2021年01月23日

プラットフォーム(原題:El Hoyo/英題:The Platform)

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監督:ガルダー・ガステル=ウルティア
出演:イバン・マサゲ(ゴレン)、『パンズ・ラビリンス』『ミリオネア・ドッグ』「わが家へようこそ」、アントニア・サン・フアン

ゴレンは禁煙するために「穴」と呼ばれる「VSC/垂直自主管理センター」に入った。携帯品は一つだけ、6ヶ月の間に読み終わるように「ドン・キホーテ」の本を持ち込んだ。ガスで眠らされて目覚めると老人が自分を見つめていた。ベッドと洗面、トイレのほか何もない部屋で、床と天井に大きな四角い穴が開いている。詳しいことを知らされなかったゴレンに、老人は決まりごとをいくつか教えてくれた。老人は長い間ここにいて、下層の悲惨さを知りつくしている。自分たちがいる48階は良い階だと言うが、ゴレンは食べ散らかされた残り物を口にできない。
ルール1:一ヶ月ごとに階層が入れ替わる
ルール2:何か一つだけ建物内に持ち込める
ルール3:食事が摂れるのはプラットフォームが自分の階層にある間だけ

1日1度、上の階の残り物が載ったプラットフォームが下りてくる。最下層まで行くと凄いスピードで上がって戻る。食べて生き残ることしかすることがない。知るにつけ、とんでもない場所だとわかるが、途中で出ることはできないしくみだった。

縦構造になった階級社会を描く SF サスペンス・スリラー。よくこんなことを思いつくね、と呆れると同時に感心してしまいました。ガルダー・ガステル=ウルティアの長編初監督作品です。
ホテルの厨房かと見まがうところで、責任者らしい男性が厳しくチェックし、味や見た目はもとより髪の毛1本も見逃しません。それでも0階のプラットフォームに美しく盛られた食事がどうなるのかは、作り手の知るところではなく、知ろうとさえ思わないのかもしれません。
考えてみればわずかな食糧を奪い合っているのは、現実世界でも同じです。現実では階層が産まれながらに決まったり、努力次第で変えられることがあります。「穴」ではどこにいようと、1ヶ月経てば必ず移動するというところが異なります。
「奪い合えば足りず、分け合えば余る」という言葉がありますが、全員に行き渡るだけの食糧があっても下層まで届きません。たとえ下層で苦労しても、上層に移ればこのときとばかり幸運を貪り、分け合うことなど考えません。人間のイヤな部分がこれでもかとばかりにさらされます。そうしないと生き残れないので、ヘタレな私なら早々に脱落です。
豊かな国ではあり余り、廃棄される食品があっても、食べられない人には回っていかないドキュメンタリーを思い出しました。(白)


受賞歴
2019 トロント国際映画祭(ミッドナイトマッドネス部門):観客賞受賞
2019 シッチェス・カタロニア国際映画祭:最優秀作品賞、視覚効果賞、新進監督賞、観客賞受賞
2020 ゴヤ賞:特殊効果賞受賞

階級社会をデフォルメして描いている作品で、窓がなくて暗く汚い部屋、上から下りてくる残飯などが全体的にダークな印象を与えています。時折、目を覆いたくなるシーンも。この作品はホラーなのか、サスペンスなのか。情報が少ないゆえ主人公の先行きが気になって、なぜか目が離せません。
不条理な状況に立ち向かおうとする人も出てきますが、うまくいきません。彼らはヒーローではなく、むしろ人間としての矮小さが際立って感じられてしまいます。彼らに共感するか、どうかで見ている人の社会性が問われているような気がします。(堀)


2019年/スペイン/カラー/シネスコ/94分/R15+
配給:クロックワークス
(C)BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE
http://klockworx-v.com/platform/
★2021年1月29日(金)劇場公開
posted by shiraishi at 23:59| Comment(0) | スペイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ヤクザと家族 The Family

thumbnail_『ヤクザと家族 The Family』本ポスター.jpg

監督・脚本:藤井道人
撮影:今村圭佑
音楽:岩代太郎
主題歌:millennium parade「FAMILIA」
出演:綾野剛(山本賢治)、舘ひろし(柴咲博)、尾野真千子(工藤由香)、北村有起哉(中村)、市原隼人(細野)、 寺島しのぶ(木村愛子)、 岩松了(大迫刑事)、豊原功補(加藤正敏)、菅田俊(竹田)、康すおん(豊島)、二ノ宮隆太郎(大原)、 磯村勇斗(木村翼)

