2020年12月11日
あこがれの空の下 教科書のない小学校の一年
監督:増田浩、房満満
撮影:岡本央
音楽:岩代太郎
語り:高橋惠子
何の変哲もない ちいさな小学校。
よくみると 無いものが たくさんあります。
広い校庭もない。チャイムも鳴らない。 いろんな儀式も形式もない。 教科書も使わない。
そして この学校にしかないものも、 たくさんあります。
物怖じしないで発言し どんなことでも話し合い
活き活きと 自然に伸びゆく子どもたち。
子どもたち 一人ひとりを見つめ、 一緒に歩む先生たち。
みんなを包んで 豊かに流れる時間。
考えてみれば、これって 本来は「あたりまえ」のこと。
「あたりまえ」って とっても大事。
世田谷の和光小学校に一年間製作チームが通いました。子どもたちと先生、毎日の授業や遊びや行事を丁寧に追ったドキュメンタリーです。この映画のHPの冒頭をそのまま引用しました。先生たちが子ども一人ひとりを見て、待つ姿勢があります。子どもたちはああしろこうしろと指図されなくても、必要なことを身につけていきます。自分の頭で考えて判断し、口に出してほかの人と話し合う。生きていく上で一番大切なことじゃないでしょうか?大人になったら自分の子どもを通わせたい、と言う子どももいます。
誰もが通える公立小学校で、子どもたちみんながこんな風に過ごせたらいいのに、と思います。それが他ではできないのはなぜなんだろう?と気づいただけでも、観る価値がありました。(白)
東京、世田谷区の私立和光小学校を描いたこの映画は日本で一番遅い入学式から始まる。ここでは入学式は先生でなく生徒たちが考え、会場の飾り付けやプレゼント作りを分担して準備する生徒たち手作りの入学式だから遅くなると解説が入る。厳粛な入学式ではなく、上級生たちの暖かい笑顔や、歌、踊りで迎えられる。最初から公立の学校と違う。
そして授業。教科書を使わないユニークな教育で知られる和光小学校では子どもたちの自主性を何よりも大切にする。教科書は配られるけれどほとんど使われないらしい。独自の教育哲学に基づいた教育を実践する同校では、広い校庭やチャイムなど「ない」ものがたくさんある。授業も学校生活も全て手作りで行われ、子どもたちは物怖じせずに発言し、どんなことでもクラス全員で話し合う。そんな生徒たちを、先生は見守り生徒の自主性にまかせる。そして必要だなと思ったところで助言する。運動会も全て子どもたちが仕切り、「行進」や「来賓の祝辞」などは無く、色分けしたチームの対抗戦で熱く盛り上がる。
6年生の総合学習のテーマは「沖縄」。自然や文化・歴史から基地問題まで広く学び、秋の学習旅行で現地を訪ねる。「沖縄」のことを知ることで、現代日本の抱えるさまざまな問題のつながりを知り、旅先の沖縄で生徒たちは話し合い、沖縄の抱える問題が、けっして自分たちと無関係でないと理解を深めた。それだけでなく、沖縄の文化を知り、沖縄の歌や踊りを卒業式で披露もする。小学生たちが自主的に、物事をこなしている様は見事でした。こんな風に学ぶことで、主張するだけでなく人の痛みを知る人間が育っていくんだなあと思い、こういう教育が広がっていくといいのになあと思ったドキュメンタリーでした(暁)。
2020年/日本/カラー/DCP・Blu-ray/101分
配給:パンドラ
© テムジン
http://xn--v8jxcq2f151q1vam0mt0xyuukq6d.jp/#/
★2020年12月19日(土)ユーロスペース
2週目ゲストも決定!! 10:00~の1回目上映終了後
12月27日(日) 岩代太郎さん(和光小学校卒業生/作曲家)
今から約10年前に卒業した和光小学校が、今も「答えのない疑問」に挑み続けている姿に、胸が熱くなりました。 岩代太郎(作曲家)
●ユーロスペース 初週タイムテーブル
12月20日(日) 10:00/12:20/15:10
12月21日(月)~25日(金) 10:00/12:15/14:30
私をくいとめて
監督・脚本:大九明子
原作:綿矢りさ
撮影:中村夏葉
出演:のん(黒田みつ子)、林遣都(多田)、臼田あさ美(ノゾミ)、若林拓也(カーター)、山田真歩、前野朋哉、片桐はいり(澤田)、橋本愛(皐月)
黒田みつ子、31歳。おひとり様ライフがすっかり板についた。おひとり様だけれど独りぼっちじゃない。みつ子の脳内には相談役の「A」がいる。AはアンサーのA。だから迷ったときや困ったときは「A」に尋ねる。答えが見つかる。いつまでもこの楽しく穏やかな日々が続くと思っていた…が、みつ子は年下の営業マン 多田くんが気になってきた。たまたま近所に住んでいるのがわかって、一人分も二人分も手間は一緒、と夕飯をおすそ分けしている。なんだかいそいそと料理をする自分にびっくりしている。これは恋なのか?もちろん「A」に相談し、恐る恐る前進してみることにした。
あの『勝手にふるえてろ』(2017)のタッグ(綿矢りさ原作&大九明子監督)が再集結した本作、みごと今年の第33回東京国際映画祭で観客賞を受賞!大九明子監督は“史上初”2度目の受賞を果たしました!! おめでとうございます!!!
これまでいろいろな役柄ののんさんを見てきましたが、本作ではとにかくよく喋る。ずっと喋る。
そばに誰もいなくても彼女の脳内には「A」がいるんです。この「A」の落ち着いた声がいいです。安心感倍増。「私はあなたなんですから」と毎回釘をさすのも忘れません。
そしていつもお腹を空かしている多田君が良い。のんさんも可愛いのですが、林遣都さんも超可愛いです。東京へ中3の修学旅行で来て、渋谷でスカウトされたそうですが、この子には注目するでしょう、納得。のんさんの親友皐月、イカした上司に先輩と魅力満載の皆様との会話がまた良い。お一人様のあなたも、年下彼氏がまだいないあなたも楽しめること請け合います。
気になる脳内相談役の「A」は映画を見ると明らかになります。私にも一人ほしい。
公式HPには「震えてる」ポスターやコラボのお知らせ、おまけつきムビチケ情報など盛りだくさんです。どうぞアクセスを。(白)
<先行公開!誰か「私をくいとめて」お悩み相談付き上映会イベント>
大九明子監督、可愛い衣裳と髪型のんさん
大九明子監督、可愛い衣裳と髪型のんさん
最近は聞かなくなりましたが、リア充という言葉は友人が多い上に付き合っている人がいて、彼らと楽しい日々を過ごしているというイメージがあります。その点では主人公のみつ子は完璧な非リア充。本人もそれを自虐的に語っている場面もありますが、本当にそうなんでしょうか。みつ子は冒頭で天ぷらの食品サンプルを作る体験教室に参加し、帰りにデパ地下で天ぷらを買って帰り、美味しい夕飯で締めくくっていました。また別の日はお一人様焼き肉を楽しむなど、週末は興味や気分に合わせて出掛けています。何だかとっても自由に見える。これもまたある種のリア充ではないかって思えてきます。
大九明子監督が描く主人公はいつもこんな感じ。ちょっと世間一般からは外れているのですが、彼女たちは生きることに不器用ですが、いつもちゃんと地面に足がついています。だから共感してしまうんでしょうね。
さて、今回の恋の相手はみつ子と同じように、生きることに不器用そうな年下の男性。林遣都が演じています。イメージどんぴしゃりです。2人のやり取りは「ここははっきり言っちゃいなさいよ」と見ていてハラハラというか、イライラというか(笑)。最後まで目が離せません。(堀)
2020年/日本/カラー/シネスコ/133分
配給:日活
(C)2020「私をくいとめて」製作委員会
https://kuitomete.jp/
★2020年12月18日(金)
また、あなたとブッククラブで(原題:Book Club)
監督・共同脚本・製作:ビル・ホールダーマン
出演:ダイアン・キートン(ダイアン)、ジェーン・フォンダ(ビビアン)、キャンディス・バーゲン(シャロン)、メアリ・スティーンバージェン(キャロル)、アンディ・ガルシア(ミッチェル)、ドン・ジョンソン(アーサー)、クレイグ・T・ネルソン(ブルース)、リチャード・ドレイファス(ジョージ)
40年連れ添った夫に先立たれたダイアン、娘たちの心配が煩わしい。事業を成功させ自由な独身貴族のビビアン。何十年も前の離婚をひきずる裁判官のシャロン。夫が退職して無気力になり、35年を経た結婚生活に危機感を覚えているキャロル。4人はそれぞれの悩みを抱えながらも、読書にいそしむ”ブッククラブ“を続けて友情を大切にしてきた。回り持ちで一冊を決めて、次の回までに読んでは感想を述べあうのが決まり。
ビビアンが選んだのは刺激的な官能小説の「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」。この本は彼女たちの日常を忘れさせ、積極的で大胆な行動を後押しする。
ハリウッドの映画界を牽引してきた女優たち、全員がアカデミー賞Rまたはゴールデングローブ賞を獲得しています。4人が互いに励まし合い、幸せになることを願う親友という設定。インタビュー動画によれば、撮影後も連絡を取り合って仲良くしているのだとか。彼女たちの恋やロマンスのお相手となる男優たちも4人。なんと豪華な組み合わせ!生まれ年をご紹介しますと、ダイアン・キートンとキャンディス・バーゲン1946年、ジェーン・フォンダ1937年、メアリー・スティーンバージェン1953年生まれ。それぞれ若いころからの作品を観ていますが、みなさん年齢を重ねても綺麗で魅力的です。役柄がリッチな方々だからこのキャリア、この余裕なのですが、映画ですもん。綺麗で華やか、ロマンチックなお話でいっとき楽しみたいときがありますよね。日本でもこんな風にシニアのスターたちが輝く映画を作っていただけないでしょうか。老人ホーム設定でなくって。
お題となった官能小説「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」は、日本でも翻訳書が出ていますが、この原作を面白がる体力が日本のシニア世代にあるでしょうか?? 私は映画のほうを観ました。新人ながら主演を務めたダコタ・ジョンソンは、ビビアンの元カレ役のドン・ジョンソンの実の娘です。母はメラニー・グリフィス。(白)
ダイアン・キートンは相変わらずシニアのファッションリーダーとして君臨しているのを改めて感じさせます。歳を取ってもこんな風な着こなしができたら素敵! 年齢的にはダイアン・キートンのさらに上をいくジェーン・フォンダが若返りのエクササイズとしてワークアウトをする本やDVDが話題になったのはもうかなり前になりますが、まだまだ素晴らしいプロポーションを維持していることに驚きます。
ダイアン・キートンが演じたダイアンはパイロットと恋に落ちます。相手役はアンディ・ガルシア。ちょっと待って、アンディ・ガルシアは1956年生まれでダイアン・キートンよりだいぶ年下だけれど、すでに64歳。その年齢で機長ってシニア契約職員なの?と考えるのは無粋なこと。キャンディス・バーゲンが演じたシャロンがお付き合いしかける男性は会計士でしたし。どこの国でもパイロットや士業はカッコいい男性の代名詞なのでしょう。(堀)
本作の監督・共同脚本・製作を務めたビル・ホールダーマンは、1977年4月6日生まれ。共同脚本で、企画開発や女優としても活躍しているエリン・シムズも、1976年生まれの40代。長年ロバート・レッドフォードの製作会社で映画製作に関わってきた二人が描いたのは、実に、二人の母親世代の女性たちの生き生きとした第三の青春時代! 自分たちの母や義理の母に触発されて人物像を描いたそうです。
私も気がつけば、このブッククラブのメンバーと同世代。自分の歳に驚き、さらに鏡を見れば歳相応だなぁ~とがっかりしますが、気持ちはいつまで経っても若い頃とあまり変わりません。『また、あなたとブッククラブで』に勇気づけられて、ときめきを求めて頑張りたくなりました♪ (咲)
2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/104分
配給:キノフィルムズ
(C)2018 BOOKCLUB FOR CATS, LLC ALL RIGHTS RESERVED
https://bookclub-movie.jp/
★2020年12月18日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほか全国順次公開
ブレスレス(原題:Hundar har inte byxor)
監督・脚本:ユッカペッカ・ヴァルケアパー
出演:ペッカ・ストラング(ユハ)、クリスタ・コソネン(モナ)、オーナ・アイロラ、ヤニ・ヴォラネン
外科医のユハは愛する妻と娘と湖畔で夏の休日を過ごしていた。娘のエリの泣き声でうたた寝からさめると、泳いでいるはずの妻の姿がない。ようやく見つけ出した妻は、水底の網に足がからまってすでに亡くなっていた。以来、救えなかった自責の念にかられ、無気力な日々を送り10数年が経った。
エリがピアスの穴開けをするのに店まで送ったユハは、知らずに隣のSMクラブに迷い込んでしまった。そこにいたのはボンデージ姿のドミナトリクス(女王様)のモナ。ユハは客と間違えられ、痛めつけられて首を絞められる。朦朧とする意識の中で、水中のイメージを見る。その先には妻がいる。初めて死んだ妻に近づく手段を知ったユハは翌日からクラブに通うようになり、プレイは次第にエスカレートしていった。
エ、エスエム?SM!禁断の世界だ…と恐る恐る観ましたら「失くした果てに 溺れる刹那な痛み。呼吸も止まるくらいに美しい愛と再生の物語」と惹句にあるように、形は違えど「人を恋い、もっと愛したい」と願う恋愛劇でした。痛いシーンはありますが、合間合間に美しい映像がはさまれます。並べられた花、ガラス玉、エリの部屋の星や惑星。音楽も優しいのです。趣味嗜好は双方が納得すれば関知するものではありません。ただし拒否しているのに無理矢理は暴力・虐待・犯罪ですからね。
ユハを演じるのは『トム・オブ・フィンランド』のペッカ・ストラング。妻を愛するあまり死んでも追いかける狂気も垣間見せます。娘の存在を忘れてない?と突っ込みたくなりますが、娘のほうがよほどしっかりしていました。
モナはクリスタ・コソネン。昼間は整体師、夜は女王様の二つの顔を持ったモナが、初めてユハに生の感情を見せるシーンにきゅんとします。
原題は「犬はパンツを履かない」という意味で、モナが”犬のユハ”に投げた言葉。(白)
主人公を襲う悲劇からスタートしますが、その悲劇を幻想的な美しい映像で映し出すことで悲しみをより強く感じさせる。冒頭から北欧作品らしさが炸裂しています。
娘がピアスの穴を開けるのを待つ間に、近所にあった怪しげな店が気になり、真面目な外科医がSMの世界に足を踏み入れます。人生どこで何があるか分かりませんね。倒錯した時間に湖に沈む網に足を捕らわれて亡くなった妻の面影を見てしまい、主人公は妻に会いたい一心で、それこそSMの沼にはまっていきます。
SMという言葉こそ知っていましたが、主人公が行うプレイは大胆極まりなく、映像でここまではっきりと描いた作品は稀かもしれません。嫌悪感を覚える人もいるでしょう。実は私がその1人。しかし、意外にも後味は悪くなく、純愛映画を見た気分でした。(堀)
2019年/フィンランド・ラトビア合作/カラー/シネスコ/110分
配給:ミッドシップ
(C)Helsinki-filmi Oy 2019
https://breath-less.com/
★2020年12月11日(金)ロードショー