2021年01月24日

わたしの叔父さん(原題:Onkel)

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監督・脚本・撮影・編集フラレ・ピーダセン
出演:イェデ・スナゴー(クリス)、ペーダ・ハンセン・テューセン(叔父さん)、オーレ・キャスパセン(ヨハネス)、トゥーエ・フリスク・ピーダセン(マイク)

デンマークの農村。酪農を営む叔父と親子のように暮らしている27歳のクリス。少し足が不自由な叔父に手を貸しながら、静かな暮らしを続けている。訪ねてくるのは獣医くらい。マイクと出会って、いつもの暮らしにちょっとだけ違う風が吹く。実は獣医になりたかったクリスに、道が開けるチャンスが訪れる。

グランプリを受賞した第32回東京国際映画祭で見逃して残念だったのですが、一般公開が決まりました。ヒロインのイェデ・スナゴーは監督の前作に起用され、今度は主演。監督が彼女をモデルにストーリーを組み立て、取材しているときに本当の叔父であるペーダ・ハンセン・テューセンさんに出会って、叔父役になったのだそうです。映画初出演ですが、姪と自分の農場でいつもの暮らしを再現しているようなものだからか、とっても自然です。北海道を思わせるロケーション、地平線が見える広い広い田舎で、何も大きな事件は起きず、淡々とした毎日の暮らし、特に会話をしなくても通じ合っている二人が映っています。クリスが夢をかなえられる土壌・社会がデンマークに整っていることがとても羨ましいです。(白)

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14歳で家族を喪ったクリスは叔父さんに引き取られて育ちました。獣医を目指して進学することが決まっていましたが、叔父さんが倒れて体が不自由に。獣医になるのを諦めて農場に留まり、叔父さんの世話をしながら農場を続けていました。そんなクリスに近所の獣医師がサポートの手を差し伸べます。このまま叔父さんと暮らしていくか、獣医になる夢に向かって一歩を踏み出すか。本作ではクリスが人生の選択に悩む姿が描かれています。コロナ禍で大学の進学を諦める高校生や大学を退学する学生が増えている今、クリスの葛藤に共感する人は多いかもしれません。
監督は小津安二郎に多大な影響を受けていると自ら語っていて、デンマークではローアングルのショットを「オヅ・ショット」というそう。本作はカメラを固定して撮り、マスターショットを多用しており、静謐な絵画のような画が全編に渡って映し出されます。2019年東京国際映画祭 コンペティション部門 東京グランプリと東京都知事賞をW受賞したのも納得。(堀)


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TIFF2019にて(宮崎撮影)


2019年/デンマーク/デンマーク語/カラー/DCP/シネスコ(1:2.35)/106分/
字幕翻訳:吉川美奈子/デンマーク語監修:リセ・スコウ
後援:デンマーク王国大使館/
配給・宣伝:マジックアワー
(C)2019 88miles
https://www.magichour.co.jp/ojisan/
★2021年1月29日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次ロードショー
posted by shiraishi at 18:20| Comment(0) | 北欧 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

心の傷を癒すということ 劇場版

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原作:安克昌「心の傷を癒すということ 神戸…365 日」(作品社)
脚本:桑原亮子
音楽:世武裕子
主題歌:森山直太朗『カク云ウボクモ』(UNIVERSAL MUSIC)
出演:柄本佑、尾野真千子、濱田 岳、森山直太朗、浅香航大、清水くるみ、上川周作、 濱田マリ、谷村美月、石橋 凌、キムラ緑子、近藤正臣 ほか

在日韓国人として大阪に生まれ育ち、自分が何者なのか悩んでいた安和隆(柄本佑)は精神科医の永野良夫(近藤正臣)の著書に感銘を受け、精神科医への道を歩む。ある日、映画館で出会った女性・終子(尾野真千子)と恋に落ち、結婚。温かい家庭を持った和隆は、全国から訪れる患者たちにも温かな眼差しで寄り添い、34歳で医局長となる。
まもなく阪神・淡路大震災が起こり、和隆は避難所で多くの被災者の声に耳を傾け、心の傷に苦しむ人たちに寄り添い続け、「心のケア」に奔走する。精神医療の大切さを改めて実感した和隆は、新聞記者の谷村英人(趙珉和)からの依頼のもと、精神科医としてのエッセイを連載し、それを1 冊の本にまとめた。そんな中、和隆にがんが発覚。がん治療を受けながらも、医師として診療を続けようとした。

2020年1月にNHKで放送されたテレビドラマが劇場版として再編集されて、全国劇場公開されます。テレビドラマは放送文化基金賞(番組部門)・最優秀賞を、主演を務める柄本佑が同賞・演技賞、ギャラクシー賞(テレビ部門)の2020年2月度月間賞などを受賞しました。
モデルとなった精神科医・安克昌さんは阪神・淡路大震災で自らも被災しながら、他の被災者の心のケアに奔走。震災後の心のケアの実践に道筋をつけ、日本におけるPTSD(心的外傷後ストレス障害)研究の先駆者となりました。
作品では主人公の安和隆が精神科医として残した功績だけではなく、自らの出自に悩む姿や彼を支えた家族・友人との強い絆も描かれています。
和隆の妻、終子は被災者の心のケアに奔走する夫をしっかり支えて、1人で家庭を守っているのですが、尾野真千子はこういう役を演じさせると本当にうまい!またそんな終子を思いやる和隆。2人の愛は涙無くして見られません。
ガンがかなり進行した頃、幼い頃からの親友である湯浅に誘われてジャズのコンサートに行くのですが、そのシーンもハンカチが必須。湯浅を演じた濱田岳の表情を思い出すと今でも涙があふれてきてしまいます。
安さんが実現を願った「傷つきに優しい社会」。コロナ禍の今だからこそ、安さんの願いが叶ってほしいと思わずにはいられません。(堀)


テレビドラマだったのを知らず、放映時見逃していました。今回の映画版をやっと観て、俳優陣の好演に泣かされました。柄本祐さんの患者の心に寄り添おうとする精神科医は、ほんとに誠実で頼りがいがあって私にも「名医に見えます」。自分を二の次にして奔走したことが、病気を重くしてしまったとしたらお気の毒でなりません。学生時代からの親友とのやりとりは、やはりガンで逝った旧友を思い出して号泣でした。残された者は、あれもこれもと悔やむことが多いですが、すべきことをし終えて「ちょっとお先に」と出かけたんだと思うことにしました。安先生の残した足跡は大きく、これを大切に継ぐ方々がきっと出ると信じます。(白)

2020年/116分/G/日本
配給:ギャガ
©映画「心の傷を癒すということ」製作委員会
公式サイト:https://gaga.ne.jp/kokoro/
★2021年1月29日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
2月12日(金)シネ・リーブル梅田、京都シネマ、OS シネマズミント神戸、シネ・リーブル神戸 ほか

posted by ほりきみき at 14:01| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする