2020年11月28日
燃ゆる女の肖像(原題:Portrait de la jeune fille en feu/英題:PORTRAIT OF A LADY ON FIRE)
監督・脚本:セリーヌ・シアマ
出演:アデル・エネル、ノエミ・メルラン
画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は、ブルターニュの孤島で暮らす伯爵婦人(ヴァレリア・ゴリノ)から、娘のエロイーズ(アデル・エネル)の見合いのための肖像画を頼まれる。しかし、エロイーズは結婚を拒み、画家が来ても肖像画を描かせようとしない。マリアンヌは身分を隠して近づき、密かに肖像画を完成させた。真実を知ったエロイーズはその絵の出来栄えを否定し、モデルになると申し出る。伯爵夫人から描き直すために5日を与えられたマリアンヌはエロイーズとキャンバスを挟んで見つめ合い、美しい島を共に散策し、音楽や文学について語り合っていくうちに惹かれ合っていく。
本作は2019年の第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞と女性監督として初めてクィア・パルム賞を受賞しました。クィア・パルム賞は、LGBTをテーマにした作品に与えられるカンヌ国際映画祭の独立賞のひとつ。セリーヌ・シアマ監督は『水の中のつぼみ』でタッグを組んだ、元パートナーでもあるアデル・エネルを念頭に脚本を執筆したそう。舞台は18世紀のフランス・ブルターニュの孤島ですが、現代の女性にも繋がる問題をテーマにしています。
物語はマリアンヌを中心に進んでいきますが、ラストにエロイーズの表情を捉えた長回しのカットがあります。セリフはなく、マリアンヌが好きだと言った、ヴィヴァルディ協奏曲第2番ト短調RV315「夏」をオーケストラが奏でるのを聴くエロイーズの横顔を映すのですが、彼女の心に広がる感情の波が表情だけで伝わってきました。アデル・エネルの圧巻の演技は息を呑むほどです。(堀)
時は、1770年。フランス革命の起きる19年前のこと。
男性優位の社会の中で、精一杯、自分の気持ちに従って生きようとする女性たちの姿を、セリーヌ・シアマ監督は静かにみずみずしく描いています。
貴族の娘エロイーズは姉が結婚を拒否して自殺。自身もお見合い用の肖像画を描かれることを拒んでいます。一方、画家としての経験を積みながらも、女性の名前では絵を世に出せないことを不満に思っているマリアンヌ。女性が本を読むこともままならない時代に、メイドの若い娘は本を借りて読むのを楽しみにしています。そんな女性たちの気持ちが寄り添う数日の物語。
グザヴィエ・ドランが絶賛とのこと。画家とモデルとしてそばにいるうちに惹かれあう二人の物語。なるほど、恋に落ちる瞬間も目の動きで表していて素晴らしいです。(咲)
階層の区別が厳しかった時代。エロイーズの母親は貴族であることに誇りを持っていますが、娘はその縛られた生き方も重荷であり、枷と感じていたのでしょう。マリアンヌとの恋のほか、メイドの少女にも身分を越えて接し、彼女の一大事には二人して付き添います。これには驚きました。
古城で、海岸で、草原での二人が美しく、カメラと美術の方の力を感じます。画家としてのマリアンヌの矜持や悩みは、セリーヌ・シアマ監督自身と通じるものがあったのではないかしら。思い出の中のエロイーズがマリアンヌから消えることはなく、新たな彼女を祝福するところに監督が重なっていると思いました。(白)
2019/フランス/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/122分
配給:ギャガ
© Lilies Films.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/portrait/
★2020年12月4日(金) TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマ 他全国順次公開
10万分の1
監督:三木康一郎
原作:宮坂香帆『10万分の1』(小学館 フラワーコミックス刊)
脚本:中川千英子
出演:白濱亜嵐(EXILE/GENERATIONS) 平祐奈 優希美青 白洲迅 /奥田瑛二
「告白して気まずくなるくらいなら友達のままでいい」と、学校中の女子はもちろん、男子からも憧れの存在である桐谷蓮(白濱亜嵐)に密かに想いを寄せる桜木莉乃(平祐奈)だったが、ある日、蓮の方から想いを打ち明けられ、誰もがうらやむ両想いの日々が始まる。2人で過ごす時間が何よりも大切なものに変わる頃、「10万分の1」の確率でしか起こらない、ある運命が降りかかる—。
恋に落ちた女子高生が主人公の人気コミックの実写化と聞くと、いろいろハラハラしながらもラストに恋が成就するというイメージを抱いてしまいますが、本作は割と早い段階で両想いになります。むしろその後の2人の関係が本題。莉乃が難病に罹ってしまうのです。迷惑を掛けたくない莉乃と少しでも支えになりたい蓮。互いに相手を想うがゆえに気持ちがすれ違う。切ないです。そんな2人が一緒に乗り越えていこうと思うきっかけを作ってくれたのは莉乃の親友。友だちってありがたいですね。
莉乃が罹った筋萎縮性側索硬化症(ALS)はこれまでも映画で取り上げられてきましたが、どの作品もかなり進行している状態でした。本作では元気だった莉乃が少しずつ病に侵されていきます。平祐奈がその過程を丁寧に演じていて、演じるにあたってかなりリサーチされたのを感じました。(堀)
2020年/112分/G/日本
配給:ポニーキャニオン 関西テレビ放送
©宮坂香帆・小学館/2020映画「10万分の1」製作委員会
公式サイト:https://100000-1.com/
★2020年11月27日(金)公開
サイレント・トーキョー
監督:波多野貴文
原作:秦建日子「サイレント・トーキョー:And so this is Xmas」(河出文庫刊)
脚本:山浦雅大
撮影:山田康介
美術:黒瀧きみえ
出演:佐藤浩市(朝比奈仁)、西島秀俊(世田志乃夫)、石田ゆり子(山口アイコ)、中村倫也(須永基樹)、広瀬アリス(高梨真奈美)、井之脇海(来栖公太)、勝地涼(泉大輝)、
12月24日、クリスマスイブ。買い物客でにぎわう東京。「恵比寿に爆弾をしかけた」とテレビ局に電話が入った。「どうせガセだろう」という高沢先輩と半信半疑で現地へ向かった来栖公太。青い顔でベンチに座っていた主婦山口アイコは、先輩を座らせるなり「立ち上がったら爆発する」と公太と警備員の元へ走る。どこにいるともしれない犯人の指示通りに実行しなければならない。犯人からの要求が動画サイトに上がった。「標的は渋谷ハチ公前。要求は首相との生対談」18時という刻限が迫る中、渋谷は警備が強化されるが、知らずに来た人や野次馬でごったがえす。
始まりからラストまで、最初に巻き込まれたアイコや公太、朝比奈、来栖、渋谷署や捜査一課の刑事たち、と次々と視点が変わっていきます。クライムサスペンスであり群像劇でもあり、爆破事件と人間関係がこのスピードで語られるので、99分におさまりました。しっかりついて行ってください。
日本でも何度かテロや戦争がありましたが、国境も地続きの欧米と違って最近の危機意識は低いでしょう。そんなところに爆破事件が続いたらどうなるか?自分があの群衆の一人だったら?と想像してみてください。ぞっとしませんか?世界中のあちこちで起きていることでもあります。
秦建日子の原作はジョン・レノンとオノ・ヨーコの「Happy Xmas(War Is Over)」にインスパイアされて執筆されたのだそうです。本当に戦争は終わったの?幸せなクリスマスを祝っていいの?と、胸がキリキリっと痛みます。(白)
この作品の最大の見せ場は渋谷のスクランブル交差点の爆破シーンです。栃木県の足利競馬場跡地に再現されたオープンセットに高速レールを設置してハイスピードカメラを走らせ、一気に撮影しました。エキストラも一般の方々ではなく、アクション部の人たちが参加し、爆風で吹っ飛ぶ様子をみなさん自力で飛んでいます。タイミングを合わせるのが非常に難しく、何度も何度もトライそう。また爆破前はまばゆいほど色とりどりの灯が輝いている渋谷が爆破後は暗くなる。その落差にリアリティを感じさせていますので、ご覧になったら、しっかり体感してください。(堀)
リアル謎解きゲーム!開始
『サイレント・トーキョー:Another X-DAY』12/1(火)~12/14(月)
渋谷の街中に貼られた映画『サイレント・トーキョー』のポスターを探し、
犯人から届く「爆破予告」に記された謎解きに挑戦。
詳細はこちら https://silenttokyo.roadcast109.com/top
2020年/日本/カラー/シネスコ/99分
配給:東映
(C)2020 Silent Tokyo Film Partners
https://silent-tokyo.com/
★2020年12月4日(金)ロードショー
100日間のシンプルライフ(原題:100 Dinge)
監督・脚本:フロリアン・ダーヴィト・フィッツ
出演:フロリアン・ダーヴィト・フィッツ(パウル・コナスキー)、マティアス・シュヴァイクホファー(トニー)、ミリアム・シュタイン(ルーシー)、ハンネローレ・エルスナー(レナーテ・コナスキー)、カタリナ・タルバッハ(オマ・コナスキー)
スマホ依存症で、ネットショッピングと人工知能搭載アプリ「NANA」に満足、生身の恋人不要のパウル。金儲け大好きなイケイケのハンサム、実はコンプレックスの塊のトニー。2人は幼なじみのビジネスパートナー。質素だったご先祖様とは違って、多くの好きなモノに囲まれて暮らしている。酔って大げんかした2人は、とんでもない勝負をすることになった。負けたら財産は社員たちが山分け。それは家財道具全てを倉庫に預け、素っ裸の状態から1日1つずつ必要なモノを取り戻し100日間生活する、というものだった。
ベースのドキュメンタリー『365日のシンプルライフ』(2013/フィンランド)は日本でもヒットしました。たった一人で1年間という長丁場。ご本人が来日して舞台挨拶されたのを見ていました。映画にすっかり感銘を受けて断捨離を試みましたが、早々に挫折したのでした。モノを減らすのは難しいです。
この作品は舞台をドイツに移し、2人のイケメンの意地と財産をかけたエンタメ作品に変えています。人生にほんとに必要なものは何か?二人と一緒に観客も考えることになります。初めは大笑いして次第に共感していくのは、ドキュメンタリーと同じ。コナスキー家の一癖も二癖もある家族、個性的な社員たち、倉庫仲間のルーシーの秘密など、退屈反対の要素がいっぱい。観終わったころには大切なものに気づいているはず。(白)
パウルが開発したアプリ「ナナ」はまるで生きている人間のように話しかけてくれ、買いたくなるものを勧めてきます。パウルはナナの甘い言葉に釣られて、ついついクリック。家の中は使っていないモノで溢れています。一方のトニーは見た目を磨くことに必死。体を鍛えて、髪を整え、洋服にもこだわります。そんな二人が仕事上の行き違いでケンカをし、シンプルな生活に耐えられるかで賭けをしました。
ベースになっている『365日のシンプルライフ』は主人公とモノの関係をストレートに映し出していますが、本作は2人の関係の変化を通じて、人との向き合い方も見る人に問いかけてきます。隣の芝生は青く見えるといいますが、パウルとトニーも親しいゆえに相手が完璧に見えて、お互いのコンプレックスを刺激したのです。
でも、完璧な人なんていません。みんな、どこか不完全な部分があるもの。だからこそ、相手の不完全さも受け入れられる。自分の心に空いている穴を埋めようと、モノや形に依存じていた登場人物たちがそれに気がつくラストは清々しく、観ている私たちにも自分で考えようとメッセージを投げ掛けています。(堀)
冒頭、第一次世界大戦の時代を生きた曾祖父母、ヒトラーにすべてを奪われた祖父母、ベルリンの壁崩壊を経験した両親、そして物に溢れた時代に生きる私たちと、この100年の変貌ぶりを一気に見せてくれます。ついポチって物を買ってしまう主人公のパウルを、フロリアン・ダーヴィト・フィッツ監督自身が自虐的に演じて、笑わせてくれます。
でも、笑ってはいられません。スマホを片時も離せなくなった私たち。検索履歴から好みをしっかり把握されていて、購買意欲をそそる情報が届くのですから。私はネットでは買わない主義だけど、妹はすぐポチるので、今、我が家の玄関には洋梨、お米、オイルヒーター、テーブルと椅子のセットが山積みになっています。いるものではあるのですが、箱を開けるのも一仕事!
映画の中で、パウルのおばあちゃんが収容所から持ち帰ったトランクが出てきます。中に収めてある品々から、人生で何が大事かのヒントを貰えたような気がします。(咲)
2018年/ドイツ/カラー/111分
配給:トランスフォーマー、フラッグ
(C)2018 Pantaleon Films GmbH / Erfttal Film & Fernsehproduktion GmbH & Co. KG / WS Filmproduktion / Warner Bros. Entertainment GmbH
https://100simplelife.jp/
★2020年12月4日(金)ロードショー
2020年11月25日
ミセス・ノイズィ
監督・脚本:天野千尋
撮影:田中一成
出演:篠原ゆき子(吉岡真紀)、大高洋子(若田美和子)、長尾卓磨(吉岡裕一)、宮崎太一(若田茂夫)、米本来輝(多田直哉 )、新津ちせ(吉岡菜子)
スランプ中の小説家吉岡真紀は、引っ越してきた翌朝、騒音で目が覚める。隣家の若田美和子が早朝から、布団を激しく叩いている音だった。真紀の再々の頼みにも関わらず、布団叩きの音は止まない。お互いにベランダで口論するほど、険悪な仲になる。小説が進まないばかりか、夫や娘との関係も悪くなった真紀は、その諍いの一部始終を小説に書いた。それがネットやメディアも巻き込む大騒動を引き起こしてしまった。
今年5月には公開予定だった本作、コロナ禍のため他の数々の作品と同じく公開延期の憂き目に逢いました。その間、ひきこもりざるを得なかった人たちのストレスは増しました。これほど顕著でなくとも、騒音という目に見えないものが元での苦情やいさかいは絶えずあります。生活時間や家族構成の違いによって発する音は様々で、特に集合住宅にいるとそれが問題になること多々。思い当たる節がありませんか?互いの事情を知っていて共感できるならば良し、そうでなければわざとか?と疑心暗鬼にかられてもめてしまうでしょう。
この映画では、スランプから抜け出せず、夫への不満が募りすでにいっぱいいっぱいの真紀が、隣家からの騒音でついに限界を越えて吹きこぼれてしまいます。なぜそんな行動をするのか、相手への想像力も共感力ももう働きません。そこへ無責任な外野とSNSが火に油を注ぎます。
篠原ゆき子さんと大高洋子さんのバトルは、観るほうに「少しは冷静に」と注意を促します。良い演者を得て、面白いストーリーが生き生きと動きました。(白)
主演の篠原ゆき子さんは映画『浅田家!』では難病の子どもを看病するお母さん、映画『罪の声』では鍵になる姉弟の母親を演じ、さらにTVでは相棒season19にレギュラー入りをするなど、注目を集めています。主演作である本作がコロナ禍で公開が延期になったときには心配しましたが、禍を転じて福と為したかもしれません。
初めは篠原ゆき子さんが演じる真紀の視点で描かれますが、後半は一転して隣家の主婦・美和子の視点になります。同じ状況も視点が変わると見え方や感じ方がまったく違う。驚きました。しかし、これは決して他人事ではありません。もしかしたら自分も気がつかないだけで、同じように他人を見て、また他人からそう見られているのかもしれない。たまには自分のことを振り返ってみないといけませんね。(堀)
2019年/日本/カラー/106分
(C)「ミセス・ノイズィ」製作委員会
http://mrsnoisy-movie.com/
★2020年12月4日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
☆天野千尋監督著「ミセス・ノイズィ」ノベライズが映画公開と同時に発売!
実業之日本社文庫 本体価格680円+税
https://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-55630-7
◆天野監督インタビューはこちらです。
◆追記12/4
天野監督@TIFFスタジオ (16分過ぎから)
https://www.youtube.com/watch?v=HcP00ym8neM
天野監督@活弁シネマ倶楽部
https://youtu.be/d9FsGvcB2EY
2020年11月24日
凱歌
監督・撮影:坂口香津美
プロデューサー:落合篤子
編集:坂口香津美、落合篤子
音響:山下博文
出演:山内きみ江、山内定、中村賢一、斉藤くるみ、中島萌絵、佐川修
差別と偏見は、なぜ繰り返されるのか?
