2021年02月28日
二重のまち/交代地のうたを編む
監督:小森はるか+瀬尾夏美
撮影・編集:小森はるか、福原悠介
録音・整音:福原悠介
録音・撮影助手:佐藤風子、森田具海
出演:古田春花、米川幸リオン、 坂井遥香、三浦碧至
2018年、4人の旅人が陸前高田を訪れる。まだ若いかれらは、“あの日”の出来事から、空間的にも時間的にも、遠く離れた場所からやって来た。大津波にさらわれたかつてのまちのことも、嵩上げ工事の後につくられたあたらしいまちのことも知らない。旅人たちは、土地の風景のなかに身を置き、人びとの声に耳を傾け、対話を重ね、物語『二重のまち』を朗読する。他者の語りを聞き、伝え、語り直すという行為の丁寧な反復の先に、奇跡のような瞬間が立ち現れる。
2011年の東日本大震災をきっかけに東北に移り住んだ小森監督は、『息の跡』(2016)『空に聞く』(2020)の映像作品を制作してきました。2本が一人を見つめた作品だったのに対し、今度の作品は一つの物語を若い4人に手渡すものです。細い支流に分かれた川が流れる土地や人を潤していくような感じがしました。小森監督や瀬尾夏美さんが被災地に住んで、感じたり受け取ったりしたものが、別の人たちに手渡される現場に立ち会ったわけですね。こぼしたり戸惑ったり、素直に感じたことがそのままに、また次へ伝わっていくのでしょう。さて、私自身は何かを受け取ったのか、私から誰かに渡せるものがあっただろうか?(白)
★書籍「二重のまち/交代地のうた」絵・文 瀬尾夏美(書肆侃侃房)3月1日発売
http://www.kankanbou.com/books/essay/0449
2019/日本/カラー/79分/
配給:東風
©KOMORI Haruka + SEO Natsum
https://www.kotaichi.com/
2月27日(土)よりポレポレ東中野、東京写真美術館ホールほか、全国順次公開
2021年02月27日
特集上映<映画で見る現代チベット> 『ラモとガベ(原題)』日本初上映
この度、ムヴィオラ主催でチベット映画の特集上映「映画で見る現代チベット」が岩波ホールで開催されます。
『草原の河』『巡礼の約束』のソンタルジャ監督最新作でサンセバスチャン映画祭で上映された『ラモとガベ(原題)』が、今回特別に日本プレミア上映。また、ソンタルジャ監督とともにチベット映画人を代表する存在であり、昨年の第20回東京フィルメックスで3度目のグランプリを受賞した最新作『羊飼いと風船』が1月22日より初の劇場公開となったペマ・ツェテン監督の劇場未公開の傑作『オールド・ドッグ』『タルロ』も上映されます。
日本初上映の『ラモとガベ(原題)』以外の6作品は、かつて映画祭や劇場公開時に観ていますが、どれもチベットの雄大な景色を背景にした素晴らしい作品です。この機会に、ぜひご覧ください。(景山咲子)
◆日程:2021年3月13日(土)~4月2日(金)
◆会場:岩波ホール
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-1 岩波神保町ビル10F
◆上映作品(7作品)
ソンタルジャ監督作を見る:
『ラモとガベ(原題)』『巡礼の約束』『草原の河』『陽に灼けた道』
ペマ・ツェテン監督作を見る:
『タルロ』『オールド・ドッグ』
チャン・ヤン監督の “外の目”:
『ラサへの歩き方~祈りの2400km』
◆タイムテーブル:特集上映公式サイトに掲載 http://moviola.jp/tibet2021/
◆トークイベント(各回30分程度)
3/13(土)10:00~『ラモとガベ(原題)』上映後 ソンタルジャ監督ティーチイン
3/13(土)16:00~『オールド・ドッグ』上映後 星泉さん(チベット語研究者)トークショー
3/20(土)13:00~『草原の河』上映後 松尾みゆきさん(字幕翻訳者、映画プロデューサー)トークショー
☆チベット文学と映画制作の現在
http://tibetanliterature.blogspot.com/
◆上映作品 詳細
ソンタルジャ監督作を見る:
中国映画祭「電影2019」でのソンタルジャ 監督 (撮影:宮崎暁美)
『ラモとガベ(原題)』 ★日本プレミア上映
原題:拉姆与嘎贝 英語題:Lhamo and Skalbe
監督:ソンタルジャ
出演: ソナム・ニマ(ガベ)、デキ(ラモ)、スィチョクジャ(ジャシ)
ラモとガベは婚姻届を出しに行ったところ、ガベが以前結婚しており、まだ離婚が成立していないことを知る。元妻とは4年前に結婚の約束をしたものの、間際で破談となり、ガベは自分が結婚していたことを知らなかったのだ。ガベは離婚するために元妻を探し始め、元妻が世俗を捨て、出家していたことを知る。尼僧となった元妻を寺院に訪ねるが、会うことさえままならず、ガベの離婚話は一向に進まない。一方ラモは、正月に行われる歌舞劇「ケサル王物語」で、罪のために地獄に落ちた女性の役で稽古に取り組んでいたが、その役にわだかまりを感じ、次第に結婚への恐れを感じ始める。ラモは、人に言えない秘密を抱えていた…。
2019年/110分/カラー
2019年サンセバスチャン映画祭公式出品
詳細:https://note.com/moviola/n/ne5414579373d
『巡礼の約束』 原題 阿拉姜色 英語題:Ala Changso
監督:ソンタルジャ
出演:ロルジェ:ヨンジョンジャ、ウォマ:ニマソンソン、ノルウ:スィチョクジャ、ダンダル:ジンパ
ラサへの巡礼の旅に出た妻を追って、血のつながらぬ父と息子が一頭の仔ロバとともに歩き続ける・・・
2015年、第28回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で『河』のタイトルで上映
日本公開:2020年2月8日(土)
公式サイト:http://moviola.jp/junrei_yakusoku/
シネジャ作品紹介 http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/473232151.html
『草原の河』 原題:河 英題:River
監督・脚本:ソンタルジャ
出演:ヤンチェン・ラモ、ルンゼン・ドルマ、グル・ツェテン
広大なチベット高原で暮らす6歳の少女ヤンチェン・ラモ。春のはじめ、父グルのバイクの後ろに乗って、祖父に会いに行く・・・
2015年/中国/チベット語/98分/DCP/ヴィスタサイズ
日本公開:2017年4月29日(土)
*チベット人監督作品として、日本で初めて劇場公開された映画。
公式サイト:http://moviola.jp/kawa/
シネジャ作品紹介http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/449065980.html
『陽に灼けた道』原題:太陽総在左辺 英語題:The Sun Beaten Path
監督:ソンタルジャ
出演:イシェ・ルンドゥプ、ロチ、カルザン・リンチェン
ソンタルジャ監督の長編デビュー作
2011年アジア・フォーカス福岡国際映画祭で上映
★劇場未公開
結婚式を控えた青年ニマと彼の兄は、母を迎えに四つ辻でバスを待っていた。母親は街にいる娘を訪ねた帰りだった。兄はバイクの後部座席に母親を乗せて、その後からニマがトラクターで走っていた。だが、母の帯がバイクの車輪に絡まって母親は落ちてしまう。後ろから来たニマは、バイクから落ちた母親をトラクターで轢いて死なせてしまう。このことで、ニマは悲しみと自責の念にとらわれ、母親の血の混じった一握りの土とともに故郷と恋人を残し、ラサに巡礼の旅に出るのだった。(2011年9月第4週 シネジャ スタッフ日記 白井美紀子記)
私もアジアフォーカスで拝見。バイクから落ちた母親を轢いてしまった場面が、不謹慎なのですが、なんとも可笑しかったのを思い出します。(咲)
2011年/89分/カラー
詳細:https://note.com/moviola/n/nfb850b89e4d9
ペマ・ツェテン監督作を見る:
ペマツェテン監督2015年東京フィルメックス 『タルロ』上映時(撮影 宮崎暁美)
『タルロ』 原題:塔洛 英語題:Tharlo
監督・脚本:ペマ・ツェテン
出演:シデ・ニマ、ヤンシクツォ
幼い時に親を亡くし、羊飼いとして暮らしてきたタルロ。役所で、身分証明書を作るために長髪を切れと言われ理髪店に行く。そこで出会う理髪店の若い女性。今まで女性に縁のなかったタルロ。やがて、彼女とカラオケに行くことになる・・・
ユーモアたっぷりにチベット族のタルロの人生、そして恋の顛末を語った物語。
2015年/123分/モノクロ
★劇場未公開
詳細:https://note.com/moviola/n/n2b2c24fdfddf
2015年 東京フィルメックス チベット族の孤独な男をユーモアたっぷりに描いた『タルロ』 (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/430268035.html
『オールド・ドッグ』 原題:老狗 英語題:Old Dog
監督・脚本:ペマ・ツェテン
出演:ロチ、ドルマキャプ、タムディンツォ
老マスチフ犬を飼っている牧畜民の老人。中国の富裕層のマスチフ犬ブームで、犬泥棒や、しつこい仲買人が現れる。老人の息子も犬を高値で売り飛ばそうとするが、老人は「犬は民族の誇り」と手放すことを頑なに拒む…
2011年/88分/カラー
★劇場未公開
2011年の東京フィルメックスで最優秀作品賞受賞の喜びを語るペマツェテン監督(撮影:景山咲子)
詳細:https://note.com/moviola/n/n95c0d61f96ab
チャン・ヤン監督の “外の目”:
張楊監督 2007年東京国際映画祭『帰郷』上映時(撮影 宮崎暁美)
『ラサへの歩き方~祈りの2400km』
監督・脚本:張楊(チャン・ヤン)(『こころの湯』『胡同のひまわり』『グォさんの仮装大賞』)
出演:チベット巡礼の旅をする11人の村人たち
ドキュメンタリーのようなのに、本作は張楊監督が細部まで書き込んだフィクション。監督が思い描いていた登場人物を、老人から若者、さらに妊婦まで、奇跡的に一つの村の3家族で構成。五体投地でラサ、さらにカイラスをめざして巡礼する人々の姿を描いた物語。
日本公開:2016年7月23日
公式サイト:http://www.moviola.jp/lhasa/#pagetop
シネジャ作品紹介http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/440326183.html
DAU.ナターシャ(原題:DAU.Natasha)
監督・脚本:イリヤ・フルジャノスキー、エカテリーナ・エルテリ
撮影:ユルゲン・ユルゲス
出演:ナターリヤ・ベレジナヤ(ナターシャ)、オリガ・シカバルニャ(オーリャ)、ラジーミル・アジッポ(MGB/KGB調査官、研究所長)、リュック・ビジェ(生化学研究所の科学者)
1952年。ソヴィエト連邦の秘密研究所内のカフェは、秘密実験について話す科学者たちで賑わっている。40代のナターシャと若いオーリャがウェイトレスとして働いている。閉店後二人は片付けをしながらシャンパンを飲んで愛について語りあう。ナターシャは以前恋した既婚男性に未練がある。オーリャはまだ恋愛経験がない。オーリャが自宅で開いたパーティで、ナターシャはフランス人の科学者と親密になる。言葉も通じず、監視下にあるのも知らずに幸せに浸っていた。ソヴィエト国家保安委員会のウラジーミル・アジッポはナターシャを連行し、外国人と寝たことを責めたてる。きつい尋問を受け続けたナターシャは打ちのめされていく。
元は物理学者レフ・ランダウの伝記映画としてスタートしたのが、膨大な予算をかけた例のないプロジェクトに発展。ソビエト連邦時代の記憶を呼び起こすため、当時の社会を完全に再現し40ヶ月に渡って映画撮影を行っています。オーディション人数延べ39万2千人。主要キャスト400人、エキストラ1万人。衣装4万着。欧州市場最大の12000平米のセットで、主要キャストはそこで2年間生活したそうです。ストーリーラインがあって、撮影の前に監督や共演者との話合いもなされたけれども、そのときの感情は本物でその流れの即興演技も生まれているのだとか。施設のいたるところで撮影が行われ、35ミリフィルムで700時間のフッテージから何本もの作品が完成し、これからも増えていくそうです。スタッフもいつ映りこんでもいいように、そのシーンに合った衣裳を着て現場にいたそうです。
ナターシャを始め、キャストの99%はプロの俳優ではなく、実際の彼らを元に1950年代に沿わせて人物を作りました。科学者やKGBも実生活でもそうだということです。
映画を観る際、そういった背景を知らずに作品そのものを観ます。モノクロの映像が美しいですが、秘密研究所で行われているのは非常に不穏な実験であり、どこにでもKGBの監視の目が光っています。この人工的な空間の中で、ナターシャとオーリャが働くカフェだけが温かい空気を醸し出して、二人の喧嘩でさえ血の通った人間らしさを感じます。ナターシャが束の間味わったロマンスや、生きていくために発揮する強さは劇場を出た後も残るでしょう。これが例を見ない撮り方で制作されたということに驚くのはその後。(白)
2020年・第70回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞。
2019年/ドイツ、ウクライナ、イギリス、ロシア合作/カラー/ロシア語/ビスタ/139分
配給:トランスフォーマー
(C)PHENOMEN FILMS
http://www.transformer.co.jp/m/dau/
★2021年2月27日(土)シアターイメージフォーラム、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
2021年02月26日
GET OVER JAM Project THE MOVIE
監督:大澤嘉工
録音・音響デザイン:石寺健一
出演:影山ヒロノブ、遠藤正明、きただにひろし、奥井雅美、福山芳樹
JAM Project(Japan Animationsong Makers Project)とは「アニソン界」を代表する実力派シンガーによって、2000年に立ち上げられたスーパーユニット。「アニソン」というジャンルの 中でのパイオニアであり、世界へと拡げていった実績を持つベテラン。5人のメンバー自らが主題歌の「曲づくり」にも携わっている。460日間に渡って彼らに密着し、プロデューサーや監督達との打合せ、デモづくり、ディレクション、レコーディング、LIVEツアーなどを映し出した。
”GET OVER”は「乗り越えろ」でしょうか。2020年には新型コロナウイルス感染症の影響により、予定されていたツアーが次々と中止になっていきました。そんな状況の中で、JAM Projectの初のドキュメンタリーが送り出されました。ソロでも活躍していたメンバーそれぞれが、互いを認め合い、よりよい曲を作るために切磋琢磨しているようすが浮かび上がります。20年という長い間の様々なエピソードも披露され、これまでに口に出したことのなかった心のうちも明かされます。
現状に甘んじることなく、どんなときでも常に”GET OVER”を忘れないJAM Project。ステージはメンバー全員がとにかくパワフル!世界中のLIVE会場の熱気がすごい!どこの国でも日本語歌詞で唱和して、みんながみんな楽しんでいます。
ぜひ劇場の良い音響でJAM ProjectのLIVEを体感してください。のびやかな歌声に元気になれること必至。(白)
2021年/日本/カラー/シネスコ/114分
配給:東宝映像事業部
(C)2021「GET OVER JAM Project THE MOVIE」FILM PARTNERS
http://jamproject-movie.jamjamsite.com/
★2021年2月26日(金)ー3月11日(木)2週間限定ロードショー
2021年02月25日
夏時間 原題:남매의 여름밤 英題:Moving On
監督・脚本:ユン・ダンビ
出演:チェ・ジョンウン、ヤン・フンジュ、パク・スンジュン、パク・ヒョニョン、キム・サンドン
ある夏の夕暮れ、10代の少女オクジュは、父ビョンギの運転する車に家財道具を積んで、弟ドンジュと共に木々の生い茂る庭のある祖父の家に連れていかれる。母とは離婚し、事業に失敗した父は、「ここで夏を過ごす」という。暖かく3人を迎える祖父ヨンムク。父は車に靴の箱を積んで町に行き、路上で販売している。そんなある日、叔母のミジョンがやって来る。訪ねてきた夫を追い返し、どうやら離婚寸前だ。一つ屋根の下での、5人の暮らし。庭に実った唐辛子やミニトマトを祖父と共に摘むオクジュとドンジュ。そんな日々に馴染んできたころ、祖父がお漏らしをしてしまい、父と叔母は祖父を老人ホームに入れようという・・・
木々に囲まれた古い佇まいの2階建ての家は、この映画のもう一人の主役。ユン・ダンビ監督が、仁川の町で2か月以上かけて探し出した家。玄関の正面の階段を上がると、そこには足踏みミシン。どこか昭和の香りがする家で、オクジュは蚊帳を張って寝ます。小さい頃を思い出して懐かしくなりました。
(C)2019 ONU FILM, ALL RIGHTS RESERVED
そして、少女オクジュを演じたチェ・ジョンウンは、監督が見つけた1枚の写真から大抜擢。劇中、父に「二重瞼にする手術費用を貸して」と頼むのですが、一重瞼がまさに朝鮮女性らしい顔立ち。本作が映画初出演とは思えない才能です。
ユン・ダンビ監督は1990年生まれで、本作が長編デビュー作。第24回釜山国際映画祭で4冠に輝いたのをはじめ、ロッテルダム国際映画祭など数多くの映画祭でも受賞。
『はちどり』のキム・ボラ、『わたしたち』のユン・ガウン、『82年生まれ、キム・ジヨン』のキム・ドヨンに続き、情緒豊かな才能ある若い女性監督の登場です。
真っ赤な西瓜、カルグクス(夏の麺料理)、蝉の鳴き声・・・ ひと夏の家族の物語を彩る夏の風物詩と共に誰しも自分の人生に重ねて懐かしい思いになるのではないでしょうか。(咲)
★2/27㊏12:45~の第1回目の上映終了後、(14:30頃より)
ユン・ダンビ監督がリモートでご登壇!ご質問にお答えします!
2019年/韓国/105分/DCP
協力:あいち国際女性映画祭 (映画祭2020上映タイトル「ハラボジの家」)
配給:パンドラ
公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/natsujikan/
★2021年2月27日(土)渋谷ユーロスペースにてロードショー全国順次公開
カポネ 原題:Capone
監督・脚本:ジョシュ・トランク(『クロニクル』『ファンタスティック・フォー』)
出演:トム・ハーディ(『マッドマックス 怒りのデス・ロード』)、マット・ディロン(『ハウス・ジャック・ビルト』)、カイル・マクラクラン(『ツイン・ピークス』)
暗黒街に君臨した伝説のギャング、アル・カポネ。
1931年10月17日、所得税脱税で懲役刑となる。刑期を終え、1939年に出所したカポネは、フロリダの大邸宅で家族と共に隠遁生活を送る。10代の頃からの梅毒で身体は蝕まれ、認知症も発症し、かつてシカゴを牛耳っていた頃の面影はなかった。
一方、FBI捜査官たちは、カポネが1000万ドルもの財産を隠していると確信し、その行方を探ろうと邸宅の外から見張っていた。FBIは医師を送り込み、札束の入った鞄の絵を見せるが反応はない。FBIの若きクロフォード捜査官は、カポネが仮病を使っていると疑い、直接カポネに対峙する・・・
冒頭、感謝祭で集まった孫たちとかくれんぼをして戯れるカポネ。感謝祭の食卓で、曾祖父母が移民してきてブルックリンでどん底の貧困生活を送ったことを家族に語る姿にも凄みがあります。
敵対するライバル7人を死に追いやり、世間を騒がせた聖バレンタインデーの虐殺を描いたドラマ?を観ながら、首謀者だったカポネは薄笑いします。記憶の片隅にあるのか、ほんとうはよく覚えているのか・・・
FBIが送り込んだ医師から、葉巻をやめ、代わりに人参をくわえるよう言い渡されます。人参をくわえ、オムツ姿で金の銃を構えるカポネ。トム・ハーディ渾身の演技に、唸るやら笑うやら・・・
ギャングといえばアル・カポネというくらい悪名高い人物の知られざる晩年を想像たくましく描いた物語。家族はその後、ほとんどが名前を変えて暮らしたそうで、家族の人生の物語も知りたくなりました。隠し子とのエピソードには、ほろり。(咲)
2020年/アメリカ・カナダ/英語/カラー/104分/シネスコ/ドルビーデジタル
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
©2020 FONZO, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://capone-movie.com
★2021年2月26日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
2021年02月23日
きこえなかったあの日
監督・撮影・編集:今村彩子
2011年3月、東日本大震災の11日後、今村監督は宮城県に向かった。被災地できこえない人が困っていないか、情報が届いているのか心配だったからだ。避難所に身を寄せているろう者のご夫婦を紹介された。奥様の信子さんが今村監督もきこえないとわかると、堰を切ったように(手話で)話し続ける。夏に訪れた仮設住宅で会った加藤さんは、高齢の男性で手話が独特、今村監督がわかるのは数字だけ、思うようにコミニュケーションがとれない。状況を知らせようと2013年、宮城県での映像をまとめて『架け橋 きこえなかった3.11』を発表。
本作は2011年からその後の西日本の豪雨、熊本地震の被災地、コロナ禍の中でのきこえない人たちの映像を取り入れた、10年分のドキュメンタリー。
あの大震災からもう10年が経とうとしています。当時は毎日のようにあった報道も、日が経つにつれ少なくなり、節目ごとに忘れないように、と特集が組まれます。昨年からは世界中に拡がってしまった新型コロナの影響下、そちらの心配ばかりになりました。今月に入って東北で震度6の地震があり、東日本大震災の余震と言われて驚いたばかりです。
人はすぐ忘れてしまうので、記録が頼りです。この10年間をまとめた映像はこれからも出てくると思いますが、きこえない今村監督が同じ立場の人たちを気遣って撮りためた映像はほかにはないでしょう。監督の気づきや、それによる変化もわかります。
試写と取材で上京された今村監督にお話を伺いました。加藤さん、信子さんのエピソードやわたしたちのできることは何か?も。
「きこえない人がいるということを知って」と監督。見えない方と違って、外からはわかりにくいですが、いつか機会があるかもしれません。紙とペン必携、今はスマホで文字が出せて便利です。(白)
東日本大震災から10年。これまでもあの地震を記録したドキュメンタリーや、この地震をテーマにした映画作品などがいくつも作られてきたけど、ここ数年は少し減ってきている。でも今年は10年の節目で、何作品か出てきている。やはり忘れてはならないと思う。今村監督は、東日本大地震の被害者だけでなく、この10年の間の熊本を始めいくつかの地震や、豪雨による被害地も訪ね、耳がきこえない方たちの姿をとらえている。このドキュメンタリーを見て、今村監督は果敢にも震災直後に災害現場に行ったのだと、いまさらながらこの監督の行動力に驚いた。ろう・難聴者の方たちの災害時、災害後の生活というのを、この作品で知り、見ながら泣き、そして明るさや、人柄、人情に救われ、笑いも出た。災害の渦中で、少しでも前に進もうとしている人々の姿に勇気をもらった(暁)。
★インタビューはこちらです。
2021年/日本/カラー/116分
配給:Studio AYA
(C)studioAYA2020
http://studioaya-movie.com/anohi/
★2020年2月27日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次公開、
全国一斉インターネット配信開始
2021年02月21日
ターコイズの空の下で
監督:KENTARO
脚本:KENTARO、アムラ・バルジンヤム
撮影:アイヴァン・コヴァック
出演:柳楽優弥(タケシ)、アムラ・バルジンヤム(アムラ)、麿赤兒(三郎)、ツェツゲ・ビャンバ(遊牧民女性)
タケシは裕福な家庭で甘やかされて育ち、成人しても遊興三昧の生活を送っていた。実業家の祖父三郎は、そんなタケシを外モンゴルの草原へと送り出す。三郎は第2次大戦下モンゴルで捕虜として暮らしたことがあり、終戦後地元の娘との間に子どもが産まれていた。帰国したまま会えずにいたという。その行方を探すためモンゴル人の馬泥棒・アムラをガイドに、ターコイズ色の空の下、旅することになった。日本では想像もしなかった日々を体験する中アムラが逮捕されてしまい、タケシは着の身着のまま荒野に一人取り残される。
広い広い大地で、遊牧民を探し当てるなんてできるのだろうか?半信半疑で見始めました。それも遊び人で苦労知らずの坊ちゃまです。意外に不平たらたらでもなく、泣き言も言わずアムラのポンコツトラックに揺られています。お互いに自国の言葉なので通じないのですが。あの空の下にいたなら小さなことなど、どうでもよくなるのかもしれません。
日本から持ち込んだものが少しずつなくなっていき、アムラもいなくて独りぼっちになってしまったタケシがどうするのか?どうなるのか?
演じた柳楽優弥さん、人生観が変わったんじゃないでしょうか。圧倒的な大自然の中では自分がひどく小さな存在に思えるし、人生で何が大事なのか、絶対に考えてしまうはず。こちらも大きな画面で観たい映画です。麿赤兒さん、画面の中での存在感といったら…モンゴルの草原に立っていただきたかったです。(白)
※柳楽優弥、海外合作映画初主演!
※第68回マンハイム・ハイデルベルク国際映画祭
FIPRESCI賞(国際映画批評家連盟賞)&才能賞(観客賞)ダブル受賞
2020年/日本・モンゴル・フランス合作/カラー/シネスコ/95分/日本語、モンゴル語
配給宣伝:マジックアワー、マグネタイズ
(C)TURQUOISE SKY FILM PARTNERS / IFI PRODUCTION / KTRFILMS
http://undertheturquoisesky.com/
<★2021年2月26日(金)新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
ミアとホワイトライオン(原題:Mia et le lion blanc)
監督:ジル・ド・メストル
脚本:プルーン・ド・メストル 、ウィリアム・デイヴィス
協力(ライオン・アドバイザー):ケビン・リチャードソン
出演:ダニア・デ・ヴィラーズ(ミア)、メラニー・ロラン(母・アリス)、ラングレー・カークウッド(父・ジョン)、ライアン・マック・レナン(兄・ミック)
父親がライオンファームを経営するため、友達と別れて南アフリカにしぶしぶ移住してきた11歳のミア。動物好きの兄ミックと違って、大自然にも動物にも少しも興味を惹かれない。母は繊細なミックの世話ばかり焼き、ミアは都会に戻りたくてたまらない。クリスマスの夜、ファームに白いライオンの子が生まれた。チャーリーと名付けられた小さなライオンはミアに懐き、大の親友となる。
それから3年。チャーリーはたくましく育ち、ファームでは集客に欠かせない人気ものになった。そんな時ミアは尊敬していた父の知らなかった一面を見てしまう。囲い込んだ動物を標的にする「トロフィー・ハンティング」にライオンを売っていたのだ。
ライオンと子どもの成長、家族の立て直しのストーリーが大自然を背景に語られます。登場するライオンはCGではありません。赤ちゃんライオンから堂々とした風格が出たラストまで本物です。これは”動物研究家で保護活動家のケビン・リチャードソン”が撮影に参加して、俳優とライオンを繋ぐ役割をしたので可能になったこと。野生動物保護区を所有・運営している彼は、ライオンと一緒のシーンで危険がないよう、子どもたちにライオンとの接し方をトレーニングしたそうです。
実際に3年を超える年月をかけて撮影されて、ダニア・デ・ヴィラーズとライアン・マック・レナンは、ホワイトライオンと一緒に成長しています。この二人はそれまでに演技経験はあるものの、映画出演は初めて。オーディションでこの役を勝ち取り得難い経験をしました。ダニアは今も定期的にチャーリー役だったホワイトライオンのトールに会いに行っているとか。
*作中にある「トロフィー・ハンティング」は観光客が趣味や娯楽のために野生動物を狩ること。頭部や毛皮を記念品とする人もいます。囲い込んだ土地に放たれた動物を狩ることから「缶詰ハンティング」とも呼ばれています。2018年に公開されたドキュメンタリー『サファリ』の衝撃を忘れることができません。ビジネスとして成立し、野生動物の保護にもお金が回っていくとは皮肉の限り。(白)
2018年/フランス/カラー/シネスコ/98分
配給:シネメディア
(C)2018 Galatee Films - Outside Films - Film Afrika D - Pandora Film - Studiocanal - M6 Films
https://miaandthewhitelion.jp/
★2021年2月26日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
ナタ 転生(原題:新神榜:哪吒重生 英題:New Gods: Nezha Reborn)
監督:ZHAO Ji(趙霽)
脚本:MU Chuan(沐川)
プロデューサー:LU Xi(路晞)
出演:YANG Tianxiang(楊天翔)、ZHANG He(張赫)、XUAN Xiaoming(宣暁鳴)、LI Shimeng(李詩萌)
3000年以上前。7歳の《ナタ》は幼いながら強い魔力を持っている少年神。世界で絶大な権力を持つ一族・東海龍王の息子・三太子に歯向かい、死闘を繰り広げた末に勝利した。息子を殺され激怒した東海龍王は、町民たちの命を盾にナタに脅しをかける。ナタは罪のない彼らを死なせまいと自ら命を絶ったのだった。
そして現代。ナタはバイク好きな青年、李雲祥(リ・ウンショウ)として生まれ変わっていた。東海龍王は町の水を一手に握る徳興グループの会長として、三太子も同じく息子の三公子として生まれ変わっていた。長い間転生を繰り返し同じ運命を背負っていたが、李雲祥だけは自分が何者かまだ気づいていなかった。
これまでの中国アニメーション興行成績1位は『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』でした。2016年の東京アニメアワードで観て、田暁鵬監督の取材もできました(本誌記事)。こんなにクオリティの高いアニメができるようになっていたんだ!と驚いたのですが、さらに進化していました。
最近の中国映画のCGには目を見張っていますが、このフルCGアニメーションもすごいです。登場人物は顔こそアニメキャラですが、台詞に合った唇の動き、表情や衣裳の質感、髭や髪の毛の1本1本、動きにつれて揺れる様の繊細なこと。緻密に描き分けられた背景、そこで繰り広げられるダイナミックかつスピーディなアクションなどなど、あげればきりがありません。この舞台になる町は水不足ですが、水を統べる龍が登場して水がふんだんに出てきます。水の表現が難しいと聞いていましたが、どれだけの資金と手間暇をつぎ込んだのでしょう。大ヒット中なのも納得で、すぐ回収できそうです。
土台は多分中国人なら知らない人はいない、古典の「封神演義」です。文庫2巻組が出ています。スケールの大きなストーリーは、これ1本では到底終わりそうもありません。続編も楽しみです。大きなスクリーンで主人公のつもりになって観たい作品。気になったのが過去も現在も父と息子だけで、母はどこに?(白)
2020年/中国/カラー/117分
配給:チームジョイ
(C)Light Chaser Animation Studios
https://www.nezha.jp/
★2021年2月26日(土)TOHOシネマズ池袋、TOHOシネマズ上野 ほか順次追加予定
めぐみへの誓い
監督・原作・脚本:野伏翔
撮影:神野誉晃
音楽:許平和、許真弓
出演:原田大二郎(横田滋)、石村とも子(横田早紀江)、菜月(横田めぐみ)、坂上梨々愛(めぐみ少女時代)、大鶴義丹(辛光春)、安座間 美優(田口八重子)、小林 麗菜(金 賢姫)、仁支川 峰子(夏仙)、小松 政夫(金本印刷社長)
1977年11月15日、新潟市。中学1年生の横田めぐみは学校帰りに数人の男たちに連れ去られ、気がつくと海上の船の中にいた。男たちは北朝鮮の工作員で、めぐみが連れていかれた建物には先に拉致された日本人が何人も住んでいた。責任者らしい男に、必死で家に帰してと訴えると、北朝鮮のために働けばいつか帰国させると言いくるめられる。一方めぐみの両親は失踪届を出し、街頭に立って行方不明になった娘の手がかりを求め、諦めることなく探し続けていた。
2010年、野伏翔(劇団夜想会)の脚本及び演出により舞台劇「めぐみへの誓いー奪還―」が上演されました。2014年からは内閣府拉致対策本部の主催公演となり入場無料で全国各地36か所公演を行なわれたそうです。これを映画化することで、もっとたくさんの人に伝えようと、クラウドファンディングで制作資金が集められました。帰国できた人たちから丹念に集めた手がかりなどを元に、組み立てられた物語は真に迫っています。拉致された方々がどんな思いでおられたのか、胸を痛めながら見入りました。横田夫妻がご本人と重なり、心のうちを思うと泣けてきます。映像の力は大きいですね。
2020年6月めぐみさんのお父さん、横田滋さんがめぐみさんに再会できないまま亡くなられました。どんなに心残りであったでしょう。ご冥福をお祈りいたします。
これまで拉致被害者として認定されたのは17人ですが、拉致の可能性を排除できないとされている行方不明者は875人にものぼるそうです(警察庁)。拉致被害者の方々が早く帰国できるよう、わずかでも支援できたらと思います。(白)
平成20年11月21日から11月26日に有楽町マリオン11階のギャラリーで開催された「めぐみちゃんと家族のメッセージ-横田滋写真展」を、ちょうど東京フィルメックス開催中だったので拝見したのを思い出しました。横田めぐみさんが拉致されるまでの13年間にお父様である横田滋さんが撮った写真を中心としたパネル展示でした。それは、ごく普通の家族の日常やハレの日の写真。めぐみさんが拉致されてからの横田さんご夫妻の人生は、めぐみさんを取り戻す為の日々になってしまいました。会えないままにお亡くなりになられたお父様のお気持ちを思うと涙が出ます。
また、大韓航空機爆破事件の元工作員、金賢姫の手記「いま、女として 金賢姫全告白」では、日本人教育係・李恩恵さんのことが書かれていたことも、田口八重子さんの場面を観て思い出しました。
拉致された方たちが、北朝鮮でどんな暮らしをされていらっしゃるのか、そして、拉致された方の帰りを待つご家族のやるせない思いに胸が痛みます。生きている間に再会できるよう、国家レベルで解決してほしいと願うばかりです。(咲)
2019年/日本/カラー/シネスコ/102分
配給:アティカス
(C)映画「めぐみへの誓い」製作委員会
https://www.megumi-movie.net/(音が出ます)
★2021年2月19日(金)池袋シネマ・ロサ、秋田市アルヴェシアターほか全国順次公開!
★ご支援参加方法はこちらをご覧ください。
ステージ・マザー(原題:Stage Mother)
監督:トム・フィッツジェラルド
脚本:ブラッド・ヘンニク
出演:ジャッキー・ウィーバー(メイベリン)、ルーシー・リュー(シエナ)、エイドリアン・グレニアー(ネイサン)、マイア・テイラー(チェリー)
サンフランシスコのカストロ・ストリート。ゲイバーの”パンドラ・ボックス”のショータイムで、ドラァグクイーンのリッキーが倒れて息を引き取った。薬物の過剰摂取だった。突然の訃報は、テキサスの田舎で夫と二人暮らしのメイベリンに届いた。一人息子のリッキーはゲイをカミングアウトして受け入れられず、家を出ていったきり疎遠のままだった。メイベリンは夫の反対に耳を貸さず、サンフランシスコの葬儀に参列する。
リッキーのパートナーのネイサンに門前払いにあうが、リッキーの親友のシエナがネイサンとの間を取り持ってくれた。ネイサンはバーの共同経営者だったが、リッキーが急死したためメイベリンが経営権を相続することになっていたと知る。しかもバーは借金で破綻寸前だった。思いがけずゲイバーを引き継ぐことになったメイベリンは、テキサスで聖歌隊にいたことを強みにステージの改変に着手する。
この目力の強いメイベリン役のジャッキー・ウィーバーは『アニマル・キングダム』(2012)のママでした。最近では『チア・アップ!』(2019)にも出演。どこででも行動力のあるパワフルな女性を演じています。
本作では息子と和解しないまま先立たれてしまった悔恨を胸に、息子の遺したバーの立て直しに頑張ります。バーで働くドラァグクイーンたちにもそれぞれの事情があり、メイベリンはリッキーと重ねて彼らを理解し支えます。俺様な夫の期待通りにつき従う人生でなく、自分で道を選びとるメイベリンが輝いていく過程を見てください。いつでもやり直すのに遅すぎることはありません。
売れっ子のチェリー役のマイア・テイラーは、本人もトランスジェンダー。スマホで撮影された『タンジェリン』(2015)がデビュー作でした。クイーンたちの歌とダンスも楽しい、元気がもらえる映画。(白)
いろいろな生き方があっていいとわかっていても、それが我が子となると、なかなか受け入れられないもの。私の友人にも、長女が長男になってしまった人がいて、最初は戸惑っていたけれど、今では「息子がね・・・」としっかり受け入れています。メイベリンは息子が生きている間に認められなかったことを悔いますが、父親は亡くなってもなお頑として認めません。すんなり受け入れば楽になるのにと思ってしまいますが、当事者の思いは複雑ですね。
本作は、メイベリンの挑戦にも元気づけられますが。サンフランシスコの風情がとても素敵で、いつかカストロ・ストリートにも行ってみたくなりました。(咲)
2020年/カナダ/カラー/93分
配給:REGENTS
(C)2019 Stage Mother, LLC All Rights Reserved.
https://stage-mother.jp/
★2021年2月26日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国公開
2021年02月19日
あのこは貴族
監督・脚本:岨手由貴子
原作:山内マリコ(集英社文庫)
撮影:佐々木靖之
音楽:渡邊琢磨
出演:門脇麦(榛原華子)、水原希子(時岡美紀)、高良健吾(青木幸一郎)、石橋静河(相良逸子)、山下リオ(平田里英)、篠原ゆき子、石橋けい、山中崇、高橋ひとみ、津嘉山正種、銀粉蝶
同じ空の下、私たちは違う階層(セカイ)を生きている。
東京に生まれ、何不自由なく育った箱入り娘の華子。「結婚=幸せ」と疑うこともなかった。ところが20代後半になって結婚を考えていた恋人に去られ、あらゆる伝手をたどって結婚相手探しに奔走する。幾度か失敗した後、弁護士の幸一郎と出会う。ハンサムで人あたりも良く、しかも政治家も輩出している良家の出だった。
一方、富山で生まれ育ち、猛勉強して東京の名門私立大学に進学した美紀。学費が続かず、夜の街でバイトを始めるが両立できずに中退してしまった。現在の仕事にやりがいも見いだせず、なぜ東京にいるのかもわからなくなっている。幸一郎の同期生だったことから、同じ東京に住みながら別世界にいる華子と出会うことになった。
華子の家族の話や美紀の学生時代の思い出を観ているうちに、ふだん気にしなかった格差や分断が見えてきます。地方から東京の私大に入学した美紀や里英が、内部生(附属からの学生)たちとの違いをあげるシーン、地方で生まれたぼやきのシーンなどに、「そうだよねぇ」とやはり地方出身の私も共感。華子の家族の会話のはしばしには、あちらのセカイが見え隠れします。そちらには「ふーん、そうなんだ」。3人姉妹の末っ子でおっとり育ち、自分のセカイに疑問も持たず、そこからはみ出ることもなかった華子が、どんなときにちょっと変わるのかどう変わったのか、気になって見つめてしまいました。
対照的な華子と美紀を演じた門脇麦さんと水原希子さん、なぜこのお二人を選んだのか、セカイの違いをどこでどう表現したのか、あれこれを岨手由貴子監督に伺いました。(白)
この映画を観ていて思い出したのが、小学校1年の時からの幼馴染のY子ちゃん。結婚式で私とは違う階層なのを実感しました。お相手は旧財閥の御曹司。阪神間の良家の子女が集う同好会で出会い、恋愛結婚。披露宴に招かれた300人程は、親戚、友人、そして小学校から大学までのお世話になった先生方。親の仕事関係の方は一切なし。引き出物は、高さ2cm位の薄い箱に入ったアフタヌーンティーの2段のお皿に、神戸の老舗洋菓子店のお菓子。嵩張らない配慮もお上品でした。その後、彼女は材料費にお金のかかる趣味を極めて、今や講師に。この物語でも、それぞれ育った環境の中で人生を歩んでいきます。華子もお嬢様という枠の中で、それを当然と生きてきたのですが、違う世界もあることに気づいてから、自我に目覚めます。華子と同じ階層でも、石橋静河さん演じるヴァイオリニストの逸子が、結婚=幸せにこだわらず、自分らしさを貫いている女性でカッコいいです。
幸一郎演じた高良健吾さんも良家の子息らしくて素敵です。肝心の時に、なぜか雨男なのは(白)さんの監督インタビュ―で、ぜひご確認ください。 (咲)
2021年/日本/カラー/シネスコ/124分
配給:東京テアトル、バンダイナムコアーツ
(C)山内マリコ/集英社・「あのこは貴族」製作委員会
https://anokohakizoku-movie.com/
★2021年2月26日(金)全国公開
★岨手由紀子監督インタビューはこちらです。
2021年02月16日
愛と闇の物語 原題:A TALE OF LOVE AND DARKNESS
監督・脚本:ナタリー・ポートマン
原作:アモス・オズ 「A Tale of Love and Darkness」
製作:ラム・バーグマン、 デヴィッド・マンディル、 ニコラス・シャルティエ、 アリソン・シェアマー
出演:ナタリー・ポートマン、ギラッド・カハナ、アミール・テスラー、ヨナタン・シライ
作家になったアモス・オズ(ヨナタン・シライ)は、少年時代を振り返る。今や、母が38歳で亡くなった時の父親の年代だ。1945年、 英国統治下のエルサレム。 幼少期のアモス(アミール・テスラー)は、 父アリー(ギラッド・カハナ)と、 母ファニア(ナタリー・ポートマン)と共に暮らしていた。
ヨーロッパに反ユダヤ主義が広がり、今はウクライナ領となったポーランドの町ロヴノから母は家族と逃れてきた。その後、ユダヤ人の大虐殺で故国の知人親戚のほとんどが殺されてしまった。眠れない夜には、子守歌を歌い、一緒に物語を作ってくれた母。インドの沙漠で無言の修行をする二人の話を思い出す。
1947年11月29日、国連でパレスチナ分譲案がアラブ諸国の反対する中、賛成多数で採択される。ユダヤの国ができることに父はもう差別されなくなると大喜びだ。混乱するだけと否定的だった母の予想通り、アラブとユダヤは衝突する。暴動の中で母の友人が犠牲になり、父の不貞も重なり母の気持ちはふさいでいき、物語も作らなくなる・・・
ナタリー・ポートマンがアモス・オズの自伝的著書『A Tale of Love and Darkness』を読んで映画化したいと思ってから約 7年。 ナタリー・ポートマン自身が監督・脚本を手掛け、アモスの母親ファニアも演じて2015年に完成させた映画『愛と闇の物語』が、ようやく日本で公開されます。
イスラエルの作家でジャーナリストであるアモス・オズ(1939-2018)。 第3次中東戦争(1967年)に従軍。イスラエルのヨルダン川西岸占領でパレスチナ人の受けた悲劇を目の当たりにし、イスラエルが占領地を返還し、パレスチナ独立国家と共存することを訴え平和運動を主唱しました。
印象的だったのが、アモスが子どものいないルドニツキ夫妻に連れられてパレスチナ人の家を訪ねる場面。音楽を聴き、お菓子を食べながら優雅な時を過ごしている人たち。あっちで遊んでなさいと言われ、同年代の少女にアラビア語で話しかけると、彼女はヘブライ語で返してくれます。アイシャと名乗り、ピアノを習い、兄はロンドンで弁護士になる勉強をしていると言います。お互い、アラビア語やヘブライ語の詩人の話で盛り上がります。「この国は広いから両方の民族が住める。仲良く共存できればいいね」と少女に語るアモス。
ロシアや東欧にルーツを持つユダヤ人の両親のもと、エルサレムで生まれたナタリー・ポートマン。3歳の時にアメリカに移住しましたが、心はエルサレムにあると語っています。昨今のパレスチナの状況には心を痛めているようで、本作からも和平への思いを感じます。
原作者のアモス・ボスは、2018年にご逝去。彼の和平への思いも噛みしめながら、本作を多くの方にご覧いただければと願います。(咲)
2015年/イスラエル・アメリカ/98分/ヘブライ語・英語・アラビア語・ロシア語/シネスコ
配給:イオンエンターテイメント
公式サイト:https://www.aitoyamimovie.com/
★2021年2月19日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、イオンシネマ 他 全国公開
2021年02月14日
ある人質 生還までの398日 原題:Ser du manen, Daniel
監督:ニールス・アルデン・オプレヴ( 『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』)、アナス・W・ベアテルセン
原作:プク・ダムスゴー「ISの人質 13カ月の拘束、そして生還」(光文社新書刊)
出演:エスベン・スメド、トビー・ケベル、アナス・W・ベアテルセン、ソフィー・トルプ
ダニエル・リューは、デンマーク代表体操選手として活躍していたが怪我で挫折。写真家への転身を決意し、コペンハーゲンで恋人シーネと暮らし始める。戦場カメラマンの助手としてソマリアを訪れ、サッカーをする子供たちの笑顔をカメラで捉えた時、戦争の中の日常を記録することこそ自分のやりたいことだと確信する。撮影先として選んだのは、内戦中のシリア。戦闘地域へは行かないと恋人や家族に約束して出かけるが、トルコとの国境付近の町アザズで撮影中、ダニエルは突然拉致されてしまう。アレッポから、さらにラッカへと移送される。そこには、様々な国のジャーナリストや支援活動家が拘束されていた。
一方、デンマークの家族たちは、ダニエルが予定の便で帰国しなかったため、彼から聞いていた人質救出の専門家アートゥアに連絡する。アートゥアは誘拐犯を突き止めるが、身代金70万ドルを要求されたという。テロリストと交渉しない方針のデンマーク政府からは支援を期待できない。家族は身代金集めに奔走する・・・
24歳だった2013年5月から翌2014年6月まで、398日間にわたってシリアで過激派組織IS(イスラム国)の人質となり、奇跡的に生還を果たしたデンマーク人の写真家ダニエル・リュー。ジャーナリストのプク・ダムスゴーがダニエル・リューと関係者に取材して書き上げた「ISの人質 13カ月の拘束、そして生還」(光文社新書刊)をもとに映画化したもの。
主演を演じたエスベン・スメドは、ダニエル・リュー本人と何度も会って話を聞いて役作りをしたそうです。拘束されていた398日間にダニエルが味わった壮絶な思いがずっしり伝わってきます。ダニエルを助けるために、マスコミに知られないよう、必死にお金を集めた家族の思いも胸に迫りました。
ISに拘束されている中には、フランス人やアメリカ人など様々な民族の人がいますが、ムスリムと思われるコソボ出身者もいます。方や、ISの監視役の中には、人質たちからビートルズと呼ばれていたイギリス人4人もいて、いかにISという組織が、本来のイスラームの教義とは離れた存在かを感じさせてくれます。
公開にさきがけ2月7日(日)にユーロライブで行われた一般試写会上映後のトークイベントにジャーナリストの安田純平さんが登壇。2015 年から3年4カ月にわたってシリアで人質となり無事解放されたご経験から、本作を語ってくださいました。安田さんを拘束したのはシリアの反体制派の武装勢力で、ダニエルを拘束したIS(イスラム国)とは別物。有象無象の組織がありますが、人質を取るのは資金集めの為で、シリア人も人質になっているそうです。人質救出のエージェントから、身代金の見積書を提示されたこともあったと聞き、まさにビジネス。
戦争の真実を伝えたいジャーナリストや、戦禍の人々を救いたいと願う支援者たちを人質にするという卑怯な行為はいつまで横行するのでしょう・・・ (咲)
2019年/デンマーク・スウェーデン・ノルウェー/デンマーク語・英語・アラビア語/138分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/日本語字幕:小路真由子
配給:ハピネット
後援:デンマーク王国大使館
公式サイト:https://398-movie.jp/
★2021年2月19日よりヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町にて公開
世界で一番しあわせな食堂 原題:Mestari Cheng
監督:ミカ・カウリスマキ
脚本:ハンヌ・オラヴィスト
出演:アンナ=マイヤ・トゥオッコ、チュー・パック・ホング、カリ・ヴァーナネン、ルーカス・スアン、ヴェサ=マッティ・ロイリ
フィンランド北部ラップランドの小さな村ポホヤンヨギに降り立った中国人のチェンとニョニョの父子。食堂「シルカダイニング」に入り、チェンは客の一人一人にお辞儀して「フォントロンを探しています」と尋ねるが誰も知らない。疲れ切って寝てしまった父子を食堂の女主シルカは、自宅に空き部屋があると連れて帰る。
翌日から恩人探しをしながら食堂を手伝うチェン。ある日、中国人観光客の団体が食堂に立ち寄る。メニューに不服そうなのを見て、チェンはとっさに麺料理を作る。実はチェンは上海料理店のシェフ。妻が事故で亡くなり酒浸りになって店が傾いて困っていた時にお金を出してくれたのがフォントロンだった。恩人はなかなか見つからないが、チェンの作る料理は地元の人たちにも好評で、噂を聞いて食べに来るようになる。シルカや地元の人たちと心を通わせるようになるが、観光ビザの期限が迫り、帰国する日が近づいてくる・・・
森に囲まれた湖に、鳥の声。そして道を横切るトナカイ・・・ 自然豊かなラップランドの小さな村で繰り広げられる物語。変化に乏しいフィンランドの料理と違って、医食同源の健康にも配慮した中国料理。食文化から広がるささやかな国際交流。母を亡くし、心を閉ざしてゲームに熱中していたニョニョも次第に地元の子どもたちと打ち解けていきます。チェンも、白夜に開かれるダンスパーティーを前にシルカからダンスの手ほどきを受けて、ほのかに心を通わせていきます。
この心温まる物語を紡いだミカ・カウリスマキ監督は、アキ・カウリスマキ監督の兄。フィンランドの北部ラップランドは、35年前にミッドナイト・サン映画祭創設にも関わった地。映画祭の開催される白夜の夏と、クリスマス休暇の冬の年2回は訪れていて、数年前に中国人観光客が殺到しているのを観て、本作のアイディアがひらめいたそうです。監督は30年にわたりブラジルに住み、ドイツ、イタリア、ポルトガルでも暮らしたことがあり、異国で文化の違う人たちと接することの難しさも楽しさも身を持って経験しているのでしょう。とかく分断が見られる今の世界ですが、摩擦を避けて共存するヒントを貰える1作です。(咲)
2019年/フィンランド・イギリス・中国/英語・フィンランド語・中国語/114分/カラー/シネスコ/5.1ch/G
字幕翻訳:吉川美奈子
配給:ギャガ
後援:フィンランド大使館
(C)Marianna Films
公式サイト:https://gaga.ne.jp/shiawaseshokudo/
★2021年2月19日(金)より新宿ピカデリー、渋谷シネクイント他にて全国順次公開
2021年02月13日
痛くない死に方
監督・脚本:高橋伴明
原作・医療監修:長尾和宏
撮影・照明:今井哲郎
音楽:吉川忠秀
出演:柄本佑(河田仁)、坂井真紀(井上智美)、余貴美子(中井春菜)、大谷直子(本多しぐれ)、宇崎竜童(本多彰)、奥田瑛二(長野浩平)
在宅医療に従事する河田医師は、末期の肺がん患者の大貫を担当する。娘の智美は夫の協力も得て自宅介護を続けていたが、河田の対応に疑問と不満が募る。河田が間に合わないまま、苦痛の中で父が逝ってしまう。智美は在宅を選んだ自分を責めていた。河田も患者や家族との意思の疎通が足りなかったと悔やみ、先輩の長野の治療現場を見学させてもらう。長野は病気の臓器の断片ではなく、患者の物語を見ろ、と河田をさとす。患者と丁寧に向き合う姿に自分との違いを痛感して、長野のそばで医療の根底から学んでいく。
2年後、河田は大貫と同じ末期のがん患者の本多彰に出会った。
映画の大貫さんと同じ肺がんで実父を、親しい友人を二人見送りました。大貫さんの苦しむ様子に、自分がそばにいてもきっと何もできなかったな、とか、せめて手を握っていたかったとかいろいろな思いが湧き上がってきました。
河田先生が先輩の長野先生の診療を目の当たりにして変わっていく姿に、若いお医者さんたちみんなにこんな先輩がいてほしいと思いました。同じ活動はできなくとも(モデルの長尾先生の毎日があまりに大変そうで)、その心を受け継いでほしいものです。後半の宇崎竜童さん演じる本多さん、惚れます。なんて粋でカッコいいご夫婦でしょう!高橋伴明監督の「理想」だそうです。お話聞けましたのでしばしお待ちを。
自分ごとですが、20年前、骨折を機に寝たきりになった義母を10年間在宅介護して看取りました。夫は単身赴任中、ヘルパーさんと夫の姉妹、近所のかかりつけのお医者さんとの連携プレーでした。介護保険の恩恵はあまりうけられませんでしたが、ケアマネさんも介護経験があって頼りになりました。義母は血圧が高いほか病気はなく、最期まで自分で食事ができました。「あっぱれ!」と義母と自分たちをほめてあげたいです。挫折することなく続けられたのは「介護しているからとあれこれ我慢せず、自分の楽しみを確保した」が大きいです。ヘルパーさんがいるときはバイトや映画に出かけ、義姉妹が泊まってくれたので実母と一緒に海外にも行けました。借りられる手は全て借りて、一人で背負わないことです。お神輿もみんなで担ぐので楽しく前に進めるんですから。(白)
余貴美子、柄本佑、宇崎竜童、大谷直子
「最期は家で迎えたい」。そんな言葉をよく聞きますが、それを叶えるためにはどんな苦労があるのか。この作品を見ると、いろいろな意味でよくわかります。がん難民という言葉は初めて聞きました。病気で苦しむだけでなく、こんな思いもしなくちゃいけないとは! それでも、宇崎竜童演じる末期がん患者を見ていると最期はこうありたいと思ってしまいます。
そのためには在宅医選びも重要らしい。さて、うちの近くに奥田瑛二が演じた長野先生のような方が開業してくれているといいのだけれど。(堀)
2019年/日本/カラー/112分
配給・宣伝:渋谷プロダクション
(C)「痛くない死に方」製作委員会
https://itakunaishinikata.com/
★2021年2月20日(金)シネスイッチ銀座、3月5日(金)~テアトル梅田、他関西地方ロードショー
★高橋伴明監督のインタビュー掲載しました。こちらです。
★原作の著者長尾和宏先生のドキュメンタリー『けったいな町医者』はこちらです。
藁にもすがる獣たち(原題:Beasts Clawing at Straws)
監督:脚本:キム・ヨンフン
原作:曽根圭介「藁にもすがる獣たち」(講談社文庫)
撮影:キム・テソン
音楽:カン・ネネ
出演:チョン・ドヨン(ヨンヒ)、チョン・ウソン(テヨン)、ペ・ソンウ(ジュンマン)、ユン・ヨジョン(スンジャ)、チョン・マンシク(ドゥマン)、チン・ギョン(ヨンソン)、シン・ヒョンビン(ミラン)、チョン・ガラム(ジンテ)
韓国の港町。ジュンマンは事業に失敗してサウナのアルバイトをしている。ロッカーの中に忘れたままのバッグを見つけた。開けると札束がぎっしりと詰まっていた。夜遅くに来て買い物に出ていったままのお客のものだとわかる。家には認知症の母、その世話とやりくりに苦労している妻がいる。大学生の娘に学費を出すこともできない。喉から手が出るほどお金はほしい。
出入国管理の仕事をしているテヨンは、失踪した恋人の借金の取り立てに追われている。金融業者に脅されているが金策のあてもない。借金のために夫にDVを受けているミラン。過去を精算して新たな人生を歩みたいヨンヒ。誰もが地獄から抜け出すために藁にもすがりたい。欲望に駆られたら獣にだってなる!?あの10億ウォンはどこへ行く?
10億ウォンというと今の為替で9500万円。ざっくりで1億円。1980年、銀座で風呂敷包みの1億円を拾って届け、落とし主が現れず一躍有名になった方がいましたね。結局誰のどんなお金か判明しませんでしたが、この映画はだんだんと明らかになります。
テヨン役のチョン・ウソンが口先ばかりのいい加減な男。いつもカッコいい役なのに、これ。チョン・ドヨンが何枚も上手の、男を翻弄するヨンヒ。真っ赤な口紅に胸元のあいたドレスが妖艶です。この二人に真面目なジュンマンのペ・ソンウや、凶暴なパク社長のチョン・マンシクらキャストたちが少しずつ関わって思いがけない展開になります。二転三転するストーリーに目が離せません。原作はありますが、脚本も書いたキム・ヨンフン監督うまいです!次作が楽しみ。
認知症の母スンジャのひとことが胸に落ちてしみてきます。さすがユン・ヨジョンさん。蛇足ながら”1億円は1万円札で重さ10㎏”、5万ウォン札で10億ウォンはその倍?(白)
冒頭、大写しのルイ・ヴィトンの鞄。若い頃、彼から貰ったのと同じ!と思わず見入ってしまいました。鞄自体が重くて、ブランド志向じゃない私には無用の長物でした。これに10億ウォンの札束が入っているのですから、かなりの重さ! 男性にとっても重いけど、チョン・ドヨン演じる華奢なヨンヒには、とてつもない重さのはず。それにしても、本作のチョン・ドヨン、ほんとに艶っぽいです。
チョン・ウソンがそのヨンヒの色気に現を抜かして借金を背負うマヌケな男なのですが、そんな役もさすがに上手い!(と、ウソンさま命の私)
ホテル併設のチムジルバンでバイトしているジュンマンが床掃除している時に流れている3つのニュースが、この物語の核になっている事件。どうぞ聞き流してしまわずしっかり聞いてください。伏線がいっぱいあって、最後のオチには拍手です♪ あ~面白かった! (咲)
原作は曽根圭介の同名小説です。しかし韓国らしく設定し直されていて、日本の話だったとは思えません。原作者も「実をいうと、私は今、本作を手本にして原作を書き直したいと、半ば本気で思っています」とコメントしているくらい。原作は未読なのですが、小説ならではの仕掛けがあり、それをキム・ヨンフン監督は原作の構成を生かしつつ、巧みな手法で解決したそう。脚本も手掛けた監督の手腕ですね。しかし、高額な現金って怖いですね。どんな辛い仕打ちにも耐えていた人が大金を見つけた瞬間、人が変わってしまう。クライマックスのどんでん返しに笑ったものの、ラストで誰もが持つ人間の心の闇を改めて感じさせられます。
チョン・ドヨンが演じる女社長とチョン・ウソンが演じる出入国審査官のクズっぷりが半端ないのですが、どこか魅かれてしまう。その結果、ずるずると道を踏み外していく人がいるのも納得です。
個人的には不法滞在者を演じたチョン・ガラムに注目。「感染家族」でキャベツを食べるゾンビをかわいく演じていましたが、本作でも好きになった女のためなら何でもやってしまう漢気を見せたものの、その後にうじうじと悩む辺りは母性本能をかき立てられます。
また、『ミナリ』でオスカーの呼び声高いユン・ヨジョンは息子かわいさのあまりに嫁にきびしい認知症の姑を好演。こうはなりたくないと思いつつ、自分もこうなってしまうのではないかと不安になりました。(堀)
2020年/韓国/カラー/シネスコ/109分
配給:クロックワークス
(C) 2020 MegaboxJoongAng PLUS M & B.A. ENTERTAINMENT CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED. (C) 曽根圭介/講談社
http://klockworx-asia.com/warasuga/
★2021年2月19日(金)シネマート新宿ほかロードショー
2021年02月12日
モンテッソーリ 子どもの家(原題:Le maitre est l'enfant)
監督・撮影:アレクサンドル・ムロ
音楽:ダミアン・サランソン
日本語吹替:本上まなみ、向井理
”モンテッソーリ教育”とは20世紀初頭にイタリアのマリア・モンテッソーリが考案した教育メソッド。世界の140カ国以上の国に普及しているが、義務教育が徹底している日本では、西欧と違ってあまり知られていない。アレクサンドル・ムロ監督は自分自身の子育てに疑問を持ったことから、モンテッソーリ教育に着目した。フランスで最古の学校に2年3カ月に渡って通い、2歳半~6歳の28人の教室に小型カメラを設置し、注意深く子どもたちを観察した。
親も教師もつい、子どもの先へ先へと口を出して、管理したがるのが常です。その方が自分に都合がいいというのが大きな理由ではないでしょうか?じっと子どもを待つことができません。これは自省も込めて。
この映画では、子どもが自発的に考え、選択し、行動するようすが捉えられています。いきなりこうなるのではなく、少しずつ段階を踏んで子どもが学んでいきます。初めて教室に来た子が、帰っていく親の姿を窓に張り付いてずーっと見ているシーンも入っています。先生は仲間に入るように無理強いはしません。子どが興味を持つまで待っています。
初めてのことは少しやってみせて、子どもに聞かれたことには丁寧に応えます。年齢の異なる子どもたちが一つの教室にいることで、小さな子は大きな子の真似をします。真剣な表情がいじらしく、何度も繰り返してできたときの笑顔の可愛さといったら!
「子どもは“お仕事”が好き」「子どもの“集中現象”」「子どもに褒美や罰を与えない」「子育てにマニュアルなどない」などなど、大事なエッセンスが詰まった作品です。”自発的に考え、選択し、行動する”人間がたくさん育つと困るのは誰?というところは置いといて(後で考えてね)。まずはこの映画で”子どもが大きな可能性を秘めた存在”ということを胸に刻んで、自分の周りの子どもたちを見守る大人になりませんか。(白)
本作は想田和弘監督の観察映画のようにナレーション、説明テロップは一切なく、淡々と子どもたちの様子を映し出します。好きなことを集中して取り組み、大きな子が小さな子をリードしています。(きっと編集でうまくカットしているのではないかと思いますが)トラブルはほとんど見受けられません。
自由でのびのびとした幼稚園に通わせたい。娘が生まれてからいろいろ探して私が行き着いたのがモンテッソーリ教育でした。しかし、私が入園を考えたところは親の積極的な参加が求められ、縫物が絶望的に下手な私にはハードルが高く、家から車でないと通えないということもあって諦め、地元で自由保育を行う幼稚園に入園させました。そこは一斉保育をすることなく、この作品と同じように、子どもが自分のしたいことをし、先生はそれを見守ってくれる。娘は自由画帳を何冊も買うほどお絵描きをしましたが、3年間一度もお絵描きをしなかったお子さんもいるような自由な環境に、親子ともども満足することができました。担任の先生が娘たちを卒園させると、モンテッソーリの指導者になるための勉強をするといって園を退職し、2年間海外留学されたので、きっと先生なりにモンテッソーリ教育をしようとしてくださっていたのだと後から思いました。
できるならばこういった環境で子育てするのがベスト。久しぶりにモンテッソーリ教育に触れ、夏におばあちゃんになる私は孫への教育に思いをはせました。(堀)
子どもの自主性と自信を主軸にした教育メソッドを生み出したマリア・モンテッソーリ。1870年にイタリアで生まれ、1952年にオランダで亡くなった彼女は、ファシズムが台頭したイタリア、そしてスペインから2度も亡命し、二つの世界大戦を経験しています。1938年にインドを訪れ第二次世界大戦の為、約10年過ごす間に、ガンジーやタゴールとも交流。インドでモンテッソーリ教育の基本的で重要な概念である「宇宙的秩序」理論に基づく「宇宙的教育」を体系化しています。
教育とは知識を伝授することではなく、子どもの精神の発達を手助けすることという理念を、教育に携わる人も、親も胸に刻んで子どもに接するといいなと思いました。
私が受けた教育はといえば、小学校から大学まで、学校も親も自由放任! もしかしたらモンテッソーリ教育に通じるところがあったでしょうか? (咲)
2017年/フランス/カラー/105分
配給:スターサンズ、イオンエンターテイメント
(C)DANS LE SENS DE LA VIE 2017
http://montessori-movie.jp/
★2021年2月19日(金)新宿ピカデリー、イオンシネマほか全国公開
あの頃。
監督:今泉力哉
原作:劔樹人「あの頃。男子かしまし物語」
脚本:冨永昌敬
撮影:岩永洋
音楽:長谷川白紙
出演:松坂桃李(劔樹人)、仲野太賀(コズミン)、山中崇(ロビ)、若葉竜也(西野)、芹澤興人(ナカウチ)、コカドケンタロウ(イトウ)、西田尚美(馬場)、山崎夢羽(松浦亜弥)、片山友希(奈緒)、中田青渚(靖子)
劔樹人。バイトに明け暮れ、バンド活動もままならず、どんよりと日々を送っていた。見かねた友人が「これ見て元気出せ」と持たせてくれたDVDを再生してみると、そこには弾ける笑顔で歌い踊る松浦亜弥が!思わずくぎづけになる劔の両目から涙があふれた。駆け込んだCDショップの店員ナカウチから「ハロー!プロジェクト」のイベント案内をもらう。かくして劔の新しい人生が幕を開ける。
イベントに参加した劔に、ナカウチは個性的な仲間たちを引き合わせる。劔は彼らとともに、これまでと全く違うくだらなくも愛おしい日々を謳歌する。アイドルに夢中になった時間は思いのほか早く流れ、仲間たちはハロプロよりも優先するものを見つけていく。
「ハロー!プロジェクト」とはアップフロントグループ系列の芸能事務所に所属する女性アイドルグループ・女性タレントの総称、またはメンバーのファンクラブの名称。だそうです。この映画を観るまで、こんなに熱狂的なファンたちがいるのを知りませんでした。お兄ちゃんとは呼びにくい年頃の方もいますが、男性アイドルのほうにおばちゃんファンが混じっているのと同じですね。
新作のたびにこれまでにない役柄を演じているチャレンジャー松坂くん、スターのオーラを封印して、今までで一番どよ~んとした始まりでした。彼を元気づけるハロプロおたくの面々、コズミンも西野もロビもイトウもみんな熱くておかしくて、どうかしているのですが「幸せこの上ない表情」をしています。
思えば私も親戚の人たちに「追っかけしてるんだって!」と言われた時期がありました。自分では正しいファン道を歩んでいただけなんですが、ほかの人にはやっぱりどうかしている、と思われたらしいです(汗)。しかし、楽しかったのは間違いありません。我が人生に悔いはなし(汚点はあるかも)。(白)
高校を卒業してもうすぐ40年。中高時代に仲が良かった友人とは今でもLINEで繋がっていて、ときどき他愛もない話で盛り上がっている。そんな彼女たちと知り合ったのは中1のこと。「宇宙戦艦ヤマト」のアニメがきっかけだった。ヤマト軍団と揶揄されながらも、声優イベントで静岡から東京まで出掛けたり、夜な夜な電話で語り合ったり。最近は直接会うことはほとんどないけれど、今でも分かり合えると思えるのは、あの頃に密な時間を彼女たちと過ごしたから。
本作はハロプロにすべてを捧げた男たちの青春の日々を描いています。興味の対象こそ違うけれど、根底に流れるものは同じ。好きなものへの一途な愛はすべてをなぎ倒してでも突き進んでしまう。ん~わかるわ~!
松坂桃李のオタクぶりには推しの私も最初はちょっと引いてしまいましたが、弾けるような笑顔がかわいく思えてくるから不思議。新たな魅力の開眼ですね。若葉竜也は『AWAKE』とは大分違った雰囲気でしたが、こっちが素の若葉竜也な気がします。そして仲野太賀はこういったダメ男を演じさせると見事なくらいハマりますね。さすがのひとことです。(堀)
2020年/日本/カラー/シネスコ/117分
配給:ファントム・フィルム
(C)2020「あの頃。」製作委員会
https://phantom-film.com/anokoro/
★2021年2月19日(金)ロードショー
撮影:景山咲子
◆(咲)さんの公開直前イベントのレポはこちらです。
◆スタッフ日記はこちらです。
2021年02月08日
METライブビューイング プレミアム・コレクション2021
コロナ禍が続き、METの2020-21シーズンは中止となりましたが、これまでに上演された数々の舞台の中から、大ヒット映画『ボヘミアン・ラプソディ』でも使用された、ヒットメロディ満載の《カルメン》や、人生で一度は観るべき「泣けるオペラ」《椿姫》、サッカーの応援曲で知られる〈凱旋行進曲〉等の名曲が鳴り響く《アイーダ》など、人気演目6作がMETライブビューイング プレミアム・コレクション2021として2021年2月12日(金)より東劇・新宿ピカデリーほか全国の映画館で上映されます。
第1作《カルメン》(2009-10):2/12(金)~2/18(木)
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
演出:リチャード・エア
出演:エリーナ・ガランチャ、ロベルト・アラーニャ、バルバラ・フリットリ、テディー・タフ・ローズ
上映時間:3時間24分(休憩1回)
MET上演日:2010年1月16日
言語:フランス語
(c)Marty Sohl/Metropolitan Opera
19世紀のスペイン、セヴィリャ。連隊の伍長ドン・ホセは、いずれ故郷に帰って幼なじみのミカエラと結婚する日を夢見ている。そんな彼の前に、自由奔放なジプシー女のカルメンが現れた。カルメンの手管に魅入られたホセは、けんか騒ぎを起こして捕らえられたカルメンを逃がし、営倉に送られる。出所したホセはカルメンと逢引し、彼女の仲間である密輸を働く無法者の一味に加わる。しかし間もなくカルメンの心は花形闘牛士に傾いていく。
「カルメンという名前は聞いたことがある」程度のオペラ初心者でしたが、冒頭に演奏されて曲を聴き、「あ~この曲、知ってる!」と私でも聞いたことがある曲が流れてきたので、一気に舞台に引き込まれていきました。オペラって歌がセリフ代わりだから意味が分かりにくくない?と思っていましたが、歌の部分も字幕があるので安心。しかも、舞台が始まる前に、キャストの名前と役名、その人のアップシーンを順番に紹介してくれているので、初心者にはうれしい限りです。また幕間には舞台裏でのキャストやマエストロ、振付師のインタビューカットが挟み込まれ、飽きさせません。
主人公のカルメンを演じているのはエリーナ・ガランチャ。妖艶な演技に驚きました。客席に人がいるのに、そんなに大胆に振る舞っていいの?と心配になってしまうほど。実はこの役、もともとはドン・ホセを演じたロベルト・アラーニャの妻、アンジェラ・ゲオルギューが演じることになっていたようですが、離婚協議に入ってしまって夫婦の共演が消えたらしい。エリーナ・ガランチャにとっては降って湧いたような幸せだったかもしれません。そういう意味では急遽代役としてエスカミーリョ役をつかんだテディ・タフ・ロドスも幸運な人と言えるでしょう。ロドスは幕間のインタビューで代役の話を当日の朝10時に電話で聞き、3時間後には舞台に立っていたと話します。せめて前日に分かっていればと思ったら、ロドスは当日でよかったそう。その理由に思わずなるほどと思うはず。
本作は演出がリチャード・エアというのが話題になったようです。残念ながら他のカルメンを見たことがないので、違いについては語れません。オペラ好きの方だったら、きっとその辺りも楽しめるのではないかと思います。(堀)
「カルメン」は世界でも日本でも1,2を争う人気オペラだそうです。どこかで聞いたようなアリアがたくさんです。運動会とかイベントとか。
初演は1875年と150年近く前ですね。ストーリーはわかりやすく、今のドラマでも似たような題材がある普遍的恋愛物語。恋多きジプシーのカルメンがウブな伍長のホセを誘惑。カルメンの色香にホセはぞっこん、それも許嫁ミカエラがわざわざ故郷の母親の手紙を届けに来た直後のこと。全くもう!ミカエラを裏切って、脱走までしたホセですが、一時の熱が冷めたカルメンは新しい男に心奪われてしまいました。今でいう肉食系女子?
(堀)さんが驚いたラブシーンも別の「カルメン」にはなく、昔だったらフェードアウトするところかな。ドラマならカーテンがゆれるとか(笑)。バレエが始まりに入っていたのもちょっと驚きました。長尺ですが、開始前には舞台に大道具や小道具を持ち込む設営のようす、休憩時間にはすっかり模様替えして次のシーンに変わるようすも見られます。全然長く感じませんでした。(白)
《カルメン》(2009-10)以降の作品はこちらです。
第2作《メリー・ウィドウ》(2014-15):3/19(金)~3/25(木)
指揮:アンドリュー・デイヴィス
演出:スーザン・ストローマン
出演:ルネ・フレミング、ケリー・オハラ、ネイサン・ガン、アレック・シュレイダー、トーマス・アレン
上映時間:2時間53分(休憩1回)
MET上演日:2015年1月17日
言語:英語
20世紀初めのパリ。東欧の小国ポンテヴェドロの外交官ツェータ男爵は、亡夫から莫大な財産を受け継いだハンナが他国の男性と再婚すると国が破産しかねないと、書記官の伯爵ダニロにハンナに求婚するよう命じる。実はダニロはかつてハンナと恋仲で、身分違いゆえに結ばれなかったのだ。だが意地っ張りのダニロは頼みを断る。一方ハンナは、ツェータ男爵の妻ヴァランシエンヌの浮気をかばってダニロの誤解を招く。すれ違う恋のゆくえはいかに?
第3作《ワルキューレ》(2010-11):4/9(金)~4/15(木)
指揮:ジェイムズ・レヴァイン
演出:ロベール・ルパージュ
出演:ヨナス・カウフマン、ブリン・ターフェル、デボラ・ヴォイト、ステファニー・ブライズ、 エヴァ=マリア・ヴェストブルック
上映時間:5時間14分(休憩2回)
MET上演日:2011年5月14日
言語:ドイツ語
神話の時代。フンディングの妻ジークリンデは、戦いに負けて逃れてきたジークムントと出会う。実は2人は、神々の長ヴォータンが人間の女性に産ませた双子の兄妹だった。惹かれ合う2人は駆け落ちするが、ヴォータンの妻フリッカは兄妹の禁断の愛を責め、ジークムントの敵でもあるフンディングに彼を殺させるよう迫る。ヴォータンの娘で戦乙女ワルキューレのブリュンヒルデは、父からジークムントを倒すよう命じられるが、兄妹の愛に感動して彼らを助けようとする。命令に逆らった娘にヴォータンは激怒し…。
第4作《椿姫》(2018-19):5/21(金)~5/27(木)
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
演出:マイケル・メイヤー
出演:ディアナ・ダムラウ、フアン・ディエゴ・フローレス、クイン・ケルシー
上映時間:3時間25分(休憩2回)
MET上演日:2018年12月15日
言語:イタリア語
19世紀(本演出では18世紀)のパリ。高級娼婦のヴィオレッタは、享楽的な生活がたたって肺病を患っていた。そんな彼女に憧れていた田舎出のブルジョワ青年アルフレードは、ヴィオレッタに愛を打ち明け、一緒に暮らそうと申し出る。娼婦の暮らしを捨て、パリ郊外でアルフレードと愛の生活を送るヴィオレッタ。幸せな日々は、アルフレードの父ジェルモンの出現で一変する。ジェルモンは、アルフレードの妹が結婚するから身を引いてほしいと、ヴィオレッタに迫るのだった…。
第5作《セヴィリャの理髪師》(2006-07):6/18(金)~6/24(木)
指揮:マウリツィオ・ベニーニ
演出:バートレット・シャー
出演:ジョイス・ディドナート、フアン・ディエゴ・フローレス、ペーター・マッテイ、ジョン・デル・カルロ、ジョン・レリエ
上映時間:3時間21分(休憩1回)
MET上演日:2007年3月24日
言語:イタリア語
18世紀のスペイン、セヴィリャ。プラドで見初めた町娘ロジーナを追ってやってきたアルマヴィーヴァ伯爵は、彼女が後見人のバルトロの家で籠の鳥状態になっていることを知る。町の名物男で理髪師をやっている旧知のフィガロと再会した伯爵は、フィガロを相棒にロジーナを助け出そうと決心。フィガロのアドヴァイスに従い、伯爵は酔っぱらいの兵隊や音楽教師に変装してバルトロ家に潜り込むが・・・。
第6作《アイーダ》(2018-19):7/30(金)~8/5(木)
指揮:ニコラ・ルイゾッティ
演出:ソニヤ・フリゼル
出演:アンナ・ネトレプコ、アニータ・ラチヴェリシュヴィリ、アレクサンドルス・アントネンコ、クイン・ケルシー、 ディミトリ・ベロセルスキー、ライアン・スピード・グリーン
上映時間:3時間45分(休憩2回)
MET上演日:2018年10月6日
言語:イタリア語
ファラオの時代の古代エジプト。エチオピアの王女アイーダは、エジプトとの戦いに敗れて囚われ、身分を隠したまま奴隷になっている。だが彼女は、エジプトの将軍ラダメスと恋に落ちていた。同じくラダメスを愛するエジプト王女アムネリスは2人の仲に気づき、激しく嫉妬する。アイーダの父でエチオピアの王アモナズロは、再び兵を挙げてエジプト軍と戦うが、敗れ、捕虜になった。アイーダの恋人が敵方の将軍だと知ったアモナズロは、アイーダを脅してラダメスからエジプト軍の進路を聞き出させ、ラダメスは裏切りの罪で捕らえられてしまう。
★METライブビューイング公式HP https://www.shochiku.co.jp/met/
第1作《カルメン》(2009-10):2/12(金)~2/18(木)
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
演出:リチャード・エア
出演:エリーナ・ガランチャ、ロベルト・アラーニャ、バルバラ・フリットリ、テディー・タフ・ローズ
上映時間:3時間24分(休憩1回)
MET上演日:2010年1月16日
言語:フランス語
(c)Marty Sohl/Metropolitan Opera
19世紀のスペイン、セヴィリャ。連隊の伍長ドン・ホセは、いずれ故郷に帰って幼なじみのミカエラと結婚する日を夢見ている。そんな彼の前に、自由奔放なジプシー女のカルメンが現れた。カルメンの手管に魅入られたホセは、けんか騒ぎを起こして捕らえられたカルメンを逃がし、営倉に送られる。出所したホセはカルメンと逢引し、彼女の仲間である密輸を働く無法者の一味に加わる。しかし間もなくカルメンの心は花形闘牛士に傾いていく。
「カルメンという名前は聞いたことがある」程度のオペラ初心者でしたが、冒頭に演奏されて曲を聴き、「あ~この曲、知ってる!」と私でも聞いたことがある曲が流れてきたので、一気に舞台に引き込まれていきました。オペラって歌がセリフ代わりだから意味が分かりにくくない?と思っていましたが、歌の部分も字幕があるので安心。しかも、舞台が始まる前に、キャストの名前と役名、その人のアップシーンを順番に紹介してくれているので、初心者にはうれしい限りです。また幕間には舞台裏でのキャストやマエストロ、振付師のインタビューカットが挟み込まれ、飽きさせません。
主人公のカルメンを演じているのはエリーナ・ガランチャ。妖艶な演技に驚きました。客席に人がいるのに、そんなに大胆に振る舞っていいの?と心配になってしまうほど。実はこの役、もともとはドン・ホセを演じたロベルト・アラーニャの妻、アンジェラ・ゲオルギューが演じることになっていたようですが、離婚協議に入ってしまって夫婦の共演が消えたらしい。エリーナ・ガランチャにとっては降って湧いたような幸せだったかもしれません。そういう意味では急遽代役としてエスカミーリョ役をつかんだテディ・タフ・ロドスも幸運な人と言えるでしょう。ロドスは幕間のインタビューで代役の話を当日の朝10時に電話で聞き、3時間後には舞台に立っていたと話します。せめて前日に分かっていればと思ったら、ロドスは当日でよかったそう。その理由に思わずなるほどと思うはず。
本作は演出がリチャード・エアというのが話題になったようです。残念ながら他のカルメンを見たことがないので、違いについては語れません。オペラ好きの方だったら、きっとその辺りも楽しめるのではないかと思います。(堀)
「カルメン」は世界でも日本でも1,2を争う人気オペラだそうです。どこかで聞いたようなアリアがたくさんです。運動会とかイベントとか。
初演は1875年と150年近く前ですね。ストーリーはわかりやすく、今のドラマでも似たような題材がある普遍的恋愛物語。恋多きジプシーのカルメンがウブな伍長のホセを誘惑。カルメンの色香にホセはぞっこん、それも許嫁ミカエラがわざわざ故郷の母親の手紙を届けに来た直後のこと。全くもう!ミカエラを裏切って、脱走までしたホセですが、一時の熱が冷めたカルメンは新しい男に心奪われてしまいました。今でいう肉食系女子?
(堀)さんが驚いたラブシーンも別の「カルメン」にはなく、昔だったらフェードアウトするところかな。ドラマならカーテンがゆれるとか(笑)。バレエが始まりに入っていたのもちょっと驚きました。長尺ですが、開始前には舞台に大道具や小道具を持ち込む設営のようす、休憩時間にはすっかり模様替えして次のシーンに変わるようすも見られます。全然長く感じませんでした。(白)
《カルメン》(2009-10)以降の作品はこちらです。
第2作《メリー・ウィドウ》(2014-15):3/19(金)~3/25(木)
指揮:アンドリュー・デイヴィス
演出:スーザン・ストローマン
出演:ルネ・フレミング、ケリー・オハラ、ネイサン・ガン、アレック・シュレイダー、トーマス・アレン
上映時間:2時間53分(休憩1回)
MET上演日:2015年1月17日
言語:英語
20世紀初めのパリ。東欧の小国ポンテヴェドロの外交官ツェータ男爵は、亡夫から莫大な財産を受け継いだハンナが他国の男性と再婚すると国が破産しかねないと、書記官の伯爵ダニロにハンナに求婚するよう命じる。実はダニロはかつてハンナと恋仲で、身分違いゆえに結ばれなかったのだ。だが意地っ張りのダニロは頼みを断る。一方ハンナは、ツェータ男爵の妻ヴァランシエンヌの浮気をかばってダニロの誤解を招く。すれ違う恋のゆくえはいかに?
第3作《ワルキューレ》(2010-11):4/9(金)~4/15(木)
指揮:ジェイムズ・レヴァイン
演出:ロベール・ルパージュ
出演:ヨナス・カウフマン、ブリン・ターフェル、デボラ・ヴォイト、ステファニー・ブライズ、 エヴァ=マリア・ヴェストブルック
上映時間:5時間14分(休憩2回)
MET上演日:2011年5月14日
言語:ドイツ語
神話の時代。フンディングの妻ジークリンデは、戦いに負けて逃れてきたジークムントと出会う。実は2人は、神々の長ヴォータンが人間の女性に産ませた双子の兄妹だった。惹かれ合う2人は駆け落ちするが、ヴォータンの妻フリッカは兄妹の禁断の愛を責め、ジークムントの敵でもあるフンディングに彼を殺させるよう迫る。ヴォータンの娘で戦乙女ワルキューレのブリュンヒルデは、父からジークムントを倒すよう命じられるが、兄妹の愛に感動して彼らを助けようとする。命令に逆らった娘にヴォータンは激怒し…。
第4作《椿姫》(2018-19):5/21(金)~5/27(木)
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
演出:マイケル・メイヤー
出演:ディアナ・ダムラウ、フアン・ディエゴ・フローレス、クイン・ケルシー
上映時間:3時間25分(休憩2回)
MET上演日:2018年12月15日
言語:イタリア語
19世紀(本演出では18世紀)のパリ。高級娼婦のヴィオレッタは、享楽的な生活がたたって肺病を患っていた。そんな彼女に憧れていた田舎出のブルジョワ青年アルフレードは、ヴィオレッタに愛を打ち明け、一緒に暮らそうと申し出る。娼婦の暮らしを捨て、パリ郊外でアルフレードと愛の生活を送るヴィオレッタ。幸せな日々は、アルフレードの父ジェルモンの出現で一変する。ジェルモンは、アルフレードの妹が結婚するから身を引いてほしいと、ヴィオレッタに迫るのだった…。
第5作《セヴィリャの理髪師》(2006-07):6/18(金)~6/24(木)
指揮:マウリツィオ・ベニーニ
演出:バートレット・シャー
出演:ジョイス・ディドナート、フアン・ディエゴ・フローレス、ペーター・マッテイ、ジョン・デル・カルロ、ジョン・レリエ
上映時間:3時間21分(休憩1回)
MET上演日:2007年3月24日
言語:イタリア語
18世紀のスペイン、セヴィリャ。プラドで見初めた町娘ロジーナを追ってやってきたアルマヴィーヴァ伯爵は、彼女が後見人のバルトロの家で籠の鳥状態になっていることを知る。町の名物男で理髪師をやっている旧知のフィガロと再会した伯爵は、フィガロを相棒にロジーナを助け出そうと決心。フィガロのアドヴァイスに従い、伯爵は酔っぱらいの兵隊や音楽教師に変装してバルトロ家に潜り込むが・・・。
第6作《アイーダ》(2018-19):7/30(金)~8/5(木)
指揮:ニコラ・ルイゾッティ
演出:ソニヤ・フリゼル
出演:アンナ・ネトレプコ、アニータ・ラチヴェリシュヴィリ、アレクサンドルス・アントネンコ、クイン・ケルシー、 ディミトリ・ベロセルスキー、ライアン・スピード・グリーン
上映時間:3時間45分(休憩2回)
MET上演日:2018年10月6日
言語:イタリア語
ファラオの時代の古代エジプト。エチオピアの王女アイーダは、エジプトとの戦いに敗れて囚われ、身分を隠したまま奴隷になっている。だが彼女は、エジプトの将軍ラダメスと恋に落ちていた。同じくラダメスを愛するエジプト王女アムネリスは2人の仲に気づき、激しく嫉妬する。アイーダの父でエチオピアの王アモナズロは、再び兵を挙げてエジプト軍と戦うが、敗れ、捕虜になった。アイーダの恋人が敵方の将軍だと知ったアモナズロは、アイーダを脅してラダメスからエジプト軍の進路を聞き出させ、ラダメスは裏切りの罪で捕らえられてしまう。
★METライブビューイング公式HP https://www.shochiku.co.jp/met/
2021年02月07日
かくも長き道のり
監督・脚本:屋良朝建
撮影:原巖
音楽:丸尾めぐみ
出演:北村優衣(椎名遼子)、デビット伊東(村木順次)、真瀬樹里(池本夕子)、坂本充広(田代保)、宗綱弟(松下正太)
椎名遼子はオーディションで連続ドラマに抜擢されたばかりの新人女優。故郷の村に帰ってきたのは、所属事務所から恋人の村木と別れるように迫れらたためだ。村木は親子ほども年が離れた元賭博師で、今は山の村で静かに暮らしている。遼子は孤児の自分を支え、女優になりたいという夢をずっと応援してくれた村木と別れたくない。しかし、これから遼子を売り出したい事務所にとって、村木は邪魔な存在でしかなく、マネージャーに後を追わせていた。
2017年の伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞、審査員奨励賞受賞作を映画化。この伊参(いさま)映画祭で受賞すると映画化の道を応援してもらえるのだそうです。舞台はもちろん地元群馬県でのオールロケです。中之条町の「秋祭り」や「四万川ダム」など、美しい風景を背景に物語が展開していきます。
主演の北村優衣さんは「レプロ次世代スターオーディション」で見いだされ、この映画では仕事と私生活の板挟みになる女優さん役。年上の恋人・村木を演じるのはデビット伊東さん。お笑い芸人からスタートして、今はラーメン店を経営しながら俳優をしています。映画の中ではジャズファンでスタンダードジャズのレコードがかかっています。若い遼子の親代わりでなく恋人という、同年代の男性には羨ましい役です。遼子に思いを寄せる正太が、村木と比べてどうしてもお子様に見えるのは、しょうがないところ。マネージャーさんがなかなかいい味出しています。(白)
2020年/日本/カラー/70分
配給:ナインプレス
(C) 2020 かくも長き道のり All Rights Reserved.
http://www.kakumonagaki.jp/
★2021年2月13日(土)ロードショー
けったいな町医者
監督・撮影・編集:毛利安孝
ナレーション:柄本佑
出演:長尾和宏
長尾和宏1958年生まれ。在宅医として365日24時間対応で、患者のもとへ駆けつけている。
1995年、病院勤務医として働いていた際に、「家に帰りたい。抗ガン剤をやめてほしい」と言った患者さんが自殺をした。それを機に、阪神淡路大震災直後、勤務医を辞めて、人情の町・尼崎の商店街で開業し、町医者となった。病院勤務医時代に1000人、在宅医となってから1500人を看取った経験を元に、多剤処方や終末期患者への過剰な延命治療に異議を唱えている。2019年末、新型コロナが猛威を振るう直前、カメラは長尾に密着して街中を駆け回った。
著作を何冊か読みました(検索すればたくさんヒットします)。20日から公開される『痛くない死に方』の同名原作もそのうちの1冊です。このドキュメンタリーは、長尾先生の日常を2か月にわたって追いかけ、そのパワフルな毎日を映し出します。
長尾先生は携帯をいつもポケットに入れ、運転中もすぐに対応できるようにセットしています。白衣は着ません。大きなカバンも持ちません。聴診器だけ下げて、患者さんの手を握ったりしながら状態を見ています。「手当て」の始まりです。軽妙な話術と人を包み込むような笑顔で、患者さんと目を合わせて話します。患者さんにとっては全幅の信頼をおける先生。在宅介護はいくらでも不安と疑いが生まれ、疲労や悲しみが積もっていきます。それを吐き出していい、認めてくれる相手がいることで、どんなに救われ、報われるでしょう。
ぜひこのドキュメンタリーを観てから、映画『痛くない死に方』をご覧ください。そちらで主演している柄本佑さんがナレーションを務めています。(白)
尼崎市に住みたい。作品を見ていたらそんな気持ちになった。だって、将来、自分ががん患者になったらチューブに繋がれて、病院で亡くなるよりも、長尾先生がいうところの枯れるように死にたいじゃないですか。しかし、こんなにパワフルに診療をしていて、長尾先生は大丈夫なんだろうか。診察だけではなく、患者のみなさんを楽しませるために、カラオケをメドレーで披露している姿も映し出す。お茶目な長尾先生にちょっと苦笑しつつも、頭が下がる。お疲れで倒れたりしないといいのだけれど。。。
と思っていたら、テレビから長尾先生の声が聞こえてきた。2月6日(土)に放送された TBS「報道特集」に出演していたのである。しかも、がん患者の在宅ケアの話ではなく、コロナ診療をしているという。思わず、テレビにくぎ付けに。発熱してコロナの疑いのある患者さんは屋外で診察し、陽性でも入院先が見つからず自宅療養している人には毎日メールをして、クリニックで診察もしているらしい。
この作品を見て、長尾クリニックがこれ以上混雑してしまったらまずいんじゃないかと思う一方で、できるだけ多くの方にご覧いただいて、同じように考えて診察してくれるクリニックが全国に広がってくれることを願わずにはいられない。(堀)
生きることは、食べること
生きることは、笑うこと
生きることは、歌うこと
生きることは、歩くこと
長尾先生は、「病気の9割は歩くだけで治る」と言います。
医療=薬 と思わせられている現代医療のあり方に警鐘を鳴らしています。
薬の飲みすぎによる障害を考慮し、薬は3つまでと、患者一人一人に合った処方をするというスタンス。
心臓がバクバクするという男性には、「恋してるんちゃう?」
「死ぬの、待ちますわ」という90近い男性には、「あの世、極楽かな?」と絶妙に合いの手を入れます。
私は尼崎に程近い神戸の東灘区で15歳まで育ったので、このほんわりとした、まるで漫才のボケと突っ込みのような言葉のやりとりは、まさに日常だったのを懐かしく思い出します。笑うことで心も身体も活性化するのだなぁ~と長尾先生をみていて思いました。こんな先生に出会いたい♪ (咲)
2020年/日本/カラー/116分
配給・宣伝:渋谷プロダクション
(c)「けったいな町医者」製作委員会
公式サイト:http://itakunaishinikata.com/kettainamachiisha
★2021年2月13日(土)よりシネスイッチ銀座ほか関西地方ロードショー
◆毛利安孝監督インタビューを掲載しました。こちらです。
★高橋伴明監督『痛くない死に方』はこちらです。
春江水暖〜しゅんこうすいだん 原題:春江水暖
2021年2月11日(木・祝)Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開!
劇場情報
監督・脚本:顧暁剛(グー・シャオガン)
撮影:ユー・ニンフイ、ドン・シュー
音楽:竇唯(ドウ・ウェイ)
芸術コンサルタント:梅芳(メイ・フォン)
出演:
長男・有富ヨウフー:銭有法(チエン・ヨウファー)
次男・有路ヨウルー:章仁良(ジャン・レンリアン)
三男・有金ヨウジン:孫章建(スン・ジャンジェン)
四男・有宏ヨウホン:(スン・ジャンウェイ)
長男の妻フォンジュエン:王風娟(ワン・フォンジュエン)
四兄弟の母:杜紅軍(ドゥ・ホンジュン)
浙江省杭州市富陽。大河・富春江が流れる。美しい自然を背景に、町の近代化や四季折々の風景とともに、一つの家族の出来事、変遷を描いた顧暁剛監督のデビュー作。老いた母と4人の息子、孫娘の恋。ある大家族の四季と変わりゆく世界。
富陽地区は再開発の只中にある。顧(グー)家の家長である母の誕生日の祝宴の夜。四人兄弟の長男がやっているレストランで、母の誕生祝いの宴が開かれ、そこに集まった息子たち。老いた母のもとに4人の兄弟や親戚たちが集う。その祝宴の最中に、母が脳卒中で倒れてしまう。認知症が進み、介護が必要になった母。長男夫婦と同居することに。そこから夫婦の介護に関する葛藤が始まった。二人の娘グーシーは同僚のジャン先生と恋愛中で結婚したいのに、両親がその結婚に反対なのでこの町を出ようと考える。
漁師の次男夫婦は、30年暮らした家を立ち退くことになり、持ち船に仮住まい中。その息子に結婚話が来て、急遽見合いすることになる。
三男は離婚してダウン症の息子を育てているが、あちこちに借金があり、てっとり早く返すためなのか、違法な賭場を開いている。そのせいで借金取りが来たり、警察に捕まらないかと兄弟たちはやきもきしている。四男は何をしているのかわからないが未婚で、高齢な母の指令で?見合いさせられ、決断を迫られる。賭博がバレて三男が警察に捕まる以外は、ごく一般的な家族の出来事が水辺の街で営まれる。
登場人物は、監督自身の親戚・知人を、脚本を書く段階から考えて、アテ書きをしたそう。「製作費を節約できるという事情に加え、時代の風景を切り取ること、市井の人々の雰囲気を伝えることを大切にする思いがあったから」と、顧暁剛監督はフィルメックス2019のQ&Aで答えていた。老練な映画構想を持った映像だったので、ベテランの監督かなと思ったら、まだ若い監督だった。影響を受けた監督は、侯孝賢監督(ホウ・シャオシェン)監督と楊德昌(エドワード・ヤン)監督と言っていたけど、それを連想するような映像詩だと思った。
「現代の街の変化をいかにとらえるか考えるうちに、山水画の傑作『富春山居図』という絵巻物からヒントを得て、映画を絵巻物のように描くことを思いつきました」と振り返りながら、「侯孝賢監督の作品は、詩や散文など中国の伝統的な文人の視点で物語が組み立てられていると考えています。私自身は、文人的な視点と絵画を融合した映画を撮りたいと思いました」と語った。
劇中の音楽は中国のロック歌手、竇唯(ドウ・ウェイ。元、黒豹楽隊のボーカリスト)で、最近は伝統的な古典と現代文化を融合した新たな音楽を生み出している。顧監督がどのようにして古典を現代に落とし込もうかと苦慮していた時に大きな示唆を与えてくれたという。
「巻1終り」と出て、続編を想像させるような終わり方に監督は「この続編は必ず撮りたいと思っています」と語り、「最初からそういう構想だったわけではなく、撮影が進むうちに映画に対する考え方に変化が生まれ、このスタッフと一緒にこれからも映画と芸術を探求していきたいと考えるようになった。10年でひとつの作品として杭州の町の変化を描く構想もあり、名画『清明上河図』のように一つの長い絵巻物として見せることができればと思います」と語っていた。次の作品も楽しみな若手の登場である(暁)
母親の誕生日に血縁関係者を集めて祝宴を開く。テーブルに並ぶ料理はどれも華やかで、豊穣を意味するすずきを蒸した料理は繊細な味なのだろう。食べてみたくなる。日本ではここまでゴージャスに母親の誕生日を祝うことは珍しい(と思う)。冒頭から文化の違いを感じるが、4人兄弟それぞれの実情が浮かび上がってくると日本と変わらないものを感じる。しっかり者に見えるけれど情が薄い、母親思いだけれど生活がだらしない、婚家よりも自分の実家が大事。自分の胸に手を当てると思い当たる節がある人はいるのではないだろうか。さらに親の介護、その費用の負担、家の購入、不況下で困窮する生活、娘の結婚など家族が抱える問題はどこの国も同じ。しかし、悠久のときを流れてきた富春江と生い茂る木々を映した長回しの映像を見ていると抱えている問題の小ささを感じずにはいられない。(堀)
2019年の東京フィルメックスで、ちょうど上映の真っ最中にイランの女優さんにインタビュー。どうしても観たくて、40分中抜けながらも拝見。(寝たと思えば同じ♪)まさに絵巻物のような素敵な作品です。公開されるのが、ほんとに嬉しいです。
東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞しましたが、授賞式の時には監督は既に帰国されていて、ビデオメッセージで喜びを語ってくださいました。
ここにその時のメッセージをお届けしておきます。(咲)
皆さーん、こんにちは。私は『春江水暖』の監督のグー・シャオガンです。あのすみません(と、ここまで日本語で)スケジュールの都合で会場で賞を受け取れずごめんなさい。審査員の人たちが『春江水暖』を選んでくださったと知って、とても光栄で嬉しく思いました。まずは出資会社に感謝します。プロデューサー、製作チーム、私の家族、サポートしてくださったすべての方々に感謝します。撮影スタッフの一人一人にはとびっきりの感謝を伝えたいです。春夏秋冬の季節を一緒に歩んでくれてありがとう。私たちは力をあわせて映画を完成させました。みんながいなかったらこの映画は存在しなかったでしょう。だからみんなに感謝します。代表して審査員の皆さんに感謝申しあげます。認めてくれてありがとうございます。最後に市山さんにも感謝します。この映画を日本に連れてきてくださってありがとうございます。
アリガトウゴザイマス。ハイ。
★東京フィルメックス授賞式の模様はこちらでご覧ください。受賞理由なども掲載しています。
☆公開直前(2/9)に、グー・シャオガン監督より日本観客へのメッセージ動画到着!
https://youtu.be/f43FKHTjWLE
各界著名人からの絶賛コメントと共に、ぜひyoutubeでご覧ください。
2019年カンヌ国際映画祭批評家週間クロージング作品
2019年東京フィルメックス審査員特別賞
予告編動画 :https://www.youtube.com/watch?v=6X84szEDkRE
YouTube: https://youtu.be/3nDt9yrBaKo
中国映画 | 2019 年 |150 分|
字幕:市山尚三、武井みゆき|字幕監修:新田理恵|
配給:ムヴィオラ
公式サイト:http://www.moviola.jp/shunkosuidan/
劇場情報
監督・脚本:顧暁剛(グー・シャオガン)
撮影:ユー・ニンフイ、ドン・シュー
音楽:竇唯(ドウ・ウェイ)
芸術コンサルタント:梅芳(メイ・フォン)
出演:
長男・有富ヨウフー:銭有法(チエン・ヨウファー)
次男・有路ヨウルー:章仁良(ジャン・レンリアン)
三男・有金ヨウジン:孫章建(スン・ジャンジェン)
四男・有宏ヨウホン:(スン・ジャンウェイ)
長男の妻フォンジュエン:王風娟(ワン・フォンジュエン)
四兄弟の母:杜紅軍(ドゥ・ホンジュン)
浙江省杭州市富陽。大河・富春江が流れる。美しい自然を背景に、町の近代化や四季折々の風景とともに、一つの家族の出来事、変遷を描いた顧暁剛監督のデビュー作。老いた母と4人の息子、孫娘の恋。ある大家族の四季と変わりゆく世界。
富陽地区は再開発の只中にある。顧(グー)家の家長である母の誕生日の祝宴の夜。四人兄弟の長男がやっているレストランで、母の誕生祝いの宴が開かれ、そこに集まった息子たち。老いた母のもとに4人の兄弟や親戚たちが集う。その祝宴の最中に、母が脳卒中で倒れてしまう。認知症が進み、介護が必要になった母。長男夫婦と同居することに。そこから夫婦の介護に関する葛藤が始まった。二人の娘グーシーは同僚のジャン先生と恋愛中で結婚したいのに、両親がその結婚に反対なのでこの町を出ようと考える。
漁師の次男夫婦は、30年暮らした家を立ち退くことになり、持ち船に仮住まい中。その息子に結婚話が来て、急遽見合いすることになる。
三男は離婚してダウン症の息子を育てているが、あちこちに借金があり、てっとり早く返すためなのか、違法な賭場を開いている。そのせいで借金取りが来たり、警察に捕まらないかと兄弟たちはやきもきしている。四男は何をしているのかわからないが未婚で、高齢な母の指令で?見合いさせられ、決断を迫られる。賭博がバレて三男が警察に捕まる以外は、ごく一般的な家族の出来事が水辺の街で営まれる。
登場人物は、監督自身の親戚・知人を、脚本を書く段階から考えて、アテ書きをしたそう。「製作費を節約できるという事情に加え、時代の風景を切り取ること、市井の人々の雰囲気を伝えることを大切にする思いがあったから」と、顧暁剛監督はフィルメックス2019のQ&Aで答えていた。老練な映画構想を持った映像だったので、ベテランの監督かなと思ったら、まだ若い監督だった。影響を受けた監督は、侯孝賢監督(ホウ・シャオシェン)監督と楊德昌(エドワード・ヤン)監督と言っていたけど、それを連想するような映像詩だと思った。
「現代の街の変化をいかにとらえるか考えるうちに、山水画の傑作『富春山居図』という絵巻物からヒントを得て、映画を絵巻物のように描くことを思いつきました」と振り返りながら、「侯孝賢監督の作品は、詩や散文など中国の伝統的な文人の視点で物語が組み立てられていると考えています。私自身は、文人的な視点と絵画を融合した映画を撮りたいと思いました」と語った。
劇中の音楽は中国のロック歌手、竇唯(ドウ・ウェイ。元、黒豹楽隊のボーカリスト)で、最近は伝統的な古典と現代文化を融合した新たな音楽を生み出している。顧監督がどのようにして古典を現代に落とし込もうかと苦慮していた時に大きな示唆を与えてくれたという。
「巻1終り」と出て、続編を想像させるような終わり方に監督は「この続編は必ず撮りたいと思っています」と語り、「最初からそういう構想だったわけではなく、撮影が進むうちに映画に対する考え方に変化が生まれ、このスタッフと一緒にこれからも映画と芸術を探求していきたいと考えるようになった。10年でひとつの作品として杭州の町の変化を描く構想もあり、名画『清明上河図』のように一つの長い絵巻物として見せることができればと思います」と語っていた。次の作品も楽しみな若手の登場である(暁)
母親の誕生日に血縁関係者を集めて祝宴を開く。テーブルに並ぶ料理はどれも華やかで、豊穣を意味するすずきを蒸した料理は繊細な味なのだろう。食べてみたくなる。日本ではここまでゴージャスに母親の誕生日を祝うことは珍しい(と思う)。冒頭から文化の違いを感じるが、4人兄弟それぞれの実情が浮かび上がってくると日本と変わらないものを感じる。しっかり者に見えるけれど情が薄い、母親思いだけれど生活がだらしない、婚家よりも自分の実家が大事。自分の胸に手を当てると思い当たる節がある人はいるのではないだろうか。さらに親の介護、その費用の負担、家の購入、不況下で困窮する生活、娘の結婚など家族が抱える問題はどこの国も同じ。しかし、悠久のときを流れてきた富春江と生い茂る木々を映した長回しの映像を見ていると抱えている問題の小ささを感じずにはいられない。(堀)
2019年の東京フィルメックスで、ちょうど上映の真っ最中にイランの女優さんにインタビュー。どうしても観たくて、40分中抜けながらも拝見。(寝たと思えば同じ♪)まさに絵巻物のような素敵な作品です。公開されるのが、ほんとに嬉しいです。
東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞しましたが、授賞式の時には監督は既に帰国されていて、ビデオメッセージで喜びを語ってくださいました。
ここにその時のメッセージをお届けしておきます。(咲)
皆さーん、こんにちは。私は『春江水暖』の監督のグー・シャオガンです。あのすみません(と、ここまで日本語で)スケジュールの都合で会場で賞を受け取れずごめんなさい。審査員の人たちが『春江水暖』を選んでくださったと知って、とても光栄で嬉しく思いました。まずは出資会社に感謝します。プロデューサー、製作チーム、私の家族、サポートしてくださったすべての方々に感謝します。撮影スタッフの一人一人にはとびっきりの感謝を伝えたいです。春夏秋冬の季節を一緒に歩んでくれてありがとう。私たちは力をあわせて映画を完成させました。みんながいなかったらこの映画は存在しなかったでしょう。だからみんなに感謝します。代表して審査員の皆さんに感謝申しあげます。認めてくれてありがとうございます。最後に市山さんにも感謝します。この映画を日本に連れてきてくださってありがとうございます。
アリガトウゴザイマス。ハイ。
★東京フィルメックス授賞式の模様はこちらでご覧ください。受賞理由なども掲載しています。
☆公開直前(2/9)に、グー・シャオガン監督より日本観客へのメッセージ動画到着!
https://youtu.be/f43FKHTjWLE
各界著名人からの絶賛コメントと共に、ぜひyoutubeでご覧ください。
2019年カンヌ国際映画祭批評家週間クロージング作品
2019年東京フィルメックス審査員特別賞
予告編動画 :https://www.youtube.com/watch?v=6X84szEDkRE
YouTube: https://youtu.be/3nDt9yrBaKo
中国映画 | 2019 年 |150 分|
字幕:市山尚三、武井みゆき|字幕監修:新田理恵|
配給:ムヴィオラ
公式サイト:http://www.moviola.jp/shunkosuidan/
秘密への招待状(原題:After the Wedding)
監督:バート・フレインドリッチ
プロデューサー:ジュリアン・ムーア、バート・フレインドリッチ
出演:ジュリアン・ムーア、ミシェル・ウィリアムズ、ビリー・クラダップ、アビー・クイン
インドで孤児たちの救援活動に人生を捧げるイザベル(ミシェル・ウィリアムズ)は、施設の維持費を集めるために日々駆け回っていた。そんな彼女のもとに、多額の寄付の話が舞い込む。ただし、メディア会社を経営する支援者のテレサ(ジュリアン・ムーア)にニューヨークまで会いに行くのが条件だった。話をまとめて一刻も早く孤児たちの元へ帰りたいイザベルを、娘の結婚式に強引に招待するテレサ。寄付金のために渋々出席したイザベルは、テレサの夫を見て驚愕する。それは21年前、イザベルが18歳の時にいさかいの果てに別れた恋人、オスカーだった。結婚式への招待状をきっかけに明かされる、家族の衝撃的な〈真実〉と、新たな〈秘密〉。この日を境に、彼女たちの人生は予想もしない未来へと転がっていく。
2006年にアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたスザンネ・ビア監督『アフター・ウェディング』に惚れ込んだジュリアン・ムーアと、彼女の夫で監督のバート・フレインドリッチが製作に乗り出して豪華にリメイクしたのが本作です。オリジナル版では主人公が男性でしたが、こちらは女性に変更。ジュリアン・ムーアがニューヨークで暮らす億万長者の会社経営者テレサを演じ、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』などで4度アカデミー賞にノミネートされているミシェル・ウィリアムズが、インドで孤児たちの救援活動に人生を捧げるイザベルに扮しました。
オリジナル版と主人公の性別を変えたことで、秘密の設定にちょっと無理が生じたような気もしますが、そこに違和感を覚える間もなく、見る者の意識を本筋にぐいっと引っ張り込んでしまう辺りは演技派といわれるジュリアン・ムーアとミシェル・ウィリアムズだからこそ。舞台もインドはそのままですが、デンマークをニューヨークに変えたことで格差が際立ち、物語を盛り上げます。
人生、どこで何が起こるか、わかりません。後悔している黒歴史があっても、それからちゃんと地に足のついた生活を送っていれば、その黒歴史も明るい未来に繋がっていくと思えてくる作品です。(堀)
冒頭、上空から緑豊かな地にヒンドゥー寺院が佇む光景が映し出され、次には階段に囲まれた貯水池の水辺に民族衣装の女性二人。貯水池を囲む土手では、西洋人の女性と子どもたちが瞑想中・・・ ここはどこ?と一気に映画に惹き込まれます。ロケ地は、南インドのタミル・ナードゥ州カライクディという町。実は、シナリオはコルカタのスラム街で孤児院を営んでいるという設定だったそうです。モンスーンの季節でコルカタでの撮影が叶わず、代わりに探し出したのがカライクディ。素朴な店が並ぶ通りも味わい深いです。白人女性のイザベルは、どんな経緯があって、この自然豊かな中で、孤児たちの為に奔走しているのだろうと想像が膨らみました。
この後、孤児院の為に資金を出すという富豪からイザベル本人が来るようにとのご指名でニューヨークに飛び、イザベルの過去が明かされていきます。できれば、それ以上の予備知識を持たずに映画をご覧いただくことをお薦めしたいです。(咲)
オリジナル版の『アフター・ウェディング』を未見なうえ、ミシェル・ウィリアムズが若々しいので、ビリー・クラダップが元カレでなく、疎遠の父かと勘違いしてしまいました。ちょっと謎解きストーリーになっていて、なぜこんなややこしいやり方を?と最初解せません。今の地位も資産も自分の力で手に入れたテレサは、何にも動じない強い女性に見えます。それが本音を吐露して泣く場面に、やっと親近感がわいてきます。
娘グレイス役のアビー・クインはシンガーソングライターでもあり、この映画の中でも曲が使われているようです。後で知ったので確認してみなくては。(白)
2019/英語/アメリカ/112分/5.1ch/カラー/スコープ/ G
配給:キノフィルムズ
© ATW DISTRO, LLC 2019
公式サイト:https://afterthewedding.jp/
★2021年2月12日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開
2021年02月06日
マーメイド・イン・パリ(原題:Une sirene a Paris)
監督・脚本:マチアス・マルジウ
音楽:ディオニソス オリヴィエ・ダヴィオー
出演:ニコラ・デュボシェル(ガスパール・スノウ)、マリリン・リマ(ルラ)、ロッシ・デ・パルマ(ロッシ)、ロマーヌ・ボーランジェ(ミレナ)、チェッキー・カリョ(カミーユ)、アレクシス・ミシャリク(ビクトル)
セーヌ川に浮かぶ船のバー”フラワー・バーガー”は、祖母が始めて、母が歌い、今は父がオーナーの老舗。ガスパールは思い出が詰まったこの店の”サプライザー”を続けてきたが、失恋したばかりで興が乗らない。
セーヌ川では甘い歌声が響き、魅せられた男たちが次々と命を落としていた。ガスパールは帰り道、水辺に倒れている人魚を見つけ、連れ帰って手当をすると「ルラ」と名乗った。ルラの歌声はいくら試しても、恋を拒否するガスパールには届かない。夫を亡くした女医のミレナは、ルナの歌声が原因と気づいて、行方を追っていた。
人魚のルラは人間に痛めつけられ、たった一人で復讐を始めました。歌声に全く惑わされないガスパールは、海に戻すまでルラを匿いますが、隣人のロッシはガスパールにロマンスがやってきたと喜んで世話を焼きます。監督・脚本のマチアス・マルジウはこのロッシ・デ・パルマをあて書きしたのだとか。マチアス・マルジウ監督は才能あふれる人で、フレンチ・ロック・グループのディオニソス(音楽担当)を結成、小説も書き、それをアニメ化したのが前作の「JACK ET LA MECANIQUE DU COEUR 」。ルラの観るビデオがその一部分です。オーニングとエンディングのアニメーションも製作。美術や小物にもご注目ください。父から独立はしたようですが、子ども部屋のようなガスパールの家、アヒルちゃんいっぱいのバスルーム、彼が大切にしている宝物、思い出がスクラップされたポップアップブックを間近で観たいものです。
楽しい音楽と夢のような造形、いっときファンタジーの世界に身をゆだねて気分転換をしてください。(白)
マチアス・マルジウが、このパリを舞台にした現代のおとぎ話を紡ぐきっかけになったのは、2016年のパリの洪水。記録的な雨で大増水し、セーヌ川の土手にあがっていた魚やカモたちの中にキャットフィッシュを見つけたとき。人魚と歌手を主人公にしたロマンチックなコメディーを描きたいと思ったそうです。
セーヌ川に浮かぶ”フラワー・バーガー”は、祖母が1940年に始めたもので、レジスタンスを匿い、兵士たちが暗号を送るために録音室も作ったという設定。フロアーでは歌って踊る、人生を楽しむためのノアの箱舟なのです。おとぎ話の中で、この設定は妙に信憑性を感じます。
おとぎ話の、もう一つの小道具が、パリの町を行くトゥクトゥク(三輪車)。バックミラーがお魚の形をしていて可愛いです。(咲)
2020年/フランス/カラー/シネスコ/102分
配給:ハピネット
(C)2020 - Overdrive Productions - Entre Chien et Loup - Sisters and Brother Mitevski Production - EuropaCorp - Proximus
http://mermaidinparis.jp/
★2021年2月11日(木)ロードショー
2021年02月02日
ディエゴ・マラドーナ 二つの顔 原題:Diego Maradona
監督・製作総指揮:アシフ・カパディア
製作:ジェームズ・ゲイ=リース、ポール・マーティン
編集:クリス・キング
音楽:アントニオ・ピント
出演:ディエゴ・マラドーナ、ペレ、チーロ・フェラーラ、ディエゴ・マラドーナ・ジュニア、クリスティアーナ・シナグラ、クラウディア・ビジャファーネ
アルゼンチン出身の天才的サッカー選手ディエゴ・マラドーナ。
本作はマラドーナ本人の完全な協力を得て作られた、栄光と挫折を繰り返す人生ドラマ。
1984年、ディエゴ・マラドーナは、イタリア南部の弱小クラブSSCナポリに移籍する。
母国アルゼンチンでの活躍の後、1982年にFCバルセロナに史上最高額の移籍金760万ドルで移籍するも、病気と怪我で結果を残せず、唯一買ってくれたのがナポリだった。貧しいナポリが高額で契約したことから、記者会見ではマフィアの金が流れているのではと問われる。ナポリの人たちに愛され、86-87シーズンはクラブ史上初のセリエA優勝とコッパ・イタリア優勝で2冠、1990年、イタリアW杯準決勝のイタリア戦で勝ったことで南北摩擦が激化、決勝で大ブーイングを浴びて準優勝。悪魔、悪童と嫌われ、ここから人生が狂う。1991年、薬物と売春への関与が疑われ、ついにイタリアサッカー協会から15か月の出場停止処分が出され、アルゼンチンに帰国する・・・
弱かったSSCナポリがマラドーナの活躍で、めきめきと勝ち進みます。面白くないのがイタリアの北のサッカーファンたち。「ナポリっ子はイタリアのアフリカ人」「糞」「病気持ち」「ナポリはイタリアの下水」と汚い言葉を投げかけます。マラドーナ自身、ブエノスアイレスの下水も飲み水もない貧困地区の生まれ育ちなので、そんな風にけなされるナポリには同情する思いがあったのではないでしょうか。
アルゼンチンに帰国後も、コカイン所持で逮捕されたりしながらも、選手や監督として活動を続け、1997年37歳で現役を引退しています。
ペレの後継者と言われたことに対して、「後継者ではなくマラドーナでいたい」と語ったマラドーナ。多くの人の記憶に残るサッカー選手であることは間違いありません。
監督のアシフ・カパディアは、1972年、ロンドンのインド系ムスリムの家に生まれたイギリス人。初の長編映画『THE WARRIOR(原題)』(2001年)ではインドの名優イルファン・カーンが主役を務めています。2003年英国アカデミー賞英国作品賞&新人監督特別賞受賞。
本作では、500時間に及ぶ未公開映像をもとに、マラドーナ本人にも取材し、彼の人生の光と影を描き出しています。
昨年6月5日(金)公開予定だった本作。コロナ禍で公開が延期され今年4月の公開予定だったのですが、2020年11月25日にブエノスアイレス郊外の自宅でマラドーナが亡くなられたことにより、公開が前倒しになりました。
また、1月30日からの「ヨコハマ・フットボール映画祭2021」ではオープニングを飾る予定でしたが、映画祭は延期になってしまいました。
映画の最後には、ディエゴ・マラドーナ・ジュニアと並んで、笑顔を見せています。ご冥福をお祈りします。(咲)
2019年/イギリス/130分/ビスタサイズ/5.1chデジタル
字幕翻訳:高橋彩/字幕監修:西部謙司
配給:ツイン
(C) 2019 Scudetto Pictures Limited
公式サイト:http://maradona-movie.jp/
★2021年2月5日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー