2020年11月03日
感謝離 ずっと一緒に
監督:小沼雄一
原作:河崎啓一『感謝離 ずっと一緒に』(双葉社刊)
脚本;鈴木史子
音楽:岡出莉菜
主題歌:『あなたがいるから』関取 花(UNIVERSAL SIGMA)
出演:尾藤イサオ 中尾ミエ 榊原有那 澤奈央 桂憲一
銀行員として定年まで勤め上げた笠井謙三(尾藤イサオ)と、いつも明るく前向きに夫を支えてきた妻・和子(中尾ミエ)は転勤続きで長年仮住まい生活を続けてきたが、ようやく “夫婦だけのおうち”を手に入れ、2人で仲良く暮らしていた。
ある日、和子は脳梗塞で倒れる。リハビリをしたものの、退院後も車いす生活のため、そのまま老人ホームで暮らすことになった。もう一度家に戻りたいと願い続ける和子だったが、願いは叶うことなく他界してしまう。
数カ月後、謙三は妻のいなくなった家で身の回りの整理を始め、妻との思い出が詰まった品々にひとつひとつ感謝の言葉を吹き込みながら、少しずつ前を向いて進み始める。
中尾ミエの真に迫る演技に驚きました。和子の脳梗塞で倒れてからの覚束ない話し方や表情のなさがリアルなのです。かなりリサーチされたことでしょう。自分の将来を見るようで怖くなります。
退院後に自宅ではなく、老人ホームを選んだことは正しい判断でしょう。しかし、ぎりぎりの段階になるまで家族が世話をするものという価値観が残っているのも事実。尾藤イサオが演じた夫は毎日欠かさず妻を見舞い、できる限りのことをしてあげています。しかしそれによって夫が疲れてしまったことにホーム職員が気づき、自分の時間を持つよう夫に勧めました。この作品を通じて、介護を家族だけで背負うのが正しいという発想が間違いであることが広まってほしいものです。
妻が亡くなった後に家を片付ける夫の姿に妻への深い愛が伝わってきます。この演出が前半の“私もこうなったらどうしよう”という不安を昇華させ、作品を見終わったときに“こんな風な夫婦になりたい”と将来に希望に繋げました。(堀)
“生老病死(しょうろうびょうし)”は4つの苦しみのこと。誰しも避けられませんが、できれば遠くにあってほしい、できれば軽く済んでほしい、と願ってしまいます。この映画のご夫婦は深い愛と信頼に支えられて、克服して来られたようす。
主演のお二人のヒット曲を聴いていた世代なので、懐かしい思いも湧きました。子どもたちの姿が出てこないのは、映画の製作上の都合かと想像していますが、近くにいなければ手助けも期待できません。公的な支援がいろいろあること、孤立の介護に陥らないことが肝心、と経験から。
愛妻を見送って”感謝の後始末”にスポットを当てているところでは、自分のモノの処分は早めに、と強く決心。他の人には価値のないモノばかりなので、自分で”感謝離”しなくては。(白)
2020年/ 70分/G/日本
配給:イオンエンターテイメント
©2020「感謝離 ずっと一緒に」製作委員会 ©河崎啓一/双葉社
公式サイト:https://kanshari-movie.com/
★2020年11月6日(金)全国ロードショー
トルーマン・カポーティ 真実のテープ(原題:The Capote Tapes)
監督:イーブス・バーノー
出演:トルーマン・カポーティ、ノーマン・メイラー、ジェイ・マキナニー、アンドレ・レオン・タリー
『ティファニーで朝食を』(58)、『冷血』(66)など多くの名作を残した20世紀を代表する文豪トルーマン・カポーティ。流行作家でもあり、マスメディアの急激な発展と共にあった戦後アメリカの代表的なセレブリティでもあった。『冷血』の大成功を経て、長年出版が待ち望まれた新作『叶えられた祈り』は、ニューヨークのハイソサエティの実態を描いた最高傑作となるはずだった。しかし「エスクァイア」誌に章の一部が発表されるや否や、そのスキャンダラスな内容によって激しい論争を巻き起こす。社交界から追放され、多くの友人を失ったカポーティは、アルコールと薬物中毒に苦しみ、作品の完成を待たずして60歳を目前にこの世を去ることとなる。
ジョージ・プリンプトンがカポーティの関係者や友人、約170人にインタビューした音声テープの音声をイーブス・バーノー監督が新たに取材した映像に挟み込みながら、トルーマン・カポーティの人生を紐解きました。
カポーティが親に捨てられ、親戚に育てられたという不幸な境遇からニューヨーカー誌で雑用係として働いていた過去やその後の起伏に富んだ生き様がさまざまな証言から炙り出されます。
カポーティの代表作『ティファニーで朝食を』『冷血』のエピソードをふんだんに盛り込み、カポーティの人となりが明らかに。そして、彼の人生を大きく左右した問題作『叶えられた祈り』がどのようにして書かれ、周囲にどんな影響を与えたのかへと繋げていきます。カポーティを知っている人には興味深く、知らない人には興味を持たせるでしょう。
カポーティは『叶えられた祈り』で彼がスワンと呼んだNYのセレブたちのスキャンダラスな内輪話を書いています。夫たちから精神的に虐げられているスワンたちの鬱憤を晴らしてあげたいという思いから執筆したようですが、思いとは裏腹に彼女たちをより傷つけてしまいました。もし、カポーティが現代に生きていたら、SNSでの炎上を頻繁に引き起こしていたのではないかと、ふと思ってしまいました。本作から書くことの難しさや怖さも伝わってきます。私たちもSNSでの発信が気軽にできるがゆえにそれを読んで傷つく人がいないか、送信前に一度考えたほうがいいかもしれません。(堀)
2019年/アメリカ=イギリス/英語/98分/カラー・モノクロ/ビスタ/5.1ch
配給:ミモザフィルムズ
© 2019, Hatch House Media Ltd.
公式サイト:http://capotetapes-movie.com/
★2020年11月6日(金)からBunkamuraル・シネマほか全国で順次公開