2020年11月21日
アーニャは、きっと来る 原題:Waiting for Anya
監督:ベン・クックソン
脚本:トビー・トーレス、ベン・クックソン
原作:マイケル・モーパーゴ 「アーニャは、きっと来る」(評論社刊)
出演:ノア・シュナップ、トーマス・クレッチマン、フレデリック・シュミット、トーマス・レマルキス、ジャン・レノ、アンジェリカ・ヒューストン
ユダヤ人を救った羊飼いの少年の成長物語。
1942年、第二次世界大戦下のフランス。スペインとの国境ピレネー山脈にある小さな村レスカン。13歳のジョー(ノア・シュナップ)は、ドイツの捕虜となって不在の父親に代わって羊飼いとして一家を支えていた。
ある日ジョーは山の中で、ナチスの迫害から逃れてきたユダヤ人の男ベンジャミン(フレデリック・シュミット)と出会う。彼は義理の母オルカーダ(アンジェリカ・ヒューストン)の家で、各地から逃げ延びてきたユダヤ人の子どもたちを匿っていて、山の向こうの安全なスペインに逃がす計画を企てているとジョーに語る。ジョーは、祖父アンリ(ジャン・レノ)の旧知の仲でもあるオルカーダから、山の家に食料を定期的に届けることを頼まれる。レスカンにも今やナチス・ドイツが駐留していて、しかも橋が壊され、食料が入ってこない中、大量の食糧の買い出しを怪しまれないように行うのは大変なことだった。
ある日ジョーは、食料品店でナチスのホフマン伍長(トーマス・クレッチマン)と知り合う。伍長に誘われ鷲を見に行ったジョーは、彼の人柄に惹かれ親しくなるが、彼もまたベルリンの空襲で娘を失った戦争被害者であることを知る。
ジョーの父親(ジル・マリーニ)がドイツの収容所から4年ぶりに帰国する。気持ちの荒んでいた父親も、ユダヤ人の子どもたちの救出作戦を知って、協力を惜しまない。夏の移牧で子どもたちを羊飼いに仕立てて山越えさせてスペインに逃す計画にレスカン村一丸となって取り組む・・・
冒頭、黄色いダビデの星を胸に付けたユダヤ人たちが列車に乗せられていきます。傍らで一人の男性が少女を別の列車の見知らぬ人に託し、「いつかおばあちゃんの家で会おう」と約束して別れます。この少女がユダヤ人のアーニャ。男性はアーニャの父親ベンジャミン。羊飼いの少年ジョーが山で知り合ったユダヤ人です。駅で生き別れになったアーニャがいつかきっと村にやって来ると山の家で待っているのです。
時が止まったような静かな山あいの村レスカン。こんなところにまで、ナチス・ドイツが駐留したのは、ここがピレネーを越えて、中立国スペインに逃れることのできる要衝の地だからでした。ベン・クックソン監督は、マイケル・モーパーゴの原作「アーニャは、きっと来る」の舞台であるレスカン村を訪れ、物語はフィクションですが、戦争中にこの村の人たちが実際に避難民の人たちを救ったことを知り、映画をぜひレスカン村で撮りたいと思ったとのこと。
フランスでユダヤ人狩りが行われたことを描いた映画で、強く印象に残っているのは、『サラの鍵』(2010年)や『秘密』(2007年)。いずれも、ユダヤ人を匿う善意の人たちが出てくる一方、フランス警察が片棒を担いでいる姿を描いていました。ナチス占領下とはいえ、フランス警察がユダヤ人を連行し収容所に移送したという事実は長らく伏せられていて、1995年、シラク大統領により国家が迫害に加担したことが明らかにされ、国民に衝撃を与えたそうです。
ナチスの駐留軍とフランス警察の監視下で、ジョーやレスカン村の人たちが身の危険を顧みずユダヤ人の子どもたちを救った物語に、素直に感涙です。
それにしても、「ドイツ語はわからない。フランス語もわからないけど」というジョーのつぶやきに、ドイツ兵どころか、地元の者じゃないフランスの警察官との間にも、言葉の壁があったことを思いました。意思疎通がはかれなかった為の事故もあったのではないでしょうか。(咲)
冒頭、ユダヤ人たちが列車に乗せられるシーンから、一気にフランスのピレネー山脈の麓に佇む小さな村に画面が移る。そこは戦争の気配がまだ来ていないのどかな山郷の村。羊飼いの少年ジョーに話が繋がっていく。しばらく、ここの田舎暮らし、村の人間関係が映し出される。それでも戦局は変わってゆき、ここにもとうとうナチスがやってくる。この展開のうまさに思わずうなる。
村人たちはひそかにユダヤ人たちをスペインに逃すための行動に協力しあう。絶妙な作戦でなんとかナチスにみ捕まらないようにユダヤ人たちを隠し、ひそかにスペイン側に移動する機会をうかがっている。そんな中でもドイツ兵とのかかわりも描かれる。観客はヒヤヒヤ、ドキドキしながら、村人たちを巻込んだ救出作戦を見守る。ジョーは、村がナチスに占領された中、自分の家族や友人、ユダヤ人、ドイツ兵らとのかかわりの中で、彼らの境遇や人生を垣間見、ユダヤ人の迫害や救出劇をめぐって、村の人々の連帯や思いやり、生命の尊厳など様々なこと学び、大人へと一歩づつ近づいていく。戦争を舞台に市井の人々の姿を通して生きることの素晴らしさと希望を描いた。そしてアーニャはやって来るのか(暁)。
主人公のジョーを演じたのはノア・シュナップ。Netflixテレビドラマシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」で人気を博し、11月20日に公開された『エイブのキッチンストーリー』でも主人公を演じています。役柄上はフランス人でナチスの迫害から逃れてきたユダヤ人と出会い、ユダヤ人の子どもたちを山の向こうのスペインに逃す作戦に協力していましたが、彼自身はユダヤ系。思うところがあったに違いありません。
羊飼いの仕事は朝が早い。ジョーは羊を山に連れていき、うっかり居眠りをしてしまって熊に襲われます。このころのジョーにはまだまだ幼さが残っていますが、ベンジャミンと知り合い、彼らの逃亡の手助けをするうちに少しずつ成長をしていきました。そして特に夏の移牧をカモフラージュにする救出作戦に関わり、ぐっと大人びた表情をするように。この変化を違和感なくさらりと演じのけたノア・シュナップはさすが! 今後がますます楽しみです。(堀)
2019年/イギリス・ベルギー/英語/109分/カラー/ヨーロッパビスタ/5.1ch/字幕翻訳:関美冬
配給:ショウゲート
©Goldfinch Family Films Limited 2019
公式サイト:https://cinerack.jp/anya/
★2020年11月27日(金)より、新宿ピカデリー他全国ロードショー
記憶の技法
監督:池田千尋
原作:吉野朔実
脚本:高橋泉
出演:石井杏奈(鹿角華蓮)、栗原吾郎(穂刈怜)、柄本時生(二階堂智)、小市慢太郎(鹿角正)、戸田菜穂(鹿角由加子)
平凡な女子高生の鹿角華蓮(かづの かれん)は、不可解な記憶喪失癖に悩んでいる。我が家ではない家にいる幼い自分、知らない風景がふいに浮かび、もっと思い出そうとすると意識が飛んでしまう。そのほかは両親とも仲良く、至って穏やかな毎日だ。修学旅行が韓国と決まり、パスポートのための戸籍謄本を初めて見た華蓮は、自分に姉がいて、すでに死亡。その後自分が養子となり入籍されていたことを知った。これまでそのことに触れなかった両親に確かめることもできず、自分でその秘密をさぐろうと決心する。手がかりは福岡、修学旅行を内緒でキャンセルし、同じ日に福岡へ旅立つ計画だ。それに協力したのは、青い瞳を持つ同級生の穂刈怜(ほがり さとい)だった。
修学旅行に行かずに、二人で福岡への旅?イケメン同級生とのロマンチックな話ではありませんでした。自分のルーツを調査するバディもの?青春ミステリーでした。本当の両親はなぜ自分を手放したのか、消えている記憶は何だったのか、が少しずつ解明されていきます。記憶に蓋をしたくなるほどの事実が明るみに出ようと、観た後は意外にすっきりします。一見クールで突き放すような怜が思ったより良いヤツだったこともありますが、何より今の華蓮には優しい両親がいて十分幸せだからです。
吉野朔実さんの「本の雑誌」の書評を読んでいましたが、原作は未読。2016年に亡くなられています。漫画を探して読んでみたくなりました。
回想場面に『僕はイエス様が嫌い』(2019/奥山大史監督)主演の佐藤結良くんが出ていました。(白)
さして親しくもない同級生のアルバイト先まで調べて押しかけ、福岡行きの手配を頼む主人公に幼さや自分勝手さを感じてしまいましたが、そんな主人公が同級生の弱さを包み込んであげるまでに成長する物語だと、エンドロールを見ながら気がつきました。
両親から過保護なくらい大切に育てられた主人公がその愛情を疑い、葛藤し、その愛情が本物であったことに気づく。石井杏奈が不安に揺れる心を一生懸命に演じています。
ただ、私の中で強く印象に残ったのは金魚屋を演じた柄本時生。辛く悲しい過去を背負いつつ、その記憶から逃げずに塗り替えようとする姿に人はこんなにも強くなれるのだと驚き、人間の可能性を感じました。(堀)
2019年/日本/カラー/105分
配給:KAZUMO
(C)吉野朔実・小学館 / 2020「記憶の技法」製作委員会
http://www.kiokunogihou.com/
★2020年11月27日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
君の誕生日(原題:Birthday)
監督・脚本:イ・ジョンオン
撮影:チョ・ヨンギュ
音楽:イ・ジェジン
出演:ソル・ギョング(ジョンイル)、チョン・ドヨン(スンナム)、キム・ボミン(イェソル)、ユン・チャニョン、キム・スジン、イ・ボンリョン
2014年4月16日、仁川港から済州島へ向かっていたセウォル号が沈没し、修学旅行中の高校生ら300人以上もが亡くなった。ジョンイルとスンナムの息子のスホも亡くなった。ジョンイルは父としての役目を果たせず、家族に負い目を感じて生きてきた。母のスンナムは近づいてくるスホの誕生日を前に、今だにスホの死を受け入れられない。妹のイェソルは不安定な母を気遣いながら父のいない家で暮らしている。巷ではセウォル号の引き上げを求める署名活動が行われている。そこへ2年ぶりに父のジョンイルが戻ってきた。
親しい人の突然の別れはどうやって受け入れていけばいいのでしょう?ましてや我が子なら?大きなニュースとなった韓国の「セウォル号沈没事故」。この作品は我が子を亡くした一つの家族を中心に描いています。イ・ジョンオン監督は遺族の方々と誕生会を開催するボランティアの経験があり、そこでの活動で出会った人たち、見聞きしたことが小さなエピソードの積み重ねとして生きているようです。
演技に定評のあるソル・ギョングとチョン・ドヨンが悲しみに沈む夫婦を演じて涙せずにはいられません。もういない兄の存在があまりにも大きくて、母に甘えられない娘のイェソルが不憫でした。小さかった彼女も傷ついています。寄り添ってくれる人たちに支えられて、遺族たちが心穏やかに生きて行かれるよう願うばかり。(白)
この事故で息子スホを亡くし、息子への思いを胸に収め、日々の暮らしに追われる母スンナム(チョン・ドヨン)。謎の男のように登場する父親のジョンイル(ソル・ギョング)。長く家を留守にしていて、どこからか帰ってくるが居留守を使われ家に入れてもらえない。娘のイェソルは父の姿を見ても始めは誰だかわからない。ジョンイルは少しづつ通い、イェソルに寄りそいながら妻の心を癒してゆく。長く不在で息子が死んだ時にいなかったらしい。仕事でベトナムに行っていたり、そこでの事故が原因で刑務所に入ることになってしまい、彼も心に傷を負っていた。しかし「必要な時にいなかった」と、妻からいきなり離婚届けを突きつけられる。息子が亡くなった時に父親の役目を果たせなかったジョンイルは、家族に対して罪悪感を抱える。
息子の死を受け入れられないスンナムは遺族会が主催する息子の誕生会に難色を示すが、OKするジョンイル。しかたなく一緒に出かけるスンナム。息子の子供の頃しか知らないジョンイルにとって成長した息子の姿が想像できず、すべてが見慣れない現実の中、家族と一緒に息子の誕生会を迎える。皆の話の中から息子の思い出が浮かび上がってきた。スンナムも受け入れられなかった息子の死と向き合う。家族だけでなく、故人を知る人々が共に記憶し悲しみを分かち合うことがそれぞれの遺族にとってどれだけ生きていく上での励みになるかが描かれる(暁)。
セウォル号沈没事故のように、大きく報道された事故ともなると、息子を亡くしたことをニュースで知った知人友人が慰めの言葉をかけてくることでしょう。それが善意であっても、愛する家族を亡くした当事者にとって、それによって気持ちが安らぐこともあれば、鬱陶しいと感じる場合もあるのではないでしょうか。
母スンナムは、同じ立場で我が子を失った同級生の母親たちと会うのも、遺族を励ます会の主催する会に出るのも嫌なのです。息子が事故で亡くなった時に居なかった父親が突然帰ってきて、離婚を突き付けるほど心を閉ざしています。
事情があって、ベトナムから帰って来られなかった父親ですが、亡くなる前のままの息子の部屋に入った時によぎる思いが切ないです。遺族を励ます会から息子の誕生日会を開きたいと言われ、父親は妻には黙って写真や思い出の品を託します。そうして開かれた誕生日会。ようやく母スンナムの顔が和らぎます。不慮の事故で息子を亡くした悔しさや悲しみはいつまでも消えないけれど、思い出を抱えて前を向いて生きていかなければならないことを悟るまでにかかる時間は人さまざまだなと思います。
セウォル号沈没事故については、船長はじめ乗組員の対応が悪かったことなど色々と取り沙汰されていますが、イ・ジョンオン監督は、さらっと「早くセウォル号の引き上げを!」という署名運動を見せるに留めています。突然の事故で家族を失った人たちの思いに迫った普遍的な物語として、いろいろと考えさせられました。(咲)
2019年/韓国/カラー/シネスコ/120分
配給:クロックワークス
(C)2019 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & NOWFILM & REDPETER FILM & PINEHOUSEFILM. All Rights Reserved.
http://klockworx-asia.com/birthday/
★2020年11月27日(金)ロードショー
アンダードッグ
監督:武正晴
原作・脚本:足立紳
撮影:西村博光
音楽:海田庄吾
主題歌:石崎ひゅーい「Flowers」
出演:森山未來(末永晃)、北村拓海(大村龍太)、勝地涼(宮木瞬)、瀧内公美(明美)、熊谷真実(兼子)、水川あさみ(佳子)、冨手麻妙(愛)、萩原みのり(加奈)、風間杜夫(幸三郎)、柄本明(作郎)ほか
崖っぷちボクサー・末永晃には一度は手にしかけたチャンピオンへの道があった。その栄光が忘れられず、今も”かませ犬(=アンダードッグ)”になり果てながらボクシングにしがみつく日々を送っている。幼い息子の太郎に父親としての背中すら見せてやることができずにいるが、新たな出会いが這い上がる闘志をよみがえらせた。
児童養護施設で晃と出会い、ボクシングに目覚めた大村龍太は、 若き天才ボクサーとして期待されているが、過去の事件が将来に影を落とす。もう一人、大物俳優の息子の宮木瞬はお笑いも半人前の芸人ボクサー。テレビ番組の企画でボクシングに挑むが、二世タレントとしてではない、自分を証明するかのように練習に打ち込んでいる。
ひとあし早く東京国際映画祭のオープニングを飾った本作、休憩時間を挟んで前後篇が一挙上映されました。三人三様の夢を取り戻し、その手に掴むことができるのか?皆様ハラハラ見守ったことでしょう。劇場公開は前編、後編それぞれで同日公開となりました。長めの作品なので、その方が鑑賞しやすいですね。しかし、すぐに続きを観たくなること必至です。
ポスターからすごい形相の森山未來さん、あの細い身体のどこから?と思うほどの熱量を発散しています。痛い思いをしつつやるせなさとお笑いも演じた勝地涼さん、先輩二人に必死でくらいついていっただろう北村拓海さん、三人ともすごい。
武正晴監督&足立紳一脚本コンビが久しぶりにボクシング映画を作ったのですが、一番にスケジュールをおさえたのが『百円の恋』でも登場したボクシングトレーナーで俳優でもある松浦慎一郎さんだったそうです。私には『かぞくへ』(2018)の旭さんなんですが『あゝ、荒野』(2017)でもボクシング指導をしています。本作ではボクシング指導のほか、龍太のトレーナーとしても出演(写真右端)、試合中に聞こえるのは両者のセコンドの声です。松浦さんがずっと龍太へかけ続けている声は本物、プロ!ですねぇ。(白)
対戦相手からも観客からも敗北を期待されている“咬ませ犬”に成り下がっても引退しないボクサーの末永、可能性あふれる若き天才ボクサーの大村、鳴かず飛ばずの芸人ボクサーの宮木。三者三様の理由でリングに上がりますが、本気の闘いは命の危険さえ伴います。
しかし、闘うのは彼らだけではありません。末永の息子は父親がチャンピオンになると信じ、父親に隠れて思い切った行動に出ます。宮木の恋人は宮木と父親が関係を修復するきっかけを作りました。末永と腐れ縁のデリヘル店の店長は女の子たちをことごとく引き抜かれ、経営が傾いた店を立て直すために“男”になろうとします。大村の妻は夫のために末永に会いに行きました。みんなが自分のリングに上がって勝負をかけるのです。
もちろんすべてがいい結果となって返ってくるわけではありません。しかし、その前向きな気持ちと行動は確実に未来への希望に繋がっていく。作品からそんなメッセージを受け取りました。(堀)
2020年/日本/カラー/ビスタ/前編131分 後編145分
配給:東映ビデオ
(C)2020「アンダードッグ」製作委員会
公式HP:http://underdog-movie.jp/
公式Twitter:@Movie_UNDERDOG 公式Facebook @movieunderdog #アンダードッグ
★2020年11月27日(金)よりホワイトシネクイント他にて[前・後編]同日公開ロードショー
佐々木、イン、マイマイン
監督:内山拓也
脚本:内山拓也、細川岳
撮影:四宮秀俊
出演:藤原季節(石井悠二)、細川岳(佐々木)、萩原みのり(ユキ)、遊屋慎太郎(多田)、森優作(木村)、小西桜子(一ノ瀬)、河合優実(苗村)、井口理(King Gnu)、鈴木卓爾(佐々木正和)、村上虹郎(須藤)
俳優になるため上京した石井だったが、今もくすぶったまま。彼女のユキとも別れたが、同居はまだ続いている。高校時代の同級生の多田と再会し、話題にのぼったのは「佐々木」だった。学校にとっては問題児だったかもしれないが、常に周りを巻き込んで面白がらせてくれるヒーロー。石井や多田には、いつまでも心の中にいる忘れられない存在だった。
細川岳さんの高校時代の同級生のエピソードが元になっています。内山監督とぶつかりながら、細川さんが「どうしてもこの映画を撮っておきたい!」と粘った気持ちが伝わる作品です。
遥か昔になった自分の高校生活を振り返ってみると、あれこれ忘れられない瞬間や思い出が残っていて、もう取り戻せない日々がたまらなく懐かしくなることがあります。そろそろ同窓会名簿にも「物故合掌」の文字が見えるようになりました。こうやって思い出に光を当てられるなら、誰の心の中にもしまわれている自分だけの「佐々木」に再会できます。
細川さんは、自分のヒーローだった佐々木を演じ終えて「抜け殻にならなかった?」とちょっと心配になるほどの熱演です。ラストは佐々木への「はなむけ」でした。(白)
佐々木は細川岳さんの高校時代の同級生がモデル。細川さんにとってヒーローだった人とのことですが、ご本人にとってはどうだったのだろう? 佐々木が人知れず、内面に葛藤を抱えていたことがびんびんに伝わってきて、無理して明るく振る舞っていたようで、観ていて切なくなってきます。いや、それも含めて、細川さんにとってのヒーローだったのでしょう。悠二は別れた彼女への想い、鳴かず飛ばずの俳優から抜け出せない焦りなど様々な負の感情に苛まれています。藤原季節さんがそのやるせなさを熱演!
私が注目したいのは悠二の元カノを演じた萩原みのりさん。酔った勢いで…、それなのに…という状況をやってはいけないことだったと(役柄的に)自覚し、詫びを入れているシーンを繊細に演じていました。萩原さんは『アンダードッグ』『花束みたいな恋をした』にも出演しています。時代が萩原さんに向いてきたのかもしれません。(堀)
2020年/日本/カラー/シネスコ/119分
配給:パルコ
(C)映画「佐々木、イン、マイマイン」
https://sasaki-in-my-mind.com/