東京都東村山市にある国立療養所多磨全生園を舞台に、国による非人道的な終身隔離政策により、強制的に入所させられたハンセン病の元患者の人々を9年間撮影したドキュメンタリー映画。
入所当初絶望して自殺した人もいれば、自暴自棄になって暴れ、懲戒房に入れられる人もいる。施設の中で患者同士が伴侶を見つけて結婚するときは、男性が断種手術をしなければならず、もし女性が妊娠していれば否応なく中絶。患者の人権などなかった時代だった。2020年8月1日現在、同園の入所者数は、139人(男63人、女76人)で、平均年齢86.8歳。(同園入所者自治書記室調べ)
2009年11月から9年後の2019年5月まで、坂口監督は多磨全生園でビデオカメラを回しました。若くして発症して、家族から引き離された後の体験を語る人たち。内容は壮絶で、らい予防法をよりどころに患者の人権など無視した政策がなされていたことがわかる告白です。どんなにか辛かったはずですが、そんな目に遭うのも病気のせい、と自分に言い聞かせて来られたのでしょう。重い口を開いてくださった方から、今言っておかねばという悲痛な思いと、静かな気迫が感じられました。
効果的な新薬が開発され、ハンセン病は治る病気だと認知されても、隔離政策は変わらず。ようやく1996年にらい予防法が廃止されましたが、隔離施設から完治しただれもが故郷に帰れるわけではありませんでした。差別と偏見が根強く残る中、社会的復帰は簡単ではなく、大半は施設にとどまり、高齢となって最期を施設で迎えています。(白)
国立ハンセン病資料館のQ&A http://www.hansen-dis.jp/kids/qa.html
2020年/日本/カラー/90分
配給:スーパーサウルス
https://supersaurus.jp/gaika/
★2020年11月28日(金)シアター・イメージフォーラム、2021年陽春名古屋シネマテークにて公開
クラウドファンディング実施中(2021年1月14日まで)
https://motion-gallery.net/projects/gaikamovie
2020年11月23日
空に聞く
監督・撮影・編集:小森はるか
撮影・編集・録音・整音:福原悠介
出演:阿部裕美
東日本大震災の後、約三年半にわたり「陸前高田災害FM」のパーソナリティを務めた阿部裕美さん。地域の人びとの記憶や思いに寄り添い、いくつもの声をラジオを通じて届ける日々を、キャメラは親密な距離で記録した。津波で流された町の再建は着々と進み、嵩上げされた台地に新しい町が造成されていく光景が幾重にも折り重なっていく。失われていく何かと、これから出会う何か。時間が流れ、阿部さんは言う————忘れたとかじゃなくて、ちょっと前を見るようになった。
小森はるか監督は震災後のボランティアをきっかけに東京から岩手県住田町(陸前高田の隣町)に移り住み、人々の語り、暮らし、風景の記録をテーマに制作を続けてきました。土地勘もなく知り合いもいなかったため、陸前高田災害 FM の Twitter アカウントを寄り所にしていたことで、「陸前高田災害FM」のパーソナリティを務めた阿部裕美さんと知り合ったそう。それがきっかけで本作が作られたのです。阿部さんの柔らかな口調は自ら主張するのではなく、取材対象者の語りをうまく引き出します。聞き上手なのは、阿部さんが震災前に和食屋さんの女将をしていたからかもしれません。小森監督のカメラは阿部さんを通じて、陸前高田の変化を映し出しました。陸前高田災害 FMは2018年3月16日をもって閉局しましたが、これからは小森監督が陸前高田を記録していくのでしょうね。(堀)
『息の跡』(2017)の小森はるか監督の新作。今回も一人の被災者を丁寧に取材していくスタイルは変わりません。阿部さんのスタジオは簡素で、これだけで間に合うの?と思ってしまいました。一人住まいのお年寄りから亡くなられた奥様とのなれそめを聞いて、一緒にお茶を飲んで笑います。そうやって阿部さんが受け取ったあの人この人のお話がこのスタジオから、聞き手のもとへ飛んでいきます。あの柔らかな声と語り口が、どんなに被災地の方々を慰めたことでしょう。
Google地図の航空写真を見ました。東京から東の海岸にそって北上していくと、まだまだ災害の爪痕が残っていることに気がつきます。陸前髙田のかさ上げした土地も見えるのです。阿部さんが勝手口から見ていた風景でしょうか。なんでもすぐ忘れてしまう私たちに、揺さぶりをかけてくれる作品でした。(白)
2018年/日本/73分/DCP
配給:東風
©KOMORI HARUKA
公式サイト:http://soranikiku.com/
★2020年11月21日(土)より、ポレポレ東中野にてロードショー他全国順次公開
2020年11月22日
THE CROSSING 香港と大陸をまたぐ少女 原題:過春天
劇場公開日 2020年11月20日
公開情報 公式HP
スタッフ・キャスト
監督:白雪(バイ・シュエ)
製作:孫陶(スン・タオ)、賀斌(ハー・ビン)
製作総指揮:田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)
脚本:白雪(バイ・シュエ)、林美如(リン・メイルー)
撮影:朴松日(プー・ソンリー)
美術:張兆康(チャン・ジャオカン)
編集:Matthieu Laclau(マシュー・ラクロワ)、林欣民(リン・シンミン)
蔡晏珊(ツァイ・イエンシャン)
音楽:高小陽(カオ・シャオヤン)、李繽(リー・ビン)
出演
ペイ:黄堯(ホアン・ヤオ)
ハオ:孫陽(スン・ヤン)
ジョー:湯加文(カルメン・タン)
ラン:倪虹潔(ニー・ホンジエ)
ホア:江美儀(エレン・コン)
通り過ぎたら、また春が来る
香港出身の父と中国大陸出身の母を持つ16歳の高校生ペイは深圳に住み、毎日香港の高校に通っている。父ヨンは香港で家庭を持ちトラック運転手をしていて、母ランは愛人として深圳で暮らし、麻雀で生計を立てている。
家族がバラバラで孤独なペイにとって、心の拠り所は親友ジョーと過ごす時間。2人は北海道旅行を夢見て、学校で小遣い稼ぎをしていた。ある日家に帰る途中、香港と深圳の行き来の途中、スマートフォンの密輸グループに巻き込まれるが、これでお金を稼ぐことができると知ると、ペイはお金欲しさに親友ジョーの彼氏ハオと交渉して、密輸団の仲間に入り、危険な裏の仕事に踏み入れる。
密輸団での仕事をこなしていく内に、ペイは自然とハオと密接な関係になり、ハオは密輸団のリーダーに内緒で、ペイに大きな仕事を持ちかける。ペイとハオが密接な関係にあると気づいたジョーはペイを問い詰める。そこで、ペイはジョーとの友情が試される。
家族との生活と友情、上層階級と下層階級の生活、そして日常生活と犯罪間を行き来する彼女は、命の危険と生計を維持する苦労。直面する道徳的な問題に立ち向かう様子が描かれる。
2年間の入念なインタビューやリサーチを重ねたうえで脚本を執筆した白雪監督は、香港と中国大陸の現状をリアルに描き、青春の輝きと脆さを描いた。
香港の市民権を持っている子供は中国本土で暮らしていても、香港との間をたやすく越えて越境通学ができる。主人公はそのことを利用して密輸に手をそめてしまうのだが、それは長くは続かない。密輸で越境する時の臨場感、緊張感、それが観るものにも伝わり、なんともいえない悲しさ、寂しさを感じた。香港映画でも、中国本土と香港の間の密輸についてはずいぶん描かれてきたが、それほど密輸は多いのか。日本にいるとそういう国境間の緊張ということはないので、そう感じることはないが、国境というのが身近にある国、地域では、やはり、日々、緊張関係があるのだろう。香港に初めて行ったとき、空港や街中に銃を持った警官や兵士がいてものものしいと思ったが、こういう密輸が横行しているからだろうか。おかげで関係なくても銃を持っている人のそばを通る時は緊張する。そして、今の香港の状況も気にかかる(暁)。
女子高生ペイは自宅で行う賭けマージャンで生計を立てる母親と深圳で暮らし、香港の高校に通う。父親は香港で別の家庭を持っている。自分が大陸の人間なのか、香港の人間なのかわからない。学校には親友ジョーがいるが、彼女の家は格段に裕福で心のどこかに引け目を感じてしまう。心の底から落ち着ける居場所がないのが伝わってきた。
そんなペイがスマートフォンの密輸の現場に遭遇。制服を着た自分が疑われないことを知り、自ら仲間に入る。きっかけはジョーとの北海道旅行の費用を貯めるためだった。ところが、期待されることに喜びを感じるようになり、犯罪を重ねていく。必要としてくれる人がいる居場所を見つけてしまったのだ。
犯罪を題材にしているように見えるけれど、描いているのは主人公のアイデンティティの模索。そこにジョーとの友情や、ジョーの恋人で密輸グループの仲間でもあるハオとの恋愛が絡んでくる。ちょっとビターな青春物語といえるだろう。
1つ気になったのが、香港と深圳の違いがよくわからず、映っている街がどちらなのかわかりにくいこと。分からなくても本筋は問題なく理解できるが、わかったらもっと理解が深まった気がしなくもない。(堀)
2018年製作/99分/PG12/中国
原題:過春天 The Crossing
配給:チームジョイ
公開情報 公式HP
スタッフ・キャスト
監督:白雪(バイ・シュエ)
製作:孫陶(スン・タオ)、賀斌(ハー・ビン)
製作総指揮:田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)
脚本:白雪(バイ・シュエ)、林美如(リン・メイルー)
撮影:朴松日(プー・ソンリー)
美術:張兆康(チャン・ジャオカン)
編集:Matthieu Laclau(マシュー・ラクロワ)、林欣民(リン・シンミン)
蔡晏珊(ツァイ・イエンシャン)
音楽:高小陽(カオ・シャオヤン)、李繽(リー・ビン)
出演
ペイ:黄堯(ホアン・ヤオ)
ハオ:孫陽(スン・ヤン)
ジョー:湯加文(カルメン・タン)
ラン:倪虹潔(ニー・ホンジエ)
ホア:江美儀(エレン・コン)
通り過ぎたら、また春が来る
香港出身の父と中国大陸出身の母を持つ16歳の高校生ペイは深圳に住み、毎日香港の高校に通っている。父ヨンは香港で家庭を持ちトラック運転手をしていて、母ランは愛人として深圳で暮らし、麻雀で生計を立てている。
家族がバラバラで孤独なペイにとって、心の拠り所は親友ジョーと過ごす時間。2人は北海道旅行を夢見て、学校で小遣い稼ぎをしていた。ある日家に帰る途中、香港と深圳の行き来の途中、スマートフォンの密輸グループに巻き込まれるが、これでお金を稼ぐことができると知ると、ペイはお金欲しさに親友ジョーの彼氏ハオと交渉して、密輸団の仲間に入り、危険な裏の仕事に踏み入れる。
密輸団での仕事をこなしていく内に、ペイは自然とハオと密接な関係になり、ハオは密輸団のリーダーに内緒で、ペイに大きな仕事を持ちかける。ペイとハオが密接な関係にあると気づいたジョーはペイを問い詰める。そこで、ペイはジョーとの友情が試される。
家族との生活と友情、上層階級と下層階級の生活、そして日常生活と犯罪間を行き来する彼女は、命の危険と生計を維持する苦労。直面する道徳的な問題に立ち向かう様子が描かれる。
2年間の入念なインタビューやリサーチを重ねたうえで脚本を執筆した白雪監督は、香港と中国大陸の現状をリアルに描き、青春の輝きと脆さを描いた。
香港の市民権を持っている子供は中国本土で暮らしていても、香港との間をたやすく越えて越境通学ができる。主人公はそのことを利用して密輸に手をそめてしまうのだが、それは長くは続かない。密輸で越境する時の臨場感、緊張感、それが観るものにも伝わり、なんともいえない悲しさ、寂しさを感じた。香港映画でも、中国本土と香港の間の密輸についてはずいぶん描かれてきたが、それほど密輸は多いのか。日本にいるとそういう国境間の緊張ということはないので、そう感じることはないが、国境というのが身近にある国、地域では、やはり、日々、緊張関係があるのだろう。香港に初めて行ったとき、空港や街中に銃を持った警官や兵士がいてものものしいと思ったが、こういう密輸が横行しているからだろうか。おかげで関係なくても銃を持っている人のそばを通る時は緊張する。そして、今の香港の状況も気にかかる(暁)。
女子高生ペイは自宅で行う賭けマージャンで生計を立てる母親と深圳で暮らし、香港の高校に通う。父親は香港で別の家庭を持っている。自分が大陸の人間なのか、香港の人間なのかわからない。学校には親友ジョーがいるが、彼女の家は格段に裕福で心のどこかに引け目を感じてしまう。心の底から落ち着ける居場所がないのが伝わってきた。
そんなペイがスマートフォンの密輸の現場に遭遇。制服を着た自分が疑われないことを知り、自ら仲間に入る。きっかけはジョーとの北海道旅行の費用を貯めるためだった。ところが、期待されることに喜びを感じるようになり、犯罪を重ねていく。必要としてくれる人がいる居場所を見つけてしまったのだ。
犯罪を題材にしているように見えるけれど、描いているのは主人公のアイデンティティの模索。そこにジョーとの友情や、ジョーの恋人で密輸グループの仲間でもあるハオとの恋愛が絡んでくる。ちょっとビターな青春物語といえるだろう。
1つ気になったのが、香港と深圳の違いがよくわからず、映っている街がどちらなのかわかりにくいこと。分からなくても本筋は問題なく理解できるが、わかったらもっと理解が深まった気がしなくもない。(堀)
2018年製作/99分/PG12/中国
原題:過春天 The Crossing
配給:チームジョイ
2020年11月21日
アーニャは、きっと来る 原題:Waiting for Anya
監督:ベン・クックソン
脚本:トビー・トーレス、ベン・クックソン
原作:マイケル・モーパーゴ 「アーニャは、きっと来る」(評論社刊)
出演:ノア・シュナップ、トーマス・クレッチマン、フレデリック・シュミット、トーマス・レマルキス、ジャン・レノ、アンジェリカ・ヒューストン
ユダヤ人を救った羊飼いの少年の成長物語。
1942年、第二次世界大戦下のフランス。スペインとの国境ピレネー山脈にある小さな村レスカン。13歳のジョー(ノア・シュナップ)は、ドイツの捕虜となって不在の父親に代わって羊飼いとして一家を支えていた。
ある日ジョーは山の中で、ナチスの迫害から逃れてきたユダヤ人の男ベンジャミン(フレデリック・シュミット)と出会う。彼は義理の母オルカーダ(アンジェリカ・ヒューストン)の家で、各地から逃げ延びてきたユダヤ人の子どもたちを匿っていて、山の向こうの安全なスペインに逃がす計画を企てているとジョーに語る。ジョーは、祖父アンリ(ジャン・レノ)の旧知の仲でもあるオルカーダから、山の家に食料を定期的に届けることを頼まれる。レスカンにも今やナチス・ドイツが駐留していて、しかも橋が壊され、食料が入ってこない中、大量の食糧の買い出しを怪しまれないように行うのは大変なことだった。
ある日ジョーは、食料品店でナチスのホフマン伍長(トーマス・クレッチマン)と知り合う。伍長に誘われ鷲を見に行ったジョーは、彼の人柄に惹かれ親しくなるが、彼もまたベルリンの空襲で娘を失った戦争被害者であることを知る。
ジョーの父親(ジル・マリーニ)がドイツの収容所から4年ぶりに帰国する。気持ちの荒んでいた父親も、ユダヤ人の子どもたちの救出作戦を知って、協力を惜しまない。夏の移牧で子どもたちを羊飼いに仕立てて山越えさせてスペインに逃す計画にレスカン村一丸となって取り組む・・・
冒頭、黄色いダビデの星を胸に付けたユダヤ人たちが列車に乗せられていきます。傍らで一人の男性が少女を別の列車の見知らぬ人に託し、「いつかおばあちゃんの家で会おう」と約束して別れます。この少女がユダヤ人のアーニャ。男性はアーニャの父親ベンジャミン。羊飼いの少年ジョーが山で知り合ったユダヤ人です。駅で生き別れになったアーニャがいつかきっと村にやって来ると山の家で待っているのです。
時が止まったような静かな山あいの村レスカン。こんなところにまで、ナチス・ドイツが駐留したのは、ここがピレネーを越えて、中立国スペインに逃れることのできる要衝の地だからでした。ベン・クックソン監督は、マイケル・モーパーゴの原作「アーニャは、きっと来る」の舞台であるレスカン村を訪れ、物語はフィクションですが、戦争中にこの村の人たちが実際に避難民の人たちを救ったことを知り、映画をぜひレスカン村で撮りたいと思ったとのこと。
フランスでユダヤ人狩りが行われたことを描いた映画で、強く印象に残っているのは、『サラの鍵』(2010年)や『秘密』(2007年)。いずれも、ユダヤ人を匿う善意の人たちが出てくる一方、フランス警察が片棒を担いでいる姿を描いていました。ナチス占領下とはいえ、フランス警察がユダヤ人を連行し収容所に移送したという事実は長らく伏せられていて、1995年、シラク大統領により国家が迫害に加担したことが明らかにされ、国民に衝撃を与えたそうです。
ナチスの駐留軍とフランス警察の監視下で、ジョーやレスカン村の人たちが身の危険を顧みずユダヤ人の子どもたちを救った物語に、素直に感涙です。
それにしても、「ドイツ語はわからない。フランス語もわからないけど」というジョーのつぶやきに、ドイツ兵どころか、地元の者じゃないフランスの警察官との間にも、言葉の壁があったことを思いました。意思疎通がはかれなかった為の事故もあったのではないでしょうか。(咲)
冒頭、ユダヤ人たちが列車に乗せられるシーンから、一気にフランスのピレネー山脈の麓に佇む小さな村に画面が移る。そこは戦争の気配がまだ来ていないのどかな山郷の村。羊飼いの少年ジョーに話が繋がっていく。しばらく、ここの田舎暮らし、村の人間関係が映し出される。それでも戦局は変わってゆき、ここにもとうとうナチスがやってくる。この展開のうまさに思わずうなる。
村人たちはひそかにユダヤ人たちをスペインに逃すための行動に協力しあう。絶妙な作戦でなんとかナチスにみ捕まらないようにユダヤ人たちを隠し、ひそかにスペイン側に移動する機会をうかがっている。そんな中でもドイツ兵とのかかわりも描かれる。観客はヒヤヒヤ、ドキドキしながら、村人たちを巻込んだ救出作戦を見守る。ジョーは、村がナチスに占領された中、自分の家族や友人、ユダヤ人、ドイツ兵らとのかかわりの中で、彼らの境遇や人生を垣間見、ユダヤ人の迫害や救出劇をめぐって、村の人々の連帯や思いやり、生命の尊厳など様々なこと学び、大人へと一歩づつ近づいていく。戦争を舞台に市井の人々の姿を通して生きることの素晴らしさと希望を描いた。そしてアーニャはやって来るのか(暁)。
主人公のジョーを演じたのはノア・シュナップ。Netflixテレビドラマシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」で人気を博し、11月20日に公開された『エイブのキッチンストーリー』でも主人公を演じています。役柄上はフランス人でナチスの迫害から逃れてきたユダヤ人と出会い、ユダヤ人の子どもたちを山の向こうのスペインに逃す作戦に協力していましたが、彼自身はユダヤ系。思うところがあったに違いありません。
羊飼いの仕事は朝が早い。ジョーは羊を山に連れていき、うっかり居眠りをしてしまって熊に襲われます。このころのジョーにはまだまだ幼さが残っていますが、ベンジャミンと知り合い、彼らの逃亡の手助けをするうちに少しずつ成長をしていきました。そして特に夏の移牧をカモフラージュにする救出作戦に関わり、ぐっと大人びた表情をするように。この変化を違和感なくさらりと演じのけたノア・シュナップはさすが! 今後がますます楽しみです。(堀)
2019年/イギリス・ベルギー/英語/109分/カラー/ヨーロッパビスタ/5.1ch/字幕翻訳:関美冬
配給:ショウゲート
©Goldfinch Family Films Limited 2019
公式サイト:https://cinerack.jp/anya/
★2020年11月27日(金)より、新宿ピカデリー他全国ロードショー
記憶の技法
監督:池田千尋
原作:吉野朔実
脚本:高橋泉
出演:石井杏奈(鹿角華蓮)、栗原吾郎(穂刈怜)、柄本時生(二階堂智)、小市慢太郎(鹿角正)、戸田菜穂(鹿角由加子)
平凡な女子高生の鹿角華蓮(かづの かれん)は、不可解な記憶喪失癖に悩んでいる。我が家ではない家にいる幼い自分、知らない風景がふいに浮かび、もっと思い出そうとすると意識が飛んでしまう。そのほかは両親とも仲良く、至って穏やかな毎日だ。修学旅行が韓国と決まり、パスポートのための戸籍謄本を初めて見た華蓮は、自分に姉がいて、すでに死亡。その後自分が養子となり入籍されていたことを知った。これまでそのことに触れなかった両親に確かめることもできず、自分でその秘密をさぐろうと決心する。手がかりは福岡、修学旅行を内緒でキャンセルし、同じ日に福岡へ旅立つ計画だ。それに協力したのは、青い瞳を持つ同級生の穂刈怜(ほがり さとい)だった。
修学旅行に行かずに、二人で福岡への旅?イケメン同級生とのロマンチックな話ではありませんでした。自分のルーツを調査するバディもの?青春ミステリーでした。本当の両親はなぜ自分を手放したのか、消えている記憶は何だったのか、が少しずつ解明されていきます。記憶に蓋をしたくなるほどの事実が明るみに出ようと、観た後は意外にすっきりします。一見クールで突き放すような怜が思ったより良いヤツだったこともありますが、何より今の華蓮には優しい両親がいて十分幸せだからです。
吉野朔実さんの「本の雑誌」の書評を読んでいましたが、原作は未読。2016年に亡くなられています。漫画を探して読んでみたくなりました。
回想場面に『僕はイエス様が嫌い』(2019/奥山大史監督)主演の佐藤結良くんが出ていました。(白)
さして親しくもない同級生のアルバイト先まで調べて押しかけ、福岡行きの手配を頼む主人公に幼さや自分勝手さを感じてしまいましたが、そんな主人公が同級生の弱さを包み込んであげるまでに成長する物語だと、エンドロールを見ながら気がつきました。
両親から過保護なくらい大切に育てられた主人公がその愛情を疑い、葛藤し、その愛情が本物であったことに気づく。石井杏奈が不安に揺れる心を一生懸命に演じています。
ただ、私の中で強く印象に残ったのは金魚屋を演じた柄本時生。辛く悲しい過去を背負いつつ、その記憶から逃げずに塗り替えようとする姿に人はこんなにも強くなれるのだと驚き、人間の可能性を感じました。(堀)
2019年/日本/カラー/105分
配給:KAZUMO
(C)吉野朔実・小学館 / 2020「記憶の技法」製作委員会
http://www.kiokunogihou.com/
★2020年11月27日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
君の誕生日(原題:Birthday)
監督・脚本:イ・ジョンオン
撮影:チョ・ヨンギュ
音楽:イ・ジェジン
出演:ソル・ギョング(ジョンイル)、チョン・ドヨン(スンナム)、キム・ボミン(イェソル)、ユン・チャニョン、キム・スジン、イ・ボンリョン
2014年4月16日、仁川港から済州島へ向かっていたセウォル号が沈没し、修学旅行中の高校生ら300人以上もが亡くなった。ジョンイルとスンナムの息子のスホも亡くなった。ジョンイルは父としての役目を果たせず、家族に負い目を感じて生きてきた。母のスンナムは近づいてくるスホの誕生日を前に、今だにスホの死を受け入れられない。妹のイェソルは不安定な母を気遣いながら父のいない家で暮らしている。巷ではセウォル号の引き上げを求める署名活動が行われている。そこへ2年ぶりに父のジョンイルが戻ってきた。
親しい人の突然の別れはどうやって受け入れていけばいいのでしょう?ましてや我が子なら?大きなニュースとなった韓国の「セウォル号沈没事故」。この作品は我が子を亡くした一つの家族を中心に描いています。イ・ジョンオン監督は遺族の方々と誕生会を開催するボランティアの経験があり、そこでの活動で出会った人たち、見聞きしたことが小さなエピソードの積み重ねとして生きているようです。
演技に定評のあるソル・ギョングとチョン・ドヨンが悲しみに沈む夫婦を演じて涙せずにはいられません。もういない兄の存在があまりにも大きくて、母に甘えられない娘のイェソルが不憫でした。小さかった彼女も傷ついています。寄り添ってくれる人たちに支えられて、遺族たちが心穏やかに生きて行かれるよう願うばかり。(白)
この事故で息子スホを亡くし、息子への思いを胸に収め、日々の暮らしに追われる母スンナム(チョン・ドヨン)。謎の男のように登場する父親のジョンイル(ソル・ギョング)。長く家を留守にしていて、どこからか帰ってくるが居留守を使われ家に入れてもらえない。娘のイェソルは父の姿を見ても始めは誰だかわからない。ジョンイルは少しづつ通い、イェソルに寄りそいながら妻の心を癒してゆく。長く不在で息子が死んだ時にいなかったらしい。仕事でベトナムに行っていたり、そこでの事故が原因で刑務所に入ることになってしまい、彼も心に傷を負っていた。しかし「必要な時にいなかった」と、妻からいきなり離婚届けを突きつけられる。息子が亡くなった時に父親の役目を果たせなかったジョンイルは、家族に対して罪悪感を抱える。
息子の死を受け入れられないスンナムは遺族会が主催する息子の誕生会に難色を示すが、OKするジョンイル。しかたなく一緒に出かけるスンナム。息子の子供の頃しか知らないジョンイルにとって成長した息子の姿が想像できず、すべてが見慣れない現実の中、家族と一緒に息子の誕生会を迎える。皆の話の中から息子の思い出が浮かび上がってきた。スンナムも受け入れられなかった息子の死と向き合う。家族だけでなく、故人を知る人々が共に記憶し悲しみを分かち合うことがそれぞれの遺族にとってどれだけ生きていく上での励みになるかが描かれる(暁)。
セウォル号沈没事故のように、大きく報道された事故ともなると、息子を亡くしたことをニュースで知った知人友人が慰めの言葉をかけてくることでしょう。それが善意であっても、愛する家族を亡くした当事者にとって、それによって気持ちが安らぐこともあれば、鬱陶しいと感じる場合もあるのではないでしょうか。
母スンナムは、同じ立場で我が子を失った同級生の母親たちと会うのも、遺族を励ます会の主催する会に出るのも嫌なのです。息子が事故で亡くなった時に居なかった父親が突然帰ってきて、離婚を突き付けるほど心を閉ざしています。
事情があって、ベトナムから帰って来られなかった父親ですが、亡くなる前のままの息子の部屋に入った時によぎる思いが切ないです。遺族を励ます会から息子の誕生日会を開きたいと言われ、父親は妻には黙って写真や思い出の品を託します。そうして開かれた誕生日会。ようやく母スンナムの顔が和らぎます。不慮の事故で息子を亡くした悔しさや悲しみはいつまでも消えないけれど、思い出を抱えて前を向いて生きていかなければならないことを悟るまでにかかる時間は人さまざまだなと思います。
セウォル号沈没事故については、船長はじめ乗組員の対応が悪かったことなど色々と取り沙汰されていますが、イ・ジョンオン監督は、さらっと「早くセウォル号の引き上げを!」という署名運動を見せるに留めています。突然の事故で家族を失った人たちの思いに迫った普遍的な物語として、いろいろと考えさせられました。(咲)
2019年/韓国/カラー/シネスコ/120分
配給:クロックワークス
(C)2019 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & NOWFILM & REDPETER FILM & PINEHOUSEFILM. All Rights Reserved.
http://klockworx-asia.com/birthday/
★2020年11月27日(金)ロードショー
アンダードッグ
監督:武正晴
原作・脚本:足立紳
撮影:西村博光
音楽:海田庄吾
主題歌:石崎ひゅーい「Flowers」
出演:森山未來(末永晃)、北村拓海(大村龍太)、勝地涼(宮木瞬)、瀧内公美(明美)、熊谷真実(兼子)、水川あさみ(佳子)、冨手麻妙(愛)、萩原みのり(加奈)、風間杜夫(幸三郎)、柄本明(作郎)ほか
崖っぷちボクサー・末永晃には一度は手にしかけたチャンピオンへの道があった。その栄光が忘れられず、今も”かませ犬(=アンダードッグ)”になり果てながらボクシングにしがみつく日々を送っている。幼い息子の太郎に父親としての背中すら見せてやることができずにいるが、新たな出会いが這い上がる闘志をよみがえらせた。
児童養護施設で晃と出会い、ボクシングに目覚めた大村龍太は、 若き天才ボクサーとして期待されているが、過去の事件が将来に影を落とす。もう一人、大物俳優の息子の宮木瞬はお笑いも半人前の芸人ボクサー。テレビ番組の企画でボクシングに挑むが、二世タレントとしてではない、自分を証明するかのように練習に打ち込んでいる。
ひとあし早く東京国際映画祭のオープニングを飾った本作、休憩時間を挟んで前後篇が一挙上映されました。三人三様の夢を取り戻し、その手に掴むことができるのか?皆様ハラハラ見守ったことでしょう。劇場公開は前編、後編それぞれで同日公開となりました。長めの作品なので、その方が鑑賞しやすいですね。しかし、すぐに続きを観たくなること必至です。
ポスターからすごい形相の森山未來さん、あの細い身体のどこから?と思うほどの熱量を発散しています。痛い思いをしつつやるせなさとお笑いも演じた勝地涼さん、先輩二人に必死でくらいついていっただろう北村拓海さん、三人ともすごい。
武正晴監督&足立紳一脚本コンビが久しぶりにボクシング映画を作ったのですが、一番にスケジュールをおさえたのが『百円の恋』でも登場したボクシングトレーナーで俳優でもある松浦慎一郎さんだったそうです。私には『かぞくへ』(2018)の旭さんなんですが『あゝ、荒野』(2017)でもボクシング指導をしています。本作ではボクシング指導のほか、龍太のトレーナーとしても出演(写真右端)、試合中に聞こえるのは両者のセコンドの声です。松浦さんがずっと龍太へかけ続けている声は本物、プロ!ですねぇ。(白)
対戦相手からも観客からも敗北を期待されている“咬ませ犬”に成り下がっても引退しないボクサーの末永、可能性あふれる若き天才ボクサーの大村、鳴かず飛ばずの芸人ボクサーの宮木。三者三様の理由でリングに上がりますが、本気の闘いは命の危険さえ伴います。
しかし、闘うのは彼らだけではありません。末永の息子は父親がチャンピオンになると信じ、父親に隠れて思い切った行動に出ます。宮木の恋人は宮木と父親が関係を修復するきっかけを作りました。末永と腐れ縁のデリヘル店の店長は女の子たちをことごとく引き抜かれ、経営が傾いた店を立て直すために“男”になろうとします。大村の妻は夫のために末永に会いに行きました。みんなが自分のリングに上がって勝負をかけるのです。
もちろんすべてがいい結果となって返ってくるわけではありません。しかし、その前向きな気持ちと行動は確実に未来への希望に繋がっていく。作品からそんなメッセージを受け取りました。(堀)
2020年/日本/カラー/ビスタ/前編131分 後編145分
配給:東映ビデオ
(C)2020「アンダードッグ」製作委員会
公式HP:http://underdog-movie.jp/
公式Twitter:@Movie_UNDERDOG 公式Facebook @movieunderdog #アンダードッグ
★2020年11月27日(金)よりホワイトシネクイント他にて[前・後編]同日公開ロードショー
佐々木、イン、マイマイン
監督:内山拓也
脚本:内山拓也、細川岳
撮影:四宮秀俊
出演:藤原季節(石井悠二)、細川岳(佐々木)、萩原みのり(ユキ)、遊屋慎太郎(多田)、森優作(木村)、小西桜子(一ノ瀬)、河合優実(苗村)、井口理(King Gnu)、鈴木卓爾(佐々木正和)、村上虹郎(須藤)
俳優になるため上京した石井だったが、今もくすぶったまま。彼女のユキとも別れたが、同居はまだ続いている。高校時代の同級生の多田と再会し、話題にのぼったのは「佐々木」だった。学校にとっては問題児だったかもしれないが、常に周りを巻き込んで面白がらせてくれるヒーロー。石井や多田には、いつまでも心の中にいる忘れられない存在だった。
細川岳さんの高校時代の同級生のエピソードが元になっています。内山監督とぶつかりながら、細川さんが「どうしてもこの映画を撮っておきたい!」と粘った気持ちが伝わる作品です。
遥か昔になった自分の高校生活を振り返ってみると、あれこれ忘れられない瞬間や思い出が残っていて、もう取り戻せない日々がたまらなく懐かしくなることがあります。そろそろ同窓会名簿にも「物故合掌」の文字が見えるようになりました。こうやって思い出に光を当てられるなら、誰の心の中にもしまわれている自分だけの「佐々木」に再会できます。
細川さんは、自分のヒーローだった佐々木を演じ終えて「抜け殻にならなかった?」とちょっと心配になるほどの熱演です。ラストは佐々木への「はなむけ」でした。(白)
佐々木は細川岳さんの高校時代の同級生がモデル。細川さんにとってヒーローだった人とのことですが、ご本人にとってはどうだったのだろう? 佐々木が人知れず、内面に葛藤を抱えていたことがびんびんに伝わってきて、無理して明るく振る舞っていたようで、観ていて切なくなってきます。いや、それも含めて、細川さんにとってのヒーローだったのでしょう。悠二は別れた彼女への想い、鳴かず飛ばずの俳優から抜け出せない焦りなど様々な負の感情に苛まれています。藤原季節さんがそのやるせなさを熱演!
私が注目したいのは悠二の元カノを演じた萩原みのりさん。酔った勢いで…、それなのに…という状況をやってはいけないことだったと(役柄的に)自覚し、詫びを入れているシーンを繊細に演じていました。萩原さんは『アンダードッグ』『花束みたいな恋をした』にも出演しています。時代が萩原さんに向いてきたのかもしれません。(堀)
2020年/日本/カラー/シネスコ/119分
配給:パルコ
(C)映画「佐々木、イン、マイマイン」
https://sasaki-in-my-mind.com/
2020年11月20日
脳天パラダイス
監督:山本政志
脚本:金子鈴幸、山本政志
撮影:寺本慎太朗
照明:渡邊大和
録音:光地拓郎
出演:南果歩 いとうせいこう 田本清嵐 小川未祐 玄理 村上淳 古田新太 柄本明 ほか
東京郊外、高台にある一軒の大豪邸。家長の笹谷修次(いとうせいこう)に甲斐性がなく、この家を手放すことになった。引きこもり気味の息子・ゆうた(田本清嵐)は淡々と現実を受け止めているが、生意気盛りの娘・あかね(小川未祐)はヤケクソ気分でTwitterに「今日、パーティをしましょう。誰でも来てください。」と自宅への地図付きで投稿。そのままフテ寝してしまう。それがリツイートされまくり、瞬く間に拡散している状況を示す通知が鳴り響いていることも知らずに……。
やってきたのは、数年前、恋人を作って家を出たはずの自由奔放な元妻・昭子(南果歩)、インド人のゲイカップル、やる気のない運送業者、手癖の悪いあかねの友人、台湾から来た観光客の親子、酔っ払いのOL、恋人を探しているイラン人、謎のホームレス老人(柄本明)、……。そんな中、来客を頑なに追い返そうと修次は一人奮闘しますが、珍客はどんどん増え続け、しだいに豪邸は狂喜乱舞の縁日の境内状態になっていく。
引越しをしなきゃいけないのに為す術もなく、ドンチャン騒ぎにオロオロするだけの父親を演じたのはいとうせいこう。実際には俳優、小説家、ラッパー、タレントとマルチな才能を持つ方ですが、何をやらせても失敗ばかりの父親が妙にハマっています。
先陣切って状況を引っ掻き回す元妻を演じたのは南果歩。嬉々とした表情で(多分)ワイヤーアクションまで披露。「こんな風に自由に生きられたらいいよね~」と思ってしまいますが、そんな元妻にも嫁として耐えた時期があったことをさらりと挟み込み、共感を持たせます。
そんな2人だけでなく、登場人物それぞれが何らかの苦悩や闇を抱えていました。しかしハチャメチャな夜が終わると、みながそれなりに折り合いをつけて一歩踏み出していきます。作品を見ると「じゃ、私も」と気持ちを切り替え、前に進む元気がもらえそうです。(堀)
2020年/95分/R15+/日本
配給:TOCANA
©︎2020 Continental Circus Pictures
公式サイト:https://no-ten.com/
★2020年11月20日(金)ロードショー
ホモ・サピエンスの涙(英題:ABOUT ENDLESSNESS/原題:OM DET OÄNDLIGA)
監督・脚本:ロイ・アンダーソン
撮影:ゲルゲイ・パロス
出演:マッティン・サーネル、タティアーナ・デローナイ、アンデシュ・ヘルストルム
銀行が信じられず貯めたお金をベッドに隠している男性。この世に絶望し、信じるものを失った牧師。戦禍に見舞われた街を上空から眺めるカップル。映像の魔術師ロイ・アンダーソン監督が構図・色彩・美術と細部まで徹底的にこだわり、全33シーンすべてをワンシーンワンカットで撮影。悲しみと喜びを繰り返す人類の姿を、愛と希望を込めた優しい視点で映し出す。
第76回ヴェネチア国際映画祭 銀獅子賞(最優秀監督賞)
学生時代の友人に無視された男性、神を見失った牧師、診療を放棄した歯科医は複数シーンに登場しますが、基本的には繋がりのない人たちの人生のワンシーンを切り取って繋げた76分。どのシーンの登場人物も何か問題を抱えており、カメラはそれを一歩引いた視点で淡々と映し出します。
軍隊の行進シーン以外はすべて監督が所有する巨大な制作スタジオ〈Studio24〉で、一からセットを組み、撮影されました。ミニチュアの建物やマットペイント(背景画)を多用し、アナログにこだわった手法がとられています。雨の中で父親が子供の靴紐を結ぶシーンも屋外ではなく、スタジオ内で撮られたそう! 180 メートルのプラスチックパイプに1万5千個の穴を開けて雨を降らせ、雨の降る土の地面にも、雨が不規則に降り落ちで出来た雨跡をペイントで表現したというから驚きです。
(メイキング映像はこちらでご覧になれます)
https://www.youtube.com/watch?v=q12oZ9mQ-BM
また、いくつかの絵画に影響を受けており、マルク・シャガールの「街の上で」、ククルイニクスイの「The end」、イリヤ・レーピンの「1581年11月16日のイワン雷帝とその息子イワン」は構図がそっくりのシーンがあるので、比較してみるとおもしろいでしょう。(堀)
ロイ・アンダーソン監督の綴る不思議世界。でも、一つ一つのエピソードが、世界のどこかで今もありそうだったり、誰かが夢で見ていそうだったり、自分にも思い当たるものだったりします。中には突拍子のない話もあるのですが、それも人間?!
原題にある“oändliga(無限)”は、人間の存在についての“果てしなさ”を示しているのだそうです。生きていれば、喜怒哀楽さまざまなことが降りかかってきます。絶望から立ち上がることが出来そうになくても、長い道の先には光が見えると信じたいのが人間でしょうか・・・ (咲)
2019年/スウェーデン=ドイツ=ノルウェー/カラー/76分/ビスタ
配給:ビターズ・エンド
©Studio 24
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/homosapi
★2020年11月20日(金)ロードショー
2020年11月19日
タネは誰のもの
2020年11月13日よりアップリンク渋谷で緊急公開! 上映情報
監督・撮影・編集:原村政樹
プロデューサー:山田正彦
映像技術:宮崎諒
整音:丸山晃
音楽:鈴木光男
語り:江原啓之
2018年4月、種子法廃止
そして2020年10月、種苗法改定案の国会審議が再び始まる
急速なグローバル化の中であらためて問われるタネの権利とは
2020年6月に国会成立が見送られ、現在、審議中の種苗法改定の動きに対して賛否が渦巻く中、自家採種・自家増殖している農家と種苗育成農家の双方の声を伝えるため、北海道から沖縄まで様々な農業の現場を取材している。政府が拙速に改定を成立させようとしている中、種苗法改定(案)が日本の農業を深刻な危機に陥れる可能性を、専門家の分析も含め農業の現場から探った。
近年、日本で開発した、高級ブドウ・シャインマスカットやイチゴなどの品種が、中国や韓国に流出し、安い値段で流通していることが契機になったというが、その裏で種や苗の自家採取、自家増殖が禁止になろうとしている。この種苗法が成立し、自家採取、自家増殖が禁止になれば、農家は毎年大量の種や苗を買うか、開発者に許諾料を支払わなければならなくなる。農家自身での増殖が禁止になっていいのか。問い直す内容になっている。種や苗のグローバル化が人々の生活にもたらすものとは? 海外の大企業からの種を買わざるを得なくなるのではないかということも暗示し、「タネの権利」とは何かを問う。弁護士で元農林水産大臣の山田正彦さんが「日本の農家、農業はこういう形になっていいのか」という疑問点から、広く日本人に考えてほしいと、この映画製作を思いつきプロデューサーを務め、『いのち耕す人々』『天に栄える村』『お百姓さんになりたい』『武蔵野』など農業をテーマにしたドキュメンタリー作品を数多く手がけてきた原村政樹監督に製作を依頼した。
映画は、山田正彦プロデューサーが、静岡(函南町)、茨城(笠間市、大洗町)、北海道(芽室町、北竜町、当麻町)、種子島、栃木(大田原市)、埼玉(三芳町)、広島(東広島市)など各地を回って、農業や種苗作りに関わる人たちに話を聞く姿を追っている。
公式HPより
監督 原村 政樹(はらむら・まさき)
1957年、千葉県生まれ。大学卒業後、フリーの助監督を経て1988年に桜映画社に入社。同年、アジアの熱帯雨林破壊問題をテーマにした短編映画 「開発と環境」で監督デビュー。以後、記録映画やテレビドキュメンタリーを多数手掛ける。主な作品に『海女のリャンさん』(2004年)、『いのち耕す人々』(2006年)、『天に栄える村』(2012年)など。2015年、『無音の叫び声』制作を機に、フリーの監督として独立、『武蔵野』(2017)、『お百姓さんになりたい』(2019)を製作。
プロデューサー 山田正彦(やまだ・まさひこ)
長崎県生まれ。弁護士。1993年に衆議院選挙で初当選、2010年6月には民主党政権下で農林水産大臣に就任。2012年に離党して反TPP・脱原発・消費税凍結を公約に日本未来の党を結党。現 在はTPPや種子法廃止の問題点の現地調査や各地で講演会・勉強会を開催。著書に「アメリカも批准できないTPP協定の内容は、こうだった!」(2016, サイゾー)、「タネはどうなる? 種子法廃止と種苗法運用で」(2018, サイゾー)、「売り渡される食の安全」(2019, KADOKAWA)など。
上映会で、日本の農民の自主性を奪うような重要問題にもかかわらず、国民的議論が盛り上がらないことに業を煮やした山田正彦さんが、農業をテーマにいくつもの作品を撮ってきた原村政樹監督にこのドキュメンタリーの製作を依頼したと言っていたが、マスコミの報道は、まさに「海外に流出した日本開発品種を、海外流出を防ぐ」という部分を強調した記事が多いように感じる。
一方で農家が「自分で増殖した種を使えなくなる」という大事な部分があまり知らされていない。農家の自主性をそぎ「種を人任せにする」ことは国内品種の保護にはならないと、この作品では警告している。
各地の気候や土壌に根ざした種の改良は、農業試験場や農家の努力のたわもの。農家の自家増殖は各地の農作物の多様性を守り、後世に伝えていくもの。農家の自家増殖が禁止になるということは、国際競争力の低下にもなる。日本の農作物の安全性が脅かされていることに警鐘を鳴らしている。農家の自家増殖は、豊かな農作物の多様性を守り、広く後世の農家にも伝えていくもの。私たちの食の未来について考えなくてはならない。まさに「タネは誰のもの」である(暁)。
種子法という言葉をTwitterの投稿で見かけたのは今年の1月くらいだったような気がします。その頃は自分には関係ないことと思って、そういった投稿はほとんど読んでいませんでした。今回、この作品を見て、このことだったんだと今更のように気がつきました。また、作品の冒頭でニンジンやブロッコリー、きゅうりの種を採取しているのを見て、種の形状も初めて知ったくらい、農業についての知識もありませんでした。
本作を見たら、いきなり種苗法について詳しくなったとはいいません。むしろ分からないことばかりです。しかし、試写のあとに監督が「作品を撮ったものの、自分もまだまだ種苗法について、わかっているわけではありません」とおっしゃるのを聞き、安心しました。種苗法って何? 私たちの生活にどうかかわってくるの? そういった疑問や興味を持つことがまずは大事なのだと思います。多くの方々にご覧いただいて、もっともっと知りたいと思う人が増えてほしい。一緒に知っていきましょう。(堀)
『タネは誰のもの』公式HP
配給:きろくびと
2020年/日本/カラー/65分
協力:日本の種子(たね)を守る会/映画「武蔵野」製作委員会
企画:一般社団法人心土不二
シネマジャーナル 原村政樹監督取材記事
・シネマジャーナル本誌 62号(2004)
『海女のリャンさん』原村政樹監督インタビュー
・『無音の叫び声』原村政樹監督 記者会見(2016)
http://www.cinemajournal.net/special/2016/muon/index.html
・『お百姓さんになりたい』原村政樹監督インタビュー
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/470323961.html
監督・撮影・編集:原村政樹
プロデューサー:山田正彦
映像技術:宮崎諒
整音:丸山晃
音楽:鈴木光男
語り:江原啓之
2018年4月、種子法廃止
そして2020年10月、種苗法改定案の国会審議が再び始まる
急速なグローバル化の中であらためて問われるタネの権利とは
2020年6月に国会成立が見送られ、現在、審議中の種苗法改定の動きに対して賛否が渦巻く中、自家採種・自家増殖している農家と種苗育成農家の双方の声を伝えるため、北海道から沖縄まで様々な農業の現場を取材している。政府が拙速に改定を成立させようとしている中、種苗法改定(案)が日本の農業を深刻な危機に陥れる可能性を、専門家の分析も含め農業の現場から探った。
近年、日本で開発した、高級ブドウ・シャインマスカットやイチゴなどの品種が、中国や韓国に流出し、安い値段で流通していることが契機になったというが、その裏で種や苗の自家採取、自家増殖が禁止になろうとしている。この種苗法が成立し、自家採取、自家増殖が禁止になれば、農家は毎年大量の種や苗を買うか、開発者に許諾料を支払わなければならなくなる。農家自身での増殖が禁止になっていいのか。問い直す内容になっている。種や苗のグローバル化が人々の生活にもたらすものとは? 海外の大企業からの種を買わざるを得なくなるのではないかということも暗示し、「タネの権利」とは何かを問う。弁護士で元農林水産大臣の山田正彦さんが「日本の農家、農業はこういう形になっていいのか」という疑問点から、広く日本人に考えてほしいと、この映画製作を思いつきプロデューサーを務め、『いのち耕す人々』『天に栄える村』『お百姓さんになりたい』『武蔵野』など農業をテーマにしたドキュメンタリー作品を数多く手がけてきた原村政樹監督に製作を依頼した。
映画は、山田正彦プロデューサーが、静岡(函南町)、茨城(笠間市、大洗町)、北海道(芽室町、北竜町、当麻町)、種子島、栃木(大田原市)、埼玉(三芳町)、広島(東広島市)など各地を回って、農業や種苗作りに関わる人たちに話を聞く姿を追っている。
公式HPより
監督 原村 政樹(はらむら・まさき)
1957年、千葉県生まれ。大学卒業後、フリーの助監督を経て1988年に桜映画社に入社。同年、アジアの熱帯雨林破壊問題をテーマにした短編映画 「開発と環境」で監督デビュー。以後、記録映画やテレビドキュメンタリーを多数手掛ける。主な作品に『海女のリャンさん』(2004年)、『いのち耕す人々』(2006年)、『天に栄える村』(2012年)など。2015年、『無音の叫び声』制作を機に、フリーの監督として独立、『武蔵野』(2017)、『お百姓さんになりたい』(2019)を製作。
プロデューサー 山田正彦(やまだ・まさひこ)
長崎県生まれ。弁護士。1993年に衆議院選挙で初当選、2010年6月には民主党政権下で農林水産大臣に就任。2012年に離党して反TPP・脱原発・消費税凍結を公約に日本未来の党を結党。現 在はTPPや種子法廃止の問題点の現地調査や各地で講演会・勉強会を開催。著書に「アメリカも批准できないTPP協定の内容は、こうだった!」(2016, サイゾー)、「タネはどうなる? 種子法廃止と種苗法運用で」(2018, サイゾー)、「売り渡される食の安全」(2019, KADOKAWA)など。
上映会で、日本の農民の自主性を奪うような重要問題にもかかわらず、国民的議論が盛り上がらないことに業を煮やした山田正彦さんが、農業をテーマにいくつもの作品を撮ってきた原村政樹監督にこのドキュメンタリーの製作を依頼したと言っていたが、マスコミの報道は、まさに「海外に流出した日本開発品種を、海外流出を防ぐ」という部分を強調した記事が多いように感じる。
一方で農家が「自分で増殖した種を使えなくなる」という大事な部分があまり知らされていない。農家の自主性をそぎ「種を人任せにする」ことは国内品種の保護にはならないと、この作品では警告している。
各地の気候や土壌に根ざした種の改良は、農業試験場や農家の努力のたわもの。農家の自家増殖は各地の農作物の多様性を守り、後世に伝えていくもの。農家の自家増殖が禁止になるということは、国際競争力の低下にもなる。日本の農作物の安全性が脅かされていることに警鐘を鳴らしている。農家の自家増殖は、豊かな農作物の多様性を守り、広く後世の農家にも伝えていくもの。私たちの食の未来について考えなくてはならない。まさに「タネは誰のもの」である(暁)。
種子法という言葉をTwitterの投稿で見かけたのは今年の1月くらいだったような気がします。その頃は自分には関係ないことと思って、そういった投稿はほとんど読んでいませんでした。今回、この作品を見て、このことだったんだと今更のように気がつきました。また、作品の冒頭でニンジンやブロッコリー、きゅうりの種を採取しているのを見て、種の形状も初めて知ったくらい、農業についての知識もありませんでした。
本作を見たら、いきなり種苗法について詳しくなったとはいいません。むしろ分からないことばかりです。しかし、試写のあとに監督が「作品を撮ったものの、自分もまだまだ種苗法について、わかっているわけではありません」とおっしゃるのを聞き、安心しました。種苗法って何? 私たちの生活にどうかかわってくるの? そういった疑問や興味を持つことがまずは大事なのだと思います。多くの方々にご覧いただいて、もっともっと知りたいと思う人が増えてほしい。一緒に知っていきましょう。(堀)
『タネは誰のもの』公式HP
配給:きろくびと
2020年/日本/カラー/65分
協力:日本の種子(たね)を守る会/映画「武蔵野」製作委員会
企画:一般社団法人心土不二
シネマジャーナル 原村政樹監督取材記事
・シネマジャーナル本誌 62号(2004)
『海女のリャンさん』原村政樹監督インタビュー
・『無音の叫び声』原村政樹監督 記者会見(2016)
http://www.cinemajournal.net/special/2016/muon/index.html
・『お百姓さんになりたい』原村政樹監督インタビュー
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/470323961.html
2020年11月17日
サウラ家の人々(原題:Saura(s))
監督:フェリックス・ビスカレット
出演:カルロス・サウラ、カルロス・サウラ・メドラノ、アントニオ・サウラ・メドラノ、アンナ・サウラ・ラモン
スペインが世界に誇る巨匠カルロス・サウラ。今年88歳になる彼と長男アントニオを筆頭にした7人の子どもたちとの交流を撮ったドキュメンタリー映画。サウラが撮った写真に手を加え、子どもたちと率直に語り合う姿をカメラがとらえた。
カルロス・サウラはルイス・ブニュエル、ペドロ・アルモドバルとともにスペインが世界に誇る映画監督。これまでに40本以上映画を撮っており、世界三大映画祭での受賞歴やノミネート作があります。1992年バルセロナオリンピックでは公式映像のディレクターを務めました。
サウラは4人の女性との間に7人の子どもがいます。その1人1人と向き合って語りあうのですが、子どもが幼い頃に父親とどんな風に一緒の時間を過ごしていたか、それについてお互いがどう思っていたかを聞いていると愛情の深さが伝わってきます。子どもたちの何人かはサウラの仕事に関わっていることもあるからか、本作のフェリックス監督は子どもたちに聞き出してほしいテーマを伝えていたよう。しかし、サウラ自身は人生を振り返るようなことは話さないし、気分がそがれると撮影の途中でも「今日はもうお仕舞」と言い出します。しかもフェリックス監督を画面に引き込んでしまいます。サウラの方が一枚も二枚も上手。撮影に行き詰って悩むフェリックス監督の姿まで作品は映し出します。
父と子の語り合いはスタジオ内で作品を映し出しながら行われるので、サウラの作品を見たことがある人にはとても興味深いでしょう。しかし、作品を見たことがなくても大丈夫。また、『カラスの飼育』『ブニュエル~ソロモン王の秘宝~』『フラメンコ・フラメンコ』『J:ビヨンド・フラメンコ』の4作品は同時上映されるので、本作を見て、気になったらぜひご覧ください。(堀)
本作を観る前に、カルロス・サウラというお名前に恥ずかしながら記憶がなかったのですが、『血の婚礼』(日本公開:1985年1月22日)が出てきて、この監督だったのか~と! 公開当時、フランコ独裁の時代に犠牲になった詩人ロルカに興味を持っていたので、そのロルカの舞台の映画化と知って観に行ったのでした。
カルロス・サウラは多くを語らないのですが、7人の子どもたちとの会話の中から、子ども時代に経験したスペイン内戦や、その後のフランコの独裁政治が、彼の人生、そして彼の生み出した写真や映画に大きく影響を与えたことを感じ取れました。
さらに、彼に影響を与えたのが、7人の子どもたちの4人の母親たち! 常に前を向いて歩くカルロス・サウラ。パートナーが代わるたびに作風が変わっていくのです。
チャップリンの娘、ジェラルディン・チャップリンは3番目のパートナー。籍こそ入れませんでしたが、息子を授かっています。
今回、同時上映される『カラスの飼育』(1975年)には、ジェラルディン・チャップリンが出演しています。
やはり同時公開される『フラメンコ・フラメンコ』(日本公開:2012年2月11日)、実は観ていて、「歌や踊り、ギターやピアノの演奏など、フラメンコの真髄を21幕で描き出した重厚な作品でした。ひたすら舞台を写していて、いつしか夢の世界へ・・・」とスタッフ日記に書いていました。トホホです。
★予告編 http://www.youtube.com/watch?v=9HS1e-aD0RQ には、この映画が凝縮されていて、これを観れば本作を観たくなること請け合います♪ (咲)
2017年/スペイン/カラー/85分
配給:パンドラ
© Una producción Pantalla Partida e Imval Madrid. 2017
公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/sauras/
★2020年11月21日(土)〜新宿K's cinemaにてロードショー全国順次公開
ルクス・エテルナ 永遠の光(原題:Lux aeterna)
監督:ギャスパー・ノエ
出演:シャルロット・ゲンズブール、ベアトリス・ダル、アビー・リー・カーショウ、クララ3000、クロード・ガジャン・マウル、フェリックス・マリトー、フレッド・カンビエ、カール・グルスマン、ローラ・ピリュ・ペリエ、ルー・ブランコヴィッチ、ルカ・アイザック、マキシム・ルイス、ミカ・アルガナラズ、ポール・ハメリン、ステファニア・クリスティアン、トム・カン、ヤニック・ボノ
ベアトリス・ダルがシャルロット・ゲンズブールを主演に迎えて、魔女狩りをテーマにした映画を撮ることになった。その日は磔のシーンが撮影される予定だったが、ベアトリスを監督の座から引き下ろしたいプロデューサー、彼と結託する撮影監督、更にはシャルロットを自身の作品にスカウトしようとする新人監督や現場に潜り込んだ映画ジャーナリストなど、それぞれの思惑や執着が交錯し、現場は次第に収拾のつかないカオス状態へと発展していく。しかも、問題のシーンの撮影直前、シャルロットは子守に預けている娘から電話で驚くべき話を聞き、不安に陥ってしまう。
前作でドラッグと酒でトランス状態に陥ったダンサーたちの狂乱の一夜を描いたギャスパー・ノエ。スクリーンの上下を字幕も含めて逆さまにするなど、これまでの常識を超えた編集に驚かされました。今作では魔女狩りをテーマにし、昔の映画風の映像による中世の魔女狩りで使われた拷問器具の解説からスタート。拷問の様子は映しませんが、それがかえって不安を煽ります。とはいえ、編集としてはおとなしめな印象でしたが…
シャルロット・ゲンズブールとベアトリス・ダルが登場し、2人を分割した画面で映す辺りからギャスパー・ノエらしさが現れ始めます。コロナ禍にリモート撮影された作品を見ているような感じですが、次第に2つの画面で別の展開を見せるようになっていき、それぞれの画面で字幕が表示されます。これを同時に理解しようとすると頭の中が混乱状態に。ギャスパー・ノエ、やってくれるね!といった感じです。
作品内での映画撮影が始まるとギャスパー・ノエはまた別の仕掛けを用意していました。そこでシャルロット・ゲンズブールが妖艶な色気を放ち、目が離せなくなります。ただ、光がちかちかと点滅するのが苦手な方は鑑賞を控えた方がいいかもしれません。事前に予告編をご覧になって、ご確認されることをお勧めします。(堀)
2019 年/フランス/フランス語・英語/51 分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/DCP
配給:ハピネット
©2020 SAINT LAURENT-VIXENS-LES CINEMAS DE LA ZONE
公式サイト:http://www.luxaeterna.jp/
「のむコレ2020」にて11/20(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋で公開!
1月上旬より全国劇場で順次公開予定
2020年11月15日
エイブのキッチンストーリー 原題:Abe
監督:フェルナンド・グロスタイン・アンドラーデ
出演:ノア・シュナップ、セウ・ジョルジ、ダグマーラ・ドミンスク、アリアン・モーイエド、マーク・マーゴリス、セイラム・マーフィ、トム・マーデロシアン他
ニューヨーク、ブルックリン。エイブは料理が大好きな少年。12歳の誕生日、エイブ自身が作った誕生日ケーキを囲んで、両親とその家族が集まる。父方はパレスチナ人のイスラーム教徒、母方はイスラエルから移住してきたユダヤ人。母方の祖父が、「来年は13歳。大事なバル・ミツバ(ユダヤの成人式)だ」といえば、父方の祖母は「エイブは父親と同じムスリムよ」と譲らない。エイブは嫌気がさして、そっと家を抜け出す。ネットで見つけたブラジル風ファラーフェル(中東の豆コロッケ)を出している屋台に行ってみる。ジャマイカ風にしてみたというブラジル人のチコと話し、自分もフュージョン料理を作ってみたいと憧れる。
やがて、夏休み。模擬国連や異教徒交流のサマーキャンプを薦める両親。料理キャンプを見つけて参加することにしたものの、ナイフも使わせないお子ちゃまレベル。レンタルキッチンにいるブラジル人シェフのチコを訪ね、料理見習いとして受け入れてもらう・・・
二つの文化を背景に持った少年エイブが料理を通して成長していく物語。
父系を大事にするイスラームに対して、ユダヤ人の母親から生まれればユダヤ。祖父母たちが集まると話は平行線。エイブの父アミールは、息子のために無神論者だと宣言しています。エイブは、いっそのことクリスマスを祝いたいとつぶやきますが、実はどちらの文化も大事にしたいのです。祖父が、ヘブライ語もアラビア語も同じセム語系とエイブに語る場面があります。料理も影響しあっています。そんな自身のアイデンティティーをエイブは料理作りに生かすのです。
フェルナンド・グロスタイン・アンドラーデ監督は、ユダヤ人とカトリック系ブラジル移民の孫。
脚本を担当した一人、ラミース・イサックはパレスチナ系アメリカ人の俳優、脚本家、プロデューサー。
演じた役者たちの多様な背景も、この映画に彩を添えています。
主演エイブを演じたノア・シュナップはユダヤ系のバックグラウンド。
エイブ母レベッカ役のダグマーラ・ドミンスクはポーランド出身。
エイブ父アミール役のアリアン・モーイエドはイラン出身。
パレスチナ人の祖父ベンジャミン役のマーク・マーゴリスは、ユダヤ系アメリカ人。
ユダヤ人の祖母エイダ役のセーラム・マーフィーはシリア系アメリカ人。
ユダヤ人の祖父サリム役のトム・マーデロシアンはアルメニア系アメリカ人。
まさにフュージョンな撮影現場だったのです。
文化の対立でなく、お互いの文化を敬いながら、共存できる社会であってほしいという監督の思いを感じた物語。(咲)
冒頭からSNSに投稿された色鮮やかな料理の写真がポンポンポンと映し出され、ワクワクした気持ちになります。そこにノアくんが楽しそうにケーキを作る姿が登場。これから2時間弱、ノアくんと一緒に料理の世界を楽しむのねと思ったら、(咲)さんが書いているように、主人公のアイデンティティ確立という深いテーマのある作品でした。
どちらの祖父母も傷つけないように、もっとさらっとそれぞれの気持ちに寄り添ってあげられないのかしらと思うのは、私が素敵なチャペルで結婚式をしても死んだらお寺のお墓に入ることに何の違和感も持たない日本人だからなのでしょう。国の問題については(咲)さんが触れていますので、私は子育て面を。
子どもの精神的自立には失敗する経験も必要。わかっているつもりが、ついつい先回りして出来るだけ失敗しないで済むようにしてあげてしまいがち。冒頭でエイブがケーキを焼く場面もベーキングパウダーがなく、重曹ならありました。エイブは重曹にクリームターターを混ぜてベーキングパウダーの代わりにしようとしたのに母親が止めたのです。結果としてケーキがどうなったのかは作品を見ていただければと思いますが、このエピソードからもわかるようにエイブの母親は息子のやることにあれこれと口を出すタイプ。そのあとも何かと指図します。その割には息子が家をこっそり抜け出したことに気がつかないことが何度もある。また、サマーキャンプの内容やレベルを調べもしないで料理だからと息子に勧める。それって気にしなきゃいけないポイントがずれている気がします。かく言う私もできていたわけではないのですが、人の粗は見えてしまうもの。人の振り見て我が振り直せ。本作が自分の子育てを振り返るきっかけになるかもしれません。(堀)
2019年/アメリカ・ブラジル/カラー/シネマスコープ/英語/85分/字幕翻訳:平井かおり/PG-12
配給:ポニーキャニオン
(C)2019 Spray Filmes S.A.
公式サイト:https://abe-movie.jp/
★2020年11月20日(金)より新宿シネマカリテほか全国ロードショー
家なき子 希望の歌声(原題:Remi sans famille)
監督・脚本:アントワーヌ・ブロシエ
原作:エクトール・アンリ・マロ
出演:マロム・パキン(レミ)、ダニエル・オートゥイユ(ヴィタリス)、ジャック・ペラン(壮年期のレミ)、ヴィルジニー・ルドワイヤン(ハーパー夫人)、リュディヴィーヌ・サニエ(バルブラン夫人)、ジョナサン・ザッカイ(バルブラン)、ニコラス・ロウ(ジェームス・ミリガン)
フランスの真ん中あたりの小さな村で、レミはママと仲良しの牛と幸せに暮らしている。パパは長い間石工としてパリで仕事をしていて、一度も会ったことがないけれど、仕事中に怪我をしたという知らせが届く。足が不自由になって戻ってきたパパは不機嫌で、レミがママの子供ではなく、捨て子だと告げる。10年前、高級な産着に包まれていたから礼金目当てで拾ってきたのにこれ以上置いておけない、孤児院に入れると息巻いた。
レミが必死で抵抗していると、旅芸人のヴィタリス親方が1年契約で預かると申し出てくれた。レミは黒犬のカピと猿のジョリクールの仲間になって、あちこちを旅して歩くようになった。親方はレミの歌の才能に気づいてレッスンをし、木切れに文字を刻んで読み書きを教えてくれた。足の不自由な娘リーズと知り合ったレミは楽しい夏を過ごす。親方が警察に捕まって投獄されている間レミを預かってくれたのは、リーズの母親のハーパー夫人だった。
誰も一度は読んだり見たりしたことのあるフランス児童文学の名作。
オーディションでレミ役を射止めたマロム・パキンはこれが映画初出演。巻き毛で天使のように愛らしいです。合唱団に在籍したことがあり作品中で歌声を聞かせています。2005年生まれだそうなので、今は15歳。撮影当時より少し大人びて、『Fourmi』(2019/日本未公開)でフランソワ・ダミアンの息子役、サッカー少年を演じています。
本作で若いマロムを支えるのはフランスの名優たち。シネマスコープでの雄大な自然がもうすばらしいです。遠出できない今、映画館で旅気分を。そこで繰り広げられているレミの波乱万丈のストーリーをお楽しみください。村人たちと貴婦人たちの暮らしぶりや衣裳の違いなども、とても興味深いです。日本の名作もこんな風に丁寧な作品として残してほしいものです。
原作は児童文学全集で読んだはずですが、あまりに前なのでストーリーを忘れてしまっていて、今回初見のように感激しました。上下2巻の原作も手に入れたので、大切に反芻するつもりです。(白)
「家なき子」のタイトルは知っている人は多いと思います。これまでになんと3回アニメ化されてきているそう。私も子どもの頃、毎週日曜日の夜に見ていました。それなのに、ストーリーはすっかり忘れて、思い出せない。本作を見て、こんなに起伏に富んだ展開だったんだと驚きました。ただ、調べたところ、映画も原作とは設定を変えている部分がありました。2時間弱という尺で収めるためかと思われますが、レミの本当の母親が親子を確信するきっかけは歌を大事にした本作ならでは。またヴィタリスの過去もオペラ歌手からバイオリニストに変更し、心に抱える苦悩を加えました。演じたのはダニエル・オートゥイユ。渋い演技が物語に深みを感じさせます。
たとえどんなに辛い境遇でも、未来を信じて前向きにがんばれば、必ず幸せはやってくる。コロナ禍だからこそお勧めしたい作品です。(堀)
2018年/フランス/カラー/シネスコ/109分
配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
(C)2018 JERICO - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - TF1 FILMS PRODUCTION - NEXUS FACTORY - UMEDIA
http://ienakiko-movie.com/
★2020年11月20日(金)109シネマズ二子玉川ほか全国ロードショー
泣く子はいねぇが
監督・脚本:佐藤快磨
撮影:月永雄太
音楽:折坂悠太 主題歌:「春」(Less+ Project.)
出演:仲野太賀(後藤たすく)、吉岡里帆(桜庭/後藤ことね)、寛一郎(志波亮介)、山中崇(後藤悠馬)、余貴美子(後藤せつ子)、柳葉敏郎(夏井康夫)
秋田県・男鹿市。娘が生まれて相好を崩すたすくだったが、妻のことねは少しも父親らしい覚悟もないたすくに苛立っている。大晦日の伝統行事「ナマハゲ」に駆り出され、ことみに反対される。「酒は断る、飲まない」と約束したものの、やはり断り切れず泥酔してしまう。たすくは、ナマハゲの面をかぶったまま、うっぷんを晴らすかのように奇声をあげて男鹿の街を全裸で走る。ちょうどテレビの取材で、ナマハゲ存続のために熱弁をふるっていた夏井会長の前を横切った姿は全国放送されてしまった。
2年後、たすくは東京にいた。ことみはあきれ果てて離婚を迫り、地元にいられず断酒して暮らしていた。親友の亮介からことねの近況を聞き、地元へ戻りたい気持ちが強くなる。もうみんな許してくれるかも、と思いたい…しかしそうは甘くなかった。
佐藤快磨(たくま)監督の商業映画デビュー作は、親になること、成長することを描いていちいち腑に落ちました。お酒の失敗も、わかっていて断れないのも強要する周りも悪い。双方酔っ払っているから歯止めがききません。たすくは遅いけれど、気づかないわけではありません。失敗を繰り返しながら、なだれ込むラストに泣けました。
ナマハゲは子どものころ、祖父の家にやって来たのを覚えています。怖くてギャーギャー泣きながら「泣いてない」って言ってました(笑)。子どもには「悪い子にならない」歯止めになる行事でしょう。
太賀さんは『生きちゃった』でも滂沱の涙。やはりもひとつしっかりしていない父役でした。童顔なので、「大人になりきれない」役が似合ってしまうのかも。
女性は子宮の我が子と10ヶ月つきあいます。つわりで苦しんだり、だんだん重くなるお腹をかばったり、足のむくみや腰痛に耐えた末、最後に陣痛がきて産み落とし、やっと母親になります。その間父親になる人はどれだけ関わっているでしょう。しかもその後は授乳だ夜泣きだとろくに眠れないのが母親です。一律には言えませんが、子どもが産まれた時点でこんなに差があって、男性に父親の自覚が足りないのも当然です。女性だとて、みんながすぐに母親の自覚が持てるわけではありません。親と子は一緒に育っていくものと思ったほうがいいです。四の五の言わずに毎日目の前のことをやって生きていけば、いつのまにかみーんな年取って大人になっちゃっています。ほんとは中身は大して変わってないけど、そこもみんな同じですよ。(白)
たすくが役所に出生届を出しに行ったところから作品は始まります。娘が生まれたことが本当にうれしそう。演じた太賀さんの全身からそのオーラがにじみ出ています。この人、実際に子どもが生まれたら、こんな風に喜ぶんだろうな、なんてことまで考えてしまいました。
しかし、その後は一転して、親になり切れないたすくのダメっぷりがクローズアップされ、物語の空気感が変わってきます。(白)さんが書いているように、父親は母親と違い、10ヶ月の準備期間がなく、生まれた瞬間いきなり父親にならなきゃいけないから大変なんですよね。しかし、母親も慣れない育児で精神的には不安定。そんな母親の様子も作品ではしっかり描いています。
親が子どもを育てるのと同時に、子どもも親を育てているのかもしれません。(堀)
2019年/日本/カラー/シネスコ/108分
配給:バンダイナムコアーツ、スターサンズ
(C)2020「泣く子はいねぇが」製作委員会
https://nakukohainega.com/
★2020年11月20日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
公式Twitter:https://twitter.com/nakukohainega
公式Instagram:https://www.instagram.com/nakukohainega/
公式Facebook:https://www.facebook.com/nakukohainega2020
おろかもの
監督:芳賀俊(はが・たかし) ・鈴木祥(すずき・しょう)
脚本:沼田真隆
撮影:芳賀俊
主題歌:「kaleidoscope」円庭鈴子
出演:笠松七海(高城洋子)、村田唯(深津美沙)、イワゴウサトシ(高城健治)、猫目はち(榊果歩)、葉媚(小梅)、広木健太(倉木宗介)、林田沙希絵(安達真奈美)、南久松真奈(吉岡秀子)
高校生の洋子は両親を早くに亡くし、兄の健治と二人支えあって生きてきた。健治の結婚を間近に控え、婚約者の果歩がしょっちゅう家にいるのがなんとなく気づまりな日々、健治が浮気相手らしい女性といるところを見てしまう。ショックを受けた洋子は女性を追跡、自分でも思いがけない行動に出てしまった。女性は美沙といい、洋子はイヤな感じを持たなかった。友達の小梅は面白がってけしかけるし、何食わぬ顔でいる兄も腹立たしい。計画は動き出してしまった。
村田唯さん、芳賀監督、笠松七海さん
田辺・弁慶映画祭やSKIP映画祭でも好評を得た作品。日芸の学生だったころからの芳賀監督、鈴木監督&沼田真隆・脚本トリオが惚れ込んでいる女優さんたち、笠松七海さん村田唯さんを迎えて作り上げました。
公開中の『さくら』ではお兄ちゃん大好きな妹が兄とガールフレンドの邪魔をしました。優柔不断で断れず二股かけているのは『本気のしるし』の辻くんみたいです。そのへんはあるあるですが、こちらは妹が兄の浮気相手と仲良くなりタッグを組むという、これまで見なかった面白い設定のストーリーです。美沙役が魅力的でないとなりたちませんね。村田さんは石田えりさんの若いころを思い出す、男女どちらにも好かれそうなタイプの方です。揺れる気持ちを表現した笠松さん、婚約者というより母親のような猫目さん…女優さんたちがしっかりとそこにいました。
芳賀監督と笠松さん、村田さんのお三方にいろいろお話を伺いました。こちらです。(白)
妹が結婚を控えた兄の浮気相手と結託して、結婚を阻止しようとする。それってやっぱり、心のどこかに義姉になる人に兄を取られたくないという思いから、義姉を心の底では受け入れられないからなのかしら。そんなことを思いつつ、作品を見ていました。洋子の場合、両親を亡くしてから、兄と2人で暮らしてきたから、余計にその思いは強いのでしょう。
そんな妹の気持ちを浮気相手と結び付けてひと悶着起こさせる。ストーリーの着眼点は奇抜ですが、演者の確かな演技によって現実味を帯びたものになりました。
果たして2人の作戦は成功するのか。みんなの行く末をたっぷり味わってください。(堀)
2019/日本/カラー/96分/
配給・宣伝:MAP+Cinemago
©2019「おろかもの」制作チーム
公式 Twitter:@orokamono_movie
★2020年11月20日(金)、12月4日(金)〜10日(木) テアトル新宿にて計8日間
12月18日(金)〜21日(月) シネ・リーブル梅田にて計4日間レイトショー公開となります!
2020年11月13日
音響ハウス Melody-Go-Round
監督:相原裕美
撮影:北島元朗
主題歌 Melody-Go-Round / HANA with 銀音堂
作詞:大貫妙子 作曲:佐橋佳幸
編曲:佐橋佳幸、飯尾芳史 ブラス編曲:村田陽一
出演:佐橋佳幸、飯尾芳史、高橋幸宏、井上鑑、滝瀬茂、坂本龍一、関口直人、矢野顕子、吉江一男、渡辺秀文、沖祐市、川上つよし、佐野元春、David Lee Roth、綾戸智恵、下河辺晴三、松任谷正隆、松任谷由実、山崎聖次、葉加瀬太郎、村田陽一、本田雅人、西村浩二、山本拓夫、牧村憲一、田中信一、オノセイゲン、鈴木慶一、大貫妙子、HANA、笹路正徳、山室久男、山根恒二、中里正男、遠藤誠、河野恵実、須田淳也、尾崎紀身、石井亘 <登場順>
音響ハウスは1974年12月に東京・銀座に設立され、2019年に創立45周年を迎えたレコーディングスタジオ。YMO時代からこのスタジオで試行錯誤を繰り返してきた坂本龍一をはじめ、松任谷由実、松任谷正隆、佐野元春、綾戸智恵、矢野顕子、鈴木慶一、デイヴィッド・リー・ロス(ヴァン・ヘイレン)らが音響ハウスとの出会いや思い入れ、楽曲の誕生秘話を語る。
さらに当時のプロデューサーやエンジニアにもカメラが向けられ、1970年から1980年代にかけて勃興した音楽ジャンル「CITY-POP」がどのように形作られたのかにも迫る。
音楽に疎い私でも名前と顔を知っている人たちが次々と登場して、懐かしそうに思い出を振り返ります。ユーミンが「埠頭を渡る風」をレコーディングしていたときに息抜きで晴海に出掛けた話や矢野顕子が子連れでレコーディングに来たときにお子さんたちが何を楽しみにしていたのかなど、音楽に関係ないこぼれ話もなかなか面白い。
ギタリストの佐橋佳幸とレコーディングエンジニアの飯尾芳史がメインパーソナリティーとして進行し、葉加瀬太郎、井上鑑、高橋幸宏らゆかりのミュージシャンたちが何やら演奏をしているのですが、次第にそれがコラボ新曲「Melody-Go-Round」のレコーディングと判明します。最後に若干13歳の期待の女性シンガー・HANAが歌声を吹き込むとバラバラに収録した音楽が1つの素晴らしい楽曲に。これは必聴です!(堀)
2019年 / 日本 / カラー / ビスタ / Digital / 5.1ch / 99分
配給:太秦
©2019 株式会社 音響ハウス
公式サイト:https://onkiohaus-movie.jp/
★2020年11月14日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
プラスチックの海(原題:A PLASTIC OCEAN)
監督:クレイグ・リーソン
脚本:クレイグ・リーソン、ミンディー・エリオット
撮影:マイケル・ピッツ
編集:ミンディー・エリオット
音楽:ミリアム・カトラー、ローレンス・シュワルツ
出演:クレイグ・リーソン、デイビッド・アッテンボロー、バラク・オバマ、シルビア・アール、タニヤ・ストリーター、リンジー・ポルター、ジョー・ラクストン、ダグ・アラン、ベン・フォーグル、マイケル・ゴンジオール他
シロナガスクジラに魅せられ、幼い頃から追い続けていたクレイグ・リーソン。しかし、世界中の海を訪れる中、プランクトンよりも多く見つけたのはプラスチックゴミだった。美しい海に、毎年800 万トンものプラスチックゴミが捨てられている事実を知り、海洋学者、環境活動家やジャーナリスト達と共に、自身が監督となり世界の海で何が起きているのかを調査し撮影することを決意する。
21 世紀に入り、生産量が激増しているプラスチック。便利さの一方で、大量のプラスチックが海に流出し続け、近年は 5mm 以下の「マイクロプラスチック」による海洋汚染にも大きな注目が集まっている。調査の中で明らかになるのは、ほんの少しのプラスチックしかリサイクルされていないこと。海鳥の体内から、234 個のプラスチックの破片が発見されるなど、海に捨てられたプラスチックで海洋生物が犠牲になっていること。そして、プラスチックの毒素は人間にも害を及ぼすかもしれないこと。撮影クルーは世界中を訪れ、人類がこの数十年でプラスチック製品の使い捨てを続けてきた結果、危機的なレベルで海洋汚染が続いていることを明らかにしていく。
海が汚染されていることは頭では理解していたつもりでしたが、ここまで深刻な状況に陥っているとは思いもしませんでした。砂浜にプラスチックごみが打ち上げられている様子は見たことがありましたが、ダイバーの方々が潜る深いところまでこんなに汚れていたとは! 何も知らずにゴミを食べてしまい、お腹の中で詰まってしまった生き物たちの姿を見ていると申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
汚れてしまった海をきれいに戻すこと私たちには難しくても、これ以上汚さないことはできるはず。私一人くらいという気持ちは捨てて、真剣に取り組まないといけないところまで来ているのを感じました。
実は以前から気になっていることがありました。亡くなった人を悼んで、海に花束を捧げる場面を映画やドラマで見かけます。しかし、その花束のラッピング素材はゴミとなっているのですよね。イベントでたくさんの風船を空に放つ企画がありますが、その風船がゴミとなって海に落ちる場合もありますよね。気にしすぎかもしれませんが、本作を見ているとそのくらい海に対して心を配らないといけない気がしてきます。(堀)
2016年/イギリス・香港/100分
配給:ユナイテッドピープル
© UNITED PEOPLE
公式サイト:https://unitedpeople.jp/plasticocean/
★2020年11月13日(金)アップリンク渋谷・吉祥寺・京都ほか全国順次ロードショー
ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-
監督:深川栄洋
原作:中山七里「ドクター・デスの遺産」(角川文庫/KADOKAWA刊)
出演:綾野剛 北川景子 岡田健史 前野朋哉 青山美郷 石黒 賢
「苦しむことなく殺してさしあげます。」ある闇サイトで依頼を受け、人を安楽死させる連続殺人犯ドクター・デス。その人物の存在が明らかになったのは、「お父さんが殺された。」という少年からの通報がきっかけだった。警視庁捜査一課のNo.1コンビ犬養(綾野剛)と高千穂(北川景子)は、さっそく捜査を開始。すると似たような事件が次々と浮上する。捜査チームのリーダー麻生(石黒賢)、新米刑事の沢田(岡田健史)、室岡(前野朋哉)、青木(青山美郷)と共に事件の解明を急ぐが、被害者遺族たちの証言は、どれも犯人を擁護するものばかりだった。ドクター・デスは本当に猟奇殺人犯なのか?それとも救いの神なのか?そして、驚愕の事実と更なる悲劇が犬養と高千穂に降りかかる。
原作は中山七里原作による刑事犬養隼人シリーズの「ドクター・デスの遺産」です。“ドクター・デス”と呼ばれ、130人もの患者を安楽死させた実在のアメリカの医師ジャック・ケヴォーキアンをモデルに描かれるクライム・サスペンス。安楽死を手口にする連続殺人犯に挑む刑事役で綾野剛と北川景子がバディを組みます。2人は「パンク侍、斬られて候」に次いで2度目の共演。「神様のカルテ」「サグラダリセット」などを手がけてきた深川栄洋監督がメガホンをとりました。
作品を見ていると「安楽死も1つの選択なのかもしれない」という思いが頭をもたげてきます。「映画で安楽死を肯定してしまうのってヤバくない?」とハラハラしていると中盤から流れがぐぐっと変わり、辛くても生きることを肯定するようになります。
犯人は最初、誰が演じているのかわからないくらい、普段と違った風貌でびっくり。綾野剛との精神的な一騎打ちはさすがのひとことでした。(堀)
2020年/120分/G/日本
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2020「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」製作委員会
