2021年01月10日
聖なる犯罪者 原題: Boże Ciało 英題: Corpus Christi
監督:ヤン・コマサ
出演:バルトシュ・ビィエレニア、エリーザ・リチェムブル、アレクサンドラ・コニェチュナ、トマシュ・ジィェンテク
20歳のダニエルは殺人を犯し少年院で更生を受けている。熱心なカトリック教徒の彼は、厳格なマシュ神父に信頼されミサのまとめ役を任されていた。神父になりたいと夢見るが、前科者は神学校に入れないといわれる。仮出所が認められ、田舎町の製材所で働くことになる。地元の教会で知り合った少女マルタに、自分は司祭だと嘘をついてしまう。マルタからヴォイチェフ神父を紹介されたダニエルは、神父が不在の間、教会を任せたいと依頼される。
ダニエルは村に若者6人の献花台があることが気になっていた。マルタの兄も含め6人が乗っていた車が、飲酒運転をしていた車とぶつかりその運転手も含め7人が亡くなったという。運転をしていたスワヴェクは司祭から埋葬も拒否されたと聞き、ダニエルがスワヴェクの妻に会いにいくと、彼は4年間断酒していたと聞かされる。事故の真相を明かそうとしている矢先、少年院で一緒だったピンチェルが告解室にやってくる・・・
この映画を観て、真っ先に思い出したのが、イラン映画の傑作『ザ・リザード』(2004年、キャマール・タブリーズィー監督)。囚人が刑務所付のイスラーム僧の袈裟を失敬して脱獄し、人々に崇められてしまう物語。これはコメディー仕立てでしたが、「制服」を信じてしまう人々の心理は同じ。実は、「ポーランドでは偽司祭の話は毎年起こるぐらい珍しくない」とプレス資料にありました。
ダニエルは、告解に来た人への答えに困るとスマホで告解の手引きを検索し、ミサも独自のスタイルで説教をして、「神父様」と慕われます。格好から、自分自身、神父になりきり善人になったような陶酔した気持ち。子役時代から舞台で活躍していたバルトシュ・ビィエレニアが罪人なのに聖人にも見える得体の知れない人物を体現していて圧倒されました。(咲)
ダニエルは偽司祭だが、彼がミサを行うようになってから村の人たちは変わっていく。村で1年前に7人もの命を奪う凄惨な事故が起こり、被害者家族も加害者家族も心に深い傷を負っていることを知り、奔走するダニエルの姿に嘘はない。しかし、ダニエルの過去を知る少年が現れたことをきっかけにダニエルの嘘が明らかになっていく。
実際に起きたことに着想を得た作品という。モデルになった少年がどうなったのかはわからない。“犯罪歴があると神学校に入れない”といわれても以前の自分だったら何の違和感もなかっただろう。しかし、本作を見てから「なぜダメなのか。人生をやり直すチャンスを奪っていいのか」という疑問が残るようになった。(堀)
2019年/ポーランド=フランス合作/ポーランド語/115分/R18/5.1chデジタル/スコープサイズ
字幕翻訳:小山美穂 字幕監修:水谷江里
後援:ポーランド広報文化センター
配給:ハーク
© 2019 Aurum Film Bodzak Hickinbotham SPJ.- WFSWalter Film Studio Sp.z o.o.- Wojewódzki Dom Kultury W Rzeszowie - ITI Neovision S.A.- Les Contes Modernes
公式サイト:http://hark3.com/seinaru-hanzaisha/
★2021年1月15日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
パリの調香師 しあわせの香りを探して 原題:Les parfums
監督・脚本:グレゴリー・マーニュ
出演:エマニュエル・ドゥヴォス、グレゴリー・モンテル、セルジ・ロペス、ギュスタヴ・ケルヴェン、ゼリー・リクソン、ポリーヌ・ムーレン
パリ。香水調香師の女性と、離婚調停中で親権が欲しい男性が出会う。
離婚調停中のギョームは、パリの高級アパルトマンに住むアンヌ・ヴァルベルグの運転手の職を得る。24平米のワンルームでは隔週娘と暮らすのさえ難しいと指摘され、やっと得た仕事でなんとか広い部屋に引っ越したいと願っている。アンヌは仕事先に車で送迎させるだけでなく、洞窟で匂いの成分のメモをギョームに取らせたりする。そんなある日、送り届けて待機する予定だったパーティに同席することになる。そこでギョームは、アンヌがかつてディオールの香水“ジャドール”をはじめ数々の名作を作った天才調香師だと知る。4年前に突然嗅覚障害に陥り、地位も名声も失い、嗅覚を取り戻すも、今は地味な仕事のみを請け負っているのだ。心を閉ざし、人との関わりを持たずにいるアンヌに、率直にものを言うギョーム。心をほだされ、アンヌは再び香水を作りたいと願うようになるが、また嗅覚を失ってしまう・・・
これまで全く違う世界で暮らしてきたアンヌとギョームの出会い。挫折して、心を閉ざしてきたアンヌが、また挑戦してみようという気持ちになったのは、ギョームのちょっとした言葉でした。ギョームもまた、アンヌから娘との関係のことで良いヒントをもらいます。私たちの人生にも、そんな出会いの積み重ねがあることを思い起こさせてくれます。
それにしても、香水調香師という仕事、嗅覚を失うというのは致命傷ですね。 『パフューム ある人殺しの物語』は、2007年製作のドイツ映画ですが、やはりパリを舞台にした超人的な嗅覚を持つ男が香水調香師に弟子入りするという話でした。香水というとフランスというイメージがあります。日本人はどちらかというと、無臭が好みではないでしょうか。自分の匂い(臭い!)を消してくれるようなものがあればと思うほど! と、余計なことを思ってしまいましたが、本作、エマニュエル・ドゥヴォスとグレゴリー・モンテルのかもし出す匂いがなんとも素敵です。(咲)
大人になり切れない男と女が出会う。互いに相手に欠けているものを補ってあげることで、それぞれが今までの自分の生き方を見つめ直す。そして新しい一歩を踏み出していく。いくつになっても人生はリセットできることを改めて感じさせてくれる作品です。下手に恋愛を絡ませずにハッピーエンドに繋げた監督の演出は幅広い層に共感を呼ぶのではないでしょうか。
ところで、アンヌの仕事が興味深いです。調香師の仕事は香水などの香りを作ることだと思っていましたが、アンヌはさまざまな場面で香りを変えて異臭を消す依頼を受けていました。もしかすると私たちの生活のすぐそばにも、アンヌのようなプロフェッショナルの仕事によって心地いいものに変えられているものがあるのかもしれませんね。(堀)
2019年/フランス/フランス語/101分/シネスコサイズ
配給:アットエンタテインメント
公式サイト:http://parfums-movie.com/
★2021年1月15日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開