2020年12月08日

ハッピー・オールド・イヤー(原題:ฮาวทูทิ้ง..ทิ้งอย่างไรไม่ให้เหลือเธอ英題:Happy Old Year)

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監督・脚本・プロデューサー:ナワポン・タムロンラタナリット
撮影監督:ニラモン・ロス
編集:チョンラシット・ウパニキット
ラインプロデューサー・衣装デザイン:パッチャリン・スラワッタナーポーン
音楽:ジャイテープ・ラールンジャイ
出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、サニー・スワンメーターノン、サリカー・サートシンスパー、ティラワット・ゴーサワン、パッチャー・キットチャイジャルーン、アパシリ・チャンタラッサミー

第15回大阪アジアン映画祭 グランプリ(最優秀作品賞)
第49回ロッテルダム国際映画祭 Voices Main Programme選出
第10回北京国際映画祭 パノラマ部門正式出品
第25回釜山国際映画祭 A Window on Asian Cinema正式出品
第14回アジア・フィルム・アワード 主演女優賞・衣装デザイン賞ノミネート

タイ・バンコク。スウェーデンに留学していたデザイナーのジーンは、帰国後、母と兄のジェーと3人で暮らす自宅のリフォームを思い立つ。かつて父が営んでいた音楽教室兼自宅の小さなビルを、北欧で出会った“ミニマルスタイル”なデザイン事務所にしようというのだ。しかし、ネットで自作の服を販売する兄は“ミニマルスタイル”をよく分かっておらず、母はリフォームそのものに大反対!内装屋の親友・ピンクには、年内中に家を空っぽにするよう諭されるが、残された時間は1ヶ月弱…。
家じゅうに溢れかえるモノを片っ端から捨てて “断捨離”をスタートさせるジーン。image雑誌や本、CDを捨て、友人から借りたままだったピアス、レコード、楽器を返して回る。しかし、元恋人エムのカメラ、そして、出て行った父が残したグランドピアノは捨てられず…。いよいよ年の瀬。果たしてジーンはすべてを断捨離し、新たな気持ちで新年を迎えることが出来るのか?

ジーンがイメージする空間は白が基調になっていて、物が極力排除されてとてもシンプル。確かにこんな部屋に暮らしてみたい。しかし、思い切った断捨離は家族や友人の反感を買うことも。すごく欲しがっていたからプレゼントしたものを、もういらないとあっさりゴミ箱行きにされたら、いい気持ちはしないだろう。また断捨離した人には思い入れがなくても、一緒に暮らす家族にとっては大切なものもある。
私ははっきりいって片づけが苦手。もしかしたら何かで使うかもしれないと、何でもかんでも取って置くところがある。作品を見ていると断捨離もほどほどが大事だと伝わってきて、物を処分できない私を肯定してくれたような気持ちになれた。もちろん物を溜めておくのもほどほどにしておくべきですけれど。。。(堀)


チュティモンはデビュー作『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』の天才女子高生が印象的でした。モデルから女優になった人なので、今度の作品のすっきりした立ち姿や着こなしに片鱗が見えます。日本のナチュラル系ファッション誌に出てきそう。
どんどん捨てるジーンでも、大事な人や思い出に繋がるものは捨てにくい。クールに見えた彼女にもそんな面があり、共感を呼びます。
転勤族だったころ2,3年に一度は引っ越し、そのたびに不用品を処分しました。動かなくなったら貯まるのは皮下脂肪と同じ。元々あまりない管理能力を越えると、どこに何があるか把握できず探し物が増える→見つからなくて買う→出てくる→モノが増える。さすがに反省して、自分でリミットを決めました。ほんとに実行できるかが問題。(白)


『ハッピー・オールド・イヤー』を3月の大阪アジアン映画祭で見逃し、グランプリを取ったと聞いて残念に思っていたけど、日本公開が決まって嬉しかった。ナワポン・タムロンラタナリット監督のことは2016年の大阪アジア映画祭『フリーランス』という作品で知った(シネマジャーナル97号で紹介)。これは4日間徹夜仕事をしていたフリーのグラフィックデザイナーの男が病を発症するというような物語だった。主人公を、この作品の主人公ジーンの元恋人役を演じていたサニー・スワンメーターノンが演じていた。
『ハッピー・オールド・イヤー』の主人公もデザイナーで、実家を理想的な事務所にするため、母親の反対を押し切って、モノにあふれた家の“断捨離”を進めてしまう。こだわりなく一度は全てを手放そうとした彼女だったけど、洋服やCD、楽器など捨ててさっぱりするつもりだったのに、友人から借りたままだったモノを返して廻ることになってしまった。友達の反応は千差万別。最初の友達は返してほしいといったけど、ほかの友達は「いまさら」というような反応。なんだかすっぱりと断ち切れなくなってしまった。かつての恋人エム(サニー・スワンメーターノン)から借りたカメラを見つけ、宅急便で送ったけど受け取り拒否で返ってきた。なかなか“断捨離”は進まない。それにしても、贈られたものを返すというようなことは日本では考えられないと思った。タイではそういうのは普通にあるのだろうか。これを観ながら、文化の違いというのも考えた。我が家も大掛かりな“断捨離が必要なんだけど、減るどころか増えるばかり。思い切った策が必要ですね(暁)。


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2016大阪アジア映画祭『フリーランス』上映時 撮影 宮崎暁美
左 ナワポン・タムロンラタナリット監督 右 サニー・スワンメーターノン

2019年/タイ/1:1.5/113分
配給:ザジフィルムズ、マクザム
(c) 2019 GDH 559 Co., Ltd.
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/happyoldyear/
★2020年12月11日(金)シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
posted by ほりきみき at 22:29| Comment(0) | タイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

戦車闘争 

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監督・撮影・編集:辻 豊史
プロデューサー: 小池和洋
ナレーター:泉谷しげる

ベトナム戦争終盤を迎えていた 1972 年、アメリカ軍は破損した戦車を神奈川県相模原市の在日米陸軍相模総合補給廠で修理し、再び戦地に送るべく横浜ノースドックへ輸送していた。それを知って「アメリカの戦争に日本が加担するなんて許せない!」と憤った市民がノースドック手前の村雨橋で座り込みを敢行、戦車の輸送は断念された。この事件をきっかけに相模総合補給廠の前にはテントが立ち並び、およそ 100 日間におよぶ抗議活動がはじまる。映画『戦車闘争』は、抗議活動参加者、機動隊員、地元商店主、運送会社社員、市議会議員など座り込みをしていた側から彼らを排除する側、活動に巻き込まれてしまった立場までのあらゆる当事者やジャーナリスト、専門家など総勢 54 人の証言によって、日本現代史上希に見る約 100 日間の闘争の顛末を明らかにする白熱のドキュメンタリー映画である。

ベトナム戦争で使われた戦車を相模原市で修理していたことも、それを再び戦地に送ることを阻止しようとした市民がいたことも知りませんでした。いろいろな形で関わった人たちが次々と登場し、当時のことを振り返ります。話を聞いているうちに、座り込みをしていた人たちが一枚岩ではなかったことが分かってきました。同じように阻止しようとしていても、立場が違うと考え方がこんなにも違うのかと驚きます。
また、市民vsアメリカ軍でもなかったことも分かってきます。戦車の修理をしていたのは3500人の日本人技術者たち。座り込んだ人たちを排除しようとしたのは日本の機動隊。そして、車両制限令で重量オーバーだった戦車やトレーラーの通行を禁止できていたのに、「車両制限令は米軍と自衛隊は不適用」と政令改正したのは閣僚たち。その結果、戦車の搬出を請け負った民間の運送業者。さまざまな立場が入り乱れます。
作品の後半は戦車闘争そのものだけでなく、日米安保条約や日米地位協定、そして憲法第九条について、いろいろな立場から解釈が繰り広げられます。岸信介が極東の範囲をふわっとさせて、憲法第九条と日米安保条約を両立させたのに、孫が台無しにしたなどと結構、過激な発言もあり、最後まで興味深いです。(堀)


1969年~1970年頃、高校生だった私はベトナム戦争に反対し、べ平連のデモに何度か参加していた。べ平連は各地の市民がべ平連を名乗り、地域単位だったり、職場単位、学校単位と、様々な形で存在した。そして、あちこちの地域でベトナム戦争に反対しべ平連デモが行われていた。私は同級生に誘われ都内でのデモに参加していたが、この映画にも出てきた小田実さんや吉岡忍さん、和田春樹さんなども参加していたので、いわゆる中心的な行動に参加していたのかもしれない。そのデモにはヘルメットに角棒を持った学生運動の人たちも参加していたこともあったので、「ベトナム戦争に反対する」誰でもが参加自由のデモだったのでしょう。その程度の意識ではあったけど、あの当時は「戦争に反対する」気持ちを持ったたくさんの人たちが行動していた。まだ高校生であまり詳しくは知らなかったけど、一枚板ではなく、それぞれの単位で行動していたように思う。社会党や共産党など党派系、学生運動各派、そして市民運動というように。
ベトナム戦争は1975年に終わったが、その間、日本にあるアメリカ軍の基地からは、ベトナムに向け兵士や武器、戦闘機などが運ばれていた。沖縄からが多かったが、日本各地にある米軍の基地から運ばれていた。その中で相模原市にある在日米陸軍相模総合補給廠から、戦車が修理され運ばれているということがわかり、1972年に相模総合補給廠の門の前にたくさんの人が阻止のため座りこみをしたというのは知ってはいたけど、ここには参加しなかったので、こんな風に党派を超えてたくさんの人たちが座り込んでいたというのは知らなかった。このドキュメンタリーで知った。当時のことを知っている人からすれば、これはすごいことだと思う。「アメリカの戦争に日本が加担するなんて許せない!」という思いは同じでも、その人たちがこの一箇所にまとまって100日もの阻止を続けたというのは画期的なこと。それにしても、この100日間に渡った「戦車闘争」のことは、これまで知られてこなかったことが多いと感じた。当時、どの程度、新聞やTVなどで報道されていたかというと、余り多くなかったと思う。そういう意味でこのドキュメンタリーは大きな役割を果たしている。映像記録として残すことで、バラバラの個人の記憶として残っていた状況を総合的に記録として残し、参加しなかった人や、このことを知らなかった人の記憶にも残っていく。
これを観て、この「アメリカ軍」に対する闘争で闘わされていたのは日本人同士、これは今の辺野古の闘争も通じると思った。反対する市民、機動隊、工事や運搬をする日本人がアメリカ軍のために闘わされている。50年近く前も、今も同じことを繰り返している。経済的に基地に頼らざるを得ない地元の人の思いと、危険との隣り合わせ。米軍と日本政府の対応は変わっていない(暁)。


2020 年/日本/DCP/104 分/ドキュメンタリー
配給:マーメイドフィルム/コピアポア・フィルム
(C)2020 戦車闘争の映画をつくる会/フィルム・クラフト
公式サイト:https://sensha-tousou.com/
★2020年12月12日(土)より、ポレポレ東中野、あつぎのえいがかんkik他、全国順次ロードショー
posted by ほりきみき at 22:19| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢(原題:The High Note)

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監督:ニーシャ・ガナトラ
脚本:フローラ・グリーソン
出演:ダコタ・ジョンソン(マギー)、トレイシー・エリス・ロス(グレース)、 ケルビン・ハリソン・Jr.(デイヴィッド)、アイス・キューブ(ジャック)

大物歌手グレースの下っ端アシスタントとして、日々雑用に追われるマギー。地方のラジオ局でDJをしている父のもとで培ったおかげで、音楽を聴き分ける耳がある。いつか音楽プロデューサーになりたいと、ひそかにリミックスを作っては憂さを晴らしている。
グレースはすでに功成り名遂げた重鎮だけれども、新曲への意欲も失っていない。マネージャーはツアーの日々をやめてラスベガスでの長期公演を薦めるが、現役から引退するような気がして頷けない。マギーはそんなグレースを見て、ついアシスタントの立場を忘れてしまう。

この主人公のマギーを演じたダコタ・ジョンソンの両親は、ドン・ジョンソンとメラニー・グリフィス。素晴らしい歌声を聞かせるグレース役のトレイシー・エリス・ロスの母はダイアナ・ロス。親の良いところを受け継いで、七光りだけでなくさらに努力して自分の魅力として生かしてきたのでしょう。
ケルビン・ハリソン・Jr.は『ルース・エドガー』と『WAVES/ウェイブス』で主演をつとめ、一躍注目の若手となりました。本作ではマギーを魅了する歌声を披露していますが、ピアノもトランペットも演奏するのだそうです。おまけにイケメンで、天はいくつもギフトをくれたようです。
誰かと一緒に劇場に行ったら観終わって「良かったね~」と言いたくなりますよ。突っ込みなしで。まさに「これぞ映画!」な映画です。
しかし、アシスタントってたくさんすることがあるんですね。おまけに何人もいる。気が利かなくては務まりません。忘れ物と無くし物の多い私には絶対できないわ。(白)


タイトルから主人公は2人のように思えますが、実は夢を叶えようとするのは3人。それぞれの夢を2人で叶えようとするのです。
ハリウッドの音楽業界に君臨する歌姫グレースの付き人として働くマギーは、ずっと憧れてきた人の下で働けていることを幸運と感じながらも、音楽プロデューサーになる夢を諦めきれません。過去のヒット曲のリミックスではなく、新作のアルバムを出したいグレースを勝手に後押ししようとして出しゃばったことをしてしまい、非難されます。そんなときマギーはアーティスト志望の青年デヴィッドに出会い、プロデューサーだと偽って彼をプロデビューさせようとします。
マギー、グレース、デヴィッド。それぞれが夢を叶えるために奮闘し、挫折を味わい、再び立ち上がる。コロナ禍の今、どんな状況でも夢は諦めなくてもいいと元気をもらえること請け合いの作品です。(堀)


日々アシスタント業務に明け暮れながら、音楽業界で自分の居場所を切り開きたいマギーには、脚本を書いたフローラ・グリーソンの若い時の下積み時代が投影されています。トップスターとして君臨するのも、男性ではなく女性をあえて据えたフローラ・グリーソン。映画化が決まり、プロデューサーが監督として選んだのがニーシャ・ガナトラ。フローラはニーシャのことを「彼女は女性がどのように働き、女性同士がどのように支えあっているかを、繊細に、面白く、魅力的に描くのが上手い」と語っています。
社会で確固たる成功した居場所を得る女性は、残念ながらまだまだ少ないけれど、頑張れば夢は叶うという元気を貰える物語。マギーとグレースが、とても輝いていて素敵です。(咲)


ハリウッドのことはよく知らないので、主人公を演じた二人の女優さんがどんな活躍をしてきたかとか、二人の両親も映画や音楽で活躍してきた芸能一家だということはよく知らなかった。でも、ダイアナ・ロスの名前くらいは知っている。アメリカも二世俳優がけっこういるのだなと思った。トレイシー・エリス・ロスは、本業は歌手ではなく、女優やファッションデザイナーとのことだけど、なんと歌がうまいんだと思った(本人が歌っているのよね?)。やっぱり血筋なのかな。
音楽業界での話しではあるけど、ベテラン歌手がかつてのヒット曲で生きているというのは、日本でも中尾ミエが「1曲ヒット曲があれば、それで一生食べていけるのよ」と言っていたけど、やっぱりどこの国でもそうなんだと思ってしまった。私自身のファン心理として、やっぱりファンである歌手のコンサートに行ったとき、新しい知らない曲より、古いなじみのある曲を歌ってくれないかなとどこかで思っている。それでも新しいことに挑戦する姿勢は応援する。きっとファンならそう思うんじゃないかな。二人の挑戦に賛辞を送りたい。成功しないかもしれないけど、やはりその気持ちが勇気を与えてくれる(暁)。

2020年/アメリカ、イギリス合作/カラー/シネスコ/114分
配給:東宝東和
(C)2020 UNIVERSAL STUDIOS
https://www.universalpictures.jp/micro/next-dream
★2020年12月11日(金)ロードショー


posted by shiraishi at 19:09| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする