2020年11月06日
おらおらでひとりいぐも
監督・脚本:沖田修一
原作:若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」河出文庫
撮影:近藤龍人
音楽:鈴木正人
主題歌:ハナレグミ「賑やかな日々」(スピードスターレコーズ)
出演:田中裕子(現在の桃子さん)、蒼井優(昭和の桃子さん)、東出昌大(周造)、濱田岳(寂しさ1)、青木崇高(寂しさ2)、宮藤官九郎(寂しさ3)
1964年、東京オリンピックの開催に日本中が浮き立っていた年。響き渡るファンファーレに押し出されるように、縁談も親も放り出して上京した桃子さん。大きな声で同じ東北弁を話していた周造と出会い、結婚した。子ども二人を育てあげ孫にも恵まれて、退職した夫とのんびり暮らすつもりだった矢先、突然夫が逝ってしまった。桃子さんは一人で3度3度の食事をし、図書館に行き、病院へ行き、地球の46億年の歴史ノートを作る日々。しかし、桃子さんの内なる寂しさが心の声となって現れる。それがなぜか故郷のことば、東北弁を喋っていた。
若き日の桃子さん、亡くなった夫、子どもの自分や”ばっちゃま”までが時間も季節も関わりなく、現在75歳の桃子さんの前に浮かんでは消えます。同じく過ぎた時間のほうがずっと長くなった今、共感すること多々ありました。
先に原作本を手にして調子のよいリズミカルな文章に、思わず声を出して読んでしまいました。「オラダバオメダ、オメダバオラダ…」(私はお前だ、お前は私だ)と頭の中で響く声が、寂しさ1,2,3という3人の姿で現れるとは!それも3人の個性派男優さんが桃子さんこと田中裕子さんと同じ衣裳で踊り出し、騒ぎ出すのです。「寂しさ」より「楽しさ」みたいで、我が家にも表れてほしいです。
自立して暮らすには、歩いてお墓参りができるほどの足腰と、明日のお米の心配をせず娘の無心に一度くらい応えられる財力、それに気力が要ります。なけりゃないでこれも思し召しと受け入れられる柔軟さがあれば、さらに良し。(白)
田中裕子さんにとって映画『いつか読書する日』(2005年)以来15年ぶりの主演作です。若い頃はゴキブリを見つけただけで悲鳴を上げていた主人公が年齢を重ね、夫を見送り、今や新聞紙を丸めて自分で始末します。腰を屈めてゴキブリを凝視する姿の豪快っぷりに驚きました。また、腰に湿布を貼る姿も名人芸のよう。75歳の主人公を65歳の田中さんが怯むことなく演じ切っています。スクリーンのこちらから「お見事!」と思わず声を掛けたくなるでしょう。
新しい女を目指して、結婚をすっぽかして上京した主人公が愛する男と巡り合い、妻として家庭を守って生きてきました。そんな自分を「愛に掠め取られた」と冷静に見つめます。しかし、その人生に後悔はなかったことも作品を見ていると伝わってきます。
人生はまだまだこれから。夫が天国に旅立ったことを悲しみつつも、残りの人生をお一人様として自由気ままに生きていくことも楽しいはずというエールが伝わってきました。(堀)
2020年/日本/カラー/138分
配給:アスミック・エース
(C)2020「おらおらでひとりいぐも」製作委員会
http://oraora-movie.asmik-ace.co.jp/
公式Twitter:@oraora_movie
★2020年11月6日(金)全国公開中