2021年01月30日
空蝉の森
監督:亀井亨
脚本:亀井亨 相原かさね
音楽:野中“まさ”雄一 撮影:中尾正人 照明:赤津淳一
録音:甲斐田哲也 美術:山崎輝 助監督:島田明美 制作担当:青木啓二
制作協力:株式会社NBI
製作:山本風彬 吉井盛治
プロデューサー:太田裕輝 アソシエイト・プロデューサー:伊与木敏郎
主題歌:「OK」大黒摩季(Being)
出演:酒井法子 斎藤歩 金山一彦 池田努 長澤奈央 角替和枝 西岡德馬 柄本明
海辺の町。裸足で歩く女性を警察が保護して家に送り届ける。3か月前に失踪し突然戻った妻・結子(酒井法子)を、夫・昭彦(斎藤歩)は「別人」だと主張する。あと数日で退職する失踪課の假屋警部(柄本明)は、新人刑事に「あの家の防犯カメラは、外向きでなく内側向きだ」と指摘する。結子は夫の精神カウンセラー・山井(西岡德馬)に、「夫は祖父の遺産をもらえなくなるから、私が戻ってきたら困るはず」と相談する。結子の前に夫の女(長澤奈央)が現れる。一方、失踪者を調べるのが趣味のフリージャーナリスト・青柳(金山一彦)は、島で民宿を営む佐藤(角替和枝)に会いに行く。失踪して3か月後に現れた結子は、いったい何者なのか・・・
冒頭、森の中で穴を掘る人の姿。意味深です。
失踪3か月後に戻った妻を、夫は何をもって別人だと主張するのか・・・
大事件を担当することもなく警察の職務を全うする直前の假屋警部が、思いもかけず鋭い観察眼をもっている姿を柄本明がひょうひょうと演じています。
はたして、家の中を映し出す防犯カメラに映っているものは?
2014年に撮影された酒井法子の幻の主演作が、様々な障害を乗り越え、遂に公開です。
エンドロールの最後に、「監督:亀井亨」と映し出されたあとに、酒井法子が静かに舞う妖艶な姿が見られます。どうぞ最後まで席を立たないでご覧ください。(咲)
2016年/日本/カラー/シネスコ/5.1ch/DCP/118分
配給・宣伝:NBI 協力:アルミード
公式サイト:https://utsuseminomori.com/
★2021年2月5日(金)よりアップリンク渋谷ほかにてロードショー
傍観者あるいは偶然のテロリスト
シネマハウス大塚第1回作品
2018年に大塚にできた小さな映画館「シネマハウス大塚」の設立メンバーで館長を務める後藤和夫氏がイスラエルによるパレスチナ占領と抑圧の現実を撮った映画『傍観者あるいは偶然のテロリスト』。
昨年、5月以来、シネマハウス大塚で上映されてきましたが、続映が決まりました。
◆パレスチナ情勢を考えるー『傍観者あるいは偶然のテロリスト』再上映
2021年7月10日(土)、7月17日(土)
両日ともに14:00から映画上映(118分)、16:00からトークイベント
【料金】1300円均一。トーク参加のみ500円。
トークゲスト
◎在日イスラエル人 ダニー・ネフセタイ氏
「なぜイスラエルはパレスチナの独立を認めないのか」を解説。
*イスラエル生まれで軍隊経験のあるイスラエル人ながら、自国の在り方を厳しく批判している。
◎パレスチナを支援する国際NGOスタッフによる「現地報告、支援の在り方」質疑応答を含め語り合う。―日本国際ボランティアセンタースタッフ。
『傍観者あるいは偶然のテロリスト』
監督, 脚本, 主演 : 後藤和夫
68歳の映像作家でありジャーナリストである後藤和夫。
映画館を作ったから映画も作りたいとシナリオを書いた。
『偶然のテロリスト』。
よく知る日本人ジャーナリストがイスラエルで自爆テロ。
あの青年がそんなことをするはずはない。彼の足跡をたどる旅に出る・・・
シナリオにリアリティはあるのか?
2020年春、後藤は、かつて取材で訪れたパレスチナにロケハンを兼ねて赴く。
初めて訪れたのは、2000年11月。9月に右派リクードのシャロンがパレスチナの聖地を強行訪問。進んでいた和平合意が崩れ去り、パレスチナ人が一斉蜂起した第二次インティファーダの真っただ中だった。
あれから20年。パレスチナはどう変わったのか?
かつて会った若者たちは、今、何を語るのか?
ベツレヘム、エルサレム、ヨルダン川西岸、ガザ・・・
2000年代初頭の数年に訪れた各地での取材映像と、2020年再訪時の映像が交錯する・・・
☆予告編 https://youtu.be/jyaFl2qAoWs
20年前のパレスチナには、まだ分離壁はないけれど、パレスチナの民衆蜂起をイスラエルが武力で徹底的に抑え込む姿が生々しく映し出され、胸が苦しくなりました。
私がイスラエルを訪れたのは、1991年の春。和平への希望が少し感じられた時代でした。それでも、ヨルダン川西岸のジェリコ近くでは戦車を見かけたし、エルサレムのアルアクサーモスクでは、血のついた少年たちのTシャツがいくつも掲げられていて、抵抗の実態を見せつけられました。とはいえ、これほどまでに希望のない事態になるとは思ってもみませんでした。
そして、今。 ガザは2005年にイスラエルが撤退して以来、町ごと封鎖され、200万人もの人たちが、天井のない監獄状態の中で、仕事もなく貧困にあえいでいます。
ファタハの支配するヨルダン川西岸は、一見平和に思えるかもしれないけれど、戦争もないが平和もない状態だと、住む人は語ります。
占領状態しか知らない子どもたちは、それでもパレスチナが好きと言い、イスラエル軍に向けて石を投げます。投げてもどうしようもないけれど、抵抗の証として投げ続ける姿に涙が出ます。
後藤さんが最後に問います。
ホロコーストを経験し苦難を背負ったユダヤ人たちが、同じようなことをなぜパレスチナ人に行うことができるのだろう。世界に住むイスラエル人でないユダヤ人たちはどう思っているのだろう。
戦後、ドイツ人はなぜ傍観者でいられた?と問われた。
いつか、あの時、なぜ傍観者でいられたと問われる日が来るのではないだろうか。
まさに傍観者でしかない私ですが、せめてパレスチナのおかれている実態を知ろうとしてほしいと呼びかけることで許してください。そのためにも、本作をぜひ多くの方にご覧いただけることを願っています。(咲)
★ガザの状況については、下記も参考にしてください。
イスラーム映画祭5 『ガザ・サーフ・クラブ』 3/14トーク 岡真理さん(咲)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/474101448.html
天井のない監獄ガザから来日した3人の画家 (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/464639114.html
2020年製作/119分/日本
制作 : Cool Hand Production
配給 : シネマハウス大塚http://cinemahouseotsuka.com/
公式HPhttps://nipponpopkyo.wixsite.com/palestine
★2020年6月13日からシネマハウス大塚にて本公開スタート
2021年01月29日
ダニエル(原題:Daniel Isn't Real)
監督・脚本:アダム・エジプト・モーティマー
脚本:ブライアン・デリュー
製作:イライジャ・ウッド
音楽:Clark
出演:マイルズ・ロビンス(ルーク)、パトリック・シュワルツェネッガー(ダニエル)、サッシャ・レイン(キャシー)、ハンナ・マークス(ソフィ)
ルークは子どもの頃両親が離婚。母親と孤独な日々を送っていた。その心の隙間を埋めるのは、ルークにしか見えない空想上の親友ダニエルだった。彼と一緒にいると、寂しさも不安もなかった。しかし、ある事件をきっかけに、ルークはダニエルの存在を封印した。大学生になったルークは、今も周囲に馴染めず一人きり。そのうえ精神不安定だった母の病状が進み、自分も母のようになるのではと不安にかられている。カウンセラーと話して封印していたダニエルを思い出し、呼び起こしてしまう。ダニエルは成長して、怪しい魅力のある美青年の姿で現れた。彼の助言に従ったルークの生活はそれまでと様変わりし、何もかも順調にいく。キャシーとも仲良くなれて自信を得たルークは、支配的になるダニエルから離れようと試みる。ダニエルはそれを許さず、ますますルークを翻弄する。
ポスターのこのイケメンは誰?と思ったでしょう?主人公ルークはティム・ロビンス&スーザン・サランドンの息子マイルズ・ロビンス。イマジナリー・フレンドのダニエルはアーノルド・シュワルツェネッガーの息子パトリック・シュワルツェネッガーです。父親に似て、よりハンサムです。大スター2世同士の初共演となりました。
ルークが子どもの頃起きた銃乱射事件での現場シーン。黄色のテープを張り巡らしていますが、道路に向かって倒れている遺体はそのまま。野次馬の中に小さなルークがいるのが異様です(隣にダニエルがいて「遊ぼう」とルークに声をかける)。日本では事件現場はすぐにブルーシートで囲われ、中を見ることなどありませんからこのシーンにぎょっとしました。
ダニエルは初めこそルークの欲求をかなえ、自信を持たせてくれるのですが、次第に心や身体を支配していきます。自分の想像から出たものなら、また消すことができるはずと抗うルークが痛々しいです。邪悪になっていくダニエル、2つに引き割かれそうなルーク(演じ分けるマイケル上手い!)、二人の熱演と視覚効果に注目を。
アダム・エジプト・モーティマー監督の長編3作目ですが、前2作がホラーだったので未見です。監督にも子どものころイマジナリー・フレンドがいたそうです。大きくなると自然にいなくなるんでしょうか?(白)
ダニエルは、ルークが小さいころ孤独だった頃の空想上の親友。大学生になって、寂しさを感じた時にダニエルはまた現れるのですが、ちゃんと一緒に年を取っています。ダニエルをシュワちゃんの息子が演じていることに何よりそそられます。ルークを演じたマイルズ・ロビンスもさすがの血筋。
本作を観て、頭をよぎったのは大九明子監督の『私をくいとめて』。こちらはヒロインみつ子の脳内に相談役の「A」がいるという設定。みつ子の分身でもあるのですが、姿が現れたときに男性だったので、思わず笑ってしまいました。
『ジョジョ・ラビット』では、やはり孤独な10歳の少年ジョジョに空想の友人がいて、なんとアドルフ・ヒトラー! タイカ・ワイティティ監督自身がアドルフを演じていました。
10代の頃に夢中になって読んだ「アンネの日記」でも、アンネが日記帳を「キティー」と名づけて、キティー宛に手紙を書いていたのを思い出しました。
私には空想の友はいないけれど、心の支えにしている人もいそうです。本作では、空想の友であるはずのダニエルが、だんだん存在感を増してきます。ダニエルはいったい何者?? (咲)
ブロマンスという言葉をご存知ですか? 「男性同士の親密で精神的な繋がりを指す」とピクシブ百科事典では説明されていて、兄弟(brother)とロマンス(romance)の合成語だそうです。まさしくルークとダニエルの関係ですね。ただし、この2人はイマジナリーフレンド。ダニエルは実在する存在ではありません。そしてイマジナリーフレンドは精神医学の名称ではなく、「一般的には多重人格とか解離症状と表現され、世の中にもイマジナリーフレンドを持つ人はたくさんいる」と先日行われた『ダニエル』のトークイベントに登壇した精神科医・名越康文氏は解説していました。さらに、幼いルークが母親に命じられダニエルを城に閉じ込めるシーンについて、「心理学的には見事に正しい指標です。例えば、何か怖い思い出があったとしたら、何かに閉じ込めようと気持ちを誘導したりすることが大事なんですね。馬鹿げているように見えるかもしれませんが、意外と効いたりするんです」と解説しました。
本作は大学生になり、帰省したときにかつて封印したダニエルを解放してしまったルークの内面の葛藤を視覚的に描いているのですが、描き方がとにかく妖しい!見ているこちらまでダニエルに惑わされてしまいそう。アーノルド・シュワルツェネッガーの息子にこんなにまでの色香があるとは! またルーク本人のときとダニエルに体を乗っ取られたときを見事に演じ分けたマイルズ・ロビンスが素晴らしい。初主演映画にして高い評価を集め、第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭で男優賞を受賞しました。
さて、ルークはダニエルを再び封印することができるでしょうか?(堀)
2018年/カラー/アメリカ/99分/R15+
配給:フラッグ
(C)2019 DANIEL FILM INC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://danielmovie.jp/
★2021年2月5日(金)ロードショー
哀愁しんでれら
監督・脚本:渡部亮平
撮影:吉田明義
音楽:フジモトヨシタカ
出演:土屋太鳳(福浦小春)、 田中圭(泉澤大悟)、COCO(泉澤ヒカリ)、石橋凌(福浦正明)、 山田杏奈(福浦千夏)、銀粉蝶(泉澤美智代) 他
福浦小春26歳。家族は自転車屋を営む父と妹と祖父。母は10歳の小春と小さな妹を置いて出ていってしまった。児童相談所に勤める今も、責任を果たさない親を許せない。
ある晩祖父が風呂場で倒れたのをきっかけに、ドミノ倒しのように一家は不幸に見舞われる。長年の彼氏と別れた小春は、たまたま出逢った泥酔した男性を助けて名刺を受け取った。” 泉澤医院院長 泉澤大悟”とあり、「白馬の王子様より外車に乗った開業医を逃がすな」と友人にはっぱをかけられる。小春は大悟と交際を始め、裕福で優しい彼に夢中になる。大悟はバツイチ、小春が愛娘のヒカリとあっというまに仲良くなったのを喜び、プロポーズする。小春は家族にも受けがよい大悟と結婚し、それまでの不運が帳消しになるほど幸せだった。
ドレスにハイヒールの小春が、教室の机の上を歩く映像が逆さまからゆっくりと回るタイトルロール。これからの小春を予感させます。これまで元気いっぱいの女の子役が多かった土屋太鳳さんが、母親に捨てられたトラウマを抱えて「自分はあんな親にはなりたくない=いい母親になりたい」と頑張る小春を演じています。一方の田中圭さんもいい人役が多いですが、今回は隠れた闇がにじみ出てくる大悟。二人ともこれまでの印象を覆す挑戦をしたようです。
それにもまして驚いたのが、大悟の一人娘ヒカリを演じたCOCOさん(2010年生まれ)です。初演技だというのに、この余裕はなんでしょう?プロフィールを見るとinstagramでフォロワーが63万人もいるファッショニスタ。4歳からカメラの前にCOCOとして立っていたのでした。納得。
異様さに気付きながら誰にも打ち明けなかった小春の中にも小さいながらいびつな空間があり、その親和性が大悟と結婚したことでさらに増幅してしまったのかも。夢落ちであってくれと思ったほど、後半の展開は衝撃。
渡部亮平監督は2010年に脚本家としてデビュー。『3月のライオン』脚本(2017)『ビブリア古書堂の事件手帖』(2018)などの脚本を手掛けています。本作は”TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2016”で グランプリを受賞して、初の長編監督作品となりました。(白)
シンデレラは結婚した後、どうなったのか? こんな疑問を出発点に書かれたオリジナル脚本です。
開業医との玉の輿に乗った小春ですが、相手には小学生の娘がいました。いきなり母親になることが求められたのです。小春も大悟も母親に対してトラウマを抱えているからでしょうか、いい親にならなくてはいけないというプレッシャーが半端ありません。しかし、物わかりがよく見えた娘が実は本心では受け入れていない。よくある話です。それを乗り越えていこうと小春が奮闘するのですが。。。
親が子どもを信じるってどういうことなのかを深く考えさせられました。特に小春がヒカリにプレゼントした手作りのペンケースをクラスの男子に盗まれたとヒカリが言い出したとき。男の子のお母さんは、息子を連れて謝りに来ました。しかし、息子は「自分はやっていない」と強く主張したのです。親だったら、自分の子どもがやっていないと言うのは信じてあげるべきではないのか? 私ならどうしただろうか?
また、作品にはさまざまな親子が登場しますが、母と子ばかり。大悟とヒカリの関係も本来は父と子ですが、早くに妻(母)を亡くした2人は母と子の関係に限りなく近い。小春と父親の関係もヒカリとの関係に悩む小春に対する父親の対応を見ていると、大らかといえば聞こえはいいですが、放任に近い気もする。小春の母親が家を出た理由もそこにあるのではないかと勘繰ってしまうほど。作品から父親の不在を強烈に感じます。
親になるって本当に難しい。(堀)
2021年/日本/カラー/114分
配給:クロックワークス 宣伝:スキップ
©️2021 『哀愁しんでれら』製作委員会
https://aishu-cinderella.com/
★2021年2月5日(金)全国公開
2021年01月24日
わたしの叔父さん(原題:Onkel)
監督・脚本・撮影・編集フラレ・ピーダセン
出演:イェデ・スナゴー(クリス)、ペーダ・ハンセン・テューセン(叔父さん)、オーレ・キャスパセン(ヨハネス)、トゥーエ・フリスク・ピーダセン(マイク)
デンマークの農村。酪農を営む叔父と親子のように暮らしている27歳のクリス。少し足が不自由な叔父に手を貸しながら、静かな暮らしを続けている。訪ねてくるのは獣医くらい。マイクと出会って、いつもの暮らしにちょっとだけ違う風が吹く。実は獣医になりたかったクリスに、道が開けるチャンスが訪れる。
グランプリを受賞した第32回東京国際映画祭で見逃して残念だったのですが、一般公開が決まりました。ヒロインのイェデ・スナゴーは監督の前作に起用され、今度は主演。監督が彼女をモデルにストーリーを組み立て、取材しているときに本当の叔父であるペーダ・ハンセン・テューセンさんに出会って、叔父役になったのだそうです。映画初出演ですが、姪と自分の農場でいつもの暮らしを再現しているようなものだからか、とっても自然です。北海道を思わせるロケーション、地平線が見える広い広い田舎で、何も大きな事件は起きず、淡々とした毎日の暮らし、特に会話をしなくても通じ合っている二人が映っています。クリスが夢をかなえられる土壌・社会がデンマークに整っていることがとても羨ましいです。(白)
14歳で家族を喪ったクリスは叔父さんに引き取られて育ちました。獣医を目指して進学することが決まっていましたが、叔父さんが倒れて体が不自由に。獣医になるのを諦めて農場に留まり、叔父さんの世話をしながら農場を続けていました。そんなクリスに近所の獣医師がサポートの手を差し伸べます。このまま叔父さんと暮らしていくか、獣医になる夢に向かって一歩を踏み出すか。本作ではクリスが人生の選択に悩む姿が描かれています。コロナ禍で大学の進学を諦める高校生や大学を退学する学生が増えている今、クリスの葛藤に共感する人は多いかもしれません。
監督は小津安二郎に多大な影響を受けていると自ら語っていて、デンマークではローアングルのショットを「オヅ・ショット」というそう。本作はカメラを固定して撮り、マスターショットを多用しており、静謐な絵画のような画が全編に渡って映し出されます。2019年東京国際映画祭 コンペティション部門 東京グランプリと東京都知事賞をW受賞したのも納得。(堀)
TIFF2019にて(宮崎撮影)
2019年/デンマーク/デンマーク語/カラー/DCP/シネスコ(1:2.35)/106分/
字幕翻訳:吉川美奈子/デンマーク語監修:リセ・スコウ
後援:デンマーク王国大使館/
配給・宣伝:マジックアワー
(C)2019 88miles
https://www.magichour.co.jp/ojisan/
★2021年1月29日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次ロードショー
心の傷を癒すということ 劇場版
原作:安克昌「心の傷を癒すということ 神戸…365 日」(作品社)
脚本:桑原亮子
音楽:世武裕子
主題歌:森山直太朗『カク云ウボクモ』(UNIVERSAL MUSIC)
出演:柄本佑、尾野真千子、濱田 岳、森山直太朗、浅香航大、清水くるみ、上川周作、 濱田マリ、谷村美月、石橋 凌、キムラ緑子、近藤正臣 ほか
在日韓国人として大阪に生まれ育ち、自分が何者なのか悩んでいた安和隆(柄本佑)は精神科医の永野良夫(近藤正臣)の著書に感銘を受け、精神科医への道を歩む。ある日、映画館で出会った女性・終子(尾野真千子)と恋に落ち、結婚。温かい家庭を持った和隆は、全国から訪れる患者たちにも温かな眼差しで寄り添い、34歳で医局長となる。
まもなく阪神・淡路大震災が起こり、和隆は避難所で多くの被災者の声に耳を傾け、心の傷に苦しむ人たちに寄り添い続け、「心のケア」に奔走する。精神医療の大切さを改めて実感した和隆は、新聞記者の谷村英人(趙珉和)からの依頼のもと、精神科医としてのエッセイを連載し、それを1 冊の本にまとめた。そんな中、和隆にがんが発覚。がん治療を受けながらも、医師として診療を続けようとした。
2020年1月にNHKで放送されたテレビドラマが劇場版として再編集されて、全国劇場公開されます。テレビドラマは放送文化基金賞(番組部門)・最優秀賞を、主演を務める柄本佑が同賞・演技賞、ギャラクシー賞(テレビ部門)の2020年2月度月間賞などを受賞しました。
モデルとなった精神科医・安克昌さんは阪神・淡路大震災で自らも被災しながら、他の被災者の心のケアに奔走。震災後の心のケアの実践に道筋をつけ、日本におけるPTSD(心的外傷後ストレス障害)研究の先駆者となりました。
作品では主人公の安和隆が精神科医として残した功績だけではなく、自らの出自に悩む姿や彼を支えた家族・友人との強い絆も描かれています。
和隆の妻、終子は被災者の心のケアに奔走する夫をしっかり支えて、1人で家庭を守っているのですが、尾野真千子はこういう役を演じさせると本当にうまい!またそんな終子を思いやる和隆。2人の愛は涙無くして見られません。
ガンがかなり進行した頃、幼い頃からの親友である湯浅に誘われてジャズのコンサートに行くのですが、そのシーンもハンカチが必須。湯浅を演じた濱田岳の表情を思い出すと今でも涙があふれてきてしまいます。
安さんが実現を願った「傷つきに優しい社会」。コロナ禍の今だからこそ、安さんの願いが叶ってほしいと思わずにはいられません。(堀)
テレビドラマだったのを知らず、放映時見逃していました。今回の映画版をやっと観て、俳優陣の好演に泣かされました。柄本祐さんの患者の心に寄り添おうとする精神科医は、ほんとに誠実で頼りがいがあって私にも「名医に見えます」。自分を二の次にして奔走したことが、病気を重くしてしまったとしたらお気の毒でなりません。学生時代からの親友とのやりとりは、やはりガンで逝った旧友を思い出して号泣でした。残された者は、あれもこれもと悔やむことが多いですが、すべきことをし終えて「ちょっとお先に」と出かけたんだと思うことにしました。安先生の残した足跡は大きく、これを大切に継ぐ方々がきっと出ると信じます。(白)
2020年/116分/G/日本
配給:ギャガ
©映画「心の傷を癒すということ」製作委員会
公式サイト:https://gaga.ne.jp/kokoro/
★2021年1月29日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
2月12日(金)シネ・リーブル梅田、京都シネマ、OS シネマズミント神戸、シネ・リーブル神戸 ほか
2021年01月23日
プラットフォーム(原題:El Hoyo/英題:The Platform)
監督:ガルダー・ガステル=ウルティア
出演:イバン・マサゲ(ゴレン)、『パンズ・ラビリンス』『ミリオネア・ドッグ』「わが家へようこそ」、アントニア・サン・フアン
ゴレンは禁煙するために「穴」と呼ばれる「VSC/垂直自主管理センター」に入った。携帯品は一つだけ、6ヶ月の間に読み終わるように「ドン・キホーテ」の本を持ち込んだ。ガスで眠らされて目覚めると老人が自分を見つめていた。ベッドと洗面、トイレのほか何もない部屋で、床と天井に大きな四角い穴が開いている。詳しいことを知らされなかったゴレンに、老人は決まりごとをいくつか教えてくれた。老人は長い間ここにいて、下層の悲惨さを知りつくしている。自分たちがいる48階は良い階だと言うが、ゴレンは食べ散らかされた残り物を口にできない。
ルール1:一ヶ月ごとに階層が入れ替わる
ルール2:何か一つだけ建物内に持ち込める
ルール3:食事が摂れるのはプラットフォームが自分の階層にある間だけ
1日1度、上の階の残り物が載ったプラットフォームが下りてくる。最下層まで行くと凄いスピードで上がって戻る。食べて生き残ることしかすることがない。知るにつけ、とんでもない場所だとわかるが、途中で出ることはできないしくみだった。
縦構造になった階級社会を描く SF サスペンス・スリラー。よくこんなことを思いつくね、と呆れると同時に感心してしまいました。ガルダー・ガステル=ウルティアの長編初監督作品です。
ホテルの厨房かと見まがうところで、責任者らしい男性が厳しくチェックし、味や見た目はもとより髪の毛1本も見逃しません。それでも0階のプラットフォームに美しく盛られた食事がどうなるのかは、作り手の知るところではなく、知ろうとさえ思わないのかもしれません。
考えてみればわずかな食糧を奪い合っているのは、現実世界でも同じです。現実では階層が産まれながらに決まったり、努力次第で変えられることがあります。「穴」ではどこにいようと、1ヶ月経てば必ず移動するというところが異なります。
「奪い合えば足りず、分け合えば余る」という言葉がありますが、全員に行き渡るだけの食糧があっても下層まで届きません。たとえ下層で苦労しても、上層に移ればこのときとばかり幸運を貪り、分け合うことなど考えません。人間のイヤな部分がこれでもかとばかりにさらされます。そうしないと生き残れないので、ヘタレな私なら早々に脱落です。
豊かな国ではあり余り、廃棄される食品があっても、食べられない人には回っていかないドキュメンタリーを思い出しました。(白)
受賞歴
2019 トロント国際映画祭(ミッドナイトマッドネス部門):観客賞受賞
2019 シッチェス・カタロニア国際映画祭:最優秀作品賞、視覚効果賞、新進監督賞、観客賞受賞
2020 ゴヤ賞:特殊効果賞受賞
階級社会をデフォルメして描いている作品で、窓がなくて暗く汚い部屋、上から下りてくる残飯などが全体的にダークな印象を与えています。時折、目を覆いたくなるシーンも。この作品はホラーなのか、サスペンスなのか。情報が少ないゆえ主人公の先行きが気になって、なぜか目が離せません。
不条理な状況に立ち向かおうとする人も出てきますが、うまくいきません。彼らはヒーローではなく、むしろ人間としての矮小さが際立って感じられてしまいます。彼らに共感するか、どうかで見ている人の社会性が問われているような気がします。(堀)
2019年/スペイン/カラー/シネスコ/94分/R15+
配給:クロックワークス
(C)BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE
http://klockworx-v.com/platform/
★2021年1月29日(金)劇場公開
ヤクザと家族 The Family
監督・脚本:藤井道人
撮影:今村圭佑
音楽:岩代太郎
主題歌:millennium parade「FAMILIA」
出演:綾野剛(山本賢治)、舘ひろし(柴咲博)、尾野真千子(工藤由香)、北村有起哉(中村)、市原隼人(細野)、 寺島しのぶ(木村愛子)、 岩松了(大迫刑事)、豊原功補(加藤正敏)、菅田俊(竹田)、康すおん(豊島)、二ノ宮隆太郎(大原)、 磯村勇斗(木村翼)
1999年。山本賢治は父親が覚せい剤中毒死し、身寄りがなくなった。悪友の細野や大原とつるむうち、たまたま柴咲組の組長が襲われたところを救う。密売人からクスリを横取りした賢治たちは、侠葉会に捕まって袋叩きに遭ってしまった。柴崎の名刺を持っていたことで命拾いし、賢治は目をかけてくれた柴咲の盃を受け、家族の一員となった。
2005年。賢治はいっぱしのヤクザとして頭角を現し、ホステスの由香と出会った賢治は安らぎを得ていた。しかし因縁の侠葉会と柴咲組の争いは激化、一触即発の危機にあった。狙われた柴咲は賢治の機転で助かるも、大原が死亡。警察の介入で動きを封じられるが、納得できない賢治は一人侠葉会へと向かう。
2019年。14年ぶりに柴咲組に戻った賢治は、激変した世の中に驚く。由香とようやく再会できたのだが…。
2019年『新聞記者』で注目を浴びた藤井道人監督のオリジナル脚本。昔ながらの義理と人情を重んじる侠客といった風情の柴咲組に対し、覚せい剤も臓器売買も金になると思えばなんでもありの侠葉会。命のやりとりをしたあげく、暴力団対策法(※)の施行もあって時代の波に取り残されるのは真面目なヤクザのほうでした。
柴崎役の舘ひろしが、居場所がない者を引き受ける度量の広さを見せ、かける声音に情の深さを感じました。突っ張って生きてきた賢治が柴咲を前に手放しで泣くところ、心開いて家族になっていくのにホロリとします。『日本で一番悪い奴ら』(2016)でまるでヤクザのような悪徳警官を演じた綾野剛、作品の味わいも違いますがこちらの一本気な賢治が哀切。助演の俳優陣もぴたりとはまって、新しい仁侠映画を観た気分です。(白)
※ 暴力団対策法:1992年、2012年に施行。暴力団の無力化に大きく役立ち、企業や地域社会への影響力を減じる契機となった。
綾野剛が初めてヤクザ役に挑んだ作品です。やんちゃな19歳からちょっとくたびれた感のある39歳までを演じていますが、違和感がない!本人のやる気が伝わってきますね。アクションシーンもありますが、綾野剛はスタントなしで取り組んでいます。19歳のころ、ヤクザを怒らせてしまうことをやらかし、追い詰められて逃げるシーンでは車に轢かれるところまでご本人が演じました。すごいですよね。
そして『あぶない刑事』などから刑事の印象が強い舘ひろしがヤクザの組長を演じています。綾野剛が演じる山本を息子のようにかわいがるのですが、登場シーンから男気全開の色気オーラが爆発。ヤクザだけれど、こんなお父さんだったらついていきたくなるのも分かる!
山本の兄貴分を演じるのは『新聞記者』から引き続きの北村有起哉。セリフや行動はないけれど、じっと見つめる視線に嫉妬が滲みます。さすがとしかいえません。(堀)
ヤクザは足を洗っても、銀行口座も保険も家も5年経たないとまともに対応してもらえないとのこと。ヤクザと関わった女性もまた大変な人生をおくっている様を、尾野真千子と寺島しのぶが体現していました。尾野真千子演じる由香は、ホステスとして賢治と出会いますが、学費を稼ぐために仕方なく高収入のホステスをしているという風情。大学を出て、手堅く公務員になっています。寺島しのぶ演じる木村愛子は柴咲組の元若頭だった夫を抗争で亡くし、賢治が柴咲組の組長と出会う食堂を健気に切り盛りしています。ヤクザの子として生まれた人生もまた大変なことを、母親として息子を見守っている姿も素敵でした。(咲)
2019年/日本/カラー/シネスコ/110分
配給:スターサンズ/KADOKAWA
(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会
https://yakuzatokazoku.com/
★2021年1月29日(金)より全国公開
出櫃(カミングアウト) 中国 LGBT の叫び
劇場公開 2021年1月23日(土)
K's Cinema 03-3352-2471 ①10:00~ ②11:20~(1日2回上映)
上映情報
監督・編集/房満満(ファン・マンマン)
撮影/楊林
プロデューサー/鐘川崇仁
製作・著作/テムジン 映像提供/NHK
配給/パンドラ
2019年|日本|54分|DCP・Blue-ray|ドキュメンタリー
ありのままの自分を受け入れてほしい
中国に7000万人いると推定される性的マイノリティの人々。『出櫃(カミングアウト)―中国 LGBTの叫び』は、自分のありのままを受け入れてもらいたいと、親と向き合う中国のゲイとレズビアンの若者に密着したドキュメンタリー。
上海で学習塾講師の仕事を持ち、中国・江蘇省で教員資格の認定試験を受けようとしている26歳の谷超(グーチャオ)は、中秋節の帰省を利用し、父親「自分はゲイである」と告白しようと一大決心をする。母の眠る墓で「告白がうまくいくよう」祈ったあと自宅に向かう。
一方、上海に暮らす安安(アンアン)は19歳で母親にカミングアウトしたが、受け入れられないまま32歳になった。両親は幼い頃に離婚し、以来、母親が女手一つで育ててくれた。母親は「娘には自分と違って幸せな家庭を築いて欲しいと切に願い、女性は結婚しないと幸せになれない」思いこんでいる。安安は自分が同性愛者であることを理解して欲しいと何度も話したが、母子は平行線のまま。今はパートナーの丹丹(ダンダン)と暮らしている。安安が30歳を過ぎると母親は「結婚しなければ自殺する」とますます感情的になり、悩んだ安安は性的マイノリティを支援する同性愛者支援団体の支援を得て、改めて母親に受け入れてもらおうとする。古い社会通念が根強く残り同性愛を受け入れがたい親と、葛藤し、壁を乗り越えようとする子供。そんな中国の親子の姿を追ったドキュメンタリー。
「出櫃」は、「クローゼット(蓋がある箱)から出る」というような意味で、カミングアウトのことを指す。
*LGBT(TOKYO RAINBOW PRIDE HPより)
LGBTとは、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつです。
監督は中国出身の房満満(ファン・マンマン)。2009年交換留学で来日。一旦中国に戻ったのち、再来日し、早大大学院でジャーナリズムを学び、現在は番組制作会社「テムジン」に在籍し、主にテレビドキュメンタリーの演出に携わっている。『出櫃(カミングアウト 中国 LGBT の叫び』は2019年2月にNHK「BS1スペシャル」として放送された番組。映画に再編集し「東京ドキュメンタリー映画祭2019」短編部門でグランプリを受賞した。そのほか、現在公開中の『あこがれの空の下 教科書のない小学校の一年』の演出も担当している。
2019年製作/54分/日本
配給:パンドラ
「公開記念トークイベント」(いずれも2回目11:20~の回上映後)
K's Cinema 03-3352-2471
1月23日㊏ 【対 談】阿古智子さん(東京大学教授/現代中国研究)×房満満監督
1月24日㊐ 【トーク】原一男さん(映画監督)
1月30日㊏ 【対 談】杉山文野さん(NPO法人東京レインボープライド共同代表理事)×房満満監督
1月31日㊐ 【対 談】安田菜津紀さん(NPO法人Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)×房満満監督
K's Cinema 03-3352-2471 ①10:00~ ②11:20~(1日2回上映)
上映情報
監督・編集/房満満(ファン・マンマン)
撮影/楊林
プロデューサー/鐘川崇仁
製作・著作/テムジン 映像提供/NHK
配給/パンドラ
2019年|日本|54分|DCP・Blue-ray|ドキュメンタリー
ありのままの自分を受け入れてほしい
中国に7000万人いると推定される性的マイノリティの人々。『出櫃(カミングアウト)―中国 LGBTの叫び』は、自分のありのままを受け入れてもらいたいと、親と向き合う中国のゲイとレズビアンの若者に密着したドキュメンタリー。
上海で学習塾講師の仕事を持ち、中国・江蘇省で教員資格の認定試験を受けようとしている26歳の谷超(グーチャオ)は、中秋節の帰省を利用し、父親「自分はゲイである」と告白しようと一大決心をする。母の眠る墓で「告白がうまくいくよう」祈ったあと自宅に向かう。
一方、上海に暮らす安安(アンアン)は19歳で母親にカミングアウトしたが、受け入れられないまま32歳になった。両親は幼い頃に離婚し、以来、母親が女手一つで育ててくれた。母親は「娘には自分と違って幸せな家庭を築いて欲しいと切に願い、女性は結婚しないと幸せになれない」思いこんでいる。安安は自分が同性愛者であることを理解して欲しいと何度も話したが、母子は平行線のまま。今はパートナーの丹丹(ダンダン)と暮らしている。安安が30歳を過ぎると母親は「結婚しなければ自殺する」とますます感情的になり、悩んだ安安は性的マイノリティを支援する同性愛者支援団体の支援を得て、改めて母親に受け入れてもらおうとする。古い社会通念が根強く残り同性愛を受け入れがたい親と、葛藤し、壁を乗り越えようとする子供。そんな中国の親子の姿を追ったドキュメンタリー。
「出櫃」は、「クローゼット(蓋がある箱)から出る」というような意味で、カミングアウトのことを指す。
*LGBT(TOKYO RAINBOW PRIDE HPより)
LGBTとは、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつです。
監督は中国出身の房満満(ファン・マンマン)。2009年交換留学で来日。一旦中国に戻ったのち、再来日し、早大大学院でジャーナリズムを学び、現在は番組制作会社「テムジン」に在籍し、主にテレビドキュメンタリーの演出に携わっている。『出櫃(カミングアウト 中国 LGBT の叫び』は2019年2月にNHK「BS1スペシャル」として放送された番組。映画に再編集し「東京ドキュメンタリー映画祭2019」短編部門でグランプリを受賞した。そのほか、現在公開中の『あこがれの空の下 教科書のない小学校の一年』の演出も担当している。
2019年製作/54分/日本
配給:パンドラ
「公開記念トークイベント」(いずれも2回目11:20~の回上映後)
K's Cinema 03-3352-2471
1月23日㊏ 【対 談】阿古智子さん(東京大学教授/現代中国研究)×房満満監督
1月24日㊐ 【トーク】原一男さん(映画監督)
1月30日㊏ 【対 談】杉山文野さん(NPO法人東京レインボープライド共同代表理事)×房満満監督
1月31日㊐ 【対 談】安田菜津紀さん(NPO法人Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)×房満満監督
花束みたいな恋をした
監督:土井裕泰
脚本:坂元裕二
主演:菅田将暉 有村架純/清原果耶 細田佳央太/韓英恵 中崎敏 小久保寿人 瀧内公美/森優作 古川琴音 篠原悠伸 八木アリサ/押井守、Awesome City Club PORIN/佐藤寛太 岡部たかし/オダギリジョー/戸田恵子 岩松了 小林薫
東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った 山音麦(菅田将暉)と 八谷絹(有村架純)。好きな音楽や映画が嘘みたいに一緒で、あっという間に恋に落ちた麦と絹は、大学を卒業してフリーターをしながら同棲を始める。近所にお気に入りのパン屋を見つけて、拾った猫に二人で名前をつけて、渋谷パルコが閉店しても、スマスマが最終回を迎えても、日々の現状維持を目標に二人は就職活動を続けるが…。
恋愛は障害があればあるほど盛り上がる。だからでしょうか、ラブストーリーは何かしら枷があるものが多い気がします。例えばどちらかが難病に罹ったり、親が倒れたり。本作は脚本家・坂元裕二が初めて映画に挑んだ、20代の男女が主人公のラブストーリーですが、そういった枷が1つもありません。大学生から社会人へと変化していく5年に渡る日常を淡々と描いています。恋のライバルが登場したり、浮気をしたりすることさえなく、ある意味とてもリアルです。私たちの日常もそうそう事件は起きませんものね。主人公2人を自分にオーバーラップしてしまう人も多いのではないでしょうか。
恋は楽しいときだけでなく、辛く悲しいときもある。2人が紡いだ5年の日々は互いに必要な5年間だったと思えるラストは周りの目を気にせず泣いてください。(堀)
人の数だけある出会いと別れの物語。『花束みたいな恋をした』は、観ていて、誰しもきっと、こんなこともあったと思い出す場面があるのではないでしょうか。キュンと切なくなったり、あの時、なぜムカッときたのかとか・・・ 今となっては、どうして別れてしまったのかと思っても、やり直しはできません。大切な思い出の一つとして、そっと胸にしまって、前進あるのみ♪
脚本を書いた坂元裕二さんは、本作をぜひ中高生に観てほしいと語っています。どんどん恋愛体験してほしいということでしょうか・・・
出会いは明大前駅。飛田給や調布、野川沿いの並木道、多摩川を見晴らせるマンションと、京王線沿線に住む私にはお馴染みの風景が出てきて、ちょっと嬉しい。
そして、二人が観た映画は『希望のかなた』。シェルワン・ハジさん演じるシリア難民の青年がヘルシンキの食堂で皆が見ている中、食事をしている場面。
二人が好む音楽や本や絵も、私には馴染みがないけれど、きっとこれ好き!と、共感する人も多いのではないでしょうか。若い人にはこれからの恋愛のヒントに、老いた人には青春を思い出すひと時に♪ ぜひご覧ください。(咲)
「付き合って5年」はいわゆる”長すぎた春”になるんでしょうか。結婚するには勘違いと勢いが必要ですからね。再会したとき「あ」とか「よっ」と言えるのは傷つけあっての別れではなかったから、いいなぁ。これ。
中で麦と絹がイヤホンを一個ずつ耳にして同じ音楽を聴いているシーンがありました。そこで音楽関係の仕事をしているらしい男性に、「両方で聴いてこその音楽」とこんこんと説明されるのです。これが後で生きてきます。片方ずつで聴いているカップルは意外に多くて、映画の中や巷で見かけるたびにそのシーンを思い出します。(白)
2021年/124分/G/日本
配給:東京テアトル、リトルモア
©2021『花束みたいな恋をした』製作委員会
公式サイト:https://hana-koi.jp/
★2021年1月29日(金)TOHO シネマズ日比谷ほか、全国公開
天国にちがいない(原題:It Must Be Heaven)
監督・脚本・主演:エリア・スレイマン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、タリク・コプティ、アリ・スレイマン
スレイマン監督は新作映画の企画を売り込むため、故郷であるイスラエルのナザレからパリ、ニューヨークへと旅に出る。パリではおしゃれな人々やルーブル美術館、ビクトール広場、ノートルダム聖堂などの美しい街並みに見ほれ、ニューヨークでは映画学校やアラブ・フォーラムに登壇者として招かれる。友人である俳優ガエル・ガルシア・ベルナルの紹介で映画会社のプロデューサーと知り合うが、新作映画の企画は断られてしまう。行く先々で故郷とは全く違う世界を目の当たりにするスレイマン監督。そんな中、思いがけず故郷との類似点を発見する。
エリア・スレイマンが10年ぶりに長編映画のメガホンをとり、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で特別賞と国際映画批評家連盟賞を受賞した作品。
冒頭、儀式を行おうと聖職者を先頭に人々が聖堂に入ろうとしますが、扉が開かず入れません。怒った聖職者は1人で裏口に回り、中にいた人に聖職者らしからぬ暴言と暴力を振るって無理やり扉を開けさせました。コミカルなシーンなのですが、これってもしかするとイスラエルの建国を揶揄しているのもしれません。
このシーン以降はエリア・スレイマン監督が主人公として登場。自宅のベランダから庭を見下ろすと、知らない男が敷地の中に勝手に入って、庭になっているレモンを取っていました。男は「ベルを鳴らしたけれど気がつかなかったみたいだ」と言い訳。その後もちょくちょく来て、自分が収穫するために庭木の手入れを始めました。ここでもやっぱり国への思いを感じます。
その後、主人公はパリ、ニューヨークへと出掛けます。そこで映し出される光景は日本が“富士山芸者の国”と思われているのと同じくらいイメージ先行な感じ。セリフは極力排除し、全編通じてたった1つ。しかし、説明が一切ない分、自由な発想で作品を解釈ができそうな気がします。(堀)
東京フィルメックスでお馴染みのエリア・スレイマン監督。『天国にちがいない』が、2020年の東京フィルメックスでクロージング作品として上映されたほか、エリア・スレイマン監督特集が組まれ、長編デビュー作『消えゆくものたちの年代記』(1996年)をはじめ3本が上映されました。これまでも、生まれ育ったパレスチナの置かれた状況を独特のユーモアで語ってきたスレイマン監督。本作では、パレスチナをテーマにした新作の資金を得ようとパリやニューヨークに赴きますが、パレスチナの問題など、もはや見向きもされません。フィルメックスでの上映後のリモートQ&Aで、「世界全体がパレスチナ化していることを映画で描いています。主人公は天国を探して移動するのですが、世界中どこにも問題がある」と語っていたのが印象的でした。
リモートQ&A報告(作品内容も詳しく記載しています)
人のいないパリの町を戦車が静かに走行する場面があります。(撮影はコロナ禍の前なのに!) すわ、戒厳令?とドキッとします。
夜中に着いたニューヨークでは、人々が皆、銃を抱えています。
タロット占いで「この先、パレスチナはあるのか?」と尋ねると、「必ずやある。ただし我々が生きているうちじゃない」との答え。
スレイマン監督が生きているうちに故郷ナザレで平穏な日々を暮らせることを願うばかりです。(咲)
フィルメックスで観た。スレイマン監督らしく、ユーモアと皮肉に満ちた展開。最初の舞台はナザレなのでしょうか。レモンが庭にある家と隣の家の人が勝手に入ってきてレモンを獲っているシーンからスレイマン監督自身が出てきたのだけど、最初本人とは気がつかなかった。現地の俳優さんだと思って観ていた。このご老人がパリやニューヨークに行くシーンになって、なんでこのパレスチナの老人がパリやニューヨークに行くのかな?と思い、新作映画の資金援助の話をする壇になって、初めてスレイマン監督自身と気がついた(笑)。ずいぶん年をとってしまったなと思った。以前と全然感じが変わっていた。観ている間中、話が全然見えず、何を言いたい映画なんだろうと思っていた(笑)。でも、映画の資金援助の話になって、この映画の話の流れについて納得した。そしてパレスチナの現状と世界のあり方を思った(暁)。
2019年/フランス、カタール、ドイツ、カナダ、トルコ、パレスチナ / 102分
配給:アルバトロスフィルム/クロックワークス
© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION
公式サイト:https://tengoku-chigainai.com/
★2021年1月29日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
2021年01月17日
羊飼いと風船(原題:気球/英題:BALLOON)
監督・脚本:ペマ・ツェテン
出演:ソナム・ワンモ(ドルカル)、ジンバ(タルギェ)、ヤンシクツォ(シャンチュ・ドルマ)
神秘の地・チベットの大草原。牧畜を生業に暮らす祖父、ジンバとドルカル夫婦、3人の息子の三世代の家族。昔ながらの素朴で穏やかな生活を続けてきたが、地方にも近代化の波は静かに押し寄せてきていた。長男は寄宿学校に進み、長い休みのときだけ戻ってくる。働き手の一人だった祖父が亡くなってすぐ、ドルカルの妊娠がわかった。すでに3人子どもがいるうえ、ドルカルの負担が増すばかりと女医は中絶を薦める。しかし、ジンバは祖父が転生してくると高僧に告げられて、それを頑なに信じている。
草原を細長い風船を持って走り回る兄弟。お父さんに叱られています。実は風船でなく、お母さんが寝床に隠してあった避妊具で、これがずっと後々まで大事なアイテムになります。慎み深いお母さんは最後まで名前を口に出しません。
一人っ子政策の中でも、牧畜民は3人まで子どもを持つことが認められているそうです。労働力ということなんでしょう。4人目からは罰金です。子どもたちは学齢期になると街の寄宿学校に入るので、手伝いを期待できず学費もかかります。ちょうど新旧世代の真ん中のジンバとドルカル夫婦は、両方の習慣と時代の流れに挟まって悩みも多くなります。男女分業の家では、たった一人の女性であるドルカルが全ての家事と子育てを引き受けるので、女医さんの説得も最もです。それで結局どうなったかは、映画を観てのお楽しみに。これも受け取り方がそれぞれで、自分の生き方を問われそうです。(白)
まずは兄弟が膨らませて遊んでいる風船の正体に思わず笑ってしまいます。でも3人の子持ちの母親ドルカルにとっては笑いごとではありません。
母親ドルカルの控え目ながらも力強い姿が素敵ですが、出家したドルカルの妹シャンチュ・ドルマのことも印象的です。深く被った独特の帽子で目元を隠していて、神秘的な雰囲気。過去の恋愛沙汰で出家することになったらしく、その相手である先生との再会が本作のもう一つの大事なエピソードになっていて、いったい何があったのか?と興味を惹かれます。
また、音楽をイランのペイマン・ヤズダニアンが担当していることにも注目しました。イラン映画のみならず、ロウ・イエ監督の『天安門、恋人たち』『二重生活』『スプリング・フィーバー』、リー・ユー(李玉)監督の『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』『ロスト・イン・北京』など、中国映画界でもお気に入りの音楽家です。
2019年の第20回東京フィルメックスでは『気球』のタイトルで上映され、最優秀作品賞を受賞。授賞式では、父親役のジンバさんがトロフィーを受け取り、来日出来なかったペマツェテン監督のメッセージをスマホを見ながら読み上げました。
ジンバさんは、11月27日上映後のQ&Aにも登壇しましたが、映画での役柄と違って、とてもシャイな方でした。(咲)
食べていくのがやっとの牧畜生活。3人もの子供がいて、まだ小さく学費もかかる。それなのに避妊に協力的でない夫。妻との思いの差が描かれる。妻の妹はかつて恋人との交際の中で中絶をし(はっきりとは描かれていないがそういうことだと思う)、それを機に尼僧になった? その元恋人が姉の息子の学校の教師になって偶然再会するが、彼は彼女との経験を元に、彼女に断りもなく小説を書いていた。出版した本を渡されるが、ここにも男と女の思いの違いがある。
夫の父が亡くなり、僧が転生を予言する。亡くなった人が転生することを信じる宗教文化が生きている地域。まもなく妊娠がわかるが貧しい生活の中、子供を育てていけるか悩む妻。夫は子の誕生は父の転生と喜ぶが、妻は現実に直面し中絶を決断する。手術台にいる妻のもとに夫と長男が駆けつけ中絶を止めようとする? やめたのかどうかは描かれないが、妻は尼僧の妹とともにお寺参りに行き、街に出かけた夫は子たちとの約束の大きな赤い風船をふたつ買って帰る。しかし、風船は息子たちに渡した途端にひとつは割れ、もうひとつは青空のかなたに飛んで行ってしまう。家族はその行方を追う。問題に直面しながら解決されないこの問題を暗示しているよう。淡々とした草原の暮らしの中で、この夫婦や家族の将来はどうなっていくのだろうと思わせる(暁)。
受賞歴
第76回ヴェネチア国際映画祭Sfera 1932 Award スペシャルメンション
第20回 東京フィルメックス 最優秀作品賞
第23回上海国際映画祭 最優秀監督賞/最優秀脚本賞
2019年/中国/102分/チベット語/ビスタ
配給:ビターズ・エンド
©︎2019 Factory Gate Films. All Rights Reserved.
http://www.bitters.co.jp/hitsujikai/
★2021年 1 月 22 日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
◎「WORLD BREAKFAST ALLDAY」とのコラボドリンクメニュー
「WORLD BREAKFAST ALLDAY」外苑前店・吉祥寺店にて映画公開期間中販売
バター茶 580 円(税別)
温かいお茶にバターとヒマラヤ岩塩を混ぜて飲むチベットでは定番の伝統的なお茶
天空の結婚式 原題:Puoi baciare lo sposo、英題: MY BIG GAY ITALIAN WEDDING
監督・脚本: アレッサンドロ・ジェノヴェージ
出演:ディエゴ・アバタントゥオーノ、モニカ・グェリトーレ、サルヴァトーレ・エスポジト、クリスティアーノ・カッカモ
ベルリン。役者のアントニオは、役者仲間のパオロと一緒に暮らすうちに「人生を共にするなら、この人!」と確信し、遂にプロポーズ。二人の決意は固いが、問題はお互いの親の理解を得ること。パオロはゲイをカミングアウトして以来、ナポリにいる母親と疎遠になっている。まずはアントニオの両親の承諾を得ようと、イタリアの天空の村チヴィタ・ディ・バニョレージョに行くことにする。二人の下宿先の大家の女性ベネデッタや、さらには新しい下宿人のイタリアの中年親爺ドナートまでもが一緒に行くと言い張り、珍道中となる。
アントニオの母アンナは驚きながらも、この村で結婚式を挙げることを条件に認めるが、村長を務める父ロベルトは頑なに拒否する・・・
父ロベルトはよその町の出身だけど、アンナと結婚して村に移り住み、1年前からは村長を務め、積極的に難民を受け入れています。「世界は今、同化に向かっている。どんな人種も受け入れる」と言いながら、我が子の同性婚は受け入れられないのです。
そんな父親に、認めないなら離婚するとまで脅かして、母アンナはウェディング・プランナー(イタリアで今最も人気を集める実在の“カリスマ”ウェディング・プランナー、エンツォ・ミッチョが本人役で登場!)を雇って、最高の結婚式にしようと奮闘します。
ローマの北約120キロに位置する崖の上にそびえる村チヴィタ・ディ・バニョレージョは、『天空の城ラピュタ』(86)のモデルとなったといわれ、映画『ホタルノヒカリ』(12)にも登場した「天空の村」。絶景の地で繰り広げられる抱腹絶倒の物語ですが、寛容とは何かを問い、人権を考えさせてくれる作品になっています。
それにしても、ディエゴ・アバタントゥオーノ演じるアントニオが、実にキュート! 元カノのカミッラならずとも、男に取られたくないっ!! と思ってしまいました。(咲)
*イタリアで、2016年に下院議会で同性カップルの結婚に準ずる権利を認める「シビル・ユニオン」法が可決されたことを受けて、ニューヨークのオフ・ブロードウェイでロングラン上演された大ヒット舞台「My Big Gay Italian Wedding」を、イタリアのコメディ映画界の重鎮アレッサンドロ・ジェノヴェージ監督が映画化。
LGBTのカミングアウトは、友人、社会、会社、学校、仲間などに伝えるのに勇気がいるが、どこの国でも親に伝えるのが一番大変。親にとっては一大事。なかなか理解してくれない親との葛藤が、このところ何本もの映画で描かれている。ここでは父親が絶対受け入れられないと拒否をする。でも母親は最後に受け入れ、さらにはイタリアらしく、ウェディング・プランナーまで雇ってこの絶景の地での結婚式を進める。それにしてもすばらしい景色。まずこのロケーションがあって、それに同性婚を持ってきたといっても過言ではないかも。
私自身は、家制度、結婚制度に疑問があって結婚したいと思ったことがないので、なんで世の中の人はこんなに結婚したがるの?とずっと思ってきたけど、最近は同性婚まで出てきてびっくり。一緒にいたければいれば一緒にいればいいのであって、わざわざ結婚までしたがるということにはちょっと疑問がある。やはり団塊の世代と今の若い世代には、そういう思いに落差があるのかもしれない。ま、結婚したい人はすればとしか言えないけど。
カミングアウトは中国でも深刻なようで、『出櫃(カミングアウト 中国 LGBT の叫び』というドキュメンタリー作品もK's Cinemaなどで1月23日に公開される。これは親にカミングアウトする男性と女性のLGBT二組を追った作品。イタリアより、もっと親との繋がり関係が強く、子供の思いを受け止めがたい親が描かれる。こちらもぜひ観てみてください(暁)。
『出櫃(カミングアウト 中国 LGBT の叫び』公式HP
http://www.pan-dora.co.jp/comingout/
LGBTに関する作品はここ数年ぐっと増え、世間の理解は広まってきました。当然、私も理解ある人間の1人だと自負していました。ところがそんな私自身が最近、身近な人がゲイであると知ってかなりの衝撃を受け、その人を見る目が変わってしまったのです。ゲイであってもなくてもその人はその人であることを頭では分かっているものの、理解と感情は別物でした。この作品で描かれている父親はまさにこの気持ちだったんですね。へぇ~と思って読んでいるあなたも他人事ではないかもしれませんよ!
本作はニューヨークのオフ・ブロードウェイでロングラン上演された大ヒット舞台「My Big Gay Italian Wedding」を原案とし、結婚の自由がテーマですが、美しい風景も大きな見どころ。本作の舞台となったイタリア、ラツィオ州に位置する分離集落「チヴィタ・ディ・バニョレージョ」はイタリア有数の観光地ですが、約300mの狭く急な長い橋を渡る以外アクセス方法はありません。周囲の崖が毎日少しずつ崩れてきているとのことなので、貴重な記録映像の意味もあるといえるでしょう。(堀)
2018年/イタリア/90分/カラー/シネマスコープ/5.1ch /G
配給:ミモザフィルムズ
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
提供:日本イタリア映画社
(C)Copyright 2017 Colorado Film Production C.F.P. Srl
公式サイト :http://tenkuwedding-movie.com/
★2021 年 1 月 22 日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ他にて全国順次公開
越年 Lovers
劇場公開 2021年1月15日 劇場情報
監督・脚本:郭珍弟(グオ・チェンディ)
プロデューサ::片原朋子 吉村和文 饒紫娟 陳世庸
美術:陳炫劭 遠藤雄一郎 VFX:嚴振欽
照明:譚凱富 衣裳指導:黃中觀 宮本まさ江
サウンドデザイン:羅頌策
編集:陳博文
音楽:トマ・フォゲンヌ
原作:岡本かの子「越年 岡本かの子恋愛小説集」(角川文庫)/「老妓抄」(新潮文庫)
出演 役柄(俳優名)
第1部
シャオラン(ヤオ・アイニン)インシューにビンタされた会社員
インシュー(オスカー・チュウ)シャオランをビンタした元同僚
イエナ(レニー・リー)おせっかいなシャオランの同僚
第2部
佐藤寛一(峯田和伸)太郎の幼なじみ
西村碧(橋本マナミ)太郎の恋人
文月(菜葉菜)斎藤先生の娘
太郎(結城貴史)寛一の幼なじみ
第3部
モーリー(ユー・ペイチェン)
チェンナン(ウー・ホインシュウ)
岡本かの子の小説を元に、日本、台湾、マレ ーシアの年越しの風景を舞台に、恋に不器用な3組の男女がが織りなす3つのオムニバス物語。素直になれない風変わりな恋が描かれる。
第1話 台北。会社の帰り、エレベーターに乗ろうとしたら、いきなり同じ会社の男性インシューにビンタされた女性シャオラン(ヤオ・アイニン)。このシーンから始まる。次の日会社に行ったらインシューは前日でやめていた。おせっかいな同僚の女性イエナにあおられ、インシューが住んでいるという迪化街へ二人で探しに行く。なぜ、いきなりビンタをくらったかわからず、会社に訴えるか仕返しするか、二人はインシューを探し歩く。二人はインシューをみつけられるのか。なぜ彼はシャオランをなぐったのか。
第2話 雪の山形が舞台。東京で暮らす寛一の元に親友の太郎から電話があり、故郷の山形に向かう。山形に久しぶりに帰った寛一は幼なじみで初恋相手の碧と数十年ぶりに再会する。斎藤先生の家に幼なじみが集まり新年会。蔵王に行ったり、碧の実家の西村写真館を訪ねたりするが、太郎とは連絡がつかない。山形弁と山形のおいしいものが出てきて、山形県人でなくても郷愁を感じた。太郎は何のために寛一を山形に呼び出したのか。しかし、肝心の太郎はいない。二人の間の進展はあるのか。
第3話 台湾彰化。亡き母が営んでいた食堂を片付けるモーリー。モーリーは片付けながら幼い頃を思い出していた。店には客がいっぱいいて、料理を客に出すのを手伝っていた。彰化は牡蠣の養殖が盛んで、店の自慢料理は牡蠣そうめん。みんなこれを食べていた。チェンナンがやってきて作業を手伝う。水槽には魚がいる。風が強い場所らしい。そして雨まで降ってきた。雨音や雨漏りの中、二人はたわいもない話をする。モーリーは「ここに長くいるつもりはない。この家を売るつもりだから、水槽の魚たちをお願い」と頼む。チェンナンは「本心なのか?」と聞く。そしてトラックで帰っていくのだが…。
恋なのか、そうでないのか、そんな恋心の目覚めのようなものが描かれる。でも、こんな恋があってもいいと思わせてくれる。年越ししたら新しい人生に出会えるかもしれない。
第一話。私にとっては、去年行った台北の迪化街が出てきてびっくり。新型コロナウイルスの影響で海外旅行が制限される直前に台湾に行き、この問屋街にも行った。以前、ここの朝市にも行ったことがある。乾燥海産物がたくさん並んでいた。そして、第一話の伏線に中国の往年の女優・歌手である白光(パイクァン)の映像やマレーシアにある白光の墓地が出てきた。もしかしたら流れていた曲も白光のものだったのかも。調べてみたけど使われた曲の情報はわからずだった。
第二話の舞台は山形で、このところ続けて行っている山形国際ドキュメンタリー映画祭の時に行く場所や食べ物などが出てきてうれしかった。山形駅前、山形交通のバスセンター、霞城公園、蔵王スキー場地蔵岳山頂 樹氷、玉こんにゃくと稲花(いが)餅などなど。しかもこの稲花餅を食べていた喫茶店は、私も入った喫茶店だった。そこで私も稲花餅を食べた(笑)。もっとも、その時期はそこしかやっている店がなかった。それに、渋谷駅のシーンで岡本かの子の息子である岡本太郎の絵が出てきた。そこも、私がいつも通るところ。
第三話に出てくる彰化は行ったことがない場所だったけど、「牡蠣そうめん」がおいしそうだった。食べてみたい。新型コロナ感染の非常事態で、あちこち出かけられないので、旅気分を楽しみながらこの映画を観た。(暁)。
ちなみに2020年最後に観た映画が『越年 Lovers』でした。その時の感想をシネマジャーナルHP スタッフ日記に書いています。
・2020年最後に観た映画『越年 Lovers』と2021年最初に観た映画『きらめく拍手の音』(暁)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/479577610.html
台湾、日本、マレーシアの年越しの風景の中で不器用な3組の男女が織りなす恋物語をオムニバスで綴っています。岡本かの子が80年ほど前に書いた小説「越年」と「家霊」に着想を得た台湾の女性監督・郭珍弟が脚本を書きました。
第1話は男性社員が女性社員を帰りしなに平手打ちすることから話がスタート。好きな子に意地悪をしたくなる男の子心理はいくつになってもかわらないもの? 女性には理解できませんね。
第2話は深々と降り積もる雪景色が美しいのですが、見ている方まで寒くて凍ってしまいそう。ともに山形出身の橋本マナミと峯田和伸が互いに想いあっているのに言葉にできないじれったさをじんわりと魅せてくれます。
第3話は(暁)さんも書いているように牡蠣そうめんが美味しいそう。どうやって作るのか、知りたくなります。(堀)
公式サイト:http://etsunen.com
製作:ジェイアンドケイ・エンタテインメント ダイバーシティメディア
花千樹電影有限公司 現代電影沖印股份有限公司 台北市電影委員會
(財)台北市文化基金會 臺北市文化局 臺北市政府
協力:彰化縣 山形県 山形フィルムコミッション
配給・宣伝:ギグリーボックス
後援:台北駐日経済文化代表処
2019年製作/116分/G/台湾・日本合作 中国語 日本語/シネマスコープ
監督・脚本:郭珍弟(グオ・チェンディ)
プロデューサ::片原朋子 吉村和文 饒紫娟 陳世庸
美術:陳炫劭 遠藤雄一郎 VFX:嚴振欽
照明:譚凱富 衣裳指導:黃中觀 宮本まさ江
サウンドデザイン:羅頌策
編集:陳博文
音楽:トマ・フォゲンヌ
原作:岡本かの子「越年 岡本かの子恋愛小説集」(角川文庫)/「老妓抄」(新潮文庫)
出演 役柄(俳優名)
第1部
シャオラン(ヤオ・アイニン)インシューにビンタされた会社員
インシュー(オスカー・チュウ)シャオランをビンタした元同僚
イエナ(レニー・リー)おせっかいなシャオランの同僚
第2部
佐藤寛一(峯田和伸)太郎の幼なじみ
西村碧(橋本マナミ)太郎の恋人
文月(菜葉菜)斎藤先生の娘
太郎(結城貴史)寛一の幼なじみ
第3部
モーリー(ユー・ペイチェン)
チェンナン(ウー・ホインシュウ)
岡本かの子の小説を元に、日本、台湾、マレ ーシアの年越しの風景を舞台に、恋に不器用な3組の男女がが織りなす3つのオムニバス物語。素直になれない風変わりな恋が描かれる。
第1話 台北。会社の帰り、エレベーターに乗ろうとしたら、いきなり同じ会社の男性インシューにビンタされた女性シャオラン(ヤオ・アイニン)。このシーンから始まる。次の日会社に行ったらインシューは前日でやめていた。おせっかいな同僚の女性イエナにあおられ、インシューが住んでいるという迪化街へ二人で探しに行く。なぜ、いきなりビンタをくらったかわからず、会社に訴えるか仕返しするか、二人はインシューを探し歩く。二人はインシューをみつけられるのか。なぜ彼はシャオランをなぐったのか。
第2話 雪の山形が舞台。東京で暮らす寛一の元に親友の太郎から電話があり、故郷の山形に向かう。山形に久しぶりに帰った寛一は幼なじみで初恋相手の碧と数十年ぶりに再会する。斎藤先生の家に幼なじみが集まり新年会。蔵王に行ったり、碧の実家の西村写真館を訪ねたりするが、太郎とは連絡がつかない。山形弁と山形のおいしいものが出てきて、山形県人でなくても郷愁を感じた。太郎は何のために寛一を山形に呼び出したのか。しかし、肝心の太郎はいない。二人の間の進展はあるのか。
第3話 台湾彰化。亡き母が営んでいた食堂を片付けるモーリー。モーリーは片付けながら幼い頃を思い出していた。店には客がいっぱいいて、料理を客に出すのを手伝っていた。彰化は牡蠣の養殖が盛んで、店の自慢料理は牡蠣そうめん。みんなこれを食べていた。チェンナンがやってきて作業を手伝う。水槽には魚がいる。風が強い場所らしい。そして雨まで降ってきた。雨音や雨漏りの中、二人はたわいもない話をする。モーリーは「ここに長くいるつもりはない。この家を売るつもりだから、水槽の魚たちをお願い」と頼む。チェンナンは「本心なのか?」と聞く。そしてトラックで帰っていくのだが…。
恋なのか、そうでないのか、そんな恋心の目覚めのようなものが描かれる。でも、こんな恋があってもいいと思わせてくれる。年越ししたら新しい人生に出会えるかもしれない。
第一話。私にとっては、去年行った台北の迪化街が出てきてびっくり。新型コロナウイルスの影響で海外旅行が制限される直前に台湾に行き、この問屋街にも行った。以前、ここの朝市にも行ったことがある。乾燥海産物がたくさん並んでいた。そして、第一話の伏線に中国の往年の女優・歌手である白光(パイクァン)の映像やマレーシアにある白光の墓地が出てきた。もしかしたら流れていた曲も白光のものだったのかも。調べてみたけど使われた曲の情報はわからずだった。
第二話の舞台は山形で、このところ続けて行っている山形国際ドキュメンタリー映画祭の時に行く場所や食べ物などが出てきてうれしかった。山形駅前、山形交通のバスセンター、霞城公園、蔵王スキー場地蔵岳山頂 樹氷、玉こんにゃくと稲花(いが)餅などなど。しかもこの稲花餅を食べていた喫茶店は、私も入った喫茶店だった。そこで私も稲花餅を食べた(笑)。もっとも、その時期はそこしかやっている店がなかった。それに、渋谷駅のシーンで岡本かの子の息子である岡本太郎の絵が出てきた。そこも、私がいつも通るところ。
第三話に出てくる彰化は行ったことがない場所だったけど、「牡蠣そうめん」がおいしそうだった。食べてみたい。新型コロナ感染の非常事態で、あちこち出かけられないので、旅気分を楽しみながらこの映画を観た。(暁)。
ちなみに2020年最後に観た映画が『越年 Lovers』でした。その時の感想をシネマジャーナルHP スタッフ日記に書いています。
・2020年最後に観た映画『越年 Lovers』と2021年最初に観た映画『きらめく拍手の音』(暁)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/479577610.html
台湾、日本、マレーシアの年越しの風景の中で不器用な3組の男女が織りなす恋物語をオムニバスで綴っています。岡本かの子が80年ほど前に書いた小説「越年」と「家霊」に着想を得た台湾の女性監督・郭珍弟が脚本を書きました。
第1話は男性社員が女性社員を帰りしなに平手打ちすることから話がスタート。好きな子に意地悪をしたくなる男の子心理はいくつになってもかわらないもの? 女性には理解できませんね。
第2話は深々と降り積もる雪景色が美しいのですが、見ている方まで寒くて凍ってしまいそう。ともに山形出身の橋本マナミと峯田和伸が互いに想いあっているのに言葉にできないじれったさをじんわりと魅せてくれます。
第3話は(暁)さんも書いているように牡蠣そうめんが美味しいそう。どうやって作るのか、知りたくなります。(堀)
公式サイト:http://etsunen.com
製作:ジェイアンドケイ・エンタテインメント ダイバーシティメディア
花千樹電影有限公司 現代電影沖印股份有限公司 台北市電影委員會
(財)台北市文化基金會 臺北市文化局 臺北市政府
協力:彰化縣 山形県 山形フィルムコミッション
配給・宣伝:ギグリーボックス
後援:台北駐日経済文化代表処
2019年製作/116分/G/台湾・日本合作 中国語 日本語/シネマスコープ
2021年01月14日
どん底作家の人生に幸あれ!(原題:The Personal History of David Copperfield)
監督:アーマンド・イアヌッチ
原作:「デイヴィッド・コパフィールド」チャールズ・ディケンズ著(新潮文庫刊、岩波文庫刊)
脚本:アーマンド・イアヌッチ サイモン・ブラックウェル
撮影:ザック・ニコルソン
音楽:クリストファー・ウィリス
出演:デヴ・パテル(デイヴィッド・コパーフィールド)、ピーター・キャパルディ(ミスター・ミコーバー)、ヒュー・ローリー(ミスター・ディック)、ティルダ・スウィントン(ベッツィ・トロットウッド)、ベン・ウィショー(ユライア)
ディヴィッドは何でも書き留めておくのが好きな少年だった。しかし母親が再婚した相手は厳格で、のびのび育ったデイヴィッドを鞭を持って躾け、母と別れて寄宿学校に入ることになった。しばらくすると学費を止められ瓶工場に売り飛ばされてしまう。母親が死んだと知らせがあり、それを機にデイヴィッドは工場を逃げ出し、カンタベリーの大叔母の家まで歩いていく。道中で追いはぎに遭い、着の身着のままでようやくたどり着く。富豪の大叔母の伝手で名門校に入れることになった。極貧の生活から抜け出たデイヴィッドは楽しい学生生活を送り、法律事務所に職を得る。恋人もできて順調な人生のはずだった、が。
冒頭、まず主人公のデイヴィッド・コパフィールドが登場。どこかの劇場で満員の観客を前に、自分の出生から上がったり下がったり波乱万丈のストーリーを話し始めます。この原作は長大で日本語訳の全5巻がありますが、1冊450~500ページ。登場人物が数えきれないほどいて読んでいるうちに誰だっけ?となります。いやまだ全部読み終わっていません(汗)。
とりあえずアーマンド・イアヌッチ監督が大好きな”ディケンズを知ってほしい”と映画化したこのお話をご覧になってくださいませ。みっちりつまった予告編だけでも、その片鱗がわかります。これまで何度も映像化されたそうですが、以前の作品が省きがちだったコメディ要素をたっぷり入れて、明るく元気な物語にしています。キャストも贅沢(見た目は違いますがみなイギリス人)、個性的な人物をなんとも楽しそうに演じています。出てきたときの印象と後からが違っていたり、デイヴィッドと同じく波乱含みだったり。
ディケンズ本人の人生とオーバーラップするような、ディヴィッドのジェットコースターのような、それでいて決して弱音を吐かず、あきらめず、振り落とされもしなかったお話。この時期にぴったりではありませんか。(白)
デイヴィッド・コパフィールを演じたデヴ・パテルは、ケニア出身のヒンドゥー教徒のインド系移民の両親のもとロンドン郊外で生まれたイギリス人。映画デビュー作『スラムドッグ$ミリオネア』では、ムンバイのスラムの少年。その後、『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(ジャイプールのホテル支配人)、『奇蹟がくれた数式』(インドの天才数学者)、『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』(5歳で迷子になりオーストラリアに養子に貰われたインド青年)、『ホテル・ムンバイ』(シク教徒のホテルマン)と自らのルーツであるインド系の役が多いのですが、本作では、イギリスの文豪ディケンズの自伝的物語の主人公! 違和感ないです。さらに、生まれたての赤ちゃんの時も、瓶工場であくせく働く少年時代も、デヴ・パテルを彷彿させる風貌! キャスティングの妙に唸ります。ミスター・ウィックフィールドを演じた香港系イギリス人ベネディクト・ウォンも、印象に残りました。
波乱万丈の人生、こまめにメモにして、それがちゃんと文学として結実しているのですね。いやはや! (咲)
アーマンド・イアヌッチ監督はあらゆる人種を混ぜ合わせたキャスティングにこだわり、譲らなかったとのこと。出演者はみなイギリスで活躍する俳優ですが、インド系、アフリカ系、アジア系と多種多様。親と子の肌の色の違いに最初は戸惑うかもしれませんが、そこは早めにさらっと受け入れることがこの作品を楽しむポイントです。
苦しいときでも笑いを忘れず、人を恨まず。人生を謳歌しているデイヴィッドたちを見ていると自分の抱えている悩みがちっぽけなものに見えてくるから不思議。
ところで、監督は主役のデイヴィッド・コパフィールを最初からデヴ・パテルしか考えていなかったようですが、いろんな人に振り回されているデイヴィッドを見ていると、何だか福田雄一作品に出ている賀来賢人に似ているような気がしてきたのですが、いかがでしょう?
ベン・ウィショーが出演しています。それを分かって見ていたはずなのに、見終わったときに「あれ?ベン・ウィショーって出ていた?」と思ってしまうほどのなりきりぶり。主だった登場人物の中ではちょっと異質な存在で、誰もが持っている嫌な部分を象徴しているように思えました。(堀)
2019年/イギリス、アメリカ/カラー/シネスコ/120分
配給:ギャガ
(C)2019 Dickensian Pictures, LLC and Channel Four Television Corporation
https://gaga.ne.jp/donzokosakka/
★2021年1月22日(金)TOHOシネマズシャンテ、シネマカリテほか全国順次公開
KCIA 南山の部長たち(原題:THE MAN STANDING NEXT)
監督:ウ・ミンホ
原作:キム・チュンシク「実録KCIA『南山と呼ばれた男たち』」
脚本:ウ・ミンホ、イ・ジミン
撮影:キム・ジヨン『タクシー運転手ー約束は海を超えてー』
出演:イ・ビョンホン(キム・ギュピョン)、イ・ソンミン(大統領)、クァク・ドウォン(パク・ヨンガク)、イ・ヒジュン
1979年10月26日、韓国のパク大統領が中央情報部(通称KCIA)部長キム・ギュピョンにより射殺された。事件発生の40日前、KCIA元部長パク・ヨンガクは亡命先であるアメリカの下院議会聴聞会で、韓国大統領の腐敗を告発した。激怒した大統領に事態の収拾を命じられたキム部長はアメリカへ渡り、かつての友人でもあるヨンガクに接触を図るが……。
実際にあった大統領暗殺事件をもとに、フィクションとして送り出された作品。2020年の韓国で興行収入第1位。べストセラーとなった原作のノンフィクション「実録KCIA『南山と呼ばれた男たち』」は、日本でも鶴真輔翻訳で1994年に講談社から出版されています。映画の登場人物は名前を変えてあり、実際は朴正煕(パク・チョンヒ)大統領(娘が18代大統領の朴 槿恵/パク・クネ)、撃ったのがかつては共にクーデターを起こし、長く側近だった金載圭(キム・ジェギュ)KCIA部長。
冷徹で野心家のキム部長をイ・ビョンホンが演じていますが、髪をぴったりとなでつけニコリともせず、色気のいの字もありません。迫力のビョンホンです。大統領はイ・ソンミン、2018年の『目撃者』『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』などで知られています。私はしばらく見続けていたテレビドラマ「ミセン 未生」のオ課長が最も似合って好きですが、悪役を演じると凄みが出ます。クァク・ドウォン、イ・ヒジュンが共演。
すぐ隣の国で長く軍事政権が続き、民主化宣言されたのは1987年。ほんの少し前のような気がします。こういう映画をきっかけに歴史をひもといてみるのもいいですね。(白)
パク・チョンヒ大統領暗殺を扱った映画で思い出すのが、『大統領の理髪師』と『ユゴ 大統領有故』の2作品。
『大統領の理髪師』(2004年製作、日本公開2005年2月11日、イム・チャンサン監督)では、大統領専属理髪師に指名されたソン・ガンホ演じる理髪師が警護室長の見張る中、びびりながら髪を整え髭を剃る姿に和まされました。本作でも、イ・ビョンホン演じるキム部長が理髪中の大統領を訪ねる場面が出てきて、思わず理髪師に目をやりました。そばに座って見張っているクァク警護室⻑を演じているイ・ヒジュンは、25キロ以上体重を増量して、キム部長に対立する嫌な奴を体現しています。ドラマ「棚ぼたのあなた」でのコミカルな役柄が好きなので、ちょっとびっくり。
『ユゴ 大統領有故』(2005年製作、日本公開 2007年12月15日、イム・サンス監督)は、美少女二人をはべらせた大統領が暗殺される凄惨な場面が印象的ですが、ハン・ソッキュが脇役というブラックコメディ仕立て。
今回、『KCIA 南山の部長たち』では、大統領に次ぐ権力を持つKCIAの部長が、なぜ大統領を暗殺するに至ったかに迫っています。最後に映し出される金載圭中央情報部部長本人の「民主主義を回復し、国民が犠牲になるのを防ぐことが目的で、決して自分が大統領になる為ではない」という言葉に胸が熱くなりました。一緒に革命を起こしながら、18年もの長い間、大統領の座に居座り、独裁者となってしまったパク・チョンヒを、そばにいる自分が始末しなければならないという思いに嘘はないでしょう。
キム部長を演じたイ・ビョンホンは、威厳があるわけでもなく、地味な普通の中年の男。イ・ソンミンは、私も(白)さんと同じく「ミセン 未生」のオ課長役が好きですが、本作では独裁者パク大統領の凄みを静かに滲み出していて、ぞくっとさせられます。(咲)
2019年/韓国/カラー/シネスコ/114分
配給:クロックワークス
(C) 2020 SHOWBOX, HIVE MEDIA CORP AND GEMSTONE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.
http://klockworx-asia.com/kcia/
★2021年1月月22日(金)シネマート新宿ほか全国ロードショー
キル・チーム(原題:THE KILL TEAM)
監督:脚本:ダン・クラウス
出演:ナット・ウルフ(アンドリュー)、アレクサンダー・スカルスガルド(ディークス軍曹)
アンドリュー・ブリグマンは正義感と愛国心に燃え、二等兵としてアフガニスタンに渡る。初めての任務は地元民の調査ばかりで退屈し始めたころ、上官が地雷により吹き飛び戦地であることを肝に銘じた。新しく配属されたのは、歴戦の猛者として名高いディークス軍曹だった。アンドリューたちの士気は高まるが、ディークス軍曹は治安を守るためと称して、民間人を容赦なく撃っていた。しかもアンドリューは彼が証拠を捏造しているのに気づいてしまい、良心の呵責にさいなまれ苦しむ日々。そして事態が悪化していくなか、アンドリューは決断を迫られる。
初々しい新兵が戦地に放り込まれ、砲弾を浴び、死が日常になっていく様子をドキュメンタリーのように見せていきます。それもそのはず2010年のアフガニスタンで実際にあったことをダン・クラウス監督は先にドキュメンタリーで発表していて、それを自ら劇映画として作りました。大麻で恐怖を和らげる、いじめの標的を作って憂さ晴らしをする、自分を正当化するためにウソを重ねていく者などなど、戦場の闇が白日にさらされます。アンドリュー役のナット・ウルフ、ディークス軍曹役のアレクサンダー・スカルスガルド共に好演です。
帰国すれば良き父、息子である彼らが戦場でどんな思いをし、口に出せない経験をしているのか、いくつもの戦争映画やドキュメンタリーが描いてきました。命令に従うことが第一の兵士たちがどれほど心身に傷を負っているのかも、PTSDに苦しみ続ける人々が表わしています。将棋やチェスのコマのように人を簡単に戦場に送らないで。何より戦争を始めないで。そして終わらせる努力を。(白)
治安を守るためと称して、証拠をでっち上げて民間人を殺害し続けていた上官。自らを正当化し殺人に手を染めてゆく。愛国心からアフガニスタンに渡った若い兵士の苦悩はいかばかりか。内勤の父親に電話でこっそり不安を伝えるが、そのことがさらに若い兵士の不安を増幅させることに。辛かったことだろう。
本作は実話に基づいており、監督は俳優陣に軍隊でトレーニングを受けさせたうえで撮影に入ったそう。アメリカ軍の暗部を徹底したリアリズムで描いている。(堀)
2019年/アメリカ/カラー/シネスコ/88分
配給:クロックワークス
(C)2019 Nostromo Pictures SL/ The Kill Team AIE / Nublar Productions LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
http://klockworx-v.com/killteam/
★2021年1月22日(金)ロードショー
2021年01月10日
聖なる犯罪者 原題: Boże Ciało 英題: Corpus Christi
監督:ヤン・コマサ
出演:バルトシュ・ビィエレニア、エリーザ・リチェムブル、アレクサンドラ・コニェチュナ、トマシュ・ジィェンテク
20歳のダニエルは殺人を犯し少年院で更生を受けている。熱心なカトリック教徒の彼は、厳格なマシュ神父に信頼されミサのまとめ役を任されていた。神父になりたいと夢見るが、前科者は神学校に入れないといわれる。仮出所が認められ、田舎町の製材所で働くことになる。地元の教会で知り合った少女マルタに、自分は司祭だと嘘をついてしまう。マルタからヴォイチェフ神父を紹介されたダニエルは、神父が不在の間、教会を任せたいと依頼される。
ダニエルは村に若者6人の献花台があることが気になっていた。マルタの兄も含め6人が乗っていた車が、飲酒運転をしていた車とぶつかりその運転手も含め7人が亡くなったという。運転をしていたスワヴェクは司祭から埋葬も拒否されたと聞き、ダニエルがスワヴェクの妻に会いにいくと、彼は4年間断酒していたと聞かされる。事故の真相を明かそうとしている矢先、少年院で一緒だったピンチェルが告解室にやってくる・・・
この映画を観て、真っ先に思い出したのが、イラン映画の傑作『ザ・リザード』(2004年、キャマール・タブリーズィー監督)。囚人が刑務所付のイスラーム僧の袈裟を失敬して脱獄し、人々に崇められてしまう物語。これはコメディー仕立てでしたが、「制服」を信じてしまう人々の心理は同じ。実は、「ポーランドでは偽司祭の話は毎年起こるぐらい珍しくない」とプレス資料にありました。
ダニエルは、告解に来た人への答えに困るとスマホで告解の手引きを検索し、ミサも独自のスタイルで説教をして、「神父様」と慕われます。格好から、自分自身、神父になりきり善人になったような陶酔した気持ち。子役時代から舞台で活躍していたバルトシュ・ビィエレニアが罪人なのに聖人にも見える得体の知れない人物を体現していて圧倒されました。(咲)
ダニエルは偽司祭だが、彼がミサを行うようになってから村の人たちは変わっていく。村で1年前に7人もの命を奪う凄惨な事故が起こり、被害者家族も加害者家族も心に深い傷を負っていることを知り、奔走するダニエルの姿に嘘はない。しかし、ダニエルの過去を知る少年が現れたことをきっかけにダニエルの嘘が明らかになっていく。
実際に起きたことに着想を得た作品という。モデルになった少年がどうなったのかはわからない。“犯罪歴があると神学校に入れない”といわれても以前の自分だったら何の違和感もなかっただろう。しかし、本作を見てから「なぜダメなのか。人生をやり直すチャンスを奪っていいのか」という疑問が残るようになった。(堀)
2019年/ポーランド=フランス合作/ポーランド語/115分/R18/5.1chデジタル/スコープサイズ
字幕翻訳:小山美穂 字幕監修:水谷江里
後援:ポーランド広報文化センター
配給:ハーク
© 2019 Aurum Film Bodzak Hickinbotham SPJ.- WFSWalter Film Studio Sp.z o.o.- Wojewódzki Dom Kultury W Rzeszowie - ITI Neovision S.A.- Les Contes Modernes
公式サイト:http://hark3.com/seinaru-hanzaisha/
★2021年1月15日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
パリの調香師 しあわせの香りを探して 原題:Les parfums
監督・脚本:グレゴリー・マーニュ
出演:エマニュエル・ドゥヴォス、グレゴリー・モンテル、セルジ・ロペス、ギュスタヴ・ケルヴェン、ゼリー・リクソン、ポリーヌ・ムーレン
パリ。香水調香師の女性と、離婚調停中で親権が欲しい男性が出会う。
離婚調停中のギョームは、パリの高級アパルトマンに住むアンヌ・ヴァルベルグの運転手の職を得る。24平米のワンルームでは隔週娘と暮らすのさえ難しいと指摘され、やっと得た仕事でなんとか広い部屋に引っ越したいと願っている。アンヌは仕事先に車で送迎させるだけでなく、洞窟で匂いの成分のメモをギョームに取らせたりする。そんなある日、送り届けて待機する予定だったパーティに同席することになる。そこでギョームは、アンヌがかつてディオールの香水“ジャドール”をはじめ数々の名作を作った天才調香師だと知る。4年前に突然嗅覚障害に陥り、地位も名声も失い、嗅覚を取り戻すも、今は地味な仕事のみを請け負っているのだ。心を閉ざし、人との関わりを持たずにいるアンヌに、率直にものを言うギョーム。心をほだされ、アンヌは再び香水を作りたいと願うようになるが、また嗅覚を失ってしまう・・・
これまで全く違う世界で暮らしてきたアンヌとギョームの出会い。挫折して、心を閉ざしてきたアンヌが、また挑戦してみようという気持ちになったのは、ギョームのちょっとした言葉でした。ギョームもまた、アンヌから娘との関係のことで良いヒントをもらいます。私たちの人生にも、そんな出会いの積み重ねがあることを思い起こさせてくれます。
それにしても、香水調香師という仕事、嗅覚を失うというのは致命傷ですね。 『パフューム ある人殺しの物語』は、2007年製作のドイツ映画ですが、やはりパリを舞台にした超人的な嗅覚を持つ男が香水調香師に弟子入りするという話でした。香水というとフランスというイメージがあります。日本人はどちらかというと、無臭が好みではないでしょうか。自分の匂い(臭い!)を消してくれるようなものがあればと思うほど! と、余計なことを思ってしまいましたが、本作、エマニュエル・ドゥヴォスとグレゴリー・モンテルのかもし出す匂いがなんとも素敵です。(咲)
大人になり切れない男と女が出会う。互いに相手に欠けているものを補ってあげることで、それぞれが今までの自分の生き方を見つめ直す。そして新しい一歩を踏み出していく。いくつになっても人生はリセットできることを改めて感じさせてくれる作品です。下手に恋愛を絡ませずにハッピーエンドに繋げた監督の演出は幅広い層に共感を呼ぶのではないでしょうか。
ところで、アンヌの仕事が興味深いです。調香師の仕事は香水などの香りを作ることだと思っていましたが、アンヌはさまざまな場面で香りを変えて異臭を消す依頼を受けていました。もしかすると私たちの生活のすぐそばにも、アンヌのようなプロフェッショナルの仕事によって心地いいものに変えられているものがあるのかもしれませんね。(堀)
2019年/フランス/フランス語/101分/シネスコサイズ
配給:アットエンタテインメント
公式サイト:http://parfums-movie.com/
★2021年1月15日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
2021年01月09日
恋する遊園地(原題:JUNBO)
監督・脚本:ゾーイ・ウィットック
出演:ノエミ・メルラン(ジャンヌ)、エマニュエル・ベルコ(母マーガレット)、バスティアン・ブイヨン(マルク)
内気なジャンヌは遊園地のミニチュアを作るのが好き。子どもの頃から通っていた遊園地の夜間スタッフとして働き始めた。母マーガレットはジャンヌの父とは別れてしまったが、いつも恋人がいて奥手な娘を心配している。遊園地のアトラクション”ムーブ・イット”に出会ったジャンヌは、煌々とライトに照らされた美しいボディに一目ぼれしてしまった。「ジャンボって呼んでいい?」と思わず語りかけると、それにこたえるかのようにライトが点滅した。心が通い合ったと感じたジャンヌは、毎日ジャンボに会うのが楽しみになる。
遊園地のアトラクションに恋してしまった女性のラブ・ファンタジーって?!と興味しんしん。ジャンヌを演じるのは『燃ゆる女の肖像』でモデルの女性と恋に落ちる女流画家を演じたノエミ・メルラン。ドレス姿からジーンズの内気な娘に変っていて、すぐにはわかりませんでした。なんと不思議なストーリー!と思ったら、エッフェル塔に恋して結婚式まで挙げてしまったアメリカ人女性がいて、その新聞記事に着想を得たのだそうです。現実は映画よりも奇なりでした。
恋愛体質の母親はエマニュエル・ベルコでした。この方は『バハールの涙』(2018)で隻眼の女性ジャーナリストを演じていました。8日に公開の『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』では、お騒がせ長女クレール役。今回は「機械に恋するなんて!娘がおかしくなった!」と騒ぎ立てるのですが、それをなだめる彼氏がいいです。ファンタジー+人情劇。ジャンヌとジャンボとの情交?シーンありR15+。(白)
主人公のジャンヌが恋に落ちるアトラクション“ジャンボ”は制作陣がフランスでイメージ通りのアトラクションを見つけて撮影地となるベルギーへ移動させ、1年かけてカスタマイズしました。作品内では人気のないアトラクション扱いを受けますが、ジャンヌとの夜の逢瀬(?)のときは電光が煌びやかで乗ってみたくなります。
ジャンヌはもともと遊園地好きで、自分の部屋を遊園地のように飾り立てていました。仕事も夜の遊園地のアフターケア。母の車で勤務する遊園地に出勤するのですが、冒頭のそのシーンがあり、ジャンヌには父親がおらず、恋愛体質の母親に振り回されてきたことが伝わってきます。親の愛に飢えていたジャンヌが家族連れの多い遊園地に魅かれるというのは渇望する愛情の裏返しでしょうか。
本作の主人公はジャンヌですが、母親がジャンヌのことを受け入れ、愛情を示してあげることの大事さに気づくまでを描いた作品でもあるかもしれません。(堀)
2019年/フランス、ベルギー、ルクセンブルク/カラー/シネスコ/94分/
配給:クロックワークス
(C)2019 Insolence Productions - Les Films Fauves - Kwassa Films
http://klockworx-v.com/jumbo/
★2021年1月15日(金)より新宿バルト9ほかにて公開
パリ・オペラ座バレエ・シネマ 2作品
世界最古の歴史あるパリ・オペラ座バレエ団の公演を収録した映像作品を映画館で鑑賞することができます。大きな画面でアップになるエトワールたちの表情や指先までの細やかな演技も、特等席の気分でご覧いただけます。
「ドン・キホーテ」
有名なセルバンテスの小説「ドン・キホーテ」に基づいていますが、バレエでは脇役。理髪師バジルと宿屋の娘キトリの恋にドン・キホーテとサンチョ・パンサが手助けをします。娘の金持ちとの縁談を進めたい父親に、反発したキトリが狂言自殺を図りますがコメディ仕立てで賑やかです。闘牛士、ドン・キホーテが夢見るドルネシア姫(キトリと二役)ら多彩なキャラクターが色鮮やかな衣装と華麗なステップで舞台を縦横に動き回ります。
(C)Julien Benhamou / Opera national de Paris
音楽:レオン・ミンクス
編曲:ジョン・ランチベリー
振付/演出:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパの原振付に基づく)
キャスト:ドロテ・ジルベール(キトリ)、カール・パケット(バジル)ほか
パリ・オペラ座での上演日:2012年12月18日(バスティーユ)
上映時間:約136分
「眠れる森の美女」
生まれたばかりのオーロラ姫の洗礼式に国王夫妻が妖精たちを招待し、それぞれから贈り物を受け取っていました。招かれなかった邪悪な妖精カラボスは、姫が成長して糸紡ぎで指をさして死ぬという呪いをかけてしまいます。悲嘆にくれる中、残っていたリラの妖精が呪いを和らげる贈り物をします。オーロラは深い眠りに落ちて、王子のキスで目覚めるというものでした。16歳の誕生日、オーロラは糸紡ぎで指をさしてしまい、城も人々も眠りに落ちていきます。
(C)Christian Leiber / Opera national de Paris
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
振付:ルドルフ・ヌレエフ
キャスト:マチアス・エイマン(デジレ王子)、ミリアム・ウルド=ブラーム(オーロラ姫)他
パリ・オペラ座での上演日:2013年12月16日
上映時間:2時間45分
配給:カルチャヴィル
https://www.culture-ville.jp/parisoperaballetcinema
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【東京】
1/15(金)〜2作品同日公開!
東劇、新宿ピカデリー
【愛知・大阪・兵庫・札幌】
1/8(金)〜『ドン・キホーテ』(東京より先行して公開!)
1/15(金)〜『眠れる森の美女』
ミッドランドスクエアシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、シネマフロンティア
2021年01月08日
43年後のアイ・ラヴ・ユー(原題:Remember Me)
監督・脚本:マーティン・ロセテ
出演:ブルース・ダーン、カロリーヌ・シロル、ブライアン・コックス
70歳のクロード(ブルース・ダーン)は妻を亡くし、LA郊外に一人で住む元演劇評論家。親友のシェーン(ブライアン・コックス)と老後を謳歌していた。ある日、昔の恋人で人気舞台女優のリリィ(カロリーヌ・シロル)がアルツハイマーを患わせて施設に入った事を知る。もう一度リリィに会いたいと願ったクロードは、アルツハイマーの《フリ》をしてリリィと同じ施設に入居するという一世一代の《嘘》を思いつく。シェーンの協力のもと、遂にリリィと念願の再会を果たしたクロード。だがリリィの記憶からクロードは完全に消し去られていた―。そんなリリィに、クロードは毎日のように二人の想い出を語りかけるのだった。ある日、昔リリィが演じたシェイクスピアの「冬物語」を施設で観る事になり、クロードは孫娘と一緒にある作戦を実行する。
このところシルバー世代を主人公に迎えた作品がぐっと増えてきました。本作もその1つ。かつて愛した女性が認知症になって施設で暮らしていることを知った主人公の涙ぐましい奮闘を描いた純愛ストーリーです。
認知症には特効薬はありません。しかし、何かの拍子にふっと思い出したりすることがあるようです。頭ではなく、体が覚えていることなのでしょう。本作ではクロードを演劇評論家に、リリィを舞台女優に設定することで、リリィが認知症になってもかわいらしさを保っていることやクロードが起こした奇跡にリアリティをもたらしています。
またクロードの奮闘はリリィだけでなく、家族や親友にも影響を及ぼしました。ダメだと諦める前に一歩踏み出してみる。自分の思い込みが明るい未来を阻んでいたことに気づくのです。とはいえ、すべてが思い通りに進むわけじゃない。クロードもそれはわかっていました。立場をわきまえ、引くべきところは潔く引く。男としての矜持に惚れ惚れしてしまいます。それを体現できるのはブルース・ダーンだからこそ! さすがです。
作品にはシェイクスピアの作品がいくつか登場します。私はシェイクスピアに詳しくないのですが、解説的な話を自然な流れで盛り込んであるので問題ありませんでした。ただ詳しい方にはより楽しめるに違いありません。(堀)
冒頭、クロードと悪友シェーンとの会話は薬のことばかりで、この年になるとそうなるよねと実感する年代に私も達しています。かつての恋人の消息を知って色めきだって、認知症のフリまでして施設に入居してしまうクロードは、あっぱれです。人生まだまだ・・・と、私もチャンスを期待して元気になりました♪
認知症のリリィは、かつて舞台で演じた時のセリフをにわかに思い出します。年をとっても、昔ひとつ覚えした外国語のフレーズや、語劇で演じたセリフをいつまでも覚えている方を知っているので、あるあると思いました。(咲)
2019年/スペイン・アメリカ・フランス/英語/89分/スコープ/カラー/5.1ch/日本語字幕:星加久実
配給:松竹
(C) 2019 CREATE ENTERTAINMENT, LAZONA, KAMEL FILMS, TORNADO FILMS AIE, FCOMME FILM . All rights reserved.
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/43love
★2021年1月15日(金)新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷
キング・オブ・シーヴズ(原題:King of thieves)
監督:ジェームズ・マーシュ(『博士と彼女のセオリー』)
出演:マイケル・ケイン、ジム・ブロードベント、トム・コートネイ、チャーリー・コックス、ポール・ホワイトハウス、レイ・ウィンストン、マイケル・ガンボン
かつて「泥棒の王(キング・オブ・シーヴズ)」と呼ばれたブライアン(マイケル・ケイン)。一度は裏社会から引退し、愛する妻と平穏な日々を過ごしていた。しかし、妻が急逝したことをきっかけに、かつての犯罪にまみれた自分が呼び起こされることになる。知人のバジル(チャーリー・コックス)からロンドン随一の宝飾店街〝ハットンガーデン″での大掛かりな窃盗計画を持ちかけられたブライアンは、テリー(ジム・ブロードベント)、ケニー(トム・コートネイ)、ダニー(レイ・ウィンストン)、カール(ポール・ホワイトハウス)ら、かつての悪友たちを集め、平均年齢60歳オーバーの窃盗団を結成。綿密な計画のもといざ実行日を迎えようとしたとき、ブライアンは突然計画から抜けると言い出す・・・。
本作は、英国史上もっとも最高額で最高齢の金庫破りと呼ばれた実話の映画化です。マイケル・ケインを始めとする英国を代表する名優たちが集結し、圧倒的な存在感を示しました。
作品が描いているのは事件の顛末だけではありません。シルバー世代の生活も描くことで、彼らの悩みや葛藤を浮かび上がらせます。窃盗団リーダーのブライアンは愛する妻を喪い、生きる喜びさえ失いそうになっていましたが、窃盗を持ち掛けられた途端に目が活き活きとしてきました。けっしてお金が目的ではなかったのが伝わってきます。シルバーパスでバスに乗り、現場の下見に出掛けるシーンは何とも微笑ましい。高級車が似合うマイケル・ケインが自然に演じるのには驚きましたが。
ストーリーの合間には名優たちの若かりし頃の出演作からチョイスされた本作に通じるようなカットが挿し込まれています。これも彼らに長く偉大なキャリアがあるからこそ。何の作品なのかを見つけるのも一興かもしれません。(堀)
泥棒稼業で人生を送ってきた人の老後ってどうよという姿を垣間見せてくれました。何度か臭い飯も食ったであろう人たち。もしかしたら刑務所の中で友情をはぐくんで、出所したら一緒に大きな山を当てようなんてこともあったのではないでしょうか。
名優たちが、それなりのワルに見えて凄みさえあります。最後に映し出されるモデルになった人たちのお顔にも注目を! 映画で顔を知られることになるとは!・・・とご本人たちは苦笑しているかも。(咲)
2018/イギリス/スコープサイズ/108分/カラー/英語/DCP/5.1ch/
配給:キノフィルムズ
(C) 2018 / STUDIOCANAL S.A.S. - All Rights reserved
公式サイト:https://kingofthieves.jp/
★2021年1月15日(金)TOHOシネマズ シャンテ ほか全国順次公開
2021年01月04日
エマの秘密に恋したら(原題:Can You Keep a Secret?)
監督:イリース・デュラン
脚本:ピーター・ハッチングス
原作:ソフィー・キンセラ「エマの秘密に恋したら...」(ヴィレッジブックス刊)
出演:アレクサンドラ・ダダリオ、タイラー・ホークリン
ニューヨークに支店を構えるオーガニック飲料の大企業で働くエマに、昇進のチャンスが訪れる。ところが、出張先でクライアントとの会議に大失敗、さらに帰路の飛行機で乱気流に巻き込まれる。“退屈な仕事にパッとしない恋人。私の人生、これで終わるなんて!”と、パニックと悔しさから自分を見失ったエマは、隣の席の見知らぬ男に誰にも言えない秘密をすべてぶちまけてしまう。気が付いたら飛行機は無事に着陸。何事もなかったかのように出社すると、オフィスはカリスマオーナー、ジャックの登場に沸いていた。ところが、そのオーナーこそが“隣の席の男”だった──!
『お買いもの中毒な私!』のタイトルで映画化された、ベストセラー小説「レベッカのお買いもの日記」シリーズでも圧倒的な人気を誇る原作者の同名ベストセラー小説を『バチェロレッテ -あの子が結婚するなんて!』の製作スタッフがアレクサンドラ・ダダリオを主役に迎えて映画化しました。
好きな人には自分のダメダメな部分は隠しておきたいもの。でも、背伸びばかりしていたら疲れてしまいます。ありのままの自分を受け入れてくれる人に愛されることが本当は大事なのかもしれません。わかっているけれど、ついカッコつけたくなるんですよね。
ロマンチックコメディーの王道をいく展開で、リアリティには欠ける面もありますが、細かいことは気にせずハッピーエンドを楽しんで、新年を明るくスタートさせたい人にはぴったりの作品です。(堀)
飛行機でパニックになったからと言って、他人にあそこまでさらけ出すってどうよ?と思うのは私だけではないでしょう。秘密は墓場まで持って行くんじゃないかなぁ。まあ、これでドラマが始まるんですけどね。エマ役のアレクサンドラ・ダダリオがすごく可愛いので、ドジでも喋りすぎても許せます(おじさん化している私)。ジャックの秘密が何かと思えば、え、そんだけ?だったのにはびっくり。別に隠すほどのことではないでしょうに(後で原作を読んだら相続もからんで面倒なのでした)。
原作はソフィー・キンセラ。映画化された『お買い物中毒な私!』のレベッカがヒロインの翻訳本がシリーズで出ていて、買い物好きな女子にはあるある満載です。ただし後で支払いがあることを忘れて、レベッカのようにならないで。(白)
エマは出張からの帰路の搭乗口で「最悪の日」と言ったら、「ファーストに空席が」と案内されます。冷静ならば、隣の男性はセレブと気づいたはずですが、頭の中は大失態をしでかしたことでいっぱい。乱気流で、もう死ぬ!と、思い切り秘密をぶちまけてしまうのです。
ユーモアにあふれ、チャーミングな作品を作ったイリース・デュラン監督。これまで、主にテレビのドキュメンタリーのプロデューサーや監督として活躍してきた彼女が、初の劇映画に選んだのがラブコメ。女心の描き方がお上手!
ところで、エマが一緒に暮らしているオマルは弁護士。ちょっととぼけた冴えない野郎なのですが、風貌が気になると思ったら、演じているSam Asghari、イラン生まれで2006年にアメリカに移民した人でした。 (咲)
2019年/アメリカ/カラー/94分/ビスタサイズ
配給:イオンエンターテイメント
©2019 CYKAS LLC
公式サイト:https://emma-movie.com/
★2021年1月8日(金)より新宿武蔵野館にて先行公開、
1月22日(金)よりイオンシネマほか全国ロードショー
2021年01月03日
ウォーデン 消えた死刑囚 原題: Sorkhpust. 英題:The Warden
監督・脚本:ニマ・ジャウィディ
音楽. ラミン・コーシャ
出演:ナヴィッド・モハマドザデー(『ジャスト6.5 闘いの証』)、パリナーズ・イサドヤール
1966年、イラン南部の空港近くにある刑務所。ファラ王妃の視察までに滑走路の整備をしなくてはならず、立ち退くことになる。所長のヤヘド少佐は、囚人たち832人を新しい刑務所へ移送する任務を負う。雨の降る中、最後の点検をしている彼のもとに、モダッベル大佐がやってきて、警察署長に推薦したと言われる。思わぬ昇進に小躍りするヤヘドのところに、一人の死刑囚が行方不明との報告が届く。失態をしでかしては昇進もふいになる。刑務所から脱走するのはあり得ないと、ヤヘドは所内をくまなく捜索する。事情を聴くために死刑囚を担当していたソーシャルワーカーを呼び寄せる。美しく聡明な彼女は、行方不明の死刑囚アフマドは、肌が赤いので「赤肌(原題のSorkhpust)」と呼ばれていて、地主を殺したのは濡れ衣だという・・・
冒頭、雨が降りしきる中、死刑台を移設するために掘り起こしている場面が映し出されます。絞首刑なのは、革命前も今も変わらないと、今回同時公開される『ジャスト6.5 闘いの証』の死刑の場面を思い出します。
その『ジャスト6.5 闘いの証』で、麻薬王を演じたナヴィッド・モハマドザデー(注:本来の発音だとモハンマドザーデが近いです)が、本作では落ち着いた中年の少佐役。実年齢は30代前半ですが、本作は実話に基づくもので、少し老けた役。雰囲気も全く違うので、言われなければ同じ役者だと気がつかないかもしれません。警察署長に推薦されたと聞いて、大佐に出すソーハーン(クッキーのようなお菓子)を探しに裏手にいって、小躍りする姿が実に可愛いです。ネクタイ姿がダンディですが、このネクタイ、革命後のイスラーム政権下の公務員は御法度です。
革命前の話なので、このほかにも随所に工夫が見られます。所長の部屋にはパーレビー国王の写真。女性は現政権下では映画であっても頭は何かで被ってなければいけないので帽子をかぶっています。でも、スカート丈は当時の膝丈。厚いタイツで素足を隠しているのでOKなのでしょうか。村の女性はチャードル姿なので問題なし。革命前も信心深い女性たちはチャードルでちゃんと全身を被っていました。
なお、刑務所で作業している男性たちが、シャルワル・カミーズ(長い上着にぶかぶかのズボン)姿で、場所がパキスタンに近いバローチスタン州らしいとわかります。
死刑囚はいったいどこに消えてしまったのか・・・ 撤退の時間までに死刑囚は見つかるのか・・・ そんな事態なのに、少佐はソーシャルワーカーの彼女に、ほのかに心動かし、それがまた結末を素敵にしているという、なんとも心憎い話です。少佐が好んでかけるレコードから流れる「ある夜のこと~♪」の歌が、とてもロマンチックに響きます。
ニマ・ジャウィディ監督は1980年生まれ。初長編『メルボルン』(2014)が東京国際映画祭で上映された折にインタビューしています。シネマジャーナル92号に掲載。
(上映後のQ&A ニマ・ジャウィディ監督 右:通訳のショーレ・ゴルパリアンさん)
今作ではイラン映画批評家&脚本家賞で作品賞・監督賞・脚本賞など主要部門を受賞。
イラン期待の監督の一人です。
あと、モダッベル大佐を演じているのがマニ・ハギギさんで、『彼女が消えた浜辺』の時と比べて、ぐっと貫禄がついてびっくりでした。
写真は、2006年にマニ・ハギギさん監督&出演作『メン・アット・ワーク』が東京フィルメックスで上映された時のもの。若いです・・・
(咲)
刑務所所長ヤヘド少佐と脱走した死刑囚との息詰まるような駆け引きかと思って見始めたのですが、死刑囚はなかなか出てこない。いえ、ヤヘドが見つけられないというのではなく、スクリーンに登場さえしないのです。この刑務所内に本当に隠れているのか、すでに外に逃亡したのか。出世を控え、ヤヘドは失敗が許されません。そんなところにきた、死刑囚を担当していたソーシャルワーカーが美人だったから大変です。彼女の前ではカッコつけたい。いろいろな意味での焦りや苛立ちが本作の見どころです。こんな非常時にもおしゃれにも気遣うヤヘドをナヴィッド・モハマドザデーがダンディに演じていました。彼の美的な魅力は『ジャスト6.5 闘いの証』よりも本作の方が楽しめると思います。(堀)
イラン2大傑作犯罪映画 同時上映!
『ジャスト6.5 闘いの証』&『ウォーデン 消えた死刑囚』
2019年/イラン/BD/90分
配給:オンリー・ハーツ
後援:駐日イラン大使館文化参事室
公式サイト:http://just6.5andwarden.onlyhearts.co.jp/
★2021年1月16日(土)新宿 K's cinema ほか全国順次ロードショー
ジャスト6.5 闘いの証 原題:metri shesh va nim 英題:Just 6.5
監督:サイード・ルスタイ
音楽:ペイマン・ヤズダニアン
出演:ペイマン・モアディ(『別離』)、ナヴィド・モハマドザデー(『ウォーデン 消えた死刑囚』)、ファルハド・アスラニ
麻薬依存者であふれる大都市テヘラン。
麻薬撲滅警察特別チームのサマド(ペイマン・モアディ)は、末端の売人たちを検挙する。多くはホームレスや貧しい者たちだ。やがて、元締めがナセル・ハクザド(ナヴィド・モハマドザデー)だと突き止める。彼が潜む贅を尽くしたホテルのペントハウスに検挙しに行くが、ナセルは自殺を図っていた・・・
家庭に問題を抱えた麻薬捜査官が、貧しい家から這い上がって麻薬王となった男を問い詰める・・・ 息もつかせぬスピーディな転回。そんな中で、麻薬捜査官、麻薬王、そして末端の貧しい売人、それぞれの家族のことも丁寧に描いています。
タイトルにある6.5は、麻薬捜査官が「僕が警察に入った頃は、100万人だった麻薬中毒者が、今や650万人で、6.5倍になった」と嘆く言葉に由来しています。イランの人口が、約8000万人ですから、1割弱。
イランで大ヒットした娯楽大作ですが、イランの抱える社会問題をしっかり訴えています。イランが家族の絆の強い社会であることも垣間見れます。とにかく面白い! (咲)
2019年の東京国際映画祭コンペティション部門で、最優秀監督賞と最優秀男優賞をダブル受賞。
東京国際映画祭『ジャスト 6.5』 2019年11月2日 記者会見 及び Q&A(咲)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/471578510.html
サイード・ルスタイ監督(左)と、麻薬王を演じたナヴィド・モハマドザデーさん(右)にインタビュー。二人は大学時代からの親友。インタビュー中もじゃれあう息の合う二人でした。(景山咲子)
2019年のTIFFの最終日近くなってからEXシアターで観ました。コンペ作品1本目でしたが、映像、俳優、テンポ…とにかく迫力満点の作品で、観終わって「これは受賞する!」と思ったものです。終了後サイード・ルスタイ監督(まだ30歳でした)と麻薬で成り上がったナセル役のナヴィド・モハマドザデー(余裕しゃくしゃく)のQ&Aを聞きました。あの膨大な台詞を俳優にあて書きしたそうです。すごく説得力があったのはそういうことかと納得です。
『別離』でも主演だったサマド刑事役のベイマン・モアディからはビデオメッセージが届き「撮影のために来日できず残念」とのこと、こちらも残念でした。やっと公開になります。ぜひご覧ください。(白)
こんなイラン映画、初めて観た。これまで日本に入ってきたイラン映画は文芸的なもの、前衛的なもの、社会派的なもの、芸術的なものがほとんどだったけど、犯罪もの、エンターティメント的なものはほとんどなかった気がする。やっぱりイランでも一般の観客はこういう作品を観ているのですよね?(暁)
イラン国内における麻薬事情に驚くとともに、警察内部の状況にも唖然としてしまいました。コロナ禍では考えられないような過密な留置所。いえ、コロナ禍でなくてもこれはダメでしょう。座ることもままならないほど容疑者が詰め込まれていました。麻薬犯罪撲滅のためとはいえ、イランにおける人権意識の低さを強烈に印象付けられました。この状況って本当なんでしょうか!
さらに麻薬撲滅警察特別チームのサマドたちも互いに信頼関係を築けていません。油断すると足元をすくわれ、犯罪者の方に追いやられます。誰もが生き残るために必死にもがいています。最後までどうなるのか、予想ができず、ハラハラドキドキの連続です。(堀)
イラン2大傑作犯罪映画 同時上映!
『ジャスト6.5 闘いの証』&『ウォーデン 消えた死刑囚』
2019年/イラン/ペルシア語/134分/カラー
配給:オンリー・ハーツ
後援:駐日イラン大使館文化参事室
公式サイト:http://just6.5andwarden.onlyhearts.co.jp/
★2021年1月16日(土)新宿 K's cinema ほか全国順次ロードショー
『ジャスト6.5 闘いの証』&『ウォーデン 消えた死刑囚』
2019年/イラン/ペルシア語/134分/カラー
配給:オンリー・ハーツ
後援:駐日イラン大使館文化参事室
公式サイト:http://just6.5andwarden.onlyhearts.co.jp/
★2021年1月16日(土)新宿 K's cinema ほか全国順次ロードショー
2021年01月02日
甦る三大テノール 永遠の歌声(原題:THREE TENORS VOICES FOR ETERNITY 30TH ANNIVERSARY EVENT)
出演:ルチアーノ・パヴァロッティ、プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラス、ズービン・メータ、ニコレッタ・マントヴァーニ、 マリオ・ドラディ、ラロ・シフリン、ポール・ポッツ他
1990年イタリア、ワールドカップ・サッカーの前夜祭として、ルチアーノ・パヴァロッティ、プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラスがローマ、カラカラ浴場で伝説のコンサートを開催した。‟三大テノール”のはじまりである。同じ時代に活躍したライバルたちが何をきっかけに同じ舞台で競演を果たし、どのように成功を手にしたのかを紐解いていく。
同じパートを歌う歌手が同じ舞台に立つ。本来ではあり得ない舞台のきっかけは白血病から奇跡の復活を遂げたホセ・カレーラスの舞台にローマ市長が来て「来年W杯を開催するのでコンサートをやってほしい」と頼んだこと。カーラスが「ローマでは10回もコンサートをやっている。何か違うことをやってはどうだろうか」とマリオ・ドラディに相談し、マリオがルチアーノ・パヴァロッティ、プラシド・ドミンゴとの競演を提案したのです。マリオ・ドラディの自宅に保管された貴重な記録写真や映像などもふんだんに使って、選曲から当日のバックステージの様子まで映し出します。多くの放送クルーがW杯に行ってしまっているため、せっかくのコンサートを少人数体制で撮らねばならなかった撮影スタッフの苦労話はここでしか聞けません。
このコンサートは1回だけのはずでしたが、成功がビジネスを引き寄せてしまいます。4年後にはアメリカのドジャースタジアムで再演が行われ、さらにパリ、横浜と続きました。ローマとロサンゼルスでの選曲の違いやどんな有名人が来場したのかも興味深く語られます。
作品では三大テノールコンサートの商業主義について批判的な声もあったことを取り上げていますが、3人の歌声の素晴らしさの前にはその批判は何の意味もないことが伝わってきました。(堀)
2020/ドイツ/ビスタ/94分/英語・イタリア語
配給:ギャガ
© C Major Entertainment2020
公式サイト:https://gaga.ne.jp/threetenors/
★2021年1月8日(金)よりBunkamura ル・ シネマほか全国順次公開
2021年01月01日
スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち(原題:STUNTWOMEN THE UNTOLD HOLLYWOOD STORY)
監督:エイプリル・ライト
映画史に残るアクションシーンの裏側に迫る、知られざるスタントウーマンたちのリアルを捉えたドキュメンタリー。息を呑むような名シーンの数々を彼女たちはいかに作りあげてきたのか。彼女たちスタントウーマンたちの日々の鍛錬の様子やスタントウーマンの歴史を通して、ハリウッド映画の最前線で活躍するプロフェッショナル達の姿を映し出す。
映画が今ほどメジャーな娯楽でなかった1910年ころ、ハリウッドでは多くの女性がスタントをしていましたが、映画はお金になるとわかり、その仕事を男性が取って代わっていったそう。ちょっと意外な話からこの作品は始まります。
男性は衣装の下に保護パッドをつけられるけれど、女性は男性に比べて肌の露出が多いため、保護パッドがつけられないという話など、女性ならではの悩みやそれでもスタントが好きで止められない気持ちを先達や現役スタントウーマンたちが赤裸々に語ります。危険な仕事への恐怖から逃げるためでしょう、薬物を使う人もいる話はやっぱりと思いつつ、それによって危険な目にあったジュール・アン・ジョンソンが薬物使用の禁止を主張して仕事を干されたと聞くと憤りを覚えます。
TVシリーズの「空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン」(1975〜1979)でワンダーウーマンを演じたリンダ・カーターのスタントや、「チャーリーズ・エンジェル」(1976〜1981)のケイト・ジャクソンのスタントを務めたジーニー・エッパーが70歳を超えた今もスタントがしたいと語る姿にスタントという仕事への愛を感じました。(堀)
2020/アメリカ/84 分
配給:イオンエンターテイメント
© STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020
公式サイト:http://stuntwomen-movie.com/
★2021 年 1 ⽉ 8 ⽇(⾦)TOHO シネマズ シャンテほか全国公開