2020年11月12日
水上のフライト
監督:兼重淳
脚本:土橋章宏 兼重淳
撮影:向後光徳
音楽:上野耕路
出演:中条あやみ(藤堂遥)、杉野遥亮(加賀颯太)、冨手麻妙、大塚寧々(藤堂郁子)、小澤征悦(宮本コーチ)
将来を嘱望されるアスリートとして、自分の実力に絶対の自信を持っていた遥は、走高跳で世界を目指し活躍中だった。ところが不慮の事故に遭い、命は取りとめたものの下半身が動かなくなってしまった。夢を絶たれた遥は、母の心痛も届かず心を閉ざして自暴自棄になっていた。母は知人のカヌーのコーチ宮本に引き合わせる。パラカヌーならば、足の動かない遥も挑戦することができる。
初めは反発していた遥は、カヌーエンジニアの颯太や周りの人々に支えられ、素直な心で新しい目標を見つけていく。
本当は6月が公開予定だった本作。ほかの作品と同じく、コロナ禍によって延期を余儀なくされました。しかしそのおかげで東京国際映画祭での上映が叶った、と兼重淳監督。中条あやみさんの出演作はずいぶん観ていますが、明るく可愛くキラキラした女の子役が多かった(『雪の華』はちょっと違いましたが)印象があります。今回のように挫折してどん底から這い上がる役は初めてです。
カヌーはバランスをとるのが難しく、競技となればもっと難度が高くなります。監督はスタントも考えていたそうですが、あやみさんの「やります」宣言と、その後の上達ぶりが素晴らしく、本人がやり切ったというのに感嘆!青い空ときらめく水面を背景に、前方を見つめる真剣な表情の遥をきっと応援したくなるはず。ハンカチ&ティッシュも忘れずに。(白)
杉野遥亮さんは『キセキ あの日のソビト』で映画デビューしましたが、兼重淳監督もその作品が初監督作品でした。『水上のフライト』で兼重淳監督にインタビューした際、「杉野くんと久しぶりに会い、その成長ぶりに驚くとともに、すごくうれしかった」と話していました。
これまで何人かいるイケメンのうちの1人的な役が多かったのですが、この作品ではしっかり杉野色を出しているのを感じます。今後の活躍が楽しみですね。(堀)
2019年/日本/カラー/シネスコ/106分
配給:KADOKAWA
(C)2020 映画「水上のフライト」製作委員会
https://suijo-movie.jp/
★2020年11月13日(金)ロードショー
THE CAVE サッカー少年救出までの18日間 原題:นางนอน(ナンノン)英題:The Cave
監督・脚本・製作:トム・ウォーラー
出演:
ジム(本人):ジム・ウォーニー
コーチ:エクワット・ニラトウォラパンヤー
ボア:ジュンパー・センプロム
プーヤイ:ノパドン・ニヨムカ
エリック(本人):エリック・ブラウン
タン(本人):タン・シャオロン
救急看護師:マギー=アーパー・パーウィライ
2018年6月23日、タイ北部。
地元サッカーチームの少年たちは練習を終え、チームメイトの誕生日を祝うため、チェンライのタムルアン洞窟に遊びにいく。豪雨で洞窟内の水位が急に上がり、洞窟の奥深くに閉じ込められてしまう。そのニュースは瞬く間に世界に広がり、少年たちを救出しようとタイ警察、タイ海軍殊部隊(ネイビーシールズ)や米英豪などの軍隊、そして世界中から経験豊富なケイブ・ダイバーが集結する・・・
2年前のことですが、今も記憶に新しい救出劇。
洞窟入口から4キロも離れた地点でコーチと少年たちが発見されたのは、遭難から9日も経ってのことでした。そして、事故発生から18日目に奇跡的に全員救出! タイ人ダイバーが酸素不足で亡くなるという悲劇もあったことを映画を観て思い出しました。
タイらしいなと思ったのは、伝説の馬番をしていた少年の生まれ変わりという僧侶が駆けつけて、家族や地元の人たちと洞窟の入口で祈り続けた姿。ナンノンの女神を祈る優雅な踊りも登場します。
洞窟から大量の水を排出したために冠水してしまった田んぼの持ち主の女性が、「補償金はいらない、そのお金で少年たちを救って」と言うのも、信心深い仏教徒らしいと思いました。
冒頭、「数名は本人が演じている」と掲げられていて、この補償金を断ったのも本人。
一番印象深かったのが、自社で製造したPVCターボジェットポンプをトラックに積んで遠方から駆け付けたニヨムカ・マリンエンジニアリング社の創業者ノパドン・ニヨムカ。劇中ではプーヤイの名前になっています。在庫がないので、納品先に依頼してポンプをかき集めて持参したのに、洞窟に入る許可がなかなかおりなかった無念な思いを再現しています。
洞窟潜水の専門家で、アイルランドから駆け付け先頭を切って救出に活躍したジム・ウォーニーもご本人。
トム・ウォーラー監督は、タイ・バンコク出身ですが、父はカトリック教徒のアイルランド人で母は仏教徒のタイ人。アイルランドとの縁も、この映画を作る原動力だったのでしょうか。(咲)
ニュースでこの事件を知ったとき、18日ぶりに救出されたという日数に驚いたのですが、ダイバーが潜って助けに行く危険性についてはまったく思いが及びませんでした。この作品を見て、その救出活動がどれほど危険なものだったのか、改めて知ることができました。救出活動に従事した世界各地から集まったダイバーのみなさんに頭が下がる思いです。
その一方で、(咲)さんが書いているように、ターボジェットポンプをトラックに積んで遠方から駆け付けた人がいたのになかなか許可が下りなくて、使ってもらえなかった事実にお役所仕事の緩慢さはどこの国も同じなのかしらと思ってしまったり。でも田畑が冠水した補償金は救助が終わらぬうちに支給手配が始まったことには、日本とは違う迅速さを感じたり。映画は楽しむだけでなく、いろいろなことを知る機会なのですね。(堀)
実際起こった事件の救出劇をこのところ続けて観た。1本はチリ鉱山の落盤事故で地中深くに閉じ込められた33人の救出劇を描いた『チリ33人 希望の軌跡』(パトリシア・リゲン監督)。これは2010年に起きた「コピアポ鉱山落盤事故」を題材にしている。もう1本は2018年に中国で起きた飛行機事故を映画化した『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』(アンドリュー・ラウ監督)。これは高度1万メートルで飛行機前面の窓ガラスが割れた事故を元にしている。そして一番最近観たのがこの作品『THE CAVE サッカー少年救出までの18日間』。いずれも無事に救出されたから結果はわかって観ているのだけど、観ている最中はハラハラドキドキ。こういう映画が作られるというのは、人間ってハラハラドキドキが好きなのか。この1,2ヶ月の間に続けて観たのでそう思った。心臓に良くないと思いながらも観てしまう。助かってよかったねと思う。そしてニュースでは伝わってこなかったいろいろな事を知る。こんなにもたくさんの国の人たちが救出に加わっていたというのは知らなかった。それにタイの人たちの暖かさ、人情も伝わってきた(暁)。
2019年/タイ・アイルランド/英語・タイ語/104分
配給:コムストック・グループ+WOWOW
配給協力:REGENTS
公式サイト:http://cave18.jp/
★2020年11月13日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー