2020年12月27日
ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画 原題:Mission Mangal
監督:ジャガン・シャクティ
脚本:R・バールキ
音楽:アミット・トリヴェディ
出演:アクシャイ・クマール、ヴィディヤ・バラン、タープスィー・パンヌー、ソーナークシー・シンハー、シャルマン・ジョシ、ニティヤー・メネン、キールティ・クルハーリー
アジア初、火星探査機打上げ成功に導いた科学者たちの実話に基づく物語。
2010年、インド・ベンガロール。宇宙事業の命運をかけたロケットの打上げが失敗に終わる。チームリーダーのラケーシュ(アクシャイ・クマール)やプロジェクトディレクターの女性科学者タラ(ヴィディヤ・バラン)は、火星探査プロジェクトという実現不可能と思われている部署に異動させられる。事務所は埃だらけ、配属されてきたのは経験の浅い人材ばかりだった。女性も多い。それぞれに人生の問題を抱えていて、可能性のないプロジェクトには力が入らない。ラケーシュが会議で不在だったある日、タラは科学者としての誕生日パーティを企画し科学者になりたいという夢を抱いた時のエピソードを語る。皆それぞれに初心を思い出し、一丸となって火星探査機打上げを目指す・・・
映画は、朝、家事に追われる主婦の姿で始まります。夫や子どもの世話をして、やっとの思いで車で出かけた先は、なんと宇宙センター。サリー姿でご出勤。しかも、この日は、国民が見守る大事なロケット打ち上げの日。そのギャップにまず驚かされます。
火星探査プロジェクトの研究現場で、小さなロケットでも探査機を火星に送る方法を思いついたのも、プーリー(揚げパン)を揚げる時に予熱を利用するという主婦の知恵からでした。
最後に映し出される実在のチームの写真も、半数近くが女性たち。さすがゼロを発見したインド! 理科系に強い人たちが多いのですね。
宇宙開発の場で活躍した女性たちというと、アメリカ映画『ドリーム』(2016年 )を思い出します。計算係として下支えした黒人女性たちの物語でしたが、原題の「Hidden Figures」が示す通り、まさに表に出ない人たちでした。でも、インドでは、ちゃんと表舞台で女性科学者も活躍している様子が見てとれて素晴らしいなと思いました。
本作を手がけたのは、『パッドマン 5億人の女性を救った男』の製作チーム。監督を務めたR.バールキが脚本を担当。助監督だったジャガン・シャクティが今回、監督を務めています。主演を演じたアクシャイ・クマールが、今回も火星探査プロジェクトのチーム・リーダーとして登場。でも、なんといっても目立つのは女優たち。特にタラを演じたヴァディヤ・バランは、『女神は二度微笑む』の偽妊婦姿が圧巻でしたが、今回は肝っ玉母さん風。
研究所で皆で踊る場面もインド映画ならではのサービス♪ (咲)
パッドマンの主演だったアクシャイ・クマールが今度はヒロインのタラの上司役。集められた女性たちは最初バラバラで大丈夫?と思ったものの、心配無用。個性豊かで、実は有能な女性たちでした。男性には思いつかないようなアイディアで低予算の研究をものにし、本当にロケットを打ち上げてしまいます。チャンスと活躍の場さえあれば、「女性が輝く社会」は作れるという見本。
お題目だけかがけてちっとも前進しない日本。ジェンダーギャップ指数(2020年)が発表になって愕然としましたっけ。経済・教育・保健・政治の4つの分野の男女格差を示す指数です。日本は153か国中121位とこれまでの最低で年々下がる一方です。この映画の舞台のインドは今年108位。
一覧はこちらです。出生率が下がったとか、生産性がないですって?男性が家事育児に参加して、女性に門戸を開き、進出を阻まなければ世の中変わりますよ。(白)
アメリカの宇宙開発を描いた『ドリーム』で、宇宙開発の現場で働く女性たちが紹介されたけど、こちらの映画ではインドの宇宙開発現場で働く女性たちが出てきた。インドの映画で、科学の分野で活躍する女性たちのことを描いた作品は、あまりないと思うし、実際働いている人も少ないとは思うけど、この作品を観て、日本ではどうなんだろうと思った。確かに向井千秋さんや山崎直子さんなど、名の知れた宇宙飛行士の方はいるけど、宇宙航空研究開発機構 JAXA(ジャクサ)や宇宙産業の技術部門などで働く女性の実態となると、きっと中国やインドなどより女性の比率は少ないのだろうなあと思う。日本でロケットが発射される時、宇宙センター内の様子がTVで写ることがあるけど、女性の姿はほとんどないものね。それでも調べてみたら、日本でも少しづつ宇宙科学の分野で働く女性科学者は増えているみたい。
この映画に出てくるインドの女性たちは、宇宙開発の分野では地味な分野である火星と向き合い、それでも工夫しながら嬉々として働いている。1960年代~70年代と比べると宇宙開発は、あまりニュースとして話題になっていないような気がするけど、着々と世界では開発されているのだろう。あるいは停滞しているのだろうか。でもこれだけ人工衛星や宇宙ステーションがいっぱい宇宙を漂っているところをみると、まあ滞在技術は進んでいるのでしょうね。夜、空を見ると、けっこう人工衛星が飛んでいるのを見ることができる(暁)。
インド宇宙開発チームが火星探査機打ち上げにアジアで初めて成功した実話を映画化しました。
主人公はアクシャイ・クマールが演じたプロジェクト責任者のラケーシュだと思いますが、作品は女性たちの活躍と葛藤が中心。女性ならではの生活の知恵によって少ない予算で計画を成し遂げていくサクセスストーリーは見ていて本当に楽しい。イマイチ本気になれない仲間たちにプロジェクト・リーダーのタラがこの仕事を志したきっかけを話し、仲間たちも初心にかえるくだりは見ているこちらまで胸が熱くなりました。ただ、「1日8時間勤務だと4年かかるが15時間働けば2年でいける」と話すタラには「それってブラックすぎるでしょ」とツッコミを入れたくなりましたけれど。
このサラは息子の宗教問題や娘の夜遊びに理解があります。残業して帰宅したとき、夜遅くなっても帰ってこない娘を夫が心配していると、夫を娘が遊んでいるクラブに連れて行き、一緒に楽しませて娘の夜遊びを認めさせてしまいます。仕事と家事を両立させた上でのスーパーウーマンぶりに驚きました。ジャガン・シャクティ監督や脚本を書いたR・バールキの憧れが込められているのかもしれません。
ところで、タラを演じたヴィディヤ・バランが『女神は二度微笑む』にも出演していたことは(咲)さんが書いているのを読むまで気がつきませんでした。「えっそうだったの?」と見返したところ、あの頃は妊婦の設定でありながら全体的にもう少しスレンダーな感じですね。すっかり肝っ玉母さん風になっていて、気がつきませんでした。(堀)
映画だから、最後には成功するってわかっていても、ハラハラドキドキ。現実にはそんなに上手くいくわけないって思っても、インドの実話が元ネタなので、単なる夢物語でもなく・・・。歌あり踊りありのサクセスストーリーは、インド映画の王道を行きつつも、女性科学者やオタクっぽい身近なキャラが、宇宙規模で大活躍するというスケールの大きな話で、うれしくなる。かなりくたびれたお爺さま科学者が、まだ50代との設定で、笑いました。(千)
2019年/インド/130分/G
配給:アットエンタテインメント
公式サイト:https://m-mangal.com/
★2021年1月8日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー