(シャローナ)
グラフィックデザイナーのアハロンは仕事をやめ、自閉症スペクトラムを抱える息子ウリと田舎町でのんびり暮らしている。星形のパスタが大好きで、金魚のヨニとヤロンとダニエルをかわいがり、ウンベルト・トッツィの「Gloria」を歌いながら髭を剃るウリ。身体は大人でも、中身は純粋無垢な子ども。世話は大変だけど、アハロンにとっては満ち足りた日々だ。
そんな折、別居中の妻タマラが、ウリの自立を促すため全寮制の特別支援施設に入所させるという。裁判所からも、定収入のないアハロンは養育不適合と判定を受ける。仕方なく、ウリを施設に連れていく途中、乗換駅でウリは父と別れたくないとパニックを起こしてしまう。アハロンは、施設に行くのをやめ、ベエルシェバの同級生宅から、さらに海辺のリゾート地エイラットへとあてのない旅に出る・・・
タブレットで常にチャップリンの映画『キッド』を見ては笑みを浮かべるウリ。そのモデルとなったのは、脚本を書いたダナ・イディシスの弟ガイ。子どもの頃、チャップリンの無声映画を繰り返し観ていた弟。その後、自閉症と診断され、父が弟と特別な関係を作り上げたのをそばで見ていたダナ。彼女がふと、父の死後、弟はどうなるのかと考えたことから、本作は生まれたそうです。
親にとって、我が子はいつまで経っても子ども。自閉症なら、さらに先行きが心配になって過保護になるのもわかります。本作は、いつかは子離れしなくてはいけないことを描いた普遍的な物語。それがお互いのためとわかっていても、離れがたいものですね。
イスラエルが舞台ですが、パレスチナのことはまったく出てこないのどかなイスラエル。
父子が暮らす海辺に近い北部の田舎町や、一番南の紅海に面したリゾート地エイラットの風景を楽しみました。エイラットを、すぐそばのヨルダンのアカバから眺めたことがありますが、質素なアカバと比べて、リゾートホテルの林立する華やかなところでした。
途中、ネゲヴ沙漠にある大都市ベエルシェバで鉄道を乗り換える場面があって、思わずイスラエルの鉄道路線地図を探してしまいました。30年前にイスラエルを旅したことがありますが、ツアーでバス移動だったので、いつかイスラエルを鉄道で旅したいとそそられました。(咲)
男の人は助けを求めるのが下手で、困ったことがあっても自分に抱え込んでしまいがちという。本作の主人公は売れっ子グラフィックデザイナーというキャリアを捨てて、自閉症スペクトラムの息子を育てることに専念した父親。仕事より育児を選んだのが男性ということから、世の中が随分、変わったと感じる。しかし、父親がキャリアを捨てたのは本当に息子のためだけだったのだろうか。2人を見ていると共依存に陥っているのが分かる。父親は仕事を続けていくことに不安を感じ、育児に逃げ込んだ部分もあったのではないだろうか。
親は子どもより先に逝く。その日のために、息子を自立させることが親としていちばん大事なはず。父親にはそれが見えていないが、2人で逃避行を続けるうちに、息子の成長に気づいていく。ラストに息子がトラブルを自分で解決して前に進んだ姿を見た父親の安堵と寂しさの入り混じった顔が忘れられない。(堀)
親の気持ちで観ていました。「子どもはいつまでも子ども」ですが、遺して先に逝くことを考えなくちゃ。やっぱり母親のほうが現実的です。父と息子二人暮らしのシーンがいつも綺麗なパステル調の色合いです。部屋も着ている服も。息子を施設に置いて初めて離れたときに、初めて父親が黒っぽい地のシャツを着ました。お父さんの心情が現れているのかしら?
何も仕事を捨てなくてもいいのに、家でできる仕事をやっていれば、息子が早くに絵に興味を持ったはず。子育てしていれば絵を描いてやる機会は何度もあります。蛙の子は蛙、きっと絵の才能が早くに花開いたんじゃないかな。それがもったいないなぁと思ったこと。(白)
2020年/イスラエル・イタリア/ヘブライ語/94分/1.85ビスタ/カラー/5.1ch/PG12
日本語字幕:原田りえ
配給:ロングライド
© 2020 Spiro Films LTD.
公式サイト: https://longride.jp/musukoe
★2021年3月26日(金) 、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
迷子になった拳
監督:今田哲史
出演:金子大輝、渡慶次幸平、ソー・ゴー・ムドー、ロクク・ダリル、浜本”キャット”雄大 ほか
ミャンマーの伝統格闘技・ラウェイに賭ける人たちを追ったドキュメンタリー映画
禁じ手がほぼ許される「地球上でも最も過激な格闘技」と言われるラウェイ。拳にバンテージのみを巻いて闘い、KO以外の判定による勝敗がなく、最後まで立っていれば、二人とも勇者として讃えられる。「最も美しい格闘技」ともいわれる所以だ。
ミャンマーで古代から受け継がれてきたラウェイが、密かに日本にも上陸していた。
紛争により母国を追われ日本に行きついた者、自分自身の居場所を探し求める者、文化交流・精神性や哲学の流布に尽力した者、興行として文化活性化を目指す者…… 様々な人々がラウェイの世界に飛び込み、己の尊厳と敬愛、自己実現と欲望のためにもがき、奮闘する。
果敢にラウェイに挑戦した金子大輝と渡慶次幸平の二人に焦点をあて、日本とラウェイのかかわりを紐解いていく・・・
千年以上の歴史があり、王を守る武術、奉納儀式という説もあるラウェイ。
試合の間、会場ではミャンマーの伝統音楽サインワインが奏でられ、独特の掛け声が選手たちを鼓舞する。リングにあがり、試合の前にヤイダンス(現地ではラッウェイエ)を踊り、勝てばまた優雅に踊る。日本に武士道があるように、ミャンマーにもある美しいラウェイ道。
日本に上陸したラウェイは綺麗ごとだけではありませんでしたが、ミャンマーとの文化交流の一端を担っているのも事実。渡慶次幸平さんが、日本やミャンマーで試合に出続ける傍ら、ミャンマーで学校建設など社会貢献活動をされている姿にも感銘を受けました。
本作の撮影は、軍事政権が倒れ民主化の始まった2016年から行われましたが、今また軍事クーデターでミャンマーの人たちの将来に暗雲が立ち込めています。ラウェイに携わる人たちの運命はどうなるのでしょう・・・ 伝統をも潰すようなことがないことを祈るばかりです。
私自身、格闘技は嫌いですが、そんな人にも是非観てほしい一作です。(咲)
日本人青年の金子大輝さんが、ミャンマーの都市ヤンゴンでジムで修業をします。ジムのウィン・ジー・ウー会長が優しくまた厳しく指導していました。若い金子さんが調子に乗ると「相手へのリスペクトを忘れるな」「闘うときは獅子のように。それ以外は謙虚でいなさい」と諭します。ラウェイは神聖なものとして大切にされるところが、日本の相撲に似ています。頭突きもありますしね。なんとなくあぶなっかしい金子くんを、今田監督が親戚の子のように心配していたのがほほえましいです。監督が「ニュータイプ」と称していた渡慶次幸平さんが、ミャンマーに馴染んでいくのも頼もしい…なのに、クーデターとは!
世論が高まり、みんなが無事で、日常が戻ることを願っています。(白)
2020年/日本/カラー/110分
配給・宣伝:SPOTTEDPRODUCTIONS 宣伝協力:MAP
公式サイト:http://lostfist.com/
★2021年3月26日(金)より渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開
2021年03月16日
ハウス・イン・ザ・フィールズ(原題: TIGM N IGREN)
監督・撮影:タラ・ハディド
字幕翻訳:松岡葉子
出演:カディジャ・エルグナド、ファティマ・エルグナドほか
秋、収穫の季節には畑仕事をして、森でイチヂクを摘む。冬、厳しい寒さの中、火の周りで身を寄せ合う。春、アーモンドやりんごの花が咲き、世界がふたたび色づく。夏、緑と太陽の光あふれる美しい季節の中、ラマダンが明け、盛大な宴が始まる
弁護士を夢見る少女カディジャとその姉のファティマは、モロッコの山奥で暮らすアマズィーグ族の姉妹。自然の恩恵を受け、数百年もの間ほとんど変わらない生活を送っている。そんな日々の中、ファティマが学校を辞め、結婚することになる。カディジャは、大好きな姉と離ればなれになってしまう寂しさ、そして自分も姉のように学校を卒業できないかもしれないという不安を募らせていく。
本作は、アトラス山脈の四季折々の自然風景と、彼女たちの慎ましくも美しい日々の営みをありのままに記録したドキュメンタリー。第67回ベルリン国際映画祭フォーラム部門最優秀ドキュメンタリー賞にノミネート他、世界の映画祭に出品され話題を呼んだ。
監督は、世界的建築家ザハ・ハディドを叔母に持ち、写真家としても活躍するタラ・ハディド。本作の製作にあたり、5年にわたって現地に通いアマジグ族と寝食をともにしている。被写体に寄り添った親密な映像は、なくなりつつある生活様式や文化を記録しながら、人々の内なる想いをも紡いでいく。
作品冒頭でカディジャは「母親が家族の中でいちばん早く起きて家事をする」と紹介する。どこの国も朝の風景は変わらないらしい。自然が息づく環境で、昔ながらの生活。家事労働は大変だろう。一方の父親はかつてフランスやドイツに出稼ぎに行っていたようだが、いろいろ苦労した末に帰国し、もう30年以上、国外に出たことはないという。作品の中ではいつもどっしり座って何もしない。
しかし、確実に変化は生じている。姉は親の決めた相手と結婚するため学校をやめた。女に教育はいらないということか。「夏になったら女になる」とつぶやく姉から未知の世界への不安が伝わってくる。それでも結婚したら、彼の村には住まず、カサブランカへ行って働きたいと語る。妹は男女平等で、女も法律で仕事をすることが認められているといい、学校に通って弁護士を目指す。姉に古い価値観からの過渡期を感じ、妹はその先にある新しい文化の象徴に見えた。嫁いだ姉を想い、残された寂しさに震える妹が切ない。(堀)
アマズィーグ族というとピンとこないかもしれませんが、蔑称で、ベルベルと呼ばれてきた人たちのこと。フェニキアやローマやアラブが北アフリカに侵攻する前から、暮らしていた人たち。
映画では、冒頭からティフィナグ文字で書かれたアマズィーグ語を目にすることができます。
会話の中で、国王令で男女同権をうたっていることが語られます。姉は「結婚は義務だから」と、親の決めた結婚を受け入れます。(クルアーンに結婚はすべきものと書かれています) 一方で、結婚したら夫と共に都会で暮らして働きたいと妹に語ります。 「男が変化をいやがって反対デモをしたニュースを見た」という言葉もあって、国王が男女同権を進めようとしても、なかなかそうはいかない現実も垣間見られます。
なお、アマズィーグ語や、モロッコの現国王のことなどについて、スタッフ日記に書いています。味わい深いドキュメンタリー鑑賞の参考にお読みいただければ幸いです。(咲)
★タラ・ハディド監督インタビュー (アップリンク提供)
2017年/モロッコ、カタール/アマズィーグ語/1:1.85/86分
配給:アップリンク
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/fields/
配信期間:2020年5月1日(金)〜5月28日(木)/価格:1900円(税込み)/視聴期間:2日間
★オンライン配信にて緊急公開★
2020年に公開予定がコロナ禍で延期になりオンライン配信で緊急公開されましたが、この度、劇場での公開が決まりました。
★2021年4月9日(金)アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
2021年03月13日
夜明け前のうた ~消された沖縄の障害者~
監督・撮影・編集:原 義和
制作:高橋年男 山田圭吾 糸洲のぶ子
ナレーション:宮城さつき
音楽:白川ミナ
創作舞踏:Danzatakara.
製作協力:沖縄県精神保健福祉会連合会 沖縄YWCA
製作:障害者映像文化研究所 イメージ・サテライト
プロデューサー:中橋真紀人
「私宅監置」は1900年制定の法律に基づき精神障害者を小屋などに隔離した、かつての国家制度。1950年に日本本土では禁止になったこの制度は、沖縄ではその後1972年まで残った。原監督は、岡庭武氏が撮影した1964年の医療調査の写真に出会ったことから、被写体となった人々を探し始める。その社会的背景を考察し、法律のもと犠牲となり排除された人々の心に寄り添おうとするドキュメンタリー。
私宅監置小屋跡
こういう法律があったなんて映画を観るまで知らずにいました。座敷牢というのは、時代劇で知っていましたが、近代に制度化されていたとは…。
原監督が出逢ったたくさんの写真は、1960年代に調査のために派遣された医師が撮影したものです。監置小屋の中からその視線が問いかけています。なぜここにいなくてはいけないのか?それは誰のためなのか?いつになったら出られるのか?
原監督にお話を伺いました。(白)
★原監督インタビューはこちらです。
何で見たんだろう。私は沖縄の私宅監置を以前、ドキュメンタリー映画で見て知っていた。記憶を辿って探してみたのだけれど、どうしてもタイトルが思い出せない。ただ、そのときはこんなに多くの方が辛い思いをし、しかも当事者だけでなく、子や孫にまで大きな影を落としていたとは知らなかった。
日本国内では1950年に廃止された制度が沖縄では1972年まで残ってしまったのは、サンフランシスコ条約で沖縄が日本から切り離されてしまったから。日本でもアメリカでもない状況が悪しき制度を存続させた。沖縄が背負わされた悲しみは基地問題だけではなかったのだ。
今、人ならざる者を描いた作品がヒットしている。「鬼滅の刃」然り、「呪術廻戦」然り。それを非難するつもりはないが、人として扱ってもらえなかった人がいた歴史ときちんと向き合うことも忘れてはいけない。(堀)
精神障害者を小屋などに隔離した「私宅監置」。沖縄では1960年代までそういう制度があったというのをこの作品で知ったが、本州でもこの数年でこういう拘束されていた障害者の話がいくつかあったと思う。暴力をふるう障害者に対して拘束と言っているが、拘束されてしまうからよけい暴れるということもある。これは精神障害者への話だが、今も高齢者を拘束する病院がある。それはいろいろつけた診療のためのチューブなどを苦しさから外してしまう行動を避けるためだが、10年くらい前、母が脳梗塞で倒れた時、入院した大きな大学病院はその拘束をしていた。私たち子どもは、それに対して外してほしい。ほかの方法でと頼み、ミトンの手袋にしてもらい、拘束をはずしてもらったことがある。
沖縄でも、のちに拘束がなくなった人を取材していたけど、拘束をされることで、自尊心も傷つけられる。病院やほかの人の都合で拘束するというのは人権侵害ではないのか。拘束しないと犯罪に走るかもしれないという恐れもあるけど、その人の気持ちになって親身にあたるということで解決できることもあるのでは?(暁)
2020/日本/DCP/カラー/5.1ch/97分
配給:新日本映画社
(c)2020 原 義和
公式サイト:http://yoake-uta.com/
★2021年3月20日(土)より東京 K’s cinema、4月3日より沖縄 桜坂劇場ほか全国順次公開
2021年03月11日
地球で最も安全な場所を探して 英題:Journey to the Safest Place on Earth
2021年2月20日(土)シアター・イメージフォーラムにて公開他全国順次公開
上映情報
監督:エドガー・ハーゲン
撮影:ペーター・インデルガンド
録音:ジャン・ピエール・ジェス
編集:ポール・マイケル・セドラセック、エドガー・ハーゲン
音楽:トメク・コルチンスキー
プロデュ―サ―:ヘリクリ・バンディ
製作:ミラ・フィルム
スイス/2013年/100分
”核のごみ”を捨てる場所はみつかるのか?
原発推進論者の科学者と反原発の映画監督が
”世界⼀安全な場所”を探す旅に出る
この60年間で高レベル核廃棄物35万トン以上が世界で蓄積されてきた。それらの放射能を含む核廃棄物は、人間や環境に害を与えない安全な場所に長期に渡って保管する必要がある。しかし、そのような施設がまだ作られていないにも関わらず「核のごみ」は増え続けている。そんな中、スコットランド出身でスイス在住の核物理学者で、国際的に活動している廃棄物貯蔵問題専門家のチャールズ・マッコンビーが世界各地の同胞たちとこの問題に取り組む姿をスイス人のエドガー・ハーゲン監督が撮影。
チャールズとエドガー監督の2人は、放射性廃棄物で汚染されたアメリカ先住民居留地の神聖な山・ユッカマウンテン、イギリスのセラフィールド、中国・ゴビ砂漠、青森県六ヶ所村、スウェーデン、スイスなど世界各地の最終処分場候補地を巡る旅に出る。
未来の世代に対する今の時代に生きている私たちの責任、解決方法など、様々な問題を提起。
果たして10万年後にも安全な、"楽園"を探すことはできるのか―。
廃炉も含め約60基の原発を抱える原発大国でもある日本。2020年、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村が最終処分場候補地として名乗りを上げ、2020年11月から文献調査が開始されているという。
●エドガー監督から日本公開に向けてのメッセージ
現在原子炉は、世界で400基ほどあり、核廃棄物を作り出しているにも関わらず、その処理方法を見つけられないまま、原子力エネルギーを生産し続けています。そこで、この問題を世界的に解決しようと取り組んでいる人々と一緒に映画を作ろうと考えました。
この問題は全世界的に渡る問題です。核廃棄物の処分方法が問題になり始めた70年代から40年近く、どう処理するかの解決方法を見つけないまま走ってしまっている問題をこの映画では追っています。この40年間の、何かを試みては失敗するという繰り返しの歴史を照らし出しています。
日本は確実にこの問題について真剣に考えないといけない国だと思っています。50基以上の原子炉があり、それと同時にたくさんの核廃棄物があり、地政学的にも地震が多かったりと複雑な問題を持っているので、この問題を真剣に考えないといけないと思っています。現在、日本では北海道の2町村が名乗りを上げています。そこが適しているかは引き続き調査が必要ですが、2つの地域が名乗りを上げることで核廃棄物について議論しようと思う事は良いことだと思います。必ずしもそれが解決方法だ、ということは簡単には言えませんが。
このタイミングで日本でたくさんの方に観て頂けることを望んでいます。日本でも議論をし、意見交換すべき作品になれば幸いです。
この狭い日本に、現在(2020年)50基以上の原発があり、建築予定の原発は16基。稼働中の原発は9基だという。あとは原発はあっても稼働していないのか? それは幸いというべきか、でもなんて無駄なことをしてくれたのかとも思う。この映画は核廃棄物の処分場が用意できていないまま、原発の建設を進めている現状が描かれている。これまでもいくつもの核廃棄物処理場をめぐる映画があったけど「核廃棄物処理」の問題は進展のないまま。
これまで、スリーマイル島(1979)、チェルノブイリ(1986年)など大きな原発事故があり、2011年の福島の事故があって、原子力に対する安全神話は崩れ、放射能の危険性がこんなに叫ばれているのに、まだ原子力事業を進めようとしている人たちにぜひ観てもらいたい。ちゃんと核廃棄物の処理の問題が解決されてもいないのに、原発の建設を進めることは人類に対する犯罪のように感じる。原発を作って、あとの処理は後の方たちよろしくと先送りにしてしては地球に対するぼうとくではないのか(暁)。
参照:原子力発電所の現状(資源エネルギー庁データ)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/001/pdf/001_02_001.pdf
『地球で最も安全な場所を探して』というタイトルを聞いたとき、てっきり人間が住むのに安全な場所を探す話かと勘違いしました。実際には核廃棄物をいかに安全に処理するかの話です。
理系の娘が就活の真っ最中ですが、インフラ業界を志望しています。東京電力も候補の1つ。昨年の夏以降、何度も説明会に参加し、オンラインでのインターンシップ(緊急事態宣言が発令しなかったら福島で行われるはずでした)も参加しました。インターンシップでどんなことをしたのかを娘に聞いたところ、いかに安全に廃炉にするかを日々研究しているとのこと。娘は福島のコースを選びましたが、もし柏崎のコースを選んでいたら、原子力の安全な活用方法を研究している方々の話を聞くことになったそう。娘が東京電力とご縁があるかわかりません。しかし、いろいろな視点で安全に向けて必死に取り組んでいる人たちが日本にもいることを娘の就活を通じて知りました。
原子力発電は危険だから止めるべきという主張も理解できますが、電気を使わないで生活はできません。ではどうしたらいいのか。本作を考えるきっかけにして、人々が意識していくことが大事なのではないかと思います。(堀)
『地球で最も安全な場所を探して』公式HPはこちら
後援:在日スイス大使館
日本語字幕:平井かお
予告編制作:株式会社ネツゲン
宣伝美術:追川恵子
配給:きろくびと
スイス/2013年/英語•ドイツ語•中国語•日本語/カラー/DCP/100分
参考
放射性放射性廃棄物、核廃棄物の再生利用などを描いた映画
『チャルカ~未来を紡ぐ糸車~』 監督:島田恵
劇場公開 2017年8月12日
『福島 六ヶ所 未来への伝言』 監督:島田恵
劇場公開 2014年2月15日
『放射性廃棄物 終わらない悪夢』 監督:エリック・ゲレ
劇場公開 2011年10月22日
『100,000年後の安全』 監督:マイケル・マドセン
日本公開 2011年4月2日
『六ヶ所村ラプソディー』 監督:鎌仲ひとみ
2006年10月7日公開
『六ヶ所人間記』 監督:山邨伸貴 倉岡明子
劇場公開 1985年10月26日
『夏休みの宿題は終らない』監督:山邨伸貴 製作:倉岡明子
劇場公開 1990年1月29日
『田神有楽』 監督:加藤哲
劇場公開 2002年11月30日
『下北核半島からの報告 核燃料サイクル』 監督:森弘太
1988年
『海盗り――下北半島・浜関根』監督:土本典昭
1984年
上映情報
監督:エドガー・ハーゲン
撮影:ペーター・インデルガンド
録音:ジャン・ピエール・ジェス
編集:ポール・マイケル・セドラセック、エドガー・ハーゲン
音楽:トメク・コルチンスキー
プロデュ―サ―:ヘリクリ・バンディ
製作:ミラ・フィルム
スイス/2013年/100分
”核のごみ”を捨てる場所はみつかるのか?
原発推進論者の科学者と反原発の映画監督が
”世界⼀安全な場所”を探す旅に出る
この60年間で高レベル核廃棄物35万トン以上が世界で蓄積されてきた。それらの放射能を含む核廃棄物は、人間や環境に害を与えない安全な場所に長期に渡って保管する必要がある。しかし、そのような施設がまだ作られていないにも関わらず「核のごみ」は増え続けている。そんな中、スコットランド出身でスイス在住の核物理学者で、国際的に活動している廃棄物貯蔵問題専門家のチャールズ・マッコンビーが世界各地の同胞たちとこの問題に取り組む姿をスイス人のエドガー・ハーゲン監督が撮影。
チャールズとエドガー監督の2人は、放射性廃棄物で汚染されたアメリカ先住民居留地の神聖な山・ユッカマウンテン、イギリスのセラフィールド、中国・ゴビ砂漠、青森県六ヶ所村、スウェーデン、スイスなど世界各地の最終処分場候補地を巡る旅に出る。
未来の世代に対する今の時代に生きている私たちの責任、解決方法など、様々な問題を提起。
果たして10万年後にも安全な、"楽園"を探すことはできるのか―。
廃炉も含め約60基の原発を抱える原発大国でもある日本。2020年、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村が最終処分場候補地として名乗りを上げ、2020年11月から文献調査が開始されているという。
●エドガー監督から日本公開に向けてのメッセージ
現在原子炉は、世界で400基ほどあり、核廃棄物を作り出しているにも関わらず、その処理方法を見つけられないまま、原子力エネルギーを生産し続けています。そこで、この問題を世界的に解決しようと取り組んでいる人々と一緒に映画を作ろうと考えました。
この問題は全世界的に渡る問題です。核廃棄物の処分方法が問題になり始めた70年代から40年近く、どう処理するかの解決方法を見つけないまま走ってしまっている問題をこの映画では追っています。この40年間の、何かを試みては失敗するという繰り返しの歴史を照らし出しています。
日本は確実にこの問題について真剣に考えないといけない国だと思っています。50基以上の原子炉があり、それと同時にたくさんの核廃棄物があり、地政学的にも地震が多かったりと複雑な問題を持っているので、この問題を真剣に考えないといけないと思っています。現在、日本では北海道の2町村が名乗りを上げています。そこが適しているかは引き続き調査が必要ですが、2つの地域が名乗りを上げることで核廃棄物について議論しようと思う事は良いことだと思います。必ずしもそれが解決方法だ、ということは簡単には言えませんが。
このタイミングで日本でたくさんの方に観て頂けることを望んでいます。日本でも議論をし、意見交換すべき作品になれば幸いです。
この狭い日本に、現在(2020年)50基以上の原発があり、建築予定の原発は16基。稼働中の原発は9基だという。あとは原発はあっても稼働していないのか? それは幸いというべきか、でもなんて無駄なことをしてくれたのかとも思う。この映画は核廃棄物の処分場が用意できていないまま、原発の建設を進めている現状が描かれている。これまでもいくつもの核廃棄物処理場をめぐる映画があったけど「核廃棄物処理」の問題は進展のないまま。
これまで、スリーマイル島(1979)、チェルノブイリ(1986年)など大きな原発事故があり、2011年の福島の事故があって、原子力に対する安全神話は崩れ、放射能の危険性がこんなに叫ばれているのに、まだ原子力事業を進めようとしている人たちにぜひ観てもらいたい。ちゃんと核廃棄物の処理の問題が解決されてもいないのに、原発の建設を進めることは人類に対する犯罪のように感じる。原発を作って、あとの処理は後の方たちよろしくと先送りにしてしては地球に対するぼうとくではないのか(暁)。
参照:原子力発電所の現状(資源エネルギー庁データ)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/001/pdf/001_02_001.pdf
『地球で最も安全な場所を探して』というタイトルを聞いたとき、てっきり人間が住むのに安全な場所を探す話かと勘違いしました。実際には核廃棄物をいかに安全に処理するかの話です。
理系の娘が就活の真っ最中ですが、インフラ業界を志望しています。東京電力も候補の1つ。昨年の夏以降、何度も説明会に参加し、オンラインでのインターンシップ(緊急事態宣言が発令しなかったら福島で行われるはずでした)も参加しました。インターンシップでどんなことをしたのかを娘に聞いたところ、いかに安全に廃炉にするかを日々研究しているとのこと。娘は福島のコースを選びましたが、もし柏崎のコースを選んでいたら、原子力の安全な活用方法を研究している方々の話を聞くことになったそう。娘が東京電力とご縁があるかわかりません。しかし、いろいろな視点で安全に向けて必死に取り組んでいる人たちが日本にもいることを娘の就活を通じて知りました。
原子力発電は危険だから止めるべきという主張も理解できますが、電気を使わないで生活はできません。ではどうしたらいいのか。本作を考えるきっかけにして、人々が意識していくことが大事なのではないかと思います。(堀)
『地球で最も安全な場所を探して』公式HPはこちら
後援:在日スイス大使館
日本語字幕:平井かお
予告編制作:株式会社ネツゲン
宣伝美術:追川恵子
配給:きろくびと
スイス/2013年/英語•ドイツ語•中国語•日本語/カラー/DCP/100分
参考
放射性放射性廃棄物、核廃棄物の再生利用などを描いた映画
『チャルカ~未来を紡ぐ糸車~』 監督:島田恵
劇場公開 2017年8月12日
『福島 六ヶ所 未来への伝言』 監督:島田恵
劇場公開 2014年2月15日
『放射性廃棄物 終わらない悪夢』 監督:エリック・ゲレ
劇場公開 2011年10月22日
『100,000年後の安全』 監督:マイケル・マドセン
日本公開 2011年4月2日
『六ヶ所村ラプソディー』 監督:鎌仲ひとみ
2006年10月7日公開
『六ヶ所人間記』 監督:山邨伸貴 倉岡明子
劇場公開 1985年10月26日
『夏休みの宿題は終らない』監督:山邨伸貴 製作:倉岡明子
劇場公開 1990年1月29日
『田神有楽』 監督:加藤哲
劇場公開 2002年11月30日
『下北核半島からの報告 核燃料サイクル』 監督:森弘太
1988年
『海盗り――下北半島・浜関根』監督:土本典昭
1984年
2021年03月09日
クィーンズ・オブ・フィールド(原題:Une belle equipe)
監督:モハメド・ハムディ
脚本:モハメド・ハムディ、アラン=ミシェル・ブラン
撮影:ローラン・ダイアン
出演:カド・メラッド(マルコ)、アルバン・イヴァノフ(ミミル)、セリーヌ・サレット(ステファニー)、サブリナ・ウアザニ
サッカーが盛んな町、北フランス・クルリエール。
90年の伝統を誇る名門チームSPACの試合中にまさかの乱闘騒ぎが起き、なんと主要メンバーの男性たちが出場停止⁉このままでは残りのリーグが戦えずにチームは崩壊、町にも大打撃が訪れてしまう…。そんな彼らの窮地を救ったのは、奥様達だった!!チームを、そして町全体を救うために専業主婦、シングルマザー、セレブ妻、女子高生達もが次々と立ち上がった。今までサッカーは見る専門だった彼女たち。家事や育児に代わり、サッカーを始める事になった彼女たちに待っていたものとは…?そして夫たちはどうなるのか…。
名門チームのピンチヒッター(サッカーでもそう呼ぶのか?)に初心者の奥さんたちとは無謀だ!と無茶ぶりに呆れましたが、そこは達者な俳優陣。無理なく笑わせながら心温まるドラマを作っていました。
コーチは試合までにどんな指導をするの?メンバーの優劣は?夫たちの理解と協力は?などなど疑問がいっぱい湧いてきます。そこをどうやって乗り越えていくのかが、見どころ。どこの国だろうが、やはり似ている夫婦間のバトルが一番共感できました。
サッカー日本女子代表「なでしこジャパン」の活躍に目を見張ったものですが、彼女たちもいろいろ苦労があったでしょうねぇ。(白)
妻や娘がピンチを救おうと立ち上がったのに、どうせ女には無理と、ヘタレな男たち。出場停止になったのは、自分たちのせいなのに! 女だって、やれば出来ることを見せてくれて痛快でした。
チームを率いる主役マルコを演じたカド・メラッドは、アルジェリア出身のフランスを代表する俳優。モハメド・ハムディ監督も、アルジェリア系。前作『La vache』 (2016)では、アルジェリア人の男性が主人公でしたが、本作ではアルジェリアは関係なく、女性のことを描きたかったそうです。監督には6人の姉妹がいて、お母さまも含めると7人の女性を見て育ったので、本作の女性たちに反映されているのかもしれません。
それにしても、男たちだけでなく、女性たちも集まれば下ネタ炸裂! おフランスだなぁ~(咲)
先日、韓国で女子高生がプロで野球をするために必死になる映画『野球少女』が公開されましたが、今回はフランスでサッカー。どこに国でもどんなスポーツでも男が主体と思われているのを改めて感じます。
ただ、モハメド・ハムディ監督は女性が本気でサッカーをする姿を描いたのではありません。もちろん登場する女性たちは必死に取り組んでいますが、妻が練習に参加する間、慣れない育児に右往左往する夫をコメディタッチに描くことで、社会において女性の役割と思い込まれていることに対して問題提起しているように感じました。(堀)
2019年/フランス/カラー/シネスコ/95分
配給:イオンエンターテイメント
(C)2019 ADNP - KISSFILMS - GAUMONT - TF1 FILMS PRODUCTION - 14EME ART PRODUCTION - PANACHE PRODUCTIONS - LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE
https://qof-movie.com/
★2020年3月19日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
ミナリ(原題:MINARI)
監督・脚本:リー・アイザック・チョン
出演:スティーヴン・ユァン(ジェイコブ)、ハン・イェリ(モニカ)、アラン・キム(デビッド)、ネイル・ケイト・チョー(アン)、ユン・ヨジョン(スンジャおばあちゃん)、ウィル・パットン(ポール)ほか
1980年代のアメリカ アーカンソー州。韓国系移民のジェイコブは、ロサンゼルスの孵卵場で10年働いてきた。自分の土地を持ち、農業で成功することを夢見て高原に移り住んだ。だだっ広い土地に古いトレーラーハウスがあるだけなのに妻のモニカは「約束が違う」と呆然。長女のアンと身体の弱い長男デビッドに「大きな農園を作る」とジェイコブは意気盛んだ。まもなく韓国からモニカの母がやってくる。両親が働いている間、子どもたちの世話をするためだったが、一風変わったおばあちゃんらしくないおばあちゃんだった。
リー・アイザック・チョン監督の両親が移民一世として韓国からアメリカへ移住し、一家が苦労して農業で生計を立てた過去を背景にして描かれている半自伝的作品です。
どこの国でも移民1世はうんと苦労してきたと思いますが、ジェイコブの家族も例外ではありません。苦労が多くてモメがちな夫婦でしたが、母親が来て妻の気持ちの安定に一役買います。これ、夫の母ではダメでしょうね。妻のストレスが増えます。ユン・ヨジョンさんが絶妙です。
様々な出来事に翻弄されますが、おばあちゃんが川辺にミナリ(セリ)の種をまいて、どんなに有用な植物かデビッドに蘊蓄を傾けるシーンがあります。セリは逞しく根を張り、2度目の旬が最もおいしいことから「子供世代の幸せのために、親の世代が懸命に生きる」という意味が込められているそうです。このシーンがあったので、未来への希望が持てました。ゴールデングローブ賞 外国語映画賞受賞!(白)
©NBC
リー・アイザック・チョン監督受賞コメント
史上初のリモート開催となった授賞式に出席したリー・アイザック・チョン監督は、「本作をつくったきっかけはこの子です」と娘さんを抱き上げ、彼女を膝に乗せ受賞コメントを語った。
<「ミナリ」は家族の物語です。彼らは、自分たちの言葉で繋がろうとします。それは、どんなアメリカの言葉やほかの外国の言語よりも深いところにあります。それは心の言葉です。私もこの言葉を学び、特に今年はお互いにこの‘愛の言葉’で通じ合えることを願っています。
1980年代のレーガン大統領の時代、年間3万人の韓国人が移民してきていて、ジェイコブは韓国野菜が懐かしいはずと目の付け所はよかったのですが、なかなかうまくいきません。スンジャおばあちゃんは、ミナリ(セリ)は場所を選んで種をまいておけば勝手に育つことをちゃんと知っていて、一枚上手。日本では七草粥くらいしか一般には使わないセリですが、韓国料理では色々使われているようです。ミナリという響き、可愛いですね。
花札が好きな、いかにもの韓国のおばあちゃんを演じたユン・ヨジョンさん、アメリカ映画賞での演技賞22冠を達成!(2021年2月22日現在)アカデミー賞の助演女優賞の呼び声も高いです。このところ、『チャンシルさんには福が多いね』『藁にもすがる獣たち』と、毒舌なおばあちゃん役が光るユン・ヨジョンさんですが、ふっと思い出したのは、ドラマ「ホテリアー」(2001年)での素敵な社長役です。ますますのご活躍が楽しみです。(咲)
1980年代のアメリカを舞台に韓国から移民した夫婦の奮闘ぶりを描いた作品と聞くと、自分からは遠い話に思うかもしれません。しかし、頼りがいのある夫、父親と思われたいジェイコブと堅実な生活を望むモニカの心のすれ違いが描かれていると聞けば、共感する方は多いのではないでしょうか。どこの国でも男って夢見がちなのですね。
いさかいが絶えない両親に心を痛め、何とか2人を取りなそうとする姉弟の健気な姿に胸が熱くなります。夫も妻も子どものためにがんばっているのに、いつの間にか方向性がずれてしまったよう。「うちは大丈夫?」と思わず、自分の家庭を振り返ってしました。
夫婦に余裕がないので、モニカの母スンジャが子守りに呼び寄せられます。しかしガサツな感じがおばあちゃんぽくないとデビッドは受け入れられません。それでもスンジャは孫たちに無償の愛を注ぎ、崩壊しかけた家庭を繋ぎ留めました。家族への責任に雁字搦めになってしまうと心に余裕がなくなり、心がぎすぎすしてきますが、スンジャのようにおばあちゃんの立場になると大らかに接することができるのでしょう。
スンジャが韓国から種を持ってきて小川のほとりに蒔いたセリが根付きます。主人公一家がアメリカに根付いていくことの象徴かもしれません。(堀)
<第93回アカデミー賞 作品賞含む6部門ノミネート!!>
(3月15日発表。現地時間4月25日(日)に行われる第93回アカデミー賞授賞式での結果が楽しみです)
★作品賞
★監督賞(リー・アイザック・チョン)
★脚本賞(リー・アイザック・チョン)
★主演男優賞(スティーヴン・ユァン)
★助演女優賞(ユン・ヨジョン)
★作曲賞(エミール・モッセリ)
2020/アメリカ/116分
配給:ギャガ
(c) 2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/minari/
★2020年3月19日(金)TOHOシネマズシャンテほかロードショー
2021年03月06日
アウトポスト 原題:THE OUTPOST
監督:ロッド・ルーリー(『ザ・コンテンダー』)
脚本:エリック・ジョンソン
出演:スコット・イーストウッド(『ワイルド・スピード ICE BREAK』、)ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ(『スリー・ビルボード』)、オーランド・ブルーム(『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ)、ジャック・ケシー(『デッドプール2』)、マイロ・ギブソン(『ハクソー・リッジ』)
本作は、アフガニスタンで最悪の戦闘と言われる「カムデシュの戦い」を、ジェイク・タッパーによるノンフィクション小説「The Outpost: An Untold Story of American Valor」に基づき映画化したもの。
2006年、アフガニスタン北東部に現地の人々と連携してパキスタンからのターリバーン流入を防ぐため前哨基地(アウトポスト)が作られる。 キーティング前哨基地は、米軍の補給経路を維持するための重要拠点でもあったが、ヒンドゥークシュ山脈に囲まれた谷間にあって、いつ上から敵に狙われても不思議のない立地だった。時折、銃撃され命を落とす者もいて明日は我が身だ。
ついに、2009年10月3日、300人ものターリバーン兵が押し寄せる。50人の米軍兵は圧倒的不利な状況下でいかにして立ち向かったのか・・・
なぜ、米軍はこの地で戦わなければならないのか?という大前提はさておき、救われるのは、大尉たちが部下に「地元の人に敬意を表して、彼らの気持ちに寄り添うように」と諭していること。
地元の長老たちとの合議場で、「40年も居座って」と言う長老に、「それはロシア・・・」と言いかけてやめる場面がありました。ソ連がアフガニスタンに侵攻したのは1979年12月なので、2000年後半の時点では、それから40年も経っていませんが、それよりもずっと前の19世紀にイギリスが居座ったことを思えば、40年以上!
パキスタンとの国境線も、パシュトゥーン人が住む地区を真っ二つに分断する形でイギリスが引いたもの。パキスタンのアフガニスタン難民キャンプで育ったパシュトゥーン人が中心となってできたターリバーンにとって、険しい山伝いに国境を越えてくることなど朝飯前。地元の人たちとは言葉も通じるはず。米軍にとって、まさに強敵です。
映画の最後に、実際にこの戦いを経験した本物の兵士で自分自身を演じた方が「亡くなった戦友たちのことを伝えるのは義務だと思った」と語っています。 彼らは、愛する家族と離れて、死と隣り合わせの兵士という任務になぜつかなければならなかったのか?と、つくづく思います。
この部隊は、勲章の数が多かったことも映画で紹介されますが、勲章のために兵士になったわけでもないでしょう。戦争のない世界は、なぜ実現しないのかと虚しくなります。(咲)
この谷間に到着した兵士の誰もが、あんぐりと口を開けたに違いない、とおばちゃんの私でも想像がつきます。狙ってくれと言わんばかりの地形のところに前哨基地など作らせたのは、命令だけして弾の届かない場所にいる高官でしょう。大事な夫や息子や兄弟がそんなところで「国や家族を守るため」と死んでいくとわかったら、誰も送り出したくありません。
リアルな戦闘場面を精魂込めて再現しただろうスタッフ、キャストたちに敬意を表し、任務を全うして亡くなっていった若い兵士たちを心から悼むばかり。(白)
2020年/アメリカ/英語ほか/123分/シネマスコープ
字幕翻訳:大城哲郎、字幕監修:大久保義信
配給:クロックワークス
© 2020 OUTPOST PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://klockworx-v.com/outpost/
★2021年3月12日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
ワン・モア・ライフ! 原題:Momenti di trascurabile felicità 英題:Ordinary Happiness
監督・脚本:ダニエーレ・ルケッティ(『ローマ法王になる日まで』)
出演:ピエールフランチェスコ・ディリベルト(ピフ)、トニー・エドゥアルト、レナート・カルペンティエーリ(『ナポリの隣人』)
イタリア、シチリア島のパレルモ。港で技師として働くパオロは、渋滞が大嫌い。仕事を終え、スクーターをぶっ飛ばして家路につく。交差点をいつものように右折が赤信号の数秒のうちにすり抜けようとしたが、一瞬の差でバンに撥ね飛ばされ即死してしまう。
天国の事務所は人でごった返していて、ようやく呼ばれたパオロは、「健康のためにジンジャー入りのスムージーも我慢して飲んでいたのに!」と役人に向かって駄々をこねる。「え? スムージー?」と、情報を追加し計算し直した役人から「寿命があと1時間半あった。2分オマケして92分」と言い渡される。役人に付き添われて、地上に戻ったパオロ。人生最後の92分、どうやって過ごす?
冒頭、パオロがガントリークレーンの上から眺めるパレルモの町の美しいこと! パレルモが低い山に抱かれた町なのを初めて知りました。シチリアは、9 ~11世紀にわたってアラブの支配下にあったところで、一度は行ってみたいと思っていたのですが、故郷・神戸にも似た地形だと知り、ますます訪れてみたくなりました。
その神戸の同級生で、交通事故に遭って瀕死の状態から生還、「三途の川を渡ったとこで、あんた、家族もおるし、まだやり残したことあるやろと言われて戻ってきた」という男性がいるのを思い出しました。
本作では、パオロが生きるチャンスをもう一度もらって、人生を悔い改め、それまでないがしろにしてきた妻や子と最後の時間を過ごそうとする姿がユーモアたっぷりに描かれています。
2017年、『ローマ法王になる日まで』公開の折に、ダニエーレ・ルケッティ監督にインタビュー。その中に、「人生、何度でもやりなおすことができる!」という言葉があって、本作にも通じる?とびっくり!
さて、余命がわかったら、私なら何をする? (咲)
天国の入り口は大混雑でした。受付係が操作しているパソコンは最新型とはいえず、データの不備や計算ミスもそのせいかも。自分勝手な信号無視は棚に上げて、パオロ(高松英郎さん似)が猛抗議の末もらった92分。リアルタイムで観客も体験します。短い。
合間に今更ながら後悔ばかりのパオロの人生も御開帳。なんていい加減な男なんだ、おまけに妙なところにこだわって細かい。そんな彼の欠点も含めて愛した妻のアガタに拍手。そういう人にはなぜかいい奥さんがついて、苦労させられるんだよね。しっかりした子どもたちが育ったのは母親のおかげです。
パオロはピフことピエールフランチェスコ・ディリベルトのあてがきだそうです。すっごく人気の俳優だそうです。天国の役人は渋くて素敵なレナート・カルペンティエーリ。間違いを認め、温情も併せ持ちます。お役人はこうでなくては。懲りないパオロに笑ったり呆れたりしながら、しんみり家族愛にも浸れる作品でした。(白)
2019年/イタリア/94分/シネスコ/5.1ch/イタリア語
日本語字幕:関口英子
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
(C)Copyright 2019 I.B.C. Movie
公式サイト:https://one-more-life.jp/
★2021年3月12日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
2021年03月05日
フィールズ・グッド・マン(原題:Feels Good Man)
監督・脚本:アーサー・ジョーンズ
撮影・脚本:ジョルジオ・アンジェリーニ
編集・脚本:アーロン・ウィッケンデン
出演:マット・フューリー、ジョン・マイケル・グリア、リサ・ハナウォルト、スーザン・ブラックモア、アレックス・ジョーンズ、ライアン・ジョーンズ、カエルのぺぺ
マット・フューリーの漫画「ボーイズ・クラブ」は、チル(まったり、のんびり)でハッピーなキャラクターたちが繰り広げる若者のリアルな日常を描き、カルト的な人気を博した。しかしその主人公ぺぺが放ったセリフ「feels good man(気持ちいいぜ)」が全ての始まりとなる。いつからか掲示板やSNSには、このセリフと共に“ネットミーム”として改変されたぺぺが溢れだした。そして2016年アメリカ大統領選時には、匿名掲示板「4chan」でオルタナ右翼たちが人種差別的なイメージとともにぺぺを大拡散。挙げ句にADL(名誉毀損防止同盟)からヘイトシンボルとして正式認定される始末…。マットの思いとは裏腹にぺぺの乱用は加速し続け、なんとトランプ大統領の誕生に一役買うまでになり…!
監督のアーサー・ジョーンズは、マットの友人。あれあれというまに、本家と全く違った意味を持つアイコンになってしまったペペ。ペペと産みの親のマットを助けるためにこのドキュメンタリーを作って世に出しました。アニメーションを駆使して、全く初耳の観客にもネットにはびこっている問題をわかりやすく見せてくれました。ネットの海にいったん広まってしまうと、回収するのはものすごく大変。もう不可能と言っていいくらいです。2次、3次と少しずつ変わったペペが誕生して本家も元祖もなくなってしまいます。
”どや顔”がトランプ元大統領に似ていると、あの特徴的なヘアをのっけられて大統領選挙戦にまで利用されたそうです。この試写を観たすぐあとに、トランプ大統領が選挙結果に異議を唱え、Twitterで支持者に訴えたことから大騒動になりました。襲撃する群衆の中にペペのシャツを着てる人がいないか、つい探してしまいました。香港ではいい意味のアイコンとして使われていたというのに、ちょっとホッ。(白)
★サンダンス映画祭新人賞を受賞、アメリカNo1映画批評サイト「ロッテントマト」で96%Freshを獲得し、「いますぐ必見の痛烈なポリティカル・ドキュメンタリー」(Polygon)など、海外メディアからも絶賛される本作が遂に日本上陸!
2020年/アメリカ/94分
配給:東風+ノーム
(C)2020 Feels Good Man Film LLC
https://feelsgoodmanfilm.jp
◇https://www.facebook.com/FeelsGoodManFilmjp/
◇https://twitter.com/FeelsGoodManjp
◇https://www.instagram.com/feelsgoodmanfilmjp/
★2021年3月12日(金)ユーロスペース、新宿シネマカリテにて公開!ほか全国順次公開
ブレイブ -群青戦記-
監督:本広克行
原作:笠原真樹「群青戦記 グンジョーセンキ」(集英社ヤングジャンプ コミックス刊)
脚本:山浦雅大、山本 透
音楽:菅野祐悟
出演:新田真剣佑(西野蒼)、山崎紘菜(瀬野遥) 、鈴木伸之(松本孝太) 、渡邊圭祐(不破瑠衣) 、濱田龍臣(吉元萬次郎) 、鈴木仁(黒川敏晃) 、飯島寛騎(成瀬雄太) 、福山翔大(相良煉)、水谷果穂(鈴木あさみ)、宮下かな子(今井慶子)、市川知宏(佐野亮)、高橋光臣(本多正信)、三浦春馬(徳川家康)、松山ケンイチ(織田信長)
弓道部の蒼は引っ込み思案で部活も力が入らない。幼なじみの遥と孝太は、そんな蒼をいつも気にかけている。退屈な授業と強豪校ゆえ常勝を強いられる部活、いつもと同じ日が過ぎていくはずだった…が、雷が校庭に落ちて日常が一変する。外は見渡す限りの野原になり、どこからか野武士の一団が現れる。わけもわからずパニックに陥った生徒たちは、野武士たちに襲われて次々と倒れていく。歴史オタクの蒼は、学校ごと戦国時代にタイムスリップしていることに気づいた。仲間が織田信長の軍勢に連れ去られ、悄然とした蒼たちの前に現れた武将は、後に徳川家康となる松平元康だった。
スポーツ強豪校のアスリートたちが戦国時代にタイムスリップしたら?の答えがこちらです。学校ごとなので、もちろんスポーツ系じゃない一般生徒も一緒。彼らが団結して知恵を出し合い、刃物を持った殺人集団と戦う羽目になります。
主人公の蒼の新田真剣佑くん。生きるか死ぬかの戦場で初めは震えていますが、だんだん凛々しくなるのでご期待ください。
メガホン取るのは『踊る大捜査線』シリーズの本広克行監督です。蒼や遥を始め、どの生徒にも見せ場を用意して、命がけの闘いの中で成長させてくれます。強い味方になるのが、三浦春馬くん演じる元康です。いやもう爽やか&慈愛&豪胆、春馬ファンはまた涙を絞ること必至。
試写で観た後、大ヒットした1979年の『戦国自衛隊』を思い出しました。半村良原作で戦国時代に自衛隊の一個小隊がタイムスリップし、近代兵器を駆使して戦うという反則技。新田真剣佑くんの実父・千葉真一「芸能生活20周年記念作」です。40年経って息子も戦国時代に行ってしまうとは…彼らがどうなるのか、奮戦ぶりをとくとご覧ください。(白)
2021年/日本/カラー/シネスコ/116分
配給:東宝
©2021「ブレイブ -群青戦記-」製作委員会
©笠原真樹/集英社
https://brave-gunjosenki.jp/
★2020年3月12日(金)ロードショー
たゆたえども沈まず
監督:遠藤 隆(テレビ岩手)
撮影:田中 進
構成・編集:佐藤幸一
ナレーション:湯浅 真由美
パリ市の紋章にはラテン語で “Fluctuat nec mergitur”と書かれている。
意味は「揺れはするが、沈まない」 そう、「たゆたえども沈まず」。
東日本大震災から10年
1850時間の映像から紡ぐ記録映画
意味は「揺れはするが、沈まない」 そう、「たゆたえども沈まず」。
東日本大震災から10年
1850時間の映像から紡ぐ記録映画
テレビ岩手がこれまでに撮影した記録映像の中から、そこで暮らした人の10年間を切り取り、映画として残しました。自らも被災しながら、急ごしらえの避難所となった旅館、その女将。行方不明のままの夫に手紙を書き続けた妻。あのとき授かった二つの命。三陸鉄道の運転士になった中学生・・・。それぞれのあのときと今が刻まれています。大切な方を亡くして時間が止まってしまった方も多いことでしょう。10年は長くて、そしてあっというまでもあります。語ることで前に進めたり、忘れないことを力にできたりもします。
一人ひとりの来し方を、縁あって撮り続けた人の想いもそっとのせられていました。『山懐(やまふところ)に抱かれて』の遠藤隆監督、田中カメラマン、編集の佐藤さんが再び関わっています。映像を見返しながら、この時間に収めるのがさぞ大変だったでしょう。
収益金は全て被災地復興のために寄付されます。あなたの10年を思い起こしながら、今も終わっていない被災地の人々の心の揺らぎに寄り添っていただけませんか?
もう10年、まだ10年と人によって感じる長さは違うと思いますが、当事者でなければ忘れられていってしまいがちです。
こうやって映像に残していただいたことに感謝。(白)
奇跡の一本松
2021年/日本/カラー/DCP/16:9/103分
配給:テレビ岩手
©2021テレビ岩手
https://www.tvi.jp/tayutaedomo/
★2020年3月5日(金)よりロードショー
上映館、自主上映情報は公式サイトへ
2021年03月03日
野球少女(原題:Baseball Girl)
監督・脚本:チェ・ユンテ
出演:イ・ジュヨン(チュ・スイン)、イ・ジュニョク(チェ・ジンテ)、ヨム・ヘラン(スインの母)、ソン・ヨンギュ(スインの父)、クァク・ソンヨン(イ・ジョンホ)、チュ・ヘウン(ハン・バングル)
チュ・スインは青春の日々をすべて野球に捧げ、〈天才野球少女〉と称えられてきた。高校卒業を控えたスインは、プロ野球選手になる夢をかなえようとするが、〈女子〉という理由でテストさえ受けさせてもらえない。母や友だち、野球部の監督からも、夢を諦めて現実を見るようにと忠告されてしまう。「わたしにも分らないわたしの未来が、なぜ他人に分かるのか」──自分を信じて突き進むスインの姿に、新しく就任したコーチ、チェ・ジンテが心を動かされる。同じくプロになる夢に破れたジンテは、スインをスカウトの目に留まらせるための作戦を練り、特訓を開始する。次々と立ちふさがる壁を乗り越えたスインは、遂にテストを受けるチャンスを掴むのだが──。
イ・ジュヨン演じるチュ・スインは、女性だからとはじかれても決して夢を諦めずに、社会に立ち向かっていきます。イ・ジュヨンは「私が中途半端だと、映画が伝えようとしていることが色褪せてしまうのではないかと思った」と語り、撮影に入る前に約40日間の訓練に臨み、劇中の全ての野球のシーンを自らこなしました。みごと2020年ニューヨーク・アジアン映画祭で国際ライジングスター賞を受賞。
スインの父は良き理解者ですが生活力弱し。一人生活を支えて奮闘する母は超現実派。娘には堅実な生活を送ってほしくて反対します。それもわかるけれど、たった一つの夢、今しかできないことを応援してやって~。スインの前にはたくさんの壁があります。
スポーツに限らず、男性優位のあらゆる場所・場面でパイオニアとなってきた”女子”を応援します。一方別のところで「男子がするものじゃない」という固定観念もやっぱりあったはず。それを崩してきたパイオニア”男子”も応援します。(白)
チェ・ユンテ監督の長編映画デビュー作。本作のきっかけは、天才野球少女のインタビューを聞いていた奥様の「女子が野球をするのかという偏見が露骨で不愉快」というひと言だったそうです。確かに、ほかのスポーツに比べ、野球は男子がするものというイメージが強いです。チュ・スインのモチーフになったのは、1997年、韓国で初めて女性として高校の野球部に入ったアン・ヒャンミ選手。100年の韓国野球史で初めて、唯一の女性公式大会記録保持者です。日本では、2008年、吉田えりさんが17歳でプロ野球の独立リーグに合格し、日本で初めて男性と同じチームでプレーした女性プロ野球選手。
プロの選手になるのは、男性でも難関。本作でもチェ・ジンテはプロになれず、コーチとしてチュ・スインに夢を託します。野球は男子がするものという固定観念の中で、自分の力を信じて邁進するスインの姿が眩しいです。(咲)
2019年/韓国/カラー/シネスコ/105分
配給:ロングライド
(C)2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED
https://longride.jp/baseballgirl/
★2020年3月5日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
太陽は動かない
監督:羽住英一郎
原作:吉田修一「太陽は動かない」(幻冬舎文庫)
脚本:林民夫
撮影:江崎朋生
音楽:菅野祐悟
出演:藤原竜也(鷹野一彦)、竹内涼真(田岡亮一)、ハン・ヒョジュ(AYAKO)、ピョン・ヨハン(キム)、市原隼人(山下竜二)、南沙良(菊池詩織)、佐藤浩市(風間武)
鷹野一彦はAN通信の優秀なエージェント。新しいバディとして田岡亮一がやってきた。若くて生意気、優しさと繊細な面も併せ持っている。AN通信は表向き小さなニュース配信会社だが、実は世界を股にかけ国政や企業の裏で重要機密情報を入手し売買している。今回のミッションは全人類の未来を決める”次世代エネルギー”の情報を手に入れること。すでに各国のエージェントたちが争奪に動き出した。
AN通信は常に命の危険と隣合わせの究極のブラック企業。エージェントは全員厳しい訓練を受けた精鋭ですが、なぜか心臓に爆弾が埋め込まれています。24時間ごとの定期連絡が必須で、それを怠ると爆弾が起動。解除の申請をしないと5分以内で爆死してしまうという理不尽なしばりがあります。なんなの?この設定!と思いつつ、他人事な観客はドキドキが増してスリルを味わいます。しょっちゅう携帯を置き忘れる私はソッコー爆死です。←エージェントになれるわけない。風間さんの食事作りならできるかも。
寝言はさておき、ブルガリアで約一ヶ月に及ぶロケ中、大通りを封鎖しての大規模なカーアクション、藤原さんの苦手な設定てんこ盛り、水中アクションまで披露した最強バディの活躍をご覧ください。羽住英一郎監督、ハラハラさせるのお得意ですよね。(白)
なんといっても、本作、ブルガリアでのロケにそそられます。荒んだ郊外の町や、走行中の古い列車の上や、大通りでのカーチェイスでは、ブルガリアらしい佇まいを楽みました。それ以外にも、実は、インドやキューバのシーンもブルガリアの巨大撮影所で撮ったと知り驚きました。3月12日公開のアフガニスタンを舞台にしたアメリカ映画『アウトポスト』もブルガリアでの撮影部分があるとのこと。今後も撮影地ブルガリアの映画に注目したいと思います。
そして、『太陽は動かない』の魅力は多彩な出演者たち。最強バディ、藤原竜也と竹内涼真の二人に指令を出す風間武役の佐藤浩市をはじめ、市原隼人、南沙良、日向亘、加藤清史郎、横田栄司、翁華栄、八木アリサ、勝野洋、宮崎美子、鶴見辰吾など、邦画を支えてきた役者たちの豪華共演。それに、「春のワルツ」「トンイ」のハン・ヒョジュ、「未生(ミセン)」『あなた、そこにいてくれますか』のピョン・ヨハンという韓国の若手実力派俳優二人が色を添えています。謎の女AYAKOを演じたハン・ヒョジュ、本作では妖しい魅力を振りまいていて、脚の細さにも思わず目がいきました。(咲)
2021年/日本/カラー/シネスコ/110分
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)吉田修一/幻冬舎 (C)2020「太陽は動かない」製作委員会
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/taiyomovie/
★2020年3月5日(金)ロードショー
NO CALL NO LIFE
監督・脚本:井樫彩
原作:壁井ユカコ「NO CALL NO LIFE」(角川文庫刊)
撮影:早坂伸
音楽:松本淳一
主題歌:「ふたりがいい」とけた電球
出演:優希美青(佐倉有海)、井上祐貴(春川)、犬飼貴丈、小西桜子
高校3年生の夏、携帯電話に残された過去からの留守メッセージに導かれ、佐倉有海は学校一の問題児・春川と出会い、恋に落ちた。怖いものなんて何もなかった。明日、地球に隕石が衝突して世界中の人類が滅んで2人きりになったって、困ることは何もないような気がした。無敵になった気分だった。それはあまりにも拙く刹那的で欠陥だらけの恋だった。そして、時を越えた留守電の真相が明かされるとき、有海の衝撃の過去が浮かび上がる。
ホリプロ60周年記念作品。主演にはホリプロ期待の若手俳優、優希美青×井上祐貴のWユウキが抜擢されました。幼くて純粋な取り戻せない日々、観ているこちらも一緒に高揚したり胸傷めたりしてしまう物語を生きています。
携帯電話に残っていた留守電のような「不思議なこと」にはこれまで出逢ったことはありません。でも人としてここに生まれることが、まずものすごく不思議。そして人と人が出逢うことはほんの数秒早いか遅いか、歩いた道が1本違ってもない、ですよね。
有海と春川もいろんなことが巡り巡って、出逢ってしまいました。「恋はするものでなく、落ちるもの」という言葉がぴったりの幼い二人でした。年取っていくとこんなことはなくなってしまうのです。もし同じような人たちがいたら、辛かった恋もちゃんと大切な思い出にしてほしい。人生はまだまだ続いていくから。(白)
完成披露試写会及び舞台挨拶オフィシャル画像
左から井樫彩監督、山田愛奈、優希美青、井上祐貴、駒木根葵汰
左から井樫彩監督、山田愛奈、優希美青、井上祐貴、駒木根葵汰
2021年/日本/カラー/ビスタ/107分
配給:アークエンタテインメント
(C)2021映画「NO CALL NO LIFE」製作委員会
http://nocallnolife.jp/
★2020年3月5日(金)ロードショー
キンキーブーツ(原題:Knky Boots)
脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
音楽/作詞:シンディ・ローパー
演出/振り付け:ジェリー・ミッチェル
セットデザイン:デイヴィッド・ロックウェル
衣装デザイン:グレッグ・バーンズ
監督(シネマ版):ブレット・サリヴァン
出演:マット・ヘンリー(ローラ)、キリアン・ドネリー(チャーリー・プライス)、ナタリー・マックイーン(ローレン)、ショーン・ニーダム(ドン)、コーデリア・ファーンワース(ニコラ)、アントニー・リード(ジョージ)
舞台はイギリスの倒産しそうな靴工場。自分の意思に反して、跡継ぎのチャーリーは経営困難に苦しむ。そんな中、チャーリーはドラァグクィーンのローラと仲間たちに出会う。外見も振舞いも違うチャーリーとローラ。しかし思いがけない2人の共通点から、物語は意外な新展開を見せるー。
2005年の同名映画を舞台化。映画ではキウェテル・イジョフォーがローラ、ジョエル・エドガートンがチャーリーでした。イギリスで本当にあった話を元にして、二人を中心に仲間たちの友情と本当にやりたいことは何?と問いかけます。自分の道を選んでいく過程は誰にでも共感できます。派手で怖いものなしに見えたローラが実は繊細で、葛藤も抱えていることに涙します。歴史ある靴工場を背負ったチャーリーも、最初は渋々だったのが仕事の楽しさに目覚めていきます。助演陣も個性豊か、どの人も主役をはれる力量でステージを盛り上げ、支えています。
風吹き荒れるのに息をひそめていたようなこの一年でしたが、また日々暮らしていく元気がもらえて、ぴっ!と背筋が伸びる作品です。(白)
2018年/英国/カラー/ビスタ/122分
配給:松竹 ©BroadwayHD/松竹
ⓒMatt Crockett
https://broadwaycinema.jp
★2021年3月5日(金)[東京]東劇 [大阪]なんばパークスシネマ [名古屋]ミッドランドスクエア シネマ 他全国順次公開
◆松竹ブロードウェイシネマではこれからも様々な作品が劇場公開になります。
ご自宅で、好きな時間に見られるオンデマンド視聴ができるのは今『ホリディ・イン』『シー・ラヴズ・ユー』の2本。