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/doctordeathmovie/
★2020年11月13日(金)より全国公開
詩人の恋(原題:시인의 사랑)
監督・脚本:キム・ヤンヒ
出演:ヤン・イクチュン、チョン・ヘジン、チョン・ガラム
自然豊かな済州島で生まれ育った詩人のテッキ(ヤン・イクチュン)は、ここ数年スランプだ。稼げない彼を支える妻ガンスン(チョン・ヘジン)が妊活を始めたことから、テッキの人生に波が立ちはじめる。乏精子症と診断され、詩も浮かばず思い悩む彼を救ったのは、港に開店したドーナツ屋で働く美青年セユン(チョン・ガラム)だった。彼のつぶやきが詩の種となり、新しい詩の世界への扉を開いてくれたのだ。もっと彼を知りたい―。30代後半にして初めて芽生えた“守ってあげたい”という感情を隠しながら、テッキは孤独を抱えるセユンと心を通わせていく……。
恥じらいをなくしたガンスンに性的魅力を感じなくなってしまったテッキ。子どもが欲しくてナーバスになってしまうガンスン。未来に希望が持てないセユン。3人の人物造形が深い。そのため、誰か一人に感情移入するのではなく、場面ごとで、「わかる~」と共感する人が違ってきます。「お前はいったい誰の味方なのだ」と怒られてしまいそうですね。
芸術の世界でミューズ(女神)という言葉をよく聞きます。セユンは男性ですが、テッキにとってはミューズだったのでしょうか。ガンスンがテッキにドーナツを買って帰ったのがきっかけでテッキはドーナツの虜になり、お店に出掛けました。もし、ガンスンがドーナツを買って帰っていなければ…。運命とは分からないものです。(堀)
『息もできない』『あゝ、荒野』のヤン・イクチュンが、え? ほんとに彼?という位、ドーナツ屋の美青年に心ときめかせ、ドーナツを買いに走る姿が可愛いのです。あまり稼ぎのない夫を支えてきた妻ガンスンのやるせない思いに同情してしまいます。
本作が長編デビュー作のキム・ヤンヒ監督が紡ぎだした不思議な三角関係。妻のほうが現実的なのは、女性だからこそ描けたことかなと。
映画に出てきた詩人の住む町の風景が、去年の夏、済州島に行った時に訪れた西帰浦の町の高台にあるイ・ジュンソブ美術館の3階から眺めた小さな島が二つ浮かぶ風景にそっくりで、確認してみたら、やはり西帰浦でした。海沿いにまで行かなかったのが、今となっては残念! (咲)
ヤン・イクチョンが出ているということで観た。『あゝ、荒野』は観ていないけど、『息もできない』を東京フィルメックスで観た時、凶暴なヤクザの役を演じたその直後に監督でもあるヤン・イクチョン本人がQ&Aで出てきて、そのあまりに繊細で優しそうな人柄と、役柄との落差にびっくりした。そして、役者、ヤン・イクチョンに興味をもった。
その後ヤン・ヨンヒ監督の『かぞくのくに』では北朝鮮の諜報員役?を演じていたし、『あゝ、荒野』ではボクサーの役を演じていたというので、きっとそれぞれ独特の強調された役柄だったのだろうと思うけど、フィルメックスの時、目の前で本人が話している姿を見た印象では、この『詩人の恋』の詩人の役は本人の姿に近い印象だった。物静かで恥ずかしがりやという感じ。この映画を観ながら、東京フィルメックッス2009の『息もできない』Q&Aで、初めて本人を目の前で見た時のことを思い出していた(暁)。
2017年/韓国/韓国語/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/110分
配給:エスパース・サロウ
©2017 CJ CGV Co., Ltd., JIN PICTURES, MIIN PICTURES All Rights Reserved
公式サイト:https://shijin.espace-sarou.com/
★11月13日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
2020年11月12日
水上のフライト
監督:兼重淳
脚本:土橋章宏 兼重淳
撮影:向後光徳
音楽:上野耕路
出演:中条あやみ(藤堂遥)、杉野遥亮(加賀颯太)、冨手麻妙、大塚寧々(藤堂郁子)、小澤征悦(宮本コーチ)
将来を嘱望されるアスリートとして、自分の実力に絶対の自信を持っていた遥は、走高跳で世界を目指し活躍中だった。ところが不慮の事故に遭い、命は取りとめたものの下半身が動かなくなってしまった。夢を絶たれた遥は、母の心痛も届かず心を閉ざして自暴自棄になっていた。母は知人のカヌーのコーチ宮本に引き合わせる。パラカヌーならば、足の動かない遥も挑戦することができる。
初めは反発していた遥は、カヌーエンジニアの颯太や周りの人々に支えられ、素直な心で新しい目標を見つけていく。
本当は6月が公開予定だった本作。ほかの作品と同じく、コロナ禍によって延期を余儀なくされました。しかしそのおかげで東京国際映画祭での上映が叶った、と兼重淳監督。中条あやみさんの出演作はずいぶん観ていますが、明るく可愛くキラキラした女の子役が多かった(『雪の華』はちょっと違いましたが)印象があります。今回のように挫折してどん底から這い上がる役は初めてです。
カヌーはバランスをとるのが難しく、競技となればもっと難度が高くなります。監督はスタントも考えていたそうですが、あやみさんの「やります」宣言と、その後の上達ぶりが素晴らしく、本人がやり切ったというのに感嘆!青い空ときらめく水面を背景に、前方を見つめる真剣な表情の遥をきっと応援したくなるはず。ハンカチ&ティッシュも忘れずに。(白)
杉野遥亮さんは『キセキ あの日のソビト』で映画デビューしましたが、兼重淳監督もその作品が初監督作品でした。『水上のフライト』で兼重淳監督にインタビューした際、「杉野くんと久しぶりに会い、その成長ぶりに驚くとともに、すごくうれしかった」と話していました。
これまで何人かいるイケメンのうちの1人的な役が多かったのですが、この作品ではしっかり杉野色を出しているのを感じます。今後の活躍が楽しみですね。(堀)
2019年/日本/カラー/シネスコ/106分
配給:KADOKAWA
(C)2020 映画「水上のフライト」製作委員会
https://suijo-movie.jp/
★2020年11月13日(金)ロードショー
THE CAVE サッカー少年救出までの18日間 原題:นางนอน(ナンノン)英題:The Cave
監督・脚本・製作:トム・ウォーラー
出演:
ジム(本人):ジム・ウォーニー
コーチ:エクワット・ニラトウォラパンヤー
ボア:ジュンパー・センプロム
プーヤイ:ノパドン・ニヨムカ
エリック(本人):エリック・ブラウン
タン(本人):タン・シャオロン
救急看護師:マギー=アーパー・パーウィライ
2018年6月23日、タイ北部。
地元サッカーチームの少年たちは練習を終え、チームメイトの誕生日を祝うため、チェンライのタムルアン洞窟に遊びにいく。豪雨で洞窟内の水位が急に上がり、洞窟の奥深くに閉じ込められてしまう。そのニュースは瞬く間に世界に広がり、少年たちを救出しようとタイ警察、タイ海軍殊部隊(ネイビーシールズ)や米英豪などの軍隊、そして世界中から経験豊富なケイブ・ダイバーが集結する・・・
2年前のことですが、今も記憶に新しい救出劇。
洞窟入口から4キロも離れた地点でコーチと少年たちが発見されたのは、遭難から9日も経ってのことでした。そして、事故発生から18日目に奇跡的に全員救出! タイ人ダイバーが酸素不足で亡くなるという悲劇もあったことを映画を観て思い出しました。
タイらしいなと思ったのは、伝説の馬番をしていた少年の生まれ変わりという僧侶が駆けつけて、家族や地元の人たちと洞窟の入口で祈り続けた姿。ナンノンの女神を祈る優雅な踊りも登場します。
洞窟から大量の水を排出したために冠水してしまった田んぼの持ち主の女性が、「補償金はいらない、そのお金で少年たちを救って」と言うのも、信心深い仏教徒らしいと思いました。
冒頭、「数名は本人が演じている」と掲げられていて、この補償金を断ったのも本人。
一番印象深かったのが、自社で製造したPVCターボジェットポンプをトラックに積んで遠方から駆け付けたニヨムカ・マリンエンジニアリング社の創業者ノパドン・ニヨムカ。劇中ではプーヤイの名前になっています。在庫がないので、納品先に依頼してポンプをかき集めて持参したのに、洞窟に入る許可がなかなかおりなかった無念な思いを再現しています。
洞窟潜水の専門家で、アイルランドから駆け付け先頭を切って救出に活躍したジム・ウォーニーもご本人。
トム・ウォーラー監督は、タイ・バンコク出身ですが、父はカトリック教徒のアイルランド人で母は仏教徒のタイ人。アイルランドとの縁も、この映画を作る原動力だったのでしょうか。(咲)
ニュースでこの事件を知ったとき、18日ぶりに救出されたという日数に驚いたのですが、ダイバーが潜って助けに行く危険性についてはまったく思いが及びませんでした。この作品を見て、その救出活動がどれほど危険なものだったのか、改めて知ることができました。救出活動に従事した世界各地から集まったダイバーのみなさんに頭が下がる思いです。
その一方で、(咲)さんが書いているように、ターボジェットポンプをトラックに積んで遠方から駆け付けた人がいたのになかなか許可が下りなくて、使ってもらえなかった事実にお役所仕事の緩慢さはどこの国も同じなのかしらと思ってしまったり。でも田畑が冠水した補償金は救助が終わらぬうちに支給手配が始まったことには、日本とは違う迅速さを感じたり。映画は楽しむだけでなく、いろいろなことを知る機会なのですね。(堀)
実際起こった事件の救出劇をこのところ続けて観た。1本はチリ鉱山の落盤事故で地中深くに閉じ込められた33人の救出劇を描いた『チリ33人 希望の軌跡』(パトリシア・リゲン監督)。これは2010年に起きた「コピアポ鉱山落盤事故」を題材にしている。もう1本は2018年に中国で起きた飛行機事故を映画化した『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』(アンドリュー・ラウ監督)。これは高度1万メートルで飛行機前面の窓ガラスが割れた事故を元にしている。そして一番最近観たのがこの作品『THE CAVE サッカー少年救出までの18日間』。いずれも無事に救出されたから結果はわかって観ているのだけど、観ている最中はハラハラドキドキ。こういう映画が作られるというのは、人間ってハラハラドキドキが好きなのか。この1,2ヶ月の間に続けて観たのでそう思った。心臓に良くないと思いながらも観てしまう。助かってよかったねと思う。そしてニュースでは伝わってこなかったいろいろな事を知る。こんなにもたくさんの国の人たちが救出に加わっていたというのは知らなかった。それにタイの人たちの暖かさ、人情も伝わってきた(暁)。
2019年/タイ・アイルランド/英語・タイ語/104分
配給:コムストック・グループ+WOWOW
配給協力:REGENTS
公式サイト:http://cave18.jp/
★2020年11月13日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
2020年11月11日
ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒(原題:Missing Link)
監督・脚本:クリス・バトラー(脚本『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』)
撮影:クリス・ピーターソン
プロダクション・デザイン:ネルソン・ロウリー
視覚効果スーパーバイザー:スティーヴ・エマーソン
音楽:カーター・バーウェル
声の出演:ヒュー・ジャックマン(ライオネル卿)、ゾーイ・サルダナ(アデリーナ)、ザック・ガリフィアナキス(Mr.リンク)、
エマ・トンプソン(長老)、他
ヴィクトリア朝時代の英国。探検家のライオネル・フロスト卿は、未確認生物の発見に執念を燃やしている。厳寒の湖で巨大生物を取り逃がし、命からがら戻ってきたばかりだが意気軒昂だ。伝説の生物の存在を証明して、なんとしても”貴族クラブ”に入会したい。ある日アメリカワシントン州から「ビッグフットの居場所を教える」という手紙が届いた。一人アメリカへと向かったライオネル卿が住所の森の奥へ進んでいくと、大きな生物が走って行くのが見えた。追いかけると彼こそが人類の遠い祖先である生きた化石=ミッシング・リンクだった。
種族で唯一の生き残りだという彼にリンクと名付け、残っているかもしれない仲間に会うために、伝説のシャングリラを探すことになった。その地図は…。
ミッシング・リンクとは?
生物進化の過程を鎖に見立て、その中の「失われた環」を意味する言葉。類人猿から人間へと進化する過程にいるはずの、未だ発見されていない未知の生物のこと。
『KUBO クボ 二本の弦の秘密』や『コララインとボタンの魔女』などで知られるアニメーションのスタジオライカの最新のストップモーションアニメ。一コマごとにキャラクターを動かして撮影する大変に手の込んだ方法です。そこへVFXで動きや特殊効果を加え、あたかもライオネル卿たちが自ら動いているようなリアルな画面を作っています。あの英国紳士感満点のツイードのスーツ、アデリーナのドレスも手作りなのです。公式HPにメイキングの動画がありますので、ぜひご覧ください。その現場を自分の目で見てみたいなぁ!
たった一人で生きてきたリンクは、知的で明るく人を疑いません。名誉欲が強く自信家のライオネル卿がリンクと旅するのは自分のためなのですが、アデリーナに背中を押され(どつかれ)、リンクの素直さにも影響されていきます。たくさんのエピソードを93分で見せるストーリーテリングのうまさ、魅力的なキャラクター、映像の美しさと迫力を十二分に堪能してください。豪華な俳優陣が声優を務めています。
第77回ゴールデングローブ賞で最優秀長編アニメーション映画賞を受賞。第92回アカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネート。(白)
ハズれものコンビが美女とともに繰り広げるアドベンチャーは安心のストーリー展開で子どもにもわかりやすく、安心して楽しめます。実写だったら物足りなかったかもしれない緩さが3Dアニメーションだからこそ心地いい。
貴族クラブの会員になることにこだわった主人公を見ていると、ヴィトンのバッグで大学に通う華やかなグループに入りたくて悶々としていた学生時代の黒歴史を思い出すものの、30年が経った今、黒歴史もすっかり熟成されて、もはや笑い話になっていることに気が付きました。
下手にこだわると周りが見えなくなってしまうけれど、自分らしくあればそれでいい。作品が伝えてくれるメッセージが実感を伴って納得できる年代にハマる作品なのかもしれません。(堀)
2019年/カナダ、アメリカ/カラー/シネスコ/93分
配給:ギャガ
(C)2019 SHANGRILA FILMS LLC.
https://gaga.ne.jp/missing-link/
★2020年11月13日(金)新宿バルト9ほか全国順次公開
2020年11月10日
シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!(原題:Edmond)
監督・原案・脚本:アレクシス・ミシャリク
出演:トマ・ソリベレ(エドモン・ロスタン)、オリヴィエ・グルメ(コンスタン・コクラン)、マティルド・セニエ(マリア・レゴー)、トム・レーブ(レオ)、リュシー・ブジュナー(ジャンヌ)、アリス・ドゥ・ランクザン(ロズモンド)、クレマンティーヌ・セラリエ(サラ・ベルナール)、イゴール・ゴッテスマン(ジャン・コクラン)
1895年、無名の劇作家のエドモンは、ようやく上演された作品を支配人から酷評され1週間で打ち切りと宣告されてしまった。以来落ち込んでスランプから抜けられないエドモン。そんな彼を主演の大女優サラ・ベルナールが励まし、俳優のコンスタン・コクランに新作を売り込むように言う。1行も書けないエドモンはカフェの主人の言葉から実在したシラノ・ド・ベルジュラックを主人公にすることを思いつく。コクランも気に入って喜劇仕立てにして上演することになった。書き出せなくて悩むエドモンに友人の俳優レオが、衣装係のジャンヌへの恋心をうちあける。文才の全くないレオの代わりにラブレターを書く羽目になったエドモンは、代筆をしているうち興に乗り、ジャンヌからの返事も創作意欲を掻き立てた。この設定を舞台劇にしよう、と成りすましを続けていると次々に文章がわいてくる。舞台は成功するかに思えたのだが…
エドモンの筆が止まって生活の苦しい妻が冷淡になり、どん底のエドモンでしたが、ジャンヌというミューズに出会って、水を得た魚のように生き生きとします。友人のレオは、ジャンヌの心がロマンチックな手紙に掴まれていると知って、うろたえます。苦手だからと努力を怠るからですよね。エドモンの妻は妻で、夫がなんだか違うと勘がさえます。このあたりの男と女の感情の揺れや行き違いがなかなか面白く、スマホ全盛の現代ではこうはいきません。
実在の人たちのどこまでが真実で、脚色はどれほどかは定かでありませんが、人々が舞台を楽しみに暮らし、良い作品に熱狂していた時代のお話。崖っぷちに来てもあきらめず、一歩一歩と前に進んでいけばどこかに到達できるはず。今の時代へのエールにもなります。
アレクシス・ミシャリク監督は、2016年に上演された本作の舞台版でモリエール賞5部門を受賞して大喝采を浴び、自ら映画化に乗り出した、のだそうです。(白)
1895年12月の初演以来、今も愛し続けられている舞台劇「シラノ・ド・ベルジュラック」を生み出したエドモンの物語。監督が想像を膨らませて描いた誕生秘話ですが、冒頭に語られる1895年がどういう時代だったかは本物。5年前(1890年 )にはアデールが飛行機を、3年後(1898年 )にはルノーが自動車を作り、前年(1894年 )にはユダヤ系のドレフュス大尉がスパイ容疑で逮捕。このあたりまでは何となく知ってる史実。1895年10月のモンパルナス駅で機関車が駅舎を突き切った事故。写真が凄かった! フォール大統領のもとマダガスカルに侵攻したというのも知りませんでした。
そして、何より、1895年はリュミエール兄弟がシネマトグラフを発明した年。エドモンが支配人から酷評されて、うなだれて帰宅途中、活動写真に呼び込まれるという形で紹介しています。
映画の最後には、シラノ・ド・ベルジュラックを演じてきた俳優たちの写真が次々に映し出されました。1990年のジェラール・ドパルデューは、まさにはまり役と唸りました。
私は中学生の時に神戸の国際会館で観て、バルコニーの下で美男に代わって 鼻の大きな醜男が恋を語る姿に強烈な印象を持ちました。調べてみたら、「1967年1月 - 3月:文学座、三津田健/北村和夫・杉村春子/小川真由美・細川俊之主演、国立劇場小劇場と渋谷公会堂・大阪・京都・神戸・名古屋・岐阜」とありました。
「シラノ・ド・ベルジュラック」の大ヒットで勲章まで貰ったエドモンですが、100年以上経った今も演じ続けられているとは想像もしなかったのではないでしょうか。(咲)
「シラノ・ド・ベルジュラック」はタイトルと鼻に特徴のある主人公というくらいしか知識がないまま作品を見ましたが、「シラノ・ド・ベルジュラック」のあらすじは理解できましたし、戯曲の誕生秘話に思いっきり笑って泣いてしまいました。劇作家エドモン・ロスタンの切羽詰まった執筆状況と戯曲がうまくリンクしています。初演のドタバタはフィクションだと思いますが、それが戯曲さえ盛り上げます。うまい脚本ですね。
(咲)さんが書いていますが、エンドロールにこれまでシラノ・ド・ベルジュラックを演じてきた俳優たちの写真が次々に映し出されます。日本における忠臣蔵的な国民みんなが知っている物語なのですね。
この戯曲はフランスだけではなく、もちろんイギリスでも上演されており、英国演劇界最高峰のローレンス・オリヴィエ賞で見事リバイバル作品賞を受賞した『シラノ・ド・ベルジュラック』が “ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)”の2020年新作第6弾として12月4日から公開されます。
NTLive日本公式HP: https://www.ntlive.jp/cyrano
(堀)
2018年/フランス、ベルギー/カラー/シネスコ/112分
配給:キノフィルムズ、東京テアトル
(C)LEGENDE FILMS - EZRA - GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA - EZRA - NEXUS FACTORY - UMEDIA, ROSEMONDE FILMS - C2M PRODUCTIONS
https://cyranoniaitai.com/
★2020年11月13日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
2020年11月08日
アウステルリッツ 原題:Austerlitz
(C)Imperativ Film
陽光の照りつける中、人々が気楽な恰好で、スマホで自撮りしながら歩いていく。
「ARBEIT MACHT FREI(働けば⾃由になる)」と書かれた門。
そこは第二次世界大戦中のザクセンハウゼン強制収容所の跡地。
収容所の中には監獄があって、刑罰が目的でなく、情報を聞き出すために拷問を行うための監獄。政治犯やナチスの暗殺に関わった者たちが収監されていた。窓も塞がれ、暗闇の中、孤独に襲われた。口を割らなかった囚人は吊るして殺された。
1941年~43年、ここは囚人であふれていた。労働力として必要だったのだ。
絶滅の為の施設では、遺体から飲み込んだ宝石や金歯などを取り出した。ガス室担当の囚人は、4か月働き殺された。次に任務についた囚人の最初の仕事は死体処理。自分の末路がわかる・・・
ドイツ人小説家・W.G.ゼーバルト著書「アウステルリッツ」より着想を得て製作した、ダーク・ツーリズムのオブザベーショナル映画。
人々が見学する姿にあわせ、淡々と綴られる解説に、一時も目が離せませんでした。
ユダヤ人だけでなく、同性愛者、エホバの証人の信者、ロマ、共産主義者なども収監されていたこと、それが、東ドイツ時代に博物館になり、共産主義がファシズムに勝利したとされ、共産主義者以外の囚人の苦しみは無視され、歴史が歪められたという解説がありました。逆に、一般的には、ユダヤ人の虐殺だけがクローズアップされている感があります。歴史をどういう立場で見るかで、事実が歪められることを教えられました。
それにしても、「Travel for Peace」 と書かれたお揃いのTシャツを着た人たちが、次々と門から出てくる様に、過去を学ぶことは大切だけど、なんとも物見遊山な印象が拭えなくて複雑な気持ちになりました。(咲)
ザクセンハウゼン強制収容所の跡地を見学する人たちの姿を淡々と映し出します。施設の音声ガイドが聞こえるのですが、そのガイドが説明する肝心の部分は映し出さないので、「そこも映してほしい!!」と何度も叫んでしまいそうになりました。しかし、この作品はザクセンハウゼン強制収容所そのものの紹介ではなく、あくまでも群衆がテーマだったと気づき、集う人々の様子に目がいくように。いろいろ興味を持って見ている人がいると思えば、ガイドの説明に目もくれず、ただただ人の流れに身を任せているような人も。撮られている(見られている)ことを知らない、無防備な状態だと人間性がはっきりと出てしまうものなのですね。気をつけなきゃと今は思っても、きっと外では知らない人からいろんな風に思われているんだろうなぁ。(堀)
セルゲイ・ロズニツァ「群衆」ドキュメンタリー3選 『国葬』『粛清裁判』『アウステルリッツ』
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/478352334.html
2016年/ドイツ/ドイツ語、英語、スペイン語/モノクロ/94分
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/sergeiloznitsa-films
★2020年11月14日(土)~12月11日(金)シアター・イメージフォーラムにて公開 全国順次ロードショー
粛清裁判 原題:The Trial
(C)ATOMS & VOID
トラムや馬ぞりが行き交う雪のモスクワ。教会の鐘が響く。
ソ連最高裁の特別法廷に次々と集まる人。
反革命組織産業党裁判。被告人たちの名が読み上げられる。
被告人たちの供述を大勢が見守る。
街路では“破壊分子”に銃殺を要求するデモ。
「帝国主義に手を貸した者に容赦ない判定を!」
被告人の最終陳述。「私は仕事がしたかった。労働者階級に重い罪を犯した」
判決が下される。銃殺刑や10年の自由剥奪、全財産の没収・・・
拍手し歓声をあげる聴衆・・・
1930年、モスクワで行われた、いわゆる「産業党裁判」と呼ばれるスターリンによる見せしめ裁判。8名の有識者が西側諸国と結託しクーデターを企てた疑いで裁判にかけられたもの。90年前のソヴィエト最初期の発声映画『13日(「産業党」事件)』の発掘されたアーカイヴ・フィルムにより捏造と判明。スターリンは民衆を革命の原動力とするために、打倒すべき相手として、「産業党」の人々の罪をでっちあげたのです。
被告人は、30代後半から60代半ばまでの学者たち。国家の発展に寄与するであろう人たちを国家権力が抹殺してしまったことに驚愕しました。被告人にされた人たち、そしてそのご家族の無念を思い涙。スターリンの時代に、国家の知的財産の多くが粛清という形でないがしろにされたことを、ほんとうに残念におもいます。(咲)
セルゲイ・ロズニツァ「群衆」ドキュメンタリー3選 『国葬』『粛清裁判』『アウステルリッツ』
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/478352334.html
2018年/オランダ、ロシア/ロシア語/モノクロ/123分
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/sergeiloznitsa-films
★2020年11月14日(土)~12月11日(金)シアター・イメージフォーラムにて公開 全国順次ロードショー
国葬 原題:State Funeral
本作は、1953年に亡くなった独裁者スターリンの国葬の記録。
モスクワ郊外クラスノゴルスクでスターリンの国葬を捉えた大量のアーカイヴ・フィルムが発見される。当時、200名弱のカメラマンによりソ連全土で撮影された、幻の未公開映画『偉大なる別れ』のフッテージだった。セルゲイ・ロズニツァは、それを丁寧に紡ぎ、67年前に執り行われた国葬と、スターリンの訃報に触れたソ連各地の人々の姿を蘇らせている。
1953年3月5日、スターリンの死がソビエト全土に報じられる。ウクライナ、タジク、アゼルバイジャン、ハバロフスク・・・ 神妙な顔で訃報を聞く人々。
エストニア、ラトビア、モスクワ・・・ 長蛇の列を作って新聞を買い求める人々。
半旗が掲げられる町。
空港には、外国の要人が次々に到着する。チェコスロヴァキア、ポーランド、フィンランド、中国、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、英国共産党・・・
モスクワの労働組合会館「柱の間」に安置されたスターリン。
地方の会場にも花輪が次々に届く。
葬儀が執り行われる。
レーニン=スターリン廟での追悼集会ではスターリン亡きあとのソ連を担う政治家たちの顔が並ぶ。
弔砲が打たれる。呼応するように汽笛が鳴り、蒸気機関⾞は動輪を停める・・・
(C)ATOMS & VOID
「この世にスターリンのいない最初の日。彼が我々のもとから去った。もう成す術はない」というアナウンスが響く。スターリンの強権で、様々な思いをしたであろう人々。内心、安堵の気持ちがよぎったのではないか。もちろん、そんなことはお首にも出せない。
弔問する国民の中には、大げさに泣く婦人も見受けられたが、多くは静かに神妙な顔で指導者を見送っている。
ソヴィエトの西から東まで、隅々のところで多くのカメラが捉えた国葬の日の人々の姿から、当時の暮らしを垣間見ることができ興味深かった。中でも、タジクのコルホーズの人々の衣服を観ることができ感無量。無理矢理ソ連だったことにも思いが至った。
貴重なアーカイヴ映像を、素晴らしい編集で壮大な絵巻物に仕上げてくれたセルゲイ・ロズニツァに感謝! (咲)
スターリンの死を悼む国民たちの姿を淡々と映し出す135分。棺に横たわるスターリンのそばを通ることができたのは、スクリーンに映し出された大勢の人たちのほんのわずかなはず。それでもみなが弔意を示して外に集う様子に驚きました。何が彼らをそこまでさせたのでしょうか。みながスターリンの死を悲しんでいるかのような仰々しい放送の音声が入っていますが、本心はどうだったんだろうという視点で見ていたら、いつの間にか135分が経ってしまいました。もしかすると、国葬に参列することで、それまで快く思っていなかった人々がスターリンは偉大な指導者だったと擦りこまれていったのかもしれません。(堀)
★11/14(土)公開初日、13時〜『国葬』上映後にロズニツァ監督のZoomセッション開催
第76回ベネチア国際映画祭 正式出品
【セルゲイ・ロズニツァ「群衆」ドキュメンタリー3選】として、『国葬』『粛清裁判』『アウステルリッツ』一挙3作同時公開
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/478352334.html
2019年/オランダ、リトアニア/ロシア語/カラー・モノクロ/135
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/sergeiloznitsa
★2020年11月14日(土)~12月11日(金)シアター・イメージフォーラムにて3作一挙公開 全国順次ロードショー
セルゲイ・ロズニツァ「群衆」ドキュメンタリー3選 『国葬』『粛清裁判』『アウステルリッツ』
カンヌ国際映画祭で二冠、近作10作品すべてが世界三大映画祭に選出されながら、日本では未公開だったセルゲイ・ロズニツァ監督作品。
この度、【セルゲイ・ロズニツァ「群衆」ドキュメンタリー3選】として、『国葬』『粛清裁判』『アウステルリッツ』が一挙公開されます。
セルゲイ・ロズニツァ
1964年ベラルーシ生まれ、ウクライナの首都キエフ育ち。現在、ベルリン在住。
1991年、ソ連崩壊後、モスクワの全ロシア映画大学で学び、1996年よりソクーロフの製作で有名なサンクトペテルブルク・ドキュメンタリー映画スタジオで映画製作を始める。
◆『国葬』
(C)ATOMS & VOID
1953年3月5日、スターリンの死。本作は、独裁者スターリンの国葬の記録。
モスクワ郊外クラスノゴルスクでスターリンの国葬を捉えた大量のアーカイヴ・フィルムが発見される。当時、200名弱のカメラマンによりソ連全土で撮影された、幻の未公開映画『偉大なる別れ』のフッテージだった。セルゲイ・ロズニツァは、それを丁寧に紡ぎ、67年前に執り行われた国葬と、スターリンの訃報に触れたソ連各地の人々の姿を蘇らせている。
2019年/オランダ、リトアニア/ロシア語/カラー・モノクロ/135分
作品紹介+感想はこちら
★11/14(土)公開初日、13時〜『国葬』上映後にロズニツァ監督のZoomセッション開催
◆『粛清裁判』
(C)ATOMS & VOID
1930年、モスクワ。8名の有識者が西側諸国と結託しクーデターを企てた疑いで裁判にかけられる。いわゆる「産業党裁判」と呼ばれるスターリンによる見せしめ裁判だ。90年前のソヴィエト最初期の発声映画『13日(「産業党」事件)』は、発掘されたアーカイヴ・フィルムにより捏造と判明する。スターリンの台頭に熱狂する群衆の映像が加えられ再構成されたアーカイヴ映画は、権力がいかに人を欺き、群衆を扇動し、独裁政権を誕生させるか描き出す。
2018年/オランダ、ロシア/ロシア語/モノクロ/123分
作品紹介+感想はこちら
◆『アウステルリッツ』
(C)Imperativ Film
真夏のベルリン郊外。スマートフォン片手に大勢の人たちが門を潜っていく。そこは第二次世界大戦中にホロコーストで多くのユダヤ人が虐殺された元強制収容所。戦後75年、記憶を社会で共有し未来へ繋げる試みはツーリズムと化していた・・・
ドイツ人小説家・W.G.ゼーバルト著書「アウステルリッツ」より着想を得て製作した、ダーク・ツーリズムのオブザベーショナル映画。
2016年/ドイツ/ドイツ語、英語、スペイン語/モノクロ/94分
作品紹介+感想はこちら
各作品の紹介を感想と共に掲載しています。あわせてご覧ください。(景山咲子)
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/sergeiloznitsa-films
★2020年11月14日(土)~12月11日(金)シアター・イメージフォーラムにて3作一挙公開 全国順次ロードショー
ホテルローヤル
監督:武正晴
原作:桜木紫乃「ホテルローヤル」(集英社文庫刊)
脚本:清水友佳子
音楽:富貴晴美
主題歌:Leola「白いページの中に」(Sony Music Labels Inc.)
出演:波 瑠 松山ケンイチ 余 貴美子 原 扶貴子 伊藤沙莉 岡山天音 正名僕蔵 内田 慈 冨手麻妙 丞 威 稲葉 友 斎藤 歩 友 近 夏川結衣 安田 顕
北海道、釧路湿原を望む高台のラブホテル「ホテルローヤル」。雅代は美大受験に失敗し、父が作ったラブホテルを手伝うことになった。アダルトグッズの営業マンの宮川にほのかな恋心を抱きながら、ベテラン従業員たちと一緒に黙々と仕事をこなしている。
甲斐性のない父を見限って母はとうに出て行き、半ば諦めるように継いだホテルには「非日常」を求めて様々な人が訪れる。投稿ヌード写真の撮影をするカップル、子育てと親の介護に追われる夫婦、行き場を失った女子高生と妻に裏切られた高校教師。そんな中、一室で心中事件が起こり、ホテルはマスコミの標的になった。さらに大吉が病に倒れ、雅代はホテルと「自分の人生」に初めて向き合っていく…。
様々な事情や欲望を抱えた人が訪れるラブホテル。いくつものカップルの中で中年夫婦のエピソードが温かくて好きでした。女子高生役はこれが最後かも、という伊藤沙莉さんの制服姿はまだまだいけます。朴訥なえっち屋さん宮川役の松山ケンイチさんも誠実さがにじみ出ていてよかったです。
2013年に第149回直木賞を受賞した桜木紫乃さんの同名原作は、ご自身の実家のホテルをモデルにしています。眼鏡もよく似合った波瑠さんは桜木さんに雰囲気が似ていました。武監督は原作通り、北海道の釧路でのロケを敢行。ぴったりの広告塔を発見。ホテル内部は非日常を求めてきた人が「わぁ!」と声をあげるような空間を作り上げました。なくなった後、お客さまたちどうしているのでしょう。(白)
2019年/日本/カラー/シネスコ/104分
配給・宣伝:ファントム・フィルム
©桜木紫乃/集英社 ©2020映画「ホテルローヤル」製作委員会
公式サイト:https://www.phantom-film.com/hotelroyal/
★2020年11月13日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
さくら
監督:矢崎仁司
原作:西加奈子「さくら」(小学館刊)
脚本:朝西真砂 音楽:アダム・ジョージ
音楽:アダム・ジョージ
主題歌:東京事変「青のI D」(EMI Records/ユニバーサル ミュージック)
出演:北村匠海(長谷川薫)、小松菜奈(妹:美貴)、吉沢亮(兄:一)、寺島しのぶ(母:つぼみ)、永瀬正敏(父:昭夫)、小林由依、水谷果穂、山谷花純、加藤雅也、趙珉和
ある日出て行ったまま音信不通だった父が戻ると連絡があった。大学生の薫は久しぶりに実家に戻った。両親と妹の美貴、愛犬のさくら…兄の一(ハジメ)だけがいない。みんなに好かれ、薫と美貴にはずっと憧れの存在だった兄。薫は思い出を辿っていた。
美貴が生まれた日、二人で迷子になった日、いつも人気者だったハジメがついに彼女を連れてきた日…長谷川家は陽気な母を中心に回り、それはハジメが事故に遭う日まで続いたのに、2年前から家族はバラバラになってしまった。
こんなに美男美女の兄妹がいる?全員主役じゃないですか、というつっこみはやめときます。眼福眼福。
次男の薫が語り部となって、長谷川家の日々、兄、自分、妹の言えなかった想いも明らかになっていきます。思春期はいろいろあって当たり前だけれど、叶わない想いを抱き続けるのは辛いよね。さくらは愛犬の名前で、みんなに愛され家族を繋いでいました。どんなに家族がギクシャクしても犬か猫がいてくれるだけで、潤滑油になります。寒いときは、その体温も嬉しい。さくらがいたからこそ再生していくこの家族のドラマをご覧ください。それにしても北村匠海くんの活躍ぶりテレビに映画に歌に、来年も目が離せません。(白)
2019年/日本/カラー/シネスコ/119分
配給:松竹
©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会
https://sakura-movie.jp/
★2020年11月13日(金)公開