2020年12月25日
Swallow スワロウ(原題:Swallow)
監督・脚本:カーロ・ミラベラ=デイビス
撮影:ケイトリン・アリスメンディ
出演:ヘイリー・ベネット(ハンター)、オースティ・ストウェル(リッチー)
ハンターは裕福で優しい夫、リッチーと結婚して幸せ…なはずだった。しかし義父母からはあまり歓迎されず、肝心の夫は食事中も仕事の電話をし、ハンターの話にも上の空。豪邸に暮らしても話をする相手もなく、家事をするだけの毎日に孤独が募ってくる。そんなときに妊娠がわかり、夫も義父母も喜んでくれるが、ハンターの不安も寂しさも払しょくされることはなかった。ガラス玉を眺めているうちに、突然飲み込みたい衝動にかられてしまう。飲み込んだ後は自分が成し遂げたことに何とも言えない充足感があるのだった。ガラス玉に成功すると今度は画鋲、金具と危険な物に手を出すようになっていく。
内心「これはスリラーだったのか」「きゃー」と思いながら観ていました。こんな症状を異食症(いしょくしょう)といい、ストレスで感情や欲求がコントロールできなくなるのも一因だとか。心理療法で好転するようです。
妊娠すると精神的に不安定になりやすいものですが、ハンターの場合は家族がいながら不安を解消できません。家族との間に問題があるのではと、カウンセラーは彼女の生い立ちを聞き出します。何の問題もない、平気だと明るく振舞いながら実は大きな闇を抱えているハンターをヘイリー・ベネットが好演しています。シーンのたびに明るい色使いの衣裳で登場するハンターですが、独りぼっちで異物を飲みこむ彼女が痛ましい。高台に建つモデルハウスのような豪邸は、ハンターが捕らわれて誰とも交われない孤城に見えます。激昂して仮面がはがれる夫が怖かった。やっぱりスリラーかも。(白)
玉の輿に乗って幸せの絶頂にある主人公。ニューヨーク郊外に建つ、モダンで美しい邸宅は居間や寝室が全面ガラス張り。遠くまで見通せるのにそこから出られない。夫や義父母の重圧から精神的バランスを崩していく。他人事には思えない人はけっこういるのではないだろうか。主人公はひょんなことから異物を呑み込むことに快感を覚えてのめり込む。さすがにこの異食症の経験がある人は少ないだろうけれど、食べて排出したものを戦利品のように飾っている気持ちはわからなくはない。抱えるストレスが異物と一緒に排泄された気持ちになっているのではないだろうかと摂食障害を経験した者として感じた。
夫や義父母は主人公にカウンセリングを受けさせ、家事を代行する人を雇う。それは一見正しい対応のように見えるが、それよりも彼女の不安を受け止めてあげることが大事。もし、この作品を見て、周りに思いあたる人がいたら、その人の気持ちを受け止めてあげてください。(堀)
2019年/アメリカ・フランス/カラー/シネスコ/R15+/95分
配給:クロックワークス
Copyright (C) 2019 by Swallow the Movie LLC. All rights reserved.
http://klockworx-v.com/swallow/
★2021年1月1日(金)ロードショー
新感染半島 ファイナル・ステージ
監督:ヨン・サンホ
脚本:パク・ジュソク ヨン・サンホ
撮影:イ・ヒョンドク
出演:カン・ドンウォン(ジョンソク)、イ・ジョンヒン(ミンジョン)、クォン・ヘヒョ(キム)、キム・ミンジェ(ファン軍曹)、ク・ギョファン(ソ大尉)、キム・ドゥユン(チョルミン)、イ・レ(ジュニ)、イ・イェオン(ユジン)
謎のウイルスの感染爆発でによって半島が崩壊してから4年。元軍人のジョンソクは、家族を救えなかった後悔を抱え、香港で身を潜めて暮らしていた。そんなジョンソクと義兄に、2度と戻らないはずの半島へ潜入して、残された大金を手に入れる仕事が舞い込んだ。半島はさらに増殖したゾンビと、それを追い回す凶暴な民兵集団の戦いで地獄のような有様だった。一度はつかまりながらも逃げ出したジョンソクは両方に追い詰められる。彼を助けたのは、生き残っていたミンジョンとその娘たち。ここから脱出するわずかな希望にかけて、共に戦うことになった。
ヨン・サンホ監督は『新感染 ファイナル・エクスプレス』で初の実写映画、同じ年にその前日譚の長編アニメーション『ソウル・ステーション パンデミック』を送り出し、どちらもヒットしています。スピーディでドラマチックな展開に手に汗握った方も多かったことでしょう。
本作は、崩壊してしまった祖国から香港に逃げたジョンソクが半島に戻るはめになり、ゾンビだけでなく、もっと質の悪い人間たちに追われます。カン・ドンウォンが花美男(イケメン)っぷりを見せるまもなく、泥と血にまみれて闘い続けるのでファンの皆様は応援を。登場するゾンビたちは動きが速く、いつも飢餓状態なのでアクションが過激です。目を覆うような場面もあるので要注意。窮地に陥ったジョンソクに手を貸す母娘たちが、有能で、しかも強い!ロックダウンされた半島で生き抜いてきたのは伊達じゃない。母親も年端も行かない娘も車の運転技術は最高、銃の扱いもお手のもの、女性の活躍に溜飲がさがりますよ!乞うご期待!!(白)
★主演のカン・ドンウォンとヨン・サンホ監督のオフィシャルインタビューはこちらです。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』の続編ですが、登場人物に関連はありません。なので、前作を見ていなくても安心してご覧いただけます。
ゾンビものですが、ゾンビvs人間といった展開ではなく、理性のある人間vs理性を失った人間にゾンビが障害物として使われている感じといった方がいいかもしれません。極限状態に陥った人間の狂気はゾンビよりも怖い!
見どころはCG技術をたっぷり使って作り込まれたカーチェイス。ドリフトでゾンビを蹴散らしていく様は圧巻です。(堀)
2020年/韓国/カラー/シネスコ/116分
配給:ギャガ
(C)2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights Reserved.
https://gaga.ne.jp/shin-kansen-hantou/
★2021年1月1日(金)ロードショー
燃えよデブゴン/TOKYO MISSION(原題:肥龍過江 Enter the Fat Dragon)
監督:谷垣健治
脚本:ウォン・ジン
製作:ドニー・イェン、ウォン・ジン、コニー・ウォン
出演:ドニー・イェン(チュウ・フクロン)、ウォン・ジン(シウサー)、テレサ・モウ(フォンワー)、ニキ・チョウ(ソン・ホーイ)、ルイス・チョン(ファン警視)、竹中直人(遠藤警部)、丞威(今倉)、渡辺哲(東野太郎)、バービーほか
かつて香港に凄腕の刑事がいた。その名はチュウ・フクロン。熱血なあまり大事な約束をすっぽかして、婚約者に去られてしまった。おまけに彼の活躍の後、街の被害は甚大でついに外回りから外され、資料室へ転属になってしまう。これまでと違う環境で暴飲暴食を続け、今や体重は倍に、120㎏のデブゴンとなった…。しかし、その刑事魂は消えてはいない。日本人の容疑者を東京へ護送する任務が課せられ、遠藤警部と協力して巨大な陰謀に立ち向かっていくのであった。
「太っても強い」と言えば”デブゴン”です。我らがサモ・ハン御大を初めて映画で観たのは、カンフー・コメディ『燃えよデブゴン』(1978年)でした。そう、おんなじタイトルです。そして本作は、谷垣健治監督と主演・製作のドニー・イェンの、ブルース・リーとサモ・ハンへのオマージュが込められた作品とみました。香港のアクション映画をずっと観てきた身には、あの熱気が新しい味も加わって蘇った気がします。「あー面白かった!」と劇場を出たい方、これを見逃さないで。
ぽっちゃりというよりどっしり、に見える特殊メイクをすると、どれくらい重くなるのでしょう?谷垣監督にいろいろ伺ってみたかったのですが、今回取材の機会がありませんでした。残念。ドニー氏嬉々としてデブゴンになりきっています。
丞威(ジョーイ)さん、チェイニー・リン君のアクションにもぜひご注目ください。(白)
ドニー・イェンが演じるフクロンはポジティブで明るいキャラ。『イップ・マン』でドニー・イェンが好きになった身には同じ人間には見えませんでしたが、彼が嬉々として演じるので、見ているうちにいつの間にかこちらまで楽しくなってしまいました。
120キロの特殊メイクで作り上げたボディでもキレッキレのアクションを見せしまうところはさすがとしか言えません。クライマックスに東京タワーの鉄鋼部分で繰り広げるアクションはハラハラドキドキの連続です。
一般的には作品の途中で規格外に太った場合、元に戻って一件落着になることが多いと思いますが、本作ではそれはありません。ドニー・イェンの奥さまが「太っていることを否定するのはよくない。太っているとか痩せているという外見とその人の魅力は関係ない」と提案したからだそう。そして、監督も「太っていてもカッコいいものはカッコいいんだ」と言っています。
とはいえ、やっぱりいつもの体型でのアクションをご覧になりたい方へ。大丈夫です。冒頭の香港でのアクションはすっきりしたドニー・イェンを堪能できますのでご安心を!!(堀)
今年(2020)2月6日~9日まで台湾の十分(シーフェン)で行われた「平渓天燈上げ祭り」(ランタン祭り)に行って来た。新コロナウイルスの影響で、出発前日まで行くかやめるか迷ったけど、天燈上げ祭りは10年以上前から行ってみたかった祭りで、やっと今年、行く機会ができたのでツアーに参加した。今、思えば海外に行けたぎりぎりの日程だった。行けてよかった。
6日に台北に着いて、映画を観るとしたらこの日しかなかったので、着いて早々新聞を見たり、ネットで調べて、ドニー・イェンが出ているというこの『肥龍過江』を観ることにした。西門町の映画館、喜満客絶色影城にて鑑賞。この日が台北公開最終日で、しかも最終回上映だった。ぎりぎり間に合った。内容も全然知らず、監督が誰かも知らずに観始めたら、なんと東京が舞台で驚き。しかも日本人俳優もけっこう出ている。これは、きっと日本公開ありだなと思いながら観た作品だったけど、まさかお正月映画として1月1日に公開されるとはとはびっくり。谷垣健治さんが監督というのは、後で知った。
アンディ・ラウの太っちょ映画『痩身男女(ダイエット・ラブ)』のロケで、太っちょメイクの本人を新宿南口で見たことがあるけど、ドニーの太っちょ姿は、この時のアンディと似ている。もしかしたらあの特殊メイクは同じ人?なんて思いながら観た。『追龍』でアンディとドニーが共演した直後の作品だし、情報交換してそれも有りかも。それにしてもあの重い姿で、あの切れの良いアクション。すごい!!!(暁)
2020年/香港/カラー/シネスコ/広東語・日本語/96分
配給:ツイン
(C)2020 MEGA-VISION PROJECT WORKSHOP LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.
https://debugon-tokyo.jp/
★2021年1月1日(金・元日)よりTOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開
ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展(原題:A Night at the Louvre: Leonardo da Vinci)
監督: ピエール=ユベール・マルタン
2019-20年にかけて世界中から107万人が殺到し史上最多動員を記録、予約困難のプラチナチケットとなった、ルーブル美術館のレオナルド・ダ・ヴィンチ展。その空前絶後の大規模回顧展を、ルーブル美術館の全面協力のもと、誰もいない真夜中に撮影が行われた。
案内役を務めるのは、本展の準備に10年を費やした絵画部門主任学芸員ヴァンサン・ドリューヴァンと素描・版画部門統括学芸員ルイ・フランク。ルーブル所蔵の至宝は勿論、エルミタージュ美術館やヴァチカン博物館などが奇跡的に貸し出した天才ダ・ヴィンチの作品の数々と、担当学芸員自らが教える洞察、映画館上映のための高精細度カメラによる撮影、この機会だからこそ特別に実現した接写。大スクリーンに映し出される圧倒的映像美で、ダ・ヴィンチ芸術との“本当の“出会いを──誰もいない静寂につつまれた夜の、美の殿堂・ルーブル美術館が映し出される。
【劇中作品リスト】
「聖トマスの懐疑」*ヴェロッキオ作
「受胎告知」
「聖母と果物鉢」
「猫のいる聖母子の素描」
「ブノワの聖母」
「荒野の聖ヒエロニムス」
「岩窟の聖母(パリ版)」
「音楽家の肖像」
「ミラノの貴婦人の肖像(ラ・ベル・フェロニエール)」
「最後の晩餐」
「ほつれ髪の女」
「洗礼者ヨハネ」
「聖母子と聖アンナ(聖アンナと聖母子)」
「モナ・リザ(ラ・ジョコンダ)」
レオナルド・ダ・ヴィンチといえば「モナ・リザ」や「最後の晩餐」で有名ですが、もちろんもっとたくさんの作品が遺されています。本作ではレオナルド・ダ・ヴィンチの絵の才能にいち早く気づいた父親が息子をアンドレア・デル・ヴェロッキオに弟子入りさせたところから話を始め、ダ・ヴィンチ展で展示された絵画を順番に見せながら、彼の絵画の手法とその変遷を担当学芸員が解説します。さらに芸術だけでなく、数学、幾何学、解剖学、生理学、天文学、物理学、光学、力学などの分野にも才能を発揮したこと、それがすべて絵画のためだったことなども語られ、本作を見終わったときには、すっかりレオナルド・ダ・ヴィンチ通になっていること、間違いなしです。(堀)
ルーブル美術館で開催されたレオナルド・ダ・ヴィンチ展の会場を、この企画展を10年かけて実現させたルーブル美術館の職員の方が案内をするという、これ以上ない贅沢な解説つき鑑賞会がこの作品。20年ほど前、友人が1週間くらいかけてルーブル美術館を見学したという話を目を輝かせ話していたのを聞いて、いつか私も行ってみたいと思っていた。でもとうてい行くのは無理なので、この映画はまたとない良い機会だった。これまで有名な美術館を描いたドキュメンタリー作品をいくつも観てきたけれど、こんな贅沢な解説付き映画鑑賞会は初めての経験。
たくさんのダ・ヴィンチの作品と彼にまつわる話の数々。そしてルーブル博物館のいろいろな設備や、普通に行ったのでは見ることができない場所の案内。これを観て、なんとか行ってみたいと思ったのは私だけではないと思う。しかもレオナルド・ダ・ヴィンチ展を解説付きで見ることができて、至極の時をすごすことができた。
思えば「モナ・リザ」は、1度だけ日本に来たことがある。すごく並んで見た記憶がある。いつだったのか調べてみたら、1974年(昭和49年)で、東京国立博物館で公開されたとあった。後にも先にもこの1回だけ。よくは覚えていないけど、すごく並んだということは覚えている。でも見たのはほんの数秒だった(暁)。
2020年/フランス/5.1ch/カラー/デジタル/95分
配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
© Pathé Live
公式サイト:https://liveviewing.jp/contents/louvre/
★2021年1月1日(金・祝)より 全国順次公開
GOGO 94歳の小学生(原題:Gogo)
監督:パスカル・プリッソン
出演:プリシラ・ステナイ
プリシラ・ステナイは、3人の子供、22人の孫、52人のひ孫に恵まれ、ケニアの小さな村で助産師として暮らしてきた。皆から“ゴゴ”と呼ばれる人気者だ。ある時、彼女は学齢期のひ孫娘たちが学校に通っていないことに気づく。自らが幼少期に勉強を許されなかったこともあり、教育の大切さを痛感していたゴゴは一念発起。周囲を説得し、6人のひ孫娘たちと共に小学校に入学した。年下のクラスメートたちと同じように寄宿舎で寝起きし、制服を着て授業を受ける。同年代の友人とお茶を飲んで一息つき、皆におとぎ話を聞かせてやることも。すっかり耳は遠くなり、目の具合も悪いため勉強するのは一苦労…。それでも、助産師として自分が取り上げた教師やクラスメートたちに応援されながら勉強を続け、ついに念願の卒業試験に挑む!
パスカル・プリッソン監督は前作『世界の果ての通学路』で、危険な道のりを何時間もかけ通学する世界各地の子供たちのがんばる姿をスクリーンに映し出しました。本作では植民地時代の1923年に生まれ、他の少女たちと同様に学校に行くことを禁止された94歳の女性ゴゴがひ孫娘たちと一緒に小学校に通う姿を映し出します。数学や英語の授業、修学旅行、誕生日会など幼い仲間たちと過ごす学校生活を満喫するゴゴを見ていると、いくつになっても学ぶことは人に希望を与えるものだと伝わってきます。
ゴゴが幼いときは女性に学問はいらないと言われていたかもしれませんが、今なお学齢期に達しても学校に通っていない子どもがいることに驚きました。その理由として慣習や貧困だけではなく通学時に襲われる危険性もあるとのこと。寄宿舎を建てることでその危険性が避けられるのであれば、何とかしてあげたいと思わずにはいられません。(堀)
2019年/84分/G/フランス
配給:キノフィルムズ
© Ladybirds Cinema
公式サイト:https://www.gogo-movie.jp/
★2020年12月25日(金) シネスイッチ銀座ほか全国順次 公開