2020年12月30日

ハッピー・バースデー 家族のいる時間(原題:Fete de famill)

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監督・脚本:セドリック・カーン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ(アンドレア)、エマニュエル・ベルコ(クレール)、ヴァンサン・マケーニュ(ロマン)、セドリック・カーン(ヴァンサン)

アンドレアの70歳の誕生日。夫のジャンと孫娘のエマと、いつもは穏やかに暮らしているが今日は特別。長男ヴァンサンの家族が早くからやってきてお祝いの食卓準備をしている。気のいい次男ロマンはまた違う恋人ロジータとカメラを持ってやってきた。家族が揃ったところを映像に残すのだという。クレールから電話が入った。3年前に一人娘エマをアンドレアに預けて出たまま音沙汰がなかった長女だ。
久しぶりに家族が揃い楽しい祝宴になるはずだったが、情緒不安定なクレールの言動が混乱を引き起こす。

カトリーヌ・ドヌーブは、1943年生まれ。『シェルブールの雨傘』(1967年)で有名女優の仲間入りを果たしてから半世紀余り。フランスの大女優としてすっかり貫禄がつきました。近年も『アンティークの祝祭』、是枝裕和監督の『真実』に出演し、いつまでも主役の存在感を見せました。本作でも家族の中心で、めんどくさい長女のクレールをしっかり受け止めて揺るぎません。フランス南西部の陽光、邸宅のインテリアや何気ない衣裳も素敵です。
日本の女優で70代というと吉永小百合、富司純子、松原智恵子、三田佳子、宮本信子、加賀まりこさんたちが思い浮かびますが、みんなが主演とはいきません。つい先日ベテランのハリウッド女優たちの『また、あなたとブッククラブで』が公開されたばかりですが、日本でもぜひ元気なシニアの映画を切望。(白)


フランス南西部の郊外の邸宅に住む母親。長男一家、次男カップルが母親の誕生日を祝いに集まってきます。そこに、3年前アメリカに行ったままだった長女が突然帰ってきます。
感情の起伏が激しく、周りが驚くような行動を起こす長女。飽きっぽく、それなりの年齢にもかかわらず定職についておらず、今は映画監督志望の次男も大人としての分別のある行動が取れません。2人に未熟さを感じます。とばっちりを受ける長男が気の毒になってきます。なぜこんなことになってしまったのだろう…。
何かトラブルが起きても、母親はその問題に正面から向き合ってこなかったことが次第に分かってきます。子どものためと見せて、本当は自分が面倒なことや傷つくことを避けたかったからかも。でも、どんな家族でも多かれ少なかれ同じようなことがあるのではないでしょうか。登場人物たちにイライラしつつも目が離せません。
つけが溜まった主人公一家がどうするのか。ぜひ作品をご覧ください。(堀)


2019年/フランス/カラー/ビスタ/101分
配給:彩プロ、東京テアトル、STAR CHANNEL MOVIES
(C)Les Films du Worso
https://happy-birthday-movie.com/
★2021年1月8日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
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2020年12月29日

おとなの事情 スマホをのぞいたら

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監督:光野道夫
原作:映画“Pefettie Sconosciuti”
脚本:岡田惠和
撮影:須藤康夫
音楽:眞鍋昭大
出演:東山紀之(小山三平)、常盤貴子(園山薫)、益岡徹(六甲隆)、田口浩正(園山零士)、木南晴夏(向井杏)、淵上泰史(向井幸治)、鈴木保奈美(六甲絵里)

ある事情で知り合い、毎年食事会を催している三組の夫婦と中年の独身男性。今回も賑やかなパーティでお酒もほどよく回ったころ、一番若い向井杏が「今からスマホをスピーカーにして、届いたメールも公開しよう」と提案する。ほかのみんなは内心ギョッとするものの、作り笑顔でしぶしぶ応じることになった。それからスマホが鳴るたびに戦々恐々。こんなときに限ってかかってくる電話、隠しておきたい秘密がさらされて、楽しいはずのゲームは修羅場と化していった。

イタリアのコメディ映画『おとなの事情』(Perfetti sconosciuti)は2016年制作。日本では翌17年に公開されました。7人の男女が食事会に集い、スマートフォンをテーブルに出してゲームをしようというところは同じ。スマホの機能がどんどん向上し、世界中に普及している今、このドラマは他人事でなかったのでしょう。18か国でリメイクされたとか。各国の暮らしぶりを反映した作品になっているはずで、どれどれと見比べたいものです。日本版は芸達者な俳優陣が集まって、重くなりすぎずにまとまりました。
笑って済むなら良いけれど、これで人間関係にヒビが入ったり後々まで響いたりするなら困ります。秘密がなければいいんですけどね。あなたとあなたのスマホは大丈夫ですか?
スマホだけでなく、パソコンもたくさんのサイトに登録しパスワードを使っています。もし急に倒れたりしたら、本人が使えないのに有料サイトの会費引き落としが続くということもあります。亡くなっても死亡証明書一つではすまないそうで、これはなんとかしなくてはと目下の懸案事項。(白)


セレブな医者夫婦、パラリーガルの夫とパート務めの妻、カフェレストランの雇われ店長の夫と獣医の妻という3組の夫婦と1人の独身男性が集まってテーブルを囲む。結婚間もない獣医妻が夫を信じられなくなり、夫婦間に秘密はあるのかと他の夫婦に疑問を投げ掛けた。
気持ちは分かる。雇われ店長の夫はちょっと女にいい加減そうですから。しかし、夫婦間で秘密は持たないことと、みんなの前でスマホをオープンにするのは意味が違う。他人には言えない夫婦としての秘密もあるはず。と思いながら見ていましたが、誰もそんなことは気にしません。こんなときに限って、この人からこんな連絡が…ということが次々起こり、見ているこちらはほとんどワイドショー感覚。独身男性も含め、パートナーとの関係に亀裂が入ったかのように見せて、それぞれの機微に触れた修復が見事です。特に益岡徹と鈴木保奈美が演じたセレブな医者夫婦は夫婦の絆が深まったかもしれません。
東山紀之が無駄にイケメンで人が良すぎる中年男性を演じているのがとても新鮮!(堀)


2021年/日本/カラー/シネスコ/101分
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
(C)2020 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.
https://www.otonanojijo.jp/
★2021年1月8日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 13:42| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット

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監督:南部充俊
撮影:千葉真一
音楽:青柳拓次
出演:菅谷晋一、ザ・クロマニヨンズ(甲本ヒロト、真島昌利、小林勝、桐田勝治)、THE OKAMOTO’S(オカモトショウ、オカモトコウキ、ハマ・オカモト、オカモトレイジ)、青柳拓次、VLADO DZIHANほか

デザイナーの菅谷晋一は元々大学では建築を学び、卒業後は家業の町工場を手伝った。デザインは全くの独学でどこにも属さず、今もたった一人でものづくりをしている。南部充俊監督は自分の会社のロゴマークデザインを菅谷に依頼している。好きなことを仕事にし20年続けている菅谷の生き方に共鳴して、自ら監督として菅谷に密着した。作品の製作過程を記録したドキュメンタリー。

見覚えのある絵柄にこの人が描いていたのか!と興味深々。技法が多岐にわたっているというのに、アトリエが整然としているのにまずびっくりしました。モノづくりを始めると(私は)周りにあれこれ積みあがったり拡がったり、どんどんモノが増えていってしまいます。菅谷さんは頭の中にすっかりイメージが出来上がっていて、必要なものがすぐに取り出せて無駄がないのでしょう。ああ羨ましい。作っている間中楽しそうで、迷って悩む風もありません。物腰も柔らかく、それでいてきっぱりと納品します。
レコードジャケットは最初に目にする手にできる「情報」で、デザインはとっても大事なんです。ジャケ買いするほど。菅谷さんの一見ヘタウマ風のデザインはすごく印象的です。中身とぴったりで「これ面白そう」な感じがするんですよね。
高校の美術の時間、一度だけレコードジャケットを作りました。いろいろな文字を組み合わせて作った、たった一枚のレコードジャケット、どこへいっちゃったかな。(白)


菅谷晋一さんは絵を描き、オブジェを作り、版画を刷り、写真を撮り、コラージュをし、映像のディレクションまで、ビジュアルをあらゆる手段で表現し、ザ・クロマニヨンズ、OKAMOTO'Sなどのアートワークを手がけてきました。
作品ではザ・クロマニヨンズの13枚目となるアルバム「PUNCH」の制作に密着しながら、本人やこれまで菅谷さんと仕事をしてきたザ・クロマニヨンズとOKAMOTO'Sのメンバー、関係者のインタビューを織り交ぜながら、菅谷さんのアートワークの「つくりかた」を紐解いていきます。
菅谷さんのソフトな話しぶりから穏やかな人柄が伝わってきます。しかし、ザ・クロマニヨンズとOKAMOTO'Sのメンバーが口を揃えて話すには、菅谷さんは捨て案を一切用意せず、自信を持って完成した作品を提出するとのこと。プロとしての矜持を感じます。最新作はボルト2つをデザインしたものですが、なぜボルトなのか。その謎は作品の最後に明らかにされ、菅谷さんの仕事に対する意識の高さを改めて感じました。(堀)


2020年/日本/カラー/96分
配給:SPACE SHOWER FILMS
(C)2020「エポックのアトリエ」製作委員会
https://epok-film.com/
★2021年1月8日(金)ロードショー
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2020年12月28日

チャンシルさんには福が多いね(原題:Lucky Chan-sil) 

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監督・脚本: キム・チョヒ
撮影: チ・サンビン 
編集: ソン・ヨンジ 
録音: パク・ジョンウ 
音楽: チョン・ジュンヨプ
主題歌: イ・ヒームーン
出演: カン・マルグム ユン・ヨジュン キム・ヨンミン ユン・スンア  ぺ・ユラム

ずっとプロデューサーとして支えてきた映画監督が打ち上げ宴会中に急死。これを機に失職して、何もかも失ってしまったチャンシルさん。映画だけに捧げてきた人生、気がつけば男も子供も家もなし、もちろん青春なんていまいずこ。そんな八方塞がり、アラフォー女子のチャンシルさんに、ある日突然、思わぬ恋の予感が…。

主人公は監督が急死して仕事を失い、それをきっかけに自分は何がしたいのかを悩みます。キム・チョヒ監督はもともと監督志望でしたが、自分より映画作りに向いている人がいるならその人のサポートに徹して映画作りに全力を尽くそうと考え、ホン・サンス監督のプロデューサーに。『ハハハ』や『ソニはご機嫌ななめ』『自由が丘で』などを担当しました。しかし映画作りの夢が捨てきれないことに気づき、41歳でプロデューサーを辞めてカナダに渡り、自分を見つめ直しました。主人公の葛藤は監督自身の葛藤と重なります。
主人公を演じたカン・マルグムは一般企業で働いた後、30歳で演劇の世界に入り、2007年『コメディア』で舞台デビューしました。短編『自由演技』(2018/キム・ドヨン監督)でワンオペ育児に疲れた俳優役を演じたのをキム・チョヒ監督が見て、本作に繋がりました。カン・マルグムもいろいろ迷った末に会社を辞めたのかもしれません。
自分が何をやりたいのか。分かっている人は少ないのではないでしょうか。それでも生きていくしかないのなら、自分にも他人にもちゃんと向き合って丁寧に生きていれば、きっとそれが何かに繋がっていくはず!迷っている人の背中をそっと押してくれる作品です。

ところで、主人公だけに見える、自称レスリー・チャンの幽霊を演じたキム・ヨンミンは本作で第56回百想芸術大賞・映画部門の助演男優賞にノミネートされました。残念ながら受賞は逃しましたが、同時に「夫婦の世界」でテレビ部門の助演男優賞にもノミネートされるという快挙を遂げています。白いシャツと下着姿は『欲望の翼』のレスリー・チャンを真似ているもののイマイチダサいのですが、洋服を着ているときは結構カッコいいです。Netflixで話題になったドラマ「愛の不時着」では耳野郎と呼ばれる盗聴係を演じて注目を集めましたし、これからブレイクしていくのかも。今後は要チェックです!(堀)


アラフォーのキム・チョヒ監督の体験を元にしたオリジナル作品だそうです。プロデューサーをなさっていたんですね。
劇中に白いランニングシャツにトランクスの「レスリー・チャン」が登場します。演じているのは、キム・ヨンミン。ここで、監督は香港映画好きで、レスリーファンに違いない!と確信しました。香港映画ファンなら画面に登場したとたん、どよめくか爆笑するはずです。髪型や衣裳が似ていても「レスリーじゃない」と真正レスリーファンは言うでしょうが、いないんですから無理言わないのっ。
ともかく彼は迷えるチャンシルさんに何かと金言を与えてくれます。仕事がなくなって何も残っていない、と失望していたチャンシルさんは、あれ?意外に「福」があるじゃん、ってことに気がついていくんです。いやネタバレじゃないですよ。これだけわかってても、「あるある」と、あちこちに共感できる作品です。あなたの周りの福にも気がつきますように。(白)


レスリー・チャンの追っかけ仲間(今や、未亡人会?)のLINEで、「映画館で、僕はレスリー・チャンと、なに~?なセリフがある予告見たんだけど」と話題に。
気になるレスリー迷は、まずはこの予告編を見てくださいませ。
https://youtu.be/L_gHX3Q2U9g
レスリーと名乗る彼に、「うそでしょ、全然似てない」とチャンシルさん。
眉毛をキッと描いて、キム・ヨンミンがそれなりにレスリーに見えます。(苦笑)
そして、「3時に人に会う約束なので」と出かけていきます。『欲望の翼』を観た人なら、思わずクスッとするでしょう。
韓国映画や韓国ドラマでは、いまだにレスリー・チャンやチョウ・ユンファのパロディが出てきて、日本よりも香港映画人気が根強いのを感じます。欧米スターも交えた人気外国人スターの20位以内に入るのもこの二人。『男たちの挽歌』はじめ香港映画を観て育った4~50代位の人たちが、脚本家や監督になって、盛り込んでいるようです。「花様年華」というドラマでも『欲望の翼』のリバイバル上映を観に行く場面があるとか。
似てなくても、いつまでも話題にしてくれるのはファン冥利に尽きます。(咲)


この作品は、2020年3月の大阪アジアン映画祭で初めて観た。会場はほぼ満員。あの『欲望の翼』のランニングとトランクス姿のレスリー(らしき人)が出てきた時、会場がドッと沸いた(笑)。そして彼が出てくるたびに会場では苦笑が。うれしい反面、全然似ていないという思いがあったみたい。でも香港ファンも多かったので、みんな嬉しそうだった。それにしても、監督が突然亡くなってしまい無職になってしまうというのは、映画界「あるある」だなと思った。そして、とりあえず後輩の女優の家で働き、知り合ったフランス語家庭教師。彼も映画を作る人だった。チャンシルさんは彼に興味をもち、彼も自分に関心があるのではと勘違いして行く姿が、可笑しくもちょっと寂しかった。
この中で印象的だったのは、長い階段を昇って、坂の上のほうにある家に引越しするシーン。何人かの人たちに手伝ってもらうくらいの荷物しかもっていなかったのだろうか。その後、何度もその坂を上ったりさがったりして移動する姿に、こんなところに住んだら大変そうと思いながら観ていた。尾道みたいなところなんだろうか(暁)。


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2019年/韓国/96分/韓国語/カラー/DCP・BD
配給:リアリーライクフィルムズ + キノ・キネマ 
配給協力: アルミード
© KIM Cho-hee All RIGHTS RESERVED/ ReallyLikeFilms
公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/chansil
★2021年1月8日(土)、福いっぱいの新春ロードショー!
ヒューマントラストシネマ渋谷・ヒューマントラストシネマ有楽町 他にて


☆映画公開日の 1/8(金)限定で福袋発売!
ヒューマントラストシネマ渋谷・ヒューマントラストシネマ有楽町の劇場窓口および webサイトにて4,000 円で発売予定。
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☆公開を前に特別映像を一挙お披露目!
【主題歌「チャンシルさんには福が多いね」ミュージックビデオ】
 https://youtu.be/Q9c0uc7M4mE
【ショートショート5編】
「あなたは誰? 」https://youtu.be/c-vQnxDAY0A
 出演:キム・ヨンミン
 白のランニングシャツにトランクスという出立で現れた男は誰?
「帰省」 https://youtu.be/cCgiLdq09Jo
 出演: カン・マルグム
 帰省バスのチケットを買ったチャンシル。バスが来るまでの間、母親に電話するも、奇妙なリクエストばかり。
「宇宙から」 https://youtu.be/glZajl8DNfw
 出演:キム・ヨンミン
 まるでどこかの新興宗教の教祖のような、謎のメッセージを繰り返す、白いランニングシャツにトランクスの男。
「福探し」 https://youtu.be/iwhBMw4JtTE
 出演: カン・マルグム
 どこかの国営放送のような女性アナウンサーが、笑顔で緊急アナウンス。
「良いお年を」 https://youtu.be/lDx_T3S6BVI
 出演: カン・マルグム
 まもなく到着するバスを待つチャンシル 。こちらに向かって謎の微笑み。
posted by ほりきみき at 16:48| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月27日

ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画  原題:Mission Mangal

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監督:ジャガン・シャクティ
脚本:R・バールキ
音楽:アミット・トリヴェディ
出演:アクシャイ・クマール、ヴィディヤ・バラン、タープスィー・パンヌー、ソーナークシー・シンハー、シャルマン・ジョシ、ニティヤー・メネン、キールティ・クルハーリー

アジア初、火星探査機打上げ成功に導いた科学者たちの実話に基づく物語。

2010年、インド・ベンガロール。宇宙事業の命運をかけたロケットの打上げが失敗に終わる。チームリーダーのラケーシュ(アクシャイ・クマール)やプロジェクトディレクターの女性科学者タラ(ヴィディヤ・バラン)は、火星探査プロジェクトという実現不可能と思われている部署に異動させられる。事務所は埃だらけ、配属されてきたのは経験の浅い人材ばかりだった。女性も多い。それぞれに人生の問題を抱えていて、可能性のないプロジェクトには力が入らない。ラケーシュが会議で不在だったある日、タラは科学者としての誕生日パーティを企画し科学者になりたいという夢を抱いた時のエピソードを語る。皆それぞれに初心を思い出し、一丸となって火星探査機打上げを目指す・・・

映画は、朝、家事に追われる主婦の姿で始まります。夫や子どもの世話をして、やっとの思いで車で出かけた先は、なんと宇宙センター。サリー姿でご出勤。しかも、この日は、国民が見守る大事なロケット打ち上げの日。そのギャップにまず驚かされます。
火星探査プロジェクトの研究現場で、小さなロケットでも探査機を火星に送る方法を思いついたのも、プーリー(揚げパン)を揚げる時に予熱を利用するという主婦の知恵からでした。
最後に映し出される実在のチームの写真も、半数近くが女性たち。さすがゼロを発見したインド! 理科系に強い人たちが多いのですね。
宇宙開発の場で活躍した女性たちというと、アメリカ映画『ドリーム』(2016年 )を思い出します。計算係として下支えした黒人女性たちの物語でしたが、原題の「Hidden Figures」が示す通り、まさに表に出ない人たちでした。でも、インドでは、ちゃんと表舞台で女性科学者も活躍している様子が見てとれて素晴らしいなと思いました。

本作を手がけたのは、『パッドマン 5億人の女性を救った男』の製作チーム。監督を務めたR.バールキが脚本を担当。助監督だったジャガン・シャクティが今回、監督を務めています。主演を演じたアクシャイ・クマールが、今回も火星探査プロジェクトのチーム・リーダーとして登場。でも、なんといっても目立つのは女優たち。特にタラを演じたヴァディヤ・バランは、『女神は二度微笑む』の偽妊婦姿が圧巻でしたが、今回は肝っ玉母さん風。
研究所で皆で踊る場面もインド映画ならではのサービス♪ (咲)


パッドマンの主演だったアクシャイ・クマールが今度はヒロインのタラの上司役。集められた女性たちは最初バラバラで大丈夫?と思ったものの、心配無用。個性豊かで、実は有能な女性たちでした。男性には思いつかないようなアイディアで低予算の研究をものにし、本当にロケットを打ち上げてしまいます。チャンスと活躍の場さえあれば、「女性が輝く社会」は作れるという見本。
お題目だけかがけてちっとも前進しない日本。ジェンダーギャップ指数(2020年)が発表になって愕然としましたっけ。経済・教育・保健・政治の4つの分野の男女格差を示す指数です。日本は153か国中121位とこれまでの最低で年々下がる一方です。この映画の舞台のインドは今年108位。
一覧はこちらです。出生率が下がったとか、生産性がないですって?男性が家事育児に参加して、女性に門戸を開き、進出を阻まなければ世の中変わりますよ。(白)


アメリカの宇宙開発を描いた『ドリーム』で、宇宙開発の現場で働く女性たちが紹介されたけど、こちらの映画ではインドの宇宙開発現場で働く女性たちが出てきた。インドの映画で、科学の分野で活躍する女性たちのことを描いた作品は、あまりないと思うし、実際働いている人も少ないとは思うけど、この作品を観て、日本ではどうなんだろうと思った。確かに向井千秋さんや山崎直子さんなど、名の知れた宇宙飛行士の方はいるけど、宇宙航空研究開発機構 JAXA(ジャクサ)や宇宙産業の技術部門などで働く女性の実態となると、きっと中国やインドなどより女性の比率は少ないのだろうなあと思う。日本でロケットが発射される時、宇宙センター内の様子がTVで写ることがあるけど、女性の姿はほとんどないものね。それでも調べてみたら、日本でも少しづつ宇宙科学の分野で働く女性科学者は増えているみたい。
この映画に出てくるインドの女性たちは、宇宙開発の分野では地味な分野である火星と向き合い、それでも工夫しながら嬉々として働いている。1960年代~70年代と比べると宇宙開発は、あまりニュースとして話題になっていないような気がするけど、着々と世界では開発されているのだろう。あるいは停滞しているのだろうか。でもこれだけ人工衛星や宇宙ステーションがいっぱい宇宙を漂っているところをみると、まあ滞在技術は進んでいるのでしょうね。夜、空を見ると、けっこう人工衛星が飛んでいるのを見ることができる(暁)。


インド宇宙開発チームが火星探査機打ち上げにアジアで初めて成功した実話を映画化しました。
主人公はアクシャイ・クマールが演じたプロジェクト責任者のラケーシュだと思いますが、作品は女性たちの活躍と葛藤が中心。女性ならではの生活の知恵によって少ない予算で計画を成し遂げていくサクセスストーリーは見ていて本当に楽しい。イマイチ本気になれない仲間たちにプロジェクト・リーダーのタラがこの仕事を志したきっかけを話し、仲間たちも初心にかえるくだりは見ているこちらまで胸が熱くなりました。ただ、「1日8時間勤務だと4年かかるが15時間働けば2年でいける」と話すタラには「それってブラックすぎるでしょ」とツッコミを入れたくなりましたけれど。
このサラは息子の宗教問題や娘の夜遊びに理解があります。残業して帰宅したとき、夜遅くなっても帰ってこない娘を夫が心配していると、夫を娘が遊んでいるクラブに連れて行き、一緒に楽しませて娘の夜遊びを認めさせてしまいます。仕事と家事を両立させた上でのスーパーウーマンぶりに驚きました。ジャガン・シャクティ監督や脚本を書いたR・バールキの憧れが込められているのかもしれません。
ところで、タラを演じたヴィディヤ・バランが『女神は二度微笑む』にも出演していたことは(咲)さんが書いているのを読むまで気がつきませんでした。「えっそうだったの?」と見返したところ、あの頃は妊婦の設定でありながら全体的にもう少しスレンダーな感じですね。すっかり肝っ玉母さん風になっていて、気がつきませんでした。(堀)


映画だから、最後には成功するってわかっていても、ハラハラドキドキ。現実にはそんなに上手くいくわけないって思っても、インドの実話が元ネタなので、単なる夢物語でもなく・・・。歌あり踊りありのサクセスストーリーは、インド映画の王道を行きつつも、女性科学者やオタクっぽい身近なキャラが、宇宙規模で大活躍するというスケールの大きな話で、うれしくなる。かなりくたびれたお爺さま科学者が、まだ50代との設定で、笑いました。(千)

2019年/インド/130分/G
配給:アットエンタテインメント
公式サイト:https://m-mangal.com/
★2021年1月8日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
posted by sakiko at 17:49| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月25日

Swallow スワロウ(原題:Swallow)

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監督・脚本:カーロ・ミラベラ=デイビス
撮影:ケイトリン・アリスメンディ
出演:ヘイリー・ベネット(ハンター)、オースティ・ストウェル(リッチー)

ハンターは裕福で優しい夫、リッチーと結婚して幸せ…なはずだった。しかし義父母からはあまり歓迎されず、肝心の夫は食事中も仕事の電話をし、ハンターの話にも上の空。豪邸に暮らしても話をする相手もなく、家事をするだけの毎日に孤独が募ってくる。そんなときに妊娠がわかり、夫も義父母も喜んでくれるが、ハンターの不安も寂しさも払しょくされることはなかった。ガラス玉を眺めているうちに、突然飲み込みたい衝動にかられてしまう。飲み込んだ後は自分が成し遂げたことに何とも言えない充足感があるのだった。ガラス玉に成功すると今度は画鋲、金具と危険な物に手を出すようになっていく。

内心「これはスリラーだったのか」「きゃー」と思いながら観ていました。こんな症状を異食症(いしょくしょう)といい、ストレスで感情や欲求がコントロールできなくなるのも一因だとか。心理療法で好転するようです。
妊娠すると精神的に不安定になりやすいものですが、ハンターの場合は家族がいながら不安を解消できません。家族との間に問題があるのではと、カウンセラーは彼女の生い立ちを聞き出します。何の問題もない、平気だと明るく振舞いながら実は大きな闇を抱えているハンターをヘイリー・ベネットが好演しています。シーンのたびに明るい色使いの衣裳で登場するハンターですが、独りぼっちで異物を飲みこむ彼女が痛ましい。高台に建つモデルハウスのような豪邸は、ハンターが捕らわれて誰とも交われない孤城に見えます。激昂して仮面がはがれる夫が怖かった。やっぱりスリラーかも。(白)


玉の輿に乗って幸せの絶頂にある主人公。ニューヨーク郊外に建つ、モダンで美しい邸宅は居間や寝室が全面ガラス張り。遠くまで見通せるのにそこから出られない。夫や義父母の重圧から精神的バランスを崩していく。他人事には思えない人はけっこういるのではないだろうか。主人公はひょんなことから異物を呑み込むことに快感を覚えてのめり込む。さすがにこの異食症の経験がある人は少ないだろうけれど、食べて排出したものを戦利品のように飾っている気持ちはわからなくはない。抱えるストレスが異物と一緒に排泄された気持ちになっているのではないだろうかと摂食障害を経験した者として感じた。
夫や義父母は主人公にカウンセリングを受けさせ、家事を代行する人を雇う。それは一見正しい対応のように見えるが、それよりも彼女の不安を受け止めてあげることが大事。もし、この作品を見て、周りに思いあたる人がいたら、その人の気持ちを受け止めてあげてください。(堀)


2019年/アメリカ・フランス/カラー/シネスコ/R15+/95分
配給:クロックワークス
Copyright (C) 2019 by Swallow the Movie LLC. All rights reserved.
http://klockworx-v.com/swallow/
★2021年1月1日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 13:41| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

新感染半島 ファイナル・ステージ

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監督:ヨン・サンホ
脚本:パク・ジュソク ヨン・サンホ
撮影:イ・ヒョンドク
出演:カン・ドンウォン(ジョンソク)、イ・ジョンヒン(ミンジョン)、クォン・ヘヒョ(キム)、キム・ミンジェ(ファン軍曹)、ク・ギョファン(ソ大尉)、キム・ドゥユン(チョルミン)、イ・レ(ジュニ)、イ・イェオン(ユジン)

謎のウイルスの感染爆発でによって半島が崩壊してから4年。元軍人のジョンソクは、家族を救えなかった後悔を抱え、香港で身を潜めて暮らしていた。そんなジョンソクと義兄に、2度と戻らないはずの半島へ潜入して、残された大金を手に入れる仕事が舞い込んだ。半島はさらに増殖したゾンビと、それを追い回す凶暴な民兵集団の戦いで地獄のような有様だった。一度はつかまりながらも逃げ出したジョンソクは両方に追い詰められる。彼を助けたのは、生き残っていたミンジョンとその娘たち。ここから脱出するわずかな希望にかけて、共に戦うことになった。

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ヨン・サンホ監督は『新感染 ファイナル・エクスプレス』で初の実写映画、同じ年にその前日譚の長編アニメーション『ソウル・ステーション パンデミック』を送り出し、どちらもヒットしています。スピーディでドラマチックな展開に手に汗握った方も多かったことでしょう。
本作は、崩壊してしまった祖国から香港に逃げたジョンソクが半島に戻るはめになり、ゾンビだけでなく、もっと質の悪い人間たちに追われます。カン・ドンウォンが花美男(イケメン)っぷりを見せるまもなく、泥と血にまみれて闘い続けるのでファンの皆様は応援を。登場するゾンビたちは動きが速く、いつも飢餓状態なのでアクションが過激です。目を覆うような場面もあるので要注意。窮地に陥ったジョンソクに手を貸す母娘たちが、有能で、しかも強い!ロックダウンされた半島で生き抜いてきたのは伊達じゃない。母親も年端も行かない娘も車の運転技術は最高、銃の扱いもお手のもの、女性の活躍に溜飲がさがりますよ!乞うご期待!!(白)

★主演のカン・ドンウォンとヨン・サンホ監督のオフィシャルインタビューはこちらです。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』の続編ですが、登場人物に関連はありません。なので、前作を見ていなくても安心してご覧いただけます。
ゾンビものですが、ゾンビvs人間といった展開ではなく、理性のある人間vs理性を失った人間にゾンビが障害物として使われている感じといった方がいいかもしれません。極限状態に陥った人間の狂気はゾンビよりも怖い!
見どころはCG技術をたっぷり使って作り込まれたカーチェイス。ドリフトでゾンビを蹴散らしていく様は圧巻です。(堀)


2020年/韓国/カラー/シネスコ/116分
配給:ギャガ
(C)2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights Reserved.
https://gaga.ne.jp/shin-kansen-hantou/
★2021年1月1日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 13:32| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

燃えよデブゴン/TOKYO MISSION(原題:肥龍過江 Enter the Fat Dragon)

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監督:谷垣健治
脚本:ウォン・ジン
製作:ドニー・イェン、ウォン・ジン、コニー・ウォン
出演:ドニー・イェン(チュウ・フクロン)、ウォン・ジン(シウサー)、テレサ・モウ(フォンワー)、ニキ・チョウ(ソン・ホーイ)、ルイス・チョン(ファン警視)、竹中直人(遠藤警部)、丞威(今倉)、渡辺哲(東野太郎)、バービーほか

かつて香港に凄腕の刑事がいた。その名はチュウ・フクロン。熱血なあまり大事な約束をすっぽかして、婚約者に去られてしまった。おまけに彼の活躍の後、街の被害は甚大でついに外回りから外され、資料室へ転属になってしまう。これまでと違う環境で暴飲暴食を続け、今や体重は倍に、120㎏のデブゴンとなった…。しかし、その刑事魂は消えてはいない。日本人の容疑者を東京へ護送する任務が課せられ、遠藤警部と協力して巨大な陰謀に立ち向かっていくのであった。

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「太っても強い」と言えば”デブゴン”です。我らがサモ・ハン御大を初めて映画で観たのは、カンフー・コメディ『燃えよデブゴン』(1978年)でした。そう、おんなじタイトルです。そして本作は、谷垣健治監督と主演・製作のドニー・イェンの、ブルース・リーとサモ・ハンへのオマージュが込められた作品とみました。香港のアクション映画をずっと観てきた身には、あの熱気が新しい味も加わって蘇った気がします。「あー面白かった!」と劇場を出たい方、これを見逃さないで。
ぽっちゃりというよりどっしり、に見える特殊メイクをすると、どれくらい重くなるのでしょう?谷垣監督にいろいろ伺ってみたかったのですが、今回取材の機会がありませんでした。残念。ドニー氏嬉々としてデブゴンになりきっています。
丞威(ジョーイ)さん、チェイニー・リン君のアクションにもぜひご注目ください。(白)


ドニー・イェンが演じるフクロンはポジティブで明るいキャラ。『イップ・マン』でドニー・イェンが好きになった身には同じ人間には見えませんでしたが、彼が嬉々として演じるので、見ているうちにいつの間にかこちらまで楽しくなってしまいました。
120キロの特殊メイクで作り上げたボディでもキレッキレのアクションを見せしまうところはさすがとしか言えません。クライマックスに東京タワーの鉄鋼部分で繰り広げるアクションはハラハラドキドキの連続です。
一般的には作品の途中で規格外に太った場合、元に戻って一件落着になることが多いと思いますが、本作ではそれはありません。ドニー・イェンの奥さまが「太っていることを否定するのはよくない。太っているとか痩せているという外見とその人の魅力は関係ない」と提案したからだそう。そして、監督も「太っていてもカッコいいものはカッコいいんだ」と言っています。
とはいえ、やっぱりいつもの体型でのアクションをご覧になりたい方へ。大丈夫です。冒頭の香港でのアクションはすっきりしたドニー・イェンを堪能できますのでご安心を!!(堀)


今年(2020)2月6日~9日まで台湾の十分(シーフェン)で行われた「平渓天燈上げ祭り」(ランタン祭り)に行って来た。新コロナウイルスの影響で、出発前日まで行くかやめるか迷ったけど、天燈上げ祭りは10年以上前から行ってみたかった祭りで、やっと今年、行く機会ができたのでツアーに参加した。今、思えば海外に行けたぎりぎりの日程だった。行けてよかった。
6日に台北に着いて、映画を観るとしたらこの日しかなかったので、着いて早々新聞を見たり、ネットで調べて、ドニー・イェンが出ているというこの『肥龍過江』を観ることにした。西門町の映画館、喜満客絶色影城にて鑑賞。この日が台北公開最終日で、しかも最終回上映だった。ぎりぎり間に合った。内容も全然知らず、監督が誰かも知らずに観始めたら、なんと東京が舞台で驚き。しかも日本人俳優もけっこう出ている。これは、きっと日本公開ありだなと思いながら観た作品だったけど、まさかお正月映画として1月1日に公開されるとはとはびっくり。谷垣健治さんが監督というのは、後で知った。
アンディ・ラウの太っちょ映画『痩身男女(ダイエット・ラブ)』のロケで、太っちょメイクの本人を新宿南口で見たことがあるけど、ドニーの太っちょ姿は、この時のアンディと似ている。もしかしたらあの特殊メイクは同じ人?なんて思いながら観た。『追龍』でアンディとドニーが共演した直後の作品だし、情報交換してそれも有りかも。それにしてもあの重い姿で、あの切れの良いアクション。すごい!!!(暁)


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『肥龍過江』の看板を出した西門・喜満客絶色影城

2020年/香港/カラー/シネスコ/広東語・日本語/96分
配給:ツイン
(C)2020 MEGA-VISION PROJECT WORKSHOP LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.
https://debugon-tokyo.jp/
★2021年1月1日(金・元日)よりTOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開
posted by shiraishi at 13:09| Comment(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展(原題:A Night at the Louvre: Leonardo da Vinci) 

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監督: ピエール=ユベール・マルタン

2019-20年にかけて世界中から107万人が殺到し史上最多動員を記録、予約困難のプラチナチケットとなった、ルーブル美術館のレオナルド・ダ・ヴィンチ展。その空前絶後の大規模回顧展を、ルーブル美術館の全面協力のもと、誰もいない真夜中に撮影が行われた。
案内役を務めるのは、本展の準備に10年を費やした絵画部門主任学芸員ヴァンサン・ドリューヴァンと素描・版画部門統括学芸員ルイ・フランク。ルーブル所蔵の至宝は勿論、エルミタージュ美術館やヴァチカン博物館などが奇跡的に貸し出した天才ダ・ヴィンチの作品の数々と、担当学芸員自らが教える洞察、映画館上映のための高精細度カメラによる撮影、この機会だからこそ特別に実現した接写。大スクリーンに映し出される圧倒的映像美で、ダ・ヴィンチ芸術との“本当の“出会いを──誰もいない静寂につつまれた夜の、美の殿堂・ルーブル美術館が映し出される。

【劇中作品リスト】
「聖トマスの懐疑」*ヴェロッキオ作
「受胎告知」
「聖母と果物鉢」
「猫のいる聖母子の素描」
「ブノワの聖母」
「荒野の聖ヒエロニムス」
「岩窟の聖母(パリ版)」
「音楽家の肖像」
「ミラノの貴婦人の肖像(ラ・ベル・フェロニエール)」
「最後の晩餐」
「ほつれ髪の女」
「洗礼者ヨハネ」
「聖母子と聖アンナ(聖アンナと聖母子)」
「モナ・リザ(ラ・ジョコンダ)」

レオナルド・ダ・ヴィンチといえば「モナ・リザ」や「最後の晩餐」で有名ですが、もちろんもっとたくさんの作品が遺されています。本作ではレオナルド・ダ・ヴィンチの絵の才能にいち早く気づいた父親が息子をアンドレア・デル・ヴェロッキオに弟子入りさせたところから話を始め、ダ・ヴィンチ展で展示された絵画を順番に見せながら、彼の絵画の手法とその変遷を担当学芸員が解説します。さらに芸術だけでなく、数学、幾何学、解剖学、生理学、天文学、物理学、光学、力学などの分野にも才能を発揮したこと、それがすべて絵画のためだったことなども語られ、本作を見終わったときには、すっかりレオナルド・ダ・ヴィンチ通になっていること、間違いなしです。(堀)

ルーブル美術館で開催されたレオナルド・ダ・ヴィンチ展の会場を、この企画展を10年かけて実現させたルーブル美術館の職員の方が案内をするという、これ以上ない贅沢な解説つき鑑賞会がこの作品。20年ほど前、友人が1週間くらいかけてルーブル美術館を見学したという話を目を輝かせ話していたのを聞いて、いつか私も行ってみたいと思っていた。でもとうてい行くのは無理なので、この映画はまたとない良い機会だった。これまで有名な美術館を描いたドキュメンタリー作品をいくつも観てきたけれど、こんな贅沢な解説付き映画鑑賞会は初めての経験。
たくさんのダ・ヴィンチの作品と彼にまつわる話の数々。そしてルーブル博物館のいろいろな設備や、普通に行ったのでは見ることができない場所の案内。これを観て、なんとか行ってみたいと思ったのは私だけではないと思う。しかもレオナルド・ダ・ヴィンチ展を解説付きで見ることができて、至極の時をすごすことができた。
思えば「モナ・リザ」は、1度だけ日本に来たことがある。すごく並んで見た記憶がある。いつだったのか調べてみたら、1974年(昭和49年)で、東京国立博物館で公開されたとあった。後にも先にもこの1回だけ。よくは覚えていないけど、すごく並んだということは覚えている。でも見たのはほんの数秒だった(暁)。


2020年/フランス/5.1ch/カラー/デジタル/95分
配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
© Pathé Live
公式サイト:https://liveviewing.jp/contents/louvre/
★2021年1月1日(金・祝)より 全国順次公開
posted by ほりきみき at 01:34| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

GOGO 94歳の小学生(原題:Gogo) 

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監督:パスカル・プリッソン
出演:プリシラ・ステナイ

プリシラ・ステナイは、3人の子供、22人の孫、52人のひ孫に恵まれ、ケニアの小さな村で助産師として暮らしてきた。皆から“ゴゴ”と呼ばれる人気者だ。ある時、彼女は学齢期のひ孫娘たちが学校に通っていないことに気づく。自らが幼少期に勉強を許されなかったこともあり、教育の大切さを痛感していたゴゴは一念発起。周囲を説得し、6人のひ孫娘たちと共に小学校に入学した。年下のクラスメートたちと同じように寄宿舎で寝起きし、制服を着て授業を受ける。同年代の友人とお茶を飲んで一息つき、皆におとぎ話を聞かせてやることも。すっかり耳は遠くなり、目の具合も悪いため勉強するのは一苦労…。それでも、助産師として自分が取り上げた教師やクラスメートたちに応援されながら勉強を続け、ついに念願の卒業試験に挑む!

パスカル・プリッソン監督は前作『世界の果ての通学路』で、危険な道のりを何時間もかけ通学する世界各地の子供たちのがんばる姿をスクリーンに映し出しました。本作では植民地時代の1923年に生まれ、他の少女たちと同様に学校に行くことを禁止された94歳の女性ゴゴがひ孫娘たちと一緒に小学校に通う姿を映し出します。数学や英語の授業、修学旅行、誕生日会など幼い仲間たちと過ごす学校生活を満喫するゴゴを見ていると、いくつになっても学ぶことは人に希望を与えるものだと伝わってきます。
ゴゴが幼いときは女性に学問はいらないと言われていたかもしれませんが、今なお学齢期に達しても学校に通っていない子どもがいることに驚きました。その理由として慣習や貧困だけではなく通学時に襲われる危険性もあるとのこと。寄宿舎を建てることでその危険性が避けられるのであれば、何とかしてあげたいと思わずにはいられません。(堀)


2019年/84分/G/フランス
配給:キノフィルムズ
© Ladybirds Cinema
公式サイト:https://www.gogo-movie.jp/
★2020年12月25日(金) シネスイッチ銀座ほか全国順次 公開
posted by ほりきみき at 01:10| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月24日

その男、東京につき

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監督・編集:岡島龍介
撮影監督:手嶋悠貴
出演:般若
Zeebra、AI、t-Ace、R-指定(Creepy Nuts)、T-Pablow (BAD HOP)、BAKU
長渕 剛(特別友情出演)

東京・三軒茶屋。様々な文化がせめぎ合うこの街から一人の偉大なラッ パーが生まれた。彼の名は般若。 日本のヒップホップシーンそして音楽シーンに大きな影響を与えてきた彼の今まで語られることの無かった父への想い、大きく変わった世の中の状況、今後の想いを彼はカメラに向かって話し始めた。

般若ファンのみなさま、申し訳ございません!
本業がラッパーとは知らず、俳優だとばかり思っていました。初めて意識したのは『ビジランテ』です。恐喝相手の手の甲にぶすっと韓国の金属製の箸を突きさすシーンに恐怖を覚えました。その後も、裏社会の人間を演じる俳優として着実に出演を重ね、印象に残る演技を見せてきてくれました。しかし、俳優は般若の一面だったのですね。
本作ではもちろんラップシーンもありますが、般若を知る人たちのインタビューを積み重ねて、般若がどういう人物なのかを浮かび上がらせていきます。
元々は2人組のグループでしたが、あるときから1人で般若を背負うことになり、今に至るそう。音楽との出会いは長渕剛の曲がきっかけだったと語る般若にとって、長渕剛は音楽だけでなく人生の師であり、何より母子家庭に育った彼にとっては精神的な父親的存在だったことが伝わってきます。その上で本当の父親への思いもラップで語っていました。
有言実行の人でもある般若は日本武道館単独ライブを宣言し、そこに向かって邁進します。その努力たるや並大抵のことではありません。体を鍛えることにも全力投球。まるでプロボクサーのような鍛え方をしている姿を映し出しつつ、好きではないけれど仕事だからやっていると語る般若。仕事に対する真摯な姿勢に頭が下がります。『タイトル、拒絶』で田中俊介さんにインタビューしたときに「般若さんは格闘技をやっていらっしゃるので、殴り方がプロなんですよ。お芝居なので、拳が右から左に流れている画を撮りたいのですが、般若さんはプロ過ぎて、見えない角度でシュシュって拳が動きます」と語っていましたが、本作を見て、それも納得できました。
マルチな活躍と表現するのはかえって申し訳なくなるくらいストイックな生き方は長渕剛に影響を受けているのでしょう。憧れの存在でもある長渕剛からのメッセージで締めくくられる本作は般若を理解する上でとても大切な作品です。(堀)


2020/日本/114分/16:9/color
配給:REGENTS
©️2020 A+E Networks Japan G.K. All Rights Reserved
公式サイト:http://hannyamovie.jp/
★2020年12月25日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
posted by ほりきみき at 21:42| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月20日

ソング・トゥ・ソング  原題:SONG TO SONG

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監督・脚本:テレンス・マリック
製作総指揮:ケン・カオ
撮影監督:エマニュエル・ルベツキ
出演:ルーニー・マーラ、ライアン・ゴスリング、マイケル・ファスべンダー、ナタリー・ポートマン、ケイト・ブランシェット、ホリー・ハンター、べレニス・マルロー、ヴァル・キルマー、リッキ・リー、イギー・ポップ、パティ・スミス、ジョン・ライドン、フローレンス・ウェルチ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(アンソニー・キーディス、フリー、チャド・スミス、ジョシュ・クリングホッファー)
美術監督:ジャック・フィスク
衣装デザイナー:ジャクリーン・ウェスト
音楽:ローレン・マリー・ミクス
編集:ハンク・コーウィン

テキサス州オースティン。アメリカ有数の音楽の街。ここで様々な思いを抱えて生きる男女の人生が交差する。
フリーターのフェイ(ルーニー・マーラ)は、ロック・バンドでギターを弾いているところを大物プロデューサーのクック(マイケル・ファスベンダー)に見初められ、密かに付き合うようになる。ソングライターBV(ライアン・ゴズリング)に声をかけられたフェイは、クックにそそのかされ、BVとも付き合うようになる。一方、クックは夢を諦めたウェイトレスのロンダ(ナタリー・ポートマン)を誘惑する・・・

浮遊するかのように、男女それぞれの行動が綴られ、映像詩を見ているかのよう。かと思えば、急に現実的な営みが展開して、くらくら。名優たちの即興演技にゆだねられていたと知り、この不思議な映像世界が生み出されたことに納得。
そして彩を添えているのが、様々なミュージシャンたち。ロック・フェスにカメラを持ち込んで、ライブ映像だけでなく、バックステージや楽屋などフェスの裏側も映し出しています。私は疎いので知らないミュージシャンばかりですが、詳しい人には思いがけない嬉しい映像もあるのではないでしょうか。(咲)


何者かになりたいフリーターのフェイ。そんなフェイに想いを寄せる、売れないソングライターBV。フェイの生活をサポートする、大物プロデューサーのクック。クックに誘惑される、夢を諦めたウェイトレスのロンダ。4人が織り成す恋模様を美しい映像と詩的なモノローグで映し出す。まるで夢でも見ているかのような2時間。夢を叶えたくてもがくフェイとBV、夢を諦めて生きるロンダにとってクックは天使なのか、悪魔なのか。すべてを手に入れ、人生に夢が見出せないクックが実はいちばん寂しいのかもしれない。(堀)

2017年/アメリカ/英語/128分/シネスコ/カラー/5.1ch/PG12
字幕:野城尚子
提供:キングレコード、AMGエンタテイメント
配給宣伝:AMGエンタテインメント
© 2017 Buckeye Pictures, LLC
公式サイト:https://songtosong.jp/
★12月25日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開



posted by sakiko at 13:00| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ジョゼと虎と魚たち

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監督:タムラコータロー
原作:田辺聖子
脚本:桑村さや香
総作画監督:飯塚晴子
主題歌:Eve
声の出演:中川大志(鈴川恒夫)、清原果耶(ジョゼ)、宮本侑芽(二ノ宮舞)、興津和幸(松浦隼人)、Lynn(岸本花菜)、松寺千恵美(山村チヅ)

海洋学を専攻する大学生の恒夫はメキシコに生息する幻の魚を見ることを夢見て、バイトに精を出している。ある日坂道を失踪してくる車椅子に気づき、間一髪で乗っていた女の子を助けることができた。小柄な彼女の名前はジョゼ、ずっと車椅子生活でおばあちゃんと暮らしている。家まで送り届けた恒夫に、祖母のチヅさんは管理人バイトを持ちかける。それはジョゼの注文を聞いて叶えてやること。口が悪くて一筋縄でいかないジョゼに恒夫は振り回されるが、まっすぐにぶつかりながら投げ出すことなく、どこまでも付き合った。ジョゼは少しずつ頑なだった心を開いて、外へ踏み出そうとする。

一足早くTIFFで観ることができました。2003年の実写版(犬童一心監督)では、妻夫木聡さん池脇千鶴さんに涙していました。自分の名前はジョゼだというクミ子は、フランソワーズ・サガンの小説のヒロインから名前をとっています。その主人公に重ねるほど気に入っているというわけで、女の子というより大人の女性です。原作はもっと大人向きでした。
アニメーションでリメイクされたこちらは、より軽やかに明るくなって大分趣が変わっていました。アニメーションなら小中学生でも楽しんで観られますね。そしてもう少し大きくなったら実写版や原作も見てください。
(白)


アニメならではのポップな色使い、世界観にぐいぐい引き込まれます。原作は田辺聖子の同名小説。こんな話を書く人だったとは! 原作は未読で、実写版も未見だったので、ラストの展開に驚きました。でも、これもハッピーエンドなんでしょうね。主人公の声を当てたのは中川大志、清原果耶。2人の顔が思い浮かばないくらい完璧に声が役柄に溶け込んでいました。
車椅子生活の孫を心配する祖母の気持ちは分からなくもないけれど、自分の年齢を考えたら、ジョゼが1人で生きていけるように厳しく接しなければいけないのではないかと思うものの、いざその立場になったらできないかもしれない。子育て経験者は自分の子育てを振り返ってしまうかもしれません。(堀)


2020年/日本/カラー/98分
配給:松竹、KADOKAWA
(C)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project
https://joseetora.jp/
★2020年12月25日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 12:21| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

AWAKE

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監督・脚本:山田篤宏
撮影:今井哲郎
音楽:佐藤望
出演:吉沢亮(清田英一)、若葉竜也(浅川 陸)、落合モトキ(磯野達也)、寛 一郎(中島透)、馬場ふみか(磯野栞)、川島潤哉(山崎新一)、永岡佑(堀亮太)、森矢カンナ(山内ひろみ)、中村まこと(清田英作)

幼いころから将棋の才能を見込まれ、プロ棋士になることを夢見て邁進してきた清田英一。同じころその天才ぶりを発揮している浅川陸がいた。彼に敗北した英一はプロになることを諦め、目標のないまま大学生活を送っていた。ところが、たまたま父親のコンピュータゲームの将棋を覗いて、その面白さに目覚める。自分でプログラムを作ってもっと強くしてみたいと、大学の人工知能研究会に飛び込んだ。変わり者の先輩磯野にしごかれた英一は、将棋で鍛えた記憶力と洞察力でたちまちプログラミングをモノにしていく。数年後開発したソフトを「AWAKE」と名付け、コンピュータ将棋の世界でトップとなった英一は棋士との対決を提案される。相手はかつてのライバルで、今や棋界きっての若手強豪となった浅川陸だった。

2015年に実際にあった将棋電王戦(※)をヒントにして構築した山田篤宏監督のオリジナルシナリオは、第1回木下グループ新人監督賞グランプリに輝きました。主演に吉沢亮、ライバルの天才棋士に若葉竜也、英一が信頼する磯野先輩を落合モトキ、良き俳優を得て、劇場映画デビューを飾りました。映画は英一と陸の子ども時代から将棋にかけてきた日々、英一が挫折してから別の道で再起を図るところ、そして対決までを丁寧に見せています。
将棋以外の体験がなく人間関係に不器用な英一を吉沢亮が体現しました。少女漫画の王子様がぴったりの端正なルックスですが、様々な感情が渦巻くようすを表情で見せています。熾烈な戦いの続く作品『キングダム』(2019)の若き王と影武者の二役を演じた姿が重なりました。静かに考えている場面が多く、台詞が極端に少ない陸を演じた若葉竜也は、着物での所作や指し手の動きが美しく、チビ玉の片鱗が残っているのかもしれません。磯部先輩が寡黙な二人の何倍も台詞がありました。緊迫した対局シーンと別のお休みどころになっていました。

完成報告会見に参加しまして只今書き起こし中です。「吉沢君が死ぬほど暗かった」という若葉君発言がありましたが、そのへんも(笑)。吉沢君は終始笑ってウケていましたので、ご心配なく。もうちょっとお待ちください。
完成報告会見は12月24日18時以降からご覧になれます。こちら。(白)


※2015年に行われた将棋電王戦FINAL第5局、阿久津主税八段 VS AWAKE戦。開始からわずか49分、21手という異例のスピード決着となった。将棋プログラム・AWAKEの開発者は、元奨励会員という経歴の持ち主、また、棋士の手がコンピュータの弱点をついたものであったことから、当時、ネットユーザー、将棋ファンの間で物議を醸した。


2019年/日本/カラー/シネスコ/119分
配給:キノフィルムズ
(C)2019「AWAKE」フィルムパートナーズ
http://awake-film.com/
★2020年12月25日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 11:54| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

映画 えんとつ町のプペル

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監督:廣田裕介
原作・脚本・製作総指揮:西野亮廣
アニメーション監督:佐野雄太
美術監督:秋本賢一郎
音楽:小島裕規、坂東祐大
声の出演:窪田正孝(プペル)、芦田愛菜(ルビッチ)、 立川志の輔,(ブルーノ)、小池栄子(ローラ)、 藤森慎吾(スコップ)、 野間口徹(レター15世)、伊藤沙莉(アントニオ)、宮根誠司(トシアキ)、大平祥生(デニス)、飯尾和樹(スーさん)、山内圭哉(アイパッチ)、國村隼(ダン)

   えんとつ町のルール
1 空を見上げてはいけない
2 夢を信じてはいけない
3 真実を知ってはいけない

煙に覆われたえんとつ町に住む少年ルビッチは、身体の弱い母ちゃん・ローラと二人暮らし。父ちゃんのブルーノが出かけたまま帰らないので、学校を辞めて煙突掃除人として働いている。この町の人は空を見上げない。ルールを破ると、異端審問官がやってきて、どこかへ連れていかれてしまうから。それでもルビッチは、ブルーノが教えてくれた青い空と、輝く星があることを信じている。けれどもみんなにうそつき呼ばわりされて、友達が一人もいなくなった。ハロウィンも独りぼっちのルビッチの前に、ゴミから生まれたゴミ人間が現れる。名前のないゴミ人間にルビッチはプペルと名付けて、二人は友達になった。

原作の絵本(2016年/幻冬舎)が好きだったので、アニメ化を楽しみにしていました。冒頭の絵柄が動き出すのに、思わず「わぁ」と言ってしまいました。絵本は分業で作られたそうですが、そのビジュアルの美しさやストーリーが評判となり、大ヒットしました。クリスマスシーズンの映画化のせいか、今も人気で売れています。
映画では、著者のお笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣(にしのあきひろ)さんが脚本、製作総指揮を務めました。絵本には描かれていなかった物語の背景が詳しく語られ、スピーディな動きもあいまって老若男女問わず楽しめる作品です。声優のみなさんが適役で、特にプペルの声をあてた窪田正孝さんの声が、生まれたばかりで心もとない無垢なプペルにぴったり。親子もの、友情ものに弱い涙もろい方はハンカチを忘れずに。(白)


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制作したSTUDIO4℃はミュージッククリップが得意なスタジオ。冒頭に繰り広げられるハロウィンダンスは鮮やかな色彩と細やかな作画に目が奪われ、見る者を圧倒します。
そして、声をあてた俳優陣の素晴らしいこと!
主人公のルビッチを担当した芦田愛菜はプロの声優レベルです。ゴミ人間・プペル役の窪田正孝もハマり役でした。心優しいキャラクターが本当によく似合う。ルビッチの母親役の小池栄子もクライマックスで家族への思いを語るのですが、真に迫った声の演技に泣きそうになりました。伊藤沙莉が演じた元友だち・アントニオは声もさることながら、キャラクターが魅力的。彼の心の葛藤が伝わってきました。(堀)


2019年/日本/カラー/シネスコ/110分
配給:東宝=吉本興業
(C)西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
https://poupelle.com/
★2020年12月25日(金)全国公開



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2020年12月18日

香港画

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企画・監督・撮影:堀井威久麿
企画・プロデューサー・撮影:前田 穂高

2019年10月、仕事で滞在していた香港で民主化デモと遭遇した堀井威久麿監督。デモに参加している人々の若さに驚き、彼らの思いを知りたいと聞き歩き、デモ隊と警察が衝突する中でも撮影を敢行。1ヶ月半の撮影期間を24時間(1日)の出来事として再構成。2019年秋の香港で何が起こり、若者たちが何を思っていたのかを28分で綴ったドキュメンタリー。

「香港画(ほんこんが)」/Hong Kongers(ホンコンガー)とは、香港人の意だが、壁画のようなイメージの映画にしたいという監督の思いも籠ったタイトル。

冒頭、朝5時の将軍澳と7時の海怡半島は郊外なので別として、旺角、中環、銅鑼湾、尖沙咀と、観光客にもお馴染みの香港中心部の町がデモ隊で埋め尽くされていて、それは私が何度も訪れて見慣れた香港とは全く違う光景でした。登場するのは、15歳から36歳の人たち。1997年の香港返還(回帰)から22年。 33歳のサム・イップ(葉錦龍)と、36歳のキャシー・ヤウ(邱汶珊)以外は、英国統治時代の香港の記憶がない人たち。それでも、「自由を取り戻したい」「楽しかった日々を取り戻したい」と語るのです。いつの日か、サムやキャシーといった英語名も付けなくなってしまう日が来るのを恐れるかのように・・・

私は返還の瞬間に立ち会いたいと、1997年7月1日をはさんで2週間、香港に滞在しました。英国統治最後の6月30日は、それこそ興奮の渦。深夜0時の返還の瞬間には、主要な広場という広場が人で埋め尽くされていました。30日の朝から降り続けていた雨は一段と激しくなり、翌7月1日はさらに大雨が続きました。英国の涙と言われましたが、実は香港人の涙だったのだとつくづく思います。早朝、深圳方面からトラックで入ってきた中国軍の姿は、ついに香港が中国のものになったという威圧感がありました。それでも、まだ大半の香港の人たちは「一国二制度」が50年間保たれることを信じていたのだと思います。徐々に中国は「一国」に重きを置いていることがあからさまになり、人々は立ち上がります。2014年9月からの雨傘運動、そして2019年の大規模デモ・・・ それも虚しく、ついに2020年6月30日23時、「香港国家安全維持法」が施行され、50年間の1国2制度は事実上崩壊してしまいました。
『香港画』の最後は、2019年12月31日の23時59分。スローガンを叫んでいた人たちが、声をそろえて新年を迎えるカウントダウン。かつての楽しかった頃の香港を思い出したかのような一瞬でした。香港の人たちが、香港人らしく過ごせる日の来ることを願うばかりです。(咲)


同じ街に住みながら、住民と警察の立場で対立しなければならない辛さ。そこにはただ今までのような生活がしたいだけというごくごく当たり前の気持ちがあるだけなのに、なぜそれさえ維持できないのだろう。本作は市井の人の声を次々と取り上げる。元警察官のキャシー・ヤウさんの証言は興味深い。
沖縄でも同じことが起きているが、状況はもっと厳しい。命の危険がすぐそこにある。プロデューサーは放水車の直撃を受けて負傷し、放水には催涙成分が混入されているため全身に強い痛みを感じ、その場でボランティアの救急隊に簡易的に治療してもらい、その後シャワーで体を洗っても肌の赤み、腫れは収まらなかったという。日本人の監督とプロデューサーが危険を顧みずに取材した本作は今の香港が映し出されている。
香港のことはTBSの報道特集でもよく取り上げられるが、それを見ただけで、知っているようなつもりでいた自分が恥ずかしい。日本にいる自分に何ができるかわからないが、香港の人たちのリアルな声に耳を傾けなくてはと思う。(堀)


門真国際映画祭2020ドキュメンタリー部門・最優秀賞 
第15回 札幌国際短編映画祭・最優秀ドキュメンタリー賞

2020年/日本/28分/広東語、英語、日本語/カラー/DCP/ドキュメンタリー
英語翻訳:前田 好子 広東語翻訳:Ken、Eugenia Leon 、Ho
宣伝:contrail
配給:ノンデライコ
公式サイト:http://hong-kong-ga.com/
★2020年12月25日(金) UPLINK渋谷、UPLINK吉祥寺ほか全国で順次公開
posted by sakiko at 22:44| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!(原題:Bill & Ted Face the Music)

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監督:ディーン・パリソット
脚本:クリス・マシスン エド・ソロモン
音楽:マーク・アイシャム
出演:キアヌ・リーブス(テッド・“セオドア”・ローガン)、アレックス・ウィンター(ビル・S・プレストン)、ブリジット・ランディ=ペイン(ビリー・ローガン)、サマラ・ウィービング (ティア・プレストン)、ウィリアム・サドラー(死神)

ビルとテッドのロックバンド”ワイルド・スタリオンズ”。「ビルとテッドの音楽が将来、世界を救う」そう予言されて曲作りに励み、待ち続けること 30 年。伝説と言われた人気バンドも今や忘れ去られ、応援してくれるのは家族だけ。そんな2人のもとに未来の使者が伝えにきたのは「残された時間が 77分 25 秒しかない」という衝撃の事実!早く曲を完成させないと、世界は消滅してしまうというのだ。
30年かけてできなかったものが3,4日でできるのか!? 
ビルとテッド、そして彼らの娘たちビリーとティアは「世界を救う音楽」を作るため、時空を越えて世界中を駆け巡る。モーツァルトやルイ・アームストロング、ジミ・ヘンドリックスなど、伝説のミュージシャンたちを集めて歴史上最強のバンドを結成するのだ!

『ビルとテッドの大冒険』(89)、『ビルとテッドの地獄旅行』(91)から30年になんなんとしています。こんなに間が空いても続編を送り出せるとは、なんと幸せな映画でしょう。2015年にはジム・キャリー主演のコメディ映画『ジム・キャリーはMr.ダマー』の続編『帰ってきたMr.ダマー バカMAX!』が20年ぶりに発表されましたが、ビルとテッドはさらに時間があいています。
ビルとテッドは年を重ねて美人な娘も授かっていました。ただし過去で出会って連れてきた奥方たちはすでに倦怠ムード。地球を救うミッションに頼りにできるのは娘だけ。時間も国もまたいで、至高の音楽を作るために奔走する二組の父娘。父のスローなところは娘たちの若さが補います。世界的な天才とはいえ、そんなに違うジャンルの音楽家を集めてまとまるのか?という素朴な疑問は脇におきましょう。ところどころにカメオ出演するミュージシャンたちを見つけるという、お楽しみあり。(白)


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2020年/アメリカ/カラー/91分
配給:ファントム・フィルム
(C)2020 Bill & Ted FTM, LLC.All rights reserved.
https://www.phantom-film.com/billandted/
★2020年12月18日(金)より全国公開中!
posted by shiraishi at 21:35| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この世界に残されて(原題:Akik maradtak) 

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監督・脚本:バルナバーシュ・トート
脚本: クララ・ムヒ
原作: ジュジャ・F・ヴァールコニ
撮影: マロシ・ガーボル
出演:カーロイ・ハイデュク、アビゲール・セーケ、マリ・ナジ、カタリン・シムコー、バルナバーシュ・ホルカイ

終戦後の1948年、ホロコーストを生き延びたものの、家族を喪い孤独の身となった16歳の少女クララ(アビゲール・セーケ)は、両親の代わりに保護者となった大叔母にも心を開かず、同級生にも馴染めずにいた。そんなある日、クララは寡黙な医師アルド(カーロイ・ハイデュク)に出会う。言葉をかわすうちに、彼の心に自分と同じ孤独を感じ取ったクララは父を慕うように懐き、アルドはクララを保護することで人生を再び取り戻そうとする。彼もまた、ホロコーストの犠牲者だったのだ。だが、スターリン率いるソ連がハンガリーで権力を掌握すると、再び世の中は不穏な空気に包まれ、二人の関係は、スキャンダラスな誤解を孕んでゆく。

ハンガリーはナチスドイツによって約56万人ものユダヤ人が虐殺されたと言われています。生き延びた人も家族を喪い、喪失感を抱えて生きていました。
クララもその1人。ホロコーストを生き延びたものの家族を喪い、大叔母と暮らしていました。精神的はショックが大きかったからでしょう、16歳になっても生理がこないため、産婦人科医のアルドの診察を受けます。悲しみで傷ついている心を守るために反抗という防護壁を張り巡らせるクララがアルドにだけは心を開くようになったのは女性同士でも話しにくい、センシティブな身体的問題を知られてしまったからかもしれません。原作の設定の巧みさに唸ります。互いの悲しみに共鳴するかのように結びついていく2人をカーロイ・ハイデュクとアビゲール・セーケが見る者も共感させるように演じました。
ところで、アルドの友人夫妻は子どもを喪いましたが、孤児を引き取り、前を向いて生きていこうとしていました。クララを育てる大叔母も親戚の子を引き取ろうと孤児院に行って、クララと出会ったのです。当時のハンガリーでは家族を喪った人たちが寄り添って家族になっていったのでしょう。支え合ってこそ、人は生きていける。このことを改めて感じさせてくれる作品です。
クララを演じたアビゲール・セーケは映画初主演となる本作で2020年ハンガリー映画批評家賞最優秀主演女優賞を受賞。また、2020年ベルリン国際映画祭開幕中にバラエティ誌が選ぶ「ヨーロッパの注目映画人10人」に選出されました。アルドを演じたのはハンガリーを代表する名優カーロイ・ハイデュク。寡黙ながらふとした仕草やまなざしに深い思いやりを感じさせる繊細な演技で、2020年ハンガリーアカデミー賞最優秀男優賞、2020年ハンガリー映画批評家賞最優秀主演男優賞を受賞しました。(堀)


プレス資料の監督インタビューによれば、心理学者である女性ジュジャ・F・ヴァールコニによる原作小説「Férfiidők lányregénye」は、ハンガリー語で「ある男の時間についての少女の小説」という意味とのこと。10代の女性の視点で語られる「ある男の時間」は、ホロコーストや、1940年後半から1950年前半のハンガリーの暗い時代を指しているそうです。
ホロコーストを生き延びたものの、東の国々にいた人たちは、さらに試練の日々を過ごしていたことが推し量れます。スターリンが亡くなったとの報に、「やった~! これですべて変わる!」と叫ぶ場面がありました。一人の支配者が、これほどまでに多くの人の暮らしに影を落としていたとは・・・
10代半ばで両親を失ったクララ。叔母に引き取られたものの、本も読まない叔母のことは、マッシュポテトにバターを入れないといった小さなことまで気に入らないのです。そんな中で医師アルドに父のような安らぎを感じるクララ。
ホロコ―ストを生き延びた人たちが、お互い、家族を失った心の穴を埋めるように寄りそう姿が静かに描かれた素敵な作品です。(咲)


2019年/88分/G/ハンガリー
配給:シンカ
©Inforg-M&M Film 2019
公式サイト:https://synca.jp/konosekai/
★2020年12月18日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 12:22| Comment(0) | ハンガリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

調査屋マオさんの恋文

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監督・撮影・編集:今井いおり
出演:佐藤眞生、佐藤縫子

友人たちと市場調査の会社を起業し、仕事人間だった佐藤眞生さんは息子の言葉で家庭が崩壊寸前であることに気づき、大阪で自給自足の生活を始め、家族の絆を取り戻していった。しかし、やがて妻・縫子さんが認知症を発症。眞生さんは縫子さんが入居する特別養護老人ホームに通い、日々変化する彼女の言動を記録し続けた。

東京ドキュメンタリー映画祭2019でグランプリを受賞。

仕事に明け暮れ、家庭は崩壊寸前だったのが、息子の「お父さん、今度いつ帰って来るの?」の一言で立ち上げた会社を辞めてしまった佐藤さん。大阪府茨木市へ移住して縄文人の生き方に学んで自給自足の生活を始めます。元々自然が好きだったとはいえ、よほどの思いがなければできません。
そして縫子さんへの愛の強さにも驚きます。毎日、縫子さんが入居する特別養護老人ホームに通って話しかけ、少しでも認知症の進行を遅らせるよう、頭を使うサポートを工夫する。こんなに愛されたら幸せですね。佐藤さんは妻が心地よく生活できるよう、ホームの職員を啓蒙し、ホーム全体に働きかけていきます。
こんなに一生懸命では縫子さんが先に逝ってしまったら、佐藤さんは抜け殻になってしまうのではないかと心配になりましたが、作品ではその後の佐藤さんも映しだし、安心しました。(堀)


2019年/日本/78分
配給:ちょもらんま企画
(C)Imai Iori
公式サイト:https://www.mao-koibumi.com/
★2020年12月19日(土)〜新宿K’s cinemaにてロードショー
posted by ほりきみき at 12:17| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

日本独立

劇場公開 2020年12月18日  劇場情報

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(C)2020「日本独立」製作委員会

監督・脚本:伊藤俊也
ゼネラルプロデューサー:森千里
エダゼクティブプロデューサー:田中剛
スーパーバイザー:奥山和由
企画:鍋島壽夫
プロデューサー:芳川透
撮影:鈴木達夫
録音:中村淳
美術:稲垣尚夫
編集:只野信也
音楽:大島ミチル
語り:奥田瑛二
スクリプター:内田智美
制作担当:白石治
ラインプロデューサー:姫田伸也
出演
白洲次郎:浅野忠信
白洲正子:宮沢りえ
吉田茂:小林薫
麻生和子:梅宮万紗子
アダム・テンプラー
.ロバート・D・ヒース・Jr.
ベネディクト・セバスチャン
松本烝治:柄本明
吉田満:渡辺大
近衛文麿:松重豊
芦田均:伊武雅刀
美濃部達吉:佐野史郎
幣原喜重郎:石橋蓮司
楢橋渡:大鶴義丹
小林秀雄:青木崇高
ツナ:浅田美代子
昭和天皇:野間口徹

第2次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)占領下の日本で外務大臣だった吉田茂が一刻も早い日本の独立を求めて日本の再出発のために呼び寄せたのは、開戦前から既に日本の敗戦を予測し、実業の第一線を退いて郊外で農業に専念していた白洲次郎だった。流暢な英語を話し、せっかちで喧嘩っ早くいかなる時でも物事の筋を通す男だったからこそ、吉田は「日本独立」を達成するための相棒として呼び寄せた。
そしてGHQとの交渉役となる終戦連絡事務局の仕事を託す。こうして白洲は交渉の最前線に身を置くが、GHQは米国主導の憲法改正を推し進めようとする。彼は吉田茂の右腕としてGHQとの交渉の最前線で辣腕を振るい、GHQをして「従順ならざる唯一の日本人」と言わしめることになる。親子ほども年の離れた二人の絆を軸に、終戦から憲法制定、独立に至る歴史の裏側のドラマを、日本側の視点からイマジネーションを交えて描き出した。本音で激論を交わしながら、GHQと渡り合い、国の難局に立ち向かう吉田と白洲。二人にあったものは、時代や状況がどうあろうと変わらぬ人としての誇り高さだった。
吉田茂を小林薫が演じ、白洲次郎を浅野忠信、妻正子を宮沢が演じる。監督は『プライド 運命の瞬間』『花いちもんめ。』『ロストクライム 閃光』などの伊藤俊也。

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(C)2020「日本独立」製作委員会

日本国憲法が制定されてもうすぐ75年が経ちます。GHQが草案を作り、制定されたと日本史の授業で学びました。しかし、その舞台裏には日本政府とGHQの間に緊迫したやり取りがあったのだとこの作品は伝えます。監督の主観が入っていることを考慮しても、日本側にもGHQ側にも憲法の草案を作るために奔走した人たちがいたことなど、歴史の教科書からは学べないことを知っておくべきかもしれません。そしていつの時代も官僚は政治家に翻弄されるものだということも伝わってきます。
ところで、吉田茂をえんじたのは小林薫ですが、特殊メイクでしょうか、一見しただけでは小林薫とは気が付きません。写真などで見る吉田茂そのもの。ご本人の演技もさることながら技術スタッフのがんばりも注目したいところです。(堀)


小学3年生の時に終戦を迎えた伊藤監督。終戦1ヶ月前には生まれ育った福井市で空襲に遭い、終戦の3年後にはM7の福井地震から生き延びた。そんな強烈な戦中戦後体験を持つ伊藤俊也監督。チラシ、ポスターにある『日本独立』というタイトルより上部に書かれた「戦争に負けても、この国は誰にも渡さない」というこの言葉は、この体験から来るものなのでしょう。
「戦後の日本を振り返る時に、アメリカとの関係というのは強く意識せざるを得ないものですが、そういうプロセスの中で、戦後の日本を規定した二大事件は、東京裁判(極東国際軍事裁判)、そしてもう一つが日本国憲法の成立だと考えています。日本国憲法の成立に関わる映画を作りたいと思い、『プライド 運命の瞬間』を作ってから2~3年経った頃、シナリオを作ったのです。かなり改稿して現在のシナリオになってはいますが、基本的にはその時に作ったものです」と語っている。
天皇制の根強さを知り、その存続なくしては安定した占領統治はなし得ないと判断したGHQは、ソ連に介入の余地を与えぬよう、ソ連が参加する極東委員会が発足する前に憲法を作り上げてしまおうという目論みがあったようだ。その指令の元、いくつかの憲法改正案が作られたが、日本政府の憲法問題調査委員会(委員長・松本烝治国務大臣)が作った「試案」は、天皇の統治権が残され、戦前の大日本帝国憲法(明治憲法)とあまり変わらない内容だったらしい。そのためGHQは、このまま日本人にゆだねていてはソ連の天皇制廃止論が出てくると危惧し、独自の草案を作り日本政府に指針として示した。それゆえ押し付けられた憲法という人たちがいる。GHQは憲法草案をホイットニー准将以下25人の即席の起草チームで、わずか9日間でまとめあげた。「自衛権すら持たないで、それを国家と言えるのか!」と松本大臣が激高して言うシーンがあったけど、敗戦国で、あの状態で、軍隊を持つというのは当時は表立っては言えなかったんじゃないかな。ここは監督の思いなのかも。
押し付けられた憲法かもしれないけど、国民主権、人権や女性の権利も含まれた平和憲法ができてよかったんじゃないかなと私は思う。少なくとも閣僚たちが作った憲法草案よりはましな憲法なんじゃないかなという気がする。松本試案が通っていたら、女性の地位はずっと低いままだったと思う。「占領時代をやり過ごし、早く独立を果たせば憲法は変えられる」と吉田茂はGHQに面従腹背を決め込み、交渉役として白洲次郎を送り込む。吉田茂と白州次郎がGHQの強圧的な「指令」にどう向き合ったのかが本作の軸である。
このGHQと日本政府の憲法問題調査委員会のやりとりの中でベアテ・シロタさんのことが何回か出てきたけど、彼女のことを描いたシーンは、どうかな?と思った。実はベアテさんにインタビューしたことがある。あの中で「ベアテが、私が人権条項を担当したと得意げに話していた」「22歳の若い女にしてやられた」というような台詞のシーンがあったけど、当時はトップシークレットで、誰が担当したということは長い年月伏せられていたとベアテさんは言っていたし、彼女はその時22歳という若さだったので、そんなに若い女性が草案作りに加わっていたということを知れば、日本の閣僚たちは「専門家でもない若い女が草案を作ったということにいい気はしないだろうと通訳に徹していた」と語っていた。彼女が草案作りにかかわっていたということは、何十年もたってから公表されたらしいので、あの場面であのような台詞になるようなことはなかったのではないかと私は思う。彼女は5歳から15歳まで戦前の日本に住み、日本の女性の姿(地位)を見て育ったからこそ、草案に男女平等の項目を入れたと語っていた。市川房枝さんが1952年にアメリカに来た時の通訳をしたけど、その時も、男女平等の草案にかかわっていたことは言えなくて苦しかったと言っていた。彼女は1年半GHQで仕事をした後、アメリカに行き、日本の文化を紹介する仕事についた(暁)


『ベアテの贈りもの』ベアテ・シロタ・ゴードンさんインタビュー(2005年) 
GHQ側の草案作りの話が出てきます。
http://www.cinemajournal.net/special/2005/beate/index.html

ベアテさんがお尻ふりふり歩いていくのを、若い男性が真似してついていくという描き方は、ちょっとどうかと思いました。ベアテさんだけでなく、ほかのメンバーだって、憲法の専門家ではなかったのですから・・・
それはともかく、戦後の日本政府の葛藤、そして負けても屈しないという頑強な思いが伝わってくる映画でした。宮沢りえ演じる白洲正子も、凛として素敵でした。
撮影は神戸、大阪、京都などの趣のある場所を選んで行われています。富士山の見える浜辺で吉田茂と白洲次郎が語り合う場面も、実は淡路島だとか。
スタッフ日記で、神戸のロケ地のことに少し触れています。(咲)


神戸・パルモア学院休校 そして『日本独立』ロケ地のこと(咲) 

『日本独立』公式HP 
2020年製作/127分/G/日本
配給:シネメディア

posted by akemi at 09:00| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月13日

声優夫婦の甘くない生活    英題:Golden Voices

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監督:エフゲニー・ルーマン
出演:ウラジミール・ フリードマン、マリア・ベルキン

1990年9月、旧ソ連を後にしてイスラエルの空港に降り立ったヴィクトルとラヤ。ソ連時代、欧米映画の吹き替えで活躍してきた仲のいいスター声優夫婦だ。だが、新天地で待っていたのは厳しい現実だった。ロシア語声優の需要はなく、ヘブライ語を学びながら仕事を探す日々。ラヤは甘い声を見込まれ、テレフォンセックスの仕事に就くが夫には内緒だ。ヴィクトルもまた、海賊版レンタルビデオ店でロシア語声優の職を得る。
サッダーム・フセインの化学兵器の脅威に備え、政府から配布されたガスマスクをラヤの職場に届けたヴィクトルは、ラヤの仕事の真実を知ってしまう・・・

私がイスラエルを訪れたのは、1991年の4月末。映画と同じエルアル航空でテルアビブ空港に降り立ったので感慨深いものがありました。エルサレムの旧市街の土産物屋で、マトリョーシカや、中央アジアの帽子を売っていて、なぜ?と思ったら、ソ連崩壊後に多くのユダヤ人が移民してきたと聞かされました。ロシア語の新聞も出していると知りました。「約束の地」に希望を抱いて移住してきたであろう人たちの暮らしが決して甘いものでなかったことを、本作はずっしり感じさせてくれました。
今、世界では紛争や政治的理由等で故国を離れる人たちが後を絶ちません。ちゃんとした職業に就いていた人も、たとえ医師のような資格を持った人であっても、他国では通用しません。それでも国を出ざるをえなかった人たちが直面する悲哀。良好だった夫婦関係に亀裂が入ることもあるでしょう。
本作は、6歳の時にソ連から移民してきたエフゲニー・ルーマン監督の経験をもとに作られたものですが、多くの人の共感を得る普遍的なテーマを内包しています。社会派の映画でありながら、大いに笑えて、ちょっぴり泣ける物語。(咲)


ソ連で洋画のスター声優だった、ロシア系イスラエル人夫婦が鉄のカーテンが崩壊し、イスラエルに移住する。他人事のような気持ちで作品をご覧になる方が多いかもしれません。映画で描かれる主人公夫婦は新しい環境で夫はすることがなく、家計を支えようと働き始めた妻が生き生きとしてくるのですが、そんな2人の姿は定年退職した夫とパートや趣味で活き活きと暮らす妻の間で気持ちのすれ違いが生じてきたという話と似ている気がします。当たり前だった関係に変化が生まれたときにどう向き合うか。すれ違ったまま離れていくのではなく、いかに大事な存在だったかに気づいた2人の行く末はこれから夫婦の後半戦を迎えようとしている方々にはきっと参考になることでしょう。(堀)
主人公が声優夫婦という設定にちなみ、11/ 22 (日)のいい夫婦の日に、リアル声優夫婦のトークイベント付き試写会が実施されました。
ゲストは『愛と哀しみの果て』のロバート・レッドフォードなどの声を担当した古川登志夫さん、「美少女戦士セーラームーン」大阪なるなどの声を担当する柿沼紫乃さんという日本を代表するレジェンド声優ご夫婦です。本作を通じてご夫婦の日常生活が垣間見える、楽しいトークイベントでした。

http://cineja-film-report.seesaa.net/article/seiyu-fufu-event.html


2019年/イスラエル/ロシア語、ヘブライ語/88分/ スコープ/カラー/5.1ch
日本語字幕:石田泰子
後援:イスラエル大使館
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/seiyu-fufu/
★2020年12月18日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
posted by sakiko at 04:56| Comment(0) | イスラエル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月11日

あこがれの空の下 教科書のない小学校の一年

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監督:増田浩、房満満
撮影:岡本央
音楽:岩代太郎
語り:高橋惠子

何の変哲もない ちいさな小学校。
よくみると 無いものが たくさんあります。
広い校庭もない。チャイムも鳴らない。 いろんな儀式も形式もない。 教科書も使わない。
そして この学校にしかないものも、 たくさんあります。
物怖じしないで発言し どんなことでも話し合い
活き活きと 自然に伸びゆく子どもたち。
子どもたち 一人ひとりを見つめ、 一緒に歩む先生たち。
みんなを包んで  豊かに流れる時間。

考えてみれば、これって 本来は「あたりまえ」のこと。
「あたりまえ」って  とっても大事。

世田谷の和光小学校に一年間製作チームが通いました。子どもたちと先生、毎日の授業や遊びや行事を丁寧に追ったドキュメンタリーです。この映画のHPの冒頭をそのまま引用しました。先生たちが子ども一人ひとりを見て、待つ姿勢があります。子どもたちはああしろこうしろと指図されなくても、必要なことを身につけていきます。自分の頭で考えて判断し、口に出してほかの人と話し合う。生きていく上で一番大切なことじゃないでしょうか?大人になったら自分の子どもを通わせたい、と言う子どももいます。
誰もが通える公立小学校で、子どもたちみんながこんな風に過ごせたらいいのに、と思います。それが他ではできないのはなぜなんだろう?と気づいただけでも、観る価値がありました。(白)


東京、世田谷区の私立和光小学校を描いたこの映画は日本で一番遅い入学式から始まる。ここでは入学式は先生でなく生徒たちが考え、会場の飾り付けやプレゼント作りを分担して準備する生徒たち手作りの入学式だから遅くなると解説が入る。厳粛な入学式ではなく、上級生たちの暖かい笑顔や、歌、踊りで迎えられる。最初から公立の学校と違う。
そして授業。教科書を使わないユニークな教育で知られる和光小学校では子どもたちの自主性を何よりも大切にする。教科書は配られるけれどほとんど使われないらしい。独自の教育哲学に基づいた教育を実践する同校では、広い校庭やチャイムなど「ない」ものがたくさんある。授業も学校生活も全て手作りで行われ、子どもたちは物怖じせずに発言し、どんなことでもクラス全員で話し合う。そんな生徒たちを、先生は見守り生徒の自主性にまかせる。そして必要だなと思ったところで助言する。運動会も全て子どもたちが仕切り、「行進」や「来賓の祝辞」などは無く、色分けしたチームの対抗戦で熱く盛り上がる。
6年生の総合学習のテーマは「沖縄」。自然や文化・歴史から基地問題まで広く学び、秋の学習旅行で現地を訪ねる。「沖縄」のことを知ることで、現代日本の抱えるさまざまな問題のつながりを知り、旅先の沖縄で生徒たちは話し合い、沖縄の抱える問題が、けっして自分たちと無関係でないと理解を深めた。それだけでなく、沖縄の文化を知り、沖縄の歌や踊りを卒業式で披露もする。小学生たちが自主的に、物事をこなしている様は見事でした。こんな風に学ぶことで、主張するだけでなく人の痛みを知る人間が育っていくんだなあと思い、こういう教育が広がっていくといいのになあと思ったドキュメンタリーでした(暁)。


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2020年/日本/カラー/DCP・Blu-ray/101分
配給:パンドラ
© テムジン
http://xn--v8jxcq2f151q1vam0mt0xyuukq6d.jp/#/
★2020年12月19日(土)ユーロスペース

2週目ゲストも決定!!   10:00~の1回目上映終了後
12月27日(日) 岩代太郎さん(和光小学校卒業生/作曲家)
今から約10年前に卒業した和光小学校が、今も「答えのない疑問」に挑み続けている姿に、胸が熱くなりました。 岩代太郎(作曲家)

●ユーロスペース 初週タイムテーブル
12月20日(日) 10:00/12:20/15:10
12月21日(月)~25日(金) 10:00/12:15/14:30
posted by shiraishi at 01:19| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

私をくいとめて

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監督・脚本:大九明子
原作:綿矢りさ
撮影:中村夏葉
出演:のん(黒田みつ子)、林遣都(多田)、臼田あさ美(ノゾミ)、若林拓也(カーター)、山田真歩、前野朋哉、片桐はいり(澤田)、橋本愛(皐月)

