2021年01月14日

どん底作家の人生に幸あれ!(原題:The Personal History of David Copperfield)

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監督:アーマンド・イアヌッチ
原作:「デイヴィッド・コパフィールド」チャールズ・ディケンズ著(新潮文庫刊、岩波文庫刊)
脚本:アーマンド・イアヌッチ サイモン・ブラックウェル
撮影:ザック・ニコルソン
音楽:クリストファー・ウィリス
出演:デヴ・パテル(デイヴィッド・コパーフィールド)、ピーター・キャパルディ(ミスター・ミコーバー)、ヒュー・ローリー(ミスター・ディック)、ティルダ・スウィントン(ベッツィ・トロットウッド)、ベン・ウィショー(ユライア)

ディヴィッドは何でも書き留めておくのが好きな少年だった。しかし母親が再婚した相手は厳格で、のびのび育ったデイヴィッドを鞭を持って躾け、母と別れて寄宿学校に入ることになった。しばらくすると学費を止められ瓶工場に売り飛ばされてしまう。母親が死んだと知らせがあり、それを機にデイヴィッドは工場を逃げ出し、カンタベリーの大叔母の家まで歩いていく。道中で追いはぎに遭い、着の身着のままでようやくたどり着く。富豪の大叔母の伝手で名門校に入れることになった。極貧の生活から抜け出たデイヴィッドは楽しい学生生活を送り、法律事務所に職を得る。恋人もできて順調な人生のはずだった、が。

冒頭、まず主人公のデイヴィッド・コパフィールドが登場。どこかの劇場で満員の観客を前に、自分の出生から上がったり下がったり波乱万丈のストーリーを話し始めます。この原作は長大で日本語訳の全5巻がありますが、1冊450~500ページ。登場人物が数えきれないほどいて読んでいるうちに誰だっけ?となります。いやまだ全部読み終わっていません(汗)。
とりあえずアーマンド・イアヌッチ監督が大好きな”ディケンズを知ってほしい”と映画化したこのお話をご覧になってくださいませ。みっちりつまった予告編だけでも、その片鱗がわかります。これまで何度も映像化されたそうですが、以前の作品が省きがちだったコメディ要素をたっぷり入れて、明るく元気な物語にしています。キャストも贅沢(見た目は違いますがみなイギリス人)、個性的な人物をなんとも楽しそうに演じています。出てきたときの印象と後からが違っていたり、デイヴィッドと同じく波乱含みだったり。
ディケンズ本人の人生とオーバーラップするような、ディヴィッドのジェットコースターのような、それでいて決して弱音を吐かず、あきらめず、振り落とされもしなかったお話。この時期にぴったりではありませんか。(白)


デイヴィッド・コパフィールを演じたデヴ・パテルは、ケニア出身のヒンドゥー教徒のインド系移民の両親のもとロンドン郊外で生まれたイギリス人。映画デビュー作『スラムドッグ$ミリオネア』では、ムンバイのスラムの少年。その後、『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(ジャイプールのホテル支配人)、『奇蹟がくれた数式』(インドの天才数学者)、『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』(5歳で迷子になりオーストラリアに養子に貰われたインド青年)、『ホテル・ムンバイ』(シク教徒のホテルマン)と自らのルーツであるインド系の役が多いのですが、本作では、イギリスの文豪ディケンズの自伝的物語の主人公! 違和感ないです。さらに、生まれたての赤ちゃんの時も、瓶工場であくせく働く少年時代も、デヴ・パテルを彷彿させる風貌! キャスティングの妙に唸ります。ミスター・ウィックフィールドを演じた香港系イギリス人ベネディクト・ウォンも、印象に残りました。
波乱万丈の人生、こまめにメモにして、それがちゃんと文学として結実しているのですね。いやはや! (咲)


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アーマンド・イアヌッチ監督はあらゆる人種を混ぜ合わせたキャスティングにこだわり、譲らなかったとのこと。出演者はみなイギリスで活躍する俳優ですが、インド系、アフリカ系、アジア系と多種多様。親と子の肌の色の違いに最初は戸惑うかもしれませんが、そこは早めにさらっと受け入れることがこの作品を楽しむポイントです。
苦しいときでも笑いを忘れず、人を恨まず。人生を謳歌しているデイヴィッドたちを見ていると自分の抱えている悩みがちっぽけなものに見えてくるから不思議。
ところで、監督は主役のデイヴィッド・コパフィールを最初からデヴ・パテルしか考えていなかったようですが、いろんな人に振り回されているデイヴィッドを見ていると、何だか福田雄一作品に出ている賀来賢人に似ているような気がしてきたのですが、いかがでしょう?
ベン・ウィショーが出演しています。それを分かって見ていたはずなのに、見終わったときに「あれ?ベン・ウィショーって出ていた?」と思ってしまうほどのなりきりぶり。主だった登場人物の中ではちょっと異質な存在で、誰もが持っている嫌な部分を象徴しているように思えました。(堀)


2019年/イギリス、アメリカ/カラー/シネスコ/120分
配給:ギャガ
(C)2019 Dickensian Pictures, LLC and Channel Four Television Corporation
https://gaga.ne.jp/donzokosakka/
★2021年1月22日(金)TOHOシネマズシャンテ、シネマカリテほか全国順次公開


posted by shiraishi at 17:34| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

KCIA 南山の部長たち(原題:THE MAN STANDING NEXT)

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監督:ウ・ミンホ
原作:キム・チュンシク「実録KCIA『南山と呼ばれた男たち』」
脚本:ウ・ミンホ、イ・ジミン
撮影:キム・ジヨン『タクシー運転手ー約束は海を超えてー』
出演:イ・ビョンホン(キム・ギュピョン)、イ・ソンミン(大統領)、クァク・ドウォン(パク・ヨンガク)、イ・ヒジュン

1979年10月26日、韓国のパク大統領が中央情報部(通称KCIA)部長キム・ギュピョンにより射殺された。事件発生の40日前、KCIA元部長パク・ヨンガクは亡命先であるアメリカの下院議会聴聞会で、韓国大統領の腐敗を告発した。激怒した大統領に事態の収拾を命じられたキム部長はアメリカへ渡り、かつての友人でもあるヨンガクに接触を図るが……。

実際にあった大統領暗殺事件をもとに、フィクションとして送り出された作品。2020年の韓国で興行収入第1位。べストセラーとなった原作のノンフィクション「実録KCIA『南山と呼ばれた男たち』」は、日本でも鶴真輔翻訳で1994年に講談社から出版されています。映画の登場人物は名前を変えてあり、実際は朴正煕(パク・チョンヒ)大統領(娘が18代大統領の朴 槿恵/パク・クネ)、撃ったのがかつては共にクーデターを起こし、長く側近だった金載圭(キム・ジェギュ)KCIA部長。
冷徹で野心家のキム部長をイ・ビョンホンが演じていますが、髪をぴったりとなでつけニコリともせず、色気のいの字もありません。迫力のビョンホンです。大統領はイ・ソンミン、2018年の『目撃者』『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』などで知られています。私はしばらく見続けていたテレビドラマ「ミセン 未生」のオ課長が最も似合って好きですが、悪役を演じると凄みが出ます。クァク・ドウォン、イ・ヒジュンが共演。
すぐ隣の国で長く軍事政権が続き、民主化宣言されたのは1987年。ほんの少し前のような気がします。こういう映画をきっかけに歴史をひもといてみるのもいいですね。(白)


パク・チョンヒ大統領暗殺を扱った映画で思い出すのが、『大統領の理髪師』と『ユゴ 大統領有故』の2作品。
『大統領の理髪師』(2004年製作、日本公開2005年2月11日、イム・チャンサン監督)では、大統領専属理髪師に指名されたソン・ガンホ演じる理髪師が警護室長の見張る中、びびりながら髪を整え髭を剃る姿に和まされました。本作でも、イ・ビョンホン演じるキム部長が理髪中の大統領を訪ねる場面が出てきて、思わず理髪師に目をやりました。そばに座って見張っているクァク警護室⻑を演じているイ・ヒジュンは、25キロ以上体重を増量して、キム部長に対立する嫌な奴を体現しています。ドラマ「棚ぼたのあなた」でのコミカルな役柄が好きなので、ちょっとびっくり。
『ユゴ 大統領有故』(2005年製作、日本公開 2007年12月15日、イム・サンス監督)は、美少女二人をはべらせた大統領が暗殺される凄惨な場面が印象的ですが、ハン・ソッキュが脇役というブラックコメディ仕立て。
今回、『KCIA 南山の部長たち』では、大統領に次ぐ権力を持つKCIAの部長が、なぜ大統領を暗殺するに至ったかに迫っています。最後に映し出される金載圭中央情報部部長本人の「民主主義を回復し、国民が犠牲になるのを防ぐことが目的で、決して自分が大統領になる為ではない」という言葉に胸が熱くなりました。一緒に革命を起こしながら、18年もの長い間、大統領の座に居座り、独裁者となってしまったパク・チョンヒを、そばにいる自分が始末しなければならないという思いに嘘はないでしょう。
キム部長を演じたイ・ビョンホンは、威厳があるわけでもなく、地味な普通の中年の男。イ・ソンミンは、私も(白)さんと同じく「ミセン 未生」のオ課長役が好きですが、本作では独裁者パク大統領の凄みを静かに滲み出していて、ぞくっとさせられます。(咲)


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2019年/韓国/カラー/シネスコ/114分
配給:クロックワークス
(C) 2020 SHOWBOX, HIVE MEDIA CORP AND GEMSTONE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.
http://klockworx-asia.com/kcia/
★2021年1月月22日(金)シネマート新宿ほか全国ロードショー



posted by shiraishi at 15:02| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

キル・チーム(原題:THE KILL TEAM)

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監督:脚本:ダン・クラウス
出演:ナット・ウルフ(アンドリュー)、アレクサンダー・スカルスガルド(ディークス軍曹)

アンドリュー・ブリグマンは正義感と愛国心に燃え、二等兵としてアフガニスタンに渡る。初めての任務は地元民の調査ばかりで退屈し始めたころ、上官が地雷により吹き飛び戦地であることを肝に銘じた。新しく配属されたのは、歴戦の猛者として名高いディークス軍曹だった。アンドリューたちの士気は高まるが、ディークス軍曹は治安を守るためと称して、民間人を容赦なく撃っていた。しかもアンドリューは彼が証拠を捏造しているのに気づいてしまい、良心の呵責にさいなまれ苦しむ日々。そして事態が悪化していくなか、アンドリューは決断を迫られる。

初々しい新兵が戦地に放り込まれ、砲弾を浴び、死が日常になっていく様子をドキュメンタリーのように見せていきます。それもそのはず2010年のアフガニスタンで実際にあったことをダン・クラウス監督は先にドキュメンタリーで発表していて、それを自ら劇映画として作りました。大麻で恐怖を和らげる、いじめの標的を作って憂さ晴らしをする、自分を正当化するためにウソを重ねていく者などなど、戦場の闇が白日にさらされます。アンドリュー役のナット・ウルフ、ディークス軍曹役のアレクサンダー・スカルスガルド共に好演です。
帰国すれば良き父、息子である彼らが戦場でどんな思いをし、口に出せない経験をしているのか、いくつもの戦争映画やドキュメンタリーが描いてきました。命令に従うことが第一の兵士たちがどれほど心身に傷を負っているのかも、PTSDに苦しみ続ける人々が表わしています。将棋やチェスのコマのように人を簡単に戦場に送らないで。何より戦争を始めないで。そして終わらせる努力を。(白)


治安を守るためと称して、証拠をでっち上げて民間人を殺害し続けていた上官。自らを正当化し殺人に手を染めてゆく。愛国心からアフガニスタンに渡った若い兵士の苦悩はいかばかりか。内勤の父親に電話でこっそり不安を伝えるが、そのことがさらに若い兵士の不安を増幅させることに。辛かったことだろう。
本作は実話に基づいており、監督は俳優陣に軍隊でトレーニングを受けさせたうえで撮影に入ったそう。アメリカ軍の暗部を徹底したリアリズムで描いている。(堀)


2019年/アメリカ/カラー/シネスコ/88分
配給:クロックワークス
(C)2019 Nostromo Pictures SL/ The Kill Team AIE / Nublar Productions LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
http://klockworx-v.com/killteam/
★2021年1月22日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 14:48| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする