2021年01月03日
ウォーデン 消えた死刑囚 原題: Sorkhpust. 英題:The Warden
監督・脚本:ニマ・ジャウィディ
音楽. ラミン・コーシャ
出演:ナヴィッド・モハマドザデー(『ジャスト6.5 闘いの証』)、パリナーズ・イサドヤール
1966年、イラン南部の空港近くにある刑務所。ファラ王妃の視察までに滑走路の整備をしなくてはならず、立ち退くことになる。所長のヤヘド少佐は、囚人たち832人を新しい刑務所へ移送する任務を負う。雨の降る中、最後の点検をしている彼のもとに、モダッベル大佐がやってきて、警察署長に推薦したと言われる。思わぬ昇進に小躍りするヤヘドのところに、一人の死刑囚が行方不明との報告が届く。失態をしでかしては昇進もふいになる。刑務所から脱走するのはあり得ないと、ヤヘドは所内をくまなく捜索する。事情を聴くために死刑囚を担当していたソーシャルワーカーを呼び寄せる。美しく聡明な彼女は、行方不明の死刑囚アフマドは、肌が赤いので「赤肌(原題のSorkhpust)」と呼ばれていて、地主を殺したのは濡れ衣だという・・・
冒頭、雨が降りしきる中、死刑台を移設するために掘り起こしている場面が映し出されます。絞首刑なのは、革命前も今も変わらないと、今回同時公開される『ジャスト6.5 闘いの証』の死刑の場面を思い出します。
その『ジャスト6.5 闘いの証』で、麻薬王を演じたナヴィッド・モハマドザデー(注:本来の発音だとモハンマドザーデが近いです)が、本作では落ち着いた中年の少佐役。実年齢は30代前半ですが、本作は実話に基づくもので、少し老けた役。雰囲気も全く違うので、言われなければ同じ役者だと気がつかないかもしれません。警察署長に推薦されたと聞いて、大佐に出すソーハーン(クッキーのようなお菓子)を探しに裏手にいって、小躍りする姿が実に可愛いです。ネクタイ姿がダンディですが、このネクタイ、革命後のイスラーム政権下の公務員は御法度です。
革命前の話なので、このほかにも随所に工夫が見られます。所長の部屋にはパーレビー国王の写真。女性は現政権下では映画であっても頭は何かで被ってなければいけないので帽子をかぶっています。でも、スカート丈は当時の膝丈。厚いタイツで素足を隠しているのでOKなのでしょうか。村の女性はチャードル姿なので問題なし。革命前も信心深い女性たちはチャードルでちゃんと全身を被っていました。
なお、刑務所で作業している男性たちが、シャルワル・カミーズ(長い上着にぶかぶかのズボン)姿で、場所がパキスタンに近いバローチスタン州らしいとわかります。
死刑囚はいったいどこに消えてしまったのか・・・ 撤退の時間までに死刑囚は見つかるのか・・・ そんな事態なのに、少佐はソーシャルワーカーの彼女に、ほのかに心動かし、それがまた結末を素敵にしているという、なんとも心憎い話です。少佐が好んでかけるレコードから流れる「ある夜のこと~♪」の歌が、とてもロマンチックに響きます。
ニマ・ジャウィディ監督は1980年生まれ。初長編『メルボルン』(2014)が東京国際映画祭で上映された折にインタビューしています。シネマジャーナル92号に掲載。
(上映後のQ&A ニマ・ジャウィディ監督 右:通訳のショーレ・ゴルパリアンさん)
今作ではイラン映画批評家&脚本家賞で作品賞・監督賞・脚本賞など主要部門を受賞。
イラン期待の監督の一人です。
あと、モダッベル大佐を演じているのがマニ・ハギギさんで、『彼女が消えた浜辺』の時と比べて、ぐっと貫禄がついてびっくりでした。
写真は、2006年にマニ・ハギギさん監督&出演作『メン・アット・ワーク』が東京フィルメックスで上映された時のもの。若いです・・・
(咲)
刑務所所長ヤヘド少佐と脱走した死刑囚との息詰まるような駆け引きかと思って見始めたのですが、死刑囚はなかなか出てこない。いえ、ヤヘドが見つけられないというのではなく、スクリーンに登場さえしないのです。この刑務所内に本当に隠れているのか、すでに外に逃亡したのか。出世を控え、ヤヘドは失敗が許されません。そんなところにきた、死刑囚を担当していたソーシャルワーカーが美人だったから大変です。彼女の前ではカッコつけたい。いろいろな意味での焦りや苛立ちが本作の見どころです。こんな非常時にもおしゃれにも気遣うヤヘドをナヴィッド・モハマドザデーがダンディに演じていました。彼の美的な魅力は『ジャスト6.5 闘いの証』よりも本作の方が楽しめると思います。(堀)
イラン2大傑作犯罪映画 同時上映!
『ジャスト6.5 闘いの証』&『ウォーデン 消えた死刑囚』
2019年/イラン/BD/90分
配給:オンリー・ハーツ
後援:駐日イラン大使館文化参事室
公式サイト:http://just6.5andwarden.onlyhearts.co.jp/
★2021年1月16日(土)新宿 K's cinema ほか全国順次ロードショー
ジャスト6.5 闘いの証 原題:metri shesh va nim 英題:Just 6.5
監督:サイード・ルスタイ
音楽:ペイマン・ヤズダニアン
出演:ペイマン・モアディ(『別離』)、ナヴィド・モハマドザデー(『ウォーデン 消えた死刑囚』)、ファルハド・アスラニ
麻薬依存者であふれる大都市テヘラン。
麻薬撲滅警察特別チームのサマド(ペイマン・モアディ)は、末端の売人たちを検挙する。多くはホームレスや貧しい者たちだ。やがて、元締めがナセル・ハクザド(ナヴィド・モハマドザデー)だと突き止める。彼が潜む贅を尽くしたホテルのペントハウスに検挙しに行くが、ナセルは自殺を図っていた・・・
家庭に問題を抱えた麻薬捜査官が、貧しい家から這い上がって麻薬王となった男を問い詰める・・・ 息もつかせぬスピーディな転回。そんな中で、麻薬捜査官、麻薬王、そして末端の貧しい売人、それぞれの家族のことも丁寧に描いています。
タイトルにある6.5は、麻薬捜査官が「僕が警察に入った頃は、100万人だった麻薬中毒者が、今や650万人で、6.5倍になった」と嘆く言葉に由来しています。イランの人口が、約8000万人ですから、1割弱。
イランで大ヒットした娯楽大作ですが、イランの抱える社会問題をしっかり訴えています。イランが家族の絆の強い社会であることも垣間見れます。とにかく面白い! (咲)
2019年の東京国際映画祭コンペティション部門で、最優秀監督賞と最優秀男優賞をダブル受賞。
東京国際映画祭『ジャスト 6.5』 2019年11月2日 記者会見 及び Q&A(咲)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/471578510.html
サイード・ルスタイ監督(左)と、麻薬王を演じたナヴィド・モハマドザデーさん(右)にインタビュー。二人は大学時代からの親友。インタビュー中もじゃれあう息の合う二人でした。(景山咲子)
2019年のTIFFの最終日近くなってからEXシアターで観ました。コンペ作品1本目でしたが、映像、俳優、テンポ…とにかく迫力満点の作品で、観終わって「これは受賞する!」と思ったものです。終了後サイード・ルスタイ監督(まだ30歳でした)と麻薬で成り上がったナセル役のナヴィド・モハマドザデー(余裕しゃくしゃく)のQ&Aを聞きました。あの膨大な台詞を俳優にあて書きしたそうです。すごく説得力があったのはそういうことかと納得です。
『別離』でも主演だったサマド刑事役のベイマン・モアディからはビデオメッセージが届き「撮影のために来日できず残念」とのこと、こちらも残念でした。やっと公開になります。ぜひご覧ください。(白)
こんなイラン映画、初めて観た。これまで日本に入ってきたイラン映画は文芸的なもの、前衛的なもの、社会派的なもの、芸術的なものがほとんどだったけど、犯罪もの、エンターティメント的なものはほとんどなかった気がする。やっぱりイランでも一般の観客はこういう作品を観ているのですよね?(暁)
イラン国内における麻薬事情に驚くとともに、警察内部の状況にも唖然としてしまいました。コロナ禍では考えられないような過密な留置所。いえ、コロナ禍でなくてもこれはダメでしょう。座ることもままならないほど容疑者が詰め込まれていました。麻薬犯罪撲滅のためとはいえ、イランにおける人権意識の低さを強烈に印象付けられました。この状況って本当なんでしょうか!
さらに麻薬撲滅警察特別チームのサマドたちも互いに信頼関係を築けていません。油断すると足元をすくわれ、犯罪者の方に追いやられます。誰もが生き残るために必死にもがいています。最後までどうなるのか、予想ができず、ハラハラドキドキの連続です。(堀)
イラン2大傑作犯罪映画 同時上映!
『ジャスト6.5 闘いの証』&『ウォーデン 消えた死刑囚』
2019年/イラン/ペルシア語/134分/カラー
配給:オンリー・ハーツ
後援:駐日イラン大使館文化参事室
公式サイト:http://just6.5andwarden.onlyhearts.co.jp/
★2021年1月16日(土)新宿 K's cinema ほか全国順次ロードショー
『ジャスト6.5 闘いの証』&『ウォーデン 消えた死刑囚』
2019年/イラン/ペルシア語/134分/カラー
配給:オンリー・ハーツ
後援:駐日イラン大使館文化参事室
公式サイト:http://just6.5andwarden.onlyhearts.co.jp/
★2021年1月16日(土)新宿 K's cinema ほか全国順次ロードショー