1999年。山本賢治は父親が覚せい剤中毒死し、身寄りがなくなった。悪友の細野や大原とつるむうち、たまたま柴咲組の組長が襲われたところを救う。密売人からクスリを横取りした賢治たちは、侠葉会に捕まって袋叩きに遭ってしまった。柴崎の名刺を持っていたことで命拾いし、賢治は目をかけてくれた柴咲の盃を受け、家族の一員となった。
2005年。賢治はいっぱしのヤクザとして頭角を現し、ホステスの由香と出会った賢治は安らぎを得ていた。しかし因縁の侠葉会と柴咲組の争いは激化、一触即発の危機にあった。狙われた柴咲は賢治の機転で助かるも、大原が死亡。警察の介入で動きを封じられるが、納得できない賢治は一人侠葉会へと向かう。
2019年。14年ぶりに柴咲組に戻った賢治は、激変した世の中に驚く。由香とようやく再会できたのだが…。

2019年『新聞記者』で注目を浴びた藤井道人監督のオリジナル脚本。昔ながらの義理と人情を重んじる侠客といった風情の柴咲組に対し、覚せい剤も臓器売買も金になると思えばなんでもありの侠葉会。命のやりとりをしたあげく、暴力団対策法(※)の施行もあって時代の波に取り残されるのは真面目なヤクザのほうでした。
柴崎役の舘ひろしが、居場所がない者を引き受ける度量の広さを見せ、かける声音に情の深さを感じました。突っ張って生きてきた賢治が柴咲を前に手放しで泣くところ、心開いて家族になっていくのにホロリとします。『日本で一番悪い奴ら』(2016)でまるでヤクザのような悪徳警官を演じた綾野剛、作品の味わいも違いますがこちらの一本気な賢治が哀切。助演の俳優陣もぴたりとはまって、新しい仁侠映画を観た気分です。(白)

※ 暴力団対策法:1992年、2012年に施行。暴力団の無力化に大きく役立ち、企業や地域社会への影響力を減じる契機となった。

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綾野剛が初めてヤクザ役に挑んだ作品です。やんちゃな19歳からちょっとくたびれた感のある39歳までを演じていますが、違和感がない!本人のやる気が伝わってきますね。アクションシーンもありますが、綾野剛はスタントなしで取り組んでいます。19歳のころ、ヤクザを怒らせてしまうことをやらかし、追い詰められて逃げるシーンでは車に轢かれるところまでご本人が演じました。すごいですよね。
そして『あぶない刑事』などから刑事の印象が強い舘ひろしがヤクザの組長を演じています。綾野剛が演じる山本を息子のようにかわいがるのですが、登場シーンから男気全開の色気オーラが爆発。ヤクザだけれど、こんなお父さんだったらついていきたくなるのも分かる!
山本の兄貴分を演じるのは『新聞記者』から引き続きの北村有起哉。セリフや行動はないけれど、じっと見つめる視線に嫉妬が滲みます。さすがとしかいえません。(堀)


ヤクザは足を洗っても、銀行口座も保険も家も5年経たないとまともに対応してもらえないとのこと。ヤクザと関わった女性もまた大変な人生をおくっている様を、尾野真千子と寺島しのぶが体現していました。尾野真千子演じる由香は、ホステスとして賢治と出会いますが、学費を稼ぐために仕方なく高収入のホステスをしているという風情。大学を出て、手堅く公務員になっています。寺島しのぶ演じる木村愛子は柴咲組の元若頭だった夫を抗争で亡くし、賢治が柴咲組の組長と出会う食堂を健気に切り盛りしています。ヤクザの子として生まれた人生もまた大変なことを、母親として息子を見守っている姿も素敵でした。(咲)

2019年/日本/カラー/シネスコ/110分
配給:スターサンズ/KADOKAWA
(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会
https://yakuzatokazoku.com/
★2021年1月29日(金)より全国公開
posted by shiraishi at 23:56| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

出櫃(カミングアウト) 中国 LGBT の叫び

劇場公開 2021年1月23日(土)
K's Cinema 03-3352-2471 ①10:00~ ②11:20~(1日2回上映)
上映情報
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©テムジン

監督・編集/房満満(ファン・マンマン)

撮影/楊林
プロデューサー/鐘川崇仁
製作・著作/テムジン 映像提供/NHK
配給/パンドラ
2019年|日本|54分|DCP・Blue-ray|ドキュメンタリー

ありのままの自分を受け入れてほしい

中国に7000万人いると推定される性的マイノリティの人々。『出櫃(カミングアウト)―中国 LGBTの叫び』は、自分のありのままを受け入れてもらいたいと、親と向き合う中国のゲイとレズビアンの若者に密着したドキュメンタリー。
上海で学習塾講師の仕事を持ち、中国・江蘇省で教員資格の認定試験を受けようとしている26歳の谷超(グーチャオ)は、中秋節の帰省を利用し、父親「自分はゲイである」と告白しようと一大決心をする。母の眠る墓で「告白がうまくいくよう」祈ったあと自宅に向かう。
一方、上海に暮らす安安(アンアン)は19歳で母親にカミングアウトしたが、受け入れられないまま32歳になった。両親は幼い頃に離婚し、以来、母親が女手一つで育ててくれた。母親は「娘には自分と違って幸せな家庭を築いて欲しいと切に願い、女性は結婚しないと幸せになれない」思いこんでいる。安安は自分が同性愛者であることを理解して欲しいと何度も話したが、母子は平行線のまま。今はパートナーの丹丹(ダンダン)と暮らしている。安安が30歳を過ぎると母親は「結婚しなければ自殺する」とますます感情的になり、悩んだ安安は性的マイノリティを支援する同性愛者支援団体の支援を得て、改めて母親に受け入れてもらおうとする。古い社会通念が根強く残り同性愛を受け入れがたい親と、葛藤し、壁を乗り越えようとする子供。そんな中国の親子の姿を追ったドキュメンタリー。
「出櫃」は、「クローゼット(蓋がある箱)から出る」というような意味で、カミングアウトのことを指す。

*LGBT(TOKYO RAINBOW PRIDE HPより)
LGBTとは、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつです。

監督は中国出身の房満満(ファン・マンマン)。2009年交換留学で来日。一旦中国に戻ったのち、再来日し、早大大学院でジャーナリズムを学び、現在は番組制作会社「テムジン」に在籍し、主にテレビドキュメンタリーの演出に携わっている。『出櫃(カミングアウト 中国 LGBT の叫び』は2019年2月にNHK「BS1スペシャル」として放送された番組。映画に再編集し「東京ドキュメンタリー映画祭2019」短編部門でグランプリを受賞した。そのほか、現在公開中の『あこがれの空の下 教科書のない小学校の一年』の演出も担当している。



2019年製作/54分/日本
配給:パンドラ

「公開記念トークイベント」(いずれも2回目11:20~の回上映後)
K's Cinema 03-3352-2471
1月23日㊏ 【対 談】阿古智子さん(東京大学教授/現代中国研究)×房満満監督
1月24日㊐ 【トーク】原一男さん(映画監督)
1月30日㊏ 【対 談】杉山文野さん(NPO法人東京レインボープライド共同代表理事)×房満満監督
1月31日㊐ 【対 談】安田菜津紀さん(NPO法人Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)×房満満監督



posted by akemi at 22:00| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

花束みたいな恋をした

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監督:土井裕泰
脚本:坂元裕二
主演:菅田将暉 有村架純/清原果耶 細田佳央太/韓英恵 中崎敏 小久保寿人 瀧内公美/森優作 古川琴音 篠原悠伸 八木アリサ/押井守、Awesome City Club PORIN/佐藤寛太 岡部たかし/オダギリジョー/戸田恵子 岩松了 小林薫

東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った 山音麦(菅田将暉)と 八谷絹(有村架純)。好きな音楽や映画が嘘みたいに一緒で、あっという間に恋に落ちた麦と絹は、大学を卒業してフリーターをしながら同棲を始める。近所にお気に入りのパン屋を見つけて、拾った猫に二人で名前をつけて、渋谷パルコが閉店しても、スマスマが最終回を迎えても、日々の現状維持を目標に二人は就職活動を続けるが…。

恋愛は障害があればあるほど盛り上がる。だからでしょうか、ラブストーリーは何かしら枷があるものが多い気がします。例えばどちらかが難病に罹ったり、親が倒れたり。本作は脚本家・坂元裕二が初めて映画に挑んだ、20代の男女が主人公のラブストーリーですが、そういった枷が1つもありません。大学生から社会人へと変化していく5年に渡る日常を淡々と描いています。恋のライバルが登場したり、浮気をしたりすることさえなく、ある意味とてもリアルです。私たちの日常もそうそう事件は起きませんものね。主人公2人を自分にオーバーラップしてしまう人も多いのではないでしょうか。
恋は楽しいときだけでなく、辛く悲しいときもある。2人が紡いだ5年の日々は互いに必要な5年間だったと思えるラストは周りの目を気にせず泣いてください。(堀)


人の数だけある出会いと別れの物語。『花束みたいな恋をした』は、観ていて、誰しもきっと、こんなこともあったと思い出す場面があるのではないでしょうか。キュンと切なくなったり、あの時、なぜムカッときたのかとか・・・ 今となっては、どうして別れてしまったのかと思っても、やり直しはできません。大切な思い出の一つとして、そっと胸にしまって、前進あるのみ♪ 
脚本を書いた坂元裕二さんは、本作をぜひ中高生に観てほしいと語っています。どんどん恋愛体験してほしいということでしょうか・・・ 
出会いは明大前駅。飛田給や調布、野川沿いの並木道、多摩川を見晴らせるマンションと、京王線沿線に住む私にはお馴染みの風景が出てきて、ちょっと嬉しい。
そして、二人が観た映画は『希望のかなた』。シェルワン・ハジさん演じるシリア難民の青年がヘルシンキの食堂で皆が見ている中、食事をしている場面。
二人が好む音楽や本や絵も、私には馴染みがないけれど、きっとこれ好き!と、共感する人も多いのではないでしょうか。若い人にはこれからの恋愛のヒントに、老いた人には青春を思い出すひと時に♪ ぜひご覧ください。(咲)


「付き合って5年」はいわゆる”長すぎた春”になるんでしょうか。結婚するには勘違いと勢いが必要ですからね。再会したとき「あ」とか「よっ」と言えるのは傷つけあっての別れではなかったから、いいなぁ。これ。
中で麦と絹がイヤホンを一個ずつ耳にして同じ音楽を聴いているシーンがありました。そこで音楽関係の仕事をしているらしい男性に、「両方で聴いてこその音楽」とこんこんと説明されるのです。これが後で生きてきます。片方ずつで聴いているカップルは意外に多くて、映画の中や巷で見かけるたびにそのシーンを思い出します。(白)


2021年/124分/G/日本
配給:東京テアトル、リトルモア
©2021『花束みたいな恋をした』製作委員会
公式サイト:https://hana-koi.jp/
★2021年1月29日(金)TOHO シネマズ日比谷ほか、全国公開
posted by ほりきみき at 15:38| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

天国にちがいない(原題:It Must Be Heaven) 

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監督・脚本・主演:エリア・スレイマン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、タリク・コプティ、アリ・スレイマン

スレイマン監督は新作映画の企画を売り込むため、故郷であるイスラエルのナザレからパリ、ニューヨークへと旅に出る。パリではおしゃれな人々やルーブル美術館、ビクトール広場、ノートルダム聖堂などの美しい街並みに見ほれ、ニューヨークでは映画学校やアラブ・フォーラムに登壇者として招かれる。友人である俳優ガエル・ガルシア・ベルナルの紹介で映画会社のプロデューサーと知り合うが、新作映画の企画は断られてしまう。行く先々で故郷とは全く違う世界を目の当たりにするスレイマン監督。そんな中、思いがけず故郷との類似点を発見する。

エリア・スレイマンが10年ぶりに長編映画のメガホンをとり、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で特別賞と国際映画批評家連盟賞を受賞した作品。

冒頭、儀式を行おうと聖職者を先頭に人々が聖堂に入ろうとしますが、扉が開かず入れません。怒った聖職者は1人で裏口に回り、中にいた人に聖職者らしからぬ暴言と暴力を振るって無理やり扉を開けさせました。コミカルなシーンなのですが、これってもしかするとイスラエルの建国を揶揄しているのもしれません。
このシーン以降はエリア・スレイマン監督が主人公として登場。自宅のベランダから庭を見下ろすと、知らない男が敷地の中に勝手に入って、庭になっているレモンを取っていました。男は「ベルを鳴らしたけれど気がつかなかったみたいだ」と言い訳。その後もちょくちょく来て、自分が収穫するために庭木の手入れを始めました。ここでもやっぱり国への思いを感じます。
その後、主人公はパリ、ニューヨークへと出掛けます。そこで映し出される光景は日本が“富士山芸者の国”と思われているのと同じくらいイメージ先行な感じ。セリフは極力排除し、全編通じてたった1つ。しかし、説明が一切ない分、自由な発想で作品を解釈ができそうな気がします。(堀)


東京フィルメックスでお馴染みのエリア・スレイマン監督。『天国にちがいない』が、2020年の東京フィルメックスでクロージング作品として上映されたほか、エリア・スレイマン監督特集が組まれ、長編デビュー作『消えゆくものたちの年代記』(1996年)をはじめ3本が上映されました。これまでも、生まれ育ったパレスチナの置かれた状況を独特のユーモアで語ってきたスレイマン監督。本作では、パレスチナをテーマにした新作の資金を得ようとパリやニューヨークに赴きますが、パレスチナの問題など、もはや見向きもされません。フィルメックスでの上映後のリモートQ&Aで、「世界全体がパレスチナ化していることを映画で描いています。主人公は天国を探して移動するのですが、世界中どこにも問題がある」と語っていたのが印象的でした。
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リモートQ&A報告(作品内容も詳しく記載しています) 
人のいないパリの町を戦車が静かに走行する場面があります。(撮影はコロナ禍の前なのに!) すわ、戒厳令?とドキッとします。
夜中に着いたニューヨークでは、人々が皆、銃を抱えています。
タロット占いで「この先、パレスチナはあるのか?」と尋ねると、「必ずやある。ただし我々が生きているうちじゃない」との答え。
スレイマン監督が生きているうちに故郷ナザレで平穏な日々を暮らせることを願うばかりです。(咲)

フィルメックスで観た。スレイマン監督らしく、ユーモアと皮肉に満ちた展開。最初の舞台はナザレなのでしょうか。レモンが庭にある家と隣の家の人が勝手に入ってきてレモンを獲っているシーンからスレイマン監督自身が出てきたのだけど、最初本人とは気がつかなかった。現地の俳優さんだと思って観ていた。このご老人がパリやニューヨークに行くシーンになって、なんでこのパレスチナの老人がパリやニューヨークに行くのかな?と思い、新作映画の資金援助の話をする壇になって、初めてスレイマン監督自身と気がついた(笑)。ずいぶん年をとってしまったなと思った。以前と全然感じが変わっていた。観ている間中、話が全然見えず、何を言いたい映画なんだろうと思っていた(笑)。でも、映画の資金援助の話になって、この映画の話の流れについて納得した。そしてパレスチナの現状と世界のあり方を思った(暁)。

2019年/フランス、カタール、ドイツ、カナダ、トルコ、パレスチナ / 102分
配給:アルバトロスフィルム/クロックワークス
© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION
公式サイト:https://tengoku-chigainai.com/
★2021年1月29日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 15:32| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする