2020年11月28日
燃ゆる女の肖像(原題:Portrait de la jeune fille en feu/英題:PORTRAIT OF A LADY ON FIRE)
監督・脚本:セリーヌ・シアマ
出演:アデル・エネル、ノエミ・メルラン
画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は、ブルターニュの孤島で暮らす伯爵婦人(ヴァレリア・ゴリノ)から、娘のエロイーズ(アデル・エネル)の見合いのための肖像画を頼まれる。しかし、エロイーズは結婚を拒み、画家が来ても肖像画を描かせようとしない。マリアンヌは身分を隠して近づき、密かに肖像画を完成させた。真実を知ったエロイーズはその絵の出来栄えを否定し、モデルになると申し出る。伯爵夫人から描き直すために5日を与えられたマリアンヌはエロイーズとキャンバスを挟んで見つめ合い、美しい島を共に散策し、音楽や文学について語り合っていくうちに惹かれ合っていく。
本作は2019年の第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞と女性監督として初めてクィア・パルム賞を受賞しました。クィア・パルム賞は、LGBTをテーマにした作品に与えられるカンヌ国際映画祭の独立賞のひとつ。セリーヌ・シアマ監督は『水の中のつぼみ』でタッグを組んだ、元パートナーでもあるアデル・エネルを念頭に脚本を執筆したそう。舞台は18世紀のフランス・ブルターニュの孤島ですが、現代の女性にも繋がる問題をテーマにしています。
物語はマリアンヌを中心に進んでいきますが、ラストにエロイーズの表情を捉えた長回しのカットがあります。セリフはなく、マリアンヌが好きだと言った、ヴィヴァルディ協奏曲第2番ト短調RV315「夏」をオーケストラが奏でるのを聴くエロイーズの横顔を映すのですが、彼女の心に広がる感情の波が表情だけで伝わってきました。アデル・エネルの圧巻の演技は息を呑むほどです。(堀)
時は、1770年。フランス革命の起きる19年前のこと。
男性優位の社会の中で、精一杯、自分の気持ちに従って生きようとする女性たちの姿を、セリーヌ・シアマ監督は静かにみずみずしく描いています。
貴族の娘エロイーズは姉が結婚を拒否して自殺。自身もお見合い用の肖像画を描かれることを拒んでいます。一方、画家としての経験を積みながらも、女性の名前では絵を世に出せないことを不満に思っているマリアンヌ。女性が本を読むこともままならない時代に、メイドの若い娘は本を借りて読むのを楽しみにしています。そんな女性たちの気持ちが寄り添う数日の物語。
グザヴィエ・ドランが絶賛とのこと。画家とモデルとしてそばにいるうちに惹かれあう二人の物語。なるほど、恋に落ちる瞬間も目の動きで表していて素晴らしいです。(咲)
階層の区別が厳しかった時代。エロイーズの母親は貴族であることに誇りを持っていますが、娘はその縛られた生き方も重荷であり、枷と感じていたのでしょう。マリアンヌとの恋のほか、メイドの少女にも身分を越えて接し、彼女の一大事には二人して付き添います。これには驚きました。
古城で、海岸で、草原での二人が美しく、カメラと美術の方の力を感じます。画家としてのマリアンヌの矜持や悩みは、セリーヌ・シアマ監督自身と通じるものがあったのではないかしら。思い出の中のエロイーズがマリアンヌから消えることはなく、新たな彼女を祝福するところに監督が重なっていると思いました。(白)
2019/フランス/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/122分
配給:ギャガ
© Lilies Films.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/portrait/
★2020年12月4日(金) TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマ 他全国順次公開
10万分の1
監督:三木康一郎
原作:宮坂香帆『10万分の1』(小学館 フラワーコミックス刊)
脚本:中川千英子
出演:白濱亜嵐(EXILE/GENERATIONS) 平祐奈 優希美青 白洲迅 /奥田瑛二
「告白して気まずくなるくらいなら友達のままでいい」と、学校中の女子はもちろん、男子からも憧れの存在である桐谷蓮(白濱亜嵐)に密かに想いを寄せる桜木莉乃(平祐奈)だったが、ある日、蓮の方から想いを打ち明けられ、誰もがうらやむ両想いの日々が始まる。2人で過ごす時間が何よりも大切なものに変わる頃、「10万分の1」の確率でしか起こらない、ある運命が降りかかる—。
恋に落ちた女子高生が主人公の人気コミックの実写化と聞くと、いろいろハラハラしながらもラストに恋が成就するというイメージを抱いてしまいますが、本作は割と早い段階で両想いになります。むしろその後の2人の関係が本題。莉乃が難病に罹ってしまうのです。迷惑を掛けたくない莉乃と少しでも支えになりたい蓮。互いに相手を想うがゆえに気持ちがすれ違う。切ないです。そんな2人が一緒に乗り越えていこうと思うきっかけを作ってくれたのは莉乃の親友。友だちってありがたいですね。
莉乃が罹った筋萎縮性側索硬化症(ALS)はこれまでも映画で取り上げられてきましたが、どの作品もかなり進行している状態でした。本作では元気だった莉乃が少しずつ病に侵されていきます。平祐奈がその過程を丁寧に演じていて、演じるにあたってかなりリサーチされたのを感じました。(堀)
2020年/112分/G/日本
配給:ポニーキャニオン 関西テレビ放送
©宮坂香帆・小学館/2020映画「10万分の1」製作委員会
公式サイト:https://100000-1.com/
★2020年11月27日(金)公開
サイレント・トーキョー
監督:波多野貴文
原作:秦建日子「サイレント・トーキョー:And so this is Xmas」(河出文庫刊)
脚本:山浦雅大
撮影:山田康介
美術:黒瀧きみえ
出演:佐藤浩市(朝比奈仁)、西島秀俊(世田志乃夫)、石田ゆり子(山口アイコ)、中村倫也(須永基樹)、広瀬アリス(高梨真奈美)、井之脇海(来栖公太)、勝地涼(泉大輝)、
12月24日、クリスマスイブ。買い物客でにぎわう東京。「恵比寿に爆弾をしかけた」とテレビ局に電話が入った。「どうせガセだろう」という高沢先輩と半信半疑で現地へ向かった来栖公太。青い顔でベンチに座っていた主婦山口アイコは、先輩を座らせるなり「立ち上がったら爆発する」と公太と警備員の元へ走る。どこにいるともしれない犯人の指示通りに実行しなければならない。犯人からの要求が動画サイトに上がった。「標的は渋谷ハチ公前。要求は首相との生対談」18時という刻限が迫る中、渋谷は警備が強化されるが、知らずに来た人や野次馬でごったがえす。
始まりからラストまで、最初に巻き込まれたアイコや公太、朝比奈、来栖、渋谷署や捜査一課の刑事たち、と次々と視点が変わっていきます。クライムサスペンスであり群像劇でもあり、爆破事件と人間関係がこのスピードで語られるので、99分におさまりました。しっかりついて行ってください。
日本でも何度かテロや戦争がありましたが、国境も地続きの欧米と違って最近の危機意識は低いでしょう。そんなところに爆破事件が続いたらどうなるか?自分があの群衆の一人だったら?と想像してみてください。ぞっとしませんか?世界中のあちこちで起きていることでもあります。
秦建日子の原作はジョン・レノンとオノ・ヨーコの「Happy Xmas(War Is Over)」にインスパイアされて執筆されたのだそうです。本当に戦争は終わったの?幸せなクリスマスを祝っていいの?と、胸がキリキリっと痛みます。(白)
この作品の最大の見せ場は渋谷のスクランブル交差点の爆破シーンです。栃木県の足利競馬場跡地に再現されたオープンセットに高速レールを設置してハイスピードカメラを走らせ、一気に撮影しました。エキストラも一般の方々ではなく、アクション部の人たちが参加し、爆風で吹っ飛ぶ様子をみなさん自力で飛んでいます。タイミングを合わせるのが非常に難しく、何度も何度もトライそう。また爆破前はまばゆいほど色とりどりの灯が輝いている渋谷が爆破後は暗くなる。その落差にリアリティを感じさせていますので、ご覧になったら、しっかり体感してください。(堀)
リアル謎解きゲーム!開始
『サイレント・トーキョー:Another X-DAY』12/1(火)~12/14(月)
渋谷の街中に貼られた映画『サイレント・トーキョー』のポスターを探し、
犯人から届く「爆破予告」に記された謎解きに挑戦。
詳細はこちら https://silenttokyo.roadcast109.com/top
2020年/日本/カラー/シネスコ/99分
配給:東映
(C)2020 Silent Tokyo Film Partners
https://silent-tokyo.com/
★2020年12月4日(金)ロードショー
100日間のシンプルライフ(原題:100 Dinge)
監督・脚本:フロリアン・ダーヴィト・フィッツ
出演:フロリアン・ダーヴィト・フィッツ(パウル・コナスキー)、マティアス・シュヴァイクホファー(トニー)、ミリアム・シュタイン(ルーシー)、ハンネローレ・エルスナー(レナーテ・コナスキー)、カタリナ・タルバッハ(オマ・コナスキー)
スマホ依存症で、ネットショッピングと人工知能搭載アプリ「NANA」に満足、生身の恋人不要のパウル。金儲け大好きなイケイケのハンサム、実はコンプレックスの塊のトニー。2人は幼なじみのビジネスパートナー。質素だったご先祖様とは違って、多くの好きなモノに囲まれて暮らしている。酔って大げんかした2人は、とんでもない勝負をすることになった。負けたら財産は社員たちが山分け。それは家財道具全てを倉庫に預け、素っ裸の状態から1日1つずつ必要なモノを取り戻し100日間生活する、というものだった。
ベースのドキュメンタリー『365日のシンプルライフ』(2013/フィンランド)は日本でもヒットしました。たった一人で1年間という長丁場。ご本人が来日して舞台挨拶されたのを見ていました。映画にすっかり感銘を受けて断捨離を試みましたが、早々に挫折したのでした。モノを減らすのは難しいです。
この作品は舞台をドイツに移し、2人のイケメンの意地と財産をかけたエンタメ作品に変えています。人生にほんとに必要なものは何か?二人と一緒に観客も考えることになります。初めは大笑いして次第に共感していくのは、ドキュメンタリーと同じ。コナスキー家の一癖も二癖もある家族、個性的な社員たち、倉庫仲間のルーシーの秘密など、退屈反対の要素がいっぱい。観終わったころには大切なものに気づいているはず。(白)
パウルが開発したアプリ「ナナ」はまるで生きている人間のように話しかけてくれ、買いたくなるものを勧めてきます。パウルはナナの甘い言葉に釣られて、ついついクリック。家の中は使っていないモノで溢れています。一方のトニーは見た目を磨くことに必死。体を鍛えて、髪を整え、洋服にもこだわります。そんな二人が仕事上の行き違いでケンカをし、シンプルな生活に耐えられるかで賭けをしました。
ベースになっている『365日のシンプルライフ』は主人公とモノの関係をストレートに映し出していますが、本作は2人の関係の変化を通じて、人との向き合い方も見る人に問いかけてきます。隣の芝生は青く見えるといいますが、パウルとトニーも親しいゆえに相手が完璧に見えて、お互いのコンプレックスを刺激したのです。
でも、完璧な人なんていません。みんな、どこか不完全な部分があるもの。だからこそ、相手の不完全さも受け入れられる。自分の心に空いている穴を埋めようと、モノや形に依存じていた登場人物たちがそれに気がつくラストは清々しく、観ている私たちにも自分で考えようとメッセージを投げ掛けています。(堀)
冒頭、第一次世界大戦の時代を生きた曾祖父母、ヒトラーにすべてを奪われた祖父母、ベルリンの壁崩壊を経験した両親、そして物に溢れた時代に生きる私たちと、この100年の変貌ぶりを一気に見せてくれます。ついポチって物を買ってしまう主人公のパウルを、フロリアン・ダーヴィト・フィッツ監督自身が自虐的に演じて、笑わせてくれます。
でも、笑ってはいられません。スマホを片時も離せなくなった私たち。検索履歴から好みをしっかり把握されていて、購買意欲をそそる情報が届くのですから。私はネットでは買わない主義だけど、妹はすぐポチるので、今、我が家の玄関には洋梨、お米、オイルヒーター、テーブルと椅子のセットが山積みになっています。いるものではあるのですが、箱を開けるのも一仕事!
映画の中で、パウルのおばあちゃんが収容所から持ち帰ったトランクが出てきます。中に収めてある品々から、人生で何が大事かのヒントを貰えたような気がします。(咲)
2018年/ドイツ/カラー/111分
配給:トランスフォーマー、フラッグ
(C)2018 Pantaleon Films GmbH / Erfttal Film & Fernsehproduktion GmbH & Co. KG / WS Filmproduktion / Warner Bros. Entertainment GmbH
https://100simplelife.jp/
★2020年12月4日(金)ロードショー