黒田みつ子、31歳。おひとり様ライフがすっかり板についた。おひとり様だけれど独りぼっちじゃない。みつ子の脳内には相談役の「A」がいる。AはアンサーのA。だから迷ったときや困ったときは「A」に尋ねる。答えが見つかる。いつまでもこの楽しく穏やかな日々が続くと思っていた…が、みつ子は年下の営業マン 多田くんが気になってきた。たまたま近所に住んでいるのがわかって、一人分も二人分も手間は一緒、と夕飯をおすそ分けしている。なんだかいそいそと料理をする自分にびっくりしている。これは恋なのか?もちろん「A」に相談し、恐る恐る前進してみることにした。

あの『勝手にふるえてろ』(2017)のタッグ(綿矢りさ原作&大九明子監督)が再集結した本作、みごと今年の第33回東京国際映画祭で観客賞を受賞!大九明子監督は“史上初”2度目の受賞を果たしました!! おめでとうございます!!!
これまでいろいろな役柄ののんさんを見てきましたが、本作ではとにかくよく喋る。ずっと喋る。
そばに誰もいなくても彼女の脳内には「A」がいるんです。この「A」の落ち着いた声がいいです。安心感倍増。「私はあなたなんですから」と毎回釘をさすのも忘れません。
そしていつもお腹を空かしている多田君が良い。のんさんも可愛いのですが、林遣都さんも超可愛いです。東京へ中3の修学旅行で来て、渋谷でスカウトされたそうですが、この子には注目するでしょう、納得。のんさんの親友皐月、イカした上司に先輩と魅力満載の皆様との会話がまた良い。お一人様のあなたも、年下彼氏がまだいないあなたも楽しめること請け合います。
気になる脳内相談役の「A」は映画を見ると明らかになります。私にも一人ほしい。
公式HPには「震えてる」ポスターやコラボのお知らせ、おまけつきムビチケ情報など盛りだくさんです。どうぞアクセスを。(白)


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<先行公開!誰か「私をくいとめて」お悩み相談付き上映会イベント>
大九明子監督、可愛い衣裳と髪型のんさん

最近は聞かなくなりましたが、リア充という言葉は友人が多い上に付き合っている人がいて、彼らと楽しい日々を過ごしているというイメージがあります。その点では主人公のみつ子は完璧な非リア充。本人もそれを自虐的に語っている場面もありますが、本当にそうなんでしょうか。みつ子は冒頭で天ぷらの食品サンプルを作る体験教室に参加し、帰りにデパ地下で天ぷらを買って帰り、美味しい夕飯で締めくくっていました。また別の日はお一人様焼き肉を楽しむなど、週末は興味や気分に合わせて出掛けています。何だかとっても自由に見える。これもまたある種のリア充ではないかって思えてきます。
大九明子監督が描く主人公はいつもこんな感じ。ちょっと世間一般からは外れているのですが、彼女たちは生きることに不器用ですが、いつもちゃんと地面に足がついています。だから共感してしまうんでしょうね。
さて、今回の恋の相手はみつ子と同じように、生きることに不器用そうな年下の男性。林遣都が演じています。イメージどんぴしゃりです。2人のやり取りは「ここははっきり言っちゃいなさいよ」と見ていてハラハラというか、イライラというか(笑)。最後まで目が離せません。(堀)


2020年/日本/カラー/シネスコ/133分
配給:日活
(C)2020「私をくいとめて」製作委員会
https://kuitomete.jp/
★2020年12月18日(金)
posted by shiraishi at 00:59| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

また、あなたとブッククラブで(原題:Book Club)

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監督・共同脚本・製作:ビル・ホールダーマン
出演:ダイアン・キートン(ダイアン)、ジェーン・フォンダ(ビビアン)、キャンディス・バーゲン(シャロン)、メアリ・スティーンバージェン(キャロル)、アンディ・ガルシア(ミッチェル)、ドン・ジョンソン(アーサー)、クレイグ・T・ネルソン(ブルース)、リチャード・ドレイファス(ジョージ)

40年連れ添った夫に先立たれたダイアン、娘たちの心配が煩わしい。事業を成功させ自由な独身貴族のビビアン。何十年も前の離婚をひきずる裁判官のシャロン。夫が退職して無気力になり、35年を経た結婚生活に危機感を覚えているキャロル。4人はそれぞれの悩みを抱えながらも、読書にいそしむ”ブッククラブ“を続けて友情を大切にしてきた。回り持ちで一冊を決めて、次の回までに読んでは感想を述べあうのが決まり。
ビビアンが選んだのは刺激的な官能小説の「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」。この本は彼女たちの日常を忘れさせ、積極的で大胆な行動を後押しする。

ハリウッドの映画界を牽引してきた女優たち、全員がアカデミー賞Rまたはゴールデングローブ賞を獲得しています。4人が互いに励まし合い、幸せになることを願う親友という設定。インタビュー動画によれば、撮影後も連絡を取り合って仲良くしているのだとか。彼女たちの恋やロマンスのお相手となる男優たちも4人。なんと豪華な組み合わせ!生まれ年をご紹介しますと、ダイアン・キートンとキャンディス・バーゲン1946年、ジェーン・フォンダ1937年、メアリー・スティーンバージェン1953年生まれ。それぞれ若いころからの作品を観ていますが、みなさん年齢を重ねても綺麗で魅力的です。役柄がリッチな方々だからこのキャリア、この余裕なのですが、映画ですもん。綺麗で華やか、ロマンチックなお話でいっとき楽しみたいときがありますよね。日本でもこんな風にシニアのスターたちが輝く映画を作っていただけないでしょうか。老人ホーム設定でなくって。
お題となった官能小説「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」は、日本でも翻訳書が出ていますが、この原作を面白がる体力が日本のシニア世代にあるでしょうか?? 私は映画のほうを観ました。新人ながら主演を務めたダコタ・ジョンソンは、ビビアンの元カレ役のドン・ジョンソンの実の娘です。母はメラニー・グリフィス。(白)


ダイアン・キートンは相変わらずシニアのファッションリーダーとして君臨しているのを改めて感じさせます。歳を取ってもこんな風な着こなしができたら素敵! 年齢的にはダイアン・キートンのさらに上をいくジェーン・フォンダが若返りのエクササイズとしてワークアウトをする本やDVDが話題になったのはもうかなり前になりますが、まだまだ素晴らしいプロポーションを維持していることに驚きます。
ダイアン・キートンが演じたダイアンはパイロットと恋に落ちます。相手役はアンディ・ガルシア。ちょっと待って、アンディ・ガルシアは1956年生まれでダイアン・キートンよりだいぶ年下だけれど、すでに64歳。その年齢で機長ってシニア契約職員なの?と考えるのは無粋なこと。キャンディス・バーゲンが演じたシャロンがお付き合いしかける男性は会計士でしたし。どこの国でもパイロットや士業はカッコいい男性の代名詞なのでしょう。(堀)


本作の監督・共同脚本・製作を務めたビル・ホールダーマンは、1977年4月6日生まれ。共同脚本で、企画開発や女優としても活躍しているエリン・シムズも、1976年生まれの40代。長年ロバート・レッドフォードの製作会社で映画製作に関わってきた二人が描いたのは、実に、二人の母親世代の女性たちの生き生きとした第三の青春時代! 自分たちの母や義理の母に触発されて人物像を描いたそうです。
私も気がつけば、このブッククラブのメンバーと同世代。自分の歳に驚き、さらに鏡を見れば歳相応だなぁ~とがっかりしますが、気持ちはいつまで経っても若い頃とあまり変わりません。『また、あなたとブッククラブで』に勇気づけられて、ときめきを求めて頑張りたくなりました♪ (咲)



2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/104分
配給:キノフィルムズ
(C)2018 BOOKCLUB FOR CATS, LLC ALL RIGHTS RESERVED
https://bookclub-movie.jp/
★2020年12月18日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 00:56| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブレスレス(原題:Hundar har inte byxor)

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監督・脚本:ユッカペッカ・ヴァルケアパー
出演:ペッカ・ストラング(ユハ)、クリスタ・コソネン(モナ)、オーナ・アイロラ、ヤニ・ヴォラネン

外科医のユハは愛する妻と娘と湖畔で夏の休日を過ごしていた。娘のエリの泣き声でうたた寝からさめると、泳いでいるはずの妻の姿がない。ようやく見つけ出した妻は、水底の網に足がからまってすでに亡くなっていた。以来、救えなかった自責の念にかられ、無気力な日々を送り10数年が経った。
エリがピアスの穴開けをするのに店まで送ったユハは、知らずに隣のSMクラブに迷い込んでしまった。そこにいたのはボンデージ姿のドミナトリクス(女王様)のモナ。ユハは客と間違えられ、痛めつけられて首を絞められる。朦朧とする意識の中で、水中のイメージを見る。その先には妻がいる。初めて死んだ妻に近づく手段を知ったユハは翌日からクラブに通うようになり、プレイは次第にエスカレートしていった。

エ、エスエム?SM!禁断の世界だ…と恐る恐る観ましたら「失くした果てに 溺れる刹那な痛み。呼吸も止まるくらいに美しい愛と再生の物語」と惹句にあるように、形は違えど「人を恋い、もっと愛したい」と願う恋愛劇でした。痛いシーンはありますが、合間合間に美しい映像がはさまれます。並べられた花、ガラス玉、エリの部屋の星や惑星。音楽も優しいのです。趣味嗜好は双方が納得すれば関知するものではありません。ただし拒否しているのに無理矢理は暴力・虐待・犯罪ですからね。
ユハを演じるのは『トム・オブ・フィンランド』のペッカ・ストラング。妻を愛するあまり死んでも追いかける狂気も垣間見せます。娘の存在を忘れてない?と突っ込みたくなりますが、娘のほうがよほどしっかりしていました。
モナはクリスタ・コソネン。昼間は整体師、夜は女王様の二つの顔を持ったモナが、初めてユハに生の感情を見せるシーンにきゅんとします。
原題は「犬はパンツを履かない」という意味で、モナが”犬のユハ”に投げた言葉。(白)


主人公を襲う悲劇からスタートしますが、その悲劇を幻想的な美しい映像で映し出すことで悲しみをより強く感じさせる。冒頭から北欧作品らしさが炸裂しています。
娘がピアスの穴を開けるのを待つ間に、近所にあった怪しげな店が気になり、真面目な外科医がSMの世界に足を踏み入れます。人生どこで何があるか分かりませんね。倒錯した時間に湖に沈む網に足を捕らわれて亡くなった妻の面影を見てしまい、主人公は妻に会いたい一心で、それこそSMの沼にはまっていきます。
SMという言葉こそ知っていましたが、主人公が行うプレイは大胆極まりなく、映像でここまではっきりと描いた作品は稀かもしれません。嫌悪感を覚える人もいるでしょう。実は私がその1人。しかし、意外にも後味は悪くなく、純愛映画を見た気分でした。(堀)


2019年/フィンランド・ラトビア合作/カラー/シネスコ/110分
配給:ミッドシップ
(C)Helsinki-filmi Oy 2019
https://breath-less.com/
★2020年12月11日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 00:51| Comment(0) | 北欧 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月10日

ニューヨーク 親切なロシア料理店  原題:The Kindness of Strangers

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監督・脚本:ロネ・シェルフィグ
出演:ゾーイ・カザン、アンドレア・ライズボロー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、タハール・ラヒム、ジェイ・バルチェル、ビル・ナイ ほか

ニューヨーク、マンハッタンの片隅に佇むロシア料理店〈ウィンター・パレス〉。創業100年を超える伝統を誇るが、今や客足も遠のいていた。刑務所から出所したばかりのマーク(タハール・ラヒム)は、ひょんなことから、この店の経営立て直しの為に雇われる。
そんな矢先、幼い息子二人を連れて、夫から逃げてきたクララ(ゾーイ・カザン)が、食べ物を求めて店に忍び込んでくる。
経営がうまくいってないオーナーのティモフェイ(ビル・ナイ)も、雇われマネージャーのマークも、無一文のクララに優しく手を差し伸べる。
店の常連で、救急病棟の看護師アリス(アンドレア・ライズボロー)も、寝場所に困っているクララ母子を、懇意にしている教会に案内する。アリスは教会で「赦しの会」を開いていて、悩みを持つ者たちから慕われていた。不器用で次々と仕事をクビになるジェフ(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)も、そんな一人だった。
ある事がきっかけで、居場所を夫に知られるのも時間の問題と悟ったクララは、皆から受けた優しさを力に、現実に立ち向かう決意をする・・・

古びたロシア料理店を舞台に様々な人生が交錯する物語。

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©Desiree Navarr WireImage GettyImages

デンマーク出身のロネ・シェルフィグ監督(写真上)が自身で脚本もすべて担当したのは、2000年ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した『幸せになるためのイタリア語講座』以来のこと。一人で脚本を書くことによって、これまで描きたいと温めていた様々な物語を、一つの映画に入れ込むことができたと語っています。表立っては描いていないけれど、政治的な問題も盛り込まれています。
人生、どん底に落ちても、思わぬ出会いで希望に満ちたものになることを感じさせてくれる素敵な物語です。


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© 2019 CREATIVE ALLIANCE LIVS/RTR 2016 ONTARIO INC. All rights reserved

私にとっては、タハール・ラヒムの包み込むような優しさがたまりませんでした。『預言者』(ジャック・オーディアール監督、2009年)で見染めて以来、『パリ、ただよう花』(ロウ・イエ監督、2011年)、『ある過去の行方』(アスガル・ファルハディ監督、2013年)、『消えた声が、その名を呼ぶ』(ファティ・アキン監督、2014年)、『ダゲレオタイプの女』(黒沢清監督、2016年)等々、私の注目する諸外国の監督たちの作品に出演しているタハール・ラヒム。本作で、また違った姿を見せてくれました。(咲)

2019年/115分/英語/デンマーク、カナダ、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ/日本語字幕:石田泰子
配給:セテラ・インターナショナル
© 2019 CREATIVE ALLIANCE LIVS/RTR 2016 ONTARIO INC. All rights reserved
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/NY/
★2020年12月11日(金)よりシネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

posted by sakiko at 09:22| Comment(0) | デンマーク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ヘルムート・ニュートンと12人の女たち  原題:Helmut Newton - The Bad and the Beautiful

Bunkamuraル・シネマ、新宿ピカデリーほかで 2020年12月11日公開
劇場情報

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監督:ゲロ・フォン・べーム
製作:フェリックス・フォン・ベーム
出演
シャーロット・ランプリング、イザベラ・ロッセリーニ、グレイス・ジョーンズ、アナ・ウィンター、クラウディア・シファー、マリアンヌ・フェイスフル、ハンナ・シグラ、シルヴィア・ゴベル、ナジャ・アウアマン、アリヤ・トゥールラ、ジューン・ニュートン、シガニー・ウィーバー、スーザン・ソンタグ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ヘルムート・ニュートンほか

“20世紀を最も騒がせた写真家”の撮影の舞台裏に迫る

「ヴォーグ」「エル」「マリ・クレール」「シュテルン」など、一流ファッション誌で女性を撮り続けたファッション・フォトグラファー、ヘルムート・ニュートン。彼にインスピレーションを与えた12人の女たちの視点から、“20世紀を最も騒がせた写真家”の撮影の舞台裏に迫るドキュメンタリー。
1920年ベルリンに生まれ、映画やラジオなどの大衆文化が広まったワイマール文化の中で育ったニュートンは、50年代半ばから各国版の「ヴォーグ」誌をはじめとするファッション誌にユニークかつ衝撃的な作品を次々と発表。いかつい大柄な筋肉隆々のアマゾネスのような女性など、それまでの着せ替え人形のようなしとやかな女性の写真を見慣れていた読者に強烈なインパクトを与えた。だが、その作品は「ポルノまがい」「女性嫌悪主義」との議論も巻き起こし、「20世紀を最も騒がせた写真家」とも呼ばれた。
この作品は、ニュートンの生誕100年を記念し、2020年に制作された。シャーロット・ランプリングやイザベラ・ロッセリーニ、ハンナ・シグラなどの女優たち、米国版「ヴォーグ」編集長のアナ・ウィンター、モデルのクラウディア・シファーらの貴重なインタビューを収録。さらにニュートンを鋭く批判した小説家、評論家のスーザン・ソンタグとのTV討論のアーカイブ映像なども紹介。稀代の才能の作品世界を、ニュートンにインスピレーションを与えた12人の女性たちの視点から捉え直したスリリングなドキュメンタリー。

50年くらい前に写真を始めた私。そのころは公害問題が多かったり、ベトナム戦争中で、私にとって写真とは「報道写真」だった。なのでユージン・スミス、ロバート・キャパ、桑原史成、岡村昭彦、沢田教一、石川文洋、一之泰造などの写真をよく見ていた。
そして、写真学校に通い始め世界の写真家のことを学び、アンリ・カルティエ=ブレッソン、アンセル・アダムス、リチャード・アヴェドン、エドワード ・ウェストン、ドロシア・ラング、セバスチャン・サルガド、土門拳、木村伊兵衛、森山大道、名取洋之助などを知り、ヘルムート・ニュートンの写真も知った。ファッション雑誌なんて見たことがなかったので、それまではファッション写真なんて見たことがなかった。だから、ファッション写真という分野があるということ自体知らなかったけど、高度成長時代でファッションや料理などの写真の分野、山や自然を写した写真の分野などの世界も広がっていった。
1975年頃はカメラや写真プリント技術、印刷技術なども飛躍的に発展した時期だったので、表現方法が広がっていった時期。それまでの写真表現から、かわった表現をする写真家も出てきた時期でもあった。その中でヘルムート・ニュートンのユニークで衝撃的な写真は突出していてインパクトがあった。パルコのCM写真なども、そのあたりから変わっていったような気がする。たぶんヘルムート・ニュートンの影響があったと思う。日本での写真展も何度か開催され、行ったことがある。

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Rue Aubriot, Paris, 1975 (C) Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation


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Crocodile, Wuppertal, 1983 (C) Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation


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Chicken, French Vogue, Paris, 1994 (C) Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation

彼が撮る写真は女優やモデルたちを撮った写真は凛としているものがあり、女性が活躍する時代を象徴するようなものもあったが、グロテスクな写真や、そんなのあり?の写真も多く、たとえばスーツの男性の横に裸の女性が立っていたり、ワニが裸の女性をくわえていたり、鶏?の料理をするのに処理したときの写真など、これまでは発表されてこなかったような写真も数多くあった。女性と男性が写っている独特の写真だったり、衝撃的な写真を見て、私はこんな表現方法もあるんだと思った。確かに表現は自由だけど、好きな写真かというと好きではなかった。不快感も覚えた。なのでニュートンを鋭く批判した評論家のスーダン・ソンダクの意見に共感できる。「ポルノまがい」「女性嫌悪主義」との議論も巻き起こし、「20世紀を最も騒がせた写真家」とも呼ばれたというけど、そういう写真家だったのもうなずける(暁)。


取材対象者を女性に限定して撮られたドキュメンタリー作品。次々と取り上げられる作品や当時、モデルをした女性などのインタビューを通じて、ヘルムート・ニュートンの独特な美意識が浮かび上がってきます。映し出される写真はヌードが中心。どれも挑戦的ですが、痛々しさも内在しています。作品ではユダヤ人として戦前のベルリンで生まれ、裕福な暮らしを経験したことを紹介していますが、その生い立ちが彼の作品の根底にあるのかもしれません。
これまでヘルムートが撮る写真は高く評価される一方で、「ポルノまがい」「女性嫌悪主義」という批判もありました。本作では監督の個人的な主観は一切入っておらず、ヘルムートの作品は挑発的なのか、それとも下品な悪趣味なのか、そもそもアートなのかを観る者に判断が委ねられています。あなたはどう感じるでしょうか。(堀)


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Grace Jones and Dolph Lundgren, Los Angeles, 1985 (C) Foto Helmut
Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation

『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』公式HP
2020年製作/93分/PG12/ドイツ
配給:彩プロ
posted by akemi at 09:11| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月08日

ハッピー・オールド・イヤー(原題:ฮาวทูทิ้ง..ทิ้งอย่างไรไม่ให้เหลือเธอ英題:Happy Old Year)

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監督・脚本・プロデューサー:ナワポン・タムロンラタナリット
撮影監督:ニラモン・ロス
編集:チョンラシット・ウパニキット
ラインプロデューサー・衣装デザイン:パッチャリン・スラワッタナーポーン
音楽:ジャイテープ・ラールンジャイ
出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、サニー・スワンメーターノン、サリカー・サートシンスパー、ティラワット・ゴーサワン、パッチャー・キットチャイジャルーン、アパシリ・チャンタラッサミー

第15回大阪アジアン映画祭 グランプリ(最優秀作品賞)
第49回ロッテルダム国際映画祭 Voices Main Programme選出
第10回北京国際映画祭 パノラマ部門正式出品
第25回釜山国際映画祭 A Window on Asian Cinema正式出品
第14回アジア・フィルム・アワード 主演女優賞・衣装デザイン賞ノミネート

タイ・バンコク。スウェーデンに留学していたデザイナーのジーンは、帰国後、母と兄のジェーと3人で暮らす自宅のリフォームを思い立つ。かつて父が営んでいた音楽教室兼自宅の小さなビルを、北欧で出会った“ミニマルスタイル”なデザイン事務所にしようというのだ。しかし、ネットで自作の服を販売する兄は“ミニマルスタイル”をよく分かっておらず、母はリフォームそのものに大反対!内装屋の親友・ピンクには、年内中に家を空っぽにするよう諭されるが、残された時間は1ヶ月弱…。
家じゅうに溢れかえるモノを片っ端から捨てて “断捨離”をスタートさせるジーン。image雑誌や本、CDを捨て、友人から借りたままだったピアス、レコード、楽器を返して回る。しかし、元恋人エムのカメラ、そして、出て行った父が残したグランドピアノは捨てられず…。いよいよ年の瀬。果たしてジーンはすべてを断捨離し、新たな気持ちで新年を迎えることが出来るのか?

ジーンがイメージする空間は白が基調になっていて、物が極力排除されてとてもシンプル。確かにこんな部屋に暮らしてみたい。しかし、思い切った断捨離は家族や友人の反感を買うことも。すごく欲しがっていたからプレゼントしたものを、もういらないとあっさりゴミ箱行きにされたら、いい気持ちはしないだろう。また断捨離した人には思い入れがなくても、一緒に暮らす家族にとっては大切なものもある。
私ははっきりいって片づけが苦手。もしかしたら何かで使うかもしれないと、何でもかんでも取って置くところがある。作品を見ていると断捨離もほどほどが大事だと伝わってきて、物を処分できない私を肯定してくれたような気持ちになれた。もちろん物を溜めておくのもほどほどにしておくべきですけれど。。。(堀)


チュティモンはデビュー作『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』の天才女子高生が印象的でした。モデルから女優になった人なので、今度の作品のすっきりした立ち姿や着こなしに片鱗が見えます。日本のナチュラル系ファッション誌に出てきそう。
どんどん捨てるジーンでも、大事な人や思い出に繋がるものは捨てにくい。クールに見えた彼女にもそんな面があり、共感を呼びます。
転勤族だったころ2,3年に一度は引っ越し、そのたびに不用品を処分しました。動かなくなったら貯まるのは皮下脂肪と同じ。元々あまりない管理能力を越えると、どこに何があるか把握できず探し物が増える→見つからなくて買う→出てくる→モノが増える。さすがに反省して、自分でリミットを決めました。ほんとに実行できるかが問題。(白)


『ハッピー・オールド・イヤー』を3月の大阪アジアン映画祭で見逃し、グランプリを取ったと聞いて残念に思っていたけど、日本公開が決まって嬉しかった。ナワポン・タムロンラタナリット監督のことは2016年の大阪アジア映画祭『フリーランス』という作品で知った(シネマジャーナル97号で紹介)。これは4日間徹夜仕事をしていたフリーのグラフィックデザイナーの男が病を発症するというような物語だった。主人公を、この作品の主人公ジーンの元恋人役を演じていたサニー・スワンメーターノンが演じていた。
『ハッピー・オールド・イヤー』の主人公もデザイナーで、実家を理想的な事務所にするため、母親の反対を押し切って、モノにあふれた家の“断捨離”を進めてしまう。こだわりなく一度は全てを手放そうとした彼女だったけど、洋服やCD、楽器など捨ててさっぱりするつもりだったのに、友人から借りたままだったモノを返して廻ることになってしまった。友達の反応は千差万別。最初の友達は返してほしいといったけど、ほかの友達は「いまさら」というような反応。なんだかすっぱりと断ち切れなくなってしまった。かつての恋人エム(サニー・スワンメーターノン)から借りたカメラを見つけ、宅急便で送ったけど受け取り拒否で返ってきた。なかなか“断捨離”は進まない。それにしても、贈られたものを返すというようなことは日本では考えられないと思った。タイではそういうのは普通にあるのだろうか。これを観ながら、文化の違いというのも考えた。我が家も大掛かりな“断捨離が必要なんだけど、減るどころか増えるばかり。思い切った策が必要ですね(暁)。


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2016大阪アジア映画祭『フリーランス』上映時 撮影 宮崎暁美
左 ナワポン・タムロンラタナリット監督 右 サニー・スワンメーターノン

2019年/タイ/1:1.5/113分
配給:ザジフィルムズ、マクザム
(c) 2019 GDH 559 Co., Ltd.
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/happyoldyear/
★2020年12月11日(金)シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
posted by ほりきみき at 22:29| Comment(0) | タイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

戦車闘争 

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監督・撮影・編集:辻 豊史
プロデューサー: 小池和洋
ナレーター:泉谷しげる

ベトナム戦争終盤を迎えていた 1972 年、アメリカ軍は破損した戦車を神奈川県相模原市の在日米陸軍相模総合補給廠で修理し、再び戦地に送るべく横浜ノースドックへ輸送していた。それを知って「アメリカの戦争に日本が加担するなんて許せない!」と憤った市民がノースドック手前の村雨橋で座り込みを敢行、戦車の輸送は断念された。この事件をきっかけに相模総合補給廠の前にはテントが立ち並び、およそ 100 日間におよぶ抗議活動がはじまる。映画『戦車闘争』は、抗議活動参加者、機動隊員、地元商店主、運送会社社員、市議会議員など座り込みをしていた側から彼らを排除する側、活動に巻き込まれてしまった立場までのあらゆる当事者やジャーナリスト、専門家など総勢 54 人の証言によって、日本現代史上希に見る約 100 日間の闘争の顛末を明らかにする白熱のドキュメンタリー映画である。

ベトナム戦争で使われた戦車を相模原市で修理していたことも、それを再び戦地に送ることを阻止しようとした市民がいたことも知りませんでした。いろいろな形で関わった人たちが次々と登場し、当時のことを振り返ります。話を聞いているうちに、座り込みをしていた人たちが一枚岩ではなかったことが分かってきました。同じように阻止しようとしていても、立場が違うと考え方がこんなにも違うのかと驚きます。
また、市民vsアメリカ軍でもなかったことも分かってきます。戦車の修理をしていたのは3500人の日本人技術者たち。座り込んだ人たちを排除しようとしたのは日本の機動隊。そして、車両制限令で重量オーバーだった戦車やトレーラーの通行を禁止できていたのに、「車両制限令は米軍と自衛隊は不適用」と政令改正したのは閣僚たち。その結果、戦車の搬出を請け負った民間の運送業者。さまざまな立場が入り乱れます。
作品の後半は戦車闘争そのものだけでなく、日米安保条約や日米地位協定、そして憲法第九条について、いろいろな立場から解釈が繰り広げられます。岸信介が極東の範囲をふわっとさせて、憲法第九条と日米安保条約を両立させたのに、孫が台無しにしたなどと結構、過激な発言もあり、最後まで興味深いです。(堀)


1969年~1970年頃、高校生だった私はベトナム戦争に反対し、べ平連のデモに何度か参加していた。べ平連は各地の市民がべ平連を名乗り、地域単位だったり、職場単位、学校単位と、様々な形で存在した。そして、あちこちの地域でベトナム戦争に反対しべ平連デモが行われていた。私は同級生に誘われ都内でのデモに参加していたが、この映画にも出てきた小田実さんや吉岡忍さん、和田春樹さんなども参加していたので、いわゆる中心的な行動に参加していたのかもしれない。そのデモにはヘルメットに角棒を持った学生運動の人たちも参加していたこともあったので、「ベトナム戦争に反対する」誰でもが参加自由のデモだったのでしょう。その程度の意識ではあったけど、あの当時は「戦争に反対する」気持ちを持ったたくさんの人たちが行動していた。まだ高校生であまり詳しくは知らなかったけど、一枚板ではなく、それぞれの単位で行動していたように思う。社会党や共産党など党派系、学生運動各派、そして市民運動というように。
ベトナム戦争は1975年に終わったが、その間、日本にあるアメリカ軍の基地からは、ベトナムに向け兵士や武器、戦闘機などが運ばれていた。沖縄からが多かったが、日本各地にある米軍の基地から運ばれていた。その中で相模原市にある在日米陸軍相模総合補給廠から、戦車が修理され運ばれているということがわかり、1972年に相模総合補給廠の門の前にたくさんの人が阻止のため座りこみをしたというのは知ってはいたけど、ここには参加しなかったので、こんな風に党派を超えてたくさんの人たちが座り込んでいたというのは知らなかった。このドキュメンタリーで知った。当時のことを知っている人からすれば、これはすごいことだと思う。「アメリカの戦争に日本が加担するなんて許せない!」という思いは同じでも、その人たちがこの一箇所にまとまって100日もの阻止を続けたというのは画期的なこと。それにしても、この100日間に渡った「戦車闘争」のことは、これまで知られてこなかったことが多いと感じた。当時、どの程度、新聞やTVなどで報道されていたかというと、余り多くなかったと思う。そういう意味でこのドキュメンタリーは大きな役割を果たしている。映像記録として残すことで、バラバラの個人の記憶として残っていた状況を総合的に記録として残し、参加しなかった人や、このことを知らなかった人の記憶にも残っていく。
これを観て、この「アメリカ軍」に対する闘争で闘わされていたのは日本人同士、これは今の辺野古の闘争も通じると思った。反対する市民、機動隊、工事や運搬をする日本人がアメリカ軍のために闘わされている。50年近く前も、今も同じことを繰り返している。経済的に基地に頼らざるを得ない地元の人の思いと、危険との隣り合わせ。米軍と日本政府の対応は変わっていない(暁)。


2020 年/日本/DCP/104 分/ドキュメンタリー
配給:マーメイドフィルム/コピアポア・フィルム
(C)2020 戦車闘争の映画をつくる会/フィルム・クラフト
公式サイト:https://sensha-tousou.com/
★2020年12月12日(土)より、ポレポレ東中野、あつぎのえいがかんkik他、全国順次ロードショー
posted by ほりきみき at 22:19| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢(原題:The High Note)

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監督:ニーシャ・ガナトラ
脚本:フローラ・グリーソン
出演:ダコタ・ジョンソン(マギー)、トレイシー・エリス・ロス(グレース)、 ケルビン・ハリソン・Jr.(デイヴィッド)、アイス・キューブ(ジャック)

大物歌手グレースの下っ端アシスタントとして、日々雑用に追われるマギー。地方のラジオ局でDJをしている父のもとで培ったおかげで、音楽を聴き分ける耳がある。いつか音楽プロデューサーになりたいと、ひそかにリミックスを作っては憂さを晴らしている。
グレースはすでに功成り名遂げた重鎮だけれども、新曲への意欲も失っていない。マネージャーはツアーの日々をやめてラスベガスでの長期公演を薦めるが、現役から引退するような気がして頷けない。マギーはそんなグレースを見て、ついアシスタントの立場を忘れてしまう。

この主人公のマギーを演じたダコタ・ジョンソンの両親は、ドン・ジョンソンとメラニー・グリフィス。素晴らしい歌声を聞かせるグレース役のトレイシー・エリス・ロスの母はダイアナ・ロス。親の良いところを受け継いで、七光りだけでなくさらに努力して自分の魅力として生かしてきたのでしょう。
ケルビン・ハリソン・Jr.は『ルース・エドガー』と『WAVES/ウェイブス』で主演をつとめ、一躍注目の若手となりました。本作ではマギーを魅了する歌声を披露していますが、ピアノもトランペットも演奏するのだそうです。おまけにイケメンで、天はいくつもギフトをくれたようです。
誰かと一緒に劇場に行ったら観終わって「良かったね~」と言いたくなりますよ。突っ込みなしで。まさに「これぞ映画!」な映画です。
しかし、アシスタントってたくさんすることがあるんですね。おまけに何人もいる。気が利かなくては務まりません。忘れ物と無くし物の多い私には絶対できないわ。(白)


タイトルから主人公は2人のように思えますが、実は夢を叶えようとするのは3人。それぞれの夢を2人で叶えようとするのです。
ハリウッドの音楽業界に君臨する歌姫グレースの付き人として働くマギーは、ずっと憧れてきた人の下で働けていることを幸運と感じながらも、音楽プロデューサーになる夢を諦めきれません。過去のヒット曲のリミックスではなく、新作のアルバムを出したいグレースを勝手に後押ししようとして出しゃばったことをしてしまい、非難されます。そんなときマギーはアーティスト志望の青年デヴィッドに出会い、プロデューサーだと偽って彼をプロデビューさせようとします。
マギー、グレース、デヴィッド。それぞれが夢を叶えるために奮闘し、挫折を味わい、再び立ち上がる。コロナ禍の今、どんな状況でも夢は諦めなくてもいいと元気をもらえること請け合いの作品です。(堀)


日々アシスタント業務に明け暮れながら、音楽業界で自分の居場所を切り開きたいマギーには、脚本を書いたフローラ・グリーソンの若い時の下積み時代が投影されています。トップスターとして君臨するのも、男性ではなく女性をあえて据えたフローラ・グリーソン。映画化が決まり、プロデューサーが監督として選んだのがニーシャ・ガナトラ。フローラはニーシャのことを「彼女は女性がどのように働き、女性同士がどのように支えあっているかを、繊細に、面白く、魅力的に描くのが上手い」と語っています。
社会で確固たる成功した居場所を得る女性は、残念ながらまだまだ少ないけれど、頑張れば夢は叶うという元気を貰える物語。マギーとグレースが、とても輝いていて素敵です。(咲)


ハリウッドのことはよく知らないので、主人公を演じた二人の女優さんがどんな活躍をしてきたかとか、二人の両親も映画や音楽で活躍してきた芸能一家だということはよく知らなかった。でも、ダイアナ・ロスの名前くらいは知っている。アメリカも二世俳優がけっこういるのだなと思った。トレイシー・エリス・ロスは、本業は歌手ではなく、女優やファッションデザイナーとのことだけど、なんと歌がうまいんだと思った(本人が歌っているのよね?)。やっぱり血筋なのかな。
音楽業界での話しではあるけど、ベテラン歌手がかつてのヒット曲で生きているというのは、日本でも中尾ミエが「1曲ヒット曲があれば、それで一生食べていけるのよ」と言っていたけど、やっぱりどこの国でもそうなんだと思ってしまった。私自身のファン心理として、やっぱりファンである歌手のコンサートに行ったとき、新しい知らない曲より、古いなじみのある曲を歌ってくれないかなとどこかで思っている。それでも新しいことに挑戦する姿勢は応援する。きっとファンならそう思うんじゃないかな。二人の挑戦に賛辞を送りたい。成功しないかもしれないけど、やはりその気持ちが勇気を与えてくれる(暁)。

2020年/アメリカ、イギリス合作/カラー/シネスコ/114分
配給:東宝東和
(C)2020 UNIVERSAL STUDIOS
https://www.universalpictures.jp/micro/next-dream
★2020年12月11日(金)ロードショー


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2020年12月06日

レディ・トゥ・レディ

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監督・脚本:藤澤浩和
撮影:伊藤麻樹
ダンス監修:堀口史朗、桜田まゆ
出演:大塚千弘(鈴木真子)、内田慈(城島一華)、木下ほうか(木村克己)ほか

生活に追われる主婦・鈴木真子と、売れない独身女優・城島一華は、高校時代にダンスで脚光を浴びた二人だった。同窓会で再会して、クラスメートの前で切った大見栄がきっかけで社交ダンスカップルを組む事に。初めて家庭のためではない自分のために時間を生きる事になった真子と、傷だらけの女優生命を懸けた一華の壮絶な練習の日々が始まった。 かつてのコーチ・木村に師事しつつも簡単には取り戻せない肉体のキレ。 しかしパートナーとの衝突、肉体との対話は確実に二人の人生を変えていく。

女性ペアでの社交ダンスに挑んだ真子(まこ)と一華(いちか)。男女ペアが常識の競技ダンスに新風を吹き込めるのか?!高校卒業以来別々の道を歩んできた二人が、再会して共通の目標に向かっていく元気の出るガールズ・ダンス・ムービーです。
藤沢監督の最新作に、オーディションを経て参加した主演の大塚千弘さん、内田慈さんは息もぴったり、厳しいダンスの特訓も夜を徹しての撮影も乗り越えました。観終わると、こちらも丸めていた背中がぴっと伸びて、ダンスでなくとも楽しいことを探してみよう、新しいことに挑戦してみようと思える作品です。
ダンス・ムービーと言えば、周防正行監督の『Shall we ダンス?』(1996)、映画が大ヒットして社交ダンスが一大ブームになり、2004年にはアメリカでリメイクされたのを思い出します。主演の役所広司さんがストーリーが進むにつれて素敵になっていきました。その映画が大好きという主演の大塚千弘さん、内田慈さんお二人に取材ができました。只今まとめ中です。後少しお待ちくださいませ。
★インタビュー記事アップしました。こちらです。(白)


社交ダンスって男女で踊るものだと思っていましたが、ジュニアは女子同士で組むこともあるとこの作品で知りました。中学生までは一緒に踊っていた2人が久しぶりにペアを組む。バイトをして生計を立てる売れない女優とパートで生計を支える主婦。あの頃はお互いのことを何でも知っていたのに、今は相手のことがさっぱり見えない。そんな2人がダンスのレッスンを通じて、相手のことを理解していく姿は私たちにも置き換えることができるかもしれません。(堀)

社交ダンスの女性ペア。考えてもみなかった発想を映画にした作品に喝采。二人の踊るシーンをみたら、思わずまるまった背中をピシッと伸ばさなくてはと思いました。私自身はダンスは踊らないけど、社交ダンスをすることで、人生に張り合いをみつけようとする二人の姿を見て、思わず応援したくなりました。そして先入観にとらわれず、人から何を言われようと、自分がやりたいこと、信じる道をゆくという行動に対して勇気をもらいました。二人は挫折しそうにもなりながらも、女性同士のダンスの道を歩むことで周りを変えていきます(暁)。

2020年/日本/カラー/90分
配給:トラヴィス
(C)2020 イングス
http://lady-to-lady.net/
★2020年12月11日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

メイキング映像が紹介されています。お二人のダンス特訓シーン!
https://twitter.com/ladytoladymovie
posted by shiraishi at 17:19| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

天外者(てんがらもん)

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監督:田中光敏
脚本:小松江里子
撮影:山本浩太郎
出演:三浦春馬(五代友厚)、三浦翔平(坂本龍馬)、西川貴教(岩崎弥太郎)、森永悠希(伊藤博文)、森川葵(はる)、蓮佛美沙子(五代豊子)、生瀬勝久(五代徳夫)、筒井真理子(五代やす)ほか

時代を越え、志は未来に生き続ける
五代才助(友厚)は薩摩藩士の家に生まれ、子どものころに父から世界地図を見せられて、我が藩我が国にこだわらない広い視野を持って成長した。激動の幕末に、高杉晋作、坂本龍馬に出逢い、後の明治政府の立役者となる人々との知己を得る。遊女はると知り合った五代は、誰もが夢を見ることのできる国を作ることを念頭におく。藩命により念願であった欧州渡航を果たし、語学と商才を磨く。明治政府役人を経て実業家となり、今日に続く商都大阪の基礎を作り上げ「東の渋沢栄一、西の五代友厚」とも評される功績を挙げた。

“天外者(てんがらもん)”とはすさまじい才能の持ち主のことをいうそうです。2015年のNHKの朝ドラ「あさが来た」でヒロインのあさが尊敬する人物として五代友厚が登場しました。ディーン・フジオカが演じて大人気となり、脚本を書き換えて出演時期を延ばしたと聞いています。「五代ロス」の言葉も生まれましたね。
この才能にあふれ、商才がありながら大義と正義を重んじた人物を三浦春馬さんが演じました。精魂込めて未来への希望を熱く語った彼が、実人生を閉じてしまうとは誰も予想だにしませんでした。完成を観ずに逝ってしまった彼の胸中は想像もつかず、若いのに何故?と惜しくてなりません。
五代友厚の命日の9月25日、五代友厚が初代会頭を務めた大阪商工会議所にて関係者試写会が行われました。田中光敏監督が登壇し感謝の言葉を述べました。春馬さんについての言葉をここに引用します。
「彼はスクリーンの中で、精一杯最高の芝居をしてくれています。春馬くんが僕に、“僕をこの作品に呼んでくれてありがとう”と、言ってくれました。ただ彼が完成した作品を観れないのが、残念です」。最後に「たくさんの方々に観てもらいたいと思っています。大阪から日本、そして世界中の人々が観てもらえるような作品になっていると信じて今日送り出します。ぜひ皆さんのお力をさらに借りて、まわりの方々に広めていただけたらと思います。三浦春馬を始め、それを支えたたくさんの素晴らしい役者たちの最高の演技をぜひご覧ください」(白)


作品としては江戸の終わりから明治半ばまでを描いていますが、歴史の表舞台ではない部分にスポットが当てられ、「そうだったんだ」と興味深い。例えばグラバー邸で有名なトーマス・グラバー。残っている建物は有名ですが、彼本人は何をしていたのか、知っている人は少ないのではないでしょうか。五代を経済的に大きく支え、それは結果として日本の近代化に大きな手助けとなったことが映画を見るとわかります。
晩年、五代は大阪商法会議所を設立し、初代会頭に就任します。ただ、彼には黒い噂もあって、大阪の財界人たちから非難を浴びました。すると「地位か名誉か金か、いや大切なのは目的だ」と声をあげたのです。偉大な人の先を見据えた行動は理解されにくいのかもしれません。そういえば薩英戦争で捕虜になったときの行動もみなから非難を浴びました。
五代友厚はNHK「あさが来た」でディーン・フジオカが演じたことで知り、思慮深いイメージ持っていました。本作ではそれとは違う、がむしゃらに真っすぐな熱い五代友厚を三浦春馬が見せてくれます。(堀)


私はNHKの朝ドラ「あさが来た」を観てなかったので、五代友厚のことはこの『天外者』を観て、その足跡を知りました。鎖国していた江戸時代から、開国して世の中が大きく変わった明治時代。当時を生きた人たちは、さぞかし面食らったことと思います。激変した世の中に、なかなか対応できなかった人もいるのではないでしょうか。そんな中で、未来を見据えて行動を起こした人たちがいて、今の日本があるのだと、あらためて思いました。
個人的には、本作、薩摩藩の藩主・島津斉彬を演じた榎木孝明さんが一番の楽しみでした。藩で特に役についていない五代に洋行の費用を出すことを反対する側近もいる中、「若者であることは貴重。大きく育てよう」という素敵なお殿様。行動に移そうとする若者を支援する人もまた、夢を見れる国の実現に必要な人なのだと思いました。(咲)


2020年/日本/カラー/109分
配給:ギグリーボックス
(C)2020「五代友厚」製作委員会
https://tengaramon-movie.com/
★2020年12月11日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

■Youtubeリンク
  1、約束編:https://youtu.be/zFO62cP_dmM
  2、決意編:https://youtu.be/Who5KZlKKn0
  3、友情編:https://youtu.be/Qonn32ENUeg
posted by shiraishi at 16:58| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月05日

パリのどこかで、あなたと(原題:Deux moi) 

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監督・脚本:セドリック・クラピッシュ
出演:アナ・ジラルド、フランソワ・シヴィル ほか

パリの隣り合うアパートメントでひとり暮らしをしている30歳のメラニー(アナ・ジラルド)とレミー(フランソワ・シヴィル)。がんの免疫治療の研究者として働くメラニーは、元恋人との恋愛を引きずりながらも仕事に追われる日々を過ごしていた。一方、倉庫で働くレミーは、同僚が解雇されるも自分だけ昇進することへの罪悪感とストレスを抱えていた。その影響から、メラニーはいくら寝ても寝足りない過眠症に、レミーは眠れない不眠症に苦しむ日々が続き、2人はそれぞれセラピーに通い始める。
そんな中、友人からマッチングアプリを勧められたメラニーは、出会った男性たちと一夜限りの関係を繰り返していたが、過去の失恋で空いた心の穴を埋められずに思い悩む。かたや、元同僚への罪悪感を抱えながら孤独な日々を送るレミーは、職場で出会った女性とデートをするも、うまく距離を縮めることができない。
都会の喧騒の中で、同じ電車に乗り、同じ店で買い物をして、同じように孤独を埋められない2人は、道ですれ違うことはあっても知り合うことはない。世界で最も美しい街・パリに住む2人の人生が交わることはあるのか? そして、その出会いは2人の人生を変えるものとなるのか?

男女2人のすれ違いを描いた作品と聞けば、愛し合っていた2人にすれ違いが重ねり、心が離れていく物語を思い浮かべますが、全く違う展開に驚きます。本作ではメラニー(アナ・ジラルド)とレミー(フランソワ・シヴィル)は頻繁に同じシーンに映り込みますが、一向に知り合う機会さえない! 見ているこちらはじれったくてヤキモキ。2人の一挙手一投足に目が離せなくなります。
メラニーを演じたアナ・ジラルドとレミーを演じたフランソワ・シヴィルはクラピッシュ監督の前作『おかえり、ブルゴーニュへ』(17)で姉弟役を演じて2度目の共演。あのときにイケメンだわ!とチェックしたフランソワ・シヴィルはその後、『私の知らないわたしの素顔』でジュリエット・ビノシュがSNS上で恋に落ちるカメラマン、『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』で妻とすれ違うSF作家を演じて、フランスでも人気急上昇中。第72回カンヌ国際映画祭で将来の活躍が期待される若手俳優に贈られるショパール・トロフィーを受賞しました。本作ではちょっと頼りない感じですが、ご近所さんに押し付けられた子猫と暮らすうちに見せるようになる笑顔は最上級の癒しになるはずです。(堀)


隣り合ったアパートに住んでいる二人。観客には何度もニアミスしているのがわかるので、二人の動向に目が離せません。そのほかに気になったのがカウンセリングのシーン。カウンセラーは答えを出すのではなく、本人が自分の心と向き合って問題を見つけ出す手助けをするんですね。なんでもなさそうな話から始まって、だんだんと核心に迫っていく過程が興味深かったです。いったい料金っていくらなんでしょう?ググルとすごく開きがあり、保険の対象になるにはいくつも条件がありました。
人と付き合うのはストレスにもなりますが、得られるものもあります。あの二人が何をきっかけに出会うのかは、映画を観てのお楽しみ。それまでのことを話し合ったら笑っちゃいそうですよね。
どの作品でも人を優しく見つめているクラピッシュ監督には、2008年のフランス映画祭で来日したときインタビューさせていただきました。作品の印象と同様穏やかで優しい方で、小さな雑誌の取材に丁寧にお返事してくださったのを思い出します。 (白)


2019年/111分/PG12/フランス
配給:シネメディア
(C) 2019 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA
公式サイト:https://someone-somewhere.jp/
★2020年12月11日(金)より YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 23:37| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月04日

夏、至るころ 

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原案:監督:池田エライザ 
脚本:下田悠子
撮影:今井孝博 
照明:長沼修二 
録音:菰田慎之介 
美術:松本慎太朗
音楽:西山宏幸
出演:倉悠貴、石内呂依、さいとうなり、安部賢一、杉野希妃、大塚まさじ、高良健吾、リリー・フランキー、原日出子

翔(倉悠貴)と泰我(石内呂依)は高校最後の夏を迎えていた。二人は幼い頃から祭りの太鼓をたたいてきた。だが、泰我が突然、受験勉強に専念するから太鼓をやめると言い出す。ずっと一緒だと思っていた翔は急に立ちすくんでしまう。自分はどうしたらよいのか、わからない……。
息子の将来を気にかける父(安部賢一)と母(杉野希妃)、やさしい祖父(リリー・フランキー)と祖母(原日出子)、かわいい弟。あたたかい家族に囲まれると、さらに焦りが増してくる翔。ある日、祖父のお使いでペットショップを訪れた翔は、ギターを持った不思議な少女・都(さいとうなり)と出会う。彼女は音楽をあきらめて東京から故郷に戻ってきていた……。

本作は地域の「食」や「高校生」とコラボした美味しい青春映画制作プロジェクト『ぼくらのレシピ図鑑』の第二弾として、福岡県田川市を舞台にして作られました。池田エライザ監督は地元でのオーディションやワークショップにも参加したそう。
翔を演じたのは映画初主演の倉悠貴。映画『樹海村』(清水崇監督)、『街の上で』(今泉力哉監督)、主演作『衝動』(土井笑生監督)の公開が控えています。泰我役には全国2012人の中からオーディションで選ばれた石内呂依。
主人公の父親役には大分県出身で、『ガチ☆星』の主演を務めた安部賢一、母親役は自身もプロデューサーや監督として評価の高い杉野希妃、祖父役に是枝作品常連のリリー・フランキー、祖母役に2019年、映画『鈴木家の嘘』(野尻克己監督)で第33回高崎映画祭最優秀主演女優賞を受賞した原日出子と実力派が脇をがっちり支えています。
翔は将来を決める時期に差し掛かったけれど、どうしたらいいかわからない。両親は幸せになりなさいと言ってくれるけれど、幸せって何だろうと悩みます。18歳には難しいですよね。私がその年齢の頃、高校の先生から「今はまだ決められなくて当然。だからこそ、親御さんが大学に進学してもいいといってくれるなら、モラトリアム期間として、もう4年、自由に過ごしてみたら」と言ってくれたのを思い出しました。
悩んだ翔は祖父や母に幸せって何?と聞くのですが、2人の答えに胸がほっこりしました。特にリリー・フランキー演じる祖父の答えは妻にとって最高の言葉でした。あ~私もそんな風に言われてみたい!(堀)


池田エライザさんの出演作を高校生役から観ていて、いろんな顔を見せる方だなぁと思っていましたが本作では初監督。きちんと作られた青春映画でした。これまでのモデルや女優の経験も生かして、出演者によりそって作られたのでしょう。ベテラン俳優陣が初々しい初主演の二人を盛り立てていました。さいとうなりさんの不思議少女も独特。映画と同じく一生忘れられない夏になったはず。
太鼓は三味線と同じくなぜか心ざわつかせるのですが、この作品でも始まりからラストまでストーリーを貫く役割を果たしています。同じ福岡が舞台の『無法松の一生』松五郎の男気あふれる太鼓を思い出しました。(白)


2020年/104分/G/日本
配給:キネマ旬報DD 映画24区
©2020「夏、至るころ」製作委員会
公式サイト:http://www.natsu-itarukoro.jp/
★2020年12月4日(金)公開
posted by ほりきみき at 18:46| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする