2020年11月23日
空に聞く
監督・撮影・編集:小森はるか
撮影・編集・録音・整音:福原悠介
出演:阿部裕美
東日本大震災の後、約三年半にわたり「陸前高田災害FM」のパーソナリティを務めた阿部裕美さん。地域の人びとの記憶や思いに寄り添い、いくつもの声をラジオを通じて届ける日々を、キャメラは親密な距離で記録した。津波で流された町の再建は着々と進み、嵩上げされた台地に新しい町が造成されていく光景が幾重にも折り重なっていく。失われていく何かと、これから出会う何か。時間が流れ、阿部さんは言う————忘れたとかじゃなくて、ちょっと前を見るようになった。
小森はるか監督は震災後のボランティアをきっかけに東京から岩手県住田町(陸前高田の隣町)に移り住み、人々の語り、暮らし、風景の記録をテーマに制作を続けてきました。土地勘もなく知り合いもいなかったため、陸前高田災害 FM の Twitter アカウントを寄り所にしていたことで、「陸前高田災害FM」のパーソナリティを務めた阿部裕美さんと知り合ったそう。それがきっかけで本作が作られたのです。阿部さんの柔らかな口調は自ら主張するのではなく、取材対象者の語りをうまく引き出します。聞き上手なのは、阿部さんが震災前に和食屋さんの女将をしていたからかもしれません。小森監督のカメラは阿部さんを通じて、陸前高田の変化を映し出しました。陸前高田災害 FMは2018年3月16日をもって閉局しましたが、これからは小森監督が陸前高田を記録していくのでしょうね。(堀)
『息の跡』(2017)の小森はるか監督の新作。今回も一人の被災者を丁寧に取材していくスタイルは変わりません。阿部さんのスタジオは簡素で、これだけで間に合うの?と思ってしまいました。一人住まいのお年寄りから亡くなられた奥様とのなれそめを聞いて、一緒にお茶を飲んで笑います。そうやって阿部さんが受け取ったあの人この人のお話がこのスタジオから、聞き手のもとへ飛んでいきます。あの柔らかな声と語り口が、どんなに被災地の方々を慰めたことでしょう。
Google地図の航空写真を見ました。東京から東の海岸にそって北上していくと、まだまだ災害の爪痕が残っていることに気がつきます。陸前髙田のかさ上げした土地も見えるのです。阿部さんが勝手口から見ていた風景でしょうか。なんでもすぐ忘れてしまう私たちに、揺さぶりをかけてくれる作品でした。(白)
2018年/日本/73分/DCP
配給:東風
©KOMORI HARUKA
公式サイト:http://soranikiku.com/
★2020年11月21日(土)より、ポレポレ東中野にてロードショー他全国順次公開